貴方「僕がヒロインを攻略するまどか☆マギカ…オカルト?」マミ「それは終わったわ」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/24(水) 22:38:34.65 ID:UDZ5oLZX0
毒か?
567 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/24(水) 23:33:49.36 ID:M7lmf0rA0


 夕食を食べ終わった頃、なぎさは少しウトウトとしかけていました。

 このまま眠ってしまったら気持ちよさそうですが、今はお客さんも来てますし、お父さんが帰る前に寝たくはありません。


「眠くなっちゃった?」

なぎさ「ん〜、まだそんな時間じゃないのに……ちょっとお水を取ってくるのです」

なぎさ「――――うわっ!?」


 椅子から立ち上がろうとしたのですが、転んでしまいました。

 奇妙な感覚でした。どこにぶつけたわけでもなく、足から力が抜けるようにして崩れたのです。

 ただ眠いだけではこんなふうにはならないと思うのですが……。


なぎさ「いたた……あれ? 何か、おかしい……」

「横になってくれば?」

なぎさ「い、いえ。――……そうだ、治癒魔法を!」

「……ねえ、やっぱりなぎさちゃんは『小さい子』だよ」

なぎさ「え?」

「ダメじゃない。知らないおねーさんに着いてっちゃって、そのうえ知らない人の作ったお料理食べてるんだもん」

「でも、ヘンにマセてるより子供は馬鹿で素直なほうがカワイイと思うよ? なぎさちゃんは悪い子だけど、良い子だね」

なぎさ「ど、どういう意味……なのです?」


 立ち上がろうとしても力がうまく入りません。


「小さいから回りも早いよね。そうして段々感覚もなくなって……最期は眠るように死んじゃうんだ〜」

「『優しい』毒でしょ? 痛みもなく気づかれないままソウルジェムを蝕んで殺すの」

「たっぷり時間を稼げてよかったよ。本当は看取るまでしたかったんだけど……治癒されたら困るものね」

なぎさ「毒……って、まさか……!?」

「料理だけじゃないよ? 毒は二つあるの。一つはさっきの料理に……もう一つはこの空気全体に溶けた霧に」

「毒霧のほうはソウルジェムを蝕み、ついでに魔力を察知する能力を鈍らせる毒。そのおかげで魔法なんて使ってたこと気づかなかったでしょ?」

「料理に使ったのは身体と感覚を麻痺させる毒。毒霧だけでも似たような事は出来るけど、効きを確かめづらいしちょっと時間かかるから」

なぎさ「な、なんで……そんな……契約したてでなにもわからないって……」


 そう言うと、おねーさんはくすくすと笑いはじめました。


「そんなのまだ信じてたなんて! 油断させるための嘘に決まってるのに! 簡単に信じちゃうから〜、なぎさちゃんは小さい子なの」

なぎさ「……!」



――――――
568 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/24(水) 23:35:05.87 ID:M7lmf0rA0
-----------------
ここまで
次回は27日(土)18時くらいからの予定です
569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/24(水) 23:37:06.27 ID:UDZ5oLZX0
乙です

やっぱり毒か・・・この自称新人さんは毒使いだったのか。
そういえば毒に特化した魔法少女って珍しいかも?マギレコの方にもいなかったと思うし。
570 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/27(土) 20:16:57.14 ID:R/3nOHzG0
――――――



マミ「……お口に合わないかしら?」

あすみ「別に。オシャレそーな店らしくなんかオシャレな味してるよ」

マミ「褒めてるのかしら……?」


 こんな微妙な時間じゃファミレスでもランチはやってないだろう。

 安いバーガーでいいと言ったのだが、育ち盛りの子がそんなんじゃダメだとマミが一蹴。

 マミに連れられて入ったのは、今まで縁のなかったようなカフェだった。……まあ、奢りだからいいんけど。


マミ「ねえ、心が読めるってことは本当にあの人は悪い人なんでしょう?」

あすみ「……」

マミ「このままじゃきっと、あの子危ないわよ」

あすみ「私が何言っても聞かないんだし、しょうがないじゃん。忠告はしたんだから私にしては優しいほうだよ」

あすみ「……なぎさに読心のこと言ってなかった以上証拠を提示することもできなかった」

あすみ「そうなりゃ後は考え方と経験の違いってやつじゃん? 私も誰に何言われようが今の考え方を変えるつもりないしね」

マミ「じゃあ、なんで私にだけ話したの」

あすみ「気まぐれ。かもね」


 迂闊だとは思ってた。

 話しすぎるのも、話さないで不利になるのも……だ。後者のことについてはさっきまで考えもしなかったけど。


マミ「……やっぱり気になってるんじゃない? だって、さっきからすごく不機嫌そうな顔してるわ」

あすみ「元からこういう顔だ」


 他人なんか助けようとしたから食われる。この世界で当たり前のことが当たり前に起きてるだけだ。

 ちょっと前に世話してやったからって、一生世話なんてしきれない。

571 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/27(土) 21:05:32.75 ID:R/3nOHzG0


あすみ「…………やっぱこういうとこって値段の割に量少ないね。もう食い終わっちゃった」

マミ「食後には紅茶がついてくるみたいよ?」

あすみ「そうなの? じゃあまだ待ってなきゃいけないのー?」


 ……暇になって、携帯を手に取ってみた。

 手持無沙汰に携帯持ってる奴って多いけど、何やってるのかまったくわからない。最近まで携帯を持ったこともなかった。


 マミには女の子が持ちそうな携帯じゃないと言われたが、そりゃそうだ。

 今持ってるのは前にいた家から取ってきただけだから。いつまで使えるかもわかったものじゃない。


あすみ(もう何か月も経つしそろそろ潮時かもな。そしたら……どうしようか?)

あすみ(なければないでも困んないか。元々大して使う予定もなかったけど、思ったよりは使ったな)


 元はアイツがいなくなったことを怪しまれないためにとチェックしてたはずだった。

 でも今では元から入ってたデータは全部消した。メールのやりとりを見返せば、なぎさとのやりとりばっかり。

 今日の放課後。それ以降のメッセージはない。……一通り見返して、一言だけなぎさに送ってみた。


 『今どこ』


 最後になるかもしれないメッセージ。もう死んでたって何もおかしくないんだから。


あすみ「……ね、暇だからなんか面白いこと言ってよ」

マミ「その無茶ぶりは無理があるわよ……? せっかくだから魔法少女のことについて聞かせてもらえたら」

あすみ「えー、私に話振るの?」

あすみ「魔法少女のことって言われてもなー。この後はなぎさに丸投げするつもりだったし……」


 ……あれ。でもなぎさが死んだらこいつのことはどうする?

 そう思ったところで、さっそく、予想を反してお早いお返事が来たことに気づく。

 いつもとちょっと違う、無愛想な一言で。


あすみ「……はあ?」

マミ「ど、どうしたの? さっきより輪をかけて不機嫌そうな顔をして」

あすみ「そりゃ不機嫌にもなるっての! こんなの予想の斜め上! あいつはどこまで……!」

あすみ「紅茶嫌いだったの思い出したわ。もう出る」



 ――――返ってきたメールには、『なぎさのいえ、おねーさんと一緒』とだけ書かれていた。


572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/27(土) 21:08:34.84 ID:bsjF1IVh0
間に合うか?
573 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/27(土) 21:41:34.75 ID:R/3nOHzG0


あすみ「……何故アンタまでついてきてる?」

マミ「心配してないって言ってたけど、なぎさちゃんのこと助けに行くんでしょう?」

あすみ「別に」

マミ「……違うの?」

あすみ「私はあの女のことが嫌いなんだ。居場所がわかったから殺しに行くだけ」

あすみ「私に狙いが向いてからって思ってたけど、一人潰して浮かれてるとこ想像しただけでも腹が立つ」

マミ「うーん……素直じゃないのか判断しづらいけど……」

あすみ「アンタこそ、死にたくないんだろ。戦いには間違いなくなるよ。標的の家にまで来てその場で決着着けない理由はないもの」

あすみ「だからこそ私も、なぎさに邪魔されずに殺せる現場を狙ってるんだし」

マミ「でも、私も仲間がピンチなのに見捨てるわけにはいかないわよ。なぎさちゃんはせっかく仲間になれそうな人なんだし」


 あー、こいつ。臆病のくせに無駄に正義感あるタイプなんだ。

 面倒くさい。


あすみ「自分が戦力になるとでも思ってるの? 人質にでもとられたらその時は真っ先に無視するわ」

マミ「……っ」

あすみ「居てもいいけど、邪魔はするなよ。それに……私たちが行くころにはなぎさはもう死んでるかもね。それ見ても動揺しない?」

マミ「神名さんこそ……しないの? なぎさちゃんが本当に、死んでても。交友はあったんでしょう?」

あすみ「もちろんしないわ」


 ……そうなってもきっと心は動かない。

 私は今までだって色んなものを失ってきた。あんな最近知り合っただけの子供なんかよりずっと大切なものを。

 そして私は、契約した日からもう何者にも動揺しない力を手に入れたんだ。


 でも、もしも助けられた時はどうかな。そういう意味での『心が動く』は、長らく忘れ去っていて想像もできないけれど。



――――――
574 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/27(土) 22:19:01.53 ID:R/3nOHzG0
――――――



「じゃ、もう種明かしもしたし、さくっとやっちゃおうねー」

なぎさ「!」


 変身したおねーさんの手から魔力の光が洩れます。その直後に放たれたのは針でした。

 それを横に転がって避けます。


「チッ……あぁいけない。まだ動ける力あったの? でも次こそ終わりよ」

なぎさ「おねーさん、治癒魔法は効くって言ってましたよね……? たくさん練習しといてよかったのです!」

なぎさ「少しずつでも回復は出来てる……少し苦しいけど、そんな細い針くらいならっ!」

「掠りでもすればいいのよッ! 今度こそ眠ってもらうわ!」


 足に重点的に魔力を流したおかげで、なんとか動くようには回復しました。

 それでもハンデを負ってるのは事実。その上で――。

 魔法の衣装に身を包み、武器を片手に持って立ちます。


「なぎさちゃ〜ん? お注射の時間だよ〜ッ!!」

なぎさ「っっ!」


 動かれてもどこかには当たるように広範囲に飛ばしたのでしょう。

 掠っただけで効く毒は恐ろしいですが、この針は物理的な破壊力は強くなさそうです。

 ラッパを吹いて自分をシャボンの膜に包みます。


「なにそれ、ずるいっ!」


なぎさ(とはいえ、シャボン玉に針というのは……相性がよくないですよね)


 何発かは耐えられても、防戦一方では勝てない。


「篭もってたっていつかは割れるのよ。諦めなさいよ」

「足掻くのなんて辛いだけだよ……全部諦めて寝ちゃおうよ。苦しまず死させてあげるよ?」


 ……そんなことは、わかっています。



なぎさ「死んでたまるか――――なのですよっ!」



575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/27(土) 22:31:30.31 ID:FiDN+yipO
確かに針にシャボン玉は相性が悪いな
576 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/27(土) 23:29:51.74 ID:R/3nOHzG0


 身に纏うシャボン玉を大きくし、渾身の突撃をかましてやります。

 おねーさんもそれは予想していなかったようで横に倒れて…… そこでシャボンの膜を破りました。

 この隙に再びラッパを吹いて、今度は逆に閉じ込めてやります。


なぎさ「形勢逆転ってやつですよね? これ。えへへ……なぎさも魔女との戦いでピンチになった時にはよく使うわざなのです」

なぎさ「でも、おねーさんには……同じ魔法少女の仲間には使いたくありませんでした」

「仲間……ですって……?」

なぎさ「はい! こんなことしたらメッなのですよ!」

「メですって…………なによ、チビっ子のくせに説教して」

なぎさ「そういうのよくありませんー!」


 新たな針でシャボンを割ろうとしてるのを見て、慌てて追加のシャボンを外側に被せます。


なぎさ「うわわっ、もう! 油断も隙もないのです!」

「それがいつまでも続けられる?」


 おねーさんの声とほぼ同時に、くらっとするような眩暈のような感覚がしました。

 これも毒のせいなんでしょうか?


なぎさ(集中が乱れて、魔法が……)


「ほーら、やっぱり。私の毒霧は『ソウルジェムを蝕む』って言ったよね?」

なぎさ「ソウルジェム……?」


 確認してみれば、見たことのない黒色をしてました。

 咄嗟にグリーフシードを取り出しましたが、飛んできた針に弾かれます。


なぎさ「なっ……!」

「回復なんてさせてあげなーい」

577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/27(土) 23:47:57.69 ID:FiDN+yipO
騙すようなやつだから当然だが性格も悪いな、こいつ
578 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 00:02:50.57 ID:PDF/oUon0


 くすくすと笑う声。


なぎさ「そ、それでも負けません!」


 飛んでくる針。

 この時わずかに反応が遅れてしまいました。


なぎさ「あっ…………!?」


 針が一本腕に掠ったようで、血が滲みます。

 『よう』というのも、その感覚すら遠くなって見てから気づいたから。

 感覚を鈍らせる毒、と言ってましたか。痛みもなく死ぬというのは本当らしいのです。

 ……そんなのはイヤです。痛くなくとも死んでたまるかなのです。


「何、誰?」


 それとほぼ同時にチャイムが鳴り、おねーさんが顔を顰めました。


「あー、父親かぁ。言ってたもんね」


 なぎさもお父さんかと思いましたが、その直後のものすごく乱暴な開け方をされたので違うことはすぐにわかりました。

 当然、おねーさんの意識もそっちに向きます。掠りでも針を命中させたなぎさのことはもう放っておいてもいいと思ったからというのもあるのでしょう。


 ――――その瞬間、響いたのは小爆発の音。

 それと、なぎさにとっては聞き馴染みのある鎖の音でした。

579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 00:27:33.34 ID:FnVYvW6HO
あすみ間に合ったけど流石荒っぽいな
580 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 00:28:10.85 ID:PDF/oUon0
--------------------------
ここまで
次回は28日(日)18時くらい
581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/03/28(日) 00:31:51.59 ID:FnVYvW6HO

次で決着つきそうな感じだな
582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 00:33:24.57 ID:FnVYvW6HO
sage出来てなかった、ごめん
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 15:02:26.93 ID:O5qE7UGn0
ほい
584 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 18:21:42.29 ID:PDF/oUon0


あすみ「何普通にチャイム押してんのさ! こういうのは大体力づくでいけば開くのよ」

マミ「え、それは……なんとなく。でもここなぎさちゃんの家でしょ? ドア壊れてない?」

あすみ「律儀か。どう見てもお取込み中な魔力反応してたんだからこれでいいの」

「あら、あなたたちさっきの……」

あすみ「先手必勝の一撃は防がれちゃったけど、防ぐのに使った腕は壊せたからよしとするわ」

あすみ「にしても、明らかに腕折れてんのに表情変わんないね」

「危険を察知するためにはないと困るものだけど、痛いのが好きな人なんていないでしょ?」

あすみ「おねーさん、あすみよりオトナなのにわかってないなぁ〜。痛いのがイイって変態さんも中にはいるんだよ。私は違うけど」

あすみ「でもそういう人って倒錯しすぎていきなりSとM入れ替わるのも多いから気を付けてね?」

「はぁ、何? きも……」

あすみ「あはは、ごもっとも! それよりなぎさ、よく生きてたね。……あれ? 瀕死? ギリで死んじゃった?」

なぎさ「…………」

「ザンネンだけど、もうすぐ『孵る』よ。なぎさちゃんがいなくなったらきみ友達いなくなっちゃうんだっけ? ダッサい子」

「こうやって喋ってるうちにも――――……」


 おねーさんもなぎさを見ます。そして、言葉を途切れさせました。


「こいつ、なんでこんな怪我を……? ――てっ、ていうか何よこれ! なんでシュークリームなんて口に咥えてるの!?」

あすみ「ふーん……このオモシロ死体、アンタがやったわけじゃないんだ?」

あすみ「まあ、わかってたけどね。お菓子出す魔法なんてなぎさしかいないだろうし」

なぎさ「ひたいじゃないれふ!」


 残りをそしゃく。

 みっともない食べ方になったのは反省ですが、このシュークリームはあすみの想像通り、魔法で出したものです。

 みなさんは中身のクリームだけ先に吸い出すなんて食べ方やっちゃいけませんよ。

585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 18:47:51.45 ID:FnVYvW6HO
孵るって言ったのは魔女化の事は知ってるのか
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 19:16:00.03 ID:1N6gZpAB0
なぎさちゃん、何をしたんだ?身代わりか何かかな?
シュークリーム、たまに中身だけ吸い取ったりしてますw
587 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 19:22:19.78 ID:PDF/oUon0


なぎさ「もぐ……――っ、この前あすみに毒入り菓子を作ってはどうかと言われましたが、これは『ハンタイ』にしてみたのです!」

なぎさ「といっても万能な解毒薬にはなりませんが、毒の成分はおねーさんが喋ってくれましたでしょ? それなら反対の効果にすればいいわけです!」

なぎさ「おかげで痺れも取れてきました。なぎさにはおねーさんみたいな毒よりこっちのほうが合ってると思うのです」

なぎさ「悪いことするなら止めるくらいの力はあるって言いましたよね! なぎさはそこまで弱くはないのですよ!」

あすみ「……はぁ、すっかり忘れてたけど、そういえばアンタも新人じゃなかったわね」

「針が掠った周辺を自分で抉り取るくらい肝が据わってたとはね……正直見くびってたわ」

なぎさ「なんて痛々しい表現! ちょっと爆破して吹きとばしただけです!」

マミ「そっちも十分痛々しいと思うけど」

「でもここはもう私のテリトリー。下準備はとっくに終わってるんだから、増えたって私の有利は変わらないわよ」

「一人は本当にただの新人みたいだし」


 戦いが長引けばそれだけでなぎさたちは負けてしまうということです。

 なぎさもたしかにソウルジェムを蝕むという毒霧のほうは解毒できませんでした。他の毒と違って簡単じゃないからです。

 一度は注意が逸れてる間に魔力を回復できたものの、二度目はそうそうできないでしょう。


あすみ「マミ! アンタはこの家を出来るだけ換気しなさい!」

マミ「わかったわ!」


 魔法少女が二人もいれば足止めはできます。

 後はいつも通りあすみと二人で、決戦を仕掛けるのみ――――なのです。

588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 19:34:45.18 ID:1N6gZpAB0
なるほど解毒剤シュークリームだったのか
周りごと傷口を吹っ飛ばすとか、なぎさちゃん根性据わってるなぁ・・・・・・
589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 19:35:46.99 ID:1N6gZpAB0
なるほど解毒剤シュークリームだったのか
周りごと傷口を吹っ飛ばすとか、なぎさちゃん根性据わってるなぁ・・・・・・
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 19:36:48.89 ID:1N6gZpAB0
あれ?二重投稿にになってる。
申し訳ないです。
591 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 20:28:39.93 ID:FnVYvW6HO
なぎさとあすみの共闘がどれだけ習熟してるかだな
592 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 20:57:42.07 ID:PDF/oUon0

 おねーさんの狙いはやはり広範囲。でもなぎさも範囲には自信があります。

 たくさんのシャボンを周囲に浮かせます。小さい分は脆くはありますが、一発を防ぐには十分です。


あすみ「霧も針も地味だけどウザい攻撃ね……性格の悪さが反映されてるに違いないな」

あすみ「毒って知らなかったら負けてたかもね」


 イラついた様子のあすみ。

 あすみの戦い方といえば、破壊力十分の鉄球で必殺を決める派手な攻撃。おねーさんとは正反対なタイプです。

 普段見ていても、小さい攻撃は無視することも少なくありません。避けるということをあまり重要視してないようなのです。

 もちろん毒針は無視するわけにはいかないのですが、これも相性はよくないのかもしれません。……逆に、毒を無視できれば早い?


なぎさ「でももうなぎさにさっきの毒は効きません! それに解毒はなぎさができますから!」

あすみ「あー、それもそうだったわね? こんなチンケな針……毒さえ効かなきゃ攻撃にもならないよ!」

「あっそ……でももう『優しい』のは終わりだよ」


 するとおねーさんは一気に針の量を増やしてきました。

 なぎさのシャボンでもこの量を食らったら耐えられないでしょう。篭もるのは逆効果――今度は何が来るのか、身構えます。

 いえ、何が来たってやることは同じなのです。最大限に避ける。食らったらその効果と反対に打ち消す。


なぎさ「つっ…………!」


 最初に来たのは痛みでした。

 これは――――なんの毒? そもそも毒なんでしょうか? ただ針が刺さった部分がズキズキと痛んで、痛んで――――。


「単純だけど痛みに怯まない生き物なんていない。生きるのに必要な『痛み』も過ぎればショックで死んじゃうのよ」

「これで死ぬなんて不幸ね。これが一番『優しくない』毒。せめて感覚麻痺を解毒しなければよかったね?」


 新たな針が生成されるのが見えます。解毒――いや、まだ踏ん張れます!


なぎさ「……と、りゃあああ――――っ!」


 ええと、たぶん初めてラッパを鈍器として使いました。

 踏み込んだあとは、なぎさの全体重をかけて床に倒します。おかげで新しい針の攻撃はあらぬ方向に外れていくことになりました。


なぎさ「あすみ! トドメを――ッ!」

なぎさ「あすみ…………? ――ふぎゃっ!」

「いつまでも乗っかんな!」


 軽々と跳ね除けられてしまいます。なぎさの全体重は、おねーさんと比べたらかなり軽いのでしょう。

 いくらなんでもこんなに至近距離で針を食らったらまずい。今度こそ解毒を……!

593 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 21:53:31.04 ID:PDF/oUon0


なぎさ(あれ……?)


 口に鎮痛のシュークリームを咥えつつ、針山にされるのは覚悟してたのですが、攻撃が来ませんでした。

 見てみれば黄色いリボン? でラッピングされたおねーさん。


マミ「換気扇を回して、開けられるところは開けてみたわ! 二人とも無事!?」

なぎさ「なぎさはなんとか……。解毒もできましたし。それよりあなたがやったのです!? すごいですね!?」

マミ「え、ええ!」

なぎさ「それよりあすみは……――――」



――――――
――――――



 『痛み』……それは私が昔怯えていたもの。そして、契約してから感じることのなくなったものだった。


 痛くないから、痛みを与えてくる奴らにも恐怖しない。戦いで攻撃を受けようが恐怖しない。

 ソウルジェムと身体が離れてるから出来る芸当だとキュゥべえは言ってたが、リクツなんてどうでもいい。

 その真実を聞いて絶望する少女もいるらしいが、私は歓喜した。


なぎさ「はいこれ、解毒のシュークリームなのです!」

あすみ「…………っ」

なぎさ「……? 聞いてるのです? もう! こうなのですっ!」

あすみ「むぐっ!? うぐ――……っぶ、あっま……? ……なに、これ」

なぎさ「半分落としてますよ! クリーム吸い出しよりお行儀悪いのですっ!」

なぎさ「無理矢理押し込んだのも悪かったですけど……辛そうだったので。うんんー、もっと食べやすい形にできればよかったかなあ?」


 ……目の前で起きてることが遠くに見えてた。いつもの感覚が戻ってきて、思考も戻ってきた。

 いつのまにかあの女は縛られてて、なぎさとマミも無事だ。

 なにこれ。私だけが無様?

 痛みを味わったさっきから、来なければよかったと心の中で後悔しはじめてた。その気持ちは怒りへと変わる。


 毒の内容は読心でわかってたはずだった。

 ――――魔法少女の使う魔法なら、痛覚を切り離していても効いてもおかしくはない。


 しかし、覚悟していたら私はなぎさのように出来ただろうか?

 いや……踏ん張れないのはきっと私だけじゃない。


あすみ「…………」

なぎさ「……ま、まだ痛いですか? 今小さいの作りますからねっ」

あすみ「ああ、うん。受け取っとく」


 私にプチシューを渡すと、なぎさはリボンで縛られた女のほうに向き合った。

594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 22:01:31.82 ID:1N6gZpAB0
あすみは常時痛覚を切ってたけど今回の「痛み」を伴う攻撃でトラウマが呼び起こされたのか
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 22:14:18.02 ID:FnVYvW6HO
この後確実に血の雨が降るな
596 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 22:38:22.24 ID:PDF/oUon0


なぎさ「おねーさん……もうこれで決着つきましたよね?」

「……これから私をどうする気? 痛いことされた腹いせに、私を嬲り殺しにでもしてみる……?」

なぎさ「怖い事言わないでください! そんなことしたいわけないじゃないですか!」

「私は殺す気だったのに、なんでここまでされて私のこと殺さないの……逆に怖いよ。わけわかんない」

なぎさ「おねーさんもあすみに片腕やられてるので、それでおあいこなのです」

あすみ「……それでいいの?」

なぎさ「おねーさんもあすみも勘違いしてるのです! 魔法少女同士は敵じゃありません!」

なぎさ「ピンチの時は助け合えるし、仲間は多い方がたくさんの人を助けられます! 友達だって多いほうが楽しいのです!」

なぎさ「戦うのも殺し合うのも悲しいだけですよ。なぎさが死にたくないように、おねーさんだって死にたくないでしょ? どうしてわかってくれないんですか!」


 マミは何も言うことなく一歩引いて見守ってた。

 何? なぎさは相変わらず甘い気持ちを引きずってるみたいだけど……本当にこいつもそれでいいわけ?


「グリーフシードは欲しくないの?」

なぎさ「なぎさは必要な分だけあればいいです」

「……なぎさちゃんが欲しくなかったとしても、そういう人がいることを考えられないのはやっぱ小さい子だよ。そのせいで私にやられて」

「でも……こんな子ばっかりだったら平和なのかもね。私だってそりゃあ……死にたくはないよ。本当に、本当に許してくれるの?」

なぎさ「なぎさはおねーさんに裏切られたってわかった時、すごく悲しかったです。でも……許したいのです」

なぎさ「元はと言えばおねーさんを止めるために戦ってたのです! だから……今度こそおねーさんが仲良くしてくれるって言ってくれるなら」

なぎさ「おねーさん、強かったのですよ。これから一緒に戦ってくれるなら心強いです……!」



 ――ああ、わかった。

 今回マミはとくに自分が被害を受けてなかったから、どうでもいいと思ってるのか。



「他の人も……そうなの?」

なぎさ「お願いします! 信じてあげてください!」

マミ「私は他の人に任せる、けど……」

あすみ「いいよ、お友達になりましょう。誰にだって改心の機会は必要よね」
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 22:41:48.55 ID:FnVYvW6HO
マミはあすみの読心を知ってるからあえて様子見してるんじゃね?
598 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 23:31:47.59 ID:PDF/oUon0


あすみ「――――お姉さんってお嬢様なんでしょう? え、父親は県知事やってるの? 私生活窮屈なんだね」

「は…………」

あすみ「あぁ、珍しい苗字だ。そりゃ素性バレかねないし頑なに隠すわけね。そりゃどっかから非行のことがバレたらまずいものね?」

あすみ「学校ではいじめっ子の金魚の糞やってるんだって? 主犯じゃないのがどっか地味なお姉さんらしいなー。でもどっちもクズだとは思うよ?」

「何を言ってるの! で、デタラメ! こいつの言ってること全部デタラメ!」

あすみ「友達になるつもりなのに隠し事ばっかなんておかしいよ!」

「あ、後で言おうと思ってたのよ! でもまだ心の準備が……!」


 それだけは一応本当だ。まあ『先読み』してしまったが。

 そして、つつけばつつくだけ埃のように溢れてくるものだ。


 ……ちょっとイラついてるみたい。でも殺されるわけにはいかないから表に出すまいとしてる。

 もともと強い人には逆らえないタイプみたいだから。


あすみ「ねえ? 自分でも気づいてるみたいだけど、表面上の友達しかいないなんてヘンだよね」

あすみ「お嬢様学校のことも強そうな友達のことも、本当は嫌いなのにアクセサリーにしてるの虚しいね」

あすみ「私たちのこともこれからはアクセサリー扱い? この中の誰よりもおねーさんなのに誰より薄っぺらくない?」

「そ、そんな……こと……!」

あすみ「内心嫌ってるいじめの主犯には逆らう度胸もない癖に、うっかり殺してから変な度胸だけついちゃったんだね……」

あすみ「魔法少女のほうも学校生活のほうも、どっちも自分可愛さに裏切ったり傷つけたりすることばっかり」

あすみ「そんなお友達ができるなんてステキ! ――なんて言うわけねぇだろ!!」


 横っ面に鉄球を一つお見舞い。可愛らしく澄ました顔が醜く歪む。

 正直わざわざ探るまでもないくらい、印象通りの中身だった。


「がは…………っ!!」


 間髪入れずに次を振りかぶる。

 こいつも痛覚切ってるみたいだし私の魔法では嬲り殺す手はないが、私の気が済むまで――――醜く潰れるまで叩き潰してやろうか。


なぎさ「なっ……なにしてるんですか! やめてください――――!!」

あすみ「こんな奴が改心する? 無理だね」

あすみ「クズはクズ肉になるのがお似合いだよ!」

あすみ「どうしても友達になりたいなら、地獄に行ってキレイになってから生まれ変わってこい!」
599 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 23:42:54.58 ID:FnVYvW6HO
やっぱりね
あすみが許すわけないんだよな
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 23:51:00.26 ID:1N6gZpAB0
あすみ編の不届き者さんの時みたいに呪いが発動しなかったのは、そこまで殺意を持ってなかったのかね?
といってもあすみに内心を見透かされてボコボコにされるか・・・・・・
クズ人間は絶対に許さないからな、あすみ
601 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/29(月) 00:47:15.21 ID:z/3KaO4P0


 返り血に濡れる。

 血も涙もない……なんてよく言うけど、それだったらなんでどんなクズにも血が流れてるのだろう?


 『こんな子ばっかりだったら平和なのかもね』


 それには同意するよ。なぎさみたいな人間ばかりだったら、私もこうなってないもの。



 ―――ソウルジェムはもちろん、身体のほうも原型をとどめない肉塊と化した頃にはなぎさもマミも目を覆っていた。

 なぎさも途中まで私を止めようとしていたが、手遅れと判断したのか途中から立ち尽くすだけになってた。



なぎさ「なんでこんなことに……」

マミ「そ、そうよ。これはあんまりだわ……何も殺さなくても」

あすみ「マミには最初から殺すって言ってなかったっけ?」

マミ「だからって……」

あすみ「安っぽい暴言だと思われてたならちょっと癪なんだけど」

なぎさ「一つ聞かせてください……。さっき言ってことって本当なんですか? おねーさんのことどこかで調べたんですか?」

あすみ「実はなぎさには言ってなかった魔法があるんだ。心を読む魔法……といっても自動的に使われるのは私に向けられた『悪意』を含むものだけなんだけど」

なぎさ「じゃああすみは最初からわかってたのですね。なぎさが裏切られるって」

あすみ「うん」

なぎさ「じゃあもう一つ聞かせてください。……さっきはどうだったのですか? さっきも、なぎさたちのこと本当は裏切るつもりだったのですか?」


 そうだと言えばなぎさは納得するのだろうか。


あすみ「いや? 表面上は友達になるつもりだったよ? 少なくとも『あの場では』ね。でもそれだって自分可愛さなんだよ?」

あすみ「あの女の行動原理は全部自分が可愛いから。なぎさを騙して殺そうとしたのも、学校でいじめに加担するのも全部」

あすみ「ならいつか自分が可愛いからって理由で私達を裏切ったり見捨てたりすることくらい想像つくよ。なにより私はクズと一緒に居たくなんてないし」

なぎさ「……」

あすみ「それでもまだいい人になれる可能性はあったって言える?」

あすみ「前言ってたけどさ、魔法少女になるのに必要なのは正義の心じゃなくて『願い』と『素質』だよ。……これでわかっただろ」

602 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/29(月) 01:20:31.46 ID:z/3KaO4P0


あすみ「いざというときに頼れない友達なんて欲しい? そんなの友達だと思わないけど」

なぎさ「なぎさには……っ わかりません」


 なぎさの声が涙で揺らぐ。

 なんか、似合わない臭いこと言ったな。友達なんていらないって思ってたのに。

 でも、なにが友達かっていうなら……ひとつ気づいたことがあった。


なぎさ「信じたかったです。最初のときも、さっきのときも…… 本当に騙されちゃったけど、でも殺すよりは信じたかったんです」

なぎさ「可能性ならあったと思うんです……どんな悪人だってきっとそれは同じで、なぎさがそうできたら一番いいとは思います」

なぎさ「でも……そのせいで傷つく人がいる可能性もきっとあるんでしょうね。それはなぎさかもしれないし、あすみやマミ……もっと違う人かもしれない」

なぎさ「…………だから、わからない」

あすみ「……うん。アンタにしてはよく考えたじゃん」

マミ「私もそれで納得はするけど……もう少しどうにかならなかったのかとは思うわ」

マミ「……殺すにしても、そんな殺し方をする必要はなかったんじゃないの?」


 ……正義感の面倒臭い部分が出た。


あすみ「まぁそこは考え方の違いさね。なぎさの家をどう見ても殺人現場にしちゃったのは素直に謝るよ」

なぎさ「ひっ、そういえばそうです! お父さん帰ってきたら失神しますよ! なぎさだって今にも吐きそうなのに!」


 とまぁ、こんな時にチャイムが鳴った。


あすみ「噂をすれば?」

なぎさ「あああっ、なぎさが出てきます!」


 慌ただしく駆けていくなぎさの腕には、まだ痛々しい怪我があった。

 ……今はあのシュークリームで痛みも抑えられてるかもしれないが、よくあれを耐えて戦ってたものだ。


あすみ「……なぎさのことは頼れるって認めてやるよ。私も正直見くびってた」

なぎさ「えっ? 何か言いましたか?」

あすみ「なんでも!」


 考え方は子供そのものだけど、私より強い一面もあった。

 そんなところは尊敬することにした。


 ――いざっていう時に頼れる。そういうのを『友達』って言うんだろ?

 他人から言われてもしっくりこなかったけど、やっとそう実感をもって思えたから。

――――
――――
603 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/29(月) 01:23:41.29 ID:z/3KaO4P0
------------------------
ここまで
次回は31日(水)20時くらいからの予定です
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/29(月) 08:10:57.19 ID:syiESJIBO

想像以上に血生臭くなったな
605 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/31(水) 20:45:54.68 ID:VcfUkZhS0


なぎさ「……まさかさっそくこういう使い方をすることになるとは思わなかったのです」


 出迎えついでに『よく眠れる』シュークリームを口に押し込んできたらしい。

 一家の主をすやすや寝かせている間に、私がリビングの惨状をあらかた片づけたところだった。


あすみ「まあ、薬も毒も似たようなもんだからねぇ。今回は毒寄りの使い方だけど」

なぎさ「パティシエールのプライドがー」


 それにしても、なぎさもマミもお通夜みたいな顔してるな。

 私からすれば自業自得としか思えないけど。


あすみ「じゃ、ひととおり片づけもも済んだし帰るかな」

マミ「…………」


 なぎさは私の前で空元気出せるだけまだ元気だろうが、あきらかに血の気が失せてるのはマミのほうだった。

 ……さすがになぎさは甘くても『魔法少女』だ。ただの一般人より戦いそのものに慣れてるし、度胸もある。


あすみ「あとなぎさ、こいつのお世話は頼んだから」


 メンタルケアまでしてやる気はないから、ここらでなぎさに丸投げしておくことにした。


マミ「……魔法少女って、あんな人ばかりなの?」

マミ「グリーフシードが欲しいからってあんなふうに殺そうとしてきて……殺しちゃった。しかも、あんなに酷く……」


 マミはまだ心を痛めているようだ。あんな奴の死に。

 私のことも、なんて冷酷な奴だとでも思ってるんだろう。


マミ「こんなのまるで無法地帯よ! こんなことがこれからも起きるの?」

なぎさ「そ、そんなこと……!」

あすみ「無いとはもう言えないよね? 私が見てきた中じゃ一般的な部類だよ」

なぎさ「そ、それじゃ、あすみはあんなことを、何回も……」

606 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/31(水) 21:54:53.32 ID:VcfUkZhS0


あすみ「魔法少女になるのに正義の心は必要ないけど、あれが他の人と違う特別な人間ってわけじゃない」

あすみ「魔法少女は悪い事が簡単に出来てバレない力があるから本性が暴きだされやすいってだけ」

あすみ「契約さえしなければあの女も普通の人生を送れたかもねえ。薄っぺらい友情のもとに人を裏切って虐げ、何の報いも受けない普通の人生を!」


 不要な人はいない、どんな命も尊いなんて綺麗事。

 本物の悪意も憎悪も知らず、想像もできずに生きてきたから言えることだ。

 そう思うと腹が立つ。さっさと帰ろうと思ってたのに。……やっぱり私はメンタルケアなんて似合わないようだ。


あすみ「マミの言う通り無法地帯なんだよ、魔法少女の世界は。強いベテランほど染まってるだろうし、弱い奴は淘汰される」

あすみ「アンタも気をつけなよ? 今は怖い怖いって思ってるかもしれないけど、いずれは力の使い方に慣れて、気づいたらすっかり染まってないように」

あすみ「不正、略奪、闘争……と来たらじきに殺しだってなんとも思わなくなるよ。人によっては最後じゃないけど」

あすみ「……まあ、私はそうなんだよね。『最初』に殺したから」

マミ「それも……殺されそうになったから仕方なく、なの?」

あすみ「ええ。私だって初っ端からそれ以外で殺したいと思うほどクズじゃなかったからね」


 しんと静まり返る。今回のことでみんなも何かを察したんだろう。誰も責めようとする人はいなかった。


なぎさ「……なぎさももう悪い人がいないとは言いません。それでも、誰も信じられる人がいないわけじゃないですよ」

なぎさ「いい人ばかりじゃなくても、きっとあすみの言うような人ばかりでもない。だって、この街にはちゃんと仲間がいるじゃないですか」


 ちょっとだけ世間の苦さを知ったとはいえ、相変わらずの甘く眩しいくらいのなぎさの言葉。

 でも、その一言で不思議と怒りは鎮まった。

 碌でもない世界だと思ってたし、今でもそう思ってる。でも――。


あすみ「……まあ、そう言われたら、それについては綺麗事だとは返せないか」


 ……経験の伴わない綺麗事は嫌いだけど、私も少しは変わったのかもしれない。

607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/31(水) 22:00:24.69 ID:F6datCgf0
魔法を使えることで自分が特別な存在だと思い込んでしまいやすいよね
このマミさんはどんな考えの魔法少女になるのかねぇ
608 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/31(水) 22:38:37.25 ID:VcfUkZhS0

なぎさ「マミもそんなに怖がらないでください! なぎさが守りますから!」

なぎさ「怖い思いはさせないようにします。悪い魔法少女になるのも許しません」

なぎさ「街を守るのは魔法少女の大事な仕事なのですよ。ここは無法地帯にはさせません。なぎさたちで見滝原を守っていきましょう」

マミ「なぎさちゃん…………ええ。よろしくお願いするわ」


 なぎさがマミの手をとる。

 なぎさがあの女に向けようとしてた情熱は、尚更熱量を増してそのままマミに向いたらしい。


 それから、なぎさはどこかへと寂しそうな目を向けた。――空の皿が置いてあるテーブルの上だった。


なぎさ「おねーさんのことも守るって思ってたのにな……やっぱり、すごくショックです。ドリアの作り方教えてくれるって言ったのに……」

マミ「……私が教えましょうか?」

なぎさ「マミもお料理できるですか?」

マミ「ちょっとした趣味程度だけど、それでよければ」

なぎさ「お願いしますです!」


 なんだよ、仲いいじゃんかよ。

 おまけにお洒落料理まで作れるときた。


あすみ「……やっと帰れそうだ」

なぎさ「あすみ、もう帰るです?」

あすみ「うん。お先に」

なぎさ「じゃあまたなのです!」





――――――
――――――
609 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/31(水) 22:49:45.87 ID:bbwW2JTRO
なぎさとマミはやっぱ相性良いのか
610 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/31(水) 23:41:52.84 ID:VcfUkZhS0



 契約してからずっとなぎさひとりだったこの街にあすみがやってきて、そしてまた新しい仲間がふえました!

 マミは最近契約したばかりの後輩だけど、この街のさいねんちょうなのです。


なぎさ「マミ、リボンをつかうの上手になってきましたね! できることも増えてるのです!」

マミ「そうかしら? ふふ……」


 あれからマミとは特訓をしたり、魔女退治に出かけたり、お料理を習ったり。

 特訓は街外れでやってるのですが、ここにはたまにあすみも顔を出しにきます。


あすみ「お、やってる」

なぎさ「あすみ! 見ていくといいのですよ! マミ、とても器用にリボンを操れるようになってきたんです!」


 とはいえ、あすみは本当に顔と口を出す程度。

 直接教えたり一緒に特訓をすることはありません。任せると言ってましたが、本当に任せきりなのです。


あすみ「SMプレイでもすんの?」

なぎさ「じしゃくであそびたいのですか?」

あすみ「え、む! ……どうせわかんないか。つまんないの。マミはわかってそうだけど」

マミ「さあ、なんのことやら……」

あすみ「でもさ……少し過保護すぎない? なにからなにまで面倒見てやって」

なぎさ「マミはまだ新人だし、大切な後輩ですからー。なにかあったら困るのです」

あすみ「まー、任せるけど」

なぎさ「それにマミはちゃんとなぎさが教えたや気づいたことはノートとってるし、えらいのですよ!」

あすみ「……ふーん?」


 そう言うと、あすみもちょっと興味を持ったようす。


あすみ「思った通り細かいわね。わざわざノートにまとめるなんて思いつかなかったわ」

なぎさ「マミはとても真面目なのですよ」



 ……みんなでノートを覗きこんでいると、ふいに、ゴムボールがどこかから転がってきました。


611 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/01(木) 00:03:14.26 ID:ItAIUqyj0


「ねえ、そこの人! 悪いんだけどそのボール取ってくれない?」

なぎさ「これですか?」


 転がってきたボールを投げ返します。向こうには二人の人影が見えました。姉妹でしょうか。

 そのうちの一人、お姉さんのほうがこっちにきたみたいでした。


「ありがと!」


 お姉さんはお礼を言いましたが、そのあと何かが気になるようにこちらを見つめてます。

 言うまでもなく、魔法少女の衣装です。あすみじゃないけど、『変わった格好……』という心の声が聞こえてきそうです。


 ……いつのまに人がいたのでしょうか。これはうかつです。

 ともあれ、ほどなくして軽く頭を下げて去って行きました。ボールと同じ赤色の髪が揺れています。


なぎさ「場所変えたほうがいいですかね?」

マミ「そうね……」

あすみ「じゃあ私は魔女狩ってくるから。さすがに三人は多いでしょ?」

なぎさ「んん、そうですね……また今度なのです、あすみ!」



 マミという新しい後輩ができたのはいいのですが、あすみとの行動も少なくなってきています。

 あんまり三人での行動というのはしないから。

 それをちょっと寂しく思いつつも、なぎさはこの前までより寂しくはなくなりました。


 見滝原を守るという新しい目標ができて、守りたい人ができて、なぎさはまた強くなれた気がします。

 これからこの街はどうなるのでしょうか? また新しい出会いもあるのでしょうか。


 その出会いがいいものだったら、とてもうれしいなと思うのです。



―続・なぎさとあすみの見滝原 『はじめての後輩』END―
612 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/01(木) 00:05:18.45 ID:ItAIUqyj0
-------------------
ここまで
次回は3日(土)18時くらいからの予定です
613 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/01(木) 03:01:09.63 ID:g+XI450XO

最後のは杏子姉妹?
一区切りついたけど続き希望
614 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/03(土) 19:42:41.69 ID:asx4JwnA0
-------------------------------------------------------------------------------

戦いの決着がついたため区切りましたが、続きはほぼ決まってるのですぐにやりましょうか。


ちなみに余談ですが、
無名オリキャラのおねーさんは『悪党すぎないレベルで性格の悪い奴』がテーマでした。
オリジナル魔女図鑑の毒の魔女が原型ですが、能力が使いやすく素性を隠したがる性質が使い勝手が良かったための起用です。
一応白女在学の良家のお嬢様設定ではあるものの、
マミより年上なのでマミが中3になる頃には生きてても誰とも学校が被らない年齢。

すがすがしく悪く描ける使い捨てキャラはなかなかいないのでそういう子は貴重です。
そういう役に出来るのは沙々かオリキャラくらい。

--------------------------------------------------------------------------------
615 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/03(土) 20:28:59.36 ID:Pe0LLK0wO
すがすがしい悪党扱いは良い意味で草
616 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/03(土) 20:40:22.62 ID:asx4JwnA0
――――――――――――――――――
――――――――



 お母さん、お母さん。きいてください。

 あの日お母さんとおわかれしてからもう一年くらいたちました。

 なぎさはこの前の春に新しい学年になりました。今は新しいクラスにもなじんで楽しく過ごしています。


 そうそう、魔法少女のことも、ずっと隠してたけどここなら話してもいいよね。

 この街には魔法少女のお友達が二人もいます。

 途中、あらそいごとが起きたり、友達になりたかったのに拒まれてしまった人もいたけど……この三人は無事です。――この三人は。


 契約したのもあすみと出会ったことも、なぎさにとってはもうすごく前のことに思えます。

 なぎさはたぶん、前より強くなりました。もちろん、あすみもマミもすごく強くなったのですよ!

 魔法少女のことは楽しいことばかりじゃないけど……。きっとこれからもがんばっていけます。



 ……目をあけると、目の前にはお母さん――のお墓があります。

 今日はお父さんと一緒にお墓参りにきていました。



なぎさ「…………」

「なぎさ、もういいのかい?」

なぎさ「うん。いっぱい話せたよ。…………またね、お母さん」



 声は聞こえないけど、ここにいるんだよね? そう思っていても、今でもふと寂しくなる時があるのです。



――――――――――――――――――


 続々・なぎさとあすみとマミの見滝原


――――――――――――――――――
617 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/03(土) 21:50:41.26 ID:asx4JwnA0
――――――
――――



なぎさ「――――マミ! 今ですっ、ぐるぐる巻きお願いするのですよ!」

マミ「ええ!」


 合図とともにまわりの使い魔ごと魔女を捕えるリボン。

 そこになぎさがバツグンのタイミングで仕掛けます。


なぎさ「よしっ! やってやったのです!」

マミ「やってやったわね」


 シャボンが一斉に弾けると、魔女はあとかたもなく消えます。

 マミと二人の魔女退治は今日も無事に終わりました。


なぎさ「使い魔と魔女の動きも味方の動きも、よく見られるようになりましたね。今日もこんびねーしょんはバッチリなのですよー」

マミ「なぎさちゃんが特訓してくれているおかげよ。契約してから今まで、なぎさちゃんがいるから怖くないんだもの」


 怖い思いはさせないって約束したのです。

 それをちゃんと守れてると思うと安心しました。


なぎさ「でも、『れがーれ・ばすたありあ』ってなんなのですか? この前はノートにも書いてありましたけど」

マミ「それは……必殺技よ!」

なぎさ「ひっさつわざ? ゲームみたいなのですか??」

マミ「見滝原は私たちが守るって決めたんだから、この街の魔法少女はこういう魔法少女でもいいんじゃないか……って思ってね」

なぎさ「なるほど……でもそれは一つ大きな問題がありますよ……」

マミ「なにかマズかったかしら?」

なぎさ「なぎさはラッパがあるのでしゃべれません! なぎさもやりたいですー!」

マミ「あぁ、あー……確かにそうだったわね」


 何気ない会話をしながら、魔女結界を抜けたなぎさたちは日常へと帰ります。

 具体的に言うと、マミの家へ。

618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/03(土) 21:55:33.31 ID:Pe0LLK0wO
このマミは銃使いじゃないから火力低そうだな
619 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/03(土) 22:17:44.79 ID:asx4JwnA0


 もちろんなぎさにはなぎさの家があるのですよ。

 でも、マミと知り合ってからはマミのおうちで食べていくことも多くなりました。

 夕方には紅茶を飲んだり、お料理の練習をしたりします。おかげでなぎさもかなりお料理が上達しました。


マミ「今日は作りたいものがあるの。私も初めて試すのよ」

なぎさ「新レシピですか! 楽しみなのです!」


 魔法の特訓はなぎさが教えてますが、料理のほうはマミのが先輩です。お勉強もマミに教えてもらうことがあります。

 たいていのことはマミのほうが先輩なのは仕方ないのです。人生の先輩ですから。


 マミと出会ってから仲良くなるのに時間はかかりませんでした。

 マミは契約してすぐに事故で両親を亡くしていて、一人で住んでいます。

 なぎさのようにお母さんだけじゃないのです。なぎさも寂しいですが、お父さんまでいなくなってたらなんて想像するのも怖いのです。


 でも、一緒にいるときは寂しくないのです! ……きっとマミだって、そう思ってくれてるのです。


なぎさ「必殺技、なぎさにはどんなのが合うでしょうか?」

マミ「そうね……なぎさちゃんだったら、やっぱりシャボン? いえ、ラッパ、トランペット、あえて角笛と捉えても戦場っぽいかしら?」

なぎさ「あすみはどんなのになりますかね?」

マミ「……モーニングスター?」

なぎさ「考えたら使ってくれるかな?」

マミ「断られちゃいそうね」

なぎさ「あすみももっと楽しんで魔法少女やればいいのに」

マミ「そう思ってくれたらいいけどね。途中から考えを変えるのは難しいのかも」


 考え出したら夢がふくらみます。この街の魔法少女はこうでいいというのにはなぎさも賛成でした。

 ――とはいえ、あすみも丸くなったのですよ? 最初からしたら……ですが。

620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/04/03(土) 23:27:24.85 ID:eGG3mVGA0
なぎさがあすみと出会ってから約1年か・・・
あすみはまだホテル暮らしとかしてるのかな?
621 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/03(土) 23:49:15.28 ID:asx4JwnA0


なぎさ(今は携帯もつながらないし……本当にいろいろと大丈夫なのでしょうか?)


 魔女退治の途中で会うこともあります。

 向こうから来る時は訓練場所に顔を出したり、家や学校の近くまで来たりします。

 でも、こっちは普段あすみがどこにいるのかもわかりませんし。聞いてみてもはぐらかした答えしかもらえませんでした。


 マミと同じく家族がいないと言ってましたし、一人なのはあすみもいっしょなのです。なのに寂しくないなんて言うし……。


マミ「家に着いたら、まずは紅茶を淹れるわね」

なぎさ「はい! わーい、楽しみ!」



――――――
――――――



 ――――外は暗くなってきた。



 日付や季節の感覚なんてとっくに狂っているが、時間だけは太陽が教えてくれる。それだけで困ることはない。

 私は気付けばひどく原始的な生活を送っているようだった。


あすみ(そろそろ宿行くか。でも、この前のとこはちょっと怪しまれてきてそうだな……新しいとこにする?)


 宿に長居も出来ないので日中は基本的に外だ。かといって街並みの中に興味を引かれるものもない。

 野宿はさすがにできないから、暗くなれば宿を探す生活。

 安定して居られる場所がない……というのもなかなかにストレスだ。これは1年ほど体験してみての気づき。

 最初は何事にも縛られない自由を謳歌していたが、この無駄に文明の進んだ街の明かりの中ではそううまくもいかなかった。


 街中で寝るのはごめんだけど、案外野宿も悪くなかったりして。なんて、冗談は半分で半分は本気で考えてみる。

 ……そもそも、私は街並みというのが嫌いだ。この街で信用できる仲間が出来たとはいえまた別問題だ。



 実のところ、安定した住み処が欲しければどっかの家を襲って奪うのが一番良い。

 けど、この街に来たばかりの頃だったら実行に移してたかもしれないが、今は躊躇があった。


622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/03(土) 23:53:45.82 ID:Pe0LLK0wO
1年も宿無しとかすげーな、あすみ
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/04/03(土) 23:58:22.63 ID:eGG3mVGA0
あすみん、やっぱりホテル暮らし(?)なのか
怪しまれてるって魔法でのごまかしが効きにくくなってるのかな?
マミに頼めば泊めてくれそうではあるけど・・・
624 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/04(日) 00:25:38.10 ID:L4Y/CL/90


なぎさ『街を守るのは魔法少女の大事な仕事なのですよ。ここは無法地帯にはさせません。なぎさたちで見滝原を守っていきましょう』


 ……なぎさの言った言葉は本当だ。あれから本気でこの街の治安を守ろうとしてるし、実際守れてる。

 最近はみんなベテランになったから狙われにくいが、最初になぎさを襲った奴以降にも無法者が沸いたことは何度かあった。


 そりゃ私だってクズなんて嫌いだ。クズに殺されないためにクズになるより、クズを許さないって考えるほうが良い。

 
あすみ(それでも私ももう戻れない。結局潔白にはなりきれない…… 矛盾してるのが腹立つ)


 正しいことだけして負けないのは恵まれてる人だけ――そして私はそうじゃない。そんなこと、前からわかってたことだけど。

 幸い、無駄遣いする癖はついてないから前の家から持ってきたお金は結構もってた。でもそれもこの前尽きたし。


 ……そういえば、思ったよりは使えていた携帯ももう使えなくなったんだった。ただのガラクタだ。

 データだけは入ってるから、昔のメールを見て懐かしむ……くらいには使えるが、位置情報とか取られてもマズい。

 社会からほとんど接点の消えたアイツがこの世からいなくなったのに気づかれるのは時間がかかったが、ついに行方不明扱いになったらしい。



 街中から遠ざかり、外れまで足を進めてきた。

 人目の届かない草原とかなら寝転んでも心地よさそうかもしれない、と思い始めたところで、ぽつんと建物の明かりが見えた。



あすみ(教会……? こんなところにあったんだ)



 もうこの街は探索し尽くしたと思ってたのに、まだ知らない場所があったのか。

 この辺りって、なぎさがマミに特訓つけはじめた頃に最初だけ使ってたとこだったか。人がいたから移ったんだった。

625 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/04(日) 00:28:22.09 ID:L4Y/CL/90
---------------------
ここまで
次回は4日(日)18時くらい…にできたらいいなあ
626 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/04(日) 00:40:24.73 ID:L4Y/CL/90
---------------------------------------------------
>>623
地の文にどのくらい詳細盛るか迷って没にしたんですが、
毎日同じところに通ってるとさすがに…って感じですね
627 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/04/04(日) 00:43:17.42 ID:pePDi2aa0
乙です

あすみが必要以上になぎさやマミに近づかないのにはやっぱりあんな過去があるからだよね
形態も止まりお金も尽きたとなるとそろそろヤバいかも

ここで杏子の実家の教会登場か・・・
なぎさ達の様子から杏子はまだ契約していないみたいだけど、杏子にあすみが関わることになったらどうなるのか
628 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/04/04(日) 00:45:09.10 ID:pePDi2aa0
>>626

なるほど、わざわざありがとうございます
629 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/04(日) 20:27:54.29 ID:L4Y/CL/90
-----------------------
本日時間とれなさそうでした…
次回は7日(水)20時くらいからの予定です
630 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/04/04(日) 20:36:20.33 ID:pePDi2aa0
>>629
了解です
水曜お待ちしております
631 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/04/04(日) 20:45:06.09 ID:pePDi2aa0
>>629
了解です
水曜お待ちしております
632 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/13(火) 19:15:30.95 ID:FPa9YJ/AO
あ、直ったみたいですね
633 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/14(水) 02:54:00.73 ID:GMWpDg/G0
-------------------
ふっかつ!!
次回は14日(水)20時くらいからの予定です
634 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/14(水) 20:44:22.10 ID:GMWpDg/G0


「もしかして信者さん!?」


 ……どうしようかな、なんて考えてたら声をかけられた。


 見たところマミと変わらないくらいの年に見えるけど、信者って言ったし、そこの教会の人なんだろう。

 勧誘でもされたら面倒そうだしさっさと立ち去ったほうがいい。


「って、違うか…… あれ?」

あすみ「……何?」


 面倒そうって思いが顔に出て伝わったのか、落ち込んだと思うと上を見上げた。

 日が落ちかけて、薄暗く少し濁った色の空。

 ついに私のほうにもぽつりと一粒水滴がおちてきて、こいつが何を気にしてるのか私も理解することとなった。


「やっぱり雨だ。そういえば暗くなったら雨が降るからって言われてたんだった」


 雨はちょうどパラパラと降り始めてしまった。

 たったさっきまで晴れてたのに。天気予報も見ることがなくなってたものだ。誤算だった。雨じゃ野宿はできない。

 というか、傘も持ってない。


あすみ「じゃ、さっさと帰れば? 気づいてるかもしんないけど私は信者じゃないし」


 こいつはすぐそこに家があるんだから。


 ……私のほうは、廃工場とかならあるかもしれないが、さすがにそこで寝泊まりするのは本格的にみすぼらしい。

 本格的にどうしようかと思い始める。街に戻る間にも濡れるだろう。

 このあたりにはろくな建物もないし、トコトンついてないな。そんなイラ立ちを顔には出さないようにして去ろうとする。


 ――なんて思ってたら、急に、雨が止んだ。

 いや、違った。困ってる人に手を差し伸べるように、こいつが私のほうに傘を向けていた。

635 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/14(水) 22:18:32.79 ID:GMWpDg/G0


「傘ないんでしょ? うちによってきなよ。うち、すぐそこなんだ。ほら、そこの教会」

あすみ「……なんのつもり?」


 わざわざ人に差し出しているせいで自分が入りきれてない。

 それはつくづく愚かで、やすやすと信じたくない行為に見えた。


あすみ「勧誘されても興味ないものは興味ないよ」

「勧誘は……ホントは父さんの教えを信じてくれたらいいけど、ムリにはしないよ。止むまで雨宿りに使ってってくれればいいから!」

「父さんと母さんだって、困ってる人はほっとくなって言うだろうしさ」



 行く宛に困ってたのは本当だ。だからまあ、ここまで言われればひとまずどんなものか乗ってやらないこともない。

 もちろん雨宿り以外はする気はなかった。……いつまで降り続くかはわからないが。


 教会の中に足を踏み入れてみると、そこに信者らしき人はいなかった。奥にいるのは項垂れた様子の神父が一人だけ。

 なんとまあ寂れた場所だろうか。その雰囲気には暗いイメージすら感じた。それとも、この手の場所に寄ったことは今までなかったがどこもこんなものだろうか。



「杏子、おかえり。おや、そちらの子は……?」


 それでも神父はこちらに気づくと、明るい顔で出迎えた。


杏子「そこで会った子。雨降ってきちゃったから、うちで雨宿りしていったらどうかって言ってみたんだ」

神父「そうか。それならゆっくりしていきなさい。でも、もう暗いしあまり遅くなると心配だね……」

「おかえり、杏子。帰っていたのね」

「お姉ちゃんおかえり!」


 奥からまた人が出てくる。どことなく杏子に似た女と、杏子より小さい子供だった。


「少し濡れているじゃない。今タオル持ってくるからね。ちゃんと拭かないと風邪を引いちゃうわよ」

杏子「はーい。でも本当、折りたたみもらせてもらってよかったよ。さっきまで晴れてたのに」


 しばらく自分とは無関係な会話だと思って眺めてたけど、こっちにも視線が向いた。


「あなたは濡れていない?」

あすみ「……私はべつに」


 振り始めてすぐに傘に入れてもらったし。

636 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/04/14(水) 22:25:45.06 ID:uUcnYqIh0
あすみが契約前の佐倉家と関わるのは銅転ぶかわからないなぁ
そういえば契約前の杏子と杏子の家族が登場したの何気に初めてですかね?
637 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/15(木) 00:12:25.00 ID:AYjAczSh0


 ああいうとき、人はその行動に聖女でも思い浮かべるだろうか――私は聖職者というものを大して信用してなかった。

 胡散臭そうなイメージ。弱い人たちから集めた金で楽に儲けてるやつら。そいつらもただの人間の一部にすぎない。


 信じるほうが馬鹿らしい。どうせ、困ってるときに神などなんの役にも立たないのだから。


夫人「杏子、最近帰りが遅いみたいだけど何をしてるの?」

杏子「待ってても全然信者さん来ないでしょ? 前まで来てた人も来なくなっちゃったし……」

杏子「父さんはここを空けるわけにはいかないだろうから、あたしも『布教』ができないかって」

神父「気持ちはうれしいが、杏子……お前はそんなこと考えなくてもいいんだよ」

杏子「でもあたしも少しは役に立ちたいからさ! きっと、もっといろんな人に聞いてもらえばわかってくれる人もいると思うんだよ」


 この空間はどうだろうか。教会や聖職者、というよりも――。

 ここに足を踏み入れてからまず抱いた印象は――――『家族』。世界にはありふれていて、でも私が失ったものだった。

 それに私には兄弟もいないしお母さんと二人だけだったから、記憶の中のそれよりとても賑やかに見える。


 私はガランと空いた椅子のひとつに座って、離れたところで会話を聞いていた。

 さっき来たばかりの時以上に自分とは無関係な立ち位置で。

 言ったとおり私に勧誘はしてこない。でもこれって、勧誘や説法を聞かされるよりも面倒そうな会話かも。

638 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/15(木) 00:20:57.98 ID:AYjAczSh0


夫人「……お客さんがいる前でする話じゃありませんよ」

神父「それもそうだ。とにかく、あまり帰りは遅くならないように。心配をかけてはいけないよ」

杏子「わかった……」


 ――雨はまだ降っている。

 暗くなった空の下で輝くステンドグラスからは外の様子はよく見えないが、ザアザアと音がしていた。

 雨を凌げるのはありがたい。しばらくそのまま過ごしていたが、神父が私のほうに寄ってきた。


神父「雨、まだ止まないみたいだね。おうちには連絡できるかい? 今の子は携帯とか持ってるのかな」

あすみ「……いや」

神父「番号がわかるなら、電話を貸すよ。もう遅いし、迎えに来てもらったほうがいいからね」

あすみ「あすみのお母さんは忙しいの。まだまだ……、家には帰らない」


 ……当然嘘。でも前まで本当だったことだから、スムーズに口から出てきた。

 お母さんはいくつも仕事を掛け持ちしていたから、遅くまで帰らないことはよくあった。

 それに遅い時間のほうがお金を稼げるらしい。


神父「そうか……それは困ったね」

夫人「今日はうちで食べていく? これから夕飯の支度をしてくるから」


 断ったほうが面倒くさい相手なら受けてもいいが、さすがにそこまで世話になるのは――と思う。


杏子「で、でもさ……ねえ、分けるぶんってあるの?」


 しかし、杏子が気まずそうに言った一言で察した。

 ガラガラの教会。教会というのは弱い人から集めた金で儲けるものだと思ったが、その人もいなければ成り立つわけがない。

 他人に分け与える余裕もない奴らから毟り取る気はなかった。私は魔力で空腹を凌げるんだから。


あすみ「やっぱいいよ。帰るから。……お母さんが帰った時にあすみがいなかったら心配するだろうし」

あすみ「家に帰ればご飯くらいあるよ。へーき」

杏子「えっ…… あっ、そうだ、傘! それなら傘くらい持っていきなよ! 風邪引いちゃうよ!」


 それすら持っていかないと納得してくれなさそうだから、傘だけ借りることにした。

 自分たちも恵まれてないくせに。持たない者のくせに。身を削ってまで人のために捧げようとするから愚かなんだ。



 …………それにしても、この嘘はあんまりつきたくないな。嘘をつくたびに、心がきゅっと締め付けられている気がした。



ーーーーーー
639 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/15(木) 00:23:58.24 ID:AYjAczSh0
------------------
ここまで
次回は17日(土)18時くらいからの予定です
640 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/17(土) 22:33:20.41 ID:YedeZINr0
--------------------
(普通に忘れて別の予定入れてたことに今気づく…)
(次回は18日(日)18時くらいからの予定です…)
641 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/18(日) 18:50:31.55 ID:jTjW8wNW0
ーーーーーー




モモ「おなかすいたー! 今日のごはん何!?」

夫人「今日はハンバーグよ」

杏子「ハンバーグ!? やった、ごちそうじゃん!」

モモ「……」

杏子「……どうしたんだよ、モモ。うれしくないのか? モモも好きだろ?」

モモ「だって……どうせまたお豆腐なんでしょ?」

夫人「え、ええ。でも美味しく作るから」

モモ「やっぱり! 本物のお肉が食べたいよ!」

杏子「こ、こら。わがまま言っちゃだめだって。そりゃあたしも本物のがいいけどさ……食べられるだけでも感謝しないといけないんだぞ」


神父「……そうだ。我々が口にするものはすべて、神様がお恵みくださった命なんだ。感謝して頂かなければいけないよ」

神父「今日も皆で祈ろう。神への感謝を忘れれば心まで貧しくなってしまう。それが一番恐ろしいことだ」

モモ「……」

杏子「うん……」



 ――教えを説く神父は、子供たちの目にどう映っただろうか。二人は神妙な顔で見つめていた。



神父「心さえ満たされていれば、神はきっと私達を見捨てはしない」



ーーーーーー
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/18(日) 19:58:43.63 ID:wu5QQGIOO
あすみが佐倉家の事情を知ったら、杏子の父親を嫌いそうだよな
大人の身勝手な理屈で子供を飢えさせるな!って
643 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/18(日) 20:00:12.27 ID:jTjW8wNW0
ーーーーーー



 日の高い昼過ぎ、一見外から見えない土手からはよく知った人の気配があった。

 なぎさとマミが訓練場にしている場所だ。


 昨日の雨は朝には止み、すっかり晴れている。



なぎさ「あすみも来てたのですね」

あすみ「あぁ、ちょっと寄り道してみただけ」

なぎさ「どこかにいく途中でしたです?」

あすみ「……いや別に?」


 行き先が辛気臭い教会だなんて似合わない。当然信者になったわけでもない。

 今日はちょっと、用事があるだけだった。


なぎさ「今日こそは一緒に訓練しませんか?」

あすみ「やらない」

なぎさ「え〜っ、なんでですかー」

あすみ「訓練なんて今更だし、実戦で事足りてるよ。それにマミのことは私は面倒見ないから」

なぎさ「じゃあ昨日考えたことがあるので聞いてほしいのです! あすみの必殺技なんですけど――」

あすみ「却下」


 こいつらは真面目に訓練してるのかと思ってたら、私には考えつかないようなことをしてたりする。

 おそらく何かの波長が合ってしまったんだと思うが、ますますわからない世界になってきた。


なぎさ「……なぎさたちが訓練をはじめてから一年も経ちました。あすみも油断はできないかもしれないですよ?」

あすみ「は? なにそれ、何が言いたいの?」

なぎさ「ふふふ、一回マミと手合わせをしてみたらどうかってことです! マミは一年の間コツコツと修行を積み重ねてきたのです。なぎさの指導のもと」

なぎさ「マミにとっても力を測るいい機会になると思うのです。もちろんあすみにとっても……悪くないと思うのですが?」

あすみ「…………」

644 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/18(日) 20:53:46.20 ID:jTjW8wNW0


 私もこいつと付き合ってきて一年超。

 負けん気でも刺激して乗らせようって魂胆は大方読めた。


 さっきから何も言わずに後ろにいる巴マミを見る。それを理解した上でも……あまり興味が沸かない。


あすみ「あー無理無理、そっちでやってて。私はちょっと見に来ただけなんだって」

なぎさ「そ、そうですか……どうしてもというなら仕方ないですが……」


 なぎさは少し残念そうだ。肝心のマミのほうはどうだか。


なぎさ「ところで、どうして傘なんて持ってるのです?」

あすみ「これ、私のじゃないんだ」


 昨日借りた傘。

 ずっと持ってても荷物だからさっさと返しておきたいところだった。

 借りがあるから、というよりは邪魔だから返すってのが大きかった。それだけの用事だ。


あすみ「……もういいかね? 行くよ?」

なぎさ「は。はい。でもちょっとまだ聞きたいのですが……」

あすみ「ん?」

なぎさ「普段って何をしてるのです?」

あすみ「……。何をって」

なぎさ「気になっただけなのです。でも、知り合ってからたくさんたつのにあすみのことは知らないことばっかりなので……」


 そう聞かれれば、今日もいつもの言葉を返す。


あすみ「さあ。テキトー」



 ……なぎさはやっぱり残念そうだった。


645 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/18(日) 20:57:19.36 ID:wu5QQGIOO
あすみ、誘いには乗らなかったか
646 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/18(日) 23:14:07.96 ID:jTjW8wNW0



 ――――なぎさたちがいたトコよりもさらに風見野側に寄った街外れ。

 昨日と同じあの場所は、暗かった時と違い、昼間の光の透き通るステンドグラスが立派な教会らしい雰囲気を作っていた。

 扉の前まで来ると中から声が聞こえる。


あすみ(……歌声? なんかのイベントの最中?)


 合唱というには少ないものの、明るい声に昨日の寂しげなイメージが遠のく。昨日は誰もいなかったけど、ほかの日は少しは信者もくるんだろうか?

 しかし、その中を見れば昨日見たのと変わらなかった。



杏子「あっ、信者さん……じゃ、ないか」



 広い教会の中にいるのは神父の家族だけ。

 扉を開くと歌は止まり、杏子が昨日と同じ期待から落胆に変わるような声をあげていた。……こっちに期待をかけられても困るんだよ。


あすみ「昨日の傘を返しに来ただけだから」

神父「ああ、ありがとう。昨日は何事もなく帰れたかい」

あすみ「あー、おかげさまでね……」

あすみ「ていうか、さっきまでなにかやってたんじゃなかったの? 人、いないように見えるんだけど」

神父「日曜日は礼拝の日だよ。残念ながら信徒の姿はないが、私達だけでも祈りは必要だからね」


 そんな行事のことは知らなかったが、どおりで太陽も高いのにみんな外にいたわけだ。こいつらも、学校はあるだろうし。

 礼拝ってたぶんメインの行事。そこに人がいないってことは楽観的な思考を持つまでもなくほぼ壊滅状態ってことだ。これで成り立ってると言えるのか。

 こんな宗教に興味はないが、疑問はいろいろ沸いた。

647 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/18(日) 23:22:23.15 ID:jTjW8wNW0


あすみ「何を祈ってるの?」

神父「世界がよりよくなることだよ。飢え、貧困、戦争、病気……あらゆる不遇の運命と苦しみにあえぐ人々をお救いいただけるように」

あすみ「その中に自分たちは入ってないの?」

神父「苦しむ人々は大勢いる。自分たちのことだけを考えていてはいけない。きっと、神も耳を傾けてくださらないだろう」

あすみ「……祈ったところでどうにかなるの? 苦しむ人が救われるのが神様のおかげなら、救われないのも神様のせいじゃないの?」

神父「…………」


 神父は、黙った。

 今まで優しげに語っていたその表情も、声色も、消え去って。――ただただ、悲しそうな目をしていた。


杏子「……教えを信じない人に押し付けることはしないけど。ただ、一人でも多くの人が他人のことを思って、この教えを信じていれば……苦しむ人も減る」

杏子「そうは思わない?」


 そうだな。そういうことにしておいてやろう。


 けど、現実問題無理な話じゃないか? 現にこの教会には誰も集まっていないのだから。

 土台無理なことを唱えていたって意味がない。


神父「礼拝を再開しようか」

あすみ「私は出てったほうがよさそうね」

神父「教会は自由な場所だ。神は皆を平等に愛しておられる。好きに出入りして構わないよ」


 神父もこの一家もいい人ではあるんだろう。

 とはいえそう言われたところで、今のこの雰囲気の中で過ごしたいとは思わなかった。

 けど、この建物の外ならしばらくはいてもいいかもしれない。都会よりは居心地がいいし、小さく聞こえる歌を環境音にするくらいなら悪くはない。


 ……やること、ないもんなぁ。


648 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/18(日) 23:30:29.78 ID:jTjW8wNW0
-------------------------
ここまで
次回は23日(金)20時くらいからの予定です
649 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/18(日) 23:32:15.71 ID:wu5QQGIOO
人の悪意を散々見てきたあすみに神の教えなんて現実を見ない綺麗事に過ぎないからなぁ
650 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/18(日) 23:34:04.47 ID:wu5QQGIOO

651 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/04/29(木) 20:52:58.19 ID:SLIgD1nH0
またVIPが繋がらなかった為か更新きてないなぁ・・・
652 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/08(土) 20:09:18.04 ID:QSjDHuiE0
---------------------------------
私事ですが、少し前に目を手術しましてしばらくお休みしてました
ぼちぼち再開します
653 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/08(土) 22:39:46.35 ID:uhwJLzBi0
目の手術って・・・スレ主さん、大丈夫なんですか!?
ご無理はなさらないでくださいね。
654 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/09(日) 19:52:38.82 ID:ChMpD05+0
再開は嬉しいけど無理はしないで
655 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/09(日) 21:38:07.07 ID:TdKu0VZq0
------------------------------------------
視力矯正目的なのでとくに怪我とかではないですよー
心配してくださってありがとうございます
656 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/09(日) 22:03:38.55 ID:TdKu0VZq0



あすみ(……魔女でも狩ってくるか、魔法少女らしく)



 ――――しばらくボーッと時間を潰していたが、思い立って立ち上がる。

 いつまでもこうしてても仕方ない。やるべきことは大してないが。


 街の方へ足を向けて歩いていると、その途中でばったりと見知った人物に出くわす。それは、まだ日が高かった時にも見た顔だった。



なぎさ「あっ、あすみ」

あすみ「…………訓練終わったんだ」



――――――
――――――



 ――――あすみとはさっきぶりです。

 あすみの言うとおり今は訓練が終わって、その帰りでした。


なぎさ「はい! さっきぶりなのです!」

あすみ「で、帰るの?」

なぎさ「はい。今日はおやすみの日なので、あまり遅く帰るとお父さんもきっと寂しくなっちゃうのです」

あすみ「あー……そーだね」


 いつもどおり、興味のなさそうなそっけない返答です。

 あすみのほうは、訓練の途中に会った時に見た傘はさすがにもう手元からなくなっています。


なぎさ「あすみのほうももしかして今帰りなのです? お友達に会ってきたんですよね?」

あすみ「友達ィ? いや違う。別にそういうんじゃないから。そういうのいないって前言わなかったっけ?」

なぎさ「でもそれけっこう前ですよ?」

あすみ「その時から何も変わんないよ」


 あすみはそう言いましたが、あすみの場合は照れ隠しもあるので勘違いなのかはよくわかりません。

 たしかに前に友達がいないとは聞きました。でも実際その直後に一人は増えたのです。あすみもなぎさのことを友達だと言ってくれたのですから。


 ……でも、あれからなぎさがマミと一緒にいるようになって、今はあすみとは少し離れてしまったように感じます。

 というより、二人なら変わらなくてもマミがいると少し遠慮しているような。マミとはまだそこまで親密になれていないのかもしれませんが――。

 マミがいても、それはやっぱり寂しく思うのです。それに、もっと遠慮せずに頼ってほしいですから。

657 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/09(日) 22:54:16.36 ID:+XKjsuNi0
>>655
怪我とか病気でなくてよかったです。
658 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/09(日) 23:30:17.96 ID:TdKu0VZq0

あすみ「じゃ、こっちはこれから魔女狩りだから」

なぎさ「あっ、これからですか? じゃあなぎさも行きます!」

あすみ「帰るんじゃなかったの? お父さん待ってるんでしょ。帰ってやりゃいいじゃん」

なぎさ「んー、さっきはそう言ったけど…………」


 一緒に行くことも減ってしまったから、行けるときには一緒に行きたい。

 けど、そう言われると。


なぎさ「なら明日でどーでしょうか? 放課後の時間、マミも誘って三人でいくのです」

あすみ「三人も要る? いつも二人で行ってるんでしょ? 遊びじゃないんだし、余計に人増やしても意味ないよ」


 ……こういうところの考え方はあすみは本当に厳しい。でも、ちゃんとメリットがないわけじゃないはず。


なぎさ「手合わせは断られちゃいましたけど、同じ街にいるからにはほら、たまには連携とか! 試してみても損はないと思うのですよ」

なぎさ「こっちは『前に見た時と変わらない』、とは言わせませんから! なぎさもマミも毎日鍛えてますからねっ」

あすみ「…………」



 数秒の考えるような間。考えるまでもなく一蹴されないのなら上出来です。



あすみ「……そこまで言うならわかった。明日ね」

なぎさ「はい! では詳しいことはまた連絡を――――……って、そういえば今ってどうなってるのです? 携帯は使えないのです?」

あすみ「ああ、そうだった。詳しいことは今決めてくれる?」

なぎさ「というか……何かあったのですか?」

あすみ「さあ? なんだろう? 私も携帯には詳しくないしなー」

なぎさ「だったら誰かに相談したほうがいいのじゃないのですか!?」

あすみ「……」


 あすみは肝心なことは何も言いません。今のも明らかにはぐらかしているのだとはわかるのです。

 本当の理由は、別に専門的なところにはないはずで。


なぎさ「……なぎさに相談してもいいのですよ。『友達』なので」



 ……『明日の約束』を決めて、今日は別れました。

 あすみは本当に頑固です。



――――
――――
659 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/09(日) 23:36:30.89 ID:TdKu0VZq0
----------------------
ここまで
次回は10日(月)20時くらいからの予定です
660 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/10(月) 00:24:11.49 ID:QePXqFF/o
待ってた
レーシックかな?
661 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/10(月) 20:26:56.74 ID:R4GbBCMoO

次回の魔女狩りで何か起きそうだな
無理のない範囲で続きを
662 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/10(月) 21:21:47.95 ID:qwAanwFA0
----------------------------------------------------------------
レーシックではないですね、コンタクトをインプラントするやつです
663 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/10(月) 22:00:12.84 ID:qwAanwFA0




 ――――昨日マミにメールを送って、放課後になると先に二人で無事合流することができました。

 マミとは普段からこうしてよくやりとりしています。訓練や魔女退治の連絡も、それ以外も。


 雑談を交わして、途中でマミがふと時計を確認しました。


マミ「約束の時間まではあと少しね。今日は神名さんもくるんでしょう?」

なぎさ「はい。時間になって見つけられなかったら、とりあえずテレパシーを試してみることはできますけど……」


 連絡手段のないあすみとの待ち合わせは、昨日くわしいことを決めたとはいえ不安になってきます。

 今までは魔法なんて使うまでもなくできてたことだから、日常生活で魔法に頼るのは少し気が引けます。

 でもまあ、使えなくなったのならそうも言ってられません。


マミ「なるほど、そういえばそういうやりとりの方法もあるわね」

なぎさ「でも、近くにいなければどうしようもないのです。もしなにも返ってこなかったらまたもう少し待ってみますか」



 話しているうちにも時間が経ち、待ち合わせの時間になりました。

 ……テレパシー。結果は返事こず。



マミ「まあ、まだちょうどだもの」

なぎさ「……前はそんなに遅れるほうじゃなかったんですけどね。遅れるにしても連絡はきましたし」



 それからもテレパシーを試しながら待っていたものの、何度目かになるとちょっと心配になってきます。

 今は何かあっても連絡はとれない。もちろん、あすみがそうそう戦いで負けるとも思えませんが。

 魔女はもちろん、悪い魔法少女に狙われた時もえげつなく返り討ちにしてるのを知っているのです。


 ――――そんなことを考えていると、なぎさの心配をよそにあすみはひょこりと現れました。


あすみ「お、もう揃ってるか」

なぎさ「揃ってるって、そりゃあっ」



 しかも拍子抜けするような態度の軽さですっ。人の気もしらないでっ。


664 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/10(月) 23:04:49.28 ID:vkr41D7B0
お、続き来てる!
なぎさは最近あすみと関わってなかったせいで過保護ぎみかな?
665 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/10(月) 23:19:39.70 ID:qwAanwFA0


あすみ「そんなに過ぎてた? あーごめんごめん」

なぎさ「もーーっ。今来たのです? 何度かテレパシーまで試したのですよ!」

あすみ「最近あんまり時間を気にすることもなかったからさー」

なぎさ「むむむ……」

あすみ「怒るなよ、その分魔女をさっさと倒してやるからさ。さ、行くよ」


 遅れてきたのになぜかあすみが仕切ろうとしてます。それだけ見れば怒りが湧いてもおかしくないと思うのですが。

 久しぶりの待ち合わせで、前と違って……そう考えると、怒るよりも前よりどこかが変わってしまったような違和感を覚えてしまうのでした。


なぎさ「別にそんなに怒ってるわけじゃないのです」

あすみ「そう? ならいいや」

なぎさ「よくはないですけど!」


 そんななぎさたちを見て、なぜかマミは笑っています。


なぎさ「ま、マミまでなんなのですか??」

マミ「仲良さそうだなって。二人だけの時にはこんなの見られないもの」

なぎさ「マミは優等生さんですからねえ……それに、二人だとなぎさのほうが師匠なので」

あすみ「……師匠なんて、いつのまにかずいぶんと楽しそうな関係になってるのね」

なぎさ「楽しそうですか? あすみも混ざってもよいのですよ!」

あすみ「それはエンリョしとく」




 そんな会話をしながら、なぎさたちはようやく歩き始めます。

 ――――ほどなくして魔女の結界を見つけました。



なぎさ「ここは空き地みたいですけど、人のすんでる家も近くにあるしほっといたら危なかったのです」

なぎさ「でも見つけたからにはもうアンシンなのです!なぎさたちでやっつけちゃいましょう!」

マミ「ええ!」


759.44 KB Speed:0.5   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)