ワイルド・ハニーは砕かない

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207 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/08(金) 21:42:27.14 ID:/2fOk0s80
メイ「……けれど、もう……おしまいよ。貴方は」

ペラ……ペラ……

メイ「スタンドパワーなんて、ノミの足先の毛ほどにしか感じない。たとえ貴方が何か出来たとしても……彼女に送れるのは、たったの『一文字』程度のはずよ」

……ペラペラ……
208 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/08(金) 21:44:26.08 ID:/2fOk0s80
メイ「……貴方は、偉大だったわ。私は……正直、貴方が怖い」

……ペラ……

メイ「……けれど……わかったわ。私にも。……自分より誰かを優先する、その心。……すなわち、『愛』」

……バサバサ……

メイ「私は、愛する。……世界中全ての人を。そして……静・ジョースターを」

……

メイ「私は……彼女を、そしてこの世界を……失うわけにはいかないの」
209 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/08(金) 21:45:27.46 ID:/2fOk0s80
バササッ

メイ「…………」

メイの足元に、風に吹かれ、数枚の紙が飛んだ。
ミミズののったくったような文字が、書かれている……。
210 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/08(金) 21:46:38.97 ID:/2fOk0s80
『ほ』
『んし』
『ん』
『か』
『?』

メイ「…………『本心か?』ですって?……見ていなさい。双葉双馬……もうすぐ夜は終わり、朝が来る。……六回目の朝よ」
211 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/08(金) 21:48:03.11 ID:/2fOk0s80
メイ「その太陽が沈み、月が出て、その月が沈み……また太陽が出た時。……見せてあげるわ。双葉双馬。私の……思い描いた幸せな世界を」

……

メイ「もう、私も、静も、世界中の誰も!……傷つかない世界を……本当の天国にいる、貴方に」

……
212 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/08(金) 21:49:21.96 ID:/2fOk0s80
メイ「『素晴らしきこの世界』は、近い……!!」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

…………
213 : ◆eUwxvhsdPM [sage saga]:2021/01/08(金) 21:50:46.29 ID:/2fOk0s80
今回はここまでです
214 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:01:51.08 ID:jBOGtbqc0
…………

その日――……
世界は『闇』に包まれ、完全に『沈黙』した――……。

…………
215 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:04:46.69 ID:jBOGtbqc0
…………





『六日目』





………
216 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:06:24.41 ID:jBOGtbqc0
…………

「メイ」

「メイちゃん」

「有栖川くん」

「メイさん」

「メイちん」

「有栖川さん」

「メイ」

「アリスっちぃ」

「メイくん」

「メイちゃん」

「メイ」
217 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:08:00.41 ID:jBOGtbqc0
「「「有栖川……メイ!」」」
218 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:09:53.88 ID:jBOGtbqc0
……沈黙した世界の中。
人々は……『夢の中』で、口々にその名を呼ぶ。
219 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:12:04.51 ID:jBOGtbqc0
メイ「……ありがとう。わたしは、あなたの……『あなた達』の、『友達』よ」

ニコ
220 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:15:08.67 ID:jBOGtbqc0
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

メイ「これが『世界』……『素晴らしきこの世界』」

ゴ ォ ォ オ オ ァ ァ ア ア
221 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:16:33.27 ID:jBOGtbqc0
「メイ」

メイ「あなたは、『タケシ』……子供の頃、虫取りをしたわね。……夏の暑い日、あなたが熱中症で倒れた時はびっくりしちゃったわ」

「メイちゃん」

メイ「あなたは……『ナンシー』……父親と仲が悪くて、よくわたしの家に泊まりに来たわね。今は仲良くしてるみたいだけど……いつでも頼っていいのよ?」

「アリスガワ」

メイ「『リン』……妹の事大切にしてる?あなたの可愛がりっぷりといったら、わたしがうらやむくらいだわ……フフ……」
222 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:20:42.41 ID:jBOGtbqc0
「メイ」

「メイちゃん」

「メイさん」

「メイ」

メイ「たった……たった70億、よ。70億人の人生に、わたしが立った。それだけ……それだけの事よ。愛してるわ。みんな……」ハァ、ハァ……
223 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:22:03.54 ID:jBOGtbqc0
「……メイ、くん……」

メイ「……」

しわがれた声が聞こえた。
そこにいたのは、枯れ木のような老人であった。

メイ「…………」
224 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:23:27.36 ID:jBOGtbqc0
「…………」

うめき声が聞こえた。
銃弾を受けた兵士が、腹から血を流していた。

「〜〜〜〜」

つぶやき声が聞こえた。
少女は薬を大量に飲んで、口から泡をふいていた。

「――――」

泣き声が聞こえた。
赤ん坊が、汚らしい部屋の中で、最後の声をふり絞っていた。
225 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:24:22.51 ID:jBOGtbqc0
メイ「……わたしは……もう、奪わない。諦めない……切り捨てない」

今にも折れそうな手を
力なく落ちた手を
世界に絶望した手を
小さな小さな手を

有栖川メイは……
優しく、そして、強く握った。
226 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:26:16.73 ID:jBOGtbqc0
メイ「『カルロス』……あなたと出会えて、良かったわ。あなたが長い間歩んできた道は……素晴らしかった」

メイ「『キース』……辛かったわね。祖国のために、戦ってくれて……ありがとう」

メイ「『ソユン』……あなたのその行動を、止められなかった自分を恨むわ。もっと早く会いたかった……」
227 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:28:57.03 ID:jBOGtbqc0
メイ「そして……名前のない、終わりゆく未来。……あなたのことは、忘れない」

バ ァ ァ ア ア ア
228 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:31:09.04 ID:jBOGtbqc0
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

メイ「――『神』とはッ!!」

ギラ

メイ「『ここ』にいるのよッ!今、この『地上』に立つのよ!!」

バァ――
229 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:32:21.38 ID:jBOGtbqc0
メイ「人々が懸命に手を合わせて!必死に祈る先――『天』にッ!!『神』はいるの!?それは……本当に人を救ってくれるというのッ!?『神』とは――……」

バ ン

メイ「それほどまでに偉いのかッ!!天上でふんぞり返り、苦しむ少女一人助けてくれないッ!!信じるものをたった一人でも、本当の意味で救えたのか!お前は――ッ!!」

ゴ オ ッ
230 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:33:25.87 ID:jBOGtbqc0
メイ「……わたしは『ここ』に立つ。人の死を……苦しみを!悲しみを消すことは出来ない。……それでも!!」

……男の姿があった。
彼は……口元に軽く笑みを浮かべ、背を向けて、有栖川メイから去っていった。

メイ(……これで、良いのよね?……『チェスタ』)

バッ
231 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:35:03.85 ID:jBOGtbqc0
メイ「わたしが人々の記憶にいることで……人々がわたしを愛し、わたしが人々を愛することでッ!!……わたしは、みんなの『マイナス』をやわらげる事ができる!!」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

メイ「……もう、わたしや……チェスタのような、この世界から必要とされていない人間なんて……生み出させない」
232 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:36:29.18 ID:jBOGtbqc0
メイ「それが、『天国』……『素晴らしきこの世界』ッ!!」

ド ン

メイ「だから……静」
233 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:37:54.05 ID:jBOGtbqc0
メイ「あなたを、愛させて?」

ドヒュゥ――ゥゥ……

…………
234 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:39:15.01 ID:jBOGtbqc0
…………

メイ「…………」

有栖川メイは、森にいた。
アメリカだろうか?静の生まれ故郷の、近くの森に似ていた。
235 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:41:04.74 ID:jBOGtbqc0
メイ(……わたしの事を知らない、地球の裏側のみんなとは……すぐに仲良くなれるわ)

メイ(それこそ一日あれば、新しい人生を追体験出来る)

メイ(だけど、わたしに近い人ほど、じっくり新しい世界となじまなくてはならない……時間をかけて『友達』となる必要がある)
236 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:42:04.46 ID:jBOGtbqc0
メイ(そして……静。あなたは……わたしを知りすぎている)

メイ(……潜在意識でわたしの世界を拒否している……と、いうところかしらね。……難しい話だわ)

ヒ ュ ウ ウ ウ

メイ(だけど……『七日』ッ!太古の傲慢な神が出来て、新しい神であるわたしが出来ない道理はないッ!!わたしは――作るのよ、世界をッ!)
237 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:42:51.29 ID:jBOGtbqc0
メイ(そのためには、静――……)

シン……

メイ「……?……静?」キョロキョロ

サァァア……
238 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:43:44.86 ID:jBOGtbqc0
メイ(……静が、いない?……まさか!また――……)ドキリ

……ァァア……

メイ「!!……ン……」

…………サァァァ……

メイ「…………静?」
239 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:44:44.69 ID:jBOGtbqc0
メイ「そこの……木の陰……」

「……」

メイ「見えないけれど……静よね?静……そこに、いるの?」

「……」
240 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:46:02.99 ID:jBOGtbqc0
メイ「……静?」

「…………クッ、ククク……」

メイ「……?ねえ、静……」

「……クク……ふふ……」
241 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:48:00.19 ID:jBOGtbqc0
スゥーッ

静「アーッハッハッハッハ!驚いた?メイ!」

メイ「……ふふ……ハハ!ああ、驚いたわ、静!透明になってるなんて!」

静「アーッハッハッハッハッハ!メイ!」

メイ「フフ、ハハハハハハハハ!静!」

静・メイ「「アハハハハハハハハ!」」
242 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:49:44.86 ID:jBOGtbqc0
……二人は14歳の姿となって、夢の中にいた。
一年後、静・ジョースターは、杜王町へと旅立つ。
『六日目』にして、『最後の一年』……。

有栖川メイのスタンドは、静・ジョースターの『人生』を……。
ほとんど全て、変えていた……。
243 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:50:45.00 ID:jBOGtbqc0
メイ「静、あまりわたしを驚かせないで……心配したわ。本当に。あなたが消えていなくなっちゃったんじゃあないかと……」

静「大丈夫よ、メイ。いなくなったりしないわよ……あたし」

メイ「そう」ニコッ

静「それにしても、メイ!驚いたのは、あたしもよ!」

メイ「え?」
244 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:51:24.53 ID:jBOGtbqc0
静「『アクトン・ベイビー』で透明になったあたしを見つけるなんて……かくれんぼ、うまくなったんじゃあないのォ?」

メイ「……ふふ!あなたがどこに消えたって、見つけてみせるわ!だって、わたしたち……」

静「……『友達』?」

メイ「そう、『友達』」ニコッ
245 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:52:21.71 ID:jBOGtbqc0
静「……そうね!あたし達、『友達』だものね!」

メイ「そうよ!フフフ……かけ替えのない、『友達』ッ!!」
246 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:55:57.30 ID:jBOGtbqc0
静「『メイ』……アンタっていう、かけ替えのない『友達』……」

メイ「『静』……あなたは、かけ替えのない『友達』……!!」
247 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:57:28.86 ID:jBOGtbqc0
静「……フッフッフ」

メイ「……フフフ!」

静・メイ「「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」」
248 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:58:58.83 ID:jBOGtbqc0
静「……ハァー……」
249 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 21:59:39.28 ID:jBOGtbqc0
静「……『友達』……かあ……」

ボソリ

メイ「!!……静……もしかして、あなた……また……」
250 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:00:22.08 ID:jBOGtbqc0
静「大丈夫……大丈夫よ、メイ」

メイ「静……」

そっと、メイは静を抱き寄せた。
胸に手をあてて、かるく、擦る。
251 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:01:20.09 ID:jBOGtbqc0
メイ「まだ、あなたの心には……『穴』が空いてるの?正体不明の『穴』が……」

静「……」

メイ「わたしでは、埋められない?」

静「……ううん。たぶん……『気のせい』なのよ。穴が空いてる『かも』って……それだけ」
252 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:02:27.62 ID:jBOGtbqc0
静「なにか、ね……大切なものを失ったような……」

メイ「……」

静「おかしいわよね?あたし、何も失ってないのに。……失ったのは、『一つだけ』なのに」

メイ「……」
253 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:03:04.94 ID:jBOGtbqc0
メイ「…………『一つ』?」

ォ ォ ォ ォ ……
254 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:04:23.70 ID:jBOGtbqc0
静「知ってるでしょう?メイ」

メイ「え、あ……そ、それは……」

静「……」

メイ「……も、もちろ――…………」

静「……」ジッ

メイ「……う、ううッ!……なッ……な――……」タラリ
255 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:05:34.63 ID:jBOGtbqc0
メイ「…………『何』?その……『一つ』って……」ボソリ

静「……」

メイ「……」ゴクリ
256 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:06:35.25 ID:jBOGtbqc0
静「――……森の奥に――……」
257 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:07:34.47 ID:jBOGtbqc0
――……『崖』があった。

そこまで高くない崖だが……落ちたら大怪我では済まないだろう。
その切り立った崖を覗き込むと、少し下に……『花』が咲いていた。
名もない、小さな、綺麗な花だ。……(なんという名前だろう?)……。

静・ジョースターと有栖川メイは、二人でその花を見た。
258 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:09:24.18 ID:jBOGtbqc0
静「……子供のころの話よ」

メイ「……」

静「綺麗よね、あの花。……とても、綺麗で……おじいちゃんに、あげたかったのよ。……あの花を」

14歳の静・ジョースターにとっては、多少の危機はあるだろうが、難なく花を採ることは出来るだろう。
しかし、幼い頃であれば……その危険は計り知れない。
259 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:10:37.15 ID:jBOGtbqc0
メイ(何?……し……『知らない』……)

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

メイ(わたしが共に歩んだ人生に、その『記憶』はない……こ、これは……?)
260 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:11:37.13 ID:jBOGtbqc0
手を伸ばし、静は花を手にした。
黄色い花弁が、凛として美しい花だった。

静「……『花』を採ろうとして、落ちかけたの。……『冒険ごっこ』をしている時」

メイ「……『冒険』……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

メイ(『冒険』なんて『していない』……『危険』はわたしが守ったのに!何故、その『記憶』が――……?)
261 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:12:41.21 ID:jBOGtbqc0
静「その時、落としちゃって……壊したの。……『サングラス』」

メイ「……『サン――』……」ハッ

静「…………」
262 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:13:57.63 ID:jBOGtbqc0
ウェェエン……

エエン……

…………
263 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:15:04.10 ID:jBOGtbqc0
…………

『うえ〜〜ん!ええーん……!』

『どうかしたのかの?……静や……?』

『こわしちゃった……あたし、あたし……こわしちゃったの。大切な……サングラスを……!』

『静……静や。……落ち着くんじゃ。……静や』

『大切な!……大切だったのに!……』

『……壊したものはのう……もう戻らないのじゃ』

『……』
264 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:16:40.97 ID:jBOGtbqc0
『だから、これから先、同じことがあったらのう……もう、壊さないように。しっかり守るんじゃぞ、静や……』

『……うえええええん……』

…………
265 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:17:47.86 ID:jBOGtbqc0
静「……その時、おじいちゃんは泣き止まないあたしを見かねて……新しいサングラスをくれた。おじいちゃんのお母さんが愛用していた、サングラスを……」

メイ(こ――『これ』は……この『記憶』はッ!)

静「単純だった子供のころのあたしは、その時すぐに泣き止んだ。……ジョースター家のものをもらって、嬉しかった……ん、だと思う」
266 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:18:33.10 ID:jBOGtbqc0
静「だけど……だけどね。あたしは……壊したサングラスが欲しかった。……とても、とても後悔しているわ」

メイ「……」

静「冒険したことも、おじいちゃんに花を贈ろうとしたことも……後悔していない。あたしは、自分の行動に後悔はしない」

メイ(これは……『ルーツ』……!)
267 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:19:07.88 ID:jBOGtbqc0
静「あたしの後悔は、大切なものを守れなかった事。だから――……あたしは二度と。大切なものは失わないって……決めたの」

・ ・ ・ ┣¨ ┣¨ ┣¨

メイ「……し……静、その『記憶』はッ!」
268 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:20:25.06 ID:jBOGtbqc0
メイ(『静・ジョースター』を作る根本にして『信念』ッ!!それは、精神の奥そこに刻まれた『魂の記憶』ッ!!わ、わたしは……)

静「……ねえ、メイ……」

ス ッ ……
269 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:21:28.67 ID:jBOGtbqc0
静「……なんであたし……『子供のころのサングラスをまだつけてるのかしら?』」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

メイ(わたしは、静を『冒険』という危ないものから遠ざけたのにッ!!彼女の魂は!それを叫んでいる!!わたしの『素晴らしきこの世界』が――……『素晴らしくない』!!と!!……言っている……静は!!声高らかにッ!!)

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
270 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:22:30.85 ID:jBOGtbqc0
静「メイ……あたし……なんだか、『あたしじゃあないみたいだわ』……」

メイ「静……ハァ、ハァ!わ……わたしを……」
271 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:22:58.11 ID:jBOGtbqc0
メイ「信じて……わたしを――……ハッ!!」

静「?……え?」
272 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:23:36.37 ID:jBOGtbqc0
……静・ジョースターの握っていた『花』が……
いつの間にか、『紙』に変わっていた……。

くしゃくしゃの『紙』に……!!
273 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:24:29.61 ID:jBOGtbqc0
メイ「わ……わたしは……わたしは!!……わたしを……!!」

ハァーハァー

メイ(負けない……負ける訳がないッ!わたしは、『神』なのよ!世界はすでにわたしのもので、あとは彼女……静だけッ!!彼女を危険から遠ざけて、しっかり守って愛したのに!!……それを、こんな……ちっぽけなウスら汚い『紙』がッ!!わたしと静の甘美なる、神聖な時を……完全な世界を!!……壊せるわけがないッ!!)

ハァー!ハァー!
274 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:25:21.28 ID:jBOGtbqc0
メイ(あと一歩……もう『一歩』なのよッ!『信じて』って……『あなたの勘違いよ』って!!……『そんなボロい紙がなんだっていうの?』って鼻で笑うだけで!わたしは……静と『友達』になれるッ!真の『友達』にッ!!い……今さら……)

ギリッ!
275 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:26:16.48 ID:jBOGtbqc0
メイ(しぼりカスみたいなスタンドパワーが、今さらになって何だっていうの!?わたしが過ごした静との追体験はッ!70億人の追体験はッ!!貴方と静の一年にも満たない世界よりも、遥かに広大で!!強大でッ!!壮大なのよ……負けるはずが――負けるはずが――……)

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

静「……この『紙』は――……」



ペラ――……
276 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:27:02.52 ID:jBOGtbqc0
メイ「その『紙』を見るんじゃあないッ!!静ァァア――ッ!!」

バァ――ン
277 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:27:49.29 ID:jBOGtbqc0
静「…………」
278 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:28:22.59 ID:jBOGtbqc0
有栖川メイが叫んだ時には……すでに静は、くしゃくしゃの『紙』を開いていた。
そこに書かれていたのは、ただ『一文字』……。
279 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:29:27.77 ID:jBOGtbqc0
『に』



静「…………あ」

ゴォォォオオォオォオ……
280 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/09(土) 22:30:16.33 ID:jBOGtbqc0
風が頬をなぜる。
静・ジョースターは……

……涙を流した。



…………
281 : ◆eUwxvhsdPM [sage saga]:2021/01/09(土) 22:30:57.94 ID:jBOGtbqc0
今回はここまでです
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/09(土) 22:49:30.12 ID:OSwfouxB0
双馬とメイの静かなる戦いからの、本心で『世界すべてを愛し、諦めず、見捨てない』と言えるまでに成長したメイ。
精神的に成長したからこそ、ちっぽけな紙切れを早々に奪い捨ててしまわず、双馬との戦いを選んだのかもしれないな
最後は静への大きすぎる感情の戦いという感じもして

怒涛の展開なんて安っぽい言葉じゃあ、言い表せないくらい圧倒的なクライマックス……
興奮でうまく日本語にできないので、せめて支援を……
最後の最後まで応援してます

https://imgur.com/rpARi2W
283 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:00:09.40 ID:664efG6d0
…………

静「うええ……うう……ええ……」

静・ジョースターは……泣いていた。
暖炉の前だ……『思い出』の……。

(『思い出』?何故そう思ったのだろう?静・ジョースターは訝しむ)
284 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:00:52.19 ID:664efG6d0
ジョセフ「おお、よしよし……泣くのはおよし、静や……静」

静・ジョースターは、ロッキングチェアに座るジョセフ・ジョースターの膝にすがりついて泣いていた。
もうすぐ九十にもなろうというジョセフは、やさしく、彼女の頭を撫でる。
285 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:02:02.26 ID:664efG6d0
ジョセフ「静や、静……何故泣いておるんじゃ?」

静「わからない……わからないの。ただ……あたし、何か……」
286 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:02:41.39 ID:664efG6d0
静「何か、大切なものを……『忘れた』気がして……」

ジョセフ「忘れた、のう……」

……パチパチ……
287 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:03:16.97 ID:664efG6d0
ジョセフ「それでも静、お前には『友達』がおるじゃあないか。『メイ』という……」

静「『友達』……」

ジョセフ「忘れたとしても、『友達』がおれば、安心なんじゃあないかのう」

静「……うん。……だけど、ううん」

ジョセフ「?」
288 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:03:59.67 ID:664efG6d0
静「あたしが忘れたものは……もっと、大切なものだと思うの」

ジョセフ「……ふむ。『メイ』よりもかの?」

静「うん。……なぜだか、わからないけど……」

ジョセフ「……大切な『友達』よりも?」

静「……うん。大切な……『友達』よりも」

ジョセフ「……そうか……」
289 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:04:42.97 ID:664efG6d0
ジョセフ「わしにはの、『友達』がおらんからの」

静「…………」

静・ジョースターは顔を上げた。
今までしっかりと目を見れていなかった事に気付く。
ジョセフ・ジョースターの目は、少年のように輝いていた。

『さっきまでおじいちゃんの目は、こんなに輝いていたかな』

頭の中にかかっているモヤが、だんだんと晴れていく感覚がする。
290 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:05:30.15 ID:664efG6d0
ジョセフ「不動産業に手をつけてからは、会う人み〜〜んな商売敵と金狙いのヤツばっかりのようなもんでの〜〜ッ。あの頃は辛かったもんじゃ!ガッハッハッハッハー」

静「うそだあ。だって、おじいちゃんは……」

ジョセフ「うむ?」

静「いるじゃん。『友達』ィ〜〜。ほら!よく聞かせてもらった!冒険、していた頃の……」

ジョセフ「ああ……」
291 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:06:01.95 ID:664efG6d0
ジョセフ「あいつはのォ……良き友であった。付き合った時間は短いが、共に修行に励み、共に戦い、共に怒り、共に笑い……そして、わしは、涙を流した」

静「…………」

ジョセフ「今でも大切な『友』じゃよ。しかし……そうじゃのう。あいつは……『親友』じゃからのう」

静「……」
292 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:06:35.01 ID:664efG6d0
静「……『しんゆう』……」ズキリ

ジョセフ「口に出して確認したことはないが、全てが終わった今……心からそう思う。どこかに遊びに行ったことも、盃をかわして飲みあったことも、女性の趣味について語ったこともないヤツじゃ」

静「……」
293 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:07:04.64 ID:664efG6d0
ジョセフ「それでも、言葉にしなくとも……伝わるものはある」

静「……」
294 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:07:31.74 ID:664efG6d0
ジョセフ「わしにはの、夢があるんじゃよ。天国に行ったらのー、思いっきりあいつの顔ぶん殴ってやるんじゃ!『カッコつけて去りやがって、バカヤロー!お陰でこっちに来るまでウン十年もかかっちまったわい!』っての……ガハハ!ちょっぴり不謹慎かの〜〜ッ」

静「……」

ジョセフ「……静には、おるのかの?そんな人が……」

静「……あたし……あたしは……」

……パチパチ……
295 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:08:00.36 ID:664efG6d0
静「あたしは、メイが『友達』で……」

ジョセフ「…………」

静「なんでかって言うと、メイは『友達』だって、何度も言ってくれて……優しいし、守ってくれるし、本当に良い『友達』……」

ジョセフ「…………」

静「…………『だけど』……」
296 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:08:32.61 ID:664efG6d0
静「あたしの頭の中に……まるでイカスミパスタのソースが、水の入ったコップの中に飛んだみたいな……ボンヤリした色で……」

ジョセフ「……『姿』が見えるの。そいつは……口が悪くていつもあたしをバカにして、まったくもって優しくなくて、エラソーで……」

ジョセフ「……」

静「……だけど……」

ポロッ……
297 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:09:04.11 ID:664efG6d0
静「……いざって時には、守ってくれて……じ、実は……結構やさしくて……さ、さみしがりやで……」

ポロポロ……ポロ……

静「あたし……あたし、なんも出来ない、子供なのに……あたしの力を、信頼してくれる……」

ポロポロ……

静「すごく、腹立つヤツなのに……い、いっしょにいると、心が……落ちついた。二人で、足りないところを支え合ってるみたいで……あたし……あたしは……!」
298 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:09:50.21 ID:664efG6d0
静「なんで……忘れてたんだろう」

ポロポロ……

ジョセフ「…………大切な人、なんじゃのう」

静「……うん……うん。大切よ。アイツは、そう思ってないかもしれないけど……グレートに、さ」

ジョセフ「……静よ。決まったのかのう?心は……」

静「……うん。……大丈夫……大丈夫。決まってるの。あたし……あたし……」
299 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:10:37.55 ID:664efG6d0
静「戦うから……戦って、言いに行かないと。一言……たった『一言』だけ……」

ポロポロ……

ジョセフ「……そうか。……なら――……」
300 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:11:14.94 ID:664efG6d0
ジョセフ「――いつまでもメソメソ泣いてんじゃあねーぜっ!おれの娘がよ――ッ!!」

バ ン

静「――!?」
301 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:11:44.54 ID:664efG6d0
……そこには、年老いたジョセフ・ジョースターの姿は無かった。
筋骨隆々で、若々しく、生命のエネルギーに溢れる……。

全盛期、18歳のジョセフ・ジョースターがそこにいた。
302 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:12:20.34 ID:664efG6d0
静「……え?」

ザッ
303 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:12:56.93 ID:664efG6d0
……『魂の全盛期』は『エネルギー』となる。
そう。これは『夢』……。

『ワンダフル・ワールド』という『夢の世界』……。
304 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:13:26.65 ID:664efG6d0
静から漏れ出した『全盛期のエネルギー』は……。
この世界に漂う『全盛期の魂』を呼び集めた。
305 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:14:02.38 ID:664efG6d0
『空条承太郎』!

『東方仗助』!

『ジョルノ・ジョバァーナ』!

『空条徐倫』!
306 : ◆eUwxvhsdPM [saga]:2021/01/10(日) 21:15:34.97 ID:664efG6d0
……『ジョジョ』が、そこにいた。
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