【にじさんじ】社築「家族旅行は異世界で」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/21(月) 02:17:09.73 ID:7av7wDk10
>>17>>18の間

「後は……やしきずのためでも有るのかもな」

「ん、それはどゆこと?」

「分っかんねえかなあ、姉ちゃん。ここで滅茶苦茶に怒っておく事によって、父さんの持っているであろう俺たちを巻き込んだが故のなんっつーの……罪悪感? それにケリをつけてやろうっていう」


コピペミスです
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/21(月) 02:18:55.17 ID:7av7wDk10
というわけで今後時折来て「ド葛本社×異世界転生」書かせていただきます
よろしくお願いします

今日はここまで
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/21(月) 02:40:12.43 ID:eOtI4zhio
おつおつ
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/21(月) 10:18:21.08 ID:0sFfDVFIo
待ってる
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/21(月) 13:06:44.91 ID:UbxHPLMZ0
乙、応援してます
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/22(火) 02:41:51.85 ID:3G5NISVX0
 姉の軽口には気も留めず葛葉が歩き出し、ひまわりはその後を追った。弱いという発言に気を悪くしたのではないことは姉には理解が出来ている。この程度の丁々発止など彼らの間では日常茶飯事であった。

「どこ行くん? 当ては有んの?」

「無えよ、そんなん。けど水の音がした。ってことは近くに川がある。川があるってことはその流域に集落がある可能性は極めて高えんじゃねえの?」

「おおー、賢い。……お前、本当に葛葉か?」

「殺すぞ、馬鹿。川の付近から文明は産まれるって姉ちゃん、歴史の授業の一番最初に習うモンだろが、フツー。学校行ってねえのか、不登校児ですかァ?」

「お? それくらいひまだって知ってるし」

「そか。なら四大文明の名前言ってみろや?」

 言いながら姉の先を歩く吸血鬼はごく自然に歩きやすい道を選択して台地を降りていた。それは一見分かりにくいが、姉への思いやりからくる行為である。彼が例えば一人であるならば、真っ直ぐに水音向けて険しい道を直進したであろう。

「え、えーとアフリカ大陸……?」

「文明、っつっただろうが! 誰が人類発祥の地を聞いてたんだ、オラァ!」

「……はっ!? ヨーロッパや! ヨーロッパ文明!」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/22(火) 02:43:19.67 ID:3G5NISVX0
「どこの川沿いに築かれた文明だ、ソイツは! 酔っぱらってんのか! 眼ぇ開けて寝てんじゃねえぞ、ほんひまァ!」

「はぁ? ヨーロッパめっちゃ川有りますしぃ。ヴェネツィアとか水の都ですしぃ。え、葛葉くんもしかして知らないのぉ?」

「無知なのはオメーの……と、ちょっとそこで止まれ姉ちゃん」

 どこまでも続くと思われた軽口は唐突に中断され、一段葛葉の声のトーンが落ちた。その様子に本間ひまわりはビクリと体を震わせる。これと同じような経験は現実世界で何度もしてきた気がしたからだ。そう、それは一人称視点型ガンシューティングなどで。

「……敵?」

 声を押し殺し、恐る恐る少年に少女が問いかける。葛葉は手近な茂みに向けて親指を指し示した。そのハンドサインの意味を即座に理解した姉はなるべく音を立てないようにそこへと身を屈めて移動する。

「居る。数は三」

 確信を持ってそう言う弟の横顔は歴戦の兵士の持ち物によく似ている気がするなどと、ひまわりはぼんやりと思う。異世界、初めて迎える未知との遭遇。でありながら不思議と不安を少女は感じていなかった。

「まだ距離が有るっぽいから小声なら喋ってもいいぞ、姉ちゃん」

 顔を前に向けたまま、そう言う弟をひまわりは全力で信頼していた。葛葉が居るから大丈夫だ、と。

「第一村人発見、とかではないの?」

「それだとありがたいが今回は望み薄だな。人間は鳥みたいにギャアギャアなんて鳴き声でコミュニケーション取らねえ」

「そっか。……ドーラたちのところに一度戻った方がよくない?」

「気付かれて後ろから襲われるのとどっちがマシか考えたら正直ここでやっておくべきだと俺は思う」

 背後から襲われる怖さをこの二人はよく知っていた。それは戦力差を容易く覆す。何百回何千回と潜り抜けた仮想の銃撃戦はこの姉弟をプロの兵士もかくやと言わんがばかりの戦況判断の鬼へと変貌させていた。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/22(火) 02:44:18.38 ID:3G5NISVX0
「でも、武器が無いよ」

 ひまわりの指摘に葛葉は取り合わず立ち上がった。

「……ねーちゃんはそこでちょっと隠れててくれ。最悪、走ってきた道を引き返せよ?」

 慌てて弟に声を掛けようとするも、しかしひまわりは少年の表情を見て声を失った。

 犬歯を剥き出しにし、嗜虐の喜びを覗かせる目。力を込めて開いた両の手は長く鋭い爪を備え、その様は肉食獣をすら思わせる。

「正直、『俺』がこの世界でどんくらい通用するのか最序盤の内に一回試しておきたい」

 ニートゲーマー、葛葉――本名アレクサンドル・ラグーザは実に齢百歳を超える吸血鬼である。何の因果か完全無欠にただの人間の姉と父を持つ羽目に陥ってしまったが、そこに血の繋がりは存在しない。

 戦闘能力で言えば生来、人間など足元にも及ばない種族である。

「葛葉……そういやお前そんな設定有ったな?」

「設定言うなし」

「任せて、ええんやな?」

 手伝う事など出来ない少女は――足手まといになることが分かっているから隠れている事しかできない少女は、恐る恐る聞く。その恐怖は吸血鬼という種族に対してのものではなかった。もしかしたら、万が一、弟を失うことになったらどうしよう、と。信頼と恐怖、正反対のその感情はしかし矛盾せずひまわりの胸中をぐるぐると回るのだった。

「当たり前だ。ちょっとグロいかも知んねえからあんまこっち見ないでおけよ」

 言うが早いか、葛葉は駆け出す。ひまわりはその背中をきっと見つめた。

 弟の初陣から恐怖で目をそらすような姉であってたまるかという意地の一心から、彼女は溜まり始めていた涙を袖で一度拭って歯を食い縛り、その行く末を見守ることにした。
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/22(火) 02:47:15.85 ID:3G5NISVX0
次回、「葛葉、死す」
デュエルスタンバイ!
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/22(火) 07:41:11.33 ID:IV1A73r6O
死んじゃったよ!?
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/04(日) 01:18:20.82 ID:WsJ2cUxc0
 見守られている側、葛葉は初陣でありながらほとんど緊張はしていなかった。それもその筈、初陣なのはこの世界においてでしかない。

 嘘みたいな本当の話、葛葉の戦闘経験は豊富である。ゲームでの話ではない。実践の話で、実戦での話だ。

 アレクサンドル・ラグーザ――彼の実家の魔界での職業は衛士。つまり、元職業軍人である。ひまわりは先ほど弟の横顔をして「歴戦の兵士に似ている」と評したが、似ているどころでは本来は無い。

 そのもの、だ。

「……体内の魔力循環は正常。黒剣錬成、スタンバイ。羽は……森ン中じゃ逆に邪魔か」

 葛葉は駆けながらぶつぶつと呟き、初戦にあたって体の各部を丁寧に一つ一つ確認していった。手の中に凝縮させた夜の残滓を剣に、あるいは大鎌に、あるいは斧に次々と形を変えさせて、そこに何の抵抗も感じない事から自分の本来の戦闘能力が微塵も制限されていないという仮定に行き当たる。

「それはヤベぇでしょ、モイラ様……」

 程なくして視界が開け、そこには葛葉がにらんだ通り三匹の生き物――亜人が待ち構えていた。

「ギャギャッ!」

「ギャァッ! ギャッギャッ!」

「うるせーよ、何言ってんのか分かんねっつの。月木の朝にゴミ捨て場に群がるカラスか、てめーらは。駆除するぞ、駆除」

 軽口を叩きながら、しかし慎重に相手を観察する。身長は自分の半分ほど。黒緑色の肌に饐えた臭い。ほとんど形だけの粗雑な造りの皮鎧を着て錆の浮いた短剣や手斧をそれぞれその手に構えている。葛葉には見覚えが有った。魔界に居た時には小銭稼ぎによく狩った相手だ。

「ゴブリンか……まあ、鳴き声に聞き覚えはあったんだよな」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/04(日) 01:27:09.02 ID:WsJ2cUxc0
 その声は露骨に落胆が混じっている。しかし、それは相手が強敵でなかった事への不満ではない。

 じっと敵を見据えた所で「HPバーが見えない」「モンスター名が視界に表示されない」といった風に、ライトノベルでのオヤクソク(とは言え葛葉は小説のアニメ化を見る勢であったが)がこの世界ではまるっと無視されていた件に対してだった。

 ユーザーインターフェイスが行き届いていない、と葛葉は思わず天を仰いだ。

 ゴブリン達は少しの間、こちらに走って現れた目前の背の高い亜人種を警戒していたが、しかしその手に武器は見られず、なによりもこちらの姿を認めても襲ってこない。身体の小さなこちらを認めてなお攻撃に移らない生き物はすなわちすべからく自分たちの獲物である。ゴブリンのDNAにはそう刻まれていた。よって本能に従ってゴブリンは即座に狩りを開始する。

「ギャッギャギャー!!」

 三体は揃って飛び掛かった。正面から、右から、左から。的を絞らせぬ三方向。一匹が対処されようが残り二匹が確実に息の根を止める。いっぺんに襲い掛かれば大型の肉食獣や、ともすれば武装した人間の兵士すら一方的に蹂躙出来るというそれは小鬼の知る唯一の兵法であった。

 シンプル、故に強力。目の前の人間など一たまりもない。

 ――はずだった。

「シッ!!」

 少年の裂帛の気合とともに放たれた何かによって、先ず正面を担当していたゴブリンが声も上げずドサリ、その場に崩れ落ちた。両サイドを担当していたゴブリンはそれぞれ困惑に足を止めてしまう。

 今のはなんだ? この男は一体何をした?

 男は丸腰。拳が届くにはまだ距離が有った。だからと言って飛び道具を持ち合わせてはいる訳でもない。暗器か? それとも……いや、人間のレア種、魔術師にしては詠唱が行われていない。果たしてほんの数秒でゴブリンにそこまで考えが回ったかは分からない。

 しかし少年の「得体の知れなさ」だけは彼らに十分に伝わっていた。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/04(日) 01:36:26.83 ID:WsJ2cUxc0
「……黒剣錬成はキッチリ働く、と。この分だとチャームや蝙蝠化なんかも特に問題無く働くんだろうな……あれ、だとしたら何コレ? ヌルゲーじゃね?」

 葛葉は一瞬にして両の手に闇を纏わせるとそれをゆっくりと左右二体のゴブリンにそれぞれ照準した。慌てる必要はどこにもない。ゆっくりと照準する時間がそこには出来てしまっていた。

 ゴブリン達は動けない。それは死の恐怖か、生への諦念か。

 そして一度目と同じように葛葉はその掌の闇を剣の形へと変貌させ射出する。今度はそこに気合すら伴わなかった。

 正しく作業。結局、ゴブリン二匹には安易な敵対を、もしくは本能を、後悔する余裕すら与えられなかった。

 首から上を失い、断続的に血を流す装置と化したそれを吸血鬼は感慨の無い瞳で見つめる。生理的嫌悪感すらそこには浮かんでいなかった。普段の彼であればこんなことはまず無いだろう。

「お前らは血すら不味ぃんだよな……昔、兄弟に騙されて飲んだ事有っけど」

 スプラッタ。有機物の死体は本能的な怖気を呼び起こすものだ。少なくとも本間ひまわりの知る葛葉という少年ならば、この惨状を見て胃の内容物を地面にまき散らす作業に躍起になるはず。その冷たい瞳は――解釈違い。恐慌など最初から世界に無いかのように彼は振舞う。

 実際、戦士アレクサンドルにそういった感情は無い。いや、より正確に言えば「有ったのかも知れない」。忘れたのではない。無くしたのではない。事実として「葛葉」である間はこういったものに恐怖も吐き気も感じている。

 アレックスにとって「それ」は邪魔なだけ――だから殺している。

「俺、こう見えて割とグルメなヴァンパイアだからさ」

 そう、どこまでヒトに寄り添っても彼は、本人の言うとおりに本質はアンデッドであっただけの話。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/04(日) 01:46:01.57 ID:WsJ2cUxc0
 しっかしなあ、と葛葉は地面に崩れ落ちたゴブリンの首無し死体、あるいは生首を見ながら思う。酷いところに飛ばされたものだ、と。ああ、本当に。考え得る限り最悪とも思える類の異世界である。

 彼曰く「ヌルゲー」。でありながら「考え得る限りの最悪」。しかし、この二つは決して矛盾せず共存する。

「……獲物には当然に毒、か」

 しゃがみ込んで検死するアレクサンドル・ラグーザはゴブリンの持っていた武器が粘性の液体を付着されていることに気付く。吸血鬼である自分にこういった毒の類は効かない。だが、それは自分が特殊なだけだ。もし、一かすりでもしてしまえばこれが例えば人間ならばどうなるだろう。

「容赦が無ェな。この世界、甘さが足りてない。微糖……ビトゥー……」

「くずはー! 何も聞こえんくなったけど、終わったんかぁー?」

 背後から声が掛かる。俺がやると言っておいたのに、あの馬鹿と少年は独り言ちた。

「おー、終わった終わった。心配ないからそれ以上こっち来んなよ。俺がそっちに行く」

 この光景を姉が見たら卒倒しかねない。かと言ってこれ以上待たせたら寄って来かねない。まだ調べたい事は有ったがしぶしぶと葛葉はその場を後にする。

「どうだった?」

 言いながら茂みから姿を現す姉に、弟は頭痛を感じ額を押さえた。

「おい、なんでちょっと俺の方に移動してんだよ。隠れてろって言ったのあそこだろ」

 少し奥を目だけで指し示しながら葛葉が言う。ひまわりは胸を張った。

「そりゃあね」

 なにが「そりゃあね」だ。弟の心、姉知らず。口に出してしまいそうな「検死結果」を、葛葉は済んでのところで飲み込む。

 言う必要は無い、少女には。吸血鬼は思う。しかし、ファイアードレイクには伝えておくべきだろう。
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/04(日) 02:01:15.99 ID:WsJ2cUxc0
「姉ちゃん、ちょっと二人のトコに戻ろう」

「え、なんで? ご飯は?」

「それなんだけどな。モンスター倒しても金っぽいアイテムを落とさなかった。つまりスーパー見つけても俺らはこの世界の通貨を持ってないから何も買えねーんだわ」

 虚偽は言っていない。だが、ドーラと社の下に戻る理由は別。出来るだけ早く警告をしておくべきだろう、と葛葉はそれだけを考えていた。

「うっせやろ!? ドロップ無いの?」

「無い。割と心臓に悪いリアル『剥ぎ取り』をすればアイテムドロップは有りそうだったけどな。目玉とか心臓とか」

「うわキモ!  わたし遠慮しとくわ。葛葉やりぃよ」

「え、ヤだよ?」

「まあ、せやわな。……しかし、そか…………そうかぁ……」

 ひまわりは一人、納得して葛葉の隣を歩く。二人には頭一個分以上の身長差が有り、自然、姉は弟を見上げるような角度になってしまうわけだが。

 そうして窺った弟の横顔は、戦闘前にも増して険しかった。

「…………って事は本格的にサバイバルやなぁ」

 自分に無用な心配をさせまいとしている弟の意思が見て取れる、焦燥を隠し切れていない「それ」はこの異世界旅行の前途多難を暗示するようにひまわりには見えた。
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/04(日) 02:12:06.55 ID:WsJ2cUxc0
 一方、その頃。

 社築は手近かつ手ごろな大きさの石に座り異世界の攻略を始めていた。

「『ステータス』! ……これじゃないか。『メニューウインドウ』! ……これも外れかよ」

 ただし、その結果は惨憺たるものであり、お世辞にも結果が出たとは言えないものであったが。

「築、ほっといたらお主そのうちに『ペルソナ』とか叫びだしそうじゃな」

 ファイアードレイクは溜息にごく自然に炎を混じらせる。同じく石に座り込んだ彼女は手の中の兎(に酷似した四足獣)を器用に爪で肉へと解体していた。

「まあ、異世界ならATLUSの魔の手(権利者許諾)も及ばないだろうから、近いうちに試すと思うが。にしたって多分この方向からのアプローチは失敗だな。さっきからまったく手応えが無い」

「じゃろうな。そういった世界ならばほれ、このような手間が要らん」

 開いた兎の腹から取り出した内臓の類を指先で摘まんで見せつける妻に、社は思わず非難の声を挙げてしまう。

「うわあ、それ実物は地味にグロい」

「これだってゲーム的な世界であったらば兎に止めを刺した時点で肉になるじゃろうな。じゃが、そうではない。毛を焼き皮を剥ぎ内臓を取り出しと精肉に大変手間がかかる。ゲーム脳は捨てろと、そう声高に言われておるよ、これは」

 奇しくも葛葉がゴブリンの死体から推理した内容に、こちらの夫婦も同じく死体からするすると難無く辿り着いていた。
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/04(日) 02:30:16.85 ID:WsJ2cUxc0
「やっぱそう? ま、薄々勘付いてはいたんだよ」

「だったらなぜ奇声を上げる事を止めぬ? まあ、もしもどれかの単語が引っ掛かったら儲けものじゃから止めはせんが」

「ああ、ええと……それは、だな」

 言い淀む社。

「どうした? 言いにくい事か? お主がオタクであるなど文字通り『イタい』ほど知っておる」

「今、痛いってわざわざカタカナ表記にしたよな?」

 ツッコミには無反応でドーラは続ける。

「知っておるから、そこに少年の冒険心のようなものを感じてしまっていると言われても今更ワシは何も驚かんぞ?」

 少年の冒険心と書いてオタク心と読ます、などと内心一々に注釈を付ける社は今日もオタクくんだった。

「……その、異世界転生モノだったらこういったユーザーインターフェイスってのは在って当然みたいなところが有るじゃないですかァ」

 それは異世界転生の中でもゲーム世界に限定されていると、思ったが口には出さずドーラは夫の言葉の続きを促す。

「ふむ、それで?」

「さっきドーラも言ったけど、もしそういった『ゲーム的』って言うのか? 要素が有るんだとしたら、それは一番にでも研究しておかないとってレベルで重要なヤツじゃん」

「まあ、一理も無いわけでは無いの」

「だろ!?」

 妻のほんのわずかな同意に食い気味で乗っかっていくその姿は今日も以下略。

「大概、異世界ラノベ作品だとその辺、つまりゲームシステム的な部分が攻略の肝になってるんだよ!」
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/10/04(日) 03:57:39.26 ID:WsJ2cUxc0
「……メタが過ぎるわ」

 呆れ顔のファイアードレイクは苦笑しながら二匹目の兎の処理に取り掛かる。手練も勿論だが、何よりも道具が無ければ精肉工程などこなせない。包丁やナイフの類は全て、その鋭利な赤い爪が補っていた。

「ただ、そういった類の知識は今回まるで役に立たなそうじゃの。ほれ、見てみい」

 ニンマリと笑いながらドーラはまたも兎の内臓を社に見せつける。青年の眉がへの字に曲がった。

「これが現実じゃ」

「いや、でもさ。だったら俺の持ってるアドバンテージゼロじゃね?」

「それはRPG的な知識が何の役にも立たないという意味か? ああ、それが理由でさっきから意地になってゲーム用語連呼してたんじゃな? 異世界におけるごく普通の人間って自分の無力感が気に入らなかったわけだ」

「イエッサー」

 冷静に分析され社はがっくりと肩を落とす。この妻には隠し事はどうやら出来ないらしい。

「安西先生……異世界チート転生が……したいです」

「だからと言ってそれは本音が過ぎる。笑えん」

 ファイアードレイクはいまだ後頭部に足形を残した自分の連れ合いを、しかし言葉とは裏腹に頼もしく思っていた。

 自分以外に大人がもう一人居る。しかもそれが気心の置けない間柄であるという事実、それだけでドーラにとって社築の存在は異世界において十分大きなものだったからだ。だが、それを本人に言うのは憚られた。

 ドーラは何より悔しいのだ。そこに安心感を覚えてしまう自分が。だから、振り払うように戯れに社を貶す。

「儂ら家族の存在がチートより劣ると思っていそうなのが、一等笑えんな」

「滅相も御座いませんッ!」

 高速で平伏する自身の夫の姿に満足感を覚えつつ、火竜は予め集めておいた木の枝に自身の吐息で火を点ける。

「本当かのう?」

 クスクスと、ああ、こんな事態に遭ってすら自分を笑わせてくれる人間種にドーラは、ファイアードレイクは確かに心を奪われている。
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/10/04(日) 04:06:03.96 ID:WsJ2cUxc0

これ書き始めてから
クラフトピアに社築のMMDぶち込んで撮った「異世界転生初日の社築」スクショとか
花畑チャイカによる「社は働き過ぎだから一度死んでもらって」発言とか

なんかもう、もうねえ! なんかねえ! タイミングってのがねえ! 良いねえ!!
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/04(日) 08:39:21.54 ID:2+9Qve00o
待ってたぜ
50.90 KB Speed:0   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 新着レスを表示
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)