タツマキ「このハゲも一緒に暮らすから」ブブキ「はあっ!?」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/07/24(金) 21:47:52.38 ID:5NhpqbcGO
「フブキ様、そろそろ目的地周辺です」
「停めて」

怪人出没の通報を受け、組員が運転するブブキ組御用達の高級車にて現場へ急行した。

「酷いわね……」

そこには瓦礫が散乱していて、肝心の怪人の姿は見当たらず、どうやら私より早く駆けつけたヒーローによって退治された後らしい。

先を越された憤りよりも急いで駆けつけた徒労感が勝り、思わず溜息を吐き、そこでふと気づいた。鉄筋が奇妙に捻れていることに。

それを見て、ゾクリと、『戦慄』が走る。

「この破壊の仕方は、まさか……!」
「如何されましたか、ブブキ様」
「すぐにこの場を離れるわよ!」
「は、はいっ!」

即座に回れ右をして来た道を引き返す。
自分の勘が正しければ、近くに居る。
ある意味、怪人よりも凶悪なヒーローが。

「うわっ!」
「どうしたの!?」
「急にタイヤの接地感がなくなって……!」

しまった。時既に遅かったか。
車窓から外を見ると、そこは空中。
やはり、私の勘は正しかった。

「ブブキ。おうちに帰るわよ」

窓から身を乗り出すと、世界で最も恐ろしい姉である、戦慄のタツマキがそこに居た。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1595594872
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/07/24(金) 21:50:16.93 ID:5NhpqbcGO
「入りなさい」
「お、お邪魔します……」

車ごと連行されたのは高層マンション。
その最上階のフロアの庭に、着地した。
ブブキ組の運転手はそこから紐なしのバンジージャンプを強要されて、既に居ない。

一応、姉の能力によって墜落寸前で一命は取り留めたようだが、落下中のドップラー悲鳴は実の妹たる私ですら恐怖するほどのまさに断末魔であった。

「お邪魔しますじゃなくてただいまでしょ」

という経緯で玄関からではなく、庭に面したベランダから姉の自宅に上がることになった私に、姉はまず挨拶の仕方を注意した。

「でも、ここはお姉ちゃんの家で……」
「今日からはあなたの家でもあるわ」
「いや、私には自分の家が……」
「あなたの家はここ。わかった?」

姉は昔から基本的に人の話を聞かない。
こうと決めたら聞く耳をもたない人だ。
無論、口答えは許さず意味をなさない。

「……はい。ただいま、お姉ちゃん」
「おかえりなさい、ブブキ」

だから私は渋々従う他、選択肢はなかった。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/07/24(金) 21:52:56.26 ID:5NhpqbcGO
「お、来たか。遅かったな、ブブキ」

姉の家はとても広く、部屋数も多くて、そしてそのほとんどが使われておらず、なんて無駄に贅沢だろうと思っていたら、彼が居た。

つるりとしたその禿頭を見違える筈はない。

「サ、サイタマ!? どうしてあなたがこんなところに居るの!?」
「お前と同じく、いきなり連行されたんだよ。とりあえず、ポテチ食うか?」

突然連行されたにしてはまるで抵抗した様子は見られず、どうも部屋の中身丸ごと連れてこられた様子のサイタマはTVゲームをしながらポテトチップスを頬張っていた。

「このハゲも一緒に暮らすから」
「はあっ!?」

状況がわからず、困惑する私を姉は更なる混乱に突き落とす。全然、意味がわからない。

「これは全部、あなたの為なのよ」
「わ、私の為ってどういう意味?」
「ブブキは弱いから、だから私の家で守ってあげる必要があるの。コイツは私が留守にしてる時のボディガードみたいなものよ」
「うっす。よろしくなー」

説明されればされる程、わけがわからない。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/07/24(金) 21:55:18.03 ID:5NhpqbcGO
「じゃ、私は仕事があるから」
「ま、待って、お姉ちゃん!」
「良い子にしてるのよ、ブブキ」

制止虚しく、姉は飛び去った。
残されたのは、私とサイタマだけ。
彼は呑気にポテチを食べながらゲームを続行しており、役に立たない。携帯を取り出す。

「もしもし。私よ。すぐに迎えを……」

ブブキ組の事務所に連絡して、迎えを呼ぼうと試みるも、電話の向こうで轟音が響いた。
何事か問いただす前に、姉の声が伝わった。

『もしもし、ブブキ? あなたの事務所はたった今、潰したから。良い子にしてなさいね』

プツッ。ツー、ツー、ツー、ツー、ツー。

それから何度コールしても無駄だった。
どうやら本当に私の職場は姉によって物理的に潰されたらしく、マンションのベランダから事務所の方角に目を凝らすとうっすらと煙が立ち昇っているのが見えた。滅茶苦茶だ。

「あーあ、畜生。ゲームオーバーか。どうだ、ブブキ。お前もゲームやってみるか?」
「……そうね」

組員の安否やら損害状況やらが気になって仕方ないが、たとえ能力を使って事務所に駆けつけたとしてもそこには姉が待ち構えているに違いないので、私は考えることをやめて、サイタマから手渡されたゲームのコントローラーを受け取った。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/07/24(金) 21:57:19.14 ID:5NhpqbcGO
「そろそろ腹が減ったな」
「そうね。ちょっと冷蔵庫に何か入ってないか見てくるわ」

結局、それから陽が暮れるまで2人でゲームをして姉の帰りを待っていたのだが、姉が帰ってくる気配はなく、空腹を感じたので冷蔵庫があるキッチンへと向かった。

「お姉ちゃん、意外と料理するんだ……」

冷蔵庫の中身はなかなかの充実ぶりで、これだけの食材があれば大抵の料理は作れそうだった。よもや、姉がこんなに家庭的とは。

「さて、調味料は……あ、全部新品なのね」

未使用の調味料を見て全てを悟る。
やはり、姉は料理などしないらしい。
大方、私に作らせる算段だったようだ。

「まったくもう……仕方ないわね」

やれやれと呆れつつも、少しやる気が出た。
そこまでお望みならば、久々に腕を振おう。
明らかに私サイズのエプロンに身を包み、姉の好物を思い出しながら、料理に精を出す。
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