パ二グレss 指揮官「結婚することになった」

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13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/13(水) 23:13:21.44 ID:tyvBFTZkO
>>12
中学生だけど普通に見るぞ
僕だけかもしれんが
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/14(木) 21:29:10.51 ID:08Ool1XX0
>>13
教えてくださってありがとうございます
簡単に勇気づけられました
素晴らしい!
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/14(木) 23:09:15.08 ID:08Ool1XX0
科学研究室前

指揮官「私は、果たして間違っているのだろうか」

アシモフ「俺に言うな、あんたの決断だろう」

不機嫌そうに、手を振った若き科学者アシモフ。彼が朝早くから、研究室で不可思議な数式とにらみ合っていたところを、話しかけてみた。

なぜなら彼が、私の頭の中にいる住人について、もっとも詳しいと言えるだろうから。

指揮官「客観的な目線が欲しくなったんだよ。私が知っている中で、君はもっとも理知的で、パニシングウイルスに明るいからね」

アシモフ「褒めてるのか、それは」

指揮官「勿論だ」

アシモフはため息をついた。

アシモフ「俺は、可能性の話をしただけだ。お前の全身のパニシングウイルスが信号を発して、昇格者と不思議な線を繋いでいる。
目には見えないが、ある意味お前の隣に昇格者が立っていると言っていい。そして、ウイルスが発している信号の種類はまだ解析が済んでいない。だが、ある種の情報を含んでいることは十分に考えられる」

指揮官「それが、私の記憶という可能性だな」

アシモフ「心あたりのあったお前は、私に相談したが、どうすることもできない。

もし、本当にパニシングウイルスを止めたければ、お前ごと殺すしかない」

指揮官「よくわからないものに殺されるのはごめんだ」

アシモフ「なら指揮官をやめるというのは、妥当な線だろう。お前は、代わりに指揮官としての記憶を司令部に永遠に預けることになるが、死ぬことはない。だいたいエデンで暮らすのに、戦争の記憶は必要ない」

そのとおり、わたしが指揮官を辞めれば、指揮官でいた記憶を司令部に捧げなければならない。それは指揮官になる前からあらかじめ分かっていた
ことだ。

戦争にまつわるいかなる情報機密も守らなければならない。

戦争に構造体がどのように使われ、死んでいくかなど、エデンの誰も知る必要はない。

人権が守られては、地球を取り戻せない。

とはいえ、指揮官になった時の私は、記憶を失うつもりなどなかった。

戦場に出る指揮官の死亡率は40歳代までに100%である。

私は、辞職する前に自分が死ぬと、思っていた。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/14(木) 23:10:18.36 ID:08Ool1XX0
一方で、エデンからロボットを派遣して、周りの構造体に遠隔命令を下す指揮官の死亡率は0である。

だが、実際は戦場に出なければ迅速に判断できないことがある。

ロボットを通してみる世界と、実際に見る世界ではやはり作戦効率が違う。

そして、かつて住んでいた地球に実際に足をつけて歩けることは、人間を惹きつけてやまないものだ。

指揮官「死ななくていい。それは俺にとっても、いいことのはずなんだ」

だけど、それでも私が悩むのは残された者たちがいるからだろう。

アシモフ「お前は構造体に思い入れがありすぎるんだ。言っておくが、構造体は自分たちの使命を理解しているぞ、お前よりよっぽどな」

冷たいナイフのような言葉が、刺さる。

指揮官「私のほうが理解できていない、その通りだな」

無理やり笑った。

アシモフ「分かったらさっさと帰れ。お前の仕事は部屋でセンチな会話をすることじゃない」

指揮官「アシモフ、ありがとう」

アシモフは細い腕で試験管を投げつけた。

アシモフ「もし、指揮官を続けるなら、それを飲め。最新の睡眠薬だ。変な夢も見づらくなるはずだ」

あれが夢でないと、アシモフは最も分かっているはずだ。

それでも夢と言ってくれたことに私は、感謝しなければならないだろう。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/17(日) 01:42:55.30 ID:QogjYIo0O
面白い
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/17(日) 21:23:48.95 ID:3fqL9RpU0
研究室から、作戦室へ戻ると扉の前に修羅のような形相のカレニーナが立っていた。

まるで、ご主人の帰りを待つ番犬、あるいは夜中まで帰ってこない夫を待つ嫁のようだ。

指揮官「おはよう、カレニーナ。ルシアなら、あと30分もすれば来るはずだ」

彼女のいつも通りならば、これからやってくるルシアに勝負をしかけるはずだ。

だが、カレニーナはそれを無視した。

カレニーナ「指揮官、いつもより遅かったじゃねえか。どこに行ってたんだ?」

指揮官「アシモフと少し話してきたんだ」

カレニーナ「…そうか」

カレニーナは、扉の前から動く素振りは見せない。

指揮官「カレニーナは、今日は非番の予定だっただろう?」

カレニーナ「緊急の任務が入った」

指揮官「?そんな急用の任務が入ったのか…えっ」

カレニーナは私の胸元をつかみ無理やり私をかがめさせた。

カレニーナ「話がある、ちょっと面を貸せ」

耳元でつぶやくと、カレニーナはぱっと離れて作戦室前の通路を進んで見えなくなった。

怒涛の展開に呆然とその様子を眺めていると、通路の先で怒声が聞こえた。

カレニーナ「手を繋いでやらないと、ついてこれないのか!」

カツカツと向こうからはや歩きでやってきたカレニーナは、私の手をひったくるとぷいと前を向いて歩き始めた。

なにもわからないまま、薄暗い通路を何本も通り、資材置き場としてしか使われていない空き部屋に連れ込まれた。

カレニーナは部屋の周囲に人がいないかを確認すると扉を閉めた。

未だに、手は繋がれたままである。

指揮官「カレニーナ、なにか不満があるなら喜んで聞かせてもらうよ」

カレニーナ「不満だ?オレは今回の任務は、本当に気に食わない。なにかもが急すぎるんだ」

カレニーナは苛立ちを隠さずに、靴を鳴らした。

指揮官「任務について、なにか問題があるのか?」

カレニーナは身体をこちらに向けた。ほぼ両者の身体が接触するような形である。

火薬の焦げるような微かなにおいと、甘酸っぱい柑橘類の香りが鼻孔をくすぐる。

カレニーナ「今回の任務は、【不穏分子の監視とその処分】だ」

カレニーナ「上は、今はただ監視しろと言ってきた。だが、万が一妙な動きを見せれば、これを起動させろってな」

いつの間にか彼女のもう片方の掌には、パチンコ玉ほどの大きさの灰色の球体が載っている。

カレニーナ「これが起動すれば、爆破と共に内部の無数の破片が飛び出して、周囲の人間を攻撃する。

1つ1つはたいしたことねえし、構造体にとってはほぼ無傷だろうが、ゼロ距離にいる人間なら内臓を傷つけられて即死だ」

カレニーナ「これを、指揮官の装備に取り付けるように指示された」
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/17(日) 21:26:53.78 ID:3fqL9RpU0
私の中で、急速に脳細胞が活性化して、思考が冴えわたる。

上層部の中で、私への不信感は募っているらしい。

ある程度実績を上げ始めた指揮官が急に昇格者への接触を理由に、指揮官の辞職を希望する。

そして、彼のいうことには、記憶を昇格者に抜き取られているとか。

正気を疑うのは、無理もない。だが、ここまで直接的な手を使うとは―――予想外だった。

さらに、カレニーナが私に告げるのはまずい。

カレニーナ「危険を冒してここまで、言ったんだ。指揮官もオレにも教えろよ。レイヴン隊になにが起きてんだ?」

指揮官「私が今回の任務で、指揮官をやめる。それだけだ」

カレニーナ「はぁ!?なんだよそれ、聞いてねえよ」

カレニーナ「オレが指揮官を守るんだ。オレの許可なく勝手なことをするなよ!じゃあ、どこの部隊に入るんだ?粛清部隊か?」

カレニーナは期待がこもった視線を私に向ける

指揮官「いや、私は軍部から足を洗う。つまり、エデンに戻ることになる」

カレニーナは身体をびくりと震わせた。

カレニーナ「……意味わかんねえ」

指揮官「---結婚するんだ」

カレニーナを中心に急激に高熱が噴き出す。触れている肌がちりつくような熱さ。

カレニーナ「ふざけんなっ!」

こうして、彼女から真っ向から、なにかを言われるのは、初めてだ。

大体、ビアンカや周りの人間が気をそらして、なだめるから。これがカレニーナのありのままの姿だ。

カレニーナ「オレたちを置いて、一人幸せになろうってか」

指揮官「そんなつもりはない。こうなっては、私以外の人間がより適正だということだ」

私は一歩下がると、カレニーナは一歩詰める。

カレニーナ「―――指揮官は、オレに色々教えてくれるって言ったよな。あれはウソか?」

指揮官「戦闘のことなら、カレニーナに教えられることはもうないよ」

カレニーナ「ちがう、オレが教えてほしいことは戦闘だけじゃない!」

カレニーナは私の手を、痛いほどに握った。

カレニーナ「指揮官!分かっているのに、適当なことを言うな!オレの気持ちだって分かってるんだろう!オレは指揮官に…!」

指揮官「カレニーナ、もう戻ろう。私は粛清対象だし、こうした行為は君の信用を失墜させるリスクがある」

カレニーナ「今更こんなリスクがなんだよ!オレは昔からそんなものを背負ってる!指揮官も、オレと同じものを背負ってるはずだ!地球を取り返すんだろ!?」

カレニーナの黄金色の瞳が、不安で揺れる。

カレニーナ「そのために―――オレはまだお前と歩き続けたい。お前とならできる気がするんだ」

私は、カレニーナの手から銀色の球体爆弾をつまみ上げてから、胸ポケットに入れた。

それは、今まで共に戦ってきたはずの人類からもらった、最期のプレゼント。

指揮官「カレニーナ、初めから私は君の横に立つ資格などなかったんだ」

運命の歯車は回りだした。もう止まることはできない。

私の指揮官としての役目は、もはや取り戻せない位置にあるのだ。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/17(日) 21:36:06.14 ID:Fljslppfo
おつ
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/17(日) 21:47:56.46 ID:38+yx0TtO
どうなってしまうんだ…
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/18(月) 18:32:19.91 ID:bFddqzyRo
カレニーナの狂犬と見せかけてただの大型犬なのよく表されててとてもよき……
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/18(月) 23:59:22.48 ID:U7pHuOmj0
作戦室

指揮官「皆、無事揃ったみたいだな。それではブリーフィングを始めよう」

場には、レイヴン隊の三名とカレニーナがいるが、誰も物音ひとつ立てない。

こんな雰囲気で始めるのは、ルシアが怪我によって一時的に抜けていた時以来だ。

そのルシアはようやく慣れてきた右腕の義手を、確かめるように何度も握りしめている。

私の視線に気づくと、さっと右腕を隠して、顔をそむける。

右腕を失った彼女の戦闘能力が以前に比べて明らかに落ちていることはデータとして挙がっていた。

だから、今回の任務は主に偵察、情報収集系のそれを選んだ。

指揮官「今回の任務は、先月衛星によって発見された塔に関する調査だ。

先月、衛星によって、基地の南を広がる大峡谷にとある塔が建築されつつあることが分かった。現在、地球はパニシングに覆われているが、気候条

件の幸運が積み重なってたまたま切れ間から映ったそうだ。」

私は一枚の衛星写真を、張り出す。そこに映っていたのは、無数の機械生命体によって覆われたつまようじのような細長い物体が谷の奥から覗いている。

リー「我々も遭遇した集団行動をとる機械生命体ですね。この塔には、昇格者が関わっている可能性があります。

そして、この物体は…一種の大砲にも見えますが」

指揮官「リーのいう通り、この件は昇格者が関わっていると考えていい。送った先遣隊のいくつかが壊滅したが

昇格者によるものだと判断されることがあった。そして、最も大切なことは、この物体の正体を見極め、次の作戦に繋げることだ。

そのために、カレニーナに参加してもらう。彼女の工兵としてのスキルは偵察にピッタリだからな。機械や化学方面に明るいリーと合わせて今回の作戦の要だ」

カレニーナは一瞬相好を崩したが、私を見るとすぐにふんっとそっぽを向いた。

リーフ「ルシア、リーフの両名はその援護と護衛を担当させて頂きます」

彼女は、ぺこりと頭を下げた。

指揮官「二人とも、よろしく頼む。特に任務中は通常よりも範囲を広げて索敵レーダーを張ってくれ。」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/19(火) 00:01:01.33 ID:eY8lwSRJ0
指揮官「そして、みんなになにより徹底してほしいことは、今回の目的は戦闘ではなく情報収集だということだ。戦闘になったら、常に脱出ルートを意識して動いてくれ。見て分かる通り、機械生命体の数は段違いに多い。これらを潰すのは、次の作戦になる。…ルシア?」

ルシア「指揮官、一つ確認させてください」

指揮官「どうぞ」

ルシア「先月の件で、片腕を落とした私の身を案じていただけるのは光栄ですが、任務中はお控え願います。私は、替えの利く兵隊です。余計な気遣いは、任務に差し障ります」

指揮官「勿論、私はカバーできる範囲で仲間を守りつつ、任務達成に全力を注ぐ。ルシア、君はこれまで通り、隊の先鋒として動いてもらうつもりだ」

ルシア「ありがとうございます、指揮官。今度は絶対に、遅れをとることはありません。

―――指揮官。どうかもう一度、私を信じてください。」

ルシアの表情は、硬く強張っていた。今度は絶対に失敗できないという自分に課した縛りのせいだろうか、あまりにも純粋で、壊れてしまいそうに見える。

指揮官「…【もちろんだ】」

ルシア、君は本当にあの夢の中ででてくる昇格者とこんなにも違う。

真面目で、頑固で、冷静だけど、優しい。

私は怖いんだ。

あの昇格者と剣を切り結ぶたびに、どちらが本当の君かわからなくなる。

あの昇格者の酷薄な嗤いと、君の笑顔が重なる―――。



視界の端から生まれた白い花びらが目の前を覆いつくし、意識を遠のいていく。

白ルシア「最後の任務かしら、指揮官」

指揮官「ああ、そうだ。ルシア」

白ルシアは、私の前で意味深に微笑んだ。

白ルシア「久しぶりに、家族以外にその名で呼ばれたわ。」

指揮官「どうして君たちはこんなにも似ているんだ?」

白ルシア「あの子の生まれた理由は、私と似ているから。似ているのは、当然」

指揮官「…分からない」

白ルシア「ひさしぶりに、気分がいいからひとつ教えてあげる―――指揮官、塔には近づかないことね」

指揮官「なぜ?」

白ルシア「死ぬから」

指揮官「そんなに恐ろしいことじゃないように思えるから、不思議だよ」

白ルシア「貴方以外の人類が、ね」クスクス

彼女は、バイクのエンジン音と共に消えていく。


指揮官「ぁ」

ルシア「あの…起きたならどいてもらえますか?」

ルシアの膝枕に寝かされていた私は跳ね起きた。

リー「全く、急に倒れたと思ったらルシアの服を掴んで離さなかったんですよ」

リーフ「…よかったような、よくなかったような気がします…」

私は、ルシアに謝ってからすぐに作戦開始の指示を出した、

不吉な予言が頭の隅でいつまでも鳴り響いている、
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/21(木) 12:09:56.25 ID:99ccycxcO
今月末は繁忙期で、毎日更新がかなり厳しくなって参りました。見てくださってる方に申し訳ありません。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/21(木) 13:10:51.55 ID:VVCarp+fO
お疲れ様
ゆっくりでいいので待ってます
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/25(月) 00:43:44.51 ID:tWM2qTQ70
人類至高の時代と呼ばれた、黄金の時代。核融合のエネルギーが制御され、私たちの生活を支えていた。

だが、パニシングは、前時代に築き上げたそれらを崩壊させた。

生物の細胞を浸潤し、壊し、再び風に乗って、殺戮を繰り返す。

やがて主人を失い、戦争の幾多の爪痕が残る建造物に待つのは、風化して砂となる運命である。こうして生まれた死の砂漠が点々と地球の表面に広がりつつあるのだ。

一方で、パニシングの汚染濃度が低い場所が存在することは分かっている。

独自の磁場を持ち一年中氷点下である極点や、地表よりも低い場所である。

レイヴン隊が向かう、大渓谷もその一つである。

大渓谷では、確かに人間以外の僅かな生体も確認されている。植物であったり、鹿であったり、肉食動物であったり。それは砂漠に浮かぶオアシスのような場所であろう。

逆に、その表面的な部分しか今まで読み取れてなかったのだ。その奥ではなにかが蠢いている。

リー「このまま予定通りいけば大渓谷には、明日の夕方に到着する予定です。それから、探索を開始します。そして、如何なる事態であれ、その日

の朝には、大渓谷から脱出します。これは夜陰に紛れての脱出が最も安全だからです。機械生命体の多くが、『視覚』に頼っていることがすでに明

らかとなっています」

作戦開始から約4時間、太陽が中道にかかり、不毛な大地を燦燦と焼いている。

私たちは、木陰で小休憩と作戦確認を行っていた。

指揮官「…」

リーフ「指揮官?」

私の横に座ったリーフが、小首をかしげる。

指揮官「うん?」

リーフ「どうかされましたか?さきほどから、若干恍惚状態にありますが」

指揮官「いや、パニシングを浴びると、時々こうなるんだ」

リーフ「すぐに抑制剤を打ちます」

全身を特殊な素材の装備で覆っているとはいえ、完壁ではない。

身体に被爆したパニシングは、皮膚障害や視覚障害を引き起こしながら徐々に内部に溜まっていく。それは、ある意味爆弾だ。

長くパニシングに晒されていればいるほど、より導火線が短くなる爆弾。

40代までに死ぬ確率100%である理由は、戦闘による殉職だけではない。

パニシングによってゆっくりと寿命と能力を削られていく。

一方で私の、後継の指揮官は、遠隔指示するのが上手いらしく士官学校でトップの成績を修めているとか。つくづく時代は移り変わっている。

前線にたつ指揮官など、これからどんどん減っていくだろう。

指揮官「多分、こういうこともこれから、なくなるな。リーフ」
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/25(月) 00:45:39.30 ID:tWM2qTQ70
リーフ「え…」

指揮官「私の次に入ってくる指揮官はロボで遠隔指示を出すんだ。だが心配はない、恐ろしく上手くて戦闘訓練では負け知らずらしい。

パニシングも怪我の心配をすることもない、素晴らしい技術だ。」

リーフ「指揮官、誰も怪我しないことはよいことです。でも、わたしはこうしているときが、一番役に立っている気がするんです」

注入された抑制剤が、体内で暴れているパニシングを鎮静させる。

指揮官「勿論、それはリーフにしかできないことだ。でも君の役立てるところは他にも沢山あるんだ。私のお守りは、正直なところ、無駄だ。」

リー「そのとおりです。指揮官もようやくわかってくれましたか」

指揮官「リーは、いつも私が同行する作戦には乗り気ではなかったな。私の身体を案じてくれていたことは、分かっているよ」

リー「っ…いつ倒れるかわからない人間を背負って、任務はごめんですから。次の指揮官が、遠隔指示するようなので安心しましたよ」

リーは俯いて、その場を離れようとする。

私は、リーの肩を軽く叩いた。

指揮官「リー、君が隊で一番冷静に判断ができるんだ。もし私がいないときは、しっかりとルシアをサポートしてくれ」

リー「勿論です。言うまでもありません、その為の訓練は積んできました」

指揮官「それと、リーにはこれをしかるべき時に使ってほしい」

リーフには聞こえないように、唇をほぼ動かさずにささやく。すかさず、リーもそれに合わせる。

リー「---これは小型の記憶媒体装置ですか。音声再生をできるようですが」

指揮官「ああ。死んだときの遺言だ」

リー「また、急なことですね」

怪訝そうな顔をするリーを、なだめる。

指揮官「最後の最期でということもあるから、今朝作ったんだ。中身は、私が死んだときに皆で聞いてくれ。」

リー「構造体は感動では泣きませんよ。それより、指揮官の奥様になにかを残すべきでは」

指揮官「あっ…」

リー「一番心配する人間は、彼女でしょう」

指揮官「おっしゃる通りです」

リー「----なにはともあれ、言われたことは果たします」

リーは記憶媒体をしっかりと装備の奥へとしまった。

ちょうど、いいタイミングだ。

指揮官「リー、私が退役することについて、謝りたい」

リー「はぁ、そんなこと必要ないですよ。僕はあなたがいなくなって嬉しいですから」
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/25(月) 00:46:40.14 ID:tWM2qTQ70
指揮官「ぐっ」

リー「先に言っておきますが、個人的な恨みつらみの感情ではありません。

死ぬ前に退役する、賢い判断だと思います。

人類のために、人が死ぬことは矛盾していることだと、僕は常々思っていますから」

指揮官「人類の軍とはそういうものじゃないか」

リー「違いますよ、軍は戦えない人のために戦う強い人たちの集まりだ。パニシング下の貴方は強くない、守られる側の人間なんです」

指揮官「私は、指揮官失格だと?」

リー「人が助けられるのは、精々、数人が限界です。そして指揮官は今まで僕たちを人間として、守った」

嬉しいけれど、違う。

構造体は、地球を取り戻す、もっと具体的には人を守り戦うための兵器で。

指揮官の考えは、僕たちの存在を矛盾させている。

人類のために人としての機能を失った構造体に、機能があるように扱うのは、侮辱だ

リー「---個人としては、構造体を人間として扱う貴方は好きじゃありませんでした」

リー「僕は指揮官が、精々長生きして、皺くちゃで腰の曲がった爺になってる姿を見たいところです」

指揮官「リーは見た目も意識海も維持されるから若いままか」

リー「構造体も悪くない、そうは思いませんか」

リーは、手を差し伸べてきた。

それはきっと【構造体という名の存在の罪】との、和解の握手だ。
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/16(火) 00:30:34.91 ID:bewIDN5b0
ルシア「ここが大渓谷の入り口、幅十数メートルの道が樹形図のように枝分かれして約50qに渡って続いています。」

リーフ「両側は高い崖に挟まれていて、上部への脱出は不可能です。ですので、迷子にならないよう、GPSを常に気にしてください」チラッ

リー「・・・わかりました。また、ここに至るまで、ほとんど機械生命体の哨戒活動は見られませんでした。先遣隊が消息を絶ったのは、ここから先です」
太陽は既に陰り、薄暗い道には大小さまざまな岩石が転がっている。

足場には十分に注意しなければならないし、なにがその陰に潜んでいるのか分かったものではない。

指揮官「レーダーの有効距離はどれくらいになるだろう?相手より先に、探知したい」

リー「およそ200mといったところでしょう。両側が壁に塞がれ、曲がりくねった道では、レーダーも赤外線も乱反射しますから、効力は半減します。どちらが先に気づくかは、50:50でしょうね」

カレニーナ「そこで、虫たちの出番ってわけだ」

カレニーナは懐から機械虫を数匹取り出し、先行させる。

虫たちは多関節の八脚を巧みに動かし、足場を乗り越えながら闇に消える。

指揮官「虫たちの後ろをついていき、敵を先に発見する、それから構成を見て、道を変えるか、即撃滅する。逃げ場がほとんどない、この場所での
戦闘は時間は相手にとって有利に働く」

仲間を呼ばれたら厄介なことこの上ない。昇格者たちもいるとなればなおさらだ。

ルシア「それでは、進みましょう。指揮官」

彼女の燃えるような瞳は、闘志と決意に溢れている。

なにより彼女がいちばん前回の戦闘での遅れを気にしていることは分かっていた。

指揮官「皆、私たちはきっとうまくやれる。影のようについていこう」

ルシアは柄を握りしめて、応えた
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/16(火) 00:32:09.66 ID:bewIDN5b0
大渓谷の最深部

白ルシア「彼が来るのは、そろそろかしら」

ロラン「例の指揮官が来るってことかい、構造体たちを引き連れて」

ロランは、持っている武器を弄ぶのをやめて鋭い目を白ルシアへ向けた。

ロラン「君さえよければ彼は僕が殺そう。厄介な敵を倒すのは、なかなかに愉しいからね」

彼には何度も邪魔をされたし。と付け加えてロランは嗤った。

白ルシア「彼はわたしの獲物」

ロランはため息をついた。

ロラン「すると僕はまた構造体たちの相手なんだ」

白ルシア「頭がいなくなれば、勝手に崩れるわ」

ロラン「いなくなる、か…君は、珍しくあの指揮官のことを気に入っていたと思っていたんだが」

白ルシアは大渓谷の先を眺める。

白ルシア「そうね、だから彼は助けてあげることにしたのよ」

ロランは大渓谷に無数に存在する小石ひとつ分だけ、彼に同情心が芽生えた。

白ルシア「――――――でも人類は必要ない」

それだけ言い残して、白ルシアはその場から一瞬でかき消えた。

ロラン「優しいようで、全く人の心が分かっていない。恐ろしく残酷なことだね。背筋が凍るよ」

武蔵玖型「…」

ロラン「人を本来守るためのガードマンであった君はどう思う」

武蔵玖型「ヒト――コロス――――」

ロラン「ああ、知ってる。でも君の身についている包帯は、ガードマン時代にそのヒトにしてもらったものだろう?」

武蔵玖型「――――コロス」

ロラン「それでも包帯を捨てようとはしないんだね」

ロランが包帯を千切って奪うと、武蔵玖型はじっとその場で固まる。

ロラン「ううん、これを条件付けされたプログラムというべきかな。あるいは妄執か」

ロランによって捨てられた包帯を武蔵玖型がノロノロとつまみ拾い集める様子を、ロランは興味深そうに眺めていた。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/16(火) 21:25:45.12 ID:bewIDN5b0
人間が周りにいないとき、機械生命体がなにをしているのか。

その答えの多くは、科学者にとって予想通りだった。

人間を求めて彷徨い、あるいはその場でただ待つか。

それは、命令を受けた機械が対象がいなくてエラーを吐くように、まるで生命を感じさせない。

だが、今ここにいる機械生命体は…違う。

指揮官「この先の機械生命体共は列をなして、なにかを運んでいるようだ。カレニーナ、もっと近くで見れないか」

カレニーナ「ばれない距離はこれがぎりぎりだっ!戦闘になってもいいのか?」

指揮官「まだここは末端だろうから、戦闘になってもが露見する可能性は低い。やってくれ」

カレニーナが機械虫を懸命に操り、壁を這わせて、上から覗き込もうとしている。

機械虫は、八本の脚を順に壁に突き刺し、静かに上っていく。

カレニーナ「もう少しだ」

尋常ならざる集中力で、操作するカレニーナ。指の神経一本一本に意識を通わせるような、作業である。

カレニーナ「見えた。今から映像を送る、分析はリーに任せるからな」

リー「任せてください。映像を受信します…」

リーは一瞬息をのんだ。そして、顔が強張る。

リー「指揮官、奴らが運んでいるのは一種の超合金です。どこで手に入れたかはわかりませんが、その超合金は優秀な特性を持っていて、兵器にも使用されていました。かつての機械生命体との戦争で、製造方法とともに失われたと思っていましたが…」

指揮官「リー、何の兵器に用いられていたんだ?」

リー「その耐熱性と耐久性から、主に【戦車の砲塔】【航空機】【ミサイル】です。やつらが作ろうとしているのは、この映像では分かりませんが…碌なものではないでしょう」
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/16(火) 21:28:27.51 ID:bewIDN5b0
指揮官は、作戦前のブリーフィングを思い出した。あの細長い塔とはなんだったのか。

まず、地理的な条件からここを航空機の発着場所とするのはナンセンスだろう。

十分な助走距離もないし、平地とは程遠いほどに足場が悪い。

だから、私なら航空機の製造場とはしない。

そして、戦車も同様だ。このように枝分かれしている狭い道で、戦車のような陸上兵器を移動させようとは思わない。あまりにも時間がかかってしま
う。よって戦車の製造場所とは思わない。

残るは、ミサイルだ。

だとするならミサイルの狙いは?我々の基地か?

数十キロメートルしか離れていない場所を攻撃するのにミサイル発射場所を作るのか?

あの無数の機械生命体を差し向けるほうが単純で、楽ではないか。

よく考えろ。ミサイルは、一種の暗器だ。

敵の急所を確実に敵の手が届かない遠距離から、貫く。

それも相手が予想もしていないタイミングで。

絶対的な先制攻撃の手段だ。

白ルシアは、言っていた。人類が滅びると。

基地を全滅させたくらいで、それはありえない。

また、対策を練って別の降下作戦が始まるだろう。

どこで、降下作戦が練られるか?

【楽園】だ。

一気に血が引いていくのを感じる。

あれが人類の最期の居場所を、奪うというのか?

機械生命体がミサイルを作るような技術と連携をとれるとは思えない。

なら昇格者がその役割を担っている?

白ルシアが言っていたとおり、人類が滅ぶのは、そういう意味だった。

――――だめだ!

私は、大きく深呼吸をした。

これでは白ルシアにまんまと乗せられている。

私一人の想像で、部隊を動かすわけにはいかない。

この作戦の目標は変わらない。情報を手に入れて、上に渡して、情報分析をするのだ。

リーフ「指揮官。なにかお気づきになりましたか」

リーフがどこか期待するような声音で、尋ねる。

私は、かぶりを振った。

指揮官「いいや、私にもわからないな。もっと調べなければならないだろう」

カレニーナ「指揮官、悪いニュースだ」

指揮官「機械虫が発見されたか?」

カレニーナ「ちがう、大渓谷の入り口に設置した機械虫から映像がきた」

彼女は、映像を見せてくれた。

数千を超える無数の機械生命体が、手に様々な【材料】をもって押し寄せていた。

やつらは、今まで遠方まで【材料】を探しに行っていたに違いない。

そして、夜に巣へと戻ってくる。

退路は、あっというまに敵の大軍に塞がれてしまった。

前に進むことしか、私たちの道は残されていなかった。
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/18(木) 00:37:14.35 ID:TRBoF4Kj0
リー「背後の機械生命体のほうが、前方の機械生命体よりも若干進むのが早いですね。この様子だと1時間ほどで追いつかれるでしょう」

映像を分析していたリーが情報を与えてくれる。

今は小走りといった速度で進んでいるが、一時間では10kmも進めないだろう。

衛星写真にあった塔まではおよそ20qであり、このままだと半分まで行ったところで大軍とむざむざ戦うことになる。

ルシア「前方の機械生命体を殲滅しましょう。戦闘時間は数分で終わるでしょう」

ルシアは振り向いて、私を見る。

指揮官「私も同じことを考えていた。だが、一つ懸念事項がある。前方の機械生命体を倒して、さらにその先にいくら機械生命体がいるかは分からな

いのだ」

といって、具体的な打開策があるわけはない。

両側を崖に囲まれたこの道で、隠れて機械生命体をやり過ごすことはほぼ不可能だ。

私は、大渓谷に入る前にもっと周囲を観察すべきだった!

あと一日遅ければ、機械生命体に挟まれるようなことは…。

私は、はっと気づいた。

ああ、私が、本当に白ルシアと記憶を共有しているとすれば、作戦は筒抜けだったわけだ。

行動計画も、どこまで把握しているかも、なにが目標かも、何もかもだ!

それに合わせて機械生命体を操るのだって、可能だろう。

偶然か

それとも必然か

底冷えするような寒気が、背筋を上る。絶望の影が、視界の端をよぎる。
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/18(木) 00:38:37.41 ID:TRBoF4Kj0
リーフ「指揮官」

気づくと、リーフが私の固く握られた拳を包むように両手で握っていた。

リーフ「大丈夫です、私たちは、もう弱くありません。指揮官をお守りします」

指揮官「あ、ああ」

リーフ「だから、そんな顔をしないでください…」

リーフは顔を静かに伏せた。

私は、周りから見るとそんなにひどい顔をしていたようだ。

指揮官として、するべきじゃなかったな。

もし、抱えているものをすべて吐き出せたらどんなに楽で、残酷だろうか。

そこでようやく責められることができる。

責任が分散される。

励まされる。

―――――でも、それは、指揮官としての私ではない。

そんなもののために、仲間がいるのではない。

仲間に解決できない問題を投げかけたところで、なにがどうなる。

私は、これまで最善を尽くしたはずだ。

ただ、そこに確信が持てないだけで。


指揮官「リーフが教えてくれた通り、私はすこし臆病になっていたな。

私が心配することは、みんなも気づいていることだ。それはやってから後で考えよう。

前方の機械生命体との交戦準備だ」

私は肩にかけていた銃を下した。

「うまくいけば、1分もたたず片をつけられるはずだ」

考えていた作戦を、皆へ伝える。
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/02/18(木) 01:17:56.99 ID:BM5Jx7E8o
おつおつ
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/18(木) 23:30:08.20 ID:TRBoF4Kj0
構造体のみが持つ武器として、高速空間、がある。

高速といっても、構造体が高速で動くわけではない。

それは、数秒間範囲内にいる機械生命体の動きの一切を封じる、強力な妨害電波だ。

電波のチャージ時間が必要なため、連発はできないが強力な武器である。

とはいえ、ガード状態の相手に使っても効果は薄い。

だから、相手には攻撃をしてもらうのだ。

機械生命体の後ろで、ガシャンという何か金属の塊が落ちる音がした。

振り向いた機械生命体たちの目の前には、バズーカを構えたカレニーナが立っている。

機械生命体が【視覚】に頼っているならば、それを潰す。

バズーカから発射されたマグネシウム弾は燃焼し、辺り一面を白い閃光でみたす。

もしそれが人間なら、目が眩みまるで動けないだろう。

だが、機械生命体はパニシングに侵された、破壊衝動に支配された存在だ。

重心を再計算し、自身の姿勢を制御しつつ【一度見てしまったカレニーナの居場所】へ武器と共に突進する。

死をも恐れぬ攻撃は、カレニーナの前に現れたルシアが引き受ける。

彼女は右手を失うことで、剣を振るう能力は落ちたが、回避能力に大きく影響はない。

それも、相手が彼女が見えていないなら、赤子の手を捻るより容易いだろう。

ルシア「…っは!」

彼女の身が、宙で華麗な弧を描くと、彼女を中心とした高速空間が瞬時に展開される。

リーとリーフが、無防備になった敵の弱点を、装甲の隙間を縫うように撃ち、貫く。

数秒後、高速空間が解けた時に、敵はいなかった。

リー「戦闘終了、完璧な射線でした」ドヤ

カレニーナ「なあ、ルシアよりうまくできたか?できたって言えよ!」

指揮官「やぁ、皆よくやってくれた。完璧だったな」

カレニーナが催促するので彼女の発射したアルミニウムの着弾位置について、褒めることにした。

すると彼女はぶるりと体を震わせて聞き入いっている。

それからルシアに向けて、口端を釣り上げて歯を見せた。

私の勝ちだと言わんばかりである。

ルシアはいつものように、それを流して…

ルシア「…指揮官、作戦は成功しました。すぐに出発しましょう…?」

彼女の視線に若干の私への苛立ちが含まれているように感じたのは、気のせいだろうか。

指揮官「ああ、分かってる」

カレニーナのフードをくしゃくしゃと撫でてから、手に持っていた銃を肩にかける。

今まで、この銃が役に立つことはなかった。

私、いや人間では、リーやリーフのように精密な射撃はできない。

そして、金属製である機械生命体を一撃で仕留めるような威力は、この銃にはない。

指揮官の間では、足止め、あるいは自死用の銃だとまことしやかに噂されているほどだ。

指揮官「…銃なんてつかいたくないものだ」

改めて、隊形を整えようとしたとき、岩の影からなにかが飛び出してきた!

私が身をかわす間もなく、それは私に体当たりをかまして、馬乗りになる。
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/18(木) 23:31:49.57 ID:TRBoF4Kj0
指揮官「くっ!」

ナナミ「あーーーーーー!指揮官だっ!」ギュ♡

指揮官「ナナミ…か」グッタリ

リー「指揮官以外だったらどうするんですか、あなたは」

ナナミ「アハハ!指揮官にしかしないもん!へー指揮官って意外と痩せてるんだ」サワサワ

指揮官「お、おい!ナナミ、脱がすな。なんのつもりだ」

ナナミ「ふむふむ?やはり、男の子でしたか」サワサワ

リーフ「指揮官、ナナミを止めます」

いつの間にかリーフの右の掌に立方体の強烈な電磁場が生まれていた。

そして、左手の甲で器用に目を隠している。

リーフ、配慮はうれしいよ。でもそんな電磁場を目隠しで撃って私に当たったら、どうなってしまうんだ…?

ナナミ「あ、あともうちょっと…!」

指揮官「あ!」

ルシア「いい加減にしなさい」

ルシアが、ナナミを持ち上げるとナナミは嗤った。

ナナミ「ごめんなさい〜!」

指揮官「セクハラだ!」

カレニーナ「指揮官も、わいせつ物陳列罪でセクハラだからな」

ナナミ「わーい!!セクハラ指揮官だ!」

指揮官「私はセクハラされた側だ!その渾名は誤解を生む!」

リー「ふざけてないで、行きますよ」

指揮官「そのとおりだ。ちなみにナナミはなぜ、ここに?」

ナナミ「大渓谷で宝箱を探して冒険してたの。ダンジョンみたいだから!」

指揮官「あ、そう」

ルシア「簡単にあきらめないでください。途中で、背の高い建物は見ませんでした?」

ナナミ「見たよ!なんだか建物というより、複雑な構造物だったけど」

指揮官「…それがなにかは見当がついている?」

ナナミ「分かんない。すぐに機械生命体たちに追い回されちゃったから。でも、そこまでは案内できるよ」

指揮官「ナナミ、ここに来るまで、機械生命体と遭遇した?」

ナナミ「ううん」

果たしてそれが、安全なルートなのだろうか。

分からないが、ナナミがこの大渓谷の地理に明るいならば頼るのは悪い案ではなさそうだ。

おそらく、その考えは全員に共通だろう。

指揮官「ナナミ、道案内を頼んでもいいか?」

ナナミ「もっちろん!」

彼女は嗤う。それは、今まで私が見たことがない類の、ナナミの笑みだった。
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/18(木) 23:53:18.81 ID:TRBoF4Kj0
お久しぶりです。期間が空き申し訳ございません。
来週まで頻度高く投稿できそうです。話の内容としては半分は終わったと思います。

END分岐について安価を取らせてください。
最期に誰が隣にいてほしいですか?
好きなキャラをどうぞ
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/02/19(金) 00:25:38.50 ID:HqjIjI0bo
おつおつ
頻度上がるの嬉しい

最期か……推しはナナミ……なんだけど物語的に白ルシアがしっくりきそうなんだよなあ
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/02/19(金) 21:05:40.37 ID:uUU+8ogM0
カレニーナ
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/22(月) 23:03:50.76 ID:Qbp0OqWY0
安価ありがとうございます。推しも十人十色ですね。
私も好きなので彼女らの見せ場を作りたいなと感じました。
ゲームの方は新イベントが始まりましたので、更に盛り上がってほしいところです。
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/22(月) 23:05:30.12 ID:Qbp0OqWY0
まるで、ピクニックでもするかのように快走するナナミのあとを、私たちは警戒しながらもついていった。

彼女が、この大渓谷を冒険をしていたというのは本当らしく、道が枝分かれしていても、迷うことなく進んでいくのだった。

その間、敵とは一切出会わない。

私は、早く任務を遂行しなければという焦燥感が強くなるのを感じた。

わたしは、白ルシアと会うのはもう二度とごめんだった。

彼女と会うたびに、チームが危険に晒されて、運よく切り抜けて。

こんな幸運が何度も続くわけがない。

はやく、早く、速く、終わらせなければ。

気づけばわたしは、ナナミのすぐ後ろを走っていた。

ナナミは、私を流し見して、言う。

ナナミ「指揮官、この大渓谷に来てなにか感じることはない?」

指揮官「なにか、嫌なことが起こりそうな気はしているよ」

ナナミ「ううん、そういうことじゃなくて。【元気】になった?」

指揮官「ナナミの言う通り、体調は良くなった気がする。パニシング濃度が低いおかげかもしれないな」

ナナミ「それはよかったね!指揮官、機械生命体と出会うと体調悪そうだから、しんぱいだったんだヨ」

指揮官「パニシングに汚染されている機械生命体は、ただいるだけで人体にとって毒らしい」

ナナミ「うん…」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/22(月) 23:06:44.69 ID:Qbp0OqWY0
ナナミは、すこしスピードを落として、私にだけ聞こえるようにささやく。

ナナミ「ねえ、指揮官にだけに、一つしつもん。指揮官は、 Radioactiveter って知ってる?」

指揮官「知らないな、そういう難しい単語はリーや、リーフに尋ねるといい」

ナナミ「【…いい、リーもリーフもこれは知らなかった。あんなに本を持っているのに。あんなに医療に詳しいのに。それだけはすっぽり抜けているんだよ】」

ナナミは、魘されるようにつぶやく。

なんだか、ナナミはひどくそれで悩んでいるようだった。知恵熱かもしれない。

指揮官「よし、これからそれを当てようじゃないか。まず、それは英語?もし英語なら悪い、私はあまり得意ではないんだ」

ナナミ「指揮官は、東アジア出身だったよね。えーと日本だっけ?」

指揮官「そう、といっても小さい頃の思い出だから日本のことはほとんど思い出せない。

ただ、エデンでは日本のコミュニティに属していたからなぁ」

ナナミ「えーっと。日本語に翻訳してみると、放射性物質 っていうみたい」

指揮官「…わからないな。聞いたことがない」

ナナミ「そうだ。やっぱりそうなんだ…。」

なぜか、私の様子に納得したように静かに頷くナナミ。

指揮官「ナナミはどうして、知ったんだ?」

ナナミ「私は、この地球で知ったの。新しく砂漠になった土地で、それをたまたま、見つけたんだ。黄色と黒いマークがついた缶が辺り一面埋め尽くしてた。缶の中身には、黄緑色で、どろどろしていた。でも不思議なくらいに綺麗で、透き通ってた。

気になった私は、それを調べ始めたんだよ。

世界中を飛び回って、知識を求めて、それを集め始めた。

そして、実はそれはこの地球のいたるところにあった…皆が知らないだけで」

私はナナミの頬を軽くつまむ。

ナナミ「む」

指揮官「ナナミの考えは多分あってると思う。たぶん、な」

指揮官「でも、誰かがそれを正しいと認めてくれなきゃ、不安なんだよ」

指揮官「今度、それに教えてくれ。ナナミ。頭のつくりはよくないが、やる気はある」

ナナミ「指揮官は、ほんとうに、それを、知りたいの?」

指揮官「もちろんだ。多分、同じくらい、お前も誰かに話したいと思っているんじゃないか?ここにいい練習相手がいるぞ」

ナナミ「-------わかった」


彼女は、もう嗤わない。彼女は、誰にも気づかれないように、囁く。

ナナミ「この地球は、誰のものなんだろう?」
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/23(火) 22:47:51.53 ID:kzbiwlzT0
ナナミ「着いた…」

ナナミが指差す方には、人工的な光が差していた。

私たちは恐る恐る足を踏み入れると、そこは一種の資材置き場のようだ。

様々な長さの板金や、ロールされた金属が規則正しく並べられている。

そして、その奥には天を衝くような白い円筒形の造形物が聳えている。

それは綺麗な流線形をしており、空気抵抗と摩擦を減らすために計算つくされたものだ。

リー「これではまるで、弾道ミサイルのようです」

指揮官「…いや、弾道ミサイルはあくまで対地ミサイルだ。わたしは、このミサイルの攻撃目標が地表だと思わない」

リー「まさか、宇宙兵器だと?」

指揮官「私は、そう思う。詳しくは、基地へ帰投してから、分析しよう」

指揮官「カレニーナ、これ以上近づかず、映像をとっておいてくれ。すぐに、脱出する」

カレニーナ「あれをぶっ壊さなくていいのか!?」

指揮官「だめだ、この状況は危険すぎる。それに、誰かが報告しないと、このままミサイルが完成してしまうだろう」

それは最悪のシナリオだ。
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/23(火) 22:49:01.76 ID:kzbiwlzT0
カレニーナが機械虫を操り映像を取っている間に、私たちは懸命に安全な脱出ルートを探していた。

すると、しばらく小石をつついていたナナミが飽きたのか、声をかけてきた。

ナナミ「指揮官」

指揮官「どうしたんだ」私は振り返ることもできずに、端末に表示された3Dmapを睨みつけている。

ナナミ「嘘をつくのって、悪いこと?」

指揮官「今聞かれても、まともに答えられないぞ」

ナナミ「いいよ。教えて」

指揮官「言われた側にとっては、悪いことだろうな」

ナナミ「でも、それが分かっていて皆は嘘をつくんだ」

指揮官「隠したいことがあるんだ。罪悪感を飲み込んでも、隠したいことが」

レイヴン隊に嘘をついて退役をすることは、そういうことだ。

私は、【自身が臆病者であることを隠したかっただけかもしれない】と思った。

ナナミ「ふうん」

ナナミ「今なら指揮官の気持ちが、分かる気がする」

ナナミ「わたし、指揮官にずっと嘘をついてた。」

首筋から、足の先まで強力な衝撃が走った。

手足が硬直し、なにもできずそのまま崩れ落ちる。

ナナミ「苦しいよ」

指揮官「あ、が」

ナナミ「わたしは、ただの機械のはずなのに」

ナナミは、ポケットから四角の箱を投げ捨てた。

それは、一種の無線機だった。

そこから、聞こえてきた声は今となっては馴染んでしまったもの。


白ルシア「こんばんは、レイヴン隊」
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