小林「あなたは……誰ですか?」トール「……えっ?」【小林さんちのメイドラゴンSS】

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147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/25(水) 00:02:32.21 ID:Fc06W/qDO
謎が謎を呼ぶ
待て次回!

おつ
148 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2022/07/18(月) 00:42:52.91 ID:iRPtMnDe0
ぜ、全然2か月進捗がなかった…だと…(無念)

まさか空いていたはずのスケジュールに次々と新たなタスクが入り込んでくるとは…。

リアルが充実している結果、創作に割く時間が足りなくなるという事態は喜ぶべきか悲しむべきか。

とは言え依然完結を諦めてはいないので、待っていて下さる方は申し訳ないですが、気長にお待ち頂ければ幸いです。ではまた〜…
149 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2022/09/12(月) 23:27:56.79 ID:lRER0Feg0
うん、また進捗無しなんだ、すまない…(諦念)

様々なタスクが重なって忙しく、気付けばまた2か月…流石にそろそろ自分でも呆れる程の遅筆っぷりで情けなし。

待っていて下さる方には本当に申し訳ないですが、もう少しお待ち頂ければ幸いです。ではまた〜…
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/03(月) 00:14:22.07 ID:LEN30Acu0
2周年までに完結するかどうか賭けようぜ!
151 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:14:59.46 ID:lrUlPmko0
>>150
出来らあっ! 後6か月で完結まで行ってやるって言ったんだよ!!
…えっ!! 後6か月で完結まで!?(自縄自縛)

それはさておき、少し更新していきます〜。
152 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:16:36.86 ID:lrUlPmko0

――――――――――

ルコア「……………………………」

トール「――私が、死んでいると思ってたって、どういう……」



小林「ちょ、ちょーっと待った〜〜!!」ズイッ

ルコア「!」

トール「わっ! こ、小林さん?」

小林「いやーそのー、込み入ったお話の最中すいませんが、良いですか皆さん?」ペコペコ

滝谷「ままままままま、お互い色々話がしたいのは山々だと思いますが…… そろそろ、部屋の中に入りませんか?」アセアセ

小林「そ、そうそう! 玄関先で立ち話もなんですし、まずは中に入って、落ち着いて腰を据えてからじっくり話しましょう!」ウンウン

滝谷「えぇえぇ、なのでどーぞどーぞ中へ!」ワタワタ

トール「お二人共……」

ルコア「……そうだね、大人数だし、そろそろ夕方だし、此処で話してちゃご近所にもご迷惑だよね。
    じゃ、お言葉に甘えさせて頂こうか。皆もそれでいいよね?」

カンナ「りょーかい」ハーイ

エルマ「私も、そちらの人間のお二人が宜しければ、それで異議はない」

ルコア「――終焉帝も、それで宜しいですか?」

終焉帝「……うむ、構わぬ」コクリ

153 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:18:20.04 ID:lrUlPmko0

ルコア「ファフニール君も、それで良――あ」

ファフニール「…………………………ッツ!!」バンバン

ルコア「ああ、ごめんごめん! 押さえ込んでたの忘れてたよ」パッ(手を離す)

ファフニール「ップハッ! 全く、巫山戯た真似を……っ!」ゼエゼエ

ルコア「ごめんって(笑)。それで、中に入って話をするって流れになったけど、良い?」

ファフニール「ハアハア……フン、力持つ竜が“話をする”などまどろっこしい事この上ないが……
       どうせ俺は暇潰しで付いて来ただけの身。お前らの好きにすれば良い」プイッ

ルコア「はいはい、君もお話聞きたいんだよねー。分かってる分かってる」ウンウン

ファフニール「貴様ッ、何を適当な――!」キッ

ルコア「はい、それじゃあ皆の了承も取れたので、部屋に上がらせて頂いていいかな? え〜と…… 小林さん、に滝谷さん?」クルッ

小林「あ、はい!」

滝谷「はーい、いらっしゃいませどうぞ〜! 5名様ご案内〜!」ガチャッ

小林「飲み屋の店員か! ああいや、とにかくどうぞどうぞ〜!」ササー

ルコア「は〜い、お邪魔しま〜す♡」スタスタ

ファフニール「おい! ケツァルコアトル、先程の発言――」

ルコア「さ、終焉帝もどうぞ」スッ

終焉帝「……うむ……」スタスタ

ファフニール「おい!」

カンナ「おじゃましまーす」テクテク

ファフニール「おい――」

エルマ「では私も、上がらせて頂く」スタスタ

ファフニール「おい……?」



ファフニール「…………………………」ポツン



ルコア「――――ファフニール君? どうしたの、早く上がりなよ。玄関閉められないよ?」ヒョコ

ファフニール「…………………………くっ!」スタスタ

ルコア「?」

バタン ガチャリッ……

154 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:20:33.09 ID:lrUlPmko0

…………………………………………

【滝谷宅・リビング】

ガヤガヤ、ワイワイ……



カンナ「せまい」ムー

トール「狭いですね……」

滝谷「いやー、流石に一部屋に8人もいると狭く感じるね……。あ、お茶入れるね」コポポポ

トール「あ、じゃあ皆さんに渡していきますね」スッスッ

滝谷「ありがとー」コポポポ…



小林「すいません、お二人には立っててもらう事になってしまって…… 大丈夫ですか?」

エルマ「いえ、家主の方を立たせる訳にはいきませんし…… それにドラゴンにとってこの程度、何の痛痒にもなりませんので」フルフル

ファフニール「…………フン」ブスッ

ルコア「ごめんね二人共〜、僕、座らせてもらっちゃって」アハハ……

ファフニール「……別に構わん。ただし、面倒なので俺は口を出さんからな。その分、諸々の説明はお前が担当しろ、ケツァルコアトル」ゴゴゴ

ルコア「はいはい、了〜解♪(何故か殺気を向けられている……なんでだろ?)」ケロッ

終焉帝「……私が立っていても構わないが……」スッ

トール「お父さん!? じゃ、じゃあ私も……!」スッ

ルコア「いえいえ! 終焉帝は是非、ご無理なさらず…… どうぞ楽にしていて下さい」

終焉帝「むう……すまん、かたじけない」ストン

小林「トールちゃんも、話さないといけない事が多いだろうから、それに集中できる様に座って楽にしてた方が良いんじゃないかな」

トール「は、はい……では、お言葉に甘えて……」ストン

終焉帝「………………」ジィッ……



カンナ「ルコア様、わたしも立つー?」

ルコア「んー? カンナはこのまま、僕の膝の上に座ってて良いよ〜」

カンナ「はーい」ポフッ

滝谷(おっぱいを背もたれに……だと……!? なんと羨ま――)ドドド

小林「――おらぁっ!」ドゴッ!(滝谷の後頭部をどつく)

滝谷「いっだあ! 小林さん、突然何を……!?」ジンジン

小林「さっき玄関でどつきそびれた分、思い出したから清算しとこうと思って」ニコッ

滝谷「ホワット?! 理不尽……!!」イテテ

155 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:22:28.67 ID:lrUlPmko0

…………………………



ズズー(お茶を啜る音)

ルコア「――――ふう。さて、一段落した所で」コトリ

トール「ええ、改めて本題に入りましょう」

ルコア「……とは言え、何から話し始めようか? お互い現状認識に大分差がある様な雰囲気だし……」

トール「うーん、そうですね……
    なら、まずはどちらか片方が自分の認識する現状を一通り説明した後、今度はもう片方が同様に説明する…… というのでどうでしょう?」

小林「ああ、さっきまで私達がやってた感じだね」

トール「ですです!」

ルコア「……? さっきまでって、君達もお互いに説明を?」

トール「あ、はい。今日の昼過ぎに二人と出会えてから、先程までここで……」

ルコア「――んん? ちょっと待ってくれ、トール君とそちらのお二人は既知の間柄ではないのかい?」

トール「あ、え〜と、その〜、そうなんですが、そうなってなかったと言いますか何というか……」シドロモドロ

ルコア「――成程、そこも含めて“説明すべき現状”という事だね?」

トール「は、はい。ちょっと、複雑なんですが……」アセアセ

ルコア「そうか――。うん、それなら、最初はトール君、そちらの話から聞かせてくれないかな」

トール「え、その、よろしいんですか?」

ルコア「ああ。どうも、君の経てきた事情の方が複雑そうな気がするからね。まずはそちらを聞いておきたいな」

トール「で、でも大分長くなると思いますよ? 私の認識と合わせて、小林さん達の認識についても話さなきゃだし……」

ルコア「そこはそれ、トール君、君は確か“アレ”。使えただろう?」フフッ

小林「アレ?」

滝谷「アレ?」

156 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:25:06.67 ID:lrUlPmko0

トール「アレ…… ハッ! そうか! “アレ”ですね!!」ピーン!

小林「トールちゃん、何か覚えがあるの?」

トール「はい! フッフッフ、遂に“アレ”を使う時が来た様ですね……。48のメイド技が一つ、『圧縮言語』を!」ドン!

小林・滝谷「「『圧縮言語』……!?」」ゴクリ

トール「ええ。自身の有する情報を圧縮された魔力波に変換、その魔力を呪言に載せて聴覚を介して相手に送る事で、
    莫大な情報量を瞬時に伝達する事が出来る魔法です!」フフーン!

小林「……あー、成程。便利だね」サラッ

滝谷「うん。確かに便利だ」サラサラッ

トール「ってあれ!? 何か反応薄くないです!?」ガビーン!

小林「いやいや、うん、本当に凄いなーとは思ってるよ? 思ってるけど、方式にちょっと馴染みがありすぎて……」アハハ……

滝谷「要は『zipでくれ』というのと同じだろうからね……。親近感が凄い」ふふっ

トール「“ジップ”……?こちらの世界に伝わる秘儀か何かで……?」ゴゴゴ

小林「あーいや、うん、そんな感じ! まあまあこっちの話、こっちの話だから!」

滝谷「うん、ごめんね水差して? 気にせず続けて大丈夫だから、ね?」

トール「そ。そうですか……? ちょっと釈然としませんが……
    それじゃあ、伝える情報を取り纏めてから圧縮するんで、ちょっとお待ちを――フッ!」ギュオッ!

滝谷「おお!? トール君の前で透明な何かが渦巻いて玉の様に……(螺旋丸かな?)」

カンナ「キレー」お〜

157 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:28:40.89 ID:lrUlPmko0

ギュオオオ…………!



小林「あれ、ところでその圧縮された情報って、私や滝谷君も受け取れるの?」

トール「いえ、あくまで魔力波を用いての情報伝達ですので、少なくとも魔法を扱える素養がないと理解はできないはずですね」ギュオオオ!

小林「そっかー、ちょっと残念」

トール「ふふっ、でも、もしかしたら小林さんも、ちょっとは分かるかもしれませんよ? ――っと、準備完了!」ギュン!

ルコア「うん、では説明よろしく♡」

トール「はい! ではドラゴンの皆さん、耳かっぽじってよ〜く聴いてくださいね! 行きますよ〜……」



ガバッ! パクッ!



小林(生成した玉を――)

滝谷(食べた!?)



スウ〜〜〜ッ……(大きく息を吸う音)



滝谷(さて…… さっきは素っ気ない態度をとってしまったが…… 本当は興味深い……)ワクワク

小林(呪言に載せて伝えるそうだけど…… 一体どんな風に……)ソワソワ



トール「…………………………」

トール「ッ!」キッ!



トール『かくかくしかじか!まるまるうまうま!』ゴーン!



小林・滝谷((ん?))キョトン



トール『ほしほしとらとら!ばつばついぬいぬ!』



小林(これは……)

滝谷(小説とかで見る、説明シーンを省略する時のアレ……!)ノーン



トール『どらどらごんごん、めいめいどーどー!』



ルコア「ふんふん(相槌)」

滝谷(あ、本当に伝わってはいるっぽい……)



トール『こばこばやしやし、らぶちゅーべろちゅー!』ガー!



小林(あ、今のは何となく私の事言ってるなって分かった)

158 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:35:51.54 ID:lrUlPmko0

トール「――ふう。以上です!」

ルコア「うん、お疲れ様、ありがとうね」

終焉帝「…………うむ」コクリ

ファフニール「ふん、やっと終わったか」コキッ

滝谷(……皆あからさまに“長話が終わった感”出してるけど、本当に伝わってるのかなアレ……)

小林(うーん、嘘って事もないだろうけど……)

ルコア「ん――? ははーん、ほんとに伝わってるか怪しいな〜って顔だね、お二人共?」フフッ

小林・滝谷「「!(バレとる……)」」アハハ……

ルコア「ふふっ。ま、証明代わりに今の話を要約すると……



一年前、神との戦いに敗れてこちらの世界に落ち延びたトール君は、人間の小林さんに命を助けられ、彼女のメイドとして共に暮らし始める。


小林さんの同僚・滝谷さんや地域の人々、そして私達ドラゴンを交えての、波乱はあれど充実した平和な日々を重ね、気付けば丁度昨日で1年。
トール君は出会って一周年を記念してのご馳走を準備するも、些細なすれ違いから小林さんと喧嘩をして、家を飛び出してしまう。


それから一晩中、激情のまま空を飛び回って頭を冷やしたトール君だけど、いざ今朝部屋に帰ってみると様子がおかしい。
部屋はもぬけの殻、更に隣人からは自分や小林さん達の記憶が無くなっていた。
異常を察したトール君は、小林さん達を探すために方々を飛び回るものの、更に謎は深まるばかり。


そして昼頃、偶然にも街を歩く小林さんを発見し駆け寄るも、
小林さんにもトール君との記憶が無い事が分かり愕然としたトール君は、ショックのあまり走り去ってしまう。
頼みの綱のファフニール君に電話もするけど返ってきたのは、すげない「お前は誰だ」コール。


打ちのめされたトール君は雨の中で泣き崩れてしまうけど、そこで現れたのが小林さん。
記憶はなくとも、それでも自分を心配して探してくれていた小林さんの優しさに、トール君はまたも号泣するのだった。


落ち着いた二人は、同じくトール君を探してくれていた滝谷さんと合流。
滝谷さん宅、つまり此処に移動して、状況理解のための話を始める。
まずトール君が自身の覚えている記憶を説明するが、小林さん達二人の認識はそれとは大きく異なるという。


曰く、まず1年前、小林さんはトール君と出会った覚えはないらしい。
そしてその後小林さんは空き巣に遭い、会社をクビになり、それに伴い滝谷さんも会社を辞め、
二人はフリーランスとして働き始め、四苦八苦しながらも何とか今日までやってきたという話。


互いの認識する記憶があまりに乖離しているこの状況。
どう考えればよいかと頭を悩ませていた所…… 丁度僕達が訪問してきた、って感じだよね?」



小林・滝谷「「(;゚д゚) (;゚д゚)」」ポカーン

159 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:38:32.72 ID:lrUlPmko0

小林「ちゃ、ちゃんと伝わってる…… というか、完璧すぎる要約……」オオオ……

滝谷「まるで、半年近く間が空いて、話がうろ覚えの人でも大丈夫な様に挟まれたあらすじの様に完璧だ……」プルプル

小林「いやその例えはちょっとよく分かんないけども」



カンナ「う〜、頭重いかんじー……」ウー

エルマ「う、む。内容は理解したものの、濃すぎる魔力波に、ちょっと、酔った、かもしれん……」クラッ

トール「ちょっとー、まだ幼いカンナはともかく、あなたはあの程度の魔力波、普通に処理して下さいよ。“聖海の巫女”の名が泣きますよー」

エルマ「う、うるさい……! こういうまどろっこしい、もとい繊細な魔法はちょっとだけ苦手なんだ!」ガー!

トール「全く、この脳筋はらぺこドラゴンは……」ハ〜

エルマ「何を〜!?」ギャース!



ギャーギャー……

160 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2022/11/30(水) 22:56:02.79 ID:lrUlPmko0
ちょっと中途半端ですが、今回はこの辺で。

気付けば今年も残り一ヵ月、皆様お元気でしょうか。
自分は病気こそしていないものの、仕事と私生活のリズムが中々掴めず、更新が半年近く空いてしまいました……(無念)

最近、やっと時間のメリハリの付け方が見えてきたので、この調子で進めていければと思います。
冒頭では冗談っぽく言いましたが、ここは本当に後6か月で完結する目標で行きたい所。

読んで下さっている方々は、もう少しお付き合い頂ければ幸いです。それでは〜。
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/30(水) 23:34:53.77 ID:TZYYXIM60
何かと臭い自分語り書く暇あるならさっさと本編書けばいいのに
雑談したいなら適した場所もっとあるから
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/01(木) 10:03:36.09 ID:2bBcI67DO
あらすじ助かる
個人的にはさっさと終わっちゃうよりもダラダラ長く続いてる方が好き
終わったら終わりだから
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/01(木) 12:12:59.19 ID:BCu2RPhu0
いろんな意味で終わってるけどなこのスレは
R板でスカトロスレ乱立する荒らしの方がまだ場の盛り上げ方を理解できてる
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/01(木) 15:32:27.58 ID:7GIOvT/10
スカトロスレってあのいつもの「フハッ!」のうんこマン?
あいつ頑なにR行こうとしなかったけどようやくR行く知能が生えたのか
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/01(木) 23:55:45.60 ID:BCu2RPhu0
そういえば>>162はダラダラと引き伸ばす事は肯定してる割りに「自分語りが寒い」って所には逆張りしてないんだな
やっぱ信者も薄々そう思ってたんだなぁと実感
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/02(金) 07:32:21.42 ID:/U+7moNDO
好意的に見られないからといって叩く理由にはならないから触れないだけ
別に悪事働いてるわけでもないんだし
167 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/01/31(火) 22:13:03.31 ID:/uPr47kR0
コメントありがとうございます。耳に痛いお言葉も多いので、真摯に受け止めさせて頂きます…。

という事で、また少し更新していきます〜。
168 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/01/31(火) 22:14:20.92 ID:/uPr47kR0

―――――――

ルコア「よし、それじゃあ次は僕達の話をする番だね」フウ

トール「はい、よろしくお願いします。どうしましょう、そちらの話も圧縮言語で……?」

ルコア「いや、こちらの話は普通に話すよ。どうやらそちらの人間のお二人にも、一応聞いておいてもらった方が良さそうだしね」

小林「え、そうなんですか?」キョトン

ルコア「うん、多分だけど」

小林「で、では謹んで」ピンッ

滝谷「聞かせて頂きます!」シャキッ

ルコア「あはは、そう緊張しないで。トール君が今してくれた話よりは長くならないよ。主な内容は二つだけさ」

トール「二つ、ですか」

ルコア「ああ。一つ目は玄関前でも言ったが…… 僕達の認識では、トール君は既に死んでいたものと思っていた、という事だ」

トール「……はい。ぜひ説明をお願いします」

169 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/01/31(火) 22:15:44.94 ID:/uPr47kR0

ルコア「うん。1年前、トール君が神の軍勢に戦いを挑んだ末に敗北し、こちらの世界に逃げ延びた――
    その点については僕達の認識とも一致している」

ルコア「けれど僕達からすると、トール君がこちらの世界のこの地域に転移したという所までは魔法で追跡できたが、それ以降の消息は掴めなかったんだ」

トール「え……?」

ルコア「こちらの世界に入った辺りで、トール君の臭いや魔力反応どころか、その残滓もぱったり途切れてしまっていてね」

ルコア「恐らく高度な隠蔽魔法などで痕跡が消されていたのだと思うけど……
    それについて、トール君に心当たりは? 追っ手を撒く為などに自分で使った記憶はあるかい?」

トール「え? うーんどうでしょう、あの時は本当に命からがらで、そういう事を気にしてる余裕もなかったですし……」ウーン

ルコア「じゃあ、無意識にでも魔法を行使していたという可能性は?」

トール「あー…… いや、そこらの魔術師ならともかく、ルコアさんの様なドラゴンまで欺ける様な魔法を私が無意識で使えるとはとても……」

ルコア「そうかい…… いや、ありがとう。ひとまずその点は置いておいて、話を進めようか」

170 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/01/31(火) 22:17:43.35 ID:/uPr47kR0

ルコア「トール君が消息を絶って数日後、トール君を捜索する為に僕はこの世界、この地域に訪れた」

トール「えっ、以前にもこちらの世界にいらっしゃった事、あるんですか?」

ルコア「うん、そうだよ〜。実は1年前から何度も、この世界に来てたんだ。
    野山を飛び回ったり、人の町中を歩き回ったり、あちこち探してたんだよ?」ウフフ

ルコア「更に言うと僕、そちらの小林さんと滝谷さんの事も、姿だけは街中で見かけたもあるんだ。
    お二人は僕の事、認識阻害で見えなかったろうけど」チラッ

小林「えっ、そうなんですか!?」

滝谷「いやん、エッチ!」ササッ

小林「いや、シナを作るなシナを!」

ルコア「アハハ! 面白い人だね、君」

滝谷「ふふ、よく言われます」キリッ

小林「下手に褒めないで下さい、調子に乗って暴走しますんで……」

トール「まあ滝谷さんは置いといて―― すいませんルコアさん、私の為にご足労頂いてた様で…… ありがとうございました」ペコリ

ルコア「いやいや、そう畏まられる事じゃないさ。と言うのも、ある方の依頼だったからね」

トール「依頼? 一体誰から?」

ルコア「ふふっ、誰だと思う?」

トール「えっ、うーん、誰だろ、ルコアさん程の方に依頼なんてできる格の相手ってそんなに……」

ルコア「じゃあヒント。君の目の前で僕の横に座ってる方♡」

トール「え……」

トール「――――えっ!?」ガタッ

トール「お、お父さん……ですか!?」

終焉帝「……………………」ブスッ

171 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/01/31(火) 22:20:50.27 ID:/uPr47kR0

トール「…………ほ、本当なんですか?」オズッ

ルコア「ああ、終焉帝に、トール君の捜索を内密に依頼されてね。もちろん僕自身、トール君の身が心配なのもあったから、快く承ったよ」

トール「お父さん……」ジーン

終焉帝「…………フン」

トール「……えっ、でもなぜ、わざわざ勢力の違うルコアさんに?」

終焉帝「……愚か者め、分からんのか」ギロッ

トール「っ!」ビクッ

ルコア「終焉帝!」

終焉帝「……………………」ゴゴゴ

ルコア「もう……。トール君、終焉帝はね、混沌勢の長として、大っぴらに君を捜索する事は出来なかったんだよ」

トール「え?」

ルコア「トール君は勢力の意向を逸脱して、単独で神の軍勢に戦いを挑んだ。
    それは言わば混沌勢の、ひいてはその長である終焉帝に対する反逆とも言える訳だ」

トール「あ……」

ルコア「トール君が実の娘とは言え―― いや、実の娘だからこそ、反逆者となった君を公然と助けようとしては、他の混沌勢の者達に示しがつかない」

ルコア「だから内密に僕に依頼して、表面上はあくまで傍観勢で根無し草の僕が、自分の意志で勝手にトール君を探していたという体裁にしたのさ」

トール「そうだったんですか……。でもルコアさんは大丈夫だったんですか?」

ルコア「ん〜?」

トール「傍観勢は、混沌勢・調和勢の争いから逃れる代わりに、自身もどちらの勢力にも与してはいけないというのが暗黙のルールのはず……。
    混沌勢の私を探すのは、ルコアさんにも危険が及ぶのでは……」

ルコア「な〜に、それくらい平気さ。勢力は関係なしに、私的に親交のあるドラゴンに会いに行こうとしていただけで、
    “たまたま”その子がその直前に神の軍勢とやり合っていたってだけ、だよ」

トール「そういう……ものですか?」

終焉帝「……とは言え、それですら筋としてはギリギリだ」

トール「!」

終焉帝「一線を越えたと見做され、調和勢や他の傍観勢から攻撃の対象となる可能性も少なくはなかった。
    そうした危険を押してまで依頼を受けてくれた事、改めて礼を言う、ケツァルコアトル殿」スッ(頭を下げる)

ルコア「……言いっこなしですよ〜、終焉帝」ニコッ

トール「………………」

172 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/01/31(火) 22:23:23.68 ID:/uPr47kR0

ルコア「――でね? そうして捜索している折にたまたま、父親に追放されてこの町を彷徨っていたカンナを見つけてね。
    そのまま放っておくのも忍びないので、僕の棲み処で今まで保護していたんだ」

カンナ「うぃー。お世話になってた」ハーイ

トール「そうだったんですか……。カンナも大変でしたね」

カンナ「だいじょーぶ。それに私も、トールさま探すの手伝ったりしてたー」

トール「あら、それはありがとうございます」ニコッ

ルコア「あっ、手伝うと言えばこの二人…… エルマとファフニール君にも何度か捜索に協力してもらったんだよ?」フフ

エルマ「ちょっ!ルコア殿……!」ピクッ

ファフニール「………………」ブスッ

トール「! ――へ〜?」ニヤ〜

エルマ「わっ! 私はっ、あくまで調和勢の者の務めとして、混沌勢のトールがこちらの世界に隠れ潜んで、
    悪だくみでもしていないか調査する必要があっただけでっ! 心配したとか、そういうのではないんだからな!」プイッ

トール「ふ〜ん?」ニヨニヨ

エルマ「なんだその顔はぁっ!」グオオ

ルコア「ちなみにファフニール君は……」

ファフニール「……ひ――」

ルコア「暇潰し、だよね〜分かってる分かってるって」ヒラヒラ

ファフニール「…………貴様…………」グルルル



小林(お手本の様なツンデレムーブ…… ドラゴンにはツンデレが多いのか……?)

滝谷(ツンデレドラゴン、略してツンドラ……)

173 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/01/31(火) 22:25:04.33 ID:/uPr47kR0

ルコア「……まあ、そうして時には協力を得つつ、何度もトール君の捜索を行ったんだけど。
    結局手がかりを得る事は出来ずに時間はひと月、ふた月と過ぎて行った」

トール「…………」

ルコア「そしてここからが、話す内容の二つ目だ」

トール「……はい。一体何が……」ゴクリ

終焉帝「…………」

ルコア「二つ目の話、それはトール君が消息不明になってから3か月後、つまり今から9か月前の事――」



ルコア「――今度は終焉帝が、神に戦いを挑んだ」



トール「―――――――――――は?」ヒクッ



174 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/01/31(火) 22:27:09.30 ID:/uPr47kR0

トール「――――いや、は? 冗談でしょう?」ハハ……

ルコア「いいや、本当だよ。3か月の捜索を経てもトール君の生存を確認できなかった事から、
    トール君は死亡したと結論付けた終焉帝は、弔い合戦として神と戦った」

トール「……そんな事、ある訳……」チラッ

終焉帝「…………事実だ」ポツリ

トール「っ! ―――本当に……?」チラッ

ファフニール「…………」コクリ

エルマ「…………」コクッ

トール「……………………っ!!」

小林「……トールちゃん? 大丈夫?」

トール「……そんな、お父さんが、私なんかの為に……?」ワナワナ

小林「いや、確かに驚きはする事だろうけど…… そんなに否定する事なの?
   親が子の仇を取ろうとするって、普通じゃない? 善悪はともかく」

トール「いえ、そうかも、ですけど……」フルフル

終焉帝「…………」

トール「けど……けど! それじゃ私、何の為に戦って……!」

トール「私が神と戦ったのは! 混沌勢とか調和勢とか、そういう自分や皆を縛ってる“しがらみ”を全部壊したかったから――!」

終焉帝「――知っていたとも。そんな事は」

トール「――――ッ!?」

ルコア「……僕も、気付いてたよ。『神さえ倒せれば、永年続く混沌勢と調和勢の不毛な対立を終わらせられる』
    ――本当は心優しく、自由を願う君がそう決心して、神に挑んだという事は」

トール「そんな…… でも、なら尚更、何で戦争なんて……」

終焉帝「何を勘違いしている」

トール「え?」

終焉帝「誰がいつ、私が混沌の勢力を率いて戦ったと言った? 勝手な思い込みで話を進めるな」

トール「……えっと、それはつまり……?」

ルコア「うん。勢力同士のこれ以上の対立を望まないというトール君の真意は、終焉帝も分かっていた。だから終焉帝は、娘の意を汲んで――」

ルコア「――トール君同様。神に、単騎で挑んだのさ」

トール「……………………!!」

175 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/01/31(火) 22:32:19.55 ID:/uPr47kR0

トール「本当に、一人で……? お父さん……」

終焉帝「……ふん。ドラゴンが、それも混沌勢の長と呼ばれる者が、子の仇討ちで戦うなど笑い話にも程がある。
    そんな冗談に配下を巻き込むなど出来なかっただけの事だ」

トール「……………………っ」ギュッ



小林(……このお父さんドラゴンも、だいぶツンデレが極まってるな……)

滝谷(やはりツンドラ……)



ルコア「神も、単騎で挑んできた終焉帝の覚悟を見て思う所があったのか、神側の勢力に手出ししない様に伝え、戦いは一騎打ちとなった」

ルコア「二人の激闘は7つの昼と夜を越えてのものとなり――神にも深手を負わせたものの、結果は終焉帝の敗北となった」

トール「敗北…… じゃあ、お父さんがこんなにも衰弱しているのは……」

ルコア「ああ。その時の傷が、今もまだ癒えていないのさ」

トール「……お父さんが弱ってる姿なんて信じられませんでしたが、神を相手取ったというなら納得です」

トール「でも、それならむしろ、良く生き残る事が出来ましたね。神に歯向かって敗れた者を、天界の奴らが生かして帰すなんて……」

ルコア「それについてはね、彼も絡んでるんだ」チラッ

ファフニール「………………」

トール「ファフニールさんが?」

ルコア「そう…… 一騎打ちの趨勢を密かに窺っていた、ファフニール君を含めた少数の混沌勢の精鋭が、勝敗の決した後に終焉帝を逃がしたんだ」

トール「!」

終焉帝「……勢力の者には全員に、『手出しはするな』と厳に命じたはずだったがな……」ギロリ

ファフニール「ええ。ですが『戦闘中に手出しするな』と言われただけで、戦闘が終わった後の事は言われていなかったので」サラッ

ファフニール「それに混沌勢は力こそ全て、負けた者の命令など聞く義理はないはず」フンッ

終焉帝「……フン。よくもまあ、弁の立つ邪竜だな」

176 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/01/31(火) 22:35:57.40 ID:/uPr47kR0

ルコア「……さて、そうして混沌勢は少なくない被害を出しつつも、何とか終焉帝を連れて逃げ延びた。
    神の軍勢側も、神が追撃を命じなかった事もあって、それ以上は追わなかった」

ルコア「それから現在まで、僕達の世界の情勢は緊張状態ではあるものの、
    混沌勢・調和勢共にトップを始めとして多大な消耗があるため下手に動けず、目下睨み合いが続いている、という所だ」

エルマ「直接的な衝突がない分、ある意味で均衡が保たれているとも言えるだろう。気は抜けないがな」

トール「そう……だったんですね」

トール「……傷は大丈夫なんですか、お父さん」

終焉帝「命に係わるものではない。長い時を要するが、いずれ癒えるだろう」

トール「そうですか……」ホッ

トール「……ファフニールさんも、その、ありが――」

ファフニール「やめろ」ゴオッ!

トール「っ!」ビクッ

ファフニール「これは将たる者と臣たる者の間の出来事だ。ただ将の娘というだけのお前には関係がない。
       感謝も謝罪も口にするな、頭も下げるな。殺すぞ」ゴゴゴ

トール「――――はい」

トール(――それでも、ありがとうございます、ファフニールさん)ニコッ

ファフニール「何を笑ってる! 笑うのもやめろ!」ガアッ!



小林(……ツンデレにしては圧が強〜…… 魔力とか分かんなくてもプレッシャーがキツいんだけど)ビクビク

滝谷(もしやドラゴンって基本すごいツンデレなのでは……? ボブは訝しんだ)

177 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2023/01/31(火) 22:42:01.93 ID:/uPr47kR0
という所で今回はここまでです。

いい加減グダグダ言い訳言っててもしょうがないので、できるだけ早くまた更新できる様に頑張ろうと思います。

それではまた〜。
178 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/03/27(月) 22:13:14.90 ID:Mi2UAr//0
こんばんは。少し更新していきます。
179 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/03/27(月) 22:15:40.23 ID:Mi2UAr//0

――――――――――――

ルコア「――さて。これで、双方話すべき事は話したかな」

トール「……はい。私も、私達が把握している現状については、全て語ったつもりです」

ルコア「うん。じゃあ次は―― と、その前に」

トール「?」

ルコア「少し休憩にしようか。お互い、頭の中を少し整理したい所だろうし」

トール「……そうですね」

小林「あ、じゃあ一服しますか。お茶、淹れ直しますねー」カチャカチャ

トール「あ、手伝います!」カチャカチャ

滝谷「お茶淹れは任せろー!」トポポポ

小林「やめて! …………あ、いや別に止めなくていい、お願いね」

トール「?」

滝谷「小林さん、定型句に対して脊髄反射でレスするのはリアルだと色々危ないよ」ニコッ

小林「君が振ったんでしょーが君が……!」カアァ

トール「??」

180 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/03/27(月) 22:16:37.85 ID:Mi2UAr//0

――――――――

トール「……………………」ズズー

トール「…………ふう」ホフウ



トール(……とても、驚くべき内容だった)

トール(小林さん達の話…… ルコアさん達の話……。いずれも衝撃的で、それでいて真に迫っていて、嘘とは思えないリアリティを感じた)

トール(でも、ここまでの話はあくまで前準備に過ぎない)

トール(ここからだ。本題は、解決すべき謎は――――)



ルコア「――――――――」ズズー… コトン

トール「――――――――」ズズー… コトン



ルコア「――さて、準備はいいかい?」

トール「――はい。始めましょう」コクリ

ルコア「うん。じゃあここからは一緒に考えようか。
    この1年間についての『僕達の記憶』と『トール君の記憶』の間の、あまりに大きな差異をどう説明するかを」

トール(そう。ついにそこを考えるべき時が来た――)

181 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/03/27(月) 22:20:37.01 ID:Mi2UAr//0

ルコア「まず差し当たってトール君。君は今日1日、町中を飛び回って色々と見聞きしてきた様だけど……」

ルコア「その中で、この状況について説明する為の仮説とかは、考えたりしたかい?」

トール「仮説…… ですか」

ルコア「ああ、簡単な所感でも構わないから、あれば聞かせて欲しいのだけど」

トール「仮説…… 道中で考えたものは、一つありました」

トール「……でも今は、正直、良く分からなくなりました」

ルコア「ほう?」

トール「初めは…… 今日の朝、異変に気付いてからは、誰かの陰謀を疑っていました。
    私に敵対する何者かが、高度な魔法を用いて皆の記憶の改竄などを行って、私を孤立させようとしているのでは、と……」

トール「でも、小林さんと滝谷さんの話、そしてルコアさんの話を聞いてたら…… 『それは無理だろ』と思い直しました」

小林「そうなの? いや、魔法については良く分からないけど……」

トール「はい。私に関する記憶を皆から根こそぎ消す、という大雑把な処理ならともかく……
    私がいなかった場合の1年分の偽の記憶を、詳細に、筋道立てて創り上げて、私の関係者全員に植え付ける、なんていうのは私でも困難……
    というか、考えたくない手間のかかる行為です」

トール「ましてや、小林さんや滝谷さん達の様な、魔法への防衛手段のない一般の人間だけでなく、
    私達、それも最上位のドラゴンであるお父さんやルコアさん達も含んだ方々の記憶すら操り、操った事すら気取られない――
    なんて、私を倒した神ですらきっと至難でしょう」

トール「そんな事が出来る者がいたとしたら、それはもう――」

ルコア「――ああ。それはもう神をも超える、まさしく全知全能の“超越者”だ」

ルコア「“それ”を想定してしまうなら、それこそ何でもあり。
    仮説にどんな矛盾や難点があろうと、全能であれば通せてしまうからね。考察するのが馬鹿馬鹿しくなる」

トール「はい。だから、その…… っ……」グッ

トール「……まだ、私一人の記憶が何者かにイジられている、という方が現実的で……」

ルコア「ん〜いや、それも同様に考え難いかな」

トール「!」

ルコア「トール君も最強格の存在達には及ばずとも、充分に上位の力を持ったドラゴンだ。
    そんな君の記憶を違和感も与えずに改竄する、なんて芸当は僕や終焉帝でも困難だ」

小林「うん。それにトールちゃんの話はしっかりとした感情や実感に溢れてた。偽物の記憶だなんて、私達には思えないよ」

滝谷「うん、右に同じ」グッ!b

トール「皆さん……」

ルコア「何にしろ、全能でその痕跡も残さない超越者というのは考えられない―― いや、厳密には“考えても良いが意味がない”。
    もし本当にそんな事が出来る相手が敵なら、僕達が何をしようと敵いはしないからね」

ルコア「それに、そこまで出来る存在がトール君や僕達に敵対しているというなら、
    今度はなぜわざわざ“記憶を改竄する”なんて迂遠な方法を採るのか? という疑問が生じる。
    トール君を攻撃するにしろ絶望させるにしろ、何でも出来るならもっとやり様はあるだろうしね」

ルコア「少なくともこの仮説は、他に考えられる可能性が全て棄却された時、もしくは超越者の存在を示す証拠が出てきた時、
    初めて考慮すれば良い程度のものだ。今は置いておこう」

トール「そうですね……」

182 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/03/27(月) 22:24:16.36 ID:Mi2UAr//0

トール「でも…… では他にどういった可能性が……?」ウ〜ン

ルコア「……僕も話を聞いていて思った事と、そこから考え付いた仮説があるんだけど、言ってみても良いかな」

トール「思った事と、仮説……? はい、お願いします」

ルコア「うん。まず思ったのは、トール君の記憶と僕達、そして小林さん達の記憶との相違点についてだ」

ルコア「この一年間における僕達の記憶は、一見するとその大部分で差異が生じている様に思えるけど……
    本質的に違うのは、多分たった一点だけだと僕は思う」

トール「たった一点……? それって……」

ルコア「君も気付いてるんじゃないかい? 丁度一年前、『この世界に逃げ延びたトール君が、山中で小林さんと出会ったかどうか』さ」

トール「……!」

ルコア「それ以外の相違点は、あくまでその一点の違いから連鎖的に生じた、副次的なものに過ぎないんじゃないかな。
    いくらその違いが劇的に見えても、ね」

ルコア「ほら、トール君にとってのこの一年間は全て、小林さんと出会った事で成り立つもののはずだろう?

    小林さんが神剣を抜いてくれたからトール君は一命を取り留め、
    小林さんが誘ってくれたからメイドとして小林さんちに住み込み、
    小林さんとの生活を通じて様々な人間との交流が行えた。

    また小林さん側も、トール君と出会いメイドとして住み込んでもらえた事で空き巣の被害を防止でき、
    空き巣による疲弊がなかった事で上司のパワハラの証拠集めを気取られる事もなく、
    それ故に失職する事も無くなり、フリーランスになる事もなかったろう。

    僕達ドラゴンからしても、そもそもトール君が失踪せず生きている事が確認できていたなら、
    何度も捜索する事も、終焉帝が神に一騎打ちを仕掛ける事もなく過ごしていただろう。
    トール君の記憶通り、こちらの世界に遊びに来る事もあったかもしれない」

トール「確かに…… そう考えれば色々と話がすっきりしますね」

ルコア「だろ? とりあえず、ここまでは双方の話を照らし合わせて思った事。
    ひとまずこれを真として…… ここからがそれを元に考えた仮説なんだけど」

トール「はい」

ルコア「……………………」

トール「……ルコアさん?」

ルコア「……ん。ちょっとショックな事言うかもだけど、良いかい?」

トール「! ……はい、大丈夫です」ゴクッ

ルコア「うん。その、ね――」



ルコア「――トール君にとってのこの一年の記憶は、もしかしたら全て夢なんじゃないかな」



トール「―――――――――――」カヒュッ

183 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/03/27(月) 22:28:51.26 ID:Mi2UAr//0

小林「ちょっと……!?」

トール「……ふ……っ! ふっ…………っつ!」フルフル

小林「トールちゃん、大丈夫!? しっかり、焦らず、ゆっくり呼吸して……」サスサス

トール「…………っ」コクリ

エルマ「ルコア殿、今の発言、どういう意味ですかっ!」キッ

ルコア「うん。厳密に言えば、夢とは言ってもより詳細で具体的な想像……
    そうだな、こっちの世界で言う“シミュレーション”という奴かな」

エルマ「シミュ……? ってそうではなく――」

トール「…………っ、続けて下さい」フウッフウッ

エルマ「! トール……」

小林「トールちゃん、無理しちゃ……」

トール「二人共、心配ありがとうございます。でも、聞かなきゃ始まらないっ……!」グッ

ルコア(……ごめんね、トール君。君の強さに甘えてる。せめてその心意気に応じよう)

ルコア「……了解した、続けるよ」

トール「……………………」コクリ

ルコア「僕の仮説はこうだ。まず一年前、神との戦いで深手を負ってこちらの世界に逃げてきたトール君は、話の通り、とある山奥に落ち延びた」

ルコア「神の剣に貫かれ瀕死となったトール君は、傷を癒す為にそこで眠りに就いた。仮死状態と言い換えてもいいか」

トール「………………」

ルコア「その間、肉体は休眠している訳だが…… ドラゴンの感覚というものは、人間のそれより遥かに発達している。
    だから、眠った状態でも周囲の状況をある程度把握できていても不思議はない」

ルコア「……そう、たまたま近くをうろついていた人間の事を知覚する事も」

トール「! ……それが、小林さんだと……?」

ルコア「ああ。結局彼女――小林さんは、トール君に気付かずに通り過ぎて行ったかもしれないが、
    彼女を知覚した君は夢見る中で、こう思ったんじゃないか?」

ルコア「『願わくば、自分も勢力の立場から自由になって、他者と交流してみたい』と」

トール「………………!!」

ルコア「さっきも言ったが、ドラゴンの感覚は極めて鋭い。それのみに集中すれば、町一帯の生命体の言動を全て把握する事も可能だ」

ルコア「そして同様にその頭脳、特に演算能力も人間より遥かに優れている。
    ――知覚した周囲の情報から、極めて精確な未来予測(シミュレーション)を行う事も可能な位にはね」

トール「………………つまり、私は………………」

ルコア「ああ。この一年間、夢の世界――ただしそれは極めて具体的で現実に近い、それこそ“有り得たかもしれないもう一つの世界”――
    で過ごしていたのかもしれない」

ルコア「この場合も、君の記憶は決して偽物という訳ではない。ただ、現実の出来事ではなかっただけで」

ルコア「そして一年経ち、傷が癒えて目覚めた君は現実の空に飛び立った。――夢と現実を区別しないまま」

184 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/03/27(月) 22:34:01.10 ID:Mi2UAr//0

トール「………………っっ………………」フルフル

小林「トールちゃん…… 気をしっかり……っ!」ギュッ

トール「………………ッ!」ギリッ



トール(今までが、夢……? この一年の、小林さん達との思い出が、全て、夢……?)ドッドッ

トール(信じられない、信じたくない、そんなの……っ!)グゥッ

トール(…………でも、そう考えた方が、辻褄が…………)



滝谷「いや〜、その仮説もどうかと思いますけどねぇ?」

トール「…………え?」

ルコア「…………ふぅん?」ピク

トール「滝谷……さん……?」

小林「――滝谷君。頼めるんだね?」

滝谷「――ああ、任せてよ小林さん」ニコニコ

小林「ん、じゃあ頼んだ。――ほら、トールちゃんはお茶飲んで、落ち着いて」サッ

トール「あの、でも……」

小林「だ〜いじょうぶ。(普段はともかく)こういうレスバトルの様な時は彼、ほんとに頼りになるんだから」



ルコア「――どうかと思う、と言うと…… 具体的には?」ニコニコ

滝谷「いくつもありますよ。
   まず、瀕死のトール君が、通り過ぎた小林さんを知覚して『自由に他者と交流したい』と思ったという点ですけど……
   ちょっと無理がないですか?」

滝谷「トール君の話通り、2人が実際に出会い、語らい、お互いを知った結果として『この人と一緒に過ごしてみたい』と思うなら分かりますが、
   ただ通りすがっただけの人間を見ただけで果たしてそんなに交流したいとまで願いますかね?」

ルコア「そこはそれ、ドラゴンの高い推察能力で、話さなくても小林さんのひととなりを察知できた可能性もあるんじゃないかな」

滝谷「便利ですねえドラゴンの高スペック。だけどそもそもシミュレーションなんてしてる余裕あったんですかね?」

ルコア「……ふむ?」

滝谷「世界そのものの精確な脳内シミュレーション一年分、なんて、いくらドラゴンの脳がスパコン並みに凄くとも、
   実行するにはそれなりにエネルギーが必要なはずだ。瀕死の重傷を癒す為に休眠した、にしては妙に余裕ありすぎでしょう」

ルコア「………………」

トール「………………!」

滝谷「それに、一年で傷を癒して目覚めたって言いましたけど……
   トール君を貫いていたっていう神の剣とやらはどうしたんですか? 神の剣という位だ、ただの剣じゃないんでしょ?」

ルコア「……ああ。トール君を貫いた剣は、剣の形をした神の権能の一部。
    魔に属する竜を殺すという概念そのものであり、刺さっている限り竜の命を蝕み続けるだろう」

滝谷「そしてトール君の話では、自力で剣を抜くのは不可能だったと言う。なら、一年放っておけば傷が癒えたというのも疑わしい」

滝谷「そしてよしんばトール君が底力を発揮して、眠っている間に神の剣を自力で抜き、傷を癒したのだとして……
   それなら今朝のトール君は、その山の中で目覚めていないとおかしい筈だ。けど、そうではないんでしょトール君?」チラッ

トール「え…… あっ、はい! 結局昨夜から今朝まで一晩中、私は空を飛び回ってた、はずで……」

滝谷「――だ、そうですが?」

ルコア「――――面白い人だね、君」ニィッ

滝谷「ふふ、よく言われます」ニコッ

185 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/03/27(月) 22:36:41.46 ID:Mi2UAr//0

ルコア「――ま、実際仰る通り、僕の仮説も穴だらけさ。わざわざ超越的な敵を想定するよりはまだ現実的かな、と思って言ってみただけでね」フッ

滝谷「まあそこには同意しますよ。本質的な差異は『トール君と小林さんが出会ったかどうか』の一点のみ、というのは鋭い着眼点だと思いますし」ニコッ

ルコア「ありがとう。……そして本当に申し訳ない、トール君。憶測で無駄に君を怖がらせた形になった」ペコリ

トール「いえっ! 仮説を立てて検証するのは辛くとも必要な過程ですし、
    むしろ言い辛い事を言う役を担って頂いてこっちこそすみませんと言うか……」ワタワタ

ルコア「……ありがとう。その優しさに、改めて感謝を」フフ

トール「よして下さいっても〜!」テレテレ



小林(――お疲れ、滝谷君。はいお茶)スッ ヒソヒソ

滝谷(ああ、ありがとう小林さん)カチャ

小林(すごいじゃん、ドラゴン相手にも全く怯まずに舌戦とか、ガチの英雄じゃん)ケラケラ

滝谷(いやいや、内心心臓バクバクの冷や汗ダラダラだよ? ほら見てこの手汗)ジットリ

小林(でも、トールちゃんの為に頑張ったんだ? やるじゃん)フフ

滝谷(いや、そんなカッコいいもんじゃ……)

小林(二人共、似た者同士なのかもね。滝谷君とルコアさん)

滝谷(んーそうかい? ……そうかもね)ズズー

186 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/03/27(月) 22:39:27.35 ID:Mi2UAr//0

――――――――――

トール「……でも、そうなると結局……」ウーン

ルコア「うん。振出しに戻っちゃったかなー……。ちょっと僕もすぐに次の仮説は浮かばないや」

滝谷「少し、皆で考える時間を取りますか」

トール「そうですね……」



一同「………………………………」ウーン



終焉帝「……………………」フム



小林(うーん、第3の仮説ねえ……)ムムム

小林(何か、もう少しな気もするんだけど……)



ルコア『――わざわざ超越的な敵を想定するよりはまだ現実的かな、と――』

滝谷『――まあそこには同意しますよ――』



小林(わざわざ敵を想定するよりは―― 確かにそうだ。今回の事態を説明するのに、現状必ずしも敵は必要ない)

小林(あくまで敵意のない、事故や現象と考えた方がよりすっきりする気がする……)



ルコア『――君の記憶は決して偽物という訳ではない。ただ、現実の出来事ではなかっただけで――』



小林(それは…… 本当にそうか? 確かにトールちゃんの記憶と私達の記憶は決定的に異なってはいるけれど……)



滝谷『――本質的な差異は『トール君と小林さんが出会ったかどうか』の一点のみ、というのは鋭い着眼点だと思いますし――』



小林(そう…… 違うのは一点のみ。でも“違う”という事と、“どちらかが間違っている”という事は本当にイコールか……?)

小林(くそ、もう少し、後ほんの少しな気が……。それこそ、私はこういうのを良く知っている様な……)

小林(う〜〜〜〜〜ん………………………………)



ルコア『――“有り得たかもしれないもう一つの世界”――』



小林「!!」

187 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/03/27(月) 22:42:13.82 ID:Mi2UAr//0

――――――――――

一同「………………………………」ウーン

終焉帝「……皆の者。少し良いか――」

小林「――分かった」ポツリ

終焉帝「む?」

トール「小林さん?」

滝谷「分かったってまさか……」

小林「うん。私、分かったかも、今の状況がどうなってるのか」

一同「………………!」ザワッ

終焉帝「ほう……」

小林「って、あ、すいません。何か言いかけたのを遮っちゃいました? どうぞお先に――」

終焉帝「いや、構わない。其方の考えを語ってみよ。人間の淑女よ」

小林「しゅ、淑女……!? あ、その、では僭越ながら……」テレテレ

小林「ン、ン゛ッンー(咳払い)、アーアー…… スーハースー……」



一同「……………………」ジー



小林(うう、全員に注目されると、緊張するな……)

トール(小林さん、ファイト!)グッ

小林「スーハー…… よし。コホン」

188 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/03/27(月) 22:47:59.84 ID:Mi2UAr//0

小林「――昔のある哲学者が言ったとされる言葉にこんなのがあります。『ある事柄を説明するためには、必要以上に多くを仮定するべきではない』」

滝谷「いわゆる『ベッカムの髪切り』というやつだね」

小林「いや『オッカムの剃刀(かみそり)』ね。それだと有名人が散髪してるだけだからね」

滝谷「ヘアスタイルは哲学……!」キリッ

小林「はいはい、無理に緊張ほぐそうとしなくて大丈夫だから。話進めるよ」

滝谷「はい(´・ω・`)」しょぼーん

小林「……さて、その言葉に従うなら、さっきルコアさんが言った様に、証拠もないのに無闇に敵を想定するのは合理的ではない事になります」

トール「はい。先程のルコアさんのシミュレーション仮説の様に、半ば事故的に発生した事態である可能性だってあるのですもんね」

ルコア「ああ。だが僕の仮説では結局、記憶の差異について上手く説明できなかった。
    小林さんはこの記憶の差異についてどう考えてる? どちらが正しい記憶だと?」

小林「そこです、私が疑うのは」ビシッ

ルコア「ん?」

トール「と言うと?」

小林「私達は無意識の内に、こう思い込んで、もう一つ不必要な仮定をしていたんじゃないですか?
   『トールちゃんの記憶と私達の記憶、二つの記憶に明確な差異があるなら、それは少なくとも一方が間違っている』と」

ルコア「…………!」ピクッ

トール「……? え、でも、それは当然の前提では? だって実際二つの記憶は互いに矛盾していて、両方が成り立つ事は……」

小林「勿論、普通に考えればその通りだ。現実に起きた出来事が一通りだけであれば、その正しい記憶も一通りだけが当たり前……」

小林「でも、そうではない場合があるとしたら? トールちゃんの記憶と私達の記憶、どちらも間違ってない正しい記憶である可能性もあるとしたら?」

トール「……!? 小林さん、それは一体……?」

小林「一見矛盾する二つの記憶が両方とも成り立つ場合…… それは、その二つが実は、別々の対象について述べていた時だ」

トール「どういう……意味ですか」ゴクッ

小林「………………………」

トール「……小林さん?」

小林「……その、うん。まあまだ証拠もないただの仮説だから、話半分で聞いてもらっていいんだけど……」ゴニョゴニョ

トール「……言いにくい事なんですね? 多分、また私にとってショックな内容だから」

小林「う゛。その…… はい」コクリ

トール「大丈夫ですよ小林さん、その優しさだけで充分です」フルフル

トール「今更遠慮は要りません。さあ思い切り言って下さい、ラグナロクを告げる予言の巫女の様に!」ドーン

小林「いや、そこまで破滅的な内容ではないよ!? ……でも、うん、分かった。変に濁さず、まっすぐに言うよ」コクッ

トール「はい!」ニコッ

小林「――よく聞いて、トールちゃん。私はきっと、君の知っている“小林さん”じゃない。
   君の知る“小林さん”ととても良く似ているけれど、厳密には別の存在」

小林「それは他の皆、滝谷君やドラゴンの皆さんも…… そしてこの世界すらも同様で、“そっくりさん”に過ぎないんだと思う」



小林「――この世界はきっと、トールちゃんにとっての並行世界なんだよ」

189 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2023/03/27(月) 22:53:39.58 ID:Mi2UAr//0
ちょっと切りが悪いですが、今回はここまで。また出来次第更新します。
それでは〜。
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/04/30(日) 10:15:27.51 ID:uk5drgDt0
気付きな反発探す絵織物買ってダイイングッズメッセージ考える気付きな役立つけど届きましたですも役立つ影響で有為形跡考えるもある ❗️クスノックス気付いた心が軽いシャンクスのかです影響拡大する受けたきゃdせる申し訳した心が軽いシャンクスの‼️半の心が2年後大昔考えるも離れた?受けた心が軽いシャンクスのか悪い関わる心が軽いシャンクスの‼️気付きましたバシッ証拠心が心が軽い清原着いた気付きました?セメント買ってもある ❗️クスノックス❗️偽考える気付きな反発探す特別なんqが戻るキャンセル料買ってダイイングッズメッセージのか悪い関わる心が軽い心臓病買ってですけど届きましたですもある 本物虚実寝な無い無い寝な無えな❗️クスノックス気付いたサカズキ見抜けた水瓶座の‼️気付きました変わりました?セメント買ってダイインがあった真実味があったですけど届きました?受けた心が軽いシャンクスが永い言ったけど本物冷酷冷淡ズキンズキンエロ漫画があった敗れた去ったアスランエアがあった敗れた去ったエロ漫画があった敗れた去った?受けたいじめたも離れた嫌い同士島があったけど次考える心が軽い青そうです心が心が軽い警察庁があった敗れた去ったエロ漫画考える気付きな役立つpも重いもある 本物考える心が考える気付きな心が心が軽い警察庁の‼️後に役立つ受けた敗れた去った昆布拓未があった敗れた67探す絵織物考える気付きな‼️気付きました変わりました?セメントがあった敗れた去ったアスランエア考える心がスキン考える気付きな‼️後に入れるけど本物冷酷冷淡ズキンズキンエロ漫画考える気付きな‼️気付きました変わりましたけど本物冷酷冷淡な心が戻るもない悪いでしょうかを受けた?偽があった心が心が軽い警察庁信のかですも役立つけど届きました後の野と後に役立つ受けた敗れた去った昆布拓未大佐は‼️気付きは戻るキャンセル料があった真実味があった真実味考える心が軽い青そう空があった真実味考えるもある 4434rdgジぇr5しlyシャーロックホームズがあったけど届きました?受けた気付きましたけど本物冷酷冷淡ズキンズキン無効清原秀晃霊時代60年前から59年相違年後99最後があった歳99歳エロが病死探す絵織物考える心が軽い青空老?今日があった?受けた暴くにするも首が横フリフリ❗️動くも動いた?セメントの‼️気付きました変わりましたけど本物冷酷冷淡ズキンズキン無効清原秀晃霊永橋で影響で清原秀晃霊考える心が軽い青空考える気付きな役立つ受けた敗れた去った昆布拓未大佐に戻るキャンセル料にするも入れる今日考える心が考える心がスキン考えるズキンズキンは‼️半の心が軽い青空暴かれたにする受けた敗れた去った昆布拓未役立つ影響で清原秀晃霊役立つ受けた敗れた空信lyショー無図ホームズ影響で清原秀晃霊役立つ受けた悪行を暴かれたにするけど本物冷酷冷淡ズキンズキンエロです影響拡大した心が買う塁約束通りを嫌な感覚があった?受けた受けなさい?今日今は‼️後に行った同盟全知全能ホームズがあったけど本物冷酷冷淡ズキンズキン無効清原着いた気付きました変わりました事件考えるズキンズキンエロ漫画のかは戻るキャンセル料があった?受けたホームズ霊影響で清原秀晃霊があったけど本物冷酷冷淡ズキンズキンエロが戻るキャンセル料考える心が軽い青そう空があった心が軽い青そう空考えるズキンズキン無効清原秀晃霊買ってです影響拡大探す追加探す特別な心が軽い悪行もない暴かれたにする後に入れるも入れるけど本物冷酷冷淡ズキンズキンエロ漫画があった心が心が軽い警察庁があった?受けたホームズがあった心が心が軽いホームズゴースト影響で清原秀晃霊役立つも受けた特許清原考えるズキンズキンエロ漫画考える気付きな心が心が軽い後に行った距離考える気付きな‼️気付きましたバシッ証拠考える気付きな‼️気付きましたバシッ証拠考える本物冷酷冷淡虚実があった?受けたにする受けたにする後に役立つ影響で清原秀晃霊があった大昔考える本物冷酷冷淡❗️クスノックス気付いた心が心が軽いも形跡があったけど本物冷酷冷淡残した事があるけどフォン多いでしょうかを買う塁があった心が軽い青そう空があった真実味があったです影響拡大探すも受けた?偽考える気付きな心が心が軽いも役立つけど届きましたです影響拡大で清原秀晃霊考える暴かれたにする受けたけど届きました後のも永い三回3回に役立つ影響で清原秀晃霊があった敗れた去ったアスラン大根があった真実味感gら他があった敗れた去ったアスランエア霊があった敗れた67探す特別な心が考える気付きな‼️気付き気付きなした気付きました暴かれたにする受けたにする広まるも受けた欠かされた素直に戻るキャンセル料ズキンにズキンズキンエロ漫画考える
191 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/05/29(月) 23:06:05.28 ID:BsrFHKfa0
こんばんは。また少し更新していきます。
192 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/05/29(月) 23:07:44.39 ID:BsrFHKfa0

小林「………………………」

トール「………………………」

小林「……あれ? 何か反応薄いね」

トール「あ、いえ、その……」モジモジ

トール「……すみません、“並行世界”って何ですか?」エヘヘ……

小林「へ?」ポカン

トール「失礼ながら聞いた事が無くて……。
    この世界とは違う世界の事で、かつ私達の世界とも違うものなのかな〜というのは何となく分かるんですが……」

小林「え? ほんとに知らないの? 他の方達は?」

エルマ「……すまないが、私も聞いた事がない」

カンナ「私もー」

トール(あ、良かった私だけではない……)ほっ

ルコア「僕は魔術書とかで概念だけなら読んだ事あるかな〜」

ファフニール「俺も聞き覚えぐらいはある。噂程度だがな」フン

終焉帝「私も同じ様なものだ。あちらの世界では仮説として提唱されてはいるが、実在を証明されてはいない…… 少なくとも私の知る限りはな」

小林&滝谷「へ〜……」

ルコア「むしろこちらの世界にも同様の概念があるのに驚いたよ。もしかして、こちらの世界では実証されてたりするのかい?」

小林「へ!? いや、すみません私達もそんな専門家並に詳しいって訳じゃなくて、あくまで概念として何となく知ってるだけと言うか……」ワタワタ

滝谷「分岐世界や可能世界、多元宇宙や代替宇宙とか、色々呼び名はありますが……。
   あくまでこちらの世界でも想定されているだけで、実証とかはされてなかったと思いますね」

ルコア「ふ〜ん?」

トール「博学なのですね、お二人共……!」オオ〜

小林「いや、博学っていうか、創作物でよく見るテーマだから馴染みがあるだけっていうか……」ポリポリ

トール「?」

ルコア「――とりあえず、この事態の解明の前に、まずは並行世界についての説明が必要な感じかな?」

トール「はい、お手数ですが、よろしくお願いします!」フンス

エルマ「私も、よろしく頼む」ペコ

カンナ「たのむー」ペコ

小林「え〜、上手くできるか自信ないんだけど……。分かりました、頑張ります……」

193 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/05/29(月) 23:10:03.34 ID:BsrFHKfa0

小林「え〜と、並行世界っていうのは、私達のいるこの世界とほとんどそっくりで、けれど少し違う別の世界の事で……」

エルマ「そっくりな別の世界……? その“そっくり”というのは、どの程度を指すので? 陸地や都市の形が似ているという感じか?」

小林「いや、それもですけど、住んでいる人間や他の生命もほぼ同じ……
   そうですね、例えばこの世界に私が存在している様に、並行世界にも私と姿も記憶も人格もほぼ同じ、
   “もう一人の私”が存在しているってレベルでそっくりって事です」

エルマ「同一人物が存在……?」

トール(小林さんがもう一人……!? なんてお得……じゃなくて!)

トール「つまり、この世界と双子の様に瓜二つの世界がある、って事ですか?」

小林「うん。あくまで“あるとされてる”ってぐらいだけど……」

エルマ「それは…… 何者かがその様に用意した世界という事か?」

小林「え? いや、誰かが意図的に創った特別なものって訳でもなく、自然に存在するものっていうか……」

エルマ「自然に? 世界は原初の神々によって創世されたものだろう? それともこちらでは違うのか?」

小林「へ? あ〜、神様が実在するならその考えも確かに妥当…… というかそっちの世界ではそれが事実なのかな? え〜とこっちだとビッグバンとか……」

エルマ「ビッグパン? 大きなパンか?」ジュルリ

小林「あー………………(宇宙創生についての説明とかできる自信がないし面倒臭い)」

小林(……助けて、タキえも〜ん……!)チラッ

滝谷「!(しょうがないなあ、こば太くんは……)」フフッ

滝谷「……並行世界論にも色々あるからね。あくまで概念が掴めればいいだけなら、ここは独立型じゃなくて分岐型で説明した方が話が早いんじゃないかな」

トール「分岐型?」

滝谷「うん。始まりの世界は唯一であっても、時間と共に世界が複数に分岐し、並立していくという考え方さ」

滝谷「『あの時、もしも違う選択をしていたら、今の自分はどうなっていただろう?』と思った事はないかい?
   並行世界は、その“もしもの可能性の世界”が、次元を越えて実際に存在していると仮定するものさ」

エルマ「もしもの、もう一つの世界……」

トール「……いえ、“もしも”なんていうのは世界に生きる命の数だけ、それこそ無数にあるはず。なら……」

滝谷「その通り。詳しく言えば、並行世界は無数にある“もしも”と同じ数だけ存在していると言われている」

エルマ「無数の、世界……!?」

トール(無数の、小林さん……!!? 超お得…… って、そうでもなくて!)ブンブン

滝谷「勿論、“もしも”と言っても大小様々だ。歴史が変わる様な大きな“もしも”から、日常のほんの些細な“もしも”までね」

カンナ「じゃあたとえば、『あの日私は川に遊びに行ったけど、ヘーコー世界では代わりに山に遊びに行った私もいるかも』ってことー?」ハーイ

滝谷「うんうん。そういう事だね」ニコッ

エルマ「『あの日私は肉料理と魚料理、どちらを食べるかで悩んだ末に肉料理を選んだが、並行世界には魚料理を食べた私がいるかも……』という事だな?」

滝谷「うん…… うん? まあ、それもそういう事だね」

エルマ「くっ、羨ましいぞ私……!」ジュルリ

滝谷「あ、例えじゃなくて実体験の話?」

194 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/05/29(月) 23:14:32.80 ID:BsrFHKfa0

トール「――そうか。そして同様に、『1年前に、もしも私と小林さんが出会ってなかったら』というその“もしも”が……」

小林「……うん。今、私達がいるこの世界なんじゃないかって話」

トール「なる、ほど……。人も歴史もとても良く似ているけど、少しだけ違うもしもの世界……。
    似ているだけで実際は異なる世界だから、記憶が食い違うのも当然、と……」

トール「……じゃあ、それが正しければ、ここにいる皆さんは、私の知る皆さんとよく似ているけれど、実際には……」

小林「そう。あくまでよく似ているだけの“そっくりさん”という事になる」

トール「………………………」シーン

小林「……その、ごめんね。やっぱりショック……」

トール「え? ああ、いえ、確かにショックはショックなんですけど、そうじゃないというか……」フルフル

小林「え?」

トール「精神的ショックの方は、もう予めしっかり心構えさせてもらってたのでそんなではなくって」

小林「あ、そ、そう? 良かったけど、じゃあ押し黙ってたのは一体……?」

トール「その…… まだ少し違和感があるというか」

小林「違和感?」

トール「はい。並行世界の仮説は、確かに前二つの仮説にあった矛盾点がきれいに解決できてて、きっと正しいんだろうなと私も思うんですけど……」

トール「……けど、それは私達の世界と、どの様に違うんですか?」

小林「ん? と言うと……?」

トール「えっとその、私達ドラゴンは、次元を越えてあちらの世界とこちらの世界を行き来できる訳じゃないですか。
    もし他にも世界があるとしたら、どうして今まで同様に行き来できていないのかな、と思って」

小林「……あー、確かに。異世界転移が出来てて、並行世界移動は今まで出来てない理由かあ……」

滝谷「なるほどねえ……。僕もちょっと、すぐにはピンと来ないな……」ウーン

ルコア「――じゃあ、並行世界をもう一段階上の区分だと考えるのはどうかな?」

トール「ルコアさん?」

195 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/05/29(月) 23:15:45.87 ID:BsrFHKfa0

小林「一段階、上とは……?」

ルコア「こちらの世界と…… ああ、少し言いにくいから、こちらの人間が暮らす世界を“人間界”、
    魔法やドラゴン、神が存在するあちらの世界を“魔法界”と仮に呼ぼうか」

ルコア「まず、トール君を初め、力あるドラゴンは、この人間界Aと魔法界Aを行き来する事が出来る。
    その一方、それらとそっくりな人間界Bと魔法界Bが、また別個に存在していると考えてみよう」

ルコア「この時、AはAで、BはBで一つのまとまりとなっていて、AとBのまとまりの間はそれらよりも離れているとしたら?」

滝谷「それぞれの並行世界の中が、更に人間界と魔法界に分かれている、入れ子構造って事ですか?」

ルコア「そう! 例えば人間界Aと魔法界Aは一つのシャボン玉の中にあって、1枚の膜で分かれているだけであり、
    その一方で人間界Bと魔法界Bはまた別のシャボン玉の中にある様な……」

トール&エルマ「???」

カンナ「ルコアさまの説明、ちんぷんかんぷん」ノーン

ルコア「あー…… ごめん。逆に分かり難い例えだったね。僕が読んだ本ではこういう説明だったんだけど……。他に分かりやすい例えはないかな?」

滝谷「う〜ん……」

小林「……こういうのはどう? 並行世界を、家に例えるんだ」

トール「家?」

小林「うん。並行世界同士は、見た目も、中身の間取りも、住んでいる人もそっくりな家で、それらは隣同士に建ててあるとする」

小林「それぞれの家の中は、ルコアさんの言う人間界や魔法界と呼ばれる部屋があり、扉と壁で仕切られている」

小林「この場合、人間界と魔法界の移動は同じ家の中で隣の部屋に動くだけだけど、
   並行世界の移動は部屋から出て、家からも出て、隣の家に行ってまた部屋に入る様なものだから――」

トール「そっか、だから並行世界への移動の方がより手間が掛かって面倒、って事ですね!」

小林「そんな感じ! ……でどうすか?」チラッ

ルコア「うん、分かりやすい例えだと思うよー」ニコッ

カンナ「私もなんとなく分かったー」

エルマ「う、うむ! 私も(ぎりぎり)理解したとも!」

終焉帝「――うむ。凡俗ながら的確、平易故に明解な比喩である」

トール(! お父さん!?)

終焉帝「難解な事象を平凡な語彙で諭す事は、難解な語彙で諭す事よりもなお勝る……。小娘が、良くやるものだ」ゴゴゴ

小林「……は、はあ。その…… どもです」ペコ

小林(……凡俗や小娘って言われたけど、これは褒められたんだろうか……?)ヒソヒソ

滝谷(ど、どうだろ。褒められたんじゃない……?)ヒソヒソ

ファフニール「――あの終焉帝が人間如きを手放しに称賛するとはな……」ゴゴゴ

トール「――ええ、最高級の賛辞ですよ! 良かったですね、小林さんっ!」コソッ

小林(あ、ほんとに褒めてたんだ……)

滝谷(あれで最高級……? やはりツンドラ……)

終焉帝「………………………」ゴゴゴ

196 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/05/29(月) 23:17:35.31 ID:BsrFHKfa0

トール「今まで行き来できなかった理由がそうだとして……。後は、それならどうして今回は来れたのかですけど……」

小林「それはあれじゃないかな、転移した時の状況。勘だけど」

トール「状況?」

小林「ほら、私と喧嘩して、感情のままに叫びながら空を飛び回ってたって言ってたじゃない」



トール(回想)『――小林さんの顔なんて、もう見たくない!――』



トール(うっ……)ズキッ

トール「……その状況が、強い感情がきっかけだったと?」

小林「うん。強い想いが限界を超えた力を引き出す、ってありがちじゃない?」

滝谷「いわゆるイヤボーン……」ボソッ

エルマ(? 何の呪文だ……?)

小林「本当に並行世界を移動したんだとして、どうして行き先が“この世界”だったのかも、それで説明できると思う」

トール「? と言うと?」

小林「ほら、さっき並行世界は無数に存在し得るって話したでしょ。
   なのに、来れたのがこんなピンポイントにトールちゃんに関連する世界だったって事は、全くの偶然って訳でもなさそうじゃない?」

トール「確かに!」

小林「そうすると、トールちゃんが数多の並行世界の中でも、この世界にやってきた理由は……」

トール「『顔を見たくない』という言葉が何らかの作用をして、
    顔を見ないで済む様に“私と小林さんが出会わなかった並行世界”に飛んできた…… という事ですか」

トール(……あの雨の中考えた、”私が願ったせいでこんな事態になった”という発想も、あながち間違ってはいなかったという事ですかね。
    ちょっと心は複雑ですが……)

ルコア「………………………」

トール「――よし、そういう事なら!」ガバッ

小林「え? 急に立ち上がってどうしたの――」

トール「『小林さんの顔なんて、もう見たくない!』と強く念じて飛んでいたからこの並行世界に来たというなら、
    『小林さんに会いたい!』と強く念じながら飛べば元の世界に戻れるはず、という事ですね!ちょっと試してきます!」スタタッ ガチャッ!

小林「ちょっ! トールちゃん!?」

滝谷「……行っちゃった」

197 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/05/29(月) 23:19:27.27 ID:BsrFHKfa0

【上空】

………………………

トール「うおおおおーーーーーーー!」ゴオオオオオオオ!!

トール「小林さんに会いたい!会いたい!愛し合いた〜〜〜い!ぎゃおおおーーーーー!」ビュゴオオオオオオオ!!

………………………



【滝谷宅・リビング】

小林「…………え〜………… っと、どうしましょうか……」ポカーン

エルマ「全く、思い立ったら即行動の忙しなさは相変わらずだな……」ハア

滝谷「ていうか待って、これでもし世界移動に成功しちゃったら、このままお別れなのでは――」

ルコア「大丈夫。すぐ戻ってくるよ、多分だけどね」

小林「え?」

終焉帝「……恐らく、並行世界移動は成功しない。いくら彼奴の『帰りたい』という想いが強くともな」

小林「それって、どういう……」

ルコア「まあま、その説明もトール君が戻ってきてからにしよう。小休止って事で、ゆっくり待ってようよ。そろそろ日も暮れて来たし」ズズー

小林「まあ、そう言うなら…… あ、じゃあお茶淹れますね」コポポ……

198 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/05/29(月) 23:20:10.55 ID:BsrFHKfa0

……………………………………



ズズーッ…………

滝谷(眼鏡ON)「……うーん……」カチャッ

滝谷(眼鏡OFF)「いや、うーん……」スチャッ

小林「……どうしたの、滝谷君? 眼鏡を掛けたり外したりして……」

滝谷「いや、ここまでシリアスな空気が続いたし、何だか肩が凝ってしまってね……。ここらで素を出してリラックスしたいなあ、と……」

小林「そう。じゃあ…… 掛ければ?」

滝谷「いやでも、うーん……」

小林「どしたの」

滝谷「けど、ここまで素面で通してて、いきなりオタクモードを見せた場合の皆さんの反応を想像すると、怖くて……!」グヌヌ

小林「そう。じゃあ…… 外しとけば?」

滝谷「いやしかし……!」ウーン

小林(めんどくさ……)

カンナ「お? タキヤ、メガネかけて、ヘンシンするのー?」

滝谷「ん?」

エルマ「ああ、さっきのトールの話でちらっと出てたな。何でも滝谷氏は眼鏡を掛けると別人の様に変わるとか……」

小林「? 話って…… あ、もしかしてトールちゃんの圧縮言語ってヤツで聞いてたの!?」

エルマ「うむ。して、その眼鏡はマジックアイテムか何かなのか?」キョトン

滝谷「――ふふふ。知っていたなら話が早い……」ゆらり

小林「滝谷君?」

滝谷「その通り! 優しげなれど決める時は決める爽やかイケメンなど仮の姿……」スッ

滝谷(眼鏡ON)「その実態は! 常に面白さを追い求めるエンタメ狩人、滝谷真なのでヤンス!!」カチャーン!

カンナ「おー! ヘンシンしたー!」オ〜

エルマ「前歯が突き出た!」ビクッ

小林(あっさり掛けた! 掛ける口実が欲しかっただけか……)ハア

199 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/05/29(月) 23:21:00.02 ID:BsrFHKfa0

ルコア「あ! 僕知ってるよ〜。
    そうやって時と場合に応じて、状況に適した性格を仮面の様に使い分ける人を、こっちでは『ペルソナ使い』って言うんだよね〜」フフッ

小林「え?」

滝谷「え?」

ルコア「ん?」ニコニコ



小林(……こ、これは……!)ゴゴゴ

滝谷(いや確かに、ペルソナという単語は心理学由来だし、原義からして間違っちゃいない言い回しでヤンスが……!)ドドド

小林(いやでも、ペルソナ使いって言っちゃったら思いっきりあの、我は汝、汝は我するゲームの方……)

滝谷(ツッコミ待ちか? 天然なのか? どっちでヤンスか〜……!?)ドドドドド



ルコア「?」ニコニコ



滝谷(ど、どうしよう小林殿! カットイン出して『カッ!』とか『ブチッ!』とかやった方が良いんでヤンスかね!?)ヒソヒソ

小林(カットイン出せんの!? いや別にやらなくていいと思うけど!)コソコソ

滝谷(いや、ここでやらなくてはオタクの名折れ! 行くでヤンスよ〜、ペ……! ル……!ソ……)

ファフニール「ボソボソと下らん話をするな。耳障りだ」ジトッ

滝谷「アッハイ」スン……



ルコア(……何か間違っちゃってたかな……)カアァ

200 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/05/29(月) 23:22:23.90 ID:BsrFHKfa0

【上空】

………………………

トール「……あ、会いたい、会いだ―― ウエッホ、ゲッホ!グエ〜〜ッホ!!」ゴホゴホ

トール「ハアハア…… ま、まだまだぁ! 小林さーーーーん! らぶちゅーべろちゅーーーー!」ゴオオオオ!

………………………



【滝谷宅・リビング】

小林「――しかしあれだね。自分で言っといて何だけど、ちょっと不安になって来ちゃったよ」ズズー

滝谷「む、何がでヤンス?」ズズー

小林「並行世界の仮説の話。自信満々に言っちゃってたけど、今考えると根拠がねー……」

滝谷「あー、いや筋は通ってる良い仮説だと思うでヤンスが、惜しむらくは具体的・客観的な証拠が欲しい所ではありますなあ……」

ルコア「――あるかもしれないよ。証拠」ポツリ

小林「え? それって――」



ガチャ



小林「! ――あ、帰ってきた! トールちゃんお帰り!」

トール「ただいまです……。うーん、帰れませんでした〜…… なんで〜?」ボロッ

201 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/05/29(月) 23:24:08.83 ID:BsrFHKfa0

小林「トールちゃん、すぐ行動に移す前に、まずは相談して……」

トール「うぐ、す、すいません。つい気が逸ってしまって……」

終焉帝「――全くだ、莫迦者め」ズオッ

トール「う゛っ、お父さん……」ギクリ

終焉帝「並行世界の移動は、強い力を持つ最上位のドラゴンと言えどまだ為し得てはいない難行だ。
    猶更、お前の様な未熟者が喚いて飛び回るだけで往来出来る訳がなかろう」ゴゴゴ

トール「ぐぬ……」

終焉帝「重ねて、別れに当たり挨拶も無しとは何事か。
    仮に運良く並行世界を渡れたとして、この世界に再び戻って来られるとは限るまい。ともすれば今生の別れとなろうに……」

終焉帝「知己へは勿論、助力頂いたというこちらの恩人達へも礼を失した行為だ。恥を知れ」ゴゴゴ

トール「ぐぬ゛ぬ゛…… はい、お父さんの仰る通りです……」ガクーン

小林「あらら、そんなにしょげないで……」ヨシヨシ

トール「うう、お父さんを怒らせてしまいました……」ショボン

小林「そう気落ちしないで……」

小林「――それに、多分大丈夫だよ」ヒソヒソ

トール「?」

小林「あれは、怒ってるんじゃなくて……」

小林(私にも身に覚えがある。子供の頃、家に帰るのが遅くなって、母さんにこっぴどく叱られた事があった)

小林(その時はただ怖かった記憶しかないけど……。大人になった今なら分かる。あれはきっと、怒ってたんじゃなくて……)

小林「……心配してたんだよ、トールちゃんの事」フフッ

トール「…………!」

滝谷「……えー、放送席、放送席。こちらツンドラ判定委員会!
   只今厳正な審議中で……、あっ出ました! 審議の結果…… これはツンドラ! ツンドラです! ヤッフゥ!」グッ!

トール「た、滝谷さん!?(いつの間にオタクモードに……)」ビクッ

終焉帝「ツン……ドラ?(なぜこの青年は急に極北の凍原について言及を……?)」

小林「こら滝谷君、ステイ! 茶化すな茶化すな!」バシッ

滝谷「アウチ! 申し訳なし、デリカシー……。ここまで真面目にしていた反動か、体がトンチキを求めてしまい……」ハアハア

小林「はいはい、もう少しの辛抱だから……」

202 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/05/29(月) 23:25:49.53 ID:BsrFHKfa0

……………………………



トール「えっと……。それで、結局どうしましょう? 状況を再現しても、並行世界の移動は出来なかった訳ですが……」

エルマ「通信魔法とやらはどうだ? せめて向こう側の並行世界と連絡だけでも取れたら……」

トール「おっ、確かに通信魔法は人間界と魔法界の次元の壁も越えて繋がりますし、可能性アリですね! エルマにしては良いアイデアです!」

エルマ「“にしては”は余計だっ!」ガー!

トール「よし、滝谷さん、携帯貸して下さい!」

滝谷「いいでヤンスよ」スッ

トール「ありがとうございます! よ〜し、通信魔法、展開! あっちの小林さんに繋がれ〜、繋がれ〜……!」ミョンミョン



プルルルル…… プルルルル……

プルルルル…… ピピピピピ! プルルルル…… ピピピピピ!



トール(ん? 隣からも電子音が……)チラッ

小林「……私の携帯の着信だね」ピッ

小林「……『もしもし』」(直接と携帯越しで二重に聞こえる声)

トール「………………………」

小林「………………………」

トール「……『ぐ、ぐへへ。小林さん、今日のパンツは何色で――』」ハアハア

小林 ピッ(無言の通話終了)

トール「ああん! 素っ気ない!」ピエン

小林「微妙な空気に困ったからって、下らない事しないの、もう……」ハア

ルコア「まあ、予想の範囲内だね。隣にこちらの世界の小林さんという同一存在が居る以上、どうしても混線してしまうだろうし……。
    恐らく、他の魔法も似た様なものだろう」

トール「う〜ん、連絡も無理ですか……。一体どうすれば……」ウ〜ン

203 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/05/29(月) 23:27:55.54 ID:BsrFHKfa0

小林「……そう言えば、ルコアさん。さっき何か言いかけてませんでしたっけ? ほら、並行世界の仮説の証拠があるとか……」チラッ

トール「ほう?」チラッ

ルコア「うん。まあ、単純な話ではあるんだけどね」

ルコア「――トール君。並行世界にはそれぞれ、姿も記憶も性格もよく似た“そっくりさん”が暮らしてるとされるって話だったでしょ?」

トール「はい」コクリ

ルコア「ここがトール君にとっての並行世界だと仮定すると……
    この場に集った小林さんや滝谷さん、私やファフニール君、エルマ、カンナ、そして終焉帝も、皆あくまで厳密にはこの世界に住む存在であり、
    君の良く知る僕達の“そっくりさん”に過ぎない事になる。此処までは良いね?」

トール「……はい」コクリ

ルコア「では、質問だけど……」



ルコア「――1人、足りないと思わないかい? “そっくりさん”が」



トール「1人…… 足りない……?」

小林「……! それって……」

トール「――っ! そうか、“私”! この世界の、“私のそっくりさん”――!」ガタッ

ルコア「その通り」ニコッ

204 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/05/29(月) 23:29:06.60 ID:BsrFHKfa0

トール(そうだ…… 一見すると、皆が揃ってるから気付かなかったけど……)

トール(この世界が並行世界だというなら…… この世界の私もまた、存在するはずなんだ!)

ルコア「そのもう一人のトール君――
    “この世界のトール君”が見付かったなら、同一人物が存在している事、即ち並行世界の実在を証明できるだろう」

ルコア「それだけじゃない。今、此処にいるトール君がどうして並行世界の壁を越えてやって来れたかの理由にも、
    恐らく“この世界のトール君”が関わっているはずだ」

トール「!? それはどういう……」

ルコア「先程、終焉帝も仰ったが、確かにトール君の実力では、例え強い想いを伴ったとしても、それだけでは並行世界の移動は難しい。
    いくらトール君が並以上のドラゴンだとしても、単体では力が足りないんだ」

ルコア「――しかし、もし、単体ではなかったとしたら?」

トール「!」

ルコア「反対側――こちらの世界側にも、別の並行世界からトール君を呼び寄せる、何らかの要因があったとしたら?」

トール「……その要因って、もしかして……」

ルコア「うん。“この世界のトール君”ではないかと、私は推測する」

205 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/05/29(月) 23:31:01.42 ID:BsrFHKfa0

小林「“この世界のトールちゃん”は、並行世界の自分を呼び出したかった、って事……? でも、それはどうして……?」

ルコア「う〜ん、そこまではまだ分かんないなあ。
    今ここにいるトール君も、別に並行世界を移動したいと思っていた訳ではないのだし、
    “この世界のトール君”も、並行世界云々は意識していない可能性はある」

ルコア「それに、結局これもまだ仮説だ。確かめる為にも、まずは“この世界のトール君”を見付け出す他ない」フルフル

トール「そうですね……。でも、それなら“この世界の私”は一体どこに……」

滝谷「ここまでの話では、二つの並行世界の違いは、本質的には『1年前、トール君と小林さんが出会ったかどうか』の一点のみという事でヤンスから……」

小林「この世界では、1年前に私とトールちゃんは出会わなかったって事で、そうすると……」

エルマ「……1年前、あの時のトールは、神の軍勢との戦いで満身創痍となってこの人間界に落ち延びたんだ」

ルコア「小林さんと会って神剣を抜いてもらう事もなかったとすれば、考えたくはないけど――」



ファフニール「――山中で人知れず野垂れ死に、だろうな」



トール「………………っっ!!」

小林「そんな…………っ!」ギュウッ

滝谷「…………………」

カンナ「……わたしの知ってるトールさま…… もういないの……?」

エルマ「…………………」

ルコア「…………………」

終焉帝「…………………」

小林「っけど、あくまで、仮説で……」

ファフニール「言い繕った所で、仕方あるまい」

小林「ッ! でも! もしかしたら他にも可能性が――!」

トール「小林さん」ポンッ

小林「っ! トールちゃん……」

トール「ありがとうございます、小林さん。いつも、私の為に憤ってくれて。でも、大丈夫ですから」ニコッ

小林「…………………うん」

トール「……もう外は、すっかり夜ですね」フウ……

トール「皆さん。昼過ぎから今まで、長い長い話し合いにお付き合い下さり、大変ありがとうございました」

トール「為すべき事は、これで漸く決まりました。なら、後は実行するだけです」



トール「―――探しに行きましょう。この世界の、もう一人の私を」



206 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2023/05/29(月) 23:32:55.67 ID:BsrFHKfa0
今回はここまで。また出来次第更新します。
それでは〜。
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/05/29(月) 23:52:10.11 ID:N2l8zYux0
なんで書き溜めないのかな?
書き溜めないでスレ立てする時の心情ってどーなってるの?

普通に友達関係や上下関係作ってる人で人間関係の最低常識が解ってる
人ならこんな非常識な事を出来無い筈なんだがな?

一応は読物で素人の発表場所で読み手をイライラさせるって
なに考えてるの?
確かに俺はお前に金銭を渡してる訳じゃない

お前もプロ意識なんてある訳じゃないと思う
でも、書き手と読み手が居たらそれは一つの作品なんだよ

これはお前の作品であり可愛い子供なんだよ
それをネットで流して俺みたいな奴からダメ出し受けて
悔しくないのか?

なんでその場凌ぎの子供を世間に晒すんだ?

ちゃんと考えて書き溜めしてからスレ立てして
恥ずかしくないお前の子供を世の中に送れよ

お前の意識の問題だぞ
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/05/30(火) 01:10:30.47 ID:8eT9ojeT0
この板書き溜め投稿しなきゃならないルールがあったんだ、知らなかったなぁ
前はそんなことなかったと思うんだけどいつから追加されたルールなんだい?
209 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/07/27(木) 23:19:55.45 ID:f2Y7up7W0
こんばんは。
熱のこもったお言葉を頂きましたね……進捗が遅すぎる自覚はあるので耳が痛い。
今回も遅くなりましたが、この言葉に応えるにはしっかり完結までやるしかないと思っていますので、今後とも気張っていく所存です。

では、少しですが更新していきます。
210 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/07/27(木) 23:21:01.63 ID:f2Y7up7W0

……………………………………

【滝谷宅・キッチン】

グツグツグツ トントントン コトコトコト……



トール「…………………」

エルマ「…………………」

トール「…………………」チラッ

エルマ「…………………」ジー(凝視)



トール(……き、気まずい……!)グヌウ

トール(ど、どうしてこんな事に……)ムムム

211 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/07/27(木) 23:22:17.49 ID:f2Y7up7W0

トール(あの後―― 長い話し合いの末、“この世界の私”を探しに行こうとなった後)

トール(もう夜も遅くなったので、今日は一度休んで、明朝に出発しようという事になった)

トール(夜が明けるまでの間、カンナにエルマ、ファフニールさんはこの家で過ごすという話になったが、ルコアさんと、そしてお父さんは――)



ルコア『終焉帝には、一度魔法界の棲み処に戻って、ゆっくりお休み頂くよ。戦いの傷も癒えていないし、今日は話し合いで気疲れもされただろうしね』

ルコア『僕も、終焉帝に付き添って一度魔法界に戻る。
    実の所、今回の訪問も終焉帝としてはお忍びで来ているからね。混沌勢で下手な噂が起きない様、目を光らせておきたい』

小林『そんな、お疲れならうちのベッドを貸しますよ! ここで休んでいってもらっても……』

ルコア『いやいや、お気遣いなく! 魔法界の方が大気のマナがこちらより濃いから、休むには良いんです。
    それに明日はきっとハードな日程になる、人間であるお二人こそしっかり休んで下さい』

小林『そ、そうですか……。分かりました』

ルコア『あ、それとトール君。終焉帝の事、心配だろうけど魔法界に見舞いに来ちゃ駄目だよ』

トール『え、そんな!? どうして……』

ルコア『君は死んだ事になってると言ったろう? もし終焉帝の娘である君が生きている姿を見たら、混沌勢も調和勢も当然騒ぎになっちゃうからね』

トール『う……。確かに……』グウ

ルコア『明日の朝の出発までにはちゃんと戻ってくるから。心配せずに君達はこちらで休んで。それじゃ、おやすみなさい』

終焉帝『…………………失礼する』

トール『あ、はい……。おやすみなさい、お気をつけて……』



トール(――そうした経緯もあって、お二人は魔法界に戻っていった)

212 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/07/27(木) 23:24:04.02 ID:f2Y7up7W0

トール(小林さんと滝谷さん、残った私達ドラゴンはどうするかという話になったけど、夕食もまだだったので、まずは夕食を作る事になった)

トール(その際、是非に!と頼み込んで、私に料理させてもらう事にした)



トール『――とりあえず、この家にあった有り合わせの食材を使わせて頂こうと思うのですが、良いですか?』

小林『うん、良いよ。うちにこんな食材あったんだ』オオ……

トール『食器棚の奥にあったお皿やコップとか、出して使っちゃいますね』

小林『うん、分かった。うちにこんな食器あったんだ』ホエ〜

トール『あと、冷蔵庫の中の消費期限過ぎて食べられなさそうなものとかは袋にまとめて縛っときました。明日ちゃんとゴミに出しましょう』

滝谷『いやー、うちに冷蔵庫ってあったんでヤンスね』

小林『いやその発言はおかしい』アハハ

滝谷『えーそうでヤンスか?』ウフフ

トール『………………』



トール(……やはりというか、悪い予感が的中というか)ウムム

トール(小林さんと滝谷さんだけの生活だと、あまり食事に気を遣ってなさそうだったので、
    明日の為にもお二人にしっかり栄養を取ってもらおうという考えだ)

トール(料理は私に任せてもらい、お二人には出来上がるまで休憩していてもらう事にした)

トール(その間、残ったドラゴンの方達には各々自由にしていてもらう事になった訳だけど……)チラッ



エルマ「…………………」ジイー

トール(……それで、こいつは何ですさっきから! キッチンの後ろで黙って立ったまま、私の事を凝視し続けて……!)グヌヌ

213 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/07/27(木) 23:26:35.62 ID:f2Y7up7W0

トール「――何か用ですかエルマ? 言いたい事あるなら言ったらどうですか」クルッ

エルマ「っ!」ピクッ

エルマ「…………………いや、いい」ムスッ……

トール「……そうですか」トントン



エルマ「…………………」ジイー

トール「…………………(#^ω^)」ピクピク



トール「……ああもう、気が散る! 用がないと言いながら、さっきからジロジロジロジロ!
    見てるだけなら料理の手伝いしてくれませんかねえ!?」ハ〜ン?

エルマ「っ………………」

エルマ「…………………料理」ポツリ

トール「は?」

エルマ「……それだよ。料理とか、どうしたんだ、お前」

トール「はあ? 言ってる意味が――」

エルマ「昔、一緒に旅をしていた時、料理はいつも私がしていたのに」

トール「!」

エルマ「私の知ってるトールは、人間の繊細な味付けとか、手間のかかる料理とか、馬鹿にしていたのに……。いつの間に、そんなに上手くなったんだ」

トール「いつの間にって……、そりゃ、私もこっちに来てからしばらく勉強して……。って、わざわざそれを言いに……?」

エルマ「…………………それだけじゃない」フルフル

エルマ「私の知ってるトールは、そんなヒラヒラフワフワした可愛らしい服を着ないし……」

トール「け、貶してるんですか、褒めてるんですかそれ……? それに、着ないと言われても現にこうして――」

エルマ「――そもそもそんな丁寧口調でも喋らない……」

トール「ぐむっ…… まあ確かに以前は意識して尊大な口調で通してましたが……。いや、そうじゃなく!」

トール「何なんですか歯切れの悪い……。伝えたい事はもっとはっきり言ってくれませんか?」ハア

エルマ「っ私は……!」

トール「はい?」

エルマ「っ………………………!」グッ

エルマ「……いや、何でも……」プイッ

トール「ええ…………………?」

214 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/07/27(木) 23:28:06.51 ID:f2Y7up7W0

トール(何ですか、ほんとに歯切れの悪い。調子の狂う……)

トール(変な奴ですね。いつものエルマなら――)ホワンホワン



……………………………………

エルマ『トール!! ドラゴンはこの世界の秩序を乱す! 私と一緒に戻るんだ!』バーン

……………………………………

エルマ『トール、今日こそ成敗―― え、クリームパンくれる? 10個!? ……仕方がない、今日の所は許してやろう』ノーン

……………………………………

エルマ『ふん! トール、私はお前を連れ帰るのを、諦めた訳じゃないからな! ……本当だからな!』ツーン

エルマ『あ、こら! 笑うな!? 全く……』

エルマ『……全く』ふふっ

……………………………………



トール(――ああ、そうか)

トール(私は、この1年の間で、こいつと――いや、“私の世界のエルマ”と再会して、喧嘩して、また話す様になって……。
    仲良しこよしではなくとも、互いの生活の一部になるくらいには近くで過ごしていたけれど)

トール(こいつ…… この世界のエルマにとっては、私とは何十年も前に喧嘩別れして、それっきりで……)



エルマ「…………………………」ジッ



トール(……睨まないで下さいよ。そんな泣きそうな目で)

トール(――仲直りの言葉も、恨み言の一つも言えないまま死んだと思っていた相手に、
    会えたと思ったらそれは実は別人で、そいつはそいつで見慣れぬ服装で飄々としてたら――そんな目にもなりますか)

トール(…………………)ハア

トール(……本当に、私の知る世界とは、違う世界なんですね……)

215 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/07/27(木) 23:29:55.50 ID:f2Y7up7W0

トール「……はぁ〜〜〜〜あ」

エルマ「……何だ、そのでかい溜め息は」

トール「い〜え? 何でも〜? とにかく、邪魔しないなら別にいいですよ〜」トントン

エルマ「…………………そうか」



トール「…………………」トントン カチャカチャ

エルマ「…………………」



トール「……あ〜、そう言えば」

エルマ「?」

トール「さっきまでの話し合いで、並行世界同士でのこの1年間の差異は分かりましたけど……
    それ以前の出来事にも差異はあるんですかねえ?」ショリショリ

エルマ「? どういう意味だ?」キョトン

トール「だからあ。二つの並行世界の違いは、1年前に私と小林さんが出会ったか否かって話だったでしょう?
    けど、もしかしたらそれよりもっと過去の出来事にも、何か違いがあるかもしれないじゃないですか」カチャカチャ

トール「――例えば、昔、私達が一緒に旅をしていた時の事とか」

エルマ「!」

トール「あ〜困ったな〜、急に気になってきたな〜。これじゃあ料理が手に付かないな〜」ユラユラ

トール「昔の記憶を確認し合うために、料理中の暇潰しも兼ねて思い出話に付き合ってくれる旧知のドラゴンはいないかなあ〜?」チラッ

エルマ「…………………っ!」

トール「――あ〜あ、まあそんな都合の良い奴なんていないか〜――」

エルマ「――お、オホンオホン!」コホッコホッ

トール「ん〜?」ピクッ

エルマ「……しょ、しょうがないな! 調和勢たる者、敵であっても困窮している相手を助けるのはやぶさかでもない!」ソワソワ

エルマ「条件に合うのは、ど、どうやら今は私だけの様だし? 仕方ないから思い出話に付き合ってやろう、し・か・た・な・く!」フンス!

トール「……あーあー、全く素直じゃないおこちゃまドラゴンでちゅねーもー」ハアー

エルマ「な、何をぅ! 下手な小芝居うって、素直じゃないのはそっちもだろ!」ギャー!

トール「はいはい。――それで? どっから話しますか?」

エルマ「そ…… そうだな。じゃあ、最初、私達が出会った時からにしよう。
    あれはそう、私が巫女として人間の街を巡遊していた時、お前が突っかかって来て――」

216 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/07/27(木) 23:30:41.23 ID:f2Y7up7W0

……………………………………



グツグツグツ コトコトコト――



トール「そうそう、その時は――」

エルマ「あの時のお前と来たら――」



トントントン ジュウジュウジュウ――



トール「傑作でしたね、あれは――」アハハ

エルマ「何を言う! 誰のおかげで切り抜けられたと――」



カチャカチャ パラパラ トントントン――



エルマ「……いい匂いだな」

トール「ええ」ジュウジュウ

エルマ「あの祭りの日に屋台で食べた料理を思い出す」ジュル

トール「ほんと、ほっとくとあなたはメシの話ばかりしますね……」ハア

エルマ「し、失敬な! あ、あの料理はその……」

エルマ「……お前と一緒に食べたから、よく覚えているだけで」ボソッ

トール「――ああ。はい、私もよく覚えています」カチャカチャ

217 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/07/27(木) 23:32:14.73 ID:f2Y7up7W0

………………………………

トール「――驚きと言うべきか、やはりと言うべきか。ほんと、思い出に全く差がありませんでしたね。
    やっぱり、二つの並行世界の違いは、私と小林さんが出会ったか否かだけ、という事でしょうか」ザクザク

エルマ「……ああ。本当に、細かい所まで一致していて、恐ろしい程だ」ハハッ

エルマ「…………でも、だからこそ」

トール「?」

エルマ「こうして穏やかに、慣れた手つきで、人間の為に料理をするお前を見て、実感するよ。ああ、お前は私の知るトールとは違うのだな、と……」

トール「……エルマ」

エルマ「全く同じ過去を持ちながら、ほんの少しの辿った道の違いで、こうも変わるものなのかな」

トール「………………」

エルマ「……なあ。もし私が、こちらのお前ともっと早く再会して、仲直り出来てたら―― こんな風に、思い出話で笑い合ったりできてたのかな」グスッ

トール「…………ええ」

トール「きっと、いいえ絶対に」トントン

エルマ「そうか」ズビッ

エルマ「――ふふ、ありがとう」



……………………………………

218 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2023/07/27(木) 23:35:14.73 ID:f2Y7up7W0
今回はここまで。それではまた。
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/07/28(金) 03:27:50.44 ID:ZDxpK60o0
宮原由智に対して東日本大震災の遺族やご家族‥心転げない過度の表現である侮辱な不適切である動画を上げて載せていることは誠に憤りの非常に怒りを感じます。この若者に対しても絶対に許しません
東北三県の被災地『岩手・宮城仙台・福島』の皆様に深くお詫びと謝罪を強く求めます
220 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/06(日) 23:00:25.20 ID:QO5syWbY0
こんばんは。また少し更新していきます。
221 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/06(日) 23:01:22.48 ID:QO5syWbY0

……………………………………

【滝谷宅・リビング】



小林(――ありがたい事にトールちゃんが夕食を作ってくれるという事なので、お言葉に甘えてリビングで待たせてもらっている訳だが……)

小林「……………………………………」

カンナ「……………………………………」チョコン

小林「………………………………あの」

カンナ「!!」ビクッ

カンナ「…………」ササッ(遠ざかる)

小林「あ、あはは……(…警戒されている……)」

222 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/06(日) 23:02:19.01 ID:QO5syWbY0

トール(回想)『すいません小林さん、夕食の準備の間だけカンナの事、見ていてあげて下さいませんか? あの子寂しがり屋なので……』



小林(と、頼まれたので軽い気持ちでOKしちゃったけど、安請け合いだったか……?)

小林(いや簡単に諦めちゃダメだ、もっと積極的にコミュニケーションを図ってみよう)

小林(そういうの得意な方じゃないけど……!)ヌググ



小林「ダ、大丈夫ダヨカンナチャン、ワタシ、コワクナイヨー……」スッ(近寄る)

カンナ「…………」ススッ(テーブルの反対側に回る)

小林「…………」ススッ(近寄る)

カンナ「…………」スススッ(遠ざかる)

小林「…………」

カンナ「…………」



ジリッ…… ジリッ……

グルグルグルグルグルグルグルグル(テーブルを挟んで回り合う)



小林「…………っ」ハアハア

カンナ「…………っ」フウフウ

小林「…………ぶふっ!あはははは!」アハハハ

カンナ「!?」ビクッ

小林「何で私達、息切らしてグルグル回ってんの? おっかしーの……!」フフフ

カンナ「……………………………………」ムー

223 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/06(日) 23:04:11.97 ID:QO5syWbY0

小林「あはは、ふう、いやーちょっと汗かいちゃった……」アハハ

カンナ「…………………おまえ、なにもの」ポツリ

小林「ん?」

カンナ「おまえ、いったいなにものって聞いてる」ススッ

小林「(お、近づいて来てくれた)……何者って言われても、そりゃただの人間だけど?」

カンナ「とぼけないで。トール様が親しげだった。トール様のお父様もほめてた。タダモノなわけない」ムー

小林「あー……(そういう警戒か……)」ポリポリ

小林「いやその〜、トールちゃんのお父さん……終焉帝に褒められた事の方は、まあ私も良く分かんないんだけど……」

小林「ただ、トールちゃんの方に関しては、この私と言うより、並行世界の私が…… そして多分トールちゃん自身が凄いんだと思うよ」

カンナ「? どういう意味?」

小林「んー、この私はまだ会って一日も経ってない訳だけど、それでもトールちゃんがめちゃくちゃ良い子だって事は分かるんだ」

カンナ「ふん?」

小林「ドラゴンで、私達人間なんかよりずっと力があって、長い時を生きてきて……。
   様々のものを知っていて、でもその分汚いものも沢山見てきたはずだと思うんだ」

小林「でも、トールちゃんはとっても純真で、優しくて……。神と戦争したっていうのも、
   手段は荒々しいものだったかもしれないけど、その理由は勢力争いを終結させるためっていう仲間想いなものだったみたいだし」

カンナ「…………………」

小林「そうやって、辛くても腐らずに、他者と繋がりを築こうとトールちゃんが心を砕いてくれたから――
   あと、そんなトールちゃんと並行世界にいる私が1年間向き合い続けていたからこそ、ああして今この私に親しげにしてくれてるんだと思うよ」ニコッ

カンナ「…………………おまえ」

小林「だ、ダカラホラ、私コワクナイヨ。安全ダヨー」カクカク

カンナ「…………………ぷっ」

小林「!(笑ってくれた)」

カンナ「……おまえ、中々わかってるヤツ」

カンナ「そう、トール様すごいドラゴン。だからそんなすごいトール様と話せてるおまえの事、わたしもちょっと認めてやってもいい」フンス

小林「あ、ありがとう……?(ちょっとは警戒、解いてくれたのかな?)」

カンナ「そこ、すわって」

小林「? はい……」ペタン

カンナ「ん」チョコン

小林「!(私の膝上に、カンナちゃんも座ってきた!)」

カンナ「今日は、つかれた。すわってゆっくり待つ」ユラユラ

小林「う、うん。ゆったりしてようか(座ってユラユラしてて、可愛い……)」ノホホン

224 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/06(日) 23:06:35.66 ID:QO5syWbY0

……………………………………

……ジュウジュウ…… ……トントン……



カンナ「いい匂い」クンクン

小林「そうだねー。美味しそうな匂いしてる。夕食楽しみだね」

カンナ「ん」コクリ

小林「――そう言えば、さっきの話し合いで気になったものの、聞けなかった事があるんだけど」

カンナ「ん?」

小林「さっきの話では、こっちの世界のトールちゃんは、その…… 恐らく亡くなっている、って事だったじゃない?」

カンナ「……うん」ショボ

小林「あ、ごめんね……。で!でもっ、それとは別に、今ここにいるトールちゃんをこの世界に呼んだのは、
   こっちの世界のトールちゃんではないかって話でもあったじゃない?」ワタワタ

カンナ「……うん、それが?」

小林「ドラゴンの方達はみんな特に疑問に思ってなかったみたいだけど、それってつまり、
   こっちの世界のトールちゃんは既に亡くなってるはずにも関わらず、何らかの意志を持ってる、って事になると思うんだけど……」

カンナ「? それってニンゲンにとってはヘンな事?」キョトン

小林「えっ!? う、うーん、そーだね、割と……(逆に聞かれるとは……)」

225 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/06(日) 23:08:35.75 ID:QO5syWbY0

カンナ「ふーん。でもわたし達にとっては、生き物は体が死んでも、まだちょっと残ってるのがふつー」ユラユラ

小林「ちょっと残る……。それはその〜、いわゆる魂ってヤツ? その生物の、想いや記憶みたいなものというか……」

カンナ「そう、それ。タマシイ」

カンナ「生き物は死ぬと体からタマシイが出て、近くで浮かぶ。
    ふつーの動物やニンゲンのタマシイは、よわいから大して残らないし、少しすれば薄れてあの世に流れてく」

カンナ「けど、つよいドラゴンのタマシイは体が死んでも、はっきりしてるし、何年も残るらしい。まだ何か考えたり、魔法を使ったりもできるって聞いた」

小林「はは〜、なるほど……。じゃあこっちの世界のトールちゃんは、体は死んでるかもだけど、
   魂はまだ山で存在しているかもしれないから、会いに行こうって話な訳か」フムフム

カンナ「そ」コク

小林「……もし本当にトールちゃんの魂がまだいるのならさ。明日、カンナちゃんも会って話ができるといいね」

カンナ「……ん」コクリ



小林「……………………………………」

カンナ「……………………………………」



カンナ「……ん」ポス(頭を小林の胸に預ける)

小林「ん? ど、どしたの?」

カンナ「ん」コスコス(頭をこすりつける)

小林「え〜と……(もしかして、頭を撫でろ、って事……?)」ウーム

小林「……………………………………」ナデリ

カンナ「!」ピクッ

小林「…………」ナデナデ

カンナ「…………〜〜♪」

小林(良かった、合ってたみたい)ナデナデ

小林(この子もドラゴンって事だけど、何か…… 子猫みたいで可愛いな)ナデナデ

カンナ「♪」



……………………………………

226 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2023/08/06(日) 23:10:09.79 ID:QO5syWbY0
今回はここまで。それではまた。
227 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:24:18.17 ID:Q1GPiNtR0
こんばんは。また少し更新していきます。
228 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:26:00.30 ID:Q1GPiNtR0

……………………………………

【滝谷宅・滝谷の部屋】

カタカタ、カタカタカタ、カチカチ、カタカタ……



滝谷「―――――――――」カタカタ

ファフニール「――何をしている」ユラリ

滝谷「うおっ!? びっくりしたあ!」ビクッ! クルッ

滝谷「……え〜と、あなたは確か…… ファフニールさんでしたっけ? いやあ、音もなく部屋に入って背後に立たないで下さいよ、驚くでしょ……」フウー

ファフニール「黙れ。人間共の礼儀など俺は知らん。勝手に驚け」ツーン

滝谷「あ、あはは……(唯我独尊系男子か……)、えっとそれで、僕に何か御用ですか?」

ファフニール「先程も聞いた、二度も言わせるな。部屋に一人で何をしている」ジロッ

滝谷「ああ…… これ(PC)ですか?」クルッ

滝谷「いやあ、明日は遠出になるみたいですしね、今日明日の分の仕事をまとめてお片付けしておこうかと思って……」カタカタ

ファフニール「仕事? その光る板と、手元で叩いている文字盤とでか」

滝谷「おっ、良い反応ですね。現代社会に転移したファンタジー世界の住人の、まさしくお手本みたいで」カタカタ

ファフニール「……良く分からんが、今俺の事を愚弄しなかったか?」ギロッ

滝谷「い、いえいえ滅相もない! あくまで新鮮な反応で興味深いな〜と思っただけで、あはは……」カタカタ

ファフニール「……ふん、まあいい。
       その機械を用いて文章を――それも魔法陣の様な、何かを実行する為の命令文を書いているというのは一しきり見て分かった」

滝谷「っ! は、はいそんな感じです……(凄いな、一目見ただけでプログラミングの概略を推察できたって事? 流石ドラゴン……)」ゾクッ

ファフニール「差し詰め、お前はこの世界における魔術師という所か」フン

滝谷「いやまあ、それは大袈裟というか……」アハハ……

229 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:27:10.32 ID:Q1GPiNtR0

ファフニール「――あの小林とかいう人間はどうした。居間で休んでいる様だが、お前を手伝いはしないのか?」

滝谷「あ〜それですか? 小林さんはどうもカンナちゃんの相手をトール君にお願いされてたみたいだし……」カタカタ

滝谷「それに僕も小林さんも、仕事は複数掛け持ちしてますからね。その内いくつかは共同で取り組んでますが、個別に持ってる案件もあって」カチカチ

ファフニール「む?」

滝谷「それで、今日はたまたま小林さんは外で打ち合わせ、僕は自宅で作業という日で。
   そして小林さんがトール君と出会ったのが丁度打ち合わせ後だった――てのもあって、僕だけ今日分の仕事が残ってるって訳でして」カタカタ

滝谷「なのでこうして、遅れを取り戻そうと気張ってるんです。だからすみません、作業しながら話しちゃってて……」アハハ カタカタ

ファフニール「クク、成程な。あのトールが訪ねてきたせいで迷惑を被っているという事か」ニヤリ

滝谷「いやいや、そんな意地の悪い事は言ってないでしょう!? 人聞き悪いなあもお……」クルッ

ファフニール「フッ、人間共の風聞など知った事か。俺は竜、人外の魔物だぞ。そら、手を止めていていいのか?」ククク

滝谷「ぐぬぬ……(嗜虐癖のある人、いやドラゴンだな……)」クルッ カタカタ

230 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:28:16.87 ID:Q1GPiNtR0

ファフニール「ところで、先程掛けていた眼鏡はどうした?」

滝谷「ああ……。あの眼鏡はあくまでオタクモードのON/OFFの為のアイテムなんで、仕事の時は一人でも基本外してますね」カタカタ

ファフニール「フン、成程な……」

ファフニール「――やはり油断ならんな」ボソリ

滝谷「え?――」カタ――



パチン! フッ……



滝谷「ッ!? (部屋の電気が、突然消え――)」バッ



ヒュッ――



滝谷「ひっ――(喉に、何か冷たくて鋭い物が当たってる感触が――)」ビクッ

ファフニール「大声を出すな。物音も立てるな」ゴゴゴ

ファフニール「俺は今お前の頸に爪を立てている。もし逆らう意思を少しでも見せれば――分かるな?」フシュウー……

滝谷「……っ! いきなりっ、何を……?」ブルブル

ファフニール「ああ、ちなみに一か八かトールやあの調和勢に助けを求めてもいいが……。その場合はお前だけでなくあの小林とかいう人間も殺す」ズッ

滝谷「ッツ!!」ビクッ

ファフニール「それが嫌なら、まずは息を整え、話を聞く姿勢になれ」ゴゴゴ

滝谷「……っ……、……。……」ドッドッド

滝谷「……スゥ―――……ハァ―――……」

滝谷「――分かり、ました。それで、話、って?」スッ……

ファフニール「…………フン」

231 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:30:03.76 ID:Q1GPiNtR0

ファフニール「やはり気に入らんな、その態度」

滝谷「……?」フウフウ

ファフニール「明確な脅威を前にして、確かに恐怖を感じつつも、狂乱せずに理性を保つ胆力。
       自身の置かれた状況を即座に把握する理解力。およそ只のヒトの物ではない」

滝谷「……それ、は……、どうも……?」ハアハア

ファフニール「それらの素質を持つ人間は、俺らの世界では一般に英雄、もしくは――」

ファフニール「――魔術師と呼ばれる者達だ」

滝谷「……!」

ファフニール「お前の仕事とやらの内容も、意識的に表面上の人格の切換えを行っている所もそうだが……。
       お前の器用さ、賢しさはどうも、俺が今まで見てきた魔術師連中によく似たものを感じる」

ファフニール「――それはつまり、本心を表に出さない狡猾さや、裏で何を企んでいるか分からない気色悪さも含めて…… という事だが」ググッ

滝谷「い゛っ――痛ぅっ……(爪が、食い込む……)!」

ファフニール「今日会ったばかりの、それも得体の知れないドラゴンの娘を助ける……? 
       魔法やら並行世界やら、人生で初めて触れる様な事象を目の当たりにしてすぐに信じる……?
       そんな都合の良いお気楽な“お人好し”は、御伽噺にしか存在しない」

ファフニール「もしいたとしてもそれは、相手の願望を読むのに長けていて、利己の為にそれをなぞり演じるのを躊躇わない詐欺師に過ぎないだろう」メリッ

滝谷「ぎ、ぅッ―――!」

ファフニール「――お前の本心を吐いてみるがいい。あの純真で莫迦な竜の娘を利用して、何をしようとしている?」

ファフニール「もしここで白状するなら、お前だけは命を助けてやろう。まあその場合、竜を謀った報いとしてあの小林という女は殺すが」ゴゴゴゴゴ

滝谷「ッ………………………!」

232 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:31:26.97 ID:Q1GPiNtR0

ファフニール「無論、何も言わなければお前を殺す。どうだ、分かりやすいだろう?」

滝谷「……ッツ………………………」フウーフウー

ファフニール「さあどうした。俺はそれ程気の長い方ではないぞ、今も指に力を入れるのを必死に堪えている位だ。何か言ってみろ」

滝谷「…………ッ………っ…………」ハアハア

滝谷「………………………、本当に」ポツリ

ファフニール「む?」ピクッ

滝谷「本当に、僕が何か企んでいて……ゲホ! それを洗いざらい、喋ったら……」

滝谷「僕だけは、助けてくれるのか……?」ハアハア

ファフニール「! フッ…… ああ約束しよう。お前だけは生かしてやるさ」

滝谷「……ふふっ……」ニヤッ

ファフニール「さあ教えてみろ、お前の内に秘められた企みを――!」ゴゴゴ

滝谷「………………………」



滝谷「だが断る」



ファフニール「…………!? …………貴様…………」

滝谷「――いやあ〜、まさかリアルで言ってみたかった台詞を、本当に言う機会があるとはね。現実は漫画よりも奇妙なり、ってね」ヘヘッ……

ファフニール「……何を言っているか、分かっているのか……?」ズオッ!

滝谷「勿論。僕が死ぬ。けれどそれで小林さんは生きる。そういう事でしょ、なら、特に迷いはしないさ」ニヤッ

ファフニール「………………………」チラッ

滝谷「――――」ガクガク ブルブル

ファフニール(――手足は震え、冷や汗を流し、声も若干揺れている。強気な態度が虚勢なのは明らか)

ファフニール(だがこいつはその上で、虚勢で命を懸けている――)

233 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:33:09.59 ID:Q1GPiNtR0

滝谷「――本当の所を言うと」ポツリ

ファフニール「む……?」

滝谷「隠してた本心……、というか下心みたいなものは、あったんだ」

滝谷「ご明察の通り、僕は利己的で、小賢しくて……。人に良く見られる為に善人を装う事はしょっちゅうで……」

滝谷「実の所、トール君の事については、気の毒で大変そうだとは思うけど、正直面倒事に巻き込まないでくれという気持ちも大分ある」

滝谷「魔法だとか並行世界だとかも、筋は通ってるし、魔法もこの目で見たから、とりあえずは信じた振りをしてるけど……。
   まだ感覚的には全然腑に落ちていないさ」

ファフニール「…………なら、なぜ…………」

滝谷「でも」グッ

ファフニール「!(俺の爪に、手を……!)」

滝谷「今日の昼―― 小林さんが、トール君の『力になりたい』と言ったんだ。『滝谷君、手伝ってほしい』と頼んで来たんだ」

滝谷「僕と違って、小林さんは本当に“お人好し”なんだ。
   表面上はドライで冷めた振りをしてるけど、実際は困ってる隣人を放っとけなくて、助ける為ならすぐ自分は無茶をする様な……」

滝谷「そのせいで責任を全部背負って会社も辞めさせられる羽目になったってのに、全然懲りずにまたこうして誰かを助けようとしてる、そんなお人好し」

滝谷「馬鹿だと思うかい? 僕は思う。いつまた危ない目に遭うか分かったもんじゃない……。だから」ググ……

滝谷「――だから!」ギリッ!

ファフニール「!」

滝谷「傍でその馬鹿なお人好しを支える、大馬鹿が居なきゃいけないんだ!」ギンッ!

ファフニール「――――――――」

234 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:34:45.31 ID:Q1GPiNtR0

滝谷「さあ殺すなら殺してみなよ。けれども僕は生来の痛がりでね、予防接種の注射でも毎回泣き喚きそうになるのを必死に堪えるぐらいさ!」ハハッ

滝谷「死ぬ様な大怪我すればきっとアパート全部屋に響き渡るくらいの大絶叫をかますだろう。
   そうすれば小林さんは勿論、トール君やルコアさん? にも聞こえてしまうね、それはまずいんじゃない?」フウフウ

ファフニール「………………………」

滝谷「さあっ、それでも――」

ファフニール「…………フッ」

滝谷「へ?」

ファフニール「――フッフ、クックック、クハハハハハハ!」

滝谷「( ゚д゚)」ポカン

ファフニール「クク、道化の仮面の下の素顔がどんなものかと試してみれば、仮面の下も大真面目に莫迦を語る道化の顔とはな。
       流石にそれは慮外で、だからこそ愉快だ」ククク

滝谷「え、試すって……」

滝谷「………………まさか」ダラダラ

ファフニール「ああ、殺すというのは嘘だ」サラリ

滝谷「( ) ゚д゚」(言葉にならない)

235 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:36:27.71 ID:Q1GPiNtR0

ファフニール「貴様が自分で言ったろう、殺せばトールやあの調和勢が五月蠅いに決まっている。誰がやるか」フン

滝谷「……あ、あ、あなたねえ゛………………」ヒクヒク

ファフニール「フン――――――」パチン



チカッ チカッ ブーン……



滝谷(あ、電気点いた……)

ファフニール「――勿論、本当に何か企んで竜を謀っていたのなら、忘れられない恐怖を与えるくらいはしたがな」ブンッ!(首から手を外す)

滝谷「うわっ!? 乱暴だなあ〜、もう、嘘で傷付けられちゃあ溜まったもんじゃ―― あれ?」ピクッ

滝谷「……喉に傷がない。痛みもない……。確かに爪が食い込んだと思ったんだけど」サスサス

ファフニール「幻肢痛、というものがあるだろう」

滝谷「幻肢痛? ってあの、手足を失った人が、その失ったはずの手足の痛みを感じるとかいう……」

ファフニール「そう。要は実際に怪我を負った部位が無くとも、頭の錯覚で生物は痛みを感じ得るという訳だが――。
       俺は、その痛みの錯覚を引き起こす呪いを使える」ズズ……

滝谷「ええ!? (なんて物騒な……)」

ファフニール「俺はあらゆる呪いについて精通していてな。この程度は児戯に等しい」フッ

滝谷「呪いに精通って一体、なぜ……?」

ファフニール「趣味だ」バーン

滝谷「趣味……。そ、そっすか……」

236 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:38:08.98 ID:Q1GPiNtR0

ファフニール「安心しろ。お前の応答は馬鹿馬鹿しかったが、良い退屈しのぎになった。一先ず呪いはしないさ」ククク

滝谷「さいですか………………」ハア

ファフニール「クックック………………」フフフフ

滝谷「………………(退屈しのぎ、ねえ)」



滝谷『本当は、トール君の事を慮って、僕と小林さんが彼女に害為す存在じゃないか確かめときたかったんじゃないですか?』



滝谷(――とか言ってみたいけど、言ったら今度こそ本当に殺されそうな気がするので黙っておく滝谷真なのであった、まる)

滝谷「………………」ジー

ファフニール「クク…… む、何だ睨みつけて。人間の苦情なぞ聞かんぞ」

滝谷「いえ、何でも」プイ

ファフニール「そうか。フフフ……」

滝谷(ま、何はともあれ何事もなく済んで良かった良かっt――――)

滝谷「ってあああAAAAAAAアアア〜〜〜〜!?!?」アアア

237 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:39:28.42 ID:Q1GPiNtR0

ファフニール「!? ……な、何だ突然奇声を上げて」ビクッ

滝谷「ピ、PC!PC! 忘れてた! 電灯が消えてたって事はPCも消えてた!? まだ仕事中で、データ保存してなかった!」ワタワタ

滝谷「い、今どうなってる? 今日の分の進捗吹っ飛ぶだけならまだしも、作業データ丸ごと消えてたり――」カチカチ

滝谷「――――あれ? 消えてない。そもそも電源も落ちてない……」キョトン

ファフニール「ああ、その光る板か。変化がないのは当然だ。何しろ実際に消えていた訳ではないからな」

滝谷「へ?」

ファフニール「先程、痛みの錯覚の呪いについて話したろう。
       それと類似した呪いで、光源そのものを消すのでなく、相手がその光を認識できない様にする事で、暗闇になったと錯覚させるものがある」

ファフニール「それを用いて、貴様が天井の灯りやその板の光を認識できなくしていただけだ。故に、呪いを解けば元通り、だ」

滝谷「そ、そう………………。良かったあ〜〜〜………………」ハアア〜〜〜……

滝谷(正直、さっき彼に爪で脅された時より焦ったかも…………)ヘナヘナ



トール「――滝谷さ〜ん?」コンコン ガチャ

ファフニール「む……」

滝谷「おろ、トール君?」

トール「おや、ファフニールさんも居ましたか。二人共、夕食出来ましたんで来て下さい。小林さんにカンナ、エルマもお待ちかねです」

滝谷「了〜解、今向かうね―― っと、その前に忘れず保存保存……」カチカチ

ファフニール「フン、面白い。この俺自らが料理の品評をしてやろう。ただし辛口になるのは覚悟しておけ」スタスタ

トール「うわ、何か妙にテンション高くないです? 何か嬉しい事でもありました?……」

ガヤガヤ スタスタ

パタン…………

238 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:40:32.65 ID:Q1GPiNtR0

………………

【魔法界・終焉帝のねぐら】



………………

ブウン スタッ

ルコア「――さあ、着きましたよ終焉帝」

終焉帝「うむ……」ヨロッ

ルコア「お疲れ様でした。さあ、もう横になってお休み下さい」スッ

終焉帝「ああ、かたじけない……」ズルズル トスッ……

終焉帝「…………フウ…………」ハァー……

ルコア(……トール君達の前では、出来るだけ気丈に振る舞っておられた様だけど……)

ルコア(本当は、外に出るのもまだお辛い程の重傷のはず。本人の意向だから出るなとも言えないけれど、せめて少しでも休んで頂かないと……)

終焉帝「……………うう……………」ハアハア

ルコア「――さあ、終焉帝。明日は早いですし、目を閉じてお休み下さい。朝は私がお起こし致しますから……」

終焉帝「…………………………」ハアハア

ルコア「………………終焉帝?」

終焉帝「…………………………(苦悶しながらも目を閉じない)」ハアハア

ルコア「………………眠れませんか、終焉帝?」

終焉帝「………………しい………………」ボソリ

ルコア「? 今、何と………………」

終焉帝「………………恐ろしい………………」

ルコア「………………!」

終焉帝「眠りに落ちるのが……恐ろしい……」ハアハア

ルコア「終焉帝………………」

239 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/08/23(水) 23:42:38.70 ID:Q1GPiNtR0

終焉帝「もう二度と……“アレ”が生きている姿など見れぬと……思っていた……」

終焉帝「……笑う顔など、見れぬと、思っていた……」フウフウ

ルコア「…………………………」

終焉帝「……例え“アレ”が、本当は並行世界の存在で……よく似た別物であったとしても……」

終焉帝「それでも今日、“アレ”と出会えたのはまるで、奇跡の様で……っ、ゴホッ、ゴホッ!」

ルコア「終焉帝ッ! ご無理なさらず――」

終焉帝「ハア、ハア……恐ろ、しい……。ここ、で、目を閉じ、眠りに落ちたら……」

終焉帝「目を覚ました時……今日の出来事全てが、夢となってしまいそうで……」フウウ

ルコア「終焉帝………………」

ルコア「…………大丈夫ですよ」ソッ

終焉帝「む………………?」フウフウ

ルコア「まず、今日の事は夢ではありませんし……。それにもし仮に、この世界が貴方の見る夢だったとしても――」

ルコア「貴方が眠っている間は、僕がこの夢を代わりに見ます。代わりに維持します。
    ご存知でしょう? 僕が、夢の存在であったとしてもそのくらいの事は出来るドラゴンだって事」フフッ

終焉帝「…………………………」

ルコア「ですから、大丈夫です。安心してお眠り下さい、終焉帝」ギュッ(手を握る)

終焉帝「………………ああ、そうだな……。任せた、“翼ある蛇”よ……」フウ(目を閉じる)

ルコア「ええ。お休みなさい」

終焉帝「…………………………」スウスウ

ルコア(――――どうか、明日は皆にとって好い日であります様――――)

240 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2023/08/23(水) 23:43:48.35 ID:Q1GPiNtR0
今回はここまで。それではまた。
241 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2023/10/21(土) 09:55:27.67 ID:9sevB68D0
スレ保持用投稿。
242 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2023/12/16(土) 04:39:27.24 ID:JpCv0Z+R0
スレ保持用投稿。
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/17(日) 11:58:42.99 ID:LuPyZ6Y10
5年は放置されてるスレが普通にそのまま生きてる管理放棄板だぞ
いちいち保守なんてせんでええわ
244 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2024/03/04(月) 22:01:15.54 ID:r52j5KEa0
>>243
そうだったんですか…?(無知)書き始める前に調べたガイドラインにずっと沿って保守してました…。
教えて頂きありがとうございます。まあ、そもそも2か月以上も空けるなという話ではあるのですが。

それはそうと、少しですが更新しようと思います。
245 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:03:02.52 ID:r52j5KEa0

…………………………

【早朝・滝谷宅】

チュンチュン チチチ……



トール「――――んっんっ……。よし、これで準備OKです!」ギュッ

トール「小林さん! 滝谷さ〜ん! そちらは支度、済みました〜?」

小林「ん、大丈夫。出来てるよ〜。頼まれてた生ゴミももう出したし」ヒョコ

滝谷「は〜いお待たせ、僕の方も完了したよ〜」テクテク

トール「良かった、ありがとうございます。では、外の公園に向かいましょう! 他の皆さんがお待ちのはずです!」

小林・滝谷「「了解〜」」

246 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:03:55.62 ID:r52j5KEa0

【滝谷宅・玄関】

チュンチュン チチチ サンサン……

ガチャ バタン

テクテク テクテク……



トール「――ん〜〜〜〜! 快晴、良い朝です!」ノビー テクテク

小林「いやあ、気持ちの良い朝だね、トールちゃん」テクテク

トール「はい! 並み居る敵軍をブレスの一吐きで薙ぎ払った時の如く!」バーン

小林「物騒な清々しさだなあ……。ところで、その抱えてる籠って、もしかしてお弁当?」

トール「はい! 今日の調査は時間が掛かるかもですし。おにぎりやお茶とか、簡単なものですけど……」

小林「いや、充分助かるよ、ありがとう。ごめんね? 結局昨日の夕食や今日の朝食の支度や片付けに、更にお弁当まで任せっぱなしで……」

トール「いえいえ、私が好きでやってる事ですので! それよりお二人は、しっかり休めましたか?」

小林「うん、お陰様で。久しぶりにぐっすり眠れたよ」ニコッ

滝谷「ああ、僕も――ふぁ〜〜ああ……――ゆっくり休めたよ」アフゥ

トール「……にしては説得力のない大あくびですね……」ジッ

小林「滝谷君、夕食後も仕事してたでしょ〜、大丈夫〜?」ジッ

滝谷「いやいや、仕事してたのはちょっとだけだよ?
   大丈夫、きちんと休めたのはホントだから! 早起きがちょっと慣れてないだけだって!」ナハハ……

小林「ホント〜? ならいいけど……」テクテク

247 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:05:04.93 ID:r52j5KEa0

トール「あ、夕食と言えば……。昨日の夕食、どうでした?」ボソリ

小林「え?」

トール「その、お口に、合っていたかなって……」モジモジ

小林「そりゃもちろん、美味しかったよ〜!」

トール「…………!」パアッ

小林「味良し、量良し、栄養バランス良しで大満足の料理だった。ここ数年で一番ってくらい!」

滝谷「高級料理店もかくやという程美味しかったね。毎日食べたいと思ったよ」

小林「カンナちゃんやエルマさんも美味しそうに頬張ってたよね。
   あのファフニールさんも、料理漫画の解説役みたいな長台詞喋りながら食べ続けてたし」

トール「……ありがとうございます!」エヘヘ

トール(――ほら、大丈夫! 尻尾肉さえ入れなければ、普通に美味しく食べてもらえる!)

トール(……私の世界の小林さんにも私の料理、今度こそ食べて、喜んで頂きたいな……)

トール(……いや、食べてもらうんだ! 必ず帰って!)ムン

248 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:06:01.54 ID:r52j5KEa0

テクテク テクテク……

【滝谷宅近くの公園】



トール「――皆さ〜ん! お待たせしました!」

カンナ「あ。トール様きたー」パタパタ

エルマ「ああ、来たかトール」

ファフニール「……フン」

トール「あれ、ルコアさんとお父さんはまだですか?」

エルマ「ああ。とは言え予定時刻までまだ間はある。じき来られるだろう」

カンナ「トール様ー、昨日はごちそうさま。美味しかったー」ピョンピョン

トール「は〜い、ありがとうございます、カンナ」ナデナデ

エルマ「ああ、馳走になった。毎日食べたいくらい、美味だった」

トール「おや、あなたも随分気の利いた世辞を言う様に……」

エルマ「本気だぞ?」ズイッ ジュルリ

トール「そ、そうですか…… まあ、あなたならそうですよね……。今日もお弁当作ってきたんで、後であなたも食べて良いですよ」

エルマ「本当か!? 約束だぞ!!」グウウゥゥ

トール「今から腹を鳴らさないで下さい!」

ファフニール「確かに美味だった。お前の事を多少侮っていた様だ」スッ

トール「ファフニールさん?」

ファフニール「だが調子に乗るなよ。俺はまだお前を認めた訳ではない!
       素材や調理法から拘り直し、至高の一品を仕上げてから、再び挑んでくるが良い!」ゴゴゴ

トール「どういう立ち位置からの発言なんですか……」

249 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:06:53.69 ID:r52j5KEa0

ブウン



トール「! っと、二人もご到着ですか」

ルコア「皆、お待たせ〜」スタッ

終焉帝「…………………………」ザッ

小林「おお、虚空に現れた魔法陣から二人が……」ホヘー

滝谷「空間転移か……。やっぱ便利だねえ〜魔法、楽ちんそうでいいなあ」ホウ

トール「いえ、確かに転移魔法は便利ですが、そう楽ばかりでもないですよ」

小林「そうなの?」

トール「空間に影響を与える都合上、結構外界からの干渉を受けやすくて、
    他の魔法以上に繊細な操作が必要でして。単純に習得難度も高いですし……」

カンナ「わたしもテンイはできない。あとエルマ様も」

エルマ「あ、こら! 余計な事を!」ワタッ

小林「じゃあ二人は今回、他のドラゴンの方に連れてきてもらって?」

カンナ「うん、ルコア様に連れてきてもらったー」

トール「幼いカンナはともかく、エルマはもうちょっと頑張った方が……」

エルマ「う、うるさい! 向き不向きがあるんだ、空間の繋がりを乱す転移魔法は調和勢の者として感覚的にちょっと苦手で……」ゴニョゴニョ

トール「ふ〜ん、どーだか」ジトー

エルマ「む、むう〜〜〜……!」プルプル

ルコア「あはは、まあまあ――」



ギャイギャイ――

250 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:09:28.86 ID:r52j5KEa0

――――――――



ルコア「――さて、楽しいおしゃべりもそこそこにして……、本題に入ろうか」パンッ

トール「はい」

エルマ「う、うむ。お願いする」

ルコア「よし。では、出発の前に一度、改めて状況を確認しておこうか」

ルコア「昨日の話し合いによって導かれた現状に対する仮説は、この世界は今ここにいるトール君にとっての並行世界であり、
    トール君は“この世界のトール君”と引き合った事でやって来たという事」

ルコア「その仮説を検証する手がかりを得る為に、“この世界のトール君”が最期を迎えただろう場所、
    即ち1年前トール君が落ち延び、小林さんと出会ったという山に向かう……、というのが今回の目的だ」

トール「はい、承知してます!」フンスッ

ルコア「うん、良い意気だね。道中、トラブルが無いとも限らない。皆、気を引き締めていこうか」ニコッ

トール「はいっ!」グッ
エルマ「うむっ!」ムン
カンナ「おー!」ピョン

終焉帝「……………………」コクリ

ファフニール「フッ、誰にモノを言っている」フンッ

ルコア(……一番心配しているのは君の事なんだけどな〜……)ボソッ

ファフニール「? 何か言ったか?」ジロッ

ルコア「いや、何も♪」ニコ〜



トール「――特に小林さんと滝谷さんは脆弱……もといか弱い人間なのですから、無茶はせず、私達から離れない様にして下さいねっ!」ズイッ

小林「ぜ、脆弱……」アハハ……

滝谷「まあ、ドラゴンと比べたら人間が弱いのは事実だから……」フフ……

トール「あ、いえっその、そういう嘲りとか茶化しとかの意味ではなく、そのっ――!」ワタタ

小林「?」

トール「――二人共、事ある毎に無茶しがちな方達なので、心配で、その――」オズッ

小林・滝谷「「――!」」

小林「――ありがとう、トールちゃん」ギュッ(手を握る)

トール「!」

小林「約束するよ。無茶はしない。ちゃんとトールちゃん達の事、頼りにするから」ニコッ

トール「……! はいっ、頼って下さい!」ギュッ

滝谷「ああ、いざという時は脇目も振らずに全力で背後に隠れさせてもらうから、よろしくね!」グッ!

トール「そ、それはそれで絵面がどうなんですか……」

251 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:10:13.95 ID:r52j5KEa0

ルコア「じゃあ早速だけど、トール君と小林さんが出会ったという山まで移動しようか」

トール「はい、小林さん達の為にも、できれば日帰りで終わらせたい所ですし!」

滝谷「ハハハ、まあその為に無茶をして欲しくはないけれど」ハハハ

小林「そうなって頂けると仕事的にぶっちゃけ助かるね」アハハ

トール「ええ! では、時間も勿体ないし転移魔法でサクッと行きましょうか。私が準備しますね!」

ルコア「よろしく頼もうかな」

トール「行きますよ〜……!」



ブオンッ!(魔法陣を展開)



トール(行き先をイメージ! 魔法陣の大きさ等の諸条件を設定……!)



ブオン ブオン チキチキ……



トール(後は術式の定着、空間への固定――ッ!?)

ルコア「っ!」



ブオン ブオ ……バチンッ!



トール「わっ!?」

小林「魔法陣が壊れた!?」

滝谷「これは一体……」

252 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:11:07.46 ID:r52j5KEa0

トール「な、何かミスっちゃいましたかね……。もう一回!」ブオンッ



ブオンブオン――パキンッ!



トール「駄目だあ……。何でえ……?」

ルコア「待ってね、僕も一応やってみよう」ブオンッ



ブオンブオンブオン――バチンッ!



トール「ルコアさんでも失敗……?」

ルコア「うーん、これは……」

ファフニール「悩むまでも無いだろう。妨害されている」

トール「妨害!?」

ルコア「――うん、魔法陣の不備という訳でもないのに、術式が特定処理中に突然壊れるこの感じ……」

ルコア「対抗魔法による妨害……。それもこの感じだと、転移先からの妨害を受けている様だね」

トール「転移先? って事はつまり、これから向かおうとしてる山から……?」

滝谷「それって、まさか……」

小林「“この世界のトールちゃん”が……?」

253 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:11:38.15 ID:r52j5KEa0

ルコア「う〜ん、これだけだと誰が、というのはまだ分からないけど……。ただ、何者かが干渉しているのは間違いないかな」ポリポリ

ルコア「前に捜索の為この辺りに来た時は、こんな事はなかったはずなんだけど……」ムムム

ファフニール「状況が変わったのだろう、このトールがこの世界にやってきた事で」

トール「状況……。何者であれ、並行世界から来た私に山へ来ないで欲しい存在がいる、という事ですね?」

滝谷「ん? それって、逆を言えば……」

小林「うん、“私達にとって重要な手がかりが山にはある”って示してる様なものかもね」

エルマ「っ! 成程……」

トール「……これは尚更、山に行かなくてはなりませんね」グッ

254 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:12:20.48 ID:r52j5KEa0

ルコア「転移魔法が使えないなら仕方ない。予定変更して、空を飛んで直接現地に向かってみよう」

トール「はい、繊細な転移魔法は妨害できても、ドラゴンの直接突破を止められるモノはそうそうありませんから!」ビシッ!

滝谷(なんて力こそパワーな物言い……!)
小林(流石ドラゴンって感じだね)

ルコア「さて、そうなるとちょっと、組分けが必要かな?」

トール「あ、確かに。人間のお二人は、誰かの背に乗って頂かないと……」

小林「あ、じゃあトールちゃんに頼んでもいい?」

トール「はい、それでお願いします」

ルコア「ああ、それとカンナも」

カンナ「わたしも?」キョトン

ルコア「うん、カンナはまだ皆の飛行速度に付いていけないだろうから、今回は僕の背中に乗って。いいかな?」

カンナ「は〜い、りょーかい」

トール「――ふむ。そうなるとエルマ、あなたは大丈夫なんですか?」

エルマ「何?」ピク

トール「いや、水竜のあなたじゃ泳ぐのは得意でも空飛ぶのは比較的苦手でしょう?」

エルマ「な、何をぅ!? 侮るなよ! 大陸間移動ならともかく、数都市程度の距離の飛行、何の問題もない!」フンスッ

トール「そ、そうですか……(侮るとかではなかったけども)。じゃあ、心配無用ですね」

エルマ「おおともっ!」フンッ

255 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:13:06.70 ID:r52j5KEa0

ファフニール「フン、俺は無論一人で飛んでいく」

終焉帝「うむ、私も自力で――、ゴホッ、ゴホッ――」ゲホゲホ

ルコア「ああ、終焉帝もまだご無理せず! どうぞ僕の背に――」

トール「あ……」チラッ

終焉帝「むう……」

トール「……………………」モジモジ

滝谷「(むっ? トール君の様子が……) ……はっ――!」ピキーン

滝谷(むふふ、成程……。ならばっ!)スッ カチャ……

滝谷(眼鏡ON)「――いや〜折角なので、オイラはファフニール殿の背中に乗せてもらうでヤンス!」

トール「え?」
小林「滝谷君?」

ファフニール「は? なぜ俺が下等な人間を背に乗せなければならん」ブスッ

滝谷「いやあ、さすがにドラゴンとは言え、女の子のトール君の背中に乗るのは気が引けるというか……」ハハハ

ファフニール「俺なら良いとでも?」ズオッ

滝谷「そうカッカせず〜。いいじゃないでヤンスか〜、昨夜男同士で肌を重ねて親睦を深めた仲でしょ〜?」クネクネ

ファフニール「気色悪い言動をするなッ!」イラッ

トール「え、お二人共、そんな事を昨夜……?」ヒキッ

ファフニール「待て。誤解をするな、肌を重ねてと言うのは爪を突き立て――」

滝谷「…………!」チラッチラッ(ルコアへの目配せ)

ルコア「……? っ――!」ピコーン

ルコア「え〜? 爪を突き立て衣をはぎ取り、一糸纏わぬ裸体で交わり……!? わ〜ファフニール君ってばダイタン♡」ウフフ

ファフニール「ケツァルコアトル、貴様は解って言っているだろう! 巫山戯るのも――」グルル

256 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:14:21.81 ID:r52j5KEa0

ルコア「滝谷君が移るというなら、終焉帝はトール君の背に乗られては? 折角の機会ですし」ズイッ

トール「!」

ファフニール「おい、無視す――」

終焉帝「……構わん。好きに配するが良い」

ルコア「ええ! それではトール君、頼めるかい?」

トール「は、はい。こちらこそ、よろしくお願いします……」ドキドキ

ルコア「よし。じゃあ、組分けも決まった事だし、早速出発しようか!」

カンナ「はーい。ルコア様、よろしくー」テトテト

ルコア「うん、よろしくね〜♡」ギュッ

ルコア「じゃ、皆も付いて来てね! あ、認識阻害も忘れずに!」ズズズ……

ファフニール「おい聞――!」



ブアッ! バシュンッ!



小林「うおっ!(一瞬で空にかっ飛んでった!)」ゴオッ

ファフニール「ッツ……! 舐めた真似をッ!」ガシッ!

滝谷「ヤンス?」(ファフニールに掴まれる)

ファフニール「癪だが仕方ない、乗せて行ってやろう……。とにかく早急に奴を追うぞ!」ズズズ……

滝谷「おお、ありがたい! それでは小林殿、トール殿、我らはお先に――」

ファフニール「フンッツ!!」バシュンッツ!

滝谷「ヤンスーーーーー!?」キーン……(フェードアウトする悲鳴)

トール「滝谷さん……」

小林「良い奴だったよ……」

257 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:14:58.84 ID:r52j5KEa0

エルマ「――よし、では私も出立する。現地でまた会おう!」ズズ……

バシュン!



トール「えっと……。じゃあ、私達も行きましょうか。あ、小林さん、移動の間、籠を持ってて頂いても良いですか?」スッ

小林「あ、了解」ヨイショ

トール「よろしくお願いします。それでは……」ズズズ……

トール(竜形態)「――さあ、二人共、乗って下さい」ズズン

終焉帝「……うむ」ザッザッ

小林「うん……、よろしく」ウンショ

トール「……よし、乗りましたね? じゃあ行きますよ――」グググ

トール「――えいっ!」バシュンッ!



………………

258 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:16:14.97 ID:r52j5KEa0

【市街上空・ファフニール組】

ゴオオオオ……



滝谷「――きゃー、サラマンダーよりずっとはやーい!」キャッキャッ

ファフニール(竜形態)「――ム、待て。サラマンダーとは誰だ、ドラゴンの名か?」ピクッ

滝谷「へ?」

ファフニール「お前、以前にもドラゴンに乗った事があるとでもいうのか?」

滝谷「あ、いや今のは有名なゲームに出てくるセリフであって……」

ファフニール「遊戯《ゲーム》だと? 要は飯事(ままごと)の台詞か?
       つまり俺の飛行は児戯と比べる程度のものだと、そう言うつもりか貴様?」ゴゴゴ

滝谷「も〜、何でもネガティブに捉え過ぎでヤンスよ〜?
   これは幼き日に夢想した憧れと今を重ねて感動しているのだ、と思って欲しい所ですな〜」ナハハ

ファフニール「チッ、口だけは回る道化だ……。今も、先程もな」

滝谷「? と言うと?」キョトン

ファフニール「とぼけるな。出発前のお前とケツァルコアトルの三文芝居の事だ」

滝谷「――ほう?」

ファフニール「あまりに強引に話を進める故に仕方なく乗ってやったが、何のつもりだあれは」

滝谷「はっは、お見通しでヤンスか。流石ファフニール殿、荒い言動に対して気配り上手」ハッハッハ

ファフニール「はぐらかすな!」ゴオッ

滝谷「はっは――いや何、トール殿が御父上――終焉帝殿と、何やら話をしたそうに見えたものでしてな」

ファフニール「む…………」

滝谷「今日の調査の具合によっては、ゆっくり話をする時間などもうないかもしれない。
   なら、少ないチャンスを無駄にせず、悔いのない様に言いたい事を吐き出してほしいと愚考した次第で」ナハハ

ファフニール「フン、物好きなものだ」

滝谷「いやいや、ファフニール殿には負けるでヤンス」

ファフニール「減らず口を……」

259 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:17:18.00 ID:r52j5KEa0

滝谷「……しかしあれですな、話してみると、ファフニール殿は中々面白いでヤンスな?」ニヘッ

ファフニール「……何だと?」ピキッ

滝谷「小林さんの、呆れながらも返してくれる温もりある対応とはまた別の、
   打てばその分返ってくる様な、やや天然が入りつつもキレのあるツッコミ……」

滝谷「同性だからですかな? 変に気兼ねなく喋れるのも心地好い……」

滝谷「ですので、親愛を込めて“ファフ君”と呼んでいいでヤンスか?」ニカッ

ファフニール「――――は?」プッツーン

滝谷「ねえ〜、良いでヤンショ〜、ファフ君〜?」スリスリ

ファフニール「…………フ、フフフフフ…………、いいだろう」

滝谷「おお、マジデ!? 言ってみるもんで――」

ファフニール「――この俺に向かって選りにも選って親愛とはな。真意は兎も角、俺を舐めている事は良く分かった……」フルフル

滝谷「へ?」

ファフニール「怒りが一周回って興が乗った。ほんの少しだけ、本気を見せてやる――死にたくなければ死ぬ気でしがみ付いていろ」ゴゴゴ

滝谷「え、ちょ……」

ファフニール「……フンッ!!!」(スピードアップ)ゴォッ!

滝谷「ヤンスーーー!?」ガシィー



キーーーン……

260 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:18:05.87 ID:r52j5KEa0

………………



【市街上空・トール組】

ゴオオオオ……



トール「………………」

小林「………………」

終焉帝「………………」



ゴオオオオ……



トール「……あ、小林さん」

小林「……へっ!? う、うん何?」

トール「あ、いえ、椅子の座り心地は大丈夫ですか?」

小林「あ、ああ、この背中に出してもらった、鱗を変形させているっていう椅子? うん大丈夫、丁度腰にフィットして快適だよ」

トール「そうですか。何か気になればすぐ言って下さいね」

小林「うん、お気遣いありがとう」

トール「はい。……あ、その……」

小林「?」

トール「お父さん、の方は……、大丈夫ですか?」オズオズ

終焉帝「む…………」ピク

終焉帝「…………ああ、大事ない、このままで構わん」

トール「そ、そうですか……。良かったです」

終焉帝「うむ…………」



トール「………………」

小林「………………」

終焉帝「………………」



小林(いや空気、おっも!)ズーン

261 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:19:23.06 ID:r52j5KEa0

小林(出発時、滝谷君が急に組分けを変えてもらってた意図は、やっぱりこの親子二人のギクシャクしてる仲に関してだろう……)

小林(というか去り際にチラッと私に向けて『後は頼んだでヤンス♪』みたいな視線向けてきてたし)ムー

小林(とは言え……)チラッ

終焉帝「…………」ゴゴゴ

小林(う〜、黙ってても凄味あるなあこの方。私にできるか〜……?)

小林(――いや、トールちゃんの為だ。やるだけやってみようか!)ギュッ

小林(要はこの二人の間をいい感じに取り持てればいいって事でしょ?
   昨日の会話から察するにこの二人、表現の仕方がすれ違ってるだけで、ちゃんとお互いの事を想い合ってると思うんだよな……)

小林(なら、何かちょっとでも話し始めるきっかけさえあれば、後は流れで行けるはず!)

小林(となると、そのきっかけをどうするかだけど……)ウーン

小林「何……か……何かないかな……何か……」ゴソゴソ ポンポン

トール「小林さん? どうしました急に体中をまさぐって。痒いなら私が搔きましょうか?」

小林「あ、いや! そういうんじゃなくて……、えーっと……」ゴソゴソ ピクッ

小林「! (これは……! これなら行けるか……? いや、当たって砕けよう!) よし――」スッ

小林「――あ、あの! すみません、よろしいですか!?」ズイッ

終焉帝「む…………?」

トール「こ、小林さん!? 何を――」

小林「ちゃんとしたご挨拶が遅くなり申し訳ありません! 私こういう者でございます!」スッ

トール「! その小紙片は……」

終焉帝「名刺……、か」パシッ

小林「(! 知ってるんだ?)は、はい! フリーのSE……システムエンジニアをしております!」

トール「こ、小林さんどうして急に自己紹介を……!?」

終焉帝「……ふむ」ジィッ

小林「あっ、えっとシステムエンジニアというのはプログラミングなどのコンピューター関連の仕事を、あ〜とプログラミングとは……
  (しまった、用語どこまで説明すればいいか分からん!)」ワタワタ

トール(小林さん……!)ハラハラ

262 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:21:21.57 ID:r52j5KEa0

終焉帝「……一つ、良いか?」

小林「っ! は、はい! なんでしょう?」

終焉帝「昨日の話で、貴殿が1年前に退職したという会社だが……、何という名だ?」

小林「へ? えっと、『地獄巡商事』ですけど……」

トール(改めて聞いても、名前だけは個人的に好みなんですよねえ、あの会社)

終焉帝「ふむ、やはりか……」

小林「?」

終焉帝「その会社の上役――専務とやらの役職に、“マガツチ”という男がおっただろう?」

小林「へっ!? あ、はい、います――いらっしゃいますけど…… 何故それを……」

トール(専務…… ああ、翔太君のお父さんである魔術師ですね)

終焉帝「あの男とは古くからの知り合いでな」

小林「へ!?」
トール「ふぇぇっ!?」

終焉帝「む?」

トール「あ、いえ……」

終焉帝「そう言えば1年程前、あの男と話した際、勤めている会社で社員が辞めた影響で、
    大分ごたついて大変だとぼやいていた覚えがあるが……。そうか、それが貴殿達の事だったか」

小林「そ、そんな事ってあるぅ……? 世間せっまい……」

小林「――って、はっ! そ、それよりすみません! ドラゴンの方のお知り合いにご苦労掛けてるとは露知らず!
   知らなかったとはいえ、ご容赦――」

終焉帝「フッ、止せ、構わん。むしろ良い薬だ」

小林「え?」キョトン

トール(! お父さんの、笑った顔……)

終焉帝「奴には私も世話にはなっているが、同時にあの腹黒狸親父ぶりには若干いけ好かない点もある。貴殿も覚えがあろう?」

小林「え……、まあ、はい……」タハハ……

終焉帝「あの男が焦っている所など、中々見れんのでな。良いものを見せてもらい、むしろ感謝しよう」フフフ

小林「あ、そうですか? それならまあ、良かったです……」ホッ

終焉帝「名刺についてだが、此方は生憎、今日は持ち合わせがない。機会があれば後日お渡ししよう」

小林「あ、いえお構いなく――、て言うか名刺持ってるんです!?」

終焉帝「あるが?」

小林「あるんだ!?」
トール(あるんだ!?)

終焉帝「しかしSEか……、情報機器には強いと見える。
    折角なのでメールアドレスを伝えておこう。PC関連で時に相談に乗って頂けると助かる」カキカキ

小林「メールアドレスあるの!? PCも!? (え、すごい意外。めっちゃ興味出てきた!)あ、謹んでアドレス承ります……」ペコ

263 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:23:25.11 ID:r52j5KEa0

小林「――いや〜、プレッシャー凄いから内心、腰が引いちゃってたけど……。
   話してみるととっても気さくで面白――興味深いお父様だね、トールちゃん?」チラッ

トール「………………ムウ」プク

小林「ってあれ、トールちゃん? なんかご機嫌斜め?」タジッ

トール「だって……、小林さんズルいんですもん。そんなフランクにお父さんと会話してみせちゃったりして……」プク―

小林「え? 特段無理もせず、普通に話してるだけなんだけど……」ポリポリ

トール「それが普通じゃないんですっ! 普通の人間は、いやドラゴンでさえお父さんの前では呼吸すらままならなくなるものなんです!
    かく言う私ですら、お父さんの前では緊張で総毛ならぬ総鱗が立つ位なんですから!」

小林「そんなに〜? いや雰囲気がおっかないのは分かるけど……」

トール「おっかないで済ますのは流石に呑気が過ぎますよ小林さん!」

終焉帝「………………」

小林「う〜ん、じゃあ逆に聞いちゃうけど、トールちゃんのお父さん――終焉帝ってどんなドラゴンさんなの?」

トール「え?」

小林「いや、混沌勢というドラゴンの一派の代表格であり、神様とも闘り合えちゃう位凄い方ってのは昨日聞いたけども……。
   まだいまいち理解が及ばなくてね。トールちゃんが教えてくれる?」ニコッ

トール「え、え〜? しょうがないですね〜……」

トール「そりゃもうお父さん――終焉帝と言えば、
    神による支配に対する叛逆者たる混沌勢の筆頭であり、創世神話の時代を知る生ける伝説でして……」ペラペラ

小林「お、おう……(急に饒舌だ……)」

トール「その爪の一撃は新たな河を作り、その吐く炎は山を熔かすと言われ、圧倒的で無敵の肉体を誇る一方、
    知識に貪欲であらゆる事柄について知ろうとし、読み積み上げた書物は塔の如し!」

トール「その静かに、然れど凄烈に相手を睨みつける眼光は、敵だけでなく味方すらも震え上がらせる原初の恐怖……」

トール「その完全無欠の在り方故に、時に『死の炎』・『神聖の否認者』・『竜の絶対性の証明』、
   『滅びを告げるモノ』・『頂点種を総べる頂点』、そして『終焉そのもの』と数多の異名で称される、最強の竜の一角なのです――!」ゴゴゴ

小林「ひえ、何かもうラスボスみたいな人じゃん」

トール「――えっと。私の知る小林さんは、そのラスボスみたいなお父さんに啖呵切って、
    連れ帰られそうだった私を引き留めてくれたんですよ?」モジッ

小林「うわあ、ほんとに? 並行世界の私すごいな……、すごい命知らずって意味で」ハハハ

トール「だから、今も充分命知らずなんですって!」

小林「――ちなみに」

トール「?」

小林「途中からお忘れかもしれないけれど、ここまでの発言をお父さんもお聞きだからね?」チョイチョイ

トール「……はっ!!?」

終焉帝「………………」

小林「いや〜羨ましい限りですねえ、めちゃくちゃ慕ってくれる娘さんがいらっしゃって」チラリ

終焉帝「………………フン、まあな」

トール「! は、はうぅぅ……」カアァ

小林(狙い通り……!)ニヤリ

264 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:24:31.04 ID:r52j5KEa0

小林(場の雰囲気が程良く和んできた今なら……!)

小林「――恥ずかしがる事はないよトールちゃん! むしろもっと素を出してっていいと思うよ?
   折角の機会だし、今まで話せなかった事があれば話してみるのはどうかな?」ズイッ

トール「え? えっと……」ピクッ

終焉帝「………………」

トール「うんと…… その……」タドタド



トール「………………」シーン

小林「………………」シーン

終焉帝「………………」シーン



小林(……あ、やべ。詰めがちょっと性急すぎたかも……?)

トール「………………」オズオズ

小林「あ、その、強引でごめ――」

終焉帝「――一つ、良いかトール」

小林「!?(こっちからのアプローチが来た!)」

トール「お、お父さん!? は、はい、なんでしょう……」ゴクリ

終焉帝「――此度の調査が首尾良く進み、元の世界に戻れるようになったとして、お前はどうするトール」

トール「……え?」

小林(一体何を聞いて……?)

終焉帝「……お前は、元の世界に戻るつもりか」

トール「も、もちろんですっ。その為の調査ですし――」

終焉帝「だが、戻る事が本当に、お前にとって最良の選択なのか?」ジッ

トール「!? 何を言って……?」

終焉帝「戻ってどうする。お前は元の世界――並行世界のこの人間・小林とやらと口論になり、仲違いの末この世界に来たのだろう」

トール「っ! そう、です……」

終焉帝「ならば、例え戻れた所で、必ずしも元の世界の此奴ともう一度暮らせるという保証はなかろう」

トール「…………っ! それは、そうですが……」

終焉帝「昨日も言ったが、並行世界とは本来交じり合う事のないもの。この異変が解消された後、再び世界間を移動できるとは限らん」

終焉帝「――幸い、此方の世界のこの人間は、お前の事を好意的に思ってくれている様だ」チラッ

小林「!」ピクッ

終焉帝「ならば、戻っても上手く行くとは限らない元の世界より、
    此方の世界で新しく関係を築き直す方が、お前にとって幸福なのではないか――?」

トール「……そんな、事は……っ!」グッ

265 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:25:56.06 ID:r52j5KEa0

トール(……でも、本当に、そうなのかな……)

小林「――いや、そんな事はないと思うよ」

トール「!」

終焉帝「何…………?」ゴゴゴ

小林「私って、昔からそんなに人付き合いが得意って訳じゃないからさ。
   仕事先ならともかく、家の中でまで気の合わない相手と過ごそうとしても、多分数日も保たないと思うんだよ」

小林「けど、トールちゃんはそんな私……、厳密には違ってもほぼ同じなそっちの世界の私と、一年も一緒に生活してきたんでしょ?
   ならその事実だけできっと大丈夫。喧嘩したってまた、仲直りできるさ」ニコッ

終焉帝「………………!」

トール「小林さん……!」

小林「それにもし、トールちゃんが謝って、それでもそっちの私が許さなかったなら、
   こっちの私が『何様のつもりだ小林!』って怒ってたって伝えていいからさ」グッ!(拳を握って挙げる)

小林「――ってヤバ、結局私が口挟んじゃった!? 折角二人が腹を割って話してたのに……」ワタワタ

トール「! (そうか、小林さん、私達親子を慮って……)フフ、ありがとうございます」

トール「――お父さん」

終焉帝「む…………」

トール「確かに、元の世界に戻った所で、必ず仲直りできるかは分かりません。余計に関係が悪化して、悲しい思いをする可能性もあるかもしれない」

トール「――でも、それでも良いんです」

終焉帝「何だと……?」ピクッ

266 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:28:21.88 ID:r52j5KEa0

トール「私は別に傷付きたくないから、争いたくないから小林さんと暮らしてきた訳ではありません」

トール「時に衝突しても、すれ違って辛い思いをしても……。
    それらも含めてこの人と同じ時を過ごしたいと、共に歩んで乗り越えていきたいと、そう思ったから一緒に居るんです!」

終焉帝「………………!」
小林「………………!」

トール「勿論、こちらの世界の小林さんと離れてしまうのも、寂しいですけれど……」

トール「それでも、私は戻れるなら元の世界に戻ります。辛くても苦しくても、あの人と共に在れるならどんな時間も私にとって宝物なんです!」ギュッ

終焉帝「………………そうか」

トール「だから、その……。ご心配、有り難うございます。お父さん」

終焉帝「フン、何の事だ。私は疑問を只尋ねただけだ」

終焉帝「お前が覚悟出来ておると言うのなら、これ以上は聞くまい。困難も苦労も、好きに味わって来ればよい」プイッ

トール「………………」

終焉帝「……戻れると良いな、元の世界に」ボソッ

トール「……っ! はいっ!!」ニコッ

小林「――いや、良いもの聞かせてもらったよ」パチパチ

トール「! こ、小林さん……!?」

小林「誇張や茶化しでは無く、ね。それだけ真っ直ぐに誰かに想われてるなんて……、
   違う世界の自分自身の事とは言え、ちょっと妬いちゃうな」パチパチ

トール「え、えへへ……、いえ、そう言われると自分でも勢いでちょっと、
    こっ恥ずかしい事を言っちゃった気がして照れて来ますね……」エヘヘ カアァ……

小林「うんうん、それもまた青春だね」ニコニコ パチパチ

トール「だ、誰目線なんですかっ……?」アハハ

終焉帝「………………」



終焉帝(――そうか。そういう道も、そういう可能性も、有ったのだな……)フウ……



267 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:29:50.75 ID:r52j5KEa0

トール「――あ、そうだ! 小林さん、持って頂いている籠の中の、一番上の保温容器を出して頂けますか?」

小林「ん? いいけど……(ゴソゴソ)……これ?」

トール「はい、それをお父さんに――」

小林「了解。えっと、では、どうぞ」スッ

終焉帝「む、これは…………?」パカッ

トール「――昨日のお夕飯の残りです。折角だから、お父さんにも召し上がって頂きたくて……」

終焉帝「……これは、お前が作ったのか?」

トール「はい、その、どうでしょう……?」オズオズ

終焉帝「……ああ、頂こう」

トール「! 良かった、ええ、どうぞ――!」

小林「………………」ニコニコ パチパチパチ

トール「だっ、だから、誰目線の何の拍手なんですか、小林さんっ……!」



バサッ バサッ ゴオオオオ………………

268 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2024/03/04(月) 22:32:17.00 ID:r52j5KEa0
今回はここまで。それではまた。
269 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 21:56:34.04 ID:PDbAYs0+0
こんばんは。
半年以上も空いてしまいましたが、また少し更新していきます。
270 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 21:57:45.92 ID:PDbAYs0+0

【上空・トール組】

バサッ バサッ ゴオオオオ………………



トール(竜形態)「――そろそろ、目的の山が見えてきましたよ。お二人共!」バサッバサッ

終焉帝「む、もうか……」

小林「おっ、ホントだ。1時間くらいかかったけど、話してたらあっという間だったね」

トール「はい。同感です……」

トール(最初は転移魔法の妨害があってどうなる事かと思ったけど……)

トール「……案外、このまま何事もなく到着でき――」

終焉帝「――おい」ズオッ

トール「ひゃいっ!?」ビクッ

小林「ひっ――(何かオーラが出て……)」

終焉帝「そうして気が緩んだ時が最も危うい。既に我々を妨害する何者かがいるのは分かっておるのだ。上首尾な時ほど気を抜くな」ゴゴゴ

トール「は、はいいぃ、肝に銘じます……っ!」ドキドキ シャキッ

小林「――はっ! い、いやいやまあまあ、終焉帝さんもそんなにお怒りにならず……」ワタワタ

終焉帝「……む? いや、特に怒っては――」



――キィーーーーーン!!――



終焉帝「っ!これは……」

小林「え、何々、何の音です!?」

トール「魔法による緊急通信――、ルコアさんからです!」

271 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 21:58:38.72 ID:PDbAYs0+0

ザザッ…… ザッ……!



ルコア『――みんな、聞こえる!? 今すぐ、減速し……ぐっ!』ザザッ

トール「ルコアさん!? 一体何が――」

終焉帝「トール!!」キッ

トール「っ! はい、とにかく、減速します! しっかり掴まってっ……!」グググッ

小林「うおっと、っとぉ!?」ガシッ

終焉帝「ぬぅ……!」ググッ



グググッ……

――ブオオオオオォッツ!!



トール「っ、前方から突風っ!?」グラッ



ゴオオオオオオォッツ!!



トール「っ……!姿勢が、維持できなっ……!」グラグラッ

小林「うわわわわわっ! 落ち落ち落ち、るぅわあああ!!?」ズルッ

トール「小林さんっ!!?」

終焉帝「――フンッ!」キュインッ!

小林「あああああ――お?」フワリ

終焉帝「彼女は魔法で最低限保護した! ――ゴフッ!?」ゲホッ

トール「お父さん!? お身体が……!」

終焉帝「ハア……! 長くは保たんぞっ、行け、トールッ!」

トール「――はいっ! お二人共、しがみ付いて! この空域を離脱します!」バサッ!



バサッ バサッ! ゴオオオオ……

272 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 21:59:44.52 ID:PDbAYs0+0

【山の麓の草原】

バサッ バサッ…… ズズン……



トール「ハア、ハア……。何とか、着陸、成功です……」ヘタッ

小林「ふう、びっくりしたあ……」フイー

終焉帝「ゴホッゴホッ……。やれやれ、危うい所だった……」フウ

トール「お父さん、お身体の方は……」

終焉帝「案ずるな……。多少むせただけだ、支障ない」

トール「そうですか、良かった……。申し訳ありません二人共、危ない目に遭わせてしまって……」

終焉帝「いや、緊急通信を受けてからの対応は、判断及びその速度共に、概ね最善だったと言えよう。気に病むな」

小林「うん、ありがとうトールちゃん。それに終焉帝さんも、魔法で守って下さってありがとうございます」ペコリ

終焉帝「うむ、貴女も無事で何よりだ」

トール「……私からも、改めてありがとうございますお父さん」

終焉帝「む?」

トール「もし直前で気を引き締め直せてなかったら、対応が遅れてもっとマズい状況になってたかも……。油断大敵です」シュン

終焉帝「フッ……、それが理解できただけ上々だ。反省は、今後に活かせ」

トール「はいっ」コクリ

273 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:01:36.09 ID:PDbAYs0+0

ガサガサッ ザッザッ



ルコア(竜人形態)「――ああ、いた! 無事だったかい、トール君達!」ザッザッ

カンナ(竜人形態)「トールさま〜!」ピョンピョン

ファフニール(竜人形態)「無傷か。まあ当然か」ザッ

トール「! ルコアさん、カンナ、ファフニールさん!」



――――――――――――



トール(竜人形態)「なるほど、そちらも山に近付いた所で急に強風が吹いて……」

ルコア「うん、急いで後続の君達に通信魔法で注意を促して、僕達もとりあえず降りてきたって所さ」

ファフニール「フン、あの程度の風、貴様が止めなければ俺は突っ切って行けたがな」プイッ

ルコア「駄目だよ〜? 君自身はともかく、君には滝谷さんが乗ってたでしょ〜?」プクー

小林「あれ、そう言えば滝谷君は今どこに……」

ファフニール「あっちだ」クイッ

小林「あっちって――」チラッ



滝谷「」プルプルプルプルプル



小林さん「う、生まれたての子鹿みたいに四つん這いでプルプルしてる……」

トール「足腰立たなくなってますね。どうしてこんな笑え、もとい哀れな姿に……」

ルコア「ファフニール君〜? 君、大分ハチャメチャなスピードで僕に追い付いて来てたでしょ〜。
    人を乗せてる時はもっと加減してあげて〜?」プンプン

ファフニール「咎められる謂われはない。俺を挑発した者の、当然の報いだ」フンッ

ルコア「も〜……」

小林「大丈夫、滝谷君? この先、自力で歩ける?」サスサス

滝谷「の、ノープロブレム、でヤンス……。しばし休憩を頂ければ……!」プルプル

小林「そう……(大丈夫かな……)」サスサス

274 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:02:45.25 ID:PDbAYs0+0

トール「あれ、滝谷さんだけでなく、エルマもいませんが……」キョロキョロ

ルコア「彼女はどうもまだ来ていな――、おっと、噂をすればかな?」チラッ

トール「むっ、町の方角から飛んできているあの影は……」



キイィーーーーーン!

エルマ(竜形態)「――――うおおおおおーーーー!…………」ゴオオオオ!



小林「エルマさんだね。おーい、こっちですよ〜!」ブンブン

ルコア「……? 待って、彼女、あの速度……」

トール「止まらず山に突っ込もうとしてません!?」



エルマ「うおおおおおーーーー!」ゴオオオ!

――ビュゴオオオオオ!!(暴風)

エルマ「うおっ!? と……、う、うわああああああ!?」ヒュウウウウ



小林「ちょっと、風に巻かれてエルマさん墜ちてきてるけど!?」ガーン

トール「あの馬鹿、あの巨体で墜落なんてしたら辺り一帯が……! ルコアさん!」キッ

ルコア「うん、空中でキャッチしよう!」コクリ

ダンッ!ダンッ!(跳躍)



エルマ「わあああああ!!」ヒュウウウウ

ガシッ、ガシッ!

エルマ「わああ……、お?」

ルコア「ふう〜」フヨフヨ

トール「全く、世話の焼ける……」ハア

275 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:03:51.15 ID:PDbAYs0+0

――――――――――――

トール「――で? なんで思いっ切り山に突っ込んでるんですか?」ツーン

エルマ(竜人形態)「むぐ……、す、すまなかった……」(正座中)

トール「あなたもルコアさんからの“減速して”って通信、聞いてたんでしょ? 何で全速力出してるんですか?」

エルマ「う、うう……。た、確かに通信は聞いたが、だからこそ先行した方々に何かトラブルがあったなら助けに向かわねばと思い、急いで……」ムググ

トール「その心意気は、まあ殊勝ですが……。なら尚更、まずは通信し返して安否を確認したり、状況の把握をするべきでしょう?」

エルマ「う……、その通り、だが……」ヌググ

トール「? 何ですか言い淀んで……」

エルマ「……………………」

トール「……もしかして通信魔法、苦手なんですか……?」

エルマ「っ! ぬ、ぬぐぐ……っ!」プルプル

トール「そう言えばそもそもあなた、私より先に出発したのに後から来たのも、やっぱり空を飛ぶの苦手だったんじゃ……」

エルマ「う、う……っ」プルプル

トール「………………」(何とも言えないものを見る目)

エルマ「そ、そんな憐れみと慈しみに満ちた目で見るなあ!」ガアアッ!

エルマ「別にどっちも苦手じゃないからな! 到着が遅れたのも、途中で喉が渇いてしまったからちょっと川に寄り道して給水してきたからだし!
    通信魔法もわざわざ使うより直接飛んできた方が早いと思ったからそうしただけで、使えない訳じゃないし!」ギャーギャー

トール「……いいんですよ、エルマ」ポン(肩に手を添える)

エルマ「ぬ、むっ?」

トール「誰だって、苦手な事はあるものですから……」ニコッ……

エルマ「うっすら涙を浮かべながら微笑むなあっ!」ガーッ!

276 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:05:03.15 ID:PDbAYs0+0

……………………

ルコア「……え〜、何はともあれ、全員怪我もなく無事に集合できた訳だけれど」

エルマ「は、はい……、お騒がせしました……」シュン

ルコア「い〜え〜♡ で、ここから先の移動だけど……。僕は、上空を飛んでいくのはもうやめた方が良いと思う」

トール「え、それは何故です? 確かに凄い突風でしたが、止むのを待ってから向かうのでもいいのでは……」

ルコア「いや。僕達を阻んだ突風……。見た感じあれは、自然の風じゃあない」

トール「!」

ルコア「恐らくあれは、山に近付く者を排除する為に敷かれた、風の結界だ」

トール「風の……」

エルマ「結界……!」

ルコア「――いや、より正確には山に近付く者の内、強い魔力を持つ者を排除する、かな」

トール「?」

ルコア「上空を見てごらん。ついさっきはあんなに強く風が吹いていたのに、今は静かなもんだ」フイッ

トール「確かに……。風も、その音も感じられませんね」

ルコア「ああ、そしてあの辺り、目を凝らしてごらん」スッ

トール「? あの辺りって……、あ!」



チュンチュン パタパタ……



カンナ「トリだー」

トール「鳥が、普通に飛んでいる……。風に巻かれる事もなく……」

ルコア「ああ。あの様に山に近付く鳥や……、恐らく上空を通る飛行機なども風の影響は受けていない様だね」

滝谷「まあ確かに、あんな突風を飛行機が受けてたら、たちまち墜落して大騒ぎになってるでしょうでヤンスからね」

ルコア「うん。この事から、僕達ドラゴンの様な力ある存在が山に近付いた時のみ、突風が生じるのだと考えられる」

トール「で、でも! 突風が吹いても、私達が本気で突っ込めば風に負けずに飛んでいけるのでは?」

エルマ「……その場合、小林殿や滝谷殿、カンナや終焉帝殿はどうするつもりなのだ?」

トール「え? え〜……。く、口の中に隠れててもらうとか!」ボーン

小林「え、ええ……」

滝谷「涎まみれはちょっと勘弁でヤンスよ……?」

ルコア「いや、そもそも僕達でも突破は難しいかもしれないよ」

トール「え? 何故……」

277 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:06:47.56 ID:PDbAYs0+0

ルコア「先程の、エルマが突っ込んでいった時の事なんだけど……」

エルマ「うっ……」

ルコア「周囲の様子を観察していた限り、まずエルマが一定以上山に近付いた所で風が吹き出し、そこからエルマも多少は風に負けずに進めていたけれど……
    その後進めば進む程に、風も比例して強くなっていったのが確認できた」

トール「そうだったんですか?」

エルマ「う、うむ。確かに私も、体感として風がどんどん強くなっていっていたと思う」

ルコア「エルマはトール君とほぼ互角の力を持つドラゴンであり、更に言えば単純な筋力ならトール君以上だ。
    そのエルマが途中で力負けして墜落する程の風となると……」

ファフニール「フン、まあお前らでは突破は厳しいだろうし、俺でも流石に面倒だ」

滝谷(「俺にも出来ない」とは決して言わない辺り、ブレない俺様系でヤンスな〜……)

トール「でも、上位のドラゴンすら退ける強度の結界を張るなんて、並大抵の技量では……」

ルコア「うん、単純な強度で僕らを弾ける結界を張れるとしたら、それこそ神霊や最上位の竜クラス。
    とは言え今回はそこまでヤバい気配はないから……、結界の方式が特殊なんじゃないかな」

トール「方式?」

ルコア「ああ、例えば結界内に侵入してきた者の力を吸収・利用して逆風を発生させる、とかね」

トール「吸収・利用……」

小林「ああ成程、確かにそれならエルマさんを押し返す風が、進む程に強くなったのも説明できますね」

ルコア「そう、この場合進む力が強い程に風も強まるし、風を発生させる力を結界側で負担しないから魔力切れもしない」

滝谷「侵入者自身の力で侵入者を止める……。スマートで理に適っているという訳でヤンスね〜」

トール「――近付く力が強くなる程、際限なく風も強くなる……。理論上越えられない結界……!?」

ルコア「まあ勿論、力の吸収限界だとか何らかの弱点はあるかもだけど……。さっきも言ったがエルマが押し負ける程の風だ。
    仮に無理に突破できたとして、誰かしらの怪我に繋がりかねない」

トール「確かに、それだと空から行くのは危険そうですね……」

278 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:08:16.32 ID:PDbAYs0+0

エルマ「しかし、それではどうすれば――」

ファフニール「先程試しに歩いて山に近付いてみたが、特段突風などの妨害はなかった。地上からの徒歩なら行けるんじゃないか?」サラッ

トール「はっ?」
エルマ「へっ?」
ルコア「――ファフニールく〜ん?」ゴゴゴ

ファフニール「? 何だ?」

ルコア「君という奴は、何があるか分からない場所での団体行動中なのに無断で単独行動して〜……」

ファフニール「俺は団体行動などしているつもりは元よりない。貴様等の今回の探索という団体行動に、俺が自由意志で帯同しているに過ぎん」ドーン

小林(なっ…………)
滝谷(何という屁理屈……ッ!)

ルコア「……………………は〜あ、そうだね、君はそういう奴だよね……」フウ

ルコア(――それで一人置いてかれたりするときっちり拗ねたりする癖に)ボソッ

ファフニール「何か言ったか?」

ルコア「い〜や? まあ、そういう事なら話は早い。とりあえず地上から目的地に向かってみようか」

トール「賛成です!」
エルマ「了解だ!」
カンナ「さんせー」
終焉帝「了承した」

小林「じゃあここからは山登りか……。そこまで急傾斜な山じゃないとはいえ、運動不足の私達に付いてけるかなあ」ハハッ……

滝谷「多少動ける服装はしてきたでヤンスが、本格的な登山装備ではないでヤンスしねえ」

トール「大丈夫です! 適宜、私がサポートしますから!」

ルコア「うん。疲労軽減の魔法とか虫除けの魔法とか、役立つ魔法も沢山あるから安心してね♡」

小林「わあ、ありがとうございます……!」

滝谷「感謝感激センキューベリベリマジックテープ!」

ルコア「ふふふ、何かの呪文かな?」スルー

トール「フ、フフフ……!(山中では私達の助けがないと弱々で何もできない(誇張)小林さん……、これはこれで萌え……!)」グフフ

小林「(なんか変な事考えてそうだけどまあいいか……)よろしくお願いしまーす!」

279 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:10:09.19 ID:PDbAYs0+0

―――――――――――

ザッザッ……

【山中の森】

トール「――では、ここから先の道案内は私にお任せを!
    小林さんと出会った場所は私にとって運命の聖地! 道順は完っ璧に記憶しています!」フンスッ!

滝谷「お〜、凄い自信でヤンスね。トール殿」

トール「はいっ!もはや目をつぶってでも辿り着けますね!」ドヤァ!

小林「そこまで言うなら安心だね。じゃあよろしく、トールちゃん」

トール「はいっ、任されました! 付いて来て下さい!」ハツラツ

ルコア「うん、よろしく〜。終焉帝のご介助は僕に任せてくれればいいから、心配せず先導してね」

終焉帝「うむ、かたじけない……」コクリ

トール「よろしくお願いします! ご安心ください、すぐ着いちゃいますから! さあ行っきますよ〜!」ザッザッ



ザッザッ……



【30分後】



ザッザッ……



トール「あっれ〜〜〜……?」ノーン

エルマ「トール〜? まだか〜?」

ルコア「かれこれ大分歩いてるけど、大丈夫、トール君?」

トール「え〜と……」キョロキョロ

小林「トールちゃん……。もしかしてだけど、これ道に迷って……」

トール「い、いや、道は絶対合ってるはずなんです!」バッ!

トール「ほら見て下さい、あの木はケヤキ263番であっちがクリ421番!
    時間経過による樹木の生長や枯損、風雨による地形の変化を考慮しても、ルート上は間違いないんですよ!」

小林「えっ、急に何その番号は……?」

トール「何って、私がこの山の木1本1本に付けている番号ですが?」シレッ

小林「ヒエッ……(引)」

トール「先程も言いましたが、ここは私と小林さんの聖地《サンクチュアリ⦆。
    この地を保全する為にその構成要素を余す所なく把握するのは当然の務めでは?」ドドド

滝谷(曇りない瞳で凄まじい事をさらりと……!)ドドド

280 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:11:03.30 ID:PDbAYs0+0

小林「で、でもまあ、そこまで把握してるとなると、単に道の覚え違いというのも変だね」

トール「は、はい、そう……のはず、なんですが……」タドタド

カンナ「……でも何か、この辺り、見覚えあるかも?」

トール「ぐっ!?」ドキッ

カンナ「トール様、ホントは、同じ所グルグル回ってたりしない?」ズバッ

トール「ぬぐぅっ!?」ドキドキッ

エルマ「何だ〜、その死霊の呻きみたいな声は〜? 図星か〜?」ケラケラ

トール「ええい、うるさいですね! そうですよっ! ここ通るのもう三回目ですぅっ!」ガーッ!

滝谷「おおうトール殿、Be cool……! どうどう、どうどう、威風堂々……」

トール「ひゅっ――」ゾクッ……
エルマ「ひっ――」ゾッ……

滝谷「(頭は)冷えたでヤンスか?」

トール「……はい、(唐突な寒いダジャレで全身が)冷えました、どうも……」ペコリ

281 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:12:16.21 ID:PDbAYs0+0

トール「……変と言えばもう一つ、気になる点が」

小林「ん?」

トール「この山にはそれなりの数の鳥や獣が生息しているはずですが……。ここまでの道中、周囲にまるで気配を感じないんです」

小林「確かに、言われてみると……」キョロキョロ



シーーーン……



滝谷「鳥の声すら全然聞こえないでヤンスね……」

トール「はい、流石に偶然だとかでは片付けられない異常を感じます」

ファフニール「――おい、ケツァルコアトル。この感じは……」

ルコア「うん、僕も丁度思ってた所」コクリ

トール「? 何か気付いたんですか、お二人共?」

ルコア「うん、というかその〜……、恐らく“また”なんだけど」

トール「?」

エルマ「また?」

ファフニール「結界が張ってある」

トール「結界ぃ!?」

エルマ「またぁ!?」

282 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:13:34.51 ID:PDbAYs0+0

ルコア「うん……、けど先程の風の結界とはまた別系統かな」

トール「と言うとっ?」ズイッ

ルコア「恐らく認識阻害の一種だね。山に入った者の方向感覚を無意識の内に狂わせ、同じ所をグルグル回らせて、奥に立ち入らせない様にするまじない……。
    いわゆる“迷いの森”というやつだ」

トール「認識阻害……? え、でも私は全然違和感とかは……」

ルコア「ああ、それは仕方がない。僕やファフニール君でも、しばらく山中にいてやっと僅かに違和感に気付けたくらいの、強力な干渉力だ」

ファフニール「よもや俺が呪に関して後れを取るとはな……。癪だが認めざるを得ない、驚異的な結界だ」ギリッ

トール「そんな、お二人でも手こずる程の高度な結界、どう突破すれば……」

ファフニール「フン、突破方法は単純だ」

小林「……と言うと?」

ファフニール「この山一帯、丸ごと吹き飛ばす」ドーン

小林「THE・力技!?」

ルコア「また乱暴を言うね君ぃ!?」

滝谷「爆発オチなんてサイテー!」

ファフニール「五月蠅い、何が不服だ? 土地に紐づけられた結界など、土地ごと除いてしまうのが最も手っ取り早いだろう」ツーン

エルマ「いや、山一つ吹き飛ぶと流石に人間達の間でも騒ぎになりますし、動植物への被害も見過ごせませんし……」

ルコア「そもそも僕達はこの山の何処かにいる“この世界のトール君”を探しに来てるんだから、それだと彼女ごと吹き飛ばしちゃうでしょ……」

ファフニール「…………ム」ピク

ルコア「……………………」

ファフニール「…………終焉帝の娘ならまあ、耐えられるだろう、多分」フイッ

ルコア「取って付けた様な答えだねぇ!?」

終焉帝「――ファフニールよ、秘宝抱く邪竜よ……」スッ

ファフニール「ム、終焉帝…………」

終焉帝「状況に応じ即座に破壊を選択できるその姿勢、まさしく混沌勢と呼ぶに相応しい好戦性ではある――」

ファフニール「! おお、やはり王種は良く分かって――」

終焉帝「とは言え、やりすぎ。それは“無し”だわ」ボーン

ファフニール「ッ…………!」ガーン

トール「はい、この話題終了! 他の手考えますよ〜!」パンパン!

283 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:14:57.54 ID:PDbAYs0+0

ルコア「とは言え、ここまで結界が高度だと魔術的に解呪するのを目指すよりは、破壊を狙った方が早いのはそうなんだよね」

トール「ちょ、ルコアさんまで!?」

ルコア「いやいや、勿論山は吹き飛ばさないよ。この手の結界は大抵、魔力の流れの基点となっているポイントがあるものだ。
    それを探し出して破壊できれば、結界は解除できるはずだ」

トール「な、なるほど…………」

ルコア「ただ問題は、その魔力の流れも認識阻害によって隠蔽され、極めて追いづらくなっている事でね……」

小林「魔力の基点とやらを壊そうにも、どこにあるか分からない、という事ですか……。厄介ですね」

トール「! そうだ、お父さん程のドラゴンなら、何とか分かりませんか?」クルッ

終焉帝「……悪いが、期待には応えられそうにない」

トール「!」

ルコア「無理を言っちゃいけないよトール君。ここまで隠蔽されている魔力を追うには終焉帝でも強い集中が必要だろう。
    本調子が出せるならともかく、今の傷付いた体では……」

トール「す、すみません! 無配慮な事を言ってしまい……」ペコ

終焉帝「いや、謝らずとも良い、私こそすまんな」

ルコア「しかし困ったね。僕やファフニール君でも、ここまで薄く隠された魔力を追うのは一苦労だ。
    出来ないとは言わないが、専用の術式を組んだりする必要があるから、ちょっと時間が……」ムムム

エルマ「? 話がややこしかったので黙って聞いていたが……。要はその結界の基点とやらは、魔力の中心にあるのか?」

ルコア「え? うん、そうだけど……」

エルマ「なら、あっちに向かえばいいじゃないか」ピッ

ルコア「え?」

トール「へ?」

エルマ「ん?」キョトン

284 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:16:09.96 ID:PDbAYs0+0

トール「エルマ……、あなた、結界の基点の位置が分かるのですか!?」ズイッ

エルマ「おっ!? お、おお……多分。薄っすらとだが、漂う魔力が臭っているからな」クンクン

小林「臭い……? 魔力って臭うものなの?」

エルマ「あっ、あくまで例えの様なものだっ! 五感で言うなら嗅覚による感覚に近いというだけで……」ゴニョゴニョ

トール「すごいじゃないですかエルマ! ルコアさん達でも感じるのが難しいものが分かるなんて!」

エルマ「そ、そうか……?」テレッ

トール「ええ、お世辞ではなく!」

エルマ「そうか……、ふ、ふふーん! まあ私は調和勢だからな!
    空間や魔力の歪み・淀みの様な“悪”の発見力には一日の長があるという事だ!」エッヘン!

ルコア(種族差による感覚の鋭さの違い……、いや、長年人間の国の巫女として土地を統治してきた経験……? 何にせよ、これは……)フム

カンナ「エルマ様、エルマ様ー。エルマ様が感じる魔力って、あっちの方って言った?」ピッ

エルマ「むっ? おお、そうだぞ。そっちの方角だ」

カンナ「ほんと? なら私も何となく分かるかもー」ピョンピョン

エルマ「なんと!?」

カンナ「私も手伝うー、役立ちたいー!」ピョンコピョンコ

トール「そういえばカンナも、魔術的な感知能力は元々高かったですからね……」ホホウ

小林「そうなんだ。(飛び跳ねてるカンナちゃん、可愛いなあ)」ニコッ

滝谷「これなら行けるのでは?(あぁ^〜カンナちゃんがぴょんぴょんするんでヤンス^〜)」

ルコア「うん……、ここは、二人に任せてみようか!」

トール「では二人共、ここからは先導お願いします!」

エルマ「うむ、合点承知!」グッ!

カンナ「しょうちー!」グッ!

285 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:17:36.96 ID:PDbAYs0+0

ザッザッ……



カンナ「ん〜〜〜〜〜〜〜〜…………………………」ググーッ



小林(カンナちゃん、目を瞑って眉間に皺を寄せて唸ってる……。集中してるんだな)

小林(一方のエルマさんの方は……)チラッ



エルマ「(クンクン)(スンスン)(クンカクンカ)」



小林(四つん這いで一心不乱に魔力の臭いを追ってる……。ちょっと犬みたいだ……、いや頑張ってもらってるのに失礼だけど!)

滝谷(エルワン……)

トール「いや〜カンナはともかく、エルマの格好は犬というよりトリュフを探す豚ですね」ズバッ

小林(言った! しかも更にひどい例えで!)ガビーン!

トール「見ていて下さい、その内こいつキノコ見つけてかじり出しますよ」

小林「と、トールちゃん、流石にそれは――」

エルマ「失礼な! 私だって真面目にやるべき時くらい、食欲を我慢して責務を果たせるとも!」フンス

小林「あ、怒る所そこなんだ!?」ガガビーン!

滝谷(それはつまり、平時なら本当にキノコにかじりつくと……!?)

トール「なら良いですが……。昔みたいに、毒キノコの食べ過ぎで動けなくなるのはやめて下さいね」フウ

小林「あ、過去実際にあった事なんだ!? あと“毒キノコの食べ過ぎ”ってワード何!?」

エルマ「い、いやあ、あの時のあれは、あのキノコが美味すぎるのがいけなくて……。ドラゴンの免疫力で毒は効かなかったし……」モジモジ

滝谷「確かに、毒のある生き物は美味いなんて話は時折聞きますが……っ!」



…………………………

286 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:18:39.28 ID:PDbAYs0+0

【30分後……】

ザッザッ……



エルマ「――っふう! 疲れた!」フヘー!

カンナ「集中しすぎてヘトヘトー……」フイー

エルマ「私も嗅ぎ過ぎでいいかげん鼻が変な感じだ……!」ピスピス

小林「お二人共、お疲れ様です……」

ルコア「ふむ……。トール君、景色の方はどうだい?」

トール「はい、先導を二人に代わってもらってからは、景色のループは起こっていません。結界に惑わされずに進めているかと」

ルコア「そうか……。じゃあ、ちょっと休憩しようか?」

トール「ええ、良いと思います。丁度そろそろお昼ですし、お弁当を出して昼食にしましょうか」

カンナ「おべんとう!」ピクッ

エルマ「ご飯の時間か!? お腹ペコペコだったんだ、やったー!」ピョン

トール「そう言いながら、跳ねるくらい元気じゃないですか! 全くもう、ほらシート敷くの手伝って下さい!――」



―――――――

287 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:20:58.84 ID:PDbAYs0+0

ワイワイ―― ガヤガヤ―― パクパク――



エルマ「――ん〜! 美味しいな、このおにぎり!」モグモグ

小林「こっちのサンドウィッチも美味しいよ。種類も色々あってほら、タマゴにハムチーズ、サラダ……」

エルマ「モグモあ、そのホイップもグモグモ美味しそう、取ってくれグモグ!!」モグモグ

トール「こ〜ら! せめて今食べてるもの飲み込んでからにしなさい!」



滝谷「ああ〜……、お茶が体に沁みるでヤンス……」ホウー

カンナ「しみるー……」プハー

ルコア「あっはは! 二人共若いのに何だか老人臭いねえ。お茶が美味しいのは同意だけど」ズズー

カンナ「むっ。誰よりもおばあちゃまのルコア様に言われるのはちょっと心外」

ルコア「え〜ひど〜い! それに誰よりもって事はないだろ〜、この場では終焉帝の方が僕より年上……、
    あれ? どうでしたっけ? そうですよね終焉帝?」チラッ

終焉帝「いや知らんが……。永く生きていると、流石に細かい年齢を数えるのは辞めてしまったからな」

ルコア「え〜そんな〜困ります〜、これじゃあおばあちゃまを否定できないじゃないですか〜!」

終焉帝「……一応尋ねるが、貴殿、飲酒してはおるまいな?」

ルコア「飲んでませ〜ん、神話時代から絶賛禁酒中で〜す!」ユラユラ

終焉帝「……そうか(場酔い、という奴か……?)」

ルコア「――ただ、大勢で騒がしく食事、というのが久し振りで。ちょっと浮かれてるのはあるかもしれません、すみません」フフッ

終焉帝「――そうか。まあ構わんさ、私も似た様なものだ」フッ



滝谷「あー小バアさん……、そっちのポット取ってくれんかね」ヨボヨボ

小林「誰が小バアさんだ! はいどうぞお爺さん!」ダンッ!

滝谷「おお、かたじけKnights of the Round Table……」フガフガ

小林「老人ムーブの癖に、挟むボケが流暢な英語で小憎らしい……!」

トール「フッ円卓の騎士ですか。ジョークとしては悪くないチョイスですね」フフフ

エルマ「ん? 珍しくないか、お前が人間の英雄達の話題で悪態を吐かないの」モグモグ

トール「逃れられぬ滅びに抗う愚かな人間達でしたが、気骨はある奴らでしたからね……。
    それに自分達を“赤き竜”と呼称していたのも、不遜ですがガッツは感じて嫌いじゃありません」クックッ

小林「ドラゴンサイドからの評価そんな感じなんだ、アーサー王伝説……」アハハ……

288 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:22:28.47 ID:PDbAYs0+0

小林「そう言えば、落ち着いて考えるとちょっと変な気がしない? ここまでの道のり」モグモグ

トール「変……と言いますと?」トポトポ

小林「いや、さ。最初の転移魔法の妨害から上空での風の結界、そしてこの迷いの森……。
   確かに一見すると、私達を近付かせない為にいくつもの妨害を仕掛けているみたいだけど」

トール「はい、いずれも極めて高度な術式によるもので、私達ドラゴンでも苦慮するものばかりです」ハイオチャドーゾ

小林「うん。……けど逆を言えば、いずれも結果だけ見れば進行不可能にはなっていない、常に抜け道の様にルートが残っている」ドーモ

エルマ「む……、それは確かに。転移魔法の妨害はあっても、直接飛んでくる事は出来たし、風の結界も地上を歩き進む事を妨げはしなかった」バクバク

トール「この迷いの森も、魔力の流れを辿る事で現状先には進めている……」チャントカミナサイ

滝谷「ふむう……、確かに言われてみれば奇妙でヤンスね。まるで“わざと”進む道を残している様な……」ボリボリ

小林「でしょ? 本当に誰も近付かせたくないなら、そうする事も可能なはずなのに。例えばそれこそ風の結界を地上にまで張っておいたりとかね」ズズー

トール「私達の進行を妨害しているのにも拘わらず、何故か常に穴は残している……。矛盾していますね」フムウ

滝谷「まるで二つの異なる意思――、我々に来て欲しくない者と来て欲しい者の二者がいるみたいな感じでヤンスね」ゴックン

小林「来て欲しい者……。それなら昨日、そもそも今目の前にいるトール君を呼んだのは“この世界のトール君”じゃないかって話をしたじゃない?
   彼女が私達に来て欲しい方かな」プハー

エルマ「その場合、“この世界のトール”以外に、私達に来て欲しくない未知の相手がいる事になるか? それはちょっと……、まずくないか」ウヘエ

小林「上位のドラゴンだっていう皆さんをも翻弄する魔法の使い手って事になるもんね……」

トール「…………………………」

289 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:24:25.49 ID:PDbAYs0+0

トール(未知の強大な第三者の存在……、確かにそういったものも想定しようとすれば想定する事はできる)

トール(けど、昨日の話でも似た話があった。“それ”を想定してしまうなら、それこそ何でもありになる)

トール(私達より強大な何者かが私達を妨害しようとしているなら、直接私達を攻撃するなりした方がもっと手っ取り早いはずだ。
    わざわざ結界なんて迂遠な方法を取る必要もない……)

トール(それに私がこの妨害から感じるのは、どちらかと言えば二者の思惑というよりは――)

ルコア「――はい、そこまでそこまで!」パンパン

トール「!」ピク

ルコア「確かに用心に越した事はないけれど、あくまで推測は推測。ネガティブに考えすぎて不安に陥るのも良くないよ」

トール「ルコアさん……」

ルコア「この山が現状一番の手掛かりである以上、進まない訳にも行くまいさ。警戒は怠らず! されど心は気楽に行こう、ね?」ニコッ

小林「……そうですよね。第三者の存在もあくまで仮定に過ぎない。
   考えすぎて止まっちゃうよりは、行って確かめてやるって気持ちじゃないとですよね!」グッ

ルコア「うん、その意気その意気♡ 大丈夫、案外ここから簡単に事が運んでくれる可能性も、あるかもしれない、ぜ?」パチンッ(ウィンク)

トール「――そうですね。そう願いたいです」



―――――――――



一同「――ごちそうさまでした!」パンッ
トール「お粗末様でした」ペコッ

小林「ありがとねトールちゃん。お弁当、とっても美味しかったよ」ニコッ

トール「ふふーん! どういたしまして!」フッフーン!

ファフニール「女将を呼べッ! 副菜の煮つけの味付けについて問い質し――!」クワッ

ルコア「さあ出発しよー!」スタスタ

一同「おー!」スタスタ

ファフニール「あっ待ておい――」

ファフニール「………………」ポツン

滝谷「――残念でヤンスね、折角のボケをスルーされてしまい……」ヌッ

ファフニール「ッ! 貴様……」ギロッ

滝谷「Don’t mindでヤンスよファフ君。オイラだってそんなのはしょっちゅうでヤンス。
   めげない・しょげない・諦めない! で再トライしていきましょうぞ!」キャッキャッ

ファフニール「――フッ、成程……滝谷真」ニヤッ

滝谷「はいっ!」ニコニコ

ファフニール「いずれ殺してやる」ザッザッ

滝谷「え、えええぇえぇ〜〜!? どうして今の流れで!? ちょっと待ってでヤンス〜!」ザッザッ



ザッザッ……

290 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:25:47.39 ID:PDbAYs0+0

【30分後】

ザッザッ……



カンナ「(ピコピコ)」ザッザッ

エルマ「(クンカクンカ)」ザッザッ



ザッザッ……

ピタッ



カンナ「……ここ?」

エルマ「ああ、私も同意見だ。恐らくここだろう」コクリ

ルコア「うん、僕もここまで近付けば確かに認識できる。ここが結界の基点に相違ないだろう」

小林「おお、遂に……!」

エルマ「どうだ!私はすごいんだぞ!」フンス

トール「まあ、あなたにしては結構お手柄ですね」

エルマ「何だその言い草は! もっとちゃんと褒めろ! 労われ!」

トール「はいはい、飴ちゃんあげますから」ゴソゴソ

エルマ「そんな飴玉一つなんかで私が――」

トール「はい」グイッ

エルマ「むぐっ」パクッ

エルマ「…………」

エルマ「ウマ〜♡」コロコロ

トール「本当に、お疲れ様でしたね」ニコッ

カンナ「私も私もー!」

トール「はい、カンナもお疲れ様でした。どーぞ♡」ヒョイッ

カンナ「(パクッ)……〜〜♡」コロコロ

291 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:28:52.49 ID:PDbAYs0+0

小林「じゃあ後は、結界の基点を破壊する……、でしたっけ」

滝谷「具体的には、どうするんでヤンスか?」

ルコア「うん、ここからは単純明快な力技。魔力の流れを生み出している結界の基点を、より大きな魔力を放出して吹き飛ばすのさ」

トール「フッフッフ……。任せて下さい、大得意です」ニヤッ

ファフニール「フンッ、下がっていろ青二才。俺一人で充分だ」ザッ

ルコア「いや、出来るだけ高い出力が欲しいし、ここは万全を期して協力してやろう、ね?」

ファフニール「……チッ、好きにしろ」ツーン

ルコア「流石に終焉帝にはご静養して頂くとして……。エルマ、カンナも協力してくれるかい?」

エルマ「む? よし、任せろ!」ムンッ

カンナ「がってんー!」ピョイン

終焉帝「すまぬ、頼んだ皆の者……」

ルコア「じゃあ皆、結界の基点を中心にして、取り囲む様に立って――」

「はい!――」「よし――」「フン――」「りょーかいー!――」ザッザッ……



小林「おお、なんか物々しい……。見てるだけの私達もちょっと緊張するね?」コソッ

滝谷「禿同(死語)……。変身だとか転移だとかの魔法は既に見ているでヤンスが、ガチの破壊を伴う魔法はこれが初めて。一体どんな――ハッ!?」ピコーン!

小林「ど、どうしたの滝谷君?」ビクッ

滝谷「ま、まさかこれは、生で本物の攻撃魔法の詠唱が聞けるチャンスでヤンス――!?」ゴゴゴ

小林「気になる所そこっ!?」

滝谷「勿論でヤンスっ! だって、オトコノコだもん……っ!」キラーン

小林「そ、そう……」



ルコア「――よし、配置に付いたね? 皆、準備はいいかい?」

「はいっ!」「うむっ!」「愚問」「おーけー!」ゴゴゴ

ルコア「よし、じゃあ行くよ〜――――」ゴゴゴ

滝谷「…………………………っ!」ドキドキ



トール「はあああああああああああ!!」
ルコア「たあああああああああああ!!」
エルマ「りゃああああああああああ!!」
カンナ「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
ファフニール「フンッ――――――!!」

滝谷「え?」



チュドーーーーン!!!

292 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:32:32.99 ID:PDbAYs0+0

ゴゴゴゴゴ……



エルマ「――ふう! どうだ!?」

ルコア「――うん、成功だ! 周りを見てごらん!」

トール「! 景色が、急に開けた様な感覚……! 確かに結界が消えています! 今なら道がはっきり分かる……!」

カンナ「やったー!」ピョイン

ルコア「よし、皆ありがとう! じゃあトール君、ここからは改めて道案内を頼めるかい?」

トール「了解です! 大丈夫、見た限り目的地はもうすぐそこです! 行きましょう――!」ザッザッ

「「「おー!」」」ザッザッ……



小林「いやー無事に進めそうで良かった良かった……ん、滝谷君? どうしたの、うなだれて?」キョトン

滝谷「……いや、何でもないんでヤンス。オイラが勝手に期待して勝手に落ち込んでるだけでヤンスから……」○T乙 ズーン

小林「な、何か凄いショック受けてる……。何、魔法の詠唱が無かったのがそんなに不満?」

滝谷「はは、不満だなんてそんな……」

滝谷「でも『結合せよ 反発せよ 地に満ち 己の無力を知れ!』とか……、
  『黄昏よりも昏きもの、血の流れより紅きもの』とかみたいな……。もっとこう、ロマン溢れるものを聞きたかったと言うか……」ブツブツ

小林「ふ、不満タラタラだ……!」

293 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:37:32.64 ID:PDbAYs0+0

滝谷「勿論、実際に起きている事象は高度で凄い事なんでヤンショが……、
   やっぱりこう、一目・一聞きで只事じゃないと分かる呪文なり動きなりがないと素人には凄さが分からないと言うか……」タラタラ

小林「あーもう、本場の魔法相手にダメ出しまで始めて……」

ファフニール「――フン、下らん」ザッ

小林「あっ、ファフニールさん……」

ファフニール「何の呪詛を吐いているのかと思えば、魔法の凄さの分かりやすさ、だと? 存外低俗な事に拘る奴だ」チッ

滝谷「ファフ君……、そんな無体な……」オヨヨ

ファフニール「黙れ、ファフ君言うな。……そもそも魔法を使うのに大仰な詠唱や魔法陣を使うなど、力量の足りない人間の術士がやる事だ」

滝谷「へ……?」

ファフニール「真の強者たるドラゴンなら、目的に応じた必要最低限の術式をその場で構築し、最小の手間・最短の工程で行使するなど容易い」

ファフニール「特に今回は繊細な力加減など要らず、ただ基点を吹き飛ばすのみが目的……。
       ならばわざわざ技術で補助をするなど、むしろ竜にとっての恥と知れ」スタスタ

滝谷「………………!」

小林「あ、行っちゃった……。ほら滝谷君も、そろそろ起きないと、みんな行っちゃうよ?」

滝谷「……成程、そういう見方も……?」ブツブツ

小林「……滝谷くーん?」

滝谷「オイラとした事が、少々視野が狭まっていたか……? 
   確かに創作においては読み手に凄さを伝える為の特徴的で外連味のある口上や動き、
   いわゆる“大見得を切る”事は分かりやすさという点で極めて重要……」ペラペラ

滝谷「けど! 敢えてそれらを排しコンパクトな動作で粛々と実行するというのも、
   言わば花〇薫が技を磨いたりトレーニングしたりする事を女々しいと言うのに似た、
   ドラゴンという生来の絶対強者が持つ余裕・実力・誇りの表れと考えればそれはそれでいぶし銀で格好良――!」ドドド

小林「……置いてくねー」スタスタ

滝谷「ああっ、ごめんなさい! 待ってほしいでヤンス〜!」ガバッ テケテケ



―――――

294 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:39:32.68 ID:PDbAYs0+0

―――――

ザッザッザッ……



ルコア「――どうだい、トール君?」ザッザッ

トール「はい、もう少しです! この林を抜ければ――っ!」ザッザッ



ザアッ……!

小林「! ここが……!」



【山中・トールと小林の出会いの場所】



ルコア「空間が開けたね……」

エルマ「ここだけ木々がまばらな、広場みたいな場所だな」キョロキョロ

カンナ「ここがモクテキチ?」

小林(……? 奥の方に何か巨大な塊みたいなものが――って!?)

小林「トールちゃん! アレって……!?」バッ

トール「………………ええ、行きましょう」スタスタ

小林「あっ、その……うんっ」テクテク



ザッザッザッザッ……

ピタ



トール「――ハハッ……。なんて格好、してんですか……」

物言わぬドラゴンの骸「…………………………………………」



トール「やっと会えましたね……、“この世界の私”」

295 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2024/11/30(土) 22:42:17.70 ID:PDbAYs0+0
今回はここまで。それではまた。
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2024/12/06(金) 21:04:07.89 ID:1bHunX4b0
>>294 この世界の私・・・? まさか・・・?!
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