荒潮「カミサマ」

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102 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/05/28(金) 02:00:05.04 ID:kaLjlP3W0
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青年「いいのかよこんなコソコソとして」

荒潮「むしろぉ貴方をちゃんと見送る方が変な目で見られるわ〜」フフフ

裏道を通って寺の入口の少し先に出た。裏道っつーか獣道だったけど。

青年「何もお前が見送りに来なくたって良かったんだぜ」

荒潮「私がそうしたかっただけよ」

青年「そうかい。ま、ありがとうな。世話になったよ」

荒潮「えぇ。気が向いたらぁ、また来てちょうだいね〜」スッ

青年「気が向いたらな」

差し出された右手と握手を交わす。

荒潮「さようなら」

青年「…」

このままこの手を引いて行けたらどんなにいいだろうか。

きっと楽しい。心強いし、何よりそれは憧れだった。

艦娘という存在。そして彼女達を連れて生きる者達が羨ましかった。

このまま、このまま荒潮を連れて、連れて、何処に行くんだ?
103 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/05/28(金) 02:00:38.86 ID:kaLjlP3W0
艦娘と艦娘を連れた人間には幾度も出会った。

彼ら彼女らはそれぞれ好き勝手に生きていて、その力は自由を象徴していると感じた。

でも今になってようやく共通する点があることに気づいた。

荒潮の言う通りだ。

皆目標を持っていた。方向はなんであれそれを達成する為何処か明確な目的地を目指していた。

行き先を知っていた。

揺るぎない羅針を。


俺はどうだろう。

俺にはあるだろうか。

この手を迷いなく引いていける何かが。
104 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/05/28(金) 02:01:06.47 ID:kaLjlP3W0
青年「悪い。俺には無理だ」

そっと手を離した。

荒潮「あらぁ残念」

青年「悪い」

荒潮「何も謝ることじゃないわ」

青年「残念って言ったろ」

荒潮「言葉の綾よ、あ や 」

青年「荒潮は、外に行きたいのか?」

荒潮「別にどちらでもいいのよぉ。ただ今回は滅多にない機会だったから」

青年「そうか」

荒潮「そうよ」

青年「じゃあ」

荒潮に背を向け山道に向かって踏み出す。

ここを降りれば、きっともう二度とは
105 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/05/28(金) 02:01:40.59 ID:kaLjlP3W0
青年「ん?」

服の裾を引っ張られた。

控えめで弱々しい力だったが足を止めるには十分だった。

振り返ると荒潮が俺を見つめていた。

その表情は、なんというか表現に困るものだった。

悲しんでるとか喜んでるとかじゃなくて、笑ったり泣いたり怒ったりでもなくて、とにかくそういう揺り動かされるようなものじゃなかった。

荒潮「貴方を乗せては行けないから、私を少し貴方に載せて行って」

青年「はい?」

俺が疑問を投げる前に荒潮の両手が俺の首にかかる。

グイと首元を引っ張られ前に屈む形になったところで、縋り付くようにキスをされた。
106 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/05/28(金) 02:02:22.93 ID:kaLjlP3W0
目の前にあの金色の瞳を閉じた荒潮の顔が見える。

つられて俺も目を閉じてみた。

息が詰まる。

別に呼吸ができていないわけじゃない。鼻は開いてるし。

それでもその長い長い口付けは深く溺れていくような感覚に陥るものだった。

引き込まれる。

とてつもない力で。

そして見えた。引きずり込まれた先で。

コイツは船だ。

静かに底に眠る船だ。

皆が皆互いにそこで眠っているんだ。

底に留まってるんだ。

朽ちて消えるまで。

この村そのものがそうなんだ。

あの少年の言っていた意味がわかった。

その重力から逃れられずに。

その重力から逃れたくなくて。

俺は、俺はここには、
107 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/05/28(金) 02:02:59.97 ID:kaLjlP3W0
荒潮「ッハ」

どれくらいだったろうか。一瞬だった気もするし、ずっとそうしていた気もする。

ただお互い酷く呼吸を乱して、肩で息をしていた。

青年「発情期か?マセガキめ」

荒潮「おまじないよ」フフ

青年「呪い、ねぇ」

今でもはっきりと感じる。コイツとここに残りたいという誘惑を。確かに呪いだこれは。

青年「俺はここにはいたくない」

荒潮「!」

青年「いや、いたくなくはないんだが、でも他に行きたい所があってな」

荒潮「ざぁんねん、でも、ないかもしれないわ」

青年「呪いはもうゴメンだぜ」

荒潮「さっきので十分よ」

青年「え?」

荒潮「私の中には、今貴方がいる。だから貴方も、私を連れて行って」

荒潮が俺の胸を手を当てる。この激しく脈打つ鼓動は俺のだろうか、それとも
108 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/05/28(金) 02:03:48.38 ID:kaLjlP3W0
青年「またくるよ」

荒潮「期待しないで待ってるわぁ」

嬉しそうに笑う。

残念というのが嘘だとは思わないが、きっとこの笑顔も本物なのだろう。

振り返らず山を降りた。

足取りが少し軽かった。

生まれた初めてだ。

何処に行くかがハッキリと決まっているのは。

いつかまた胸を張ってここに来れるように、そういう自分になれるように頑張ろう。

いつかアイツを引き上げることができるような、そんな奴になりたい。

しっかりとした足取りで山を降りる。

別に船でなければ行きたい所に行けないわけじゃあるまい。

この足でも、なんとかなるさ。
109 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/05/28(金) 02:07:27.46 ID:kaLjlP3W0
おしまい
抱いたらバットエンド

もう書けないのかなぁと諦めてましたが復活してたのですね。
移住とか考えた方がいいのでしょうか。
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/29(土) 16:49:15.80 ID:Ns64p8yEo
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/30(日) 19:31:54.95 ID:mKe3XkXY0
おつ
いいね
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/04(金) 05:44:47.76 ID:rhYIhPuk0
更新きてたのか、完結嬉しい。ホント良い雰囲気、そして荒潮と俺もチュッチュしたい
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