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提督「観光するか」 金剛・瑞鶴・響「はいっ!」 空母棲姫「…………」
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/08/20(木) 00:16:12.71 ID:0vpAmYGA0
提督「では、やってくれ」
建造妖精「はいよー」
──水底へ沈む時、夢を見た。
金剛「ん? ワーオ! テートクが建造しているデース!」
瑞鶴「あら、珍しい事もあるのね」
響「何かあったの?」
──艦娘に沈められた深海棲艦は、時として艦娘として復活するという夢。
提督「なに。この鎮守府に流れ着いた資材を使って暇潰しに建造しているだけだ」
瑞鶴「……鎮守府?」
響「この掘っ建て小屋が鎮守府だなんて初めて知ったよ」
金剛「い、一応は名目上だと鎮守府デス!」
──遠ざかる水面に映る、火器と探照灯、そして月。
提督「……左遷させられていなければ、お前達にももっと寝心地の良いベッドが与えられたのだろうがな」
響「私は司令官のベッドと一緒ならどこだって最高級だよ」
瑞鶴「ちょっと響ちゃん? それ聞き捨てならないんだけど?」
金剛「テートクぅ……?」
──暗く冷たくなっていく世界に、私はその夢が儚いものだったのだと知った。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1597850172
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/08/20(木) 00:26:45.22 ID:0vpAmYGA0
提督「テキトーな事を言うな響。吊るすぞ?」
響「ご、ごめんなさい……」ビクビク
金剛「ほっ……」
瑞鶴「抜け駆けされたのかと思ったわ……」
──そんな事がある訳なく、私を抱くのは冷たい死。
金剛「ところで、資材はいくらインヴェストしたデスか?」
──だから私は
提督「オールナイン」
瑞鶴「え?」
提督「上限いっぱいとも言う」
響「……ハラショー」
この現実に驚いた──
建造妖精「よーし! 出来、た、……ぃょょょぃぃいいいッッ!!?」
提督「これは……」
金剛「ホワッツ……?」
瑞鶴「…………え、ええぇ……?」
響「……………………」
空母棲姫「ここ……は……?」
──きっとこれは、神のイタズラなのだろう。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/08/20(木) 00:36:41.43 ID:0vpAmYGA0
空母棲姫「…………?」チラ
提督「……………………」
空母棲姫「っ……?」チラ
金剛・瑞鶴・響「…………っ!!」
空母棲姫「軍人と……艦娘……?」
建造妖精「ぇー……。えぇぇー……?」
コツッ──
建造妖精「ひぃっ!!」ビクゥ
提督「さて、建造妖精?」
建造妖精「はっはいいいい!!!!」ピシッ
提督「説明をして貰おうか」
建造妖精「いっいやっいやややや!? あたしは普通に建造しただけでしてね!? そしたらなんか途中から上手くいかなくてね!!? それで思うがままに建造したらこうなってね!?!?」
空母棲姫「建造……?」
提督「まあ、本人にも聞いてみるか」
金剛「提督!? 危険です!!」
提督「敵意は感じられない。恐らくは大丈夫だろう。手は出すな」
建造妖精「…………っ」ビクビク
空母棲姫「…………? 貴方が、提督なの……?」
提督「そうだ。……これは混乱しているだけか?」
空母棲姫「頭がふらふらするわ……」
提督「そうか。──瑞鶴、水を持ってきてくれるか?」
瑞鶴「う、うん……」タタッ
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/08/20(木) 00:47:38.44 ID:0vpAmYGA0
提督「……さて、現状は理解できているか?」
空母棲姫「現状……。そう、ね……。私は建造されたのかしら……?」
提督「それは間違いないな。ならば、自分の事が分かるか?」
空母棲姫「自分の、事──」ハッ
空母棲姫「建造……? 私が……?」
空母棲姫「そんな……そんな、バカな……!」ワナワナ
瑞鶴「提督さん。お水、持ってきたわよ」
提督「ご苦労、瑞鶴。──ほら水だ。少し飲んで落ち着け」スッ
空母棲姫「……そうしましょうかね」スッ
空母棲姫「んっ……」コクリ
響「……………………」ジー
空母棲姫「……はぁ」
提督「気分はどうだ?」
空母棲姫「……少しはマシになったわ。けれど、まだ思考が混乱しているみたいね……。なんだか、夢から覚めていないかのような……」
提督「そうか。ならば少し眠ってしまうが良い。そこに仮眠用のベッドがある」
空母棲姫「ありが──っ!?」フラッ
提督「おっと」ソッ
金剛・瑞鶴「!!」
響「……………………」ヂー
提督「危なっかしいな」スタスタ
空母棲姫「あ、れ……。私、抱きかかえられて……?」ボー
提督「ほら、ベッドだ」スッ
空母棲姫「ん……」ギシッ
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/08/20(木) 00:57:38.28 ID:0vpAmYGA0
提督「一先ず寝てしまえ。起きたら私の部屋へ来るように。プレートに提督室と書かれてあるからすぐに分かるだろう」
空母棲姫「そうさせて、貰うわ……。何が何だか、わからなく、て……」
空母棲姫「……………………」スゥ
建造妖精「ね、寝ちゃった……?」ビクビク
提督「そのようだ」
瑞鶴「て、提督さん。大丈夫なの……?」
提督「この様子ならば大丈夫だろう。私達や自分の事を認識しても襲ってくるような気配も無かった」
金剛「……建造されたから、でショウかね?」
提督「そうかもしれんな。ただ、今は分からん事が多過ぎる。頼りない資料室から本を根こそぎ調べてみるか」
響「司令官。私も手伝う」
提督「そうして貰おうか」ナデナデ
響「ん……」
瑞鶴「わ、私も手伝うわ!」
提督「頼む」ナデナデ
瑞鶴「……えへ」
金剛「……私はここで見張っておくデス」
提督「あまり刺激してやるなよ?」
金剛「イエス。何が起きるか分からないデスから。──っと、その前に艤装を取ってきマスね」スッ
提督「皆の事を考えてくれて助かる、金剛」
金剛「もう少しテートクも危機感を覚えて欲しいデース……」
提督「まあ、こんな掘っ建て小屋に左遷されてしまってはな」
提督「──さて、各自行動に移るぞ。こんな事は初めてだ。気は抜いても手は抜かないように」
金剛・瑞鶴・響「はいっ」
空母棲姫「……………………」スゥ
……………………
…………
……
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/08/20(木) 00:57:58.95 ID:V/F3K4Oqo
妖怪艦娘吊るしさん?
久しぶり!
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/08/20(木) 01:06:40.25 ID:0vpAmYGA0
空母棲姫「ん……」パチ
空母棲姫(ここは、さっきの……。やっぱり夢じゃなかったようね)
金剛「目が覚めたようデスね」
空母棲姫「! 貴女はさっきの艦娘。金剛……だったかしら」
金剛「ええ、そうデス。状況は理解していマスか?」スッ
空母棲姫「艤装……いつでも戦闘態勢に入れるように……。──なるほど。まだ私は頭が呆けていたようだ。貴様が監視役という訳か」
金剛「半分だけ当たっていると言っておきまショウ」
空母棲姫「半分だと?」
金剛「イエス。まだ貴女がエネミーと決まった訳ではありまセン」
空母棲姫「ふん。完全武装をしておいて何を言っているのか」
金剛「これはインシュアランスです。貴女が暴れた時に使うつもりでシタ」
空母棲姫「……………………」
金剛「少なくとも今の貴女はそうしないように見えマス。だから手を出しまセン」
空母棲姫「やけに艦娘らしくないな。艦娘と深海棲艦は見敵必殺の関係だ」
金剛「……そうデスね。普通ならばそうだと思うデス」
空母棲姫(……どうやら訳ありのようね)
空母棲姫「それで、私はどうすれば良い。まさかこのまま寝ておけば良いとは言わないだろう」
金剛「提督室へ向かって貰いマス。憶えているかは分かりませんが、テートクは貴女がスリープする前にそう仰っていまシタ」
空母棲姫「ならばそうしよう」スッ
空母棲姫(敵を本丸に招くだなんて、なんて愚かな……。あまり優秀な指揮官ではなさそうね)スタスタ
金剛「ここを出てすぐ左が提督室デス」スタスタ
空母棲姫(……やけに近いわね。いや、むしろなんだか違和感が……? 何かしら、この変な感覚……)
8 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[sage saga]:2020/08/20(木) 01:08:20.40 ID:0vpAmYGA0
>>6
なぜ分かったし。よもや超能力者?
9 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[sage saga]:2020/08/20(木) 01:16:53.96 ID:0vpAmYGA0
金剛「テートク」コンコンコン
提督「──どうした金剛」
金剛「例の深海棲艦が目を覚ましまシタ」
提督「そうか。入れ」
ガチャ──パタン
空母棲姫(? ここが提督室……? やけに狭いわね。さっきの倉庫よりも一回り小さく感じるわ)
空母棲姫(おまけに備品も随分とお粗末。そこいらの廃材置き場から見繕ってきたかのよう。……無能な指揮官に対する扱い、かしら?)
空母棲姫(それにしても、やたらと本が置かれているわね……)
空母棲姫「お前が提督か?」
提督「ん? ──ああ、そうだ。お前は自分をどのように認識している」
空母棲姫「随分と妙な聞き方をする。──深海棲艦だ。それ以外の何者でもない」
提督「こちらではお前の事を『空母棲姫』と呼称をしている。そう呼ぶが構わんか?」
空母棲姫「好きにしろ」
提督「そうか。ならば空母棲姫。お前はどうやってこの鎮守府に来たか分かるか?」
空母棲姫「……憶えていない」
提督「ならば言おう。お前はさっきの工廠で建造された」
空母棲姫「……………………」
提督「ふむ。どうやら憶えてはいたが信じていなかったようだな」
空母棲姫「……あんな不出来な夢物語、信じる方がおかしいだろう」
提督「だが事実だ。私は目の前でお前が建造される瞬間を見ている。お前の後ろに居る金剛もそうだ」
空母棲姫「……………………」チラ
金剛「ハッキリと見まシタよ。私だって自分の目を疑ったデス」
10 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/20(木) 01:26:54.52 ID:0vpAmYGA0
提督「それだけでも大ごとではあるが、問題はそこじゃない。問題点はなぜお前が建造されたか、だ」
空母棲姫「なんだ? その口振りでは計画外だったようだな」
提督「計画外であり予想外の事態だ。今こうして書庫をひっくり返して調べていたが、今までこんな事例は確認すらされていない。妖精のする建造とは艦娘の建造。それがなぜ深海棲艦を建造する事になったのか全く分かっていない」
空母棲姫「……それで、何が言いたい?」
提督「お前は何か身に覚えはないか? なんでも良い」
空母棲姫「なぜ私がそれを言う必要がある?」
提督「お前だって気になっているんじゃないか?」
空母棲姫「……気になっていないと言えば嘘になる」
提督「そうか。ならば何か引っかかる点はあるか?」
空母棲姫「……………………」
提督「……………………」
金剛「……………………」
空母棲姫「……夢を見た」
提督「夢?」
空母棲姫「艦娘に沈められた深海棲艦は、艦娘として復活する夢だ」
提督「……ふむ。続けてくれ」
空母棲姫「沈んでいく私は意識が薄れていき、砲火や探照灯、月の光が見えていた」
空母棲姫「そうして目覚めたらここだ。気になる記憶と言ってもそれくらいしか憶えておらん」
提督「……金剛。近場の海域での戦闘記録はあるか?」
金剛「一週間以上前のでしたらあるデス」
提督「瑞鶴、響と一緒に過去三ヶ月分の資料を探して見付けてきてくれ」
11 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/20(木) 01:36:50.20 ID:0vpAmYGA0
金剛「それは……」チラ
空母棲姫「……………………」
金剛「……危険デス。考えを改めて下サイ」
提督「なに。大丈夫だ。自分と私を信じろ」
金剛「…………分かりまシタ。何かあったらすぐに駆け付けるデス」
提督「うむ」
ガチャ──パタン
提督「……さて、少し暇になるな。お前も座ってしまえ」
空母棲姫「随分と呑気だな。私がお前を襲うという考えは無いのか?」
提督「そのつもりならば起きた時にそうしているだろう? それに、お前の目には葛藤が見える。まるで、自分の記憶を信じようとしているのか決めあぐねているかのようにな」
空母棲姫「……世迷い事を」
提督「実際にそうだろう? 事実、お前は自分が建造された事を憶えていながら信じられていなかった。そしてお前自身が憶えていないようだが、私はあの時のお前を憶えているぞ」
提督「私はあの時のお前が気になっている。それを知っているが故に、どうしても敵とは思えん」
空母棲姫「……………………」
提督「まあ、そんな事はどうでも良い。とりあえず座れ。さっきまでフラついていたんだ。倒れられては困る」
空母棲姫「……どこに座れと?」
提督「貧相だが来賓用の椅子が目の前にあるだろう。いつも私達が使っている椅子とテーブルだ。壊れる事はない」
空母棲姫「……分かった」ギシッ
提督「さてさて、また暇になるな。何か気になる事はあるか?」
空母棲姫「……ここはどこだ?」
提督「見ての通り掘っ建て小屋だ」
空母棲姫「お前は指揮官のように見えるが、違うのか?」
提督「一応、名目上は鎮守府であるここの提督をしている」
空母棲姫(なるほど掘っ建て小屋の鎮守府。だからさっきの場所は倉庫のように見える工廠で、提督室……いや、執務室か。この執務室もこんなに小さいのか)
12 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/20(木) 01:46:32.67 ID:0vpAmYGA0
空母棲姫「──って、いや待て。お前今ここを掘っ建て小屋と言ったか?」
提督「そうだが?」
空母棲姫「どう考えても掘っ建て小屋を鎮守府と結び付けられん。というよりも、なぜそんな事になっている。ここは離島の鎮守府なのか?」
提督「本土だ。私は左遷されてな。こんな意味の無い辺鄙な場所で堕落しているだけだ」
空母棲姫「……提督の地位に立っているのに左遷とは意味が分からんぞ」
提督「今は昔と違って提督に成れる存在は溢れている。私は仕事自体は出来ていたから扱いに困ってこうやって保留しているのだろうよ」
空母棲姫「どうして左遷されたんだ」
提督「総司令部の作戦本部長殿の杜撰な計画を指摘したらご覧の有様だ」
空母棲姫「馬鹿か何かか?」
提督「草案かメモでも紛れ込んだのかは知らんが、チグハグな内容に加えて『大和魂があるならば勝利できる』なんて一文を見付けてみろ。頭痛がするぞ」
空母棲姫「……………………」
提督「呆れるだろう?」
空母棲姫「……同情してしまいそうになった」
提督「そうもなるだろう。──まあ、それで頭がトサカになった作戦本部長殿の怒りの鉄槌で私は僻地送りだ。艦娘も三隻まで減らされてしまった」
提督「しかし、この生活もいつまで続くのやら。海を眺めて釣りをして、哨戒という名の資源の無駄遣いをするのにはそろそろ飽きてきたよ」
空母棲姫「……全くもって変な奴だ」
提督「よく言われる」
13 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/20(木) 01:49:06.67 ID:0vpAmYGA0
あ、ヤバイ。キリの良い所まで書いて今回の投下を終わらせようと思ったけど全然終わる気配が無い。
ごめんなさい、ちょっと中途半端ですがここで今回の投下は終了します。
出来るだけ毎日投下していくと思いますので、次の投下までお待ち下さいませ。
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/08/20(木) 20:25:36.95 ID:05R0+dH7o
乙
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/08/20(木) 20:49:25.32 ID:QcCGyX/P0
懐かしい名前
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/08/20(木) 22:44:20.48 ID:V/F3K4Oqo
乙!
スレタイの登場人物ですぐ分かりました
17 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[sage saga]:2020/08/21(金) 00:49:25.87 ID:+7FXqHUo0
>>16
なるほど確かにいつものメンバー。今度こそのんびり成分多めになるような世界に、なると……思いますよ……?
18 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/21(金) 00:50:18.41 ID:+7FXqHUo0
コンコンコン──
提督「入れ」
ガチャ──パタン
響「提督、見付けてきたよ」
瑞鶴「思ったより少なかったわ」トサッ
金剛「異変はありまセンか?」
提督「仕事が速いな。流石は私の優秀な子達だ」スッ
瑞鶴「こういう書類仕事ももう慣れちゃったわ!」
響「ずっとこんな感じだしね」
提督「それと、何も異変は起きていないから安心しろ。ただ雑談をしていただけだ」ペラ
金剛「……雑談、デスか?」
提督「まあ、私が左遷された話だ」ペラ
瑞鶴「ああー、あれ!? あんなの誰だって思う事じゃないの!」
響「むしろ間違っていたのは向こうなのにね」
金剛「私は今でも呆れてしまうデース……」
空母棲姫「……慕われているんだな」
提督「この子達が良い子なだけだ」ペラ
響「私は司令官が好きだからだよ?」
瑞鶴「私も!」
19 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/21(金) 01:00:26.68 ID:+7FXqHUo0
金剛「……………………」
提督「瑞鶴、響。少し場を弁えろ。金剛は静かにしているだろう?」ペラ
瑞鶴・響「……ごめんなさい」
提督「よろしい」ペラ
空母棲姫(この様子だと、どうやら無能って訳ではなさそうね)
提督「……ふむ。瑞鶴、確かそろそろ艦載機の哨戒時間が終わるな?」
瑞鶴「ええ。この場所の近くを飛んでいるわよ」
提督「少し追加をして欲しい。近場の海岸に異物が流れ着いていたりしていないか?」
瑞鶴「ちょっと待ってね」
空母棲姫(どうやら錬度も高いようね。資料を探しながら艦載機の操作をするだなんて結構難しいのに)
瑞鶴「んー……。確かにちょっと変な感じのは一つ二つくらい見付かるわね」
提督「なるほど」
響「何か分かったの?」
提督「憶測が立てられただけだ」
金剛「どのような憶測デスか?」
提督「この近場で強力な深海棲艦を撃沈させた記録があった。対象は姫級の空母。──空母棲姫だ」
三人「!」
提督「恐らく撃沈した際に沈まなかった破片の大半がここに寄ってしまったのだろう。そして、それを資材として建造をしてしまった」
空母棲姫「その結果が私、か?」
提督「あくまで憶測だ。当たっているとは限らん。だが、それならば納得も出来る。通常、建造妖精が深海棲艦を建造してしまうだなんて事は無いからな。そんな事でもあれば大騒ぎになっているよ」
瑞鶴「まあ、そうよね」
響「下手したら駆除されるね」
提督「……妖精達が怖がるだろうからあまりそう言わない方が良いぞ、響」
響「ん、分かった」
20 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/21(金) 01:10:25.99 ID:+7FXqHUo0
提督「まあ、幸か不幸か完全には建造出来てはいないようだ」
空母棲姫「……そうだな」
瑞鶴「え、そうなの? どこも破れたりしていないように見えるけど……」
金剛「服はちゃんとあるデスが、艤装が一つもありまセン。きっと、本体だけが建造されたのでショウ」
響「なるほどね」
提督「そういう訳で無害と判断しても構わんだろう」
瑞鶴「まあ、艦載機も滑走路も無い空母って、ただの浮く箱だしねー……」
響「じゃあ、これからよろしくかな? 空母棲姫さん」
空母棲姫「……おい、どうしてそうなる。私は敵だろう」
金剛「私はまだ警戒しているデス」
提督「抵抗すら出来そうにもない相手を警戒する必要など感じられん」
空母棲姫「お前らおかしい……。まともなのはこの金剛だけか……」
金剛「……深海棲艦にそう言われると、ちょっと複雑な気分になるデス」
提督「だからこそ、私達は金剛を一番頼りにしてしまうのかもしれんな」
金剛「とかなんとか言いながら、いざという時はテートクが一番行動しているデスよ?」
提督「それが上の立場の人間だ。広い目で見て適切な判断を下さねばならんが、任せられる所は任すというのも必要だ」
提督「全てを一人で成せるのならば他人など必要無くなる。私はそんな事など不可能だと思っているし、お前達が頼りになるからこそそれぞれ任せているんだぞ?」
金剛「……えへ。そう言われると嬉しいデース!」
瑞鶴「えへへ……」
響「もっと頼っても良いんだよ、司令官」
空母棲姫「……まともなのかまともではないのか分からんな。つくづく変な奴だ」
21 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/21(金) 01:20:18.17 ID:+7FXqHUo0
提督「まあ、それはさておき……そろそろ夕飯にでもするか。瑞鶴、哨戒は終わりだ」
瑞鶴「うん。帰投させておくわね」
提督「今日は一人分多く作る事になる。金剛、響、それを踏まえて手伝ってくれるか?」
金剛・響「はいっ」
空母棲姫「……待て。一人分多く? まさかとは思うが……」
提督「そのまさかだ。お前も食卓に並べ」
空母棲姫「……頭が痛くなるな。さっきお前が言っていた作戦本部長と変わらないんじゃないか?」
提督「私はお前を敵と思っておらんよ」
空母棲姫「それは軽率過ぎる」
提督「目を見れば分かる。今は険しい顔で誤魔化そうとしているが、建造直後のお前の目は忘れていない」
空母棲姫(……どんな目をしていたのかしら、私)
提督「さて、それでは準備に取り掛かるぞ」
…………………………………………
22 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/21(金) 01:31:04.65 ID:+7FXqHUo0
提督「──では頂こう」
金剛・瑞鶴・響「いただきます!」
空母棲姫(……煮魚に焼き魚、切り身のフライにお刺身。見事なまでに魚ばかり……)
提督「どうした?」
空母棲姫「い、いえ……ここまで魚一色なのに驚いたというのと、左遷されたって話の割にやけに豪華な気がして……」
提督「一応、鎮守府という名目は機能しているらしく米は送られてくる。だが、白米だけでは流石にキツイからこうして響に魚を捕ってきて貰っているんだ」
響「哨戒という名の網引きだね」モグモグ
瑞鶴「おかげで食に困っていないわ」ナデナデ
響「ハラショー」モグモグ
空母棲姫「……………………」
金剛「……魚は苦手デスか?」モグモグ
空母棲姫「……本当に私が食べて良い物かと考えてな」
提督「食べないと辛いぞ。ほら見ろ」
空母棲姫「?」
響「……………………」ジー
空母棲姫「む……」
響「……………………」ジー
空母棲姫「ぅ……」オズ
響「……………………」ジー
空母棲姫「……いただき、ます」スッ
提督「うむ」スッ
瑞鶴(クリティカルヒットだったみたいねぇ)モグモグ
23 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/21(金) 01:41:24.07 ID:+7FXqHUo0
空母棲姫「……………………」モグ
空母棲姫(あ、美味しい……)
提督「! ふむ。この鯖に煮つけは金剛が作ったのだったな。また一段と腕を上げている」モグモグ
金剛「ここまで技術を磨くのにとっても苦労したデース……」
瑞鶴「イギリス式の調理法と全然違うって話だっけ?」
金剛「イエス! 日本料理はまるでケィキのようデース。分量と手順をしっかり守らないと、違和感のある味になってしまいマス」
空母棲姫(煮つけ……。……これも美味しいわね)モグモグ
空母棲姫(……あれも、これも、それも、どれも美味しいわ)モグモグ
提督「気に入ったか?」
空母棲姫「!! そ、それは……」
響「どう?」ジー
空母棲姫「う……。その……だな……………………箸が、進んでしまう……」
響「ハラショー」モグモグ
空母棲姫(やり辛いわね……。調子が崩されてしまう……)
…………………………………………。
24 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/21(金) 01:50:24.00 ID:+7FXqHUo0
瑞鶴「それじゃあ提督さん、二人とも、おやすみなさーい」
響「スパコイノイノーチ」
金剛「グッナイ!」
提督「ああ、おやすみ。良い夢を見ろよ」
空母棲姫「……おや、すみ」
ガチャ──パタン
金剛「……空母棲姫」
空母棲姫「なんだ……?」
金剛「これから私たち三人での話し合いですが、まだ貴女の事を信用していないから言いマス。……提督に何かしようものならば私は貴女を許しませんからね」
空母棲姫「互いに艤装も下ろしている状態だ。何も出来ん。……いや、そもそも私には艤装が無いのだったな」
金剛「それでもです。……提督、本当に私も艤装無しなのですか?」
提督「そうだ。話し合いに兵器など必要あるまい」
金剛「……それは、そうですが」
提督「なに。私を信じろ」
金剛「うぅ……。その自信はどこから来るのですか……」
提督「さてな。私の勘と、二人の言動といった所か」
空母棲姫「なぜ私も含まれるんだ」
金剛「そもそも、どうして私の言動もですか?」
提督「そうだな。まず、空母棲姫の方は分かりやすいだろう。暴れる様子も無ければ敵意を出す事もしていない。流石に警戒はしているようだが、それは深海棲艦という立場を考えると当然だ」
提督「次に金剛だが、金剛も警戒はすれどそのレベルが低い。お前の事だ。本当に危険な相手ならば即座に艤装を付けて砲口を向けていてもおかしくない」
25 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/21(金) 02:00:32.35 ID:+7FXqHUo0
金剛「私はそんな物騒な事をするって思われていたですか!?」
提督「否定できるか?」
金剛「それは────…………う……」
提督「お前は仲間思いだ。そして、そこに私が絡むと余計に心配症になるだろう?」
金剛「うぅっ」
提督「間違っていたか?」
金剛「ぅー……。間違っていないデース……」
提督「どれだけお前の事を見てきたと思っている。そのくらい分かるぞ」
空母棲姫(……これって新手の惚気か何かなのかしら?)
提督「さて、ではそろそろ本題に入るとしよう。まずは現状確認だが、空母棲姫は自分の立場をどう思っている?」
空母棲姫「お前達の敵である深海棲艦だが」
提督「つまり私達はお前の敵という認識だな」
空母棲姫「……………………」
提督「どうした?」
空母棲姫「……一応、それは頭では分かっている」
提督「詳しく言ってくれ」
空母棲姫「お前も、その金剛も、あの瑞鶴と響も、本来ならば殺し合う関係だとは分かっているんだ。……だが、どうしてか危害を加えようという気になれん」
提督「それはどうしてだ」
空母棲姫「分かれば苦労しない……。矛盾している言葉だが、敵なのに敵ではない……と認識をしてしまう。全くもって不思議な感覚だ」
提督「なるほど。だから夕食の時もあんなにぎこちなかったのだな」
空母棲姫「それは言うな……!」
提督「いや、少々疑問に思っていた所だったのでな。敵に鹵獲をされたと認識している可能性もあったから、少しばかり心配の種ではあったんだ」
26 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/21(金) 02:10:30.03 ID:+7FXqHUo0
空母棲姫「……ならば、お前達は私をどう認識している?」
提督「……………………」チラ
金剛「! ……私は見ての通りです。警戒対象として見ています」
空母棲姫(なんなのかしらこの二人。アイコンタクトだけで会話していないかしら)
提督「私はお前の事を金剛たちと同じだと思っている」
金剛「ああ……やっぱりデスか……」
空母棲姫「……貴方バカなの?」
提督「どうしてそうなる」
空母棲姫「普通に考えてみなさい。敵味方を混同しているじゃないの。そんなのはただの愚かな考えよ」
提督「ほう、そうなるか。だが、お前は建造によってこの鎮守府に来ただろう?」
空母棲姫「……それがどうしたの?」
提督「その時点でお前の生まれはこの鎮守府だ。場所は違うが、その事について金剛や瑞鶴、響と何が違う」
空母棲姫「艦娘か深海棲艦かの違いがあるだろう」
提督「他の深海棲艦と同じく狂犬のように襲い掛かってくるのならばそうも言えるが、お前はそうだったか?」
空母棲姫「……………………」
提督「中には建造直後に提督である私の事を『クソ提督』と言い放つ艦娘も居るくらいだ。この程度の事で私は動じんよ」
空母棲姫「なんなのその艦娘は……」
金剛(ああ……曙の事デスか。当然ではありまシタが、あれは可哀想でシタ……)
提督「さて、それでも納得できないか?」
空母棲姫「……ならば、確認させろ」
提督「なんだ?」
空母棲姫「お前は何の目的があって私を他の艦娘と同じように扱う? 私にはそれがどうしても納得できん」
27 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/21(金) 02:20:25.34 ID:+7FXqHUo0
提督「そんな事か。まあ……実を言うと深く考えていない」
空母棲姫「どういう意味だ」
提督「お前を建造したのは、本当に気紛れだったんだ。流れ着いたバラバラの資材を見付けて回収したのならば、本来は資材備蓄に記載して本部に報告をしなければならない。だが、それでは面白くなくてな」
空母棲姫「面白くないって……」
提督「少し前にも言ったが、毎日毎日を無駄な哨戒と堕落した生活で送らされているんだ。少しくらい何か別の事をしたくなるものだ。ならばいっその事、新しい子を迎え入れて今までの生活に一石を投じるのも悪くないだろう?」
空母棲姫「……私はその一石という訳か」
提督「そうだな。そして予想外な事にお前が建造された。更に予想を裏切るようにお前は大人しかった。私の知っている空母棲姫とはかけ離れている」
空母棲姫「私を知っているだと……?」
提督「正確にはお前と同じ姿をした別の深海棲艦だ。艦娘と同じく深海棲艦も同じ見た目の別の存在が居るというのは知っていた。あまり気分の良い話ではないだろうが、私達は過去に三回、お前と同じ存在を沈めてきている」
空母棲姫「……………………」
提督「そして、お前と決定的に違う所がある。……あの空母棲姫たちは、極めて恐ろしかったという所だ」
空母棲姫「恐ろしかった……?」
金剛「私も瑞鶴や響と一緒に直接戦った事がありマスが、瑞鶴が言うには制空権争いがとても辛いそうデス。それどころか、数隻の空母を投入してこちらが制空権を確保しても、問答無用で爆撃をして大破させてくる事だってありまシタ」
提督「対空母棲姫用の対策を考える為に撤退すらした。……初戦では辛くも勝利を得たと言えるが、あの空母棲姫に有効打を与えるまではいかなかったくらいだ」
提督「その時の空母棲姫と比べると、お前は本当に空母棲姫……いや、そもそも深海棲艦なのかどうかすら疑わしく思えるくらい大人しい。アイツらは例え艤装が無くともその顎で私達を食い殺さん勢いの殺意と怨念を感じていたからな……」
空母棲姫「褒められているのか恐れられているのか分からないな」
提督「純粋な評価だ。……実を言うと、お前が建造された時は死すら覚悟したぞ?」
空母棲姫「なら、どうしてその時に私を殺さなかった?」
提督「目が違う」
空母棲姫「目?」
提督「ああ。お前には殺意も恨みも何も無い。その時のお前の目は……希望と優しさだった」
空母棲姫「何を言うかと思えば出鱈目を。希望? 優しさ? そんなものが私にあると本気で思っているのか?」
提督「本気で思っている」
空母棲姫「…………っ、その手には乗らん。後で私を沈める腹積もりだろう。油断をさせておいた方が被害が少ない」
28 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/21(金) 02:30:12.67 ID:+7FXqHUo0
提督「ならば、逆に聞こう。お前は私を殺すつもりでいるのか?」
空母棲姫「そんな訳──っ! ……待て。今のは取り消す。聞かなかった事にしろ」
提督「残念ながらそれは無理な相談だ」
空母棲姫「…………ッ!!」ガタッ
金剛「!」スッ
提督「金剛」
金剛「!!」ピタッ
空母棲姫「……今日の話はこれで終わりだ。もう寝る」
提督「ならば、明日に続きといこうか」
空母棲姫「……ふんっ」
ガチャ──パタン
金剛「……最後はハラハラしまシタ。あまり煽ってはいけまセンよ、テートク……」
提督「私の悪い癖だな」
金剛「……その言い方は直すつもりが無い言い方デース」
提督「バレてしまったか」
金剛「どれだけ私がテートクを見てきたと思っているデスか?」
提督「下手をすると私が金剛を見てきた以上かもしれないな」
金剛「えへ。……それにしても、あの空母棲姫は本当にどういう事なのでショウか」
提督「まだ警戒はするつもりか?」
金剛「……まだもう少しだけ警戒デス」
提督「本当、お前は仲間思いの良い子だよ、金剛」
金剛「テートクには更に特別デス」
提督「知っているよ。そして私は臆病者だ」
金剛「……少しだけ許して下さい、テートク」ギュ
提督「どうした、金剛」ナデ
金剛「不安が解けたら、肌が恋しくなってしまったデス」スリ
提督「……少しの間だけだぞ?」
金剛「はいっ……♪」
…………………………………………
29 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/21(金) 02:34:09.91 ID:+7FXqHUo0
空母棲姫(……勢いに任せて外に出たのだけど、ここも暗い海と暗い空なのね)
空母棲姫「困る……本当にあれは困るわ……」
空母棲姫(私は深海棲艦……。人間でもなければ艦娘でもない。だから、誰かと寄り添うなんて事は出来ない)
空母棲姫(……希望も、優しさも、私には無いのよ。私は艦娘にはなれない。海を漂い、人と艦娘を倒すだけの存在……)
空母棲姫(なのに、どうしてかしら……。私はそれをしたくない。目を開けて、飛び込んできた指揮官という存在……。それがとても、嬉しいと思っていた)
空母棲姫「……私は、普通の深海棲艦と違うのかしら」スッ
空母棲姫(暗い海と暗い空……その中に浮かぶ、遠い遠い小さな星の光……。まるで今の私のようね……。届かないと分かっているのに、見上げて手を伸ばしてしまう……。ハッキリと見えるのに、遠くて小さくなった……希望の光)
空母棲姫「どうしたらいいのかしら、私……」
…………………………………………
30 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[sage saga]:2020/08/21(金) 02:36:03.49 ID:+7FXqHUo0
キリの良い所までいったので今回の投下はこれで終わりです。また明日辺りにでもお会いしましょう。
私の中で空母棲姫がこんなにもキャラを獲得してしまったのは、当時で考えると本当に想定外。
31 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/08/21(金) 03:07:27.45 ID:dPWjSxVO0
メール見て飛んできました。令和になっても月雨さんの艦これSSが読める嬉しさよ
前の利根SS最終更新から1221日(3年)らしいですww
32 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/08/21(金) 20:23:40.08 ID:jgM4vGljo
ゾンビ映画の女リーダータイプ……
あっ、いや、でも……(頼れるパイセンを見直しながら)
33 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/08/21(金) 20:24:06.94 ID:jgM4vGljo
すみません誤爆しました(土下寝)
34 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[sage saga]:2020/08/22(土) 22:12:39.71 ID:BTB6ZV0B0
今日はちょっとスローペースで投下しますです。
>>31
613,200時間の入渠よりは早く現れたようですね。
35 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/22(土) 22:13:25.56 ID:BTB6ZV0B0
空母棲姫「…………ん……すぅ……」
ふわっ──
空母棲姫「ん……?」
提督「む。起こしてしまったか」
空母棲姫「!?」ビクン
提督「っと、毛布が落ちるだろ」
空母棲姫「何かよ……ぅ?」
提督「こんな所で寝ると風邪を引くぞ」
空母棲姫「……毛布? 肩に掛かって……」チラ
提督「中で寝るのは嫌か?」
空母棲姫「……そもそも私が中に居ると気が気じゃない艦娘が居るだろ」
提督「本人曰く、少しだけ警戒を解いたようだぞ」
空母棲姫「……………………」
提督「立ったままは少し辛い。隣に座るが、良いか?」
空母棲姫「好きにしろ」
提督「そうか」スッ
空母棲姫(……本当、この人は全く私を怖がったり警戒したりしないわね)
提督「夜の海はどうだ?」
空母棲姫「答えなければならないのか、それは」
提督「答えるも答えないもお前の気分次第だよ」
空母棲姫「なんて困る言い方をするんだ、貴様は……」
36 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/22(土) 22:31:39.04 ID:BTB6ZV0B0
提督「そんなに困る事か?」
空母棲姫「……困る」
提督「ふむ。どうしてか聞かせてくれるか?」
空母棲姫「……念の為に言っておくが、他の奴らには言うなよ。あまりにも惰弱な理由だ」
提督「約束しよう」
空母棲姫「…………分からないからだ」
提督「うん?」
空母棲姫「自分の考えや方向性が分からない……。敵なのに敵ではない認識になる、とはさっき言ったと思う。そもそも、どうしてそうなるのかすら分からない」
提督「ふむ」
空母棲姫「むしろ、お前の言動の一つ一つを無条件で信用しそうにすらなってしまう。そんな保証はどこにも無いはずなのに……」
提督「あんなに疑っていたというのに、私の言葉を信じていたのか?」
空母棲姫「信じそうになって振り払っていただけだ。そんな事あるはずがない、とな……」
空母棲姫「今だってそうだ。口約束一つで私はここまで話してしまっている。……それくらい、お前の事を敵だと思えないんだ」
提督「それが何か問題あるのか?」
空母棲姫「普通に考えてみろ。世の中お前のような寛容な性格の持ち主ばかりではないだろう。私がどうであろうと、深海棲艦というだけで敵だ」
提督「瑞鶴や響はどうだった」
空母棲姫「無関心なのか様子見のどっちかだろう?」
提督「さあ、それはどうだろうか」
空母棲姫「曖昧な言葉で片付けようとしても、事実は事実だ」
提督「お前が一歩踏み込んでくれば見えている世界が変わるぞ」
空母棲姫「そんな訳があるか。敵だぞ」
37 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/22(土) 22:50:53.51 ID:BTB6ZV0B0
提督「ならばなおさら一歩踏み込んで来い。お前の知らない世界を見せてやる」
空母棲姫「酷く自信満々だな」
提督「これでも提督をやっているのでな。自分に付き従ってくれる子くらいは把握しているつもりだよ」
空母棲姫「……………………」
提督「……………………」
空母棲姫「……どうすれば、その一歩が踏み出せる?」
提督「まず大前提として、ちゃんとこの掘っ建て……鎮守府で寝る事だ。まあ、今夜は私の部屋で寝ると良い。布団なら予備がある」
空母棲姫「その後は?」
提督「そうだな……朝飯でも一緒に作るか」
空母棲姫「……そんな事で本当に一歩を踏み出す事になるのか?」
提督「昔から言うだろう? 胃袋を掴めば勝ちだ」
空母棲姫「確かにそうは言うが……」
空母棲姫「って待ちなさい。それって結婚したいのならばって話ではなかったかしら?」
提督「同じようなものだ。食というものは凄いぞ? 何せ三大欲求の一つだ。料理上手なだけでその人へ好感が持たれるくらいにな」
空母棲姫「……ただ、一つ問題があるわ」
提督「なんだ?」
空母棲姫「私、料理をやった事が無いの」
提督「む……それは困ったな……。どうしてしまおうか……」
空母棲姫「!」
空母棲姫(……一歩の踏み出し)
空母棲姫「…………だから……その、教えて貰っても、良いかしら」
38 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/22(土) 23:01:55.04 ID:BTB6ZV0B0
提督「ふむ、なるほど。良いなそれは。とても良い。一歩を踏み出せと言ったのは杞憂だったのかもしれんな」
空母棲姫「貴方がそう言ったからよ」
提督「だとしても、お前が自分の意思で踏み出した事には違いないだろう?」
空母棲姫「それは……そうかもしれないけれど……」
提督「褒めているんだ。素直に受け取ってくれないか?」
空母棲姫「……なんだかくすぐったい気持ちね」
提督「どうやら褒められ慣れていないようだ」
空母棲姫「──クシュッ」
提督「む。夜風に当たり過ぎたか。中に入るぞ」スッ
空母棲姫「……くしゃみなんて初めてしたかもしれないわ」スッ
提督「その初めてを私が聞いてしまったか」
空母棲姫「怒るわよ」
提督「それは困るな。今のは言わなかった事にしておこう」
空母棲姫「もう……」
提督「さて、空母棲姫。朝起こすから、その時は頼む」
空母棲姫「……こちらこそ……お願いす──します」
提督「もっと言い易い言い方で良いんだぞ?」
空母棲姫「……気が向いたらね」
提督「そうか。なら気が向いたら、な」
…………………………………………
39 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/22(土) 23:02:27.92 ID:BTB6ZV0B0
提督「──という訳で、今日は私と空母棲姫で朝食を用意した」
瑞鶴「へぇ……料理できたんだ?」
空母棲姫「……期待はするな」
響「こんなに美味しそうなのに?」
空母棲姫「初めてで上手くいく訳がない」
響「それは食べてみないと分からないよ」
金剛(……むう)
提督「では、頂こう」
金剛・瑞鶴・響「いただきます」
空母棲姫「……いただきます」
金剛・瑞鶴「!」モグ
響「ほう。これは凄いね」モグモグ
提督「だろう?」
空母棲姫「……な、なんだ。ハッキリと言ったらどうだ」
瑞鶴「んー……なんて言うのが正しいのかしら?」
響「普通だよね」
瑞鶴「あ、それね。普通」
空母棲姫「馬鹿にしているのか貴様ら」
金剛「……空母棲姫」
空母棲姫「なんだ?」ジッ
金剛「負けまセンからね」
空母棲姫「ん? ……んん?」
40 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/22(土) 23:03:03.63 ID:BTB6ZV0B0
響「基本的に料理は提督を中心として私と金剛さんが作っているから言えるんだけど、初めての料理でここまで『普通』と感じさせる物は凄いと思うよ」
空母棲姫「言っている意味がよく分からん」
金剛「つまり、違和感が無いのデス。辛い事も無いデスし、薄過ぎたりもしまセン。火加減もしっかり出来ていマス。細かい味の違いはありマスが、いつもの食事と遜色ないのデス」
瑞鶴「そうねー。普通の美味しさって言えば良いのかしら? 私は料理担当じゃないから細かい事は分かんないけど、普通に美味しいわよ?」モグモグ
提督「もっと簡単に言うと、褒めているって事だ。私達は何ヶ月も掛けてやっとここまでの味を出せるようになったが、お前はいきなり私達と変わらない所に立っている」
金剛「むむむむ……」モグ
提督「特に金剛は元々が英国料理式だから日本料理には苦労しただろう。努力の度合いで言えばあいつが一番頑張っていた。だからこそ、あれだけ悔しがっているんだ」
空母棲姫「……………………」キョトン
響「これは私も負けていられないね」モグモグ
瑞鶴「もっと美味しいのが出来たら、私もっと哨戒を頑張るわよ!」
提督「哨戒は程々にな。燃料の限界もある」
瑞鶴「あ、そうだった」
空母棲姫「料理……」ジー
提督「流石に包丁の扱いなどの基本動作は不慣れが目立ったが、見ている限りではセンス有りだと思ったよ」
金剛「むむむむむむ……」
響「すっごい悔しがってるね、金剛さん」
提督「あれだけ努力をしてきたんだ。負けたくないという気持ちが強く出ているのだろう」
空母棲姫「……そんなに英国式と日本式は違うのか?」
提督「かなり違う。基本的に英国式は素材そのままか素材がドロドロになるまで煮詰める。味付けはほぼしない」
空母棲姫「随分と不思議な料理方法ね……」
提督「イギリスは昔、料理に毒を入れて暗殺するという方法があったという話だ。毒を入れられる隙間を極限に減らし、仮に毒を入れられていたとしても分解されるまで火を通すというやり方になったのだろう」
空母棲姫「……なかなか物騒な話ね」
金剛「あむ……。────! むむむむむむむむ……!」ワナワナ
瑞鶴「こ、金剛さんもあんまり思い詰めないで? ね?」
響「料理戦争でも起きそうだね」モグモグ
提督「平和な戦争だな」
…………………………………………
41 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/22(土) 23:03:30.89 ID:BTB6ZV0B0
提督「──さて、腹も膨れた所で各々の仕事に移ろうか」
三人「はいっ!」
提督「瑞鶴。哨戒機を飛ばす準備が整い次第、発艦させろ。哨戒中は鎮守府内の掃除を頼む」
瑞鶴「はい!」タタッ
提督「響。近海の哨戒と一緒に網を持って魚を獲ってきてくれ」
響「了解した」タタッ
提督「金剛。私と一緒に本部からの書類を整理だ」
金剛「イエス! すぐに書類を持って来るデース!」タッ
提督「そして空母棲姫だが……」
空母棲姫(どんな仕事を任せられるのかしら)
提督「……そうだな。何をさせてしまおうか」
空母棲姫「何かないの?」
提督「正直、手が余る事の方が多くてな。……瑞鶴の掃除を手伝って貰おうか。箒と塵取りで掃き掃除をしてからバケツに水を汲み、雑巾で床や壁などを拭いてくれ。細かいやり方は瑞鶴から聞くと良いだろう」
空母棲姫「道具はどこにあるの?」
提督「外に出たら小さな物置がある。その中にあるぞ」
空母棲姫「分かったわ」スタスタ
提督「…………ふむ。仕事内容を少し考えないといけないか」
…………………………………………
42 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[sage saga]:2020/08/22(土) 23:04:23.20 ID:BTB6ZV0B0
ちょっとばかし席を外しますので書きためを一気に投下。
また何時間かしたら戻ってくると思います。
43 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/26(水) 02:44:58.98 ID:qWMzYoAN0
空母棲姫「……………………」チクチク
提督「……ふむ」
金剛「ワーォ……みるみるボタンに糸が……」
瑞鶴「器用ねぇ……」
響「しかも丁寧」
空母棲姫「……あまり見られるとやり辛いのだが」チクチク
提督「すまん。だが、あまりにも手際が良い物でつい、な」
瑞鶴「掃除どころか洗濯もすぐに手慣れちゃってたし、料理もあれだけ出来て裁縫もだなんて……なんか家事なら全部出来そうな気がするんだけど」
響「才能?」
金剛「……羨ましいデース」
空母棲姫「煽てても何も出ないぞ」クルクル
提督「素直に受け取っておけ。私達ではここまで上手くやれん」
空母棲姫「……ほら、終わるぞ」ツイップツッ
提督「ありがとう。……しかし速いな。三分と経っていないぞ?」スッ
空母棲姫「慣れたら出来そうなものだが」
提督「私ならば二十分かける自信がある」
金剛「私も十分くらいは掛かるかもデス……」
瑞鶴「それどころか針すら持った事なんて無いわ……」
響「私も。やっぱり凄く速いって事じゃない?」
空母棲姫「ぅ……こんな事を眺めるくらいに暇なのだな、お前達は」
響(露骨に話を変えた。……恥ずかしがってる?)
44 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/26(水) 02:45:31.03 ID:qWMzYoAN0
提督「ああ。極めて暇だ。なにせ書類整理や漁も終わり、普段ならば私達も手伝う予定だった掃除や洗濯まで終わらせてくれているからな」
響「とうとう哨戒じゃなくて漁って言っちゃったね」
提督「実際の行動は間違いなく哨戒だが、結果だけを見れば漁だろう。そもそも哨戒も本来は瑞鶴の哨戒機だけで終わる話だが、それは瑞鶴の負担軽減と報告義務でやらざるを得ないという部分が大きい」
響「水質の調査とかだっけ?」
提督「ああ。何かおかしな事があった時は報告するようにと言っていただろう? こればかりは空からではなく船から見なければ分からない事でもあるからな」
提督「まあ、そういう事だ。こうなってしまうとほぼ自由時間みたいなものだ。それにお前のボタン付けが凄くてな。見惚れてしまった」
空母棲姫「見惚れ……」
金剛「テートクが口説いているデース」
空母棲姫「!」
提督「今ので口説く扱いなのか……」
金剛「口説き言葉というものは人によって変わるデスよー?」
空母棲姫「…………!?」
響(あ、困ってる)
瑞鶴(すっごい困ってるわね)
空母棲姫「わ、私は外で海でも眺める!!」ササッ
響(逃げた)
瑞鶴(あれは逃げたわね)
提督「……あまりイヂメてやるなよ?」
金剛「イヂメのつもりではなかったのデスが……。悪い事をしてしまったデスね」
提督「ふむ」
金剛「?」
提督「お前もアイツの事を認めたのかと思ってな」
金剛「……まだ少し疑っているデス。やっぱり不安な部分がありマスから」
提督「そうか。気長に待つよ」
45 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/26(水) 02:45:59.66 ID:qWMzYoAN0
瑞鶴「まあ見た目は完全に深海棲艦だし、そうなってもおかしくないわよね」
響「瑞鶴さんは大丈夫なんだ?」
瑞鶴「私? 大丈夫よ? だってあの人、深海棲艦っぽくないし」
響「ああ、その気持ちは分かるよ。大人しいって言えば良いのか、暗くないって言えば良いのか、そんな感じだよね」
金剛「確かにそうなのデスが、やっぱりどうしても身構えてしまうデス」
金剛「本来であればテートクがそういう認識を持たなければならないのでショウけどね?」チラ
提督「私とて最初はそうだったぞ。その結果が今の扱いだ」
金剛「その判断がやけにスピーディだったような気がするデスけど?」
提督「お前だってそうだろう? まだアイツが来てやっと一日経ったくらいだぞ?」
金剛「一分も掛けなかったのはテートクですよ」
提督「これは手厳しいな。一体誰の悪影響だか」
金剛「私の目の前に居るデース」
瑞鶴「はいはいイチャつかないの! いい加減にしないと嫉妬するわよー……?」
響「是非ともその嫉妬に参加するよ」
金剛「……………………」チラ
提督「……………………」コクリ
瑞鶴「ああもうっ! だからって目で会話しないの!!」
響「本当、よく心が通じているね。ちなみに、なんて会話したの?」
提督「私は『この話はまた夜に』と解釈した」
金剛「イエス! その通りデース!」
瑞鶴「あー……うん。やっぱりなんか敵いそうにないわねぇ……」
46 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/26(水) 02:46:34.31 ID:qWMzYoAN0
響「司令官。今度は私とも目で会話できるように練習しない?」
提督「別に練習をして出来るようになった訳ではないぞ」
響「そうなのかい?」
提督「自然とな」チラ
金剛「いつの間にかデスね」チラ
瑞鶴「……やっぱり秘書艦って有利よねぇ」ジー
響「……強く同意するよ、瑞鶴さん」ジー
…………………………………………
47 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/26(水) 02:47:02.40 ID:qWMzYoAN0
コンコンコン──
提督「入れ」
ガチャ──パタン
金剛「失礼しま──……ホワッツ?」
空母棲姫「む……」
提督「どうした金剛」
金剛「……ソーリィ。空母棲姫が居るとは思わなかったデス」
空母棲姫「では、私は外に出ておこう」
提督「無理して出る必要などないぞ。それに、本人を前にした方が金剛の悩みも解決しやすいだろう」
空母棲姫「悩み?」
金剛「……テートクぅ」
提督「ならん。これはお前の問題でもある」
金剛「……ハイ」
空母棲姫「…………?」
金剛「すぅ…………はぁ……」
金剛「……空母棲姫」
空母棲姫「なんだ」
金剛「私の目を見て下さい」
空母棲姫「…………? ああ」ジッ
48 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/26(水) 02:47:29.92 ID:qWMzYoAN0
金剛「貴女は提督に危害を加えようとする意志はありますか?」ジッ
空母棲姫(ああ、そういう事か)
空母棲姫「無い」
金剛「では、私に対しては?」
空母棲姫「やる意味も無い」
金剛「深海棲艦をどう思っていますか?」
空母棲姫「どうとも思っていない」
金剛「……提督はどう思いましたか?」
提督「お前の考えは読まれているぞ」
金剛「なっ……!?」
空母棲姫「ああ。見え見えだった」
提督「金剛、こういう時は何も言わずただ目を見れば良い。情報は極力与えない方が相手の言動は正直になる」
金剛「うぅ……」
空母棲姫「教育熱心な提督ね。……という事は、貴方の真似をしたってところかしら?」
金剛「────!!」
提督「随分と察しが良いな」
空母棲姫「見れば分かるわ。だって、この子は貴方の事が大好きですもの」
金剛「テートクぅ……!」
提督「諦めろ金剛。この劣勢は覆せない」
金剛「うぅぅぅ……」
空母棲姫(……この子も意外と可愛い所があるのね)
49 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/26(水) 02:47:57.32 ID:qWMzYoAN0
空母棲姫「真っ直ぐなのは良い事だが、もう少し搦め手を覚えろ。困る事になっただろう?」
金剛「そうですね……ぐぅの音も出ないです……」ニコ
提督「!」
提督「なるほどそういう事か。──さて空母棲姫、こんな言葉を知っているか?」
空母棲姫「何かしら」
提督「戦術的勝利・戦略的敗北、だ」
空母棲姫「それが一体──」ハッ
金剛「♪」ニコニコ
空母棲姫「……やられたわ」ハァ
提督「私も見事に騙されたよ。どうやら金剛は私の想像以上に成長していたらしい」
金剛「テートク相手でしたら素直になりマスが、他の人相手ではそれなりの駆け引きをするデース」
提督「わざと弱点を見せて負け、空母棲姫の反応をしっかりと見ていたか」
金剛「イエス! そのおかげで、私は空母棲姫を信用できると思いまシタ! 本当に敵だと思っているのならば、あんな風に私の事を思い遣るはずがありまセン」
提督「黙っておく方が後々で武器に出来るからな」
金剛「ハイ! そして……ソーリィ。試すような事をしてしまいまシタ」ペコッ
空母棲姫「……参ったわ。降参よ。可愛いなんてとんでもなかったわね。貴女は立派な淑女よ」
金剛「♪」ニコニコ
空母棲姫「? まだ何かあるのかしら」
提督「気付いていないのか?」
金剛「私に対する口調が優しくなっているデース」
空母棲姫「ぅ……」
50 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/26(水) 02:48:27.68 ID:qWMzYoAN0
提督「無意識だったのか」
空母棲姫「……こんな風に誰かと会話をする事なんて、滅多にありませんから」
金剛「これからは、たっくさんお話しまショウ?」
空母棲姫「……そうね。こういうのも悪くないわ」
空母棲姫(……本当、こうしていると艦娘と深海棲艦が戦っているだなんて嘘のよう。……いえ、もしかしたら、あり得たかもしれない未来の一部なのかしら)
金剛「ところで、どうして空母棲姫はテートクの部屋に居たデスか?」
提督「流石にお前達の部屋で寝かせるのは狭い。昨日もそういった理由でここで寝かせている」
金剛「……羨ましいデス」ヂー
提督「お前と二人きりはダメだ」
金剛「どうしてデスかー……?」ヂー
提督「……お前もそうだろうが、私も抑えられるか分からん」
金剛「……えへ♪」
空母棲姫「惚気るのならば外でやってくれるかしら。部屋の中を熱くして欲しくないのだけれど」
金剛「では、今日はこれくらいにしておくデース! テートク、空母棲姫、グッナイ♪」
提督「ああ。良い夢を見ろよ。……いや、確実に見そうだな」
空母棲姫「本当にね。──おやすみなさい」
……………………
…………
……
51 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/26(水) 02:52:02.15 ID:qWMzYoAN0
何時間か、とか言いながら何日も時間を掛けてしまった。ごめんよ。
やっぱりこの提督は金剛さんに強くて弱いんだなって改めて思いました。
さてはて、今回の結末はどうなる事やら。
52 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/08/26(水) 23:54:51.21 ID:OqIEiSQEo
続ききてたか!
53 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/08/27(木) 00:06:43.86 ID:8xTx4mu5O
乙です
54 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/28(金) 02:52:11.72 ID:7x0EuHPR0
金剛「♪」トコトコ
金剛(やっぱり良い夢を見られたデース♪ 夢見が良すぎてついつい早起きしてしまいまシタ。夢とはいえ知らない古い町並みをテートクとデートだなんて最高でシタっ)トコトコ
金剛「まだテートクも起きていないでショウし、今の内に総司令部から届いている書類を運んでおくデース」カチャ
金剛「……ん? 薄い封筒が一枚だけ……? おかしいデスね。いつもならば小さな段ボール箱なのデスが……」
金剛(配達ミス……? いえ、まさかそんな。デスが、だとしたら一体?)
金剛「……なんだか、嫌な予感がします」
…………………………………………
提督「────」パチ
空母棲姫「すぅ……」
提督(朝か。……この状況はあまり慣れそうにないな。起きた時に誰かが居るというのは少し不安になってしまう)
提督(水でも飲んでくるか。誰も起きていないだろうから静かに)スッ
カチャ──パタ──
提督「む?」
金剛「あ、テートク。グッモーニン」
提督「もう起きていたのか。早いな」
金剛「夢見が良すぎてすぐに起きてしまいました。……それよりもテートク。少しおかしい事が起きています」
提督「どうした?」
金剛「総司令部からの書類を先に持ってこようと思ったのデスが、今朝はこれだけだったのデス」スッ
提督「……封筒一枚? これだけか?」
金剛「ハイ。配達ミスか何かかと疑いましたが、仮にも軍用施設への配達をミスするだなんて不自然デス」
提督「……ふむ」ベリッ
提督「……………………」
金剛「なんて書いてあるデスか?」
提督「……金剛、緊急事態だ」スッ
金剛「……なっ!? これ……本気ですか……?」
提督「どうやらそうらしい……」
提督「──私は、除籍だそうだ」
…………………………………………
55 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/28(金) 02:52:41.23 ID:7x0EuHPR0
瑞鶴「……嘘でしょ?」
響「何かの間違いだったりしない?」
提督「総司令部に打電をして確認して見たが、どうやら本当らしい」
空母棲姫「朝食後にとんでもない話が飛び込んできたわね……なんて理由だったの?」
提督「貴殿の長期間に渡る無功績は我々帝国海軍の必要に非ず。よって除籍とす……だそうだ」
瑞鶴「いやいやいやいや!! 何も仕事をさせていないのは向こうじゃないの!?」
響「納得できないよ。勝手に一人で戦争なんて出来ないんだから」
提督「もしかしたら、こうなるのを待っていたのかもしれんな」
金剛「除籍する為の何かしらの理由を付ける為に、デスか」
提督「恐らく、な」
空母棲姫「……私は詳しくないのだけど、除籍をされたらどうなるの?」
提督「まず、私は軍人ではなくなる。それは当然、軍の所有物は全て返却という形になり……艦娘も全て破棄しなければならない」
三人「!?」
空母棲姫「……つまり、この子達とは」チラ
提督「……お別れだ」
金剛「……………………」
瑞鶴「そう、なんだ……」
響「……今度は私達となんだね」
空母棲姫「今度は?」
金剛「……前にも少しだけ言いまシタが、元々私たちは別の鎮守府に居たのデス。その時には百隻近い艦娘達が居まシタ」
空母棲姫「……ここへ飛ばされた時に、貴女たち三隻だけが残されたという訳ね」
56 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/28(金) 02:53:10.31 ID:7x0EuHPR0
瑞鶴「うん……。提督さんと一緒に皆で議論を重ねていって、戦力バランスとかどれくらい長く鎮守府に居たかとか、色々な要因を踏まえた上でこの結論になったの」
空母棲姫「……ごめんなさい。嫌な事を聞いてしまったわ」
響「……仕方の無い事だった。私達は、それで納得しているよ」
提督「……………………」
空母棲姫「……期日はいつなの?」
提督「……本日付だ」
瑞鶴「はぁ!? ちょっと待ってよ!! それっていくらなんでも酷過ぎるわよ!?」
響「いきなり一方的に除籍を言い渡して、その上さらに今日中に出て行け……? こっちの事は何も考えていないじゃないか」
金剛「……陰湿な嫌がらせデス。事の発端は作戦本部長の致命的なミスだというのに、ここまでしつこくしてきマスか」
提督「文句は山ほど言いたいだろう。私だって同じだ。……だが、私達ではどうしようもない。軍に於いて上官の命令は守らなければならない。こんな命令など無視してしまいたいが、無視をした所で訪れるのは破滅だ」
瑞鶴「……提督さん、どうしようもないの?」
提督「抗議は意味を成さない。立ち向かうのは自殺するのと変わらない。お前達を連れて逃げた所で追い詰められて消されるだけだ。……いくらこいつらが腐っているとはいえ、軍に所属していない艦娘を許すほど無能ではない」
響「……まさに詰みだね」
提督「……すまん」
瑞鶴「どうして提督さんが謝るのよ……悪いのは向こうじゃないの」
提督「こうなる事を予測しなければならなかった。ただただ漠然とお前達と過ごして堕落の限りを尽くしていた結果がこれだ」
金剛「……………………」
響「……もう会えないの?」
提督「どうだろうか……。お前達を残してくれた他の子達の事を考えると、恐らく会う事は難しい」
瑞鶴「連絡、全然来ないもんね……」
57 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/28(金) 02:53:43.91 ID:7x0EuHPR0
提督「一応、私は実家に戻るつもりだ。住所は残しておくから、何か困った事があったら連絡を入れてこい。必ず助けてやる」
空母棲姫「……………………」
金剛「……テートク。空母棲姫はどうなるデスか?」
瑞鶴「あ、そう言えば……」
提督「空母棲姫は非正規な手段で迎え入れた事から自由にできるだろう。……お前次第だ」
空母棲姫「……私だって選択肢はほとんど無いわ。だって、こんな見た目をしているのよ?」
提督「海へ向かうという選択肢もあるんじゃないのか?」
空母棲姫「いまさら戻る理由なんて無いわ。……私は貴方達を知ってしまった。艦娘と戦う事なんて出来ない。それに、一人ぼっちで過ごすのは……辛そうだわ」
空母棲姫「だから、お願いがあるの」
提督「なんだ?」
空母棲姫「……連れて行ってくれないかしら」
三人「!!」
提督「……………………」チラ
金剛「……少し、考えさせて下サイ」
瑞鶴「私も……」
響「私は……空母棲姫さんのやりたいようにやったら良いと思う。私が自由に出来ないからって、空母棲姫さんを縛るのは違うと思うんだ」
提督「……そうか。ならば、少しだけ各々考える時間を作ろう。……私も、少し一人になりたい」
…………………………………………
58 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/28(金) 02:56:08.16 ID:7x0EuHPR0
ちょっと少ないけど今回はここまでです。また明日来られるように頑張るです。
あまり芳しくない流れになっていますね。これからどうなるのやら。
59 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/29(土) 22:21:21.85 ID:whwWUOix0
これから投下していきます。現在進行形で書き進めるので、ニ十分間隔くらいで投下していきますね。
何か知りたい事とか話したい事がありましたらご自由にどうぞー。
60 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/29(土) 22:22:12.83 ID:whwWUOix0
瑞鶴「……二人とも、居る?」カチャ
響「居るよ」
金剛「やっぱり瑞鶴も来まシタか」
瑞鶴「そりゃ、ね。三人寄ればなんとやらっても言うし」パタン
瑞鶴「それに、提督さんが諦めてしまった以上、私達がなんとかしないといけないと思うの」
響「間違いないね。あんな司令官を見たのなんて、あの時以来だよ」
金剛「……私達の元居た鎮守府が取り上げられた時デスね」
響「うん。あの時も司令官はなんとか足掻こうとして、皆で議論を重ねて……最終的に諦めたね」
瑞鶴「正確には提督さんじゃなくて、皆が諦めたから諦めちゃったって感じだったわよね」
金剛「それも仕方がありまセン。考えれば考える程どうにも出来ないと分かったのデスから……」
響「それで、どうしようか。個人的には司令官がここに残れるように、って考えた方が良いのかな?」
瑞鶴「うーん……大問題な点として、それが総司令部の作戦本部からの命令って事なのよね……」
響「やっぱり無理かな……」
瑞鶴「提督さんが中将以上の階級だったら話は変わってたと思う。確か作戦本部長って中将だったはずだし」
金剛「同じ階級であれば少なくとも議論までいけるデスからね」
瑞鶴「うん。だから、ここに残れるようにじゃなくて、まず提督の資格を剥奪されないように考えた方が良いかもしれないわ」
金剛「それは……とても難しいデスね……」
響「そうなのかい?」
金剛「ハイ。以前、テートクとお話しをした事があるデス。どうして功績を挙げていたテートクが左遷できるのか、と」
瑞鶴「そういえばそうよね。なんでなのかしら?」
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/08/29(土) 22:41:12.12 ID:8dlOJEsGo
支援
・投下中にはあまりレスしない方が良い?
・こういった「支援」等のレスは歓迎される?
62 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/29(土) 22:44:53.83 ID:whwWUOix0
金剛「実は、今現在の提督の座に就いている人は余り気味らしいのデス」
響「つまり、代わりはいくらでも居るってこと?」
金剛「そうデス。なので、命令に対して従順な人材が欲しがられている、ってテートクが言っていたデス」
瑞鶴「……なんか独裁っぽいわねぇ」
響「近いね。むしろ、自分よりも高い階級の人を相手に意見を言える人って重要だと思うんだけどな」
金剛「それも昔の話だそうデス。組織というものは人材が増えれば増える程、一人一人の意見に耳を傾けるのは億劫になるみたいデスよ」
瑞鶴「まあ……分からないでもないけどさ。時間効率が悪くなるものね」
響「……組織って難しいんだね」
金剛「ええ……。テートクも通常時は艦種ごとに纏め役を任命していたのもそういう事だったはずデス」
瑞鶴「あー、そういう事だったんだ。確かに私も緊急性が高くないものは加賀さんに報連相をしていたわね」
響「なるほどね」
金剛「デスので……元軍人となったテートクとでも私達が一緒に行動できるようになったら良いのデスが……」
瑞鶴「……それは難しいわよねぇ」
響「なんせ、私達は艦娘だからね……」
金剛「……私達は解体された事にしておくトカ?」
瑞鶴「提督さんはちゃんと資材の数を報告していたから、誤魔化せないと思う。えっと、私達が逃げ出したっていうのも無理があるわよねぇ……」
響「だね。そんな事があったら間違いなく私達は捜索されて居場所を突き止められてしまうね。……どうしよう」
金剛「どうしまショウ……」
瑞鶴「うーん……」
金剛「もっと奇抜な考え方をしないといけまセンかね……」
63 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/29(土) 22:50:31.98 ID:whwWUOix0
>>61
Q.投下中にあまりレスしない方が良い?
A.めちゃくちゃレスを余り倒す予定ですのでレスはいくらでもやって良いのですよ。ただ、艦これから離れ過ぎたりこのSSと無関係なレスは空気を読んでくれると嬉しいのです。
例)〇SS内の艦娘達がアイスの種類で喧嘩を始めたから「俺はスーパーカップ派。ダッツは認めない」
×なぜか突然、特殊相対性理論の話をしだす。
Q.こういった「支援」等のレスは歓迎される?
A.歓迎なのですよー。レスを余り倒す予定なので、私もこうやって普通に会話をすると思うです。
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/08/29(土) 23:06:07.05 ID:8dlOJEsGo
ありがとうございます
適度に支援出来ればと思います
しかしこの状況既に詰んでる…
65 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/29(土) 23:16:23.17 ID:whwWUOix0
瑞鶴「それって提督さんの得意分野なのよね……。提督さんは普通の考え方も奇抜な考え方も出来る人だし」
金剛「そのテートクが諦めの表情をしているので、難しいデスよね……」
響「……ねえ、一つ良いかな」
瑞鶴「どうしたの?」
響「確か、空母棲姫さんは司令官が連れて行くって話だったよね」
金剛「そうデスね。空母棲姫は総司令部に報告していないので、居ても居ない扱いだから出来る事デス」
響「なら、私達が解体された分の資材が残っていた、って状況を作るのはどうかな」
瑞鶴「えっと……どういう事?」
響「総司令部の人達がここに来たら、工廠の作業台に資材が放置されていたらどう思う?」
瑞鶴「んー……不審に思うでしょうね。妖精さんに話を聞くと思う」
響「建造妖精や開発妖精にお願いして、私達を解体した時の資材だよって報告をして貰うんだ」
金剛「つまり、私達を解体した事にした上でそのエビデンスをいくつか残す、と?」
響「うん。後は司令官の実家に向かう。どうかな?」
金剛「……面白いとは思うデス。早速、建造妖精や開発妖精にお願いをしてみるデス」スッ
瑞鶴「私も行くわ」スッ
金剛「ノン。瑞鶴は響と一緒に今の案を煮詰めていってくれるデスか?」
響「なるほど。時間は残り少ないしね」
瑞鶴「それもそうね……。金剛さん、そっちはお願い! 私達ももう少し推敲してみるわ!」
金剛「任せたデース! では、いってきマス!」
響「そっちも任せたよ、金剛さん」
…………………………………………
66 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[sage saga]:2020/08/29(土) 23:19:32.11 ID:whwWUOix0
>>64
ミッドウェー海戦後の日本よりは詰んでいないから大丈夫です。・・・だいたい多分おそらくきっと。
67 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[sage saga]:2020/08/29(土) 23:34:33.87 ID:whwWUOix0
ガチャ──パタン
提督「戻った」
空母棲姫「おかえりなさい。……気持ちは落ち着いたかしら」
提督「ああ。覚悟を決めてきた。最後に遊べるよう、金剛に金も渡してきた」
空母棲姫「どうして最後?」
提督「詳しくは私も知らないが、別れた艦娘とは連絡が取れなくなる。別の鎮守府で臨時的な戦力となっているのか……もしくは何かしらの『処理』をされているのかもしれん」
空母棲姫「処理だなんてまさか……」
提督「基本的に艦娘というのは一人の提督にだけ従うらしい。私が着任した当初から今まで別の鎮守府の艦娘と話した事はあっても、指揮下に置いた試しが無い。再利用という形を取るのならば何かしらの洗脳のような事でもしていると思う。もしそうでなければ……殺して埋める、とかだろうか」
空母棲姫「……そう思わせるだけの何かがあるって事ね?」
提督「今の総司令部は何をしてもおかしくない。戦争が長引いて色々と狂ったのか、前よりも管理や精査すらかなり杜撰になっている。ここ最近では大規模戦闘ですら現地で敵の艦種や編成を確認して撃破しているぞ」
空母棲姫「……こう言ってしまうのはいけないのかもしれないのだけど、総司令部の意味はあるの?」
提督「一応、体裁だけは保っているんじゃないか、という状況だ。一応、他の鎮守府の報告をこっちへ寄越してくれているからな」
提督「そんな総司令部だが、金剛たちを引き渡した後でもし少しでも遊べる時間があるのならば……と思った訳だ」
空母棲姫「なんとなくだけれど、あの子達は遠慮して結局使わないような気がするわ」
提督「どうだろうか。最初は悩んでいたが、何かを思い付いたのかそれとも気を遣ってくれたのか素直に受け取ってくれたよ」
空母棲姫「……なんだか、悪い事をした気分になるわ」
提督「何がだ?」
空母棲姫「あの子達とどれだけの時間を共有してきたのかは分からないけれど、会って二日目の私より何倍も何百倍も一緒に居たのでしょう? ……そんな私が貴方について行って、あの子達が別れなければならないというのは……あの子達は納得できないと思います」
提督「……………………」ポン
空母棲姫「?」
提督「そう思ってくれるだけで充分だ。あいつらは私に付き従ってくれた優しい子達だからな。飲み込んでくれるよ」ナデ
68 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/29(土) 23:54:34.75 ID:whwWUOix0
空母棲姫「そうだと良いのだけど……」
提督「きっとそうだ。……さて、少し時間が出来てしまった。何か雑談でもしようか」
空母棲姫「何を言っているの。荷造りはまだ終わっていないでしょう?」
提督「終わっているぞ。執務机の上に置いてある物で全部だ」
空母棲姫「……待って下さい。あの少し大きめの段ボールの事を言っているの?」
提督「ああ。私の私物はあれで全てだ」
空母棲姫「……紅茶の食器とかが入っていないようなのだけど」チラ
提督「あれらは金剛達に残す。何かに使えるかもしれん」
空母棲姫「残酷ね。きっとあの子達は泣くわよ」
提督「何も残されていない方が辛い。褪せて薄れ、少しずつ侵食するように消えていく記憶しか残らないのは、本当に辛いぞ」
空母棲姫「それは……貴方の経験談かしら」
提督「ああ。……金剛たち以外の艦娘との思い出の品は、全てそれぞれの子達に残していった。私の知らない思い出だってあるはずだ。壊れなければずっと残り続ける『物』さえあれば、褪せるのも消えるのもずっと遅くなる。その『物』が無ければ……どれだけ大切で生涯記憶に残すと決めていても、消えていくんだ。たった二年だというのに、私もあの子達の細かい事が思い出せなくなってきている」
空母棲姫「悲しいわね……」
提督「ああ……。この時ばかりは忘れて欲しくないのに、な……」
提督「──暗い話はここまでだ。ここに居る間、私は金剛達やお前の提督。弱い姿はあまり見せない方が良いだろう」
空母棲姫「……強いわね」
提督「そうでもない。ただの痩せ我慢だよ」
空母棲姫「なら、痩せ我慢しなくても良いようにしましょうか。──貴方の故郷について教えてくれるかしら」
提督「故郷か? ……そうだな。何も無い場所だ」
空母棲姫「随分と想像し辛い事を言うわね……。なんて地名なのかとか、少しは目立つ物があったりするでしょう?」
提督「ふむ。伊勢と呼ばれている場所だ。しかし……なぜこれから向かう場所の事を訊くんだ?」
69 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/30(日) 00:15:25.69 ID:sA+YA8rG0
空母棲姫「想像を膨らませるのは楽しそうでしょう?」
提督「なるほどな。そうだな……目立つ物と言われてもな……」
空母棲姫「……まさか本当に無いの?」
提督「……強いて言うのならば、お伊勢さん──いや、伊勢神宮があるという事か? 私は滅多に行かなかったが」
空母棲姫「神宮という名前だから大きいと思ったのだけれど、そうでもないのかしら」
提督「いや、かなり大きいと思うぞ? 県外からの参拝をしにくる人はある程度は居たが、地元の人が行くとしてもせいぜい初詣くらいだったからな……」
空母棲姫「近いが故に、というもの?」
提督「そうなのかもな。在るのが当たり前だったのかもしれん」
空母棲姫「伊勢神宮……。行ってみたいわ」
提督「ああ。向こうに着いたら行こうか。……だが、そこまで面白いとは思えないから期待するなよ?」
空母棲姫「なら、期待しておくわね」
提督「困るなそれは……。ならば、あの人の店に立ち寄って詳しい事を訊いておくか」
空母棲姫「あの人の店?」
提督「40年以上続いている食堂がある。そこの大将……こう言うと語弊があるな。そこの店主がそういう事に詳しいはずだ。子供の頃に入り浸っていたら、たまに伊勢神宮の本当の参拝の仕方を教えてくれていたような記憶がある」
空母棲姫「気になるわね。そこも行ってみたいわ」
提督「ああ良いぞ。私も久々にあのからあげ丼を食べたい」
空母棲姫「からあげ丼……? 聞いた事がないのだけど、ご飯の上に唐揚げでも乗せているのかしら」
提督「近いが少し違う。正確には玉子とじにした唐揚げが乗っているんだ。これが癖になってしまう味でな。それでいてすんなりと胃袋に収まってしまう味付けをしているものだから、ついつい通ってしまったよ」
70 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/30(日) 00:35:50.28 ID:sA+YA8rG0
提督「食べ物で思い出したが、伊勢と言えば赤福があったな」
空母棲姫「あかふく……? 何かしらそれ。想像すら付かないのだけれど」
提督「酷く大雑把に言えば餡子餅だ。ただし、今お前が想像した餡子餅とは真逆だぞ」
空母棲姫「真逆……。真逆……? 餡子餅の逆……?」
提督「餡子の中に餅が入っている。普通ならば餡子を餅で包んでいるが、赤福は餅を餡子で包んでいる」
空母棲姫「待って下さい。とても食べにくそうなのだけれど」
提督「当然だが素手で持って食べたりはしない。小さな木のヘラが付いてくるから、それに乗せて食べるんだ」
空母棲姫「……不思議な食べ物ね」
提督「あまり甘い物は食べないのだが、たまに食べたくなってしまうな、アレは。……後は絲印煎餅なんて物もあるが、どうしても赤福のインパクトには負けてしまって陰に隠れがちだな」
空母棲姫「普通のお煎餅なのかしら」
提督「単刀直入に言うとそうなる。少し甘いめで素朴な味だ。本当かどうかは知らないが、天皇皇后両陛下に献上したりお買い上げされているという話もあるぞ」
空母棲姫「良いわね。少し気分が高揚してきます。それも気になるわ」
提督「……意外と食べる事が好きなんだな?」
空母棲姫「……イメージが壊れるというのならば直します」
提督「いや、そうは思わんよ。前にも言っただろう? 食は人の三大欲求の一つだ。むしろ楽しみにもなってくる」
空母棲姫「楽しみ?」
提督「アレを食べさせたらどう反応するのだろうか、ソレだったらどうか、なんていう風にな」
空母棲姫「……少し恥ずかしそうなのだけれど」
提督「だが、美味いぞ?」
空母棲姫「…………悩むわ」
提督「存分に悩んでおけ。そんな悩みはちっぽけなものだったと言うだろう」
空母棲姫「むう……」
提督「……さて、そろそろ運送業者に連絡を入れるか」スッ
空母棲姫「勝手に来るのではないの?」
提督「自前で荷物は運びだせとの事だ。後日確認だけはするらしいが、もしも私が残っているようだったら覚悟しろとも言っていたよ」
空母棲姫「……本当に色々とダメね」
提督「本当にな」
…………………………………………
71 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/08/30(日) 00:37:15.26 ID:sA+YA8rG0
頭がほわんほわんしてきたのでここらで区切ります。また明日くらいに現れると思いますので、どうかよろしくお願いしますです。
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/08/30(日) 01:16:02.97 ID:DIXxtlm50
乙乙です
73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/08/30(日) 01:34:27.28 ID:q2nIT9tyo
不意打ち飯テロ食らった乙
74 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/09/02(水) 02:48:42.99 ID:rURYDXBC0
提督「もう少しで終わるぞ」ツイツイ
瑞鶴「やっぱり提督さんって人の髪を結わえるの上手いわよねぇ」
響「なんせ、色々な艦娘の子に髪を纏めて欲しいって言われてやってたもんね」
提督「もう慣れたよ。……最初の頃は加賀や瑞鶴のような髪型でさえ手を焼いたもんだ」クイクイ
空母棲姫「…………」ソワソワ
瑞鶴「今じゃ金剛さんの髪型でもパパッとやれてるものね」
提督「完成形を見ただけではどうなっているのか分かりづらいが、結わえ方を教えて貰えば意外と簡単だったぞ」クイクイ
空母棲姫「っ」ピクンッ
響「それにしても、こんなにも長い髪を三つ編みにするってだけでも大変そうなのに、よくこんなふわふわな感じに出来るね?」
提督「崩し、というものだ。こうやって一度しっかり結わえた髪を崩すように指先で引っ張ってやれば、柔らかい印象になるだろう?」クイクイ
空母棲姫「…………っ」フルフル
瑞鶴「……ところでさ、空母棲姫さんさっきからどうしたの?」
空母棲姫「お、落ち着かないの……」プルプル
瑞鶴「?」
空母棲姫「髪を触られるのって……初めてだから……」ビクッ
提督(……少し早めに終わらせるか)クイクイクイ
75 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/09/02(水) 02:49:12.94 ID:rURYDXBC0
響「へぇ。どんな感じなんだい?」
空母棲姫「ゾワゾワというか……存在しない神経を触られているような……」フルフル
提督「終わったぞ」スッ
空母棲姫「……ありがと」ホッ
提督「あとはこの麦わら帽子と伊達眼鏡を被ってしまえば一般人に見えるだろう」
空母棲姫「ん……」スッ
瑞鶴「おー……結構違う人に見えるじゃない」
響「パッと見ただけじゃ分からないね」
提督「本当は服も変えた方が良いのだろうが、生憎とそこまでは持っていなくてな」
瑞鶴「まあ、これでも充分じゃない?」
ガチャ──パタン
金剛「テートクー。配送業者の人が来たみたいデース」
提督「そうか。ならば荷物を持って行くとしよう」スッ
…………………………………………
76 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/09/02(水) 02:49:38.35 ID:rURYDXBC0
配送業者「では確かに! 是非とも今後ともよろしくお願いいたします!!」ペコペコ
提督「頼む」
ブロロロロロ……
提督(……やけに腰が低かったな? まあ良いか)
提督「…………改めて見ると小さくて古い家だな。とても鎮守府とは言えん。……だが、こことももうお別れか」スタスタ
提督(そして、金剛達とも……)
提督「…………」
提督「……………………」
提督「…………………………………………」
提督(! ……ボーッとしてしまっていた。戻らなくては)スタスタ
ガチャ──パタン
提督「戻った……ん?」
空母棲姫「…………っ!」フルフル
金剛「あ、おかえりデース! 私の買い出し用の服を着せてみまシタ!」
響「おかえり。化粧もして肌の色も真っ白じゃなくなったし、これならまずバレないと思うよ」
瑞鶴「おかえりー。どう、提督さん? どんな感じどんな感じ?」
提督「……ふむ」ジー
空母棲姫「な、何? 似合っていないのならそう言って下さい……」
提督「いや、金剛の時も思ったんだが、化粧と服で印象が本当に変わるものだと実感していたんだ。随分と綺麗な女性に仕上げたな? 主に金剛と瑞鶴のお洒落な技術か」
金剛「なかなかテートクが帰ってこなかったので、つい」
空母棲姫(綺麗な、女性……)
77 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/09/02(水) 02:50:09.92 ID:rURYDXBC0
提督「しかし、良いのか? 確かこの服はお前のお気に入りだったかと思っていたんだが」
空母棲姫「え?」
金剛「イエス。気にしないで下サイ」
空母棲姫「……本当に良いの?」
金剛「ちゃんと考えているデスから」ニコ
空母棲姫「…………?」
提督「……ところで、そろそろ私達は出なければならない」
瑞鶴「あー、もうそんな時間なんだ」
響「じゃあ、見送るね」
金剛「後の事は任せて下サーイ!」
提督(……ふむ)
提督「あまり危ない事はするなよ?」
金剛「勿論デス! そんな事をしたらテートクが心配してしまうデス」
提督「……そうか。では、何か困った事があったらいつでも連絡をするんだぞ」
瑞鶴「うん。分かったわ」
響「頼りにするね」
提督「──整列」
三人「!」ピシッ
提督「……三人とも、今までありがとう」ピシッ
三人「ありがとうございました!」
…………………………………………
78 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/09/02(水) 02:50:39.53 ID:rURYDXBC0
──サンバンホームニツキマスハ、ハカタイキシンダイトッキュウアサカゼ
空母棲姫「……………………」キョロ
──オノリノオキャクサマハ、キップヲオミセシテシテイバンゴウヘオハイリクダサイ
提督「珍しいか?」
空母棲姫「……電車というものを初めて見ました。大きいのね」
提督「見た目はそうだが、中に入ると意外と狭く感じるぞ」
空母棲姫「そうなの?」
提督「ああ。この幅の半分近くが通路になるから、どうしても寝るスペースが狭くなるんだ。──ほら、乗るぞ」スッ
空母棲姫「……楽しみです」トコトコ
提督「二号車はここだな?」
駅員「はい。切符を拝見させて頂きます」
提督「これだ」スッ
駅員「──ありがとうございまます。入って二番目のお部屋へどうぞ」パチッパチッ スッ
提督「分かった」スッ
駅員「素敵なお方との旅ですね。良い旅になりますでしょう」
提督「ああ。良い旅にしたいものだ。──ほら、行くぞ」スタスタ
空母棲姫(……ついて行けば良いのかしら?)トコトコ
駅員(……羨ましいなぁ。一緒について行くのは奥さんかな?)
空母棲姫「……ねえ、切符ってどういう物なの?」
提督「電車に乗る権利証明みたいなものだ。見てみるか?」スッ
79 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2020/09/02(水) 02:51:07.49 ID:rURYDXBC0
空母棲姫「ん……。…………シンダイトッキュウ アサカゼ トウキョウ ハカタ ナゴヤマデ。えっと……2-2? 2等級A寝台……?」
提督「2-2というのが二号車の二番目の部屋を表わし、最後のは部屋の種類だ。いわゆる、二人用の部屋と考えたら良い。普通の部屋より少し大きめだ」
空母棲姫「…………」ジー
提督「ほら、そんなに見ていたら転ぶぞ。中に入ってからゆっくり見ると良い」シャッ
空母棲姫「! そうするわ」
空母棲姫「……なるほどね。確かに見た目は大きいけれど狭く感じるわ」
提督「だろう? それでもこれは広い方だと思うぞ」スッ
空母棲姫「…………」キョロキョロ
ビィィィィィィッ!
空母棲姫「!?」ビクゥッ
提督「ほら、列車が動き出すから座っておけ」
空母棲姫「は、はい」チョコン
──ガタンッ
空母棲姫「!」ビクッ
タン──ガタン──タン──
空母棲姫「…………!」キョロキョロ
タンタン──タンタン──
空母棲姫「…………」
タタン──タタン──
提督「慣れたか」
空母棲姫「……面白がっていたわね?」ジー
提督「まるで子供のようだった」
空母棲姫「怒るわよ」ジー
提督「すまない。……それで、初めての電車はどうだ?」
空母棲姫「そうね……。海の上ほどじゃないけれど、結構揺れるのね。大きな揺れじゃなくて、小さな小刻みの揺れをしているわ」
提督「敏感な人はその揺れのせいで寝るに寝られないらしい。お前は大丈夫か?」
空母棲姫「……どうかしらね。怖くなったら貴方のベッドに潜り込みましょうか」
提督「それは困るな……」
空母棲姫「冗談よ。さっきの仕返しです」
提督「……僅か二日にして私の相手を心得ているな」
空母棲姫「あの金剛って子を見ていればなんとなく察しがつきます」
提督「……………………」
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