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魔王と魔法使いと失われた記憶
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139 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/27(木) 12:29:09.15 ID:IcevcAFHO
「ま……『エリック』!!」
思わず魔王と言いかけて言い直した。ただでさえ騒ぎになりかけてるのに、火に油を注ぐようなことをしてどうするの?
魔王はというと、斬られた右腕を押さえていた。血がボタボタと流れている。決して浅くはなさそうだった。
「逃げ…………!?」
今度は私にもハッキリ見えた。空間の歪みだ。
それは、私の方に向かって来るっ!!?
地面に倒れていた身体を、僅かにひねった。
「キャッ!!?」
ザクッ
本当に、間一髪だった。顔の横の地面に、血塗れの短剣が突き刺さっている。それを握る腕は……存外に細い。
「間に合わんかっっ!!!加速(アクセラレーション)3!!!」
魔王が叫ぶ。そして、左手だけで私を抱えあげると彼は猛然と逃げ出した。
私たちのいた広場が、みるみる間に小さくなっていく。通り過ぎる人々が、目を丸くしているのが分かった。
しかし……200メドほど走ったところで、魔王は……止まった。褐色の顔色が、土気色になっている。
もう、体力がもたないんだ。私から血の気が引いた。
140 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/27(木) 12:29:52.60 ID:IcevcAFHO
「ぜえっ、ぜえっ、ぜえっ…………!!!」
「ちょっと、大丈夫なの?それにその傷っ」
「いいから、逃げろっ…………!!ぜえっ、ぜえっ……俺の代わりは、いるが、お前の、代わりは……はあ、はあっ……いないっ……!!」
「嫌よ!!あなた、死ぬつもりなのっっ!!?」
「死には、しないっ……だが……」
魔王が私たちが襲われた広場を見た。誰かがこっちに来ている感じはしない。けど……逃げ切れた気も、全然しない。
私は黙って彼を背負った。身体が私より小さくて助かった。おぶって歩くぐらいはできる。
そして、僥倖だったのは……広場に噴水があったことだ。
小声で詠唱する。……間に合って!!
3メドぐらい先に歪みが見えたのと、詠唱が終わったのはほぼ同時だった。
「幻影の霧(ミラージュ・ミスト)!!!」
私たちの前を霧が包む。……やった!!
141 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/27(木) 12:30:20.53 ID:IcevcAFHO
私はここに残るかどうか迷った。残れば、「クドラク」を捕まえられるかもしれない。
でも、霧の中からは人の気配が消えていた。逃げられた?ううん、多分、動いてないんだ。霧が晴れるまで、待っているのかも……
それに、何より……魔王が心配だった。荒い息遣いが耳元で聞こえる。意識があるのかすら分からない。
医者?いや、魔族の彼を診てくれるとは思えない。ユングヴィ教団も味方になってくれそうもない。
ジャックさんの家は遠すぎる。とすれば、残るのは……
142 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/27(木) 12:31:14.82 ID:IcevcAFHO
#
「デボラさんっっ!!!」
ドアを叩くと、コボルトの男が怪訝そうに私を見下ろした。
「……何だこんな夜に……お前は」
「大変なんですっっ!!!」
男はすぐに魔王の様子に気付いたようだった。
「……すぐに呼んでくる」
上の階から、薄手の服を着たデボラさんがかけ降りてきた。
「どうしたんだいっっ!!?……その傷はっ」
「『クドラク』にやられたんですっっ!!急に、襲ってきて……」
「……入りな。あたしが治療する」
「え」
「怪我の治療には自信があるんだ。狐人の魔力、なめんじゃないよ」
すぐに魔王はベッドに寝かされた。フードの下を見ると、右肩に近い所がごっそり抉れている。骨が見えてないのが不思議なほどだ。
「……酷いね。エリック、意識は」
「一応……ある」
魔王の具合はさらに悪くなっているように見えた。デボラさんは荒縄で傷口の上を縛ると、お酒を持ってきた。
「……え?」
「消毒さ。モリブス南部特産の『テキ』を濃縮したものだよ。痛いけど、我慢しな」
トポトポトポ…………
「ぐああああああああっっっっ!!!!」
魔王が絶叫する。それと同時に、デボラさんが両手をかざした。掌が乳白色に光ると、鮮血で濡れていた魔王の傷口の色が、変わり始める。
「……すごいっ……」
モコモコモコと、失われたはずの肉が盛り上がってきた。治癒術って、こんな感じだっただろうか?
「言ったろ?狐人の魔力、なめんじゃないってね。亜人はオルランドゥには入れないけど、魔法を学べるのは魔術学院だけじゃない」
「まさか、ジャックさんの所?」
額から汗を流しながら、デボラさんが笑う。
数分後に魔王の傷は、すっかりなくなっていた。
143 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/27(木) 12:31:48.62 ID:IcevcAFHO
「これでよし……と。彼はうちの組の後見人なのさ。旦那とはダチでね。旦那がいなかったら、彼に惚れてたかもしれないねえ」
「それにしても、この魔法……」
「『時間遡行(アップストリーム)』さ。誰にでも使えるもんじゃないらしいけどね。でも、肉体は戻っても、失われた血と体力はそう簡単には戻らない。
いくらエリックが頑強と言っても、薬湯飲ませて1日は寝とかないとダメだね。酒で傷から入った毒は消したけど」
魔王はさっきお酒をかけられたのが余程苦痛だったのか、意識を失っているようだった。デボラさんが緑色の液体を瓶からグラスに注ぐと、彼の枕元に置く。
「意識が戻ったら、こいつを少しずつ飲ませてやりな。にしても……クドラクがそれほど強いとは、ねえ」
「いきなり空間から腕が伸びてきたんです。完全に不意を突かれて……」
「他に気付いたことはあるかい?」
「腕は細かった気がしますけど、それ以外は……」
デボラさんがしばらく黙った。
「……そうかい。もし何か分かったら、あたしらにも教えとくれ。できる限りはする」
144 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/27(木) 12:32:30.89 ID:IcevcAFHO
#
部屋の明かりは煌々と付いている。クドラクが襲ってきた時に、すぐに分かるようにということだった。
薄闇の中でも、近い距離なら歪みがそこにあるのは見えた。まして明るい場所なら、それなりの違和感はあるだろう。クドラクが夜にしか現れない理由の一つが分かった気がした。
「ん……ぐ……」
苦しそうに魔王が呻く。私は綿の布で、彼の顔に流れる汗を拭き取った。
こうして見ると、本当に少年にしか見えない。でも、私は……また彼に救われてしまった。
「……ごめんなさい」
唇を噛んで呟く。
私は、彼に何かしてあげられただろうか?守られることに甘えてはいなかっただろうか?
そんな心の緩みが、クドラクに存在を知られる理由になってしまったのでは?
目の辺りが熱くなってくる。……本当に、私は……世間知らずの小娘なんだ。
145 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/27(木) 12:33:26.21 ID:IcevcAFHO
「……なぜ、泣く」
かすれ声が聞こえた。魔王が、うっすらと目を開けている。
「……!!意識がっ」
「……ここは、どこだ」
「ワイルダ組。……デボラさんが、傷を治したの」
「……お前が連れてきた、のか」
私は無言で頷いた。魔王がフッと笑った。
「……すまなかったな」
「え」
「俺も、周囲への警戒を欠いていた。許せ、あれは俺の責任だ」
「違うっっ!!私が、お酒に酔って浮かれてたから……」
小さく彼が首を振る。
「いや……あそこで襲ってくるとは、思わなかった。想定が、甘過ぎた」
「え」
私は薬湯の存在を思い出した。グラスを口元に持っていくと、彼は一口飲んだ。
「……苦いな」
すぐに顔をしかめる。
「……確かに、お前は狙われている。が、周囲に人がいる所で、しかもまだ宵になる前に来るとは、考えてなかった」
「それって、どういう……」
「焦り、だろうな。正体が知られることへの……ただ、『霧』に入っても無闇矢鱈に暴れてはいなかった。あの危険性を知っていたか、あるいは直感で動かぬ方がいいと考えたか……」
魔王が私に微笑みかけた。……こんな顔で笑う彼を、初めて見た。
「ともあれ、救われたのは……俺の方だ。あそこで霧を張らなかったら……『アレ』を使わざるを得なかった」
「『アレ』?」
「俺の、本当の切り札だ。使えば、確実にクドラクは殺せる。
だが……俺だけじゃなく、お前も、いや周囲の無辜の人々も傷付ける。いや、殺しかねない。だから、助かった。ありがとう」
顔が熱くなるのを感じた。素直に感謝されるなんて……思ってなかったから。
146 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/27(木) 12:33:54.10 ID:IcevcAFHO
「えっ、あっ、うん……私こそ」
コホン、と魔王が咳払いをした。
「……それで、明日は、行くのか?」
そうだった。エストラーダ候の邸宅に、ランパードさんと訪れる予定なのだった。
もし、ファリスさんがクドラクだとしたら……私は、自分を狙う相手の前にノコノコと出向くことになる。
しかし……あの腕。一瞬しか見えなかったけど、男性にしては細過ぎるようにも思えた。
「追憶」で再生すれば、特徴とかもう少しハッキリと分かるかもしれない。そして、それがファリスさんのそれと一致するなら……
私は首を縦に振った。
「……ええ。クドラクの正体を確認するなら、行くべきだと思う」
「だが、恐らくエストラーダは、お前の人相を知ってるぞ?それに、あのランパードがお前を守る保証もない」
「それは、そうだけど……」
変装で何とか誤魔化せるだろうか?……正直、自信がない。
魔王がふうと溜め息をついた。
「俺は、変装についてはよく知らん。だが、ワイルダ組のウィテカーなら詳しいはずだ」
「……え?」
「あいつは元々、暗殺者だった。変装ならお手の物だ」
147 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/27(木) 12:34:35.73 ID:IcevcAFHO
#
翌朝。待ち合わせの広場に向かうと、既にランパードさんが待っていた。医者らしく、白装束を着ている。
「お待たせしました」
「……どちら様だい?」
キョトンとした様子で、彼が私を見る。それもそうだろう。髪の色は黒ではなく緑。眼鏡はなく、耳はエルフのように尖っている。
「私です、プルミエールです」
「……嬢ちゃんか??」
私は唇に指を当てた。
「ええ。少し、変装を」
「……幻覚魔法か、それもかなり高度な。そんなのも使えたのか?」
「いえ、ある人にかけてもらったんです」
ウィテカーさんはデボラさんの弟らしい。亜人じゃないように見えたのだけど、何でも彼らは人間と狐人との子供なのだという。
亜人が強く出たのがデボラさんで、人間が強く出たのがウィテカーさんとのことだ。
複雑な家庭そうだったけど、そこには立ち入らないことにしておいた。
そしてやはり、彼もジャックさんの指導を受けた、らしい。「見た目を少し変えるぐらいなら問題ない」って言ってたけど、これは少しなんてもんじゃない。
眼鏡も幻覚魔法で消している。デボラさんといい、相当な使い手であるのはもはや疑いがなかった。
ランパードさんは怪訝な顔をしている。
「ある人……誰だそいつ」
「言うことはできないんです。それより……」
「……魔王だな。聞いたぜ、ここで襲撃があったと。狙われたのか」
小さく頷いた。
「ええ。彼は傷を負って、今別のところに」
「……そうか」
彼は鞄から新聞を取り出し、私に手渡した。
「旧市街入口で2人死亡、『クドラク』か」
148 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/27(木) 12:35:19.72 ID:IcevcAFHO
「……え」
「ここで襲撃があってから数時間後だ。恐らくは恋人同士、どこかの連れ込み宿にでも行こうとしたんだろうが。夜が更けてから歩くのは自殺行為ってことだな」
「嘘っ、まさか……」
私たちが狙われた巻き添えになって?
しかし、ランパードさんは首を横に振る。
「クドラクの餌食になっているのは、要人だけじゃねえ。一般人も普通に殺されてる。お前さんたちが襲われたのは必然だったかもしれねえが、こいつらは違う。
クドラクは、言ってみれば……理性半分、狂気半分の獣のようなもんだ。だからこそ対応しにくい」
「狂気……」
「『遺物』の効果かもな。俺も詳しくは知らねえが、『遺物』の中には精神に影響を与えるものがあるとも聞くからな」
私はデイヴィッドという男を思い出していた。今にして思えば、彼の言動も少しおかしかった。まるで戦闘、いや殺戮を楽しんでいるような……
「とにかく、危なくなったらすぐ退くぜ。……って何をしている?」
「『追憶』を使うんです。確か場所は……この辺りでしたか」
「『追憶』……?現場を映し出す、ということは」
「ええ。何か特徴がないかと」
私は水晶玉を取り出し、詠唱を始めた。時間も場所もほぼ正確に分かっているから、それほど時間は掛からずに済む。
程なくして、魔王が刺された場面が浮かび上がった。暗いけど、街灯の灯りで腕は見える。
「……これが『追憶』か……意外とハッキリ見えるものだな……」
ランパードさんが呟く。突きが迅過ぎて腕が見えたのは一瞬だけど、何回か繰り返し見ているうちにあることに気付いた。
「……あ」
「どうした、嬢ちゃん」
「これを見てください」
私は「追憶」の作動を一旦止めた。水晶玉の映像が固定される。
「……これは」
「ええ。手首に何か着けてます。……アミュレット?」
宝石が幾つかついたアミュレットだ。見るからに高そうなものだけど……
「ファリス・エストラーダがこれを着けていれば……」
「多分、間違いないです」
149 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/27(木) 12:36:12.48 ID:IcevcAFHO
#
「何だお前らは」
衛士が怪訝そうに私たちを見る。ランパードさんが鞄から何かの巻物を取り出し、広げてみせた。
「トリス森王国の一級医術士、ビクター・ランパードだ。ファリス嬢の件で、ロペス・エストラーダ候と話したい」
「……何だって?」
「悪いが、こいつは本物だ。マリア・マルガリータ女王の印も入っている。
ファリス嬢が長く床に臥せってると聞いてな。確か、治したら賞金が出るんだろ?」
衛士が顔を見合わせた。
「……本当に、トリスの医術士か」
「ああ。世界でも数人しかいない一級医術士だぜ。助けになると思うが」
「閣下に話をしてくる。そこで待て」
衛士の一人が邸宅へと入っていく。私はランパードさんに耳打ちした。
(あれって、本当に本物なんですか)
(間違いなく本物だぜ)
(トリスの医術士って、簡単になれるものじゃないですよね)
ハハハ、とランパードさんが笑う。
(一応これでもお前さんの3倍近く生きてるからな。ま、本当に治療をするかは見て決めるが)
(治療?魔法を使うんじゃ)
(治癒魔法も使うが、トリスの医術は「切って治す」。身体の中にある病巣は、生命力を高める治癒魔法だけじゃ消えないからな)
そんな方法があるとは知らなかった。エルフの技術はほとんど知られてないけど、やはり独特なものなんだな。
150 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/27(木) 12:37:05.11 ID:IcevcAFHO
5分ほどして、小柄な老人が衛士と共にやって来た。ランパードさんが跪くのを見て、私もそうした。この人が、エストラーダ候か。
「お会いできて光栄です、閣下」
「トリスの一級医術士とは、真か」
「確かに」
老人は衛士が持っていた巻物を読むと「ふむ」と呟いた。
「確かに、マリア・マルガリータ女王の筆跡だ。その女性は?」
「私の助手です。施術を行うなら、助手が不可欠ですから」
「身体を切り裂き、病巣のみを取り出す……か。トリスの施術の話は聞いている。確かに1人では無理な所業だ。良かろう」
邸宅の中に入ると、豪奢な応接室に通された。
「マルガリータ女王は健勝か」
「お元気であります」
「そうか。私と同世代というのが信じがたい……ともあれ、ファリスのことであったな」
「ええ。ご病状、思わしくないとか」
エストラーダ候が溜め息をついた。
「元より身体が丈夫ではなかったが……3ヶ月ほど前から、具合が悪くなってな。特に頭痛が酷いそうだ」
「なるほど、その他の病状は」
「ここ最近は、身体を起こすのもやっとだ。手遅れでなければいいと思っている……」
エストラーダ候は辛そうに俯いている。これが演技とは思えない。
「一度、お嬢様に会わせて頂くことは」
「……無論だ。治してくれるなら、金に糸目はつけん」
彼と共に2階へと上がる。その一室のドアを、エストラーダ候が叩いた。
「私だ。入って大丈夫か」
「……いいですわ」
か細い声が聞こえた。入ると、黄金色の長い髪の少女が身体を起こして窓の外を見ている。
151 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/27(木) 12:38:05.50 ID:IcevcAFHO
「ファリス、トリスから医術士が来た。報償金の話を聞いたようだ。今日の具合は」
「気分は、そこまで悪くはありませんわ」
ふわり、と少女が笑った。多分、私より少し若い。随分と痩せてしまってるけど、貴族の女の子らしい気品のある美しさだ。
ゆったりとした長袖の服を着ている。手首の辺りは、見えない。
「そうか……お前の母親も早く逝ってしまった……お前を喪うことは、耐えきれん」
「大丈夫ですわ。御父様より早く逝くことは、しませんもの。この方たちが、お医者様ですか?」
「そうだ」
ランパードさんが、再び跪く。
「トリス森王国が一級医術士、ビクター・ランパードです。どうかお見知りおきを。こちらが、助手の」
しまった。本名を伝えるわけにはいかない。偽名なんて、考えてなかった。
「……プ、プル。プル・レムです」
「変わったお名前ですのね。エルフって、初めて見ましたわ」
ウフフ、とファリスさんは微笑む。コホコホと、軽く咳をした。
「大丈夫かっ??」
「え、ええ。……コフコフッ。このぐらいは、どうとでも」
「少し診させて頂きます」
ランパードさんが手を彼女の頭に当てた。厳しい表情をすると、「失敬」と今度は胸に手をやる。
「こ、こらっっ!!何と破廉恥……」
「肺の中を見ているのです。今度は腕を」
服を捲し上げた。右手首には……何も着けていない。
良かった。やはり魔王の勘違いだった。
そもそも、こんなか弱く、大人しそうな子がクドラクなわけがない。
152 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/27(木) 12:38:46.48 ID:IcevcAFHO
ランパードさんが息をつく。
「なるほど。……ここで結果を話しますか?」
「ファリス、お前は」
「……構いませんわ」
一拍、ランパードさんが間を置いた。
「率直に申し上げます。非常に難しい施術を要するかと思います。頭の中、脳内と肺に悪しき塊があるようです。私をもってしても、取り除けるかは……5分」
エストラーダ候が息を飲むのが、私にも分かった。ファリスさんはというと……相変わらず微笑んでいる。
「……5分、か」
「どのような施術ですの」
「一度、痛みを消し深い眠りについていただきます。その上で、私が施術を。
助手もユングヴィから追加で調達しましょう。治癒魔法をかけながらの長丁場になりますゆえ」
「ファリス、お前……」
「御父様。やらねば私は死ぬのでしょう?ならば、やるしかないではないですか」
……凄い子だな。こんなに肚が据わった言葉は、私には吐けない。絶対に慌てふためいてしまうだろう。
「……そうですか。ならば施術の詳しい説明を致しましょう。閣下、場所を変えます」
チラリとランパードさんが私を見た。「空振りか」という落胆の色が見える。
その時、視界の端に何か光るものが見えた。化粧台の上にあるものは……
153 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/27(木) 12:39:17.71 ID:IcevcAFHO
ドクン
鼓動が強くなった。あれは、まさか!?
「おい、どうした……あ」
ランパードさんも、私の視線の先にあるものに気付いたようだった。表情が凍り付く。
そう、そこにあったのは……あのアミュレットだ。
154 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/27(木) 12:40:53.71 ID:IcevcAFHO
第8話はここまで。
トリスの医術は現代の外科に近いものです。薬などの代わりに治癒魔法を使って対応するとお考え下さい。
155 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/08/27(木) 17:15:06.17 ID:5tGRNeOb0
更新来てたか
乙乙
156 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/27(木) 20:30:40.47 ID:f9qjZZ1GO
キャラ紹介
デボラ・ワイルダ(30)
女性。狐耳に少し厚めの唇の妖艶な女性。身長168cm、59kgで豊かな乳房を持つ。子供はいない。
ワイルダ組の組長を亡き夫から継いだ。夫はコボルトで無口な人物であったらしい。元はモリブス裏社会の用心棒的なことを弟のウィテカーとやっていた。
生まれはモリブスで、父親はテルモンのある高名な冒険家であった。アトランティア大陸からの移民である狐人の母親と出会い、姉弟が生まれた。
なお、両親は15年ほど前にオルランドゥ大湖の調査に出たきり行方不明になっている。
冒険者だった両親の伝手でジャック・オルランドゥに師事。その後独立したという経緯があり、魔術の腕は極めて高い。
特に物質の状態を元に戻す「時間遡行」は、世界でも使える人物がほぼいない。なお、父親もその使い手であった。
ワイルダ組の組長(大姐)となってからはそのカリスマ性で高い支持を受けている。南ガリアからの移民も多く受け入れており、人望は厚い。
なお、一度だけエリックと関係を持っている。彼女からすれば夫の仇を射った御礼とのことで、心は依然夫にある。
エリックもそれを知ってか、それ以上は求めていない(というかヘタレなのでできなかった)。
ちなみに、夫の仇は7貴族の一角ゴンザレス家傘下の無頼衆であった。
157 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/27(木) 20:53:00.84 ID:f9qjZZ1GO
余談ですが、時間遡行を使える点からも分かる通り、彼女(とウィテカー)はシデの子孫です。
両親が登場することは多分ないと思いますが、未定です。
158 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/30(日) 20:41:43.32 ID:GOi8ToA6O
第9話
159 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/30(日) 20:43:40.07 ID:GOi8ToA6O
「……施術の流れは以上です」
ランパードさんの説明に「本当に大丈夫なのか」とエストラーダ候が不安がった。
無理もない。頭蓋に穴を明け、そこから病の巣を切り抜くなんて……正直、現場を見たら倒れそうだ。
ランパードさんは難しい顔をして頷く。
「施術には万全の注意を払います。ただ、私の腕をもってしても5分です。
さらに、肺の病も厄介です。脳を何とかした後、こちらにも手をつけねばなりません」
「本当に、助かるんだろうな?」
「お嬢様を助けられるのは、世界では私以外に1、2人かと」
「……分かった。金は幾らでも払う」
「それについては治った後にでも。……ところで、お嬢様は最近変ではありませんか?」
来た。本題だ。
「変……とは?」
「夜いなかったり、あるいは何か部屋で物音がしたり……」
エストラーダ候が首を捻る。
「さて……そもそも、ファリスは数メドを歩くのもやっとだぞ?メイドの助けを借りねば厠で用も足せん」
ランパードさんが訝しげに私を見た。しかし、あのアミュレットは間違いなくクドラクが着けていたものだ。
「朝はどうですか」
「昼まではまず起きん。さっき身体を起こしていたのを見て驚いたくらいだ」
どうもエストラーダ候はファリスさんがクドラクであるかもしれないことに気付いてないようだ。ランパードさんの推測は、やはり正しいのかな。
しかし……昨晩のクドラクの動きは、どう考えても病人のものではなかった。「遺物」が力を与えているとしか考えられない。
そして、ひょっとしたらあのアミュレットこそが……
160 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/30(日) 20:44:18.07 ID:GOi8ToA6O
私は2人の会話に割り込んだ。
「ちょっといいですか」
「どうしたプルミ……プル」
コホンとランパードさんに咳払いをした。流石に正体を知られたらまずい。
「エストラーダ候、お嬢様の化粧台に、アミュレットがありましたが……あれは?」
「おお、気付いたか。外しているのは珍しいと思ったのだ。あれは母親の形見の一つだ」
「形見、ですか」
「そうだ。輿入れの時に持ってきたものでな。あいつの家の家宝であったと聞いている」
「家宝」
「そうだ。常に着けておってな……亡くなる前に、ファリスに託したのだ」
「失礼ですが、奥様も病で?」
エストラーダ候が辛そうな顔で俯いた。
「違う。15年前……自ら命を絶ったのだ」
「え」
「詳しい理由は知らん。ただ、『幸せでした』とだけ……その話は、もういいか」
「……そうですか、すみませんでした」
15年前……「追憶」を使って「思い出させる」には、私の力はまだ十分じゃない。
すごく時間をかければ真相が分かるかもしれないけど、そこまでする必要もないように思えた。何より、そんな余裕はない。
161 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/30(日) 20:44:46.40 ID:GOi8ToA6O
ランパードさんの表情がさらに鋭くなっている。
「その家宝、何か特別な由来が」
「私も詳しくは知らん。ただ、特別なまじないが込められていると聞いたことはある」
「よもや、『遺物』とか」
「まさか。……もう片方の形見は、明らかに尋常のものではないが」
「……そうなのですか?」
身を乗り出すランパードさんに、エストラーダ候が苦笑いする。
「すまん、施術とは関係がない話だな」
「それもお嬢様が?」
「ああ、女物なのでな。一度でいい、あれを着たファリスが見たいものだが……この話は、これでいいだろう」
女物……ドレスか何かかな。エストラーダ候は話を打ち切りたがっている。
ファリスさんがクドラクである可能性は考えてなさそうだけど、何か隠してる気がする。
「失敬。施術の日程を決めたいのですが……少し、助手と相談させてくれませんか」
「ここではダメなのか」
「ユングヴィからも応援が必要ですから。一度、退かせて頂きます。午後にまた、伺わせて頂きたく」
「そうか。では、暫し待とう」
162 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/30(日) 20:45:30.53 ID:GOi8ToA6O
#
「……限りなく黒だな」
エストラーダ邸を出るなり、ランパードさんが口を開いた。
「あのアミュレットと、もう一つドレスか何か。どちらも『遺物』だろう。どんな代物かは分からないが、それでファリスはクドラクになっているっぽいな」
「でも、どうしてそんなことを?それに、あの子が人殺しをするなんて、とても……」
ランパードさんが立ち止まり、エストラーダ邸を見た。2階の彼女の部屋に、人影は見えない。
「そこは分からねえが……実は、クドラクは『2代目』なんだよ」
「え?」
「今から18年前にも、モリブスの要人が次々暗殺される事件があった。3年ぐらいそんなことが続いてな。誰が言い始めたか、その暗殺者は『幽鬼クドラク』と呼ばれるようになった。
犯行の頻度は今のより遥かに少なかったが、手口は酷似してた。俺がモリブスにいるのは、そういう背景もある」
「……まさか」
「さっきの会話で確信した。『初代』はファリスの母親だ。自殺した理由は分からねえが、前のクドラクが消えた時期とはほぼ重なる。
母親の遺志を継いだ、というのは考えすぎかもしれねえが……エストラーダの口振りからして、母親については何か知っていそうだな」
そうだったのか。しかし……どうすればいいのだろう?
私の中に、恐ろしい考えが浮かんだ。
「ひょっとして、施術をわざと失敗して……」
「いや、限りなく黒だがそれはやらないしやれねえ。医術士として、治すものは治す。それが誇りだからな。
ただ施術をするなら、白だと確信した時だ。殺すために治すほど意味のないことはねえよ」
「ならこのまま放置、ですか?」
「それも被害が増えるだけだろうな。悩ましいのは、施術日を決めた場合ファリスが動く可能性があることだ。
『施術するしかない』とか言ってたが、施術中に死ぬ可能性は考えるはずだ。施術日前になったら、確実にクドラクは現れる。もしファリスがクドラクなら、な」
「でも、このまま黙っているわけにもいかないですよね……」
ランパードさんが頷いた。
「一番手堅いのは、施術日を告げた上でその前に動いた所を叩くってことだな。ただ、そのためには対策が欲しい。
『遺物』の性質が分かりゃやりようもあるんだが……」
どこかに「遺物」に詳しい人がいればいいのだけど。
……ひょっとして、あの人なら。
163 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/30(日) 20:46:08.03 ID:GOi8ToA6O
#
「今日はお前だけか」
意外そうにジャックさんが言った。既にウィテカーさんの魔法の効果は切れている。
ランパードさんは「俺は外で待つ」と控えていた。ジャックさんと顔を合わせたくない事情がありそうだけど、そこは今問題じゃない。
「はい。……私がクドラクに襲われたところを、まお……エリックが庇って」
「容態は」
「大丈夫です。デボラさんが治してくれましたので」
ジャックさんがふうと息をつく。
「そうか、あいつらともう会っていたか。俺のことも聞いてるな」
「ええ、後見人だとか」
「一応な。で、俺の所に来たということは収穫があったということだな」
私はクドラクの正体がファリスさんかもしれないことと、アミュレットの話をした。ジャックさんは煙草を吸いながら黙って聞いている。
「それで、アミュレットと……多分ドレスなんですけど。『遺物』だとしたら、心当たりはありますか」
「ちょっと待ってろ」
ジャックさんは本棚から厚い本を取り出す。
「それは?」
「今まで判明している『遺物』の一覧だ。まあ国家の最高機密として秘匿されているものも少なくないが、それでも結構な範囲では押さえられてる。
オルランドゥには『遺物』の研究者もいるからな。管理者たる俺の所にも、ある程度の情報は集まっている。……アミュレットとドレスだったな」
横から覗くと、まるで辞典のように索引がある。……こんなに「遺物」ってあったんだ。
「一応言うが、『遺物』もピンキリだ。『3級』だとただの魔術具に毛が生えた程度の力しかない。普通にそれと知らず売られてたりもするからな」
「……どこにあるのかまで記録されてるんですね」
「こいつは第6版だから、情報は今から5年前時点のものだな。言うまでもないが、この一覧自体がかなりの希少品だ。オルランドゥでも、数人しか持ってないはずだな……と、アミュレットはこの辺りか」
ジャックさんが指差したページには「聖人ディオのアミュレット」とある。挿し絵は……まさしく私が見たあのアミュレットだ。
「『2級』……ですか?」
「等級は評価者が独断と偏見で決めてるからな。そもそもこいつは初版から記述が変わってないから、あまり当てにはならんぞ」
記述を読み進める。……これは。
164 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/30(日) 20:46:35.04 ID:GOi8ToA6O
#
「聖人ディオのアミュレット」
等級:2級
場所:モリブス・ベルチェル家
初出:初版(聖歴402年)
概要:ベルチェル家に伝わる遺物。ミゲル・ベルチェルからの聞き取りを基に記す。
着用者と対象者が接触時、対象者の思考を読み取れる。
夜間に着用した場合、着用者の身体能力を限界突破させる。ただし肉体的・精神的反動も大きく、継続的使用は心身の病に繋がるとされる
165 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/30(日) 20:47:03.05 ID:GOi8ToA6O
#
「ベルチェル家って」
「今から30年ほど前に跡絶えた貴族だ。ロペス・エストラーダの妻がベルチェル家かは知らないが」
……読み直すと寒気がした。これは……ファリスさんの病って、このアミュレットのせいなの??
そして、合点が行った。ファリスさんは、エストラーダ候が本当に何を求めているのかを、これを使って知ってたんだ。あるいは、彼女のお母さんも。
「……さっきお前が言ったこととも符合するな。間違いない、これを使ってファリス・エストラーダは『クドラク』になった。
死にかけの病人でも、これを着けていれば夜に限り無敵の怪人になれるというわけだ」
「……とすると、もう一つのドレスって」
「少し待て。……これか」
166 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/30(日) 20:47:30.43 ID:GOi8ToA6O
#
「フローラのドレス」
等級:推定1級
場所:モリブス・ベルチェル家
初出:初版(聖歴402年)
概要:ベルチェル家に伝わる遺物。ミゲル・ベルチェルからの聞き取りを基に記す。
ロングドレスで色は不定。ただし現物は見せてもらえず。
ベルチェル家の家業に関連するためか?気配遮断かつ視覚の混乱に関連すると推測
167 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/30(日) 20:48:09.38 ID:GOi8ToA6O
#
「……家業?」
「ベルチェル家は昔暗殺者を多く飼っていたらしいな。とすれば、これを使っていても驚かない。
この2つの組み合わせか……なるほど、相性はいい」
ふーっ、とジャックさんは白い煙を吐いた。
「……私が見たあの歪みは、ひょっとして」
「ドレスの生地、だったのだろうな。周囲に姿を溶け込ませる効果か……厄介だな」
「どう対応すればいいんでしょう?」
暫くジャックさんは考えていたが、やがてニヤリと笑った。
「……エリックなら何とかできるな」
「そうなんですか?」
「本人にこの話をしたら、俺と同じ結論に辿り着くはずだ。
まあ、それについては本人から聞いてくれ。ここで出歯亀している奴には聞かれたくないだろうからな」
「え」
ジャックさんは呆れたように灰皿に煙草を押し付ける。
「俺が気付かんと思ったか?部屋の隅だ」
彼の視線の先にはネズミがいた。「しまった」と言わんばかりにそれは穴からどこかに逃げていく。
「あれって……」
「『憑依(ポゼッション)』だな。小動物を操り、感覚を共有する。諜報活動には最適な魔法だ。
使えるのはごく限られたエルフしかいないが、まさかそいつが協力者か?」
「……はい」
嘘をついても仕方がない。それにしても、ランパードさんが盗み聞きとは……正直ショックだ。
ジャックさんは「やれやれ」と首を振った。
「連中を信用しすぎるな。奴らはいざとなれば簡単に裏切る。エリックも言っていただろう」
「……すみません」
「……外にいるのはトリスの高位にある人物か。エリザベート・マルガリータの差し金かもな」
「えっ」
「あの女、馬鹿に見えてなかなかの狸だぞ。まあ、アリスがお前とエリザベート姫を同じ研究室にしたということは、あいつなりの考えがあるんだろうが。
とにかく、奴らを100%の味方とは思わんことだ。奴らは奴らなりの目的があって動いているからな」
168 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/30(日) 20:49:05.03 ID:GOi8ToA6O
#
「どういうつもりなんですか」
開口一番、私は木陰にいたランパードさんを問い詰めた。バツが悪そうに頭を掻きながら、彼が答える。
「ジャック・オルランドゥは、エリック同様俺らを信用してないからな。情報の共有のためには仕方なかった」
「でも盗み聞きなんてっ!?」
「怒るのは無理もねえ。ただ、繰り返すが『俺らと嬢ちゃんたちの利害は一致している』。
俺がこの件について嬢ちゃんたちに不利益になるようなことはしねえ。それだけは誓って言える」
「じゃあ他の件では敵に回るってこともあるんじゃないですか?」
「かもな。ただ、俺の有用性を知っているからこそ、ジャック・オルランドゥは情報を『敢えて漏らした』」
「え」
ランパードさんの目が、一瞬だけ鋭くなった。
「狸はどっちだって話だぜ……食えねえ奴だ。
まあ、俺にエリック・ベナビデスの真価は教えたくないらしいな。『加速』以外に何があるのかは知らねえが。
俺はクドラク討伐が成功すりゃそれでいい。もはやファリスがクドラクだというのは確定的だ。施術日はいつにする?」
「……どちらにせよ、告げたら」
「すぐにファリスは動くだろうな。せっかくだから、施術は明日にでもしておくか。つまり、今夜決着が付くだろうな」
「その前に、いいですか」
「ん?」
「一度、彼女と話してみたいんです。魔王の所に行った後、エストラーダ邸に同行させてくれませんか」
私はまだ迷っていた。ファリスさんがクドラクであるのは間違いない。
でも、目の前で見たクドラクのあの邪気と、儚いファリスさんの印象は、未だに全く重ならないのだ。
もし凶行が「遺物」のせいなら、彼女は殺されるべきじゃない。
救えるならば、救いたかった。たとえ魔王に「甘い」と罵られようと。
「……分かった。とりあえず、4の刻にまた会おうぜ」
169 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/30(日) 20:50:06.51 ID:GOi8ToA6O
#
「ん、戻ったか」
モグモグとシロップ漬けのパイ「バクラバ」を食べながら、魔王が言った。ベッド横のテーブルには、コーヒーと思われる琥珀色の液体が入っている大きめのカップがある。
「随分元気そうね」
「まあかなり寝たからな。んぐっ、お前も食うか」
「……じゃあ一つ」
パイをつまんで口に放り込むと、途轍もない甘さの中に濃いナッツの香りがした。モリブスの料理はとにかく味が濃いのだけど、お菓子もその例外じゃない。
砂糖抜きのコーヒーで口の中を洗いながら食べると美味しいのだけど、単独ではいかんせんくどい。
私がカップに手をやると、魔王が少しムッとした様子になった。
「俺のも残せ」
「もちろん。あむっ……クドラクの正体、あなたの言う通りみたい」
「ファリス・エストラーダか。やはりな」
魔王はふん、と得意気に鼻を鳴らす。私はエストラーダ候とのやり取りと、ジャックさんから「遺物」について聞いたことを告げた。
「……で、施術は明日の予定。ずずっ……多分、今晩クドラクは襲ってくるんじゃないかって」
「迎撃か。策は」
「ジャックさんは、あなたなら自分と同じ結論に達するだろうって言ってたけど」
魔王はまた「バクラバ」をつまんだ。視界にネズミや猫は……いないみたいだ。
「……『アレ』を使え、か」
「それって……前に言ってた『切り札』?」
「いや、それとは違う。あれよりも自分への負担は軽いが、周辺への被害が大きいのは同じだ。
それでもかなり確実に深手は与える。相手の姿が見えないなら、これぐらいしか手がない」
魔王が耳打ちした。……そんな技があるの??
でも、確かにこれなら姿が見えようが見えまいが関係ない。何故なら「避けられない」から。
「デボラたちには、後で説明する。綿密な下準備が必要だからな。そして、ここで重要なのは……『囮』だ」
「まさか、私が囮に?」
「お前しかいるまい。あのエルフにも協力して貰うがな。もちろん、安全は極力確保する」
そう、魔王の策は囮を必要とする。そして誘き寄せた先に……魔王がいる。
「ちょっと待って。ファリスさんがクドラクだとしても……『遺物』のせいだとしたら、救えるかもしれないじゃない?」
「馬鹿か??」と罵られるものだと思っていた。しかし、彼の言葉は予想外のものだった。
170 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/30(日) 20:50:36.78 ID:GOi8ToA6O
「それも道理だ。だから、お前が判断しろ」
「え」
「もし、ファリスが討たれるべきだと思うなら、旧市街の噴水前に来い。作戦を決行する。
救えると思うなら、今晩はジャックの所に身を寄せろ。あのエルフにもそう伝えておけ」
魔王は真っ直ぐ私の目を見ている。私を信頼してくれている、のかな……
私は小さく、でもしっかりと頷いた。
「分かった。あなたの身体は?」
魔王はシロップを舐めとり、静かに笑う。
「休養は十二分に取った。今度は不覚は取らん」
171 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/30(日) 20:51:03.77 ID:GOi8ToA6O
#
それからの数時間の出来事を、私は決して忘れないだろう。
172 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/30(日) 20:52:46.47 ID:GOi8ToA6O
第9話はここまで。バクラバは実在するトルコのお菓子「バクラヴァ」がモデルです。
ヘーゼルナッツやピスタチオが入っており、濃いコーヒーとよく合います。
173 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/30(日) 21:06:26.49 ID:GOi8ToA6O
キャラ紹介
ジャック・オルランドゥ(46)
男性。魔族であり、オルランドゥ魔術学院のオーナーと言える存在。
創立家であるオルランドゥ家は代々魔術学院の運営と研究を陰ながら支えてきた。
ただ、魔族が表立った活動をするのを世間は良しとしないとの判断から、ジャック含め裏方に徹している。とはいえ研究者からの献金で経済的には一切不自由しない。
ジャック本人も凄腕の魔術師であり、魔術研究者。ただ、さる理由で数年来体調を崩しており、車椅子なしではろくに行動もできない。
かつては冒険者としての顔もあったらしく、デボラらの両親とはそこで付き合いがあったようだ。
世間的な知名度はないが、ランパードら一部の上層階級では名が知られた存在ではある。
身長178cm、58kgの痩躯。灰色の髪に白っぽい褐色の肌をしている。体調を崩す前はもう少し体重があったらしい。
魔族を含め、亜人などのマイノリティの支援を行ってもいる。民族融和派のベーレン候とは親しく、実は政策にも関与していたりもする。
エリックの父親ケインとも付き合いが深かったようだ。もちろん「サンタヴィラの惨劇」については疑念を持っており、それがエリックを支援する理由ともなっている。
プルミエールの指導教官であるアリス・ローエングリンとは浅からぬ仲のようだが……?
174 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/08/30(日) 21:12:19.27 ID:GOi8ToA6O
ジャックはヘビースモーカーです。書き忘れました。
言うまでもなく、「崩壊した〜」のジャックの子孫に当たります。なお、ノワールに相当する人物がいるかは未定です。
175 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/08/31(月) 11:23:29.94 ID:4WNLUbcDO
乙です
176 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/03(木) 19:21:11.42 ID:2/zsC842O
第10話
177 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/03(木) 19:22:18.38 ID:2/zsC842O
「ん、来たな」
噴水前でランパードさんは待っていた。左手に持っていた水筒を鞄にしまう。少し、お酒の臭いがした。
「大丈夫なんですか?飲んでて」
「気付け薬のようなもんだ。で、お前さんたちはどうするんだ?何かしら策はあるんだろ」
私は簡単にこれからの動きを説明する。最後どうするのかを決めるのが私だと告げると、少し驚いたような顔をされた。
「ファリスに会わせることは認めたが、そこまでの権限を与えんのか?
そもそも、ファリスは間違いなくクドラクだ。普通に見逃すのはあり得ねえぞ?」
「……分かりません。でも、彼には彼なりの考えがあると思うんです。
それに、もし凶行が彼女の意思ではなく、『遺物』のせいだとしたら?病気だって、あのアミュレットとかのせいなんでしょう?彼女からそれを引き離せば……」
ふーっ、とランパードさんが息をついた。
「俺は嘘をついた。施術の成功確率な、5分は大嘘だ。せいぜい1割っきゃない。
脳と肺の病巣は、アミュレットのせいだとしても取り除くのは困難だ」
「え」
「1割の確率でしか助からねえってエストラーダに告げたら、確実に追い出されるだろ?だからああ言った。
どっちにしろ、ファリスは助からねえ。なら、これ以上の犠牲が出る前に何とかしてえんだよ」
「『遺物』を彼女から引き離せばいいだけじゃないですか?それに、治る可能性はゼロじゃないんでしょう?」
「……まあ、そうなんだがな」
ランパードさんは奥歯に物が挟まった言い方をする。魔王が「エルフは信用ならない」と言った理由が分かる気がした。この人は、いつも核心部分を隠している。
「何かあるんですか?教えてください」
ランパードさんが辺りを見た。
「……ここじゃ話せねえな。俺らに気付いちゃいねえが、向こうに怪しいのがいる」
チラリ、と視線が右を向いた。15メドぐらい先のベンチに、新聞を広げている男性がいる。……離れているけど、かなりの魔力の持ち主なのは分かった。背筋に冷たいものが流れる。
178 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/03(木) 19:23:12.77 ID:2/zsC842O
「お前さんたちが先に進んでないのを察して、モリブスに討伐部隊が集まり始めた。
それについちゃ、後で詳しく話す。この件も、そんなに無関係じゃねえ」
「……!!?」
ランパードさんがゆっくりと噴水から離れ始めた。新聞の男は、動く気配がない。
新市街に入った所で、ようやく彼が口を開いた。
「ここまでくりゃいいか。……『遺物』を奪ったら、その後どうすんのかという話だ。まして『1級遺物』なら、確実に欲しがる奴がいる。殺してでも奪い取りてえ奴もいるだろう。
そして、件のアミュレットとドレスの組み合わせは凶悪だ。副作用が大きかろうと、世界の勢力図を塗り替えかねない程度には。使う人間によっちゃ、最強の暗殺者の誕生だ」
「何が言いたいんですか」
「まず、クドラクが『遺物』使いかもしれねえってことは既に疑われてる。俺のとこにも別のとこから情報が入ったからな。
んで、仮に見逃して命を救ったとしても、このままならファリスは『遺物』目当てにいつかは狙われる。
病人で素人のあの嬢ちゃんですらアレだ。訓練された奴に渡ったら、どうなるかは簡単に見当が付くだろ?」
「……どうやっても、見捨てるしかないってことですか?そんなの……惨すぎます」
「救えるなら救いたいがな」
エストラーダ候の邸宅が見えてきた。ランパードさんは視線を彼女がいるはずの2階へと向ける。
「肝心なのは、一連の凶行に対するファリスの意思だ。もし自ら望んでやったなら……特に一般人の殺害は、全く許されることじゃねえ。
その時は俺も『クドラク』殺害に全面的に協力させて貰うぜ。
もしそうじゃないなら……『遺物』を何とかした上で、明日施術だ。上手く行く自信はないが、全力は尽くす。
幸い、ファリスはお前さんを狙う討伐部隊とは無関係らしい。上手く助けられたら、保護も含めて検討することになるが」
「……彼女に自覚があるかを見極めろ、そういうことですね」
ランパードさんが頷く。
「お前さんにどれだけ人を見る目があるかは知らねえ。ただ、トンチキ姫からお前さんの評価は聞いてる。……信頼するぜ」
179 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/03(木) 19:24:08.35 ID:2/zsC842O
#
「失礼します」
私はファリスさんの部屋に入った。この前のように、身体を起こしてじっと窓の外を見ている。アミュレットは……化粧台の上だ。
「……貴女は、プルさん、だったかしら?」
コホコホと咳をしている。見るからに、少し辛そうだ。
「はい。施術日が決まりましたので、その説明にと」
「エルフのお医者様は?」
「エストラーダ様に説明しております。お嬢様には、私が」
「そう。どのような形で行うのでしょうか」
私は簡単に流れを説明する。ファリスさんは黙ってそれを聞いていた。
「……施術後1、2日は睡眠魔法で眠っていただきます。痛みが抜けましたら治癒魔法と薬湯中心の治療になります。完癒までは、差し当たり術後2週間ですが……」
「その後には、普通に歩けたりするのかしら」
「ええ。ただ、落ちた体力が戻るまでは要療養です」
ファリスさんが小さく息をついた。
「……外の世界は、簡単には見れないのですね」
「……確か、ずっとお身体が」
「ええ。この屋敷の外に出たのは、数えるほどしかないのです。このまま、朽ちていくのは……絶対に嫌」
僅かに口調が強くなった。
「数えるほどしか、外出されたことがないのですか」
「……ええ。お母様に連れられて、幼い頃に何回か。亡くなってからは、お父様が心配して……」
「外に出たいと言ったことは」
ファリスさんが寂しそうに首を振った。
「何回も。でも、お父様は聞き入れませんでしたわ……。あ、お父様のことは愛しておりますわ。でも、このままだと……私は、『誰にも覚えて貰えない』」
「え」
「……もっと色々な人に会いたいし、自分が生きていたという証を……コフコフッ、残したいのです。このまま死ぬのだけは……コフコフッ!!」
「大丈夫ですか?」
辛そうなファリスさんの背中をさする。掌に、薄い紅が見えたのが分かった。
「はあっ、はあっ……ええ、この程度なら」
「でも血がっ!?」
「肺に病があるのですから、当然ですわ。……とにかく病を治さないと……」
この人は、生まれてからずっと籠の中の鳥だったんだ。広い大空に憧れるのは当然だろう。
……私とそんなに歳が変わらないはずなのに、どんなに辛かっただろうか。
180 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/03(木) 19:25:12.00 ID:2/zsC842O
……「忘れられたくない」、か。
自分の人生が無駄だったと思いながら死んでいく。これほど虚しく、悲しいことはない。
なぜ、ファリスさんが死ぬ可能性が小さくない……むしろ高い施術を受けることに躊躇いがなかったか、分かった気がする。
だとすれば、このことは伝えておかないと。
181 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/03(木) 19:25:45.79 ID:2/zsC842O
「……ファリス様、大切なお話があります」
「何でしょう?」
「施術の成功確率です。ランパード先生は5分と仰いましたが……実は、もっと」
うふふ、とファリスさんが笑った。
「自分の身体です。施術が賭けに近いものとは知ってますわ。それでも、生きる可能性がそれしかないなら、私は施術を選びますわ」
「……お強いのですね」
「いえ、それしかないだけですわ」
「それでもです。……私なら、きっと耐えられない」
「……私もですわ」
ファリスさんが一瞬目を伏せた。
「え」
「ランパード先生が来られるまで、私は絶望しておりましたの。このまま、生きる証も残せず逝くのかと。
でも、あなた方が来られて、私は生きようと思えましたの。今までのお医者様で、慰めとはいえ『治せる』と仰った方は、一人もいませんでしたから」
彼女の笑顔に、心が傷んだ。彼女がクドラクだとしても……この子の根は、20の女の子なのだ。真っ直ぐな、芯の強い。
……この子が自分の意思で人を殺しているはずがない。そのはずだ。
182 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/03(木) 19:27:37.84 ID:2/zsC842O
「……私たちが、必ず貴女を治します。ご心配なされないで」
「プルさんはお優しいのですね」
「い、いえっ!?……そんなことは」
「ありますわ。本当のことを伝えて下さった。嘘は、必ず明らかになりますもの……そして、その時どれほど傷付くか」
私は、自分の身分は勿論、姿すら偽っている。それを知ったら、彼女はどれだけ悲しむだろう。
動揺を顔に出さないよう、私は必死で堪えた。
ダメだ、今は真実を明かす時じゃない。
「……私は、ただの助手です。買い被り過ぎです」
「うふふ。謙遜なされないで」
直接、クドラクについて訊こうかとも思った。でも、きっと「知りませんわ」と返されるだけだろう。彼女の人となりを知れただけでも十分だ。
あとは、アミュレットを何とかしないといけない。あれを使わなければ、彼女が凶行を起こすことはないはずだ。
私は、化粧台の上のアミュレットに視線を移す。
「……ところで、あのアミュレットは?エストラーダ様からは、お母様の形見だと」
「ええ。とても貴重なものと聞いていますわ」
「手にとっていいでしょうか?」
「いいですわ」
化粧台に向かおうとしたその時。
「……ゲフゲフ、ゲフッッ!!!ゲーッフゲフゲフッ……!!」
さっきとは比べ物にならないぐらい、ファリスさんが激しく咳き込んだ。口からは、血が一筋二筋垂れている。
183 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/03(木) 19:28:11.97 ID:2/zsC842O
「大丈夫ですかっっ!!?」
「ゲフゲフッッ!!!このぐらい、ゲフッ、平気、ですわ……」
「先生を呼んできますっっ!」
私は階段を駆け降りた。ランパードさんとエストラーダ候を連れて戻ってくると、ファリスさんはハァハァと荒い息を吐いている。
「ファリスッ!!」
「もう、落ち着きましたわ……お父様、心配なさらないで」
「しかし明日施術だぞ?本当に問題ないのか」
ランパードさんがチラリと私を見た。私は頷く。
「……極力早く、お嬢様の体力があるうちに施術をする必要があります。明日、やりましょう」
「そうか……分かった。貴公に委ねよう」
「明日は早めに伺います。本日はお暇致しましょう。……プル、行くぞ」
部屋を去ろうとする私たちを、ファリスさんが呼び止めた。
「お待ちになって」
「何でしょう?」
「プルさんと仰いましたね。……施術が終わりましたら、是非お友達になってはくれません?」
「え」
「同じぐらいの歳の人で、こんなに長く話したのは初めてでしたの。よくって?」
「……はいっ」
私は彼女に微笑む。その瞬間、あることに気付いて、血の気が一気に引いた。
184 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/03(木) 19:28:46.86 ID:2/zsC842O
右手首に、アミュレットがある。
185 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/03(木) 19:29:43.47 ID:2/zsC842O
#
「……どうした、さっきから黙ってるが」
私たちは旧市街に向けて歩く。しかし、着いてほしくないという想いが足取りを鈍らせていた。
「分からないんです」
「クドラクの犯行が、ファリスの意思かどうか、か?」
「はい。……彼女と話していて、しっかりとした、強い心を持った子だと思いました。彼女が人殺しなんてするはずがないって。
でも……去り際、彼女はアミュレットを着けていた。私がランパードさんを呼びに下に行く前は、化粧台にあったのに」
「見間違いじゃねえだろうな」
私は首を振る。そうだったら、どんなに良かっただろう。しかし、間違いない。
そもそも、咳をしたタイミングがおかしかった。あの咳がわざととは思えないし、思いたくないけど……
私がアミュレットに触れるのを避けるためと考えたら、説明がついてしまう。
ランパードさんの目が鋭くなった。
「厄介だな。……もしファリスが自分の意思でクドラクになっているとしたら、それなりに頭は回る。あるいは……」
「私たちは警戒されてる?」
「かもな。エストラーダは信用しきっているが」
私は、騙されていたのだろうか?彼女の言葉に嘘があるとは思えない。でも……行動は確かに不可解だ。
空は茜色から藍色へと変わろうとしている。もう、迷っている時間は、ない。
ランパードさんが、急に空を見て叫んだ。
186 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/03(木) 19:30:19.60 ID:2/zsC842O
「上から来るぞ!!気を付けろっっっ!!!」
視線を上げる。そこには……僅かに歪んだ空が見えた。まさかっっ!!?
ドズンッッッッ!!!
私が駆け出すのと、私がいた地面にナイフが刺さったのは、ほぼ同時だった。
187 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/03(木) 19:33:10.42 ID:2/zsC842O
第10話はここまで。短めの10.5話を近いうちに投稿します。
188 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/03(木) 20:00:18.94 ID:2/zsC842O
キャラ紹介
ロペス・エストラーダ(68)
男性。164cm、60kgの小柄な老人。白髪だが髪量は豊か。口髭を生やしている。
重々しく上から目線の物言いをするが、高圧的ではない。モリブス政界では保守派であり、開放政策には徹底して反対の立場を貫いている。
調整型の政治家であり、平時においては有能。人望はそれなりに厚く、無頼衆に頼りがちな七貴族の中では相当にクリーンでもある。
ユングヴィ教団のネリド大司教との付き合いは深い。権力の源泉ともなっている。
実のところ、汚れ仕事はネリドらがやっている側面は否定できない。勿論、エストラーダもその点は認識している。その意味で清廉潔白ではない。
元の序列は第6位だったが、20年ほど前から政敵の変死などを受け勢力を拡大。現在の地位を手に入れる。
無論エストラーダの周辺は徹底して捜査されたが、何もなく無罪放免となった。
背景には初代クドラク(エストラーダの妻、レナ・エストラーダ)の暗躍があったのだが、その点をどこまでエストラーダが知っていたかは10話時点では不明。
1人娘で妻の忘れ形見、ファリス・エストラーダを溺愛している。
189 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/04(金) 21:04:40.14 ID:p7BjaNK9O
10.5話
190 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/04(金) 21:05:45.29 ID:p7BjaNK9O
お母様が亡くなられた時のことは、はっきり覚えている。
自ら、懐剣で喉を突く日の前の夜だった。お母様が、私の寝室に来たのだった。
「ファリス、起きてる?」
「むにゅ……なあに、おかあさま」
「貴女に、渡したい物があるの」
「え?」
お母様は、ベッドから起き上がった私に、アミュレットと綺麗なドレスをくださった。
「これ、なあに?」
「貴女が大人になってから、着てほしいの。お母様からの贈り物よ」
「なんでわたしにくれるの?」
お母様が急に私を抱き締めた。
「お母様はね、これから遠い所に行くの」
「どおして?」
「……そのアミュレットを着けてごらんなさい」
私は、言われるがままそれを着けた。手首には当然大きすぎて、肩まで行ってしまったけど。
そして、お母様は私の手を取った。
お母様の思考が、頭に流れ込んでくる。
まだ幼かった私には、それが何かほとんど分からなかった。でも、一つだけハッキリ分かったことがある。
お母様は、病気だ。それも、決して治らない病気にかかっている。
191 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/04(金) 21:06:34.15 ID:p7BjaNK9O
「……おかあ、さま?」
「ファリス。お父様に苦労はかけたくないの。だから、『お母様がお母様でなくなる前に』、先に逝くことにしたの」
「やだっ!!!わたし、おかあさまとはなれたくな…………」
お母様が、さっきより強く私を胸に抱き締めた。お母様の目は、涙で溢れていた。
「私だって、貴女やお父様と離れたくないの!でも、これは……定めなの。ベルチェル家に生まれた者の……」
「……やだよぉ……おかあさま、いかないでよぉ……!!」
「……貴女には、長く生きてもらいたいの。だから、これを使うのは、本当に必要な時だけ。……それで、お父様を助けてあげて。私の分まで」
「でもっっ!!」
お母様が、私の額に指を当てた。意識が、急に遠ざかっていく。
「20に……この夜……思い出せる……どうか……」
途切れ途切れの言葉が聞こえた。そして、私は……この数分間の全てを「忘れた」。
192 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/04(金) 21:07:08.12 ID:p7BjaNK9O
#
それが、お母様が使った忘却魔法と知ったのは、20になった半年前のことだ。
そして、私は全てを思い出した。お母様が何者であったのか。何故命を絶ったのか。
私が、何をすべきかも。
193 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/04(金) 21:08:17.25 ID:p7BjaNK9O
#
お医者様たちが帰って行くのを窓から見送り、私はベッドから起き上がった。
身体は鉛のように重い。お母様がかかったあの病は、私の命も奪おうとしていた。
それでも、やらなきゃいけない。お父様のために。そして、私のために。
私の身体は、生まれついて弱かった。お父様は、私を心配して私を極力外に出さずに育てた。
多分、そんなに長くは生きられないとお医者様も仰っていた。これが私の定めなのだと、どこか諦めたように日々を過ごしていた。
それが、20の誕生日に全て変わった。お母様が、私に託したものの正体を知ったからだ。
戦慄しなかったか、というと嘘になる。お母様がお父様のために多くの人を殺めたと知った時、私は心臓が止まりそうになった。
しかし、お母様はそうやって、お父様を支えてきたのだ。そして、お母様は私にその役割を託した。
194 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/04(金) 21:09:05.77 ID:p7BjaNK9O
アミュレットを左手でさする。力が、一気に湧いてきた。
私は、生きていた証ヲ残したイ。それが何であレ、誰かの役にたっタという確かな手応エを得たかっタ。
お母様ハ、これを使いすぎるナと言っていタ。「自分が自分でなくなル」「命を削ル」と。
それハ、間違いナイことだっタ。意識ガ消え、見知らヌ誰かヲ殺めルことガ増えてキタ。
それでモ、奇跡的ニ私を治せル医者が現れタ。まダ、時間ハあル。
クローゼットに向かイ、ドレスを手ニ取ル。
殺サねバならなイのは、あの人ダ。プルミエール・レミュー。彼女が生きてイレば、いつカはお母様ノことハ明らカになル。
そしテ、彼女ハ……医者ト共に現レた。理由ハ分かラナい。でモ、変装していタのは分かっタ。マナが、同ジだっタかラ。
お父様は、彼女ヲとてモ警戒しテイた。お父様にトッテ、彼女ハ……生キテイテハナラナイ存在ダ。
オ父様ハ、私ガクドラクとイウコトをシラナい。ソレでイイ。
ソシて、コレが……サイごノコろシダ。
195 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/04(金) 21:09:56.62 ID:p7BjaNK9O
プルミエールさん、貴女とはもっと別の形で出会いたかった。「追憶」さえなければ……こんなことをしなくてもよかったのに。
……涙が、一筋流れ……
ワタシハ、クドラクニナッタ。
196 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/04(金) 21:22:03.74 ID:p7BjaNK9O
第10.5話はここまで。
補足しますと、彼女の母親はかなりの魔術の素養がありました。彼女もそれを受け継いでいたため、マナからプルミエールを判別できたというわけです。
後半、カタカナ混じりで読みにくくて申し訳ありません。アミュレットと脳腫瘍による精神侵食と人間性の喪失を表現したつもりです。
197 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/04(金) 21:43:06.85 ID:p7BjaNK9O
レナ・エストラーダ(享年32)
女性。ファリス・エストラーダの母。旧姓はベルチェル。30年前に「闇に潜った」貴族、ベルチェル家の最後の当主。
ベルチェル家は暗殺者を多く抱えていたが、当のベルチェル家も暗殺者の一族であった。
権力争いに破れたことで表舞台から姿を消し、裏社会で生きるようになる。
なお、アミュレットとドレスは大昔の装束だったが、副作用の大きさから使うことは厳に禁じられていた。
レナもまた暗殺者として育った。忘却魔法などを使えるのもそのため。
ロペス・エストラーダは元々彼女の標的であったらしい。色々あって雇い主を裏切り、歳の離れた彼の妻となる。愛情は本物だったようだ。
それが故に、当時微妙にうだつが上がらなかったエストラーダを暗殺によって助けるようになる。その際に、禁忌となっていた「遺物」に手を付けた。
結果、アミュレットの副作用で病気(脳腫瘍)を発症。精神に異常を来たし始めていたこともあり、手遅れになる前にと自殺した。
普段は無口だが優しい女性であり、よき妻でありよき母であったようだ。
198 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/09/04(金) 21:43:29.98 ID:mKokXJjl0
乙
199 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/07(月) 21:36:31.50 ID:EdEU0WzCO
第11-1話
200 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/07(月) 21:37:09.96 ID:EdEU0WzCO
誤算だった。まさか素性を知られているとは。
そして、ファリスの意思は存外に強い。俺ともあろう者が、完全に甘く見ていた。
ベルチェル家は、当主を失ってもなおベルチェル家だったということか。
暗殺者としての血筋か、はたまた幼い頃の薫陶か、あるいはあのアミュレットのせいか……とにかく、ファリスの殺意は本物だ。
プルミエールは既に逃げ出している。しかし、彼女は所詮魔法使いだ。身体能力は一般人にも劣る。
……不本意だが、俺が壁になるしかねえな。
腰に下げている刀に手をかける。「遺物」でこそないが、ランパード家に伝わる大業物だ。
ナイフが地面から引き抜かれた。歪みが大きく動こうとした時こそ、最大の好機!
ザッッッ!!!
大きく右足を踏み込み、腰の回転を使って「剣から鞘を抜く」。十二分に加速された初撃は、一撃必殺の威力を以てファリス……いや「クドラク」の背後を斬った。
そのはずだった。
201 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/07(月) 21:37:36.25 ID:EdEU0WzCO
「なっ??」
……手応えが……ない??
いや、違う。まるで風にたなびく布を斬ったかのように、威力が減じられている!?
202 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/07(月) 21:38:42.22 ID:EdEU0WzCO
クドラクが、こちらを向いたのが分かった。
「ジャマスルナ、イシャ」
「ぐっ……行かせるかよっ!!」
日は徐々に沈み始めている。これ以上暗くなると、完全に姿は把握しきれなくなる。足止めできるのは、今しかねえっ!!
俺は逃げ出すクドラクを追いながら詠唱を始めた。プルミエールはさっきの一撃のお蔭で10メドほど先にいる。間に合うはずだ……多分。
「星の力よ、我に力をっ……重力波(グラビディ)っ!!!」
プルミエールに追い付きかけていたクドラクの足が急に止まる。上手く行ったっ!!
荒事はあまり得意じゃねえが、これだけは自信がある。
重力波。見えない波動を当てることで、相手の動きを著しく鈍らせる。これと居合術の組み合わせは、幾度となく俺を助けてきた。
逃げるんじゃねえぞ、今度は確実に斬……
ズズッッ
「……嘘だろ!!?」
クドラクが、プルミエールを追おうとしている。もちろんさっきよりは遅い。しかし……それでも成人女性並みの速さで、彼女を追い始めた!?
「ぐっ……」
俺は刀を握る右手に力を込めた。重力波の効果はそう長続きしねえ。それにしても、あれだけの短時間で動けるようになるとは……怪物だ。
それでも、もう一撃……!!
ズバッッッッ!!!!
脇腹を、熱い物が貫いた。……短刀だ。迅、過ぎる。
203 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/07(月) 21:41:07.90 ID:EdEU0WzCO
「ぐあっっっ!!!」
「ジャマスルナ、トイッタ」
貫かれた場所の傷を押さえる。内臓まで傷は行っていないが、それでも苦痛は苦痛だ。
治癒魔法で血を止めにかかったが、それでももう俺が奴を追うことはできねえ。……完敗だ。
「常識……外れだろうがっ……!!」
プルミエールの姿はかなり小さくなった。クドラクが作る空間の歪みも遠ざかっちゃいるが、一応足止めという目標は達成できた、か。
この分なら、プルミエールは噴水前に辿り着けるだろう。そこからは、ワイルダ組の連中がひたすら遠距離攻撃を仕掛けながら、袋小路にクドラクを追い詰めていく、らしい。
上手く行くかは知らねえ。ただ、最後に魔王エリックが控えているらしいのは分かった。俺に知られたくない、本領を以てクドラクを討つわけか。
しかし……俺の想像以上にクドラクは強い。あんな速度だとは、思いもしなかった。
そして……もう一つ分かったこと。それは……
クドラクは理性のない獣ではない。
204 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/07(月) 21:41:35.00 ID:EdEU0WzCO
奴は俺を「医者」と言った。俺をちゃんと認識できているということだ。
そして、この脇腹への一撃。……恐らく、わざと急所を外している。
なぜか?俺に死なれちゃ困るからだ。クドラクは生きたがっている。自分を治す医者を殺しては本末転倒だ。
つまり……思考能力はちゃんとある。ということは、袋小路で罠を張るエリックの作戦は……見透かされ得る。
「クソがっ……」
俺は何とか立ち上がった。どこに追い詰めるかまでは聞かされてはいねえ。しかし、このままでは、多分……
作戦は失敗する。
205 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/07(月) 21:44:04.13 ID:EdEU0WzCO
短いですが第11-1話はここまで。この回は複数視点で展開します。計5〜6パートです。
第12話から、少しずつエリック視点を増やす予定です。
206 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/07(月) 21:51:56.44 ID:EdEU0WzCO
技・魔法紹介
「重力波」
重力魔法。見えない波動を相手に当てることで、一時的に対象にかかる重力を2倍とする。使い手はかなり限定されており、ランパードはじめ数えるほどしかいない上級魔法。
詠唱を伸ばすことで重力量を増やすことが可能。今回は詠唱時間が取れなかったため2倍どまりだったが、それでも並の相手ではろくに行動ができなくなる。
ランパードは重力波→居合斬りの連続技を得意としており、これだけでかなりの相手を斬っている。
2倍の重力でクドラクが動けたのはランパードの計算外であったが、3倍以上なら目的は達成できたかもしれない。
なお、ランパードの真の切り札はまだ温存されている。
207 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/09/07(月) 22:45:50.62 ID:7ohpvFRI0
乙乙
208 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/10(木) 20:35:41.27 ID:Q6atrxSlO
第11-2話
209 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/10(木) 20:36:35.12 ID:Q6atrxSlO
「来たかい」
「ああ、デボラ義姉さん。向こうから走ってくる」
義弟のラファエルが鼻をひくつかせた。あたしは視線を落としたまま呟く。
「走ってくる?」
「ああ。誰かに追われてるみたいだ」
「プルミエールは今どのへんだい」
「ここから100メドぐらい。もうすぐ着く」
「いきなり異常事態だね」
あたしはサッと手をあげた。身を潜めていた組員たちが、噴水の周りにいる一般人たちを追い出しにかかった。
この辺りはワイルダ組のシマだ。往来はある程度あたしらの好きなようにできる。
だからこそ、ここを作戦の視点にした。周囲への被害は、最小限に抑えたい。
にしても、本来はここでクドラクが来るのを待ち伏せるはずだった。既に追われているのは、かなり計算外だ。
「クドラクがどこにいるか分かるかい?」
「いや、匂いがしない。血の臭いなら、ここから200メドぐらい離れた所に1人。まだ生きてる」
「匂いすら残さないのかい……厄介極まりないね」
掌に汗が滲む。面倒な、一銭にもならない頼みごとを引き受けたもんだ。
だけど、これはワイルダ組にとって必要なことだ。うちのシマを好き放題荒らす怪物は、始末しなきゃいけない。
そして、何より……あたしのためにも。
あれは、あたしの仇かもしれないのだから。
210 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/10(木) 20:37:20.29 ID:Q6atrxSlO
#
父さんと母さんが消えたのは、15年前のことだ。当時から冒険者として十分な名声を得ていた父さんと母さんは、モリブス統領府からの依頼も多く請け負っていたようだった。
その中の一つに、オルランドゥ大湖の調査がある。直径最大1200キメド、北ガリア大陸の中央に位置する巨大湖だ。
その全貌は謎に包まれている。湖の水は多くのマナを含み、そこで生きる生き物は超常のものも少なくないと聞く。
湖にある島から「遺物」が発見されたこともあるという。しかし、恐ろしく危険なため、十分な調査はほとんどなされていない。
かつては湖ではなく、巨大な空洞であったとも言われているけど。
とにかく、父さんと母さんは度々オルランドゥ大湖に赴いていた。2人が消えた日も、いつもの調査と変わらなかった。妙に険しい、父さんの顔を除いては。
『どうしたの、父さん』
『……デボラ、今回は帰りが遅くなるかもしれない』
『……?どういうこと?』
父さんは一瞬言い淀んだ。
『少し、調査範囲を拡げようと思ってね。もし、1ヶ月して帰らないなら、ジャックの元を訪ねるといい』
『……危ないの?』
ハハハ、と父さんは笑った。
『いや、少し遠出するだけだ。きっと戻るから、心配しないでくれ』
父さんが何か隠しているのは、何となく分かった。当時のあたしは15歳。既にジャックさんから、初歩的な魔術も教わり始めていた。物の道理は、ある程度分かる。
『……帰ってきてね』
父さんは笑いながら、母さん譲りの銀髪をくしゃくしゃとやった。
それが、父さんとの最後の会話だ。
211 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/10(木) 20:39:14.75 ID:Q6atrxSlO
父さんと母さんが消え、悲しみに打ちひしがれているあたしたちの耳に、ある噂が入ってきた。
それは、2人を殺したのは、「クドラク」ではないか、ということだ。
クドラクの話は聞いていた。要人ばかりを狙う、見えない殺人鬼。正体は一切不明。手掛かりもない。
噂を聞いた時、まさかと思った。しかし、ジャックさんの元にベーレン侯が来た時、漏れてきた2人の会話はその噂を補強するものだった。
『殺されたとすれば、相手はクドラクか『六連星』だろう』
「六連星」が何かは、今でも知らない。ジャックさんにそれとなく聞いたけど、はぐらかされた。
ただ、クドラクが父さんたちを殺したかもしれないと聞いて、あたしの心に暗い炎が点った。
しかし、それからすぐに……クドラクの活動は止まる。やり場のない怒りを抱えながら、あたしは15年生きてきた。
212 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/10(木) 20:40:36.98 ID:Q6atrxSlO
#
そして、クドラクは再び現れた。仇かどうかは分からない。しかし、心の暗い炎が再び燃えるには、十分だ。
ラファエルの目が鋭くなる。駆けてくるプルミエールの姿が、ハッキリと見えた。
「来たぞっ」
彼女の背後に目を凝らす。辺りは少し暗くなったが、空間の違和感は視認できた。
プルミエールとの距離は……2、30メド。その差は急激に詰まっている。
猶予はない。あたしは立ち上がった。
「野郎どもっっ!!撃てっっ!!!」
一般人に変装していた組員が5人、一斉にハンドボウを構えた。プルミエールが噴水前を通り過ぎると同時に、姿を隠しているクドラクに矢が放たれる!!
パサパサパサッ
「え」
矢が……通らない?外れたんじゃなくて?何かに当たった矢は、枯れた小枝のように地面に落ちる。
「冗談、だろ?」
鎧を中に着込んでるとでも?いや、それじゃあの俊敏な動きは理解できない。あの耐久力……「遺物」の力かっ!?
クドラクは矢に構わずプルミエールを追う。その差はもう5メドまで詰まっていた。
213 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/10(木) 20:41:22.61 ID:Q6atrxSlO
まずいっ!!
「ウィテカーッッ!!!」
あたしは叫ぶと同時に駆け出した。懐にある「魔導銃」を握り、力を込める。
マナ量に比例した「魔弾」を放つ代物だ。あたしなら、一撃必殺の威力になる。
そして、フードを被ってベンチに座っていたウィテカーが、姿を見せた。その姿は……プルミエールに瓜二つ。
あたしたちが足止めのために用意した、もう一つの手段だ。
「…………!!?」
クドラクの移動速度が鈍った。一瞬でもいい、銃を撃つだけの時間を稼ぐっ!!
彼女に変装したウィテカーも、クドラクに向けて走り出す。彼が懐剣を抜いた。
「姉さんっ!!!」
「……コシャクナッッ」
ザシュッッ!!!
……短剣が、ウィテカーを貫いた。
「……姉、さん、今、だ」
崩れ落ちようとするウィテカーに向けて叫びたくなる気持ちを、何とか抑えた。
これは、彼が作った隙だ。それを逃す手は、ない。
あたしは引き金に手を掛ける。
「うおおおおおっっっっ!!!」
ドォォォンッッ!!!
214 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/10(木) 20:41:59.01 ID:Q6atrxSlO
魔導銃から放たれた「魔弾」はクドラクの側面を直撃した。歪みが数メド吹っ飛ぶ。
仕留めたと思ったあたしの喜びは、すぐに絶望へと変わった。
215 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/10(木) 20:42:32.33 ID:Q6atrxSlO
……ゆらり
クドラクは立っていた。空間に、右膝から下が浮かんでいる。傷は負っているようだけど……致命傷じゃない。
「……あ、ああ……」
ゆっくりとクドラクはあたしに近付いてくる。ウィテカーは倒れたまま動かない。早く彼の元に行かなきゃいけないのに、恐怖で身体が……動かない。
「……ジャマダ」
来るべき衝撃に備え、あたしは身を屈めた。
216 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/10(木) 20:43:07.35 ID:Q6atrxSlO
しかし、クドラクは……あたしを素通りすると、再び凄まじい勢いで駆け出した。
「……え?」
何が起きたのか、理解ができなかった。振り返ると、プルミエールの姿は遥か向こうだ。彼女を見失うのを恐れた?
何にせよ、助かったらしいのは確かだった。ウィテカーの元に行くと、夥しい出血で地面が濡れている。「時間遡行」なしでは助からないだろう。
あたしは精神を掌に集中した。幸い、刺されてからは間もない。出血量は酷いけど、何とかなる。そう信じた。
プルミエールはまだ逃げているはずだ。結果的に、時間は稼げたことになる。
217 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/10(木) 20:43:43.43 ID:Q6atrxSlO
最後の頼みは……エリック、あんたしかいない。
218 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/10(木) 20:47:14.97 ID:Q6atrxSlO
第11-2話はここまで。11-3話は多分プルミエール視点で短めです。
219 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/10(木) 20:57:06.14 ID:Q6atrxSlO
設定紹介
オルランドゥ大湖
北ガリア大陸中央に位置する巨大湖。直径は最大1200キロにも及ぶ。ほぼ円のような形であり、水はマナで溢れている。
オルランドゥ魔術都市は、大湖の恩恵を強く受けた都市でもある。
湖の全貌は謎に包まれている。湖には幾つか島があるようだが、人工物があるなど不自然な点も多い。島から「遺物」が発見されたとの噂もある。
湖の生物はどれも巨大で凶暴。湖畔近くは安全だが、中央に行くに従い危険度は指数関数的に上昇する。
多くの冒険者が湖に挑んでは散っているが、巨万の富が得られるかもしれないことから湖に赴く者は後を絶たない。
北ガリア大陸の各国家も調査団を派遣しているが、その成果は徹底して秘されている。
ただ、十分な成果を得られたと判明している事例は、今のところない。
220 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/10(木) 21:05:05.28 ID:Q6atrxSlO
言うまでもなく、オルランドゥ大湖=「穴」です。
ただし塞がれたのではなく湖と化しています。この全貌が明らかになるとすれば、本作からさらに500年以上はかかるでしょう。
なお、jもここに生息していますが、彼女が登場することは多分ありません。
221 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/11(金) 20:47:48.34 ID:n3eshWjqO
第11-3話
222 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/11(金) 20:49:20.69 ID:n3eshWjqO
「はあっ、はあっ、はあっ」
全力で脚を動かす。視界は涙と汗で滲んでいた。
地面を蹴る足音は聞こえない。しかし、後ろから何かが猛烈に迫ってくる予感だけは感じた。
心に過るのは、恐怖と……その倍の後悔。……なぜ私は、あの時ファリスさんに対してもっと強く出なかったのだろう?
私は彼女の前で、クドラクのことを一言も言わなかった。
警戒されたくなかったから?違う、私は彼女がクドラクだと思いたくなかった。だから、あんな迂遠な言い方で彼女を探ってしまった。
止める機会は幾らでもあった。アミュレットを手に取って彼女が咳き込んだ時、見捨てていれば?戻って彼女がアミュレットを着けているのに気付いた時、無理矢理彼女のベッドに向かっていれば?
そうしなかったのはなぜか。……答えは出ていた。
223 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/11(金) 20:49:57.58 ID:n3eshWjqO
「ぐあっっ!!!」
後方から、ランパードさんの叫び声が聞こえた。私は振り返ろうとして、寸前でやめた。
遅くなるから?違う、ランパードさんが傷付いたのを、確認したくなかったからだ。そして、追ってくるのがファリスさんであるという事実も。
私は、何て情けない女なんだろう。
こんなに事実から目を背けようとしている人間が、真実を知る魔法を使う?
……お笑いだ。
224 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/11(金) 20:54:19.06 ID:n3eshWjqO
それでも、逃げないと死ぬ。モリブス旧市街の噴水が見えてきた。せめて、作戦だけは遂行しないとっ……!!
カフェにいるデボラさんが立ち上がったのが、視界の端に見えた。
「野郎どもっっ!!射てっっ!!!」
ワイルダ組の組員たちがハンドボウを構える。そして、一斉に矢が放たれた!
しかし、デボラさんの表情はすぐに固まる。そして、私に向けて駆け出した!?
まずいっっ、もう差は……ほとんどない。
「ウィテカーッッ!!!」
私に変装していたウィテカーさんが姿を現す。
私は息切れして倒れそうになるのをこらえた。ここで倒れたら、全て無駄になってしまう。
目的の袋小路までは、あと300メド。それまでは、何がなんでも辿り着かなきゃ!!
後方で「ドォォォンッッ!!!」という炸裂音が聞こえた。デボラさんが何かしたんだ。
ひょっとして……と思って振り向く。しかし。
225 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/11(金) 20:54:59.89 ID:n3eshWjqO
タタタタタタッッッ
片足だけが、凄まじい勢いで地面を蹴って私を追ってきている。
その異常な光景に、私は戦慄した。明らかに、この世のものじゃない。
226 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/11(金) 20:55:46.43 ID:n3eshWjqO
まだクドラクとの距離はある。でも、息切れが酷い。もう、体力は……限界だ。
「幻影の霧」を使おうにも、これじゃまともに詠唱なんてできやしない。その場に立ち止まれば、どんなにか楽か。
絶望が、私の身体を覆い、押し潰す。
「ワンッ、ワンッ!!!」
……犬?振り返ると、大型犬がクドラクの脚に噛み付こうとしていた。
「……え?」
「グッッッ!!?」
どういうことだろう?しかし、クドラクの脚は止まった。
今の隙に!!私は、最後の力を振り絞る。目的の袋小路が見えてきたっ!!
「ソコニナニカイルナッッ!!?」
ファリスさんが……いや、クドラクが叫ぶ声が聞こえる。私との距離は、もう10メドもない!!
路地の入口まで、残り5メド……間に合って、お願いっっ!!
227 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/11(金) 20:56:35.02 ID:n3eshWjqO
その刹那。路地から黒い影が飛び出てきた。手には短剣が握られている。
「小娘、よくやった……あとは俺が殺る」
「エリック!!?」
彼は私を路地に弾き飛ばすと、低い声で呟いた。
「加速(アクセラレーション)10 音速剣」
228 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/11(金) 20:57:04.27 ID:n3eshWjqO
ザンッッッッッッ!!!!!
周りの家の壁が、真っ二つに切断される。……そして。
クドラクは……ドレスが破れた状態で、はるか後方に吹っ飛んでいた。
229 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/11(金) 20:58:16.78 ID:n3eshWjqO
第11-3話はここまで。次回、ようやくもう一人の主人公のエリック視点です。
なお、犬についてはちゃんと理由があります。
230 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/11(金) 21:16:13.83 ID:n3eshWjqO
武器紹介
「フローラのドレス」
1級遺物。ドレスとあるが身体全体を覆うクロークのような形状であり、周囲の風景と同化させる作用を持つ。
よく見ると周囲とはやや違和感があるが、それでも夜なら判別は至難。
着用者の姿は見えなくなるが、内部からは外が見えるようになっている。極めて軽量。
それだけではなく、一定時間宙に浮くことも可能になる。
ファリスはこれを利用し、自室の窓から飛ぶことで自宅を抜け出していた。帰る時にもこの能力を使っている。
その隠密能力、飛行能力に加え、布とは思えないほどの耐久性が一級遺物である所以。
少々の衝撃なら簡単に吸収する。着用者に致命的打撃が与えられると、その程度に応じてドレスが肩代わりする。
この観点からすると、デボラの攻撃は十分な攻撃力があったことになる。無論、エリックの「音速剣」は言うまでもない。
231 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/09/12(土) 13:31:01.79 ID:6Flt5Rnt0
乙
232 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/13(日) 20:43:09.86 ID:Wb+JqVAEO
第11-4話
233 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/13(日) 20:43:55.72 ID:Wb+JqVAEO
俺がまだガキの頃の話だ。
俺は父上と鹿狩りに出ていた。魔法の実践も兼ねたものだ。
3頭を仕留めて得意気になって帰ろうとした時、それは起こった。
グロロロロロ……
地響きのような唸り声が聞こえた。魔獣??でも、今の自分ならっ!
そんな俺の肩を、父上は押さえた。
『何をするんですか、父上』
『相手が何物か分かっているのか』
『分かりません。でも、俺なら……』
ギロリと睨まれ、俺は硬直した。
『阿呆が。死ぬつもりか?』
『え……何がいるのか、御存知なのですか』
『いや、確信はない。だが、状況を判断しろ。全てにおいて、現状の把握が全てに優先する。……狙いは鹿だろう、置いて立ち去るぞ』
『でもっ、勿体無くは……』
『命より優先されるものはない。俺たちが殺られる可能性は、ゼロではないのだから』
あの勇猛で途轍もなく強い「魔王ケイン」にしては、あまりに臆病なんじゃないか?少しの落胆と共に、俺は背中に背負っていた3頭の死骸を置いた。
その時だ。
『逃げるぞっ』
父上が、俺の手を引いた。次の瞬間。
ゴオオオオッッッ!!!!
上空から炎のブレス??父上がいなければ、丸焦げになっていた。
見上げるとそこには……巨大な紅い龍。
『『加速(アクセラレーション)』だっ!!!』
父上に言われる通り発動する。紅龍はあっという間に小さくなった。
『はあっ、はあっ……す、すみません、父上……』
『言わぬことではない。あれは紅蓮龍『シューティングスター』だ』
『え』
『勝てぬ相手ではない。だが、お前を守りながら戦うのは、困難と察した。
唸り声の質から、奴である可能性をまず考えた。そして不安定な足場、そしてお前の存在。総合的に判断すれば、『加速』を使った逃亡が最善だ。
何も考えずに突っ込むことは勇気ではない。蛮勇だ』
静かに、しかし重く父上は言う。返す言葉もない。俯く俺に、父上は続けた。
『攻めることが悪いわけではない。だが、状況を冷徹に判断しろ、ということだ。何を優先すべきか、誰を救うべきか。その成功可能性はいかほどか。
戦でも政でも、その判断こそが全ての基になる。忘れるな』
『……はい』
234 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/13(日) 20:44:23.62 ID:Wb+JqVAEO
#
その時の記憶は、今でも鮮明に残っている。
父上があれからすぐ後に「サンタヴィラの惨劇」を起こしたから、なおさらだ。
235 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/13(日) 20:45:19.28 ID:Wb+JqVAEO
#
小娘の姿と、その背後にいるクドラクを目にした時、俺は咄嗟にあの時のことを思い出していた。
本来、小娘が路地に逃げ込みクドラクがそれを追ってきたのを迎撃する予定だった。しかし、小娘の体力はもうもちそうもない。
全身が消えているはずのクドラクの右足だけが見えているのも奇妙だった。既に、戦闘は行われていると見るべきだった。
この作戦は、クドラクが見えないことを前提としたものだ。だが、姿が一部とは言え見えるのなら……攻撃方向を限定した、無差別攻撃は必要ない。
何より、もう一刻の猶予もない。小娘を死なせないためには……
ダッッッ!!!
今出るしかない。
「小娘、よくやった……あとは俺が殺る」
「エリック!!?」
俺は小娘を路地へと弾き飛ばす。クドラクは、すぐそこまで迫っていた。
剣を構え、小さく呟く。
「加速(アクセラレーション)10 音速剣」
短剣を薙ぐ。音速まで加速されたその素振りは、衝撃波となり前方にあるもの全てを破壊する。
効果は絶大だ。しかし、細かい狙いが付けられない。だからこそ、路地へと誘い込む手筈だった。
だが、大まかな場所さえ分かっていれば……問題はないっっ!!
ザンッッッッ!!!!!
見えない斬撃が家の壁を両断した。そして、クドラクは……後方へと吹っ飛ぶ。
236 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/13(日) 20:46:49.24 ID:Wb+JqVAEO
殺ったという安堵は、束の間のものだった。
ドレスが散り散りになったのを見て、強烈な違和感をおぼえたのだ。
……なぜ身体が両断されない!!?
「エリック!!!」
「出るな小娘!!終わっては……」
237 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/13(日) 20:47:27.20 ID:Wb+JqVAEO
ゆらり
クドラクが立ち上がった。痩せ細った手足。下着だけの身体には、肋が浮いている。
髪は前へと垂れ下がり、それはまるで、伝承上の……
「……幽鬼だ」
238 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/09/13(日) 20:48:26.09 ID:Wb+JqVAEO
それは無言で俺に猛烈な勢いで向かってくる!!
そんな馬鹿なッ!?あれを食らって生きていることなどっ!!!
ギイィィンッッ!!!
振り下ろされた懐剣を受ける。激しい衝撃が、腕と肩に走った。
この身体で、この膂力。……おかしい。これが、「遺物」の力なのか??
「ジャマヲ、スルナ」
「……死に損ないがっ!!」
身体を捻りながら力を逃す。速度、膂力ともに人外のそれだが、技術では俺に及ばないのは組んでみて分かった。
後方に跳びながら首筋に横薙ぎを入れる!
ヒュンッッ
首だけを器用に後ろにずらした、だと!?
反応速度が、人間のそれではない。「加速」の2倍速を常に使っているような動きだ。
さっき、極一瞬だけ「10倍速」を使った俺の消耗を考えると……かなり厳しい相手だ。長引かせることはできない。
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