狐娘「妾は老いることも死ぬこともないケモノじゃ」

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1 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 02:40:12.05 ID:mXZF2/3A0
SS13作目となります。

オリジナルです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1621014011
2 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 02:44:25.53 ID:mXZF2/3A0
ーーー放課後ーーー

男「……」

「じゃ!」

「おう。帰ったらまた連絡するわ」

男「……」チラ

「ランニング始めっぞー!」

男「……」ソワソワ

同級生A「おー、男じゃん」

同級生B「相変わらずキョドり過ぎじゃね」

男「あ…うん」

同級生A「何してんの彼女待ち?」

同級生B「バッカこれに彼女とか。いつものママ待ちだって」

同級生A「知ってた」クハハ

男「あはは…」

同級生A「なぁお前幼先輩家に住んでんだろ?前から気になってたんだけどよ、エロい写真とか持ってねーの?」

男「そ、そんなの持ってないよ」

同級生B「いーや絶対持ってるね。あんだけべったりなんだぜ?男の言うこと何でも聞いてそうだしよ、一枚や二枚くらい撮ってんぜこいつ」

同級生A「ちょっとスマホ貸してみ」グイ

男「待っ…やめて…!」
3 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 02:45:50.72 ID:mXZF2/3A0



「ねぇ君たち、何やってるの?」



同級生B「っ!」

同級生A「幼先輩…」

幼馴染「聞いてる?何してるのかって質問してんだけど」ニコニコ

同級生A「いや、俺らは」

同級生B「宿題の話とかしてただけっす!」

同級生A「そうそう!」

幼馴染「へぇ」

同級生A「じ、じゃあさよなら先輩!」

幼馴染「あ!次やったら覚悟しときなさいよ!」



タッタッタッ...


4 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 02:46:52.60 ID:mXZF2/3A0

幼馴染「まったく。こそこそこそこそ、逃げ足だけは一丁前なのよね」

幼馴染「大丈夫?何言われたの?」

男「特には、うん…ありがとう」

幼馴染「?」

幼馴染「油断も隙もないんだから。こんなとこじゃなくて教室の前で待っててっていつも言ってるじゃない」

男「でも僕が行ったら姉さんが…」

幼馴染「陰口叩かれるって?そんな奴まとめて吹っ飛ばしてやるわ。人の心配よりまず自分の心配をしなさい」

男「でも…」

幼馴染「返事」

男「は、はい」

幼馴染「よろしい」

幼馴染「明日から教室の前で待っててね。居なかったら罰ゲーム♪」

男「え」

幼馴染「ほら行こ」グイッ

男「わっ…!」



.........




5 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 02:48:24.74 ID:mXZF2/3A0

幼馴染「そしたらね、そこの通りで見つけたの!男の好きそうな屋台」テクテク

男「何の屋台?」テクテク

幼馴染「むふふ。聞きたい聞きたい?」

男「勿体ぶらずに教えてよ」

幼馴染「それはねー、――」

男(姉さんと僕は小さい頃からの付き合いだ。家族ぐるみで仲の良かった僕たちはよく二人で遊び、一つ年上の姉さんに連れられて色んな場所へ行った。実の姉弟ではないけれどその頃からこの"姉さん"呼びが染み付いてしまっている)

男(昔から怖いもの知らずな姉さんは、今思えばとんでもなく危ないようなこともしでかして、その度に何故か僕もセットで叱られていた)

男(けどそれ以上に、僕はこの人に救われてきた)

幼馴染「今度行ってみよーよ♪いつがいい?今週は課題こなさなきゃだから来週の土曜日――もダメか」

幼馴染「その日はご両親の」

男「…うん」

幼馴染「なら、日曜日だ」

男「大丈夫」

幼馴染「決まり!楽しみだね♪」

男(本当に。姉さんは僕のことを何でも分かってるんじゃないかって思うことがある)

幼馴染「♪」

男「……」

男「…えっと、姉さん」

幼馴染「んー?」

男「なんでずっと手つないでるの…」

幼馴染「だってこうしないとまた変な人が寄ってきちゃうよ?迷子になっちゃうかもしれないし」

男「そんな子供じゃないんだから」

幼馴染「それと呼び方。二人の時はどうするか教えたよね〜」

男「……幼」

幼馴染「うんうん♪」
6 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 02:49:22.81 ID:mXZF2/3A0

幼馴染「でさ、さっきの二人とは何を話してたのかな?」

男「っ、いや、別に…?」

幼馴染「私には言いにくいことなんだよねー?反応で分かるよ」

幼馴染「だから余計に気になっちゃう」ジリ...

男「ち、近いよ…!」

男(心なしか手を握る力が強くなってる気がする…)

幼馴染「教えてくれるよね」

男「……」

幼馴染「ふーん、帰ったら楽しみねぇ」

男「分かったよ!言う、言うから!」

男「……姉さんの……写真持ってないのか、って」

幼馴染「それでそれで?」

男「ないって答えたよ。…それだけ」

幼馴染「えっちなやつ?」

男「!?」

幼馴染「ふふ、分かりやすくていいわぁ」

幼馴染「持ってないんだ?」

男「持ってないよ!?」

幼馴染「撮らせてあげよっか」

男「なっ…!?」

幼馴染「それとも、写真じゃ不満かな」

男「あ……え…」

男「そうじゃなくて…!なんでそうなるのさ!」

幼馴染「あは♪顔真っ赤」

男「もう、からかわないでよ…」

幼馴染「ごめんごめん。良い反応してくれるんだもん。嫌だった?」

男「嫌ってわけじゃあ……!」ハッ

幼馴染「」ニヤニヤ

男(本当、この人には敵わない)
7 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 02:50:48.16 ID:mXZF2/3A0



ガチャ



幼馴染「ただいまー」

叔母「おかえりなさい。あら、男くん顔赤いわよ、風邪?」

男「なんでもないです…」

幼馴染「ふふ」

叔母「思ったより早かったのね。お店混んでなかった?」

幼馴染「お店?…あ」

叔母「幼、あんた買い物のこと忘れてたでしょう」

幼馴染「いやー忙しくってつい…」ハハハ...

叔母「あれだけニコニコしながら帰ってきといて、忙しい、ね」

幼馴染「もー今から行くからぁ」ゴソゴソ

幼馴染「……買い物メモ、どっかいっちゃった」

叔母「はぁ、忘れて帰ってきたのを喜ぶべきなのかしら」

叔母「今日はデパートの他に商店街にも寄ってほしいからそっちのメモも渡したはずだけど、それも?」

幼馴染「! それはあった!」

幼馴染「って商店街って学校と反対側じゃん!」

叔母「えぇ。だから一回家に荷物置きに戻ったのかと思ったわ」

叔母「デパートの方はLINEで送っとくから、先そっち行ってきてちょうだい。夕飯が遅れちゃう」
8 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 02:51:44.73 ID:mXZF2/3A0

男「あの、商店街は僕が行きましょうか」

叔母「え?いいわよ、元々幼が綺麗さっぱり忘れてたのがいけないんだし」

男「今から両方行ってたら戻る頃には暗くなっちゃいますよ。それに、住まわせてもらってる身で何もしないのは嫌なんです」

叔母「そんなの気にしなくていいのよ」

幼馴染「そうだよ!行くなら私と一緒に行こ!放課後買い物デート♪」

叔母「あんたは少しは反省なさい」

男「貸して」スッ

男「…これなら、場所も分かります」

叔母「そう?なら、頼んじゃっていいかしら?」

男「はい」

幼馴染「男ぉ…知らない人に付いてっちゃダメだよ!迷子になったらその場で動かずじっとしてること!」

男「だからそれ、高校生にかける言葉ではないよね…」

叔母「はいお金ね」

男「どうもです。行ってきます」



ガチャ パタン


9 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 02:52:16.70 ID:mXZF2/3A0

幼馴染「……」ウズウズ

幼馴染「私もぼちぼち行きますかー」

叔母「デパートにね」

幼馴染「…知ってますー」

叔母「けど……なんだか安心したわ。あの子も少しずつ変わってくれてるのね。家に来たばかりの時はロボットみたいな返事しかしてくれなかったもの」

幼馴染「そりゃ私がついてるからね〜。男に集ってくる悪い虫は全部シャットアウトよ」

叔母「あんたの過保護っぷりも板についてきたけど、そのおかげなのは間違いないわね」

幼馴染「叔母さんにも感謝してるんだよ?私と男をここで預かってくれて」

叔母「びっくりしたわよ。あんた見たことのない顔で必死に頼み込んでくるんだから」

幼馴染「えへ。あの時の男はさ、目離したらそのままどっかに消えちゃいそうな雰囲気があったんだよね」

叔母「…土曜日だっけ?あの子のご両親の命日」

幼馴染「うん、来週の」

叔母「そう。今年は私も休みだから、お墓参りには付き添ってあげられそうだわ」




10 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 02:52:55.37 ID:mXZF2/3A0
ーーーーーーー

男「ふぅ…」テクテク

男(何事もなく買い物が終わってよかった。姉さんがおちょくってくるから変に意識しちゃったよ)

男(それにしても…)

男「っしょっと」

男(これ、見かけに反して結構重いな。僕が来て正解だったかもしれない)

テクテク

男(…腕が痛くなってきた…)

男「……」チラリ



(生い茂る人工林)



男(行きの時は使わなかったけど、実はこっちの林の中を抜ければ家までの大幅なショートカットになることを僕は知っている)

男(誰が整備してるのかも知らない空き地がちらほらあって、たまに子供の遊び場になってたりする。最近めっきり中に入ることがなくなったけど、小さい頃は僕もこの中で遊んだなぁ)

男(勿論、姉さんに連れられて)

男「…よし」



ザッザッザッ



.........




11 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 02:54:16.19 ID:mXZF2/3A0

男「……」ザッザッ

男「あ」



(別れ道)



男「…おかしいなぁ」

男(途中まで見覚えのある道だったのに、気付いたら知らない風景が……いつの間にこんな分かれ道が出来てたんだろう)

男(でも家の方向的には…こっちかな)



ザッザッザッ



男(この辺電灯が無いんだ。暗くなる前に早く抜けないと)



ザッザッザッ



男「…!」



(鳥居の無い神社)



男「………」

男(ここ、神社なんてあったっけ…?)
12 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 02:55:38.31 ID:mXZF2/3A0

男「……」

男(見た感じ、所々古びてるから最近建てられたわけでもなさそう。こんな目立たない場所にあって、参拝のお客さん来てくれるのかな)

男(というか全く知らないところに出たってことは、もしかしなくても…)

男(迷った…)

男「ど、どうしよう」

男(先に進もうにも道っぽい道は見当たらないし……元来た道を戻る?結局無駄足になっちゃうけどそれしかないよね)

ヴー

男(? LINE、姉さんからだ)



幼馴染『男ー、ちゃんと買い物終わった?そっちで買うやつ結構重いみたいだから押し潰されないようにね〜( ̄∀ ̄)』17:32

幼馴染『私は今帰ってきたとこ!早くしないと寂しくて死ぬ!』17:32

幼馴染『(待機中のスタンプ)』17:32



男「……」



男『ごめん。道に迷っちゃって』17:33 既読



男(こんなの絶対またからかわれるよね…)

ヴー、ヴー

男「!」

男「…もしもし」

幼馴染『今どこにいるの!?』

男「!? えと、神社の」

幼馴染『神社!初詣に行ったとこ!?それとも隣町の!?』

男「違くて…!人工林の中にある神社で…!」

幼馴染『あそこに神社…?』

幼馴染『とにかく人工林の中なのね!?迎えに行くからそこから動かないで!』

男「あ、姉さん!……切れた」

男「迎えにくるって、こんなとこ分かるのかな」

男(姉さんも神社のことは知らないみたいだったし)
13 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 02:56:14.56 ID:mXZF2/3A0

男(…あの反応は意外だったな。てっきり面白おかしくいじられると思ってたけど)



ーーーーー

幼馴染『迎えに行くからそこから動かないで!』

ーーーーー



男(昔からそう。両親を亡くして塞ぎ込みがちだった僕をずっとそばで支えてくれた。いざとなった時、必ず最後に助けてくれるのが姉さんだった)

男(どうしてそこまでしてくれるのか訊いてみたことはまだないけど、姉さんには感謝してもしきれない)

男「…はー、重い」ガサ

男(とにかくここで待ってよう。周りの写真とか撮って姉さんに送った方が目印になるかな?…木だけじゃ無理か)



.........




14 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 02:57:50.31 ID:mXZF2/3A0

男(少し暗くなってきた。日が落ちたら多分真っ暗になっちゃう)

男(…もう一度姉さんに電話してみようか…)



チャプン



男「!」

男(水の音…?)

男(神社の裏の方から聞こえた。…誰か居る?)

男「……」

ザッザッ...

男(こっち側、池があるんだ)

男(透けてる…随分綺麗な水だな)

男「……!」



「……」チャプ



男(……女の子……)

男(いや、でも……頭に乗っかってるあれは…耳…?)

男(それと背中の下……もっと言うとお尻から、柔らかそうな尻尾がひとかたまり生えてるように見える)

男(……)

男「――あれ?」

男(居なくなった…!?)

男「……」キョロキョロ

男(どこにも居ない……何だろう今の。見間違い?)
15 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 02:58:47.90 ID:mXZF2/3A0

「どうかされました?」

男「」ビクッ

男(…さっきの人じゃないみたいだ。着物を着てるし、耳も尻尾もない)

和服の女「もし、お身体の具合でも悪いのですか?」

男「ちょっと道が分からなくなってしまったんです」

和服の女「そうでしたか」

和服の女「あちらへ行かれれば、きっと出られると思いますよ」

男「あっちですか?……恥ずかしい話なんですが迎えを待っていまして…」

和服の女「大丈夫。行ってごらんなさい」

男「………」

男(不思議だ。この人の言葉はなんだか、自然にスッと入ってくるような…)

男「そうして、みます」

男「……」

男「あの、あなたの――」

和服の女「あまり迷うことのないよう気を付けてくださいね」ニコ

男「………」

男「」ペコリ



ザッザッザッ...


16 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 03:00:07.55 ID:mXZF2/3A0

男「……」ザッザッ

男「……」ザッザッ

男(僕は、最後何を言いかけたのだろう)

男(あの人の素性を訊こうとした?神社の管理人なのか、どうして着物姿なのか、そもそもあの神社は何なのか)

男「……」ザッザッ

男「……」ザッザッ

男(……一瞬見えたあれは……)

男(水浴びをする……神様……?)

男「……」

男「……」
17 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 03:00:59.78 ID:mXZF2/3A0



幼馴染「男っ!」



タッタッ!

男「! 姉さ――」

幼馴染「」ギュー

幼馴染「もう…もう!何で本当に迷子になるかな!やっぱり一緒に行った方がよかったじゃん!」

幼馴染「今度から一人で出掛けるの禁止だからね!」

男「お、大袈裟だよ。ちょっと見かけない場所に出ちゃっただけで、何も起きてないんだから…」

幼馴染「何か起きてからじゃ遅いの」

幼馴染「ところで神社はどこ?あちこち見てきたけどどこにも無かったから少し焦っちゃった」

男「大分向こうの方にあったんだよ」

幼馴染「…歩いてきたの?私、動かないでって言ったよね」

男「え…あ」

幼馴染「」ギューッ

男「苦しっ…!」

幼馴染「ふー」パッ

幼馴染「帰るよ。手、離さないように」

男「…うん」
18 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 03:01:41.42 ID:mXZF2/3A0

男(……)

男「あのさ姉さん」

幼馴染「……」

男「……幼」

幼馴染「なーに?」

男「幼はさ、なんで僕のことをこんな気にかけてくれるの?」

男「家族でも親戚でもない、ただ昔から遊んできたってだけで…」

幼馴染「大事だからだよ。それ以外にある?」

男「!……でも、僕は……」

幼馴染「またそうやって卑下する。いい?よく聞いて」

幼馴染「過去に何があったとしても、男がどれだけ自分を嫌いになろうと、私は絶対男を見捨てない」

幼馴染「男は要らない人間じゃない。分かるまで何度でも教えてあげる」

男「……」

男「…ありがと」




19 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 03:03:18.60 ID:mXZF2/3A0
ーーーーーーー

和服の女「人が迷い込んでくるとはの」

和服の女「言葉を交わすなど何時振りじゃったか…」

和服の女「……」

和服の女「"人除け"も、見直さねばな」




20 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 03:03:52.25 ID:mXZF2/3A0
ーーー夜ーーー

コンコン

「姉さん、入るよ」

幼馴染「どうぞー」

ガチャ

男「はいこれ、借りてた参考書。分かりやすくてすごく助かったよ」

幼馴染「もういいの?ずっと借りててよかったのに」

男「そうもいかないよ。姉さんだって受験勉強で使うでしょ?」

男「それじゃ、おやすみ」

幼馴染「おやすみ〜」

キィ...

幼馴染「ねぇ」

男「? なに?」

幼馴染「……」

...トットットッ

幼馴染「……」

男「姉さん?」

幼馴染「…………」

男「何か、顔に付いてる…?」

スッ...
21 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 03:04:31.22 ID:mXZF2/3A0



ピシッ



男「あたっ」

男「何だよ急に…」

幼馴染「おやすみのデコピン。よく眠れるようになるよ」クフフ

男「姉さんが?」

幼馴染「うん♪」

男「そんなことだろうと思った。あんまりびっくりさせないでよ」

男「じゃあね」パタン

幼馴染「………」

幼馴染「……あー、危なかった」

幼馴染「まだ早いよね」

幼馴染「もうちょっと。あとちょっと」



ーーーーー

男「…ありがと」

ーーーーー



幼馴染「…はぁー…♪」

幼馴染「待ち遠し」




22 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 03:05:07.59 ID:mXZF2/3A0
ーーー翌日 学校ーーー

男「……」

数学教師「であるからして、接弦定理を用いると角Bが求まりーー」

男「………」

男(………)

男「……」ゴソゴソ

スッスッ、スッ



[入力ボックス]
『昨日話してた神社でさ、着物の女の人に会ったんだよ。姉さんは人工林の中でそんな人を見かけたことある?あと、狐の格好した女の子』



男「………」

...スススッ、スッスッスッ



男『今日、図書館に寄って勉強しようと思うから姉さん先に帰ってて』14:28



数学教師「――男?聞いとるか?」

男「! ご、ごめんなさいなんですか」

数学教師「ここの立式だが、出来るか?」

男「えー……cosB…?」

数学教師「惜しいなぁ、sinBだ。余角で反転するからな。授業はちゃんと聞いてるように」

男「はい…」

数学教師「次は問題4にいくぞ。ページめくれー」

男「……」コソ



男『今日、図書館に寄って勉強しようと思うから姉さん先に帰ってて』14:28 既読

幼馴染『男ー、昨日のこと忘れたの?一人外出は危険っ!』14:30



男「……」スッ、スッ



男『さすがに図書館は迷ったりしないよ』14:30




23 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 03:05:54.61 ID:mXZF2/3A0
ーーーーーーー

幼馴染「……」ススッ、ススッ



男『さすがに図書館は迷ったりしないよ』14:30

幼馴染『次迷ったら閉じ込めちゃうからね?』14:31



英語教師「では幼馴染さん、この空欄に入る単語は何でしょう?」

幼馴染「sophisticated」

英語教師「そうですね。この場合、筆者は自分の国の文化の在り方について――」



.........





友「うん、また部活でね!…あ、幼!」

友「今日は一人?珍しいね、弟君一緒じゃないんだ」

幼馴染「図書館で勉強してくるんだって」

友「へぇー、テストまでまだ結構あるのに偉いね。もしかして、姉離れが始まったとか」

幼馴染「友ちゃん。それ本気で言ってる?」

友「や、やだなぁちょっとした冗談だよー。もー幼は弟君のことになるとすぐ熱くなる」

幼馴染「んー。確かにね、今朝から様子がおかしかったのよね。ぼーっとして上の空で…」

友「悩み事?」

幼馴染「違うみたい」

友「分かんないよー?幼には言いにくいことなのかも」

幼馴染「例えば?」

友「恋のお悩み」

幼馴染「っっ!」

幼馴染「……」ニヘラ

友(相手が自分だと信じて疑わないこの感じ。幼も相当あの子のこと好きよねぇ)




24 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 03:08:28.99 ID:mXZF2/3A0
ーーー人工林ーーー

男「……」ザッザッ

男(また来てしまった)

男(どうしても昨日のことが気になる)

男(…姉さんに嘘をついてまで出てきたのはなんでだろう…)

男「……」

男(神社までの道をはっきり覚えてるわけじゃないけど、このまま歩いていけば辿り着ける。そんな予感がする)

ザッザッ

ザッザッ



.........





(鳥居の無い神社)



男「…着いた」

男(逆に不自然なくらい真っ直ぐここまで来れちゃったな。昨日見た分かれ道なんかもなかった)

男(昨日のあの人は…)

「また迷ってしまったのですか?」

男「!」フリムキ

和服の女「あなたは、道を覚えるのが苦手なのですね」

男「いえ、今日は迷ったんじゃなくて僕の意思でここに来たんです」

和服の女「…何故そのようなことを?」

男「それは…」

和服の女「……」
25 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 03:09:24.16 ID:mXZF2/3A0

男「話がしたくて……」

和服の女「話…?私とですか」

男(そうだ、口に出してみて分かった。僕は昨日のことが気になったというより、この人のことが気になったんだ)

和服の女「やめておきなさい。ここは好き好んで来るような場所ではありません」

男「え……でも、ここ神社なんですよね…?お参りに来る人だって居るんじゃ…」

和服の女「こうも広い世の中です。人の訪れない社があってもおかしくはないでしょう?」

男「なら、あなたがここに居るのは管理のためじゃなく――」

和服の女「無用な詮索は身を滅ぼしますよ」

男「……なにかあるんですか?」

男「例えば、ここに誰かを匿っているとか…」

和服の女「………」

和服の女「無防備ですね、あなたは」

...トットッ

和服の女「丸腰で猜疑心を隠そうともせず」トットッ

和服の女「好奇心に駆られた言動を続けているとそのうち」ズイ――

男「――!」

和服の女「齧られてしまいますよ」ニコリ

トサッ(尻餅をつく男)

男「………」

和服の女「それでは」



トットットッ...



男「……」ボー

男「! 待っ」



シーン



男「て…」

男「………」




26 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 03:11:23.58 ID:mXZF2/3A0
ーーー翌日 休み時間ーーー

幼馴染「え?今日も行くの?男の勉強くらい私が教えてあげるのに」

男「姉さん受験生じゃない。自分の勉強は平気なの?」

幼馴染「ぜーんぜん平気だよ!むしろ男が居ないとすぐ集中が切れる」

男「どういう仕組みなのそれ…」

幼馴染「図書館は捗る?」

男「…まぁ」

幼馴染「ほぉー」

幼馴染「よしっ、それだけ勤勉な男くんにはご褒美チャンスを授けましょう。今度のテスト、平均点勝負で勝てたら何でも一つだけ言うこと聞いてあげる」

男「何でも一つ……でも科目も難しさも違うのに勝負なんて」

幼馴染「だから、平均点」

男「そう言われても、して欲しいことなんて今更思い付かないよ。今でも十分過ぎるくらい色々助けてもらってるし…」

幼馴染「私はあるよ?数え切れないくらい」

幼馴染「どれにしようかなー。せっかくだから普段絶対してくれないことがいいよねぇ」

男「…? なんで姉さんが悩んでるの?」

幼馴染「負けたら相手の言うことを聞くって勝負だよ?」

男「!? ちょっとちょっと、いつからそんな話に!?」

幼馴染「最初から」

幼馴染「ご褒美"チャンス"って言ったでしょ?一方的にあげるだけとは言ってません♪」

男「ず、ずるい」

幼馴染「やめちゃう?」

幼馴染「本当に何でもやってあげるよ?」ジー

男「……っ」

友「幼こんなとこに居た!」

友「先生が探してたよ。幼だけ面談希望用紙出てないってさ」

幼馴染「そうだった、完全に忘れてた…。今行くー!」

幼馴染「じゃ、テスト頑張ろーね♪」



タッタッタッ...



男「……」

男(最近やたらと姉さんが僕を見つめてくることが多くなった。…大方、新しくいじるネタでも探してるんじゃないかと思ってるけど)

男(……)

男(勉強、やっとかないとな…)




27 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 03:24:03.41 ID:mXZF2/3A0
ーーー鳥居の無い神社ーーー

和服の女「またあなたですか」

男「……」

和服の女「昨日言ったことが理解出来なかったのですか?」

男「…分かっています」

男(この人が明らかに僕を歓迎してないのは理解してる。いつもならその時点で関わるのをやめるけど)

男(…でも…)

男(やっと見つけた気がする)

男(なんだろうこの感じ……)

和服の女「でしたら速やかに立ち去りなさい」

男「あなたのことが知りたいんです!」

男「お願いします!誰にも言う気はありません、危害を加えるつもりもこれっぽっちもないんです。あなたの話が聞きたくて……ただそれだけなんです…!」

和服の女「……」

和服の女「…何が知りたいのです?」

和服の女「答えてあげます、問いはなんですか」

男「! えっと……お名前は――」

和服の女「花子です」

和服の女「それだけですか?」

男「この神社は一体――」

和服の女「仰る通り、社ですよ。それ以外の何物でもありません」
28 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 03:24:42.53 ID:mXZF2/3A0

男(さっきからとんでもなくぶっきらぼうな返事…)

男「…もしかして祀っているのって、狐の神様ですか…?」

和服の女「いいえ」

男「……」

和服の女「さて、気は済んだでしょう。早くお帰りなさい。そして二度とここへ来ることのないよう、肝に銘じておいてください」

男「そ、そんな」

男(取りつく島もないよ)

男「せめて来てはいけない理由を教えてくれませんか…!」

和服の女「………ふぅ」

和服の女「分からん奴じゃな」

男「え?」



ブワァ!



男「ぅ…!?」

男(風…?)



狐娘「……」ジロ



男「………!」

男(この耳に、尻尾)



ーーーーー

「……」チャプ

ーーーーー



男(一昨日、池で見かけたあの子だ)
29 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 03:26:39.01 ID:mXZF2/3A0

狐娘「お主、命が惜しくないようじゃのう。再三の忠告を無下にするのは即ち、何をされようが構わぬということじゃな」

狐娘「相違あるまい?」

男(間近で見るとよく分かる)

狐娘「喰らってやろうか。或いは裂かれる方が好みかのう」ククッ

男(この子は、なんて――)スッ



フサ...



狐娘「!?」ササッ

狐娘「な、何をするっ!?」

男「…綺麗…」

狐娘「なんじゃ!妾の耳がか!?さてはお主刈り取るつもりで…………何ともなっとらん」

狐娘「」ハッ

男「……」ボー

狐娘「…貴様、余程死にたいと見える」

男「……」

狐娘「ではその望み、叶えてやろうっ!」グワッ!
30 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 03:27:39.25 ID:mXZF2/3A0


――ピタッ



狐娘「………」

男「………」

狐娘「何故立ち呆ける。お主は本当にここへ死にに来たのかの?」

男「いえ……そんな怖いことするような人には見えなくて」

狐娘「……………」

狐娘「参った参った。降参じゃ」

狐娘「よもやこれほど話の通じぬ人間とは思わなんだ。大人しく尻尾を巻いて逃げ出しておればよいものを」

男「尻尾…」

狐娘「む?何を見ておる。触らせはせぬぞ」

男「! じゃあ、またあなたに会いに来てもいいんですね…!」

狐娘「勝手にせぇ」

男「」パアァ

男「えーと、花子、さん?」

狐娘「偽名じゃ。そのくらい察しておろう」

男「っ!」

狐娘「こやつは…大物なのか小物なのかよう分からんな」

狐娘「そうじゃの、妾のことは狐娘とでも呼ぶがいい」

男「それが本当の名前…?」

狐娘「あぁ」

男(狐娘さん、狐娘ちゃん、それとも……狐娘様?)

狐娘「………」

男「………」

狐娘「なんじゃ、今度はだんまりか。妾と話がしたかったのであろう?」

男「あ…いえ、訊きたいことがあり過ぎて逆にこんがらがっちゃうというか」

狐娘「ならばこちらから問うが、お主、呪術師の類ではあるまいな?」

男「じゅじゅつ…?ってあの、呪いとかそういうのですか?」

狐娘「ふぅ。その様子じゃとしらばくれてるわけでもないか。斯様に器用な真似が出来る玉でもなさそうじゃ」
31 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 03:28:19.35 ID:mXZF2/3A0

狐娘「そうなると尚の事不思議じゃの」

狐娘「のう主よ、どうやってここを見つけた?」

男「それは、ここを通って帰ろうとしたら迷って、あとは一昨日の通りで」

狐娘「妙じゃな」

狐娘「ここら一帯にはの、お主のようなうつけ者が近付いてしまわぬよう"人除け"の呪(まじな)いを巡らせてあるんじゃ」

狐娘「呪いに綻びは見つからなかったが…」

狐娘「主、本当にただの人間か?」

男「? 何かした覚えなんて全く……普通の人間ですよ」

狐娘「……」ジー

男「…だと、思います…」

狐娘「まぁよい」

男「人除け…ってことは、もしかしてずっとここで誰にも会わずに暮らしてたんですか?いや、同じ仲間の人たちが居たり…?」

狐娘「同類なぞおらん。人の世と関わると何かと面倒が多いでな、静かに余生を送りたかったんじゃが」

男「…あなたを困らせるようなことはしません、絶対」

狐娘「なら金輪際来んどくれ?」

男「ぅ」

狐娘「ククッ、冗談じゃ。勝手にしろと言った手前、最早止めはせぬ。しかしもしお主が妾のことを口外するようなことがあれば…」

狐娘「今度こそ五体満足ではいられぬと思え」

男「言いませんよ。約束します」

狐娘「…そうかえ」
狐娘「して、他に何を知りたい。主のわがままを聞いてあげとるんじゃ、つまらん質問は許さぬからの」

男「!…?」

男(つまらなくない質問って逆に何だろう)
32 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 03:28:58.66 ID:mXZF2/3A0

ヴー

男「あ」

狐娘「?」



幼馴染『男ー、いつまで勉強してるの?もうご飯できてるんだから帰ってきなさい!』18:47



男(もうこんな時間)



男『ごめん集中してて気付かなかった。今から帰るよ』18:48 既読

幼馴染『早くしないと男の分も食べちゃうからねー』18:48



男「……」

男「…その…」

狐娘「行かぬのか?身内に呼ばれたのじゃろう」

男「! 画面、見えたんですか?」

狐娘「主を見ておれば分かる。その呆けた面が雄弁に語っておるわ」

男「そ、そんな情けない顔してたかな」

狐娘「なんじゃ、鏡を覗いたことがないのか?」

男「そこまで酷いんですか!?」

狐娘「クククッ」
33 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 03:29:38.15 ID:mXZF2/3A0

男「…明日もまた来ます」

狐娘「……」

男「来ますね?」

狐娘「聞こえておる」

男「明日は!…もうちょっとマシな顔で来ますから」

男「じゃあ、また!」



タッタッタッ...



狐娘「……行ったか」

狐娘「呪いを退ける人間。如何程のものかと思うたが、吹けば折れそうな若輩者ではないか」

狐娘「かと思えば凄みには屈さぬ。奇妙な人間じゃ」

狐娘「ん、奴の名を聞いておらんかったの。妾にだけ名乗らせておきながら不公平なことよ」

狐娘「ククッ、そうじゃの、奴が自分から名を言わなければ仕置きをしても面白いかもしれぬ。脅しは効かぬが手が出るとあれば――」

狐娘「…少々お喋りが過ぎたな」

狐娘「………」

狐娘「面倒なことになったのう」フッ




34 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/15(土) 03:30:49.24 ID:mXZF2/3A0
一旦ここまでです。
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/15(土) 15:15:11.89 ID:qgdpFp6DO
おつ
いいねいいね
36 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2021/05/17(月) 23:00:52.88 ID:hG5XWQQ60
>>34
ありがとうございます。読んでくれる人がいるというのが一番のモチベーションになります。

続きを投下します。
37 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2021/05/17(月) 23:03:42.32 ID:hG5XWQQ60
ーーー数日後 放課後ーーー

幼馴染「ねね、今度の美術の彫刻のテーマ好きなものなんだ。男のこと作っていい?」テクテク

男「恥ずかしいからダメ。第一、人なんてリアルに彫れるの?」テクテク

幼馴染「男のためなら不可能はないよ!!」

男「なんで叫ぶの!?」



クスクス フフッ



男「もー…」

男「じゃ、僕は向こうだから」

幼馴染「図書館だよね。最近毎日行ってるもんね、そんなに私にして欲しいことがあるの?」ニヤニヤ

男「え、なにそれ」

幼馴染「テストの点数勝負。勝って言うこと聞かせたいんでしょ?どんな命令されちゃうんだろうなー」

男(そうだったすっかり忘れてた。そんな約束もしてたっけ)

男(…結局、ここのところ勉強なんてほとんど出来てないなぁ)

男「そんなんじゃないよ。ただちょっと、楽しくて」

幼馴染「勉強が?」

男「! う、うん」

幼馴染「ほー」

幼馴染「男って全然わがまま言わないからさ、こういうとき何を求めてくるのかちょっと楽しみなのよね私」

男「姉さんまさかわざと負ける気じゃ…」

幼馴染「んーん。それ以上に男にして欲しいことの方が多いもの」ニヒヒ
38 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2021/05/17(月) 23:04:19.05 ID:hG5XWQQ60

幼馴染「……ねぇ男」

男「なに?」

幼馴染「いつも行ってるとこ、本当に図書館?」

男「!」

男「…そうだよ。なんで?」

幼馴染「それにしては参考書とか大体置きっぱなしじゃない?」

男「図書館で勉強するときは学校の教科書使ってるんだよ。ほら、学校の復習なら一人でも出来るから。参考書の内容は姉さんに教えてもらうことが多いからさ」

幼馴染「おんなじ大学行くなら今からしっかり学力つけてもらわないといけないもんね〜。まずは私が受からなきゃだけど!」

幼馴染「ふふ、ごめんごめん。もしいけない遊びに夢中になってたらどうしようかと思って」

男「心配し過ぎだよ。ちゃんと夕食までには帰ってるでしょ?」

幼馴染「男がいないとご飯の味がしないのよね〜」

男「大袈裟なんだから…」

男「じゃあそろそろ行くよ」

幼馴染「はいはーい♪」テフリフリ




39 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2021/05/17(月) 23:05:29.88 ID:hG5XWQQ60
ーーーコンビニーーー

男「んー……どれがいいんだろう」

男(狐娘さんが喜びそうなものといったら、油揚げ?)

男(そうじゃないそうじゃない。今日持ってくのは…)

男「これと、これとか…?」ガサ

男(こっちのは僕も食べたことないけど、たまにはいいかな)

男「お願いします」

店員「はーい」

ピッ、ピッ



ーーーーー

幼馴染「いつも行ってるとこ、本当に図書館?」

ーーーーー



男(……また嘘ついちゃった)

男(絶対他人に言わないって約束があるのもそうなんだけど、なんでかな、姉さんにバレるのはあんまり良くない気がするんだ)

男(普段何かあったときは真っ先に相談してるのに)

店員「894円になります」

男「はい」

男(けど、いけないことをしてるわけじゃないよね)

店員「106円のお返しです」

男「ありがとうございます」

男(そういえば最後に選んだやつは姉さんも好きなやつだったっけ。うん、それは持って帰ろう)

スー

店員「ありがとうございましたー」

男(狐娘さん、どんな反応してくれるかな)

男(早く行こう)



タッタッタッ...



幼馴染「………」




40 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2021/05/17(月) 23:06:44.17 ID:hG5XWQQ60
ーーー鳥居の無い神社ーーー

ザッザッ

男(相変わらず静かな場所だな)

男「狐娘さん!僕です!」



シーン...



男「?」

男(あれ、いつもなら神社の中から出てきてくれるのに)

男(初めの数日は仏頂面で襖が開くことが多かったけど、ここ最近はそれも和らいだ気がする。というよりなんとなく、自惚れじゃなければ狐娘さんもこの時間を楽しみにしてくれてたり…)

男(たまに眠そうにしてるときは昼寝でもしてるのかな)

男「狐娘さ――」

コツッ

男「あたっ」

男(なに、ドングリ?)

狐娘「こっちじゃ阿呆。お主には目が付いとらんのか」

男「そんなとこに…気付けませんよ、いつも中に居るじゃないですか」

狐娘「妾とて四六時中引き篭もっとるわけではない」

男「何してたんですか?」

狐娘「ちょいとな。木々の声を聴いていたんじゃ」

男「声?」

狐娘「妾は耳が良いからの。こうして自然に耳を傾け、世の動静を把握しておるのよ」

男「へぇー…ってことは僕が来るのもいつも分かってるんですね」

狐娘「まぁの」

男「どういう風に聞こえるんですか?やっぱりこう、精霊の交信みたいな?」
41 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2021/05/17(月) 23:10:57.67 ID:hG5XWQQ60

狐娘「……クスッ。くははっ!」

狐娘「ほんに主は退屈せぬな。植物が喋るわけなかろう」

男「え、嘘なんですか!?」

狐娘「主よ、悪党に騙されぬよう用心するのじゃぞ?」

男「…例えば今目の前にいる人とかでしょうか」

狐娘「む?だとしたらどうする」ククッ

男「どうもしません。耳と尻尾を生やした悪人なんて聞いたことないです」

狐娘「まこと、警戒心に欠ける奴よのう。これでよく無事に生きてこれたものじゃ」

男「そこまで言いますか」

狐娘「して、その手に持っておるのは何じゃ?」

男「あぁそうなんです、今日は…」ガサガサ

男「何個か持ってきましたよ。ほら、昨日話してたやつです」

狐娘「菓子とやらか。ふむ」

狐娘「……」マジマジ

男(気に入ってくれるのがあるといいけど)

狐娘「で?」

男「?」

狐娘「どれがどれなんじゃ。言ってくれねば分からぬ」ソワソワ

男「あぁ、これがチョコレートで、こっちがガム、グミ…」

狐娘「ほぉ」

男「この袋に入ってるのは飴です」

狐娘「飴なら知っとるぞ。稀に買うてきてくれることがあった。軟い甘味のことであろう?」

狐娘「なんじゃ主よ、あれだけ妾の知るものは無いと豪語しおってからに。しかとあるではないか――」ガサッ

狐娘「…硬い」
42 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2021/05/17(月) 23:11:38.66 ID:hG5XWQQ60

男「軟らかいというと、もしかして水飴ですか?」

狐娘「水?これを溶かせば軟くなるのか?」

男「なりませんけど…今で言う飴はこんな風に色と味の付いた硬いやつが普通なんです。これを口の中で少しずつ溶かしながら食べていくんですよ」

狐娘「」クンクン

男「グレープ気になります?」

狐娘「…?」

男「ぶどうのことです」

狐娘「……」アム

狐娘「…うむ、悪くないの」

狐娘「しかしこの口内で転がすというのはどうにももどかしい…」

ガリッ

狐娘「っ!?…おぉ!主よ主よ、こいつは砕いた方が味がよう出てきおる!もしや食べ方が他にもあるのではないかの?なぁ知っておるなら勿体ぶらずに――」

男「……」

狐娘「な、なんじゃその目は」

男「いえ、ただ随分とはしゃぐ悪人さんだなーと。飴玉気に入ってくれました?」フフッ

スッ

男「んぐっ!?」

男(レモン味だ)

狐娘「笑うでないっ。主とて見知らぬ食物に浮かれることくらいあろう」

狐娘「そんなことより次じゃ次!ちょこれーとというのも硬いようじゃが飴の親戚か?」

男「あぁ!折れちゃう折れちゃいます!」



.........




43 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2021/05/17(月) 23:13:35.67 ID:hG5XWQQ60
狐娘「はぁー、甘いものばかりじゃったな」

男(ほとんど全部食べちゃった。結構色々買ったつもりだったけど)

男「甘くないものもありますよ。お煎餅とかスナック菓子とか」

狐娘「煎餅はよい。今度はそのすなっく?とやらもまとめて持ってきておくれ」

男「! はい。好きな味ってあります?さっきの飴みたいに色んな味があるんです。例えば――」

狐娘「主に任せる。妾の口に合うものをな。大義じゃぞ?」

男「っ、分かりました」ドキッ

狐娘「しかしようこのような食い物を考えつきよる。嫌いではないがの。身体に悪そうじゃ。今やこやつらが卓上に並ぶ時代か」

男「さすがにこれをご飯としては食べませんよ。おやつです」

狐娘「ほう。食への探求はいつの世も変わらぬな」

男「なんだかその言い方ちょっと」

男(お年寄りくさいですね、なんて言ったらはたかれそう)

狐娘「どうした?」

男「なんでもないです」

男(そういえば、この人はいつから生きてるんだろう。僕のスマホを見ても驚かなかったのにこういうお菓子だとか、もっと馴染みのありそうなものを意外と知らなかったりする)

男「やっぱり一個聞かせてください」

男「狐娘さんが生まれたのっていつ頃なんですか?ここには結構長い間居るって言ってましたよね、その前はどこに」

狐娘「………」

男「…あの?」

狐娘「のう、女に年齢を尋ねるということはそちらも相応の覚悟が出来ているということじゃな?」

男「え」

狐娘「そうかそうか菓子を持ってきたのもその為、と。だが対価としては足りぬな。そうじゃな……手と足ならどちらがよいかの?」

男「ちが…!?そんなつもりじゃ――」
44 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2021/05/17(月) 23:15:55.57 ID:hG5XWQQ60

狐娘「」ニヤニヤ

男「……あなたが言うと冗談に聞こえないんですって」

狐娘「だからじゃ」

男「意地の悪い…」

狐娘「ククッ、そう拗ねるでない」

狐娘「妾の出生か。そんなものを知ってどうする」

男「どうするも何も、単純に知りたいだけです…いけませんか?」

狐娘「そうじゃな。主はそういう奴じゃったな」

狐娘「…少なくとも、お主の親よりも長く生きとるよ」

男「!……」

狐娘「なんじゃ、今更その程度で驚くのか?」

男「いえ……じゃあ、70年くらい前になるのかな…」

狐娘「さての」

男(……もし……今も生きてたら、今年でいくつになるんだろう……)

狐娘「主、手を出せ」

男「……」

狐娘「物騒なことはせん。信用出来ぬか?」

男「………」

ソー

狐娘「……」スッ
45 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2021/05/17(月) 23:16:32.14 ID:hG5XWQQ60



...サァァ



男(なんだろう、あったかい)

男(ただ伸ばしただけの手を包み込んでくれるような)

狐娘「もうよいぞ」

男「今のは…?」

狐娘「今日の礼じゃ。主が心の底から願った時、それが叶うよう。一種の呪(まじな)いじゃ」

男「そ、そんなことが…ってもう騙されませんよ」

狐娘「信用出来ぬか」

男(……)

男「だったら」

男「…狐娘さんがもっともっと自分のことを教えてくれますように」

狐娘「……」

男「……」

狐娘「お主の執念深さには恐れ入る。感服すら覚えるわ」

男「効いてないみたいですよ。おまじない」

狐娘「阿呆が」フッ




46 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2021/05/17(月) 23:18:57.21 ID:hG5XWQQ60
ーーーーーーー

男「……」テクテク

男(狐娘さん、楽しそうに食べてくれてたな。今日買ってきて正解だった。次はどれにしようかな。スナック菓子といえば…)

男(…おこづかい使い切らない範囲にしとかないと)

男「……」

男(願いの叶うおまじない)

男(………)

男(……それが本当なら……例えば……)

男「………」



ガチャ



幼馴染「あ、男おかえり♪」

男「! ただいま。もしかしてずっと玄関で待ってたの?」

幼馴染「当然!いっつも1時間くらい前に帰ってくるでしょー?今日はちょっと遅かったね」

男「まあ、少し勉強に熱が入っちゃって」

幼馴染「優等生みたいなこと言い出しましたよこの子」フフッ

男(今日は今までで一番話の弾んだ日だったから、つい)

男「大丈夫、心配しないで。もう道に迷ったりなんかはしないからさ」

幼馴染「…うん」

幼馴染「そっか」ニコ

男「ご飯食べちゃおうよ。どうせ僕が帰ってくるまで食べないつもりだったんでしょ?そうそう、姉さんの好きなお菓子買ってきたんだよ」

ガシッ

男「? 姉さん?」
47 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2021/05/17(月) 23:22:54.79 ID:hG5XWQQ60



幼馴染「ねぇ、どこに行ってたの?」



男「…どこって、だから図書館に…」

幼馴染「違うよね。図書館行くのにわざわざ人工林に寄る必要があるんだ?」

男「っ、見てたの?」

幼馴染「うん。だって男、私に嘘ついてるんだもん。分かるんだよ?ずっと一緒に居るんだから」

男「………」

幼馴染「怒らないから正直に教えて。ね?」

男「それは……」

男(どうしよう、どうしよう。見られてたなんて。話しちゃいけない約束なのに)

男(隠し事なんてやめとけばよかったのかな。結局姉さんにも狐娘さんにもこんな…)

幼馴染「男」

男「ごめん、なさい」

幼馴染「ん、いいよ。何してたの?」

男(……"何してた"……姉さん、もしかして)

男「………狐がさ、居たんだよ」

男「怪我して動けないみたいだったから手当てしてたら、毎日見に行かないと心配になっちゃって、それで…」

幼馴染「………」

男「………」

幼馴染「見つけたのは迷子になったあの日?」

男「うん」

男(……っ)
48 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2021/05/17(月) 23:23:40.79 ID:hG5XWQQ60

幼馴染「…もう」

幼馴染「なんで言わないのよ。そのくらい」

男「あのとき言ったって、僕が人工林に行くのは反対してたでしょ?」

幼馴染「わけがあるならきちんと聞きます。一人で抱え込むのは禁止っていつも言ってるじゃない」

男(やっぱり。姉さんは僕が狐娘さんに会ってるのを直接見たわけじゃないんだ)

幼馴染「その子の怪我、酷いんだ。何日も動けないくらいなんだよね?」

男「ん…いや、そろそろ歩けるくらいには良くなってると思う」

男(全部が全部嘘ってわけでもないけど…)

男(ごめん、姉さん。秘密にするのはこのことだけだから)

幼馴染「妬けちゃうな〜。私も男に献身的な看病されてみたい」

男「またそういうこと言う」

幼馴染「ね、明日は私も連れてってよ」

男「…分かった。怖がらせないでよ?」

幼馴染「失礼な!むしろ男より私の方に懐いちゃうかもよー?」

幼馴染「お菓子ありがと♪置いてくるから先リビングで待ってて!」



トットットッ



男(……ふぅ)

男(明日は会いに行けないな)




49 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2021/05/17(月) 23:24:40.93 ID:hG5XWQQ60
ーーー幼馴染の部屋ーーー

幼馴染「………」

幼馴染「………」

幼馴染「………」

幼馴染「………なんで………」




50 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/17(月) 23:28:39.24 ID:hG5XWQQ60
ーーー真夜中 神社ーーー

狐娘「ふむ、大きな月じゃ。ここまではっきり見えるのもまた珍しい」

狐娘「しかしちと見飽きたの」

狐娘「……ククッ、"飽きる"か。久しく忘れていた感覚じゃ」

狐娘「それもこれも全部あやつのせいじゃな。言葉を交わすだけでこうも毒されていくとは」

狐娘「………」

狐娘(分かっておる。良くない傾向じゃ)

狐娘(存在を知られた以上、いずれ折を見てここを発たねばなるまい。どれだけの聖人であろうと懇意になることなどない)

狐娘(…互いの為にもな)

カサ...

狐娘「?」

(飴の包み紙)

狐娘「…まぁ、今は」ヒロイアゲ

狐娘「もう少し楽しんでも罰は当たるまい。永い時間の、僅かな息抜きくらいなら」



ーーーーー

男「狐娘さんが生まれたのっていつ頃なんですか?」

ーーーーー



狐娘「…奇特な奴よ」

狐娘「お主が相手にしているのは人間ではないのじゃぞ、人間」

狐娘(仮に、全てを知ったとして)

狐娘(主も他の有象無象共と同じ目を妾に向けるのだろうか)



ーーーーー

「やめて…!来ないでください!どうかうちの子だけは…!」

「お狐様、どうぞ私どもにその御力を」

ーーーーー



狐娘「………」

狐娘「くだらぬ仮定じゃな」




51 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/17(月) 23:31:21.76 ID:hG5XWQQ60
今回はここまでです。
次は1〜2日以内に投稿できると思います。
52 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/20(木) 00:53:53.96 ID:0sLGfUdN0
続きを投下していきます。
53 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2021/05/20(木) 00:54:28.36 ID:0sLGfUdN0
ーーー翌日 人工林ーーー

男「……」ザッザッ

幼馴染「へぇ〜こんな道初めて通ったかも。小さい頃遊び尽くしたと思ってたんだけどね。知らない間に工事でもしてたのかな」ザッザッ

男「単に忘れてるだけとか」

幼馴染「それはない。男と一緒に遊んだ場所だもの」

幼馴染「でさ、あとどれくらいで着くの?お姉さん早く狐さんに会いたいんだけど♪」

男「もうそろそろ。この先の………あ」

幼馴染「ん?」

男「…いなくなってる」

幼馴染「ここにいたんだ」

男「うん。そう、この茂みの裏に…」

男(当然、いるわけない)

男(昨日一晩どうやって誤魔化すか考えた末に至った結論は、狐が逃げたことにする、だった)

男(最初から無いものを見せられるわけないし……もっとうまい言い訳が出来てればな…)

幼馴染「んーでもさ、何かがいた跡っていう跡も見当たらないね」

男「まあ、それは…ずっと同じ場所に座ってたわけでもないから」

幼馴染「男」

男「う、うん」

幼馴染「ちょっと探してみよっか。まだ近くにいるかもしれないよ?」



.........




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