貴利矢「……神の命日」

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1 : ◆pYYJkGKpMM [saga]:2021/03/03(水) 17:30:41.92 ID:0MCtBXwG0
今日ゲンムVSレーザー公開日だと知ったので。
小説の前日譚的な感じです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1614760241
2 : ◆pYYJkGKpMM [saga]:2021/03/03(水) 17:31:53.48 ID:0MCtBXwG0
永夢「おはようございまー……あれ?貴利矢さんは?」

 やけに長い螺旋階段を上って『CR』――電脳救命センターに着いた僕は、いつもの面々から1人だけ欠けている人がいる事に気づいた。

飛彩「監察医なら休みだ。有休を取ったらしい」

 声がした方には飛彩さんがいた。あ、またコーヒーにたくさんスティックシュガー入れてる。無理して飲まなきゃいいのに。見てるこっちが胸焼けしてくる。

ポッピー「今日って何か特別な日だったっけ?」

パラド「さあな。今日は確か――」

 ポッピーの言葉にパラドが今日の日付を答える。この日付って……まさか。

永夢「今日ってまさか……」

パラド「永夢、何か心当たりでもあんのか?」

パラドが聞いてくる。他の2人も、なんとなく僕の方に視線が向いている気がする。

永夢「たぶん……」

 ――黎斗さんの命日だよ。

 そう答えると3人は、驚いたような、なんとなく納得したような微妙な顔をした。

 あの事件――『ゾンビクロニクル』を巡る事件から今日で1年。その時に黎斗さんは貴利矢さんに倒され、最後のライフが尽きて生涯を終えた。

飛彩「……監察医にも何か思うところがあったのだろうか」

ポッピー「どういう意味、ヒイロ?」

飛彩「あの壇黎斗とて尊い命を持っていた。監察医もドクターだ、命を奪うということをして平気でいられるはずがない。たとえそれが、自分を一度殺した相手でもな」

ポッピー「……そっか」

 なるほど。でも、あの2人には元々なにかあったような気がする。奇妙な友情のような、何かが――
3 : ◆pYYJkGKpMM [saga]:2021/03/03(水) 17:33:19.60 ID:0MCtBXwG0
貴利矢「着いた着いた、ここか」

 わざわざ有休を取ってこんな所に来ちまった。そりゃ自分だって出来ればせっかくの有休なんだから、こんな所であんなヤツの墓参りなんかするよりも、カワイー女の子とデートにでも行きたい。

貴利矢「でもまぁ、仕方ないよな」

 仕方ない。だって、気付いたら墓参りに行く気になって、気付いたら休みを取っていて、気付いたらここに来たんだから。

 いろんな事を思い出す。あいつに騙されたこと、あいつに殺されたこと、あいつと殺し合いしたこと。そして……あいつに助けられたこと、あいつを殺したこと。

貴利矢「……柄にもなく辛気臭くなっちったか」

 持ってきた花を置いて一応手を合わせる。でも、花なんか置いたってあいつは何とも思わないかな。

貴利矢「これ、置いてくか」

 『神の恵みを授けよう』とかなんとか言ってあの時に渡されたプロトシャカリキスポーツガシャットとプロトジェットコンバットガシャット。

貴利矢「ま、これ元々お前のだしな。返してやるよ」

 こんな所に置いたら、誰かが玩具だと思って捨てしまうかもしれない。それでも構わない。だって、もうこれは必要ないと思いたいから。あいつの遺したゴッドマキシマムマイティXのデータで、ゲーム病に侵された人たちを戦わずに救える日が来ると信じたいから。

 でも、なんで自分は急に墓参りなんかに行こうと思ったのだろうか。しばらく考えてみると、1つの結論に辿り着いた。それは、自分の心の中にずっと引っかかっていたものだ。

 …………罪滅ぼし。
4 : ◆pYYJkGKpMM [saga]:2021/03/03(水) 17:34:22.18 ID:0MCtBXwG0
 いくらあいつがクズ野郎でも、ドクターのお前にあいつを倒すことはできない――みたいなことを永夢に言った記憶がある。でも、結局のところ自分もドクターだったんだ。自分は1つの命を奪ってしまった。その事実は変えようがないし、変えようとも思わない。

 あれから時々考える事がある。あの時、あいつを殺さないで事件を解決することはできなかったのか、命が失われることが無くても良かったんじゃないのか……そんな事だ。

 あの事件があってから、自分の支援があって人の命が救われたところを見ると『良かった』『安心した』『死ななくて良かった』。心の中はそんな感情でいっぱいだったけど、隅っこの方にこういう感情がどうしても湧いて出た。

『でも自分は命を奪ったことがある』

 人に殺されるよりも、人を殺す方が大きなトラウマを持つということを初めて知った。どうしても頭の中にこびりついて離れない。隙あらばその事実を思い出させる。自分がドクターだから、なおさら。

―――――九条貴利矢。

 ……!?

 いや、ありえない。絶対にありえない。だってあいつはあの時、ライフが尽きて、自分が――

――――何を阿呆なことで悩んでいる。私はあの時ゲームを作った。そして君はそのゲームをクリアした。そのゲームのクリア条件が『私を倒す』ということだっただけだ。

 ゲームを……作った……クリアした……

――――私は誰にもクリアできないようなゲームを作ってしまったと思っていた。しかし、君があのゲームをクリアしてくれた。私は嬉しかった。私が作ったゲームをクリアしてくれて。ゲームはクリアされるためにあるのだからな。

 ……お前は、どこまでいってもゲームクリエイターなんだな。

――――当たり前だ。私は、これからもゲームクリエイターであり続ける。君たちもせいぜい私の作るゲームをクリアできるよう頑張るんだな。

 お前、まだなんか企んでるだろ……ははっ。

――――また会おう。君たちが新しいゲームをスタートするその時に…………

貴利矢「…………はっ」

 幻聴……だったのか?

 でも、幻聴と言うにはあれはあまりにもあいつだった。さっきのをあいつだと信じてみるのも、悪くないかな。

貴利矢「じゃあな、神。……いや」

 ――壇黎斗。

 そう言って自分は、今までいた場所に背を向けて歩き始めた。

貴利矢「あれ?」

 さっき置いてきたはずのガシャットが自分の懐にある。おかしいな、確かに置いてきたはず……

 多分、あいつがやったんだろう。まだ新しいゲームがあるってことか。全く、いつまで自分らに迷惑かけるつもりなんだか。

 いいぜ。どんなゲームでも、クリアしてやるよ。
5 : ◆pYYJkGKpMM [saga]:2021/03/03(水) 17:35:24.73 ID:0MCtBXwG0
おしまい。
超絶早く終わってしまった。
まあ衝動書きだしね、仕方ないね
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