白雪千夜「アリババと四十人の盗賊?」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:41:46.07 ID:tRJaplXx0
 戻って来た彼は紙パック――アイスコーヒーと、果汁100%オレンジジュース――を手にしながら、黒と蒼、二つのカップに首を傾げた。
「断熱ねぇ。じゃこっちか? でも、ガラスの方が映えるよなぁ」

 千夜は呆れて、
「はあ、まったく幸せですね。そんな事で悩めたものだ」
「悩むよ。だって二つもあるんだ。前は一つだったよ」
 彼は笑って、

「なあ、千夜。増えたな」

136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:42:20.79 ID:tRJaplXx0
 ――――

 ――増えたな――

 それを聞いた刹那、千夜は時間が止まったのを感じた。
 ――ああ、だから――と、光の散らばる思いがした。

 ちとせも、覚えてくれていた。クッキーを割った日、《増えたね》と笑ってくれた日を。
 だから文香を巻き込んだ。カップが二つになるよう仕向けた。

 そういうふうに、また同じ言葉を連れて来た。
 やがて虹になる嵐のように、
 十二時に残る靴のように、千夜に救いをもたらした。

 動悸がした。体温が上がった。深呼吸を試みた。何かを抑えられなくなりつつあった。
 ――帰りにクッキーを買っていこう。それから一番良いコーヒーを淹れよう。また美味しいと言って欲しい。もう、美味しいと言って欲しい。何度も、何度も言って欲しい。
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:43:21.34 ID:tRJaplXx0
 
  
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 
 
 ――やるべきことを、済ませてからな!

 千夜はプロデューサー室を飛び出すと、十六時五分前にたまたま見かけた、レッスン室前の廊下でスマートフォンを握りしめ、うろうろとまごついていた文香の尻を、慣用句の意味で叩き、歩武粛々と正門を指した。

「千夜」

 声が掛かった。
 中庭のベンチに双葉杏が居た。スマートフォンを持ったまま、千夜に手を挙げている。

「また稽古?」
「ええ、まあ。あいつが探していましたよ」
「だからここにいんの。あと四十分探してくれたら出てく」
「成る程」
「都ちゃんさ、気にしなくていいよ」
「はい?」
「ううん、気にするだけソンかな。あの子は実際のトコ探偵でさ、いつだっておかしなことを見つけて、元気になれるんだ」
「ふうん」
「そーそー」
「何故、都さんの名前が貴女の口から出るのです」
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:43:48.78 ID:tRJaplXx0
 舞台に参加しない、稽古の場に居合わせてもいなかった杏が、訳知り顔である事に問いを質した。
 杏はしまったという顔をしそうになって、やめた。白く丸い頬を緩ませる。
「『ベイカーストリート・イレギュラーズ』だよ。杏には八千人の部下がいる」
「はあ」
「しかも世界のうち七億人が杏の端末なんだよね。だから分かっちゃった」
「『LittlePOPS』、でしょう? 『リトルリドル』を歌う…… そのうち四人までがあの場に居合わせた。そして残るもう一人、貴女が彼女たちのリーダーだ。それなら内通、というか、橋渡しがあるのも頷ける」
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:44:16.32 ID:tRJaplXx0
「やだなー、DJだよ。リーダーなんてやってらんないし…… ま、なぜか相談を受けちゃったのは確かだよ」スマートフォンを振る。連絡アプリでのやり取りが表示されていた。「人働かせなもんだよね…… ねえ千夜、みんなに心配掛けたね」

 事もなげな調子の声に、胸がぞくっとして、言葉を返せなかった。杏は取り合わず続ける。
「だから杏、《何もするな、気にするのもするな》って言っといたげたよ」
「それは、お世話様でしたね」
「てかさ、詳しいじゃん。LittlePOPSの事調べたの?」
「たまたまですよ。他の人の事など、いちいち知る必要もありません」
「そ。ま、舞台の空気感ってあるよね。みんな千夜が怒ってるんじゃないかって思ってるぐらいだし、千夜の気が済む程度に謝っとけば大丈夫だよ」
「そうですね。ご助言痛み入ります」
「ほんと痛み入る? じゃあさ」
「何です」

 杏は十字を切り、合わせた手を頬に当てながら、
「Can I get an あ〜め?」

 ちょっと傾げたその笑顔は溶けるようで、むしろマシュマロをあげたら似合うだろうな、とぼんやり思う。この頬、気を抜いたら突ついてしまいそうだ。

「考えておきますよ」
 目を切って、稽古場に向く。陽はもう傾いている。何でもいいから先を急ごう、と考えるのをやめた。足を早めようか――

「千夜」
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:44:52.35 ID:tRJaplXx0
 袖を引かれ、宙に浮いた右足が元へ戻った。視線をやると、杏が千夜のポケットをぱしぱし叩いた。
「はい?」
「スマホスマホ」

 言われて取り出すと、軽く操作しても反応がない。電源が落ちていた。そのようにした覚えもなく驚いて、すぐに再起動を試みる。滞りもなく画面は光った。バッテリーの異常ではないようだ。
 体調を崩しているちとせから緊急の連絡はないかと目を皿にしたが、その心配は要らなかった。

 喫緊の課題は別のことだった。
「杏さん。貴女、何もするなと言ったのでしたね」

 連絡アプリの画面を突き付けた。頼子から、《都ちゃんは一緒ですか? 居なくなってしまったんです》と表示されている。
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:46:24.33 ID:tRJaplXx0
 睨んでやった妖精は、しかしまったく態度を崩さなかった。
「《何もするな》は千夜には言ってないよ」

 のんびりと言うか何なのか、鷹揚と言ってやってもいい、というのが千夜の意見だったが、とにかくマイペースに鎮座する杏の、その髪が揺れて甘い香りが鼻をうつ。
「確かに、私が言われたのではありませんでしたよ」
 頷き返す。唇を締めた。

「でしょ?」
「ええ。行ってきます」
「うんうん、頑張れ若者。杏はここで…… 溶けてるからね」
「若者? 同い年でしょう」
 
 
――Chapter6 "A Thousand Miles"
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:46:51.82 ID:tRJaplXx0
「いやあ、やっぱり一ノ瀬さんはいいなぁ。あんなに大勢の盗賊≠、カリスマというか、雰囲気でまとめあげてるんだよ。みんな自由なのに、どこか見えないロープで電車ごっこしてるみたいだ」
「ふふ、本当にすごい…… これなら志希さん、先生の舞台にもお声が掛かるかしら?」
「いやいや、手に余っちゃうよ。呼べたらそりゃ、いいんだけどね。でも今こうしてくれてるのも、魔法みたいなものでしょ」
「うーん、そうかも……」
「呼ぶならそうだね、古澤さんに…… ほら、」と振り返って千夜を指し、「白雪さん。君たちがいいな」

 先生と頼子、二人揃って扉をこそっと開け、覗くように稽古の風景を眺めていた。頼子はともかく、先生は中で指導していればいいと思う。意識の半分で息を整えつつ、頭を下げた。

「抜け出したりして、すみませんでした」
「いやいや、休憩あげたのボクだよ。ゆっくり出来た?」
「ゆっくり…… いえ、まあ、そうですね」
「それで……」
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:47:31.68 ID:tRJaplXx0
 頼子が首を傾げて見せる。お淑やかな性格もその博識も、蒼い瞳も印象を似せるが、右の泣きぼくろが文香との違いだ。投げかける視線の、油断の無い鋭さも。千夜がモナリザなら、頼子にはあまり観に来て欲しくない。自信を問われ続けることになるだろう。

「いいえ」かぶりを振る。都とは会わなかった。「そちらでも、まだ見つかっていないのですか」
「そうかぁ、白雪さんと一緒かもと思ったんだけど」
「都ちゃん、お稽古に来た志希さんと何か話した後、何処かへ行ってしまったんです」
「連絡は?」
「スマホが私服に入っていて……」
「よし、もう一回探してみよっか」
「はい、そうですね」
「あの」
 手を挙げ、二人を止める。
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:48:22.35 ID:tRJaplXx0
「いいえ」かぶりを振る。都とは会わなかった。「そちらでも、まだ見つかっていないのですか」
「そうかぁ、白雪さんと一緒かもと思ったんだけど」
「都ちゃん、お稽古に来た志希さんと何か話した後、何処かへ行ってしまったんです」
「連絡は?」
「スマホが私服に入っていて……」
「よし、もう一回探してみよっか」
「はい、そうですね」
「あの」
 手を挙げ、二人を止める。

「今度の事態は私の責任です。私が行きます」
「責任なんか。君たちの監督者は、ここではボクだよ?」
「いえ、やはり私に果たさせて下さい。やる必要がある、と思うのです。先生はご指導を」
「そう?」
「頼子さんも、どうぞ稽古を」
「ふふ、では、お願いしますね」

 多少は反対される覚悟もあったが、二人ともすんなり受け入れてくれた。そういう空気、なのだろうと思う。
 《志希さんと何か話した》という言葉に導かれ、花のような香辛料のような匂いを追って外へ出た。ちょっと振り返ると、相変わらず稽古を覗くようにした先生が呟いた。
「いやあ、いいなぁ。欲しいなぁ」
 
 
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 
 
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:49:02.52 ID:tRJaplXx0
 塀に沿って歩く。物陰に注意しながら、耳もそばだてた。そしてすぐに、そう注意する必要はなかったと知った。

 見えないロープを手繰ってきたように、殆ど分かっていたように、都の元へ辿り着いた。ピンクの花と黄緑の葉の花壇に、俯いてしゃがんでいた。

 しかし、ちょっと人目から隠れる場所とはいえ、劇場の敷地内に居る彼女を、誰も見つけられなかったとは思えない。どうやら気を遣われたのだな、と先生や頼子、志希の顔を思い浮かべた。

 足を止めると、都は振り向いた。

「おや、志希さんかと思いました!」
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:49:48.41 ID:tRJaplXx0
「私で残念でしたね」
「あっはっは、千夜さんで良かったです! 探しましたよ!」
 《探した》はこちらの台詞ですが――というのは飲み込んだ。実際のところ、先に消えたのは千夜だった。

「先程は、失礼な物言いでした」
「いえいえ、構いませんよ」

 鼻白む。つまり――つまり、《私が悪かったんですから》などとは言わないらしい。謝り損だったかな、と横目に見れば、俯いた姿勢だったのも、手帳に書き込みをしていたからなのだと分かって、千夜はいよいよ後悔を深くした。彼女は勝手な許しをくれたまま、その髪に紅い光を散らし、何かを覗き込みながらメモを続ける。
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:50:42.18 ID:tRJaplXx0
「何を書いているのですか」
「よくぞ聞いてくれました! ジャジャーン、『探偵手帳』!」

 はぁ、と相槌を打ったつもりだったが、溜め息に終わったかもしれない。散々に書き込まれたそれを開いて示しながら、少女は見ているものへと千夜を誘う。今更に機嫌を改めてやるのも癪だから、手帳に《千夜さんをよく見て、立ち位置に注意》と書いてあるのは見なかったことにした。
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:51:09.37 ID:tRJaplXx0
「ここに千夜さんのダイイングメッセージがあると聞いたので、行き先を示すのではないかと推理していたんです」
「成る程、私は死んだのですね」
 倣ってしゃがむ。それは黒い糸…… 蟻の行列だった。その不自然な線は、巣から出てきたり戻ったりするものではなく、何か奇妙な形を成して蠢いていた。

 ――ああ、角砂糖でも持って来れば良かった。志希のあんまりな実験は結局、黒い働き者たちから正常な仕事の能力を奪ってしまったのだ。ちょっとの甘味を求めていただけだろうに……。
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:51:53.77 ID:tRJaplXx0
 蟻たちは常に動きながら、歪んだ円のように並んでいる。その歪みは一定のパターンを繰り返して変化しているようだった。
「ここ! ここで、下部の変化が一旦止まるでしょう」
「はい」
「改行中なのだと思います! 私の見立てによれば、これは筆記体による、二つの文字列なのです!
 はい、この手帳をご覧のように、w2l=Ar2c≠繰り返している」
「ふむ」
「ですが、どちらが先で後か、あるいは上か下か、見分けが付かなくて……」
「志希さんは何か?」
「そうです! 《一回ずつでいいよ〜》と。でも、何のことやら」

 都は蟻と手帳、それぞれを見比べながら、指を顎に当てた。千夜も暫く考え込んだ。きっともう手掛かりは揃っている。

 意識が溶けて、街の音が沈み、……
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:53:13.22 ID:tRJaplXx0
 それから、口を開いた。
「文字列が循環して前後を特定する手段がないなら、これは順序を必要としない情報なのかも。《一回ずつでいい》というのもヒントになるでしょう。つまりこの二つは並列して処理すべき、アルゴリズムそのもの…… そう考えれば、2は換字を指示するtoとも解釈出来る。toでは一筆書き出来ないのを嫌ったのでしょう。
 WtoL、RtoC。WをLに、RをCに…… ふむ」
 思い当たって、スマートフォンで検索を始める。

「ええと、そうすると、置き換え元の暗号文の方が必要で……」
 都が辺りに目を配り出す。
「文字列が表すのが復号のアルゴリズム単体だとしても、このメッセージが持つ情報はそれだけではありません。
 いわば文字そのもの、いえ、文字を書くペン、……というか。
 記述の方式それ自体が暗号なのだとしたら?」
「文字そのもの……」
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:53:51.61 ID:tRJaplXx0
 首を傾げ、
「ああ、蟻ですね!」

「関係する語から、分けて、要素にWとRを、そして少なくとも一方を二つ以上持つものを試してみればいい。
 蟻にまつわる英単語は幾つかあります。ant(蟻)、queen(女王)、soldier(兵隊)……
 それから、――worker ant(働き蟻)≠フ、worker」
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:54:19.42 ID:tRJaplXx0
「worker!
 ええと、WをLに、RをCに。《一回ずつ》……
 locker=I
 ろ、……」
「ロッカー」
「ロッカーですね! 答えはロッカールームにあるっ!」

「そうですね…… 保証はありませんが、確認する価値はあるかと」
 そこまで話すと、答えは聞き届けた、とでも言わんばかりに、蟻たちは形を解き、真っ直ぐな列を成してその場を離れていった。謎の化学物質が時間で飛んでいったのだろうか。
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:55:12.22 ID:tRJaplXx0
「千夜さん、流石です!」
「いいえ」
「これで真実は、都と千夜さんのものだっ!」
 都は言い放ち、聴衆の喝采に応えるかのように、気取って一礼して見せた。

「あれ、でも」首を傾げてばかりの子だ。「これがダイイングメッセージなら、千夜さんがロッカールームに居るという事になりますが…… 千夜さんはもうここに居ますね?」
「そうですね」
「あっ!」
「はい」
「待ちきれなくて出てきちゃったんですか⁉︎」
「そんなところかも」
「そ、それは」何故か狼狽た様子を見せて、「お持たせしました……」

「いいえ」
 適当にあしらって、暗号の意味を考える。志希が千夜の居場所をロッカーだと思ったわけではないだろう。
「でも、英語が読めるなんてすごいです!」
「すごくなどありませんし、ちょっとだけです。貴女もすぐ出来ますよ」
「はい! 私もちょっとは読めますよ! 私もすごいです!」
 ――やれやれ。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:56:17.64 ID:tRJaplXx0
 このまま突っ立っていては、すごいすごい″U撃を延々と捌き続ける羽目になるようだ。
「何かがロッカーに隠されているのかもしれませんし、行ってみましょう」
「おおっ、私も今言おうと思っていました! 気が合いますね! 行ってみましょう!」

 ぐいっと、手を引かれ――

 不意打ちに身体の均衡を損なった。引っ張り返すか身を任せるか、刹那逡巡し、結局都の肩に手を掛けて止まった。
「あっ……」
「あ?」
 不思議そうに見返され、何かを言わなければならなくなった。何でもいいのだけれど――出来れば、《すみません、バランスを崩してしまって》以外の、何かを――
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:56:46.11 ID:tRJaplXx0
 しかし、
「そうだ」
「ん」
「もう一つ、解けてない謎があるんです」

 先に口を開いたのは都だった。
「謎?」
「千夜さんとのお仕事が決まって、ちょっと調べてみたんです。ウワサでは、《美術館が好き》なんだそうですね。頼子さんと話が合いそうです!」
 彼女は身体を捻ったまま、眼を輝かせた。
「ええ、まあ」
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:57:35.64 ID:tRJaplXx0
「私も絵画を見て推理するのが好きなんですよ」――推理? 美術の話だったのでは?「ところでプロフィールを見てみたら、千夜さんの趣味は料理≠ニ睡眠≠ノなってました。これは妙ですよ」

「変ですか。プロフィールなど、普通の書き方を知らないものですから」
「いえいえ、普通に書けてましたよ! ただ料理はともかく、睡眠は趣味って感じがしませんから。どうしても何か書かないといけなかったなら、美術鑑賞≠ノすればいい。そうしなかったのは、趣味というほど美術が好きではなかったからでしょうか? ……そこで、私の頭脳は最大の疑問を探り当ててしまったのですよ」

 やけに神妙な態度を作って、何人もの関係者を集めています、というように演説を続ける。すっかり彼女の舞台らしい。白面の兵士も相槌を打って、客演してやるとする。
「ふうん、疑問ね」
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:59:02.78 ID:tRJaplXx0
「千夜さんがお好きだとウワサになっているのは美術館≠ネのです。美術≠ナはなく! これは一体何を意味するのか? この些細な違いに事件を見出すのが探偵というものです! そう、パセリの沈んだバターを舐めるようにね!」

 都は得意げに言うーー成る程、探偵なのかもしれないな。
 彼女にかかれば、まったく、問題ばかりが山積みらしい。
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 01:59:47.95 ID:tRJaplXx0
「それで? 貴女は何を見出したのです」 
「分かりませんッ!」
 これも得意げだ。何も分からない事を明かして気勢を削がれない事こそ、千夜には分からない。
「分かりませんか」
「分かりませんでした! どうしてなんですか? 気になります!」

 分からないことが、楽しいのだろうか。分からないことが楽しいのなら、分かろうとすることにはどんな意味があるのだろうか。
 ――いや、逆か。分かっていく過程が楽しいのだ。分かる瞬間を求めている。だから分からない≠ヘ楽しい≠ヨの入り口だ。
 この少女はきっと、扉を見つけたのだ。児童文学の主人公でも張れそうな、無邪気な笑顔で。
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:00:29.65 ID:tRJaplXx0
「謎ですか」
「大きな謎です! 面白いです! 白雪千夜には、謎がある」

 不躾なものだ。他人の内面にずけずけ踏み込み、暴いてやろうという試みだ。だが、と思う。彼女の瞳が求めているのは、ただ興味本位の知識欲を満足させる答えではないのだろう。仲良くなりたい、子供のような心でそう願い、相手を知りたいと望んでいる。都は仲良くない≠ウえ楽しい≠ヨの入り口にしてしまったのだ。そう思う。只今の問答に悪い気がしなかった事へ、理由を付けたかったのかもしれない。

「おや、千夜さん、そんな顔もするんですね」

 都が笑った。意外な言葉に、というのも自覚がなかったからだが、千夜は自分の顔を揉んだ――どんな風だったかな?

「名探偵がひとつ、あなたの真実を暴いてしまいましたな!」
「さて、どうでしょうね」
「おお? 千夜さん、面白いです!」
「面白いことばかりですね」
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:01:05.60 ID:tRJaplXx0
 目を切ると、都は笑顔で千夜を覗き込んだ。やっぱり、やりづらい。そんな風に見ても何も出ないのに。ため息の牽制も、効果はなかった。
「私が美術ではなく、美術館を好きだといった理由を問いましたね」
「はい!」

「リトルなリドルですよ、そんなのは。別に教えてもいいのですが、またにしておきましょう。今は私にだって、解決すべき問題がありますから。それまではその謎を挑戦状にしておきます。自力で答えを見つけてみるのですね、探偵さん」

 都はしばし呆けた顔を見せてから、花咲く満面の笑みで頷いた。
 さて、と千夜は歩む。まずロッカールームに寄って、稽古はどこから再開するのか、ああ皆に向けて一言謝っておかなければ、あれやこれやと考えながら身体を伸ばした。都の足音が後に続く。志希の残した匂いが鼻腔をくすぐった。


――Chapter7 “ピュアなソルジャー”
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:01:50.70 ID:tRJaplXx0
 寒くて眠れそうにないと言い、
「ココア淹れてよ」
「実際には」千夜はちとせに答える。「寝る際に暖めるべきは体の外側で、内側の体温を逃さなくてはいけないのですよ」

「へえ、流石千夜ちゃん」
「《睡眠が趣味》なので」
「真面目なんだね」
 ちとせは背後から千夜に抱き付き、手を取った。

「お嬢様?」
「だったら千夜ちゃんが暖めてよ」
「ふふ、そうですね」
「千夜ちゃん、あったかい」
「暖まってますよ。……お嬢様が、太陽なのですから」

「ふうん」
 ちとせは小さな声で返すと、捲ったカーテンから外を眺め、呟いた。
「ベイビー、月が綺麗だよ」
 千夜も倣った。街並みは昼の喧騒を忘れ去り、それでも眠ることだけは拒んでいた。暗い空に浮かぶのはそれより暗い雲ばかり。月はと言えば、ベール越しの輪郭のように、仄明かりで存在を示すだけ。

「曇ってるじゃないですか」
「綺麗だよ」
 
 
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 
 
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:02:28.99 ID:tRJaplXx0
「え、こないだのお礼? なんだー、気にしなくてよかったのに。ううん、ちょーだい。あ、これかー。杏、飴は手使わないで舐めたいのに、これったら棒が危なっかしいじゃない。ううん、ちょーだい。ありがと。杏さ、こないだこれ買ったの。ゲーセンのね、二百円入れたら四本出るやつ。いやルーレットで四本から七本出るって書いてはあるけど、結果出るのは四本なやつね。あれさ、筺にお金入れたら、一本ずつ取り出し口に落ちてくるのね。コトンって。一本目ね、バナナシェイク味。まー好きじゃないけど、あえて選べないやつで買ってるから。これも縁じゃない、バナナいいじゃない、って思って。で、次何出るかな、って。わくわくするよね。したっけ、コトンつって。バナナシェイク。ま、ま、ま、って感じ。こういう場合もあるよねって。いいじゃん食べよーよって。で、その次何出たと思う? 三本目。コーラとかあるじゃん。イチゴとか、いっぱい種類さ。コトン! バナナシェイク! 筺見るじゃん。これバナナシェイクの筺? 違うじゃん。《バナナシェイクしか出ません》って書いてある? いやない。ガラス越しに色んな味見えるじゃん。もう嫌じゃん。四本目に望みかけるじゃん。望みっていうか、もう王子様だよね。バナナに囲まれた杏を救ってくれーって。うん。コトンって出るじゃん、王子様。何だろ? バナナシェイク! わーお! バナナ王子バニラアイスまみれ! もうさ、せめて一本違うの出てくれたら、杏それが腐った卵味でもバンザイしたよー。…… いや、せん‼︎
 ……なので、イチゴくれて、ありがと。うまー」
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:03:37.63 ID:tRJaplXx0
 滔々たる杏の語りを聞きながら、千夜はバナナシェイク味を用意しておくべきだったと悔いた。どんな顔をしただろう。眉をひそめ、飴を睨み、歯を剥き出して、一旦しまって、それからほっぺたを膨らませて、ああ、ほっぺたを膨らませて……。

「あら、泡が立ってきたみたい……」

「ん」
 欲を持て余した指でスプーンを掴み、左手はジャズベの握りへ伸ばす。この真鍮の小鍋から、泡をすくって四つのカップに分けていく。それからまた、火にかける。

「手際がいいなぁ。格好いいぞ千夜」
「ほんとほんと。やっぱ杏に召使えてよ」
 火にかけたり、下ろしたりを繰り返す。やがて出来上がったコーヒーを、注いでいく。粉が入り過ぎないよう、慎重に傾ける。それぞれにカップを渡し、粉が沈むのを待つ。
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:04:27.61 ID:tRJaplXx0
 頃合いを見、頷いて合図を出す。三人が目を合わせ、一斉に啜った。

「うん、美味しい……」
 頼子は目を閉じ、神経を集中させた風に言った。
「いいカンジ」と杏。
「美味しいよ、千夜」彼。
 千夜も飲む。旨いし、甘い。満足な出来だと言っていい。ほっと胸を撫で下ろす。

 プロデューサー室でのゆるやかなコーヒータイムは、それから静黙と過ぎて行った。窓の外、爽やかな青天の、少しずつ流れる雲や高度約七百五十mを行く飛行機を眺めながら、それ以外はほうとかふうとか、息遣いが主な音になった。

「千夜、おさとー。イエス、プリーズ」

 杏がのんびり沈黙を割り、それが合図だったように、
「《悪魔のように黒く、地獄のように熱く》――」頼子が口を開く。「《天使のように純粋で、そして》――」勿体ぶってみせ、「――そして、《恋のように甘い》」
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:05:04.09 ID:tRJaplXx0
「武装錬金だ」杏が声を上げた。
「さあ、それは寡聞にして存じ上げませんが……
 ナポレオン体制の外務大臣などで活躍した、シャルル=モーリス・ド・タレーラン=ペリゴールが、よいコーヒーについて語ったとされる言葉です」

「悪魔なのに天使ね。矛盾というか、文学的だな」
「《天使のカオした破滅愛好家》」呟いて千夜。
「ふーん、苦い≠ヘないんだ。ペリゴーさんもこーゆーの飲んだの?」
 杏はたった今飲んでいる、コーヒー粉と砂糖で煮出したトルコ式を示す。

「はい…… タレーランが飲んだのはエスプレッソのようで、お砂糖をたっぷり入れる味わい方はこれと同じですよ」
「げーっ、粉っぽい」
「あはは、混ぜたらそうなるよ。もう一回沈むの待たないとな」
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:05:32.33 ID:tRJaplXx0
「悪魔で、地獄ね……」
 千夜は零して、カップを覗き込んだ。黒いのは、確かだ。表面の凹凸は泡や粉で出来ている、トルコ式ならではの見た目。しかし、これがもし十八世紀頃のエスプレッソだとして、タレーランには地獄の窯に見えたのだろうか? フランスの激動を生きた者ならではだろうか、感じ方というのは人それぞれであるものだ。

「これが悪魔だなんて。のんびり出来るのにな?」
「ほんとほんと。のんびり出来るのにね」
「時々し過ぎますね」千夜は水を飲んで、「特にお前たちは」

「まーま、本番前くらい一緒に骨を休めよーよ」
「杏さんは本番ではありませんがね」
「はは、いよいよ明後日だな。調子はどうなんだ?」
 彼が目を遣って、頼子がカップを置いた。
「これが面白いのですよ。特に志希さんと都ちゃん」

「ホー」
「志希さんは都ちゃんの自由さに合わせているのだと思ったら、いつの間にか操っている。都ちゃんは抜け出したと思ったら、今度は自分から志希さんの糸に絡まりに行って、逆に引っ張ってしまう…… ふふ、私、目が離せません」
「はは。へえ、面白いなあ。そうなの、千夜?」
「ええ、まあ。正直振り回されますが。純粋な癖に知略を好むから、あるいは賢い癖に無垢でいたがるから、軌道が無くなる」
「振り回されるの――」彼も微笑み、「好きだろ?」
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:06:01.43 ID:tRJaplXx0
 カップを傾けると――ちょっと傾け過ぎた――ざらざらした舌触りと共に、飲める分は終わりになった。底に残った粉の模様で占いを、というわけにはいかない。ちとせのように上手く未来を見ることも、見えたものを説明することも千夜には出来ない。

「きっといいものになるな。楽しみだよ」
 代わりに見通したような言葉。

 それを契機にまたゆるやかな沈黙が立ち込め、
「じゃ、杏行くね」と、カップが置かれた。「ごち。片すのよろです」
「やっとくよ。ほら、千夜のも…… いいからいいから」
「お帰りですか?」と頼子。
「まーね」
「ホー、こんな時間にとは感心だな。鍵はちゃんと返すんだぞ」
「げ、バレてた?」
「こないだ大騒ぎだったんだから。セイさんがさぁ」
「はいはい、杏も骨身に応えてまーす」

 身体を伸ばしながら、妖精アイドルは部屋を出て行った。頼子が千夜と目を合わせる。
「それでは、私たちも……」
「はい」
「あ、待った」
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:07:43.61 ID:tRJaplXx0
 彼の静止に、立ち上がったまま顔を向ける。
「千夜にちょっと羽織る衣装を試してもらいたいんだ。あんま時間は取らないけど」
「そうですか。ではもう少しゆっくりしていますね」
「いえ、待つには及びません。頼子さんは先に行っていて下さい」
「そう? それでは、美味しいコーヒータイムをご馳走様でした」

 頼子も去り、元から静かではあったが、部屋に二人となる。
 彼は隅の方で暫くごそごそやると、「ん?」だの「まいっか」だの、不安になる声を上げた後、煌びやかな衣装を手に戻って来た。
「衣装まで本番と同じにしての通し稽古、だからドレリハ――ドレスリハーサル――というんだが」
 ショールのようだ。真紅のオーガンジーに、金糸の刺繍があしらわれている。
「これだけ細かい直しが必要で、明日のドレリハに間に合わないんだ。明日も形の似たものは使うけど、これで動き難かったりしないか、ちょっと試してみてくれよ」
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:08:12.45 ID:tRJaplXx0
「ちょっとギラギラし過ぎやしませんか。アラビアンとはこういうものなのか」
「はは、キラキラだろ。アイドルだからいいんじゃないの」

 着せようとする彼の手から奪い取り、ブラウスの上に袖を通す。変に引っ掛けて痛めないよう気を遣った。真紅を彩る金の模様に、千夜はなにか気圧される思いがして、これがどうと呼ばれる形なのかは知らなかったが、何にせよ台無しにしてはと神経を擦り減らす。やっとの思いで、それぞれの袖四秒程ずつの戦いを終える。

「似合うよ。くるってしてみて」
「ばか。見るな」
 彼が不満そうに背中を向けてから、軽く腕を振って、舞台中の動作をいくつか再現して、それから――見られていないことを確認して――左足を軸にターンしてみる。ふわっと浮いて、ふわっと戻る。着心地は上々で、動きづらいこともない。悪くないじゃないか、と気分良く肩を持ち上げ眺めてみると、ふと、甘く瑞々しく果実様で、ややバニラ風味の混じった香りが鼻腔をくすぐった。

 これは、――そうだ、

「おい…… なんだこれ。メロンの匂いがしますよ」
「好きだろ?」
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:08:41.68 ID:tRJaplXx0
 ふざけて返され、千夜は睨んだ。強い言葉で攻撃を仕掛けようと思い、しかし取り止めた。
 というのも、
「なにそっぽ向いている。失礼でしょう」
「はいはい」

 彼が苦笑しながらゆっくり向き直ったところに、今度こそ、と口を開こうとして、あんまり真っ直ぐ目を合わされた為に、千夜はたじろいだ。思考が止まりかけ、咄嗟に明後日の方へ目をやってしまう。
 ――どうしてそんな風に見るんだ?
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:10:00.11 ID:tRJaplXx0
「うん、やっぱり似合うよ。千夜に紅、いいな」
 企画書のファイルが突っ込まれた棚を見遣りながら、紅と聞いて、似合う筈がない、と思う。身を焦がすもの、悪夢の色。焦がれるもの、慕う瞳。『Unlock Starbeat』でだって、着こなせていた自信はない。似合う筈がない。少なくとも、まだ。
 これが本当に似合うようになったら。ショールへ目を落とす。それもひとつの望みなのか。
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:10:27.90 ID:tRJaplXx0
「いや、蒼も捨てがたいんだが。白と蒼、いいよな」
 彼が言添えたので、思考が遮られ、白紙に戻る。呆れて、
「まったく…… 紅とか蒼とか、食傷なのですが」

 千夜は吐き捨てた。彼は目を丸くした。
「そう?」
「こっちがお嬢様の紅い瞳なら、こっちは蒼の和製シェヘラザード。こっちが赤毛のアンみたいな探偵で、こっちにまた蒼い眼の美術愛好家。もう、目が回る」
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:11:26.00 ID:tRJaplXx0
「ああ……」と頷き、「色々いるよな」
「い過ぎます」
「はは」と笑って、「ほかには?」

「三分もレッスン出来ない天才」
「自分を燃やしちゃうアイドルオタク」彼も言い上げた。
「わがまま妖精――やる時はやる」
「それから」目を細めて、「現代を生きる吸血鬼の、その従者」
「……ふん」自嘲を込めて返し、「それから、…… それから、お前です。エセ芸術家。蛇舌。宮廷道化師、背教の魔法使い」
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:11:57.79 ID:tRJaplXx0
「僕も? ほー、エセ芸術家ねえ、……」
「私の世界は白黒でさえあれば充分だった。それをお前は、――よくもまあ、ブカレストの壁にスプレーでもするように」
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:12:25.37 ID:tRJaplXx0
「スプレーか!」彼は口元いっぱいに笑みを湛え、鼻を鳴らした。「嫌だったか?」

 答えないままで、ショールを摘む。ひんやりする。持ち上げて、離して、持ち上げる。
 そういえば、
「直しが要るのでしょう、これ。いつまでも着ているわけにいかないのでは」

「そうだった、もうすぐ時間だ! 脱いで脱いで」
「急かさないで下さい」
「ごめんな、ちょっとのんびりし過ぎた」
「言ったでしょう」
「はは、名残惜しいか? いい衣装だよな。本番で着れるからさ」

 慎重に袖を外していく――そうか、本番、か。
 まあやってやるか、と息を吸う。すると、なにか独特の香りもまた飛び込んできた。甘く、瑞々しく、バニラ風味も混じっているようだ。

 これは、――

「おい…… やっぱりメロンくさいぞ」
「好きだろ?」
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:12:53.63 ID:tRJaplXx0
 
 
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 
 
 その姿を認めると、彼女が本を読むベンチへ向かった。どこまでも広がる高空の下、注ぐ十五時の柔らかな陽光と、撫でるような風を頬に受け、歩く。文香は端に寄っていた。誰かがここに座ることを分かっていて、その人の場所を空けているというように。彼女にも光は注ぐ。中庭の樹々が生むちょっとした木漏れ日が、それから、渡り廊下が薄めた光線が、文香を神秘的な存在にしていた。

「お邪魔します」

 返事は待たないで身を返し、誰かの場所へ腰掛ける。座面は軽く軋んで、千夜を受け止めた。ちょっと遠慮した為、文香と仲違いしたようにそっぽを向いた。持ってきた紙の手提げを太ももに乗せて、中身と、その無事を確認した。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:13:33.17 ID:tRJaplXx0
「……舞台、順調です」
 顔は斜めに逸らしたまま、肩越しに声を掛ける。文香は未だ読書に夢中のようで、――これでは、誰に言っているのだろうな。

 手提げの持ち手を弄び、二つのアーチを寄せたり離したり、繰り返しながら、
「……色々とお話を聞かせて頂いたお陰で、考えがまとまりました。助かりました」
 澄み渡った沈黙の中だったが、呼吸音までは聞こえない。代わりに紙の擦れる音が、見えていなくても文香の居ることを知らせていた。

 手帖をめくりながら、千夜は待った。待ちつつ、零すように言う。
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:14:02.27 ID:tRJaplXx0
「『アリババと四十人の盗賊』…… 不詳の語り手たちに継がれた『千夜一夜物語』は、題材として扱う際の自由度の高さゆえに今日の人気を博したのだといいますね。『アラジン』を題する有名なアニメ映画の内容にしても、ガランのそれとはまるで違う。しかし、それを気にする人は多くない。原作など知らないのか、知っていて構わないのか、両手を上げて受け入れる。これこそが『アラビアンナイト』だ、『アラジン』だ、と。この物語集成は、いわば銘々の作り手の、その解釈によって、幾らでも形を変えて人気を得ながら、それでも『アラビアンナイト』ではあり続けてきたわけだ。可塑性というやつがあるのですね。虚像の群像、正体など最早ないような、あるいは全てを正体にしてしまった、千の夜と、もう一夜……

 思いました。そもそも受け取り方によって形を変えない物語など、ひとつとしてないのかも。周りから見れば喜劇でも、当人にとっては悲劇かも――天使のように純粋に見えて、悪魔のように黒いかも。周りから見れば悲劇でも、当人たちには喜劇かも――地獄のように熱くても、恋のように甘いかも。黒が白、でなくとも、灰色や、ひょっとしたら青というように、やはり受け取り方は人それぞれでしょう」
「はい…… 私も、そのように思います」
「ええ…… ん」
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:14:46.35 ID:tRJaplXx0
 うわの空で続けようとしたのを止めて、振り向けば、文香が目を細めていた。

 本を閉じ、膝を、身体を、こちらに傾けている。彼女はゆったりと髪を垂らし、思い出に浸るように続けた。

「人は、物語に己を映す。受け取った光を、自分が鏡になって、様々に形を変え、世界に映し出す…… ただ言葉を受け取る、というわけにはゆかない、らしいのです。己は、己を相手には黙さぬもの。自分ならどうするか、自分は今どう感じたか、自分の知識から考証は可能か…… 全く知らなかった筈の世界や、自分のではない隣人についてさえ、物語の最後には持論主張を手に入れる。話を聞きながら、話をしているのです。

 だからこそ、物語は編まれ、聞かれるのでしょう——北村薫からですが——《人生がただ一度であることへの抗議》を、申し立てるように。ひとり分のいのちで世界に立つのでは、得られない光を求めて」
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:15:21.73 ID:tRJaplXx0
 ……
 一結杳然、というように間を置くと、文香は静かに目を開け、微笑んだ。こちらもゆっくり頷き返した。深く息をすると、葉っぱの匂いがした。

 千夜は手提げを持ち上げた。素材のクラフト紙がガサ、と音を立てる。
「これ、ありがとうございました。大変参考になりました」
 文香は受け取ると、中身の『ガラン版 千一夜物語』を手にとって、愛おしがるように撫でた。
「楽しんで、頂けましたか。それで……」
「はい」噛み締めて、続けた。「結論が出ました。……ただ」
 文香は首を傾げて、
「ただ?」
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:15:58.48 ID:tRJaplXx0
「何というか、…… 取り留めのない想像話です。朝食の傍するような。お嬢様の話に応答を求められて、それで口にするような。月をつき≠ニ呼ぶ理由を尋ねられたような。……、あるいは、……」
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:16:50.90 ID:tRJaplXx0
「あるいは、砂上の玉座に編んだ頌詩のような」

 詰まった言葉を、文香が引き継いだ。その微笑みは確かな優しさを湛えていて、千夜はそれを感じながら、手を伸ばしかけていた。彼女の手を取って、その甲を撫でようと考えていた。

 はっと我に返り、自分がしようとしたことを思って、そんな間柄ではないからぐっと堪えて、堪えたところに、なにか懐かしい気持ちが押し寄せた。

 微笑みだ。あれはちとせの微笑みだ。重なっていた。

 ああ、だから話をしたくなったのか、と合点して、いや、話をしたくなったからそう見たのでは、と懐疑した。

「聞かせて、頂けますか」
 彼女は左の髪をかき上げた。
「はい」

 千夜は改まって、正面に文香を見据えた。妙な緊張で、肋骨が締まるようだった。息をゆっくりにして、彼女がいそいそと顔を向けるのを待った。千夜の切迫が伝播したか、文香も深呼吸をするのが分かった。それから彼女は、静かに千夜を見返した。

 その儚く蒼い瞳は――
 
――Chapter8 “リトルリドル”
  
Last Chapter “話がしたいよ[Chorus2] / Gravity[Chorus1]”――
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:17:24.13 ID:tRJaplXx0
「この物語は、犯してはならぬこと、禁忌にまつわる筋書きなのだと思いました」

「ある一定の法則、というやつです。研究者シュライビーの成果では、《ささいなきっかけ、大きすぎる災厄》というのが、初期の千夜一夜物語にみられるテーマだそうですね。『商人とジン』では、食べ終えたナツメヤシの種を投げ捨てただけで、ジンに命を狙われる。食事はつつましく、また《よきイスラム教徒たるにふさわしく》お祈りをしてさえいるところに、恐ろしい精霊は現れ、商人を襲うのです。お前が捨てた種のせいで息子が死んだ、と言って。

 一義的には悪徳や罪とも思えない行動が、奇妙な因果に導かれて、不思議な結果をもたらしていく。そういうテーマが『アリババと四十人の盗賊』にも流れているのだと思います」
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:17:51.92 ID:tRJaplXx0
「カシムが盗賊に命を奪われるきっかけになったのは、アリババが盗賊の宝をくすねたことは勿論ですが、それをカシムの妻が嗅ぎつけたことが大きいですね。アリババが魔法の洞窟から持ち帰った大量の金貨を、アリババの妻はなんとか計量したがり、カシムの家へ枡を借りに行きます。カシムの妻は枡を貸し与えますが、枡を持たない貧乏なアリババが、一体何を量る程に手に入れたのか訝しみ、升の底に脂を塗り付けておきました。

 そうして枡に残された一枚の金貨が、カシムの嫉妬を、怒りを呼び、彼自身の破滅を、そしてアリババの身に迫る大きな危険を巻き起こすことになります。《ささいなきっかけ、大きすぎる災厄》という言葉に――厳密な対応ではなくモチーフとして、ですが――照らすに、この脂に囚われた金貨≠ニいうのは、いかにも暗示的なように思われますね」
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:18:17.72 ID:tRJaplXx0
「さて、アリババには何の美徳もないものだと、私は考えていました。森に盗賊がやって来たと知るやロバを見捨てて木へ隠れる。盗賊が立ち去れば宝をくすねる。魔法の洞窟で合言葉を忘れた為に殺されてしまった兄カシムの、その四つ裂きの遺体を持ち帰る羽目になりながら、ついでにまた宝を盗んでいくことも忘れない。カシムの死因を隠蔽しなければ盗賊たちに見つかることを予見したまでは聡明ではありますが、肝心の方法はモルジアナ任せな上、いざ危機が迫った段では無能といってもいい程だ。しっかり顔を見た筈の盗賊の頭領を二度までも家に上げてしまうどころか、危険を察知し頭領を倒したモルジアナを、そんな事情に気付かず叱り飛ばすのですからね。《わたしたち一家にわざわいをもたらすつもりなのか》とかなんとか。よりイスラム調だという平凡社のものでは、ひどく罵りさえするのです。けっこう汚い言葉でしたよ。

 よくもまあ、題に名前を出せたものだ。『烈女之名誉(れつじょのほまれ)』といいましたか、最初の邦訳につけられた題はモルジアナを取り上げていたようですが、なかなか懸命な改変だったのではないかな」
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:18:44.15 ID:tRJaplXx0
「ですが、そこで思い直しました。『アリババと四十人の盗賊』…… 一見して立派なものではない、努力をしているふうでも、さしたる活躍を見せさえもしない彼、アリババの名を冠するからには、この話はやはり彼の美徳を、そして対称的に盗賊たちの悪徳を語るものなのでは、と。これは『モルジアナの戦い』ではない。『魔法の宝窟』でも『開けゴマ』でもない。『アリババと、女奴隷に殺された四十人の盗賊』なのです。この題が意味するのは、アリババと盗賊、善と悪、成功と失敗、美徳による隆盛と悪徳による滅亡の、その対比…… なのでは、と。

 ガランがそれらを見出し題にしたのだとも、初めて聞いた時からこうだったのだとも、言い切れませんが、――彼は『ガラン版 千一夜物語』の一巻、『告知文』でこう書いています。《この物語集から美徳や悪徳をめぐる心得をひきだそうとするひとびとは、ほかの物語からは決して得られない実りを手にすることができるでしょう》」
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:19:11.87 ID:tRJaplXx0
「その文に続けて始まる枠物語=Aシェヘラザードが『アリババ』を含め、千夜一夜の物語を語るきっかけになった話では、彼女の父である宰相がこう述べています。《危ういくわだての行きつく果てを見抜けない者は不幸になると言う》…… 
 このことが、『アリババ』にも通じる教訓なのではないでしょうか」
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:19:52.49 ID:tRJaplXx0
「……過去に囚われない≠ニいうことだと思いました。あるいは未来へ歩むこと≠…… 未来を忘れない=Bそれがアリババの美徳なのだと。

 ロバを見捨てたのも、宝をくすねたのも、そして兄の死について、悼んだり驚いたりするばかりではなかったのも、アリババの精神の未来志向ゆえだ。それこそが、この物語の提唱する美徳≠ネのではないでしょうか。だからこそ、彼は富を手にしたし、命も守られた。それぞれの行動は、それによってもたらされる直接的な利益自体よりも、この物語独特の法則、見えざるものによる肯定、恩寵を呼ぶことでアリババを助けているのです。未来を忘れなかった=A危ういくわだての行きつく果てを見抜いた≠ゥら、富を得、命を救われた」
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:21:20.25 ID:tRJaplXx0
「そしてその逆、過去に囚われる≠ニいうことが…… その為に見抜けない≠ニいうことが、この物語の悪徳、裁かれるべき罪であり、《大きすぎる災厄》を引き起こす《ささいなきっかけ》なのですよ。

 より言うのなら、名誉≠ナす。プライド、自尊心…… 傷付けられた過去の名誉≠フ感情に拘泥し、それを回復することに囚われた者が、『アリババ』の世界では破滅するのです」
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:21:47.05 ID:tRJaplXx0
「アリババの兄カシムは、裕福な妻をもらったところから始め、街でも指折りの大商人として働いていました。貧乏な妻をもらったアリババとは比べものにならなかった。それが、升に残った一枚から推理したことで、アリババが大量の金貨を手にしたのだと知った時、彼は《どうしようもないほどの嫉妬にかられ》るのです。

 カシムはアリババを問い詰め、魔法の洞窟のこと、その入り口を開く呪文を聞き出し、宝を持ち出しに行きます。そして最期には、魔法の呪文、《開けゴマ》のことを忘れてしまった為、洞窟に閉じ込められ、帰って来た盗賊たちに殺されてしまいます。

 カシムは欲深いたちでした。しかし、その為に身を滅ぼしたのではありません。強欲には罰が下るという教訓話ならば、宝を載せすぎたあまり、牛が動かなくなったところへ盗賊がやって来る≠ニいったような最期の方が自然です。が、実際のところは、彼は洞窟を開く時には覚えていた呪文を、洞窟の中で忘れてしまった為に閉じ込められるのです。欲深いのが悪かったにしては、かえって奇妙な最期じゃないですか。そもそも、強欲なのはアリババも同じですよ。兄の亡骸を目の当たりにした直後でさえ、財宝に手を出すのですからね」

191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:23:03.79 ID:tRJaplXx0
「ガラン版ではしっかり覚えていましたが、平凡社のヴァルシー写本の訳では、アリババも魔法の呪文を忘れてしまっています。救いを求めて神への信仰告白を唱えると、たちまち頭がすっきりして思い出すのですね。

 このあたり、対照的なようではありませんか。こちらの版だと、呪文など忘れてしまうのが当然で、神への祈りによってかろうじて取り戻されるものなのです。
 翻るならば原型といえるガラン版では、魔法の言葉は覚えているのが当然で、見えざるものの裁きによって忘れ去られてしまうもの、というところでしょう。

 そして、そうして裁かれたカシムの罪は、強欲ではない。むしろ、傲慢さや嫉妬心の方です。
 カシムの悪徳は、アリババの兄として、彼よりも裕福でなければ我慢がならなかったことです。未来の為、自分が裕福になる為よりもむしろ、弟よりも多くの財産を持つ兄でいる為に、過去の優位、自尊心を取り戻す為に洞窟へ赴いたことです。自分が上、弟が下。そういう過去に囚われた。過去の名誉に囚われた。

 だから、魔法の言葉を奪われた……」
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:23:42.30 ID:tRJaplXx0
「盗賊たちは言うにも及ばない。奪われた宝に固執した。そして、これもまた自尊心です。盗賊たちはこの物語中、宝を集め、増やす事は考えていても、自分たちの欲の為に使う場面そのものは描かれていません。彼らにとって洞窟の金銀財宝は資産価値よりも、《先祖代々》《剣を手に勇士として》集めて来た、勇気や男気の証明、あるいは団としての絆、自負や誇りとしての意味を強く持ったのです。彼らは奪われた誇りの為にアリババを追い、踏みにじられた名誉≠取り戻す為に、彼への攻撃を試みた。

 だけれど、危ういくわだての行きつく果てを見抜けないものは、不幸になるのです」
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:24:09.06 ID:tRJaplXx0
「あらくれものの一人は尖兵として街へ出て、ムスタファ老の証言からアリババの家を突き止めます。しかし、近所に似た門を構えた家々があり見分けのつきにくい中、目的の家の門に襲撃の目印を付けて帰還した、それだけだったのがまずかった。印が消えてしまう可能性を見抜けなかったのですね。あるいは、モルジアナの知恵を。

 木を隠すなら森の中ですか、周囲の家々にも同じものを書き込むという彼女の工作によって、印という差異、情報は失われました。盗賊たちは街へ潜入しますが、結局アリババの家は分からずじまいです。仲間たちに無駄足を運ばせ、無闇な危険に晒したということで、尖兵役は取り決め通り処刑を宣告され、これを潔く受け入れます。

 次いで、もう一人の盗賊が同じ失敗を犯します。印の色を変えてみても、モルジアナには通用しないのでした」
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:24:38.16 ID:tRJaplXx0
「単なる怒り、処罰感情に任せて、ではありません。盗賊団としてやっていくために、仲間を破滅させかねない過ちを犯した者を許しておくわけにいかないのです。過ちを犯した方も、それを甘んじて受け入れないわけにいきませんでした。それは《男気》だとか《勇気》…… いわば、名誉の為に」
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:25:06.76 ID:tRJaplXx0
「そうやって二人の仲間を失ったところで、今度は頭領が街へ出向き、結局家の様子をよく見て覚えるという力技で、モルジアナに欺かれることなくアリババの所在を突き止めます。

 十九頭のラバに二つずつ、計三十八の袋を背負わせ、その内一つに油を、残りに三十七人の仲間たちを。そうして油商人に成り済ました頭領は、アリババ邸の扉を叩き、一晩の宿を請うのです。

 愚かなりや、あるいは鷹揚、ですけれど。命を狙われる身である事は重々承知の筈が、しかしアリババは客人の求めを快諾します。
 頭領は招き入れられ、まんまと三十七人の部下を侵入させた。中庭に袋の彼らを待たせ、頭領自身はアリババの歓待を受けます。そうして夜中、街が寝静まるのを見計って号令を掛け、誰にも邪魔を受けず、仇敵を散々にやっつけてしまう腹づもりだったのです。しかし……」
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:25:32.55 ID:tRJaplXx0
「アリババの美徳は未来志向だと言いましたが、気前のよさもまた、ここでは功を奏したのかもしれません。

 未来志向は、森で顔を見、声を聞いた筈の頭領のことを――ともすれば、自分が命を狙われる身である事さえも――すっかり忘れ、突然訪ねて来た客人を招き入れた事。断っていたら、安全で時間を掛けられる方法を諦めさせ、正面からの攻撃を強行されてしまったかもしれません。

 気前のよさは、にせの油商人を心からもてなし、中庭で休もうとしていた彼に、強く客間を勧めた事。そうして頭領が部下たちと分かれて休んでいなければ、モルジアナがすることも阻まれていたでしょうからね」
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:26:02.04 ID:tRJaplXx0
「これも神の救いでしょう、たまたま油が切れたので、後で代金を払えばいいやという大らかさは主人譲りか、同じ奴隷アブダッラーの助言を受け、モルジアナは中庭へ拝借しに向かいます。

 そこで、頭領がやって来たと勘違いし、袋の盗賊がモルジアナに声を掛けました。彼女は驚きますが、咄嗟の機転で頭領を装い、盗賊を待機させておきます。

 彼らが顔を出せなかったのは作戦の瑕疵でしたね。袋は中身がバレないよう、息の出来る程度に締めておき、頭領から小石を投げつけるという合図があれば、ナイフで内から切り裂き、飛び出す計画だったのです。一度出るとなれば隠れ蓑を台無しにするしかない以上、いざ襲撃という折までは外の様子を確認することも出来なかった。だからモルジアナに騙され、三十七人の盗賊が身動きの取れないままで主人を狙っているという情報を、一方的に与えることになった。

 アリババを騙す為に、一つの袋だけ本当に油を入れておいたのも、仇になりました。これをモルジアナに利用されてしまいます。釜煎りならぬ、袋煎りですね」
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:26:34.39 ID:tRJaplXx0
「しかし、モルジアナは骨を折ったでしょう。大勢の盗賊たちを、袋に小石が当たる以上の異変に気付かせないまま始末しなければならなかったんですから。長刀で首を、というならともかく、熱した油を注ぐというやり方では、いくらか悲鳴を上げられてしまいそうですが。

 トリックのオンパレードともいわれるロジカルな筋書きにおいて、しかしガランはこの油攻撃のあたりを詳述していません。聞かされなかったのか、考えつかなかったのか、あるいは彼がいう所の《礼儀に反する》内容だったので記載を避けたのか。

 ……ひとつ考えてみたのですが、モルジアナは再び頭領を真似たのではないでしょうか。《見つかりそうだ、一度隠すぞ》とでも囁いて、盗賊の入った袋を力一杯に締めてしまうのです。《誤魔化しの為だ》と言い添えて、ラバの糞を滑り込ませるなどしてやれば、なお結構です。中の者が酸素の欠乏に、また臭いに我慢ならなくなるのを見計らって、《もういいぞ》と袋を開けてやれば……

 彼らは溺れたように、袋の出口に、とりもなおさずモルジアナに向けて大口を開けたでしょう――ただし新鮮な空気ではなく、ぐつぐつの油を飲む為に。真っ先に喉を潰せると思います」
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:27:03.54 ID:tRJaplXx0
「襲いに来たつもりが、手痛い反撃を受け、盗賊団は壊滅しました。しかし、被害が甚大すぎましたね。やり方の効率が悪かったのです。ややこしい侵入法を選んで、三十八人全員で乗り込んだりするから、かえって足元を掬われた。

 アリババ邸は分かったのだから、正面から襲いかかり疾く住民を皆殺し、あわよくばその前にちょっと拷問しておいて、盗まれた宝を探し出してしまったら、憲兵がやってくる前に魔法の洞窟へずらかればよかった。実際、二人の案内役が失敗を犯すまでは、彼らは殆どそういう風にするつもりだった筈です。それまでの二回は油商人を装うような綿密な計画など練らず、まず街へ向かうのですからね。

 事情が変わったのはきっと、二人の失敗があったから。ただの強盗では済まされなくなったから。アリババの前に三十八人で姿を見せる必要が生まれたから。何となれば、盗賊団としてやっていく為に。結束の為に。名誉の為に。

 アリババ――つまり、モルジアナ――の警戒を侮ってはいけないと悟ったのもあったでしょうが、それよりも、いえ、だからこそ、知らしめてやらなければならなかったのです。宝を奪われた。仲間を失った。やられたらやりかえさなくてはならなかった。三十八人でアリババを囲んで、じっくりと知らしめてやらなければならなかった。彼が何をしたのかを、何を奪ったのかを。相手にしたものの脅威を、盗賊団の権威と力量を。

 その尊厳への固執が、彼らに破滅を呼んだ」
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:27:35.31 ID:tRJaplXx0
「三十七の五右衛門風呂にペルシアの盗賊たちを処してしまうと、モルジアナは息を潜め、頭領の様子を伺います。温情や詰めの甘さからではありません。アリババが山で会ったらしい四十という人数から、まだ仲間が潜んでいる可能性を考慮し、差し引きの二人も誘き出し、一味を完全に一網打尽とする算段だったのです。

 結果的には、そこで頭領を始末してしまってもよかったのですね。全ての仲間を失い、たった一人で生き残ったことを察した頭領は、命からがらアリババ邸を逃げ出します」
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:28:03.93 ID:tRJaplXx0
「モルジアナは主人に盗賊たちの亡骸を見せつけ、自分がどれだけ働いたのかを示しました。アリババは感謝し、彼女を奴隷の身分から解放します。

 といっても当時の文化からして、解放されたらさようなら、とはならないのですね。解放されれば、社会身分上は自由人と同じく扱われるようになりますが、そのまま主人の元で解放奴隷として奉公を続ける場合も多かった。モルジアナもまた、台所を受け持つ料理人としてアリババの元に残ります」
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:28:38.99 ID:tRJaplXx0
「一方、頭領は独り生き残り、部下たちの無念を想って悲嘆にくれます。後継ぎを決めて宝を託すことにすると、アリババの命を奪うことをかたく誓い、今度は洞窟の財宝を利用して商いを始めます。そして、これはたまたまだったのですが、アリババの息子と知り合った。彼が仇敵の息子であるのを知ると計画の為、ますます懇意になるのです。やがて思惑通り、アリババの家に招待を受ける日がやって来た。

 ここまでは上手くいっている。神の同情的な手配といってもいいかもしれない。さすがに酷くやられすぎましたからね。
 それに彼は、洞窟でこう独白している。《二度と宝を盗まれないと安心出来たら、そのときは、後つぎを決めて宝を託そう。そうなれば、後につづく者たちが宝を守り増やしていくだろう》。……未来志向、といえるでしょう。復讐よりも、過去の名誉を回復するよりも、未来の為、後続の為に頭領としての最後の仕事を決意した。この時、彼は美徳を手にしていたのです。だから、再びアリババの家に潜入することが許された」
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:29:13.57 ID:tRJaplXx0
「しかし、そこは悪役でした。結局は悪徳が、過去への拘りが、彼を滅ぼすのですね。彼にはこの仕事を、復讐でなくすることは出来なかった。

 塩、です。ギリシャなどでもそうでしたが、ここでは塩は歓待や友情の象徴であり、共食したものとは争えないのだそうで。《仇と一緒に塩は食べない》のです。

 頭領は、アリババが敵である事を忘れられなかった。単に始末すべき、害虫のようなこそ泥とは思えなかった。仲間を失ってボロボロになっても、名誉ある剣士として戦わずにはいられなかった。だから彼の家に招待を受けた時も、料理から塩を抜いてくれるように頼んでしまったのです。

 モルジアナはそれを奇妙に感じ、客の商人がかつて主人を襲いにやってきた盗賊であることを見抜いた。一通りもてなすと、食後の楽しみに、本職顔負けの踊りを披露する。そして隙を見て、短刀で頭領を刺してしまいました。

 頭領は三十七人の部下たちと共に埋められ、こうして盗賊団は、最後の一人に至るまで完全に滅びきったのです」
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:29:45.79 ID:tRJaplXx0
「アリババは、自分に出来る充分な感謝として、モルジアナを義理の娘、息子の嫁として迎え、厳粛かつ盛大な宴で祝います。それから暫くは近寄りませんでしたが、二人生き残っていると思われた盗賊たちに動きが見られないので、魔法の洞窟に向かってみます。洞窟に誰も立ち寄っていないのを確かめると、いよいよ財宝は全てアリババのものとなったのが分かりました。

 そして彼は息子に洞窟の存在と魔法の呪文を授け、一族は末永く栄えたのです。

 これが、未来志向のアリババと過去志向の盗賊たちの対比、美徳と悪徳、隆盛と滅亡の物語です」
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:30:13.18 ID:tRJaplXx0
「さて。なんだか、余計な屁理屈をこねたかも。要はモルジアナの話が出来れば十分だったのですが。

 幸せなのか、と思うのです。というのも最後、結婚の祝宴ですが、私が参加する演劇ではこの四行のシーンを膨らませ、《私は幸せでございます》と言う事になっている。こんなことを言わせて、いえ、言ってしまっていいものなのか。

 確かに、敵は倒しました。今の主人には奴隷の身分を解放され、正式に家族として迎え入れてもらった。しかもその家は多くの財宝を所有する、末永く栄えていく名家です。この上ない名誉であったでしょう。

 ですがカシムを、元の主人を奪われた事実は変わりません。彼女は己の力不足を嘆かなかったのか? 主人に尽くす者としての名誉を傷つけられた、叶わないながらそれを回復したいとは? そうして仇を討ったところで戻らぬ主人を想い、《復讐などしても虚しいだけ》とは感じなかったのか? それとも、やってしまえばすっきりしたので幸せになれたのでしょうか?

 私には分かりませんでした。思索の始端が自分のこころなのでは、次の足場も探し難い。
 だから、美徳と悪徳に照らしたのです。これも自分の考えだとしても、方法論ならば頼み得る」
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:30:58.13 ID:tRJaplXx0
「モルジアナがめざましい働きを見せ、実質的に物語を牽引しながらも主人公たり得なかったのは、何故でしょう? 彼女が奴隷だからでしょうか? イスラムの文化では、同じイスラム教徒は奴隷に出来ないようですが、すなわちモルジアナは敬虔な神のしもべでないのだから、題に引くのは相応しくないと?

 この命題は、ガラン版ひとつにおいても『ヌールッディーン・アリーとペルシアの美姫の話』という反例から偽であると分かります。イスラムの文化において、少なくともその教義において、奴隷は蔑まれる存在ではありませんし、物語の主役であればその名は打ち出されるものなのです。

 やはり、これは美徳の問題ではないかと。『アリババと、女奴隷に殺された四十人の盗賊』は、最も優れた美徳を持つ者と、対置して悪徳を持つ者を題にとっているのです。モルジアナは誰から見ても素晴らしい才女でしたが、この物語においては、美徳という点でアリババに譲るのです。

 モルジアナはアリババほど未来志向ではなかったのだと思います。主人であるカシムの命を奪われた時、心の何処かに復讐を誓った。その悪徳が災禍の萌芽となって、彼女をあのババ・ムスタファと引き合わせた」
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:31:35.51 ID:tRJaplXx0
「アリババは、魔法の洞窟からカシムのバラバラにされた遺体を持ち帰ると、彼の死因を隠蔽する必要がある事をモルジアナに告げます。もちろん、事実が噂になれば、すぐ盗賊に自分の存在を突き止められてしまいますからね。

 モルジアナは知恵を絞り、数日をかけて主人が病に伏せっているという噂を流すと、次いで朝早く、一番に店を開ける靴屋へ向かいます。年老いた店主に金貨を握らせ、目隠しを施し、何処に行くのか分からないよう連れ出すと、カシムの亡骸を縫わせるのです。そうして形を整えて誤魔化し、病気で亡くなった事にして、イスラム教のやり方でその遺骸を清めると、葬儀を行いました。計画は思ったように立ち行き、もう足も付かなくなったものと思われました。

 そこからの騒動は、まさに神懸かり的な悪運か、落とし穴だといってもいい」
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:32:08.64 ID:tRJaplXx0
「念には念を入れていたのです。朝一番、誰にも見られぬように連れ出し、目隠しをし、口止めをした。家に送り返した時には、後を付けられないよう暫く見張った。年老いた靴屋からアリババの家が割れる心配のないように。

 ところがこのお調子者のババ・ムスタファは、変装した盗賊が街へやって来ると、死体を縫った仕事について喋ってしまいます。それをやった家までは目隠しをしていたので教えられないと断るも、もう一度目隠しをすることで、なんと、歩いた道を再現してしまうのです。しかも三回同じことを、全て正確に。もはや必然的に、ムスタファ老によって、盗賊たちはアリババを襲う足掛かりを得た。

 もちろんモルジアナにとっても、誰にとっても予想出来ない事でしょう。一方はゴマ≠フ一言をすっかり忘れてしまう物語で、他方は目隠しをされて一度、せいぜい一往復歩いただけの道を、完全に記憶してしまうなどというのは。

 話としてもつまらないぐらいでしょう。モルジアナの念入りな工作をつぶさに描いて、読者の期待を煽るようにしながら、それを破るのがミスだとか、より裏をかく計略なのではなく、単なる超人的な記憶力だった、なんて。ロナルド・ノックスがミステリーに《中国人を登場させてはならない》としたのは、まったく、こういうわけだったからだ。
 この不運が巡り合わせだというなら、あまりに神懸かり……  筋書き懸かり、でしょう。平凡社のものに、それこそ《神慮の致すところ》とあるように。これは、モルジアナが抱いた悪徳によって導かれた結果なのではないかと思うのです」
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:32:52.92 ID:tRJaplXx0
「先程、カシムが悪徳によって魔法の言葉を奪われた、としました。ヴァルシー写本のアリババが信仰で言葉を取り戻した事に照らして、これは美徳によって見えざるものの肯定を、悪徳によって否定を受ける物語なのだ、と。ムスタファ老にも同じことが行われたのではないでしょうか。

 ムスタファ老は少なくとも、並外れた記憶力の持ち主として物語に登場したわけではありません。ですから、元々それを持っていたわけではなく、悪徳を持った者へ下る裁きの為に、経路≠ノついてのみ盤石の記憶を与えられた、と考えることも可能です。それが彼の奇跡のような記憶力の正体だったと。

 カシムが嫉妬の為に、盗賊たちが誇りの為に、総じて傷付けられた名誉への固執という悪徳の為に滅んだように、この筋書きにおいて、悪因が悪果をもたらすならば、悪果は悪因がもたらすものと前提するならば、そしてこの物語の悪因≠ニは悪徳を抱くこと≠セとするならば、ムスタファ老が盗賊を導くという悪果は、アリババやモルジアナの側で、誰かが悪徳を抱いたという悪因が導いたものだといえるでしょう。そしてアリババは一貫して美徳の象徴であり、彼が考えを変えるような場面はこの物語にはありません。

 だから、彼女には悪徳があった。美しい奴隷モルジアナは、主人を奪われ、名誉に、誇りにかけて復讐を望んだのです」
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:33:20.41 ID:tRJaplXx0
「それと明示する描写はないところからの、こういう仮説形成になりましたが、モルジアナは復讐心を抱いたのですよ。だから本来、滅ぶ側の存在だったのです。

 ですが、最後には打ち勝った。

 モルジアナはどこかで美徳、未来志向を手に入れたのだといえる筈です。悪徳を、過去の名誉を、復讐を振り切って、未来の為に戦ったのだと。その為に見えざるものの恵みを、筋書きの肯定を享受したのだと。なにぶん結局、彼女は滅ばずに済んだ。魔法の言葉を奪われることも、盗賊たちの策謀を破れず倒されるということもなかったのですから。

 ……どこで、手に入れたのか」
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:33:48.76 ID:tRJaplXx0
「前に、邦画を見ました。アイドルの仕事の幅を見ようという事で、男性アイドルではありましたが、その主演の映画。で、国会議員の葬儀を行うシーンがありました。けっこう豪華な式場で、参列者も大勢なのですが、中には大袈裟に、一定の節や旋律のようなものを付けながら、嘆き悲しんで葬儀を、…… まあ、盛り上げる、ような。そういう役割をこなす人々が居たのです。記憶に残りました、偉い人だと葬儀はああいうものになるのか、と。泣き女、というやつですね。

 『アリババ』にも、これが登場します。カシムの葬儀です。モルジアナもカシムの妻も、悲痛な声を上げ、髪をかきむしる。それから、別の女たちも駆けつけ、遺族と共に泣き叫び、悲しみの声であたりを満たす。そういう《しきたりなのです》。平凡社のものでは、同じシーンに注釈が付けられています。駆けつけたという女性たちについて、彼女らが《ナーイハート、泣き女》である、と。《ナーイハ》が泣き女を意味し、《ナーイハート》は複数形になります。

 ですが、この泣き女≠ノは謎がある」
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:34:42.22 ID:tRJaplXx0
「イスラム教では、不幸に際し、その故人の為に泣き叫んで悲しむことを戒めています。
 人は神の定めた運命による死を迎えると、墓穴の中で終末の審判を待つ。死は来世への通過点なのです。そしてこの定命∞来世≠ニいうのが、ムスリムの信ずべき六つの条項、六信≠フ要素なのですね。

 死は神に与えられるものであり、また、完全なる終わりではない。だから、感情のままに涙を流すことをまでは戒められませんが、泣き叫び、髪を掻き毟ったりするやり方で強く悲しみを表現することは、神の定命=A来世≠ヨの不信仰だ、という事になるのです。

 イスラム教第二の聖典とされ、第一の『コーラン』の内容を具体的に注釈する役割を持つ伝承集、ハディース≠ナすが、イスラム教スンナ派にとって最も権威あるハディース『真正集』の『葬礼の書』でも、不幸に臨んで泣きわめいたり、叫んだりすることは禁じられています。預言者ムハンマドは、女性たちが泣き叫ぶのを《口に土を放り込》んで止めろ、とまで言います。預言者の伝えることには、《死者は家族がそのために嘆き悲しむことのゆえに罰を受ける》のです。

 つまり『アリババ』にあるような、不幸に際し、髪をかきむしり、泣き女を雇ったりして悲痛な声であたりに故人の死を知らせるようなやり方は、まったくイスラム的ではない筈なのです。このやり方、泣き女の慣習は、アラブ社会、エジプトやアラビア半島の、ただしイスラム以前のものでした」
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:35:08.75 ID:tRJaplXx0
「しかし、イスラムの教えに反する内容だからといって、このシーンがガランの誤解や完全な創作によって生まれたものだとはいえません。

 十世紀のムスリム、アル・ハマザーニーによるマカーマート≠ナはイラク、十一世紀のアル・ハリーリーのものではペルシャ、十九世紀の紀行文、ジェラール・ド・ネルヴァルの『東方紀行』によればエジプトと、イスラム圏各地の風俗を窺える記述に、泣き女を雇って悲しみを表す人々が登場するのです。立場や地域差もあるのでしょうが、実際、ムスリムの人々も不幸には泣き叫ぶものなのです。

 この背反には、きっと意味がある。

 伝承される預言者の教えとは裏腹に、市井の人は故人との別れを、思うさま泣き叫び、衣を裂き、髪を掻きむしって悲しんだ。きっとそれが、必要なことだったから。

 遺された者に、……モルジアナに、必要だったから」
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:35:44.72 ID:tRJaplXx0
「グリーフワーク≠ナす。死別という悲嘆に打ちのめされ、受け止め、向き合い、立ち直っていく、そのプロセス。

 悲しみに頬を打ち、大勢で声を上げることを、人々は本能的にさえ必要とした。そうやって、愛する者の死を明らかなものとして認め、受け入れることが必要だった。

 預言者ムハンマドのように強ければ、静かに涙を流し、あるいは長い間引きこもるというやり方で悲しみと向き合うことも出来たのでしょう。しかし、そうでない人々は、やはり嘆かずにいられなかった。泣き女に悲しみの誘いを受けることが、故人との別れを実感することや、やがて立ち直っていくことに大きな効果をもたらしたのです。

 そして、この受容の方法を『アリババ』の物語も必要とした」
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:36:16.14 ID:tRJaplXx0
「泣き叫んだのは《しきたりなのです》とありました。だから一読、モルジアナは悲しんだわけではないのか、との印象を受けました。あくまでアリババに頼まれた仕事、盗賊の追跡を振り切る作戦として、カシムの葬儀を取りなし、しきたりの為に泣いて見せたのか、と。

 ですが、やはりモルジアナは、心から泣き叫んだのではないでしょうか。内に抱えた悲嘆の発露として、主人との離別を受容するプロセスとして。

 深い悲しみに際し、しっかりと感情を表した。泣いて、喚いて、髪を掻き毟って、それでようやく、別れを乗り越える為に、踏み出すことが出来た。……時を、動かした」
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:36:44.69 ID:tRJaplXx0
「そして、今度はアリババを守ることに全てを捧げると誓った。未来へ向き直ったのです。彼女は悲しみを受け入れた。悲しみに抗うことを辞めたのです。そうやって美徳を手に入れた。主人を守れなかった自責、過去の名誉への拘りを乗り越えた。

 だから、モルジアナは盗賊たちに打ち勝ったのです。彼女は悲嘆を受け入れ、しっかり向き合った。だから、本当の名誉を手に入れた。

 この物語のハッピーエンドは、そういう仕掛けだったのです」
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:37:17.61 ID:tRJaplXx0
「冗長だったようですが、それが私の考えです。
 この物語では、過去の名誉という感情に拘ることは重い罪となる悪徳だった。カシムも盗賊も、その呪いに抗えなかった。
 モルジアナさえ囚われた。だけど、彼女は生き残った。きちんと泣いて、振り切ったから。
 
 だから、――

218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:37:43.49 ID:tRJaplXx0
  
 だからモルジアナは、幸せだったと思います。幸せになっていいんです。
 
 だってこれは、きっと、自分が幸せになることを許す為の物語なんだから」
 
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:38:12.35 ID:tRJaplXx0
  
 
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 
 
 喉が渇いた。ミネラルウォーターでも買おう、と思う。もう日が暮れるようだ。付き合わせてしまったな、と文香を見遣れば、彼女はまだ耳を傾けているようだった。

 終わったことを告げようとして、文香が待っているものに気付く。自明のことなので、忘れていた。これで決まりとばかり、口を開く。
「劇の最後、ですね。《幸せです》と、言おうと思います。新たな答えなど必要なかった。ただ向き合わなければならなかっただけで」
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:40:11.95 ID:tRJaplXx0
 文香は安心したように目を細め、深く頷いた。耳に掛かった髪が滑り、落ちる。まるで絹だ。
 彼女はゆっくりと、囁く準備のように首を突き出し、しかし千夜の耳には程遠い空に、夢見心地の言葉を紡ぐ。

「私は…… 自分で言うのも、ですけれど…… はい、読書家、だと。
 ですが、どれだけの書を読み耽っても、今、千夜さんが仰ったような結論には、辿り着けなかったと思います。それは、千夜さんが見つけた、千夜さんだからこそ辿り着けた答え、だと。……とても愉しく、愛おしい物語でした。
 それで…… 私も、千夜さんが仰ることに、賛成です。
 モルジアナは、確かに幸福だったのだと、思います」

 振り返り、例の蒼い瞳を真っ直ぐに向けて来る。ちょっと見つめ返してはいられなかった。浮かんだ言葉を伝えようか伝えまいか、逡巡した。
「お嬢様のおかげなんです」
 つい、ベンチを掴む。手袋越しの、擦れるような肌ざわりが違和感を生んだ。鼻に息を吸い、ちょっと冷えてきたかな、と思う。
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:40:37.64 ID:tRJaplXx0
「昔、焼いたクッキーを落として割りました。それを見ていると、どうしてだか気味悪くなって、虚しくなりました。だけど、本当の気持ちは他にありました。……お嬢様が笑ってくれたんです。《増えたね》と。
 その時、私は許されました。悲しくなれました。
 私は悲しかったんです。頑張って焼いたクッキーを落としてしまって、悲しかったんです。
 私は愚かにも、自分の失敗に立ち向かおうとしていました。緊張しながら、折れたクッキーをじっと睨んでいたんです。それを、お嬢様が笑ってくれて、ようやく許されたんです。お嬢様のおかげでようやく、否認を奪われ、私は悲しい思いがある事と、向き合うことが出来たんです」 
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:41:21.01 ID:tRJaplXx0
 空気がしん、と澄み渡った。声は静かな世界に放りだされて、その跳ね返りもなく、なんだか独り言のようだと思った。隣に顔を向ければ、そうでない事が分かった。

 そこに居ますね、と眼で認めてくれていた。
 ここに居ますよ、と笑って返した。
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:41:49.12 ID:tRJaplXx0
Epilogue――
 
 一ノ瀬志希を捕まえた。志希が捕まってくれた、の方が正しいのだと思う。どっちであろうと構わない。眼目はこうだ、今までのらりくらりと躱されてきたが、
「ようやく話が出来そうですね」

 大勢のスタッフや出演者が行き交い、舞台裏の作業も騒々しく進められていく。最後のランスルーを終えたまま、紅に白に煌びやかな宝石や絹らしき深翠のローブを纏った志希が答える。

「あたしはいつでもウェルカムだけどにゃー?」
「どうだか。まずはこれです」

 真ん中で割られ、半月型となった金貨を見せた。
 志希に仕掛けられ都と共に解いた、蟻の暗号に示されたロッカー≠ヨ向かうと、そこには新たな暗号が用意されていた。それを解いたらまた次、と、幾つもの謎を乗り越えた先にあったのが、二つに割られた、金貨——を模した小道具、鉄のメッキ加工——だ。
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:42:22.43 ID:tRJaplXx0
「舞台のですね。くすねたのですか?」
「にゃはは」

 都の提案で、記念に二人で片割れずつ持っておくことにした。だが、そうするべきだったのか、志希の真意を今日まで聞きそびれていた。
「幾つもの暗号の先、貴女はこの金貨にどんな意味を込めたのですか」
「んん、…… それはキミが手にしたモノの象徴に過ぎないのだよん」
「……絆、とでも?」
「That’s right! 艱難辛苦を共に乗り越えた仲間との堅い、絆! それこそがひとつなぎの大秘宝だったのだ!
 ワオ、友情・努力・勝利!」
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:43:06.24 ID:tRJaplXx0
「特に意味はない、ということですね。そんな気はしていました。それで、もう一つ謎が解けたのですよ」
「ふむふむ。シンリの探究は断らないよん?」
「あの日、私のスマートフォンの電源が切られていました。おかげで頼子さんのメッセージに気付くのが遅れるところでした。志希さん、貴女がやったのですね。貴女なりの、失踪というやつの方法論を実践させる為に」
「ほうほう?」
「私に何らかの連絡が来る事は容易に見越せたでしょう。貴女はその連絡に、私が気持ちの切り替えをつけるまでは気付かないように仕組んだ」
「んー、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。真相はそう、昨日のお晩のメニューが如く忘却の彼方なのだ」
「かつて嵐だった虹、ですか」
「あっ、エビチリだー♪」

「エビチリ?」
「バーガー」
「……昨日の御夕飯にエビチリハンバーガーを召し上がったか存じませんけれど。貴女が言ったのですよ、《イマ》は十二時に解ける魔法だと」
「うん」
「私は賛同しかねます」

「そう?」
「ええ」
「にゃはは、あたしフラれちゃった?」
「ええ」
「その割りには熱っぽい眼差し…… 本気を試すのにまず一回断るタイプだな?」
「は?」
「All right♪ ミワクの足し割り≠楽しもー♪」
「それは駆け引き=A…… いや、もうご自由に……」
「千夜さん、届きましたよ」
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:43:58.95 ID:tRJaplXx0
 そこへ頼子がやって来た。手には千夜が着る紅と金のショール。笑んでそのまま、着せてくれた。
「本番には間に合いましたね」
 腕を通しながら、頷く。時間を掛けただけはあるというところか、仕上がりがいい。志希が見て、言う。
「んん? にゃはは、イイカンジ」
「それは、似合うということですか?」
「ふふ、お似合いですよ」
「それとも――」
「はいみんな、集合〜」

 演出家の声が掛かり、一同円になる。
 所狭しと歪な形に、もう見知った顔がずらりと並ぶ。こうして眺めていると、本当に人というのは様々だ。アイドルや役者であれば尚更か。
「さあ、頑張っていきましょうね!」
 隣で都が言った。半月の金貨は首からぶら下がっている。
「大まかなことは、まあさっきのリハで言っちゃったよね。じゃあ今日からの本番、頑張ってこうぜ。あ、これも二回目か。
 で…… じゃあ組んで、何か一声掛けてもらおっか。主役の安斎さん!」
「はい!」
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:44:30.15 ID:tRJaplXx0
「にゃは、決めちゃえ〜」
「お願いしますね、都ちゃん」
「ぶちかましたれェあうるさいですか」
「それでは、ええと…… よし!」

 少し悩み、閃いた、とばかりに眼を輝かせ、気合たっぷりの様子で息を吸い込む。さあいざ、――というところで、都は目を点にして、何かに気を取られる様子を見せた。

 訝しげに鼻を動かしながら、千夜の方へ顔を寄せる。
「おや? くんくん……」
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:45:05.95 ID:tRJaplXx0
 
 
「メロンの香りがしますね!」
「お好きでしょう?」
 

――“Meet Me On The Roof”
 
 
おしまい!
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/02(水) 02:46:44.50 ID:tRJaplXx0
出典まとめるの忘れてました! あとで!
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/12/02(水) 10:08:15.65 ID:sNyDelXH0
大作乙でした!
読み応え抜群で楽しかったです
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/03(木) 01:10:10.63 ID:yZ8aBbn90
>>230

ご感想ありがとうございます!
楽しんで頂けたという事で、うれしいです!
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/03(木) 01:11:12.37 ID:yZ8aBbn90
主な出典:

前嶋信次訳(1985)『アラビアンナイト 別巻』平凡社.
ロバート・アーウィン(1998)『必携アラビアン・ナイト―物語の迷宮へ』(西尾哲夫訳)平凡社.
西尾哲夫(2007)『アラビアンナイト―文明のはざまに生まれた物語』岩波書店.
西尾哲夫(2011)『世界史の中のアラビアンナイト』NHKブックス.
西尾哲夫訳(2019-2020)『ガラン版 千一夜物語(1-6)』岩波書店.
矢島文夫(2015)『アラビアン・ナイト99の謎』株式会社PHP研究所.
牧野信也訳(2001)『ハディースU―イスラーム伝承集成』中央公論新社.
アル・ハリーリー(2008)『マカ―マート―中世アラブの語り物(1)』(堀内勝訳)平凡社.

西尾哲夫(2010-10-01)『アラビアンナイト:ファンタジーの源流を探る
第5回:アリババと四十人の盗賊(pdf)』
国立民族学博物館学術情報リポジトリ(みんぱくリポジトリ).
ttps://minpaku.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=
repository_view_main_item_detail&item_id=321&item_no=1&page_id=13&block_id=21

日本グリーフケア協会(閲覧:2020-12-2)『グリーフケアとは』
ttps://www.grief-care.org/about/

日本アハマディア・ムスリム協会(2015-05-03)『葬式(イスラーム方式)』
ttps://www.ahmadiyya-islam.org/jp/%E8%AB%96%E8%AA%AC/%E8%
91%AC%E5%BC%8F%EF%BC%88%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%
A9%E3%83%BC%E3%83%A0%E6%96%B9%E5%BC%8F%EF%BC%89/

西山由紀 (2001-11-1) 『『東方旅行記』における旅の空間と祝祭 (pdf)』現代社会文化研究.
ttps://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_3498643_po_22NsymY.pdf?contentNo=1&alternativeNo=

堀内勝(2014-03-14)『<原典翻訳>アル・ハマザーニー著『マカ―マート』(3):第36話-第51話・「終わり」に代えて』
京都大学学術情報リポジトリ(KURENAI).
ttps://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/185812/1/I.A.S_007_369.pdf

ほか
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/12/03(木) 01:13:49.62 ID:yZ8aBbn90
以上で書き込み終わります。読んでくださった方、ありがとうございます!
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2020/12/03(木) 22:26:35.69 ID:YnfZoXnVO
加藤純一(うんこちゃん) Youtubelive

プログラマー衛門制作
視聴者参加型フリーゲーム

『Undertale/アンダーテール』
パロディ作品

『加藤純一物語(加藤純一Tale)』
配信:後編

『視聴者が600時間かけて作りし
加藤純一TALEをやる。最終回』
(21:32〜放送開始)

https://youtu.be/QURXI6muEtY
183.06 KB Speed:0.1   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 新着レスを表示
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)