【スクスタSS】あなた「灯台守」

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1 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:19:34.86 ID:4ITMBpJ60
前作
あなた「空の女王」109レス目より派生
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1606638949

*留意事項:前作の時点でそうでしたが、エースコンバット7スカイズ・アンノウンのネタが多数にぶっこまれております。
*Liella!メンバーが結構出てきますが口調とか割と想像で書いてるのは見逃して
*アニガサキにおるやんけっぽい人がいてもスクスタ時空なのです

1/火の消えた灯台

歩夢「届いて…届いてよ…!」

かすみ「先輩……聞こえますか…先輩…」

しずく「こっちを見てください! 先輩…!」

愛「ダメだよ、帰ってきて……ダメだよぉ……」

果林「もう離さないからっ…お願い、お姉さんの方へ…ね?」

栞子「もう、あなたを一人にはしませんっ…だから……!」

せつ菜「聞こえてますか…この声が…届いて…」

エマ「あなたはそこにいていい人じゃない、そこにいては…!」

璃奈「諦めないよ、何度だって呼びかける…だから届いて…!」

彼方「それは自分が生み出した幻だよ、存在しないもの、だから…!」

ランジュ「私の事をずっと嫌いだって思ってても構わない、だけど、あなたは皆に必要な人なの! だから!」

歩夢「そんな…なんで…」

歩夢「う…うわぁぁぁぁぁぁぁ…!!!」

せつ菜(彼女は、自ら生み出してしまった悪意の海に飲み込まれて、そしてそのまま沈んでいった。私たちの呼びかけも空しく、光を失った瞳しか残らなかった)

せつ菜(泣き崩れながら彼女を抱きしめる歩夢さんにも、彼女の光を無くした瞳は動くことなく、彼女は、人を壊そうとしたもので自らの心を壊してしまったのだ)

せつ菜(愛さんやかすみさんのように歩夢さん同様に泣き崩れるもの)

せつ菜(果林さんや彼方さんのように俯いて必死に涙をこらえるもの)

せつ菜(エマさんやしずくさん、璃奈さんのようにそれでもあきらめずに彼女に呼びかけ続けるもの)

せつ菜(言葉を失い、放心するしかなかった栞子さんやランジュさん)

せつ菜(そして私はどうしたのか覚えていなかった、だけどこの日)

せつ菜(私たちは、大切な人の心を、失ってしまった)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1609557574
2 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:20:42.22 ID:4ITMBpJ60

音ノ木坂学院 部室

穂乃果「話して、くれるよね?」

せつ菜(その次の日の放課後。音ノ木坂学院に来るように言われた私たちに、μ’sとAqoursメンバーの視線が突き刺さった。私たちは、どう説明するかも、思いついていなかった)

かすみ「はい…」

せつ菜(かすみさんは、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した)

せつ菜(彼女による虹ヶ咲学園救済計画と、それに手を貸した事。そしてそれがうまくいくはずもない事に気づいていた事、彼女の手によってランジュが改心していたから、それ以上何かをする必要性がなくなっていた事、合同ライブを彼女が押していた理由はランジュを壊す事にあったこと)

せつ菜(その、全てを話した。そして、その末路についても)

にこ「…そう」

にこ「とんだ、大バカだわ」

せつ菜(にこさんは顔を覆い、そしてそれ以上口を開こうとしなかった)

せつ菜(怒鳴る事もせず、ただ無言で、手で顔を覆ったまま部長の席に力なく座りこんだ。その手の隙間から雫が漏れていても、嗚咽を挙げる事だけはしなかったのは、彼女の精一杯のプライドだったのだろう)

せつ菜(にこさんにとって、彼女はいわば盟友だと思っていた存在だった。そんな彼女がもう少しで自分たちのステージをも壊そうとしていた狂気に墜ちてしまった。その最悪の事態こそ避けられたが、その代償の大きさは堪えたのだろう)

せつ菜(だが……私たちは、突き付けられた)

穂乃果「……そうなんだ…それで」

せつ菜(穂乃果さんが口を開いたのはそんな時だった。ぞっとするほど、冷たい声で)

海未「穂乃果?」

穂乃果「あの子の悪い気持ちもろとも自分自身を壊してしまいました、めでたしめでたし。冗談じゃない!!!」

穂乃果「かすみちゃんが止めていれば気づけた、彼方ちゃんが一声挟んでいれば気づけた、愛ちゃんや果林ちゃんがもっと踏み込んでいれば止められた、何より! 誰かが! もう少しでも踏み込んでいれば!」

穂乃果「私たちの友達は……自分の心を焼き尽くすまでに壊れちゃう事なんてなかった!」

穂乃果「君たちのせいだよ!? わかってるの!?」

せつ菜(涙をこぼしながら怒りに震える穂乃果さんは、私たちを恨みを込めた眼で見ていた)
3 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:21:09.64 ID:4ITMBpJ60

音ノ木坂学院 部室

穂乃果「話して、くれるよね?」

せつ菜(その次の日の放課後。音ノ木坂学院に来るように言われた私たちに、μ’sとAqoursメンバーの視線が突き刺さった。私たちは、どう説明するかも、思いついていなかった)

かすみ「はい…」

せつ菜(かすみさんは、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した)

せつ菜(彼女による虹ヶ咲学園救済計画と、それに手を貸した事。そしてそれがうまくいくはずもない事に気づいていた事、彼女の手によってランジュが改心していたから、それ以上何かをする必要性がなくなっていた事、合同ライブを彼女が押していた理由はランジュを壊す事にあったこと)

せつ菜(その、全てを話した。そして、その末路についても)

にこ「…そう」

にこ「とんだ、大バカだわ」

せつ菜(にこさんは顔を覆い、そしてそれ以上口を開こうとしなかった)

せつ菜(怒鳴る事もせず、ただ無言で、手で顔を覆ったまま部長の席に力なく座りこんだ。その手の隙間から雫が漏れていても、嗚咽を挙げる事だけはしなかったのは、彼女の精一杯のプライドだったのだろう)

せつ菜(にこさんにとって、彼女はいわば盟友だと思っていた存在だった。そんな彼女がもう少しで自分たちのステージをも壊そうとしていた狂気に墜ちてしまった。その最悪の事態こそ避けられたが、その代償の大きさは堪えたのだろう)

せつ菜(だが……私たちは、突き付けられた)

穂乃果「……そうなんだ…それで」

せつ菜(穂乃果さんが口を開いたのはそんな時だった。ぞっとするほど、冷たい声で)

海未「穂乃果?」

穂乃果「あの子の悪い気持ちもろとも自分自身を壊してしまいました、めでたしめでたし。冗談じゃない!!!」

穂乃果「かすみちゃんが止めていれば気づけた、彼方ちゃんが一声挟んでいれば気づけた、愛ちゃんや果林ちゃんがもっと踏み込んでいれば止められた、何より! 誰かが! もう少しでも踏み込んでいれば!」

穂乃果「私たちの友達は……自分の心を焼き尽くすまでに壊れちゃう事なんてなかった!」

穂乃果「君たちのせいだよ!? わかってるの!?」

せつ菜(涙をこぼしながら怒りに震える穂乃果さんは、私たちを恨みを込めた眼で見ていた)
4 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:22:09.90 ID:4ITMBpJ60
花陽「…かすみちゃん」

花陽「心の奥底から、かすみちゃんを軽蔑するよ」

せつ菜(次は、花陽さんの静かな怒りが、部屋を支配した)

花陽「間違っていると分かっていても、止められなかった。確かに、かすみちゃん一人なら。でも」

花陽「だけどその時に、話を終えたら電話をかける事も出来たんじゃないかなぁ?」

花陽「璃奈ちゃんとか」

花陽「エマさんでも」

花陽「絵里ちゃんでも」

花陽「千歌さんでもいいね。誰にでも、電話の一つでもLINEでも良かったね。『先輩がこんな事言ってます、かすみん手を貸すように頼まれましたけどどうしましょう?』ってね」

かすみ「……」

千歌「花陽ちゃん…」

梨子「千歌ちゃん」

せつ菜(何かを言いかけた千歌さんを梨子さんが止めて、花陽さんは続ける)

花陽「それでもかすみちゃんはそうしなかった。手を貸した。それぐらい、ランジュさんの事を怒ってた。でもその為にしずくちゃんや栞子ちゃんを傷つけた。梨子さんだって心配させた。その挙句、自分の良心に耐え切れないからあの子を止めようとして、で、御覧の有様」

花陽「本っっっっっっ当に、心の奥底から軽蔑するよ。もしかしたら、かすみちゃんが何もしなければ。こんな事にはならなかったんじゃない? 最悪の事態は避けられたね、だけど」

花陽「ランジュさんにスクールアイドルじゃないなんて言える資格、ないよ? かすみちゃん。ただの、カスでしかないよ」

かすみ「…………」俯き

花陽「彼方さんも」

花陽「卑怯だよね、とっても。見てただけ。最初から知ってた。あの子に向き合えないなら、なんでかすみちゃんに声をかけなかったの? そうすればかすみちゃんだって一人じゃなかったのにね」

花陽「それでいて、皆に言われて初めて『怖くて見てるだけしかなかった』だけど止めよう。そしてこの有様。あーあ、あの子は彼方さんも含めて、皆が大切で」

花陽「苦しい辛い悲しいって、散々に追い詰められて、それであんな事に手を染めたら。怖くて向き合えないなんて距離を置かれちゃった。いっちばん卑怯だよ。当事者意識ってものが何も感じられないよね、信じられない」

花陽「そんな人がどうこう言える? そんなに眺めていたいんなら、観客席に永遠に座ってればいいよ。そうしてれば目の前の悲劇に怯えて怖がってればいいんだけだもんね」

花陽「あの子が可哀相だよ。間違ってるって思ってても、後輩は止めてくれない。先輩はぼんやり眺めてるだけ。傍にいる同級生は助けを求めてるから弱音を吐けない」

花陽「彼方さん、恥ってものあるの?」
5 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:23:34.60 ID:4ITMBpJ60
せつ菜(だが…それだけではなかった)

バシィッ!

ランジュ「……」俯き

鞠莉「……人を壊した気分はどう?」

せつ菜(鞠莉さんが、冷たい声を出していた。だが、その中で穂乃果さん同様の怒りを見せていた)

鞠莉「どうって聞いてるの!」

果南「鞠莉」

鞠莉「…ごめん。けど、正直。それぐらい怒ってる。あの子は…」

鞠莉「虹ヶ咲学園だけじゃない、色んな人にとって大切な…スクールアイドルフェスティバルだって…」

鞠莉「果林、愛、栞子、しずくも」

鞠莉「あなた達が軽率な事をしなければ、もう少しマシだったかも知れない。けど、後の祭り」

鞠莉「かすみが手を貸さなかったら、彼方が傍観しなかったら、せつ菜も、璃奈も、エマも…歩夢も。もう少しあの子に寄り添う事が出来れば」

鞠莉「こんなことにはならなかった。にこっちの言う通り、あの子に頼り過ぎてた。だからこうなったのよ。お陰で…お陰で…」

鞠莉「私たちにとっても…大事な人を失ったのよ…!」

鞠莉「返してよ……!」ガシッ

果南「鞠莉!」

鞠莉「返してよ! 返してよぉ……!」

鞠莉「あの子は……大事な人なのよぉっ……なんでこんな事に…!!!」

鞠莉「あんなひどい事をしようとしていた? 違う、そんな事を決意させるまで傷つけてしまった、傷つけられてしまった! 狂い果ててしまった! そうしたのはあなた達でしょう!? なんでなのよぉ…どうしてぇ…どうしてぇっ!」

果南「もうやめて、鞠莉!」

千歌「鞠莉さん、落ち着いて!」

曜「鞠莉さん!」

鞠莉「なんで…なんでぇ……」ボロボロ
6 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:24:44.68 ID:4ITMBpJ60
栞子「……すみません」

せつ菜(絞りだすように、鞠莉さんの前で頭を下げた三船さん)

栞子「私が…頼り過ぎてしまったんです…私が、ランジュの事で、部長に甘えて…それで、こんな事に…」

栞子「本当に……」

せつ菜(その時だった)

バシャァッ

栞子「あ……」ビチャビチャ

海未「ことり!」

ことり「今更甘えてましたごめんなさいって言われてもねぇ」空ペットボトル握り潰し

ことり「だって栞子ちゃんは、あの子が留学から帰ってくる前から真っ先に部に行ったでしょ?」

ことり「同好会に加わってから本当に大した時間もない間に、ね?」

ことり「散々あれだけ甘えて甘えてぜーんぶぜんぶあの子に背負わせちゃって。そもそも同好会に来る前からもそうしてたし」

栞子「……はい」

ことり「自分で卑怯だって思わないの?」

ことり「いくら先輩だから、いくら部長だから」

ことり「二か月だよ。二か月の時間だよ。きっとそれだけの時間を栞子ちゃんも含めた皆の為に色々色々色々頑張って頑張って頑張って」

ことり「それでやっと会えたらこの有様で、そんなあの子に対して何とかしてほしいって泣きついて」

ことり「それでいて自分は自分でランジュさんを注意する事もしない、部に来た他の子たちにも何も言わない」

ことり「花陽ちゃんには悪いけど、かすみちゃんはかすみちゃんなりに問題に向き合ってたよ?」

ことり「彼方さんはかすみちゃんに声をかけるのが良かったんじゃないかな。けどね、栞子ちゃんもだけど他の皆も」

ことり「ずいぶんずいぶんずーいぶん虫の良い事を考えててお陰でこれだもんねぇ」

ことり「そりゃあ穂乃果ちゃんも怒るよ。鞠莉さんだって悲しいよ」

ことり「少なくともことりは皆にものすっっっっっごく腹立ってるよ」
7 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:26:07.77 ID:4ITMBpJ60
栞子「申し訳…」

果南「悪いけど、黙ってくれないかな」

栞子「……」俯き

果南「……今、拳を抑えるのに大変なんだよね」

果南「年下も含めて手を上げるなんて最低だって解ってるけど…」

果南「今すぐあなた達全員殴り倒したくて堪らないんだよ…!」

果南「……それとさ」

果南「なんでかすみ以外誰もしゃべらないの? 栞子以外頭下げた人いないの?」

せつ菜(怒りを必死に抑えるように、途切れ途切れながらも、果南さんはしっかりと私たちを見ていた)

果南「あの子が悪い事をしようとしていたのは認めるよ。それを企んだあの子が悪い、それは否定しない」

果南「だけどさ、そうなった原因君たち皆じゃん」

果南「…それなのにさ…なんで皆それぞれ、自分がこう悪かったとかも言わないのさ」

果南「栞子だけが頭下げてて、かすみだけが私たちに説明して」

果南「μ’sの皆にはすぐに相談して散々お世話になっておきながらさ、挙句これだよ? 部長が悪い事企んでのを見つけました、止めます。できませんでした。部長は廃人になりました」

果南「……ふざけてんの!? あんた達!?」

果南「あの子があんた達の為にどれだけ駆けずり回ったのさ!? それどころじゃない、μ’sや私たちの事も心配して、色々やってくれて、それでパワーアップの為に二か月留学してくるって言って」

果南「あの子をお帰りなさいって迎えるまでもなく同好会はバラバラでした、お願いしますって泣きついたらそりゃおかしくなるよ! 仮に私でもそうだ!!!」

果南「そうだよ、確かに、そんな悪い事企んだのはあの子自身だよ。だけど、そうなったのはあなた達に頼れなかったからだよ。私たちを巻き込んだのも、それだけ追い詰められておかしくなってたからそんな事もやろうとしたんだよ。正気だったら間違いなくそんな事しない!」

果南「あなた達、頼りなかったんだよ。色々ぶつけられるほど、強くないって思われてた」

果南「それでよく、あの子の仲間を名乗れるもんだよ」

果南「他の誰が言おうと」

果南「あの子は私たちの友達だって言える。でも、あなた達はそうなの? 今、そうだって言える? 胸張って言える?」

果南「…そうだね、言える人がいなくていいよ」

果南「いたら全力で殴り倒してるよ…!」
8 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:27:57.85 ID:4ITMBpJ60
せつ菜(それ以上に、怖かったのは)

ルビィ「……なんで、そんな顔してるの」

せつ菜(嗚咽を漏らす鞠莉さんの隣で、冷たい目線をこちらに向け続けていた、ルビィさんだ)

ルビィ「歩夢さん」

せつ菜(ルビィさんの問いかけに、歩夢さんは答えない)

ルビィ「なんでも知ってるんじゃなかったの?」

ルビィ「果南さんが聞いた時に、なんで名乗り出なかったの? あなたはそうするべき人じゃないの?」

ダイヤ「ルビィ…やめなさい」

ルビィ「もっと踏み込めば、もっと早く気付けるはずじゃなかった? 最悪の事態は避けられた、そうだね。ルビィや穂乃果さんたちのステージが滅茶苦茶にならずに済んだよ」

ルビィ「でも、先輩の心は引き裂けた。引き裂いちゃった。自分の手でバーラバラ。ううん。そこまでにしちゃったのってだぁれ?」

ダイヤ「ルビィ! やめなさい!」

ルビィ「やだよ! 歩夢さん達が悪いんだよ、頼り切ったせいで―――――」

ダイヤ「ルビィ!」

ルビィ「っ……!」

ダイヤ「それ以上はやめなさい…!」

せつ菜(肩で息をして歯を食いしばりながら怒りを隠そうとしないルビィさんを強い口調で止めたダイヤさんだが、続いたその声は震えていた)

穂乃果「……そうだよ、ルビィちゃんの言う通りだよ……」

穂乃果「わかってるの……あの子をそんな風にしたのは、君たちだよ」

愛「………うん」

せつ菜(沈黙を破ったのは、愛さんだった)

愛「穂乃果も……心配して、くれてた…けど」

穂乃果「けどもクソもない」

愛「……ごめん。でも、部長さ――――――――」

穂乃果「愛ちゃんも愛ちゃんだよ」
9 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:30:11.40 ID:4ITMBpJ60
穂乃果「肝心な時に傍に寄り添えないで、結局遠巻きにして見てた皆と一緒だよ! まだかすみちゃんの方が理解しようとしてたよ! まだ彼方ちゃんの方がわかってたよ!?」

穂乃果「それであの子の事を何がわかるっていうのさ、愛ちゃん!」

愛「……ごめん…」

穂乃果「同好会の皆を心配して穂乃果と話したかったのは分かる、けどさ。結局それでいて何もできてないじゃない」

海未「え……穂乃果、愛とその事を――――――」

千歌「穂乃果ちゃん…」

穂乃果「にこちゃんが正しかったよ。簡単に信じた穂乃果がバカだった。こっちにまで火の粉が飛んでいい迷惑だよ!」

穂乃果「愛ちゃんは人の事を心配する振りだけしてれば自分は楽しめばいいもんね。いいよねぇ、何も背負わなくていいって。だってそういうのをあの子が全部代わりにしてくれたんだもんさぁ? 少しは千歌ちゃんを見習ったらどうかな? ごめん、千歌ちゃんに迷惑だね」

穂乃果「愛ちゃんみたいなサイテーなのと一緒にしたら失礼だったよ」

海未「穂乃果……言葉が過ぎます。ルビィも…」

穂乃果「もう君たちの顔も見たくない」

海未「穂乃果!」

ガンッ!!!

穂乃果「聞こえなかったの!? 顔も見たくないって言ったよ!」

せつ菜(拳を机に叩きつけた、穂乃果さんの言葉に追われるように、私たちは部室を出るしかなかった)

せつ菜(閉じられた扉の向こうから、ルビィさんが堰を切ったように泣き始め、そしてその他にも何人か分の声が聞こえた。だけど、それが誰かまでは、私たちにはわからなかった)
10 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:31:16.51 ID:4ITMBpJ60

穂乃果「……っ!」ドカッ

穂乃果「なんで……こんな事に…あんな子たちだなんて思わなかった…!」

ルビィ「ひっく…ひっく…」

穂乃果「ルビィちゃん…」

千歌「……」

千歌「……昨日。曜ちゃんと善子ちゃんは、東京に行くべきだって言った」

曜「!」

善子「千歌…」

千歌「鞠莉さんはダメだって言った。確かに、虹ヶ咲学園で起こった事。それに、下手に飛び火したら浦の星女学院が大変になる……だから、千歌は。浦の星を守る為に、距離を置いた」

海未「千歌、それは間違っていません。もちろん、曜や善子が間違ってるとも言えません」

海未「誰が間違ってるだなんて、とても…」

千歌「学校を守る為に、友達を見捨てた」

海未「そんな事…!」

穂乃果「…何が言いたいの、千歌ちゃん」

千歌「……穂乃果ちゃんは、昨日、愛ちゃんから電話を掛けられた。穂乃果ちゃんが」

絵里「た、確かにそうね。同好会の子たちも部に行った子と連絡は殆ど取ってないのに、穂乃果は、なんで愛と?」

千歌「それも何度も話してたはずだよね、あの様子だと。なんで、絵里さんがそれを知らなかったの?」

穂乃果「にこちゃんが怒るからだよ」

千歌「海未ちゃんも知らなかったのに?」

穂乃果「……」

ルビィ「虹ヶ咲学園の子たちが悪いんだよ、不用意に部に行ったりして、みーんな頼りっぱなしで…!」

花丸「そうずらか?」

花丸「人を呪わば、穴二つ。ランジュさん自身は先輩を恨む事はなかった。けど、先輩はそうじゃなかった。だから呪いが跳ね返ってきた。自業自得ずら」

ガンっ!

ルビィ「花丸ちゃん…今、なんて?」

ルビィ「幾ら花丸ちゃんでも、聞き捨てならないよ…?」

花陽「ずいぶん上から目線だねぇ、花丸ちゃん? もう一回言ってくれない?」
11 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:32:32.34 ID:4ITMBpJ60
花丸「おら達は先輩が合同ライブの事をひたすら押して、それに巻き込まれただけ。お世話になった義理があるから、曜ちゃんや善子ちゃんが虹ヶ咲に助けに行きたいというのも理解できる。けど、千歌ちゃんや鞠莉さんがいうように、こっちにも守るべきものはあるずら」

ルビィ「花丸ちゃんには血も涙もないの!?」

花陽「そ、そうだよ! 凛ちゃん、何か言ってやってよ!」

凛「……かよちん。悪いけど、凛は千歌さんが正しいって思うかにゃ」

凛「凛ちゃん達は手を貸すことも手を貸さない事も、どっちの選択肢もあった。だから、虹ヶ咲の皆を責めることなんて凛ちゃん達には出来ない。友達として慰める事は出来てもね」

花陽「凛ちゃんっ! 私たちやルビィちゃん達のステージが滅茶苦茶になる所だったんだよ!?」

凛「でもそうならなかった。虹ヶ咲学園の皆のお陰でね」

穂乃果「だけど、あの子の心は壊された」

千歌「穂乃果ちゃん。虹ヶ咲学園の皆を糾弾できるの? 穂乃果ちゃんも、色々皆に喋るべきことがあったんじゃないの」

穂乃果「…うるさい」

千歌「穂乃果ちゃん」

穂乃果「うるさいって言ってるの! 離れてる千歌ちゃんや花丸ちゃんはいいよねぇ! 好きに言えるんだからさぁ!」

海未「ほ、穂乃果!」

千歌「…穂乃果ちゃん。失望したよ」

穂乃果「――――――――――!」

ルビィ「花丸ちゃん、もう一度言ってみてよ! 先輩が自分で壊しちゃったのは、どう転んでも!」

にこ「やめて…」

曜(驚くほど力のない、だがよく響く声が部屋の隅から響いた)

にこ「やめて…!」

曜(手で顔を覆ったまま、必死に溢れる感情を押し殺そうとしたにこさんの懸命の制止)

穂乃果・花陽・千歌・ルビィ・花丸「「「「「……!」」」」」

ダンッ

絵里「やめなさいって言ってるでしょ!?」

海未(絵里の怒声が響いた直後、にこが椅子から立ち上がりました)
12 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:33:56.65 ID:4ITMBpJ60
にこ「……外の空気、吸ってくる…」

スタスタ

にこ「千歌、ごめん」ボソッ

ガチャリ

千歌「……千歌も、ちょっと出てくる」

バタン

海未(それを切っ掛けに、他からも花を摘みに行く、喉が渇いた、等の理由で部室から離れて)

海未(気が付けば、穂乃果と、私と、ダイヤ、そしてまだ嗚咽を漏らす鞠莉と、それを落ち着かせようとしている果南が残っていました)

ダイヤ「……すみません。ルビィが、取り乱して…」

穂乃果「……いいよ、ルビィちゃん、あの子の事、信じてたものね」

ダイヤ「実は言うと、私も……歩夢さん達にとても怒ってます。しかし……」

ダイヤ「凛さんの言うように、寄り添うべきだったのかも知れません」

海未「……ダイヤ」

海未「本来は虹ヶ咲の皆が寄り添うべきでした、当事者ですから。しかし、練習場所の件で絡んでしまった以上、私たちも当事者です」

海未「ですのでダイヤ、そこまで」

穂乃果「海未ちゃん」

海未「……穂乃果。千歌も言っていましたが、なぜ黙ってたのです」

穂乃果「にこちゃんが怒るからだよ。けど」

穂乃果「そうしてた穂乃果がバカだったよ」

海未(そう吐き捨てるように呟いた穂乃果は、まだ震えていた)
13 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:35:12.39 ID:4ITMBpJ60
PiPiPi

鞠莉「私だわ…」

果南「鞠莉、出れる?」

鞠莉「大丈夫…」

鞠莉「Hi……え?」

鞠莉「……わかったわ。目くらましはすぐに用意する」

鞠莉「けど、それだとやはり調べられる。本当に安全な所に隠さないと…」

鞠莉「ええ、そうする。ひとまずこっちで隠しておく。チャオ」

鞠莉「…Fuck」

鞠莉「Fuck! Fuck! Fuck…Fuck!」

海未「どうしたのですか…」

鞠莉「汚い連中があの子にもう手出しをしようとしてやがった…! ごめん、私はすぐに戻るわ」

海未「なっ…!」

果南「鞠莉」

鞠莉「大丈夫。あの子は」

鞠莉「あんな事をしようとしても、あの子だけは私たちの大切な友達なのよ」
14 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:36:23.09 ID:4ITMBpJ60
自販機前

善子「………ホットミルクティーで、いいのよね? 絵里…」

絵里「え、ええ…スパシーバ、善子」

善子「まさか四回連続当たりが出るとは……」

凛「ごちそう様にゃ」

曜「だね…」

善子「こんな時だけ、運が良いってのも不幸なのかしらね」

梨子「善子ちゃんだからね……」

梨子「凛ちゃん」

凛「……なにかにゃ?」

梨子「ありがとう、あの時。千歌ちゃんが正しいって言ってくれて。昨日、私本当は曜ちゃんや善子ちゃんの言うように、東京に行くべきだって思ってた」

凛「千歌さんは悪くないんだよ。曜さんや善子ちゃんもね」

凛「問題はあの子たち自身が抱えた事。花丸ちゃんの言うように、確かにこっちにまで飛び火した事ではあるけれど、それでも凛たちも、曜さんたちも、虹ヶ咲の皆の友達。最悪の事態は避けられた、だからこそ、友達として寄り添う事は出来ても、糾弾なんて出来ないよ」

曜「……距離もある私たちと違って、μ’sの皆は練習場所とかで、助けてあげてた。私たちに、出来る事なんて」

絵里「そう思ってもらえるだけで十分よ。けど……」

絵里「穂乃果……なんであんな事を」

善子「にこがランジュの事で怒ってたんでしょ? だから穂乃果も穂乃果で大きくしたくなかったんだと思う」

絵里「合同ライブの事、穂乃果も穂乃果でポジティブに賛成してたから…けど」

梨子「そのまま私たちが賛成してたらきっと……本当に」

絵里「ええ……」

凛「だから、虹ヶ咲の皆がそれだけは止めてくれた」

曜「……虹ヶ咲の皆、どうなるんだろう。あんなに責められちゃ…」

善子「だけどもう一度、飛んでもらうしかない」

善子「その背中に十字架を背負ってでも」

善子「そうでなきゃ、本当に花陽の言う通り。スクールアイドルだなんて名乗る資格はないわ」
15 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:37:17.38 ID:4ITMBpJ60
音ノ木坂学院 屋上

千歌「……にこさん」

にこ「今…昨日のにこをすごく殴りたい気分」

にこ「曜や善子の言うように、昨日駆け付ければ良かったって」

千歌「にこさん……でも」

にこ「内浦からはだいぶ離れてても、音ノ木坂からならすぐに行けた。それに、にこは感情だけで『止められなければ絶交だ』なんて言ったわ。でも、千歌は…苦しんで、その決断をした」

にこ「そんな決断を、千歌にさせてしまった」

千歌「にこさん、千歌も……昨日の千歌にバカチカって言うべきだよ」

にこ「でも、花丸の言う通りよ。友情を選ぶのも大事だけど、学校を守る必要もあった。だから、間違ってたのはにこよ。鞠莉にそういうのを任せて、にこが行けばよかった」

にこ「穂乃果の事だってそうよ。愛の事、黙ってたのはにこがランジュの事で感情のままに怒鳴ったせいだった」

千歌「けど、μ’sの皆は虹ヶ咲の皆と練習する形で、助けた」

千歌「それでも昨日、私たちは見捨ててしまった……だから、凛ちゃんの言う通り。責める事なんて出来ないよ」

にこ「…そうよ、責める事なんて…できない…」

にこ「……にこは、お姉さんで、部長なんだから…」じわっ

千歌「千歌は末っ子だけど、部長なのだ。だから…にこさん」

千歌「私の背中で、好きなだけ泣いていいですよ…千歌も、泣いてる顔、見られたくないから」

にこ「…ごめん」ぎゅっ

にこ「うっ……うぅっ……うわああああああああああああああああぁぁぁぁん!!!!!」

にこ「どうしてあんなバカな事をぉっ…なんで言わなかったのよ、せめて…せめて弱音の一つでも…うぅあああああ…!」

千歌「っ…っくぅっ…!」ポロポロ

にこ「バカぁっ……大バカぁっ…! うわああ……!」

千歌(私の背中で泣きじゃくるにこさんのように、私の頬も濡れていった)

千歌(彼女が紡いだ私たちの絆、だが彼女自身が切っ掛けで、それは滅茶苦茶になった)

千歌(どちらの選択肢もあったのは事実だ、だが、その選択肢を間違えてしまったのは)

千歌(千歌たちも、だ――――)
16 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:38:26.36 ID:4ITMBpJ60
穂乃果『愛ちゃんは人の事を心配する振りだけしてれば自分は楽しめばいいもんね』

穂乃果『いいよねぇ、何も背負わなくていいって。だってそういうのをあの子が全部代わりにしてくれたんだもんさぁ?』

果南『あなた達、頼りなかったんだよ。色々ぶつけられるほど、強くないって思われてた』

果南『あの子は私たちの友達だって言える。でも、あなた達はそうなの? 今、そうだって言える? 胸張って言える?』

ルビィ『でも、先輩の心は引き裂けた。引き裂いちゃった。自分の手でバーラバラ。ううん。そこまでにしちゃったのってだぁれ?』

愛「……言ってくれなかった…」

愛「部長さん…だって、愛さん達にも……穂乃果たちにだって……」

愛「ううん、違うんだ……」

愛「愛さん達のせいだよ……突き落としちゃったんだよ…そんなになるまで…」

愛(自室のベッドで、顔に枕を突っ込んでも。その言葉が消えない)

愛(かすみんだけに、全てをしゃべらせてしまった。しおってぃーだけに、罪悪感を押し付ける形だった)

愛「穂乃果だって、あんなに心配してくれたのに」

愛「裏切っちゃった……私たち、が」

愛「ごめんね……ごめんね……」

愛「部長さん…なんで、あんな事しちゃったの……?」

愛「私たちが悪かったよ、幾らでもごめんっていうから…」

愛「会いたいよ…また声を聴きたいよ…!」

愛「色々話して、色々笑ってほしくて……」

愛「うぁぁぁぁぁ……!」ボロボロ

愛(何度後悔しても、きっと何度眠っても)

愛(もう元に戻る事はない、そうして)

愛(私の世界から、色は枯れ果て、総てが灰色になった)

愛(楽しいの天才?)

愛(バカじゃないか、私は―――――――破壊のトリガーを引いただけじゃないか)

愛(踏みとどまっていた部長さんを、空の王国から突き落とした、張本人だ)
17 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:39:09.34 ID:4ITMBpJ60
せつ菜(学園は変わった)

せつ菜(彼女はランジュを何とかする為に色々な工作をしていたが、そのうちの一つが裏目に出た、いや、きっと彼女もこうなるとは気づいていなかったのだろう)

せつ菜(別の資本に買収され、理事長であったランジュの母親は理事長を解任されて上層部が変わると、学園の空気もまるっと変わった)

せつ菜(勉学も部活も、それ以外の課外活動も成果が求められる成果至上主義―――伸びしろも、聖かもないものには見向きもされなくなった。虹ヶ咲学園の、自主性は摘み取られた)

せつ菜(虹が架かる王国はその色彩を失い、鳥たちは灰が降る大地から飛び立つことも出来ず、死を待つばかりになった)

せつ菜(追いかける灯し火を失った鳥たちは、空を飛ぶことができない。ただ、灯し火を待って灰に覆われていくだけ)

せつ菜(スクールアイドル同好会も、成果が求められた)

せつ菜(だが、導を失った私たちは何もできなかった。それに、ランジュの母親の息がかかっているとして栞子さんは生徒会長を更迭された。かすみさんの暴動騒ぎもあった為か、私が再任された)

せつ菜(私の精一杯の抵抗、それは生徒会役員を自分で選ぶ事で、ランジュさんを役員に入れる事だった。それからでも、日々生徒から上がる声は絶望的なものだった)

せつ菜(彼女はやり過ぎた。やりすぎたのだ)

せつ菜(そして、スクールアイドル同好会のみならず、彼女は虹ヶ咲学園の中でもあまりに大きな存在になってしまっていたのだ)

せつ菜(栞子さんやランジュさんの事は、学校中の部活を既に巻き込んでいたし、何より買収した企業群の子女であるBIG4の人たちもランジュさんの行為を苦々しく思っていたせいだった。そこを汚い大人である彼女たちの親に付け込まれたのだ。彼女たちも今やすっかり小さくなってしまった)

せつ菜(スクールアイドル同好会の部室には、エマさんと璃奈さん、しずくさんぐらいしか顔を出さない)

せつ菜(歩夢さんが不登校になったのをクラスメイトから聞いた。愛さんも顔を出さない、と璃奈さんからも聞いた)

せつ菜(果林さんも彼方さんもまた、すっかり塞ぎこんでいて、私たちも生徒会の仕事という言葉で、部室にも近寄りづらくなった)

せつ菜(頼り過ぎたツケ、とにこさんは言っていた。それはあまりに大きく、私たちは)

せつ菜(この灰が降る王国で、灯し火を待ち続けている)
18 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 12:40:14.48 ID:4ITMBpJ60
スクールアイドル同好会 部室

しずく(部室の机の上に置かれた、二枚の退部届)

しずく(かすみさんと、栞子さんのもの)

しずく(もうステージに立てない、と悲しげに言っていたかすみさん。そしてランジュさんの事でことりさんに言われた事は、栞子さんにとってもショックだったに違いない)

しずく(それを見た瞬間、エマさんは膝から崩れ落ちて、声をあげて泣きじゃくった)

しずく(私も、涙が溢れそうだった。だけど…)

しずく(散々、泣いてきたんだ。もう、泣くもんか)

璃奈「しずくさん」

しずく「うん……続けよう」

しずく「皆が、帰ってこられるように。そして、先輩を迎えに行く為に」

璃奈「うん」

璃奈「歩夢さん言ってた。部長の、本当の願いは」

エマ「……うん」ずびっ

しずく・璃奈・エマ「「「仲良く、スクールアイドルが見たい」」」

璃奈(椅子の残りは、綺麗に十脚。でも、全部席は決まっている)

エマ(長く、一人で部室を守り続け来たかすみちゃんも、今はいない。だけど)

エマ(その代わりに、私たちが守り続けるのだ。この灯りを)

しずく(灰が降る王国。あの人たちも言っていた、スクールアイドルである私たちは、虹ヶ咲学園にとって大きな存在なのだ)

しずく(その為にも、この灯りを守らなくては)

璃奈(これは、小さな灯り。だけど、それでも…この灯りが誰かを勇気づけられるなら)

璃奈(その為に、私たちはいる)

しずく・璃奈・エマ(私たちは、スクールアイドルだ)


1/了
19 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:04:17.62 ID:4ITMBpJ60
2/灰が降る王国にて


結ヶ丘女子 部室棟

かのん「もう二か月弱…」

かのん「どうしてまだアップされてないのよ! Liella!の雄姿は世界中に映るのよ! それなら結ヶ丘女子dのアピールにもなるのに!」

恋「いや、観客のエキストラじゃないですか…スペシャルサンクスに書かれるかも怪しいレベルですよ」

千砂都「1:予算が足りなかった」

千砂都「2:フィルムを回し過ぎてまだ編集が終わらない」

千砂都「3:かのんちゃんの完成予測が大外れ」

かのん「ぐぬぬ…千砂都の言い分も間違いじゃないように聞こえるけど」

可可「デスガ、この二ヶ月弱、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の活動の痕跡はなし。週一レベルであっぷサレテイタ動画、八週連続ナシ!」

すみれ「4:そもそも映画なんて撮ってなくてPVの撮影の口実に使われた」

恋「それは流石にないでしょうに」

すみれ「しかし、遅延しているとそう思いたくもなりますわ」

千砂都「5:実はどんな演技をするかのテストを頼まれていた」

かのん「だったら6:実は詐欺のサクラをやらされていた、でもつけよう!」

可可「アハハ、ソレハナイデショウ」

千砂都「だよねー」

かのん「待てよ、遥ちゃんは確か虹ヶ咲学園にお姉ちゃんがいた筈」

すみれ「そういえばそんな話を耳にしましたわね」

可可「一日一善、デス!」

恋「…善は急げ、もしくは思い立ったら吉日ですよ」

可可「へ? オモイタッタラ天下大吉? 黄巾賊デモ由来ナノデスカ?」

かのん「いや、吉しか合ってない」
20 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:05:07.65 ID:4ITMBpJ60
PiPiPi

かのん「もしもし? 強敵と書いて」

遥『戦友と読む。どうしたの? かのんちゃん?』

かのん「実は少し話したい事があって……あの、虹ヶ咲学園のスクールアイドルを題材にした映画について、続報聞いてない?」

遥『そういえば私も聞いてない…お姉ちゃんに聞いてみるよ』

すみれ「遥さん、いいかしら?」

遥『すみれちゃん? どうしたのさ、横から』

すみれ「……この二か月弱というもの、虹ヶ咲学園のスクールアイドルは特に活動が見られてないようですの。何か妙では?」

遥『確かに…』

遥『私もお姉ちゃんからライブの話を全然聞かない』

遥『……ねぇ。今からいけない?』

かのん「…行こうか」

遥『行こう!』

恋(なんでしょう…妙な胸騒ぎが…)
21 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:06:15.49 ID:4ITMBpJ60
虹ヶ咲学園 校門

かすみ(空が、遠い)

かすみ(授業が終わって、ほどなく帰路につく筈なのに、もう太陽は西に傾いている。陽が短くなってきていたのだ)

かすみ(一か月以上の時間が流れても、私に圧し掛かってきた罪は、薄れる気配はない)

かすみ(かよ子に言われた言葉が毎日のように突き刺さる。私は、スクールアイドルであるべきだったからこそ、あんな提案に乗るべきじゃなかった)

かすみ(どの口が愛先輩を裏切者だなんて言えるんだろう、冗談じゃない)

かすみ(皆を裏切っていたのは、狂う先輩の背中を味方になると押してしまい、空の王国から突き落としてしまった私だ)

かすみ(せつ菜先輩にクソザコナメクジなパンチだなんて言える立場でもなかった)

かすみ(ただ増え続ける未読のLINEメッセージ、いっそ辞めてしまおうかと思っても辞める勇気もわかず、ただ読まないでいるだけで溜まり続ける)

かすみ(いっそこのメッセージが重みをもつなら私を押しつぶして殺してくれたっていいのに)

かすみ(地獄の底までお供をするだなんて言って、結局私は地獄に落ちずに、この灰が降る王国の辺獄に一人立ち尽くして、後悔をするだけだ)

かすみ(ここに灯し火はない。導なんかない)

かすみ(ただ一人、立ち尽くし続けるだけだ)

かすみ「……ん?」

警備員「だから、目的をだな…」

「そうは言っても、親族が訪ねてきただけで…」

警備員「理由にならん、他校の生徒が勝手に入ってくる理由には」

遥「そんなのっ…!」

かのん「ちょっと話をしたいだけよ!」

かすみ「……あれは……Liella!の子たち……」

かすみ(思わず息を止めた。だが、同時に)

花陽『かすみちゃん。ただの、カスでしかないよ』

鞠莉『あんなひどい事をしようとしていた? 違う、そんな事を決意させるまで傷つけてしまった、傷つけられてしまった! 狂い果ててしまった! そうしたのはあなた達でしょう!?』

ルビィ『でも、先輩の心は引き裂けた。引き裂いちゃった。自分の手でバーラバラ。ううん。そこまでにしちゃったのってだぁれ?』

穂乃果『聞こえなかったの!? 顔も見たくないって言ったよ!』

かすみ(あの夜に言われた無数の言葉が、脳裏をよぎった)

かすみ(この学校はあの夜以来、灰が降る王国に変わり果ててしまった)

かすみ(この罪を背負う為にも、私は)
22 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:07:12.46 ID:4ITMBpJ60
かすみ「私を訪ねてきたんだよ」

遥「かすみちゃん…!」

かすみ「…場所を、変えて話そうか…」


エントランス

かのん「えーと……」

かすみ「あ……」

かのん(お互いに何かを言いかけてしまい、戸惑った。だけど)

かのん(あの時も少し顔色が悪いなと思っていた。だが、今のかすみちゃんは更にひどい顔をしていた)

かのん(その目の中にも光は殆どなくて、何よりも頬もこけている。とても、スクールアイドルだとは思えない)

かのん(その沈黙を破ったのは、遥ちゃんだ)

遥「……かすみちゃん。なにがあったの? お姉ちゃんから、ランジュさんの事を、少し聞いてたけれど、それから何も教えてくれなくなった」

可可「ン? ランジュ……ランジュ…」

かすみ「ああ、そうだよ…ランジュさんの事、なんだよね」

かすみ「……全部話すよ…私は」

かすみ「遥ちゃんや、Liella!の皆を、ペテンにかけた」
23 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:08:09.74 ID:4ITMBpJ60
かすみ「私を訪ねてきたんだよ」

遥「かすみちゃん…!」

かすみ「…場所を、変えて話そうか…」


エントランス

かのん「えーと……」

かすみ「あ……」

かのん(お互いに何かを言いかけてしまい、戸惑った。だけど)

かのん(あの時も少し顔色が悪いなと思っていた。だが、今のかすみちゃんは更にひどい顔をしていた)

かのん(その目の中にも光は殆どなくて、何よりも頬もこけている。とても、スクールアイドルだとは思えない)

かのん(その沈黙を破ったのは、遥ちゃんだ)

遥「……かすみちゃん。なにがあったの? お姉ちゃんから、ランジュさんの事を、少し聞いてたけれど、それから何も教えてくれなくなった」

可可「ン? ランジュ……ランジュ…」

かすみ「ああ、そうだよ…ランジュさんの事、なんだよね」

かすみ「……全部話すよ…私は」

かすみ「遥ちゃんや、Liella!の皆を、ペテンにかけた」
24 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:09:02.90 ID:4ITMBpJ60
しずく「飲み物の補充とかも自分たちでやらないといけないのは」

璃奈「仕方がない」

エマ「…あ」

せつ菜「…エマさんたち」

ランジュ「あ……」

エマ「こ、この前の申請だけど…」

せつ菜「不許可、でした……また」

せつ菜「理由は不明で。副会長が何回も何回も問いただしていましたが…」

エマ「そっか……」

エマ「学生寮の、留学生たちのとりまとめ役の子たちがね。すごく怒ってた」

エマ「締め付けすぎるって。けど……」

エマ「あの子を、怖がってるんだよ。上の人たち」

ランジュ「そうよね……私とママを何とかする為に学校の中であっという間に一枚岩、大人たち相手も平気で糾合して勢力をわずかな期間で作り上げた。その牙が自分たちに向いてきたら、恐怖そのものよ」

せつ菜「だから二度と出ないようにその芽を摘んでおく…。短絡的だけど効果的」

せつ菜「あの子がいなくなって、一番うれしいのは今学校を支配してる人たちでしょうね。自分たちがすることのお膳立てしていなくなってしまった」

ランジュ「…………」

しずく「ランジュさん、せつ菜さん」

しずく「お二人が、来てくれたら。とても心強いです」

ランジュ「せつ菜は分かるけれど、私は…」

エマ「こんな時、だからだよ」

エマ「あの日、ランジュちゃんはあの子がランジュちゃんと仲良くなる事でランジュちゃんを傷付ける為って言っても、ランジュちゃんはあの子を友達になってくれる人だって言ってた。それだけで充分」

しずく「歩夢さんも言ってました。本当はランジュさんもスクールアイドルだって認めたいんだって。それが出来なくて…」

ランジュ「…二人とも。私は…」

バシィッ

しずく・璃奈・エマ・せつ菜・ランジュ「「「「「!?」」」」」

璃奈「そっちの角から聞こえた…」
25 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:10:10.89 ID:4ITMBpJ60
かすみ「……」

かのん「……とんだ、茶番に巻き込まれたんだね、私たち」

かすみ「うん…わかってる。本当に…ごめん…」

かのん「冗談じゃない」グッ

かのん「私は、あなたたち程弱くなんかない」

かのん「あなたみたいなクソザコナメクジに勝手に同情されるのも! 憐憫されるのもごめんだよ!」

かのん「私の気持ちを勝手に決めないで! 勝手に後悔して勝手に哀れまれても、そんなの…!」

恋「かのんさん! 乱暴は…」

かのん「………!!!」ギリギリ

かすみ「………私は…それだけの事をしてきたんだよ…かのんちゃん」

遥「じゃあ」

遥「かすみちゃんは、今何をしているの?」

かすみ「……私はもう、ステージには立てない」

遥「…かのんちゃん、放してあげて」

かのん「………」ばっ

遥「このぉっ!」

ブンっ バギィッ ドサッ

しずく「かすみさん!」

せつ菜「なっ…! は、遥さん!? なんで…」

エマ「かすみちゃん、大丈夫?」

遥「……どうして黙ってるの」

遥「これだけされてさ」

かのん「……うん、どうして黙ってるの。悔しくないの? クソザコナメクジ呼ばわりされて! こうして殴られて! そんな大好きな先輩が追いかけた夢にだって目をそらして!」

かのん「『地獄の底までお供をするべきだった』んじゃない!」

かのん「地獄に変えないようにお供をするべきだったんじゃないの…そして、虹ヶ咲学園が今…」

かのん「こんな地獄になってるなら、変えるんじゃないの!? 大好きな先輩だって、それは望んでない筈だよ!」

かのん「それだったらその時からなんら変わってない、先輩が打ち上げてた灯し火を待ってぴーちくぱーちく鳴いてるだけでしかない、何の成長もしてない!」

かのん「立ってよ」

かのん「あなたは、悪意の海になんか飲み込まれてなくて。灰が降る空を見てるだけだよ」

かのん「だから、まだ、歩いて行ける。そうでしょ?」
26 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:11:47.16 ID:4ITMBpJ60
かすみ「………」

しずく「かすみさん……」

かすみ「…一人に、して…」

スタスタ

しずく「あ……」

遥「……すいません、あの……」

可可「…ヤハリ」

可可「あのランジュさん、デスネ」

ランジュ「あなた、確か…」

可可「ハイ。去年、日本語学校のオンライン授業でよく話しマシタ。唐可可デス」

ランジュ「上海校の…そうだ、あの時もスクールアイドルの…」

可可「ランジュさんは興味深ク聞イてくれてイタノデ」

ランジュ「……私は、本当になんてことを…」

しずく「遥さん、もしかしてこの子たち…」

遥「うん」

しずく「…………どこまで、かすみさんからは?」

遥「かすみちゃんからの、視点で。多くは」

遥「……μ’sやAqoursの人たちも巻き込みかけた事も。だから、お姉ちゃんが何も教えてくれなくなったんだね……」

千砂都「でも、だったら猶更立たなきゃダメな気がする」

千砂都「μ’sやAqoursの人たちから、許してもらえるかも分らないけれど、それでも」

恋「ええ……」

恋「見ればわかります。この学校には、生気を感じられません」

恋「生き生きと根付く、その気配が、空気が、ないんです」

エマ「……うん」

璃奈「灯し火はまだある。けど、打ち上げられてない」

璃奈「……私たちの、力不足なんだ……どうにも……」

しずく「だけど、諦めないでいたい。かすみさんが、大手を振ってまた戻ってこられるように」

かのん「……遥ちゃん、ごめん。先に行ってるね」
27 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:12:35.16 ID:4ITMBpJ60
ポツポツ

千砂都「雨……」

エマ(降り出した雨は、まるで全てを覆い隠すような冷たくて強い雨)

エマ(その間に、幾らかの話をした)

璃奈(開校一年目でこれから発展していく学校の為に出来たLiella!のこと)

しずく(新人スクールアイドル同士という事で、遥ちゃんと仲良くなり、その事で虹ヶ咲学園の事も知ったこと)

エマ(知らぬ間に巻き込まれていた、あの時のことも。可可ちゃんは、ランジュちゃんと話したいと少し離れていた)



可可「大好きだったから、デスネ」

ランジュ「……ええ」

可可「デモ人は間違エル。中国でも、日本デモソレハ同じ」

可可「ランジュさん」

ランジュ「……?」

可可「上海校でも、他の学校デモ。ランジュさんは有名デシタ。美人で、お金持ち。ソレダケジャナイ、頼メバ色々ト世話を焼く。頼マナクテモ、首を突っ込む。オセッカイ。ダケド、悪気ガナイ」

可可「ダカラ、ショウガナイ。その癖、自他に割とキビシイからニクメナイヨネってイウ人、ヤマほど」

ランジュ「……香港にいた頃、私は、どこか寂しかった。ママもパパも、愛してはくれてる。けど、時間が合わなくて…」

ランジュ「いつしかお金とかモノとか愛情の表現に変わってて、それだけを押し付ける形だった」

ランジュ「栞子は、知ってたのね……それでも、私は…」

可可「ダケド、ランジュさんは愛される部分もアリマシタ。ウウン、ソレダケジャナイ」

可可「キット、日本語学校の仲間たちが、今のランジュさんを見たらすごく驚きマス。『とても優しくて、皆の事を本当の意味で愛したいと思ってる』ッテ」

可可「ランジュさん」

ランジュ「…可可。ありがとう…けど」

ランジュ「今すぐに、とは言えないわ…私…まだ、時間が必要なの……」

ランジュ「あの子に、本当にごめんなさいを伝えなきゃってずっと…」

可可「ランジュさん……頑張って」

ランジュ「…ありがとう」ゴシゴシ
28 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:14:09.65 ID:4ITMBpJ60
虹ヶ咲学園 図書室

栞子(雨が降ってきていた)

栞子(生徒会長を解任され、スクールアイドルでもなくなった私は、図書室で過ごす事が多くなった)

栞子(だが、何かを読む事もなく、何かをする事でもなく、ただ下校時間まで、ひたすらに窓の外を眺め続けるだけの日々)

栞子(空虚で、何もない。私は学園生活を彩るすべてを、失ってしまった)

栞子(自分自身の過ちのせいで)

栞子(姉さんにも顔向けできない――――――それどころか、他の皆にも。それほどまでに)

栞子(何故私は、あんなに甘えた事を言ってしまったのだろうか。追い込まれてしまった部長が、その選択肢を選んでしまったのは私のせいなのだ)

「あれ、三船さん」

栞子「………この声は…」

栞子(くるりと、振り向いた。そこにいたのは)

副会長「雨が酷いですよ。窓は閉めてください。雨が吹き込ますから……三船さんも、だいぶ濡れてますね」

栞子「あ……」

栞子(生徒会副会長。菜々さんの時も副会長で、私が生徒会長だった時も副会長。そして、私が解任された時もあっさりと頷いて、菜々さんの再任の時も副会長として残っていた)

栞子(いわば、ずっと副会長であり続けている人)

副会長「スクールアイドル同好会のライブの申請書が来て、認可して上に提出するんです」

栞子(窓を閉めていると、副会長が唐突に口を開いた)

副会長「毎回不許可なんです。主に上の人たちから不許可で戻ってきます」

副会長「この一月ほどというもの」

栞子「………そう、ですか」

栞子(もうスクールアイドルで無くなった、いや。南さんが言ったように、卑怯な私にステージで輝く機会など、もう―――――)

副会長「……」

副会長「だから私は、あなたの事が大嫌いなんですよ」

栞子「……そう、でしたか」
29 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:15:14.79 ID:4ITMBpJ60
副会長「中川さんは自分なりにけじめをつける人でしたから。今、こうして、本来はやるべき必要なんてない筈の、生徒会長に戻ってきて、仕事をしてます」

副会長「毎日のように、絶望的な声を聴きながらも」

副会長「三船さんの昔馴染みのランジュさん、確かに混乱をもたらしましたね。あなたがそれを許して。部活動も滅茶苦茶、同好会のステージを奪われたって、暴動寸前の騒ぎまでありました。でも、その事を後悔して生徒会の仕事に取り組んでますね」

副会長「あなたが生徒会長だった時もそう。何故かスクールアイドル同好会だけをひたすら敵視して、挙句色んな所の反発を招いて、説明会がひどい事になりましたね。その時はどうしたんでしたっけ?」

栞子「………同好会の、部長さんの力を借りて…」

副会長「私は彼女とほとんど話した事はありませんけど、それでもその人となりは聞いています」

副会長「その背中についていけば大丈夫、英雄的な人だって。でも」

副会長「三船さんは、そんな彼女に容赦なく泥を塗り続けた。彼女が休学しているのは、それが理由なんじゃないですか?」

栞子「…はい……私が、悪かったんです……」

副会長「では、同好会の皆には?」

栞子「申し訳ないって思ってます…けど、もう会わせる顔が…」

副会長「そんな事思ってるから、私はあなたがつくづく大嫌いなんですよ」

副会長「同好会に入ったのは、部長さんがあなたを誘ったという話も聞きました」

副会長「彼女のもう一つの噂。スクールアイドルが大好きで、それを応援するのが好き。だから」

副会長「その為なら全ての障害を叩き落して見せる、最強だって」

副会長「そんな彼女が認めたあなたは、こうして嘆きながら腐り堕ちてるだけ―――――――他の仲間たちが嘆き悲しんでいるのを、安全な所で黙ってみてるだけ」

副会長「生徒会長もスクールアイドルも、中途半端な所で勝手に折れて逃げ出して。中川さんの事をどうこう言える資格どころか、あなたは自分でそれ以下だと証明してしまった」

副会長「詫びなさい、三船栞子」

副会長「同好会の人たちだけじゃない―――――――今、この学校で苦しむ人たちに」

栞子「わたし、は……」

副会長「輝く光が、今、ここにない。けど、必要とされている。その為にも」

副会長「もし、この機会を逃したなら、私は三船さんを永遠に軽蔑するでしょう」

副会長「でも、全てを失ったあなただからこそ、出来る事はあるんじゃないですかって思います。今、この惨劇を見ていると」

副会長「それが…あなたの彼女への贖罪なんじゃないですか?」

栞子(副会長が差し出した一枚の紙)

栞子(その重みを、私は痛く噛み締める)

栞子「……」

副会長「答えを出すのは、自由ですよ」

副会長「優木せつ菜のステージが、また見られれば私はそれでよいので」

栞子(去っていく副会長の背中を見ながら、私は紙を鞄に入れた)

栞子(どうにも勇気がわかず、一人になりたかった)
30 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:17:01.97 ID:4ITMBpJ60
虹ヶ咲学園 屋上

かすみ(気が付いたら、ここに来ていた。あの夜、先輩が心を壊した場所)

かすみ(冷たい雨が降り出した。顔に当たる、雨。だが、同時にリフレインするのは)

かのん『立ってよ』

かすみ(どうしてこんなに胸が張り裂けるぐらい悔しいんだろう)

かすみ(もう、かすみんにはステージに立つ資格なんてない筈。それなのに、なんで…いや)

かすみ(エマ先輩、しず子も、りな子も。いや、せつ菜先輩たちだって)

かすみ(こんな灰が降る王国でも、まだ希望を打ち上げようとして、その為にそれぞれ)

かのん『あなたは、悪意の海になんか飲み込まれてなくて。灰が降る空を見てるだけだよ』

かのん『だから、まだ、歩いて行ける。そうでしょ?』

かすみ(私の背負う罪は重い。押しつぶされそうだ)

かすみ(だけど、私はまだ…立ちたいんだ。ステージに)

かすみ「先輩……もう、一人で歩いて行けって事ですか」

かのん「雨が酷い…」

かすみ「…かのんちゃん」

かのん「この場所、なの?」

かすみ「うん。あの夜、ここで終わった」

かのん「……私、さ。遥ちゃんから、虹ヶ咲学園の皆の事を紹介された時。純粋に嫉妬した」

かのん「正直、滅茶苦茶妬みもした」

かのん「一人一人が仲間であり、ライバル。だからそこまで高め合えるし、凄く絆に溢れてた。学年も、学科もばらばらで、目指す方向性だって違うって言ってても、それでも、動画を見る度に、圧倒された」

かのん「一年生だけで、頼れる先輩もいない。スクールアイドルをするのだって、見た事のある知識はあってもノウハウも何もない、手探りだらけで、何度もつまずいた。それでも、同じ一年生で、サポートがあるとはいえ、一人でステージに立てるってのが、すごくカッコよかったし、眩しかった」

かすみ「……!」

かのん「同い年なのにどうしてこんなに差があるんだろう、どうしてこんなに出来る事が多いんだろう、観客をあんなに沸かせて、私たちには同じ事が出来ないのかって散々思って」
31 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:18:18.99 ID:4ITMBpJ60
かのん「でも純粋に、スクールアイドルとして憧れた。動画がアップされないのが寂しかった」

かのん「ライブだって絶対に見に行くって決めたのに、行われなくなってしまった」

かのん「遥ちゃんの誘いで、映画のエキストラとはいえ生でステージを見れるって思って、そのステージの手伝いが出来ると思うと興奮した。あなたにとっては茶番でも、私にとってはすごく嬉しかった」

かすみ「あの日、あなたと話した後に…内臓がまるごと溶鉱炉にぶち込まれたみたいだった」

かのん「うん。その重みに耐えきれなかった。だけど、その事を話してくれた。罵倒される事を覚悟して、μ’sやAqoursの人たちのように、私たちが批難してくる事を覚悟して」

かのん「きっと私があなたなら、私はあなたのように話せていなかったと思う。だから余計に、思うんだ。かすみちゃんは、本当に強い人なんだって」

かのん「私の中では、あなた達は輝いていた」

かすみ「今はそうじゃない。私は、Liella!の皆が、輝いて見える」

かすみ「灰に覆われた王国で、嘆いてる私からすれば。でも」

かすみ「今から……そうじゃない。先輩は、自分の本当の願いも分からなくなって悪意の海に沈んでった。あの人は」

かすみ「純粋にスクールアイドルが好きで、スクールアイドルが輝くのを見るのが好きで、それを応援するのが大好きで、その為なら」

かすみ「奇跡だって災厄だって起こして見せちゃう。だから道を間違えてしまった」

かすみ「一人一人が仲間で、ライバルだからこそ、私たちはその全員の味方である先輩の味方にもならなきゃいけなかった。先輩はかすみんの味方だなんて言ってるんじゃなかった」

かすみ「μ’sやAqoursの皆からも愛想を尽かされるのも、自業自得だ」

かすみ「私は道を間違えまくって、今ここにいる」

かのん「だけど、まだ終点じゃない」

かすみ「うん…止まってるだけだ」

かのん「今降る雨は冷たいけれど。この雨雲の先に、星は輝いてる。空には、見えなくたって星がある」

かすみ「うん……今、決めたよ。迷ったら、空の向こうにある宇宙の、星を探せばいい」

かすみ「こんにちは、未来の私。そして次は私があなたの未来になる。最初そうだったように」

かのん「追いついて来てよ、過去の私。追い越せるものならね。案外差が出来ちゃうかもよ?」

かすみ「やってみなければ、分からないよ」

かすみ「この学園の未来だって、照らして見せる」

かのん「星を追いかけて、その先の明日を手に入れる」

かすみ(大雨の中)

かのん(私たちは拳をお互いに打ち付けた)

かすみ(それは誓いのグータッチ)

かのん(止まない雨はない。だからこそ、この灰の王国から、空の王国へと彼女たちが戻ってこれるように)

かすみ(その先にある星が輝く空へと飛び出す為の約束でもある)

かすみ・かのん(私たちの―――――あしたの為の、フィスト・バンプ)
32 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:19:50.03 ID:4ITMBpJ60
駅員「お客さん…終点ですよ」

栞子「え…あ、はい」

栞子(雨の降る窓を眺めていたら、普段乗る駅を何駅も乗り過ごして、終点だった)

栞子(ここがどこの駅で、最寄り駅までどれぐらいかかるかも解らなかった。ひとまず、精算機で超過料金を払った)

栞子(酷い雨はまだ降り続いている。傘もなく、私はただぼんやりと駅の入り口に立ち尽くしていた)

栞子(鞄の中に入れた、あの紙を取り出した)

栞子(入部届。部活の名前と氏名を入れれば、虹ヶ咲学園のどんな部活にも使えるもの)

栞子(だけど、これを渡した副会長は、部活の名前を既に入れていた)

栞子(『スクールアイドル同好会』と)

副会長『答えを出すのは、自由ですよ』

栞子「………」

「栞子?」

栞子「!」

栞子「姉さん…」

薫子「私の家の、最寄り駅でどうしたの?」

栞子(姉さんは、仕事帰りだったのだろう)

栞子「……乗り過ごして、しまって」

薫子「交通費ぐらいは出すよ。姉だからね」

栞子「…………姉さん」

薫子「なんだい?」

栞子「私は……生徒会も、スクールアイドルも、中途半端なまま…過ちを犯してしまいました」

薫子「………」

栞子「あんなに、あんなにお世話になった部長さんに……」

薫子「だからか」

栞子「え…」

薫子「場所を変えて話そう。こっちだ」
33 : ◆3m7fPOKMbo [sage saga]:2021/01/02(土) 20:21:19.92 ID:4ITMBpJ60
栞子(姉さんに連れられて、着いた場所は駅の目と鼻の先にあるマンション。姉さんの自宅だった)

栞子(椅子に座るなり、姉さんは言葉を紡いだ)

薫子「少し前の事でね。とある場所から別の場所に人を移動させるから手伝ってくれという仕事がきた」

薫子「しかも内密に、迅速に、目立たないようにって。深夜に移動。おまけにダミーの車まで用意して。特殊部隊の作戦かよって思う位にね。オペレーターの護衛まで混じってるなんてただ事じゃない」

薫子「運転技術をそれだけ信頼されての事だろうけど、いったいどんな人を運ぶのか」

薫子「慎重に運ぶべきだって言われたので、後部座席に誰が運ばれたのかを見た」

薫子「………あの生き生きと顔を輝かせていたあの子が。死体同然だった。いや、生きてる。けど、あれじゃ生きる屍だ」

薫子「そんな状態で、命まで狙われてるような状況だったんだ。現に、出発してから少し後に、元居た場所に賊が侵入したからルートを変えろとかいう指示まで来たしね」

薫子「クライアントに、知り合いだから声をかけてもいいかと許可を取ってから、あの子に声をかけた。返事がなかった。クライアントからは、意識そのものはあっても、何にも反応できない。眠る事も殆どしないから定期的に薬で無理に眠らせるだけ。身動き一つしないから、点滴で生き永らえてる。酷い時には脈拍も弱り切って、心停止して除細動器の世話になりもしたらしい」

栞子「そんな……部長はどこに…」

薫子「それは教えられない。守秘義務もあるからね」

薫子「なにがあった?」

栞子「……私、は」

栞子(ランジュの事、その事で部長に全部押し付ける形で泣きついた事、自分以外にも部に来たメンバーに何も言わなかった事、かすみさんからの批難)

栞子(そして壊れてしまった部長の事、心を閉ざしてしまった私を置いて進んでいった周囲、ランジュ自身は部長を信頼してそこからランジュは反省して過ちに気づいた事)

栞子(部長の企み――――――それがわかった、あの夜に起こった出来事。そして、μ’sやAqoursの皆からも愛想を尽かされた事)

栞子(そして同好会を辞め、生徒会もクビになり、全てを失った私に、声をかけた副会長の事)
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