【咲-Saki-】京太郎「たのしい宮永一家」【微安価】

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1 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/21(木) 16:37:22.21 ID:VtKT70Eh0
・咲-Saki-スレです
・京太郎SSです
・重要人物で一人オリキャラいます
・あまり楽しい話ではありません
・基本非安価、たまに安価あります

以上を確認・了承の上、お読みください

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1611214641
2 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/21(木) 16:41:03.23 ID:VtKT70Eh0
【12月上旬】


―――― 長野県内 市街地


同僚「おっす宮永!」

後輩「お疲れ様です、宮永先輩」

京太郎「おう、お前らも上がりか?」

後輩「はい。それで今日はまだ早いし、飲みに行こうかって話になってるんです」

同僚「最近駅前に出来た焼き鳥屋あるだろ?総務の池田が行ったって言うんだが、結構旨いらしいぜ」

同僚「つーわけで今晩一緒にどうよ。お前の昇進祝いもせにゃならんしな」

京太郎「あー、悪いな。今日は家で祝ってくれる事になってるんだ」

同僚「なんだとー?つれないヤツだなぁお前は!」

京太郎「あはは、大体お前らいつも遅くまで連れ回すだろ。明日は色々と忙しいし」

京太郎「ってことで今日はパスだ。また来週にでも誘ってくれよ」

同僚「明日?......ああ、今年もそんな時期か」

京太郎「そういうわけだから俺はもう帰るよ」

同僚「仕方ないか。こればっかりは文句も言えないしな」

京太郎「んじゃ、また連休明け!」

後輩「あーあ、行っちゃった......何かあるんですか?宮永先輩」

同僚「.........まぁ、色々と」
3 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/21(木) 16:43:00.18 ID:VtKT70Eh0
―――― 在来線 車内


京太郎「.................ん?」

夢うつつで座席に寄りかかっていた俺は車内アナウンスに目を覚ました。
どれだけぐっすり眠りこけていたとしても、この声が耳に入るだけで一瞬で起きることができるのだから不思議なものだ。
パブロフの犬みたいなものだろうか。知らんけど。

京太郎「ふぁぁあ......そろそろ連絡しとくか」


>あと20分くらいで帰る

>おっけー。こっちはごはんの準備、もう少しかかるかも

>腹減った......飲みに誘われたけど断ってきたぜ

>当たり前だよ!お祝いなんだから、断らなかったら絶対怒るからね!

>分かってるって


俺の名前は須賀京太郎――――いや、今は宮永京太郎か。
上京したり結婚したり転職したりと色々あった俺ではあるが、今では故郷である清澄でそこそこの生活をしている。
普段なら乗るはずの誘いを丁重に断った俺は携帯電話を片手に取りつつ、真っ暗の車窓に点々と浮かぶ人明かりをぼんやりと眺めていた。
4 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/21(木) 16:43:59.88 ID:VtKT70Eh0
やがて列車が見慣れた駅舎に停まると、今度は近くの駐輪場に停めたバイクを北の方へ走らせる。
そう経たないうちにとある一軒家を見つけることが出来るだろう。小さいが立派な俺の城だ。

京太郎「ただいま」

「おかえりなさーい。お疲れ様、ご飯までちょっと待っててね」

京太郎「なら先に風呂に入っちまおうかなぁ。もう入れるのか?」

「ちょっと前に沸かし始めたけど......うーん、たぶん大丈夫だと思うよ」

京太郎「そうか、ありがとう」
5 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/21(木) 16:45:20.35 ID:VtKT70Eh0
【数時間後】


―――― 宮永邸 リビング


京太郎「ふぅ......食った食った」

「どうだった?」

京太郎「美味かった!ぐうの音も出ないくらいの大満足だよ。ありがとな」

京太郎「あの酒もずっと気になってた奴だ。どうして知ってたんだ?」

「検索履歴に何回も出てたから。飲みたいのかなって思ってネットで注文したの」

京太郎「人のパソコンを勝手に覗くとは趣味の悪いやつめ......ま、美味かったし良しとするか」ナデナデ

「えへへ」ニコニコ

京太郎「しかし、あんなご馳走作ってて大丈夫だったのかよ」

京太郎「そっちだって忙しいだろうし、今度の日曜に大会あるって言ってなかったっけ」

「あーあれ?大丈夫大丈夫、いつも通り打ってればいいって言われたもん」

京太郎(こいつの言う『大丈夫』ほど信頼できない言葉もないんだがな)
6 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/21(木) 16:46:59.43 ID:VtKT70Eh0
「そういえば、お姉ちゃんから電話かかってたよ」

京太郎「照さんから?」

宮永照――――つまりプロ麻雀界最強クラスの雀士であり、俺の義理の姉でもある女性。こいつ然り照さん然り、宮永家は麻雀民族の血でも流れているんだろうか。
そんな彼女が掛けてくる電話の殆どは吉報とは言えない。怪しい勧誘がどうとか保険金がどうとか、とにかく大抵の場合ロクな用事ではないのだ。
しかしこの時期となれば話は別で、その用件には大方予想がつく。

京太郎「それでなんだって?」

「明日の昼過ぎくらいにそっちに着くけど、持っていくお土産は何が良いかって」

京太郎「お土産?東京ばな奈に決まってる」

「うん、私もそう伝えたんだけどさ」

「そしたらお姉ちゃん、たまには別のものも食べたいくないか?って執拗に」

京太郎「別にいつも通りで全然構わないんだけど......どうせ照さんが自分で食べたいだけだな」

京太郎「.........おっと」チラッ
7 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/21(木) 16:48:09.60 ID:VtKT70Eh0
リビングの壁に掛けられた時計に目をやると、短針は既にその頂上を過ぎていた。
俺はこの和やかな雰囲気に浸り続けていたいという気持ちを堪えて、

京太郎「ほら、そろそろ寝ないとな。明日は朝早いんだろう?」

「早いっていうか、いつも通りの時間だよ」

京太郎「知らん。俺は明日休みだし」

「えー!ずるーい!」

京太郎「ズルいもクソもねーよ!ただでさえ有休溜まってるんだから」

「私も明日休もうかな」

京太郎「おいおい、お前は休んじゃダメだろ」

「そもそもなんで――――――――」

京太郎「そりゃ――――――――」

「――――――――!」

京太郎「――――――――」


結局俺たちが眠りについたのは、それから一時間ほど経った後の事だった。
8 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/21(木) 16:48:55.60 ID:VtKT70Eh0
【翌朝】


「おはよう!もう起きたんだ?」

京太郎「あぁ、おはよう......」

「ごめん、私忙しいから朝ご飯は自分でなんとかしてね!」ドタバタ

京太郎「そんくらい自分で何とかするさ」

俺が休日にしては――――世間的には平日だが――――比較的早い時間帯に目を覚ますと、既に着替えを終えた彼女があっちこっちと騒がしく走り回っていた。
起きたばかりの胃袋は朝飯を消化するにはもう少しウォーミングアップの時間が欲しいと訴えかけている。
何もしないのもむず痒い俺がやはり働かない頭でいくらか考えた結果、たまには玄関で見送りでもしようかと思い立った。

「ヤバいヤバい、早く行かなきゃ!......何やってるの?」

京太郎「いや、朝日があったかいなぁと」

「そ、そっか......とにかく、私早く行かないといけないから」

京太郎「おう――――――――」
9 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/21(木) 16:49:43.12 ID:VtKT70Eh0
1. 行ってらっしゃい、咲

2. 早めに帰ってこいよ?


↓3まで多数決、無効下
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/21(木) 16:53:54.66 ID:N2ignXYaO
2
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/21(木) 18:11:22.75 ID:dW6UOt+10
1
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/21(木) 18:29:46.18 ID:DGhYO9P5O
2
13 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/21(木) 18:49:55.96 ID:VtKT70Eh0
2. 早めに帰ってこいよ?


京太郎「早めに帰ってこいよ?照さんとお前が揃ったら出掛けるからな」

「わかってるってば」

京太郎「道草も食うなよー?」

「食べないよ!」

京太郎「それでいい。行ってらっしゃい」









京太郎「明」



明「行ってきます、お父さん」
14 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/21(木) 18:51:10.32 ID:VtKT70Eh0
日本で一番大きなターミナルから特急に乗って二時間、そこから一日に指折り数える程しか走らない在来線に揺られて更に二時間。
車窓からは民家、ビニールハウス、それからだだっ広いスーパーとホームセンターがちらほらと見える。
それ以外何もない典型的な田舎だけれども、最近では東京の方こそ度が過ぎた都会なのではないかと思うようになってきた。


――― 在来線 車内


淡「あっ、あそこの橋が開通してる。ずっと工事中だったのに」

照「あの山の左側に架かってる橋のこと?一昨年の夏くらいにはもう出来てたよ」

淡「そっかー......ま、何年も来てないしそういうこともあるよね」

照「どうして淡はしばらく来てなかったの?」

淡「んー、特に来る理由もなかったからかな。忘れたわけじゃないけど、もう十年以上経ったわけだし」

淡「それにあの子も大きくなったし」

照「ということは今年はあるんだ」

淡「うん。久々に顔が見たくなっちゃって」

照「ふふっ、何それ」クスクス


『次は 清澄 清澄 お出口は―――』


淡「そろそろ降りないと。お土産忘れないでね?」

照「.........大丈夫」

淡「その間は絶対忘れてたよねテルー......」
15 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/21(木) 18:53:29.76 ID:VtKT70Eh0
木曽山脈を背負った無人駅で降りた後は彼の家まで歩いて一時間。車で迎えに来てもらえばせいぜい十分くらいの距離だけど、あえてそうしない。
ただでさえ起伏の少なくない山里の道である上に、それを進む足腰も年々衰えていくのを嫌でも実感している。
それでも私はこの風景をとても気に入っていて、ミニバンなんかで早々と通り過ぎるにはあまりにもったいないと感じてしまう。

それにしても長野の冬は寒い。一般に気温は、高度が100m上がるごとに0.6℃降下すると言われている。
標高700mほどの清澄であれば東京より4℃くらいは低い計算になるわけだが、周囲の人気の無さが体感に拍車を掛けているのは確かだろう。
そんなことはもとより百も承知ではあるが、やっぱり寒いものは寒くて、

淡「うぅ、今年はいつもより冷えるね......」ブルブル

照「東京育ちはこれだから......」ヤレヤレ

淡「テルは寒くないの?」

照「全然大丈夫」ドヤァ

照「それにこの辺りは雪もあまり降らないし。北信に行くとこの時期でも―――」

したり顔で語るテルの顔は赤らんで白い息を吐き、よく見ればカタカタと小さく震えている。やっぱ寒いんじゃん。
16 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/21(木) 18:54:53.14 ID:VtKT70Eh0
目的地に着いたのは、寒い寒いと言い続けたせいで余計寒くなったような気がした頃のことだった。
山脈に挟まれた平野を田畑が埋め尽くす中にぽつんとできた、わずか十数戸の小さな新興住宅地。
もう何度も訪れた場所ではあるが、念の為『宮永』という表札が掲げられているのを確認してからインターフォンを鳴らす。

ピンポーン

淡「.........」

照「出ないね」

淡「居ないのかな?」

照「連絡してあるし、そんなことはないと思うけど......」

淡「うーん......?」ピンポーン

照「......」

淡「......」

照「......」

淡「............あーもう、イライラする」ピンポーン ピンポーン ピンポーン

照「ちょっと淡、やめなよ」

淡「いーじゃん別に。アイツが出ないのが悪いんだから」ピンポンピンポンピンポン

照「......はぁ」

淡「早く開けろぉぉぉぉ―――」ガチャッ


京太郎「はーい!!お待たせしました!!!!」
17 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/21(木) 18:55:34.75 ID:VtKT70Eh0
扉を開けて出てきた男は顔こそ明るく装っているものの、声色には隠しきれない苛つきが浮かんでいた。
でもこっちだって待たされたしお相子だろう。いや、3:7くらいでコイツの方が悪いよね。

京太郎「―――って、あぁ」

照「京ちゃん、久しぶり」

京太郎「照さん。お久しぶりです」

京太郎「......げっ、淡までいやがる」

淡「この淡ちゃんが来てやってるのに『げっ』とはなんだ!キョータローのくせに!」

京太郎「アラフォーが自分のこと『淡ちゃん』なんて言ってんじゃねーよ」


私、大星淡と須賀京太郎にとって、それは三年ぶりの再会だった。
18 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/21(木) 18:57:01.97 ID:VtKT70Eh0
――― 宮永邸 リビング


久し振りにやって来たこの家の模様は殆ど変わっていなかった。いくつかの家電が新調されているものの、総じて小奇麗に整頓されている。
彼女がマメな性格で本当によかった。学生時代のキョータローは部室こそ率先して綺麗にしていたが、自分の部屋については結構適当な気立てだったはずだ。

淡「鳴らしたらすぐに出てきてよー」ボリボリ

京太郎「仕方ないだろ。寝てたんだ」

淡「怠慢」ボリボリ

京太郎「たまの休日なんだから別にいいじゃねーか......」サクッ

京太郎「あ、これめっちゃ美味い」

『バターサンド』を一口齧ったキョータローが思わず声を上げる。
元々は東京ばな奈を所望されていたらしいが、結局テルはデパ地下で一時間近く悩んだ挙句にこちらをお土産として選んだのだった。
だが一方の当人はと言えばそれに何か相槌を打つこともなく、いかにも妬ましそうにキョータローの顔をまじまじと見つめていた。

京太郎「照さん、俺の顔にゴミでも付いてますか?」

照「いや......京ちゃんは本当に老けないなって」モグモグ

京太郎「あー、そりゃどうも。特に何かやってるわけじゃないんですけどね」モグモグ

淡「テルだって全然若いじゃん」ボリボリ

自分で言うのは憚られるが、私だってまだ色んな人から三十代前半くらいには間違えられる。いやいや、社交辞令じゃなくてマジで......たぶん。
不老不死が三大プロ麻雀界ミステリーの一つであるというのはそこそこ有名な噂だ。
19 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/21(木) 18:58:00.06 ID:VtKT70Eh0
京太郎「不老不死ってのは流石に冗談にしても、実年齢より随分若く見える人はかなりいるな」

淡「小鍛治さんとか明らかにおかしくない?」ボリボリ

淡「ひょっとして和了るたびに若さとか吸い取って―――むぐっ」

照「淡、そのくらいにしておいたほうが良いよ」

淡「......!」コクコク

京太郎「というか淡、お前お菓子食べすぎ」

京太郎「あいつの分が無くなるだろうが」

淡「ちぇーっ」

十五個入が二箱もあるんだから少しくらい良いじゃないかとは思ったけど、私もいい年の大人だしここは素直に引くことにしよう。
もっとも、私に釘を刺すキョータローの目を盗んでテルが五個目をくすねた瞬間を見逃すことはなかったけど。
20 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/21(木) 18:59:25.37 ID:VtKT70Eh0
話題は絶えることもなくコロコロと変わり、昨日あったという昇進祝いの話やテルが優勝した話など最近の出来事を遷っていく。
そして最終的には私が結婚できないという話に落ち着くのが、この面子で集まった時のお決まりなのだ。

淡「私が悪いんじゃないもん!そもそも私に―――」ギャーギャー

京太郎「本当に難儀なやつだな、淡は」

照「今年で42歳だっけ?人生諦めが肝心だよ」

淡「まだ41だよ!世間じゃ晩婚化がなんとかって言われてるしまだまだ.........あれ、でもそういえば来週誕生日だったような」

京太郎「アラフォーはアラフォーでも、とっくに四十路に入ってる方のアラフォーだもんなぁ」

淡「キョータローだって同い年じゃん」

京太郎「ああ、そういやそうだった」ケラケラ

淡「むぅ」

年齢の話になるとどうしても二人には負ける。キョータローは別にいい。男だし既婚だし、子供もいるし。
しかしテルは私と同じ行かず後家仲間にもかかわらず焦る素振りの一つもなく、もう諦めている様子なのだ。
それが良いんだか悪いんだかはともかくとして、この余裕そうな態度に接すると何ともやるせない気持ちになってしまう。

淡「あーもうむしゃくしゃする!麻雀打ちたーい!」

京太郎「そんな事言ったって三麻しか出来ないじゃねーか」

淡「えー?別に私はそれでもいいよ」

京太郎「俺は気が乗ら 淡「ねぇねぇテルー、麻雀したいんだけどさー」

京太郎(人の話聞けよ)

淡「一緒に三麻やろうよ」
21 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/21(木) 18:59:54.40 ID:VtKT70Eh0


照「............」

22 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/21(木) 19:00:51.38 ID:VtKT70Eh0
淡「......テル?」

照「......えっ?ああ、ごめん」

照「ええっと.........私も京ちゃんに賛成かな」

淡「がーん、麻雀出来ないじゃん」

京太郎「残念だったな」

淡「ぐぬぬ、もう一人いれば......まだ帰ってこないの?」

京太郎「そろそろだと思うんだが」チラッ
23 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/21(木) 19:01:21.54 ID:VtKT70Eh0
キョータローの仕草に釣られるままに私とテルの目線が部屋の壁に掛けられた時計へ向けられた。
彼の趣味なのかはたまた彼女の趣味なのか、やけに前衛的で読み取りづらいそれはどうやら十五時前を指しているらしい。

まるで待ちかねていたかのように、遠くで何者かが扉を開ける音がする。

そして―――
24 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/21(木) 19:01:58.68 ID:VtKT70Eh0
「ただいまー!」


彼女が帰ってきた。
25 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2021/01/21(木) 19:05:42.96 ID:VtKT70Eh0
京咲か京淡か京照かの何かしらになる予定です

不定期更新で適当に進めるつもりなのでよろしくお願いします
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/21(木) 20:12:28.49 ID:dW6UOt+10
おつおつ
探索者の人かな、期待
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/22(金) 00:47:38.00 ID:ShRCTkfS0
乙です
予告が予告だっただけになんだか不穏な気配が
いきなり大きな分岐点の安価だったのでは
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/22(金) 06:10:38.07 ID:wDnkvMXc0
不確定だった部分が名前を呼ばなかったことで、って感じ
何はともあれおつ
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/01/22(金) 07:49:39.42 ID:42+r1qCC0
おつおつー
30 : ◆copBIXhjP6 [sage]:2021/01/24(日) 04:20:53.70 ID:lISAVCs00
>>26 ですです

>>1の前作的な何か:
【咲安価】京太郎「清澄の探索者」【ADV】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1598802109/

ということで投下
31 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/24(日) 04:22:38.32 ID:lISAVCs00
彼女が靴を脱ぐ音が聞こえる。立ち上がって式台を踏みしめる音が聞こえる。一歩二歩と、確かに彼女が近づいてくる音が聞こえる。
廊下とリビングを隔てるドアノブが捻られるのを目の当たりにして―――何故か身をこわばらせる私の心音が聞こえる。
扉が開かれるまでにその理由が見つかることはなかった。


明「うぅ、寒かった......」

淡「おーよしよしメイ、元気かい?」

大丈夫、ちゃんと受け応えできてるっぽい。

照「明、久し振りだね」

明「お二人ともいらっしゃい」

明「淡さんも来てたんですね。それなら教えてくれればよかったのに」

淡「あははー、ゴメンゴメン」

京太郎「淡、毎回言ってるけど来る時は連絡してくれよ。色々と用意があるんだからさ」

淡「別に気にしなくていいのに」

京太郎「そういう問題じゃないんだけど......」

明「それお土産?私も食べたいなー」

そう言って放り投げられた鞄とコートが二次曲線を描き、危なげもなく無事ソファに着地する。
メイは私たちの囲む食卓へ腰を下ろすと、箱に入った小さな包装の一つに細い腕を伸ばして、

明「結局違うの買ってきたんだね......あ、これ美味しい」

照「でしょ?」フフン

京太郎「なんで照さんが威張るんですか」

照「私が選んだから」

淡「さてと、メイも帰ってきたし半荘打ちますか!」

京太郎「却下」

照「お父さんだって迎えに行かないといけないのに、そんな時間ないよ」

淡「なんでよ!面子集まったのに!」

京太郎「三麻が嫌だとは言ったけど、別に四麻なら良いなんてこれっぽっちも言ってないぞ」

淡「」

宮永京太郎、決して許すまじ。
32 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/24(日) 04:23:34.06 ID:lISAVCs00
明「あっ、そうだ!お姉ちゃん」

照「なに?」

明「先月の雀聖戦おめでとう!!ネットで対局見てたけどすごかったね!!」

照「う、うん。ありがと」

明「特に準決勝のオーラスなんて―――」ペラペラ

矢継ぎ早、目を輝かせて語るセーラー服の少女にテルは完全に気圧されていたが、それでも何処か嬉しげだ。
こういう快活で外交的な性格は父親に似たのだろうか?もっとも少しオタクっぽい気質は正しく彼女のものだし、何よりその外見は......

淡「メイってさ。こうしてキョータローと並ぶと本当にサキそっくりだね」

京太郎「何のことだ?」

淡「は?」

京太郎「咲にそっくりって、言ってる意味が――――――」


そう言いかけて彼の動きはぴたりと止まった。

まるで、歯車が壊れてしまった機械仕掛けのように。
33 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/24(日) 04:24:11.04 ID:lISAVCs00
照「京ちゃん大丈夫?」

京太郎「.........すみません、目が霞んで。明、目薬ってどこだっけ?」

明「目薬なら洗面台の鏡の裏に入ってるよ」

京太郎「そうだったそうだった。いやー、最近物覚えが悪くて困ったもんだ」

明「しっかりしてよね、お父さん」

京太郎「わかってるよ。ちょっと取ってくる」ガタッ スタスタ

明「まったくもう......それで、何の話でしたっけ」

淡「えーっと、メイがサキに似てるよねって」

明「そうなんですかね。いまいちピンとこないけど......」

間もなくキョータローが帰ってくると話はそろそろ出発しようかという方向に纏まり、椅子にかけてあった上着に袖を通した。
普段カジュアルに済ませてしまう私は黒のスーツなんて滅多に着ない。それこそ今日くらいのものだろう。
34 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/24(日) 04:25:28.85 ID:lISAVCs00
――― 『宮永邸』 玄関


キョータローの運転で走ること数十分。見えてきた一軒家は表札に記された名字こそ同じものの、彼のそれと外見は全く異なる。
その玄関先に立つ老人はしばらく辺りをキョロキョロしていたが、こちらの車に気がついたらしく軽く手を振ってきた。

京太郎「お義父さん、お待たせしてすいません」

界「いやいや、このくらい訳ないさ」

界「淡さんは久し振りだね。最後に会ったのはいつだったっけ」

淡「カイさん、私が前に来た時入院してたよね?ってことは五年ぶりくらいじゃないかな」

界「そんなに経つのか。歳を取ると時間感覚が分からなくなるってのは本当だなぁ」

照「お父さん、体調は大丈夫なの?あんまり良くないって聞いてたけど」

界「肺の話か?ちょっと前まではだいぶ悪かったけど、吸うのを止めたらさっぱりだ」

照「もっと早く禁煙すれば良かったのに」

京太郎「お義母さんは昨日行かれたんですよね」

界「愛は忙しいからな。早朝に松本空港まで送っていったから、今頃モスクワ行きの機内だろうさ」

界「......みんなと行けなくて、残念がっていたよ」
35 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/24(日) 04:26:44.69 ID:lISAVCs00
――― 宮永家菩提寺 墓地


『観自在菩薩行深般若波羅蜜多時―――』


私は宮永家がどの宗派なのかは知らないし、キョータローが冊子片手に読み上げてるお経の意味は露ほども理解できてはいない。
そもそもこの行為に意味はあるの?輪廻転生とか死後の世界とか、そんなこと生きている私たちにはわかりっこないのに。
.........少なくとも私がここに来た理由は彼女を弔うことであって、それ以上でもそれ以下でもない。
親戚も居なければお坊さんも居ない、五人と一人の寂しい十三回忌だ。


明「......お父さん」

京太郎「......何だ?」

明「ここにお母さんがいるんだよね」

娘が問いかける。もう何度も繰り返してきたことだろうに、何を今更疑問に思うことがあるのだろうか。

京太郎「ああ、そうだよ」

明「......私、もう覚えてないよ。お母さんの顔」

京太郎「.........仕方ないさ」

父は答えた。
36 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/24(日) 04:28:34.52 ID:lISAVCs00
日が傾いてきた。いくらコートを着込んでいるとはいえスカートでは足元が冷え込み、こういう時ばかりでは男が羨ましく思えてしまう。
テルが突然切り出したのはそういった背景もあって、そろそろ帰ろうかという雰囲気になった頃だった。

照「京ちゃん、話したいことがある」

京太郎「構いませんよ」

照「......淡、お父さんと明を連れて先に帰って」

淡「いいよ。でもテルとキョータローはどうするの?」

照「電車で帰るから大丈夫。京ちゃんもそれでいい?」

京太郎「俺は何でもいいですよ。淡、これ車の鍵な」チャラッ

淡「......聞いちゃダメなのかな」

照「淡」

淡「.........なーんてね!淡ちゃんもう大人だから、そーゆーの弁えてますよ」

淡「メイ、カイさん!帰りにお寿司買って帰ろ?キョータローのおごりだよ」

明「家計がカツカツになって困るのは私なんだけどな......まあいっか」

界「えっ、ちょっと待ってくれ。一体何の話―――」バタン
37 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/24(日) 04:29:59.14 ID:lISAVCs00
――― 長野県内 県道


明「淡さん」

淡「ん?どーしたの、メイ」

メイは私のことを少し避けているような気がする。
麻雀の相談ならテルの方が的確なアドバイスが出来るし、それ以外のことならキョータローに話せばよい。
私は親類でもなければそこまで頻繁に会うわけでもないのだから、彼女にとっては対応に困る部分もあるのだろう。
私にとっては親友たちの娘であり、生まれた瞬間からその成長を見守ってきた自分の娘同然の存在でもある。だからそんな現状を物寂しく覚えていたのだけど......
ともかく、メイが自分から私に話しかけてくるというのはちょっと珍しいことだった。

明「あの、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

淡「あはは、そんな前置きいいよ。何でも言ってごらん?」

明「お父さんとお姉ちゃん、やっぱり私のことですか」

淡「.........ま、そりゃそーなるか」

狭い山道の向こうから対向車がやって来た。一度車体を路傍に寄せて相手が通り過ぎるのを待つ。
バックミラー越しに見るカイさんの皺が増えた顔は、いつの間にか静かな寝息を立てていた。
38 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/24(日) 04:32:10.19 ID:lISAVCs00
十二年前―――メイが母親を失った直後にはキョータローもずいぶん参った様子で、私とテルは残されたメイを何かと気にかけていた。
まだ小学生にもならないメイを助手席に乗せて大阪まで遊びに行ったのは、つい昨日のことにすら感じられる思い出だ。
しかし今私の横に座る少女はもう高校一年生、私と『彼女』が初めて会った時と同じ歳になっていた。

淡「ごめんね、私も全然わかんないや」

淡「でもそうだとしても大した事じゃないと思うよ。教育方針がどーとかこーとかそういう話じゃないかな?」

淡「キョータローはその辺適当だからさ、テルも結構メイのこと気にしてて―――」

嘘だ。テルがそんなことのために、キョータローとわざわざ墓地なんかで立ち話をしようとするだろうか?余程聞かれたくないことでもあるのか。


 「お前が咲を見殺しにしたんだ!!!!」

 「違うんです、照さん!俺は......ならどうすれば良かったっていうんですか!」

 「そんなこと知らない!お前が殺した!!お前が咲をッ!お前がッ!お前がぁぁぁぁぁああああッ!!」

 「テル、やめて!!ちょっと落ち着いてほら......キョータロー、大丈夫?」

 「照さん......俺、だって.........」

 「俺は............」

 「......きょうた、ろう.........」


―――嫌な記憶が思い起こされる。あの日も私たちは皆黒い服を着ていた。
39 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/24(日) 04:33:37.17 ID:lISAVCs00
こんな口から出任せを吐いたところで私の気は休まらない。
でもそんな本当の事をメイに言えるはずもなく、

淡「だから放っといて大丈夫だよ」

明「......そうだよね」

明「最近の京ちゃん、疲れてるみたいだったから心配で......」

淡「―――ッ!!!!」


「おい、危ねーぞ!急に止まんじゃねえよ!」




淡「メイ.........今、なんて言ったの」
40 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/24(日) 04:35:15.00 ID:lISAVCs00
私がその事実に気づいたのは今年の夏。
インターハイ関連の仕事が粗方片付いて、盆休みを取った時のことだった。


【8月中旬】


――― 宮永邸


明「ふぁぁぁ......おはよー......」

照「おはよう、お寝坊さんだね」

明「......あれ、私ったら寝ぼけてるのかな」

京太郎「やっと起きたか。これから素麺茹でるけど食うか?」

明「お父さん、縁側に照お姉ちゃんがいる気がするんだけど」

京太郎「あぁそれか。昨日、お前が寝た後に押しかけてきてな」

明「寝た後って......私、昨晩二時くらいまで起きてたよ」

京太郎「中央道を夜通し突っ走ってきたんだとさ」

照「ぶい」ピース

明「お姉ちゃんが夜中に高速!?だ、大丈夫?事故とか起こさなかった?」アセアセ

こう見えても仕事で運転する機会だって結構あるのだ。しかもドライブは私の密かな趣味で、休日は愛車と共に小旅行に行くことだってある。
フレンドリーなのは良いことだけど、この子は私を何だと思っているんだろう......
41 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/24(日) 04:37:01.90 ID:lISAVCs00
結局京ちゃんがお中元で貰った分を一箱全部茹でたので、食卓には山盛りの素麺が並ぶことになった。

照「インハイお疲れ様、明」

明「お姉ちゃんこそ解説のお仕事大変だったでしょ」ズズッ

照「私は二回戦までだったし......決勝、凄かったんだってね。牌譜見たよ」

京太郎「あの点差のまくりだもんなぁ。まるで藤田さんみたいだったぜ」ズルズル

明「正直自分でも怖いくらいだよ......普段の私だったらあんな打ち方絶対にしないのに」

明「結局運が良かっただけだし、何だか申し訳ないなって思っちゃって」

照「運も実力のうち。プロだってそうだから大丈夫だよ」

明「そんなものかな......お父さん、錦糸卵ちょーだい」

京太郎「はいよ。しかしテレビで観てたけどオーラスは本当に凄かった」

京太郎「年甲斐もなく泣いちまったよ」

明「老けただけじゃないの?」

京太郎「ぐっ、そういうことを平気で言う娘を持って父さんは悲しいぞ......」

「年齢の話をするのは私への攻撃にもなってるんだけど」と言いたいのを飲み込み、薬味の浮いたつゆにくぐらせた白い麺を啜る。
この夏、京ちゃんは「仕事が忙しいから」と言って東京に来なかった。その真偽は甚だ疑問ではあるが、どちらにしても仕方のない話だろう。
42 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/24(日) 04:37:59.04 ID:lISAVCs00
.........ふと、明が食事をする所作に意識が向いた。箸を右手に持っていたのだ。
私の記憶にある限り彼女は生来左利きで、特別右手を使わせるような矯正を咲がしていた覚えはない。今更になって京ちゃんがそんなことを強要することもないだろう。

明「大体なんでこんなに茹でちゃったの?私もう飽きてきたんだけど」

京太郎「そう言うだろうと思ってたよ。前買ってきたトマト、まだ使ってないよな?」

明「トマト?」

京太郎「そうそう。トマトを切ってツナ缶と混ぜるんだけどさ、これが中々......」
43 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/24(日) 04:39:06.14 ID:lISAVCs00
【夜】


明「ちょっと前まであんなに麻雀してたのに、帰っても麻雀なんて......はぁ」カチャカチャ

京太郎「じゃあ止めるか?」

明「やる」

京太郎「麻雀ジャンキーめ......おっ、悪くない配牌」

明「お父さん!シャミるの行儀悪いよ」

京太郎「へーへー」

照(やっぱり右手で打ってる......)

私は一日中明を観察し続けた。彼女は右手でペンを走らせ、右手でうちわを扇ぎ、そして今も右手で牌をツモっている。
この些末事に対する疑問を抑えることは私には最早不可能だった。

照「ねえ、明」

明「なに?デザートなら冷蔵庫に入ってるけど、選ぶ権利は着順だからね」

照「そうじゃなくて。明って左利きじゃなかったっけ」

照「ご飯の時に右でお箸を持ってたし、今も右手で打牌したよね」

明「えっ?.........確かに、言われてみればそうかも」

照「両利きのトレーニングでもしてるの?ひょっとして部活で強要されてるとか」

京太郎「んな時代錯誤な......いや、作戦のためならあの人はやりかねないな」

明「さ、さすがに先生もそこまで言わないよ!」

京太郎「ならどうして?」

明「どうしてって言われても......えーっと.........」

彼女はしばらく考え込むように黙りこくっていたが、結局は首を横に振った。
利き手についての話がそれ以上話題に上ることはなく、明自身と京ちゃんはすぐに興味を失ったようだ。
44 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/24(日) 04:40:19.19 ID:lISAVCs00
【二時間後】


照「ツモ、6000オールは6600オール」

京太郎「げーっ、勘弁してくださいよ」チャラッ

明「なんで10万点持ちなんて言っちゃったんだろう......はい」チャラッ

京太郎「この調子で夜が明けなきゃいいがな」

照「次いくよ」ピッ ウィーン

オーラス七本場。次は三倍満以上だから手はずっと重い筈なのに、こういう日に限って何故かツキが回っている。
そういえば高校生の頃、菫に頼まれて部室で夜通し打ったこともあったっけ......しかし『夜更しは肌の大敵』という言葉の意味は十年以上前からよく理解しているのだ。
和了止めしよう。この手を気持ちよく和了って今日はおしまい。深夜一時前を指す腕時計と、手の中で育っていく索子の九蓮宝燈を見て私はそう思っていた。


十二巡目に四枚目の一索を引き入れて嵌二索待ち聴牌。この二人からは絶対に出ないけど......二巡もあればツモれるだろうと確信した私が、


明「.........カン」


九萬を切った直後だった。

京太郎「大明槓?」

如何にも眠たげな明が、そのあまりに弱々しい右手で私の河から牌を取り上げる。
そしてそれは流れるように王牌へと伸ばされて―――
45 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/24(日) 04:41:00.70 ID:lISAVCs00



咲「ツモ、嶺上開花」


照「.........!」


46 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/24(日) 04:41:36.17 ID:lISAVCs00
明「えーっと、400-700かな」

京太郎「七本場だから1100-1400だな。ほら」チャラッ

照「.........」チャラッ

明「そうだった......ふぁぁぁ、やっと終わったよ......」

京太郎「眠いか?」

明「うん.........私もう寝るから、デザートは適当に選んじゃって」

京太郎「おう。歯磨きはちゃんとしろよ」

明「そのくらいわかってるよ。おやすみー」スタスタ

京太郎「あぁ、おやすみ」

京太郎「ふぅ.........あいつはシュークリーム好きだし、俺はどら焼きでも食うか」

京太郎「照さん、今からお茶淹れますけど飲みますか?」

照「............要らない。私ももう寝るから」

京太郎「......もう寝るんですか」

照「うん」

京太郎「そっすか。おやすみなさい」

照「おやすみ」
47 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/24(日) 04:43:05.30 ID:lISAVCs00
【現在】


――― 宮永家菩提寺 墓地


京太郎「つまり何が言いたいんだ」

京太郎「明が母親の......咲の真似をしてるってことですか」

照「ううん、あれは『咲の真似』なんかじゃない。『咲』そのもの」

京太郎「.........すみません。俺にはあなたの言ってる意味が本当に解らない」

京太郎「明は明だ。それ以外の何者でもないし、ましてや咲そのものってどういうことなんだ」

黒のネクタイを締めた黒のスーツ、黒のコートを身に纏った義理の弟の顔には明らかに苛立ちが浮かび上がっていた。
理解できない苛立ちだろうか。理解してしまったが故の苛立ちだろうか。彼は白髪の混じり始めた金髪を掻き毟って、

京太郎「............火、忘れちまった」

照「はい」スッ

京太郎「いいんですか?嫌いなのに」

照「頭がスッキリするんでしょ。真面目に聞いてもらえないと困る話だから」

京太郎「そんなのまやかしだ、ってよく言いますけどね......ふぅ」

私は線香用に持ってきていたライターを懐から差し出した。
『タバコを吸えば目が覚める』というのはまやかしで、真っ赤な嘘であるという主張は妥当なものだ。
ニコチンが欠乏したせいで途切れている集中力が喫煙によって本来のレベルまで回復するだけで、決して元の能力より集中力が向上するわけではない。
しかし少なくとも彼がこうして続きを聞くつもりになってくれたのは、紛れもなくその口元から燻る紫煙のお陰だろう。
48 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/24(日) 04:44:38.69 ID:lISAVCs00
京太郎「あの日のことは覚えてます。そりゃ確かに嶺上は滅多に和了れないけど、俺だって一年に数回はありますよ」

京太郎「眠かった明はどうにかして照さんの連荘を止めたかったんでしょう」

京太郎「聴牌してたところに四枚目が出たから、運試しくらいの気持ちでカンしてみた。そしたら偶然和了れた」

京太郎「それだけの話じゃないですか」

照「違う。それじゃあ急に右利きになった説明がつかない」

照「第一インターハイの決勝......あのオーラスも『偶然』で片付けるつもり?」

京太郎「.........当たり前ですよ。麻雀は運が絡むゲームなんだから」
49 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/24(日) 04:45:45.99 ID:lISAVCs00
照「あの雰囲気は絶対に明じゃない。咲だ」

照「明のオカルトは么九牌でしょ?あんな、まるで王牌を知り尽くしているような立ち回りを出来るはずがない」

照「あれは咲だったんだよ」

京太郎「俺にはそんなもの全然感じ取れませんでしたけどね」

照「それは京ちゃんには―――」

京太郎「―――俺にはオカルトの才能が無いから、ですか?」

照「.........うん」

京太郎「照さんの言う通り俺にオカルトは分からない。でもだからって、そんな事あるはずが.........」

京太郎「............照さん」

照「何?」

京太郎「もう、帰りましょう」

照「......わかった」

京ちゃんが煙草をまた吸うようになってどれくらい経つのだろうか。
明の誕生と同時に禁煙したはずだったが、あの事故の後に初めて赴いた時にはベランダの灰皿は一杯だった。

京太郎「.........咲、また来るよ」

墓地を出ようとした京ちゃんは突然振り向き、墓碑に刻まれた名前を一瞥した。
そしてもう一度振り返って元の道を歩き始めると、私はその後を追った。
50 : ◆copBIXhjP6 [sage]:2021/01/24(日) 04:47:57.09 ID:lISAVCs00
今回はここまで
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/24(日) 11:24:22.56 ID:j4UveGj20
深夜に乙です
やはり暗い部分もある話になりそうだけど続きが凄く気になる
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/24(日) 21:08:19.30 ID:Rymn9ZQP0
おおう…こういう…
53 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/26(火) 18:42:18.04 ID:lkV5u9hc0
19時くらいから投下です
安価あります
54 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/26(火) 19:03:25.85 ID:lkV5u9hc0
アスファルトで塗り固められた山沿いの道を下ると、住宅街が見えてくるまでにそう時間はかからなかった。
県内でも五本の指に入るこの街は決して大都市ではないし大きな商業施設があるわけでもない。しかし活気がある。
二車線の車道を何台も自動車が走り去る。日の暮れと共に人家には明かりが灯り、居酒屋からは笑い声が漏れ出す。
向かいの歩道を学生の一団が駅に向かって歩いていくのを認めたとき、私は久し振りに生きた人間の営みを目にしたような気がした。

京太郎「さみー......おっ、自販機発見。コーヒー飲みますか?」

照「いいね。貰おうかな」

京太郎「ブラック飲めないんでしたっけ」

照「そんなことない。ブラックだろうがベンタブラックだろうがどんとこい」

京太郎「はいはい、ちょっと待っててくださいね」スタスタ

清澄の風景を思い出す。淡と二人で田舎道を歩く間、私たちはたったの一人にも会うことはなかった。
隣を何台かの車が通り抜けていったけど、そこには会話や表情、意志の疎通は存在しない。
中に誰かが乗っていて車を運転しているはずなのに、生きる人間の存在を認知することはないのだ。

京太郎「お待たせしました。ブラックとカフェオレ、どっちがいいですか?」

照「ブラ............やっぱりカフェオレで」

京太郎「はいどうぞ」ニヤニヤ

照「......言っておくけど、別にブラックが飲めないわけじゃない」

照「どちらかといえばカフェオレの方が好きなだけだから」

京太郎「分かってますよ」

京ちゃんはどうして清澄に家を建てたのか。
何故私の両親の助けも借りることもなく、彼の両親と共に住むこともなく、明と二人きりで暮らすことを決めたのか。
こうしておちゃらけた様子を見せる彼は初めて知り合った時のままだ。
55 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/26(火) 19:05:15.03 ID:lkV5u9hc0
他愛もない会話を交わしながら地下道を通って駅の南側へ渡る。
そういえばこの駅前には思い出のレストランがあるんだった。私が子供のころ、祝い事なんかの折にはわざわざ家族でここまで来たっけ。

照「ちょっと寄り道してもいいかな」

京太郎「いいですよ。何か用事でも?」

照「昔よく行ってたお店がこの辺にあるんだけど、まだ残ってるのか見てみたくて」

大通りを歩きながら、最後に食事をしたのがいつだったか思い出していた。確か高校三年の冬、数年ぶりの帰省で咲と二人で行ったときだったろうか。
流石にもう残ってないよね......でも万が一残っていたらどうしよう。明日の昼あたり食べに来ようかな。

見覚えのあるレンガ調の建物が見えてきた。記憶が正しければ、ここの地方銀行の裏手にその店はあったはずだ。
パンプスを履いているのも忘れてだんだんと歩みが速くなっていく。この角を曲がれば―――

照「.........あ」

京太郎「ここですか?」

照「...............違った」

もう三十年も前のことだ。なくなっていても全然不自然ではないし、別に私の人生に影響のある話でもない。
私たちは踵を返して、そそくさと駅へ向かった。
56 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/26(火) 19:06:26.45 ID:lkV5u9hc0
切符を買ってホームに出ると、ちょうど列車が到着して中の乗客を吐き出しているところだった。誰も居なくなったボックス席に腰を落ち着ける。
風越女子の生徒が何人か乗り込んで来た頃、列車は少しずつ動き始めた。

照「そっか。風越ってここが最寄りなんだっけ」

照「ひょっとして麻雀部の子なのかな」

京太郎「もしそうなら『トッププロがこんな所にいるぞー!』って大騒ぎになりますね」

照「流石にないよ。私、そんなに知名度ないし」

京太郎「いやいや、照さんは有名人ですよ?麻雀に疎い会社の同僚ですら知ってますから」

京太郎「強豪校の部員が知らないわけないでしょ」

照「そしたら京ちゃんだって有名人じゃないの」

京太郎「......今時、俺を知ってる人なんて何処にもいませんよ」
57 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/26(火) 19:07:36.17 ID:lkV5u9hc0
都会の電車と違って風景がゆっくりと流れていく。曲がりくねった線路だからあまりスピードが出せないのだ。
しばらくは住宅街を通っていたが、やがて枯れ木のトンネルが車窓を埋め尽くすようになった。

照「麻雀、好き?」

京太郎「そりゃもちろん。好きじゃなきゃこんな人生辿ってないでしょ」

照「じゃあ、咲と麻雀ならどっちが好き?」

京太郎「......おかしいですよ。今日の照さん」

照「プロを辞めた時だって、実業団を辞めた時だって。いつもあなたはそうだった」

照「大好きな麻雀を続けることなんて幾らでも出来たのに、ずっと咲から逃げてきたんだ」

照「これからの人生も咲に囚われ続けるつもりなの」

京太郎「そんなこと......!」

照「『そんなこと』って、どんなこと?」

京太郎「......自分で全部決めたんだ。咲に囚われてなんかいない」

京太郎「咲は死んだし、俺は生きてる。それだけのことですよ」


『対向列車待ち合わせのため一時停車いたします』


照「京ちゃん、一つ提案があるんだけど」

京太郎「なんですか」

照「あのさ――――――」
58 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2021/01/26(火) 19:08:48.06 ID:lkV5u9hc0
1. プロに戻ってこない?

2. 結婚しない?


↓3まで多数決、無効下
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/01/26(火) 20:15:32.93 ID:OKrcCude0
2
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/26(火) 20:44:46.55 ID:8xcqQ0kT0
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61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/01/26(火) 20:53:43.84 ID:bnMXFTyK0
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