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北条加蓮「藍子と」高森藍子「思い出のあふれるカフェテラスで」
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:37:34.89 ID:rBaIBZm50
――おしゃれなカフェテラス――
高森藍子「お待たせ、加蓮ちゃんっ」
北条加蓮「おかえり、藍子」
藍子「わ……コーヒーのいい香り♪ 秋のおだやかな風に混じって、なんだかリラックスできますね」
加蓮「私、大人っぽいでしょ?」
藍子「ふふ。とっても大人っぽくて、……ちょっぴりずるいな、なんて思っちゃいます」
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1601199454
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:38:12.26 ID:rBaIBZm50
レンアイカフェテラスシリーズ第136話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
〜中略〜
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「ただいまと言えるカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんが」北条加蓮「アイドルではない時間に」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「普通のことをやるだけのカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「いつものカフェで」
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:38:41.30 ID:rBaIBZm50
加蓮「……?」
藍子「だって加蓮ちゃん、いつもの格好にオーバーコートを羽織っているだけなのに……焦げ茶色が、秋のカフェテラスにしっくりはまっていて、まるで絵に描かれた女性の方みたい」
加蓮「昔の名画にいそうな人?」
藍子「はい。加蓮ちゃん、そういうのは――」
加蓮「全然しらなーい。でもさ、アイドルとしてバラエティに参加させてもらって、クイズ番組とかに出ることあるじゃん」
加蓮「一方的にやられるのが嫌だから、ちょっとだけ勉強してみたんだ。昔の芸術家の名前を答えなさい、って問題があってさ」
藍子「ふんふん」
加蓮「読んだ本に出てきたから、答えてみたの。残念ながら一文字違いで、不正解だったけどね」
藍子「外国の方の名前は、なかなか覚えにくいですから」
加蓮「だけどね。みんな一瞬ぽかーんとして。私が答えるなんて思ってもみなかったみたい。もう、してやったりって感じだよね」
藍子「くすっ。加蓮ちゃん、いたずらっこなんだから」
加蓮「イタズラってだけじゃないよー。勝ちたかったもん。クイズ番組」
藍子「バラエティ番組の勝負にも、全力なんですね」
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:39:11.41 ID:rBaIBZm50
加蓮「ま、勉強した中身はたいして興味もないし、すぐ忘れちゃうんだけど」
藍子「いろんなことを覚えて、いろんなことを忘れちゃっていそうです」
加蓮「覚えていることなんて、大切なことだけでいいの……って、その大切なことが藍子にはいっぱいありそうかな?」
藍子「そうかも……? ぜんぶ覚えているのは、難しいかもしれませんね。そう考えると、ちょっぴり寂しいな……」
加蓮「その為のカメラじゃん」
藍子「……あっ、そうですね!」
加蓮「それに藍子、なんか私のこととか私が話したこととか、片っ端から覚えてるしさ。もしかしてホントは絶対記憶能力とか持ってんじゃないの?」
藍子「確かそれって、忘れたくても忘れられなくなるっていう……」
加蓮「黒歴史とか気まずくなったこととかも全部覚えてるんだよ。地獄じゃん」
藍子「あはは……。でも、嫌な思い出も、時間が経てばいい思い出になるかもっ」
加蓮「それ加蓮ちゃんの目を見て言える? 人生の大半を地獄で過ごした女だよ?」
藍子「……その分、今が楽しいって目をしてるから、言えちゃいます」
加蓮「わお。言うねぇ」
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:39:41.36 ID:rBaIBZm50
加蓮「そういえばさ。藍子、荷物だけ置いてたっぽいけど、どこに行ってたの?」
藍子「少し、店員さんとお喋りしていただけですよ」
加蓮「無用心なんだから。店内ならともかくテラス席に荷物を置きっぱなしなんて」
藍子「そろそろ加蓮ちゃんが来る時間だから、大丈夫かなって……。確かに、ちょっと無用心だったかも?」
加蓮「藍子のいない間に私が漁ってたらどうするつもりなのよー」
藍子「……」
藍子「…………」ガサゴソ
加蓮「おい。なんでそこで鞄の中身を確認すんの。別に何も盗らないってば」
藍子「……よかった。カメラはちゃんと入ったままです」
加蓮「話を聞いて??」
藍子「加蓮ちゃんが見つけたら、持っていっちゃいそう……なんてっ」
加蓮「…………」
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:40:12.41 ID:rBaIBZm50
藍子「ふふ。ごめんなさいっ。お詫びではないですけれど……はいっ♪ この前撮った写真を、1枚プレゼントです」
加蓮「何の写真――ぷくっ」
藍子「私が渡したこと、ナイショにしておいてくださいね?」
加蓮「何これっ……! 未央がアホみたいに口開けて寝てる顔……っ! これ絶対大いびきとかかいてたヤツじゃん! で意味分かんない寝言とか言ってさっ。周りにいる子がぎょっとなったりするヤツ!」
藍子「加蓮ちゃん、すごいっ。ぜんぶその通りですよ。卯月ちゃんの秘密を寝言で喋っていて、卯月ちゃんが大慌てになっていました」
加蓮「へー。ちなみにその秘密の内容は?」
藍子「……これは卯月ちゃんと未央ちゃんから他の人に言わないようにって言われているので、秘密です。加蓮ちゃんが相手でも言えませんっ」
加蓮「ふうん。どこをくすぐられたいのかな?」
藍子「だめ〜っ。指をわきわきしながらこっちに来ないでください! 秘密は、秘密です!」
加蓮「……ちぇ。こーいう時の藍子は何やっても喋ってくれないよね。諦めよーっと」
藍子「ほっ……」
加蓮「今度未央に吐かせればいいや」
藍子「……未央ちゃん、ごめんなさいっ」
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:40:40.57 ID:rBaIBZm50
加蓮「っていうかさ」
藍子「?」
加蓮「……アンタ、また人の寝顔を盗撮してるの?」
藍子「あ」
加蓮「……」
藍子「た、たまたまですよ? たまたまその時は、ええと、確か事務所に戻る前にカメラを両手で持っていて……そうそうっ。帰り道に、猫さんがいたんです!」
藍子「それで事務所に入ったら、未央ちゃんが眠っていたからつい撮っちゃっただけで――」
加蓮「ところで藍子、話の途中でごめんだけど店員さんに注文しに行くつもりはない? 藍子の方から行ってあげたら、店員さんも喜ぶよ」
藍子「それ私がいない間にカメラを確認するつもりですよね!?」
加蓮「え? うん」
藍子「なんでそんな自信まんまんに頷けるんですか!」
加蓮「バレてることだし?」
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:41:13.05 ID:rBaIBZm50
藍子「加蓮ちゃんの写真は撮っていないので、安心してくださいっ」
加蓮「いや加蓮ちゃん以外の寝顔も撮るなっての。可哀想じゃん。未央ならまだいいけど」
藍子「未央ちゃんならいいんですね……」
加蓮「未央だし。あと歌鈴まではセーフ」
藍子「あはは……。誰なら、アウトなんですか?」
加蓮「んー。誰だろ? 凛とか奈緒のなら、写真をもらった上で落書きとかしちゃうし――」
藍子「えぇ……」
加蓮「あははっ。誰がアウトっていうのはないかもね?」
藍子「そうなんですね」
加蓮「まあ女の子の寝顔を撮るって時点でアウトだけど」
藍子「……や、やっぱり?」
加蓮「あのね、私が何度撮るなって言ったか……。ほどほどにしてあげなさいよ?」
藍子「は〜い」
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:41:40.64 ID:rBaIBZm50
藍子「何か注文しようかな……?」パラパラ
加蓮「食べるなら2人分にしといてね。私も食べたいから」
藍子「さくさくクッキーを、私と加蓮ちゃんの分。それから、紅茶をお願いします♪」
……。
…………。
加蓮「紅茶、ひとくちだけいい?」
藍子「いいですけれど……コーヒーの後に紅茶を飲んでしまったら、口の中がすごいことになっちゃいますよ?」
加蓮「そう言われると思って、まずは手をつけていない水を一口」
藍子「はい、どうぞ」
加蓮「……んっ。気取ってるつもりはないんだけど、今日はいつもより穏やかでいられそう……」
藍子「落ち着いた、大人の女性です」
加蓮「藍子をからかえなくて困っちゃうなー」
藍子「今日くらいは、ゆっくりお話しましょ?」
加蓮「それもいっか。紅茶、さんきゅ」
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:42:10.58 ID:rBaIBZm50
藍子「いただきます。……あたたかくて、美味し……♪」
加蓮「……」
藍子「クッキーも食べていいですよ。それとも……はいっ。どうぞ♪」
加蓮「……いや、ごめん」
藍子「?」
加蓮「お腹がたぷたぷで食べれない……」
藍子「…………大人の女性はどこへ行っちゃったんですか」
加蓮「食べても残しててもいいよ……。ハァ……」
藍子「もう。ゆっくりしていてくださいね」
加蓮「うぇ、苦しー。……ん?」カサ
藍子「あむっ。ん……♪ ほっとする味っ」
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:42:40.87 ID:rBaIBZm50
加蓮「藍子。これ、藍子の?」
藍子「どれですか? ……紙で作った折り鶴でしょうか。でも、端のところが曲がっちゃってる」
加蓮「さっき手で潰しちゃった。藍子が作った物だったらごめんね」
藍子「ううん。私のではありませんよ。置いてあったんですか?」
加蓮「椅子の上にね。今手をべたーって置いたら気付いたの」
藍子「そうだったんですね。店員さんの置いた物……ではなさそう?」
加蓮「他のテーブルにはないし。常連客の誰かさんに、っていうサプライズ……でもないね」
藍子「テラス席に座る時の場所は、決めていませんから」
加蓮「室内ならいつも奥の席に座るし、仕込むこともできそうだろうけどさ」
藍子「でも、私たち、いつここに来るって店員さんにお伝えしていませんから。準備はできないと思いますよ?」
加蓮「だねー。……カフェってさ、いつ来るからこういうサプライズしてほしいみたいなのってあるの?」
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:43:10.72 ID:rBaIBZm50
加蓮「ほら、よくテレビとかで見る、レストランのウェイターさんがケーキを持ってきてくれる演出とか、ああいうヤツ」
藍子「そうですね。カフェによりますけれど、やっているところもあります」
加蓮「へぇー。やっぱりカフェならではって感じになるんだ」
藍子「私はやってもらったことがないから、詳しくは知りませんけれど――」
藍子「前に、お客さんが相談しているところなら、見たことがあります♪」
加蓮「ほうほう」
藍子「何かの記念日、って言葉だけは聞こえて。聞いたらいけないお話かな? と思って……そのカフェには綺麗に整われた庭があるんですけれど、少しの間、そっちに移動していました」
加蓮「確かに、人のサプライズ計画なんて聞くもんじゃないよね」
藍子「頃合いを見計らって、戻った時に、相談していたお客さんの顔を、ちらりとだけ見たんですけれど……」
藍子「少し緊張しているみたいで、でも、満足そうに笑っていたから、きっと、うまくいったんじゃないかな♪」
加蓮「あははっ。相談したら肩の荷が降りるヤツだ」
藍子「こういうサプライズとかは、その方のプライベートなことだから……あまり見ちゃ駄目なのは分かりますけれど――」
藍子「いつか、実際に行われているところを見てみたいですねっ」
加蓮「ね。……そうだ。藍子なら撮影係とかなれそうじゃない?」
藍子「撮影係?」
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:43:41.34 ID:rBaIBZm50
加蓮「カフェを舞台にしたサプライズ企画の、参加する人にスポットを当てるの。で、藍子が撮影役。1つの特集とかになれそうじゃない?」
藍子「なるほど〜……」
藍子「加蓮ちゃん、よくすぐに思いつきますね。私、考えたこともありませんでした」
加蓮「これでも藍子ちゃんのプロデューサーですから♪」
藍子「そうだったんですか?」
加蓮「違うけどね」
藍子「あはは……」
加蓮「最近さ、藍子にアドバイスしてあげてるじゃん」
藍子「はい、アドバイスをいただいています」
加蓮「と言っても私が言いたいこと言ってるだけだけど」
藍子「その方が、加蓮ちゃんらしいお話になりますよ」
加蓮「立ち位置で言ったらプロデューサーっぽいけど、藍子のプロデューサーはモバP(以下「P」)さんだし」
加蓮「じゃあマネージャー? って言われたら、なんかそれも違う気がするんだよね」
加蓮「……私ってなんなんだろ?」
藍子「……アイドル?」
加蓮「あははっ。それは分かってるってー」
藍子「そうですよねっ」
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:44:10.66 ID:rBaIBZm50
加蓮「藍子といる時の私」
藍子「……加蓮ちゃん?」
加蓮「それも分かってるってばっ」
藍子「もう。そう言われても、私にとって加蓮ちゃんは加蓮ちゃんですよ」
藍子「好きなところとか、いいところとかは、いっぱい言えますけれど――それを言ったら加蓮ちゃん、逃げちゃいますよね?」
加蓮「逃げる前に藍子のほっぺたを抓るけどね」
藍子「痛いのはやめてくださいっ。それ以外の、加蓮ちゃんの言う、立ち位置とか、役割とか……そう言われても、アイドルとしか思いつかなくて」
加蓮「んー」
藍子「相談に乗ってくれる人とか、アドバイスをする人……アドバイザー? って言ったら、距離が遠く聞こえるから、なんだか嫌で……」
加蓮「うん」
藍子「それ以外だと……やっぱり、加蓮ちゃんは加蓮ちゃんなんです」
加蓮「そっか。じゃ、それでいいよ」
藍子「いいんですか?」
加蓮「なんか真面目に話すことでもない気がしてきた」
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:44:40.50 ID:rBaIBZm50
加蓮「なんかこういう話をしてたらお腹がたぷたぷだったことも忘れちゃったし、それはありがたかったかも?」
藍子「そういえば……。お腹はもう、大丈夫ですか? 気分が悪くなったら早めに言ってくださいね」
加蓮「藍子、うっさいー」
藍子「ごめんなさいっ」
加蓮「多分大丈夫。クッキーもらうね……って、もう2枚しかないし。食いしんぼうだね」
藍子「秋はつい、いろいろ食べたくなってしまって……」
加蓮「アンタそれいつのシーズンにも言ってない?」
藍子「もう1回注文しましょうか?」
加蓮「いいよ。食べたくなったら自分でするから」
藍子「は〜い」
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:45:11.62 ID:rBaIBZm50
□ ■ □ ■ □
加蓮「あ、店員さんだ。久しぶりー」
藍子「久しぶりって、さっき注文したばかりじゃないですか〜」
加蓮「あれからもう1時間くらい経ってるし」
藍子「……え? わ、もうそんなにっ」
加蓮「いつもありがとね。……仕事ですから、って。分かってるよー。でもありがと。はい、お皿」
藍子「加蓮ちゃん。さっきの折り鶴のこと、店員さんに聞いてみたらどうですか?」
加蓮「あ、忘れてた。これ、椅子のところに置いてあったんだけど。心当たりある?」
藍子「……やっぱりないみたいですね。じゃあ、誰かが置き忘れたのかな」
加蓮「ふぅん……。ねね、それどんな人?」
藍子「駄目ですよ、加蓮ちゃんっ」
加蓮「まーまー。店内はともかく、テラス席を使う人なんてほとんどいないじゃん。つい気になっちゃって」
藍子「もう……。店員さん。ごめんなさい。よければ……教えられる範囲で、ほんのちょっぴり答えてあげてもらえますか?」
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:46:10.92 ID:rBaIBZm50
……。
…………。
加蓮「思ってたより普通の話だった」
藍子「何を想像していたんですか……」
加蓮「こう……カフェにふらりとやってきた妖精が置いていった的な?」
藍子「……」
加蓮「らしくないって目で見んなっ。自覚くらいはしてるわよ」
藍子「でも、そんなお話があったらいいですね。夢があって素敵です♪」
加蓮「これだけ広い世界なら、あってもおかしくはなさそうだけどね」
藍子「カフェはいっぱいありますから、絵本に出てくるいきものがいるカフェがいても、不思議ではないかも?」
加蓮「……まぁ現実はフツーに女の人が座ってたってだけらしいけど」
藍子「ふくれないでくださいよ〜。それに――」
加蓮「それに?」
藍子「店員さん、嬉しそうだったな……♪」
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:46:41.76 ID:rBaIBZm50
加蓮「……そうだった?」
藍子「あれ……気が付かなかったんですね。私の見間違いでないなら、加蓮ちゃんが折り鶴を見せて、「それなら……」って思い出していた時の店員さんの顔、すっごく嬉しそうでしたよ」
加蓮「気付かなかったなぁ。でも、なんでだろ」
藍子「う〜ん……。詳しいお話は聞かなかったので、想像になっちゃいますけれど」
加蓮「うん」
藍子「お客さんが来てくれたことを思い出して、それが嬉しかったんじゃないかな?」
加蓮「……いやいや。何言ってんの。お客さんなんていっぱい――」
藍子「……い、いっぱいはいませんね。テラス席にも私たちだけで、店内にも今は……」
加蓮「ま、まあそういう日もあるんだろうけどさ。っていうかそういう日の方が多いんだろうけど」
藍子「このカフェは、今もまだ穴場のままですから」
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:47:10.69 ID:rBaIBZm50
加蓮「でも、お客さんなんて毎日来るし、それが……例えば印象に残る人とか、それこそ藍子みたいな常連客だったりしたら分からなくもないけど、わざわざ嬉しいって思うかな?」
藍子「思わない人もいるかもしれません。でも、思う人だって、きっといますっ。私だって、そうです!」
加蓮「藍子が?」
藍子「LIVEに来てくれたファンの方や、握手会に来てくれた方……私を応援してくださる方を思い浮かべる度に、いつだって嬉しくなっちゃいます♪」
加蓮「あはは……。そういうことかぁ」
藍子「そういうことですっ」
加蓮「分かるけどさー」
藍子「ねっ? 加蓮ちゃんだって、嬉しいって思うでしょ」
加蓮「……ふふっ。どうだろ。ううん、嬉しいよ? 私を見てくれる人がいっぱいいて、応援してくれる声がいつも聞こえて――」
加蓮「嬉しいけど、藍子とか、想像でしかないけど店員さんほどじゃないかも」
加蓮「ほら、私、ちょっと前を向きすぎちゃってるから」
加蓮「クイズ番組にすら全力になっちゃうくらいに、負けず嫌いだもん。それに……あんまり、後ろは振り向きたくないから」
藍子「……そっか。加蓮ちゃんは、そうですよね」
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:47:41.01 ID:rBaIBZm50
加蓮「……」
藍子「?」
加蓮「たはは。なんかその言い方はやだなって。なんか……自分とは違うんだ、って言い聞かせてるっていうか、確認させてるみたいでしょ?」
藍子「あ……」
加蓮「ま? 私は藍子ちゃんみたいな、ノロマで甘っちょろくて警戒心が皆無な子とは違うんだけど」
藍子「…………」プクー
加蓮「そこで言い返さない子でもありませんし?」
藍子「…………」ゲシ
加蓮「こら、黙ってキックしてくんなっ。子供かっ」
藍子「子どもですもん」
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:48:10.79 ID:rBaIBZm50
藍子「加蓮ちゃん。私、加蓮ちゃんの言いたいことも、加蓮ちゃんの気持ちも、分かるつもりです。昔ばかり振り返っていたら、先に進めなくなっちゃいますよね」
藍子「でも……ときどきでいいので、振り返ってみてもいいと思うんです」
藍子「私――」
藍子「私、この前のLIVE時に、ちょっとだけ、立ち止まってみたんですよ」
藍子「ほんのちょっとだけ――」
藍子「昔の自分……アイドルになりたての頃にも、私のことを応援してくれる方がいたんです。今と比べると、ほんのちょっとになっちゃうかもしれませんけれど……」
藍子「今……私のことを応援してくれる方が、いっぱい、いっぱいいるんです」
藍子「……アイドルに」
藍子「アイドルだな、って思って」
藍子「そうしたら、今までのことも色々思い出しちゃいました」
藍子「1つ1つのお仕事や、出会った方々。新しい景色や、今までの風景……そこにある、今までとは違うもの」
藍子「ぜんぶではなくても……加蓮ちゃんの言う通り、私の中には、大切なものがいっぱいあるみたいだから」
藍子「思い出したら、少しだけ、嬉しくなって……涙が出ちゃって」
藍子「ときどきは、それでもいいのかなって思います」
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:48:41.85 ID:rBaIBZm50
藍子「……アイドルの世界は、厳しい世界です。今だってそう思います――ううん、今だから、前よりずっとそう思うのかも」
藍子「できないことや、やりたいって思っても叶わないことがたくさんあります」
藍子「あなたの場所まで辿り着く道も、どれほど歩いても、終着点はまだまだ見えません」
藍子「だから、加蓮ちゃんの言う通り……加蓮ちゃんのように、前を向いて、しっかり進まないといけないなぁって思うんです」
藍子「でも」
藍子「たまには……これまでのあふれる思い出に、足を止めてしまっても……」
藍子「……あははっ。ええと、……そういうことですっ。あっ、加蓮ちゃんが間違ってるとか言いたいんじゃなくて、……ふふ。私、何が言いたいんだろ……?」
加蓮「……はい。ハンカチ」
藍子「もうっ……。ごめんなさい、加蓮ちゃん」
加蓮「何に謝ってんだか……。別にいいよ。ほら、謝らないの」
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:49:10.62 ID:rBaIBZm50
加蓮「藍子はさ」
藍子「?」
加蓮「ずっと前から強かったよね。閉じこもってた私にも、ずっとずっと一緒にいてくれたし」
藍子「そんなこと……。加蓮ちゃんに、幸せを見つけてほしかっただけですよ」
藍子「でも……強くなれたのかな、って、ほんの少しだけ思えます。きっとそれは、アイドルとしてみなさんに大切にしてもらえたから――」
加蓮「そっか……」
藍子「もちろん、加蓮ちゃんにも。ずっとたくさんの時間を、一緒にいてくれて……。カフェ巡りをしていた頃に落ち込んじゃった時にも、アイドルのきらめく舞台まで引っ張り上げてくれて……。もうっ……」
加蓮「……」
藍子「……ふうっ。ごめんなさい。もう落ち着きました」
藍子「ハンカチ、洗ってお返ししますね。ありがとうっ」
加蓮「別にいいわよ。ほら」
藍子「わ。……もう、強引なんですから」
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:49:40.98 ID:rBaIBZm50
藍子「あっ、そうだ。言いたいことを思い出しました! 店員さんのさっきの表情は、あの時の私と同じで……思い出して、嬉しくなったんじゃないかな? ってことですっ」
加蓮「なるほどね。……って、いやいやいや。今の藍子の話と店員の話を一緒にするのは、いくらなんでも藍子に失礼でしょ」
藍子「そうですか……。確かに、私なんかと一緒にしたら――」
加蓮「逆っ」
藍子「ふぇ?」
加蓮「……ハァ。なんで根っこは強いのにこういうところがこうなんだか」
藍子「???」
加蓮「ま、それを同じって言えるのが藍子なのかな」
藍子「加蓮ちゃんは、思い出した時に嬉しいなって思うことは何かありますか?」
加蓮「え? 今の藍子の話の後で言わないといけないのそれ……? じゃあ……藍子のこと?」
藍子「私のこと。……わ、私のどのことでしょう。なんだか聞くのに緊張しちゃいますね」
加蓮「……」
藍子「……じ、じらさないで、早く言っちゃってください」
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:50:10.56 ID:rBaIBZm50
加蓮「あ、ごめん。焦らしてるんじゃなくて、どれって改めて言われても難しいなって思って……。なんか、いっぱいあるじゃん。嬉しいって思うこと」
加蓮「じゃあひっくるめて、藍子と出会えてよかったってことで!」
藍子「私もっ。加蓮ちゃんとこうして時間を過ごして、嬉しいです。もちろん今も♪」
加蓮「……あはは。こーいうことなんてそうそう言うもんじゃないねー……」
藍子「ふふっ」
藍子「加蓮ちゃん。……今も、あの時も泣いちゃいました。でも……ううん。だからこそ、言わせてくださいね」
藍子「私、あふれるくらいにいっぱいある思い出を運んで、ちゃんと歩いていきますから」
藍子「立ち止まったら、立ち止まった分だけ、たくさん歩きます」
藍子「まだ……ここは、まだまだゴールから遠い場所ですよね」
藍子「今よりもっと、きらきらに輝いて……あなたのところに、絶対に、ちゃんと辿り着きますからっ」
加蓮「うん。分かってる……うんっ」
藍子「……うん!」
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:50:40.63 ID:rBaIBZm50
加蓮「あははっ。今からちょっとだけ身構えちゃうかも」
藍子「みがまえる?」
加蓮「だってさ。今でさえこんなに笑顔が素敵で、幸せに溢れてて、その上ものすごく強くて……そんなアイドルさんは、まだこれからも輝き続けるんでしょ?」
加蓮「私のところに到着した時、どれだけ大きな存在になってるんだろ。今よりもっと、目が離せなくて、たくさんお話したくなる藍子に――」
加蓮「想像しただけで、胸がいっぱいになっちゃった。やばいなー……」
藍子「……ふふっ。私も。加蓮ちゃんの言う私を思い描いたら、ちょっぴり、お腹が熱くなってきちゃいました……!」
加蓮「これで藍子に見捨てられたら、私どうなっちゃうかな。なんかもう絶対ダメになりそうだよね」
藍子「もうっ! どうして今そういうことを言うんですか〜っ!」
加蓮「空気、読めてなかった?」
藍子「読めてませんっ。加蓮ちゃんが……あはっ。もう。いじわるなことを言うのは、また今度にしてくださいよ〜」
加蓮「あ、今度ならいいんだ」
藍子「……今日は私のお話を聞いてくれたから、今度、1回くらいは許してあげます」
加蓮「何言っちゃおうかな? あんなこと? それともこんなこと?」
藍子「も〜っ」
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:51:11.28 ID:rBaIBZm50
……。
…………。
藍子「ん〜〜〜っ♪ お話したら、すごくスッキリしちゃいました! ……もしかしたら、ちょっぴり泣いちゃったからかも……? 私が泣いちゃったこと、秘密にしておいてくださいね?」
加蓮「今日の藍子は秘密を作ってばっかりだねー」
藍子「あなたと過ごすカフェは、ちょっとだけ秘密の場所ですから」
加蓮「あははっ。そうだね。私も……そういえば、ここでばっかり吐き出してる気がする」
藍子「……加蓮ちゃん。言い方、言い方」
加蓮「ごめんごめん」
藍子「そういえば……。さっきの店員さんのお話ですけれど……お客さんの顔を思い出したからかな? って思ったのには、もう1つの理由があるんです」
加蓮「なに?」
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:52:11.01 ID:rBaIBZm50
藍子「私、加蓮ちゃんが来る前に、店員さんとお話していたんです。その時に、このカフェっていつからあるのかな? って思って、試しに聞いてみちゃいました」
加蓮「このカフェが……そういえばいつからあるんだろ? すごく新しいって感じはしないけど」
藍子「加蓮ちゃん。いつ頃からだと思いますか?」
加蓮「んー。10年くらい?」
藍子「正解は、なんとっ。……店員さんにも分からないそうです」
加蓮「……は?」
藍子「待って、怒らないで〜っ。でも店員さんがすごく小さい頃に1回ここに来てことがあるって言ってて、その頃からあるってことは、すごく昔からってことですよね!」
藍子「だからこの場所って、たくさんのお客さんを迎えているんです」
藍子「たくさんのお客さんに、楽しい時間を作ってあげて、笑顔になってもらって♪」
藍子「私も、ずっと長く、誰かを笑顔にできるアイドルになりたいな……なんて思っちゃいました!」
加蓮「ふふっ。カフェアイドルだね。カフェみたいな、長く愛されるアイドル」
29 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/09/27(日) 18:52:41.89 ID:rBaIBZm50
藍子「そうしたら……今までよりもっと、たくさん思い出が生まれますよね」
藍子「加蓮ちゃんを――いつも前を向いている加蓮ちゃんを見ていたら、私も、これから先の私のことを想像できて」
藍子「いつかまた、こうして振り返って……その時に笑顔になれたらなぁ、って思えるんです」
藍子「……ふふ。ちょっと、よくばりでしょうか?」
加蓮「そんなことないよ。私も……そういうの、いいなって思うし……。嫌な思い出なんて潰れちゃうくらいに、幸せな思い出に溢れるアイドルになれたらなぁ、なんてさ……」
加蓮「あははっ。私こそよくばり?」
藍子「ぜんぜんっ♪」
加蓮「じゃあ、一緒に目指そっか。カフェみたいなアイドル!」
藍子「はいっ! でも、カフェはのんびりする場所です。私たちも、休む時には休んで、のんびりする時にはのんびりしなきゃ」
加蓮「そうだね。藍子にしては珍しく、まだ暗くなってないみたいだし?」
藍子「ど、どういう意味ですか〜」
加蓮「今日はもう少しだけのんびりしよっか。すみませーんっ!」
藍子「もう1回、さくさくクッキーをお願いします♪」
【おしまい】
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