【シャニマス】P「よし、楽しく……」- Straylight編- 【安価】

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420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/03(水) 01:55:30.99 ID:79rSCjCkO
P「そうですね……。宣伝するようで恐縮ですが、もう少しするとうちの黛の出ているバラエティ番組が始まります」

P(ちょうど今はづきさんからの連絡で見たことだからすぐ出てきたな)

P(放送局を伝えると、看護師はテレビのリモコンを操作して件の番組を観る準備をしてくれた)

P(何かあればナースコールを、と老人に言って、看護師は部屋を出て行った)

P(しかし……、この老人がアイドルの番組を……)

P(人を見た目で判断するのもどうかと思うが、全く想像のつかない趣味を持つものだと思ってしまった)

P(どのような顔の老人だったか……そう思って改めて顔を見る)

P「……!」

P(一瞬、目が合って、睨まれたような気がした)

P(いや、気のせい……だろうか)

P(老人は、俺から視線を外すと、俺と愛依のいる方をじぃっと眺めてから、はじまった番組のあるテレビの方に視線を戻した)

P(俺も、愛依のほうに視線を戻す)

P「愛依――」

愛依 ウトウト

愛依「……っ、プロデューサー。ごめん、うち寝ちゃってたみたい」

P「――いや、いいんだ。むしろ、怪我人なんだからちゃんと休まなきゃだめだぞ」

愛依「わかった……じゃあ、ちょっと寝るわ」

愛依「おやすみ、プロデューサー……」

P「ああ。おやすみ、愛依」

愛依「……プロデューサー」

P「なんだ?」

愛依「うちの手……握ってて。手は、別に怪我とかないし」

P「わかった。……こうか?」ギュッ

愛依「うん。ありがと」キュッ

P(そう言って、愛依は弱く握り返してきた)

愛依「……あったかい」

愛依「あんしん、する……」

愛依「……」

愛依「……zzzZZZ」

P(今まで、どれほどのものを愛依は抱え込んできたんだろう。愛依は、明るい性格だし大雑把で楽天的なところもあるが――)

P(――だとしても、アイドルとしてはキャラを作っているわけで、大会で1人で戦う中でかなり消耗したのではないかと思う)

P(皮肉にも、今回は愛依をきちんと休ませることができてしまっているのかもな……)

P(俺にできることは……少なくとも今は一緒にいて寄り添うことだろうか)

愛依『うちは……プロデューサーには一緒にいてもらえたら満足だし』

P「大丈夫だ。俺はどこにも行かない」

P(そう。あの時だって――)

P『俺は愛依と、……ストレイライトと、283プロでトップを目指すんだ』

P『だから、透のところには行けない』

P(――そう胸を張って言ったんだ)

ヴーッ

P「……通知?」

冬優子<あさひがまた消えて捜索中な件。

冬優子<あ、見つけたわ。というわけで心配しなくて大丈夫だから。
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/03(水) 02:00:25.82 ID:79rSCjCkO
とりあえずここまで。
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/02/03(水) 02:21:49.56 ID:mUq4GL2DO
悲鳴に老人……まだまだ波乱は続く
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/13(土) 00:16:11.19 ID:bbZhcn2eO
3週間後。

〜病院 病室(個室)〜

P(あれから、愛依はすぐに個室へと移動することになった)

P(結局、俺の臨時休暇が終わってからは、仕事の都合で一度も見舞いに来てやることができなかった)

P(今日はようやく時間がとれて1週間ぶりくらいに病院に来た形だ――が……)

P「……愛依がいない」

P(いきなり来てしまったというのはあるけど、まさかいないなんてな)

P「……」

ガララ

「あ、和泉さんの」

P「え、あぁ……いつも愛依がお世話になっております」

「プロデューサーさん、でしたよね」

P「はい、そうです」

「和泉さんでしたら、今はリハビリ中ですよ」

「様子を見るとかであれば、こちらに……」

P(看護師に案内され、俺はリハビリをしているという愛依のもとへと向かった)


〜リハビリテーション室〜

カツッ、カンッ

愛依「……っ、く……」

カンッ

愛依「っし……!」

スルッ

愛依「あ――」

ドタッ

愛依「――っ」

愛依「……」


「あちらです」

P「あ、はい……」

P(愛依、頑張ってるな……)

P(でも、遠くから見てもわかる。わかって、しまう――)

P(――愛依が、辛い思いをしながらあそこにいるということを)

「では、私はこれで」

P「……」


カツッ、カンッ

カンッ

カツッ

愛依「……った」

愛依「はぁっ……はぁっ……」
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/13(土) 00:36:39.81 ID:bbZhcn2eO
愛依「……」ペタリ

「大丈夫ですか? 急に座り込んで……」

「体調が優れないようでしたら、今日はこの辺で止めても……」

愛依「っ、いいから!」

「!」ビクッ

愛依「うちなら、平気だから。まだ、大丈夫」

「そう、ですか……。念のため、私はここにいますからね。無理は禁物ですよ」

愛依「……」

スタスタ

P「……愛依」

愛依「っ!?」

愛依「ぷ、プロデューサー!?」

愛依「え、やだ……。うそ……」

P「あ、ああ……すまない、あれからしばらく来てやれてなくて」

愛依「そ、それは仕事があるだろうし、別に……」

愛依「っつーか、その……うちのこと、見ないで」

P「……」

P(よく見ると、愛依は汗をたくさんかいていて、患者衣が透けて――)

P「――っ!? す、すまん……」

愛依「? あ、ちょっ……、ど、どこ見てるん!?」バッ

愛依「……」

P「……」

愛依「そ、そういう風に見られんのもハズいけど、……そうじゃなくて」

P「?」

愛依「こんなうちの姿、見られたくない……」ギュッ

P「っ!」

愛依「包帯はまだ残ってるし、目立たないけど身体は傷だらけで、まともに歩くことだってまだちゃんとはできてない……!」

愛依「プロデューサーがいままで見てきたのって、そういううちじゃないっしょ?」

愛依「谷間とかも見せるちょいダイタンな服とか着ちゃって、仕事じゃ衣装着て歌ったりダンス踊ったり……」

愛依「……それが、プロデューサーが一緒に過ごしてきたうち、じゃん」

愛依「……」

愛依「意識が戻ってしばらくはさ、プロデューサーが一緒にいてくれたし、あんまし気にすることもなかったよ」

愛依「けど、あれからプロデューサーも来れなくなって、1人になって、リハビリが始まって――」グスッ

愛依「――うちが、もうアイドルの和泉愛依じゃない誰かなんだって! ……そうとしか思えなくってさ」

愛依「そんなんだから、いまのうちのこと、プロデューサーには見られたくなかったっていうか、ね」

P「確かに、今の愛依には、前みたいに力強く歌ったり激しく踊ったりすることはできない」

愛依「だったら!! だったら……、さ」

愛依「こんなうちを見ないで! こんな……こんな……」

愛依「なんもできない、うちなんて……」

P「だからなんだ!」

愛依「!」

P「アイドル和泉愛依じゃない……だからなんだって言うんだ。俺が接してきたのはいつだって、和泉愛依という1人の女の子だよ……」

P「歌えなくても踊れなくてもいい。アイドルだからお前と一緒にいるわけじゃ……一緒にいたいわけじゃないんだよ、もう……」
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/13(土) 01:29:20.67 ID:bbZhcn2eO
愛依「っ……」ポロポロ

P「何もできないなんて言わないでくれ」

P「生きてくれているだけで、一緒にいてくれるだけで、……こうして、面と向かって話してくれるだけで」

P「それでも、いいんだ」

愛依「プロ、デューサー……っ!」ポロポロ

P「ゆっくりでいい。一歩ずつ進んでいこう」

愛依「うん……、うん!」

P「……そうだ、こうしよう」

P「俺は、次からはプロデューサーとしてじゃなく、1人の人間として愛依に会いに来るよ」

P「283プロのアイドル和泉愛依の様子を見に来たプロデューサーではなく、和泉愛依という1人の女の子を好きな1人の男として」

P「そうしないか?」

愛依「あっはは、プロデュー……Pはほんとに……」

愛依「……うん。そーしよ」

愛依「てことは、さ」

愛依「Pはうちの……れしで」ゴニョゴニョ

P「?」

愛依「だーかーらー……Pはうちのカレシってことで、い、いいんでしょ?」

P「あ、ああ。そうだな」

愛依「で、うちはPのカノジョ……」

P「……」

愛依「っ!!」ボッ

愛依「やっぱうちのこと見ないで!! とりあえずいまは!!!」

P「さっきも同じようなことを言ってたが……」

愛依「さ、さっきのとは違うってゆーか……。いまのうち、めっちゃ顔赤くてヤバいから!」

P「そういうことか」

愛依「〜〜〜!」

P「まだしばらくは落ち着かなそうか?」

愛依「……いや、もう大丈夫」

P「そ、そうか……」

愛依「うちがカノジョで、Pがカレシ……っふふ」ニコ

P(とりあえず楽しそうだ――なんてな)

P(愛依には、そういう表情がよく似合うんだ)

P(アイドルではなく、1人の女の子としての……その振る舞いが)

P(そういうことは俺だけなのだと思うと、いい年なのに気分が高揚してしまう)

愛依「なにぼーっとしてんのー?」

P「いや……なんでもない」

ヴーッヴーッ

P ピッ

P「……はい。わかりました。今から向かいます」

P「すまん。仕事で戻らないといけなくなった……」

愛依「いいっていいって! 大事な仕事なんでしょ? しかも今日、平日だし」

愛依「今度は休日にでも来てよ。カレシとして、さ……。待ってるから」

愛依「うち、カノジョだし!」
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/13(土) 01:35:51.59 ID:bbZhcn2eO
とりあえずここまで。
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/02/13(土) 01:56:21.47 ID:pk/OQM70o
おつおつー
愛依√はアイドルリタイア…?
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/16(火) 00:17:18.41 ID:3FdlP2VvO
2週間後。

〜病院 リハビリテーション室〜

愛依「っ……っしょっと……」カツッ

P「よし、あと少しだ……頑張れ」

愛依「う、うん……」カンッ

愛依「……っ!?」ヨロッ

P「!? 愛依――」

愛依「っとと!」ピタッ

P「――……ふう」

愛依「あはは……ギリギリだったけど、まあ、セーフ?」

P「だな……」

愛依「もうちょっとでPんとこに着くから……待ってて」


P「お疲れ様。ほら、スポーツドリンクだ」

愛依「うん、サンキュー」

愛依 ゴク・・・ゴク・・・

愛依「……っぷはぁ」

P「だいぶ良くなってきたんじゃないか」

愛依「まあねー……まだ前みたいにはいかないけどさー」

愛依「……なんかさ、こんなこと言っていいのかわかんないんだけど、これってレッスンみたいだね」

P「! ……ああ、そうかもな」

P(さすがは俺の自慢のアイドルだ――というセリフは、言わずに飲み込んだ)

P「やっぱり、愛依はすごいよ。担当医の人も驚異的な回復力だって言ってたぞ」

愛依「まあ……それほどでも〜〜? ……あったりして!」

P「ははっ……」

P「早くちゃんと歩けるようになって、まずはあの子に元気なところを見せてやらないとな」

P「きっと、心配してるはずだから」

愛依「……」

P「……愛依?」

愛依「あのー……さ、前から気になってたんだけど、なんとなく聞きづらくて」

愛依「Pの言う“あの子”って、誰なん???」

P「え……」

愛依「いや、うちの友だちの誰かのことかな〜とか、まさか元カノ自慢じゃないよね〜〜とか、そう思ってたんだけど」

愛依「この際だし聞いちゃおうかなって思ったってゆーかさ」

P「何言ってるんだよ、あの子だよ――」

P(――■■■だよ、わかるだろ? ……と)

P(そう言っても、愛依は思い当たる節はない、という様子だった)

P「あ……」

P(事故後の愛依との会話を思い出す)

P(愛依のことで手一杯で、そもそもあの子が話題になることはほとんどなかったけど……)

P(愛依があの子の話をしたことは、事故の後には一度もなかった)

愛依「ど、どしたん? Pってば、泣きそうな顔してる?」

P(その時、俺はどんな顔をしていたんだろう。あれだけ愛依が大切にしていた3人の関係を、愛依自身が忘れているなんて知らされた時の顔なんて……)
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/16(火) 01:14:39.00 ID:3FdlP2VvO
数十分後。

〜病院 病室(個室)〜

愛依「あ、冬優子ちゃんからなんか来てるわ〜」ポチポチ

P「……」

P(あの後、ちょうど愛依の担当医がいたので、知っているはずの人を知らないということが起こった、と説明した)

P(内部に損傷はなかったものの、頭を打っているのは間違いなく、強打による健忘症や記憶喪失などが疑われたが――)

P(――原因は断定されなかった。もっとも、あの子のことを忘れていたというだけで、それ以外は何の問題も浮上していないのだ)

P(俺が騒いでも、極論「だからどうした」になってしまう)

P(……俺の周りであの子のことを知っているのは、愛依以外にははづきさんくらいだ)

P(しかし、はづきさんに「愛依があの子を忘れてしまった」と訴えてどうする?)

P(どうにかなる気もしなかった。それに、何よりあの子に「愛依が君を忘れている」だなんて伝えたくなかった)

P(俺だけが違うことを言っているような気さえしてきて、謎の孤独感に苛まれそうだ)

愛依「……P?」

P「わぁっ!?」ガタッ

愛依「ご、ごめん……びっくりさせちゃったカンジ?」

P「あ、いや、……すまない」

愛依「さっきの“あの子”のこと?」

P「それは……」

愛依「うーん……ごめんね。やっぱ思い出せなくて」

P「愛依が謝ることじゃ……ないぞ」

P(そう、誰が悪いとか、そういう話じゃないんだ)

P(だからこそ、辛いものがある)

愛依「Pの話聞いてると思い出せそうな気もするってか……こう、胸がきゅーってなるっていうか」

愛依「うちにとって大事なソンザイだったんだなってカンジはするんだけど、どうしても思い出せないんだよねー……」

P「そうか……」

P「まあ、そのうち思い出すかもしれないんだ。焦る必要はないだろう」

P(焦る必要はない――そう言い聞かせたい相手は他でもない、自分だった)

P(待っていればいつか愛依の記憶が戻ると、そう信じたいじゃないか)

愛依『そーそー。その……さ』

P『?』

愛依『うちらって、周りから見たら家族――に見えんのかなって』ゴニョゴニョ

愛依『うちがこの子のママで、プロデューサーがパパで……』ゴニョゴニョ

P「っ……」

愛依『う、うちは別に嫌じゃないよ!?』

愛依『……うん。全然いやじゃない。むしろ、嬉しい、かも』

P『……そうだな。家族に見えるかもな』

愛依『!』

『……』

P『お前もそう思うか?』

『……』コクッ

P『ははっ。じゃあ、俺たちは家族……ってことでもいいのかも――なんてな』

P「はっ……、く……、うぅ……っ」ポロポロ

P(思い出すと、涙が止まらなかった)
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/16(火) 01:48:38.67 ID:3FdlP2VvO
3週間後。

〜病院 病室(個室)〜

P「いよいよ明日で退院……だな」

愛依「うんっ。ま、だいぶ時間かかっちゃったかもだけどさー……」

愛依「仕事にもかなり穴開けちゃったし、こりゃ厳しいかな〜なんてね」

P「……ユニットとしての活動はしばらくなかったけど、冬優子とあさひは2人ともよくやってくれてるよ」

愛依「だね。うちさ、できるだけ冬優子ちゃんとあさひちゃんが出てる番組は観るようにしてたけど――」

愛依「――なんか、2人とも……うーん、うまく言葉にできないんだけど、ホントすごかったんだよね」

P「この約2ヶ月ほど……俺は、愛依がどちらを選んでも大丈夫なように準備をしてきたつもりだ」

P「アイドルを続けるか、そうでないか……」

P「俺は、愛依が何を選択しようと、意見するつもりはない」

P「どちらでも、……受け入れるつもりだ」

愛依「P……ううん、いまはプロデューサーって呼ばせて」

P「……ああ」

愛依「うちもね、ちゃんと考えたよ。アイドル続けるかどうかって」

愛依「それこそ、プロデューサーに初めて会ったときまで振り返ってさ」

P「……」

愛依「あの時……街でスカウトしてくれて、ホントに感謝してる。あれがなかったら、うち……」

愛依「そんでさ、ストレイライトっていうチョーカッコいい3人組にしてもらって、歌ったり踊ったりして……」

P「愛依がいなかったら、冬優子とあさひがいるユニットは間違いなく成り立っていなかったよ」

愛依「あっはは! そうかもねー、……なんつって」

愛依「でも、ありがと。そう言ってくれて、マジでうれしいわ」

愛依「最近の2人を見てるとさ、「あれ、もううちいなくても大丈夫じゃね?」……なーんて! そう思えるってゆーか」

愛依「ある意味で親目線的な? もうお前らは一人前なんだーってカンジで。いや、うち何様!? ……って話かもしんないけど」

P「そんなことはないぞ。愛依はストレイライトの中で、誰に対してもバランスよく接していたんだから」

P「一番良くメンバーのことが見えていたと言われても疑わないさ」

愛依「そっかな。だと、いいなって思うわ」

愛依「……あれ、何の話だっけ。……あ、アイドルをやるかやらないか、だよね」

P「……」

愛依「うちね、アイドルを――」

P「きょ、今日じゃなくても! ……いいんじゃないか?」

愛依「――プロデューサー……」

P「そ、そうだ。時間はまだある。言い忘れてたけど、どの道、愛依は事務所をあと1週間は休めるようにしてあるんだ」

P(俺は、何を……)

P「ゆ、ゆゆ、ゆっくり考えればいいさ! そうだよ、まだまだ先は長いんだ」

P(この期に及んで、何を口走っているんだ?)

P(愛依の選択を受け入れるなんて、口からでまかせもいいところじゃないか)

P(アイドルを続けるという決断を聞くのが怖いんだ――愛依の身体が以前のように動かせるような状況にはまだなっていなくて、元に戻る保証もなかったから)

P(アイドルを辞めるという決断を聞くのが怖いんだ――アイドルも、“あの子”のいる家族もない、そんな愛依を目の当たりにするのが嫌だから)

愛依「……家族」

P「え……?」

愛依「夢かもしれないし、プロデューサーの言う“うちから消えちゃった記憶”なのかもしれないし、よくわかんないけど……」

愛依「家族ってのが、すっごく懐かしくて、チョー大切で、そういう気持ちが……なんとなくあって」
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/16(火) 02:15:18.52 ID:3FdlP2VvO
愛依「プロデューサーの言う“あの子”のことは思い出せないけど、誰かに言われてる気がするんだよね」

愛依「プロデューサー――Pがパパで、うち――愛依がママで、2人の子どもが一緒にいて」

愛依「子どもはパパとママにそれぞれ片手を持ってもらってて、ぶらんこ遊びをするんだって」

愛依「その子はきっとそれだけでも……一緒にいるだけでも幸せで」

愛依「そういう家族の幸せを大切にしてって、そう誰かに言われる“夢”を見る……」

愛依 ツー

愛依「あ、あれ……」

P「愛依……」

愛依「やっぱ、こうなるかー……あっはは……」

P「?」

愛依「その家族ってゆーのがさ、アタマに浮かぶたびに、涙が……止まらなくなる的な……?」ポロポロ

愛依「な、なんだろーね! これ……、変だよね」

愛依「……」

愛依「プロデューサー、もっと近くに来て」

P「お、おう……」

愛依「……こうしてると、ここに、もう1人いる気がする」

P「!! そ、それは――」

愛依「きっと、うちにとって……ううん、うちとプロデューサーにとって、大事な子、なんだよね」

P「――……ああ!」

愛依「うちね、そんな家族が欲しい」

愛依「プロデューサーと……Pと幸せになりたい」

愛依「Pと幸せになってって……大好きな子どもと楽しく笑っていてって……」

愛依「そうやって言ってくれた声が聞こえて……」

愛依「うちもそう思うって、強く感じたから」

愛依「だから、うちは、アイドルを……」

P(もう、俺は愛依の決断を聞くのを怖がらなかった)

P(自分のことばかりで、愛依と共に人生を歩んでいくということを――最も大切なことを、見失っていたけど)

P(きちんと、取り戻すことができたから)

愛依「……これが、うちの決めたコトだよ、プロデューサー」

愛依「うちは……私、和泉愛依は」

愛依「Pと、ずーーっと! 幸せになりたい!!」

愛依「幸せな家庭を持ちたい! 家族でいろんなところに出かけたい! 海とか買い物とかね」

愛依「よくわかんないただ一緒に過ごす時間も、大切だって思いながら生きてたい」

P(まるで、あの子との“家族”の思い出をなぞるかのように)

P(愛依は自分の望む「幸せ」をこれでもかというくらいに伝えてくれた)

愛依「……はぁっ、言い切った! いや、まだまだこれからたくさん出てくるけど!!」

P「ははっ、こっちまで幸せになりそうな話しっぷりだったぞ」

愛依「もー、何言ってんのー? 幸せになりそう、じゃなくて、幸せになるんだってば。一緒にね!」

P「ああ、そうだな」

愛依「もちろん、ずっと一緒に、幸せを探して、何回でも幸せになって――くれるっしょ?」

P「当然だ。愛依と生きていくって決めてるんだから」

愛依「そっか……そっかそっか! うん!」ニコ

愛依「あっはは! もう、うちってば、いまからチョー幸せだわ!!」
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/16(火) 02:31:43.31 ID:3FdlP2VvO
約十年後。

〜某海辺 砂浜〜

P「よし、じゃああれやるか!」

愛依「あはは、うん!」

「……?」キョトン

P「いくぞ……」

P/愛依「いっせーの……」

P/愛依「……せーっ!」グイッ

「わー……」

「……」ポスッ

P「いい感じにブランコできたと思うんだけど、どうだ?」

「……ん」ニコ

P「喜んでくれたみたいだな」

愛依「ほんとカワイイんだから〜もうヤバすぎ!」ナデナデ

P「……あ。おおっ」

愛依「どしたん?」

P「いや、ほら」

P「夕日、やっぱり綺麗だな……って」

愛依「うん。すっごく……ね」

愛依「……あれ、なんか前にもおんなじことあったっけ」

P「……」

P「……あれじゃないか? デジャヴュっていう」

愛依「デジャ……なんて?」

P「いや、なんでもないよ」

愛依「あっはは、なにそれ」

P「ははっ……」

愛依「うち、……いま、しあわせだよ」

愛依「きょうだいとか友だちと遊びに行ったり、昔みたいにアイドルでレッスンとかお仕事したり……そういうのとは違って」

愛依「あ〜〜、なんかさ、うまくは言えないんだけど」

愛依「いまみたいな時間がもっと続いたらいいのにな〜って」

愛依「マジでそう思う」

P「そうか」

愛依「夕日がさ、もう……沈んじゃうじゃん?」

P(夕日が沈んだら、幸せも終わってしまうような気がする――そういった君が、どこかにいた)

愛依「でも、沈むから、明日からはまた違う夕日が見れんのかなって、そう思えるんだよね」

愛依「なんて……変かな?」

P「そんなことないと思うぞ。良いんじゃないか? 俺は好きだよ、そういうの」

愛依「そっか! あー……次来たときはもっと良い景色が見れるといいなー」

愛依「っし! もう暗いし、今日は帰ろ!」

P「ああ、そうだな」

P(そして、2人で愛する子どもの名前を呼び、また手を繋いで帰路につく)

P(確かにそこには、俺たちの幸せがあった。いつか望んだ、誰かが願った……その思いが成就された形で)

END of √M.
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/16(火) 02:45:41.35 ID:3FdlP2VvO
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OS Version 2.8.3.2018424
[AUTOMATIC OPERATION]

>ファイルをスキャンしています。
>…………
>…………
>…………
>“Mei_Izumi -Memory-”......partly damaged!
>破損したデータがあります。
>…………
>原因不明。
>…………
>破損したデータは自動的に最新のバックアップデータに置換されます。
>お待ちください……。
>…………
>…………
>…………
>処理が完了しました。
>プログラムにより、関連付けられた分岐点を自動的に開きます。
>Now Loading...
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434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/02/16(火) 02:47:22.64 ID:3FdlP2VvO
〜ステージ(予選) 舞台装置周辺〜

雛菜「っしょ、……っと!」タンッ

雛菜「とうちゃ〜く」

雛菜「透先輩にLINEしよ〜っと。……まだ〜ってね〜〜」

ポチッ

雛菜「……」

ピロンッ

雛菜「! もう返信来た〜」

雛菜「もうちょっと待ってて……かぁ〜」

雛菜「お兄さん、まだ選んでないんだね〜」

雛菜「雛菜的には……ま、どっちでもいいか〜」

雛菜「小糸ちゃんが進んだら幼馴染としてしあわせ〜になれるし〜〜」

雛菜「お兄さんのアイドルの人が進めば、透先輩がしあわせ〜になって――」

雛菜「――透先輩だいすきな雛菜もしあわせ〜ってなるもん!」

雛菜「早く返信来ないかな〜」

シーン

雛菜「……準備して待と〜っと」


〜予選会場 ロビー〜

透「タイムリミットだよ」

P「透、お前、何をしようとしてるんだ」

透「っ」ガシッ

P「ちょ、おま……」

P(いきなり胸倉を掴まれた!?)

ダッダダダ・・・

ダンッ

P「がっ……」

P(くそ、力任せに押されて暗がりに追いやられた……)

P(高校生の女の子に不意打ちとはいえ力で押し負けたことに情けないなと思いつつ)

P(この腕力は日々のレッスンの賜物か、だなんて。そんなことを思ってしまう自分に呆れる)

P「透、何するんだ、やめ――」

透 チュ

P「ん〜〜!!」

P「ぷはぁっ。……お前」

透「私も、二度は言わないつもりなんだ」ジイッ

P(目が据わってる……)

透「もう一度聞くから」

透「Pは、私のところに来てくれる?」

透「それとも、来てくれない?」

透「どっち……かな」

1. 透の誘いを断る。(既読)
2. 透の誘いに乗る。

※既読のスタンプにより、自動的に2. が選ばれます。

(とりあえずここまで)
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/02/16(火) 07:42:36.69 ID:2EcUPYJko
おつおつ
これはいい機能
愛依ちゃん……これはNORMAL COMMUNICATIONかな…?
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/02/27(土) 03:08:42.54 ID:Jgdt0UeWo
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/02/27(土) 23:12:38.03 ID:ycDuHxnvO
おつ
前ルートもそうだけど、普通に殺人未遂の二人に何の報いもないからモヤモヤするな
悲鳴がそれなのかもしれんが
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/01(月) 01:49:33.40 ID:m6an9M5VO
〜予選会場 ロビー〜

P「……わかった」

P(さっきの透が言ったことが、どうしても気になってしまっていた)

透『もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?』

P(まるで、透の誘いを断ったら愛依が決勝に進めない――そんな風に聞こえて)

P(不思議と、断ったら取り返しのつかないことになる気がして、理由のない悪寒に襲われた。だから――)

P(――俺は、透の誘いに乗った)

P「透のところに行けば、愛依は……」

透「……」

P「……透?」

透「あ……うん」

透「ちょっと、ね」

P「?」

透「うん。嬉しい」

透「ありがとう、P」

透「あー……プロデューサー、って呼んだ方がいいかな。ふふっ」

P「は、はあ……」

P(これで……良かった……のか?)

P(冷静になると、俺は愛依を――ストレイライトの3人を裏切ったことになるんじゃないだろうか)

P(いや、これがその場しのぎの嘘じゃなくなれば……正真正銘の裏切りだ。やっぱり嘘でした――とか言えるんだろうか)

透 ポチポチ

透「送信、っと……」

透「それじゃ、行ってくる」

P「行くって、どこに?」

透「本番、これからだからさ」

P「そ、そうか」

透 スタスタ

透「……そうだ」ピタッ

透「たぶん、Pの事務所に連絡が行くと思う。明日とか、明後日とか」

透「そのうち、人も来る。あと……わたs――僕も」

透「またね」フリフリ


〜ステージ(予選) 舞台装置周辺〜

ピロンッ

雛菜「あっ、透先輩からだ〜」

雛菜「……うんうん! そっか〜、透先輩、良かったね〜〜」

雛菜「てことは〜……小糸ちゃんが……」

ワァァァ

雛菜「あ、そろそろだ〜」タタタ

雛菜 カチャカチャ

雛菜 ギイッ

雛菜「やは……」

雛菜「ごめんね、小糸ちゃん」
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/01(月) 02:09:41.65 ID:m6an9M5VO
〜ステージ(予選)〜

ワァァァ

愛依「はぁ……はぁ……」

愛依(や、やり切った……!)

愛依(2回目も、うち、ちゃんとできた!)

愛依(会場の盛り上がりも、うちが見たことないくらいすっごい……)

愛依(うち、勝てたかな……)

愛依(プロデューサー、■■■、見てる?)

愛依(うち、輝いてるかな?)

愛依(これが、アイドル……和泉愛依!)

愛依(〜〜〜〜〜っ!!! 今なら負ける気がしないんですけど!!!!!)

愛依(キャラ的に表に出せないけど……変なテンションになるくらい、サイコーのステージになったかも!)


オツカレサマデシター

愛依「控え室ってどっちだっけな〜……」

愛依(あ、そういや、次って小糸ちゃんだっけ)

愛依『うちら、一緒に次に進めたらいいね』

小糸『! ……は、はいっ』

愛依(なんか、こういうのって、イイ……なんてね)

愛依(そうだ、今から戻って見に行ってあげよっかな)

愛依(決勝に進むって意味ではライバルでも、やっぱさ)

愛依(こう……応援してあげたい気持ちはあるってゆーか……)

キャァァァァァッ

愛依「?」クルッ

愛依(歓声……? でも、まだ始まったばっかなんじゃ……)

ザワザワ

愛依「え、え……?」

愛依(な、何が起こってるん???)

愛依(廊下が出てくる人でいっぱいになってきたし……これじゃまるで逃げてるか、それか――)

愛依(――追い出されたみたいな)

愛依「ちょ……あ、あの」

「はぁっ……はぁっ……」

「え、な、なんですか……?」

愛依「中で、何かあったんですか」

愛依(あっぶね。アイドルモードにならないとね)

「いや、それは……うわっ」ヨロッ

「ほら、出て出て! ……君も控え室に戻って!」

愛依「だから、その……何が」

「っ、いいから!」ドンッ

愛依「った……はい」

愛依(もう……なんなん? 舞台でトラブルでもあったのかなー)

愛依(とりあえず戻るしかない系?)

愛依(何が起きてるんだろ……)
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/01(月) 02:42:07.25 ID:m6an9M5VO
〜グループ1 控え室〜

愛依「……」

ザワザワ

愛依(ヤな空気感……)

愛依(何かとんでもないことが起きちゃってるのに、うちらは何が起きてるのかわからない……ってカンジ)

「――機材のトラブルで事故が……」

「――大怪我した人がいるって……」

愛依(いろんな話が聞こえてくる)

「――ステージの真っ最中だったよね……」

「――ってことは、もしかしてそこにいた子……」

愛依 フルフル

愛依(ここにずっといたら、なんだかおかしくなりそうだわ)

愛依(飲み物でも買いにいこ……)スタスタ


〜グループ1 控え室付近廊下〜

愛依「……」

愛依(とりあえず水買ってきたけど)

愛依(あの場所――控え室の居心地があんましよくなかったってのもあって)

愛依(飲み物を買うとかは、正直どーでもよかったんだよね)

愛依(あそこを抜け出せれば、それだけでよかった的な?)

愛依(喉もそんなに渇いてないし)

愛依(うーん、戻るしかない系? でも、うち的には気が向かないんだよねー……)

愛依「……そうだ」

愛依(プロデューサーに会いに行けばいいじゃん!)

愛依(そうじゃん、そうしよ!)


〜予選会場 関係者専用通路〜

愛依(こーゆーの、ヒニク? ……って言うのかもだけど)

愛依(さっきの控え室の噂話で、ここ通るとすぐに外に出れるって聞こえたんだよね……まあ、そのコはタバコ吸うんで外に出てたみたいだけど)

愛依(道の向き的にロビー方面だし、ここからプロデューサーんとこに行けるはず――)

愛依(――うちってば、ひょっとして天才? ……なんちゃって)

愛依「……あ」

愛依(あれ、かな。たぶん。ロビーの近くの地図も見えるし)

カラカラカラカラカラ

愛依「?」

愛依(なんか、来る……?)

ミチアケテクダサーイ

「通ります! どいてください!!」

愛依(そんな声が聞こえて、車輪付担架を運ぶ何人もの大人の人がこっちに向かってきた)

愛依(最初はなんか来るなーくらいだったけど、すぐに嫌な予感がした)

愛依(気づけば、担架はすぐそこまで来てて――)

愛依(――血まみれの小さい身体が目の前を通り過ぎた)

愛依(たぶん気のせいだし、よく見えなかったけど)

愛依(担架は、うちの目の前だけを、やたらとスローモーションで通ったように見えた)
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/01(月) 02:50:20.39 ID:m6an9M5VO
とりあえずここまで。
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/01(月) 03:56:06.92 ID:2pZFVVUQo
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/01(月) 04:40:54.08 ID:WVg33TODO
小早川紗枝と同じ身長で、的場梨沙と同じサイズのバストの「ぴゃっ」が口癖の娘が……
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/01(月) 07:39:46.41 ID:iwKf5P/Ao

おいおい
おいおいおい…
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/03(水) 21:19:25.54 ID:BbdFsMITO
〜予選会場 ロビー〜

ザワザワ

P「なんだか騒がしいな」

P「……何かあったのか?」

P(嫌な予感しかしない)

P(なぜそんな気がするのかもわからなかったけど、理由のない不安が俺を襲うのは、きっと――)

透『今日言いたいのは、お願いじゃないってこと』

P『?』

透『選択、してもらうから』

P「……」

透『もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?』

P(――っ!!)

P(お、俺は間違えていないだろうか?)

P(選択――透はそう言った。その後に、正しい選択をしなければ愛依に何かしらが起こるというようなことも仄めかして)

P(嫌な汗が止まらない……愛依は本当に無事なのだろうか)

P(周囲のざわつきは酷くなってきている。明らかに、“何かがあった”んだ)

P(それだけで愛依の身に何か起こったと考えるのには、判断材料が少ないが、それでも……)

P「愛依……愛依……!」

P(俺はいてもたってもいられなくなって、関係者専用の通路で近道をして愛依に会いに行くことにした)

P(会えるだろうか……いや、会うんだ)

P(会わなければ……!)ダッ

P(焦りすぎて、変な走り方になってしまう)

P(なぜだろう、謎に足がもつれて疾走できない感じだ)

P「はぁっ……はぁっ……」タッタッタッ

P「……よ、よし。これを開ければ――」

P(――関係者専用通路だ)

P ガチャ


〜予選会場 関係者専用通路〜

愛依(さっきのって……)

愛依「うっ……」

愛依(思い出したらちょっとキモチ悪くなってきちゃった……)

愛依(だって、あんなたくさんの血なんて、うち……)

愛依(担架が速すぎて見えなかったけど、あれ人だったっしょ。どう考えても)

愛依「……」スタスタ

愛依(あ、このドアだ)

愛依(これを開ければプロデューサーに――)ソーッ

ガチャ

愛依「――うわぁぁっ!?!?!?」

P「おわぁあぁっ!?」ビクッ

P「な、なんだ……!?」

愛依「……って、プロデューサーじゃん!」

P「め、愛依……!」
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/03(水) 21:36:56.10 ID:BbdFsMITO
P「よかった……!」ギュッ

愛依「ちょ! ……プロデューサー」

愛依「ここじゃヤバいっしょ。人来ちゃうし」ヒソヒソ

P「あ、すまん……」パッ

愛依「もー……。ま、まあ? そういうんはイヤじゃないけど?」

愛依「時と場所的な?」

P「そ、そうだよな。というか、取り乱して申し訳ない」

愛依「何かあったん?」

愛依「もしかして、いま騒がしいのと何か関係ある系?」

P「いや、その……」

P「愛依に何かあったんじゃないかと思って」

愛依「へ? うち??」

愛依「うちにはなんもないけど……」

愛依「確かになんかザワザワしてるな〜って思ったけど、なんでそれでうちに何かあったって思うの〜〜?」

P「あ……」

P(俺と透の直接のやり取りを知ってるわけじゃないんだもんな)

P「忘れてくれ……それよりも、愛依は何か知ってるのか?」

P「今、何が起きているのか、について」

愛依「いや、うちもよくわかんないんだよね」

愛依「控え室にいるとさー……ホントかどうかもわかんない噂話とかいろいろ聞こえてきちゃってヤバげだったし」

愛依「なんとなく抜けてきちゃって、せっかくステージ終わったし、そうだプロデューサーんとこ行こ! って思って」

P「そ、それでここにいたのか」

P「そうだな、つい色々と気持ちが先走って言い忘れてたよ」

P「ステージお疲れ様」

愛依「うん、ありがと!」

愛依「うち、やれたよ。結果は……まあ、知らないけど!!」

P「ははっ……そうか」

P(そうだ。愛依は戦っていたんだ)

P(俺はそんなことも忘れて何をしていたんだ……我ながら情けなさ過ぎるな、これは)

P(まずは愛依の無事を喜ぼう)

P(特に、無事ステージを終えられたことを)

P(今何が起きているのかは、その後でもいいはず……だ)


〜ステージ(予選)〜

オイ、チャントカンケイシャイガイオイダシタノカ

トリアエズハ・・・ハイ

「はぁっ……はぁっ……」タッタッタッ

「……!」ピタッ

ナンデコンナコトニ・・・

サイシュウチェックデハナニモナカッタンダゾ!

「そんな……」

「間に合わなかった、なんて……」ペタリ
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/03(水) 21:41:50.82 ID:RmxyVDljo
つーか中止にならんかこれ
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/03(水) 21:52:33.64 ID:BbdFsMITO
「想定外の事態ね……って、あれ。そこのあなた!」

「! ヤバい……」

「なんでここにいるの! 早く外に出なさい! ……って、あなたは――」

「……」

「――グループ2の……、ええと、樋口円香さんだったかしら?」

円香「……そうですけど」

「でも、あなたは……ううん、それはいいわ」

「とにかく、ここにいちゃいけないの。さぁ、早く控え室に戻りなさい」

円香「っ」グッ

円香「……わかりました」

「ほら、行きなさい。……誰よ、追い出すの終わったって言ったのは」

円香 トボトボ


〜ステージ(予選)外 通路〜

円香 スタスタ

ガチャ

バタン・・・

円香「……」フラフラ

円香 ペタン

円香 ポロポロ

円香「小糸っ……!」グッ

円香「ごめんね、ごめんね……」ポロポロ


〜予選会場 ロビー〜

P「俺は一応状況を把握してから事務所に戻るつもりだけど……愛依はどうする? 俺といると遅くなるかもだし、先に戻るか?」

愛依「……プロデューサー?」

P「な、なんだよ」

愛依「うちを最後まで送ってく選択肢はないの〜?」

愛依「頑張ったアイドルに冷たくしちゃダメっしょ〜〜」

P「……遅くなるかもしれないんだぞ?」

愛依「いいっていいって! うちは、その……」

愛依「プロデューサーと一緒にいれたほうがいいし、さ……」

P「……わかった」

P「じゃあ、一緒に帰ろう。送ってくよ」

P「とりあえず、俺は少し知り合いとかと話してくる」

愛依「え〜……結局放置されるん〜?」

P「そ、それは……」

愛依「ジョーダン! さすがにジョーダンだから! プロデューサーの仕事だもんね」

愛依「まあ……うん。うち、待ってるから」

P「ああ、すまないな」

P「できるだけ早く戻れるようにするから」

愛依「ありがと」

P「じゃあ、ちょっと行ってくるな」

愛依「いってらっしゃーい」
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/03(水) 22:27:40.61 ID:BbdFsMITO
〜予選会場 関係者専用通路〜

P「……」スタスタ

P(事態は想像以上に深刻だった)

P(その場にスタッフの誰もが想定していなかった事故が起きたのだという)

P(これは本当に現実なのか、なんて言う声も聞こえてきたくらいだ)

P(念入りにチェックした舞台装置の故障が原因なのではないか、という話が出ているらしい)

P(しかし、そんなことが起こるとしたら、それは――)

P(――誰もいないはずのところに、誰かがいて、何かをした)

P(少なくともそう考えるほかないとのことだ)

P(そして、何よりの悲劇は、その事故がアイドルのステージの最中に起こったということ)

P(事故の被害にあったアイドルの子は大怪我をして、救急搬送されたという)

P(復活は絶望的なんじゃないかなんて言い出す人までいた)

P(愛依の次にステージに出た子、か……)

透『選択、してもらうから』

透『もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?』

P ブルッ

P(ま、まさかな……?)

P(さすがにそんなこと……あり得ないだろ)

P(それこそ、これが夢や幻じゃない限りは……)

P「そういえば、この大会は……」

P「……中止になるのかな、こんなことがあれば」

P(愛依を厳しい戦いから解放してやれるという気持ちと、愛依の活躍の場が減ってしまうという気持ちが、混在している)

P(愛依自身は、どう思っているんだろうな)


〜予選会場 ロビー〜

P「おまたせ、愛依」

愛依「お、プロデューサー。思ったより早かったじゃん」

愛依「それでー……やっぱ結構ヤバいカンジのことがあった系?」

P「まあ……そうだな」

P「少なくとも、笑い事じゃないよ」

愛依「そっか……」

P「端的に言うと、ステージの最中で舞台装置が壊れて、事故が起きたんだ」

P「それで、そこにいたアイドルの子が大怪我をした。すぐに搬送されて、今は病院にいるらしい」

愛依「大怪我……」

愛依「……その、怪我したのって、……な、なんて子?」

P「名前は……」

P「そうだ、愛依のすぐ次に出番があった子だぞ」

愛依「……え?」

P「うーん……あ、そうだ。思い出したぞ」

P「少し珍しい感じの名前で……」

愛依「ちょ、ちょっと待っt――」

P「福丸小糸さんって名前だったはずだ」

愛依「――ぁ……」
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/03(水) 23:14:57.99 ID:BbdFsMITO
深夜。

〜事務所〜

P(愛依を家に送り届けてから、いくつかの書類の確認で事務所に戻ったけど……)

シーン

P(誰もいない事務所……別に珍しいことじゃないんだが……)

P(あんなことがあった後だと、この空気感が全く違うものに感じられるな)

P(既に非日常、ってことなのだろうか)

P「っしょ、っと……」ギィッ

P(時間はあるし、とりあえずPCに来たメールでも整理するか)

P カタカタ

P「……あ」

P(もう来てるな……透の事務所から)

P(今日1日でいろんなことがありすぎたな……)

P「ふぅ……」

P(俺は、事務所を移ると透に言った)

P(まあ、なんとなくわかってはいたが、ただの口約束というわけではないらしい)

P(透のあの言い方と、その直後に起こったあの出来事……)

P「……」

P(今俺が想像していることは、おそらく客観的には荒唐無稽な作り話に感じられるものなはずだ)

P(それでも、俺は、あの透との約束を反故にしてはいけない気がしてならなかった)

P(約束を破ったら取り返しのつかないことになる……そんな根拠のない恐怖がぬぐえない)

P(俺が事務所を移ったら、ストレイライトはどうすれば……)

P(……我ながら呆れるほど即決だったと思う。あり得ない決断をした)

P(しかし、なぜか悪い選択をしたという気分にはならなかった)

P(それも、今日という情報量の多い1日を過ごしたからだろう)

P(……ストレイライトごと移籍することを交渉するか? いや、そんなことをしたら283プロに合わせる顔がなくなる)

P(愛依だけでも……って、それじゃストレイライトが“ストレイライトじゃなくなってしまう”)

P(はづきさんならプロデュースをやることも能力的には不可能じゃないはずだ……けど)

P(そういうことではないだろう。あの3人――あいつらの気持ちを考えなければ)

P「……」

P(去ると言ってしまったやつが、何を今更って話だよな)

P「……ははっ」

P(ここまで乾いた笑いが出たのは初めてかもしれない)

P(笑い声はいつもの自分と同じなのに、まるで別人が俺の口を使って笑ったかのような錯覚に陥った)

P「はぁ……」

P(つくづく自分に呆れてしまう)

P(俺は一体、何をやっているんだろうか)

P「俺は……」
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/03(水) 23:16:11.58 ID:BbdFsMITO
とりあえずここまで。
452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/03(水) 23:23:53.60 ID:RmxyVDljo
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/03(水) 23:26:17.18 ID:eotV4TwXo
おつー
ノクチルにいったいなにが……
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/04(木) 02:20:57.17 ID:iQQVYecDO
円香はわかっていた

実行犯は雛菜

被害者は小糸

……と
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/14(日) 01:37:40.96 ID:e3lLtyMfO
数日後。

〜事務所〜

P「……はい。ええ、はい……」

P「……わかりました」

P ガチャリ

P「……」

P(例の大会は、結局中止になるとのことだった)

P(事故にあった子の容態が思ったよりも悪いらしい。そもそも小柄で、事故からの回復がすぐには望めないのだという)

透『もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?』

P ゾッ

P(俺が透の誘いを断っていたら……)

P(もしも、……仮に、だ)

P(愛依が今回の事故の被害者だったとして、体格は悪くないほうだから……怪我からの回復は……)

P(……いや、考えるのはよそう)

愛依「あ、プロデューサー……」

P「愛依……」

愛依「いまの電話って」

P「あ、ああ。大会についてだよ」

P「中止だそうだ。事故にあった子が、数日たってもまだ回復の兆しが見られないみたいでな」

愛依「え? あ、……そっか」

P「せっかく頑張ってきたのに、と思う気持ちもあるだろうけど、こればかりは仕方ない」

P「現実を受け入れて、また1つ1つ仕事をこなせばいいさ」

P「また、ストレイライトの3人で、な」

P「大丈夫。大会の間に愛依はすごく成長したと思うよ」

P「それこそ、……いや、なんでもない」

P「さ、愛依はあと少しでユニット全体でのレッスンだったよな」

P「冬優子とあさひは別々にレッスン場に直接向かうみたいだから、俺もやることあるし、悪いが1人で行ってくれ。っしょ、と……」ガタッ

P「さて、と。コーヒーでも入れてこようかな……」スタスタ

ギュ

P「ぐ」

P(席を離れようとしたとき、突然後ろから袖を掴まれた)

愛依「……プロデューサー」

P「な、なんだ? 早めに行かないとレッスンに遅れ――」

愛依「うちに黙ってること、あるっしょ?」

P「――……」

愛依「らしくないじゃん。そんなの」

愛依「てか、バレバレっつーか……いくらうちがあんまり頭良くないっていっても、そんくらいわかるよ……」

P「……」

愛依「大会のことは、なんていうかさ……残念だったと思うよ。小糸ちゃんが怪我しちゃったことだってすっごく悲しい」

愛依「けど、さ。いまうちがプロデューサーと話したいのは、そういうことじゃないんだよね」

P「愛依。気持ちはわかるけど、ちゃんと時間のあるときに……」

愛依「っ!」

パンッ・・・
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/14(日) 02:03:47.34 ID:e3lLtyMfO
P「ぶっ……!」グラッ

P(想像以上に重たい一撃が頬に与えられた)

P(いまある怒りを遠慮なくぶつけたような、そんな平手による意思表示に思える)

P「く……」

愛依「なんで……なんで……!」

愛依「何も言わずに違うところ行っちゃうなんて、どうしてなん!?」

愛依「うちと、うちらと……プロデューサーって、その程度ってこと!?」

愛依「もちろん、さ……プロデューサーがいなくなっちゃうこと自体もヤだよ?

愛依「けど、それはプロデューサーが決めたことだし、うちみたいなガキが何言ってもしょうがないって、わかってるつもり」

愛依「理由だって、そりゃ気になるけど……うちからは聞かない。聞きたくないし、たぶん聞いちゃいけないのかなって」

愛依「プロデューサーは大人だし」

愛依「うちは、うちらは子どもだから」

愛依「でも……いままであんなに一緒に頑張ってきて、一緒に過ごしてきて……」

愛依「その終わりがこんな形なんて、うちは納得できないから!!」

P「俺が別の事務所に行ったとしても、つながりが切れるわけじゃ……」

愛依「切れるよ! だって、うちらとプロデューサーのつながりって、“アイドルとプロデューサー”だけじゃん!」

愛依「うちが告っても返事くれないし! ……さ」

愛依「ごめん、最後のは単にうちのわがまま。“プロデューサー”に言うことじゃないよね。忘れて」

P「愛依……」

愛依「あ、……そっか。あはは……」

P「な、なんだよ」

愛依「結局、プロデューサーにとってのうちらって、その程度だったってこと、……っしょ?」

愛依「事務所が変わって担当じゃなくなっても気にならない。283プロで自分が仕事をするための道具……」

P「そ、そんなことは……!」

愛依「なに? ちがうん? 別に違っててもいいよ」

愛依「少なくともうちには、そう見えたってだけだから」

愛依「気にしないで」

P「他所に行くのを黙ってたのは謝るよ。本当にすまなかった」

P「っ……止むに止まれぬ事情……、なんだ」

P「ただ、これだけは信じて欲しいんだ」

P「これまでに283プロでみんなとやってきた仕事に嘘はない。プライベートだってそうだ」

P「道具だなんてとんでもない。俺はちゃんとストレイライトの3人を……愛依を……あの子を思って過ごしてきた」

P「それだけは、間違いないんだ」

愛依「うちさ、プロデューサーに聞きたいことがあんだけど、いい?」

P「……なんだ?」

愛依「さっき、なんで誤魔化そうとしたのかなって」

愛依「うちさ、下の子の世話とかもするし、お兄とお姉見てても思うんだけど……歳とかカンケーなしで、後ろめたいことがあると誤魔化して逃げようとするよね」

愛依「プロデューサーもそうなんじゃないかって、うちには見えるっていうか」

P「そ、そんなこと……」

愛依「じゃあさ、なんで明日からこの事務所に来る予定がないわけ?」

愛依「これはただのお話だけど、さ」

愛依「もしプロデューサーがここでうちを見送れば、プロデューサーが会いに来ない限りは、もううちらと会うことってないよね」

愛依「そういうスケジュールじゃん、これ」
457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/14(日) 02:36:43.28 ID:e3lLtyMfO
愛依「……冬優子ちゃんとあさひちゃんにも言ってないんでしょ?」

P「……」

愛依「冬優子ちゃんなんか絶対怒るだろうし。チョーこわそうだもんね。それにさ、あさひちゃんだって……プロデューサーが違うとこ行っちゃうって聞いたらそりゃ悲しむに決まってんじゃん」

P「お、俺は……!」

愛依「会うのが怖いだけっしょ? 自分勝手にやって、責められるのが嫌なんでしょ?」

愛依「だから、うまく切り抜けて、時間にカイケツしてもらおうとか思ってたんしょ?」

愛依「違うならちゃんと説明してよ。うちは何時間でも聞くから」

愛依「そのためなら、レッスンさぼってトレーナーさんとか冬優子ちゃんたちにガチギレされたっていい。怖いだろうけど、嫌じゃない」

愛依「そのぶんの責任ならとれるから」

愛依「いまのプロデューサーはさ、……なんてゆーか、無責任だよ」

愛依「きっとアタマだってうちよりずっといいはずで、いままでうちらのことを支えてきてくれて。うちとあの子に付き合ってくれて……良い人なんだと思う」

愛依「それでもさ、……あ〜、こんなこと、下の子たちくらいにしか言わないから言いたくないんだけど――」

愛依「――やっていいことと悪いことってあるんじゃないの?」

P「……」

P(何故か……何も言い返す気にはなれなかった。まくしたてて反論することだって、それっぽく言って自分を正当化することだって、きっとできたはずだ)

P(あるいは図星だったのかもしれない。……少なくとも、俺が悪いことに変わりはないのだから)

愛依「プロデューサー……いい加減――」

ヴーッヴーッ

愛依「――……? 電話?」

P(突然、俺のスマホに電話がかかってきた。デスクの上から聞こえる振動音だ)

愛依「仕事のかもしれないし、……って。切れちゃっt――」

P(たぶん、俺にスマホを渡してくれようとしたんだと思う。しかし、愛依は画面を一瞥すると、何かに気づいたように、スマホを俺に渡さず改めて凝視した)

愛依「……」

透『ふふっ……でも、言うわ。Pは――』

愛依「……!」

P「えっと、仕事の連絡かもしれないんだよな? それ」

愛依「……もういい」ボソッ

P「え?」

P(そう言った愛依の声は、ドスが聞いていてとても重たい一撃を食らったかのような衝撃があった)

愛依「あ゛あっ!!」ブンッ

P(そして、ソファーにスマホを投げつけて――)

愛依 ズカズカ

P(――荒々しく立ち去ろうとした)

P「め、愛依……!!」

愛依 クルッ

P「……」

愛依「……っ!」キッ

愛依 スタスタ

P(俺を思い切り睨みつけた愛依は、今度こそ振り返ることなく出て行った)

P「……」

P(ソファーに転がるスマホを拾う。電話はとっくに切れてしまったみたいだが、それに応じてショートメッセージが何通か送られてきていた)

浅倉透<一緒にてっぺん目指してくれること、すごく嬉しいから。

浅倉透<ありがとね。Pは僕を選んでくれるって、信じてた。
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/14(日) 03:06:49.04 ID:e3lLtyMfO
数時間後。

〜事務所前〜

P「……」

P(最後の仕事を終えて、これから帰路につくところだが)

P(事務所から出て、歩道に立った今……呆然と立ち尽くしている)

P(きっと、俺は間違っている)

P(間違ってしまったんだ)

愛依『会うのが怖いだけっしょ? 自分勝手にやって、責められるのが嫌なんでしょ?』

愛依『だから、うまく切り抜けて、時間にカイケツしてもらおうとか思ってたんしょ?』

P「……」

愛依『……もういい』ボソッ

愛依『……っ!』キッ

P(正直、どうしていいのかわからなかった)

P(自分のどうしようもなさに呆れるのはもちろんだが、呆れたところで次への一手が打てるわけじゃない)

P(頭が良ければすぐに解決するような話でもないと思う)

P(無力感を抱きすぎて、何もする気が起きない――そんな状態になっていた)

P「……とりあえず帰るか」

P(とはいえ、ずっとここに立ち続けるわけにもいかない)

P(俺に引き返すという選択肢はないのだ。物理的にも、精神的にも)

P トボトボ

「――あの、すみません」

「283プロダクションの方でしょうか?」

P「ええ、そうでs……いえ、違いました」

「急にすみません。私――」

P「……関係ありませんので。では、私はこれで……」

「――ストレイライトのプロデューサーを辞める人に興味があるんです」

P「……!?」クルッ

「よかったらお話を伺えないでしょうか?」

P(まっすぐで、綺麗な瞳だった)

P「……ご用件は」

「近くの喫茶店では……いかがでしょう?」


〜喫茶店〜

P「えっと……それでは改めて自己紹介を……」

P「そうだ、名刺……あ」ガサガサッ

P(現時点で有効な名刺は持っていないんだった……)

「それは結構です。必要ありませんので」

P「そ、そうでしょうか……?」

P「失礼ですが、ええと、名前は……」

「……樋口円香です。よろしくお願いします」

P「樋口円香さん、ですね。私は、ご存知とのことですが……Pと申します」

円香「浅倉透の新しいプロデューサーは……うん、確かに一致してる」ポチポチ

円香「あなたにお話したいことがあるんです。私に手を貸していただけませんか」
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/14(日) 03:09:24.63 ID:e3lLtyMfO
とりあえずここまで。
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/14(日) 05:04:59.99 ID:8EYyghxDO
綺麗な円香クルー!?
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/14(日) 08:07:54.16 ID:wfotSSr2o
小糸ちゃんがぐちゃぐちゃに!
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/14(日) 13:22:51.48 ID:j3ban7g2o
このシリーズは円香の可能性を広げまくっている乙!
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/15(月) 02:30:11.89 ID:fZRYS71uo
不憫
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/23(火) 23:50:56.20 ID:EJYM3XPKO
〜透の所属する事務所 Pの部屋〜

P カタカタ

P「……」

シーン

P「な、慣れないな……」

P(透のいる事務所での待遇は、正直に言えばかなり良いものだった)

P(専用の部屋があり、給料も高い)

P(ただ、アイドルたちがはしゃぐにぎやかさはなく、自分のキーボードを叩く音が部屋に響くのを、不自然に感じている俺がいる)

P「なんか、本当にそれ目当てで移ったって283プロの人たちに思われそうだな……」

P(もっとも、それ以上にクズだと思われていても文句は言えないんだと思う)

P(俺がしたことは、たぶんそういうことだ)

コンコン

P「あ……はい! どうぞ」

ガチャ

透「やっほー」

P「透か……どうしたんだ?」

透「え? 別にどうもしないよ」

P「そ、そうか……」

透「あー……。邪魔、だった?」

P「そういうわけじゃないよ」

P「いつも通りに仕事をしていても、こんなに静かで広い部屋にいるのは、なんだか落ち着かなくてな」

P「知ってる人にいてもらったほうがかえって居心地が良いよ」

P「そこにある椅子、座っていいぞ。適当にくつろいでくれ」

透「ありがと。そうする……っしょっと」

P カタカタ

透 ジーッ

P カタカタ

透 ジーッ

P「……」

透「?」

P「あの……くつろいでいいんだからな?」

透「うん。だから、そうしてるよ」

P「いや、さっきから俺のことをずっと見てるだけだと思うんだが……」

透「Pを見ながらくつろいでる」

P「お、おう」

透「仕事、まだかかりそうなの?」

P「今やってる分はもう少しで終わると思う」

透「そっか」

P カタカタ

透 ジーッ

P「……透」

透 ニコッ

P「はぁ……」
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/24(水) 00:36:05.58 ID:dgrNlHaQO
P カタカタ

P「ふぅ……よし、っと……」

透「終わったの?」

P「ひと通りな」

透「Pの椅子、大きいね」

P「? あ、あぁ……俺にはもったいないくらい良い椅子だよ」

P(実際、頑張れば2人でも座れるくらいに大きく、座り心地も良い椅子を使わせてもらっている)

透「じゃあ、一緒に座ろ」スタスタ

P「え、いや、ちょっと待て何言って……」

透「よっと」ボフッ

P「っとと……」ギギギィッ・・・

P「……」

P(俺の上に――前に?――透が座ってきた)

P「あの……」

透「仕事、ひと通り終わったんでしょ」

P「まあ、そうだが」

透「じゃあ休憩、必要かなって。一緒に休もうよ」

P「いや、透はどうだか知らないけど俺はむしろ落ち着かないというか何というか……」

透「?」

P「誰かが来たらどうするんだ……誤解されるかもしれないぞ」

透「えー、なにそれ。誤解?」

P「そうだよ」

透「大丈夫。誤解じゃないから。僕にとっては」

P「……」

P(良い匂いがするし、なんだか柔らかいし、いろいろと困る。休まる気がしない)

透「Pは、さ……」

透「僕のために、働いてくれてるんだよね」

P「俺は透のプロデューサーだし、そうなるな」

透「僕をてっぺんに連れて行ってくれる……」

透「そうでしょ?」

P「ああ」

透「ふふっ、そっか」モゾモゾ

P「……最早近づきすぎて密着状態になっているんだが、透」

透「いいじゃん、別に」

P「良くないだろ」

透「嫌?」

P「……嫌ってわけじゃないけどさ、プロデューサーとアイドルがこうしてるのはまずいだろ」

P「傍から見ればただイチャついてるだけ――」

ガチャ

円香「何度もノックはしたので入りまs……」

P「――……」

P「樋口さん。これは、誤解だ」

円香「最低」
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/24(水) 01:53:58.29 ID:dgrNlHaQO
透「新しいアイドルの人?」

P「そうだけどそうじゃないというか……なんというか」

P「アイドルは辞めてないけど、今は俺の秘書をしてくれてる……って感じかな」

透「へぇ……」

P「な、なんだよ」

透「別に。なんでもない」

円香「……そろそろイチャつくのをやめたらどうですか」

P「ほら……! だから言っただろ」

透「はいはい、ごめんね」スッ

透「雛菜のとこ行ってるから」

ガチャ

透「またね、P」

バタン

円香「……」

P「お、幼馴染なんだよ、あいつは」

円香「そうですか。私には、それ以上に見えましたけど」

P「だから、誤解なんだって」

円香「まあいいです。“それについては”興味ないので」

P「そ、そうか……」


二週間前。

〜喫茶店〜

円香「あなたにお話したいことがあるんです。私に手を貸していただけませんか」

P「私が……ですか?」

円香「はい」

円香「この前中止になった大会、覚えていますよね」

P「ええ。……ついさっきまでプロデュースしていたアイドルが出ていましたから」

円香「私は、中止になった原因を知りたいんです」

P「そうですか……。ちなみに、樋口さんはあの大会には出ていたんですか?」

円香「出ていましたよ。あなたのアイドルと一緒のグループになったことはありませんが」

P「それなら、原因については知っているはずだ。少なくとも、樋口さんのプロデューサーやマネージャーなら知っていることですよ」

P「ステージでの事故。そして巻き込まれたアイドルの子の大怪我。原因はそのように伝えられています」

円香「その怪我をした子は……っ、私の幼馴染です」

P「! ……そうだったのか」

円香「それに、あなたが今言ったことは理由であって原因じゃない」

円香「私が知りたいのは、“誰が”あの事故を起こしたのかということだから」

P「ま、待ってくれ! あの事故が人為的なものだって言うのか……!?」

透『今日言いたいのは、お願いじゃないってこと』

透『選択、してもらうから』

透『もし、私のいる事務所に来てくれればあの人は勝ち進める……って言ったら?』

P「……」

P(そんな、ばかげている)

P(それでも、なぜか、あり得ないと言い切れない自分がいた。本当に、なんでだろう)
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/24(水) 02:59:18.46 ID:dgrNlHaQO
円香「大会攻略の一環として自分でいろいろと調べる中で、偶然わかったことがあるんです」

円香「あの大会に来ていたアイドルのリストには、1つだけ、大会に参加していないアイドルのIDがあった」

円香「もちろん、あの日だってそう」

P「でも、それならとっくにその子が容疑者になってるんじゃないのか? 君が調べられることなら、大人にわからないはずがない」

円香「その通り。だから、おかしい」

円香「誰も疑ってない。誰も……理由ばかりを見て、原因が見えてない」

円香「普通なら、そんなはずないのに」

円香「最初は、自分がおかしいんじゃないかと疑うこともありました。正しいのは周りで、間違っているのは私だと」

円香「でも、どんなに考えても……疑うべき点はそれしかなかった……!」

円香「っ、……なのに、小糸があんなことになったいきさつを説明してくれそうな人なんて、誰もいなかったんです」

円香「なんでかはいまでもわかりません」

P「……」

円香「最初にそのアイドルの存在を知ったときは、変だと感じてもそれほど気にしていませんでした」

円香「ただ出入りしているだけならそういうこともあるか、と」

円香「IDも、ゲスト用だったのか、名前がわかるようなものにはなっていなかったので」

円香「そう……誰なのかがわかっていれば……!」

P「というと、名前が重要なのか……?」

円香「名前そのもの、というわけではないですが――」


大会(予選第2回目)当日。

〜予選会場 ロビー〜

円香『……落し物?』ヒョイ

円香『これ、入講に必要なIDカード……』

円香《何気なく、IDを見てしまう》

円香『って、例のゲスト用ID……!』

円香《なんて偶然》

円香《まあ、だからどうしたって感じ。落し物だし、カウンターに預けるだけ》

円香『落し物です。そこで拾いました』

『ありがとうございます。お預かりしますね』

円香『はい。お願いします』

円香《不思議なこともある……》スタスタ

『すみませ〜ん……』

『はい、どうなさいましたか?』

『この辺に〜、入るためのカードって落ちてませんか〜〜?』

『ああ、それならつい先ほど届きましたよ。……こちらでしょうか?』

『やは〜! これです〜〜!」

円香《あれ、この声、この話し方……》

円香《……雛菜?》

『ありがとうございました〜』テテテテテ

『よいしょ……っと!』ピッ

ガコン ウィーン・・・

円香『……え』

円香《なんで、私たちでも通れないあのゲートを、あいつはゲスト用のIDで開けられるの……?》
468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/24(水) 03:14:55.91 ID:dgrNlHaQO
円香のステージが終わった後。

〜グループ2 控え室〜

円香『……』

円香《何かが引っかかる……雛菜を見かけてから、嫌な緊張感がなくなってくれない……》

ピロン

円香『メール? 一体誰から……』

『FROM :-----------------------------
 件名 :階段
 本文 :(本文はありません)    』

円香『って、スパム……』

ズキン

円香『う゛っ!?』クラッ

------------------------------------------
マドカ《ここを曲がって……》

マドカ《この階段を下りれば、コイトがいる》

コイト『あっ、マドカちゃん……!』ピョコッ

マドカ『やっぱり……ふふっ』

マドカ『おまたせ……』

コイト『っ!? ま、マドカちゃn……』

マドカ『……?』

ドンッ

ガンッ――ダダダ・・・
------------------------------------------

円香《な、なにこれ……。私の記憶なの?》

------------------------------------------
ヒナナ『もっとお話したかったけど……』

ポンッ

コイト『ぴゃ!?』

ヒナナ『“また今度”ね〜、コイトちゃん』
------------------------------------------

円香《これは私の記憶じゃない。雛菜と小糸だけの記憶。でも……》

円香《ま、まさか……!》

円香《いま私が思ったことは、呆れるほどにばかばかしくて――》

円香《――恐ろしいほどに現実味を帯びていた》

円香 ダッ


〜ステージ前〜

円香『はぁっ……はぁっ……』タッタッタッ

円香『……!』ピタッ

円香『そんな……』

円香『間に合わなかった、なんて……』ペタリ
469 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2021/03/24(水) 03:19:48.09 ID:O20Feq+a0
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/24(水) 03:36:38.65 ID:dgrNlHaQO
円香「こんなこと、人に話したって信じてもらえるわけがない……」

円香「それでも、私は、雛菜がこの件に深くかかわっていると確信しています」

P「……俺に、あ、私に行き着いたのは何故でしょうか?」

円香「敬語なら大丈夫です。あなたに声をかけたのは――」


〜ステージ(予選)外 通路〜

円香 スタスタ

ガチャ

バタン・・・

円香『……』フラフラ

円香 ペタン

円香 ポロポロ

円香『小糸っ……!』グッ

円香『ごめんね、ごめんね……』ポロポロ

ピロン

円香『今度は何……!?』

『FROM :----------------------------------------
 件名 :283プロを離れる和泉愛依のプロデューサー
 本文 :近づけば、知りたいことがわかるかも    』


円香「同じアドレスから、そんなメールが来たんです」

円香「その後、何度も私からメールを送ったのですが、返信は来ませんでした」

円香「それでも、あのメールは私の味方だと思った。あんなことがあったから……信じてみようと思ったんです」

円香「他に味方なんて、いなかったから」

P「そういうことだったのか……」

円香「ちなみに、あなたは283プロを離れた後、どうするんですか」

P「もう正式に決まってることだし言っても問題ないか……これからは、浅倉透をプロデュースすることになる」

円香「……本当、うんざりするほどドンピシャ」

P「?」

円香「雛菜は、その浅倉透と同じ事務所なので」

円香「メールの通りにあなたに近づいて正解でした」

P「おう……でも、だからって俺にどうしろと言うんだ?」

P「君が――樋口さんが幼馴染の福丸さんのために真実を知りたいというのはわかった。でも、内部の情報をリークするわけにはいかない」

P「協力できるかと言われると、正直厳しいと思う」

円香「はい。それはわかっています」

P「え? そ、そうか?」

円香「だったら、なってしまえばいいでしょ。私も、内部の人間に」

P「どういうことなんだ……?」

円香「私を秘書として雇ってください。それくらいのお願いはしてもいいでしょ。きちんと、あなたの仕事をサポートしますから」

P「待て待て、君を秘書として雇えたとしても、樋口さんが今いるプロダクションとの所属アイドルとしての契約はどうなるんだ?」

円香「事務所なら辞めてきました。格好良く言えば、フリーランスです」

P「……」

円香「それくらい、本気なので」

P「手伝ってくれる人がいるのは助かるし、樋口さんがそれでいいなら……わかった、協力するよ。俺も、そこまで事情を聞いてしまっては、無関心を装えないからな」

円香「ありがとうございます。これから、よろしくお願いしますね」
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/24(水) 03:40:18.17 ID:dgrNlHaQO
とりあえずここまで。
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/24(水) 05:45:43.53 ID:tQyfb/KDO
なんかややこしくなってきた

つか、たしかにカナ表記だったなぁ
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/24(水) 07:00:23.57 ID:iKv9Uv6jo

再びノクチルルートへ
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/24(水) 10:27:20.10 ID:/qrWip9oO
おつおつ
トオルは何を…?
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/29(月) 02:45:26.54 ID:De3ugYjcO
二週間後に戻る。

〜透の所属する事務所 Pの部屋〜

円香「さっき、あの子……「雛菜のとこ行ってるから」って言っていましたね」

P「ああ。2人とも、仲が良いみたいだ」

P「仲が良すぎて同じユニットにしてもらえなかったとかいう話もあるくらいだからな」

円香「そう……」

P「やっぱり、雛菜ちゃんのこと……」

円香「……証拠は何もありませんが、それでも、不思議な体験と自分の直観が、そう言ってるんです」

円香「自分でも、呆れるほど筋道立ってない」

P「いや、ロジカルじゃないとしても、俺にもわかるんだ」

P(透と雛菜ちゃん……あの2人には間違いなく“何か”がある)

P(看過できない“何か”が)

P(それをきちんと説明できない、あるいはしたくないという思いがあって、なかなか解決できないというのが現状だろう)

P(原因として思い浮かぶものが、常識的な見方をすれば荒唐無稽でしかないんだから)

円香「あの2人に関する資料をいただけますか」

P「……一応、プライバシーだけどな」

円香「はぁ……私が何のためにあなたに近づいたと思ってるんです?」

円香「それに、秘書が資料を整理するなんて、別におかしなことではないでしょ」

P(ここまで来たら、俺も腹をくくるか……)

P「まあ、それもそうだな」

P「まとめて渡せるようにしておくよ。明日まで待ってくれないか」

円香「わかりました。お待ちしています」

P「任せてくれ」

グゥ・・・

P「?」

円香「っ!?」

P「……」

円香「……っ」

円香「……」

P「……あー」

P「そういえば、もう昼だったな」

P「俺は結構腹が減ってるんだが、その、なんだ……」

P「樋口さんも一緒にどうかな。ランチとか」

円香「……私のために格好つけないでください」

P「腹が減ったのは俺も同じだったし、気にしないでくれ」

P「で、どうかな?」

円香「……はぁ」

円香「そうさせてもらいます」

476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/29(月) 03:09:22.21 ID:De3ugYjcO
〜レストラン(洋食)〜

P「好きなだけ食っていいからな」

円香「……」

P「ま、まだ女子高生なんだ。食べ盛りだろう、きっと」

円香「……はぁ」

P「! こういう店じゃないほうがよかったか?」

円香「いえ、そういうわけではないです」

円香「奢ってもらう身で、わがままなんて言うつもりないので」

P「そ、そうか……」

円香「さっきから、ずっと無理してる」

P「む、無理?」

円香「あなたにとって扱いにくい女なんですね、私は」

P「何を言うんだ……。まあ、確かに俺が今まで接してきた子たちは――」

P(冬優子、あさひ、……愛依)

P「――っ」

円香「すみません。変なことを言いました。謝ります」

P「いいんだ……気にしないでくれ」

P「ほら、とりあえず何を頼むか決めよう」

円香「はい」


P「その……福丸小糸さんとは、幼馴染だって言ってたよな」

円香「……はい」

P「雛菜ちゃんとも」

円香「まあ、そうなります」

P「そして、透は俺の幼馴染、か……」

円香「不思議」

P「?」

円香「偶然にしては出来過ぎてるような、そんな感じ」

P「……確かにな」

円香「今更、私たちは引き返せないってわかってる。それでも――」

円香「――自分たちが本当に立ち向かうべきは何なのか、それがわからないんです」

P「……」

円香「雛菜を問い詰めれば解決するのか、あるいは浅倉透を……」

P「樋口さんが言ってたあのメール……あれが何だったのか、誰が送ったものなのか、そういったことがわかれば、解決に近づくかもしれないな」

P「話を聞いてる限り、メールの送り主が本質的な何かを知っているのは明らかだと思うんだ」

円香「あのメールを受け取ったときに見た“自分の知らない記憶”……あれは、一体」

P「そうだ。それもあった」

P「わからないことは山積みだな……」

P「……はぁ。嘆いても仕方ない、か!」

P「1つ1つ、できることからやっていこう」

円香「ふふっ」

P「え?」

円香「いえ、独り言の多い人だと思っただけです」
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/29(月) 03:30:03.41 ID:De3ugYjcO
数日後。

〜テレビ局〜

透「じゃ、行ってくる」

P「ああ。やらかすんじゃないぞ」

透「えー? ふふっ、何それ」

P「お前を見てると、なんだかそれだけは言わないといけない気がしてな」

透「もしかして、僕のこと信用してない?」

P「信用はしても、心配はするよ」

P「自分のアイドルのことを気にするのは、プロデューサーとして当然のことだからさ」

透「……そっか」

透「わかった。ありがと」

透「今度こそ、行ってくるから」

P「行ってらっしゃい。頑張れ、透」


P「特番の収録で、終わるまで数時間はある、か……」

プシュ

P(その辺の自販機で買った缶コーヒーを開け、飲みながら数日前のことを考える)

P『わからないことは山積みだな……』

P『……はぁ。嘆いても仕方ない、か!』

P『1つ1つ、できることからやっていこう』

円香『ふふっ』

P『え?』

円香『いえ、独り言の多い人だと思っただけです』

P(あの子、ちゃんと笑うんだな……)

P「……」

P(樋口円香の第一印象は、まっすぐで綺麗な瞳を持つ女の子、だった)

P(でも、接していくうちに、彼女の弱さのようなものが時々垣間見える気がして――)

円香『誰も疑ってない。誰も……理由ばかりを見て、原因が見えてない』

円香『普通なら、そんなはずないのに』

円香『最初は、自分がおかしいんじゃないかと疑うこともありました。正しいのは周りで、間違っているのは私だと』

円香『でも、どんなに考えても……疑うべき点はそれしかなかった……!』

円香『っ、……なのに、小糸があんなことになったいきさつを説明してくれそうな人なんて、誰もいなかったんです』

P(――きっと――)

円香『今更、私たちは引き返せないってわかってる。それでも――』

円香『――自分たちが本当に立ち向かうべきは何なのか、それがわからないんです』

P(――独りでは戦えないんだ。だから、俺を頼ってくれている)

円香『あなたにお話したいことがあるんです。私に手を貸していただけませんか』

P(俺が、一緒に戦ってやらないといけないんだ)

P(これも、根拠もロジックもない、荒唐無稽な考えだが――)

P(――彼女の力になれるのは自分しかいない、そう思えた)

P「……っし! 頑張んないとな、俺も」

P(そういえば、近くに共用のテレワーク用スペースがあったな)

P(時間はあるし、外でできる仕事はそこで片付けるか……)
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/29(月) 04:02:33.00 ID:De3ugYjcO
〜テレワーク用スペース(共用)〜

P カタカタ

P(うん、悪くないな。こういうのも)

P(それに、共用スペースっていうのが、なんだか……もう少し賑やかになれば――)

あさひ『わーい! 冬優子ちゃんの隣ゲットっす!』ダキッ

冬優子『だ、抱きつくことまでは許可してないわよ! ちょっとって言ったじゃない! ……もう』

愛依『いいねいいね〜、見てて微笑ましいわ』

P『なんだかんだで仲良いんだよな』

P(――“みんながいるあの場所”みたいに、なるんじゃないかって)

はづき『プロデューサーさんは、優しい方です』

P(そう、思えて……)

P ポロ・・・

P「っ!?」

P(な、何泣いてるんだ、俺は……)

P(俺には、そんな風に涙を流す資格なんて、ないのに)

P「くっ……くそ……」ポロポロ

P(なんで、止まらないんだ……!)

「すみませ〜ん。隣のここ、使ってもいいですか〜?」

P「え? あ、はい……」グスッ

P「どうぞ」

「ありがとうございます〜」

P(……仕事しないとな)


P カタカタ

ピトッ

P「うわっつぁ!?」

P(き、急に熱い何かが顔に!?)

P「……って、コーヒー?」

P(一体誰が――)

「ったく、なんでずっと隣にいんのに気づかないのよ」

P(――お前は)

「久しぶり……よね。うん」

「……」

「あー……、もう! なんで何も言わないのよ! 久々の再会なんだから、もっと喜んだらどうなの?」

P「いや、その……なんだ」

P(ちょうど、色々と思い出していたんだ、なんて……)

「って、あんまりおっきな声出すと注目浴びるわよね。声抑えないと……」

「まあ? 変装はもちろん完璧、だけどね」

P「ははっ、そうだな。それに、その口調ならバレないだろう」

「〜〜〜っ! ほんっと、むかつくわね!」

P(こんなやり取りをしたのは、本当、いつぶりなんだろうか。その“完璧な変装”越しでも俺には相手が誰なのかわかっていたから、それが成立したんだろう)

P「テレワーク用のスペースで会えるなんて思ってなかったよ。久しぶりだな――」

P「――冬優子」
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/29(月) 04:05:50.41 ID:De3ugYjcO
とりあえずここまで。
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/29(月) 07:21:07.23 ID:qgoqdkSDO
わぁ……何が起きる?

期待乙
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/29(月) 10:28:26.95 ID:0EEWdSPCo

ついにきた
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/03(土) 12:51:17.27 ID:LCiEfIRm0
勝ったな
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/03(土) 21:26:28.24 ID:kDydBCHT0

まさか公式のエイプリル企画で似たシステムが来るとは思わなんだ
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/05(月) 02:24:44.82 ID:NfrDCRHmO
冬優子「突然いなくなったからどうしてるんだって思ったけど……無駄な心配だったわね。あーあ、損した!」

P「……心配してくれてありがとう」

冬優子「っ、心配って言ったってちょっとだから……! ほんとに、……ちょっとなんだから」

冬優子「い、忙しくてあんたのことなんて考えてない時間の方が長かったわよ!」

P「ははっ、……はいはい。わかってるよ――」

P(――冬優子が俺のことを本気で心配してくれていたんだってこと)

P「冬優子は……その、怒ってはいるのか?」

P「俺はお前たちを、はづきさんを、社長を、裏切ったんだぞ」

冬優子「ふゆがあんたを怒って、それで何か解決するわけ?」

P「それは……」

冬優子「……いいのよ」

P「!」

冬優子「いいの。あんたが選択したことだしね」

冬優子「いまはこうして、見ててあげるわよ」

P「なんで――」

冬優子「?」

P「――なんで、そんなに優しいんだ?」

冬優子「だーかーらー、……そんなんじゃないわよ、もう」

冬優子「ほんとに、そんなんじゃないの」ボソッ

冬優子「ま、あんたにはわからないだろうけどね」

P「そ、そうか……」

P(そういえば……)

P「冬優子はなんでこんなところにいるんだ? ここはアイドルが来るような場所じゃないと思うんだが」

冬優子「ふゆはまだ学生ってこと、忘れたの?」

P「あ」

冬優子「課題をするのにちょうどいいのよ、ここ。テレビ局と近いし、収録がある時はよく来てるってわけ」

冬優子「それに……まあ、最近はパソコンを使うことが多いから……」

P「?」

冬優子「しゅ、趣味的なやつよ! 聞き流しなせっての」

冬優子「……と、とにかく! そういうわけでここに来る理由ならあるのよ、わかった?」

P「ああ。アイドル以外のこともちゃんとやってるんだな」

冬優子「当然でしょ。ふゆのプロデューサーだったのに、そんなことも知らないの?」

P「いいや、知ってるよ。再確認できて嬉しかっただけだ」

冬優子「そ、そう……?」

冬優子「あんたって、……ふふっ」

P「俺はさ……正直、冬優子に会うのが怖かったんだ」

愛依『……冬優子ちゃんとあさひちゃんにも言ってないんでしょ?』

愛依『冬優子ちゃんなんか絶対怒るだろうし。チョーこわそうだもんね。それにさ、あさひちゃんだって……プロデューサーが違うとこ行っちゃうって聞いたらそりゃ悲しむに決まってんじゃん』

愛依『会うのが怖いだけっしょ? 自分勝手にやって、責められるのが嫌なんでしょ?』

愛依『だから、うまく切り抜けて、時間にカイケツしてもらおうとか思ってたんしょ?』

P「っ」

P「こうしてまた、普通に話せているのがまだ少し信じられないくらいには」
485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/05(月) 02:56:34.40 ID:NfrDCRHmO
冬優子「ふーん、あんたにとってのふゆはそういう感じなんだ」

P「い、いや、怖いだけだなんて思ってないからな!?」

冬優子「そうは言ってないじゃない!」

冬優子「……さっきも言ったでしょ。いい、って。あんたの選択だ、って」

冬優子「裏切ったとか思ってるの、たぶん愛依とあんただけよ」

P「そうなのか……? あ、あさひは?」

冬優子「さあね。“あいつはいつでもあいつ”よ」

冬優子「アレが考えてることなんてわからないわ」

P「……」

冬優子「はぁ……過ぎたことを考えたって仕方がないでしょ」

冬優子「いまできることをやればいいんだから」

冬優子「あんた、ふゆより大人なんだから、もっとしっかりしなさいよね」

P「確かにな……ははっ、大人である俺が学生に言われるのは情けない限りだが、その通りだ」

P「少し気持ちが楽になったよ」

冬優子「らしくないのよ、いまのあんたは」

P「そうかもな。自分を見失っていた」

P「それから、前を向くことも忘れていたんだと思う」

P「ありがとう、冬優子」ニコッ

冬優子「!」

冬優子「れ、礼を言われるほどのことは……してない……わよ」

P「そんなことはない。こうして冬優子に会えていなかったら、俺は虚像に怯えながら前を向くことだってできなかったはずだ」

P「だから、礼を言いたくもなるんだよ」

冬優子「……調子狂うわね。話題を変えさせてもらうんだから」

冬優子「あんた、いまは浅倉透のプロデューサーしてるんだってね」

P「ああ、よく知ってたな。まだ移って日も浅いのに、行った先の事務所だけじゃなくて、担当アイドルまで知ってるなんて」

冬優子「まあね。それに、さっき、あんたとその子がテレビ局で一緒にいるの見えたし」

冬優子「ここに来る前は収録だったの。その帰りにたまたま見たってだけよ」

冬優子「話を戻すけど、その……調子は、どうなのよ」

P「どうって言われても……まあ、普通だぞ?」

冬優子「283プロじゃないところに行って何も変化がないってことはないんじゃないの」

P「変化……あ」

P「秘書がいるよ、今は」

冬優子「ひ、秘書!?」

P「お、おう……」

冬優子「あんた秘書なんて雇ってナニさせてんのよ!」

P「何って……そりゃあ、手伝ってもらってるだけだぞ」

冬優子「手伝いって……! あんなことやこんなことさせてるとか、さ、最ッ低……!」

冬優子「どうせ自分用の部屋とかもらって立派な机と椅子も用意されてるんでしょ!?」

P「よ、よくわかったな……」

冬優子「それで机の中に秘書を潜らせてるとか……」

P「待て待て、冬優子はきっと思い違いをしている。たぶん読んでいる本の内容が偏っているせいだ」

P「仕事の手伝いをしてもらってるんだよ。当たり前だろう」

P「自分から俺の秘書になりたいと言ってきてくれたんだ。ちょうど俺が283プロを去った直後に、な」
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/05(月) 03:27:39.35 ID:NfrDCRHmO
冬優子「……! 随分と不思議なタイミングじゃない」

P「それは俺も思ったよ」

P(もっとも、不思議なのはタイミングだけじゃないが……)

P「アイドルの子で、事務所を辞めてきたとか言ってたぞ」

冬優子「そう……」

P「まあ、色々と訳有りではあるかもしれないな」

P「それでも……まあ時々手厳しいことを言われるが……優しい子だよ」

P「よく手伝ってくれていると思う。俺も、その頑張りには応えたいって思うんだ」

P(彼女の弱さを支えて、求める真実を一緒に見つけるために)

冬優子「なんだかんだ、うまくやってんのね」

P「なんとか、な。でも、まだまだこれからだと思う。それこそ、冬優子の言う通りに今できることを確実にやって――」

P「――前を向いていかなきゃいけないんだ」

冬優子「この短時間で随分とイキイキしちゃって……ま、それならいいわ」

冬優子「そのうち、ふゆたち全員に挨拶しに来なさいよ」

冬優子「愛依のことも……できる限りなんとかしてみるから」

冬優子「あさひだって、あんたのことが好きだから一緒にやってこれたの。それを忘れんじゃないわよ」

冬優子「繰り返しだけど、裏切ったとか思わなくていいから」

冬優子「あそこは、あんたの居場所なの。これまでも、これからも、ずっとね」

P「冬優子……」

冬優子「ちょっと話しすぎたわ。じゃ、ふゆはもう行くから」カタカタ

冬優子「シャットダウンして……っと」

冬優子 ガサゴソ

冬優子「……」

冬優子「また、会うんだからね」

P「ああ」

P「283プロが俺の居場所だって言ってくれた冬優子の気持ちも忘れない」

P「また、な」

冬優子 ヒラヒラ

P「……」

P(久々に見届ける後姿がそこにはあった)

P(しかし、同じなのは見た目だけで)

P(その背中から伝わってくるものは、以前とは違っていた)

冬優子『なんでもないわよ。ふふっ』クルッ

冬優子『……明日からも、お仕事頑張りましょうねっ。プロデューサーさん!』

P(あの頃が、なんだかとても昔のことのように感じられる)

P(それでも、決して忘れたわけじゃない。むしろ、鮮明に覚えている)

P(あの時と今は確かに違うが、変わってしまった、のではなく、変わることができた、んだろう)

P(成長を見届ける親というのは、こういう気持ちになるものなのかもな)

ヴーッ

P「っと、メッセージか」

樋口円香<頼まれていた雑務、終わりました。他にも伝えることはありますが次に会ったときにします。直接話したほうが良いと思うので。

P「了解、ご苦労様、っと……送信」ポチッ

P(これが、“俺の今”……なんだな)
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/05(月) 03:36:14.53 ID:NfrDCRHmO
とりあえずここまで。

予想以上に忙しくなってしまい、予定よりも進行が遅れています。すみません。

ここでのお話自体は着実に完結へと向かっているので、読み続けてくださるという方はこれからもよろしくです。
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/05(月) 04:48:34.34 ID:e2FicstDO
乙です

やはり冬優子はいい女だ
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/05(月) 06:04:50.03 ID:xW93G43zo
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/06(火) 00:39:45.25 ID:ZP2CzGiEO
>>1です。まずは訂正から。

>> 訂正:

冬優子「しゅ、趣味的なやつよ! 聞き流しなせっての」
→冬優子「しゅ、趣味的なやつよ! 聞き流せっての」

失礼しました。
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/06(火) 01:06:49.21 ID:ZP2CzGiEO
同日。

〜透の所属する事務所 Pの部屋〜

円香「領収書は……確か」

円香 ガチャガチャ

円香 ガラララ

円香「そう、ここ……」

円香 ガサゴソ

円香「……これで全部」

コンコン

円香「? はい」

「失礼します〜」

円香(この声って……)

「あは〜、円香先輩だ〜〜」

円香「……雛菜」

雛菜「うん〜、雛菜だよ〜〜」

円香「……」

円香(思い出すのは、ステージの上の血の色――)

円香「――っ」

円香(平常心……平常心……)

雛菜「あれ〜? 透先輩いないの〜〜?」

円香「あの子ならいない。今日は仕事でプロデューサーとテレビ局に行ってるから」

雛菜「そうなんだ〜。ざんね〜〜ん……」

円香「日を改めれば?」

雛菜「まあ、そうなんだけど……」

雛菜「……雛菜、円香先輩ともお話したいな〜って」

円香「……」

雛菜「だめ〜?」

円香「仕事の邪魔……しないなら、別にいいけど」

雛菜「わかった〜。気をつけるね〜〜」

円香(聞き出すには絶好のチャンス……でも)

円香(突然のことで、どうしていいのかわからない)

円香(ここは適当に相手をして、次に備えてからまた話せばいいかも)

円香 カチャカチャ

雛菜「円香先輩は、アイドル続けないの〜?」

円香「たぶん、続ける」

円香「でも、いまは他にやりたいこと……ううん、やらないといけないこと、あるから」

雛菜「そっか〜」

円香「あんたこそ――雛菜こそ、レッスンとか仕事とかないわけ?」

雛菜「あ〜、それ聞く〜〜?」

円香「?」

雛菜「雛菜、活動休止中だから――」

雛菜「――いまは透先輩の付き人だよ〜」

円香「そう……ていうか、付き人ならこんなとこにいないで、テレビ局にいなきゃ駄目でしょ」
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/06(火) 01:29:52.72 ID:ZP2CzGiEO
雛菜「うん! だからいまはサボりだよ」

円香「呆れた」

雛菜「いまはあのお兄さんがいるし、雛菜がいる必要なんてないんだけどな〜」

円香「どういうこと?」

雛菜「前のプロデューサーも、マネージャーも、透先輩の面倒なんてちゃんと見てなかったから〜」

雛菜「それに比べて、お兄さんなら、ちゃんと、いつでも面倒を見てくれるでしょ〜? 幼馴染だしね〜〜」

円香「……それで、雛菜は働かずにお金をもらう金食い虫をやってるってこと」

雛菜「ひど〜い。まあ、そうだけどね〜〜」

円香(やっぱり、おかしい)

円香(あまりにも出来すぎてる)

円香(あの人がこのプロダクションに来て浅倉透のプロデューサーになれば、雛菜は晴れて本当の意味で自由の身……)

円香(……雛菜に人事を動かせるとは思えないけど、偶然ではない何かがあるような気がしてならない)

円香「なんで活動休止中になったわけ?」

雛菜「言われちゃって〜……お前は態度がなってないから、アイドル休んでしばら透先輩の付き人でもやってろ〜〜だって」

雛菜「しかもアイドルに復帰しても絶対に透先輩と同じユニットにはしてやらない〜とか言われて……こんなのしあわせ〜じゃない〜〜」

円香「……」

円香(それも、どこまでが本当なんだか)

円香「自由になれたなら、好きなとこにいけばいいでしょ。ここに居ても楽しくないと思うけど」

雛菜「別にそんなことないよ〜?」

雛菜「円香先輩と一緒でも、楽しい〜ってなれると思う〜〜」スタスタ

円香「そう? 私たち、そんなに仲良かったっけ」

雛菜「仲良くなればいいと思う〜」スタスタ

円香「え……」

円香(書類の整理をしながらで、雛菜の方をあまり気にしてなかった)

円香(気づけば、雛菜は私の目の前にいて――)

雛菜「円香せんぱ〜い♡」ズイッ

円香(――私は肩に手を置かれて、雛菜の顔が耳元へ近づくのをただ感じていることしかできなかった)

雛菜 スゥ・・・

円香(雛菜が、私の耳元で何かを呟こうとしている気がした)

雛菜「……」

円香「……」

雛菜「……やは」

雛菜「やっぱ、いまはいいや〜」パッ

円香「?」

雛菜「そのうち、また……」ボソッ

円香「雛菜……?」

雛菜「ううん、なんでもない〜」

雛菜「雛菜、そろそろ行くね?」ガチャ

円香「……」

ギィィ

ギィ・・・ピタッ

雛菜「……ごめんね」

ガチャン
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/06(火) 01:34:35.23 ID:ZP2CzGiEO
>>490 訂正:

>> 訂正:
>>484 訂正:


>>491 訂正:

同日。
→同日。数時間前。
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/06(火) 02:04:35.33 ID:ZP2CzGiEO
翌日。

〜透の所属する事務所 Pの部屋〜

P「それで、昨日言ってた「他にも伝えること」っていうのは、何なんだ?」

円香「大した情報かどうかはわかりませんが、それでも、話したほうがいいと思ったので」

円香「雛菜に関することです」

P「! ……そうか」

円香「あの子、いまは活動休止中らしいんです」

P「え!? そうなのか?」

P「俺もあの子について少し社内のデータを調べたことがあるんだが……そんなことは書いてなかったと思うぞ」

円香「雛菜が言うには、上司みたいな……誰かから口頭で通達を出されたみたいで」

円香「どこまで本当かは知りませんが」

円香「それで、いまは浅倉透の付き人ということになっているようですよ」

P「でも、雛菜ちゃんは透の仕事についてきたことなんてないぞ? 俺がいつも透といるんだから、これは間違いない」

円香「それはあなたがここに来てからの話でしょ」

P「あ……」

円香「雛菜は付いてきてないんじゃない。付いていく必要がなくなっただけ」

円香「あなたという、浅倉透の……プロデューサーであり幼馴染である面倒見の良い存在があるおかげで」

円香「あの子はいま、正真正銘、自由の身なんです」

P「……」

円香「まあ、仕事って言われても本人的に楽しくなければやらないって自白してましたし、あなたがこの事務所に入る前もサボっていたかもしれませんが」

円香「とにかく、あの子の行動範囲の広さについては、これで説明がつきました」

円香「私たちが認識した段階では既に……市川雛菜は事実上アイドルではなかった」

P「まさに自由奔放……か」

円香「……」

P「あとは、雛菜ちゃんが事故発生時に現場――もとい舞台装置周辺にいたことを説明できれば……」

円香「少なくとも、雛菜が予選会場にいたことははっきりしています――」

『よいしょ……っと!』ピッ

ガコン ウィーン・・・

円香『……え』

円香《なんで、私たちでも通れないあのゲートを、あいつはゲスト用のIDで開けられるの……?》

円香「――私がこの目で見ているので」

円香「裏方の人のルートで入ったことも」

P「あのルートでもアイドルたちがいる方面へはいけるはず……だから、単なる面会だと言われたらそれまでだ」

P「せめて、舞台に向かったということがはっきりすればなぁ」

P「出場していないアイドル――というか雛菜ちゃんが舞台に行くのはあり得ないことだし」

P「舞台付近にいた関係者に聞き込みをするのは……駄目、だな」

円香「もしそういう人たちが雛菜を見ていれば、すぐに気づいてその場から追い出すはずなので」

円香「そうなっていないということは、たぶん聞き込みは徒労に終わるかと」

P「……これは、参ったな」

P「とはいえ、だいぶ状況と情報は整理されてきただろう」

P「今はとりあえず、着実に前へと進んでいることを喜ぼう」

P(今できることを確実にやって前を向く――俺はやるよ、冬優子)
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/06(火) 02:34:27.27 ID:ZP2CzGiEO
同日。夜。

〜透の所属する事務所 Pの部屋〜

P「……ふぅ」カタカタカタッ

P(今日は残業、か)

P(樋口さんが帰ってから早数時間……この前の透の仕事に関して、仕上げの業務がなかなか終わらないでいた)

P(別に透がやらかしたとかではない。むしろ、普通によくやってくれていた)

P(仕事の量を計れなかった俺のミスだ)

P「まあ、それもあと少しで……」カタカタ


P「……っし、終了!」タンッ

P「ん゛んっ、はぁ」

P(伸びをしてから、一呼吸)

P「あ、そういえば」

P(今日はさっきまでやってた仕事に夢中で、メールの受信ボックスを確認しないで放置してたな)

P「どれどれ……」

P(多くは形式的な連絡や見る必要のないお知らせだが――)

P「……これ」

P(――1つ、しばらく目を離せそうにないものが届いていた)

P「283プロ和泉愛依との共演……見た目とのギャップが視聴者の……」

P「メールの差出人は……はづきさんだ」

P「“283プロの和泉愛依”……か」

P(あれだけ距離の近かったアイドルなのに、その文字列を見ただけで、埋めようのない溝のようなものを感じてしまった)

冬優子『裏切ったとか思ってるの、たぶん愛依とあんただけよ』

冬優子『愛依のことも……できる限りなんとかしてみるから』

冬優子『繰り返しだけど、裏切ったとか思わなくていいから』

P「冬優子……」

P(今できることをやって、前を向く――それはあくまでもスタート地点に立つというだけのことだ)

P(そこから、自らの意志で前に進まなければならない)

P(そうして、はじめて時計の針を自分で進めたことになる……きっと、そういうことなんだろう)

P「……よし、やりますか」

P カタカタ

P(はづきさんへの返信メールの下書きを書く――愛依との仕事を請けるのだ)

P(俺は考えなきゃいけない。冬優子が言ったことの内容を、はづきさんがこの仕事を提案してくれたことの意味を――)

P(――そして、愛依の気持ちを)

P(樋口さんと目指すべき真実がある)

P(でも、忘れちゃいけない)

愛依『それでもさ、……あ〜、こんなこと、下の子たちくらいにしか言わないから言いたくないんだけど――』

愛依『――やっていいことと悪いことってあるんじゃないの?』

P(俺は、まだ愛依に答えられていないし――)

P『め、愛依……!!』

愛依 クルッ

愛依『……っ!』キッ

P(――応えられてもいないんだから)
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/06(火) 02:37:43.12 ID:ZP2CzGiEO
とりあえずここまで。
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/13(火) 11:58:25.03 ID:OmrtrW1uo

ノクチル勢は謎が謎を呼ぶな
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/13(火) 12:33:01.68 ID:PeQPyGEcO
おつおつ
復活よかった……!
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/18(日) 02:48:15.47 ID:dJ31jM6UO
翌日。

〜透の所属する事務所 Pの部屋〜

ガチャ

P「お、来たな」

透「うん。来たよ」

P「メールで送ったやつ……もう確認してくれたか?」

透「……した」

P「そうか」

透「Pの元カノ」

P「っ!?」

透「やっぱ、そうなんだ」

P「いや、俺は――そんなんじゃないんだ」

P(本当に、そんなんじゃないんだ)

P(冗談でもそんなこと……言う資格なんてない)

P「違うからな」

透「まあ、いいけどさ」

透「Pは僕を選んだんだし」

P「……ああ」

P「これも仕事……経験だ」

P「うまくやってくれ」

透「えー、なにそれ」

透「ふふっ……なんか、適当だね」

P「わざわざ煽るとかはしないでくれよ」

透「しないよ。Pが嫌がることは」

P「……」

透「レッスン、行ってくるから」

P「ああ、頑張ってな」

透「うん……」ガチャ

「きゃっ」

透「わっ」

透「あ……秘書の」

円香「……」

透「これからレッスン行くところだから」

円香「そう……」

透 スタスタ

円香「……」

ガチャ

P「……」

円香「……」

P「……ん゛んっ」

円香「何か?」

P「さっきの小さい悲鳴みたいな……」

円香「それ以上聞いたら、ストライキする」
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/18(日) 03:17:46.71 ID:dJ31jM6UO
円香「そういえば、新しい仕事の件ですけど……あれ、請けるんですね」

P「仕事を請けることなんてしょっちゅうだろ?」

円香「そうじゃなくて……283プロの」

P「あ、そういうことか」

P「……うん。自分の過去と向き合わないといけないって思ったんだ」

円香「そうですか。まあ、私とは関係がないようなので、別にいいですが」

P「それが、そうでもないみたいだぞ」

円香「?」

P「透と愛依が共演する仕事なんだが……既に転送したメールにあるように、トークとライブバトルがメインだ」

P「最後には、当日まで非公開だが1日限りでのユニットで歌も披露することになってる」

P「何が言いたいのかというと、この仕事は、ライブができるステージのある舞台でやるんだ」

P「そして、ただの舞台じゃない……使用するのは例の事件があった会場だ」

円香「っ!? ……そんな」

P「実はな、これは本当に限られたごく一部の関係者しか知らなくて、俺も半ば盗み聞きのような形で手に入れた情報なんだが――」

P「――福丸小糸さんの容態が良くなっているらしい。回復の方向だそうだ」

円香「こ、小糸が……!」

P「良かったな、樋口さん。とりあえず、その点については安心して良さそうだ」

円香「小糸に……小糸に会わせてください……!」

P「そうしてあげたいのは山々だけど、この件については一応、部外者ってことになってるんだよ……俺は」

円香「それでも、どうにかできるんじゃないんですか」

P「できるならやっているさ」

円香「優秀なプロデューサーなんでしょ? 秘書としての私の働きぶりに不満があるなら言ってください。何でも。すぐに直すので」

P「樋口さん! ……少し落ち着こう。福丸さんは大丈夫なんだ、とりあえずは。今、何を見るべきで何をすべきか、それを思い出してくれ」

P「事件の原因を明らかにするんだろ? 俺たちはそれを目標に動いていたはずだ」

円香「はぁっ……はぁっ……」

P「大丈夫……大丈夫だ」

円香「……」

P「……」

円香「……本当、あなたの言う通り」

円香「取り乱してすみません。もう、大丈夫です」

P「いいんだ。樋口さんの気持ちは……わかるよ」

P(事件の直前まで、愛依はそのステージにいたんだから)

円香「……話を戻しますね」

円香「では、例の仕事は、あのステージで行われるんですね」

P「ああ。これは確定事項だ」

P「表立ってはそう言われていないが……恐らく被害者である福丸さんの容態が良くなったことが関係しているだろう」

P「また、アイドルの立つ舞台として……あそこが使われるんだ」

円香「不思議……本当に怖いのは、あの会場そのものじゃないのに」

P「……そうだな。まあ、とりあえず俺たちが注目している事件の舞台であることは間違いないんだ」

P「下見と称して堂々と現地調査を行うこともできる」

P「これは、チャンスなんだと思う」

円香「私もそう思います」

円香「まさに、“与えられたチャンス”なのかも……」ボソッ
501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/18(日) 03:42:19.54 ID:dJ31jM6UO
数時間後。

〜レッスンルームの更衣室〜

透「ふぃ〜……」ドサッ

透「……」

透 キョロキョロ

透「誰もいない、か」

透「ふふっ、こんな時間だし、そうかも」

透「こんな時間……Pに迎えに来てもらおうかな」

透「スマホスマホ……」ガサゴソ

透「……と、あった」

ヴーッヴーッ

透「電話……? Pからじゃ、ない」

ピッ

透「……、あー、もしもし?」

「やは〜、透先輩〜〜」

透「なんだ、雛菜か」

雛菜「なんだ、って、ひどくな〜い?」

透「ごめんごめん。そういうんじゃないから」

雛菜「知ってる〜、いいよ〜〜」

透「どうしたの? 急に、電話とか」

雛菜「透先輩の声が聞きたいな〜って思ったから〜〜」

透「ふふっ……なにそれ」

雛菜「ほんとだよ〜?」

透「うん、知ってる。ありがと」

雛菜「ねえ、透先輩……」

透「? なに」

雛菜「“トオル先輩が最後にお兄さんと会ったのはどこだっけ?”」

透「Pと? 事務所の部屋――」


------------------------------------

トオル「ほら、ぼーっとしてないでさ」

トオル「手、出しなよ」

トオル「そういう企画だから」

P「え? ああ……」

P「はい」


トオル「ごめんね、なんか」

P「謝らなくてもいいけど……」

トオル「ばいばい。またね」

P「ああ。また、な」
------------------------------------


透「――っつ」バチッ

透「……握手会」

雛菜「あは〜」
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/18(日) 04:09:26.63 ID:dJ31jM6UO
透「そっか……そういうこと」

雛菜「うん〜……でも、あんまり時間ないかも〜〜」

透「いるんだ、どうにかしようって人」

雛菜「そうかもね〜。そこまでは雛菜にもよくわからないけど」

透「僕が……」

雛菜「透先輩〜?」

透「ううん。なんでもない」

透「いいんだ。わがまま、聞いてもらったし」

雛菜「……」

透「やろう。今度は、僕の……私の番だけど」

透「で、どうするの」

雛菜「決勝会場で予約されてたとこ、あれってこの前の会場を新しく作っただけの建物だから、ほとんど同じで大丈夫〜」

雛菜「細かい違いとかは後で送るね〜」

透「わかった」

透「……」

透「……また」

雛菜「?」

透「また、……ううん、今度こそ、最初から……がいいなって」

透「それから、Pと2人で……」

雛菜「透先輩、何か言った〜?」

透「別に、ただの独り言」

透「そろそろ切る。Pに連絡しないとだから」

雛菜「わかった〜。またね〜〜」

透「うん。じゃ、また」

ピッ

透「……」

透「てっぺん、いつになったら……」

透「でも、そのうちたどり着けるよね」

透「待ってるよ、P」


同時刻。

〜ステージ(予選) 閉鎖中の舞台付近〜

雛菜「切れちゃった〜」

雛菜「1人でいると〜、……広いな〜〜」

雛菜「んっ」タンッ

雛菜「広〜い舞台を、雛菜が独り占め〜〜」タタッ

雛菜「……なんてね〜」ピタッ

雛菜「独り占めできた舞台でも、見る人がいないとな〜」

雛菜「雛菜、こういうのはやっぱ向いてないかも〜」

雛菜「なんでこうなっちゃったのかな〜」テテテテテ

雛菜「あーあ……」ダンッ

雛菜 シュタッ

雛菜「アイドルに……なりたいな」
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/18(日) 04:12:15.28 ID:dJ31jM6UO
>>1です。復旧したようなので再開しました。引き続きよろしくお願いします。

とりあえずここまで。
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/18(日) 04:14:51.77 ID:6TYjAhtmo

ここの雛菜が初めて素顔を見せた気がする
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/18(日) 04:39:46.23 ID:T4/8W+vDO
双方の思惑はどうクロスするやら……恐いけど楽しみ
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/19(月) 01:18:55.67 ID:nHJ6EIxsO
収録の数日前。

〜ステージ付近(in 元予選会場)〜

P「……」

P(なぜだろう。この前の事件は、結局のところ俺に被害はないのに……)

P「このステージを……いや」

P「この状況を、か」

P(今、自分が置かれている状況――それが俺を落ち着かなくさせている)

P(理由はわからない)

P(前にも、こんなことがあっただろうか?)

P(同じようなセッティングで、周りが危険に晒されるような、そんなことが……)

P「ははっ。パラレルワールドか何かだろ、そんなものは」

P(妄想も甚だしい――)

P「――……」

P(妄想だと、そうやって簡単に脳内から捨て去れれば楽なんだろうと思う)

P(だって――)

P「――デジャヴュにしか感じられないんだよなぁ」

P ドサッ

P「……ふぅ」

P(こうして、ただ観客席から眺めるだけの立場になったら……どうなるんだろうか)

P(久しぶりの目線だ、これは)

P「……」

「プロデューサーさん」

P「!?」バッ

「あ……いまは、Pさん――と呼んだ方がいいのかもしれませんね〜」

P「は、はづきさん……」

はづき「はい、そうですよ〜」

はづき「いまは、私もプロデューサーですから」

P「は、はは……」

はづき「今回のお仕事、よろしくお願いしますね〜」

P「……はづきさん」

はづき「? なんでしょうか」

P「ありがとうございます」

はづき「ふふ、お礼なんて」

P「俺は、283プロを……ストレイライトを……愛依を……裏切った過去と向き合えないでいました」

P「背中に感じつつも、結局は目を向けずに放置していたんです」

P「今ある仕事をやるんだと、無意識下でも自分に言い聞かせながら……」

P「だから、はづきさんがこの仕事を提案してくれたときに、決心できたんです」

P「清算するんだ――と」

はづき「もう、誰かから聞いてるかもしれませんが……」

はづき「Pさんが――いいえ、プロデューサーさんが283プロを裏切っただなんて、誰も思っていませんよ」

はづき「愛依さんだって、きっとそうだと私は思います」

P「ははっ……冬優子に言われました」

P「愛依については……やはり一度、ちゃんと話し合いたいんです」
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/19(月) 01:53:22.49 ID:nHJ6EIxsO
はづき「やっぱり……プロデューサーさんは、優しい方です」

はづき「アイドルのことを一番に考えてる」

P「それは……」

はづき「私、思うんですよね〜」

P「……?」

はづき「プロデューサーさんは、アイドルを守るために私たちのところからいなくなったんじゃないか……と」

はづき「裏切ったことにして、自分が悪者になれば……」

P「……」

はづき「……いいえ、なんでもありません」

はづき「ふふ、そうだ」

はづき「そろそろ愛依さんがここに来ると思いますから〜……その時に、ちゃんと話をしてあげてください」

はづき スタスタ

P「……」

はづき スタスタ

P「……はづきさん!」

はづき ピタ

P「……」

はづき クルッ

P「俺、変わってません!」

P「変わるはずがないんです!!」

P「大切にしたいものは、いつだって……!」

はづき ニコッ

P「……っ!」

はづき ガチャ

P「あの……!」

ギィィ

バタン

P「……」

「あー、やだやだ。大人が叫ぶところって案外ゾッとするもんね」

P「!」

「はづきさんに訴えかけてどうすんの」

P「ふ、冬優子……」

冬優子「はづきさんも出て行ったし、この話し方でいくから」

P「なんで冬優子がここにいるんだ……? この仕事は愛依と透の……」

冬優子「手が焼ける“2人”のためよ」

冬優子「ほーら、いつまで隠れてんの」

「っ……」

冬優子「てか、あんたの図体じゃふゆの後ろに隠れてもバレバレだし」

冬優子「1センチ背が高いだけじゃ壁にはなれないわよ」

「……」

冬優子「このままじゃ、嫌なんでしょ――」

冬優子「――愛依」

愛依「……」ヒョコ
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/19(月) 02:12:33.51 ID:nHJ6EIxsO
P「愛依……」

愛依「……」

冬優子「はあぁぁぁ……らしくない」

冬優子「ここまで来たんだから、もっとアイツの顔を見なさい……ほら」

愛依「……」

P「……」

愛依「……プロデューサー」

P「あ、ああ……」

愛依「ぅ……うち、その……」

冬優子「あー、もう! 遠いのよ!!」

冬優子「もっと前に行きなさい……!」グググ

愛依「ちょっ! ふ、冬優子ちゃん、強く押しすぎっしょ!!」

冬優子「いいから、無意識にでも目を逸らさないようにするの!」グググ

愛依「わ、わかったって! あんまり押すと……って」グラッ

愛依「わわっ……!?」ヨロッ

P「あ、危ない……!」バッ

愛依「……っと」ピタッ

P「ふぅ……転ぶところだったぞ」

愛依「う、うん……」

P「あ――」

P(――無意識によろけた愛依を支えにいったけど……なんだかすごく近くに……)

冬優子「これでよし、と」

冬優子「じゃ、ふゆは向こうに行ってるから」

冬優子 スタスタ

P「……」

愛依「……」

P「話をしよう、愛依」

愛依「うん」

P「俺が何故283プロを離れたのか――まずはそれから、な」

P「途中、何言ってるんだって思うところがあっても……とりあえず聞いてくれ」

P(それから、俺は透に選択を迫られた日から今日に至るまでの過程をすべて説明した)

P(荒唐無稽に聞こえるような話まで、全部)

P(愛依は……何も言わずに最後まで説明を聞いてくれた)

P「……と、これがすべてだ」

P「長くなったけど、話すべきことは全部言えたと思う」

愛依「そっか……」

P「事実として俺が283プロを裏切った形になったのは間違いない。それでも、俺は――」

愛依「――いい」

P「っ……。そうか……」

P「今更すべてを話せばどうにかなるなんて、甘いよな……」

愛依「え? いや……」

愛依「……良かったって意味だから」

愛依「プロデューサーの“本当”を聞けたの、はじめてかな〜ってさ」
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/19(月) 02:34:56.16 ID:nHJ6EIxsO
愛依「ごめんね、プロデューサー」

愛依「うち、勘違いしてたみたいだわー……。あれから時間も経って、ちょっとは落ち着いて考えられるようになったから」

P「そ、そんな……謝るのはむしろ俺の方だよ」

愛依「そんなことないって」

愛依「うちさー……こんなん自分で言うのちょーハズいけど」

愛依「プロデューサーを取られたって思ってめっちゃむしゃくしゃしてて」

愛依「すぐに目移りするんだって勝手に失望して」

愛依「一緒に過ごした時間がプロデューサーに否定されたみたいで悔しくて」

愛依「気持ちは完全に捨てられた側で……完全に被害者ヅラってのになってた」

愛依「……」

愛依「あの透ちゃんって子に言われてたんだよねー、プロデューサーはうちじゃなくてあの子を選ぶんだって」

愛依「ごめん、もっと早くプロデューサーに相談すればよかった」

愛依「なんか、あの時は、それをプロデューサーに言いたくなくて……それだけ黙ってた」

P「そうだったのか……」


愛依『初対面でいきなりプロデューサーの引き抜きの話してくるとか、ちょっとヤバすぎでしょ』

愛依『プロデューサーから行くなんてあり得ないから諦めてって言っちゃった』

P『ははっ、アイドルのときのキャラの愛依にそれ言われたら、あいつもびびってるかもな』

愛依『え〜? そうかな〜〜』

愛依『――……』

P『愛依?』

愛依『あ、ううん! なんでもない!』


愛依「うん。ごめん」

愛依「たぶん、うちもプロデューサーも……ちょっと自分で抱え込みすぎたんだと思うわ」

愛依「黙ってるのは思いやりにならないんだって……そう思う」

P「ああ。同感だ」

愛依「でも……あははっ」

P「め、愛依?」

愛依「嬉しかった」

愛依「さっき、全部話してくれたっしょ? なんか、よくわかんない話もいっぱいあったけど」

愛依「これだけは、間違いなくわかったんだよね」

愛依「プロデューサーは、うちを守ろうとしてくれたんだって」

愛依「ううん。いまでも、プロデューサーはうちのために……うち以外にも、たぶんいろんな人のために……戦ってるんだなって」

P「そう思って……くれるのか」

愛依「プロデューサーが一生懸命伝えようとしてくれたこと、ちゃんとうちは受け取れてるかな?」

P「ああ……ああ!」

P(俺の選択が間違えていたのかどうかはわからない)

P(そもそも、あの時の選択に正しさも間違いもないんだと思う)

P(ただ……“愛依が俺の選択を受け入れてくれたことは間違いない”んだ)

愛依「ちょっと〜、プロデューサー……泣きそうじゃん?」

P「グスッ……い、いいじゃないか、こういうときくらい」

愛依「あははっ、なにそれ。開き直ってるし」

愛依「……懐かしいわ。こういうの」
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/19(月) 03:03:39.54 ID:nHJ6EIxsO
愛依「“プロデューサーがプロデューサーだったとき”と同じっつーの?」

P「ははっ、まだ、あの時と同じじゃないぞ」

愛依「?」

P「喧嘩したら仲直り……だ」

P「これは下の子たちに言わないのか?」

愛依「も〜……それ、うちがプロデューサーに言ったやつに対する嫌味っしょ〜〜」

愛依「でも、まあ……そうだね」

愛依「小さい子たちにできて、うちらができないんじゃ、シメシがつかないってもんだわ」

P「ああ。それじゃ――」

P「――せーの、でいくか?」

愛依「うん。そうする」

P・愛依「せーの……」

……ごめんなさい。

愛依「これで元通り――じゃ、ないか」

P「そうだな。もう変わったこともある」

愛依「そっか……」

P「……そして、変わらないことが確かにある」

P「俺はプロデューサーだ。アイドルの、プロデューサー……変わらないことだ」

P「かつてストレイライトを担当し、現在は浅倉透を担当している……これは変わったこと」

P「そして、俺は一度担当したアイドルのことはいつだって気にかけている……変わるわけがない」

P「愛依も、冬優子も、あさひも……そして透も、代わりのない大切な存在なんだ」

P「変わらないし、代わりはない」

愛依「うちも、プロデューサーがそういう人だって……いまは知ってる」

愛依「いまは、それでいいって思う」

愛依「そうあって欲しいとも思うかも」

P「ははっ……そうか」

P「それはそれとして、プロデュース業にだってもちろん本気で取り組むからな」

P「油断してると、283プロのストレイライトに追いつけないほどのところにまで行ってるかもしれないぞ?」

愛依「言うね〜負けてらんないわ!」

P「透のオーラ、知らないわけじゃないだろうからな。競う際には十分対策を練るように」

愛依「あっはは! プロデューサー、どっちの味方なん〜?」

P「ははっ――」

P(「――俺は、両方の味方だよ」)

P(そのことは、口に出して言わなかった)

P(わざわざ言うのが野暮だと思えるくらい、いまの俺と愛依はお互いを信用しているから)

P(笑い合いながらも、愛依の笑顔に安心する俺がいる)

P(同時に、今日は多くのものを、そして大きなものを、取り返せたんだと確信する)

P(アイドルの笑顔で取り戻した安寧の存在を確かなものにするのは、あるいはプロデューサーらしいのかもしれなかった)


冬優子「……仲直り、できたみたいね」クルッ

冬優子「まさに、雨降って地固まる――か」ボソッ

冬優子「でもね、あんたには……まだまだ忘れてることがあるんだから」

冬優子 スタスタ
511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/19(月) 03:05:44.24 ID:nHJ6EIxsO
とりあえずここまで。
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/19(月) 04:10:05.49 ID:NhKIaefNo

あさひはどうしてるんだろうね
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/19(月) 11:47:38.87 ID:MO2YG0pjo
まったくフォーカスされんから怖いわ>あさひ
ちょちょでも追い掛けてるだけだと願う

おつ
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/20(火) 21:30:43.16 ID:MenvA/ZQO
P(それからしばらくして、レッスン後に直接タクシーでやってきた透が到着し、キャストが揃ったところでオフィシャルではないが打ち合わせを兼ねた練習をすることになった)

P(主に現場のスタッフの人が対応してくれているから、実際に俺が携わること、やらなければならないことはあまりない)

P(だから……自由に“現場”を動き回れる今がチャンスだ)


〜ステージ(予選) 舞台装置周辺〜

円香「……」

P「はぁっ、はぁ……っ。す、すまん、待たせたな」

円香「息、上がりすぎ」

P「普段人が行き来する通路とかじゃないから、お、思ったよりもここに来るのが大変で……はぁっ」

円香「まあ、いいですけど」

円香「……」

P「どうしたんだ?」

円香「どの装置も新品同様……」

P「あんなことがあった後だからな。現場検証とか色々あった後に、全部取り替えたんだろう」

P「……ここで雛菜ちゃんが――と思うか?」

円香「あの子ならできるんだと思います。やろうと思えば要領良くできる――昔からそういう子だから」

P「そうなのか……」

P「しかし目的が見えてこないな。なんで雛菜ちゃんがそんなことを」

円香「そんなの、知る由も無いでしょう」

円香「言ったはずです。私が知りたいのは理由ではなく原因だと」

円香「手を下した人間がわかれば……それで」

P「……この辺、監視カメラもないよなぁ」

円香「比較的古い場所だからというのと、それから、決勝会場がここのリメイクのような存在でこっちは放置されていたというのが考えられます」

P「証拠……証拠が見つからないものか……」

円香「……」

P「……」

円香「……1つ」

円香「1つ、考えていることがあります」

円香「次の仕事――浅倉透と和泉愛依がここで行う収録の日に、ここにいようと思うんです」

円香「次も何かある……確信はないですが」

P「雛菜ちゃんか……あるいは別の鍵となる誰かがここに来るってことか?」

円香「試してみる価値はあると思うので」

円香「というか、いまの私たちには迷う理由がない」

円香「ただでさえ不条理な状況にあるのに……できることをすべてやっていないままなのは、絶望するには早い気がします」

P「ここ、関係者以外立ち入り禁止になるぞ? いくら樋口さんが俺の秘書だからって」

円香「は?」

P「な、なんだよ」

円香「忍び込むしかないでしょう」

P「簡単に言ってくれるな……」

円香「できることは全部やる――何度も言わせないでください」

P「……わかったよ。止める理由はない」

P「俺もできる限りのことはしよう」

P(結局、当日になってみないとわからない……か)
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/20(火) 22:24:53.77 ID:MenvA/ZQO
数時間後。

〜元予選会場 ロビー〜

樋口円香<消化できていない学校の課題が多いので帰ります。

P「ははっ……そうだよな。樋口さんだって高校生だ」

P(あれから、樋口さんは1人で見て回りたいというので、舞台装置の辺りで別れて、俺はここ――ロビーで1人仕事をしていた)

P(そしてついさっき、樋口さんから帰宅する旨のメッセージが届いたというわけだ)

P「そういえば、もう終わる頃だよな……」

P(……愛依もここを通って買えるのだろうか)

P(なんとなく、次に愛依と会ったときに何を話せば良いのかを考えてしまい、けれどもそれは結局のところよくわからない――というような思考回路で袋小路になっている自分がいる)

P「仲直りの直後って……変な気まずさがあるよなぁ」

P(早く透と合流して帰ってしまいたい……そう思うのは俺の弱さだな)

P(人は、逃げようとする自分から逃げることはできないのかもしれない)

P「……あ」

P「透」

透「終わったよ。思ったより時間かかったけど」

透「待たせちゃった?」

P「気にするな。まあ、俺もここで仕事しながらだったしさ」

透「そっか」

透「そうだ……283プロのギャルっぽい人から伝言、あるから」

P「伝言?」

透「いまは目の前にいるアイドルのことを見てあげて、って」

P「……そうか」

P「うん。わかったよ」

透「これって、僕のことかな」

P「ははっ、そうだな」

透「Pの……アイドル。……ねえ、プロデューサー」

P「おう、なんだ?」

透「やっぱり、慣れないや――」

透「――プロデューサー、って呼ぶの」

P「幼馴染だとしても、透と俺が……アイドルとプロデューサーとして過ごしてからはまだ日も浅いしな」

透「あー……そういうのとは、ちょっと違うけど」

P「?」

透「ううん。なんでもない」

透「帰ろう、P――プロデューサー」

透「283プロの人たちは、もう帰っちゃったしさ」

P「そうだったのか。それなら、俺たちも帰るとするか」

P「荷物をまとめるから、ちょっと待っててくれ」

P ガサゴソ

透「プロデューサーは……」

透「僕のことも、守ってくれるの?」

P「? ……当たり前だろ。自分のアイドルを守らないわけがない。幼馴染なら尚更そうだ」

透「……それならいい。聞けただけで満足だから」

透「ありがと」
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/20(火) 22:56:57.14 ID:MenvA/ZQO
収録当日。

〜元予選会場 浅倉透の楽屋〜

透「あれ、2人ともどっか行くの?」

P「あ、ああ……別の仕事でな。少しだけ席を外すよ」

円香「私は……まあ、秘書だから」

透「ふうん」

P ダラダラ

P(後ろめたい時特有の嫌な汗が出るな……まあ、樋口さんを舞台装置の方に忍び込ませる手伝いをするわけだし、それはそう、なんだが)

P「一応、ここには後で戻ってくるつもりだぞ」

透「それ、ぼk……私が行くまでに間に合わないじゃん、たぶん」

透「仕事の前だしさ、2人で話したかったんだけど」

P「そういう柄だったか?」

透 ムスッ

P「……わ、わかったって」

P チラ

円香「はぁ……」

円香「先に行っておくので。ここから、って決めた場所――そこで合流」

円香「それでいいですよね」

P「ああ……そうしよう」

円香 ガチャ

ギィィ

バタン

P「……」

透「……」

P「……その、話したいことって?」

透「あー、あれ。嘘だから」

P「嘘って……」

透「いいじゃん。アイドルのわがままだと思ってよ」

P「わがままって、どうしたいんだよ」

透「Pと一緒に過ごしたい、かな」

P「……そうか」

P「しかし急だな。仕事が終わった後にだっていくらでも――」

透「あるじゃん。そういうときって」

P「――ははっ、透も緊張してるってことか」

透「まあ、そんなとこ」

透「……」

透「なんかさ、スポーツだとコーチの言葉とかあるじゃん、こういう時」

P(……ああ……)

P「応援してる。それだけだ」

透「……ふふっ。それ、ファンの人みたいだね」

P(よかった……笑顔になった)

透「なんか言って。言ってほしい、プロデューサー」

P「(……透──)」
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 00:28:16.04 ID:zORcpPkSO
P「ひとりじゃないぞ。俺も一緒だ」

透「……ふふっ。やばい、刺さる、それ」

P(よかった。安心してくれたかな)

透「……」

P「……」

透「……――」

透「『――あたしの言うことなんて関係ないってわけね』」

P(これは――)

P「『関係は大いにあるさ。君がいなきゃ、そもそもこんな面倒に巻き込まれてない』」

P「前に、透が見てた映画……だったか?」

P(――セリフは驚くほどすらすら出てきた。その映画を透が見ていたのがいつなのかなんて、そっちは思い出せないのに)

透「そ」

透「『君が止めなければ行かない理由はない』」

P「ははっ、掛け合いじゃなかったのかよ」

透「両方言っちゃった。まあ、いいじゃん」

透「この辺のセリフが、今はいいかなって」

P「?」

透「大丈夫。きっと、いつかは……さ」

透「行けると思うから……てっぺん。プロデューサーと一緒に、ね」

P「お、おう? そのつもりだぞ」

透「何度でも頑張るから」

透「……あ」

透「そろそろ時間だわ」

透「行くね、プロデューサー」

透「ううん……P」

P「いってらっしゃい。大丈夫だ、透なら」

透「うん、わかった」

透 ガチャ

透「ばいばい、プロデューサー」

ギィィ

バタン

P「……」

P(何故か、透とのやり取りに違和感を覚えている……気のせいだろうか)

P(いつもとは違う……何か)

ヴーッ

P「……あ」

樋口円香<遅すぎ。

P「そうだった。……って、言うようになったなぁ、樋口さんも」

P「よし、……行かないと」

P(同じことが繰り返されてしまうかもしれない)

P(もし、この前と同様の事件が起きれば……きっと被害者は透か愛依だろう)

P(2人とも、俺のアイドルだ)

P(なんとしても……)
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 00:48:24.16 ID:zORcpPkSO
〜舞台裏付近〜

P「……」

ゴロゴロ

P「……ふぅ」

ゴロゴロ

「お疲れ様ですー」

P「あ、はい。お疲れ様です」

ゴロゴロ

P(ここを曲がるんだっけか……)

ガコンッ

P「やばい……!」

P(段差が引っかかってしまった)

ドンッ

P「す、すまん……」


数分前。

〜関係者専用通路〜

円香「ベタですね」

P「これしか思いつかなかったんだ……!」

円香「キャスター付きケースに入れて運ぶだなんて」

P「……すまない」

円香「別にいいですけど。これだけのサイズであれば、私でもなんとか入れそうですし」

円香「じゃあ、お願いしますね」


数分後(戻った)。

〜舞台裏付近〜

P(よし、ここまで来れば……)

P カチャカチャ

P「着いたぞ」

円香「っ……はぁ。……いままでの人生の中でもっとも乗り心地の悪いドライブでした」

P「も、申し訳ない……」

円香「で、ここから……」

P「ああ。あとは渡した経路を進んでいけばいい。今はこの前と違って暗いからな。気をつけてくれ」

円香「はい。わかっていますので」

円香「いってきます」

P「ああ、いってらっしゃい」

円香「……いいんですか。もっと強く送り出さなくて」

円香「ここから先は、何が起こるかわからない。本当に、不条理……。これで最後になるかもしれない」

P「……」

P「……ま、これで最後じゃないからさ。気楽に行けばいいよ、ここまで来たら」

円香「――何それ」

円香「最低」

P(樋口さんは笑顔でそう言って、進んでいった)

P「……ははっ。なんだか、今日は見送ってばかりだな」
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/04/21(水) 01:26:16.13 ID:zORcpPkSO
〜舞台袖〜

P(あとは、ここから見守るのが俺の仕事だな)

トントン

P「え――」クルッ

プニ

P「――あ。……やられた」

P(よくあるやつだ)

P「はづきさん……」

はづき「ふふっ。すみません〜」

はづき「283プロでプロデューサーをされていたとき以来ですから……Pさんのこういう姿を見るのは」

はづき「つい、ちょっかいを出したくなってしまいました〜」

P「ははっ、出したくなったって、出してるじゃないですか」

P「……落ち着かないんです」

P「もしかしたら、今までで一番かもしれない」

P「自分がプロデュースしていたアイドル」

P「自分がプロデュースしているアイドル」

P「両方を舞台袖から見守る自分……」

P「……まあ、他にも色々あるんですが」

はづき「P――プロデューサーさん」

はづき「誇ってください。胸を張って、先を見据えていてください」

はづき「あの子たちは、プロデューサーさんのおかげで輝けているんです」

はづき「きっと、彼女たちはプロデューサーさんのことを尊敬しています」

はづき「それは……プロデューサーさんが望む未来に必要なことですよ〜」

はづき「もちろん、アイドルたちが目指すこれからにも」

P「……ははっ、すみません。励まして……くれているんですよね」

はづき「〜?」

P「あ、いえ……」

はづき「謝らなくていいので〜、……では、まあ感謝でもしてもらえれば〜なんて」

P「そうですね。感謝よりも謝罪が先に出てしまう――こういうのは悪い癖、ですね」

P「ありがとうございます、はづきさん」

はづき「いえいえ〜」

はづき「たぶん……正しいか間違ってるかじゃないんです」

はづき「大切なのは、プロデューサーさんが選んだ道であるということ」

はづき「道は、未来に続いていきますからね〜」

P「深い話、ですね」

はづき「捉え方に依りますよ〜」

はづき「……あ。すみません〜、別件があるので、私はこれで」

P「お疲れ様です。では、また」

はづき「はい、お疲れ様です〜」

はづき フリフリ

スタスタ

P「道、未来……」

P(……選択)
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