【咲安価】京太郎「清澄の探索者」その3【ADV】

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382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/28(土) 21:14:28.48 ID:bnPM6mgpo
77より上なのか下なのか?
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/28(土) 21:14:43.26 ID:K0Dfucl5o
ほい
384 : ◆copBIXhjP6 [sage]:2020/11/28(土) 21:18:55.47 ID:lmlmufk60
本スレの判定は全て下方ロールです
385 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/28(土) 21:36:51.16 ID:lmlmufk60
26/77→成功!


京太郎(読める......)

目前の豪腕が一挙に振り下ろされ、握られた武具が俺の退いた後の何もない空間を通過する。だがそのさらに先にも同じように虚空が続いているわけではない。
そのままの勢いで強く叩きつけられた地面は容易く砕け散り、小石がおよそ俺の背の高さほどにも舞い上がる。
そのうち弾丸のように撃ち出されたいくつかが、俺の顔の真横を飛んでいった。

京太郎「うおっ......!」

京太郎(あんなんで叩き斬られれたらまず怪我じゃ済まないな)

京太郎(でも、兎に角爺さんから一旦距離を取らないと......)タッタッタ

動作後の隙を突いて間合いを取ろうとする。
しかしその俺を逃すまいと、その直後に巨体が地面を蹴った。


(【オカルト(京太郎)】+【オカルト(咲)】)× 5 = 55

↓3
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/28(土) 21:38:46.88 ID:uwGgsVEQ0
どりゃ
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/28(土) 21:43:14.71 ID:/VXAAVMs0
加速
388 : ◆copBIXhjP6 [sage]:2020/11/28(土) 21:49:06.77 ID:lmlmufk60
ひょっとしてエンド確定しちゃったから興が削げちゃった感じでしょうか?
成功数でハッピーエンドでも内容違うのでぜひご参加を......!

コンマなら下
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/28(土) 22:16:32.58 ID:uwGgsVEQ0
どうだ
390 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/28(土) 22:50:36.29 ID:lmlmufk60
58/55→失敗


オフラシサマ「――――――――!!!」

京太郎「速い......ッ!」

彼は走り出したというより跳んでいた。
丸太ほどにも太い脚がこの地球を押し潰さんとするかの如く加速度を与え、その動きは俺の予想より遥かに俊敏だ。
毛むくじゃらの右手が空気を薙ぎ払うかのように水平に剣を振る。そして......

俺の胴体は木の枝のように、いとも簡単に真っ二つにされた。



京太郎「......!」

意識が一瞬だけ......ほんの一瞬だけホワイトアウトすると、丁度小石の銃弾が俺のすぐ脇を通り過ぎていった後だった。
上半身と下半身は迷子になっていないし、腸もあるべき場所へ収まっている。

京太郎「おいおい、あんなのどうやって避ければ......!」

京太郎「......試してみるか」

先程と同じようにオフラシサマから離れようと走るが、今度は全く別の意図を持っていた。
彼が横に跳ね、地面の砕ける音が聞こえると同時に――――

京太郎(――――俺も飛ぶ)

恐怖はない。まるでここが高校の体育館で、目の前にマットが敷いてあるかのように地面へと飛び込む。
俺の腰が数瞬前まであった空間を切り刻んだオフラシサマは、俺の前方に着地して動きを止めた。後頭部がガラ空きだ。

京太郎(もらったッ!)

実に一年ぶりか、俺は自分の身体をまるであの頃のように自在に操ることができている。
素早く体勢を立て直し、オフラシサマの背中へ飛び込もうとした。


(【オカルト(京太郎)】+【オカルト(咲)】)× 3 = 33

↓2
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/28(土) 23:14:26.74 ID:/kDpfQXIo
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/28(土) 23:20:53.62 ID:Sros4VU+o
そろそろハッピーエンド投下されたかと思って見たらまだコンマ判定が続いていたでござる
393 : ◆copBIXhjP6 [sage]:2020/11/28(土) 23:33:21.85 ID:lmlmufk60
このままだと最後のコンマが出るの朝くらいになりそうだけど気にせず強行だ!
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/28(土) 23:40:25.35 ID:vNllzuVpo
エンドが決まる最終決戦がコンマ神による運ゲーで、一番良いエンド見れる可能性が一番高い選択がオカルト7のキャラに櫛装備させる事だったっていうのが悲しい
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/28(土) 23:47:01.36 ID:dbT5xfuao
>>394
いや、女キャラで櫛に出来るキャラ全員櫛にして榎田ジュニアに全部持たせて戦ってもらえば運要素なくせたんじゃないか?クシナダヒメ召喚判定に運が絡むけど
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/29(日) 00:08:33.43 ID:6dYk4ELio
出来る出来ないは置いといて発想が主人公じゃなくてオフラシ様側だなもはや
397 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/29(日) 00:57:18.23 ID:Lz367GE60
62/33→失敗


その時、オフラシサマの肩が微かに動いた。

京太郎(マズい、斬られる!)サッ

京太郎「.........えっ?」

俺はてっきり彼はこちらの動きを分かっていて、後方を薙ぎ払ってくるだろうと考えていた。だからこそ足を止め、一旦下がったのだ。
にも拘わらずこの体躯は俺の方へ注目するどころか――――次の瞬間には、視界から消えた。

京太郎(消えた?.........いや、違う!)

京太郎(なあ、嘘だろ――――)


この時俺はたぶん天井を見上げたのだろうと思う。『と思う』というのは、果たして自分が本当にそうしたのか不確かだからだ。
なにせそれと同時に俺の頭蓋骨は粉々にされちまったからな。

だが今度はその眼に確かに焼き付けた。
上空から迫り、俺にその剣を突き立てるオフラシサマの姿を。

京太郎(って、避けられな――――)


右に避ければ薙ぎ払われる。
後ろに避ければやはり薙ぎ払われる。
前へ逃げれば剣先は届かないが、その巨躯によって押し潰される。
では動かなければ?脳天から串刺しだ。
もっと速く。追いつかない。
姿勢を低く。何の効果もない。
鉄パイプで応戦。この威力の前では一枚の紙にも等しい。
なら今度は.........
.........
.........
......
......
...
...
..
..


京太郎「.........来たッ!」

オフラシサマ「――――――――――――!!」


こんなことに慣れる人なんて誰もいないだろうと自分を嘲笑う。一回、十回、百回.........幾度となく試行し、幾度となく殺されてきた。
そして今、この瞬間が来たんだ。
彼の僅か右斜め後ろ、丁度剣先の触れないリーチの外――――そこに活路はあった。

その強烈な勢いのまま剣は硬い地面に深く突き刺さる。振り返れば、オフラシサマの後姿はたった二メートルの先に見えていた。

京太郎(剣を引き抜くまでの刹那、これに賭ける――――!)


(【オカルト(京太郎)】+【オカルト(咲)】)× 1 = 11

↓2
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/29(日) 01:39:16.64 ID:7yCjYdvV0
踏み台
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/29(日) 02:48:04.52 ID:6dYk4ELio
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/29(日) 09:57:27.48 ID:viy/ZBHVo
このスレでコンマ判定したらこうなるのは目にみえてましたね
401 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/29(日) 10:21:47.77 ID:Lz367GE60
52/11→失敗


............
............
.........
.........
......
......
......
......
...
...
..
..
..
.
.
.


俺は未だ、最早何回目とも知れない試行をただひたすらに繰り返していた。
右脚が、次いで左脚が千切れんばかりに地面を蹴り、俺を乱雑に束ねられたオフラシサマの後ろ髪へ運ぼうとした。
だが彼の動きはあまりにも鋭利だ。須臾の間にも剣を引き抜き、背後を見ようともせずにそのまま振りかざす。
その経路は丁度俺の首の向かう辺りを辿ろうとしている。どうやろうとしても、これを避けることはできずにいた。


京太郎(..........また、ダメなのか)


そしてその僅か後には――――
402 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/29(日) 10:22:29.78 ID:Lz367GE60
――――あるはずの切っ先が、それを刈り取った。
403 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/29(日) 10:23:20.50 ID:Lz367GE60
オフラシサマ「――――――――!?」

京太郎「.........天羽々斬!」

オフラシサマ、そして命拾いした俺自身でさえその出来事に驚愕している。
本来なら今頃は何もかも叩き斬られ、俺は再び数瞬前の過去へ引き戻されるところだった.........もう、何度味わったかも分からない感覚だ。
だが現実は違う。俺の首を掻き切らんとしたのはその剣に、天羽々斬に存在しない先端だったのだ。


京太郎「届けぇぇぇッ!!!」


右手は、そこに握られている櫛はただ一点を目指した。
404 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/29(日) 10:25:36.01 ID:Lz367GE60
 【同時刻】 小佐目山 炭鉱迷宮 第5階層


優希「......音がしなくなった?」

つい数秒前まで、この大岩の向こうからは聞いたこともないような音が漏れ出ていた。
きっと見たこともないようなことが行われていたのだろう。
それがどういうことだろうか、今や私の鼓膜を揺らすのは私自身の心音とここに集まる十数人の呼吸音だけ......それも殆どが闇に吸い込まれる。
狭い坑道は、静寂に包まれていた。

和「まさか、ついに決着がついたんじゃ......」

山下「その可能性は高いな」

米本「なら早く行かないと!」

堂島「安直すぎる!須賀君が勝ったのならいいさ」

堂島「でも仮に負けたんだったら――――」

優希「――――バカ、それなら尚更行かないとダメだじぇ!」

京太郎が敗北したのだとしたら、一体祭壇は今どうなっているだろうか?爺さんは生きているのか、それとも死んでいるのか。
どちらにせよ身体の自由が効かない以上出来ることは少ない。私たちが何もしなければオフラシサマはついに野放しになってしまうだろう。
そうなれば私たちの命はおろか、村の存続さえも絶望的である。
しかしこれも自分を納得させるための建前でしかない。
実際のところ、私の本音は一刻も早く京太郎の安否を確かめたい――そして、仮に傷ついているのなら助けなければ――その一心だった。

数人の力によって『天岩戸』が再び動かされる。
開ききらないうちに、私の小さな身体はその隙間から駆け出していた。

優希「......!」ダッ

久「あっ、ちょっと!」

まこ「優希!待ちんさい!」

優希(ごめん、先輩!)

洞窟へ続く狭い通路を一目散に走る。
祭壇で一体何が起こっているのか。それがもし見たくない現実だとしたら......そう思うと、走りきってしまうのは少し怖かった。
それでも僅か十メートルにも満たない短い道のりだ。

やがて私の前に、一つの風景が広がる。
405 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/29(日) 10:28:06.67 ID:Lz367GE60
おはようございます。
これにて全安価終了になります。

今日の夜からエピローグを投下しますので、それまでに
疑問意見被告人質問等ありましたらお書きください。
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/29(日) 12:05:59.71 ID:xjXeGUPio
こういう謎解き系の安価は初めてだったからそういうものなのかも知れないけど、質問の判定に成功したのに人質の居場所知らないって嘘ついてたり明らかにシステム的な選択肢の時に判定の余地もなく全滅badエンドとかはちょっと理不尽かなと思ったな
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/29(日) 13:57:38.82 ID:AiX9zOkxo
こっちのルートって最終的には絶対この5回のオカルトステによるコンマ判定になるの?それだとあまりにも京太郎の初期ステが重要過ぎない?
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/29(日) 17:36:59.30 ID:540+YaYNo
そもそもエンドが単純なコンマ値で変わるのがどうかと思う。特にハッピーエンドでも分岐するのとか完全なハッピーエンド迎えられる確率が低すぎるのとか。京太郎死なないから死に戻りも出来ないし。
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/29(日) 18:09:26.92 ID:lMX8rRh2o
二回も死んでなおギリギリハッピーエンドという残念な結果だけどどこでルート間違ったんです?
410 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:00:11.72 ID:x3x1P+hQ0
いろいろ残るものはありますが、とりあえずエピローグ投下です。
411 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:01:28.43 ID:x3x1P+hQ0
 【12月中旬】 清澄病院 203号室


コンコン

「どうぞ」

がちゃりと音を立てて二人の女性が入ってくる。
一人は熊倉トシ、宮守女子麻雀部の監督。そしてもう一人は永水女子三年生の薄墨初美。
薄墨さんが来ると聞いた時は少々戦慄したが、現在の彼女は大分常識に則った衣服を纏っていた。
普通のトップスに普通のボトムス、普通のコート......うん、はだけた白い小袖も奇怪な仮面もここには見受けられない。

初美「お邪魔しますよー」

「お久しぶりです。熊倉さん、薄墨さん」

初美「そうですねー......前回は皆さんが帰ってきた直後だったから、三ヶ月ぶりですか」

トシ「遅れてすまないね。なにせ街の方でこの子の服を見繕ってたから」

「服、ですか?」

初美「そうなんです!冬だからっていくらなんでも寒すぎですよー!」

トシ「ここは日本有数の豪雪地帯だよ?あんな服装じゃそりゃ寒いだろうね」ケラケラ

初美「雪なんて霧島じゃ年に一回降るかどうかくらいなのに......」

(どんな格好で来るつもりだったんだろう)

それからは三人、他愛もない話で盛り上がっていた。秋の新人戦のことにコクマのこと、薄墨さんがすぐ近くで溝に嵌まり頭まで雪に埋もれてしまったこと。
宮守ではみんな受験ムードであるということ.........三年生は大変だな。そう思いながら薄墨さんを見ると、対岸の火事というふうに耳を傾けていた。
しばらくして、熊倉さんが壁に掛けられた時計をちらりと見た。

トシ「さて。そろそろいい時間だし、本題に入ろうかね」

トシ「小佐目のことと、それから――――」

トシ「――――そこで眠りこけてる須賀君のことも」


京太郎「............」


咲「そう......ですね」

トシ「まぁそっちは後回しにするとして、まずは薄墨の方からにしようか」

初美「はいはい、私の出番ですよー」
412 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:02:19.82 ID:x3x1P+hQ0
初美「あの後、警察の捜査とは別で全国各社合同の調査隊が派遣されました」

初美「うちからも神主さんと巫女さんを何人か......私と霞ちゃんも行ってきました」

初美「ほんちょーの人たち、人使いが荒いのですよー」

トシ「へぇ......でも提案したのは霧島からなんだろう?」

初美「おエライ方には色々あるらしいですけど、私にはさっぱりです」ヤレヤレ

初美「それで...........」


〜〜〜〜〜
413 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:02:55.44 ID:x3x1P+hQ0
 【10月下旬】 小佐目山 祭壇


初美「おー!これはなかなか壮観壮観」タッタッタ

霞「初美ちゃん、はしゃぐと恥ずかしいわよ?」クスクス

霞「それにしても、こういうのは小蒔ちゃんの方が得意だとは思うんだけど......」

初美「姫様をこんなヤバそうな所には連れてこられないし、仕方ないですよー」


霞「さて、どうかしら......」スッ

初美「大物は居そうですかー?」

霞「...............もう微かだけど、お一人だけ」

初美「やっぱり完全には祓いきれてないみたいですねー」


神職A「あの子たち、霧島の六女仙だっけか?」ヒソヒソ

神職B「らしい。霧島は何というか、色々と凄いな......」ヒソヒソ

巫女C「あそこまでの感受性とは......流石ですね」ヒソヒソ

神職B「それもそうなんだけどさ。何というか、ビジュアルがね」ヒソヒソ

巫女C「......確かにちょっと両極端すぎ――――」

霞「――――あら、何かご用かしら?」ニコッ

ABC「いえ、何も」
414 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:04:32.18 ID:x3x1P+hQ0
〜〜〜〜〜

初美「あの人たち、ちょっと失礼すぎますよね?!私だってまだまだこれからなんですよー......」グスン

咲「あの、薄墨さん......話がちょっと逸れすぎな気がするというか、なんというか」

初美「!......///」コホン

初美「そ、それで肝心の『オフラシサマ』についてですが」

初美「八坂の人曰く、スサノオノミコトに限りなく近いナニからしいです」

トシ「限りなく近いナニか?」

初美「『元から小佐目村の土地に土着の神様がいたところにスサノオ信仰が入ってきた。そして時代が下るごとにそれらは同格化されていき......』」

初美「『より荒々しさの強調された形で崇拝されていたのだろう』、と」

地下研究室から見つかった日誌......数ヶ月前に読んだその文章の内容を必死に思い出す。
確か、当時の楸野が化政年間に須我神社を訪れたときのことが記されていたはずだ。


 文政◯年◯月○日

  何月か手記が空いてしまったが、この間に榎田と連れ立って出雲は諏訪大明神へ参ってきた。
 壬申の儀以来、予てより行って確かめたいと思っていたので、これがようやく成就したのである。
 風土記にも書かれたる社殿の石段を昇り、巴の紋へ深く礼をして宿へ帰った後に榎田に問えば、曰く「オフラシサマとは違う」とのことだった。
 果たしてこの男の言うことが確かであるかということは置いておくとして、しからばこれは由々しき話ではないだろうか――――


初美「そのへんの史料も押収済みですよー」

初美「誘拐殺人の証拠なんかもあったから、警察とは一悶着あったらしいですけど」ボソッ

咲「あはは......」

トシ「日本の神道はどうなってるんだい、まったく......」
415 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:05:51.37 ID:x3x1P+hQ0
だがここで一つの疑問――――というより不安が残る。
霎伝によれば櫛を使って榎田が鎮めた後もオフラシサマは登場していたようだし、実際薄墨さんの話の中でも「祓いきれてない」という文言があった。
京ちゃんがやろうとしていたことは、まだ終わっていないのだ。

咲「あの......この後、小佐目村はどうなるんでしょうか?」

初美「......これから何とかしていくしかないですねー」

初美「取り敢えずのところは神楽神社を整備して、そこを拠点に色々と研究していくらしいです」

初美「次の壬申までに.........『六十ヶ年計画』って、ほんちょーの人は言ってました」

トシ「六十ヶ年か。スターリンもびっくりだね」

初美「まあ、私たちがおばあちゃんになるまでには解決策は見つかると思いますよー」

トシ「それは私に対する当て擦りかい?」

初美「そ、そういうつもりじゃないですよー!」アタフタ

トシ「はは、冗談だ」


〜〜〜〜〜


トシ「さて、次は私の番だね」

熊倉さんが持参のマイ湯呑み――何故かエイスリンさんのイラストがでかでかと書かれている――に入った煎茶を飲み干す。
そして京ちゃんの寝るベッドの方を一瞥した後、こう続けた。

トシ「彼の『オカルト』を聞いて即座に連想される人物が一人」

トシ「......私はまず、千里山に行ってきた」
416 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:07:32.88 ID:x3x1P+hQ0
 【10月上旬】 千里山女子高校


雅枝「お久しぶりです、熊倉監督」

トシ「いやいや、私はもう監督じゃない。あの子たちももう引退だし」

雅枝「寂しいですか?」

トシ「......そりゃあね」

雅枝「ま、ほんならそういう話も後で落ち着いたらしましょか」

雅枝「怜!熊倉先生が来たで」

怜「はーい......」ムクリ

怜「もう、ウチは受験生ですよ?勉強せなあかんのに」トコトコ

浩子(いや、ずっと清水谷先輩の膝で寝とったやん)


〜〜〜隣室〜〜〜


怜「つまり、『死ぬ未来を予知する』能力っちゅうわけですか」チュー

トシ「そう本人は言っていたそうだよ」

怜「ほーん。お、これ美味いわ」チュー

トシ「それはよかった――――それで参考までに園城寺さんの話を訊きたくてね」

怜「なるほど......」プハッ

怜「説明が難しいけど......私のは『見る』って感じで、その男子のとは同じじゃないで」

トシ「というと?」

怜「未来が――私は一巡先やけど――見えるのは確かなんやけどな」

怜「なんというか、他人事っぽいいうんですか.........未来がパッと浮かぶ。そんな感じなんですわ」

怜「その......えーっと、なんちゃら君は―― 「須賀君」 ――そうそう、須賀や」

怜「須賀君は光景だけじゃなくて、暑いとか寒いとかそういうのも全部感じとったんやろ?」

怜「私とはやっぱりちょっと違うなぁ」チュー
417 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:08:34.76 ID:x3x1P+hQ0
〜〜〜〜〜


トシ「その後も色々と訊いて回ったよ」

トシ「宮守の子たちは当然だけど、他にも――――」

熊倉さんの口からは次々と人名、あるいは組織の名前が吐かれていった。
そのうちの私にも聞き覚えがあったいくつかは全て全国各地に散らばっている。この人、三ヶ月でどれだけ動いていたのだろうか。

初美「そういえば、霧島にも来てたって聞いたのですよー」

トシ「ああ、その時は薄墨は居なかったね。神代さんには色々と世話になったよ」

トシ「ともかくだ。そういうことを延々と続けて、私はある一つの仮説に思い至った」

咲「仮説......ですか」

トシ「ああ。須賀君のオカルトは『死ぬ未来を見る』というものではなくて......」

トシ「『死んだ瞬間、時間を巻き戻す』ものじゃないか、ってね」

「時間を巻き戻す」......受動的に見るか、あるいは能動的に動かすか。
しかし本質的な部分は置いておくにしても、この間にある実際的な差異はあるのだろうか。

初美「確かに凄いですけど、それって何か違うんですかー?」

初美「結果としては予知してるのと変わらないように思えるんですけど」

トシ「ああ、勿論だよ」

トシ「未来が見えるだけだったとしても、その感覚まであったのなら当然表面上は同じだろうさ」

トシ「だが巻き戻されるまでの出来事は実際に起こったことだ。もっとも、須賀君以外には分からないけども」

トシ「もし須賀君が全てを『体験』していたとしたら――――」

咲「.........」

初美「.........」

トシ「――――魂の摩耗、とでも言えばいいのかね」

トシ「彼には休養が必要なんだろう」

トシ「それが何時までかは分からない。明日かもしれないし、十年後かもしれないけど......」

トシ「......私たちには、それを待つしかないよ」
418 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:09:48.52 ID:x3x1P+hQ0
しばらくして二人は再び病室の扉を開いた。松本の方で宿を取っており、明日は城を観光してからそれぞれの土地へ発つという。
去り際に渡してくれたメモには、「もし何かあればここに」という言葉が添えられた連絡先が走り書かれていた。

病院の面会時間も終了が迫り、帰り支度を始めようと腰を上げたときのことだ。
ふと私は京ちゃんに歩み寄って、その横顔を右手で撫で下ろした。

咲「ねえ、もうすぐ年末だよ?」

咲「先生が『そろそろ出席数がヤバい。三学期もいなければ須賀は留年だ』って言ってたし」

咲「このままじゃ京ちゃんが後輩になっちゃうよ!」

咲「新人戦も出れなかったし、ハロウィンもクリスマスもできなかったし......」

咲「いつもうちの雪を下ろしてくれるからお父さんも喜んでるのに、今年はしてくれないの?」

咲「......ねえ、起きてよ」


京太郎「............」


咲「......ふーんだ!京ちゃんがねぼすけなのは知ってますよーだ!」

咲「しょうがないから私が待ってあげるよ」

咲「だから今度からわざわざレディースランチのために呼ばないこと!部活ですぐ飛ばないようにもっと練習すること!」

咲「それから、それから.........それからね............」

咲「.........またね、京ちゃん」
419 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:10:43.81 ID:x3x1P+hQ0
 【元日】 清澄近くの神社


ガヤガヤ

久「うわっ、夜遅いのにすごい数ね」

まこ「正月じゃしこんなもんじゃろう?」ガジガジ

優希「ぶちょー。私も一本ほしいじぇ」

まこ「『ください』、な」

和「この近辺でも一番大きな神社ですしね。人は多いですけど、その分楽しめそうです」

優希「でも、また京太郎は来れなかったな......」モグモグ

「「「.........」」」

咲「......来年は」

咲「来年は、きっと来れるよ」
420 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:11:27.55 ID:x3x1P+hQ0
 【2月上旬】 roof-top


カランカラン

和「ふ、ふくはーうち//」パラッ

優希「おにはーそとだじぇ!」パラッ

おっさん「いてっ!」

まこ「馬鹿もん、お客さんになに投げつけとんのじゃ」ゴツン

久「しかもそれじゃあお客さんが鬼になっちゃうじゃない......はぁ、いらっしゃいませー」

優希「竹井先輩、なんか元気ないじぇ?」

久「教室がみんなピリピリしてるからこっちまで伝染してくるのよ。それで疲れちゃって」

和「早々に進路が決まっただけよかったですね......そういえば部長、咲さんはどうしたんですか?」

まこ「ああ、咲は今日もアレじゃ」

和「なるほど」

久「須賀君も果報者ね。咲が通い妻みたいじゃない」

まこ「久、あんまりそういうことを......」

久「......分かってるわよ」

優希(咲ちゃん.........)
421 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:12:23.50 ID:x3x1P+hQ0
 【数ヶ月:4日目 18:10】 小佐目山 祭壇


やがて私の前に、一つの風景が広がる。

優希「......なんだじぇ、これ」

元々この洞窟は不自然なほどに無機質な――――生というものを感じない場所だ。
それにもかかわらず、現在この空間には「荒廃」という言葉がよく当てはまった。
そこらじゅうの地面と壁のところどころは岩石が完全に打ち砕かれ、盛り上がったり凹んだりしている。
そんな中に私は三つの肢体が倒れているのを見つけた。楸野の爺さん、京太郎、それから咲ちゃんだ。

優希「京太郎ッ!」

そのうち最も無事が心配された一つに駆け寄る。衣服は薄汚れて一部に穴が空き、また露出している部分だけでもいくつもの生傷を認めることができた。
臥す彼の胸に耳を当て、首に指を当てる。彼の呼吸音が私の耳に届き、彼の鼓動が私の指に届いた。覚えたての『蘇生』は使うまでもなさそうだ。

和「ゆーき!」

まこ「優希!一人で行ったら危ないじゃろうが!」

追従してきたみんなが後ろからやってきていた。何人かは爺さんのところへ、何人かは咲ちゃんのところへ、何人かはこちらへ。
見れば爺さんは随分と慄いていたが、意識はあるし目立った怪我もないらしい。

久「咲、しっかりしなさい!咲!」

咲「............せん、ぱい?」

久「......よかった」ホッ

咲「あれ......私、いつの間にこんな所に......確か布団で寝て、夢に女神様が――――――――!」ガバッ

咲「――――京ちゃんッ!!」

竹井先輩の介抱も振り払う勢いで私の......京太郎の方へ向かおうとする咲ちゃんの恰好は全て、一瞬にして私の目の前から姿を消したあの時のものと同じだ。
まるで止まっていた時計の針が、いっぺんに動き出したようだった。

咲「優希ちゃん、これっていったい......」

優希「京太郎がオフラシサマを鎮めたんだ」

優希「脈も呼吸もあるし大きな怪我も見当たらない。大丈夫、京太郎は生きてるじぇ」

優希「あとは意識さえ戻れば............」
422 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:13:47.10 ID:x3x1P+hQ0
連休が終わって次の土日に差し掛かった頃、至急の工事によって県道を塞いでいた土砂は概ね除去され、一応のところの通行が可能になった。
予想されていたよりも大幅に復旧が早まった要因には、数日は大雨を降らせるだろうと予想されていた雨雲が
日没頃には何事もなかったかのように消え去り、その後は常に清々しいまでの快晴が続いていたこともあるだろう。

その日、第一便のバスに乗って私たちは小佐目村を去った――――京太郎の乗った救急車を見送った後のことだった。
423 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:14:43.37 ID:x3x1P+hQ0
 【3月中旬】 清澄病院 203号室


咲「おまたせ......遅れてごめんね」


京太郎「.........」


咲「今日は竹井先輩の卒業式でさ......やっぱりみんな泣いちゃった」

咲「竹井先輩もそうなんだけど、部長のほうが大泣きで。ふふふ、おかしいよね」

咲「それで、これからみんなで会いに来たいって」

咲「京ちゃんもすっかり人気者だね。前まで影が薄いってぼやいてたのに......」

咲「だから京ちゃんも綺麗にしておかないとダメだよ?タオル持ってくるから、ちょっと待っててね」


京太郎「.........」
424 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:15:12.72 ID:x3x1P+hQ0
ガチャッ

母「あら、咲ちゃん」

咲「あ、こんにちは。今日は部活のみんなが一緒に来るんですよ」

咲「いつもお見舞いもみんなバラバラだったから......久々に全員で揃って、京ちゃんも嬉しいと思います」フフッ

咲「それで、今身体を拭こうかと―― 「咲ちゃん」 ――」

咲「......なんですか?」

母「......あなたはこの半年、京太郎にすごく尽くしてくれてるわ。私やお父さんくらい――――いいえ、それ以上かもしれない」

母「あなたがどうしてここまでしてくれるのか......それをあえて訊くつもりはない。無礼だもの」

母「でもね、咲ちゃん」

母「あなたの人生は、あなただけのものなのよ」

母「私にこんな偉そうなことを言う権利なんて本当はない......でも、これだけは覚えておいてね」

咲「......ありがとうございます」

咲「でも私はこれで......ううん、これがいいんです」

咲「今はこれが一番、幸せだから」

母「............ほら、こんなバカ息子の身体なんて私が拭いとくから!」ググッ

咲「わわっ!」

母「咲ちゃんはみんなを迎えに行ってあげなさい、ね?」

咲「あっ......ありがとう、ございます」

キィィィィ...バタン
425 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:16:11.99 ID:x3x1P+hQ0
 【2年後】 清澄病院 203号室


咲「先生が、来週はいよいよ卒業式だって。自分でも、あんまり実感湧かないな」

咲「そういえば、食堂のおばちゃんが今年度で退職なんだってさ......ほら、ランチセットの」

咲「だから、これから京ちゃんが復学してもレディースランチは食べられないよ!」

咲「京ちゃんがねぼすけなのが悪いんだからね」

咲「それにしても、近くの学校に受かってよかった......他のところは全部遠いし、行くのが大変だよ」

咲「お姉ちゃんにはプロを薦められたけど、やっぱり今の時代大学くらい出ておかないとね!」フンス

咲「......でも、一人暮らしはしてみたほうがいいのかなぁ」

咲「一人じゃないにしても、実家を出て暮らす経験はしておいたほうが良いって言うし」

咲「竹井先輩は福路さんとルームシェアしてるらしいし......私も誰か誘おうかな、優希ちゃんとか」

ピンポンパンポーン マモナクメンカイノオジカンガ......

咲「あれ、もうこんな時間だ」ガタッ

咲「じゃあね、京ちゃん」
426 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:17:04.23 ID:x3x1P+hQ0
 【4年後】 清澄病院 203号室


咲「京ちゃん京ちゃん!卒論通った!」ワーイ

咲「いやぁ、ここ最近はそればっかりでもうクタクタ......」

咲「来る頻度、減っちゃってごめんね。またしばらくは前みたいに来れると思うから」

咲「あっ、そうだ!チームの方から次年度の契約の話が来てたんだったけどね」

咲「難しいことよくわかんないからお父さんに聞いたんだけど、そしたら――――」


界『咲ももう大人になるんだから、この手のものは自分でなんとかしなさい!』


咲「――――って......契約できなかったら来年一年間、ニートになっちゃうよ......」グスン

咲「和ちゃんに聞いたから、取り敢えずどうにかなりそうだけど」

咲「.........プロに行ったら色んな人と戦いたいな」

咲「衣ちゃんと池田さんと加治木さんからあの時の再現をやろうって誘われたし、それから......」

咲「――――――――!!」

咲「――――?――――!」

咲「――――」
427 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:18:42.85 ID:x3x1P+hQ0
 【4年後】 清澄病院 203号室

ガチャッ

咲「一週間ぶり、京ちゃん。元気してた?」

咲「暑いね......麦茶持ってくるからちょっと待ってて.........ふぅ」


京太郎「............」


咲「実はインターハイの解説頼まれちゃって、しばらく東京に居たんだよ」

咲「そのとき、私もつい......アナウンサーの子にさ」

咲「『ところで宮永プロはもうすぐアラサーなわけですが......』だって」

咲「私まだ25歳だよ?!アラサーって普通28歳以上じゃないの?!」

咲「そう返したら今度は、『そんなのあっという間じゃないですか』って言われたよ」ズーン
428 :>>427:咲「私もつい」→「私もついに」 ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:20:35.38 ID:x3x1P+hQ0
咲「.........」

咲「もう、そんなに前なんだね」

咲「みんなであの部室にいたのも、みんなで麻雀したのも、みんなで旅行に行ったのも」

咲「京ちゃんが、最後に私の名前を呼んでくれたのも......」

咲「ここまであっという間だったのに、気がついたらもう――――」
429 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:21:08.23 ID:x3x1P+hQ0


京太郎「――――二十年、か?」

430 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:21:54.78 ID:x3x1P+hQ0
咲「十年だよ!」

咲「...................えっ?」

京太郎「よっ!随分久しぶり......でもないのか、実際は」

咲「.......きょう、ちゃん......?」

京太郎「おうよ。正真正銘、須賀京太郎だぜ」

京太郎「......なんだよその顔。まるで幽霊でも見たみてーじゃねえか」

咲「.........!」ジワァ

京太郎「おいおい、泣くなって!」アタフタ

咲「だって、しょうが、ないじゃん.........」

咲「京ちゃんが......京ちゃん......きょう、ちゃん.........!」

京太郎「......いくらでも泣いていいんだ」

咲「うん.........!」
431 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:22:40.68 ID:x3x1P+hQ0
京太郎「――――ただし、あいつらが出てきてからな」

ガタガタッ!

優希「あー......えーっと......」

まこ「こ、これはお二人さん......ご機嫌麗しゅう」

久「こんな所で会うなんて奇遇ね!あはは......!」

和「これはですね......そう、違うんですよ!咲さん!私は元々止めようとしてたといいますか ー―「和ちゃん」―― はひっ!」


咲「......どういうことか、一から説明して?」ニコッ
432 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:24:58.07 ID:x3x1P+hQ0
和はそれから、ここ数日のうちに俺の周りで起こった顛末を洗いざらい白状した。
つまり十年ぶりに俺が意識を取り戻したときのこと、それを聞いた優希と和、染谷先輩に竹井先輩が飛んできたときのこと。
そこで俺が、現在の俺自身の状況を知らされたこと。竹井先輩のいたずらで咲には俺が目を覚ました事実を伏せておくことが決定したときのこと、等々.........
その間、四人は漏れなく咲によって正座を強いられていた。

咲「――――だから、もうこんなことはしないでね!先輩方も金輪際止めてください!」

優希「はい......」

和「重々承知しました......」

まこ「すまん、調子に乗りすぎた」

久「はいはーい」ヘラヘラ

咲「先輩は後で麻雀しましょうか」

久「」

京太郎「まあまあ、折角みんな揃ったんだぜ?」

京太郎「パーッと楽しい方がいいじゃんか」

咲「まぁ、京ちゃんがそう言うなら......」プクー

咲の風貌は随分成長していたが、こうして少々不満な時に頬をふくらませる動作は全く以てその面影を残している。
俺は改めて、この眼前の女性が宮永咲であることを確信した。

京太郎「医者にも特別に、今晩はみんなこの部屋に残ってていいって許可も貰ったし......」

京太郎「色々と積もる話もあるしさ。まずはみんなが何してるかとか改めて聞かせて――――」

まこ「――――京太郎はそれでええんか?」

京太郎「......えっ?」
433 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:26:30.31 ID:x3x1P+hQ0
染谷先輩の発言は至極不可解だった。良いも悪いもあるだろうか?普通に俺、みんなの話聞けるの楽しみにしてたんですけど......
だがそれに続く彼女らの発言とニヤケ面を見て、俺はやっとその真意を理解できた。

久「それは後にすればいいじゃない。私たちは二、三時間くらい席外してるわね」ニヤニヤ

まこ「そういえば近くに飲み屋があったのう。そこ行くか」ニヤニヤ

優希「むふふふ......ごゆっくりだじぇ」ニヤニヤ

和「咲さん、ファイトです」グッ

咲「和ちゃん.....」

バタン


四人が部屋を後にすると、狭い病室には俺と咲だけが残された。
部屋の照明は廊下側だけが点灯され、窓際にある俺のベッドの辺りを心地よい光が照らす。

京太郎「......空調の真下だと結構寒いな」

咲「冷房止めて、窓開けよっか」

その言葉のとおり立ち上がった咲がエアコンを操作し、最後に傍の窓を半分ほど開いてくれた。
時刻は午後八時。長野の夏夜に吹く涼しい風が病室を抜けていった。
434 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:27:31.05 ID:x3x1P+hQ0
京太郎「涼しいな......」

咲「うん、そうだね......」

京太郎「.........俺、ここまでのこと聞いたよ」

京太郎「十年間、今までありがとう。それから......」

京太郎「待たせてごめんな」

咲「......待たせすぎだよ、バカッ」

咲「私、もう25歳だよ?」

京太郎「俺だって同い年だろ。中身は高校生だけどさ」

咲「もう!......じゃあ、そんな高校生の京ちゃんに質問です」

京太郎「おう!どんとこい!」

咲「私、変わったかな?」

京太郎「ふーむ......確かに随分と成長して......」

京太郎「......いや、そうじゃないか」
435 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:28:21.36 ID:x3x1P+hQ0
窓の外を見ると、眼下の路地を仲間たちが歩いている。
空を仰ぐと、天を左右に分断するかのように天の川が流れていた。

十年の歳月――――俺たちを隔てているそれを乗り越えるのは、決して容易なことではないだろう。
政治に経済、科学技術、社会常識に至るまでの全てが大きく変遷している。俺はそれら時間の流れに取り残されてしまっているのだ。

それでも、と俺は訴え続ける。
生きている限り、何度でもやり直せるし追いつける。
俺は時間を戻すのではなく、進めることによって彼女と生きていきたいんだ。
436 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:29:42.93 ID:x3x1P+hQ0
「綺麗になったな、咲」


HAPPYEND:「神は天にいまし、すべて世は事もなし」
437 : ◆copBIXhjP6 [saga]:2020/11/30(月) 04:30:08.08 ID:x3x1P+hQ0
Fin.
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/30(月) 05:34:50.61 ID:r2O6jj9k0
おつおつ
えんだー(以下略)とはならなかったけど一応ハッピーエンド行けて何より
重要なところとかでコンマが振るわなかったらもっと悲惨なことになってたとはいえ、いい感じに来てたから微妙にもやっとする!
どっかからやり直しとか最初からとかできるん?
439 : ◆copBIXhjP6 [sage]:2020/11/30(月) 06:08:02.07 ID:x3x1P+hQ0
シナリオ「清澄の探索者」はこれにて終了です。

まずはスレ立てからの三ヶ月間、お付き合いた方々に心からお礼申し上げます。
440 : ◆copBIXhjP6 [sage]:2020/11/30(月) 06:08:39.19 ID:x3x1P+hQ0
次に、このような尻すぼみもいいところな(最初から大したことなかったと言われればそうですが)話を書いてしまった身から
自己批評として「なぜこのスレはしくじったか」を考えましたので、いくつか挙げさせていきます。


・システム

1. そもそも最初のチョイスが間違っていた
>>1にも書いていますがこれが初のSSです。慣れないどころか未経験なのに、初っ端から謎解きモノを安価でやろうとしてしまいました。
しかもあれやこれやと要素をぶち込みまくった結果シナリオがごちゃごちゃして、悪い意味で複雑なストーリーが出来上がりました。
せめてテーマを絞って話の長さを削っていれば、以下の問題も各々多少は軽減されたのではないでしょうか。

2. 曖昧さを残してしまった
例えば最初の段階では時間設定という概念すら存在しませんでしたし(なんとなくの時間帯だけ)、以後にも「ここの判定ってどうなるの?」という予知が無数に存在していました。
結果後からこれらを場当たり的に制限していくことになり、次第に齟齬が拡大していきました。

3. 想定・テストプレイが甘すぎた
仮にも「TRPG風でやりたい」と言っている以上戦闘が発生することは必須のはずです。敵を仲間に出来るなら、味方を多くしていくのは当然の戦略です。
他にもスレ内で発生した「想定してなかった」事案中で、本来なら予見できた筈のものは多くあります。
しかし>>1が最初に持っていた「こういう話で作ってみたいなー」という考えが先入観となり、それらを妨げていました。
その結果テストプレイ(当然>>1しかいません)は>1の考えをシミュレートするだけのものとなってしまい、
本来の目的である設定やシナリオの不備を発見することができませんでした。


・シナリオ

4. 長い
まさか三ヶ月もかけることになるとは思わなかったです。反省しています。

5. 登場人物が多い
本来は山下や堂島も大学生Aとか会社員とかで良いかなと思っていたのですが、流石に扱いづらいということで名前をつけました。
また敵キャラ(楸野、榎田等)も変にキャラ付けをしていった結果、読者が気を配らなければならないオリキャラが大量に出来てしまいました。二次創作なのに。
もっと人物は減らして、名前も適当で良かった気がします。

6. ENDが雑
これは散々ご指摘をいただいた通りですが、特に最後のENDは酷かった思います。
プロットを書くのに夢中で、肝心の分岐方法(この場合は最終決戦などです)については「ま、コンマでええやろ」くらいの認識でした。
どうしてこれで良いと思ったのか、多大に反省しております。


・描写

7. ムラがある
最初は「地の文で風景描写細かくやって雰囲気出してみよう!」とか考えていたのですが、出来るわけありません。
当然時間経過と共に既に来たことのある場所が増えてくるので仕方ない部分もあるでしょうが、それでもその風景描写の量には場所によって大きな差が生まれてしまいました。

8. 敵の心情
「5. 登場人物が多い」とも通じるところですが、プレイヤブルキャラ(清澄の部員たち)以外の心理はもっと適当に書くべきでした。
非安価でもない限り、シナリオを破綻させずに進めるには理不尽な制限(道を通せんぼするカビゴンなど)を設置する必要があります。
このスレであれば「敵は基本仲間に出来ない」などをしなければ味方側が戦力過多になり、あらゆる行動がゴリ押しで可能になってしまいます。
ですがなまじ敵のキャラ付や心情描写等を入れてしまったがために、「いや、こいつ説得できないとおかしいよな」という論理に至るようになりました。


・その他

9. 誤字脱字が多い
注意不足です

10. 似たような表現の繰り返しが多い
引き出し不足です。もっと本や辞書を読みます。
441 : ◆copBIXhjP6 [sage]:2020/11/30(月) 06:10:05.42 ID:x3x1P+hQ0
被告人質問への回答です


>>373
あれはブラフと言うと高尚ですが、結果的には無駄選択肢でした。どちらにしても他の面子がいるとこうなりました。
最終決戦は京太郎とラスボスの一騎打ち以外にならないだろうと何故か想定しており、そっちに強引に持っていくための全滅ENDでした。
他にも、「3. 想定・テストプレイが甘すぎた」をご参照ください。

>>394-395
櫛は同時に一本しか存在できません。
『寝る』は選択肢に入っていましたが、判定もなくただ本当に寝るだけです。
これによって京太郎たちは初めてこれ以上櫛が作れないことを知り、『寝る』コマンドも消滅する予定でした。
>>232あたりで何故か消えてしまっているのは......謎です。
かつ京太郎以外のキャラは殺されれば死にますから、どんなに【オカルト】が高い組み合わせでも最終決戦は一度くらい失敗するだろうと。
その時点でBADENDにするつもりでしたが、もしすべて成功していたら......ここも読みの甘さの一つです。

>>400
それはそう

>>406
居場所:女将たちが知らないはずなのに後々元から知っている風になっているのは完全にこちらのミスです。本当に申し訳ない。
全滅END:>>373の通りです。

>>407-408
本当にごめんなさい。「6. ENDが雑」の通りです。

ハッピーエンド分岐については、死亡回数によって京太郎の昏睡期間が変わります(成功が多ければ死なない→すぐ起きる)。
より早い時期に起きることで色々な所に赴き、小佐目のその後についての情報をより多く得ることが出来ます。
今回はハッピーエンド中最も成功数が少なかったので回復時期は最も遅い十年後であり、このようなエンディングになりました。
ただしトシさんとロリ巫女のくだりは全ルート共通になっています。

>>409
「二回も死んで」というのは最終決戦以外のところで、ということでしょうか?ならむしろ少ない方だと思います。10回くらいは殺されるかなと想定してましたから。
大学生を仲間にして以来順に味方を増やしつつ大軍団が形成され始め、まず死ななくなりました。
>>1としては完全に思ってもいなかった展開ですが、読者としては最善の手だったのでしょう。
ですから最後が残念な結果なのは全て>>1のせいです。

>>438
最初からは流石に......最終決戦直前からやり直しが現実的な線でしょうが、正直今回のクソコンマ判定よりも納得できる上手いイベントを作れそうにありません。
また同じようにコンマ取るだけで良いのであれば、そこから分岐するENDは幾らでも書かせていただきます。
442 : ◆copBIXhjP6 [sage]:2020/11/30(月) 06:13:03.95 ID:x3x1P+hQ0
これに懲りて、経験値が貯まるまでの今後しばらくは
短編か非安価スレで書いていこうかと思いますのでよろしくお願いします。

もしまだ疑問等あればお答えしますので、どうぞお書きください。

三ヶ月間、本当にありがとうございました。
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/30(月) 14:38:52.25 ID:b82cmhk/0
いえいえ、三ヶ月間楽しませていただきました!
エピローグの京咲も大変エモい…清澄のみんなや咲とのやりとりが終始ツボでした
乙!!
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/30(月) 15:07:55.79 ID:11vmgajJo
乙です
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/30(月) 15:26:44.09 ID:92+8/ZS10
おつ
ぶっちゃけ、初投稿でこの長さの安価スレをエタらず完結させた時点で賞賛ものなんだよなぁ
また新しいストーリーとかができたらやってほしい
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/30(月) 17:48:55.92 ID:/79enaDso
まずは完結乙
実際のTRPGでもGM視点でプレイヤーが迷走し始めるのは稀によくあるけど、そういう時は「ぶっちゃけここじゃもう情報落ちないよ」とかメタ発言でも早めに伝えた方がベターだったかなって
ともあれエタらずに完結させてくれただけでありがたい お疲れ様でした
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/30(月) 20:43:22.68 ID:eWS6XqnQ0
乙です!!
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/30(月) 22:44:22.86 ID:YVgVY27y0
本当に乙でした
エンディングもここまで長文とは大満足です、他のENDも書いてくれるならいくらでも待ちます
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/30(月) 23:34:17.06 ID:I3hFVkQmO
俺こういうエピローグに弱いの…超乙
三ヶ月間楽しかったで!
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/12/06(日) 06:37:53.56 ID:7ot1Qbfe0

完全なコンマ判定成功した時のエンド読みたい
あと作者が想定してたルートがどんなものか凄く気になる
戦闘と説得で仲間増やせなかったらタイムリミットに間に合う気が全くしない
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/12/30(水) 16:43:57.66 ID:w3IzxxZ00
集落は今回の事件で結果に関係無く、集団移転で廃村になるだろうから、どっちにしろ完全決着になる気がします。
京太郎が昏睡中にオフラシ様の研究はしなかったのだろうか。事件終了後に京太郎を目覚めさせるために清澄メンバーに調査させても良かったのでは(何もわからなければ京太郎は10年間昏睡)。
楸野の呪いについては集落の好事家による個人の研究ではなく全国区の協力が仰げるわけだから、知っている事を洗いざらい話してくれそう。
452 : ◆copBIXhjP6 [sage]:2020/12/31(木) 14:18:06.22 ID:nB+OJlir0
お久しぶりです。>>1です。
年末なんで蛇足を二つ引っさげて参りました。

蛇足1はコンマ神が微笑んだエンド(>>450)、
蛇足2は>>436の続きのような何かです(>>438)。
453 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:19:02.54 ID:nB+OJlir0
【蛇足1:もし最後のコンマが全部成功したら】



その眩さは地下に届かないはずのものだ。
身体の節々には誰が巻いたとも知れない包帯が縦横に走り、誰が着せたとも知れない旅館の浴衣がそれを包む。
俺が目を覚ましたのは冷たい岩盤の上ではなく、藺草の香りが鼻腔をくすぐった。


 【6日目 7:30】 旅館・本館 3階 307号室


筋骨が悲鳴をあげるのを多少我慢して姿勢を起こすと、そこは俺が泊まっている部屋に間違いなかった。
古めかしい内線電話に一度か二度しか付けていないテレビ、着替え一式が入ったボストンバッグ、座卓に置かれたクリスタルガラスの灰皿。
小さなベランダに続くガラス戸からは朝日が差して、壁に掛けられた俺の洋服を照らしている。

京太郎「咲、起きろ......咲」

咲「.........あれ、きょーちゃん......おはよー」

京太郎「おはよう。よだれ垂れてるぞ」

怪我人の膝を枕にしていた不届き者が、ようやく目を覚ました。
454 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:19:35.79 ID:nB+OJlir0
朝の歯磨きはどのタイミングでするのが良いんだろうか?俺は起きた直後に軽く、朝飯の後にしっかり磨くことを心がけている。
しかしそうは言っても普段の朝は忙しいし、一回はうがいだけとか結構おざなりになってしまっている感は否めない。
いや別に歯磨きの話はどうでもよくて、つまるところ何が言いたいかといえば......

京太郎「んんんーんんー」シャコシャコ

咲「んー?」シャコシャコ

京太郎「んんんーんんー、っんんっんーん」シャコシャコ

咲「ん、んんんんんんーんんー」シャコシャコ

京太郎「あー、あいあー」ガラガラ

咲「んー」シャコシャコ

こういう風景の、なんとも牧歌的であるかということだ。

畳んだ布団を部屋の隅に追いやって作ったスペースに座布団を敷いて腰を下ろす。
そういえば今日は俺たちが小佐目へ来てから六日目、つまり連休が明けた後の木曜日だ。
お天気キャスターの『木曜は特に冷え込む』という週間予報はどうやら的中したらしく、下に沈んだ冷気が素足から熱を奪っていく。
淹れたばかりのお茶をずずっと一口吸い上げると、朝の底冷えした身体に熱さが染みた。
455 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:20:06.35 ID:nB+OJlir0
京太郎「うーん......お茶が旨い」

咲「もう京ちゃん、おじいちゃんみたいだよ?......あっ、おいしい」

京太郎「な、言ったろ?」

特に銘柄などは書いてなかったけれど、案外いい茶葉なのかもしれない。

京太郎「しかし今日が六日目ってことは、俺は一日半も寝ちまってたってことか」

咲「うん。ずっと見ててあげたんだから感謝してね」

京太郎「ははっ、結局お前は起こされる側だったろ」

咲「そういうこと言わなくてもいいじゃん!」ポカッ

京太郎「いてっ」

何故こういう時にわざわざ一番痛む所を小突くかな、こいつは。
ともかくそう言って小腹を立てる咲の姿を見ているだけで、俺は何気ない普通を噛み締めることが出来るのだった。

京太郎「.........咲」

咲「なに?」キョトン

京太郎「お前が戻ってきて、本当に良かった」
456 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:20:40.80 ID:nB+OJlir0
 回想:【4日目 18:10】 小佐目山 祭壇


それは、俺の右手が『花の櫛』を押し込んでから数秒のうちの出来事だった。
視界一面がにわかに黄金色の光に包まれる。全身が持ち上げられるような感覚に包まれ、そのままゆっくりと地面へ降り立っていた。
それとは対象的なのがオフラシサマだ。閉ざされた洞窟を風が吹き上げ、彼の身体が少しずつ天へ昇っていく。
俺は、ただそれを呆然として見つめていた。

光が集まり束となった。それはだんだんと形を成していき、やがて男神に寄り添う一人の女性が立ち現れる。
.........クシナダヒメ。夢の中で俺の前に現れ、俺に櫛を授けた女神だ。


京太郎「――――ッ!」

京太郎「おい!咲は、咲はどうなるんだよ!?」


オフラシサマ「――――――――――――」

クシナダヒメ「――――――――――――」


京太郎「クソッ!あいつまで連れていくつもりか!」
457 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:21:14.78 ID:nB+OJlir0
ああ、身体の節々が痛い。呼吸するだけで肺が刺されるようだ。
俺の身体は俺が思った以上によく動いてくれた。振るわれる全ての剣を凌ぎ、ここまで生き延びることが出来たのは奇跡に近い。
しかし当然無傷というわけにもいかず、『凌ぐ』というのも避けきることとは同義ではなかった。
ただ深く切りつけられても、強く打ちつけられても、それでもなお抗い続けてくれたというだけの話だ。

身を絞って最大限の声を上げる。それが彼らの耳に入っている様子はない。
俺はどうする。これ以上どうすればいい。こうして地べたに尻もち付いたまま、指咥えて眺めてるだけでいいのか?


違うだろ。


京太郎「待ちやがれってんだ!この野郎!」


彼らはどのくらいの高さまで昇っているのだろうか。そもそもこの世に存在していて、触れることが出来るのだろうか。
どうにせよ、手が届くとは到底思えない。


京太郎「咲を――――」


それでも俺は立ち上がり、地面を蹴り、右腕を伸ばした。


京太郎「――――――――返せッ!」


〜〜〜〜〜
458 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:22:03.90 ID:nB+OJlir0
意識があの夜の現実離れした出来事をなぞり、再び現在へ戻ってきた。目を開ければ視界には変わらず咲が映っていた。
俺の記憶はここで途切れている。その結果を見届けることは出来なかったが、こいつが俺の隣にいるということはきっと成功したのだろう。

思案する顔を見て、咲も俺が何を言いたいのか合点がいったようだった。
それから湯呑みからお茶を二、三回すすり、こう言葉を続けた。

咲「私だって京ちゃんがずっと起きないんじゃないかって心配だったよ」

京太郎「それは流石に心配性が過ぎるぜ。ただの疲労だろ」ハハハ

咲「......夢を見てたの」

京太郎「夢?」

咲「うん。京ちゃんがずっと寝てる夢」

咲「一ヶ月経っても、一年経っても、五年経っても京ちゃんは眠ったままで」

咲「一昨日の夜も昨日の夜もその繰り返し......寝る度に同じ内容ばっかり見ちゃって......」

咲「それでね......私.........それが、本当になるんじゃ、ないかって........怖くて.........」

京太郎「.........」ギュッ

咲「......京、ちゃん......」

京太郎「咲、ありがとな」

咲「.........うん」

貸し浴衣の袖が涙で濡れるけど、そんなこと知ったこっちゃない。
ここまでの数日間で俺たちが直面してきたのは非日常の連続だ。
実際怪我をしたヤツだっているし、何処かで選択を間違えていればもっと凄惨な事に......誰かが命を落とすような結果に終わった可能性だってあった。
それでも俺たちは生きている。今はただ彼女と、この時間を共有できていることだけを喜びたい。
459 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:22:36.66 ID:nB+OJlir0
突然、咲がその細い腕を俺の後ろ首にまわす。グイッと引っ張られるままに諸共畳の上に倒れ込んだ。

京太郎「うわっ!......何すんだよ、咲」

咲「んふふー」ニコニコ

京太郎「おいおい、こちとら怪我だらけで――――」


ガチャッ

まこ「咲、わしが代わるけん少しは休んだほうが......」


京太郎「」

咲「」


まこ「............失礼しました」

バタン


京太郎「」

咲「」
460 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:23:36.80 ID:nB+OJlir0
 【6日目 7:50】 旅館・本館 1階 食堂


食堂にはいつもと変わらない仲間たちがいて、一日ぶりに目を覚ました俺を迎えてくれた。
大学生や社会人の一団は未だ姿を見せていない。

咲「おはようございます......」

京太郎「おはよーっす」

優希「きょーたろー!やっと起きたか!」

和「もう大丈夫なんですか?満身創痍だったと聞きましたけど」

京太郎「ああ。この通りへっちゃらだぜ」

京太郎「ところで他の連中はどこに行ったんだ?」キョロキョロ

優希「おねーさんたちは多分部屋で寝てるじぇ。昨日の夜、遅くまで遊戯室にいたからな」

和「大学生の皆さんは七時過ぎくらいに出ていきましたよ」

京太郎「七時過ぎだって?一体どこに?」

和「神楽山です。確か『花を植え直しに行ってくる』と言ってました」

京太郎「あぁ、なるほど」
461 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:24:08.64 ID:nB+OJlir0
この頃には染谷先輩が言いふらした後だろうと予想していた俺は、例の件をどう釈明しようかということで頭が一杯だった。
しかし彼女たちの反応を見る限り、意外にも他の誰にも知れ渡っていないようだ。すかさず唯一の目撃者の元へ詰め寄る。


京太郎「先輩、さっきのことなんですけど......」ボソボソ

まこ「言いたいことは分かっとる。まぁ、程々にな」ヒソヒソ

まこ「しかしおぬしら......奥手に見えて案外ヤることヤッとるとは知らなんだ」クックック

京太郎「いや、違いますからね?」ボソボソ


和「何の話でしょうか?」

久「さぁ......大方の想像はつくけどね」

咲「ま、まあいいじゃないですか!そんなこと!」アセアセ

咲「それより、ここまでのことを教えてくれませんか?」

染谷先輩の目にはどうやっても苦し紛れの誤魔化しとしか映らなかっただろうが、実際これは俺にとっても一番気に掛かっていた事だった。
この『平和』の二文字を体現するような朝から察するに、昨日までに粗方の騒動は収まったのだろう。
しかし咲といえば一日一夜俺につきっきりで村の状況は知らないらしいし、俺自身は言わずもがなだ。

まこ「まあ待て。その前に......」チラッ

京太郎「?」

示し合わせたかのように、丁度厨房から俺たちを呼ぶ声があった。
462 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:24:49.13 ID:nB+OJlir0
 【6日目 8:00】 旅館・本館 1階 食堂


まこ「いただきます」

「「「いただきまーす!」」」

優希「今朝もタダ飯が美味いじぇ」

女将「あら、そういうこと言うなら追い出すわよ?」

優希「ゴメンナサイ」

和「感謝の気持ちは大事ですよ、ゆーき?」

久「ロハで泊まらせてもらってるんだからねぇ」

一日ぶりの温かい飯は空きっ腹によく染みた。
初日や二日目に比べれば内容は寂しいものだが、何より心配事を抱えないまま摂る食事というのは精神衛生的に大変良いものだ。
と、ここまで腰を落ち着かせた所で、俺はようやく話を切り出すことができた。

京太郎「なあ、そろそろ昨日の話を教えてくれよ」

優希「むふふ......それはこの優希ちゃんにおまかせあれ!だじぇ!」
463 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:25:19.63 ID:nB+OJlir0
 回想:【4日目 18:10】 小佐目山 炭鉱迷宮 第5階層


優希「......音がしなくなった?」

つい数秒前まで、この大岩の向こうからは聞いたこともないような音が漏れ出ていた。
きっと見たこともないようなことが行われていたのだろう。
それがどういうことだろうか、今や私の鼓膜を揺らすのは私自身の心音とここに集まる十数人の呼吸音だけ......それも殆どが闇に吸い込まれる。
狭い坑道は、静寂に包まれていた。

和「まさか、ついに決着がついたんじゃ......」

山下「その可能性は高いな」

米本「なら早く行かないと!」

堂島「安直すぎる!須賀君が勝ったのならいいさ」

堂島「でも仮に負けたんだったら――――」

優希「――――バカ、それなら尚更行かないとダメだじぇ!」

京太郎が敗北したのだとしたら、一体祭壇は今どうなっているだろうか?爺さんは生きているのか、それとも死んでいるのか。
どちらにせよ身体の自由が効かない以上出来ることは少ない。私たちが何もしなければオフラシサマはついに野放しになってしまうだろう。
そうなれば私たちの命はおろか、村の存続さえも絶望的である。
しかしこれも自分を納得させるための建前でしかない。
実際のところ、私の本音は一刻も早く京太郎の安否を確かめたい――そして、仮に傷ついているのなら助けなければ――その一心だった。

数人の力によって『天岩戸』が再び動かされる。
開ききらないうちに、私の小さな身体はその隙間から駆け出していた。

優希「......!」ダッ

久「あっ、ちょっと!」

まこ「優希!待ちんさい!」

優希(ごめん、先輩!)

洞窟へ続く狭い通路を一目散に走る。
祭壇で一体何が起こっているのか。それがもし見たくない現実だとしたら......そう思うと、走りきってしまうのは少し怖かった。
それでも僅か十メートルにも満たない短い道のりだ。


やがて私の前に、一つの風景が広がる。
464 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:25:48.30 ID:nB+OJlir0
 【4日目 18:10】 小佐目山 祭壇


優希「......なんだじぇ、これ」

元々この洞窟は不自然なほどに無機質な――――生というものを感じない場所だ。
それにもかかわらず、現在この空間には「荒廃」という言葉がよく当てはまった。
そこらじゅうの地面と壁のところどころは岩石が完全に打ち砕かれ、盛り上がったり凹んだりしている。
そんな中に私は三つの肢体が倒れているのを見つけた。楸野の爺さん、京太郎、それから咲ちゃんだ。

優希「京太郎ッ!」

そのうち最も無事が心配された一つに駆け寄る。衣服は薄汚れて一部に穴が空き、また露出している部分だけでもいくつもの生傷を認めることができた。
臥す彼の胸に耳を当て、首に指を当てる。彼の呼吸音が私の耳に届き、彼の鼓動が私の指に届いた。覚えたての『蘇生』は使うまでもなさそうだ。

和「ゆーき!」

まこ「優希!一人で行ったら危ないじゃろうが!」

追従してきたみんなが後ろからやってきていた。何人かは爺さんのところへ、何人かは咲ちゃんのところへ、何人かはこちらへ。
見れば爺さんは随分と慄いていたが、意識はあるし目立った怪我もないらしい。

久「咲、しっかりしなさい!咲!」

咲「............せん、ぱい?」

久「......よかった」ホッ

咲「あれ......私、いつの間にこんな所に......確か布団で寝て、夢に女神様が――――――――!」ガバッ

咲「――――京ちゃんッ!!」

竹井先輩の介抱も振り払う勢いで私の......京太郎の方へ向かおうとする咲ちゃんの恰好は全て、一瞬にして私の目の前から姿を消したあの時のものと同じだ。
まるで止まっていた時計の針が、いっぺんに動き出したようだった。

咲「優希ちゃん、これっていったい......」

優希「京太郎がオフラシサマを鎮めたんだ」

優希「脈も呼吸もあるし大きな怪我も見当たらない。大丈夫、京太郎は生きてるじぇ」

優希「あとは意識さえ戻れば............」



それからは大忙しだった。京太郎の手当てもあったけど、それ以上に大変だったのは動揺が村中に広がっていたことだ。
帰ってきた捜索隊や騒ぎを聞きつけた村人達が楸野の家にどんどん押しかけ、騒動がようやく落ち着いたのは既に日付が変わった頃だった。
465 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:26:18.43 ID:nB+OJlir0
 【5日目 10:30】 楸野宅 1階 洋室2


優希「Zzz.........Zzz..................うーん」パチッ

優希「あれ、いつの間にか寝ちゃってたじぇ......」モニュ

優希(.........この感触は)モミモミ

和「――――ひゃぁぁああ!!」バッ

優希「のどちゃんおはよう」

和「お、おはようございます......」

優希「.........朝だな」

和「.........朝ですね」

優希「............」

和「............///」カーッ


〜〜〜〜〜
466 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:26:53.17 ID:nB+OJlir0
京太郎「なあ、最後のやりとりって要るのか?」モグモグ

優希「何を言うか!私とのどちゃんのラブラブな関係を伝える重要な場面だぞ!」

和「ゆ、ゆーき!真面目に話を進めてください!」バンッ

優希「はーい......それで、この時点で残ってたケンジンアコーは二つだ」

まこ「『ケンジンアコー』......?」

咲「ひょっとして『懸案事項』のこと?」

優希「そーそー、それだじぇ」パクッ ムシャムシャ

優希「一個目は楸野の爺さんをどうするか。二個目は榎田のおっさんたちをどうするか」

京太郎「榎田たちを?楸野は分かるけど、あいつらの何が心配事なんだよ」

久「考えてもみなさいよ。この村の若い男連中はみんな集団犯罪の実行犯なのよ?」

久「下っ端は置いておくにしても、主犯格はお咎め無しってわけにはいかないわ」

久「椿屋、榎田親子、柊......それからあの二人もね」チラッ

竹井先輩の目線の先には、ばつの悪そうな表情でこちらを伺う主人と女将の顔があった。
467 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:27:51.72 ID:nB+OJlir0
 回想:【5日目 12:40】 楸野宅 1階 応接間


榎田「――――それじゃあ、楸野さんの監視は村の者が交代制ということで」

椿屋「......くれぐれも厳重に頼む」

護衛A「は、はいっ!」

護衛B「わかりました」

タッタッタッ......

二人の若い男が駆け足で去っていき、それからしばらく沈黙があった。
私がどうしようか迷ってるうちに、染谷先輩が忌々しそうな口調で爺さんの話を続けた。

まこ「しかし、あの不死身の老いぼれをどうしたものかの」

北村「放っておくしかないんじゃないかな。僕たちに何かできそうにはないよ」

堂島「それこそ精々、官憲に引き渡すまで何もしないよう見張ってるくらいだな」

米本「そうだねぇ」

和「ではこの話はここでひとまず解決ということで。次は......」

久「あなたたちをどうするかって話ね」

柊「なぁ嬢ちゃん、勘弁してくれよぉ。俺だって家族がいるし......な?」チラッ

久「あら。だからって、私が監禁された挙句風邪までひいた事実は無くならないのよ」

柊「ぐぬぬぬ......」

昨日あたりから先輩がやけに厚着をしていたり鼻をかんでいると思ったら、なるほどそういうことだったのか。
......でも、彼らだってこの数日間を一緒に戦ってきた仲間なのだ。
きっとのどちゃんから猛反発されるだろうなと分かっていたものの、私はそれに対してこう返した。
468 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:28:26.59 ID:nB+OJlir0
優希「何とかならないのか?楸野の爺さんに全部押し付けることだって出来ないわけじゃないじょ」

和「ゆーき、そんなのダメですよ。何より違法行為を見逃せば私たちまで幇助の罪に問われるんですよ」

優希「だから、みんなで隠しちゃえばいいじぇ」

和「ゆーき!」

優希「だって協力してくれた仲間だぞ?おっさんたちがいなかったら、今頃みんな土の下だじぇ」

優希「それに――――」

榎田爺「――――待て嬢さん。それには及ばんよ」

主人「いいんですよ、片岡さん」

主人「自分がしてはいけないことをしていたということは自分が一番分かってます」

女将「これでも大人だしね。私たち」

榎田「こうなるのは承知の上さ」

椿屋「柊、腹を括れ」

柊「......はい」

こうなってしまうと、私に言葉は残されてなかった。


〜〜〜〜〜
469 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:29:05.01 ID:nB+OJlir0
優希「ということで、みんなまとめて警察に突き出すことになったじぇ」

京太郎「......なあ和、あいつらはこれからどうなるんだ?」

和「そうですね......罪状は誘拐監禁と殺人未遂。組織的かつ計画的な犯行ですから量刑は決して軽くはありません」

和「しかし村の背景を考えれば、情状酌量の余地ありとして大幅な減刑がされるかと考えられます」

和「執行猶予付きか、実刑でもごく短期間の判決になるんじゃないでしょうか」

「あくまで推測ですが」と付け足して和は結んだ。前々から分かってはいたが、この数日は改めて和の知識に感服するばかりだ。
もっとも弁護士と検事の娘だからといってその娘の言葉を鵜呑みにするのはおかしいし、まだ逮捕もされていないのに裁判がいつになるかなんて知りうるはずもない。
そんな先の話をしているようじゃ鬼も抱腹絶倒ってもんだ。

京太郎「......それで良いんだよな?」チラッ

主人「勿論ですとも」コクン

女将「前科付きは不名誉だけどね。どうせ私たち、この村以外で生きるつもりはないし」

それから女将は、「冷めちゃうわよ」とだけ言って俺たちに食事を促したのだ。
470 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:29:49.76 ID:nB+OJlir0
 【6日目 8:40】 旅館・本館 1階 食堂


京太郎「ふぅ、食った食った」

咲「もう!京ちゃんったら」

咲「ずっと寝てたのに、いきなりそんなに食べたらお腹痛くなっちゃうよ?」

京太郎「わりーわりー」

和「それで須賀君、この後はどうするんですか?」

京太郎「ん?」

まこ「今んところわしらのリーダーはおぬしじゃしな。何かやることがあるなら言ってくれ」

久「部長の面子がこれっぽっちも無いわね、まこ」

まこ「ぬかせ。今だけじゃい」フフッ

優希、和、染谷先輩に竹井先輩。そして咲。
ここにいる麻雀部員全員が俺の口から出る次の言葉を待っている。こんなん普段の清澄じゃ絶対にありえないな。
......そしてそんな機会は、きっとこれが最後だろう。

京太郎「......なあ、優希」

優希「ん?」

京太郎「まだ残ってる課題はあったか?」

優希「んー......いや、特には」

京太郎「なら、やることは一つしかねえだろ」
471 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:30:21.22 ID:nB+OJlir0
それから二日間、俺たちはとことん遊び続けた。


 【6日目 10:40】 小佐目村 路上


まこ「位置について....」

まこ「よーい......ドン!」バッ


京太郎「ッ!」ダッ

優希「いくじぇぇぇ!!」ドダダダ

カブ「負けねえ!!!」ダダッ

柊「オラァ!」ドドドド

山下「うおぉぉぉ!」ドスドス

咲「え?えええぇぇ??」タッタッタ


和「元気ですね」

米本「元気だねぇ」

久「あっ.....咲、転んだ」

和「転びましたね」


柊「うへっ!いててててて......」


久「あっちは足でも攣ったのかしら」

米本「......元気だねぇ」
472 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:31:01.39 ID:nB+OJlir0
 【6日目 15:20】 神楽山 山頂


優希「おい金髪!これって食べられるやつ?」

向坂「あーダメダメ。それは毒がある」

椿屋「これはどうだ」

向坂「バカッ、それは保全対象だから採っちゃダメなんだよ!早く戻せ!」

向坂「ったく。地元なのにンなことも知らねーのか」チッ

まこ「知ってるのに盗っていった奴もおったがのう?」

向坂「......悪かったよ」



 【6日目 22:50】 旅館・本館 2階 遊戯室


京太郎「ツモッ!裏は......乗った!」パタン

京太郎「8000オールの二本場は8200オール!」

榎田爺「ふむ、結構難しいのだな」チャラッ

北村「と、トバされた......」

堂本「おいおい、北村あんた弱すぎだろ」チャラッ

京太郎「へっへーん!またまた勝たせていただきました!」

咲「ウソっ!?京ちゃんが麻雀で勝ってる!?」

京太郎「俺だってトーシロー相手ならこんくらい出来るんだぜ?」

優希「カモるなんて情けない男だじぇ」

和「最低ですね」

京太郎「」ヒュゥゥゥ......

久「ま、悔しければ大会でもそのくらい頑張りなさい」ポンポン
473 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:31:36.34 ID:nB+OJlir0
 【7日目 13:00】 柊宅 庭


京太郎「がー!負けた!」

まこ「情けないのう、京太郎」

カブ「おーい兄ちゃーん!」テクテク

少女「......」トテトテ

京太郎「おうカブ、遅かったな。そっちの子は?」

カブ「あー、それがさ。コイツが兄ちゃんに会ってみたいって」

京太郎「へぇ......俺は須賀京太郎、高校一年生だ。よろしくな」

少女「わたしは.........」

桜「わたしは、椿屋桜......です......」テレッ

京太郎(か、かわいい!)

まこ(この子が椿屋の娘、じゃと......?)



俺たちはこの期間、存分に旅行を楽しんでいたと胸を張って言える。
474 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:32:51.36 ID:nB+OJlir0
 【9日目 13:00】 小佐目村 バス停


日曜日、ここ数日と同じようによく晴れた日の昼。
土曜日の早朝に届いた県道復旧の一報で俺たちは帰り支度を始め、第一便のバスがやってくる頃にはその準備も整っていた。
本来ならすぐにでも帰りたかったのだが、矢継ぎ早にやって来た警官隊からあれやこれやと事情聴取に遭ったせいで一日越しの帰宅となったわけだ。

榎田「改めてみんなにお詫びをしなきゃな......本当に済まなかった」

そう言って深々と頭を下げたのは村側に立つ見送りの全員。
その反対側に立つ俺たちは、正直なところ最後まで複雑な気持ちだった。彼らは敵だ。俺たちに刃を向けた張本人だ。
しかし同時に、この小佐目村に付き纏う厄災へ立ち向かった味方でもあった。それらは両立して存在する問題だ。
だが二元論的に言うならば、俺は確かに彼らを味方だと思っていた。

久「別に私たちは構わないのよ。頭を下げるなら刑事さんに下げなさい」

米本「ま、だいぶ酷い目に遭わされたけど......他が楽しかったから良しとしようかな」

古臭いバスに大量の荷物が積まれ、十一人の若者が続々と乗り込んでいく。
出口の近くに居た堂島が手で扉を閉めると同時に、初老の運転手が発車のアナウンスをかける。
後ろを振り返ると、一週間を過ごした小佐目村がみるみるうちに遠ざかっていく。そこには......


.........大きく手を振っている、俺たちの仲間が確かに見えた。
475 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:33:55.03 ID:nB+OJlir0
 【9日目 14:50】 〇〇市 市街地


山下「それじゃあ、俺たちはここで」

北村「大変だったけど、本当に楽しかったよ」

向坂「また会おうぜ!連絡くらいは寄越せよな!」



 【9日目 19:00】 東京駅


米本「私たちはここでお別れだね」

堂島「何かあればまた」



 【9日目 23:30】 清澄 最寄りの駅


まこ「この九日間、本当に大変だった。こうして全員無事に帰ってこれて何より」

まこ「しかし明日は学校じゃ!もうこんな時間だが、みんなよく寝て明日は元気に来るように!」

まこ「解散っ!」

パチパチパチ

京太郎「よっ!染谷部長!」

優希「日本一だじぇ!」

久「ちょっと、こんな時間に騒がないでよ」ヤレヤレ

和「ゆーき、一緒に帰りましょうか」

咲「京ちゃん、お父さんが車回してくれるらしいから乗っていきなよ」

京太郎「おう!サンキュー!」


 【9日目 23:50】 須賀家 玄関


京太郎「自分の家なのに久々だと緊張しちまうな」

京太郎「こんなに空けたのはインターハイ以来か」

京太郎(......なんとなくだけど、この言葉は明日までとっておこう)

京太郎「.........よし」スッ
476 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:34:25.60 ID:nB+OJlir0



そして――――


477 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:35:14.16 ID:nB+OJlir0
 【10日目 15:50】 清澄高校 1年B組


キーンコーンカーンコーン

ガタッ ザワザワ

誠「なあ須賀!お前なんで先週休んでたんだよ!」

誠「先生から聞いたけど、なんかすげー事件に巻き込まれたって本当か?」

京太郎「ははっ、んなわけねえだろ。ちょっと風邪ひいただけだ」

京太郎「そんじゃあ俺は部活行くわ。じゃあな!」タッタッタ

誠「......本当かねぇ」


咲「あ、京ちゃん!これから部活?」

京太郎「ああ。お前もだろ?」


和「咲さんに須賀君、こんにちは」

優希「一緒に行くじぇー」
478 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:36:06.40 ID:nB+OJlir0
 【10日目 16:00】 清澄高校 旧校舎 廊下


まこ「......」ソワソワ

久「.........」ソワソワ

京太郎「ちわーっす......あれ、何してるんすか?」

まこ「おお、やっと来よったか」

久「いやー......何だかね、みんな揃うまで待ってたかったのよ」アハハ

京太郎「気持ちはわかります」

優希「むむむ、本当に全員揃っているのか......?点呼しよう」

和「いや、どう見ても揃ってますよね?」

優希「細かいことはどーでもいいじぇ!番号!」

優希「一!」

まこ「二!」

久「さーん」

和「よ、四」

咲「五!」

京太郎「六!」

まこ「よしよし、全員おるな」

京太郎(やっぱり俺は最後か......とほほ)

京太郎(......ま、いいか)
479 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:36:42.03 ID:nB+OJlir0
俺は清澄の最後、六人の部員の六番目だ。普段は影が当たらないし、たまに忘れられたりする。
でもそれでいいんだ。目立つキャラじゃなくて、普段はみんなのサポートくらいが性に合ってる。ここ一週間が異常だったのさ。
ただみんなと一緒にいれば、「清澄麻雀部の一員」であれば十分だ。


まこ「それじゃあ開けるぞ......」ガチャッ

染谷先輩が開けた扉の先には、先々週から全く変わらない部室が広がっている。
いや、ちょっとホコリを被ってるかもしれない。今日の活動は掃除で決まりだな。
そして六人で足並みを整えて一歩、二歩と古い床を踏みしめる............


――――三歩目、誰が図ったというわけでもなく、その声は重なって聞こえた。
480 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:37:13.22 ID:nB+OJlir0



 『ただいま!』


481 : ◆copBIXhjP6 [sage saga]:2020/12/31(木) 14:38:30.34 ID:nB+OJlir0
 【12月中旬】 清澄高校 麻雀部室


京太郎「ロン。7700」パタッ

優希「む、やるな京太郎」

まこ「伊達に秋の新人戦で四位は獲っとらんな」

京太郎「男子と女子じゃレベルが全然違いますよ」

和「いえ、それでも凄いことだと思いますよ?」

和「少なくとも入部当初の須賀君とは見違えました」

京太郎「そ、そうか?」デヘヘヘ

咲「むぅ......」プクー

季節は少し飛んで冬。みんなとそれなりの試合が出来るようになり、非常に嬉しい須賀京太郎です。
しかし地力が伸びた分もあるとはいえ、これにはちょっとした仕掛けがあるのだ。
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