【スクスタSS】あなた「灯台守」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

135 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/03/07(日) 21:24:25.53 ID:Owmk8FaB0
いけね、>>134に6話を貼ってしまった…
136 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/03/07(日) 21:27:11.23 ID:Owmk8FaB0
7/空の灯し火


夜 穂乃果自室

穂乃果(目を閉じると、かすみちゃんとかのんちゃんが、瞼の裏にチラついた)

穂乃果(あの夜、全てを白状したかすみちゃんとは違って)

穂乃果(眩しかった。そしてその横のかのんちゃん)

穂乃果(私は、何をしている?)

穂乃果(あの夜、千歌ちゃんから『失望した』と言われた後から、私はどこかおかしくなっていた)

穂乃果(練習も殆どしてない。生徒会の仕事が忙しいと称して動いてた。だけど、実際はどうだ。奨学金のあの話も、まるで気付いていなかった)

穂乃果(皆がどうしたいかも、わかっていなかった)

穂乃果(壊れた絆、彼女が壊れてしまった夜から、バラバラになった全てを、彼女がいない今、新たなピースもつなげようと、色んな子が動いている)

穂乃果「……」

穂乃果(ベッドから起きて、パソコンにSDカードを接続して、中の音声ファイルを見る)

穂乃果(再生のボタンをクリックするのが、ひどく躊躇われる。だけど、璃奈ちゃんが渡してくれたそれは、あの夜、虹ヶ咲学園で何が起こったかを語る唯一のもの)

穂乃果(私に欠けたカケラを埋めるものか、或いは虹が咲く空の王国から墜ちていった彼女の叫びか)

穂乃果(もしくは、虹ヶ咲の皆の咎そのものなのかも、まだ解らない。これを紐解かなければ)

穂乃果(私が友達と呼べる一人が起こそうとした事、或いは起こってしまった事を)

穂乃果(知る勇気を、持つんだ。そうでなければ)

穂乃果(澁谷かのんちゃんの眩しさを直視できないのかも知れない)
137 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/03/07(日) 21:29:14.34 ID:Owmk8FaB0
同時刻 千歌自室

千歌「……おお、彼方ちゃん……」

梨子「うん。私と海未ちゃんで作った曲を…こうして、歌ってくれた。それを、Liella!の恋ちゃんが、更にこうして繋げてくれた」

千歌「梨子ちゃんも、海未ちゃんも……変えようと、してくれてたんだね。今を」

千歌(膝を抱えていた私とは、違って)

梨子「…千歌ちゃん。今日のかすみちゃんとかのんちゃん、どう思った?」

千歌「うん…」

千歌「すごく、嬉しかった。音ノ木坂で、私たちの曲を、虹ヶ咲のかすみちゃんと、Liella!のかのんちゃんが歌う事。それって、皆の絆をもう一度つなごうとしてる事」

千歌「私、本当にバカチカだよ」

千歌「あの日、友達を見捨ててしまった事を引きずって、穂乃果ちゃんの気持ちも知らないで穂乃果ちゃんを責めて、自分で絆をまた壊しちゃった」

梨子「千歌ちゃん…」

千歌「……虹ヶ咲の皆と、μ’sの皆に、ごめんねって言わなきゃ」

千歌「そう、しっかり話し合わないと…」
138 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/03/07(日) 21:32:08.70 ID:Owmk8FaB0
愛(もう何日、登校してないんだろう)

愛(最初のうちはおばあちゃんも声をかけてくれてた。だけど、ここ数日は何もない。トイレとお風呂以外は、殆ど部屋にいて、たまに置かれてるご飯を食べるぐらい)

愛(目を閉じると、あの夜の事、そして部長さんの事を思い出してしまう。そうして、余計に眠れず)

愛(鏡を見る度にやつれた自分の顔を見たくなくなるんだ)

コンコン

「愛ちゃん? お客さんだよー」

「友達がきたよ。届けものって」

愛(おばあちゃんの声がする)

愛(こんな私に、友達だとまだ言ってくれる人がいるなんて)

愛(何故か、足を運んでいた)

ガチャリ

愛「…誰?」

ギター担当「愛さん」

ギター担当「久しぶり…私も、虹ヶ咲学園に入学したんだ。へへ」

愛「…その声」

愛(かつて、中学生の頃。ゲームセンターで音楽ゲームが上手な子に声をかけた。少し暗めで、愛さんのノリにはどこか悪いタイプだったけど、引っ越す時に送別会を開いたら、すごく嬉しがってくれたのを思い出した)

愛「引っ越した、筈じゃ」

ギター担当「愛さんに会いたくて、虹ヶ咲学園を受験して、受かったんです」

ギター担当「……言いますね」

ギター担当「かすみちゃんと、同じクラスなんです。それで…一つ、見せたいものがあります」

愛「え…」

愛(中学の頃は根暗な彼女が、ばりばりのパンクファッションで見せたのは、激しいロック調の音楽が流れる嵐の中で)

愛(歌う、エマっち)
139 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/03/07(日) 21:33:15.84 ID:Owmk8FaB0
愛「これ…」

ギター担当「エマさん、私らに負けない歌を歌ってくれた」

ギター担当「スクールアイドル、本当に、ロックで、カッコよくて、今の学校を変えてくれるって、思ってます」

ギター担当「……そんな人たちが、頭を下げて頼んできたんです」

ギター担当「断れる訳ない。愛さんは、私に色々教えてくれた。その恩を、返しに来ました」

愛「……」

ギター担当「璃奈ちゃんから、お届け物です。確かに届けました」

愛「う、うん…」

ギター担当「いつか、私がバックバンドで、愛さんのステージやりますから! 必ず! 必ずですよ!」

愛「…ありが、とう…」


愛(りなりーから…なんだろう)

愛(梱包をほどく、すると。中から出てきたのは)

愛「ゲーム機と…ソフト?」

璃奈『ミッション13まで進んだらSPミッションというのをやること。それを終えたらミッション14から』

璃奈『これを渡しておこう。辛い時に使うがいい』

璃奈『つノーマル操作』

璃奈『つCASUAL -EASY-』

愛「エースコンバット7…スカイズ・アンノウンって読むのかな…これ」

愛(なんでゲームなんか、と思いながらも)

愛(何故か、りなりーの言うことだからか、素直にそのゲーム機をコードにつないで、起動した)
140 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/03/07(日) 21:34:26.21 ID:Owmk8FaB0
愛「空、綺麗だなー……」

愛(本当に綺麗で、まるで空の中を本当に飛んでいるかのようだった)

愛「えと、これで攻撃…あ、当たった」

愛「…え」

愛「あの人……なにがあったの……」

愛「空では…人が、簡単に…死んじゃうんだ……」

愛「これは難しそうだ…」

愛「おお…」

愛「待って! ダメだよ、そっちに行っちゃ…」

愛「あ…」

愛「違う…違うよ! この人…!」

愛「撃ってない…撃ってないよ…!」

愛「…………」

愛「…続き、やろう……」

愛「スペア…囚人番号、か……」

愛「……ひどい事言ってる…人が、死んじゃうのに…」

愛「罪の重さ…罪線……爪痕」

愛「空の、爪痕。ねぇ…」

愛「私につけるとしたら、何本になるのかな」

愛(時々失敗しながらも、ゲームは進む)

愛「こんな事を、賭け事にするもんじゃないよ…」

愛「厳しい事言うなぁ…でも…認められてる、のかな」

愛「また……」

愛「ひっ!? か、雷……?」

愛「…こ、こんな中飛んでくの…?」

愛(雷の中でも、それでも進むしかない。それが最短ルートだ、そうでなきゃ間に合わない)

愛(落雷。それは画面越しでもわかる轟音と光、そして風が流していく)

愛(何でだろう。さっき見た動画のエマっちは、そんな嵐の中でも力強く)

愛(ゲームの中でも、同じように飛ぶ―――――――)
141 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/03/07(日) 21:37:10.91 ID:Owmk8FaB0
愛「認めてくれてる、のかな」

愛「……!」

愛(ぞわりとした。音楽が変わった。何か来る)

愛「この声…」

愛「怖い…怖い…!」

愛「なんなの…追い詰めてる? ううん、違う…迫ってきてる…」

愛「また後ろに」

愛「汗が…止まらない…」

愛「また雷雲に突っ込むしかない! 怖いよ…いや、でも…」

愛「はぁっ…お、終わったの…?」

愛(空の王。天空を支配するもの……それは怖いもの。破壊と死をもたらし、痛みを残し、恐怖を刻む。でもその願いは?)

愛(少しだけ、重なる線。空に鎮座する王と、部長さん)

愛(『理解したいのだよ』。この言葉をキーワードに、少しの休憩をしながら、またコントローラーを握る)

愛「あんなに燃えたら、鳥や魚たちはどうなるんだろう…」

愛「空から確かに、線なんてないよね……線…くくるもの、しばるもの」

愛「スクールアイドル同好会でも、スクールアイドル部でも…スクールアイドルであっても、そこに線は…あった。あの時まで、ずっと。あった。あってしまった」

愛「この人のいう事を、部長さんはどう聞いてたんだろう…」

愛「生き残れる……そうか…ついていけば生き残れる、その背中に。その背中についていけば、大丈夫」

愛「………部長さん…」

愛「何かしなければならなかった」

愛「……一つ…その先頭に立つものとして…背中についていけば大丈夫って」

愛「部長さんを信じる私たち、私たちが信じてる事を知っている部長さん……」

愛「好き放題言ってるなぁ」

愛「……!」

愛「この動き…いや、でもそれよりも更に…」

愛「…行ける…やろう」

愛「そうして、道を切り開いてきたんだ…今までを……この空で」
142 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/03/07(日) 21:39:31.55 ID:Owmk8FaB0
愛「残された空の爪痕、踏み締めていく者に残った傷跡」

愛「あれと戦うんだ…」

愛「あんなに綺麗なのに……もたらすのは破壊。怪物」

愛「人が生み出してしまったから、怪物にもなる。本当は、宇宙へ向かう自由の為の鳥だったのに」

愛「これが…英雄の姿……そう」

愛「あの子はいつからか、そうなっていたんだ」

愛(気が付けば夜を過ぎて、明け方近くだった。一度シャワーを浴びてから、少し眠る事にした)

愛(夢を見る)

愛(青空と、天空へ伸びる灯台を背にする、彼女の姿を。屈託のない笑み)

愛(いつから、それが遠くなったんだろう)

愛(目を覚まして、またコントローラーを握った)

愛「これは、目が覚めるなぁ……ちょっと、ワクワクするかも」

愛「おっと、危ない危ない…こっちはダミーか」

愛「えっ…ま、まだ?」

愛「ふぅ……あ、これが13か…てことは…りなりーが言うには」

愛「警告が出てる…キャンペーンクリア後に…って言うけど」

愛「………りなりーのいう事を信じよう」

愛「SPミッション、と」

愛「……今の声…なに…狂気…?」

愛(あの戦闘機の主とは、また違う質の恐怖。それは。あの夜の部長に似ていた)

愛「ついていけば、生き残れる。その背中を追えば、大丈夫」

愛「多いよ、もう……だけど…それでも皆、ついてきてる。勇気を振り絞って」

愛「ついてきてくれてるんだ、だから背負わなきゃ。先頭で、切り開いてく…」

愛「愛さんも到着を待ってたよ!」

愛「怖がってるんだ、向こうも……それだけ、怖いから。それは…」

愛「……なんだろう、この人……」

愛「撃つのは、人………ランジュさんを壊したかった、部長さん。そうすれば、虹ヶ咲学園を…」

愛「怒りと、叫び」

愛「鎮魂と生贄…?」

愛「1000万人と、100万人」

愛「全校生徒と、ひとり」
143 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/03/07(日) 21:40:56.67 ID:Owmk8FaB0
愛「………」

愛「部長さんは、背負っていたから、救わなくてはいけなくなった。せっつーや、歩夢ちゃんも言ってた」

愛「みんなと、一緒に。行きたかった、だからこそ、前に導こうとして…救わなきゃって…」

愛「100%でなければ、失敗。怖い言葉だよね…」

愛「大盤振る舞い? 愛さんはもんじゃを大盤振る舞いするのがいいなぁ」

愛「またはお笑いのほう」

愛「これは…すごいや。暴れん坊がすごい」

愛「また、来たけれど、あっちも人、なんだよね…」

愛「…!」

愛「そんな…必要だなんて…死んじゃうんだよ…? 大勢…」

愛「ここまで、怖いなんて」

愛「また、怒りと叫び」

愛「あの夜、押し込められていたもの」

愛「その感情を押し込めてよいものじゃなかった、だけど…そこまで取り付かれてしまう」

愛「”絶対に止めなくてはいけない敵”」

愛「あの夜、歩夢は、そう言ってたね…あの子の事を」

愛「これが………この人が……」

愛「どうしてそこまでこの人を引き付けるの、それは酷い事だって、解る筈なのに」

愛「…違う、そうじゃない。逆なんだ」

愛「この人もまた、英雄であった」

愛「英雄であるから、英雄として救済しなきゃいけない。その為に人は”ついていく”。それが間違ってると分かっていても。そして、その人達もまた、それが”間違いではない”と信じていた。だって」

愛「この人ついていけば大丈夫、だから…」

愛「それが…この人と…今、コントローラーで動かしてるプレイヤーの違い……」

愛「だけど、現実はゲームじゃない」

愛「だからかすみんは疑問を持った。だからカナちゃんも背筋が凍った」

愛「手段と目的が入れ替わってしまったから」

愛「空の爪痕。それが狂気。虹ヶ咲学園を救うために一人を壊す! 一人を壊す為になり果てた!」

愛「何が違うか、いいや、違うよ」

愛「自ら進んで、空の道を照らす、灯し火を掲げる。そう、翼を広げた大天使。私たちを導き続けた」

愛「だけどそれは容易く、全てを破滅に追いやる悪魔にもなりうる。進むべき道を誤ってしまえば…」

愛「灯りを掲げて進む英雄的な人だった。だけど、それが気負い過ぎてしまえば、救済のための破壊に取り付かれてしまった」

愛「それを正すべき人たちが、いた。そう、コントローラーで動かしてる、プレイヤーには、こうして色んな人たちが、ついてきてるけど、同時に間違わないように、教えてくれるんだ」
144 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/03/07(日) 21:42:29.13 ID:Owmk8FaB0
愛「そう、それを正すべき人が…それを怠ってしまったから、間違ってしまった…」

愛「部の事だって、部長さんにも他の皆にもろくに相談もしないままだった」

愛「部長さん言ってくれなかった…確かにね。でも、言わなかったのは、愛さん達もなんだ」

愛「それでも尊重しようとしてくれてた。他の皆がどういう選択肢を選ぶかって事も…皆には怒れなかった。許せないと思っていても、それでも怒る事が出来なかった。導かなきゃいけないから」

愛「…部長さん…ごめんね…今、少しずつ解ってきたよ…」

愛「…お腹空いた…少し休もう。ハンバーガーにしようかな」

愛(朝から、もう昼過ぎになっていた。お腹もすいていたし)

愛(久しぶりに食べると美味しい)

愛「ジェットコースターだね」

愛(再開していく)

愛「遺書なんて、使わない方がいいよね」

愛「あ…また」

愛「……なんで、空を飛び続けるんだろう…」

愛「空にしか、いれないから?」

愛「空の王国……部長さんにとって、虹が架かる空の王国こそが」

愛「居場所だったんだ」

愛「首都……私たちで言うなら、東京…あの子と私の故郷」

愛「この場所は、昔も戦場だったんだ…」

愛「え…」

愛「なにこれ……壊れたビル、空から堕ちてきた星の爪痕…」

愛「こんな状況でも、戦ってたの…?」

愛「ここが、終わりの地…?」

愛「ううん、終わりであっちゃダメなんだ……」

愛「立ち上がらなきゃ……立ち上がる為にも、灯火が必要なんだ…」

愛「それって…」

愛「スクールアイドルの姿にも、似てる……」

愛「わたし…わたし…」
145 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/03/07(日) 21:44:26.67 ID:Owmk8FaB0
愛「…!」

愛「来たね…天空の王!」

愛「強い…だけど」

愛「この空をこれ以上傷つけさせたくない、だから負けないよ…!」

愛「だめだ、逃げて! 逃げて!」

愛「………何人も、奪ってきた…だけど、空しかないんだ、この人は…!」

愛「くそおっ!」

愛「え…」

愛「こんな事…あるんだ……」

愛「……希望、か」

愛「敵か、味方かもわからないなんて……いや…線引きが、見えないんだ…」

愛「同じ国を背負う人たちでも…道は分かれる…」

愛「それでも…相手を思いやることは出来るよ…間違っていても」

愛「その時傍にいなかった。寄り添う事を、話し合う事を、怠った…それが間違いなんだ」

愛「意志を離れて、暴走していく。人でなくても、そう。人なら…」

愛「これは…」

愛「空の、爪痕…空の罪線はやがて、恐怖の象徴になる」

愛「本当に、どうしてそうなったんだろうね…」

愛「あ……あああ!!!」ガタガタ

愛「……ひどい…なんで…」

愛(いたたまれず、少しだけ目を閉じて休んだ。あの水没した町が目に浮かんだ。空から堕ちてきた星の災厄、一度立ち上がり、一度踏み抜かれて、また立ち上がって、またも踏み抜かれて、また廃墟が重なる)

愛(同じ血を流す人が住んでる場所で、同じ血を流していく。もう立ち上がれないって、嘆く人がいるかも知れない)

愛(もう立ち上がれない…それって)

愛(ああ、そうだ)

愛(”私”だ。そう、思ってしまってたんだ…)

愛(もう一度、続きだ。まだ、終わってない)
146 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/03/07(日) 21:46:31.90 ID:Owmk8FaB0
愛「………ひどい」

愛「そんな事が……あ」

愛「ここも、なんだね……やるしかない」

愛「っこんな事まで…!!!」

愛「…戦いなんだ、孤独な……そうだよ…あの子も…」

愛「救うべき人がいたから、本当の意味で”味方”がいなくて、一人で戦うしかなかった…」

愛「その為なら手段も選ぶ事が出来なかった…!」

愛「しずく、言ってたじゃない…『どうしてそんなに痛そうな顔をしてるんですか? どうしてお腹を抱えて吐いてしまってるんですか?』って……」

愛「それがおかしいって既に気付いてたから…かすみんだって、彼方ちゃんだって…」

愛「!」

愛「…必ず」

愛「守る為の、戦い。かたや、生きる為の、戦い」

愛「この声…確か天空の王の…」

愛「…来る…天空の王…」

愛「地獄の炎、そう…天空の王は地獄の炎で、焼き尽くし続けてきた。そうして空に鎮座し続けた。空こそが王国で、彼はそこの王だったから」

愛「似ているようで、違う。灯火を掲げる人じゃない。だから、人はついてきても、導くことはできない」

愛「あなたは解ってるの? 一人孤独に戦う理由はない筈だって、気付いてる」

愛「一人じゃない、一人じゃない筈だったのに。私たちがいなかった」

愛「言ってた。『自分の居場所を奪われたくなかった! 私の世界を壊されたくなかった! それでも世界は砕かれて粉々だ! 私の場所を返せ!』って悲しく叫んでた」

愛「言ってた。『私は一人じゃ何もできない! ”みんな”がいなきゃダメなんだ!』って…」

愛「だから重なった」

愛「あの艦長も、天空の王も…そしてそれらを知っていたからこそ…」

愛「空にしか居場所がない…空にしかいれない。孫だっている人なのに、それでも空を飛ぶ事だけが全てでしかなかった、天空の王」

愛「そしてその罪も…理解してたんだね…それでも、自在に飛んでいきたかったんだ…」

愛「この空を…」

愛「……自分の国を…」

愛「空から見れば、線なんてものはない。だけど、それでも、線引きしなきゃいけないものが、この人たちに残ってたんだ…」
147 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/03/07(日) 21:48:12.88 ID:Owmk8FaB0
愛「……この人も、この人なりに目指すものを持ってたんだ…」

愛「希望の為の、灯台も……混乱の源になってしまった」

愛「その灯台を、守るべきはずだった正義の名を持つ白い怪物も」

愛「空から線は見えない、そこに線はない…この戦いを止める為に」

愛「こんな綺麗な青空と、宇宙へ伸びる灯台」

愛「少し前まで恐怖の象徴、それでも…その爪痕が、希望にもなりうる」

愛「あの人も…ここにいるんだね…」

愛「この線が無い光景…悲しくても、理想でもあるのかもね」

愛「笑った人たちの笑顔は、皆同じ笑顔なのと一緒だよ」

愛「んなっ…とんだ怪物だよ……絶望をもたらす…怪物」

愛「……どうするの?」

愛「え? なにか出来るの…どうするの?」

愛「どういう、事…? あ…!」

愛「そういう事、か! あはは、こりゃすごいや!」

愛「勝てる…あんな怪物にだって。希望を失わずに…!」

愛「そうだよ、だからあの子のお陰で、私たちはあの夜まで走り続けれたんだ…」

愛「希望さえあれば、意志は死なない。願いは消えない、未来は失われない」

愛「その背中についてきたんだ。今度は、私たちの背中を見て欲しい…!」

愛「え…」

愛「危ない、危ないよ!」

愛「あ…あああ! ここまで来て、ここまで来たのに…!」

愛「…倒そう、この怪物を……この線の無い場所で……」

愛「よしっ…」

愛「……やはり、まだ終わりじゃないんだね…」

愛(もう一度だけ休憩した。ふと、久しぶりにスマホを眺めると、千歌っちから、色んなメッセージが来ていた)

愛(他愛もない話ばかり。だけど、それでも嬉しかった。時々眺めていたけれど)

愛(ふと、話したくなった)

愛『色々、ごめんね。話したいよ』

愛(すると、既読がついた)

千歌『うん。私も、話したい事がある』

愛『電話大丈夫かな?』

千歌『いや、これは直接話したい』

千歌『明日、会えるかな』

愛『いいよ、明日だね』
148 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/03/07(日) 21:50:04.93 ID:Owmk8FaB0
愛(ふと、時計を見るともう夕方を過ぎて夜になりつつあった)

愛(大詰めだ。私は再びコントローラーを握った)

愛「この背中を灯火に、皆がついてくる。だからその道を誤ってはいけない。間違えないように、皆が手を差し伸べるべきだった」

愛「天空の王が生み出した怪物」

愛「本当に、怖いね…」

愛「だけど、それでも負けないのがこの人なんだ。希望を失わずに、空で戦い続けるんだ。あの子は、そういう人だったからこそ…あの子の為の灯火が、必要だったんだ」

愛「また、一人…この空から…」

愛「空の王国の自由を守る為の灯火…それがいつしか地獄の炎に変わり、羽根の色は闇色になってしまった。そうして虹の王国を守ろうとして、壊してしまった。でもその願いだけは、変わらなかった。痛みと恐怖をまき散らして。そこに救いは…」

愛「ある筈だったのに、なかったのは、私たちの過ち。でも、希望を捨てずにいれば…!」

愛「あの嵐の歌の、エマっちだよ…!」

愛「これで、終わり…」

愛「……ん?」

愛「えええ……?」

愛「そんな無茶……ううん。無茶じゃないね。私だってさ。そんな無茶、あの子。大好きだよね」

愛「だからついてくれば大丈夫」

愛「大丈夫!?」

愛「…危ない、危ない…」

愛「……いた!」

愛「……どうしよ。え、あるの?」

愛「そこ!?」

愛「空へ、ダークブルーの空へ…」

愛「そこに虹が架かる事を望んでた…あの子は…」

愛「………そうだよ、待ってる」

愛「皆が、待ってる。今度こそ、あなたが道を間違えないように」

愛(この暗くても、美しいダークブルーの空で)

愛(ここに、虹が架かる空の王国があった。彼女はその空の灯火である女王。番人)

愛(今はない。だけど、まだ希望はある。その空を照らすんだ)

愛(スクールアイドルによって)
149 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/03/07(日) 21:51:19.37 ID:Owmk8FaB0
愛「………あ」

千歌『明日の昼に、穂むらの前で』

愛『わかった』

愛(もう、夜になっていた。いい加減眠らないと)

愛(夢を見た)

愛(夕陽に照らされた、隕石が落ちた後。戦火で一度焼かれて、立ち上がって、また焼かれた後)

愛(泣いてる人たちの風景の中で、ダジャレを披露してみたら、笑顔が広がった)

愛(元気を出して、また立ち上がろうとする人達の顔を見た)

愛(楽しいの天才なんて言葉は、本当じゃなかったのかも知れない。だけど楽しいって感情も、元気を出す事も、国籍も人種も関係ない、この星のどこにでも、どんな人にでもあるもの)

愛(私が目指すべきものって―――――――――――)



昼頃 穂むら前

雪穂「お姉ちゃん。お客さん」

穂乃果「ん……あ」

雪穂「千歌さん…。ご無沙汰してます」

千歌「う、うん……雪穂ちゃんも、久しぶり」

雪穂「こっちに来るなら、連絡ぐらい…」

千歌「穂乃果ちゃん」

穂乃果「……」

千歌「話せる、かな。その…」

愛「…千歌っち…」

千歌「愛ちゃんと、三人で、ね」

穂乃果「……ああ、そうだね」

穂乃果「雪穂。店番お願い」

穂乃果「少し場所変えよっか……部屋片付けてないんだ」
150 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/03/07(日) 21:52:16.01 ID:Owmk8FaB0
愛(無言で、三人で歩いていた。穂乃果がどこで足を止めるかもわからなくて)

千歌(穂乃果ちゃんも話したい事の整理が出来てないのだろう。無理もない、私もだ)

穂乃果(何度も何度も再生した、あの夜の記録。そしてその翌日の記憶。気が付けば歩いていて)

穂乃果(神田川を歩き通して、隅田川との合流地点――――私はここでようやく、適当なベンチに座って、頬杖をついて川を見た)

愛(穂乃果の座ったベンチの隣、だけど何故か同じ方角を向けずに、180度逆にい、膝小僧を抱えて座ってしまった)

千歌(穂乃果ちゃんが座ったベンチの隣り、昨日よく眠れずにいたのもあってか、ベンチの残ったスペースに寝転がる形で、空を眺めた)

愛(どれぐらい、三人同じベンチでバラバラに座ってたかも分からない時になって、穂乃果が口を開いた)

穂乃果「愛ちゃん。璃奈ちゃんから、あの夜、虹ヶ咲学園で何が起こったかの、録音データを貰った」

愛「…りなりー」

穂乃果「愛ちゃん…言ってたよ……愛ちゃんは、あの子に、言うべき事を、ちゃんと言ってたんだよ、あの時」

愛「けど…」

穂乃果「うん…。あの子もその苦しみを誰かに言うべきだった。私や、千歌ちゃんとかに。しずくちゃんや栞子ちゃんを傷つける必要もなかった」

愛「かすみんと、カナちゃんも、間違ってるって解ってて、それで危ない時になって……」

千歌「うん…だけどあの子たちは、立ち上がった」

穂乃果「そうだね」

愛「………あの夜、私、部長さんに『部長さん言ってくれなかった』って言った。でも、そうであるなら。私たちも部長さんに言うべきだった。部の事だって」

愛「何の相談もせずに、帰ってきてから話せばいい、わかってくれる筈。そう思ってた」

愛「実際、その事を尊重してくれた。少なくとも、私や果林に、恨み言を言わなかった。いや、言えずにいたのかも知れない」

愛「その背中についていけば大丈夫って、誰もが思ってたから」

穂乃果「わかるよ」

千歌「そうだね……この空で輝くために、その道筋を追いかけていけばいい。背中だって押してくれる」
151 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/03/07(日) 21:53:09.07 ID:Owmk8FaB0
愛「でも本当は、そこで道を誤らないように、私たちもまた寄り添うべきだった」

愛「あの子が私たちを大切に見てるように、私だって…! でも、ずっと甘えてしまった」

穂乃果「果南ちゃんがものすごく怒るぐらいには、ね」

穂乃果「……愛ちゃん」

穂乃果「ごめん」

穂乃果「あの日、酷い事を言ってた。あの夜、千歌ちゃんがああ言ってた理由が、やっと分かった」

穂乃果「にこちゃんが怒るからって言って、話を聞くだけ聞いてなにもして無かった。だから千歌ちゃんは愛ちゃんを責められるのかって言ってた…全部、愛ちゃんに押し付けちゃった」

愛「……穂乃果…」

穂乃果「愛ちゃんも、穂乃果に聞いてほしくて相談してたのに…私も何もしてなかったよ」

穂乃果「合同ライブの話が出た時、せつ菜ちゃんがかすみちゃんの話をしてた」

穂乃果「その時に善子ちゃんも梨子ちゃんも、かすみちゃんの暴動騒ぎの事を心配してた。穂乃果はその話を愛ちゃんから聞いてたけど、せつ菜ちゃんと善子ちゃんが話題にするまで話もしてなかった」

穂乃果「それどころか、それを心配する千歌ちゃん達まで宥めてた…逆効果だ」

千歌「あの時、もう知っていたんだね」

穂乃果「千歌ちゃんも、本当にごめん」

穂乃果「穂乃果が、大バカだった」

千歌「その時に誰か怪しんでいれば、こうはならなかったのかもね」

愛「うん……皆、間違えちゃってた。皆で、ごめんなさいだね」

千歌「穂乃果ちゃん。穂乃果ちゃんが、感情的になってる時に、気持ちも考えずに、あんな事言って、ごめんね。私もムキになってたんだよ、きっと…友達を見捨ててしまったって思いで」

穂乃果「……うん」

愛「あの子の事…ごめんね。皆にとっても、大事な人だった…」

千歌「鞠莉ちゃん達は、まだ行き先を話してくれない」

穂乃果「まだ目覚めてないのかもね」

千歌「たぶん」

愛「そう、なんだ……」

愛「……考えたんだ。どうしたいかを」

愛「今度は、あの子を導く灯火にならないと。もう、間違えないように。それで」
152 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/03/07(日) 21:54:08.75 ID:Owmk8FaB0
愛「……虹ヶ咲学園、今は…」

千歌「大変な事になってる。梨子ちゃんが教えてくれたよ」

愛「うん……でも、立たないと。笑顔に、国籍も人種も関係ない。空から見れば国境が見えないのと同じようにね」

愛「だから…この空に、灯火を持って飛んでいかないと。そこに差なんてないんだって」

穂乃果「愛ちゃん……」

愛「ねぇ」

愛「……二人とも、また友達って呼ばせてよ…」

千歌「…あの夜、友達を見捨てたのは私なんだよ?」

愛「そんなことない。私だって、あの夜の前から、道を間違えちゃった」

穂乃果「…穂乃果もだよ」

穂乃果(いつからか)

千歌(涙が溢れていた)

愛(オレンジ色の夕陽に照らされながら、泣いていた)

愛(遊歩道の花壇に植えられてた薔薇が、同じ色に照らされているのを覚えてる)
153 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/03/07(日) 21:55:23.33 ID:Owmk8FaB0
ザップランド部室棟 スクールアイドル同好会部室

璃奈「……ん? 電話…」

ミア「璃奈、電話かい?」

璃奈「……穂乃果さん、から…」

璃奈「はい」

穂乃果『璃奈ちゃん。この前は…ごめん。あの、音声データなんだけど』

璃奈「うん」

穂乃果『Aqoursに送っても、いいかな?』

璃奈「大丈夫」

穂乃果『ありがとう。それと…一つお願いがある。今から、そっちに向かいたいんだけど。部室、移ったの? 前の部室、倉庫とか書かれてるんだけど』

璃奈「移転した。場所は…」

璃奈「ふぅ…」

ミア「前の部室も居心地悪くはなさそうだったんだけどなぁ」

璃奈「確かに」

ミア「彼女の曲からもう少し整理しない事には…新曲、確かに求められる。彼女無しではない、彼女が残したものからマッシュアップで出来れば…クソ、ダメだ! これじゃだめだ!」

璃奈「璃奈ちゃんボード『落ち着け』」

コンコン

愛「……りなりー、それに…ミア」

璃奈「愛さん」

ミア「やあ、愛。久しぶり」

愛「……うん。あのさ、他の、皆は?」

璃奈「外で、練習中。この狭さ、だから。でも、すぐに呼び戻す」

穂乃果「うわ、本当に狭いね…」

千歌「うちの部室の半分もないのだ…」
154 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/03/07(日) 21:56:23.66 ID:Owmk8FaB0
ぞろぞろ

せつ菜「璃奈さん、急にすぐに戻ってきて欲しいとは…」

エマ「なにかあったかな」

栞子「まあ、それはともあれ」

千歌「そりゃ狭いね」

穂乃果「これは狭い。ここに九人はねぇ…」

愛「あ…」

かすみ「愛先輩…それに、穂乃果先輩と千歌先輩も…」

愛「えと……」

愛「皆、まずは本当にごめん! 色々逃げちゃって…」

愛「でも、りなりーが届けてくれたゲームやって、あの時の事とか、どうしたいかとか、ずっと色々考えて」

愛「………立たなきゃって思った。あの子の背中を追いかけてれば大丈夫。だけど、その道を誤らないように、私たちが、支える必要があった。それを怠ってた」

愛「だから、こうなっちゃった……間違ってたんだよ、愛さん…」

愛「それで今、学校はこんな状況だよ……」

愛「笑顔に、国境はない。空から見れば、線が見えないのと同じように。だから愛さんもまた、灯し火にならなきゃ。導くために。そして、あの子が二度と道を誤らないように」

璃奈「…愛さん」

璃奈「おかえりなさい」

愛「りなりー……り、りなりーっ、あり、ありがと、ありがとぅっ…」ボロボロ

かすみ「あ、愛先輩。ほら、ハンカチハンカチ」

しずく「なんだかこうして、皆が帰ってくるたびに泣いちゃってる気がしますね」

エマ「かすみちゃんは部室に入ってくるなり土下座だったよね」

かすみ「そ、それは…」

穂乃果「ああ、そういえばかのんちゃん…かすみちゃん一度責任取ってスクールアイドル辞めたとか言ってたね…」

愛「えっ、愛さんいない間にそんな事になってたの!?」

しずく「実は栞子さんもやめてました。かすみさんと同じ日に帰ってきてくれましたけど」

栞子「お恥ずかしながら、ただの三船栞子として出来る事をしようかと…」

千歌「おおー、でも良かったよかった」

穂乃果「だね…」
155 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/03/07(日) 21:58:29.84 ID:Owmk8FaB0
穂乃果「かすみちゃん」

かすみ「…はい」

穂乃果「あの日の記録も聞いた」

穂乃果「……正直言って、聞いてて辛かった…それに対して、何も考えないで色々言い放題してて…ごめん」

穂乃果「合同ライブの事。かのんちゃんがいない時に話すのもなんだけど……条件を付けたい」

かすみ「…はい」

穂乃果「虹ヶ咲の子たちだけへの、条件だよ。Liella!の皆と同じステージに立つことは、私もしたい」

穂乃果「ひとつは…あの子が関わってる新曲を一曲でも入れる事」

穂乃果「もうひとつは、ステージに立つ子は、誰も欠けない事」

穂乃果「これが約束出来るなら、出る。逆を言えば、出来れなければ無い」

かすみ(穂乃果先輩の言葉に、皆は沈黙する)

かすみ「やります」

穂乃果(かすみちゃんは、しっかりと頷いて答えた)

穂乃果「楽しみにしてる」

千歌「あ、そうだ。璃奈ちゃん」

千歌「例の音声データなんだけど…」

璃奈「うん。今、用意する」

千歌「それと千歌、ここに来るまでに少し考えたんだけどね…」

千歌「あの子は、ランジュちゃんに使おうとした催眠が自分に跳ね返ってきた。で、その催眠に関しての元ネタのアングラサイトを善子ちゃんが解読してるんだけど」

穂乃果「そんな事してたんだ、善子ちゃん」

千歌「難航してる」

璃奈「みたい。脳波に干渉する機器の設計図や使い方のデータも来たけど、まだこっちも解読してる」

千歌「で、話を戻すんだけど…」

千歌「催眠そのものはランジュちゃんに何度かかけてるみたいだね」

かすみ「え、ええ。そう言ってました。サンプルを作るぐらいには…あと、色々刷り込みしたとかも」

ランジュ「かすみに言われるとすごい生々しいわね」

かすみ「というより明らかにマインドコントロールしてましたね部長…」

千歌「善子ちゃんもそう言ってたね」

ランジュ「い、今はあの子をちゃんと友達と思いたいわ! 信じたいの!」

栞子「しかしマインドコントロールってランジュみたいな子でも引っかかるのでしょうか」

千歌「善子ちゃんが言うには、自信家とかでも普通にかかるらしいのだ」

千歌「と、ともかく。その催眠について辿れば、少しは解析に繋がるんじゃないかって事」

璃奈「なるほど」

璃奈「わかった、善子ちゃんと連絡を取ってやってみる」

かすみ(少しだけ、希望が見えてきた)

愛(夕陽に照らされる、東京湾――――――天に伸びる灯台が見えた気がした)

愛(境のない、空)

7/了
156 : ◆3m7fPOKMbo [saga]:2021/03/07(日) 22:00:55.93 ID:Owmk8FaB0
仮にこのSSみて始めようとする人がいたらこれを渡しておこう。

つノーマル操作

つCASUAL -EASY-

シリーズ経験者でもEASYがきつめの難易度なので、恥ずかしくない。
ちなみに前スレでも出てきたトーレス艦長はDLCのSP MISSIONに出てくるよ(有料です)
157 : ◆3m7fPOKMbo [saga]:2021/05/04(火) 21:46:12.39 ID:7LvLThZh0
7.5/空を信じて

音ノ木坂学院 アイドル研究部 部室

穂乃果「皆、本当にごめん」

穂乃果(そう言って頭を下げた時、にこちゃんが口を開いた)

にこ「穂乃果。顔をあげて。悪かったのは…にこもよ。あの時、色々と怒鳴り散らしてたことが、穂乃果に選択を誤らせてしまった」

穂乃果「…にこちゃん」

にこ「それで、なにか話したの?」

穂乃果「うん……新曲を出す事と、ステージにメンバーを欠けさせない事。かすみちゃんはすぐに了承したよ」

にこ「そう…ま、それは必要な事ね」

穂乃果「それと、これを」

希「…これはなんや?」

穂乃果「璃奈ちゃんが渡してくれた、あの夜の記録」

穂乃果「………聞くなら、覚悟した方がいい」

にこ「……」

カチャ ピッ
158 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/05/04(火) 21:47:48.75 ID:7LvLThZh0
花陽(次々と紡がれる、やり取り。押し込められた狂気。その奥にある本心)

真姫「なによ…これ……ほとんど、綱渡りよ…正気と狂気を行ったり来たりして…」

絵里「あの子…こんなになるまで…」

穂乃果「壊れちゃったんだよ…だから、自分自身をも…」

にこ「……」ブルブル

にこ「あの子は…」

にこ「あの子は今、どこにいるの……」

穂乃果「千歌ちゃんも、知らないみたい。まだ鞠莉ちゃんはAqoursの皆にも話してくれないとかで…」

穂乃果「………だけど、希望はまだある。善子ちゃんが教えてくれた」

穂乃果「なんでも、あの子が催眠術を使うのに使っていたアングラなサイト? そこで色々と発見したものの翻訳とかをしてたら、脳波に干渉できる装置があるみたいな話をしてたよ」

真姫「睡眠中への刷り込みみたいな事かしら? まあ、不可能ではないけど…」

真姫「ちょっと善子とも後で話してみるわ。何か分かるかも知れない」

穂乃果「璃奈ちゃんともね、お願い。真姫ちゃん」

真姫「ええ。任せなさい」

にこ「鞠莉たちに、頼んでみるしかないわ」

穂乃果「……それはどうだろう」

にこ「どうしてよ穂乃果!?」

穂乃果「鞠莉ちゃん達があの子を隠している理由は、鞠莉ちゃん達が虹ヶ咲の皆にあの子を会わせるべきじゃないと思ってるから。会ってもいいと納得させるのは、虹ヶ咲の皆がしないといけない事だよ」

穂乃果「私たちが言うべきじゃない」

海未「穂乃果…」

にこ「…なるほど、そうね」
159 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/05/04(火) 21:49:51.30 ID:7LvLThZh0
生徒会室

ランジュ(私が彼女を信じるようになった事の始まりは、私を壊したかった彼女の意志)

ランジュ(だけどそれでも、私は彼女を信じるに値する人間だと今も信じ続ける)

ランジュ(彼女にこそ、伝えたい曲。それを作ろうとして、空を見上げ続けている)

菜々「できましたよ! 四代目かすみんボックス!」

副会長「二代目が壊され、三代目も破壊されたのなら四代目はパワーアップです!」

菜々「ええ、これぞ四代目かすみんボックス…しず熊ポスト四号です!」

副会長「我ながら良いデザインですね。赤いリボンがチャームポイントです」

菜々「ええ! メ●ン熊みたいな顔なのでインパクト抜群。これは目立ちますよ!」

副会長「さて、ランジュさん。設置に行きますよ」

ランジュ「え? あ、ああ、そうね。完成したのね…なにこれぇ!?」

菜々「四代目かすみんボックスことしず熊ポスト四号です!!!」

ランジュ「もはやかすみですらないわね…しずく、怒らないかしら」

よいしょ よいしょ

移動中

菜々「ランジュさん、曲の方はどうでしょう」

ランジュ「行き詰ってるのよ」

ランジュ「テーマはあるの、だけど音楽と言葉が…」

菜々「ふむ」

菜々「ミアは…助けてくれそうにないですね」

ランジュ「ええ……」

菜々「他の誰かに聞くのは良いと思いますよ? あなたを知ってる人、或いは届けたい相手を知る人」

ランジュ「そうね………」
160 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/05/04(火) 21:52:29.92 ID:7LvLThZh0
虹ヶ咲学園 屋上

かすみ「ああ、なるほど。それで気落ちしてたんですね、先輩」

ランジュ(練習の間に休憩中、かすみにそう話すと、彼女は手を当てて考え込む)

かすみ「ランジュ先輩を知る人…というと、一人しか思い浮かばない」

ランジュ「あら、そうなの?」

かすみ「なのでその人とかすみんの意見を合わせてみるのもヒントになるかも知れませんね」

ランジュ「流石だわ。さっそく栞子を呼びましょう!」

かすみ「え?」

ランジュ「え?」

四十分後

可可「ナルホド、流石かすみさんはワカッテル」うんうん

恋「すみません、急に…」

かすみ「呼んだのはこっちだから気にしない気にしない」

可可「ナニハトモアレ、部長さんに伝える曲……サテ、かすみサン!」

かすみ「うん」

可可「部長サンとは?」

かすみ「先輩」

恋「そのまんまにも程がありますよ…」

可可「ナルホド」

恋「可可ちゃんも納得してる!?」

ランジュ「栞子ー!!!」

栞子「今行きます…なんの話です、ランジュ」

ランジュ「実は曲の事で…」

栞子「なるほど。可可さんは、私の知らないランジュを知っている筈ですし、意見を求めましょうか」

可可「ハイ! 私のシラナイランジュさんを、栞子さんは知っております!」

可可「面倒見が良い」

栞子「そうだったのですか!?」

ランジュ「え、栞子の中の私ってどうなってるの?」
161 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/05/04(火) 21:54:12.94 ID:7LvLThZh0
栞子「傍若無人」

栞子「馬耳東風」

栞子「我田引水、横行闊歩」

しずく「魚目燕石、曲学阿世」にゅっ

璃奈「狐仮虎威、無理無体」にゅっ

栞子「傲岸不遜」

かすみ「しず子もりな子もしお子も辞めて差し上げて、ランジュ先輩の胃が死ぬから」

可可「イクラナンデモ栞子さんまでイイマスカ…」

かすみ「…だいたいあってるけど」

恋「かすみさんトドメを刺さないでくだい!」

ランジュ「orz」

かすみ「もう…しず子もりな子もどうするのさ、この惨状」

恋「かすみさん思いっきりトドメを刺してましたけど…」

かすみ「まあ、それは良いとあだぁっ!」すぱぁん

しずく「あいたっ」べしっ

璃奈「たっ」ぺちっ

栞子「いっ!?」ごいん

せつ菜「良いわけないじゃないですか、ちゃんと聞いてましたがただの悪口の羅列になってましたよ」

栞子「〜〜〜〜!」悶絶中

可可「栞子さんにだけ容赦無いデス…」

恋「と、ともかくかすみさんの知っている部長さんは…もう少し掘り下げましょう」

かすみ「英雄的な人。その背中についていけば道がある。だから追いかけていける。止まって道を譲ったら、その先に踏み出すのはかすみんたちってその背中を押そうとしてくれる」

かすみ「だからこの人にこたえたいし、答えなきゃって思える。信じるに値する――――だから、たとえ道を誤っても、もう一度戻ってこられるように声をかければ、きっと戻れる筈」

かすみ「私たちは先輩も人だってことを忘れてしまっていたんだよ」

ランジュ「……あの子も、人…そうよね、一人の、人、よ」

ランジュ(だけど平凡な、冴えない子なんかじゃなくて―――どこまでも本気になれる人なのだ)

ランジュ(一人へ送る、導となる歌)

可可「ランジュさんは、オセッカイな所がありマス。良かれと思って色々スル」

可可「善意で」

可可「だけどそれなら…」

ランジュ「合わさる…」

可可「ヤリマショウ! 一日一善デス! 恋ちゃん!」

恋「え? あ、はい。作曲ですね?」

ランジュ「え、れ、恋がしていいの?」

しずく「問題ないのでは? ミアさんが協力しないけど恋さんが協力してはいけないとは決まってないですし」

ランジュ「な、なるほど」

ランジュ(伝えるべきこと、それは)

ランジュ(あなたが教えてくれたことがあるから、今、本当の意味で誰かに手を差し伸べる事が出来る)

ランジュ(あなたに向けて、その手を差し伸べる歌を)
162 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/05/04(火) 21:56:13.64 ID:7LvLThZh0
二日後 ザップランド部室棟前

愛「やっぱオンラインライブにするんだ?」

せつ菜「許可が下りないので、仕方がありません」

ランジュ「まあ、ちゃんと衣装も必要だもの……とはいっても、場所はやっぱり庭かしら?」

エマ「ううん、そうじゃないかな。それに、オンラインライブをするのはランジュさんだけじゃないしね」

かすみ「活動停止を開けた私たちと、帰ってきた愛先輩、皆のパフォーマンスですよー、にししー!」

ミア「……いや、だから場所は?」

エマ「ほら、そこの離れだよ」

ランジュ「ここだけ明らかに作りが少しまともね…」

留学生・ドイツ「直しましたので」ガラッ

エマ「こんにちは、今日はありがとう」

璃奈「お邪魔します」

留学生・イギリス「ようこそ、皆さん。機材はもう運び込んだわ」

しずく「ありがとうございます」

かすみ「本当にありがとうございます」

留学生・フランス「愛ちゃんの生ライブ愛ちゃんの生ライブ…」ブツブツ

留学生・イタリア「この子、歩夢ちゃんの転校ショックだったみたいだから…」

かすみ「で、ですよね…」

ミア「さ、始めようか…まずは…せつ菜からだね」

ランジュ(スクリーンが張られ、簡易スタジオに作り替えられた部室棟の一つをぶち抜いて作られたであろう、例の元BIG4専用部屋)

ランジュ(ミアが機材を操作している。流石にスタジオは広くないから一人一人だ)

璃奈「ファンレターは校内巡回中のりなりーポスト(自走型)マーク5によろしく」

かすみ「りな子、何故マーク5?」

璃奈「先日しず熊ポスト四号がその役目を…全うし…殉職した」よよよ

かすみ「そんな…しず熊ポスト四号…」よよよ

栞子「ありがとうしず熊ポスト四号…その雄姿を私たちは忘れません…」
163 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/05/04(火) 21:57:34.76 ID:7LvLThZh0
画像 メ●ン熊の顔についた赤いリボンとしずく風かつらのポスト

しずく「ちょっと色々後で話聞きたいんですけど次のランジュさんに移りましょうか」

ランジュ(いよいよだ)

留学生・イギリス「…彼女の無事が確認されたの、本当? エマ?」ひそひそ

エマ「うん。ミアちゃんが言うなら間違いない」ひそひそ

留学生・イタリア「良かった…オハラから、追加情報無かったから…」ひそひそ

ランジュ(息を吐く)

ランジュ(今日の為に作った、皆の前で披露する衣装。一から、可可や、恋や)

ランジュ(しずく、かすみ、色んな子の力を借りて)

ランジュ(私は今日、スクールアイドルになる)

ランジュ「皆、見えてるかしら?」

ランジュ「見てる人の中で、ランジュの事が嫌いな人は、きっとまだまだいる。でも大丈夫」

ランジュ「きっと皆が好きになってくれるって、ランジュは信じてる!」

ランジュ(カメラの方を向いて――――――もう一度決意を新たにする)

ランジュ(届いてる、あなた?)

ランジュ(私は今日、スクールアイドルになる)


沼津市内 高校

教師「それでは…これで転入手続きは完了となります。成績も、素晴らしいですね」

歩夢「ありがとうございます」

教師「少し学校を見てみますか? 最近生徒会選挙も終えたので校内も落ち着いています」

歩夢「そうなんですか?」

歩夢(生徒会選挙と聞くと、せつ菜ちゃんと栞子ちゃんの事を思い出す。すると)

教師「ああ、ちょうど良かった。新しい転入生の上原歩夢さんだ。君のクラスだよ、仲良くしてやってくれ」

教室「生徒会長、渡辺月さん」

月「よろしくね、僕は渡辺月」

歩夢「初めまして、私は上原歩夢。よろしくね。えーと…」
164 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/05/04(火) 21:59:44.36 ID:7LvLThZh0
歩夢(名字で呼ぶのがどこか躊躇われた。曜ちゃんと同じ苗字というのもあるし、何よりその曜ちゃんと似た雰囲気があった。案外紹介したら面白いかも知れない)

歩夢「月ちゃん」

月「うん。歩夢ちゃん」

歩夢(月ちゃんは、とても気さくな性格で明るく、それもまた曜ちゃんを思い起こさせた)

歩夢(そんな曜ちゃんを裏切るような行為を、あの子がしてしまった事が心が痛い。だが、Aqoursの皆とは話さなければいけない事だ。ルビィちゃんとは、必ず)

月「東京から来たっていうけど、東京では部活とかはしていたのかい?」

歩夢「うん、してた」

月「静真高校は部活動は盛んだよ。だいたいあるかな。あ、でも無いものもある」

月「スクールアイドル部とか…でも、これはまだうちの学校に根付いてないから、だと思う」

歩夢(その時の私はぎょっとした顔をしていたのかも知れない。だが)

歩夢(あの子のいない場所であの子に見せるならば――――――それしかないと思っていたし何より。あの時、せつ菜ちゃんにも、観客たちにも約束した)

歩夢(また会おうと。それはステージでだ)

歩夢「そっか、ないんだ」

月「そうだね…」

歩夢「スクールアイドル、好きなの?」

月「応援するのはね」

歩夢「………私も、スクールアイドルをしていた」

月「そうなんだ…」

歩夢「前の学校で、色々あった。だけど…」

歩夢「スクールアイドルを諦めたくない。だから、私」

歩夢「この学校最初の、スクールアイドルになる。部活動の申請って、どうすればいいかな?」

月「部活は五人以上必要だよ…だけど」

月「同好会なら一人以上いればいいよ」

歩夢(私の言葉に、月ちゃんは優しく答えてくれた。だから)

歩夢(私は、スクールアイドルであることを諦めない―――――――――――)

歩夢(転入したその日、部室ですらない部室棟最上階の、屋上に繋がる階段の踊り場に、小さな立札が出来た)

歩夢(『静真高校スクールアイドル同好会。部員募集中!』)


7.5/了
290.09 KB Speed:0.1   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 新着レスを表示
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)