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【艦これ】流れ者と艦娘
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1 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/22(日) 21:57:18.96 ID:rwgLxUNo0
SS初投稿です
よろしくお願いします
注意事項
・独自解釈
・オシジナル武装
・時折戦闘がやたら泥臭い
・地の文多め
これらが許容できない方はお引き取り下さい
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1606049838
2 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/22(日) 21:58:55.83 ID:rwgLxUNo0
霧立ち込める海、身が折れ体が沈む
敵の姿は見えない
だがそれでも私は最後まで抵抗を続けた
生に縋りつくためでなく一矢報いるため
その執念が実を結んだか否かそれを私が知ることは遂になかった
何故なら私はそこで―――――――
3 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/22(日) 22:01:02.44 ID:rwgLxUNo0
醒めることのないはずの永い眠りから醒めた
混乱する私に目の前の少女は手を差し伸べた
『こんにちは、新人さん。私の言葉は解る?』
『そっか、ならよかった。ねぇ、貴女の名前はなんて言うの?』
『戸惑ってるの?...ま、仕方ないかな?』
『とにかく歓迎するわよ、私達の鎮守府はいいところよ!』
少し騒がしいけど優しくて安心する声
その声の持ち主は≪手≫を引っ張ってきた
「―――え?」
この手は誰の手?
私であるはずがない、だって私は―――
『―――懐かしいなぁ、この感じ...私も最初こんな感じだったから』
『貴女は私と同じ艦娘、かつての軍艦―――あー、狭義だと駆逐艦は違うか』
『戦いに身を投じた船の生まれ変わりなのよ』
『いま世界はもう一度私達の力を必要としているの』
『だから一緒に戦いましょう』
4 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/22(日) 22:02:41.89 ID:rwgLxUNo0
再び生を与えられ一刻はたっただろうか
今も手を引かれ曳航され続けているがなんとも奇妙な感じは拭えない
かつて私と共に戦った勇ましくも哀しく散っていった数多の戦友と同じ姿
まさか私がその戦友達と同じ姿になるとは思わなかった
何の因果か解らないがこの姿になったのだから彼らの分も含めて今度こそ生き―――――
『随分空も海も荒れてきたわね...鎮守府はまだ遠いのに―――っ!?』
『敵襲!?11時の方向敵潜水艦多数!』
『まさか疲弊した帰投時を待ち伏せるなんて...』
『撃破出来るほどの弾薬は残っていないわ―――機関一杯!なんとか振り切るわよ!!』
5 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/22(日) 22:03:45.91 ID:rwgLxUNo0
潜水艦?
そうだ、あの時も潜水艦に...いやだ―――また同じことなんて絶対に嫌だ!!
『さ、貴女。しっかり握ってて、絶対に手を離しちゃダメよ?』
せっかく生き返れたんだ!もう二度とあんな思いはしたくない!
この手を離すもんか!
『貴女大丈夫!?まだまだ攻撃は続きそうだけ――あっ!?』
6 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/22(日) 22:05:18.21 ID:rwgLxUNo0
突然間近に水柱と共に炸裂音
(―――!!)
体幹が大きくブレる
けど手だけは離していない、どんな事があって―――
『―――!!・・・!』
あれ?
何で手をつないでいるはずのあの人があんなに遠くにいるの?
何であの人は誰とも手をつないでいないの?
何で私の握っている手は手首から先が無いの?
何であの人が伸ばしている手に近づくことが出来ないの?
何で息ができないの?
何で私は―――――
7 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/22(日) 22:05:53.88 ID:rwgLxUNo0
――――――生き返ったの?
8 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/22(日) 22:07:26.91 ID:rwgLxUNo0
三度永い眠りから―――違う!
これはまだ続いている!!
「―――ぁ―――が―――ぐげえぇ...ガボッ!げほっ!」
飲み込みかけた海水を咳込みながら何とか吐き出す
目も痛い、喉も痛い、呼吸だってまともにできない
「はぁっ!はぁっ!―――げほっ!」
私の手が掴むのは持ち主を離れた手ではなく辛うじて彼女を支えられる浮き木
気絶している間に何があったのか、何故気絶から回復できたのか
解らない事だらけだがこれだけは解る
(まだ...生きてる...!)
9 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/22(日) 22:08:39.28 ID:rwgLxUNo0
だが状況は好転どころか悪化している
天候、海況が気絶する前よりさらに数段激しいものになっており
結構な時間意識が飛んでいただろうと容易に想像できる
だから『自分の手を曳いてくれた少女が近くに居て助けに―――』
そんな事は期待できないだろう
生き延びたはずがこの苦難続き
荒れる海はあまりに広く、掴む浮き木はあまりに頼りない
あがいて絶望するよりいっそのこと楽になる方が賢明かもしれない
もっとも、介錯してくれる友軍も敵艦もいないのだが
それでも尚、彼女はあきらめない
僅かでも可能性があるのなら無様でも滑稽でも―――
(生きるっ、何としても・・・!)
前世の最期とは打って変わって我武者羅な生への執念を燃やす
これが彼女の二度目となる戦いの幕開けとなった
10 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/22(日) 22:10:06.39 ID:rwgLxUNo0
日差しはない、だが『生憎の天気』と言うより寧ろ『良い天気』かもしれない
「今日は歩き易い気温だな」
「...そうだね...お父ちゃん」
父「この国は暑いからな...故郷(くに)も大概だったがそれ以上だ」
父「あーでも今は相当暑いとか小耳に挟んだから同じ程度かもな」
娘「...そうかも」
父「さて、今日はちょっと急ぎ目に移動するか」
娘「...ん、解った」
父「すまんな...お前はあまり体力がないのに」
娘「いいの...気にしないで」
父「...すまんな」
娘「お父ちゃんのせいじゃない...町がなかったんだから」
父「深海棲艦に滅ぼされたのか賊にやられたのかは解らなかったがな」
11 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/22(日) 22:11:04.10 ID:rwgLxUNo0
父(『深海棲艦』8年程前に現れた正体不明の半兵器半生物
そしてその数年後に現れた在りし日の兵器を名を冠する少女達『艦娘』
―――そして私の義娘も艦娘だ)
12 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/22(日) 22:12:00.00 ID:rwgLxUNo0
娘「――――――」
父「...?どうした、海を眺めて―――やっぱりお前は」
娘「違うの、お父ちゃんが助けてくれたあの日の海―――」
父「ああ、そういえばこんな天気でこんな海況だったな」
13 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/22(日) 22:13:33.83 ID:rwgLxUNo0
父(私が故郷の日本から出張で東南アジアの各国を巡っていた時、深海棲艦の侵攻が始まった
制海権だけでなく制空権も喪失、異国に取り残されたと思っていたら
畳みかけるように滞在中の町が襲撃され壊滅
それから日本を目指して放浪を続ける羽目になった)
父(そして彷徨うこと数年、たまたま溺れかけている少女を見つけた
深海棲艦から逃げることもにも人間間のいざこざにも遠い故郷という事実にも疲れた私は
せめて孤独だけでも晴らせると思い彼女を助けた)
父(そして助けた少女が艦娘だった
彼女が旧日本海軍由来、私が欲して止まない日ノ本の存在と知った
本来なら届け出て謝礼を貰うのが筋なのだろうがどうしても傍に置きたかった)
父(だから私は彼女を傍に置き続けるために
日本に戻るまでの間だけでも娘にならないかと提案した
彼女も恩義と孤独の苦痛からか二つ返事の快諾で返してきた)
父(それから幾年、幸か不幸かずっと一緒だ
願わくば―――)
14 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/22(日) 22:15:15.67 ID:rwgLxUNo0
娘「...!お父ちゃん」
父「ああ...居るな」
遥か前方、はぐれと思われるイ級とロ級の2匹を確認
こちらに気付いていない様子、普段なら静かに身を隠したり迂回したりしただろう
だが問題はそこではない、奴らのいる近くの浜辺に娘と同じ位の外見年齢の少女がいたのだ
父(別に助ける義理もない、この娘もそれは解っているだろう―――が)
娘「お父ちゃん...お願い」
父「耐久」
娘「...7、8割」
父「燃料」
娘「...低級3、4割」
父「弾」
娘「主装4割...雷装2割」
父「最優先目標」
娘「あの女の子の安全...」
父「緊急出撃許可、抜錨せよ」
娘「了解―――」
娘が背を向け父親が向けられた背中にある錨型のパーツに手を掛ける
15 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/22(日) 22:15:59.12 ID:rwgLxUNo0
「―――――駆逐艦『霰』抜錨します」
錨型のパーツが抜き取られ艤装が展開された
16 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/22(日) 22:18:09.20 ID:rwgLxUNo0
普通の鎮守府所属の艦娘なら専用の出撃スペースとかあるのかもしれないが
生憎この霰は渡世人だ、そんな恰好がつく出撃なんてした事がない
霰(とにかく早く海に出ないと...)
砂浜を全力で走る、それだけならいいのだが
両手で抱える様に持つ布に包まれた長物が邪魔をし走り辛そうである
さらにはその包みの布も剝ぎながらというのもさらにマイナスだ
スマートさの欠片もない
霰(もうすぐ海に出られる...機関始動)
振動と喧しい音を伴い缶が駆動する
霰(機関は...うん、この程度なら何とかなるかも...)
本来ならこれ程の振動と音は伴わない
だが満足な整備や補修、高品質な燃料を得られない艦娘にとってはよくある話だ
霰(進水...うん、喫水線の位置問題なし。機関一杯...!)
黒煙を吹き出し今すぐにでも爆ぜんばかり叫び暴れる缶だが霰は意に介さない
霰(酸素魚雷、一本射出―――ん、イ級に微反応あり機関安全圏まで減速)
霰(現在、主砲有効射程範囲外で最長到達射程内...酸素魚雷到達まで後20秒)
体を目標に対して正対させ左手に持つ長物を背に回し右手の主砲を構える
元々静かな霰の目がますます静かに水鏡を思わせる程凪いだ
霰(魚雷到達まで7...6...5...4...3...2...1...)
霰「着火」
2匹の深海棲艦の脇で白く大きな水柱が出現した
霰「撃ちます」
間髪いれずに主砲が火を噴いた
17 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/22(日) 22:20:26.52 ID:rwgLxUNo0
結論から言えば雷撃も砲撃もイ級にもロ級にも掠りもしない大外れ
だが霰は焦りも悔しがりもしない
少女「!!―――!!!」
突然の爆発音と砲撃に驚いて件の少女が海から遠ざかる様に逃げていく
霰「お父ちゃん...あの子...ちゃんと逃げた...」
父『こちらも確認、離脱ができるなら直ちに離脱せよ』
霰「向こうはやる気...逃げられるけど大変そう...」
父『ならば速やかに攻撃を開始せよ』
霰「ん...攻撃...するよ」
父『了解』
通信を終えるや否や霰は素早く浜辺に上陸、機関を最低出力まで落とす
霰の口調は普段と変わらずゆったりとしたものだが
動きは途切れる事無く迅速といって差し支えないレベルだ
霰(霰の主砲だとこの距離はまず当てられない―――)
これも渡世の者が負う宿命か、ろくに整備されていない砲の精度は劣悪の一言
さらに破損、自滅の危険性を軽減するために砲の威力を意図的に落としてあるのだ
霰(なら霰の主砲でなければいいの)
先程の主砲砲撃時に背に回した長物を構える
手に装着された錆びだらけの主砲と比べればまるで白銀の槍だ
18 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/22(日) 22:21:53.50 ID:rwgLxUNo0
『試製艦娘用小口径長砲身』
深海棲艦戦争の草創期に開発された駆逐艦向けの装備品だ
中距離射程を目標として作られたが
長過ぎて取り回しが難しい、砲の構え方が通常と大きく異なる
そもそも駆逐艦の性能ではこの砲でも中距離の目標に当てるのは難しい
そして軽巡以上ならそれより良い砲があるので表舞台に殆ど出ることなく消えた代物だ
そんな歴史の波に埋もれ忘れ去られるはずのものが盗品流出か廃棄品横流しか...
経緯は解らぬが巡り巡って再び艦娘の手に戻ってきたのは必然なのか偶然なのか
霰(この距離なら...角度はこれくらいかな...)
霰は長砲身を砂浜に突き刺し砲口を目標に向け角度を調節していく
陸上で止まって戦うとはとても艦娘の戦い方には見えない
霰は正式な軍事訓練を受けたわけではなくあくまで我流
軍事素人の父親と相談しながらあれこれ工夫しながら身に着けた技術のみだ
そんな基本すら怪しい彼女がさらなる応用が必要であろう長砲身で正しい使い方ができるのか甚だ疑問だ
もっとも、正しい撃ち方を知る人などこの長砲身以上に貴重かもしれないが
19 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/22(日) 22:23:41.36 ID:rwgLxUNo0
霰「砲撃...」
霰の短砲身とは違った砲撃音が響き渡る
だがこの砲をもってしても当たらない
霰(...外れた...少し角度を寝かせて...)
霰「...砲撃」
[オオオォォォォ――――ガギィッ!]
イ級「!?―――ッ」
装甲を砕く音と共に声にならぬ悲鳴が上がった
霰「命中...轟沈確認...次弾装――っ!」
霰の背筋に悪寒が走る
装填行動を即時中断し艤装の動力補助を利用した素早い蹴り込みで体を斜め前方に投げ出す
[ズバァアァッー!]
元居た場所の地面が爆ぜた
有効射程範囲内に入ったロ級の反撃、長砲身によるアドバンテージは使い切ったようだ
霰は前回り受け身の要領で素早く投身から復帰、勢いそのまま海に駆け込み距離を取るよう航行を開始
ロ級その動きに応じ射程外には逃さぬとさらに速度を上げ追撃をかける
砲撃は陸の方が安定するが駆逐艦はやはりその機動力あってこそ
さあ、ここからは駆逐艦ならではの回避力を生かした戦いが[ドドドォオォオォン]
20 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/22(日) 22:26:11.30 ID:rwgLxUNo0
突然の爆発音、ロ級の雷撃か!?
ロ級「?――?!?」
いや違う、ロ級は突然の爆発に戸惑っている
ならばやった者は必然的に――
霰「これも―――水雷戦――ですか?」
いつの間にか『設置』した有線魚雷を起爆させたのだ
砂混じりの水柱が消え視界が晴れる
ロ級の前に再び姿を現した霰は
―――装填が完了した長砲身を構えていた
ロ級「!?」
驚き慌てて回避運動を行うロ級だが全ては遅きに失した
追撃に全力を出してしまい距離を詰め過ぎた、
この距離では陸上より安定しない水上でも狙いを外すなど期待できないだろう
長砲身が火を噴く
ロ級「!!ッ―――」
21 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/22(日) 22:27:30.87 ID:rwgLxUNo0
―――轟沈
霰「...ふぅ」
戦場に動く者は霰以外誰一人としていない
―――完全勝利―――
22 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/22(日) 22:32:22.26 ID:rwgLxUNo0
本日はここまで、以降は気まぐれで投下します
霰が出るssがあまりないので自分で書くしかないと思い書きました
大戦中の魚雷に有線魚雷ってあったの解らないまま取り入れてしまいましたが
その辺りはどうか寛大な対応でお願いします
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/11/23(月) 18:12:44.11 ID:PYIdUcb5o
期待
24 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/29(日) 22:49:43.46 ID:JGk3U6xI0
霰(周囲警戒――電探とか聴音機とかあればもっと確実なんだろうけど...)
霰「...ん、お父ちゃん。もう安全―――だと思う」
父『了解、最低限の警戒を維持しつつ帰投せよ』
霰「まって、戦利品が...」
父『うまい感じに倒せたのか? よし、解体を許可する』
霰「ん...ありがと」
霰(危ないことをした...だから貰えるものは貰っておかないと...ね)
背中の艤装に手を掛け大型のナイフを取り出す
ナイフといっても鉄板を切り出し持ち手を布で巻いただけの雑な作りで傷み汚れも多く美しさの欠片もない代物だ
だが刃の部分だけは鏡の如く輝いている
霰は念のため不意打ちを警戒し砲を構えながらロ級――獲物の状態を確認する
霰(―――ダメ...損傷が大きすぎる...あと狙いも随分ズレてるの――やっぱり砲戦は苦手...)
間近で中距離砲を受けた影響と狙いのズレからかお目当ての部位は取れそうになかった
―――が、何の躊躇いもなく霰は刃物を突き立てロ級を解体し始める
霰(クズ鉄だけでも一応はお金になるからね)
25 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/29(日) 22:53:51.36 ID:JGk3U6xI0
深海棲艦は半生物半兵器であるためか、その外殻は普通の生物では考えられないレベルの鉄が含まれている
だから然るべき所へ持っていけば(渡世人にとっては)いい値段で買い取って貰えるのだ
だが、それにしても―――
元から表情変化も乏しく再び生を受けて数年経ち成長しているとはいえ
幼い容姿の多い朝潮型の中でもとりわけ幼く見える霰が無表情で、紛いなりにも数十秒前まで生命のあったものの形を崩していく光景は中々壮絶なものがある
だがこれだけでは終わらない
霰(後はこの《身》の部分を布で絞って――と)
父「よし、ドラム缶も用意できたぞ」
ロ級の解体開始を確認し安全を確信した父親が解体を手伝いに来た
霰「ありがと―――いくよ」
父「おう――おお、今回は浅瀬だったからあまり海水が混じってないな」
霰「でも...近くで撃ったから――身が多めに飛んじゃった...かも」
父「そりゃ必要経費だ」
26 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/29(日) 22:56:38.95 ID:JGk3U6xI0
先にも説明した通り深海棲艦は半生物半兵器
鉄を多く含む他に鯨やマグロが霞むレベルで多くの油分を含むのだ
食用には向かないが燃料にはなる
――艦娘とってはある意味食用と言えるかもしれないが
霰「じゃあ、あっちもやってくるから...」
父「おう、後は任せておけ」
霰は作業を切り上げ最初の獲物の方に向かう
だが、倒してからいささか時間が経ち過ぎた様だ
霰(ああ、もったいない。結構流れちゃってる...とにかく引き上げて陸まで引っ張らないと...)
海水に浸かり過ぎていたイ級だった物から多くの油が流れ出ている
だが損傷が思ったより軽かった為まだいくらかは有効活用できるだろう
霰(今度のはあまり壊れてない...これなら『アレ』も取れるか―――あ)
霰「...ん」
思わず声が漏れる
かなり謙虚ではあるがこれが彼女の歓声であり大喜びだ
霰(火薬袋に傷なし!水も少ししか入ってない!)
27 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/29(日) 22:59:37.96 ID:JGk3U6xI0
深海棲艦は鉄と油だけでなく半兵器らしく火薬も蓄えている
人型の場合は大概艦娘でいう艤装の辺りで弾薬を生成するのだが
イ級などの艤装を持たない非人型は大抵体内で弾薬を生成する
その弾薬貯蔵部分を伝統ある特撮モノにあやかり《袋》という表現を通称で用いている
本来、正規の鎮守府所属の艦娘はその火薬袋の位置を狙うように訓練される
弾薬を大量に蓄えている箇所が壊れれば戦艦だって沈む。そういうことだ
だが例によって霰達にとっては敵の弾薬すら貴重な資源なのだ
(常にではないが)その位置は極力当てない様に戦っている
霰「戻った...の」
父「おう、じゃあそっちの身も絞るか」
霰「後――これ...」
父「!おお、いいじゃないか。儲けたな」
霰「ん」
28 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/29(日) 23:07:23.65 ID:JGk3U6xI0
・・・・・・――――――・・・・・・
父「さて...と、絞り終わったな。じゃあ――」
霰「――ん」
[ガシュッ、ボゥ]
絞り終えられ浜辺に打ち捨てられ深海棲艦だった物が勢いよく燃え始める――
霰が榴弾を撃ち込んだのだ
別に恨みや追い打ちで焼いているわけではない
深海棲艦は異形の者、防疫の観点からも野生生物の死骸以上に気を付ける必要があるのは言うまでもない
そしてもう一つ
父・霰「―――南無」
火で清め、冥福を祈るため
短い瞑目と合掌――二人とも真剣にやっている事は疑いようもないが、どんなに心を込めても所詮は自己満足
だがそんな事は重々承知だろう、このケジメは二人にとって欠かしてはならぬ大切な何かなのかも知れない
29 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/29(日) 23:10:40.95 ID:JGk3U6xI0
瞑目を終え絞った油の上澄みを回収、給油していると見覚えのある少女が近づいて来た
父「ん――あの子は...」
霰「さっきの――子...かな」
二人は反応はすれど作業の手は止めない
少女「あ...あのっ!さっきはありがとうございました!!」
霰「―――霰が勝手にやったことだから...」
少女「え?」
父「ああスマン内の娘はこういう奴なんだよ――
『感謝されたいんじゃなくて、見捨てると気分が悪いからっていう自分勝手な理由でやった事だから気にしないでいい』
っていう意味なんだよ」
霰[こくり]
少女「な、なら私も自分勝手に感謝します。ありがとうございましたっ!!」
父「ほう」
霰「ん」
父「・・・(中々見どころのある娘だな)」
霰[こくり]
少女「もしよかったら私達の村に来てくれませんか?そこでお礼をさせて貰えませんか?」
霰「お礼...無理しないで」
父「だが今丁度人の居る所を探していた――折角だから招待されよう」
少女「本当ですか!?ありがとうございます!」
霰「――よろしく」
少女「こちらこそ!」
父「あー...ちょっと待ってくれ、今せっかく浜辺にいるんだからちょっと手土産を用意しよう――霰、頼めるか?」
霰「ん」
少女「あ、あの――」
父「気を悪くしないでくれこれも私の性分なんだ」
少女「そ、そうなんですか...」
父(この子以外から歓迎されるとは限らないから―――な)
30 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/29(日) 23:12:23.68 ID:JGk3U6xI0
爺「いやいや...魚を持ち込んでくれるとはありがとうございます」
父「一晩世話になるというのに手持ちが心許ないままではと思い少しばかり――」
爺「とんでもない――あの日以来、海魚は貴重になってしまいまして」
少女「霰ちゃん――この子が獲ってきてくれたんだよ!」
霰(適当な底引き網だけどね)
青年「昔は俺たちも漁をして暮らしていたんだが...クソっ!」
壮年男「深海の奴ら舟を壊しやがるからな...」
父(小規模漁業は深海棲艦の影響をモロに受けた分野の一つだったな)
31 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/29(日) 23:15:17.11 ID:JGk3U6xI0
深海棲艦は別に個の強さはそうでもない、実際通常兵器―――
いや、イ級とか下級の相手なら最悪(射程を考慮しなければ)銛でも十分に対応できる
では何故深海棲艦にあっけなく制海権を明け渡したのか?
理由は簡単だ、通常兵器は海上にいる人間大の相手に対する事を想定していないからだ
確かにミサイルなど広範囲に被害をまき散らす兵器であれば撃破できるかもしれない
だが何分コストが掛かり過ぎる、コストが掛かるという事は弾数が少ないという事
そして深海棲艦の数は少なくない
つまりそういう事だ
無論脅威はそれだけでない攻撃面も脅威だ
威力は流石に軍艦級はないが、それでも十分に軍艦含める船を沈めるに足る火力を持ち合わせている
海上版の対戦車武装をした歩兵といったイメージだ
たかだか歩兵が脅威となりえるのか?一般人はそう思うかもしれない
だが『陸戦の王者』と呼ばれる戦車でさえ10式戦車の様に対戦車以上に対歩兵を対策している車両もある
それ程歩兵の存在は侮れないという事だ
その侮ってはいけない存在が今までいなかった海上で突如現れたのだ
それまでの軍艦は成す術もなく表舞台から追いやられた
32 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/29(日) 23:17:34.75 ID:JGk3U6xI0
海軍が駄目なら空軍で...ともいかなかった
誠に厄介な事に深海棲艦は航空勢力まで持ち合わせていた
戦闘機というのは案外小さいがそれより数段小さい中型犬程度の大きさの艦載機を使ってくる
そして例によってそのサイズでも火力は十分と来たものだ
今までの戦闘機に積まれている誘導ミサイルでは深海の艦載機は追跡してくれない
機銃で撃とうにも的が小さく思うように撃破できない
速度差の関係で軍艦程悲惨な事にはなっていないが、それでも深海棲艦の物量に押されてしまった
戦争において初動は非常に重要
その初動に於いて人類は完全に敗北してしまった為あっさり海と空を奪われてしまったのだ
その後は負けた理由が殆ど『初見殺し』だった為
艦娘等を始めとした対処方法の確立によって現在は大国を中心に巻き返してきている
―――のだが
33 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/29(日) 23:19:44.22 ID:JGk3U6xI0
父(ここの辺りの国々は戦前目覚ましい発展を遂げていたとはいえまだ大国とは呼べないレベル
このような不測も不測の大事には体力もなく対処が十分にはできなかった
さらに都市部ならまだしもこのような田舎では―――)
霰「お父ちゃん」
父「―――ん?」
霰「今は難しい顔する時じゃ...ないの」
父「おっと、そうだったな」
少女「ねえ、霰ちゃん!」
霰「――ん?」
霰の活躍を喧伝して回っていた少女がハイテンションを維持したままいつの間にか傍まで来ていた
少女「霰ちゃん達ってニンジャなの!?」
霰「?」
父「え?」
少女「それともサムライ?」
霰「......別に――」
父「別に侍でも忍者でもないぞ」
少女「そうなの?」
34 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/29(日) 23:22:02.45 ID:JGk3U6xI0
だが少女が勘違いするのも無理はない
何故なら洋服ではなく坊主合羽を付けた小袖に股引、脚絆そして一文字傘という恰好
江戸時代の道中着を思わせる出で立ちだからだ
和装を知らない外国人から見ればそう見えても仕方ないだろう
そして霰も朝潮型の制服であるブラウスとサスペンダースカートではなく
父と同じく本来なら男性が着るような道中着スタイルだ
霰「このカッコ...へん?」
少女「そんな事ないよ!すっごく似合ってる!!」
霰「...ありがと」
父(流石に東南アジア諸国だと『座敷童みたい』と思われることはないか)
父「侍でも忍者でもないが...強いて言うなら『渡世人』とか『浪人』かな」
少女「え!ローニンなの!?」
父(ああこれ『浪人』を『剣豪』と何かと勘違いしているな)
少女「やっぱりサムライなんだね! イアイとかツジギリとかできるの!?」
霰「...やらない」
父(辻斬りはその気になれば誰だってできるだろうが、ね)
35 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/29(日) 23:24:17.20 ID:JGk3U6xI0
爺「これ、その辺にしておきなさい。霰さんが困っておるじゃろ」
壮年男「というか砲が使えるなら刀で戦う意味はあまりないだろうが」
青年「そもそも霰ちゃんは艦娘なんだろ? だったら刀なんて使わなくても――」
霰「...そんな事ない―――霰は弱いの」
少女「こ、これが日本人のケンソン!」
青年「噂通りオクユカシイ!」
爺「だがいざ戦いとなれば日本の兵隊さんは――」
婆「アンタは直接見た事ないのに語るんじゃないの!」
壮年男「おっと煩いのが来てしまったな」
父(霰は正直だから全部言わないかとヒヤヒヤしたが勘違いしてくれたか...霰の言う通り霰は―――いや、艦娘はそこまで強い訳ではない)
36 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/29(日) 23:28:33.51 ID:JGk3U6xI0
艦娘は先に説明した海上の歩兵部隊たる深海棲艦に対応する為の部隊
その深海棲艦は(一部を除いて)別にそこまで強固ではないので艦娘に求められるスペックもそれ相応だ
確かに強靭な肉体を持ち合わせている方が有利なのには違いないが
装備の艤装を扱えるに足る体力があれば極端に大きな差は開くことはない
イメージとしては艦娘は白兵戦を挑む戦士というより戦闘機のパイロットの方が近いかもしれない
だから素の能力外見相応でしかない
まあ、そうとはいえ
婆「全く...男共は...」
爺他多数「「「「「」」」」
霰「...酔い潰れちゃった――ね」
父「仕方ない、これも一宿一飯の恩義だ―――霰」
霰「ん...抜錨」
父「我々が寝所に運びますよ」
婆「そんな事せんでも―――と、言いたいところだけどお願いしようかねぇ...」
父「確かあちらの方で間違いありませんよね[ひょい]」
霰「せーの...と[ぐいっ]」
婆「おやおや、あんな小さな体で大人を担げるなんて...艦娘さんは本当に力持ちだねぇ」
艤装のアシストを受ければ霰程度の体格でも若干小柄〜中肉中背の成人男性級の力は出せるようになるのだ
37 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/29(日) 23:33:08.72 ID:JGk3U6xI0
翌日
霰「...」
青年[カチャカチャ]
霰「...」
青年[キュッキュッキュッ]
霰「...」
青年「これは...うん」
霰「...」
青年[ぐぐぐぐ...パチン]
霰「...」
青年[ざりっざりっ]
霰「...」
青年「あー...お嬢ちゃん? 別に監視し―――」
霰「それは霰の魂」
青年「はい、ごめんなさい。集中して修理させていただきます」
霰「ん」
霰の艤装は現在修理中だ
元々霰達が集落を目指していたのは回収資材の売却と艤装のメンテと修理が目的
その目的の一つを現在進行形で果たしている最中なのだ
霰は別に嫌がらせで青年――修理屋の監視をしている訳ではない
悪意を持って艤装に触れるのは論外、悪意がなくとも何かしらのトラブルに遭う可能性は十分にある
そうでなくとも艤装分解中は戦力が大幅に落ちる
後ろ盾のない霰達にとっては暢気に人任せにしてどこかで時間を潰すなどという肝の据わった事はできないのだ
少女「こんにちは――ああ、居た居た霰ちゃん」
霰「ん?」
少女「今ひま――わっ!?」
霰「...」
少女「何でカタナを握ってるの!?」
霰「艤装の修理をしてる―――今とっても無防備...」
少女「武器を握ってるのに無防備!?」
霰「...」
少女「何で黙るの!?」
青年「お嬢ちゃんはしかたないけど、騒ぐなら出て行ってねー」
少女「あ...ごめんなさい...」
38 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/29(日) 23:36:13.37 ID:JGk3U6xI0
・・・・・・――――――・・・・・・
少女「うーん、それにしても大きなカタナだね―――サムライの魂もっとよく見せてくれる?」
霰「これ...日本刀じゃない、山人刀――みたいなの...どちらかといえば鉈―――」
少女「そうなの?」
霰[コクリ]
少女「じゃあシントーの神官が叩いて作ったんじゃないんだ」
霰(神主?...ああ『打ち初め式』の事?この子、結構な日本かぶれなのね...)
少女「ならそのサンジントーはどうやって手に入れたの?」
霰「ヌ級の...破片」
少女・青年「ぶっ!?」
霰「意外?―――ヌ級の殻...結構頑丈なの...」
少女「」
青年「」
霰「...」
少女も霰達が深海棲艦を解体していたことは知らない訳ではなかったのだが
『近所の金物屋で買ってきました』と言わんばかりの調子で語られて面食らってしまった
そしてその山人刀をよく見れば刃に大きな欠けこそないものの
傷だらけで所々普通でない染みや曇りが見て取れる
見た目は水彩画や読書を嗜みそうな寡黙な少女の霰だが
彼女の雰囲気や身の回りの品々はこの騒乱の世を旅するに耐えうる事を雄弁に証明していた
そんな感性や経歴の違いから会話が途切れる事もあったが
少女は熱心に話題を切らさぬよう努め艤装の修理が終わるまで何とか会話を続けた
39 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/29(日) 23:39:24.63 ID:JGk3U6xI0
少女「ところで霰ちゃんは『んちゃ』とか言ったりしないの?」
霰「...何で?」
少女「知らないの?日本のマンガのキャラの口癖なのに」
霰「知らない...」
少女「だってそのキャラの霰ちゃんと同じで名前ア――」
霰「いいません」
少女「そんな〜」
青年「お嬢ちゃん、ようやく終わったよ」
霰「ん」
少女「え?もう?」
青年「『もう』って...もうそろそろ夕方なんだが...家帰らないでいいのか?」
少女「あっ本当だ、今日もこの村に居るんだよね?また明日!!」
霰「ん...じゃあね」
青年「やれやれ...騒がしいことだ。でも容赦してやってくれあの子は仕方ないんだ」
霰「?」
青年「あの子は村の子じゃない、外から流れ着いてきた娘なんだ」
霰「...」
青年「どうして海を漂っていたのか詳しく聞いていないが大体見当は付く」
霰(―――深海棲艦)
青年「そんな訳で元はよそ者だったんだけど、ああやって明るく振舞って輪の中に入れてもらった...ってわけだ」
霰(それで不自然なくらい明るかったんだ...)
40 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/29(日) 23:40:23.25 ID:JGk3U6xI0
『こんにちは、新人さん』
霰(明るい...声...)
『ねぇ、貴女の名前はなんて言うの?』
霰(何で...今...あの日の...記憶が...)
41 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/29(日) 23:43:36.73 ID:JGk3U6xI0
青年「...ちゃん・・・お嬢ちゃん!」
霰「...!・・・なあに?」
青年「ぼーっとして平気かい!?」
霰「大丈夫...それより着けるから...」
青年「...大丈夫ならいいが―――じゃあこれを」
霰(艤装展開はできないけど疑似動作確認程度ならできる...)
青年「どうかな?」
霰(機関、問題なし...主砲、問題なし...雷装、問題なし...副武装、問題なし)
青年「...」
霰(収納庫、問題なし...装甲、問題なし...推進器、問題なし)
青年「あ、あのー...」
霰(...うん)
青年「だ、大丈夫だった...か...な...」
霰「ねぇ」
青年「はい!?」
霰「どうして...こんな整備ができるの?」
青年「なななな何が問題で!?」
霰(...?――――ああ...)
霰「そういう意味じゃないの...逆...」
青年「え?」
霰「まるで新品...」
青年(いや新品には程遠いと思うんだけどなぁ)
霰「どうしてこんなに...いい備品があるの...?」
青年「それはこの近くの海岸―――ああ、お嬢ちゃん達が深海棲艦と戦った辺りは...」
[たあぁん、たあぁぁん――・・・]
青年「銃声!?」
霰[ガチャッ、ザリザリガガー]「お父ちゃん」
父『部分抜錨許可、緊急抜錨するために急ぎ合流せよ』
霰「了解」
青年「くそっ、最近大人しくしてたのにまた来やがったか!」
42 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/29(日) 23:45:46.34 ID:JGk3U6xI0
銃声が響くより遡る事少し前
少女(夕方だけどまだ日が沈むまでは時間があるよね...)
少女は家に戻らず霰達と出会った浜辺に来ていた
深海棲艦とニアミスした翌日だというのにタフというか無神経と言うかは個人の解釈で分れるだろう
少女(昨日は深海棲艦のせいで有耶無耶になったけど、確かこの辺りに―――)
スコップで砂浜を掘り返す目標は半分埋まった木箱だ
最初はただの木片だと思った、だが躓いた時にそれが木片などでなく埋まった何かだと解った
本来ならそれで終わりなのだが、少女は何が埋まっているか気になってしまった
この海岸は時折艦娘の艤装やそのパーツと思われるものが流れてくるので
価値のある物である可能性も否定できない、故に少女はそれを掘り起こす決心をした
昨日の時点で結構掘ったのか目標の物は比較的短時間で地面から全身をさらけ出す
少女「さあ、何が入っているのかな・・・」
少女はスコップ同様村から拝借してきたバールを使い木箱を開けていく
そしてその中には...
43 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/29(日) 23:50:03.33 ID:JGk3U6xI0
少女「また箱?しかも今度は鉄――ううん、何かの金属製ね」
少女(これはこじ開けられそうにないし、壊すなんて論外だよね...)
とはいえ、いかにも価値のありそうなものが詰まった箱を無視する事はできない
少女「うーん...明日、霰ちゃんに頼んで運んでもらおうかなぁ...」
少女(でもその間に持っていかれたら...うーん)
少女「案外普通に手で開いたり―――え?」
見るからに重量感ある金属の箱は摩擦する音もなく簡単に開けられてしまった
重量物をろくな抵抗なく滑るような様な異様な手応え、それだけでも少女を動揺させるには十分なのだが――
44 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/29(日) 23:53:15.38 ID:JGk3U6xI0
少女「な...なにこれ...」
見慣れぬ白銀の金属、そしてそれに夕日が差し込み虹色の反射を返す。どうやら錆止めと思しき油が塗られているようだ
まるで芸術品の如く美しい
だが美しすぎる物は時として恐怖の対象になる
少女「う...あ...」
恐怖のあまり腰を抜かすが、それでも逃げようと腰を擦りながらも必死に後退る
少女(なんなのアレ!?――逃げな――)
[どんっ]
少女(え?)
少女以外いないはずの浜辺で背中が誰かとぶつかった
反射的に振り返るが誰もいない
少女「な...何なの!?」
[ガチャン]
少女「え?――きゃぁああぁあぁぁあぁ!」
絹を裂くような悲鳴は『誰にも』届くことなく夕暮れの浜辺に吸われ消えていった
45 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/11/29(日) 23:58:18.44 ID:JGk3U6xI0
本日はここまで
このSSの世界観では艦娘は不思議生命体である事には違いないのですが
『超人』ではありません、常識的な範疇にとどまります
ただし大和型や長門型のように元々体格が凄い方々は艤装補助を受けるとご想像の通り凄い事になります
46 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/12/02(水) 11:15:15.89 ID:eNOZfHffO
おつおつ
引き込まれます
続き期待
47 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/13(日) 15:54:37.86 ID:Y7chWnXP0
年末ってやっぱり大変
2週間かけたのに今日中に書き上がりそうにありません
次回は多分火曜日だと思います
後、予告ですが次回から本格的に泥臭く無慈悲な面が現れはじめます
霰に純さを求められている方は逃げた方がいいかもしれません
48 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 22:59:28.56 ID:m/f2GdmS0
火曜日更新のはずが気づけば日曜日!年末って怖い!
まずは前回の訂正
39
×青年「お嬢ちゃん、ようやく終わったよ」
〇青年「お嬢ちゃん、終わる目途がついたよ」
41
×青年「ぼーっとして平気かい!?」
〇青年「あの子が帰った時から随分長い事ぼーっとしてたみたいだけど...平気かい?」
43
×重量物をろくな抵抗なく滑るような様な異様な手応え、それだけでも少女を動揺させるには十分なのだが――
〇重量物が抵抗なく滑べるという異様な手応えだけでも少女を動揺させるには十分なのだが――
49 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:01:10.66 ID:m/f2GdmS0
ここから本編です
――――――・・・・・・――――――
日は落ち夕の茜色が引いていく
日の光を失った地は夜となり黒く染まり始めるが、空は日もないというのに青く輝く
その青の輝きは始まる夜に抵抗するが如く辺りを仄かな青の燐光で染め上げる
この様な現象をブルーモーメント、あるいはその時間帯ごと含めてブルーアワーというらしい
実に神秘的な光景で非常に美しい
―――――だが日本語でこの現象が生ずる時間帯はそんな美しさとはかけ離れた言葉で表される
『逢魔時』
魔物や大きな災禍を呼び込むと信じられた文字通り『魔』の時間帯
そんな神秘的にして不吉な時間に闖入者が現れた
尤も、魔ではなく相手は人間なのだが
50 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:02:03.41 ID:m/f2GdmS0
霰は体勢を低くしまるで狢の如くかけ始める
ぱっと見るとキツそうな体勢ではあるが積み重ねて来た経験と艤装アシストによりその動きから苦しそうな雰囲気は感じられない
だがいくら隠密体勢とはいえ、おんぼろ機関の騒音があるので―――いや、今は違う
整備に出したばかりだけあって機関は実に調子が良い
出力を抑えているとはいえ今までとは比較にならないレベルで静かに駆動する。爆音に慣れている霰からすればまるで無音だと錯覚するほどだ
霰の手には艤装由来の武装らしきものはない、機関砲含め部分抜錨状態であるため制限が掛かっており使えないのだ
51 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:03:26.57 ID:m/f2GdmS0
寂れた村、もとより裕福とは言い難かったこの地に深海棲艦との戦争という災厄が降りかかった
直接の侵攻被害ではない余波に過ぎないし、即死となる程の威力もない
だがそれでもこの村の生活を破壊するには十二分なできごとであった
出来ることが出来るなら逃げだしたかった
だがこの村には逃げる余力もどこへ逃げればいいかという知識もなかった
確かに即死は免れたかもしれない、だがなにもできなければ即死と何が違うというのか
いや、むしろ苦しみが長く続く分より質が悪いかもしれない
故にこの出来事はある意味慈悲深き介錯―――――――
「野盗が...この村へ?」
「ここへ来て何を盗むっていうんだよ!」
「物はなくても一応人はいる...とういう事なんだろうな」
「手当たり次第ってことか...」
「奴らの『物』になれば一応生き延びれるかもしれないが...」
「ふざけんな!誰があんな畜生未満の下で生きれるかってんだ!」
「じゃあどうすればいいっていうんだよ!」
「...そんなの一つしかない――――――よな」
「――――――ああ」
「...・・・腹は―――決まったよう、じゃな」
彼らは座して死を待つ事などできなかった
52 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:05:45.07 ID:m/f2GdmS0
戦いとは無縁...とまではいえないが縁遠き生き方であったが故、戦略は当然のこと戦術も知らぬし戦法でさえ同様の有様
だがそれでも戦った
後には引けぬ気迫か相手は弱いと侮った賊の油断か、それとも才ある者が多くいたか理由は解らぬが
―――彼らは勝った
無傷には程遠く無視できぬ死傷者を出しながらも賊を完全に撃退、さらには追撃も成功させ根城ごと絶つという考えうる限り最良の戦果を叩き出した
故郷の村を枕にして眠るつもりが望外の結果に村人たちは大いに沸き勝利の美酒に酔いしれ今も生きている奇跡に感謝した
この美酒は確かに酔えた、だが腹を満たす事はできなかった
元よりギリギリで生きてきた村人は今回の襲撃で遂にそのギリギリすら維持できなくなった
介錯を受け入れなったが故に―――
「おい聞いたか?北の山近くで纏まったいい鉄が出るらしいぜ?」
「なんだよ、ずりぃよな奴ら...俺らはこんなに苦しんでんのに」
「だったら少しでも譲って貰えないか......」
――――――交渉しに行こうぜ
53 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:07:39.54 ID:m/f2GdmS0
最初は本当に一般的な意味で交渉するつもりだった
だが彼らは先に説明したように既に限界ギリギリのラインを超えていた
そして一線も同様に超えていた―――
一度一線を越えれば今までの線は線でなくなる
最終的に交渉は狭義の意味から広義の意味へ至った
こうして彼らは『畜生未満』の下で生きる事を拒否した『畜生未満』となった
――――――・・・・・・――――――
盗賊稼業は順調だった
やはり戦いの才があったのか次々に襲撃は成功させた
だが、政治はそうもいかなかった
せっかく支配下に治めた村や集落も満足に生かす事ができず思うような収益を得られず
そればかりか人心を軽視したのか反乱因子を育ててしまい多くの支配地域を切り捨てざるをえなくなってしまった
去ったと思った苦境が再び目の前に、もうあの様な思いだけは断じてできない
だから今回の襲撃は是が非でも成功させなければならぬ
54 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:09:35.83 ID:m/f2GdmS0
初動は上々、半年近く襲撃の気配すら見せていなかった為かそれとも夜になりきらぬ時間帯がよかったのか部隊を素早く展開させる事に成功
後は牽制しつつ混乱の火種を巻きながら包囲を狭めていけばいい
だが油断してはならぬ、油断して狙撃など貰おうものなら目も当てられない
(狙撃手がいるとすれば―――あの高台の土蔵が怪しい、後はあの石造りの民家もだな)
正面の陽動部隊が派手にやってくれるお陰で比較的安全だが慎重に狙撃の目を警戒する
雑にはできぬ、自分のせいで失敗など笑えない
あの苦境を共に超えた仲間にも迷惑がかかるし何より妻子に―――
そんな狙撃の目を気にする彼の目に飛び込んできたのは
[タスっ]
「ん?」
指―――
55 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:10:23.51 ID:m/f2GdmS0
――――――・・・・・・――――――
霰(武装した人間...村人?)
13歩
霰(視線方向屋根や高台ばかり、村の外は見ていない)
8歩
霰(恰好は普段着じゃない)
5歩
霰(だったら―――)
3歩
霰(――――――賊だ)
[タスっ]
56 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:11:05.70 ID:m/f2GdmS0
――――――・・・・・・――――――
背後で不穏な物音が聞こえた
体を捻り振り向き確認した
目の前に迫る指があった
思わず仰け反った
何かぶつかった
倒れている
一体――
息子と妻の姿が見えた気がした
57 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:14:04.63 ID:m/f2GdmS0
――――――・・・・・・――――――
目標はこちらの方に向き直ろうとする
踏切が強すぎたのだろうか
だが振り向き切るより早く間合いに入る
そもそも飛びかかっているので止まることなどできないのだが
霰(目――)
目標の目に向け親指を伸ばす
両目である必要はない、そもそも目を潰すつもりもない
人質は生きていてこそ価値があるように、人間壊れていないものは守ろうとする
だから潰せても潰さない、目に添えた指はこれ以上伸ばさない。これが一番楽に人間を仰け反らせる方法
霰(成功――)
体を捻った不安定な体勢で仰け反ればどうなるか
さらに華奢な体格とはいえ艤装を担いだ少女が全力疾走で飛び掛かればどうなるか
―――立木があっさり倒された
霰(―――っ!)
膝で胸部を抑える柔道で言うところの浮固めに似た形に極める
言葉にすれば長いが13歩前から二呼吸あるかないかの出来事
数々の少なくない修羅場を乗り越えた成人男性があっというまに組み伏せられる
言うまでもなく圧倒的霰有利、ここからどう追撃を―――
58 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:16:04.99 ID:m/f2GdmS0
霰(......)
あっさり固めを解いた――何故?
戦場で手心は......いや違う
霰(武装は小銃じゃなくて散弾銃――だけ――――予備の弾も少ない...)
霰(でもこれだけでも随分違うの)
瞬時に武装回収すると賊に一瞥もくれず足早に去ってゆく
霰は別に手心を加えたわけでも残心を怠ったわけでもない
賊――いや賊だったものの盆の窪辺りに鋭い金属片が深く刺さっている
霰は飛び付き地面に激突させる際、倒れる勢いを生かせるよう賊の後頭部に尖った屑鉄を添えていたのだ
決して不慮の事故などと言い逃れできぬ明確な殺意をもった行為
だが霰の足は飛びつく前と変わらない調子で駆けて行く、そして逢魔が時の世界もそれをなじろうとはしなかった
59 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:17:41.63 ID:m/f2GdmS0
――――――・・・・・・――――――
爺「賊の動きはどうなっておる!?」
壮年男「暗くてよく見えないが包囲されているみたいだ!」
中年男「被害状況もわからな―――」
[バガンッ!]
「おうおう動くんじゃ[ゴッ]ごふっ!?」
父「――っ!」
豪快な物音と共に賊が屋外に吹き飛ぶ、数人巻き込んだのか複数人の悲鳴も聞こえた
いまだ!
誰かの号令がかかり倒れ伏した賊たちに銃弾が降り注がれる
今度はろくな悲鳴もなく数度の痙攣の後に動かなくなった
中年男「――よし!このままいけば」
壮年男「そんな上手くいく訳ないだろ」
爺「じゃな、手榴弾でも投げ込まれたら終わりじゃからな」
霰の父親は村の男衆と共に高台にある土蔵で籠城していた
(正確に言えば籠城しにきたのではなく、たまたまそこに居ただけなのだが)
ここは蔵としてだけでなく、籠城も考慮した造りとなっており武器や食料などもある程度揃っている
だが、村の爺がしてきした通り銃弾は防げても中に爆弾でも投げ込まれたら一巻の終わりだ
現に手榴弾ではないが、火炎瓶系の物が既に投げ込まれた後で、鎮火はさせたものの惨事になりかけた
60 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:18:50.72 ID:m/f2GdmS0
父「もうすぐ霰と合流できますそうすれば―――」
爺「すまぬが頼らせてくれ異国の旅の人」
父「これも一宿一飯の恩義です」
中年男「随分義理堅いんだな...」
壮年男「それにしても流石日本人だな!カラテってんだろ?」
父「まあ――そうですね」
壮年男は『日本人なら全員空手ができる』という紋切り型の間違いをしているのだが、実際父親は空手経験者であった
ではなぜ若干ぼかしたのか?――――――
61 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:20:35.44 ID:m/f2GdmS0
父親は実に格闘の才に恵まれた人物だった
親もその実力を知り、本人の希望もあってよい環境に恵まれた
また知識欲も中々に貪欲で様々な武術や格闘技触れ、武器の有無にかかわらず貪欲に調べ経験して回った
『時代遅れの武芸者』としばしば揶揄されたがむしろ本人は誉め言葉ととらえその道に邁進――――――
――――――するはずだった
だが彼には致命的な弱点があった
『皮膚がとても薄い』
地味ではあるが皮膚が薄いと当然出血しやすい
出血というのは試合でやってしまうとそれだけで止められ負けてしまうケースが多々ある
実際彼も出血が原因で負けた試合は多く不完全燃焼の思いをいくつも重ねてきた
当然局部鍛錬などで弱点を補おうとした、だがその鍛錬で鍛えられない程彼の皮膚は薄かった
だから考え方を変えた
『鍛えられないのであれば道具で補えばいい』
考え方は至極もっともだが、当然道具を持って格闘の試合など出られるはずもない
使える場面は試合の外
工夫を重ね、遂に弱点の克服
考え方の正しさを試合の外にて見事証明した――――――
――――――いや、してしまった
62 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:22:03.06 ID:m/f2GdmS0
証明が完了したときに振り返り気付いた
夢中になり過ぎていた事にいまさらながらに気付く
恋人を愛し過ぎるあまり愛が重くなり遂には病む様に
趣味が高じて過ぎ偏屈となり遂にはただの異質となる様に
探求心が高じ過ぎた彼もいつしか狂い法を犯すまでに至っていた
元来真っ当な家庭でそだった身だった故にそのショックは大きかった
自らが狂っていた事より周囲の人間を裏切っていた事がなにより重かった
幸か不幸か彼のやっていたことは相手が相手だったので公になることはなかった
だから家族にも友人にも恋人にもその所業は知られることはなかった
いや、信じてくれなかったというべきか――――――結果彼は罰を受け反省する権利を失ってしまった
だから彼は武を捨て全く違う道を歩み始めた
もう二度と、その時は決心していたのだが――――――
父(路上の鍛錬が役にたつなんてな......頼りになるが誇りたくもないよ)
路上の技がそのまま使えた訳ではないが、道場内やリングの中だけの経験であったならとうの昔に倒れていただろう
何度も試行錯誤を繰り返し、それを現在に至るまで続け何度も修羅場を乗り越えてきた
正に泥だらけの拳―――――
だがこんな拳でも義理を通せるというのであれば――――――
父(今度は......裏切らない!!)
63 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:23:45.88 ID:m/f2GdmS0
――――――・・・・・・――――――
霰(やっぱり、一人倒して終わり...とはいかない――――)
無線で決めた合流地点へ急ぐ霰だが行く手には数人の賊がいる
こちらには気づいていないが賊は陽動か威嚇行為は不明だが派手に暴れている
不用意に対処すれば雑に撃っている流れ弾に当たってしまうだろう
霰(やり過ごす?それとも迂回?)
交戦も想定して先程鹵獲した散弾銃を構える
満足に準備の無い状態で命を懸けるのは勇気...いやむしろ蛮勇が必要かもしれない
そうでなくとも後ろ盾のない身分、いくら個の力があっても必要以上に身を危険に晒すことは割に合わなさ過ぎる
とはいえ路上の立ち合いも兵器入り乱れる戦場も初動が重要
最初の銃声から即席麵は愚か茶碗飯を温めなおす程度の時間すら経っていない状況、叩くなら今であるのも事実
霰(ここはお父ちゃんに――――あ)
何の偶然か指示を仰ごうと回線を開こうとした直後、適当に動いている賊が奇襲するには理想的な立ち位置に――――
――――気付いた時には引き金を引いていた
思考を挟まぬ反射的行動、賽は手から零れ落ちるように投げられたのだ
64 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:25:05.07 ID:m/f2GdmS0
――――――・・・・・・――――――
先行部隊として派手に暴れ目標に混乱と恐怖を届ける、それが自分達の部隊に課せられた使命
最も危険が伴うがその分最大の名誉ある部隊であり花形であるとされる
その名誉やら花形やらの考えは上の連中が作為的に作り上げた幻想かもしれないがそんな事はどうでもいい
暫くの平穏でおざなりとなった防衛網はあってないようなレベル
戦いというよりはボーナスゲームだった
第一の接点は成功し、これから本格的進攻に移る
部隊は三手に分れ素早く村に侵入する
率いる部隊は多勢にて正面から派手に攻撃を開始
接収したゴロツキ――いや、新兵が無警戒に暴れまくる何とも単純な奴らだ
だが『必要以上』に油断してやる義理などない、あくまでも油断するのはあの新兵......
「あぎっ!」
いや、生贄だけで十分だ
「左舷方向に伏兵!炙り出せ!!」
そう指示を飛ばすと生贄の方向にある草むらに大量火矢が浴びせられる
戦時の混乱期故、銃器は昔に比べれば手に入れやすくなったかもしれないが、一介の盗賊団全員に支給出来る程この国には銃器は溢れかえってはいなかった
尤、敵の伏すと思われる場所は枯草混じりの背の高い草むらだ、銃弾を浴びせるより焼き払った方が効率がいい
「さあ、何人炙り出せるかな?」
65 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:28:11.11 ID:m/f2GdmS0
まずは一人、見慣れぬ恰好の猟銃と刀如くリーチのある鉈で武装した童女が飛び出してきた
「ほーう......あんな童女まで戦いに駆り出されるとはこの村は余程追い詰められていると見え――――――む」
早々に一人飛び出してきたが続きがいない、火矢に誰かが貫かれた様子もない
「まかさあの童女一人だけだったとはな、少し焦りすぎた――――――っ!?」
ただの数合わせかと思った童女は思ったより......いや、年齢や性別を加味するまでもなく相当出来る
あの童女と交戦中の奴らも不意を突かれたとはいえしっかり抵抗はしている様子
だが戦果も期待できないだろうしそもそも長くも持つまい
「そうかあの童女は...ふん、あの年齢で用心棒か何かか―――ところでお前達」
全く想定していなかった事態に面白くなさそうにするが、気持ちと口調を切り替え配下の者に問う
「いま戦っているあいつらの素行をどう思う?」
「今ここで『評価してやれ』」
随分抽象的な指示が飛んだ―――
―――だが返答替わりの行動は一糸の乱れもなかった
66 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:29:15.55 ID:m/f2GdmS0
――――――・・・・・・――――――
最初は銃撃のみで目の前の賊を無力化しようかと考えていた
だが装弾の方法が瞬時に解らなかったのでこの初撃のみで終わりにし、さっさと撤収しようとした―――が
霰(迂闊......だった、かな)
目の前の賊が上げた悲鳴に呼応し、大量の火矢が降り注いできたのだ
水でも被っていれば燃え始めた草むらを突っ切って合流する手もあったが
諸事情によりその行動はリスクが高くなり過ぎるので迂回撤収を諦め前方に再転進する
霰(気付かれている――けど!)
銃弾を浴びせた賊に肩口への一太刀
続いて胴衣に巻き付けていた手拭いに火を着け、ボーラ(※)の如く他の賊に投げつける
(※ボーラ:動物等を捕獲する際に手足を絡めとる為に使われる、紐の両端に錘の付いた投擲武器)
残るはあと一人、三人相手に比べれば格段に楽ではある
だが後は何も考えずに機械的な処理作業とはいかないだろう
普通であれば―――だが
霰(一刀で切り結べられる技量が欲―――っ!?)
破裂音と共に空気を切る音―――それも一つや二つではない両手では数えきれない程の量だ
67 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:30:55.34 ID:m/f2GdmS0
霰(な――ぐ――う、撃ってきた!味方ごと!?)
霰の衣服から幾つも繊維が弾け飛ぶ音が聞こえる
艦娘の装備する艤装は身体能力だけでなく身に着けている衣服などにも作用する
主な効果は装甲強化―――ではなく被弾ダメージの肩代わりだ
本来なら艦娘自身が切られ貫かれ打ち据えられ傷害ような状態になっても、身に着けた衣服が身代わりになってくれる
だから艦娘は中破や大破するとあられもない姿になってしまうのだ
余談ではあるが、その肩代わりも限界があり厚着すればしただけ...という訳にはいかない
まあ肩代わり効果は無くとも中大破級の状態になっても素肌をさらさない為に厚着をする艦娘も割といるが
霰(体――まだ普通に動かせる、行ける――)
瞬時に被弾状況の確認を終えた霰は次に周囲を確認する
手拭いを投げつけられた賊の方は既に地に倒れ伏し痙攣している
もう片方はかなりのダメージを受けており長くはもたないだろうがそれでも立っている
「あ―つら、裏、切...ど―つも――っ!!」
たとえここが図書館であったとしても最早なんと言っているかまともに聞き取れない声が上がる
発言は聞き取れないが何をしたいかだけは容易に解る
68 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:32:59.07 ID:m/f2GdmS0
最後の力を振り絞り小銃を構えようとする
道連れにするつもりだ
銃器は怖い、例え瀕死でも引き金を引ければ簡単に人を害せる
だが
霰(―――)
そんな事を許す程霰は甘くない
瀕死で動きの鈍い賊との間合いを瞬時に潰し手持ちの武器を突きつける
山人刀による刺突か?
違う、これは魚雷だ!
確かに霰の兵装は制限が掛けられ主砲は当然、各種雷撃、機銃に至るまで使えない
だが砲は使えないが散弾銃が使えるように艤装に搭載していない武器なら使える
例えば砲に装填しないで腰袋等に入れておいた物なら―――
無論様々な意味で極めて危険な行為であり、軍属がこんな事をすれば厳罰モノだが霰には全くもって関係のない話
裏技であり戦場を生き抜く知恵でしかない
霰(魚雷始動――)
手に持った魚雷のスクリューが回り始める
だが、ここで起爆させれば自分も巻き込まれ―――
霰「――っしぃ!」
「あぎゃ!?――」
人間一人葬るのに起爆などさせる必要はない
霰(――ん)
高速で回るスクリューを首に押し当てるだけで事足りるのだから
69 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:34:43.18 ID:m/f2GdmS0
首筋から血を噴く賊から視線を外し、銃撃をしてきた相手を探す
霰(あそこ――うん、届く)
安全装置を外し魚雷を忌々しい遠巻き軍団に投げ込む
何度もやってきた事、狙い違わず目標地点に落下・爆発する
霰(もうこれ以上付き合えない――)
賊から銃器を回収しようと視線を辺りに泳がせる
肩口を斬られ倒れた者、そして首から血を噴かせ倒れた者
そして頭部を黒く焼かれた者がいた
霰が手拭いを投げつけただけの相手は何故倒れた?
銃弾を受けたというのもあるだろうが、件の手拭いはしばしば艤装を拭いていた物―――
―――つまり油が染み込んだ代物だ、火が着けば容易には消せない
そんな物が投げつけられ顔に巻き付いたのだ
まだ心臓は動いているかもしれないが、これ以上気にする必要もないだろう
霰(銃弾回収は――)
チラと遠巻き軍団に目をやる
混乱は大きいが動く気配もまだ多い
霰(――している暇ない、銃だけ持ってく)
こうしてあられは燃え盛り始めた草むらを背に駆け始め闇に消えていった
70 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:37:19.22 ID:m/f2GdmS0
――――――・・・・・・――――――
「してやられたか」
走り去る童女を見送りつつそう独り言ちる
釣れたのは一人だけだがその一人は油断ならない使い手と見て生贄ごと撃ち抜いた
元々処分予定だったとはいえ頭数が限られる自軍故、切るタイミングは間違えたくなかった
だが結果は生贄3名を失うも目標は健在
それどころか手痛い反撃をもらい射手死者含め6名戦闘不能という結果に終わる
悉く目論見を外し苛立ちは隠し切れない
油断したつもりはないが結果がこれでは―――――――
そんな折、おずおずと側近が声を掛けて来た
「それにしてもあのガキ......確かに当りましたよ...ね?」
「ああ、間違いなく被弾した」
あの一斉掃射で倒せるはずだった
実際、この方法で重ボディーアーマーを着込んだ兵士を倒した事もある
仮にその瞬間は凌げても、数分持つのが限度で最終的には皆倒れ伏した
今まで例外なくそうなっていたのだ
だからあの童女がまだ動いていてもあまり気にせず銃撃を止めさせたのだ
「あの見慣れない恰好―――あの服が銃弾を防いだのでしょうかねぇ?」
「いや、そうとは思えない。鎖帷子や鉄板でも仕込んでいるかもしれないが、あの素早い動きから見て銃弾を跳ね返せる程の物は仕込んでいないだろう」
「そうとなれば後考えられるのはあの童女が化物で、とんでもなく強いってことに―――」
「・・・それだな」
「え?」
「あいつ恐らく艦娘だ」
「艦娘ってあの海の化物と戦う?」
「何でここにいるか理由は解らない...が、間違いないだろう―――これは厄介だ」
溜息一つ
そして男は化物退治の専門家を越える化物になるべく策を練り始めた
71 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:38:30.10 ID:m/f2GdmS0
――――――・・・・・・――――――
ふいに土蔵の外から奇妙なリズムの音が聞こえた
周りの村人たちは少しばかりの困惑と警戒をしていたが父親だけは意味を理解する
当然だ
父「どうやら待ち人のようです」
爺「符丁...って事ですかな?」
父親も独特のリズムで戸を叩きながら聞き返す
父「山」
「川...」
その言葉を聞き戸を開けると霰が姿を現した
様々な銃器と拭い切れぬ染みを残した山人刀を抱え、着流しの袖に至っては何かによって一色に染められている
その光景に幾人かは顔を顰め、幾人かは思わず仰け反った
だが霰も父親も気にする風でもなく情報交換を始める
72 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:40:05.23 ID:m/f2GdmS0
――――――・・・・・・――――――
父「成程、外はそんな感じか」
霰「ごめんなさい......余計なことして、無駄に被弾しちゃって....」
父「いや大事に至らなかったから別にいい、それよりまだ気になった事は?」
霰「ん......あと持ってこなかったけど――ニセモノ...銃に見えるだけの棒を持ってたのも――そこそこ、居た」
父「ハッタリが必要で、一斉掃射も限定的か。つまり相手の武装事情はかなりカツカツってとこか」
霰「だと思うの―――」
軽い打合せを終えると霰は父親に背を向ける
父「装甲」
霰「...8割弱」
父「燃料」
霰「...低級ほぼ10割」
父「弾」
霰「主装10割...雷装10割」
父「最優先目標」
霰「この土倉含めた籠城施設の死守...」
父「緊急出撃許可、抜錨せよ」
霰「了解―――」
娘が背を向け父親が向けられた背中にある錨型のパーツに手を掛ける
「―――――駆逐艦『霰』抜錨します」
錨型のパーツが抜き取られ艤装が展開された
73 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2020/12/20(日) 23:42:35.45 ID:m/f2GdmS0
本日はここまで
思ったより話が進まない...あと名前ありの艦娘が霰以外出てない!
それと追加のお断りですが、武装だけでなくオリジナルの艦娘も出てくる...かも
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/12/21(月) 20:15:51.76 ID:9/axHQido
おつです
泥臭い戦闘描写うっまいなぁ
75 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2021/01/17(日) 22:59:06.64 ID:/b472eHH0
最近更新できていませんが続きはちゃんと書いています
なんとか来週日曜日まできは更新したいのですが・・・
おのれコロナめ、自由時間を想像以上に奪いおって
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/01/17(日) 23:14:35.36 ID:/EMBarIKo
了解
報告おつ
77 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2021/01/24(日) 23:41:04.06 ID:1LKDr/zG0
さて、更新を再開します
前回の修正分もあったはずなのですが、まとめたメモ帳がどっかいっていまったので次の機会に
後、更新分がやたら多くなってしまったので分割するかも?
78 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2021/01/24(日) 23:42:17.09 ID:1LKDr/zG0
爺「ま、待って下され!」
再び外へ駆けだそうとする霰に待ったがかけられた
霰「――何?」
足を止め振り返る
出鼻を挫かれた形になったが焦りも苛立ちもない様子
ただ凪いだその目は『手短に』と雄弁に語っていた
爺「不躾かもしれませんが...勝てるでしょうか?」
霰「......それだけ――ならね」
爺「ま、まさか!」
それだけ言うと霰は老人の反応を確かめる事なく戦場へ消えて行った
爺「た、旅の人!!何故とめないのです!?」
中年男「たった一人の愛娘を――」
父「何を勘違いしているのですか、我々渡世人は命を懸ける様な真似はしませんよ」
壮年男「え?―――なら...」
父「命が掛かってるのは貴殿方(全村人)の方ですよ?」
「「「!!」」」
79 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2021/01/24(日) 23:42:57.72 ID:1LKDr/zG0
当たり前の事なのに忘れていた
危険に晒されているのは霰だけでなくここにいる村人全員
そして見事撃退できたとしてもこの村の被害が甚大であれば(村人は知らないだろうが)賊と同じ思いをするハメになるのは明らかだ
父「撃退はどんな被害を出してもいいというのであれば――――まぁ、容易いとは言えませんが出来るでしょう」
父「ですがこの村を守るというのであれば極めて難しいでしょう」
中年男「じゃあどうすればいいっていうんだよ!」
父「投降して恭順を誓えば命だけは助かる可能性は高いかと」
壮年男「畜生未満になれと?」
父「人の物を平気で力づく奪って命を刈る事も躊躇しない、確かに畜生(野生生物)の所業だ」
爺「―――」
父「だが畜生が下等な存在か否かを決めるのは貴殿方です」
爺「!!」
父「そして我々も所詮同じ穴の狢、自分達が生きたいが為に身勝手に命を刈り取り廃墟を暴くなんて日常茶飯事」
父「我々はこれを『よし』としたのです」
そう言いながらも父親の目はどことなく悲し気だった
父「今頃霰が戦わずに目一杯時間を稼いでいる頃です」
父「戦うにしろ投降するにしろ逃げるにしろ早い決断を」
その言葉を最後に土蔵は外の喧騒が聞こえるだけの空間となった
80 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2021/01/24(日) 23:45:16.21 ID:1LKDr/zG0
――――――・・・・・・――――――
艦娘からの奇襲により打撃を受けた部隊をなんとか立て直し次の方策を実行せんとする
だがその動きはまたしても件の艦娘に止められた
(またあの童女か!―――いや、それ以前に何故姿を見せた?)
あまりにも堂々とした登場に指示が遅れてしまう
そして、霰の左手を後ろに回し右手の平を前に突き出して中腰の斜め半身に構えた奇妙な構えによりさらに遅れることになる
81 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2021/01/24(日) 23:51:34.17 ID:1LKDr/zG0
霰「手前、姓は無く名は霰。生まれは古くは日ノ本随一の都として栄えたる雅の国、京都にて10人姉妹の末妹として生を受け申した」
霰「幼少より戦に身を置き、勇敢なる戦友と共に戦の先陣を切った事もありました」
霰「友は皆百戦錬磨の猛者ばかりとて相手も音に聞く超大国、戦局は次第に悪くそして轡を並べたる友も一人またひとり姿を消していきまして―――」
霰「去る夏の日、濃霧の中手前はかの国きっての武勲艦と相対し、かの者の一栄光と相なり申した」
霰「されど運命とは不思議なもので御座います、手前は戦友の姿を象り再び日の下に戻ってまいりました」
霰「しかし折り悪く天は雷鳴轟き海は荒れておりまして、手前の黄泉還りに立ち会って下さいました恩人の握った手が外れ孤独に彷徨う事と相なり申した」
霰「それからどれ程流れ彷徨ったかは覚えておりませぬが、再び眠りの底に堕ちようとした時、手前は諸国を渡る流れ者と出会いました」
霰「身元も解らぬ手前をその流れ者は十分とは言えぬ手持ちを惜しみもなく使い手前を助けていただきました」
霰「手前はその深い慈悲に感謝しその場で忠誠を誓いました」
霰「されどその者は申し出を固辞、それどころか親子の契りを持ち掛け保護をすると持ち掛けて下さいました」
[ピピッ――ザリザリ――.........――――]
霰「―――手前にとって我が父は言葉で語りつくせぬ大恩あるお方」
霰「そのお方が貴殿方を『敵』だと―――[ずだぁぁああぁん!!]
時間稼ぎの長口上は明確な敵対認識を口にした事で爆発音と共に遮られた
82 :
◆EHYyWn4ntM
[saga]:2021/01/24(日) 23:53:50.57 ID:1LKDr/zG0
――――――・・・・・・――――――
霰(ふぅ......喉がちょっと痛い...)
普段口数少ない霰にとっては淀みない口上というものは中々にしんどかったらしく軽く喉をさする
霰(凄い適当、あと日本語じゃないから相当怪しい内容だったけど......足止めできたから...いっか)
とはいえ、現在の状況は―――――
霰(少し......まずい、かも)
霰「お父ちゃん」
父「どうした?」
霰「敵...霰を避るつもりみたい――二手に分かれて逃げたの」
父「どの方向に逃げた?」
霰「多分どっちも村の周りを沿う感じ」
父「多分?」
霰「煙幕を焚かれた......」
父「そういう事か、では霰が多く潰せそうな方に追撃をかけろ」
霰「了解、時計回りの方を―――」
父「――了解、行動を開始せよ」
霰「ごめん......もう、やってるの」
父「今回は問題ないからいい、通信終了」
霰「ん、通信終了」
霰は通信を切りながら人気のない村を駆けて行った
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