【スクスタSS】あなた「灯台守」

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1 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:19:34.86 ID:4ITMBpJ60
前作
あなた「空の女王」109レス目より派生
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1606638949

*留意事項:前作の時点でそうでしたが、エースコンバット7スカイズ・アンノウンのネタが多数にぶっこまれております。
*Liella!メンバーが結構出てきますが口調とか割と想像で書いてるのは見逃して
*アニガサキにおるやんけっぽい人がいてもスクスタ時空なのです

1/火の消えた灯台

歩夢「届いて…届いてよ…!」

かすみ「先輩……聞こえますか…先輩…」

しずく「こっちを見てください! 先輩…!」

愛「ダメだよ、帰ってきて……ダメだよぉ……」

果林「もう離さないからっ…お願い、お姉さんの方へ…ね?」

栞子「もう、あなたを一人にはしませんっ…だから……!」

せつ菜「聞こえてますか…この声が…届いて…」

エマ「あなたはそこにいていい人じゃない、そこにいては…!」

璃奈「諦めないよ、何度だって呼びかける…だから届いて…!」

彼方「それは自分が生み出した幻だよ、存在しないもの、だから…!」

ランジュ「私の事をずっと嫌いだって思ってても構わない、だけど、あなたは皆に必要な人なの! だから!」

歩夢「そんな…なんで…」

歩夢「う…うわぁぁぁぁぁぁぁ…!!!」

せつ菜(彼女は、自ら生み出してしまった悪意の海に飲み込まれて、そしてそのまま沈んでいった。私たちの呼びかけも空しく、光を失った瞳しか残らなかった)

せつ菜(泣き崩れながら彼女を抱きしめる歩夢さんにも、彼女の光を無くした瞳は動くことなく、彼女は、人を壊そうとしたもので自らの心を壊してしまったのだ)

せつ菜(愛さんやかすみさんのように歩夢さん同様に泣き崩れるもの)

せつ菜(果林さんや彼方さんのように俯いて必死に涙をこらえるもの)

せつ菜(エマさんやしずくさん、璃奈さんのようにそれでもあきらめずに彼女に呼びかけ続けるもの)

せつ菜(言葉を失い、放心するしかなかった栞子さんやランジュさん)

せつ菜(そして私はどうしたのか覚えていなかった、だけどこの日)

せつ菜(私たちは、大切な人の心を、失ってしまった)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1609557574
2 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:20:42.22 ID:4ITMBpJ60

音ノ木坂学院 部室

穂乃果「話して、くれるよね?」

せつ菜(その次の日の放課後。音ノ木坂学院に来るように言われた私たちに、μ’sとAqoursメンバーの視線が突き刺さった。私たちは、どう説明するかも、思いついていなかった)

かすみ「はい…」

せつ菜(かすみさんは、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した)

せつ菜(彼女による虹ヶ咲学園救済計画と、それに手を貸した事。そしてそれがうまくいくはずもない事に気づいていた事、彼女の手によってランジュが改心していたから、それ以上何かをする必要性がなくなっていた事、合同ライブを彼女が押していた理由はランジュを壊す事にあったこと)

せつ菜(その、全てを話した。そして、その末路についても)

にこ「…そう」

にこ「とんだ、大バカだわ」

せつ菜(にこさんは顔を覆い、そしてそれ以上口を開こうとしなかった)

せつ菜(怒鳴る事もせず、ただ無言で、手で顔を覆ったまま部長の席に力なく座りこんだ。その手の隙間から雫が漏れていても、嗚咽を挙げる事だけはしなかったのは、彼女の精一杯のプライドだったのだろう)

せつ菜(にこさんにとって、彼女はいわば盟友だと思っていた存在だった。そんな彼女がもう少しで自分たちのステージをも壊そうとしていた狂気に墜ちてしまった。その最悪の事態こそ避けられたが、その代償の大きさは堪えたのだろう)

せつ菜(だが……私たちは、突き付けられた)

穂乃果「……そうなんだ…それで」

せつ菜(穂乃果さんが口を開いたのはそんな時だった。ぞっとするほど、冷たい声で)

海未「穂乃果?」

穂乃果「あの子の悪い気持ちもろとも自分自身を壊してしまいました、めでたしめでたし。冗談じゃない!!!」

穂乃果「かすみちゃんが止めていれば気づけた、彼方ちゃんが一声挟んでいれば気づけた、愛ちゃんや果林ちゃんがもっと踏み込んでいれば止められた、何より! 誰かが! もう少しでも踏み込んでいれば!」

穂乃果「私たちの友達は……自分の心を焼き尽くすまでに壊れちゃう事なんてなかった!」

穂乃果「君たちのせいだよ!? わかってるの!?」

せつ菜(涙をこぼしながら怒りに震える穂乃果さんは、私たちを恨みを込めた眼で見ていた)
3 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:21:09.64 ID:4ITMBpJ60

音ノ木坂学院 部室

穂乃果「話して、くれるよね?」

せつ菜(その次の日の放課後。音ノ木坂学院に来るように言われた私たちに、μ’sとAqoursメンバーの視線が突き刺さった。私たちは、どう説明するかも、思いついていなかった)

かすみ「はい…」

せつ菜(かすみさんは、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した)

せつ菜(彼女による虹ヶ咲学園救済計画と、それに手を貸した事。そしてそれがうまくいくはずもない事に気づいていた事、彼女の手によってランジュが改心していたから、それ以上何かをする必要性がなくなっていた事、合同ライブを彼女が押していた理由はランジュを壊す事にあったこと)

せつ菜(その、全てを話した。そして、その末路についても)

にこ「…そう」

にこ「とんだ、大バカだわ」

せつ菜(にこさんは顔を覆い、そしてそれ以上口を開こうとしなかった)

せつ菜(怒鳴る事もせず、ただ無言で、手で顔を覆ったまま部長の席に力なく座りこんだ。その手の隙間から雫が漏れていても、嗚咽を挙げる事だけはしなかったのは、彼女の精一杯のプライドだったのだろう)

せつ菜(にこさんにとって、彼女はいわば盟友だと思っていた存在だった。そんな彼女がもう少しで自分たちのステージをも壊そうとしていた狂気に墜ちてしまった。その最悪の事態こそ避けられたが、その代償の大きさは堪えたのだろう)

せつ菜(だが……私たちは、突き付けられた)

穂乃果「……そうなんだ…それで」

せつ菜(穂乃果さんが口を開いたのはそんな時だった。ぞっとするほど、冷たい声で)

海未「穂乃果?」

穂乃果「あの子の悪い気持ちもろとも自分自身を壊してしまいました、めでたしめでたし。冗談じゃない!!!」

穂乃果「かすみちゃんが止めていれば気づけた、彼方ちゃんが一声挟んでいれば気づけた、愛ちゃんや果林ちゃんがもっと踏み込んでいれば止められた、何より! 誰かが! もう少しでも踏み込んでいれば!」

穂乃果「私たちの友達は……自分の心を焼き尽くすまでに壊れちゃう事なんてなかった!」

穂乃果「君たちのせいだよ!? わかってるの!?」

せつ菜(涙をこぼしながら怒りに震える穂乃果さんは、私たちを恨みを込めた眼で見ていた)
4 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:22:09.90 ID:4ITMBpJ60
花陽「…かすみちゃん」

花陽「心の奥底から、かすみちゃんを軽蔑するよ」

せつ菜(次は、花陽さんの静かな怒りが、部屋を支配した)

花陽「間違っていると分かっていても、止められなかった。確かに、かすみちゃん一人なら。でも」

花陽「だけどその時に、話を終えたら電話をかける事も出来たんじゃないかなぁ?」

花陽「璃奈ちゃんとか」

花陽「エマさんでも」

花陽「絵里ちゃんでも」

花陽「千歌さんでもいいね。誰にでも、電話の一つでもLINEでも良かったね。『先輩がこんな事言ってます、かすみん手を貸すように頼まれましたけどどうしましょう?』ってね」

かすみ「……」

千歌「花陽ちゃん…」

梨子「千歌ちゃん」

せつ菜(何かを言いかけた千歌さんを梨子さんが止めて、花陽さんは続ける)

花陽「それでもかすみちゃんはそうしなかった。手を貸した。それぐらい、ランジュさんの事を怒ってた。でもその為にしずくちゃんや栞子ちゃんを傷つけた。梨子さんだって心配させた。その挙句、自分の良心に耐え切れないからあの子を止めようとして、で、御覧の有様」

花陽「本っっっっっっ当に、心の奥底から軽蔑するよ。もしかしたら、かすみちゃんが何もしなければ。こんな事にはならなかったんじゃない? 最悪の事態は避けられたね、だけど」

花陽「ランジュさんにスクールアイドルじゃないなんて言える資格、ないよ? かすみちゃん。ただの、カスでしかないよ」

かすみ「…………」俯き

花陽「彼方さんも」

花陽「卑怯だよね、とっても。見てただけ。最初から知ってた。あの子に向き合えないなら、なんでかすみちゃんに声をかけなかったの? そうすればかすみちゃんだって一人じゃなかったのにね」

花陽「それでいて、皆に言われて初めて『怖くて見てるだけしかなかった』だけど止めよう。そしてこの有様。あーあ、あの子は彼方さんも含めて、皆が大切で」

花陽「苦しい辛い悲しいって、散々に追い詰められて、それであんな事に手を染めたら。怖くて向き合えないなんて距離を置かれちゃった。いっちばん卑怯だよ。当事者意識ってものが何も感じられないよね、信じられない」

花陽「そんな人がどうこう言える? そんなに眺めていたいんなら、観客席に永遠に座ってればいいよ。そうしてれば目の前の悲劇に怯えて怖がってればいいんだけだもんね」

花陽「あの子が可哀相だよ。間違ってるって思ってても、後輩は止めてくれない。先輩はぼんやり眺めてるだけ。傍にいる同級生は助けを求めてるから弱音を吐けない」

花陽「彼方さん、恥ってものあるの?」
5 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:23:34.60 ID:4ITMBpJ60
せつ菜(だが…それだけではなかった)

バシィッ!

ランジュ「……」俯き

鞠莉「……人を壊した気分はどう?」

せつ菜(鞠莉さんが、冷たい声を出していた。だが、その中で穂乃果さん同様の怒りを見せていた)

鞠莉「どうって聞いてるの!」

果南「鞠莉」

鞠莉「…ごめん。けど、正直。それぐらい怒ってる。あの子は…」

鞠莉「虹ヶ咲学園だけじゃない、色んな人にとって大切な…スクールアイドルフェスティバルだって…」

鞠莉「果林、愛、栞子、しずくも」

鞠莉「あなた達が軽率な事をしなければ、もう少しマシだったかも知れない。けど、後の祭り」

鞠莉「かすみが手を貸さなかったら、彼方が傍観しなかったら、せつ菜も、璃奈も、エマも…歩夢も。もう少しあの子に寄り添う事が出来れば」

鞠莉「こんなことにはならなかった。にこっちの言う通り、あの子に頼り過ぎてた。だからこうなったのよ。お陰で…お陰で…」

鞠莉「私たちにとっても…大事な人を失ったのよ…!」

鞠莉「返してよ……!」ガシッ

果南「鞠莉!」

鞠莉「返してよ! 返してよぉ……!」

鞠莉「あの子は……大事な人なのよぉっ……なんでこんな事に…!!!」

鞠莉「あんなひどい事をしようとしていた? 違う、そんな事を決意させるまで傷つけてしまった、傷つけられてしまった! 狂い果ててしまった! そうしたのはあなた達でしょう!? なんでなのよぉ…どうしてぇ…どうしてぇっ!」

果南「もうやめて、鞠莉!」

千歌「鞠莉さん、落ち着いて!」

曜「鞠莉さん!」

鞠莉「なんで…なんでぇ……」ボロボロ
6 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:24:44.68 ID:4ITMBpJ60
栞子「……すみません」

せつ菜(絞りだすように、鞠莉さんの前で頭を下げた三船さん)

栞子「私が…頼り過ぎてしまったんです…私が、ランジュの事で、部長に甘えて…それで、こんな事に…」

栞子「本当に……」

せつ菜(その時だった)

バシャァッ

栞子「あ……」ビチャビチャ

海未「ことり!」

ことり「今更甘えてましたごめんなさいって言われてもねぇ」空ペットボトル握り潰し

ことり「だって栞子ちゃんは、あの子が留学から帰ってくる前から真っ先に部に行ったでしょ?」

ことり「同好会に加わってから本当に大した時間もない間に、ね?」

ことり「散々あれだけ甘えて甘えてぜーんぶぜんぶあの子に背負わせちゃって。そもそも同好会に来る前からもそうしてたし」

栞子「……はい」

ことり「自分で卑怯だって思わないの?」

ことり「いくら先輩だから、いくら部長だから」

ことり「二か月だよ。二か月の時間だよ。きっとそれだけの時間を栞子ちゃんも含めた皆の為に色々色々色々頑張って頑張って頑張って」

ことり「それでやっと会えたらこの有様で、そんなあの子に対して何とかしてほしいって泣きついて」

ことり「それでいて自分は自分でランジュさんを注意する事もしない、部に来た他の子たちにも何も言わない」

ことり「花陽ちゃんには悪いけど、かすみちゃんはかすみちゃんなりに問題に向き合ってたよ?」

ことり「彼方さんはかすみちゃんに声をかけるのが良かったんじゃないかな。けどね、栞子ちゃんもだけど他の皆も」

ことり「ずいぶんずいぶんずーいぶん虫の良い事を考えててお陰でこれだもんねぇ」

ことり「そりゃあ穂乃果ちゃんも怒るよ。鞠莉さんだって悲しいよ」

ことり「少なくともことりは皆にものすっっっっっごく腹立ってるよ」
7 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:26:07.77 ID:4ITMBpJ60
栞子「申し訳…」

果南「悪いけど、黙ってくれないかな」

栞子「……」俯き

果南「……今、拳を抑えるのに大変なんだよね」

果南「年下も含めて手を上げるなんて最低だって解ってるけど…」

果南「今すぐあなた達全員殴り倒したくて堪らないんだよ…!」

果南「……それとさ」

果南「なんでかすみ以外誰もしゃべらないの? 栞子以外頭下げた人いないの?」

せつ菜(怒りを必死に抑えるように、途切れ途切れながらも、果南さんはしっかりと私たちを見ていた)

果南「あの子が悪い事をしようとしていたのは認めるよ。それを企んだあの子が悪い、それは否定しない」

果南「だけどさ、そうなった原因君たち皆じゃん」

果南「…それなのにさ…なんで皆それぞれ、自分がこう悪かったとかも言わないのさ」

果南「栞子だけが頭下げてて、かすみだけが私たちに説明して」

果南「μ’sの皆にはすぐに相談して散々お世話になっておきながらさ、挙句これだよ? 部長が悪い事企んでのを見つけました、止めます。できませんでした。部長は廃人になりました」

果南「……ふざけてんの!? あんた達!?」

果南「あの子があんた達の為にどれだけ駆けずり回ったのさ!? それどころじゃない、μ’sや私たちの事も心配して、色々やってくれて、それでパワーアップの為に二か月留学してくるって言って」

果南「あの子をお帰りなさいって迎えるまでもなく同好会はバラバラでした、お願いしますって泣きついたらそりゃおかしくなるよ! 仮に私でもそうだ!!!」

果南「そうだよ、確かに、そんな悪い事企んだのはあの子自身だよ。だけど、そうなったのはあなた達に頼れなかったからだよ。私たちを巻き込んだのも、それだけ追い詰められておかしくなってたからそんな事もやろうとしたんだよ。正気だったら間違いなくそんな事しない!」

果南「あなた達、頼りなかったんだよ。色々ぶつけられるほど、強くないって思われてた」

果南「それでよく、あの子の仲間を名乗れるもんだよ」

果南「他の誰が言おうと」

果南「あの子は私たちの友達だって言える。でも、あなた達はそうなの? 今、そうだって言える? 胸張って言える?」

果南「…そうだね、言える人がいなくていいよ」

果南「いたら全力で殴り倒してるよ…!」
8 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:27:57.85 ID:4ITMBpJ60
せつ菜(それ以上に、怖かったのは)

ルビィ「……なんで、そんな顔してるの」

せつ菜(嗚咽を漏らす鞠莉さんの隣で、冷たい目線をこちらに向け続けていた、ルビィさんだ)

ルビィ「歩夢さん」

せつ菜(ルビィさんの問いかけに、歩夢さんは答えない)

ルビィ「なんでも知ってるんじゃなかったの?」

ルビィ「果南さんが聞いた時に、なんで名乗り出なかったの? あなたはそうするべき人じゃないの?」

ダイヤ「ルビィ…やめなさい」

ルビィ「もっと踏み込めば、もっと早く気付けるはずじゃなかった? 最悪の事態は避けられた、そうだね。ルビィや穂乃果さんたちのステージが滅茶苦茶にならずに済んだよ」

ルビィ「でも、先輩の心は引き裂けた。引き裂いちゃった。自分の手でバーラバラ。ううん。そこまでにしちゃったのってだぁれ?」

ダイヤ「ルビィ! やめなさい!」

ルビィ「やだよ! 歩夢さん達が悪いんだよ、頼り切ったせいで―――――」

ダイヤ「ルビィ!」

ルビィ「っ……!」

ダイヤ「それ以上はやめなさい…!」

せつ菜(肩で息をして歯を食いしばりながら怒りを隠そうとしないルビィさんを強い口調で止めたダイヤさんだが、続いたその声は震えていた)

穂乃果「……そうだよ、ルビィちゃんの言う通りだよ……」

穂乃果「わかってるの……あの子をそんな風にしたのは、君たちだよ」

愛「………うん」

せつ菜(沈黙を破ったのは、愛さんだった)

愛「穂乃果も……心配して、くれてた…けど」

穂乃果「けどもクソもない」

愛「……ごめん。でも、部長さ――――――――」

穂乃果「愛ちゃんも愛ちゃんだよ」
9 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:30:11.40 ID:4ITMBpJ60
穂乃果「肝心な時に傍に寄り添えないで、結局遠巻きにして見てた皆と一緒だよ! まだかすみちゃんの方が理解しようとしてたよ! まだ彼方ちゃんの方がわかってたよ!?」

穂乃果「それであの子の事を何がわかるっていうのさ、愛ちゃん!」

愛「……ごめん…」

穂乃果「同好会の皆を心配して穂乃果と話したかったのは分かる、けどさ。結局それでいて何もできてないじゃない」

海未「え……穂乃果、愛とその事を――――――」

千歌「穂乃果ちゃん…」

穂乃果「にこちゃんが正しかったよ。簡単に信じた穂乃果がバカだった。こっちにまで火の粉が飛んでいい迷惑だよ!」

穂乃果「愛ちゃんは人の事を心配する振りだけしてれば自分は楽しめばいいもんね。いいよねぇ、何も背負わなくていいって。だってそういうのをあの子が全部代わりにしてくれたんだもんさぁ? 少しは千歌ちゃんを見習ったらどうかな? ごめん、千歌ちゃんに迷惑だね」

穂乃果「愛ちゃんみたいなサイテーなのと一緒にしたら失礼だったよ」

海未「穂乃果……言葉が過ぎます。ルビィも…」

穂乃果「もう君たちの顔も見たくない」

海未「穂乃果!」

ガンッ!!!

穂乃果「聞こえなかったの!? 顔も見たくないって言ったよ!」

せつ菜(拳を机に叩きつけた、穂乃果さんの言葉に追われるように、私たちは部室を出るしかなかった)

せつ菜(閉じられた扉の向こうから、ルビィさんが堰を切ったように泣き始め、そしてその他にも何人か分の声が聞こえた。だけど、それが誰かまでは、私たちにはわからなかった)
10 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:31:16.51 ID:4ITMBpJ60

穂乃果「……っ!」ドカッ

穂乃果「なんで……こんな事に…あんな子たちだなんて思わなかった…!」

ルビィ「ひっく…ひっく…」

穂乃果「ルビィちゃん…」

千歌「……」

千歌「……昨日。曜ちゃんと善子ちゃんは、東京に行くべきだって言った」

曜「!」

善子「千歌…」

千歌「鞠莉さんはダメだって言った。確かに、虹ヶ咲学園で起こった事。それに、下手に飛び火したら浦の星女学院が大変になる……だから、千歌は。浦の星を守る為に、距離を置いた」

海未「千歌、それは間違っていません。もちろん、曜や善子が間違ってるとも言えません」

海未「誰が間違ってるだなんて、とても…」

千歌「学校を守る為に、友達を見捨てた」

海未「そんな事…!」

穂乃果「…何が言いたいの、千歌ちゃん」

千歌「……穂乃果ちゃんは、昨日、愛ちゃんから電話を掛けられた。穂乃果ちゃんが」

絵里「た、確かにそうね。同好会の子たちも部に行った子と連絡は殆ど取ってないのに、穂乃果は、なんで愛と?」

千歌「それも何度も話してたはずだよね、あの様子だと。なんで、絵里さんがそれを知らなかったの?」

穂乃果「にこちゃんが怒るからだよ」

千歌「海未ちゃんも知らなかったのに?」

穂乃果「……」

ルビィ「虹ヶ咲学園の子たちが悪いんだよ、不用意に部に行ったりして、みーんな頼りっぱなしで…!」

花丸「そうずらか?」

花丸「人を呪わば、穴二つ。ランジュさん自身は先輩を恨む事はなかった。けど、先輩はそうじゃなかった。だから呪いが跳ね返ってきた。自業自得ずら」

ガンっ!

ルビィ「花丸ちゃん…今、なんて?」

ルビィ「幾ら花丸ちゃんでも、聞き捨てならないよ…?」

花陽「ずいぶん上から目線だねぇ、花丸ちゃん? もう一回言ってくれない?」
11 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:32:32.34 ID:4ITMBpJ60
花丸「おら達は先輩が合同ライブの事をひたすら押して、それに巻き込まれただけ。お世話になった義理があるから、曜ちゃんや善子ちゃんが虹ヶ咲に助けに行きたいというのも理解できる。けど、千歌ちゃんや鞠莉さんがいうように、こっちにも守るべきものはあるずら」

ルビィ「花丸ちゃんには血も涙もないの!?」

花陽「そ、そうだよ! 凛ちゃん、何か言ってやってよ!」

凛「……かよちん。悪いけど、凛は千歌さんが正しいって思うかにゃ」

凛「凛ちゃん達は手を貸すことも手を貸さない事も、どっちの選択肢もあった。だから、虹ヶ咲の皆を責めることなんて凛ちゃん達には出来ない。友達として慰める事は出来てもね」

花陽「凛ちゃんっ! 私たちやルビィちゃん達のステージが滅茶苦茶になる所だったんだよ!?」

凛「でもそうならなかった。虹ヶ咲学園の皆のお陰でね」

穂乃果「だけど、あの子の心は壊された」

千歌「穂乃果ちゃん。虹ヶ咲学園の皆を糾弾できるの? 穂乃果ちゃんも、色々皆に喋るべきことがあったんじゃないの」

穂乃果「…うるさい」

千歌「穂乃果ちゃん」

穂乃果「うるさいって言ってるの! 離れてる千歌ちゃんや花丸ちゃんはいいよねぇ! 好きに言えるんだからさぁ!」

海未「ほ、穂乃果!」

千歌「…穂乃果ちゃん。失望したよ」

穂乃果「――――――――――!」

ルビィ「花丸ちゃん、もう一度言ってみてよ! 先輩が自分で壊しちゃったのは、どう転んでも!」

にこ「やめて…」

曜(驚くほど力のない、だがよく響く声が部屋の隅から響いた)

にこ「やめて…!」

曜(手で顔を覆ったまま、必死に溢れる感情を押し殺そうとしたにこさんの懸命の制止)

穂乃果・花陽・千歌・ルビィ・花丸「「「「「……!」」」」」

ダンッ

絵里「やめなさいって言ってるでしょ!?」

海未(絵里の怒声が響いた直後、にこが椅子から立ち上がりました)
12 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:33:56.65 ID:4ITMBpJ60
にこ「……外の空気、吸ってくる…」

スタスタ

にこ「千歌、ごめん」ボソッ

ガチャリ

千歌「……千歌も、ちょっと出てくる」

バタン

海未(それを切っ掛けに、他からも花を摘みに行く、喉が渇いた、等の理由で部室から離れて)

海未(気が付けば、穂乃果と、私と、ダイヤ、そしてまだ嗚咽を漏らす鞠莉と、それを落ち着かせようとしている果南が残っていました)

ダイヤ「……すみません。ルビィが、取り乱して…」

穂乃果「……いいよ、ルビィちゃん、あの子の事、信じてたものね」

ダイヤ「実は言うと、私も……歩夢さん達にとても怒ってます。しかし……」

ダイヤ「凛さんの言うように、寄り添うべきだったのかも知れません」

海未「……ダイヤ」

海未「本来は虹ヶ咲の皆が寄り添うべきでした、当事者ですから。しかし、練習場所の件で絡んでしまった以上、私たちも当事者です」

海未「ですのでダイヤ、そこまで」

穂乃果「海未ちゃん」

海未「……穂乃果。千歌も言っていましたが、なぜ黙ってたのです」

穂乃果「にこちゃんが怒るからだよ。けど」

穂乃果「そうしてた穂乃果がバカだったよ」

海未(そう吐き捨てるように呟いた穂乃果は、まだ震えていた)
13 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:35:12.39 ID:4ITMBpJ60
PiPiPi

鞠莉「私だわ…」

果南「鞠莉、出れる?」

鞠莉「大丈夫…」

鞠莉「Hi……え?」

鞠莉「……わかったわ。目くらましはすぐに用意する」

鞠莉「けど、それだとやはり調べられる。本当に安全な所に隠さないと…」

鞠莉「ええ、そうする。ひとまずこっちで隠しておく。チャオ」

鞠莉「…Fuck」

鞠莉「Fuck! Fuck! Fuck…Fuck!」

海未「どうしたのですか…」

鞠莉「汚い連中があの子にもう手出しをしようとしてやがった…! ごめん、私はすぐに戻るわ」

海未「なっ…!」

果南「鞠莉」

鞠莉「大丈夫。あの子は」

鞠莉「あんな事をしようとしても、あの子だけは私たちの大切な友達なのよ」
14 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:36:23.09 ID:4ITMBpJ60
自販機前

善子「………ホットミルクティーで、いいのよね? 絵里…」

絵里「え、ええ…スパシーバ、善子」

善子「まさか四回連続当たりが出るとは……」

凛「ごちそう様にゃ」

曜「だね…」

善子「こんな時だけ、運が良いってのも不幸なのかしらね」

梨子「善子ちゃんだからね……」

梨子「凛ちゃん」

凛「……なにかにゃ?」

梨子「ありがとう、あの時。千歌ちゃんが正しいって言ってくれて。昨日、私本当は曜ちゃんや善子ちゃんの言うように、東京に行くべきだって思ってた」

凛「千歌さんは悪くないんだよ。曜さんや善子ちゃんもね」

凛「問題はあの子たち自身が抱えた事。花丸ちゃんの言うように、確かにこっちにまで飛び火した事ではあるけれど、それでも凛たちも、曜さんたちも、虹ヶ咲の皆の友達。最悪の事態は避けられた、だからこそ、友達として寄り添う事は出来ても、糾弾なんて出来ないよ」

曜「……距離もある私たちと違って、μ’sの皆は練習場所とかで、助けてあげてた。私たちに、出来る事なんて」

絵里「そう思ってもらえるだけで十分よ。けど……」

絵里「穂乃果……なんであんな事を」

善子「にこがランジュの事で怒ってたんでしょ? だから穂乃果も穂乃果で大きくしたくなかったんだと思う」

絵里「合同ライブの事、穂乃果も穂乃果でポジティブに賛成してたから…けど」

梨子「そのまま私たちが賛成してたらきっと……本当に」

絵里「ええ……」

凛「だから、虹ヶ咲の皆がそれだけは止めてくれた」

曜「……虹ヶ咲の皆、どうなるんだろう。あんなに責められちゃ…」

善子「だけどもう一度、飛んでもらうしかない」

善子「その背中に十字架を背負ってでも」

善子「そうでなきゃ、本当に花陽の言う通り。スクールアイドルだなんて名乗る資格はないわ」
15 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:37:17.38 ID:4ITMBpJ60
音ノ木坂学院 屋上

千歌「……にこさん」

にこ「今…昨日のにこをすごく殴りたい気分」

にこ「曜や善子の言うように、昨日駆け付ければ良かったって」

千歌「にこさん……でも」

にこ「内浦からはだいぶ離れてても、音ノ木坂からならすぐに行けた。それに、にこは感情だけで『止められなければ絶交だ』なんて言ったわ。でも、千歌は…苦しんで、その決断をした」

にこ「そんな決断を、千歌にさせてしまった」

千歌「にこさん、千歌も……昨日の千歌にバカチカって言うべきだよ」

にこ「でも、花丸の言う通りよ。友情を選ぶのも大事だけど、学校を守る必要もあった。だから、間違ってたのはにこよ。鞠莉にそういうのを任せて、にこが行けばよかった」

にこ「穂乃果の事だってそうよ。愛の事、黙ってたのはにこがランジュの事で感情のままに怒鳴ったせいだった」

千歌「けど、μ’sの皆は虹ヶ咲の皆と練習する形で、助けた」

千歌「それでも昨日、私たちは見捨ててしまった……だから、凛ちゃんの言う通り。責める事なんて出来ないよ」

にこ「…そうよ、責める事なんて…できない…」

にこ「……にこは、お姉さんで、部長なんだから…」じわっ

千歌「千歌は末っ子だけど、部長なのだ。だから…にこさん」

千歌「私の背中で、好きなだけ泣いていいですよ…千歌も、泣いてる顔、見られたくないから」

にこ「…ごめん」ぎゅっ

にこ「うっ……うぅっ……うわああああああああああああああああぁぁぁぁん!!!!!」

にこ「どうしてあんなバカな事をぉっ…なんで言わなかったのよ、せめて…せめて弱音の一つでも…うぅあああああ…!」

千歌「っ…っくぅっ…!」ポロポロ

にこ「バカぁっ……大バカぁっ…! うわああ……!」

千歌(私の背中で泣きじゃくるにこさんのように、私の頬も濡れていった)

千歌(彼女が紡いだ私たちの絆、だが彼女自身が切っ掛けで、それは滅茶苦茶になった)

千歌(どちらの選択肢もあったのは事実だ、だが、その選択肢を間違えてしまったのは)

千歌(千歌たちも、だ――――)
16 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:38:26.36 ID:4ITMBpJ60
穂乃果『愛ちゃんは人の事を心配する振りだけしてれば自分は楽しめばいいもんね』

穂乃果『いいよねぇ、何も背負わなくていいって。だってそういうのをあの子が全部代わりにしてくれたんだもんさぁ?』

果南『あなた達、頼りなかったんだよ。色々ぶつけられるほど、強くないって思われてた』

果南『あの子は私たちの友達だって言える。でも、あなた達はそうなの? 今、そうだって言える? 胸張って言える?』

ルビィ『でも、先輩の心は引き裂けた。引き裂いちゃった。自分の手でバーラバラ。ううん。そこまでにしちゃったのってだぁれ?』

愛「……言ってくれなかった…」

愛「部長さん…だって、愛さん達にも……穂乃果たちにだって……」

愛「ううん、違うんだ……」

愛「愛さん達のせいだよ……突き落としちゃったんだよ…そんなになるまで…」

愛(自室のベッドで、顔に枕を突っ込んでも。その言葉が消えない)

愛(かすみんだけに、全てをしゃべらせてしまった。しおってぃーだけに、罪悪感を押し付ける形だった)

愛「穂乃果だって、あんなに心配してくれたのに」

愛「裏切っちゃった……私たち、が」

愛「ごめんね……ごめんね……」

愛「部長さん…なんで、あんな事しちゃったの……?」

愛「私たちが悪かったよ、幾らでもごめんっていうから…」

愛「会いたいよ…また声を聴きたいよ…!」

愛「色々話して、色々笑ってほしくて……」

愛「うぁぁぁぁぁ……!」ボロボロ

愛(何度後悔しても、きっと何度眠っても)

愛(もう元に戻る事はない、そうして)

愛(私の世界から、色は枯れ果て、総てが灰色になった)

愛(楽しいの天才?)

愛(バカじゃないか、私は―――――――破壊のトリガーを引いただけじゃないか)

愛(踏みとどまっていた部長さんを、空の王国から突き落とした、張本人だ)
17 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:39:09.34 ID:4ITMBpJ60
せつ菜(学園は変わった)

せつ菜(彼女はランジュを何とかする為に色々な工作をしていたが、そのうちの一つが裏目に出た、いや、きっと彼女もこうなるとは気づいていなかったのだろう)

せつ菜(別の資本に買収され、理事長であったランジュの母親は理事長を解任されて上層部が変わると、学園の空気もまるっと変わった)

せつ菜(勉学も部活も、それ以外の課外活動も成果が求められる成果至上主義―――伸びしろも、聖かもないものには見向きもされなくなった。虹ヶ咲学園の、自主性は摘み取られた)

せつ菜(虹が架かる王国はその色彩を失い、鳥たちは灰が降る大地から飛び立つことも出来ず、死を待つばかりになった)

せつ菜(追いかける灯し火を失った鳥たちは、空を飛ぶことができない。ただ、灯し火を待って灰に覆われていくだけ)

せつ菜(スクールアイドル同好会も、成果が求められた)

せつ菜(だが、導を失った私たちは何もできなかった。それに、ランジュの母親の息がかかっているとして栞子さんは生徒会長を更迭された。かすみさんの暴動騒ぎもあった為か、私が再任された)

せつ菜(私の精一杯の抵抗、それは生徒会役員を自分で選ぶ事で、ランジュさんを役員に入れる事だった。それからでも、日々生徒から上がる声は絶望的なものだった)

せつ菜(彼女はやり過ぎた。やりすぎたのだ)

せつ菜(そして、スクールアイドル同好会のみならず、彼女は虹ヶ咲学園の中でもあまりに大きな存在になってしまっていたのだ)

せつ菜(栞子さんやランジュさんの事は、学校中の部活を既に巻き込んでいたし、何より買収した企業群の子女であるBIG4の人たちもランジュさんの行為を苦々しく思っていたせいだった。そこを汚い大人である彼女たちの親に付け込まれたのだ。彼女たちも今やすっかり小さくなってしまった)

せつ菜(スクールアイドル同好会の部室には、エマさんと璃奈さん、しずくさんぐらいしか顔を出さない)

せつ菜(歩夢さんが不登校になったのをクラスメイトから聞いた。愛さんも顔を出さない、と璃奈さんからも聞いた)

せつ菜(果林さんも彼方さんもまた、すっかり塞ぎこんでいて、私たちも生徒会の仕事という言葉で、部室にも近寄りづらくなった)

せつ菜(頼り過ぎたツケ、とにこさんは言っていた。それはあまりに大きく、私たちは)

せつ菜(この灰が降る王国で、灯し火を待ち続けている)
18 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:40:14.48 ID:4ITMBpJ60
スクールアイドル同好会 部室

しずく(部室の机の上に置かれた、二枚の退部届)

しずく(かすみさんと、栞子さんのもの)

しずく(もうステージに立てない、と悲しげに言っていたかすみさん。そしてランジュさんの事でことりさんに言われた事は、栞子さんにとってもショックだったに違いない)

しずく(それを見た瞬間、エマさんは膝から崩れ落ちて、声をあげて泣きじゃくった)

しずく(私も、涙が溢れそうだった。だけど…)

しずく(散々、泣いてきたんだ。もう、泣くもんか)

璃奈「しずくさん」

しずく「うん……続けよう」

しずく「皆が、帰ってこられるように。そして、先輩を迎えに行く為に」

璃奈「うん」

璃奈「歩夢さん言ってた。部長の、本当の願いは」

エマ「……うん」ずびっ

しずく・璃奈・エマ「「「仲良く、スクールアイドルが見たい」」」

璃奈(椅子の残りは、綺麗に十脚。でも、全部席は決まっている)

エマ(長く、一人で部室を守り続け来たかすみちゃんも、今はいない。だけど)

エマ(その代わりに、私たちが守り続けるのだ。この灯りを)

しずく(灰が降る王国。あの人たちも言っていた、スクールアイドルである私たちは、虹ヶ咲学園にとって大きな存在なのだ)

しずく(その為にも、この灯りを守らなくては)

璃奈(これは、小さな灯り。だけど、それでも…この灯りが誰かを勇気づけられるなら)

璃奈(その為に、私たちはいる)

しずく・璃奈・エマ(私たちは、スクールアイドルだ)


1/了
19 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:04:17.62 ID:4ITMBpJ60
2/灰が降る王国にて


結ヶ丘女子 部室棟

かのん「もう二か月弱…」

かのん「どうしてまだアップされてないのよ! Liella!の雄姿は世界中に映るのよ! それなら結ヶ丘女子dのアピールにもなるのに!」

恋「いや、観客のエキストラじゃないですか…スペシャルサンクスに書かれるかも怪しいレベルですよ」

千砂都「1:予算が足りなかった」

千砂都「2:フィルムを回し過ぎてまだ編集が終わらない」

千砂都「3:かのんちゃんの完成予測が大外れ」

かのん「ぐぬぬ…千砂都の言い分も間違いじゃないように聞こえるけど」

可可「デスガ、この二ヶ月弱、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の活動の痕跡はなし。週一レベルであっぷサレテイタ動画、八週連続ナシ!」

すみれ「4:そもそも映画なんて撮ってなくてPVの撮影の口実に使われた」

恋「それは流石にないでしょうに」

すみれ「しかし、遅延しているとそう思いたくもなりますわ」

千砂都「5:実はどんな演技をするかのテストを頼まれていた」

かのん「だったら6:実は詐欺のサクラをやらされていた、でもつけよう!」

可可「アハハ、ソレハナイデショウ」

千砂都「だよねー」

かのん「待てよ、遥ちゃんは確か虹ヶ咲学園にお姉ちゃんがいた筈」

すみれ「そういえばそんな話を耳にしましたわね」

可可「一日一善、デス!」

恋「…善は急げ、もしくは思い立ったら吉日ですよ」

可可「へ? オモイタッタラ天下大吉? 黄巾賊デモ由来ナノデスカ?」

かのん「いや、吉しか合ってない」
20 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:05:07.65 ID:4ITMBpJ60
PiPiPi

かのん「もしもし? 強敵と書いて」

遥『戦友と読む。どうしたの? かのんちゃん?』

かのん「実は少し話したい事があって……あの、虹ヶ咲学園のスクールアイドルを題材にした映画について、続報聞いてない?」

遥『そういえば私も聞いてない…お姉ちゃんに聞いてみるよ』

すみれ「遥さん、いいかしら?」

遥『すみれちゃん? どうしたのさ、横から』

すみれ「……この二か月弱というもの、虹ヶ咲学園のスクールアイドルは特に活動が見られてないようですの。何か妙では?」

遥『確かに…』

遥『私もお姉ちゃんからライブの話を全然聞かない』

遥『……ねぇ。今からいけない?』

かのん「…行こうか」

遥『行こう!』

恋(なんでしょう…妙な胸騒ぎが…)
21 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:06:15.49 ID:4ITMBpJ60
虹ヶ咲学園 校門

かすみ(空が、遠い)

かすみ(授業が終わって、ほどなく帰路につく筈なのに、もう太陽は西に傾いている。陽が短くなってきていたのだ)

かすみ(一か月以上の時間が流れても、私に圧し掛かってきた罪は、薄れる気配はない)

かすみ(かよ子に言われた言葉が毎日のように突き刺さる。私は、スクールアイドルであるべきだったからこそ、あんな提案に乗るべきじゃなかった)

かすみ(どの口が愛先輩を裏切者だなんて言えるんだろう、冗談じゃない)

かすみ(皆を裏切っていたのは、狂う先輩の背中を味方になると押してしまい、空の王国から突き落としてしまった私だ)

かすみ(せつ菜先輩にクソザコナメクジなパンチだなんて言える立場でもなかった)

かすみ(ただ増え続ける未読のLINEメッセージ、いっそ辞めてしまおうかと思っても辞める勇気もわかず、ただ読まないでいるだけで溜まり続ける)

かすみ(いっそこのメッセージが重みをもつなら私を押しつぶして殺してくれたっていいのに)

かすみ(地獄の底までお供をするだなんて言って、結局私は地獄に落ちずに、この灰が降る王国の辺獄に一人立ち尽くして、後悔をするだけだ)

かすみ(ここに灯し火はない。導なんかない)

かすみ(ただ一人、立ち尽くし続けるだけだ)

かすみ「……ん?」

警備員「だから、目的をだな…」

「そうは言っても、親族が訪ねてきただけで…」

警備員「理由にならん、他校の生徒が勝手に入ってくる理由には」

遥「そんなのっ…!」

かのん「ちょっと話をしたいだけよ!」

かすみ「……あれは……Liella!の子たち……」

かすみ(思わず息を止めた。だが、同時に)

花陽『かすみちゃん。ただの、カスでしかないよ』

鞠莉『あんなひどい事をしようとしていた? 違う、そんな事を決意させるまで傷つけてしまった、傷つけられてしまった! 狂い果ててしまった! そうしたのはあなた達でしょう!?』

ルビィ『でも、先輩の心は引き裂けた。引き裂いちゃった。自分の手でバーラバラ。ううん。そこまでにしちゃったのってだぁれ?』

穂乃果『聞こえなかったの!? 顔も見たくないって言ったよ!』

かすみ(あの夜に言われた無数の言葉が、脳裏をよぎった)

かすみ(この学校はあの夜以来、灰が降る王国に変わり果ててしまった)

かすみ(この罪を背負う為にも、私は)
22 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:07:12.46 ID:4ITMBpJ60
かすみ「私を訪ねてきたんだよ」

遥「かすみちゃん…!」

かすみ「…場所を、変えて話そうか…」


エントランス

かのん「えーと……」

かすみ「あ……」

かのん(お互いに何かを言いかけてしまい、戸惑った。だけど)

かのん(あの時も少し顔色が悪いなと思っていた。だが、今のかすみちゃんは更にひどい顔をしていた)

かのん(その目の中にも光は殆どなくて、何よりも頬もこけている。とても、スクールアイドルだとは思えない)

かのん(その沈黙を破ったのは、遥ちゃんだ)

遥「……かすみちゃん。なにがあったの? お姉ちゃんから、ランジュさんの事を、少し聞いてたけれど、それから何も教えてくれなくなった」

可可「ン? ランジュ……ランジュ…」

かすみ「ああ、そうだよ…ランジュさんの事、なんだよね」

かすみ「……全部話すよ…私は」

かすみ「遥ちゃんや、Liella!の皆を、ペテンにかけた」
23 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:08:09.74 ID:4ITMBpJ60
かすみ「私を訪ねてきたんだよ」

遥「かすみちゃん…!」

かすみ「…場所を、変えて話そうか…」


エントランス

かのん「えーと……」

かすみ「あ……」

かのん(お互いに何かを言いかけてしまい、戸惑った。だけど)

かのん(あの時も少し顔色が悪いなと思っていた。だが、今のかすみちゃんは更にひどい顔をしていた)

かのん(その目の中にも光は殆どなくて、何よりも頬もこけている。とても、スクールアイドルだとは思えない)

かのん(その沈黙を破ったのは、遥ちゃんだ)

遥「……かすみちゃん。なにがあったの? お姉ちゃんから、ランジュさんの事を、少し聞いてたけれど、それから何も教えてくれなくなった」

可可「ン? ランジュ……ランジュ…」

かすみ「ああ、そうだよ…ランジュさんの事、なんだよね」

かすみ「……全部話すよ…私は」

かすみ「遥ちゃんや、Liella!の皆を、ペテンにかけた」
24 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:09:02.90 ID:4ITMBpJ60
しずく「飲み物の補充とかも自分たちでやらないといけないのは」

璃奈「仕方がない」

エマ「…あ」

せつ菜「…エマさんたち」

ランジュ「あ……」

エマ「こ、この前の申請だけど…」

せつ菜「不許可、でした……また」

せつ菜「理由は不明で。副会長が何回も何回も問いただしていましたが…」

エマ「そっか……」

エマ「学生寮の、留学生たちのとりまとめ役の子たちがね。すごく怒ってた」

エマ「締め付けすぎるって。けど……」

エマ「あの子を、怖がってるんだよ。上の人たち」

ランジュ「そうよね……私とママを何とかする為に学校の中であっという間に一枚岩、大人たち相手も平気で糾合して勢力をわずかな期間で作り上げた。その牙が自分たちに向いてきたら、恐怖そのものよ」

せつ菜「だから二度と出ないようにその芽を摘んでおく…。短絡的だけど効果的」

せつ菜「あの子がいなくなって、一番うれしいのは今学校を支配してる人たちでしょうね。自分たちがすることのお膳立てしていなくなってしまった」

ランジュ「…………」

しずく「ランジュさん、せつ菜さん」

しずく「お二人が、来てくれたら。とても心強いです」

ランジュ「せつ菜は分かるけれど、私は…」

エマ「こんな時、だからだよ」

エマ「あの日、ランジュちゃんはあの子がランジュちゃんと仲良くなる事でランジュちゃんを傷付ける為って言っても、ランジュちゃんはあの子を友達になってくれる人だって言ってた。それだけで充分」

しずく「歩夢さんも言ってました。本当はランジュさんもスクールアイドルだって認めたいんだって。それが出来なくて…」

ランジュ「…二人とも。私は…」

バシィッ

しずく・璃奈・エマ・せつ菜・ランジュ「「「「「!?」」」」」

璃奈「そっちの角から聞こえた…」
25 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:10:10.89 ID:4ITMBpJ60
かすみ「……」

かのん「……とんだ、茶番に巻き込まれたんだね、私たち」

かすみ「うん…わかってる。本当に…ごめん…」

かのん「冗談じゃない」グッ

かのん「私は、あなたたち程弱くなんかない」

かのん「あなたみたいなクソザコナメクジに勝手に同情されるのも! 憐憫されるのもごめんだよ!」

かのん「私の気持ちを勝手に決めないで! 勝手に後悔して勝手に哀れまれても、そんなの…!」

恋「かのんさん! 乱暴は…」

かのん「………!!!」ギリギリ

かすみ「………私は…それだけの事をしてきたんだよ…かのんちゃん」

遥「じゃあ」

遥「かすみちゃんは、今何をしているの?」

かすみ「……私はもう、ステージには立てない」

遥「…かのんちゃん、放してあげて」

かのん「………」ばっ

遥「このぉっ!」

ブンっ バギィッ ドサッ

しずく「かすみさん!」

せつ菜「なっ…! は、遥さん!? なんで…」

エマ「かすみちゃん、大丈夫?」

遥「……どうして黙ってるの」

遥「これだけされてさ」

かのん「……うん、どうして黙ってるの。悔しくないの? クソザコナメクジ呼ばわりされて! こうして殴られて! そんな大好きな先輩が追いかけた夢にだって目をそらして!」

かのん「『地獄の底までお供をするべきだった』んじゃない!」

かのん「地獄に変えないようにお供をするべきだったんじゃないの…そして、虹ヶ咲学園が今…」

かのん「こんな地獄になってるなら、変えるんじゃないの!? 大好きな先輩だって、それは望んでない筈だよ!」

かのん「それだったらその時からなんら変わってない、先輩が打ち上げてた灯し火を待ってぴーちくぱーちく鳴いてるだけでしかない、何の成長もしてない!」

かのん「立ってよ」

かのん「あなたは、悪意の海になんか飲み込まれてなくて。灰が降る空を見てるだけだよ」

かのん「だから、まだ、歩いて行ける。そうでしょ?」
26 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:11:47.16 ID:4ITMBpJ60
かすみ「………」

しずく「かすみさん……」

かすみ「…一人に、して…」

スタスタ

しずく「あ……」

遥「……すいません、あの……」

可可「…ヤハリ」

可可「あのランジュさん、デスネ」

ランジュ「あなた、確か…」

可可「ハイ。去年、日本語学校のオンライン授業でよく話しマシタ。唐可可デス」

ランジュ「上海校の…そうだ、あの時もスクールアイドルの…」

可可「ランジュさんは興味深ク聞イてくれてイタノデ」

ランジュ「……私は、本当になんてことを…」

しずく「遥さん、もしかしてこの子たち…」

遥「うん」

しずく「…………どこまで、かすみさんからは?」

遥「かすみちゃんからの、視点で。多くは」

遥「……μ’sやAqoursの人たちも巻き込みかけた事も。だから、お姉ちゃんが何も教えてくれなくなったんだね……」

千砂都「でも、だったら猶更立たなきゃダメな気がする」

千砂都「μ’sやAqoursの人たちから、許してもらえるかも分らないけれど、それでも」

恋「ええ……」

恋「見ればわかります。この学校には、生気を感じられません」

恋「生き生きと根付く、その気配が、空気が、ないんです」

エマ「……うん」

璃奈「灯し火はまだある。けど、打ち上げられてない」

璃奈「……私たちの、力不足なんだ……どうにも……」

しずく「だけど、諦めないでいたい。かすみさんが、大手を振ってまた戻ってこられるように」

かのん「……遥ちゃん、ごめん。先に行ってるね」
27 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:12:35.16 ID:4ITMBpJ60
ポツポツ

千砂都「雨……」

エマ(降り出した雨は、まるで全てを覆い隠すような冷たくて強い雨)

エマ(その間に、幾らかの話をした)

璃奈(開校一年目でこれから発展していく学校の為に出来たLiella!のこと)

しずく(新人スクールアイドル同士という事で、遥ちゃんと仲良くなり、その事で虹ヶ咲学園の事も知ったこと)

エマ(知らぬ間に巻き込まれていた、あの時のことも。可可ちゃんは、ランジュちゃんと話したいと少し離れていた)



可可「大好きだったから、デスネ」

ランジュ「……ええ」

可可「デモ人は間違エル。中国でも、日本デモソレハ同じ」

可可「ランジュさん」

ランジュ「……?」

可可「上海校でも、他の学校デモ。ランジュさんは有名デシタ。美人で、お金持ち。ソレダケジャナイ、頼メバ色々ト世話を焼く。頼マナクテモ、首を突っ込む。オセッカイ。ダケド、悪気ガナイ」

可可「ダカラ、ショウガナイ。その癖、自他に割とキビシイからニクメナイヨネってイウ人、ヤマほど」

ランジュ「……香港にいた頃、私は、どこか寂しかった。ママもパパも、愛してはくれてる。けど、時間が合わなくて…」

ランジュ「いつしかお金とかモノとか愛情の表現に変わってて、それだけを押し付ける形だった」

ランジュ「栞子は、知ってたのね……それでも、私は…」

可可「ダケド、ランジュさんは愛される部分もアリマシタ。ウウン、ソレダケジャナイ」

可可「キット、日本語学校の仲間たちが、今のランジュさんを見たらすごく驚きマス。『とても優しくて、皆の事を本当の意味で愛したいと思ってる』ッテ」

可可「ランジュさん」

ランジュ「…可可。ありがとう…けど」

ランジュ「今すぐに、とは言えないわ…私…まだ、時間が必要なの……」

ランジュ「あの子に、本当にごめんなさいを伝えなきゃってずっと…」

可可「ランジュさん……頑張って」

ランジュ「…ありがとう」ゴシゴシ
28 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:14:09.65 ID:4ITMBpJ60
虹ヶ咲学園 図書室

栞子(雨が降ってきていた)

栞子(生徒会長を解任され、スクールアイドルでもなくなった私は、図書室で過ごす事が多くなった)

栞子(だが、何かを読む事もなく、何かをする事でもなく、ただ下校時間まで、ひたすらに窓の外を眺め続けるだけの日々)

栞子(空虚で、何もない。私は学園生活を彩るすべてを、失ってしまった)

栞子(自分自身の過ちのせいで)

栞子(姉さんにも顔向けできない――――――それどころか、他の皆にも。それほどまでに)

栞子(何故私は、あんなに甘えた事を言ってしまったのだろうか。追い込まれてしまった部長が、その選択肢を選んでしまったのは私のせいなのだ)

「あれ、三船さん」

栞子「………この声は…」

栞子(くるりと、振り向いた。そこにいたのは)

副会長「雨が酷いですよ。窓は閉めてください。雨が吹き込ますから……三船さんも、だいぶ濡れてますね」

栞子「あ……」

栞子(生徒会副会長。菜々さんの時も副会長で、私が生徒会長だった時も副会長。そして、私が解任された時もあっさりと頷いて、菜々さんの再任の時も副会長として残っていた)

栞子(いわば、ずっと副会長であり続けている人)

副会長「スクールアイドル同好会のライブの申請書が来て、認可して上に提出するんです」

栞子(窓を閉めていると、副会長が唐突に口を開いた)

副会長「毎回不許可なんです。主に上の人たちから不許可で戻ってきます」

副会長「この一月ほどというもの」

栞子「………そう、ですか」

栞子(もうスクールアイドルで無くなった、いや。南さんが言ったように、卑怯な私にステージで輝く機会など、もう―――――)

副会長「……」

副会長「だから私は、あなたの事が大嫌いなんですよ」

栞子「……そう、でしたか」
29 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:15:14.79 ID:4ITMBpJ60
副会長「中川さんは自分なりにけじめをつける人でしたから。今、こうして、本来はやるべき必要なんてない筈の、生徒会長に戻ってきて、仕事をしてます」

副会長「毎日のように、絶望的な声を聴きながらも」

副会長「三船さんの昔馴染みのランジュさん、確かに混乱をもたらしましたね。あなたがそれを許して。部活動も滅茶苦茶、同好会のステージを奪われたって、暴動寸前の騒ぎまでありました。でも、その事を後悔して生徒会の仕事に取り組んでますね」

副会長「あなたが生徒会長だった時もそう。何故かスクールアイドル同好会だけをひたすら敵視して、挙句色んな所の反発を招いて、説明会がひどい事になりましたね。その時はどうしたんでしたっけ?」

栞子「………同好会の、部長さんの力を借りて…」

副会長「私は彼女とほとんど話した事はありませんけど、それでもその人となりは聞いています」

副会長「その背中についていけば大丈夫、英雄的な人だって。でも」

副会長「三船さんは、そんな彼女に容赦なく泥を塗り続けた。彼女が休学しているのは、それが理由なんじゃないですか?」

栞子「…はい……私が、悪かったんです……」

副会長「では、同好会の皆には?」

栞子「申し訳ないって思ってます…けど、もう会わせる顔が…」

副会長「そんな事思ってるから、私はあなたがつくづく大嫌いなんですよ」

副会長「同好会に入ったのは、部長さんがあなたを誘ったという話も聞きました」

副会長「彼女のもう一つの噂。スクールアイドルが大好きで、それを応援するのが好き。だから」

副会長「その為なら全ての障害を叩き落して見せる、最強だって」

副会長「そんな彼女が認めたあなたは、こうして嘆きながら腐り堕ちてるだけ―――――――他の仲間たちが嘆き悲しんでいるのを、安全な所で黙ってみてるだけ」

副会長「生徒会長もスクールアイドルも、中途半端な所で勝手に折れて逃げ出して。中川さんの事をどうこう言える資格どころか、あなたは自分でそれ以下だと証明してしまった」

副会長「詫びなさい、三船栞子」

副会長「同好会の人たちだけじゃない―――――――今、この学校で苦しむ人たちに」

栞子「わたし、は……」

副会長「輝く光が、今、ここにない。けど、必要とされている。その為にも」

副会長「もし、この機会を逃したなら、私は三船さんを永遠に軽蔑するでしょう」

副会長「でも、全てを失ったあなただからこそ、出来る事はあるんじゃないですかって思います。今、この惨劇を見ていると」

副会長「それが…あなたの彼女への贖罪なんじゃないですか?」

栞子(副会長が差し出した一枚の紙)

栞子(その重みを、私は痛く噛み締める)

栞子「……」

副会長「答えを出すのは、自由ですよ」

副会長「優木せつ菜のステージが、また見られれば私はそれでよいので」

栞子(去っていく副会長の背中を見ながら、私は紙を鞄に入れた)

栞子(どうにも勇気がわかず、一人になりたかった)
30 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:17:01.97 ID:4ITMBpJ60
虹ヶ咲学園 屋上

かすみ(気が付いたら、ここに来ていた。あの夜、先輩が心を壊した場所)

かすみ(冷たい雨が降り出した。顔に当たる、雨。だが、同時にリフレインするのは)

かのん『立ってよ』

かすみ(どうしてこんなに胸が張り裂けるぐらい悔しいんだろう)

かすみ(もう、かすみんにはステージに立つ資格なんてない筈。それなのに、なんで…いや)

かすみ(エマ先輩、しず子も、りな子も。いや、せつ菜先輩たちだって)

かすみ(こんな灰が降る王国でも、まだ希望を打ち上げようとして、その為にそれぞれ)

かのん『あなたは、悪意の海になんか飲み込まれてなくて。灰が降る空を見てるだけだよ』

かのん『だから、まだ、歩いて行ける。そうでしょ?』

かすみ(私の背負う罪は重い。押しつぶされそうだ)

かすみ(だけど、私はまだ…立ちたいんだ。ステージに)

かすみ「先輩……もう、一人で歩いて行けって事ですか」

かのん「雨が酷い…」

かすみ「…かのんちゃん」

かのん「この場所、なの?」

かすみ「うん。あの夜、ここで終わった」

かのん「……私、さ。遥ちゃんから、虹ヶ咲学園の皆の事を紹介された時。純粋に嫉妬した」

かのん「正直、滅茶苦茶妬みもした」

かのん「一人一人が仲間であり、ライバル。だからそこまで高め合えるし、凄く絆に溢れてた。学年も、学科もばらばらで、目指す方向性だって違うって言ってても、それでも、動画を見る度に、圧倒された」

かのん「一年生だけで、頼れる先輩もいない。スクールアイドルをするのだって、見た事のある知識はあってもノウハウも何もない、手探りだらけで、何度もつまずいた。それでも、同じ一年生で、サポートがあるとはいえ、一人でステージに立てるってのが、すごくカッコよかったし、眩しかった」

かすみ「……!」

かのん「同い年なのにどうしてこんなに差があるんだろう、どうしてこんなに出来る事が多いんだろう、観客をあんなに沸かせて、私たちには同じ事が出来ないのかって散々思って」
31 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:18:18.99 ID:4ITMBpJ60
かのん「でも純粋に、スクールアイドルとして憧れた。動画がアップされないのが寂しかった」

かのん「ライブだって絶対に見に行くって決めたのに、行われなくなってしまった」

かのん「遥ちゃんの誘いで、映画のエキストラとはいえ生でステージを見れるって思って、そのステージの手伝いが出来ると思うと興奮した。あなたにとっては茶番でも、私にとってはすごく嬉しかった」

かすみ「あの日、あなたと話した後に…内臓がまるごと溶鉱炉にぶち込まれたみたいだった」

かのん「うん。その重みに耐えきれなかった。だけど、その事を話してくれた。罵倒される事を覚悟して、μ’sやAqoursの人たちのように、私たちが批難してくる事を覚悟して」

かのん「きっと私があなたなら、私はあなたのように話せていなかったと思う。だから余計に、思うんだ。かすみちゃんは、本当に強い人なんだって」

かのん「私の中では、あなた達は輝いていた」

かすみ「今はそうじゃない。私は、Liella!の皆が、輝いて見える」

かすみ「灰に覆われた王国で、嘆いてる私からすれば。でも」

かすみ「今から……そうじゃない。先輩は、自分の本当の願いも分からなくなって悪意の海に沈んでった。あの人は」

かすみ「純粋にスクールアイドルが好きで、スクールアイドルが輝くのを見るのが好きで、それを応援するのが大好きで、その為なら」

かすみ「奇跡だって災厄だって起こして見せちゃう。だから道を間違えてしまった」

かすみ「一人一人が仲間で、ライバルだからこそ、私たちはその全員の味方である先輩の味方にもならなきゃいけなかった。先輩はかすみんの味方だなんて言ってるんじゃなかった」

かすみ「μ’sやAqoursの皆からも愛想を尽かされるのも、自業自得だ」

かすみ「私は道を間違えまくって、今ここにいる」

かのん「だけど、まだ終点じゃない」

かすみ「うん…止まってるだけだ」

かのん「今降る雨は冷たいけれど。この雨雲の先に、星は輝いてる。空には、見えなくたって星がある」

かすみ「うん……今、決めたよ。迷ったら、空の向こうにある宇宙の、星を探せばいい」

かすみ「こんにちは、未来の私。そして次は私があなたの未来になる。最初そうだったように」

かのん「追いついて来てよ、過去の私。追い越せるものならね。案外差が出来ちゃうかもよ?」

かすみ「やってみなければ、分からないよ」

かすみ「この学園の未来だって、照らして見せる」

かのん「星を追いかけて、その先の明日を手に入れる」

かすみ(大雨の中)

かのん(私たちは拳をお互いに打ち付けた)

かすみ(それは誓いのグータッチ)

かのん(止まない雨はない。だからこそ、この灰の王国から、空の王国へと彼女たちが戻ってこれるように)

かすみ(その先にある星が輝く空へと飛び出す為の約束でもある)

かすみ・かのん(私たちの―――――あしたの為の、フィスト・バンプ)
32 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:19:50.03 ID:4ITMBpJ60
駅員「お客さん…終点ですよ」

栞子「え…あ、はい」

栞子(雨の降る窓を眺めていたら、普段乗る駅を何駅も乗り過ごして、終点だった)

栞子(ここがどこの駅で、最寄り駅までどれぐらいかかるかも解らなかった。ひとまず、精算機で超過料金を払った)

栞子(酷い雨はまだ降り続いている。傘もなく、私はただぼんやりと駅の入り口に立ち尽くしていた)

栞子(鞄の中に入れた、あの紙を取り出した)

栞子(入部届。部活の名前と氏名を入れれば、虹ヶ咲学園のどんな部活にも使えるもの)

栞子(だけど、これを渡した副会長は、部活の名前を既に入れていた)

栞子(『スクールアイドル同好会』と)

副会長『答えを出すのは、自由ですよ』

栞子「………」

「栞子?」

栞子「!」

栞子「姉さん…」

薫子「私の家の、最寄り駅でどうしたの?」

栞子(姉さんは、仕事帰りだったのだろう)

栞子「……乗り過ごして、しまって」

薫子「交通費ぐらいは出すよ。姉だからね」

栞子「…………姉さん」

薫子「なんだい?」

栞子「私は……生徒会も、スクールアイドルも、中途半端なまま…過ちを犯してしまいました」

薫子「………」

栞子「あんなに、あんなにお世話になった部長さんに……」

薫子「だからか」

栞子「え…」

薫子「場所を変えて話そう。こっちだ」
33 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:21:19.92 ID:4ITMBpJ60
栞子(姉さんに連れられて、着いた場所は駅の目と鼻の先にあるマンション。姉さんの自宅だった)

栞子(椅子に座るなり、姉さんは言葉を紡いだ)

薫子「少し前の事でね。とある場所から別の場所に人を移動させるから手伝ってくれという仕事がきた」

薫子「しかも内密に、迅速に、目立たないようにって。深夜に移動。おまけにダミーの車まで用意して。特殊部隊の作戦かよって思う位にね。オペレーターの護衛まで混じってるなんてただ事じゃない」

薫子「運転技術をそれだけ信頼されての事だろうけど、いったいどんな人を運ぶのか」

薫子「慎重に運ぶべきだって言われたので、後部座席に誰が運ばれたのかを見た」

薫子「………あの生き生きと顔を輝かせていたあの子が。死体同然だった。いや、生きてる。けど、あれじゃ生きる屍だ」

薫子「そんな状態で、命まで狙われてるような状況だったんだ。現に、出発してから少し後に、元居た場所に賊が侵入したからルートを変えろとかいう指示まで来たしね」

薫子「クライアントに、知り合いだから声をかけてもいいかと許可を取ってから、あの子に声をかけた。返事がなかった。クライアントからは、意識そのものはあっても、何にも反応できない。眠る事も殆どしないから定期的に薬で無理に眠らせるだけ。身動き一つしないから、点滴で生き永らえてる。酷い時には脈拍も弱り切って、心停止して除細動器の世話になりもしたらしい」

栞子「そんな……部長はどこに…」

薫子「それは教えられない。守秘義務もあるからね」

薫子「なにがあった?」

栞子「……私、は」

栞子(ランジュの事、その事で部長に全部押し付ける形で泣きついた事、自分以外にも部に来たメンバーに何も言わなかった事、かすみさんからの批難)

栞子(そして壊れてしまった部長の事、心を閉ざしてしまった私を置いて進んでいった周囲、ランジュ自身は部長を信頼してそこからランジュは反省して過ちに気づいた事)

栞子(部長の企み――――――それがわかった、あの夜に起こった出来事。そして、μ’sやAqoursの皆からも愛想を尽かされた事)

栞子(そして同好会を辞め、生徒会もクビになり、全てを失った私に、声をかけた副会長の事)
34 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:22:38.23 ID:4ITMBpJ60
栞子(姉さんは黙って聞いてくれた。そして、話し終えた私に)

薫子「栞子」

栞子「…はい」

薫子「今の自分を、どう思う」

栞子「最低です…他の誰よりも。私は…」

薫子「今、虹ヶ咲学園はひどい状態だよ。それだけあの子が大きかった。今はいない」

薫子「自分も関わった過ちのせいで、壊れていく学校をひたすら眺め続ける自分はどうだ?」

栞子「………私が……」

薫子「生徒会長ならそうは行かないとでも言えるだろう。でも今は、生徒会すらもクビになった。でも」

薫子「まだ選択肢が、一つだけある。彼女は、そう言いたかったんだと思うよ」

薫子「今、栞子が握ってるそれにね」

栞子「……姉さん、私……!」

薫子「今は最低だって解ってるなら。這い上がるしかない」

薫子「あのランジュがあの子のお陰で変われたんだから、栞子も出来る」

栞子「……っ」ゴシゴシ

薫子「さあ、行けっ! 虹の王国を、その手で取り戻してくるんだ!」

栞子(姉さんは、私の背中を思いっきり叩いた。だけど、その痛みは背中を押すための痛み)

栞子(やってみよう)
35 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:23:46.55 ID:4ITMBpJ60
朝 スクールアイドル同好会部室

エマ「部室のカギを開けておかないと」

璃奈「こうして一日が始まる」

しずく「昨日の雨が嘘みたいですね」

しずく「……あれは、栞子さん?」

栞子「あ……」

栞子「皆さんに、伝えたい事があります…」

エマ「うん」

栞子「逃げ出して、すみませんでした。私は、全部中途半端なまま、放り出してしまいました。何もかも、全部を」

璃奈「……確かにね。でも、こうして謝りに来てくれた」

栞子「生徒会長ですらない、ただの三船栞子になった私ですが、今、こんな状況で…どこまで出来るかわかりません、しかし」

栞子「こんな私の背中を押してくれる人がいました」

栞子「こんな私でも出来る事があると言ってくれる人がいました」

栞子「部長は…先輩は、今……ひどい状態です。でも…救いあげるためにも、必要なスクールアイドルがあります」

栞子「私をっ、スクールアイドル同好会に入部させてください!」

栞子「ここに、虹の王国を取り戻すために!」

しずく・璃奈「「エマさん」」

エマ「うん―――――――部長代理として許可します。お帰り、栞子ちゃん」

栞子「はいっ…!」

しずく(栞子さんを部室に迎え入れて、すぐだった)
36 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:25:53.99 ID:4ITMBpJ60
コンコン

しずく「はい」

ガチャリ

かすみ「……」すっ

しずく「かすみさん…」

かすみ「まずは…」土下座

エマ「えっ!? ちょっとかすみちゃん!?」

栞子「かすみさん、顔を上げて下さい。い、いきなり」

かすみ「かすみん、ずっと逃げてた。自分で背負った罪に押しつぶされそうで、皆がつらいって時に」

かすみ「先輩が間違っている事をまったく止められなくて、事態の悪化を招いた」

かすみ「あげく他のスクールアイドル達にまで迷惑をかけた」

かすみ「こんな私だけど…また、ステージに立たなきゃ……そこで出来る事を、しなくちゃいけない事があるから」

かすみ「ゴールじゃない、道はまだ続いている。だから―――――――こんなかすみを、もう一度スクールアイドルとしてステージに立たせてほしい!」

かすみ「普通科一年、中須かすみ。スクールアイドル同好会への入部を希望します!」

しずく「……」抱きっ

しずく「おかえりなさい、かすみさん…!」

かすみ「しず子…ありがとう……」

エマ「良かった…本当に、良かった……」ポロポロ

璃奈「璃奈ちゃんボード『やった』」

栞子「おかえりなさいって私が言うのも妙ですが、かすみさん…おかえりなさい」

かすみ「ただいま、しお子」

かすみ「…放課後に、行きたい所があるんだけど、いいかな?」

璃奈「復活祝いでマウンテンパンケーキでも食べにいくの?」

かすみ「じゃなくて、もっと違う場所」
37 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:27:58.86 ID:4ITMBpJ60
放課後 結ヶ丘女子 部室棟

かのん「風邪ひいたかな…」

千砂都「駅に戻ったら一人だけずぶ濡れだったからね」

すみれ「スクールアイドルというもの、体調管理は…びゃーくしょい!」

恋「すみれさんが一番ダメダメじゃないですか」

すみれ「あんなに気温が下がるとは…サウナに入り過ぎたのかも知れませんわ」

可可「ソモソモ冬に成りつつナノデ、寒いデス」

コンコン

かのん「どうぞー」

かすみ「頼もう!」バーン

恋「あ…虹ヶ咲学園の…」

栞子「は、初めまして。あの、かすみさん、こちらの皆様は…」

かのん「何しに来たの?」

かすみ「宣戦布告」

すみれ「あら、甘く見られ…」

かのん「受けて立つ」

恋「え、えぇー!?」

栞子「話がついていけません…」

かのん(生き生きと輝いた顔で腕を組むかすみちゃんは)

かのん(ひどくカッコ良かった。だからこそ、負けたくない)

かすみ(かのんちゃんの顔は嬉しさと、負けないという自信がある悪戯っぽい笑顔で)

かすみ(とても可愛かった。でも、可愛さなら負けてない)

かすみ・かのん(私たちは、スクールアイドルだ)


2/了
38 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/03(日) 20:46:31.15 ID:KePSmcs10
3/あしたの為の叛乱者

会議室

副会長「生徒をなんだと思っているのですか!?」

菜々(職員や理事も混じる会議室で、副会長が怒声を挙げたのはある日の夕方だった)

現・理事長「口を慎みたまえ、生徒会副会長君」

現・理事長「諸君らにも思う事があるだろうが、これは君たち生徒の更なる成長、更なる発展を期待しての事だ」

副会長「しかし…!」

現・理事長「発言を許可した覚えはないぞ、副会長君。生徒会長の中川君を見習いたまえ。会計の鍾君は更にわきまえているようだ。結構な事だ」

現・理事長「自身の過ちを反省しているのはこういう事だ。覚えておくと良い」

菜々「……」

菜々(だけど私もランジュさんも、怒りを隠しきれない)

菜々(理事会から宣告された事、それは部室棟の移動。主に小さな部活などを対象に、学校の外れにして、文字通り海に飛び出した立地にある新館へ移動するというもの。だが)

菜々(そこは新館とは名ばかりだ。もともとランジュさんの母親が理事長だった時に、東京湾にとてつもなく近い虹ヶ咲学園を高潮などから守る為の防波堤として買収した区域を埋め立てた。今の理事長はそこに建物を建て、それが新館だという。だが)

菜々(こんな短い期間で建てられたものは生徒たちからはただのプレハブとしか思われてない上に、何よりその新館があるのは防波堤の外側。よく東京都が許可したなと思うレベルだ)

菜々(そんな立地なので、完成直後に視察した生徒からは『電源が圧倒的に足りない』『そもそも強風が吹くと揺れる』『地面もしょっちゅう海水が沸く』『トイレが仮設そのままで臭い』『校舎から新館へ移動する通路が狭い上に屋根がない部分もある』、などなど)

菜々(防災倉庫として使うにもそもそも防波堤の外だから意味がなく、改修は必須で、不可能なら移転を、という案をあげた。その返事がこれだ)

菜々(それを、部室棟として使うだなんて……)

菜々「移動する部活のリストを、見せてください」

現・理事長「そこにある」

菜々(その中の筆頭に書かれた、スクールアイドル同好会の文字)

ランジュ「……なによ…これ……」ブルブル

ランジュ「殆どの部活じゃない…!」

菜々(それだけではない。本当に色々な部活がリストに載っている。乗っていないのはせいぜい大規模で有名どころのスポーツや吹奏楽部ぐらい。それ以外の大半の部活がリストに載せられていたのだ)

現・理事長「この通達は理事会を満場一致で可決し、職員会議でも不満は出なかった」

菜々(握りつぶしたの間違いだろう)

現・理事長「よって、翌日より直ちに実行される。変更はない。以上だ!」

ドイツ企業の偉い人「マッキンゼイ理事長、予算の件で…」

現・理事長「ああ、わかっています。もう少しなんとか…」

フランス企業の偉い人「例のスペースですが…」
39 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/03(日) 20:47:11.53 ID:KePSmcs10
翌日 放課後

かすみ「ド畜生」

しずく「島流しですね…」

璃奈「璃奈ちゃんボード『マッキンゼイ撃墜RTA定期』」

栞子「地面が土そのものな上に…海水がしみ出してますね、これ…」

エマ「まるでザップランドだね…」

かすみ「どこですか、ザップランドって」

しずく「マティアス・トーレス艦長の元ネタといいますか…あれ」

『虹ヶ咲学園新館部室棟』←白いペンキで横に三本線で塗り潰されている

栞子「設置物汚損って問題では…」

しずく「洒落てる人、結構いるみたいですね」

かすみ「とりあえず部屋に行こうか…うわっ、建物の中が寒い!」

璃奈「エアコン、エアコン…」

エマ「あ、スクールアイドル同好会…ここだね」

璃奈「エアコン、どこ…凍る…」

かすみ「…いや、ない。この新館マジでエアコンそのものがない!」

璃奈「璃奈ちゃんボード『100%殺意』」

しずく「そもそもドアの立て付けが悪いですよね」

栞子「備品も足りない…椅子だけは持ってこれましたが」

エマ「机は一つしかないね…ロッカーも無い」

かすみ「ぐぬぬぬ…」

栞子「実績の少ない部活動が対象とのことですが」

栞子「その実績を出せなくしてるのは、決めた人たちなのに」

エマ「うん……」

しずく「こうなったら」

しずく「許可なんか知るか、ですね」

かすみ「ゲリラライブだね…枠の外に放り出されたんだ、アウトローに行くのが筋ってもんだね」

璃奈「かすみちゃん、何か案がある?」

かすみ「こういう時は誰かの力を借りる」
40 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/03(日) 20:48:05.41 ID:KePSmcs10
カフェテリア前

かすみ「かすみんボックス!」

しずく「かすみんボックス…」

しずく「…それで、このダンボーのパチモンみたいなポストをカフェテリア前に置いておいて大丈夫でしょうか?」

かすみ「誰がダンボーのパチモンだしず子ぉ〜! まあ、それは元より」

かすみ「これぞ我らがスクールアイドル同好会反撃の第一歩!」

しずく「開けた時に空だったらどうしようもないけど」

かすみ「不吉な事言わないでよ、しず子…いや、正直そうなる可能性の方が高いけどさ」

かすみ「ま、あんまり期待はしないでおくかな…とりあえず戻ってまた考えよう、しず子」

しずく「そうですね、かすみさん」

スタスタ

テクテク

副会長「あれ?」

副会長「スクールアイドル同好会、お便り募集…ふむ」

副会長「設置認可、生徒会っと」書き書き

副会長「これでよし」むふー

スタスタ

女子生徒1「なんだろ、これ…」

女子生徒1「スクールアイドル同好会…ふむ」

女子生徒1「よーし…」

スタスタ

女子生徒2「およ? なんだなんだ〜?」

女子生徒2「へぇ〜…ほうほう…なるほどね〜」

女子生徒2「へっへへー♪」
41 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/03(日) 20:49:14.42 ID:KePSmcs10
演劇部 控室

演劇部部長「講堂の使用許可を三日間申請したらどんな割合だったと思う?」

演劇部部員1「どうしたんです?」

演劇部部長「三日目が四十五分だったんだよね」

演劇部部員2「通し稽古も出来やしない」

演劇部部長「まったくだね」

しずく「酷い……」

演劇部部長「なんとも、色んな部活で頭が痛いものさ」

演劇部部長「映画研究会とかも撮影許可が校内で出ないとかで、愚痴ってたよ」

演劇部部長「生徒会長も辛そうだ。何にも悪くないのにね」

しずく「……ええ」

演劇部部長「明るいニュースでもあれば良いさ…桜坂、何か噂話とかないかな?」

しずく「あまり良いニュースはないですね…上の方がライブの申請を却下し続けるとしか。生徒会副会長が何度かかけあってくれてると…」

演劇部部員3「ああ……あの子、優木せつ菜の大ファンだから…」

演劇部部員2「だよね。あの子も疲れてる、またステージが見れれば…」

演劇部部長「部長さんは、まだ入院してるのかい?」

しずく「はい」

演劇部部長「それは残念だ。彼女の考える脚本はド派手でヒロイック、時として破滅的。短絡的だけど効果的なものが多くてね、すごく心が躍った」

演劇部部長「出来る事ならまた彼女の脚本で動くのも面白い。飽きるまで天使とダンスが出来そうだ」

しずく「………四十五分、ですか」

演劇部部長「そうなんだよ。これじゃ照明担当の練習とかしか出来やしないね」

演劇部部員1「そういえば映画研究会も撮影許可が出なくて映像が撮れないからって、部活動の撮影で練習してる始末ですよ」

演劇部部員2「ねぇ、しずく。こんな噂話知ってる?」

演劇部部員2「放送委員が放送機材を使う機会がないって愚痴ってる。検閲され過ぎて」

演劇部部員3「酷いね」

しずく「いつから、何日まででしたっけ?」

演劇部部長「この三日間だね。照明担当の練習をする為にステージで動いてくれる人が見つかればよいんだけど…どうやら見つかったようだ」

しずく(部長をはじめ、演劇部の皆はこの時に笑顔を見せてくれた。私は、それを見て涙が溢れそうだった)

しずく(灯し火を待つ人たちは、ここにもたくさんいる)
42 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/03(日) 20:50:07.76 ID:KePSmcs10
彼方(屋上のベンチに横になっていると、ひどく背中が冷たい。冷え込んでいる)

彼方(それでも定期的にこの場に来てしまうのは、この眠りたくはなくても横になりたい衝動を、冷たさで抑える為)

彼方(水色の三本爪の缶を傾けるとひどい味がして、また眠気はどっかに連れていかれた)

彼方(それがまた何か癖になる味だった。彼女は、こんな味が好みだったんだろうか。μ’sやAqoursと会議をしていた日も、そしてあの日、この屋上でも直前に飲んでいたのか、空き缶があった)

彼方(この缶を飲み干すとどうにも胃が妙になるのは、こいつのせいか。だけど、何故か依存してしまうような、頼りにしたい感が、彼女みたいで)

彼方(いつの間にかこいつを気に入っている私がいた)

彼方(既に暗い空を、ぼんやりと見上げていると、足音が聞こえた)

「近江さん…見つけました」

彼方「………誰?」

彼方(ちらり、と顔だけ横に動かしてその姿を見た)

彼方(かつて監視委員会で元生徒会役員だった、あの双子の右だが左だが区別がつかない生徒だ)

彼方(彼女の事を思うとタテだかヨコだかわからんビフテキの存在を思い出してしまう)

彼方(一度でいいから、食べてみたいしそれぐらいの贅沢をしてみたいものだ)

左月「どうも」

彼方「…何か用? 確か、もう生徒会の人でもなくなったんだよね…」

左月「ええ。おかげさまで、解任されました」

左月「内申点、無くなりました。特待生も取り消されました」

彼方「……」

左月「こんな噂、知ってますか?」

左月「特待生の基準が変わるのもそうですが、スクールアイドル同好会の部長に親しい人への制裁が来るそうですよ」

左月「特待生でなきゃ学費払えませんよね? 近江彼方さん」

彼方「…!」

左月「けど、スクールアイドル同好会を力で潰すのはまずいんですよね。反対勢力が一斉蜂起してしまうらしいですよ」

左月「だから、中から切り崩すしかないんですよね」

左月「協力してくれませんか? 反スクールアイドル運動に」
43 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/03(日) 20:51:10.26 ID:KePSmcs10
左月「そうしてくれたら、学校の上の方が彼方さんによくしてくれますよ。学費免除どころか、大学の推薦とかもくれるかも知れませんね」

左月「虹ヶ咲学園って、学費かかりますからね。いいですよね〜、実現すれば」

彼方「裏切れと?」

彼方「彼方ちゃんに? これ以上、皆を?」

左月「さあ、どうでしょうかね」

左月「スクールアイドルいえども、顔とか大事ですからね。中須かすみさんとか、暴動騒ぎの主犯ですし、恨みを買ってるんじゃないんですか?」

左月「顔を傷つけられる怪我とか、負うかも知れませんねぇ」

彼方「………」がしっ

彼方「そんなこと、させない…手を出してみろ…」

彼方「お前の首を◯み千切っても良いんだぞ!?」

左月「いいですよ、今はその判断で」

左月「今は、ですけど。上の方にはきちんと取りなしておきますから」

スタスタ

彼方「反、スクールアイドル…運動…」

彼方「部長…ごめんね…ごめんね……こんな事になっちゃって…」

彼方(喉から手が出る程、涎を垂らしそうな学費免除や大学推薦の話)

彼方(だが、それに頷いてしまったら)

花陽『彼方さん、恥ってものあるの?』

彼方(きっと彼方ちゃんは、二度と皆に顔向けできなくなる)

彼方「…伝えなきゃ…」

彼方(空き缶を手に、生徒会室へ、向かう)

彼方(途中で空き缶をゴミ箱に捨てて、自販機で同じ缶を買っていると)

菜々「彼方さん…」

ランジュ「彼方」

副会長「確か、ライフデザイン学科でスクールアイドル同好会の…」

彼方「せつ菜ちゃん、大変だよ…元生徒会役員の」

副会長「え? せつ菜さんですか!? どこに!?」

彼方「あ…」

彼方(うっかりしていた。今は中川菜々だった。つい、せつ菜ちゃんと声をかけてしまった)

彼方(気まずい沈黙が流れた時だった)
44 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/03(日) 20:52:07.36 ID:KePSmcs10
菜々「あの、元監視委員会だった二人、ですか?」

彼方「うん……反スクールアイドル運動なんてのを始めたらしい」

ランジュ「…いわば、色んな人に振り回された。そう、私にも…」

彼方「うん……」

副会長「せつ菜さんは、いませんね…近江さん、誰と…」

菜々「ううん、違うの」

せつ菜「私は、今まで黙っていたことがあります」

副会長「え…?」

せつ菜「優木せつ菜は、スクールアイドルとしての名前です。本名は別にあります」

せつ菜「中川菜々、という名前が」

せつ菜「私が…優木せつ菜です」

副会長「………!」

せつ菜(今までずっと黙っていた事。そう、この秘密はスクールアイドル同好会だけが知っている秘密)

副会長「今、休学している同好会の部長さんは」

副会長「病で、と聞きました。本当、なんですか?」

せつ菜「……生徒会室に戻りましょう。そこで、話します」

せつ菜「彼方さんも」
45 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/03(日) 20:53:10.33 ID:KePSmcs10
せつ菜(生徒会室に戻り、私の口からすべてを話した)

せつ菜(ランジュさんの事は、副会長にとっても気がかりだったようだ。それも聞いて)

せつ菜(副会長は、話しが終わると、眼鏡をはずして手で顔を覆った)

副会長「………」

副会長「今、スクールアイドル同好会どころか。虹ヶ咲学園が苦境に立たされています」

副会長「その原因が、皆さんだったんですね」

副会長「恨まない、というと嘘になります。けど……スクールアイドル同好会の、部長さんの気持ちも痛い程解ります」

副会長「会長は…その贖罪も含めて、ランジュさんを生徒会に入れて。ランジュさんも、その事を後悔しているから、こうしていてくれる」

副会長「……あの噂は、本当だったんですね」

彼方「噂?」

副会長「虹ヶ咲学園の空に君臨する女王がいる」

副会長「立ちふさがる障害を全て叩き落としていく。その為に手段を選ばない。時に短絡的だけど効果的に行う。だから破滅した、そして女王が去った虹ヶ咲学園からは、色が消えた」

せつ菜「………確かに」

副会長「しかし、希望はまだあります。あなた達も知っている筈」

せつ菜「それは……」

ランジュ「エマたちの、事?」

副会長「昨日、カフェテリアに、面白いものがあったんですよ」

彼方「?」

副会長「かすみんボックス!」

せつ菜「かすみんボックス…」

副会長「あ、設置許可は私が独断で出しときました。申請書も作ったので無問題ラ、です」

ランジュ「それでいいのかしら生徒会…」

彼方「かすみちゃん、やっぱり出してなかったか…」

副会長「そういうのはばれなきゃ良いのです」キリッ
46 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/03(日) 20:54:13.46 ID:KePSmcs10
カフェテリア前

せつ菜「こういうのは実際に見るのが…!」

副会長「なっ……これは…!」

ランジュ「ひどい……」

彼方「……」

せつ菜(カフェテリアの前には、かすみんボックスであったものが散らばっていた)

せつ菜(ポストであった頭部分は胴体から引き千切られ、何度も蹴られたのかあちこちに足跡がつき、大穴がとどめを刺している。既に入れられていたお便りにも足跡がつけられていた)

せつ菜(そして腕の一本は頭の近くに転がり、異様な匂いを発する赤い液体がかけられている)

せつ菜(残りの胴体はというと、近くの壁から伸びた紐に片足を結び付けられて逆さづり、まるで処刑された人のように)

せつ菜(そしてその胴体にも赤い異様な匂いの液体がかけられていて、それに、パソコンで作られた紙が一枚。赤い文字で書かれている)

せつ菜(『スクールアイドル、次はお前だ』)

せつ菜(そしてその下に『スクールアイドルのファンも私たちは許さない』と、書かれている)

副会長「……」ワナワナ

彼方「かすみちゃん……」

せつ菜「後片付けを、します。彼方さん、皆さんに…」

彼方「うん…部室、変わったんだっけ」

ランジュ「部室棟とも呼べない、酷い場所よ」

彼方「わかった…行ってくる…」

副会長「許せない…こんな事、許せない…!」

副会長「なんでこんな事に…!」

せつ菜「……」

副会長「……中川さん…後はもう、どうすれば良いのでしょう…」

せつ菜「私、は……」

せつ菜(惨状を見て、ますます心が折れそうになった。こんな状態で、果たして希望として、もう一度優木せつ菜として立てるのか)

せつ菜(私は、灰の海に飲まれそうだった)
47 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/03(日) 20:55:09.49 ID:KePSmcs10
俗称ザップランド部室棟 スクールアイドル同好会部室

しずく「エアコンもない」

かすみ「ストーブもない」

璃奈「おらこんな部屋嫌だ〜」

栞子「でもそんなの関係ねぇ!」

エマ「はい、おっぱっぴー……って無理やりすぎるよ…」

しずく「…ダメですね、身体を動かしてもやっぱり寒い。部室の中でもコート手袋必須って」

かすみ「他の部室も軒並み似たようなありさまだもんね。毎日毎日、くしゃみだけが響く」

璃奈「璃奈ちゃんボード『今日はここをキャンプ地とする』」

栞子「ここで寝たら死にますよ」

エマ「寮からストーブでも持ってこようかな…」

栞子「しかしコンセントが廊下にしかないとは…延長コードが必要です」

栞子「延長コードと電源タップを経費で申請しましょう。この際ブレーカーを吹き飛ばせば電源不足だって言えますよ」

かすみ「電源壊すなって怒られる未来に5000ガバス」

バーン!!!

しずく「え? なにっ…」プツッ

エマ「わっ!? 停電!?」

かすみ「ひえっ!?」

栞子「まさか本当に電源が吹き飛んだんじゃ…」

しずく「おそらく…」

璃奈「誰か、電源見てくる?」

「誰か電源見てきて、電源」

「わかったー」

しずく「他の部活の人が見にいくみたいですね」

ドタドタ
48 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/03(日) 20:56:07.18 ID:KePSmcs10
彼方「エマちゃん! しずくちゃん! 璃奈ちゃん! いる?」

しずく「彼方さん? どこにいるんですか?」

彼方「部室から出ちゃダメ、鍵を閉めたままで!」

しずく「ど、どうしたんです?」

かすみ「彼方先輩、停電ですし先輩廊下にいるなら……」

彼方「とにかく電気が戻るまで……誰!」

ぶんっ

ガシャーン

彼方「っ!?」

べちゃあっ!

エマ「彼方ちゃん!」

璃奈「あった、ライト!」

パッ

栞子「彼方さん……」

かすみ「彼方先輩!? 大丈夫…」

彼方「大丈夫…かすみちゃんは?」ボタボタ

彼方(何者かはおそらく停電を意図的に起こして、その間に同好会の部室を襲撃するつもりだったのだろうか。だが)

彼方(璃奈ちゃんが持つライトに照らされたのは割れた瓶と、私からも滴る赤い液体。ひどい匂いがするこれは、生き物の血か何かだろう…)

エマ「彼方ちゃん…す、すぐにシャワー室に行こう、ね?」

彼方「うん…あの、鍵をきちんと閉めて。移動しよう。移動しながら、話すね…」

しずく「何が…」

彼方「監視委員会だったあの二人も、栞子ちゃんみたいに生徒会を更迭された」

栞子「はい……そう、聞きました」

彼方「特待生が取り消されて、内申点も吹き飛んだって。それで、さっき、彼方ちゃんに声をかけにきた」

栞子「なにがあったんですか?」

彼方「反スクールアイドル運動を手伝ったら、学費とか推薦とか…」

彼方「つっぱねたよ。でも…喉から手が出そうだったよ……」

彼方「つっぱねたらさ、何て言ったと思う?」

彼方「かすみちゃんは恨みを買ってるから怪我するかもとか脅してきてさ、それで怖くて…せつ菜ちゃんの所に行った」
49 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/03(日) 20:57:13.58 ID:KePSmcs10
彼方「生徒会の副会長が」

彼方「かすみんボックスが置いてある、まだ希望はあるって言って。それで…見に行った。そしたら」

彼方「…そしたら…滅茶苦茶に、されてて、それで…脅迫文なんかも、置かれてて…」

彼方「今の彼方ちゃんみたいに…なんかの血までぶちまけられてて…!」

彼方「怖いよ…」

エマ「彼方ちゃん…」

彼方「彼方ちゃん、怖いよ…! ここはいつからこんなになっちゃったの…皆がさっきみたいになにかされるって思うと怖いよ…!」

かすみ「彼方先輩…」

彼方「かすみちゃん……ずっと、色々任せっきりで、それで……」

かすみ「迷ったら、空にある星を探せばいい」

かすみ「未来の私と、そう約束しました」

彼方「なにされるかもわからないんだよ…?」

かすみ「そうかも。でも、負けませんよ。明日を掴むって。背中を、押してくれる人がいた」

かすみ「彼方先輩にも、いますよ。だから、大丈夫」

彼方「……うぅっ……」

栞子(二人の事を思い出した。私が生徒会長だった頃は私に振り回され、ランジュが来てランジュに無理やり監視委員会に任命されて振り回され、それで理事長が変わって生徒会はクビになり、内申点もゼロ、特待生待遇も取り消し)

栞子(ある意味二人も被害者だった―――――――私たちの過ちの。だが)

栞子(あの日、間違っている事を止めようとして起きた罪の為にも、彼女たちも救わなければいけないのだ)
50 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/03(日) 20:58:08.62 ID:KePSmcs10
カフェテリア

かすみ「すみませんでした、副会長! 本当に…」

副会長「いえ、とんでもない。それよりも部室にまでそんな事が…」

かすみ「はい…」

副会長「許せない…」ギリギリ

かすみ「……彼方先輩から、聞きました。私たちのせいでもあるんです、こうなってしまった事。なかでも」

副会長「中須さん」

副会長「だからこうして、あなたは頭を下げてくれてる。ですから、それで良いのです」

副会長「そんな事が起こるぐらいに、今のこの学校はおかしい」

副会長「ライブの申請書に、落ち度はどこにもないのです。それなのに許可を出さない方がおかしい」

かすみ「……ありがとうございます」

副会長「新館部室棟の電源についてはすぐに対処します」

副会長「……連中は狡猾です。表立って訴えても、シラを切ってくる」

かすみ「そう、ですね」

かすみ「先輩が見たら…すごいショックを受けそうだ」

副会長「ないものねだりをしても、仕方がないです」

かすみ「はい……あ、あの。この日、なんですけど」

副会長「はい」

かすみ「……講堂で、演劇部が照明の練習するそうです」

副会長「確かに、その日だけは許可時間が短かったですからね」

副会長「……面白そうですね。見学フリーですか」

かすみ「ええ。見学OKだって、演劇部の部長さんが言ってました」

副会長「それなら講堂の舞台と照明以外は空いてますね。どっか別のグループに許可でも出しておきますか」

副会長「流しそうめん同好会がにゅうめん会でもやりたいとか言っていたので、許可を出す事にしましょう」眼鏡キラッ

副会長「椅子がたくさん必要なんですよ」
51 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/03(日) 20:58:47.64 ID:KePSmcs10
何日かした 講堂

演劇部部長「さて、照明の諸君。練習の手伝いをしてくれる人たちに失礼のないように。彼女たちの動きはすごいぞ、ちゃんと追いつくんだ」

演劇部照明係「承知」

放送委員「マイクテスト、マイクテスト。これから音楽の試験はじめまーす」

流しそうめん同好会部長「にゅうめん会と言ったね」

流しそうめん同好会部長「問題はコンロと鍋忘れちゃったー。ストーブと椅子しか持ってきてない!」

映画研究会部長「講堂の風景撮影開始ー。カメラ回す練習しないとねー」

演劇部部長「よし、そろそろだな…」

放送委員「あと5秒…」

映画研究会部長「いい映像を全力で撮るためには、最高のパフォーマンスが必要だよ」

流しそうめん同好会部長「頼むね…」

エマ(久しぶりのステージ)

しずく(許可も何もないゲリラライブ)

璃奈(だけどもう、私たちは迷わない)

かすみ(ここから前に進んでいく、灯し火を失った虹ヶ咲学園。私たちが追いかける灯し火は、空から消えた)

栞子(だから、私たちが灯し火になる――――――未来の為に)

エマ「虹ヶ咲学園、スクールアイドル同好会です!」

しずく「久しぶりのステージですけれど、楽しんでいってくださいね?」

璃奈「お待たせして、ごめんね」

かすみ「張り切っていきますよっと」

栞子「ええ、今日も全力で!」

わあああああああああああああああああああああああっ!!!!

放送委員「おおっと、ここはミュージックが必要だね。OK、流すよー?」

演劇部部長「さあ、来るぞ。きちんと照らすんだ」

流しそうめん同好会部員「虹ヶ咲学園に…」

観客「スクールアイドルが、帰ってきた!」

おかえり皆ー! 待ってたよー! 璃奈ちゃーん!

ワイワイガヤガヤ
52 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/03(日) 20:59:47.19 ID:KePSmcs10
虹ヶ咲学園 屋上

彼方「………騒がしい」空き缶握りー

陸上部員1「ねぇ聞いた!? 講堂で、スクールアイドル同好会がライブしてるって!」

陸上部員2「え? 活動休止してるんじゃなかったの? 愛ちゃんは?」

陸上部員3「高跳びやってる場合じゃねぇ! とにかく行ってくる!」

水泳部部長「こらーっ! 気持ちは分かるけど身体を拭け、そもそも水着で行くなー! 風邪ひくぞー!」

水泳部員1「うおおおおおおっ! あゆぴょんのステージが私を呼んでいるぅぅぅぅ!」

バスケ部員1「いや、フルメンバーじゃなくて一部しかいないみたい。一年生は皆いるらしいけど」

水泳部員2「しずくちゃんのステージが見れるなら問題ない!」

水泳部員1「あゆぴょんは?」

バスケ部員2「いないって。一年生四人とエマちゃんって聞いた」

水泳部員1「ずこーっ!」

水泳部部長「あれ、近江さんも出てないのか…」

バスケ部員2「みたい。でも、久しぶりのライブだよ、見に行こう!」

ワイワイ

彼方「みんな……」


生徒会室

副会長「……」スック

副会長「……」だだだっ

ランジュ「…すごい勢いのアスリート走りね…」

せつ菜「追いかけましょう、私たちも。十傑集走りで」

ランジュ「普通に走りなさいよ…」

たたたっ
53 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/03(日) 21:01:04.81 ID:KePSmcs10
再び講堂

せつ菜「よっと……」

ランジュ「すごい熱気…どんどん人が増えてる」

せつ菜「ええ……皆さん」

ランジュ「やっぱり、ライトも足りない、サウンドだって、もっといい機材がある筈」

ランジュ「でも…とても、心に響く。手作りで、全力で、心に、凄く届く」

せつ菜「……」

ランジュ「可可はこれを、届けたかった。だからあれだけ熱心に言ってくれて、あれだけ伝えようとして、そして自分自身もステージに立った」

ランジュ「私は、その事をわかってなかった。ただ、表面的に見ているだけで。高度なパフォーマンス、訓練された歌声、デザイナーの衣装」

ランジュ「それがあればアイドルになれる。でもそれは、スクールアイドルじゃない」

ランジュ「私はそれが出来ればハイレベルになれると思ってた…ただの押し付け」

ランジュ「スクールアイドルというものを誤解し続けた、私の過ち。それをあの子は知っていたから、同好会の皆に手を出すなって私に怒った」

ランジュ「可可だって、きっとあの時の私を見たら失望する」

ランジュ「そしてその過ちが、全部滅茶苦茶にして、終いにはこの学校から輝きを奪った」

ランジュ「栞子にだって、いっぱいいっぱい迷惑をかけた」

ランジュ「…でも、今、そんな栞子が」

せつ菜「ええ……」

せつ菜「……あのかすみんボックスの惨状を見た時」

せつ菜「私は、灰の海に飲まれそうでした。もうスクールアイドルを辞めようかと思いました」

せつ菜「かすみさんが自分の罪に押しつぶされそうになったように。三船さんが責任を取る為のように」

ランジュ「……!」

せつ菜「だけど今、こうして見ていると。私はあの時から…変わってなかったんです」

せつ菜「あの日。部長の企みが分かった時に。かすみさんから、情けないって言われた時から。私は、私は勇気がなくなっていた……部長の事に寄り添う事が出来なかった、生徒会長に再任したという理由で苦しむ皆の傍にもいてやれなかった、希望を無くした皆に…」

せつ菜「私の大好きを届けることも出来ずに、ただただ目をそらしていただけでした…!」

せつ菜「……今でも、生徒会長としても、力になれてない」

せつ菜「この灰が降る王国に必要な灯し火を、あの子が戻ってくる事だとずっと信じて、だから何もしないでいた…甘えていました」

ランジュ「…聞いてる。あの子の背中についていけば大丈夫、そしていつも背中を、あの子が押してくれる」
54 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/03(日) 21:02:03.90 ID:KePSmcs10
せつ菜「だから、あの日まで走ってこれた」

せつ菜「おかしなものですね、虹ヶ咲学園のスクールアイドルといえば私だったのに」

せつ菜「中川菜々というペルソナ、優木せつ菜というシャドウ…一つになった筈なのに、また、別れてしまったのはあの時から」

せつ菜「だけどもう一度、一つにしたいと思う私がいます。ペルソナとシャドウを融合させる事で、大好きを生徒会長としても、スクールアイドルとしても、広げたい、私が」

せつ菜「道を間違える不安はあります。道に迷ってしまう不安も。背中を押してくれるあの子がいないと、本当に不安になる。だからまた二つに分かれた」

せつ菜「中川菜々というペルソナであり続ける事でこの学校を少しでもと考えた。でも、こうして」

せつ菜「皆を眺めていると…私は」

せつ菜「私は、スクールアイドルなんだって、思い出します」

ランジュ「せつ菜……」

せつ菜「だけど、あの子たちはそれでも立っている。こうして、この灰が降る王国に、灯し火をあげた」

せつ菜「小さな火です。でも、それを守らなければ―――――彼女が本当に守りたかったのは、この学園の灯し火。皆が目指す、灯り」

せつ菜「ランジュさん」

ランジュ「うん」

副会長「二人とも…」

せつ菜「ゲリラライブとはいえ、セトリはあるので」

ランジュ「うん、今混じったら、崩れちゃう」

せつ菜「だから、今だけは、観客でいましょう」

ランジュ「だけど、次こそは」

せつ菜「ステージに」

副会長「そういう時こそ」

副会長「応援しないと。ペンライトの残りはまだまあだありますので」

せつ菜「…そう言って翡翠色を全力で振ってるのが、あなたらしいですよ」

副会長「そうですか? 私はスカーレットが大好きです」キリッ

ランジュ「ふふっ、見て。あのダンス、しずくが考えてたのよ」

せつ菜「おお、いいダンスですね…皆と息がぴったり」

ランジュ「やっぱりあの子たちには、適わない」

せつ菜「そうですか? 入ってみたら案外出来るかも知れませんよ?」

ランジュ「どんな曲を歌いたいか、どんな風に伝えたいかをもう考えてる、自分がいる」

せつ菜「奇遇ですね」

せつ菜「気が合いますよ、私たち。だから、部長も。あなたに好感が湧いたんですよ、きっと」

副会長「皆さん、素敵ですよー!」ペンライトフリフリ

せつ菜(帰ってきた同好会のゲリラライブ。今はまだ、五人だけ。だけど……)

せつ菜(これからまた、皆でやっていくんだ。もう、私たちは前に進むしかない。灯し火は打ち上げた、それを追いかけていこう)
55 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/03(日) 21:03:06.95 ID:KePSmcs10
会議室

現・理事長「無許可であるというのは解っているのか!?」

演劇部部長「いえ、講堂の舞台を使う事に関しては許可を取っていますが」しれっ

演劇部部長「照明チームの練習をしていたら、たまたま映ったんです。演劇部としましては照明チームの練習を手伝っていただけたので感謝してます」しれっ

映画研究会部長「私たちは演劇部の皆さんに照明チームの練習の為の撮影を頼まれていたので、カメラを回していました」しれっ

流しそうめん同好会部長「私たちはにゅうめん会を開いてましたし、その許可は御覧の通りあります。他の生徒が自由に参加してもいいってお知らせも出してたので、そのお客さんが集まってただけです」しれっ

放送委員「演劇部の音声係の練習に付き合って器具を使用してました。もちろん、その許可ありますよ」しれっ

栞子「……何か問題でも?」

現・理事長「ぐぬぬ……」

現・理事長「いいだろう、お前たちは不問だ。だが!」

現・理事長「普通科一年、三船栞子、中須かすみ! 国際交流学科一年、桜坂しずく! 情報処理学科一年、天王寺璃奈!」

現・理事長「以上、四名! 明日より停学三日間だ! 異論は認めん! 全員、退出せよ!」

ゾロゾロ

エマ「皆さん…まずはなんと御礼を言ったらいいか」

演劇部部長「いいんだよ。時間は有効活用だ」

映画研究会部長「久々に心躍る映像が撮れたよ! さあ、映像をアップして、世界中の皆にも見てもらおう」

流しそうめん同好会部長「虹ヶ咲学園に、スクールアイドルが帰ってきた。きっと皆の勇気になる」

放送委員「まだまだ皆には色々ある。だけど、やっぱり学校を盛り上げる役がいないと、学園生活つまんないって!」

ドッ アハハハ
56 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/03(日) 21:04:08.47 ID:KePSmcs10
演劇部部長「しかしまだまだ先行き多難だ…一年生組まるっと停学もそうだが」

演劇部部長「ここだけの話、反スクールアイドル運動ってのが、元監視委員会の間で出来てるとネットワークで来てね」

流しそうめん同好会「質の悪い事に、特待生とかを脅してるみたい。学費の事で、ね」

エマ「…彼方ちゃんも、脅されたって聞いた」

映画研究会部長「元ランジュファンクラブの方に情報は任せよう。荒事になったら、元コッペパン解放戦線が動く準備はしておくよ」

放送委員「元サンドイッチ革命軍にも伝えないといけないね」

かすみ「部長が残してくれたもので一番でかい気がしますよ」

栞子「本当に、皆様、なんと御礼を申し上げればいいか…」

演劇部部長「しかし彼女が一番そういうのに長けていたのもあるね。空の女王は、色々な魔法を使うのが大得意だったからな」

映画研究部部員「部長。映像です」

映画研究部部長「ありがとう。さあ」

しずく「…はい!」

演劇部部長「それと…お客さんのようだから、私たちは失礼するよ」

璃奈「あ……」

スタスタ

副会長「素敵なライブでした」

副会長「やはり、虹ヶ咲学園には、スクールアイドルがいないとしまらないですよね。栞子さん」

栞子「はい」

副会長「スクールアイドルとしてのあなたは、私、好きですよ」

栞子「……ありがとうございます!」

副会長「それと、一つお願いがあって来ました。二人、部員を受け入れて欲しいのです」
57 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/03(日) 21:05:26.19 ID:KePSmcs10
せつ菜「皆さん…」

エマ「せつ菜ちゃん……」

せつ菜「私は、三回も逃げてしまいました。三回も、です」

せつ菜「私の大好きが空回りしてしまった時、二度目はランジュさんの事で部長に頼り切ってしまった時、三度目は今、こうして皆が苦しんでいた時に、生徒会を口実に逃げてしまいました」

エマ「そんな事ない、せつ菜さんは生徒会役員として動いてくれていた…」

しずく「学校中から上がる絶望の声を、受け止めながら」

璃奈「うん、せつ菜さん、頑張った。ランジュさんと、一緒に」

せつ菜「私は…もう逃げません。隠れる事もしません。私は中川菜々であり、優木せつ菜というスクールアイドルです。こんな私を、もう一度――――――――」

かすみ「仲間と認めないなんて事はないですよ? だって、かすみんやしお子が帰ってきたんですから」

せつ菜「こういうのは最後まで言わせて欲しいのですが」

しずく「残念ながら灰にまみれた王国に墜ちた私たちは」

璃奈「璃奈ちゃんボード『アウトロー』」

エマ「うん、だから、ね? ランジュちゃんも」

ランジュ「……い、いいの。その」

エマ「二人って、副会長さん言ってた。だからもう、わかってたよ」

しずく「ランジュさん、私がスクールアイドル部にいった時、待ってたって言ってくれたじゃないですか」

しずく「今度は私が言う番ですね♪」

ランジュ「……最初から皆には完敗してたわ。でも」

せつ菜「ええ、これからですよ」キリッ

かすみ「なのでしばらくエマ先輩と部室お願いしますね、せつ菜先輩、ランジュ先輩」

璃奈「実は璃奈ちゃん達一年生一同、明日から停学三日」

せつ菜「は?」

栞子「後をよろしくお願いします先輩方…ひとまず今日のライブ映像をアップしなくては」
58 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/03(日) 21:06:18.39 ID:KePSmcs10
俗称ザップランド部室棟 スクールアイドル同好会部室

ランジュ「寒い! 狭い! 暗い! 臭い!」

せつ菜「どうあがいても絶望!」

かすみ「壁薄いんでお静かに」しーっ

璃奈「やはり七人もいるとめちゃ狭い」

エマ「少しはあったかくなるよね」

しずく「まあ、そうですけどロッカーすらないですからね…机も一つじゃ鞄置きも足りないですね」

ランジュ「こういう時こそブラックカードでも投入してやりたい気分だわ」

せつ菜「おお、ブラックカード。まずはストーブは必要」

ランジュ「電源もいるわね。あ、後は音源機材…」

ランジュ「ミアがいれば……」落ち込み

かすみ「そういえば、ミア子どうしたんです?」

ランジュ「……あの日以来、音信不通。完全に愛想尽かされた……」じわぁ

かすみ「あちゃー……」

璃奈「璃奈ちゃんボード『チッ、使えねーな』」

ランジュ「うぐっ!?」メンタルダメージ

せつ菜「こら、璃奈さん」

エマ「あ……見て、動画にコメントが!」

コメント1『虹ヶ咲学園にスクールアイドルが帰ってきた!』

コメント2『久々にライブ用璃奈ちゃんボード見た、やっぱサイコー』

ギャラクシーカリスマ『久しぶりに姿を見ましたが、五人ではやはり寂しい…と申し上げたいのですが、私たちと同じ人数でも圧倒されました。お見事です、またお会いしましょう』

かすみ「ふふっ、Liella!の皆よ、残念だ。もう七人ですよっと」

ピコン

しずく「あ…」
59 : ◆3m7fPOKMbo [saga]:2021/01/03(日) 21:07:16.85 ID:KePSmcs10
ラブアローシューター『やはり心躍るステージは色々な形があります。もう一度あなた達は立ち上がれた。だから、前に進むだけです』

スターリースカイキャット『あなた達を、応援してる人は』

わしわしMAXおうどんさん『ここにおるで!』

スターリースカイキャット『だから、大丈夫。いつでも、応援してるよ。友達だからにゃ』

しずく「あ、ああ……!」ポロポロ

栞子「はい…」ポロポロ

ピコン

キャプテンヨーソロー『あなた達はまた、灯し火を打ち上げた。だから、大丈夫。内浦から、応援してるね』

沼津の堕天使『十字架を背負っても、飛ばなければいけない時がある。あなた達の空の王国での活躍の、背中を押し続けるわ』

桜百合ピアニスト『そう、手を差し伸べる友達が、ここにいる。だから、安心して羽ばたいて、虹が架かる空へ!』

かすみ「…うぅっ…」ポロポロ

璃奈「ふぇぇっ…ありがとう…ありがとう…!」ポロポロ

エマ(私たちは、孤独じゃない)

エマ(狭い部室の中で、応援してくれる声を見ながら、思わず泣いてしまった。悲しい涙じゃないから)

エマ(泣いていいよね)

3/了
60 : ◆3m7fPOKMbo [saga]:2021/01/07(木) 22:29:23.77 ID:dUOIXxIj0
3.5/それがぼくのひかり


千歌(あの日の夜、友達を見捨ててしまった罰なのだろうか、と今でも思う事がある)

千歌(その翌日のあの日から、穂乃果ちゃんからは何の連絡もなく、私もその連絡を入れる事が出来なかった)

千歌(そして、愛ちゃんにメッセージを送ろうにも、当たり障りもないLINEしか送れなくて、愛ちゃんもまたそれに既読をつけるペースは、とても遅くて、返事はない)

千歌(虹ヶ咲学園で起こった事、遠い、東京の学校で起こった事。にこさんは私の背中で涙ながらに私に背負わせる重みじゃなかった、と泣いて、海未ちゃんも私に「あなたも曜たちも間違ってない」と言ってくれた)

千歌(だが、それでも。あの日私は、行くべきだったのだ。廃浦の星女学院に影響が及ぶかも知れない、火の粉が飛ぶかも知れない、学校を守る必要がある、という鞠莉さんの正論を理解しても、それでも、友達として駆け付けるべきだった)

千歌(内浦から遠く離れたお台場に住む彼女が、私たちが出会ってから一年も経たないうちに何度沼津に足を運んで、どれだけの手を貸してくれただろうか?)

千歌(それはスクールアイドルというものが心から大好きになっていたから、せつ菜ちゃんの言葉を借りるならばそうだろう)

千歌(そんな彼女が、私たちのステージまでまとめて滅茶苦茶にしてでも、壊してしまいたい程の憎悪と狂気を抱いてしまうまでに、なるなんて、誰が思ったか)

千歌(誰も思えないだろう、そんな事―――――――冷たい風が吹く、暗い海を見つめながら、そう思っていた)

千歌(悪意の海に、沈んでいった彼女は、今、どうしているのだろう。鞠莉ちゃんが言うには、命を狙われてしまい、隠す場所を転々としている有様だという。腰を落ち着ける事も、出来ないのか)

千歌(それだけ、彼女が私たちという絆を繋いでいた事か。彼女と知り合う前から、紡ぎ出していたμ’sとAqoursの絆にすらもそれが届いていたのだ。果南ちゃんは、それでも私たちは彼女たちの友達だと言った。けど、花丸ちゃんは確かに答えている)

花丸『おら達は巻き込まれただけずら』

千歌(そう割り切る事は出来る、だけど、それでも…)

千歌(私はあの日、友達を見捨てた結果、いくつもの何かを失った気がする)

千歌(穂乃果ちゃんとの友情か、あの子の心か、或いは仲間たちの団結、もしくは…)
61 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/07(木) 22:30:20.16 ID:dUOIXxIj0
千歌(頭がグルグル回りそうだった)

千歌「あ…」

千歌(スマホを弄り回し続けていたせいか、間違ってLINE電話のボタンを押した相手は)

千歌「り、凛ちゃん…」

凛『千歌さん?』

千歌「ご、ごめんね…急に、間違って」

凛『うん、いいんだよ』

千歌(凛ちゃんの、こういう所が優しくて、胸にしみる)

千歌「凛ちゃん、あの、さ…穂乃果ちゃん、どうしてるかな……」

凛『…元気がないかな。あの子の事でね。でも……』

凛『やっぱり虹ヶ咲の皆に、怒ってるんだと思うかにゃ』

千歌「そっか…」

千歌「あのね」

凛『うん』

千歌「私は、凛ちゃんみたいに優しくなりきれなかった」

千歌「あの時も、今も…虹ヶ咲の皆に寄り添えなかった。だから、あんな選択肢をしてしまったし、穂乃果ちゃんも傷付けちゃった」

凛『うん……穂乃果ちゃんも、頑固だから。にこちゃんに怒られたくなくて、愛ちゃんの事黙ってたんだと思う』

千歌「だよ、ね……」

凛『……あの子、今どうしてるかな?』

千歌「鞠莉ちゃんからは、色んな場所を転々としてるとしか…私も、知らないんだ」

凛『そっか。また、会えるといいね…』

千歌「うん……」

千歌「じゃあ、またね」

凛『うん、またね。千歌さん』
62 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/07(木) 22:31:22.73 ID:dUOIXxIj0
浦女 生徒会室

千歌(凛ちゃんと電話した次の日、その日は色々な理由があってか練習も休み。仕事がたまりつつあったダイヤさんの手伝いをしていた)

千歌(なんてことはない、どこか私は練習をしない理由を探していたのかも知れない。凛ちゃんと話しても、どこか霧は晴れない。凪のように、風が吹かないがら吹き飛ばない)

ダイヤ「少し、休憩しましょうか」

千歌「そう、だね……ダイヤさん」

ダイヤ「風、強いですね」

千歌「そうだね……」

ダイヤ「東京の方は、荒れるかも知れませんね」

ダイヤ「…………」

ダイヤ「千歌さん……虹ヶ咲の人たちとは」

千歌「……特に、今は、何も。ああいや…愛ちゃんに…当たり障りのない、文面しか。でも…既読がつくペースも、遅くて」

ダイヤ「……」

千歌「昨日…μ’sの、凛ちゃんに、間違って電話をかけて。それで、少し」

ダイヤ「そう、ですか」

千歌「あの日……鞠莉ちゃんの言葉が正しいって解ってても、行くべきだったって…今でも、思う。それなら、あの子も、皆も…いや、せめて皆に寄り添う事が出来れば……」

ダイヤ「音ノ木坂に行った夜……鞠莉さんや果南さんみたいに、私も怒鳴り散らしたかったのです。あんな事に手を貸してしまったかすみさんに、黙って眺めていた彼方さんに、原因であったランジュさんに鞠莉さんのようにビンタの一つでもかましてやりたかったですし、栞子さんに言い訳をしているだけだと果南さん同様に責めてやりたかったです、でも……」

ダイヤ「凛さんの言うように……最悪の事態だけは、彼女たちは防いでくれた。だから、責めるべきではなかった、とも考えてしまいます」

ダイヤ「もう、起こってしまったことですが…」
63 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/07(木) 22:32:16.72 ID:dUOIXxIj0
千歌「ダイヤさん……」

ダイヤ「あの子が、何回沼津に来てくれたかしら。果南さんの為、時にはルビィの為、或いは私たちの為にも…」

ダイヤ「それだけ動くあの子だったからこそ、あんな酷い事をしようとしてしまったのも知れません」

ダイヤ「けど…それは……本当の理由は、あの子にしか分からない」

千歌「選択を間違えてしまったのは、千歌たちもだって、思ってる…本当に」

ダイヤ「……ええ」

ダイヤ「あの子がせめて、目覚めてくれれば…何かを聞けるかも知れない。そうすれば、穂乃果さんにだって」

千歌(そういえば、ダイヤさんや果南ちゃんだけは鞠莉ちゃんに教えてもらったと聞く。今の彼女が、どうなっているだろうか――――――凛ちゃんの為にも、聞くべきか迷った)

ダイヤ「そういえば……善子さんが、あの子が使っていたという催眠術?に関するホームページを調べているそうですわよ」

千歌「善子ちゃんが…」

ダイヤ「ええ。ただ、あまりに得体の知れない情報やおぞましいものも多くて芳しくはない、と嘆いておりましたが。梨子さんや曜さんも手助けをしているようで」

千歌「そっか…だから、最近、梨子ちゃん沼津の町に…」

ダイヤ「ああ、もうこんな時間……そろそろ、帰らないと」

千歌「そうですね…太陽が出てないと、時間がわかりづらいや…」
64 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/07(木) 22:33:17.18 ID:dUOIXxIj0
ミア(ランジュを見限ったその日は、新しいボクの始まりになる日だった)

ミア(音楽がボクを見捨てる事なんかないよ、と言って笑いかけてくれた彼女が、姿を消したその日。ボクの光は、また消え去った)

ミア(その時に、世界から音楽が消えてしまった――――――――彼女が隣で声をかけてくれない、彼女が隣でボクを見ていてくれない、そんな世界は、壊れてしまった世界だ)

ミア(そして今彼女の世界が壊れてしまった原因の中に、ボクがいた)

ミア(その事に気付いてしまった夜はステーキナイフを喉元に突き付けて力を込めて押そうとしても)

ミア(ステーキナイフは1インチも喉に刺さる事はなくて、後から後から涙と鳴き声だけが溢れて。ただただ寂しさと悲しさと壊れてしまった世界のむなしさ、そして大切にしたかった人の世界を壊してしまった一人に自分がいるという罪悪感に押し潰されそうになって)

ミア(睡眠導入剤のお世話になって無理やり眠ったボクは、しばらくこの場所にとどまる事にした)

ミア(ランジュの我が儘に付き合う必要はない、だからニューヨークの家に帰っても良かったけれど、それは出来なかった。ボクから音楽が消えてしまったから。なら、その音楽をもう一度奏でるしかない)

ミア(彼女の為だけに奏でる事が出来れば、きっと戻る。だから探す事にした)

ミア(二週間ほど経って、色々なコネを使い、彼女が入院している場所らしき闇病院に向かった)

ミア(だがそこはもぬけの殻どころか、他にもお客さんがいた。コネを持つ人たちがいなければ危なかったが、お客さんたちはどうやら彼女を守る為にいたらしい。どうにか金やら話やらで宥めすかしても行き先を彼らも知らなかった)

ミア(だが、代わりに大事な事を教えてくれた。彼女が転々としているのは狙われているから――――――それは、ランジュの母親を香港に送り返し、虹ヶ咲学園に我が物顔で押し入ってきた奴らの手先)

ミア(それを聞いた時に、思わずボクははっとした)

ミア(彼女が大好きな場所、それこそがあの学園だった。あの学園を守る為にランジュと戦う決意をして、その為にボクを誘おうとした。でも―――――――あの心の奥底からボクを天才だと認めながらも、その才能を潰しちゃだめだと労わる気持ちそのものは、他の何者でもない、ボクだけにかけてくれたもの)

ミア(その時にボクは決意した。休学届を叩き付けて、彼女を探す事だけに集中した。愛や果林といったかけがえのない、彼女の友人たちの為にも)
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