貴方「僕がヒロインを攻略するまどか☆マギカ…オカルト?」マミ「それは終わったわ」

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507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/17(水) 23:01:33.62 ID:CDj4gtSN0
あー、神様が助けてくれたわけじゃないから魔女化とかキュウベェの本性とか色々と知らないままなのか
508 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/17(水) 23:22:14.37 ID:MCldcWw00


あすみ「今日はもう帰ったら?」

なぎさ「はじめたばっかりです! まだ帰りません!」

あすみ「何ムキになっちゃってんのよ」

なぎさ「……それに、この時間じゃ帰ってもどうせ一人です。魔女退治が終わったら大きなケーキを出しますから、あすみも一緒に食べてください」


 母親が居なくなったこともあって、あれからなぎさはどうにもこっちに依存しているような節があった。

 同じ縄張りの魔法少女ってだけの関係の相手に、どうしてこんなにベタベタと懐けるのかわからない。もう少しマシな相手はいるだろうに。


あすみ「ん、まー……食欲があるんなら大丈夫そうね」

なぎさ「人をくいしんぼみたいにっ! でも、食べることは大事なのですよ。人生の楽しみになります!」


 どうせ一人……か。

 私も一人だけど、特に気にならない。むしろ解放された気分だったから。

 これも、強さに入るのだろうか。


なぎさ「そういえば、あすみはどこに住んでるのですか? 駅の方でよくおみかけするのですがっ」

あすみ「じゃあそこらへん」

なぎさ「じゃあとは!? ……うー、あすみにはお世話になっているので、ご家族やお友達がいればそのひとたちにもおすそわけしようと思ったのです」

あすみ「いや…………いないよ。家族も、友達も」


 そう言うと、なぎさはどう返したらいいものか悩んだような顔をした。

 どっちも当たり前にいるのが普通なのかと改めて思わされる。孤独に耐えらえるのは強さ? でも、これじゃその真逆だ。全然強そうじゃない。


なぎさ「そ、そうですか……」

あすみ「……惨めに思うのはやめて」

なぎさ「まあ友達はいますけどね」

あすみ「はあ? えーっとまさかそれ……」

なぎさ「なぎさたち、お友達ですよ! そう言ってくれなきゃ悲しいです!」


 言うと思った。でも、まるで漫画の中みたいな安っぽいセリフに思えてしっくりこなかった。

 ひねくれてる、とは思う。

 『友達』も『孤独じゃない』も、もう私にはわからなかった。


――――
――――
509 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/18(木) 00:17:20.87 ID:55VJKCSg0


 お家に帰ったあと、最近――ひと月くらい前に新しくできたお友達とさっきまでなぎさはいっしょに居ました。

 魔女退治の後は、とびきり大きなケーキをたいらげて、今日はおひらきです。


 ケーキは作ったのでも買ったのでもありません。火はあぶないし、手作りなんてとてもできません。

 これが、なぎさの魔法。

 『ひとつきりのチーズケーキ』を願ったなぎさが得た、皮肉ともいえる魔法。



 ……一人じゃなくなるまでいてくれるようにあすみに頼んだのですが、お父さんが来る前に帰ってしまいました。

 でも、待っていたら夜になってしまうから、それが正解だったかも。お父さんも最近忙しいみたい。

 それに、あすみはあまり会いたくないって言ってた。



*「なぎさ、ご飯はちゃんと食べたか?」

なぎさ「それはもうたくさん! そうだ、お父さんの分もあるんだった。 ケーキ!」

*「ケーキか……ありがたいけど、お父さんも食べてきたしもう夜遅いから、余ったなら明日にでもとっといたらいいんじゃないか」

*「でも、なぎさを信頼してお金を渡してるけど、お菓子ばっかりじゃダメだぞ」

なぎさ「う、うん。お菓子だけ食べてるわけじゃないよ。お弁当とかも買ってるから」

*「そうか。ちゃんとお留守番出来てて偉いな。なぎさはもう小さくないもんな」

なぎさ「うん……」



 寂しい、とは言えない。

 あすみのことを聞いたらますます言えなくなった。

 家族も友達もいないなんて。……それを、あんなに平然と言うなんて。



なぎさ(今度、料理とか習ってみようかな? あすみはおねーちゃんだからできるかも)


――――――
510 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/18(木) 00:42:52.16 ID:55VJKCSg0


あすみ「料理を習いたい?」

なぎさ「はい。なぎさは大体お弁当か魔法でつくったケーキですましちゃうので、これってあんまりよくないんじゃないかなあ……と」

なぎさ「あと、なぎさが料理できるようになればお父さんも安心しますし、早く帰ってきた日には食べさせてあげることもできるのです!」

あすみ「今はどのくらい出来んの?」

なぎさ「今……今は……この前学校できゅうりを切ってサラダをつくりました」

なぎさ「あと、ねるねるね○ねならつくれます……以上なのです」

あすみ「それ料理じゃないし。てか、金もあって魔法で腹も満たせるならよくない?」

なぎさ「うー、んー、ですから……」


 話がループしそうになったところで、ある可能性を思いつきました。


なぎさ「あっ! さてはあすみもできないんですね?」

あすみ「いや、できるし。今は必要ないからしないだけ」

なぎさ「またまたー、そんなこと言っちゃって」

あすみ「はぁぁぁぁぁああ?」


 かかってきた。目標が食いつきはじめているのがわかります!

 あすみはこう見えて負けず嫌いっていうことまで計算済みなのです。


あすみ「そこまで言うなら今日の夕飯だけ作ってやらんでもないけど? てか、食いたいだけでしょ?」

あすみ「市販の弁当なんて添加物まみれの贅沢品! 魔法で作るのは魔力の無駄!」

なぎさ「わーい!」


 ……ずいぶんと市販品をボロクソに貶しましたが、あすみはいつもどうしているのか気になります。

511 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/18(木) 00:43:20.49 ID:55VJKCSg0
-------------------
ここまで
次回は18日(木)20時くらいからの予定です
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/18(木) 02:50:12.57 ID:uc+eqb1VO
前の読み返したけどあすみって料理は得意ではなかったよね
まぁなぎさよりかは作れるっぽいか
513 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/18(木) 20:49:12.17 ID:55VJKCSg0


 ――――今日の魔女退治をすませると、所変わってさっそくうちの台所へ。

 その冷蔵庫の前。


あすみ「……何もないんだけどー」


 中を開いたあすみが呆れた声で言いました。

 お母さんが入院してから、うちの冷蔵庫はガラガラです。


なぎさ「ありゃりゃ、普段料理なんてしないから。あってもなぎさのおやつくらい……」

あすみ「そういやこれ、昨日のケーキの残り?」

なぎさ「あ……そういえば忘れていました。お父さんにあげようと思ったのですが、食べる暇ないから食べていいって」

あすみ「ふーん。ちなみに魔法で出したケーキってどのくらい持つの?」

なぎさ「言われてみればわからないのです……そんなに日を置いたことはなかったので」

あすみ「自分の魔法くらい把握しなよー。まあ、この魔法じゃ戦いに役立ちそうもないけど」

あすみ「……ねえ、毒入りケーキでも出せれば攻撃になるんじゃない?」

なぎさ「それはパティシエールのプライドがゆるさないのですよ。それに魔女や使い魔に食べさせるよりフツーに攻撃したほうが早いのではないのですか?」

あすみ「魔女や使い魔が相手ならね」

なぎさ「……」


 あすみがなにかよからぬことを考えています。


なぎさ「だ、だめなのですよっ。あすみは魔法少女を敵視してますが、なぎさは仲良くしたほうがいいと思うのです!」

なぎさ「なぎさたちだって仲良くなれました。魔法少女とは言ってももとは人間なのです。ほかのひとたちと変わりなく……」

なぎさ「なぎさには、魔法少女だからってそんなに悪い人がいるとは思えません。むしろ、同じ使命を持った仲間なんじゃないのですか?」
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/18(木) 21:02:48.73 ID:uc+eqb1VO
なぎさ、その考えは甘い
鹿児島名物のかるかん饅頭よりも甘いぞ
515 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/18(木) 21:41:15.74 ID:55VJKCSg0

あすみ「変わりなく……ね」

なぎさ「はい。なぎさは昨日みたいなことはもう起きて欲しくありません。そのためにも、助け合わないといけないのですよ」

あすみ「あー、昨日のねえー……それで張り切っちゃってんのか」

あすみ「まあ、仲良くなれるかっつったら相手次第じゃない? まずは警戒するに越したことはない」

なぎさ「こっちから信じないと仲良くなれるものも仲良くなれません!」

なぎさ「それでもなぎさは仲良くしたいですが、そういう人ばっかりじゃないのはなぎさも知ってますから……」


 あすみはどうしてこう頑ななのでしょうか。

 あすみは寂しくないのでしょうか?

 なぎさはあすみのおかげで少し寂しくなくなりました。それに、はじめて後輩に会った時だって……。


あすみ「……別に敵意向けろって言ってんじゃないよ。アンタが今言ったのとは逆で、誰彼構わず敵意向けてたとしてもいつかやり返されるしそりゃアホだ」

あすみ「ま、よほど自分の実力に自信があればそれでもいいかもしんないけどね?」

なぎさ「だめですって!」

あすみ「でもさ、変わらないって言ったけどさ、そもそも人間だってクズくらいいるんだよ」


 あすみはリビングでついているテレビの画面に目を向けました。

 ……やってたのはちょうど殺人事件の報道でした。


あすみ「こうして見えてる範囲なんてほんの一握りだよ。世の中の人がみんないい人なら防犯なんて必要ないしいじめも起きない」

なぎさ「で、でも……魔女退治は人助けの活動なのです。悪い人が契約できますか!?」

なぎさ「それに、みんななぎさたちと変わらないくらいの普通の女の子なのです。悪い事しようとしてる人がいたとしたら、止めてあげるのが仲間ってものですよ!」

あすみ「…………」


 なぎさが熱弁すると、あすみはそれ以上言い返してきませんでした。

 しぶしぶって感じですが……。


あすみ「……買い物行くでしょ? 早くしないと夜になるよ」


 あすみに言われて思い出しました。すっかり忘れかけていたのです。

 出会ってもいない魔法少女のことなんて、今話しててもしょうがないのかもしれません。

 なにせ、なぎさが契約してから見滝原で出会った魔法少女なんて、まだ二人だけなのですから。次の出会いがいつになるかもわかりません。


なぎさ(……でも、あすみももっと仲良くしようとしてくれたらな)

516 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/18(木) 21:53:58.64 ID:55VJKCSg0
――――
――――


なぎさ「お買い物、お買い物♪ そういえば、あすみの得意料理ってなんですか?」

あすみ「得意料理?」


 返事がなかなかかえってきません。


なぎさ「あのー、やっぱり料理できないのです……?」

あすみ「違う! ……まあ、何作るかは決めないとね。で、アンタは何食いたいの」

なぎさ「それはなんでも作れるってことで!?」



・リクエスト
 自由安価

 下2レス
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/18(木) 22:08:47.90 ID:tNAviXB10
あすみ、やっぱりこの時点では料理あまり出来ないのかw

ここは無難に野菜炒めカレーではない普通のカレーライス
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/18(木) 22:09:40.82 ID:uc+eqb1VO
??
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/18(木) 22:10:41.23 ID:uc+eqb1VO
文字化けした
安価517
520 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/18(木) 23:06:45.23 ID:55VJKCSg0


なぎさ「じゃあ、今晩はカレーがいいです」

あすみ「うん、そうだね」

なぎさ「だってちゃっかりルー持ってますし。なぎさが何と言ってもカレーにする気でしたよね?」

あすみ「一応聞いてやるつもりはあったけど、あんまりご大層なものを言われても無視する気だったよ」

あすみ「目的忘れた? ただ作ってやるんじゃないんだよ。アンタが作れるくらいのにしないと意味ない」

なぎさ「それもそうでした……」


 リンゴとハチミツのパッケージ。みんな大好きカレーライス。

 お手伝いではじゃがいもの皮剥いたくらいかな? なぎさからすれば十分すぎる難易度なのですが。


なぎさ「でも、甘口じゃなくていいですからっ! 子ども扱い、求めてません!」

あすみ「あー、そうだった?」

なぎさ「もしかして……なるほどなるほど、あすみが甘口しか食べられないのですね。それなら無理しなくていいのです!」

あすみ「そんなことないよ。じゃ、こっちにしよう」

なぎさ「あっ!? だからって急に辛口にしなくても!」

あすみ「ほらほら、強がるなよ」

なぎさ「極端なのです」


 ……他の材料も揃えてから帰りました。

521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/18(木) 23:13:40.27 ID:tNAviXB10
カレールーの箱に書かれてる作り方通りに作ると水っぽくなるんだよね・・・
522 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/18(木) 23:39:25.29 ID:55VJKCSg0


あすみ「――じゃあ肉と野菜を一口大に切って。一応包丁は使えるんでしょ」

なぎさ「らじゃー!」


 台所に立つと、野菜の皮を剥いて、あとは切るだけの状態になりました。

 お料理を作るとなると全体像がつかめませんが、ここまでひとつひとつは手伝ったことのある作業でした。

 お米はその間に炊いてくれました。


なぎさ「あの〜。玉ねぎが目に染みるのですが」

あすみ「……魔法。魔法で痛覚切れば」

なぎさ「魔法で? そんなことできるのです……?」

あすみ「出来ると思えば出来るよ、多分」

なぎさ「まあいいのです。せっかく魔法を使わないお料理なんですから、頼らないことにします」

あすみ「まあ、そんならそれで。それより、ヘタのまわり切りすぎ」

なぎさ「あすみって意外と所帯じみてますよね……倹約家というのでしょうか」

あすみ「貧乏魂って言いたきゃ言えば」


 ……とまあ、そういうところを見ると本当に料理が出来ないってことはないのかな―と思ったりしますが、

 豪勢な料理を作る感じイメージからも離れていきます。


あすみ「全部切れたねー。じゃああとはタイマーでもかけて待つか」

なぎさ「煮えたら終わりなのです?」

あすみ「ルーも溶かしてね。またちょっと煮たら」

なぎさ「たしかにこのままじゃ肉野菜スープですね」

あすみ「味つけ変えれば別の料理になるってことだよ。レパートリーが増えたね」

なぎさ「なるほど、これが応用ってやつなのですね。初めてすぐに応用編がわかるなんて、なぎさも料理の腕がランクアップした気がするのです」

あすみ「……まあ、野菜とかまだ残ってるしやってみたら」

523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/18(木) 23:46:34.93 ID:tNAviXB10
肉は何だろ?ここはチキンで
524 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/19(金) 00:14:46.15 ID:i4cDoZ5k0


 タイマーが鳴ったあと、鍋にルーを溶かしてさらに煮込むと良い匂いがしてきました。

 まさにこれはカレーのにおい! とろみ! よそってみても食べてみても、まさしくカレーなのです!


なぎさ「ちゃんとカレーですよ! 美味しいチキンカレーなのです! 二人で食べてもまだ鍋にありますね」

あすみ「四皿分だからね。残せるくらいがいいって言ってたでしょ」

なぎさ「はい。これを見せて、なぎさも料理できるんだよってお父さんに自慢して、安心してもらって……」

なぎさ「……できたら食べてもらいたいな。今日も遅いのかな」


 魔法で作ったお菓子はわかりませんが、これは普通のお料理です。

 きっとそんなに持つわけじゃありません。


なぎさ「あっ、そうだ、今度はお休みの日になら……!」

あすみ「……まあ、頑張れば」

なぎさ「それにしても、あすみは本当にお料理できたのですね。疑ってごめんなさいなのです」

あすみ「出来るって最初から言ってたでしょうが」

なぎさ「なぎさも火とか使っても大丈夫なのでしょうか? 今まで包丁もお母さんや先生が見てるとこでしか使ってないのです」

あすみ「危ないからって理由なら私達には理由にならないでしょ。最悪怪我したって治せるんだし」

なぎさ「ああ……魔法ですか。そういえば料理の最中にも言ってましたね」

なぎさ「あすみは料理しないって言ってましたが、普段はどうしてるのです?」

なぎさ「ボロクソ言ってましたが、結局出来合いや外食です?」

あすみ「いや…………食べてなかった。面倒くさくて」

なぎさ「ええ!?」

あすみ「アンタは魔力でお菓子を出せるでしょ。私は怪我を治す要領で魔力そのもので補うってだけ。同じようなものじゃない?」


 あすみは魔法の力をかなり身近に考えてるみたいです。

 なぎさもお菓子作りの魔法は普段の生活にも取り入れてました。

 でも、それ以外にはやっぱり魔法は戦うために使うものってイメージのほうが大きいのです。

525 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/19(金) 00:37:29.88 ID:i4cDoZ5k0


なぎさ「でも……それはやっぱり味気ないですよ。それに、『魔法のケーキは魔力の無駄だー』って言ってませんでしたっけ?」

あすみ「今いるとこキッチンもないし。てかあったとしても、空腹を満たして栄養補給するだけの行為って考えたら一人じゃ面倒になるよ」

あすみ「大体、飯買うための金得るのだって魔力使うのにさ」

なぎさ「そういえば、家族がいないって……。自分でお金を稼いでるのです? 魔法を使ってお仕事でもしてるのですか……?」

あすみ「……。まあ、そんなとこ」


 あすみはどこか影のある様子で言いました。まるで詳細は語りたくないというように。

 真実はわかりませんが、あまり良い雰囲気ではありませんでした。そもそもあすみもまだお仕事なんてできない年齢。

 なぎさも後ろめたい世界にある仕事の事情はろくに知りませんが、悪い方に想像は膨らみます。


なぎさ「まさか、けしからんことでもして稼いでるのでは……!?」

あすみ「何想像した? 魔力だよ? 身体は使ってないからねー?」

なぎさ「い、いえ……! とにかくまた一緒にお料理しましょう。あすみもまた新しいお料理教えてください!」

なぎさ「そして応用を身につけて、なぎさはいつかあすみを超えてみせるのです!」

あすみ「……また気が向いたらね」


 そう言うと、あすみもまんざらではなさそうでした。一人だから面倒くさくなってしまうのです。

 それに……なぎさも一人は嫌でした。


――――――
526 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/19(金) 00:37:59.70 ID:i4cDoZ5k0
-------------------------
ここまで
次回は20日(土)18時くらいからの予定
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/19(金) 00:42:12.37 ID:m9a8d8n40
乙でした。

やっぱりなんだかんだ言ってもなぎさのことを突き放したりしましんね、あすみ。
なぎさの言う性善説?みたいな事、あすみの過去からしたら鼻で笑う偽善ですからね・・・・・・
なぎさのこと嫌ってたらその時点で見限って二度と会わないぐらいの態度とってもおかしくないと思うので。
528 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/20(土) 19:36:36.39 ID:eLbM5oP20



 ――――今日もお父さんは会社で、なぎさは学校です。



 昨日は本当に久しぶりの家でのカレーライスでした。

 学校の給食でもカレーは出ますが、一年生の子も同じものを食べるのでかなり甘くしてあるのです。

 それも美味しいのですが、市販のルーを使った昨日のカレーのほうが『家の味』に近い味でした。


なぎさ(昨日はお父さんもいつもより早く帰ってきたし、カレーも食べさせてあげられたのです!)

なぎさ(お休みの日に作るのはまた別のお料理を考えなくてはいけませんね……)


 褒めてもらえた。安心してもらえた。

 なのにまだ何かが『足りない』気がするのはどうしてなのでしょう。

 ……お父さんには安心してもらいたいけど、なぎさは一人でも大丈夫なんだって安心してもらうほど、離れていくんじゃないかとも思ってしまうのです。


なぎさ(今日はまだカレーがあります。でも昨日よりは少ないくらい)

なぎさ(二日目も普通のカレーにするか……あすみをさそって一緒にアレンジを考えてみるのも楽しいかもです!)


 なぎさには学校があります。授業は退屈なこともありますが、学校は楽しいです。

 お昼はみんなといっしょに給食を食べます。

 休み時間は友達といっしょに遊びます。


 ……それでも。


なぎさ(魔法少女のことを話せるのも、お母さんのことを知ってるのも、あすみだけなのです)


――――――
529 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/20(土) 20:41:54.21 ID:eLbM5oP20
――――――



あすみ「…………今、何時だろ」


 起床時間はとくに決めていない。

 ここを出る時間は人が来るような時間にならないうち。



あすみ(学校行かなくなってから、ホント時間を気にしなくなったよな)


 夜更かししてやることは特にないし、そんなに遅く起きることもないだろう。

 最悪、人が来たとしても部屋を間違えたとでも言って出ればなんとかなるだろう。……子供だから。

 本当だったら一人でこんなところに来るはずもない。


 私は『子供のくせに』や『女のくせに』という言葉が嫌いだ。“アイツ”がよく言っていたからだ。

 侮られたくないと思いながら、結局子供らしさというものを盾にして頼っていることに気づくと癪に障った。


あすみ(とはいえ、毎日真っ当に泊まれるくらいの宿泊代を手に入れるとなるとシャレにならないし、見た目も細工しないと一人じゃ泊まらせてくれないだろうな)

あすみ(……今日は何して過ごそー。魔女狩りは放課後なぎさが誘ってくるかもしれないし、軽く街うろつくくらいにするか?)


 街を見回るついでに魔女がいたら狩る。使い魔もあらかじめ見つけて目を付けてたほうが後々狩りやすい。

 ……しかし、知らない地で見聞きするものが新鮮だったのはほんの最初の頃だけ。

 ひと月程度もすればここにもそろそろ慣れ始めていた。


あすみ(慣れてる方が魔女を狩るにはいいんだろうけど)


 なぎさの母親のことがあってから、一緒に狩りに行くことも増えた。

 狩りの途中で偶然会ったときだけだったが、大体どのくらいの時間にどの場所に行けば会えるかは決まってきている。

 昨日は連絡があって待ち合わせた。


 今まではどちらも好きなように魔女を狩っていたが、こうなると、一緒に居る間だけはどちらかに合わせなきゃいけないことも出てくる。

 まず第一の問題は使い魔を倒すかどうか、だった。なぎさは私が見逃そうとした使い魔も倒そうとする。魔女と使い魔の区別がつかないとかでもなく。


 ……そんなことで悩むことがあるなんて思いもしなかった。

 何度も不思議に思ったが、なぎさはもう新人ではない。正義に燃え滾った新人ならありえない話じゃないけれど。

 あすみの最初に居た街では、そんな人は真っ先に意地汚い人たちに潰されて死んでしまったから。

 それが普通なんだと思うようになってた。

530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/20(土) 20:58:38.30 ID:TsCUyrlpO
一応どちらも必要としてる感じかな
なぎさの方はやや依存気味に感じるけど
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/20(土) 21:29:21.09 ID:J+S7M3MD0
あすみは杏子みたいにホテルに忍び込んでるのか
お金はどうしてるんだろ?
あすみ編ではATMから盗ってたりはしてなかったみたいだけど、はたして今回は……
532 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/20(土) 21:38:30.86 ID:eLbM5oP20


あすみ(……そうだ。この街だって、いい魔法少女だけが現れるなんてありえないんだよ)


 なぎさはああ見えて頑固だ。前にも思ったことがあるが、昨日話を聞いてさらにそう思った。

 あの新人のことで、他の魔法少女に対しても仲良くなるだの助けるだのと意固地になっているようだった。

 その思いが良い方に作用すればいいが、現実はそうはいかない。


 見て見ぬフリは同罪だ。意地汚い輩が勝つ世界なんて嫌だ。

 それでも、それがこの世界の真理であることはよく知っていた。――だから私は、この世界が嫌いだった。

 そして、そんな世界でも私は何者にも負けたくはなかった。


 あすみには自分に向けられた『悪意』を察する力がある。そして、その『呪い』を向け返す力がある。

 当然、自分以外に向けられたソレにはその力は及ぶことはない。


あすみ(つまんね……マジで飽きた。街なんてどこも同じような景色だ。人だらけ、建物だらけ)

あすみ(いっそもっと田舎のほうでも行くか? でもそしたら魔女は減るだろうな)


 魔女は『悪意』と『呪い』の塊である。人もいないのどかな場所じゃ魔女も少ない。

 ――【魔女】はその二つに呑まれた魔法少女の成れ果て。


あすみ(いや、意外と田舎の村とか陰湿って聞くな。少なくもなかったりして?)


 ……ともかく、田舎云々は冗談だ。一時の気の迷い。心の中で思うだけなら、冗談みたいなことを思うことだってある。

 そんなどうでもいいことを考えながら歩いていると、病院のほうから一人の女が出てくるのが目に留まった。


 通行人なんて普段一々気にしないが、それが目に留まったのは、キュゥべえが隣にいて手にはソウルジェムを持っていたからだった。

533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/20(土) 21:57:57.43 ID:J+S7M3MD0
新たな魔法少女か……誰かな?
534 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/20(土) 22:12:11.40 ID:eLbM5oP20


あすみ(…………)


 思わず隠れて様子を窺う。ここからだと声は聞き取れない。

 だが、魔法で心を読み取れば声以上のものも聞き取れる。


『――――この宝石が光るところに魔女がいるのね?』

QB『そうだよ。ソウルジェムは魔力を感知することができるんだ。光の明滅が強くなるほど近くにいることになるよ』

『思ったよりも足だのみなのね。魔女探しというのは……』


 どうやら女は契約したてらしい。


あすみ(女……なぎさより年は上だろうけど、そもそもなんでこんな時間にこんなとこにいるんだ? 入院でもしてたのか?)


 言葉とともに読み取れたのは漠然とした『恐怖』と『不安』だった。

 言葉としてまとめられていないままの感情の中に、短い言葉がとぎれとぎれに思念となって現れる。


『怖い――そんなの無理――死にたくない――……お父さんとお母さんみたいに』


あすみ(両親を失ってるのか。『死』を身近に感じて見てる。それで恐怖が焼きついてるんだな)

あすみ(……どーりで暗い顔してると思った。これから戦いに行くって顔じゃない。いや、死地に行く少年兵みたい)


 新しい魔法少女との出会い。その時は思っていたよりも早くに訪れた。

 それも契約したて。だからといって性根などわからないのだからすぐに信用はできない。


あすみ(『後輩』、か)


 『次に会う後輩にはそうしてやったら?』……なんて、前言ったっけ。

 軽いこと言わなきゃよかったかも。


あすみ(これから付き合うかもしれないんだし、探っといてやるか)


あすみ「おーい、お姉さん。これから魔女狩りなら一緒にどう? そいつよかいいサポートになるよ?」



あすみ(……クズならその場で潰す)



――――――
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/20(土) 22:25:01.79 ID:J+S7M3MD0
これはマミさんですね、多分
あすみが自分から助けに入るとは……
打算があるとはいえなぎさの事を考えてのことなので、やはり心境の変化があるみたいですね
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/20(土) 22:39:55.14 ID:TsCUyrlpO
マミはあすみとは相性悪そうだけどな
この後合流したなぎさが喜びそうだがあすみに潰されなきゃ良いけど
537 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/20(土) 23:11:23.06 ID:eLbM5oP20
――――――



 学校が終わった放課後。

 携帯を手にして待つこと数十分……時間を見直してみたらそろそろ一時間というところでした。


なぎさ(返事がこない……。あすみ、気づいてないのですかね)


 今日もお誘いしたのですが、今日はお返事がいっこうに来ません。

 昨日はすぐにお返事きたのに。


なぎさ(まさか、何かあったんじゃ…… ううん。そんなの、考えすぎですよね)

なぎさ(仕方ない、一人で魔女退治に出かけましょーか……)


 少し寂しさを感じますが、なぎさは出発します。

 もしかしたら、途中でどこかで会えるかもしれません。お返事がくればまた場所を考え直して会えばいいのです。


 そう思ったところで、知らないおねーさんから声をかけられました。


「――きみが百江なぎさちゃんだよね?」

なぎさ「はい、そうですけど……おねーさんは?」

「キュゥべえから聞いたんだ。『魔法少女のセンパイ』がここにいるって」

なぎさ「あ、新しい魔法少女さんですか! はじめまして! なぎさはなぎさっていうのです! ……って、もう知ってましたね」

なぎさ「おねーさんの名前はなんて言うですか?」

「おねーさんでいいよ。その呼び方は可愛くて好きだから」

なぎさ「えへへ、可愛いなんてー」

「じゃあ、どうしたらいいか案内してくれる? 魔女っていうのを倒すんだよね? 契約したばっかでどうしたらいいかわからないの」



――――――
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/20(土) 23:15:31.12 ID:TsCUyrlpO
なんかなぎさの方は胡散臭いのが来たな
539 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/20(土) 23:40:44.33 ID:eLbM5oP20
――――――



あすみ「お姉さん、入院でもしてたの? どこも怪我とかしてるようには見えないけど」

マミ「ええ。といっても検査入院だけ。……見た通り私は本当に怪我なんてしてないのよ。検査でも何も悪いところなんて見つからなかった」

マミ「キュゥべえに『助けて』って頼んだから。本当に怪我が治って助かったの。……私だけ…………」

あすみ「怪我、してたんだ」

マミ「……事故に遭って」


 移動しながら怪しまれない程度に探りを入れる会話をする。

 この新人は『巴マミ』という名前らしい。自己紹介はさっき済ませた。


 この言いぶりとさっき読心で聞いた声からすると、事故で家族全員怪我を負って、自分は願いのおかげで助かったものの親はそのまま死んだってことなのだろう。

 哀れだとは思うが同情するほど心は動かない。


 この世界でよくある、ありふれた不幸。魔法少女には不幸な身の上が多い。そのほうがインキュベーターが付け入りやすいからだ。

 私やなぎさも含めて、なんだろうな。

 だが、哀れな身の上だからといってソイツが善良な人間かどうかは別問題。むしろそのほうが性根が歪みやすいともいえる。


あすみ(……それこそ、私みたいに?)


 そんな私が新人のサポートなんてしてやってるのは、害がないかどうか選別する為だけだ。

 害がなさそうならなぎさに引き渡してやってもいい、くらい。そのあとの世話はなぎさに丸投げしてやる。

540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/20(土) 23:43:33.65 ID:TsCUyrlpO
やはりマミだったか
541 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/20(土) 23:56:16.55 ID:eLbM5oP20


マミ「私や神名さんのほかにも他にも魔法少女っているの?」

あすみ「ええ、そうだけど。……なんでそんなこと気にするのよ」


 他の魔法少女のことまで聞かれると思わず目は厳しくなる。探るのはいいが探られるのは抵抗がある。


マミ「キュゥべえから魔女のことを聞かされたのだけど……その時に、グリーフシードっていうのを巡って競争が起きることがあるって言ってたから」

マミ「争いや強盗の被害に遭わないように気を付けてくれって」

あすみ「へえ、珍しく忠告をしてくれてるのね」


 キュゥべえがわざわざ言うなんて、本当にその問題が差し迫ってるか……もしくはマミの言っている理由がでっちあげかのどっちかだろうか。

 いや、読心で見て怪しい点がないのだから、契約したてというのは信じられる。


あすみ「そんなこと聞かされて、よくいきなり現れた私を信じられたね?」

あすみ「聞かされた通り、私に潰されるかもしれないのに」

マミ「私……契約したのは数日前だけど、今までは入院してたから、まだ魔法って使ったことはないの」

マミ「本当に神名さんがそうする気なら、私にはどうすることもできないわね……。でも、魔女に一人で戦って勝てるかどうかもわからないんだもの」

マミ「グリーフシードというのを差し出せば済むのなら、それでもいいわ。二人で倒すのならあなたのほうが受け取るべきなんじゃないかしら?」


 なるほど、剥がされるような身ぐるみはないし、報酬ならくれてやってもいいってことか。


あすみ「そうね、それで私という名の戦力が手に入るならたしかに安いものでしょうね?」

あすみ「でもね、まだ甘いよ。本気で新人をいびる気ならもらうのはグリーフシードだけじゃ済まない」

あすみ「競争相手になる可能性のある芽は確実に摘む。そういうものだよ」

マミ「…………」


 そんなことを言ってやったらマミはちょっと青ざめた顔してたけど、なぎさみたいな甘い考えを持つ前に教えてやったほうがいいだろう。

 話しているうちに魔女の反応を見つけて、マミのほうを見やる。

 ……話に気を取られて明滅に気づいてない。


あすみ「魔女がいるよ。ほら、レッツゴー」

マミ「え、ええ……」


 なんとも頼りない返事がかえってきた。

542 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 00:25:43.58 ID:fWNF2+br0


マミ「どうして神名さんは魔女がいることがわかったの?」

あすみ「あぁ、それね」


 結界を目前にしてマミが聞いてきた。


 マミが言ってるのは、『ソウルジェムを持ってないのに』ってことだろう。

 ……そりゃそうだ。いくら新人の前とはいえ、自分の弱点を晒して歩く気にはなれない。


あすみ「勘だよ。もうちっとやってりゃ誰でもわかるようになるよ」

マミ「そう……そういうものなのね」

あすみ「もういい? 逃げられるから行くよ?」

マミ「待って、さっきも言ったけど魔法ってまだ一度も使ったことがないのよ? 一度確認だけでも……」

あすみ「中でやれ!」


 入口を開き、手を掴んで中に飛び込む。


マミ「きゃっ、きゃああ!」



 自分の時を思い返したってこんなにウジウジしてなかったのに。――……ああ、やっぱり新人の世話なんて面倒だ。

 ――それから結界に入って変身しても、マミはいちいち驚いてた。
543 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 00:29:17.29 ID:fWNF2+br0


マミ「すごいわ。本当に子供の頃に見たアニメみたい!」

あすみ「そう。少しは戦える気になった?」

マミ「ええ……少しね」

あすみ「大体アンタは考えすぎなの。常識的にありえないとか考えるから枷がかかるの。出来ると思ったことは出来るのよ」

あすみ「……もちろんなんでもとは言わないけど。出来ることはわかるように出来てるはずなんだから」

マミ「魔女って……あれ? あれが敵なの?」

あすみ「あれは使い魔。敵には変わりないね。魔女がいるのはいちばん奥」


 ちんたらしているうちに使い魔がこっちに迫ってた。

 自分で倒してしまおうかと思ったが、こいつに倒させてみたほうがいいと思い直す。


あすみ「ほら、倒しなよ。いい練習台がいるじゃないか」

マミ「た、倒すって、どうやっ……――」


 マミの顔つきがその一瞬で変わったのがわかった。さっき私が言ったことを思い出したらしい。

 多分、真面目なタイプ。ありえない不思議現象とかそのまま受け入れたりできないような。

 でもその分、完全に自分のものにしてしまった後は化けるかも。


 手の先からリボンが伸びて、使い魔を切り裂いた。威力はあんまりなさげ?

 『もう一発!』と私が掛け声をかければ、もう一発リボンが伸びて、今度は魔女を絡めた。そこに私が鉄球を当てて倒す。


あすみ「アンタの魔法って、リボンで縛ってSMプレイってとこ?」

あすみ「動きを止めた後どうやってやっつける気だったのさ。こんなのに手間取るな。次行くよ」


マミ(さっそく帰りたくなってきたわ……教官が厳しすぎます……)


――――
――――
544 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 00:30:41.32 ID:fWNF2+br0
-----------------
今回はここまで
次回は21日(日)18時くらいから
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/21(日) 19:08:20.44 ID:Ktgz36+gO
マミの方は鬼軍曹が着いてるからいいとして、なぎさの方はヤバ気だな
546 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 19:32:41.34 ID:fWNF2+br0


 使い魔を試し斬りさせながらの道のりは、普段よりかなり時間がかかっていた。

 ……あれこれと苦戦しながら、やっと魔女の住み処へと辿りついた。


あすみ「さっさと倒して終わりにしましょ。アンタは出来るとこだけ参加すりゃいいから!」

マミ「え、ええ……」

あすみ「まあ……出来るだけ敵の動き止めといてくれると助かるわー」


 試し斬りといってももう少し、剣でもナイフでも斧でも槍でも――わかりやすいものがあっただろうってのが正直な感想。

 なぎさのシャボン玉ラッパも一見武器に見えないが、あれはあれで使い勝手のいい武器ではある。

 そして、私の『モーニングスター』というのは実にわかりやすく武器らしいものだったのだと思った。


あすみ(なんていうんだろ。こういうのって…… 攻撃性の差、とか?)


 ――――力を込めて踏み出すと、こちらを見た魔女の攻撃をかわして横に跳ねる。

 マミの動きにも気を配って見るが、まだ動けないでいるようだった。構えだけして、戦況を目で追うのみ。


マミ「……!」


 マミもやはり大してその武器を使いこなせてはいなかった。

 リボンの一番わかりやすい使い方は、やっぱり縛り上げること……だ。

 支援向きだが、もしこの初陣も私がついていなかったらどうなっていたのだろうか。今以上に時間がかかって苦戦する?


あすみ(……死ぬ? こんな早く?)


 近くに居た使い魔をフレイルの柄で払い、続けて蹴りを入れる。

 鉄球を魔女に向けて大きく振るう。――しかし、それは当たらなかった。


あすみ「今こそ、縛っといて欲しかったんだけど……ッ!」


 まあ、初陣で戦況を的確に読んで敵の隙を突くなんて、そうそうできないのはわかってる。

 再び魔女の攻撃を避け、外れた鉄球を敢えて更に遠くへ……鎖を長く伸ばして飛ばす。

 そもそも、縛り上げることならこいつに頼らずとも私にも出来る。


あすみ「まあ、いいよ! さっきのは遊び球だし……これで完全試合だから!」


 縛り上げるのに使ったフレイルの柄はもういらない。

 それを放り捨てて新たな獲物を手にすると、高く跳びあがって、鎖に絡め取られた魔女の頭を粉砕する。

547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/21(日) 19:41:10.94 ID:Ktgz36+gO
弱いマミはなかなか新鮮だな
548 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 20:22:27.19 ID:fWNF2+br0



 ……潰れた魔女は汚い色の液体を撒き散らす。思わす顔を顰めたが、その液体ごと結界とともにすぐに消え去った。

 液体が消えて露わになったグリーフシードを拾い上げる。


マミ「……倒したの?」

あすみ「うん。これがグリーフシードってやつ」

マミ「そう。あ、もちろん神名さんが持ってていいから。私には受け取れないわ」


 確かにこいつはこの戦いでろくなことはしてない。

 魔女との戦いじゃただ見てただけだ。……まあ、私があれ以上マミを立てて戦わせるのも面倒臭くなったからっていうのもあるが。


あすみ「うん、そうだね。でも……これから先、いつも誰かがついてるわけじゃないよ。一人で戦える?」

マミ「……!」


 結局のところこいつも、さっきは私がいるから手出ししなくていい――と思ってたところはあるんだろう。


マミ「……私には無理よ。まだ今日は最初だったんだし、次だってそんなに変わらないわ」

マミ「この街に一緒に戦える人がいるなら、一緒に戦ったほうがいいんじゃないかしら? また次も一緒に行きましょうよ!」

あすみ「ずっとそう言うの?」

あすみ「このままじゃ変わらないよ。ずっと誰かが横に居るから……って思ってたら、いつまでも変わらないんじゃない?」

マミ「そ、そんなこと……」

あすみ「本心じゃさ、極力危険な目に遭わないようにしたいって思ってない?」

あすみ「戦うのも本当は嫌だし、他に自分より戦える人がいるなら本気なんて出さなくていい――――って」

あすみ「ま、追い込まれなきゃ本気になれないのは人間の性みたいなもんだししょうがないよ」


 契約も強い意志やら覚悟やらがあったわけでもなく、どうしようもない状況で流されたような願いだ。

 闘争心がない分無欲ではあるんだろう……――今のところは無害なほう、だとは思った。

 少なくとも、臆病なだけではまだ断じられるほど罪深くはない。


あすみ「でもいざ追い込まれた時……どうしても一人で戦わなくちゃいけなくなった時って、死ぬの? 逃げるの?」

あすみ「うまく逃げられればいいね」

マミ「……そ、それでもやっぱり今のままじゃ無理よ」

あすみ「…………」



 ま、面倒見るとして、それはなぎさに丸投げするし。



1受け入れる
2突き放す

 下2レス
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/21(日) 20:32:27.56 ID:Ktgz36+gO
まぁ1で
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/21(日) 20:33:13.85 ID:XgCymOcQ0
1かな?
丸投げするって言ってるしw
551 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 21:49:09.13 ID:fWNF2+br0

あすみ「……戦い方を見てくれる人ならいないでもないよ」


 ふと携帯を取り出してみると、いつのまにかお昼どころか放課後の時間も越してたことに気づく。

 未読が一件あった。もちろんなぎさからだ。それ以外に『私が』連絡を取る相手はいない。


あすみ(気づいてなかったな……)


 もう諦めて一人で魔女狩りに出てるだろうか。

 気づくと、マミが手元を見ていた。


マミ「それってもしかして親御さんから借りてるの?」

あすみ「あん?」

マミ「あまり女の子が使うイメージのある携帯に見えなかったから聞いてみただけ」

あすみ「…………あすみのだよ」

マミ「そうなの。別に趣味に文句を言うつもりはないんだけど……それより、そろそろお腹がすいてこない?」

あすみ「そりゃもう夕方手前だからね」

マミ「ええっ!? ……時間が経つのは早いわね。そうだ、今日はお世話になったし、よかったらご馳走しましょうか?」

あすみ「タダ飯なら悪くないわねー、んー……」


 さっそくなぎさと会わせて引き渡してもいいが、この後でもいいか。

 そう思って歩き出そうとしたところで、不審な声が聞こえた。


『――……“大きい方”のおチビちゃん。コイツは次でいいわ。確実に、一匹ずつ潰していきましょう』


あすみ「は?」


 急に振り返った私をマミは不思議そうに見る。もちろん巴マミじゃない。

 声の主を探して見回すと、通りの向こうになぎさと――……知らない女が隣にいた。

552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/21(日) 21:53:09.88 ID:Ktgz36+gO
やっぱりね
あすみに見つかったからジ・エンドだな
553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/21(日) 22:28:00.92 ID:XgCymOcQ0
謎のおねえさんん、やっぱり悪党だったのか・・・
まぁ、あすみんに始末されるんでしょうね。
でも『大きい方』とは?
554 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 22:38:30.14 ID:fWNF2+br0


なぎさ「あっ、あすみー! 会えてよかったのですよ! 連絡したのに返事もこないから心配したのです!」


 信号が変わると、向こうからなぎさが駆けてくる。

 隣の女も。やっぱり偶然じゃなく同行してるらしい。


あすみ「メールはさっき見た……そっちの人は?」

なぎさ「このおねーさんとはさっき知り合ったのです! 魔法少女の……って、あ。言っちゃダメな状況でした? あすみこそそっちの人は?」

あすみ「こいつも魔法少女だから平気。それより、ソイツは?」

なぎさ「もー! ソイツーとかコイツーとかダメなのですよ。初対面の人に向かって!」

あすみ「はいはい……で?」

なぎさ「魔法少女の新人さんなのです。契約したばっかりでなにもわからないと言うのでレクチャーしてるところなのです!」

「まぁ、可愛らしいお嬢さんも魔法少女やってるんだ。二人ともこれからよろしくね」

マミ「ええ、よろしく……」


 表面上は取り繕っているが、内面までは繕えない。さっき聞いた声と似たり寄ったりの『悪意』が漏れていた。

 恐らくコイツ、新人ですらない。今までこんなのは散々見てきた。分かりやすいと思えるくらいのクズだ。


あすみ「…………私はよろしくしたくないんだけど」

なぎさ「えっ……?」

あすみ「だってそりゃあ、思ってもないことばっかり言われてもね。なぎさは騙せても私は安い芝居には引っ掛からないよ。縄張り荒らしさん」

なぎさ「なっ……何を言ってるのですか! 落ち着いてください!」

「そ、そうだよ。私はそんなつもりじゃ……!」


 なにかそういう問題が近づいてそうな雰囲気はあると思ってた。

 コイツは子供の魔法少女が二人見滝原に居ることを知っているらしい。大方キュゥべえが私たちの情報を売ったのだろう。

 こんなのに私が騙されるわけはない……が、なぎさはこんなのでも信じている。仲良くして、救う気でいる。


 私へ向けられる『悪意』ならどうにでもできるが、私以外へ向けられるソレには何の力も作用しない。


 ――それに歯噛みする。人の心はどうせ簡単に変えられない。そんなのはわかっていた。本当に痛い目を見ない限りは。

 善良だろうと愚か者は救えない。だったら、放っておけばいい。しかし、本当に痛い目を見ることになればその時は、もう……終わりだ。

555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/21(日) 22:55:53.67 ID:XgCymOcQ0
ここでバラすという事は前みたいになぎさに現実を突きつけるのか。
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/21(日) 23:13:44.87 ID:Ktgz36+gO
新人かどうかなんてここできゅうべぇ呼んで聞けば一発でバレるのにな
557 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 23:56:32.88 ID:fWNF2+br0


あすみ「落ち着くのはそっちだよ」

なぎさ「なぎさは落ち着いてます! 魔法少女だからって意地悪しちゃダメだって言ったのに……」

なぎさ「どうしてなぎさの時みたいに仲良くできないのですか!? そっちのおねーさんとはどうなのです?」

あすみ「コイツは別。一応見極められるくらいには一緒にいたから。あとの世話はアンタに任せようと思ってたし」

なぎさ「だったらおねーさんとも一緒にいなきゃわからないはずです! 会ったばかりで悪く言うなんて、よくないです! あやまってください!」


 ……自分の魔法の力を全て正確に伝えていなかったことを後悔する。

 いや、それがなくたって最低限信用できるかくらい見る目はあるつもり。最悪突然襲われた場合の警戒だって怠ったことはない。

 怠るべきではないのだ。一見無害そうな相手だったとしても、まだ断じるほどの罪はなくても、心は変わるものなのだから。


「なぎさちゃん、私のことはいいよ。何が怒らせちゃったのかわからないけど、もういいから……」

なぎさ「ダメなのです!」

「なぎさちゃん……」

なぎさ「なぎさはあすみにもみんなと仲良くしてほしいだけなのです……どうしてわかってくれないのですか……」

なぎさ「もしもおねーさんが悪いことをするならなぎさが止めます……それが仲間だから。その力くらいなぎさにはあるつもりです」

あすみ「…………」

なぎさ「も、もういいです! おねーさんのことはなぎさがついてるって決めてたのです!」

なぎさ「そうやって周りを敵視ばっかりするから……――――あすみには友達がいないのですよっ!」

あすみ「……は……?」

なぎさ「あ…………」

あすみ「あぁ……そうかもね。別に友達が欲しいとも思ってないし、一人で生きることにももう慣れたから」

あすみ「それでいいよ。その方が、誰に裏切られるとも誰かを喪うとも考えなくていいんだから」



 ――私を嘲り笑う『声』が響く。

 ――――忌々しい下品な笑い声が、一見澄ました様子の女から発せられていた。


 殺意を込めて睨む。それには、優しげな微笑みを返された。



 ……騙されたフリでもしてればよかった? いや、コイツは一人ずつ仕留める気だった。

 どうせ私が居る間はしっぽは出さないんだろう。

558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/21(日) 23:59:02.47 ID:XgCymOcQ0
なぎさちゃん、それは失言だ・・・
559 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/22(月) 00:26:01.98 ID:E59wa3LZ0

あすみ(……殺す。なぎさがどうとかは関係ない。あの女は私を馬鹿にした。ただそれが不快なだけだ)

あすみ(次は私の番? 笑わせるなよ。私に狙いを変えた瞬間がアイツの命運が尽きる時だ)


 元々、キュゥべえはなぎさは死んでも私は死なないと思ってたんだろうな。

 縄張りの魔法少女を皆殺しにされるのは不利益でも、一人死んで入れ替わることで波乱が起きるならそのほうがいいとすら企んでたかもな。


 アイツはそういう奴だ。利用できる時は利用できるけど、味方としてはまったくアテにならない奴。

 アイツのこともなぎさはまだ信じてるんだと思うと……なぜだろう。悔しく感じた。


マミ「え、ええと……神名さん?」


 マミが横から戸惑ったように見ていた。……怖い顔しすぎてた。


あすみ「昼だっけ? 遅いけど。食いいく?」

マミ「さっきの子たちのことはいいの? あ、あの人は結局味方なの? 敵なの?」

あすみ「敵だよ。私は心が読めるんだ」

マミ「ええ!?」


 さっきは隠しすぎて後悔したことを、巴マミには言ってしまった。

 ……いつも最大限の警戒を怠らない私らしくもない、早まった発言であると後で思った。



――――――



なぎさ「……ごめんなさいなのです、おねーさん」



 ――――思わず早足で歩き出してしまいましたが、おねーさんはちゃんと隣についてきました。

 なぎさにとっては早足でしたが、おねーさんからすれば普通の速さだったようです。



「さ、さっきの子のことなら気にしなくていいからね? 行きましょう?」

なぎさ「はい…… そのことも……なのですが」

なぎさ「今はちょっと……戦う気にも教える気にも、なれません……」

560 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/22(月) 00:26:33.53 ID:E59wa3LZ0
-------------------
ここまで
次回は24日(水)20時くらいからの予定
561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/22(月) 00:36:25.77 ID:KEn2Q5Ox0
乙でした

なんだか喧嘩別れみたいになってしまいましたが、あすみはまだなぎさの事を見限ってはいないようですね。
マミに自分の読心を話してしまったのはあすみらしからぬミスですが、なぎさとの事で多少動揺してたからかな?
562 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/24(水) 21:08:47.80 ID:M7lmf0rA0


「…………そう、そっか。そういうことなら今度でいいよ」

なぎさ「はい、また今度…… で、でもっ、一人で魔女と戦ったり危ないことはしないでくださいねっ!?」

「あー……、うん。そうだね」


 やっぱり浮かぶのはこの前の光景。知り合ったばかりの人が、魔女の結界の中であんな……。

 ……それからしばらく二人とも喋りませんでした。

 何を言っていいのか迷ってしまうような、なんだかぎこちない空気です。


なぎさ「……そうだっ! そのかわり、これからうちにきませんか?」

なぎさ「せっかく魔法少女の友達が増えたのです。戦いとか以外でも、おねーさんにもなぎさのこといっぱい知ってもらいたくて……!」

「まあ、なぎさちゃんのお家に招待してくれるの? うれしい!」

なぎさ「はい、こっちなのですよ!」


 おねーさんもまた笑ってくれたので安心しました。

 なぎさもむくれてちゃダメですね……。あすみのことはいったんおいといて……。


なぎさ(あすみ……)


 足を止めたなぎさに、おねーさんは不思議そうに振り返りました。


なぎさ「な、なんでもないのですっ」

563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/24(水) 21:28:06.09 ID:UDZ5oLZX0
なぎさちゃん、今日始めて会った相手を家に招待とか流石に無用心すぎるぞ・・・
564 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/24(水) 21:56:12.98 ID:M7lmf0rA0
――――
――――



 なぎさの家に着くと、おねーさんと二人きり。

 この前のカレーの残りをどうするかと相談したところ、おねーさんが何か思いついたようで。



なぎさ「――――わぁ、おねーさんお料理上手なのですねっ!」

「大げさだよ」

なぎさ「おおげさなんかじゃないのです! なにもないと思ってたうちのキッチンからカレードリアができるなんて、夢にも思いませんよ……!」


 冷蔵庫にあった牛乳となぎさのおやつのチーズ、あとお母さんがいなくなってから棚の奥に眠っていた小麦粉……。

 それらを使って作ってくれたのです。


なぎさ「まるで魔法のようです!」

「だから大げさだって……ほら、出来上がったから、火傷しないように食べてね?」

なぎさ「出来上がりもすばらしいです! さっそくいただきます!」


 ……チーズ、お母さんが好きだったから前はこういう料理も作ってくれたな。

 食べた瞬間、そんなことを思い出しました。

 お母さんの好物でもあるけど、なぎさも。


なぎさ「おいしい! これ、なぎさの大好物です!」

「そうなの? よかった」

なぎさ「なんだかお母さんを思い出して…… もう作ってくれないから」

「何かあったの?」

なぎさ「死んでしまいました」

「それは辛いね……。ところで、お父さんは?」

なぎさ「今日はいつ帰ってきますかね……少し早い時もあれば、遅い時も多くて」

「そうなんだ」
565 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/24(水) 22:36:28.50 ID:M7lmf0rA0

なぎさ「……今度、作り方を詳しく教えてください」

「難しいと思うけど、大丈夫なの?」

なぎさ「だ、大丈夫です! なぎさはもう小さくないので……!」

なぎさ「お母さんがいなくなってしまったので、早く家事は覚えないと困るのですよ。ご飯がお菓子とお弁当と外食だらけなのです!」

「このカレーは?」

なぎさ「これは昨日あすみと一緒に作ったのです」

「……さっき会った子ね」

なぎさ「はい……」


 あすみの話が出てきて、さっきのこともまた思い出しました。

 あすみとの思い出はたくさんあります。そのほとんどは良い思い出です。あんなふうに喧嘩してしまったのは初めてでした。


なぎさ「なぎさもあの時は言い過ぎたのはわかってるのです。なぎさにとってもかけがえのない友達だったのに」

なぎさ「もう……友達でいられないんでしょうか」

「なぎさちゃんはどう思ってるの?」

なぎさ「なぎさは……友達でいたいです。でも……」

「でも、あの子の言ってたことは間違ってると思ってる」

なぎさ「そりゃそうですよ! おねーさんがよくても、なぎさがよくないのです……」

なぎさ「会ったばっかなのに、おねーさんのこと何も知らないのにあんなこと言って!」

なぎさ「? む……」


 その時、ポケットに振動を感じました。


「あらあら、お食事中に携帯はマナー違反だよ?」

なぎさ「……それもそうなのですね」

「まあ、『そろそろ』かもしれないけど」

なぎさ「なにがですか?」

「ううん? 何でもないよ?」

566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/24(水) 22:38:34.65 ID:UDZ5oLZX0
毒か?
567 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/24(水) 23:33:49.36 ID:M7lmf0rA0


 夕食を食べ終わった頃、なぎさは少しウトウトとしかけていました。

 このまま眠ってしまったら気持ちよさそうですが、今はお客さんも来てますし、お父さんが帰る前に寝たくはありません。


「眠くなっちゃった?」

なぎさ「ん〜、まだそんな時間じゃないのに……ちょっとお水を取ってくるのです」

なぎさ「――――うわっ!?」


 椅子から立ち上がろうとしたのですが、転んでしまいました。

 奇妙な感覚でした。どこにぶつけたわけでもなく、足から力が抜けるようにして崩れたのです。

 ただ眠いだけではこんなふうにはならないと思うのですが……。


なぎさ「いたた……あれ? 何か、おかしい……」

「横になってくれば?」

なぎさ「い、いえ。――……そうだ、治癒魔法を!」

「……ねえ、やっぱりなぎさちゃんは『小さい子』だよ」

なぎさ「え?」

「ダメじゃない。知らないおねーさんに着いてっちゃって、そのうえ知らない人の作ったお料理食べてるんだもん」

「でも、ヘンにマセてるより子供は馬鹿で素直なほうがカワイイと思うよ? なぎさちゃんは悪い子だけど、良い子だね」

なぎさ「ど、どういう意味……なのです?」


 立ち上がろうとしても力がうまく入りません。


「小さいから回りも早いよね。そうして段々感覚もなくなって……最期は眠るように死んじゃうんだ〜」

「『優しい』毒でしょ? 痛みもなく気づかれないままソウルジェムを蝕んで殺すの」

「たっぷり時間を稼げてよかったよ。本当は看取るまでしたかったんだけど……治癒されたら困るものね」

なぎさ「毒……って、まさか……!?」

「料理だけじゃないよ? 毒は二つあるの。一つはさっきの料理に……もう一つはこの空気全体に溶けた霧に」

「毒霧のほうはソウルジェムを蝕み、ついでに魔力を察知する能力を鈍らせる毒。そのおかげで魔法なんて使ってたこと気づかなかったでしょ?」

「料理に使ったのは身体と感覚を麻痺させる毒。毒霧だけでも似たような事は出来るけど、効きを確かめづらいしちょっと時間かかるから」

なぎさ「な、なんで……そんな……契約したてでなにもわからないって……」


 そう言うと、おねーさんはくすくすと笑いはじめました。


「そんなのまだ信じてたなんて! 油断させるための嘘に決まってるのに! 簡単に信じちゃうから〜、なぎさちゃんは小さい子なの」

なぎさ「……!」



――――――
568 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/24(水) 23:35:05.87 ID:M7lmf0rA0
-----------------
ここまで
次回は27日(土)18時くらいからの予定です
569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/24(水) 23:37:06.27 ID:UDZ5oLZX0
乙です

やっぱり毒か・・・この自称新人さんは毒使いだったのか。
そういえば毒に特化した魔法少女って珍しいかも?マギレコの方にもいなかったと思うし。
570 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/27(土) 20:16:57.14 ID:R/3nOHzG0
――――――



マミ「……お口に合わないかしら?」

あすみ「別に。オシャレそーな店らしくなんかオシャレな味してるよ」

マミ「褒めてるのかしら……?」


 こんな微妙な時間じゃファミレスでもランチはやってないだろう。

 安いバーガーでいいと言ったのだが、育ち盛りの子がそんなんじゃダメだとマミが一蹴。

 マミに連れられて入ったのは、今まで縁のなかったようなカフェだった。……まあ、奢りだからいいんけど。


マミ「ねえ、心が読めるってことは本当にあの人は悪い人なんでしょう?」

あすみ「……」

マミ「このままじゃきっと、あの子危ないわよ」

あすみ「私が何言っても聞かないんだし、しょうがないじゃん。忠告はしたんだから私にしては優しいほうだよ」

あすみ「……なぎさに読心のこと言ってなかった以上証拠を提示することもできなかった」

あすみ「そうなりゃ後は考え方と経験の違いってやつじゃん? 私も誰に何言われようが今の考え方を変えるつもりないしね」

マミ「じゃあ、なんで私にだけ話したの」

あすみ「気まぐれ。かもね」


 迂闊だとは思ってた。

 話しすぎるのも、話さないで不利になるのも……だ。後者のことについてはさっきまで考えもしなかったけど。


マミ「……やっぱり気になってるんじゃない? だって、さっきからすごく不機嫌そうな顔してるわ」

あすみ「元からこういう顔だ」


 他人なんか助けようとしたから食われる。この世界で当たり前のことが当たり前に起きてるだけだ。

 ちょっと前に世話してやったからって、一生世話なんてしきれない。

571 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/27(土) 21:05:32.75 ID:R/3nOHzG0


あすみ「…………やっぱこういうとこって値段の割に量少ないね。もう食い終わっちゃった」

マミ「食後には紅茶がついてくるみたいよ?」

あすみ「そうなの? じゃあまだ待ってなきゃいけないのー?」


 ……暇になって、携帯を手に取ってみた。

 手持無沙汰に携帯持ってる奴って多いけど、何やってるのかまったくわからない。最近まで携帯を持ったこともなかった。


 マミには女の子が持ちそうな携帯じゃないと言われたが、そりゃそうだ。

 今持ってるのは前にいた家から取ってきただけだから。いつまで使えるかもわかったものじゃない。


あすみ(もう何か月も経つしそろそろ潮時かもな。そしたら……どうしようか?)

あすみ(なければないでも困んないか。元々大して使う予定もなかったけど、思ったよりは使ったな)


 元はアイツがいなくなったことを怪しまれないためにとチェックしてたはずだった。

 でも今では元から入ってたデータは全部消した。メールのやりとりを見返せば、なぎさとのやりとりばっかり。

 今日の放課後。それ以降のメッセージはない。……一通り見返して、一言だけなぎさに送ってみた。


 『今どこ』


 最後になるかもしれないメッセージ。もう死んでたって何もおかしくないんだから。


あすみ「……ね、暇だからなんか面白いこと言ってよ」

マミ「その無茶ぶりは無理があるわよ……? せっかくだから魔法少女のことについて聞かせてもらえたら」

あすみ「えー、私に話振るの?」

あすみ「魔法少女のことって言われてもなー。この後はなぎさに丸投げするつもりだったし……」


 ……あれ。でもなぎさが死んだらこいつのことはどうする?

 そう思ったところで、さっそく、予想を反してお早いお返事が来たことに気づく。

 いつもとちょっと違う、無愛想な一言で。


あすみ「……はあ?」

マミ「ど、どうしたの? さっきより輪をかけて不機嫌そうな顔をして」

あすみ「そりゃ不機嫌にもなるっての! こんなの予想の斜め上! あいつはどこまで……!」

あすみ「紅茶嫌いだったの思い出したわ。もう出る」



 ――――返ってきたメールには、『なぎさのいえ、おねーさんと一緒』とだけ書かれていた。


572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/27(土) 21:08:34.84 ID:bsjF1IVh0
間に合うか?
573 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/27(土) 21:41:34.75 ID:R/3nOHzG0


あすみ「……何故アンタまでついてきてる?」

マミ「心配してないって言ってたけど、なぎさちゃんのこと助けに行くんでしょう?」

あすみ「別に」

マミ「……違うの?」

あすみ「私はあの女のことが嫌いなんだ。居場所がわかったから殺しに行くだけ」

あすみ「私に狙いが向いてからって思ってたけど、一人潰して浮かれてるとこ想像しただけでも腹が立つ」

マミ「うーん……素直じゃないのか判断しづらいけど……」

あすみ「アンタこそ、死にたくないんだろ。戦いには間違いなくなるよ。標的の家にまで来てその場で決着着けない理由はないもの」

あすみ「だからこそ私も、なぎさに邪魔されずに殺せる現場を狙ってるんだし」

マミ「でも、私も仲間がピンチなのに見捨てるわけにはいかないわよ。なぎさちゃんはせっかく仲間になれそうな人なんだし」


 あー、こいつ。臆病のくせに無駄に正義感あるタイプなんだ。

 面倒くさい。


あすみ「自分が戦力になるとでも思ってるの? 人質にでもとられたらその時は真っ先に無視するわ」

マミ「……っ」

あすみ「居てもいいけど、邪魔はするなよ。それに……私たちが行くころにはなぎさはもう死んでるかもね。それ見ても動揺しない?」

マミ「神名さんこそ……しないの? なぎさちゃんが本当に、死んでても。交友はあったんでしょう?」

あすみ「もちろんしないわ」


 ……そうなってもきっと心は動かない。

 私は今までだって色んなものを失ってきた。あんな最近知り合っただけの子供なんかよりずっと大切なものを。

 そして私は、契約した日からもう何者にも動揺しない力を手に入れたんだ。


 でも、もしも助けられた時はどうかな。そういう意味での『心が動く』は、長らく忘れ去っていて想像もできないけれど。



――――――
574 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/27(土) 22:19:01.53 ID:R/3nOHzG0
――――――



「じゃ、もう種明かしもしたし、さくっとやっちゃおうねー」

なぎさ「!」


 変身したおねーさんの手から魔力の光が洩れます。その直後に放たれたのは針でした。

 それを横に転がって避けます。


「チッ……あぁいけない。まだ動ける力あったの? でも次こそ終わりよ」

なぎさ「おねーさん、治癒魔法は効くって言ってましたよね……? たくさん練習しといてよかったのです!」

なぎさ「少しずつでも回復は出来てる……少し苦しいけど、そんな細い針くらいならっ!」

「掠りでもすればいいのよッ! 今度こそ眠ってもらうわ!」


 足に重点的に魔力を流したおかげで、なんとか動くようには回復しました。

 それでもハンデを負ってるのは事実。その上で――。

 魔法の衣装に身を包み、武器を片手に持って立ちます。


「なぎさちゃ〜ん? お注射の時間だよ〜ッ!!」

なぎさ「っっ!」


 動かれてもどこかには当たるように広範囲に飛ばしたのでしょう。

 掠っただけで効く毒は恐ろしいですが、この針は物理的な破壊力は強くなさそうです。

 ラッパを吹いて自分をシャボンの膜に包みます。


「なにそれ、ずるいっ!」


なぎさ(とはいえ、シャボン玉に針というのは……相性がよくないですよね)


 何発かは耐えられても、防戦一方では勝てない。


「篭もってたっていつかは割れるのよ。諦めなさいよ」

「足掻くのなんて辛いだけだよ……全部諦めて寝ちゃおうよ。苦しまず死させてあげるよ?」


 ……そんなことは、わかっています。



なぎさ「死んでたまるか――――なのですよっ!」



575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/27(土) 22:31:30.31 ID:FiDN+yipO
確かに針にシャボン玉は相性が悪いな
576 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/27(土) 23:29:51.74 ID:R/3nOHzG0


 身に纏うシャボン玉を大きくし、渾身の突撃をかましてやります。

 おねーさんもそれは予想していなかったようで横に倒れて…… そこでシャボンの膜を破りました。

 この隙に再びラッパを吹いて、今度は逆に閉じ込めてやります。


なぎさ「形勢逆転ってやつですよね? これ。えへへ……なぎさも魔女との戦いでピンチになった時にはよく使うわざなのです」

なぎさ「でも、おねーさんには……同じ魔法少女の仲間には使いたくありませんでした」

「仲間……ですって……?」

なぎさ「はい! こんなことしたらメッなのですよ!」

「メですって…………なによ、チビっ子のくせに説教して」

なぎさ「そういうのよくありませんー!」


 新たな針でシャボンを割ろうとしてるのを見て、慌てて追加のシャボンを外側に被せます。


なぎさ「うわわっ、もう! 油断も隙もないのです!」

「それがいつまでも続けられる?」


 おねーさんの声とほぼ同時に、くらっとするような眩暈のような感覚がしました。

 これも毒のせいなんでしょうか?


なぎさ(集中が乱れて、魔法が……)


「ほーら、やっぱり。私の毒霧は『ソウルジェムを蝕む』って言ったよね?」

なぎさ「ソウルジェム……?」


 確認してみれば、見たことのない黒色をしてました。

 咄嗟にグリーフシードを取り出しましたが、飛んできた針に弾かれます。


なぎさ「なっ……!」

「回復なんてさせてあげなーい」

577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/27(土) 23:47:57.69 ID:FiDN+yipO
騙すようなやつだから当然だが性格も悪いな、こいつ
578 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 00:02:50.57 ID:PDF/oUon0


 くすくすと笑う声。


なぎさ「そ、それでも負けません!」


 飛んでくる針。

 この時わずかに反応が遅れてしまいました。


なぎさ「あっ…………!?」


 針が一本腕に掠ったようで、血が滲みます。

 『よう』というのも、その感覚すら遠くなって見てから気づいたから。

 感覚を鈍らせる毒、と言ってましたか。痛みもなく死ぬというのは本当らしいのです。

 ……そんなのはイヤです。痛くなくとも死んでたまるかなのです。


「何、誰?」


 それとほぼ同時にチャイムが鳴り、おねーさんが顔を顰めました。


「あー、父親かぁ。言ってたもんね」


 なぎさもお父さんかと思いましたが、その直後のものすごく乱暴な開け方をされたので違うことはすぐにわかりました。

 当然、おねーさんの意識もそっちに向きます。掠りでも針を命中させたなぎさのことはもう放っておいてもいいと思ったからというのもあるのでしょう。


 ――――その瞬間、響いたのは小爆発の音。

 それと、なぎさにとっては聞き馴染みのある鎖の音でした。

579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 00:27:33.34 ID:FnVYvW6HO
あすみ間に合ったけど流石荒っぽいな
580 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 00:28:10.85 ID:PDF/oUon0
--------------------------
ここまで
次回は28日(日)18時くらい
581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/03/28(日) 00:31:51.59 ID:FnVYvW6HO

次で決着つきそうな感じだな
582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 00:33:24.57 ID:FnVYvW6HO
sage出来てなかった、ごめん
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 15:02:26.93 ID:O5qE7UGn0
ほい
584 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 18:21:42.29 ID:PDF/oUon0


あすみ「何普通にチャイム押してんのさ! こういうのは大体力づくでいけば開くのよ」

マミ「え、それは……なんとなく。でもここなぎさちゃんの家でしょ? ドア壊れてない?」

あすみ「律儀か。どう見てもお取込み中な魔力反応してたんだからこれでいいの」

「あら、あなたたちさっきの……」

あすみ「先手必勝の一撃は防がれちゃったけど、防ぐのに使った腕は壊せたからよしとするわ」

あすみ「にしても、明らかに腕折れてんのに表情変わんないね」

「危険を察知するためにはないと困るものだけど、痛いのが好きな人なんていないでしょ?」

あすみ「おねーさん、あすみよりオトナなのにわかってないなぁ〜。痛いのがイイって変態さんも中にはいるんだよ。私は違うけど」

あすみ「でもそういう人って倒錯しすぎていきなりSとM入れ替わるのも多いから気を付けてね?」

「はぁ、何? きも……」

あすみ「あはは、ごもっとも! それよりなぎさ、よく生きてたね。……あれ? 瀕死? ギリで死んじゃった?」

なぎさ「…………」

「ザンネンだけど、もうすぐ『孵る』よ。なぎさちゃんがいなくなったらきみ友達いなくなっちゃうんだっけ? ダッサい子」

「こうやって喋ってるうちにも――――……」


 おねーさんもなぎさを見ます。そして、言葉を途切れさせました。


「こいつ、なんでこんな怪我を……? ――てっ、ていうか何よこれ! なんでシュークリームなんて口に咥えてるの!?」

あすみ「ふーん……このオモシロ死体、アンタがやったわけじゃないんだ?」

あすみ「まあ、わかってたけどね。お菓子出す魔法なんてなぎさしかいないだろうし」

なぎさ「ひたいじゃないれふ!」


 残りをそしゃく。

 みっともない食べ方になったのは反省ですが、このシュークリームはあすみの想像通り、魔法で出したものです。

 みなさんは中身のクリームだけ先に吸い出すなんて食べ方やっちゃいけませんよ。

585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 18:47:51.45 ID:FnVYvW6HO
孵るって言ったのは魔女化の事は知ってるのか
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 19:16:00.03 ID:1N6gZpAB0
なぎさちゃん、何をしたんだ?身代わりか何かかな?
シュークリーム、たまに中身だけ吸い取ったりしてますw
587 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 19:22:19.78 ID:PDF/oUon0


なぎさ「もぐ……――っ、この前あすみに毒入り菓子を作ってはどうかと言われましたが、これは『ハンタイ』にしてみたのです!」

なぎさ「といっても万能な解毒薬にはなりませんが、毒の成分はおねーさんが喋ってくれましたでしょ? それなら反対の効果にすればいいわけです!」

なぎさ「おかげで痺れも取れてきました。なぎさにはおねーさんみたいな毒よりこっちのほうが合ってると思うのです」

なぎさ「悪いことするなら止めるくらいの力はあるって言いましたよね! なぎさはそこまで弱くはないのですよ!」

あすみ「……はぁ、すっかり忘れてたけど、そういえばアンタも新人じゃなかったわね」

「針が掠った周辺を自分で抉り取るくらい肝が据わってたとはね……正直見くびってたわ」

なぎさ「なんて痛々しい表現! ちょっと爆破して吹きとばしただけです!」

マミ「そっちも十分痛々しいと思うけど」

「でもここはもう私のテリトリー。下準備はとっくに終わってるんだから、増えたって私の有利は変わらないわよ」

「一人は本当にただの新人みたいだし」


 戦いが長引けばそれだけでなぎさたちは負けてしまうということです。

 なぎさもたしかにソウルジェムを蝕むという毒霧のほうは解毒できませんでした。他の毒と違って簡単じゃないからです。

 一度は注意が逸れてる間に魔力を回復できたものの、二度目はそうそうできないでしょう。


あすみ「マミ! アンタはこの家を出来るだけ換気しなさい!」

マミ「わかったわ!」


 魔法少女が二人もいれば足止めはできます。

 後はいつも通りあすみと二人で、決戦を仕掛けるのみ――――なのです。

588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 19:34:45.18 ID:1N6gZpAB0
なるほど解毒剤シュークリームだったのか
周りごと傷口を吹っ飛ばすとか、なぎさちゃん根性据わってるなぁ・・・・・・
589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 19:35:46.99 ID:1N6gZpAB0
なるほど解毒剤シュークリームだったのか
周りごと傷口を吹っ飛ばすとか、なぎさちゃん根性据わってるなぁ・・・・・・
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 19:36:48.89 ID:1N6gZpAB0
あれ?二重投稿にになってる。
申し訳ないです。
591 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 20:28:39.93 ID:FnVYvW6HO
なぎさとあすみの共闘がどれだけ習熟してるかだな
592 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 20:57:42.07 ID:PDF/oUon0

 おねーさんの狙いはやはり広範囲。でもなぎさも範囲には自信があります。

 たくさんのシャボンを周囲に浮かせます。小さい分は脆くはありますが、一発を防ぐには十分です。


あすみ「霧も針も地味だけどウザい攻撃ね……性格の悪さが反映されてるに違いないな」

あすみ「毒って知らなかったら負けてたかもね」


 イラついた様子のあすみ。

 あすみの戦い方といえば、破壊力十分の鉄球で必殺を決める派手な攻撃。おねーさんとは正反対なタイプです。

 普段見ていても、小さい攻撃は無視することも少なくありません。避けるということをあまり重要視してないようなのです。

 もちろん毒針は無視するわけにはいかないのですが、これも相性はよくないのかもしれません。……逆に、毒を無視できれば早い?


なぎさ「でももうなぎさにさっきの毒は効きません! それに解毒はなぎさができますから!」

あすみ「あー、それもそうだったわね? こんなチンケな針……毒さえ効かなきゃ攻撃にもならないよ!」

「あっそ……でももう『優しい』のは終わりだよ」


 するとおねーさんは一気に針の量を増やしてきました。

 なぎさのシャボンでもこの量を食らったら耐えられないでしょう。篭もるのは逆効果――今度は何が来るのか、身構えます。

 いえ、何が来たってやることは同じなのです。最大限に避ける。食らったらその効果と反対に打ち消す。


なぎさ「つっ…………!」


 最初に来たのは痛みでした。

 これは――――なんの毒? そもそも毒なんでしょうか? ただ針が刺さった部分がズキズキと痛んで、痛んで――――。


「単純だけど痛みに怯まない生き物なんていない。生きるのに必要な『痛み』も過ぎればショックで死んじゃうのよ」

「これで死ぬなんて不幸ね。これが一番『優しくない』毒。せめて感覚麻痺を解毒しなければよかったね?」


 新たな針が生成されるのが見えます。解毒――いや、まだ踏ん張れます!


なぎさ「……と、りゃあああ――――っ!」


 ええと、たぶん初めてラッパを鈍器として使いました。

 踏み込んだあとは、なぎさの全体重をかけて床に倒します。おかげで新しい針の攻撃はあらぬ方向に外れていくことになりました。


なぎさ「あすみ! トドメを――ッ!」

なぎさ「あすみ…………? ――ふぎゃっ!」

「いつまでも乗っかんな!」


 軽々と跳ね除けられてしまいます。なぎさの全体重は、おねーさんと比べたらかなり軽いのでしょう。

 いくらなんでもこんなに至近距離で針を食らったらまずい。今度こそ解毒を……!

593 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 21:53:31.04 ID:PDF/oUon0


なぎさ(あれ……?)


 口に鎮痛のシュークリームを咥えつつ、針山にされるのは覚悟してたのですが、攻撃が来ませんでした。

 見てみれば黄色いリボン? でラッピングされたおねーさん。


マミ「換気扇を回して、開けられるところは開けてみたわ! 二人とも無事!?」

なぎさ「なぎさはなんとか……。解毒もできましたし。それよりあなたがやったのです!? すごいですね!?」

マミ「え、ええ!」

なぎさ「それよりあすみは……――――」



――――――
――――――



 『痛み』……それは私が昔怯えていたもの。そして、契約してから感じることのなくなったものだった。


 痛くないから、痛みを与えてくる奴らにも恐怖しない。戦いで攻撃を受けようが恐怖しない。

 ソウルジェムと身体が離れてるから出来る芸当だとキュゥべえは言ってたが、リクツなんてどうでもいい。

 その真実を聞いて絶望する少女もいるらしいが、私は歓喜した。


なぎさ「はいこれ、解毒のシュークリームなのです!」

あすみ「…………っ」

なぎさ「……? 聞いてるのです? もう! こうなのですっ!」

あすみ「むぐっ!? うぐ――……っぶ、あっま……? ……なに、これ」

なぎさ「半分落としてますよ! クリーム吸い出しよりお行儀悪いのですっ!」

なぎさ「無理矢理押し込んだのも悪かったですけど……辛そうだったので。うんんー、もっと食べやすい形にできればよかったかなあ?」


 ……目の前で起きてることが遠くに見えてた。いつもの感覚が戻ってきて、思考も戻ってきた。

 いつのまにかあの女は縛られてて、なぎさとマミも無事だ。

 なにこれ。私だけが無様?

 痛みを味わったさっきから、来なければよかったと心の中で後悔しはじめてた。その気持ちは怒りへと変わる。


 毒の内容は読心でわかってたはずだった。

 ――――魔法少女の使う魔法なら、痛覚を切り離していても効いてもおかしくはない。


 しかし、覚悟していたら私はなぎさのように出来ただろうか?

 いや……踏ん張れないのはきっと私だけじゃない。


あすみ「…………」

なぎさ「……ま、まだ痛いですか? 今小さいの作りますからねっ」

あすみ「ああ、うん。受け取っとく」


 私にプチシューを渡すと、なぎさはリボンで縛られた女のほうに向き合った。

594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 22:01:31.82 ID:1N6gZpAB0
あすみは常時痛覚を切ってたけど今回の「痛み」を伴う攻撃でトラウマが呼び起こされたのか
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 22:14:18.02 ID:FnVYvW6HO
この後確実に血の雨が降るな
596 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 22:38:22.24 ID:PDF/oUon0


なぎさ「おねーさん……もうこれで決着つきましたよね?」

「……これから私をどうする気? 痛いことされた腹いせに、私を嬲り殺しにでもしてみる……?」

なぎさ「怖い事言わないでください! そんなことしたいわけないじゃないですか!」

「私は殺す気だったのに、なんでここまでされて私のこと殺さないの……逆に怖いよ。わけわかんない」

なぎさ「おねーさんもあすみに片腕やられてるので、それでおあいこなのです」

あすみ「……それでいいの?」

なぎさ「おねーさんもあすみも勘違いしてるのです! 魔法少女同士は敵じゃありません!」

なぎさ「ピンチの時は助け合えるし、仲間は多い方がたくさんの人を助けられます! 友達だって多いほうが楽しいのです!」

なぎさ「戦うのも殺し合うのも悲しいだけですよ。なぎさが死にたくないように、おねーさんだって死にたくないでしょ? どうしてわかってくれないんですか!」


 マミは何も言うことなく一歩引いて見守ってた。

 何? なぎさは相変わらず甘い気持ちを引きずってるみたいだけど……本当にこいつもそれでいいわけ?


「グリーフシードは欲しくないの?」

なぎさ「なぎさは必要な分だけあればいいです」

「……なぎさちゃんが欲しくなかったとしても、そういう人がいることを考えられないのはやっぱ小さい子だよ。そのせいで私にやられて」

「でも……こんな子ばっかりだったら平和なのかもね。私だってそりゃあ……死にたくはないよ。本当に、本当に許してくれるの?」

なぎさ「なぎさはおねーさんに裏切られたってわかった時、すごく悲しかったです。でも……許したいのです」

なぎさ「元はと言えばおねーさんを止めるために戦ってたのです! だから……今度こそおねーさんが仲良くしてくれるって言ってくれるなら」

なぎさ「おねーさん、強かったのですよ。これから一緒に戦ってくれるなら心強いです……!」



 ――ああ、わかった。

 今回マミはとくに自分が被害を受けてなかったから、どうでもいいと思ってるのか。



「他の人も……そうなの?」

なぎさ「お願いします! 信じてあげてください!」

マミ「私は他の人に任せる、けど……」

あすみ「いいよ、お友達になりましょう。誰にだって改心の機会は必要よね」
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 22:41:48.55 ID:FnVYvW6HO
マミはあすみの読心を知ってるからあえて様子見してるんじゃね?
598 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 23:31:47.59 ID:PDF/oUon0


あすみ「――――お姉さんってお嬢様なんでしょう? え、父親は県知事やってるの? 私生活窮屈なんだね」

「は…………」

あすみ「あぁ、珍しい苗字だ。そりゃ素性バレかねないし頑なに隠すわけね。そりゃどっかから非行のことがバレたらまずいものね?」

あすみ「学校ではいじめっ子の金魚の糞やってるんだって? 主犯じゃないのがどっか地味なお姉さんらしいなー。でもどっちもクズだとは思うよ?」

「何を言ってるの! で、デタラメ! こいつの言ってること全部デタラメ!」

あすみ「友達になるつもりなのに隠し事ばっかなんておかしいよ!」

「あ、後で言おうと思ってたのよ! でもまだ心の準備が……!」


 それだけは一応本当だ。まあ『先読み』してしまったが。

 そして、つつけばつつくだけ埃のように溢れてくるものだ。


 ……ちょっとイラついてるみたい。でも殺されるわけにはいかないから表に出すまいとしてる。

 もともと強い人には逆らえないタイプみたいだから。


あすみ「ねえ? 自分でも気づいてるみたいだけど、表面上の友達しかいないなんてヘンだよね」

あすみ「お嬢様学校のことも強そうな友達のことも、本当は嫌いなのにアクセサリーにしてるの虚しいね」

あすみ「私たちのこともこれからはアクセサリー扱い? この中の誰よりもおねーさんなのに誰より薄っぺらくない?」

「そ、そんな……こと……!」

あすみ「内心嫌ってるいじめの主犯には逆らう度胸もない癖に、うっかり殺してから変な度胸だけついちゃったんだね……」

あすみ「魔法少女のほうも学校生活のほうも、どっちも自分可愛さに裏切ったり傷つけたりすることばっかり」

あすみ「そんなお友達ができるなんてステキ! ――なんて言うわけねぇだろ!!」


 横っ面に鉄球を一つお見舞い。可愛らしく澄ました顔が醜く歪む。

 正直わざわざ探るまでもないくらい、印象通りの中身だった。


「がは…………っ!!」


 間髪入れずに次を振りかぶる。

 こいつも痛覚切ってるみたいだし私の魔法では嬲り殺す手はないが、私の気が済むまで――――醜く潰れるまで叩き潰してやろうか。


なぎさ「なっ……なにしてるんですか! やめてください――――!!」

あすみ「こんな奴が改心する? 無理だね」

あすみ「クズはクズ肉になるのがお似合いだよ!」

あすみ「どうしても友達になりたいなら、地獄に行ってキレイになってから生まれ変わってこい!」
599 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 23:42:54.58 ID:FnVYvW6HO
やっぱりね
あすみが許すわけないんだよな
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 23:51:00.26 ID:1N6gZpAB0
あすみ編の不届き者さんの時みたいに呪いが発動しなかったのは、そこまで殺意を持ってなかったのかね?
といってもあすみに内心を見透かされてボコボコにされるか・・・・・・
クズ人間は絶対に許さないからな、あすみ
601 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/29(月) 00:47:15.21 ID:z/3KaO4P0


 返り血に濡れる。

 血も涙もない……なんてよく言うけど、それだったらなんでどんなクズにも血が流れてるのだろう?


 『こんな子ばっかりだったら平和なのかもね』


 それには同意するよ。なぎさみたいな人間ばかりだったら、私もこうなってないもの。



 ―――ソウルジェムはもちろん、身体のほうも原型をとどめない肉塊と化した頃にはなぎさもマミも目を覆っていた。

 なぎさも途中まで私を止めようとしていたが、手遅れと判断したのか途中から立ち尽くすだけになってた。



なぎさ「なんでこんなことに……」

マミ「そ、そうよ。これはあんまりだわ……何も殺さなくても」

あすみ「マミには最初から殺すって言ってなかったっけ?」

マミ「だからって……」

あすみ「安っぽい暴言だと思われてたならちょっと癪なんだけど」

なぎさ「一つ聞かせてください……。さっき言ってことって本当なんですか? おねーさんのことどこかで調べたんですか?」

あすみ「実はなぎさには言ってなかった魔法があるんだ。心を読む魔法……といっても自動的に使われるのは私に向けられた『悪意』を含むものだけなんだけど」

なぎさ「じゃああすみは最初からわかってたのですね。なぎさが裏切られるって」

あすみ「うん」

なぎさ「じゃあもう一つ聞かせてください。……さっきはどうだったのですか? さっきも、なぎさたちのこと本当は裏切るつもりだったのですか?」


 そうだと言えばなぎさは納得するのだろうか。


あすみ「いや? 表面上は友達になるつもりだったよ? 少なくとも『あの場では』ね。でもそれだって自分可愛さなんだよ?」

あすみ「あの女の行動原理は全部自分が可愛いから。なぎさを騙して殺そうとしたのも、学校でいじめに加担するのも全部」

あすみ「ならいつか自分が可愛いからって理由で私達を裏切ったり見捨てたりすることくらい想像つくよ。なにより私はクズと一緒に居たくなんてないし」

なぎさ「……」

あすみ「それでもまだいい人になれる可能性はあったって言える?」

あすみ「前言ってたけどさ、魔法少女になるのに必要なのは正義の心じゃなくて『願い』と『素質』だよ。……これでわかっただろ」

602 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/29(月) 01:20:31.46 ID:z/3KaO4P0


あすみ「いざというときに頼れない友達なんて欲しい? そんなの友達だと思わないけど」

なぎさ「なぎさには……っ わかりません」


 なぎさの声が涙で揺らぐ。

 なんか、似合わない臭いこと言ったな。友達なんていらないって思ってたのに。

 でも、なにが友達かっていうなら……ひとつ気づいたことがあった。


なぎさ「信じたかったです。最初のときも、さっきのときも…… 本当に騙されちゃったけど、でも殺すよりは信じたかったんです」

なぎさ「可能性ならあったと思うんです……どんな悪人だってきっとそれは同じで、なぎさがそうできたら一番いいとは思います」

なぎさ「でも……そのせいで傷つく人がいる可能性もきっとあるんでしょうね。それはなぎさかもしれないし、あすみやマミ……もっと違う人かもしれない」

なぎさ「…………だから、わからない」

あすみ「……うん。アンタにしてはよく考えたじゃん」

マミ「私もそれで納得はするけど……もう少しどうにかならなかったのかとは思うわ」

マミ「……殺すにしても、そんな殺し方をする必要はなかったんじゃないの?」


 ……正義感の面倒臭い部分が出た。


あすみ「まぁそこは考え方の違いさね。なぎさの家をどう見ても殺人現場にしちゃったのは素直に謝るよ」

なぎさ「ひっ、そういえばそうです! お父さん帰ってきたら失神しますよ! なぎさだって今にも吐きそうなのに!」


 とまぁ、こんな時にチャイムが鳴った。


あすみ「噂をすれば?」

なぎさ「あああっ、なぎさが出てきます!」


 慌ただしく駆けていくなぎさの腕には、まだ痛々しい怪我があった。

 ……今はあのシュークリームで痛みも抑えられてるかもしれないが、よくあれを耐えて戦ってたものだ。


あすみ「……なぎさのことは頼れるって認めてやるよ。私も正直見くびってた」

なぎさ「えっ? 何か言いましたか?」

あすみ「なんでも!」


 考え方は子供そのものだけど、私より強い一面もあった。

 そんなところは尊敬することにした。


 ――いざっていう時に頼れる。そういうのを『友達』って言うんだろ?

 他人から言われてもしっくりこなかったけど、やっとそう実感をもって思えたから。

――――
――――
603 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/29(月) 01:23:41.29 ID:z/3KaO4P0
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ここまで
次回は31日(水)20時くらいからの予定です
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/29(月) 08:10:57.19 ID:syiESJIBO

想像以上に血生臭くなったな
605 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/31(水) 20:45:54.68 ID:VcfUkZhS0


なぎさ「……まさかさっそくこういう使い方をすることになるとは思わなかったのです」


 出迎えついでに『よく眠れる』シュークリームを口に押し込んできたらしい。

 一家の主をすやすや寝かせている間に、私がリビングの惨状をあらかた片づけたところだった。


あすみ「まあ、薬も毒も似たようなもんだからねぇ。今回は毒寄りの使い方だけど」

なぎさ「パティシエールのプライドがー」


 それにしても、なぎさもマミもお通夜みたいな顔してるな。

 私からすれば自業自得としか思えないけど。


あすみ「じゃ、ひととおり片づけもも済んだし帰るかな」

マミ「…………」


 なぎさは私の前で空元気出せるだけまだ元気だろうが、あきらかに血の気が失せてるのはマミのほうだった。

 ……さすがになぎさは甘くても『魔法少女』だ。ただの一般人より戦いそのものに慣れてるし、度胸もある。


あすみ「あとなぎさ、こいつのお世話は頼んだから」


 メンタルケアまでしてやる気はないから、ここらでなぎさに丸投げしておくことにした。


マミ「……魔法少女って、あんな人ばかりなの?」

マミ「グリーフシードが欲しいからってあんなふうに殺そうとしてきて……殺しちゃった。しかも、あんなに酷く……」


 マミはまだ心を痛めているようだ。あんな奴の死に。

 私のことも、なんて冷酷な奴だとでも思ってるんだろう。


マミ「こんなのまるで無法地帯よ! こんなことがこれからも起きるの?」

なぎさ「そ、そんなこと……!」

あすみ「無いとはもう言えないよね? 私が見てきた中じゃ一般的な部類だよ」

なぎさ「そ、それじゃ、あすみはあんなことを、何回も……」

606 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/31(水) 21:54:53.32 ID:VcfUkZhS0


あすみ「魔法少女になるのに正義の心は必要ないけど、あれが他の人と違う特別な人間ってわけじゃない」

あすみ「魔法少女は悪い事が簡単に出来てバレない力があるから本性が暴きだされやすいってだけ」

あすみ「契約さえしなければあの女も普通の人生を送れたかもねえ。薄っぺらい友情のもとに人を裏切って虐げ、何の報いも受けない普通の人生を!」


 不要な人はいない、どんな命も尊いなんて綺麗事。

 本物の悪意も憎悪も知らず、想像もできずに生きてきたから言えることだ。

 そう思うと腹が立つ。さっさと帰ろうと思ってたのに。……やっぱり私はメンタルケアなんて似合わないようだ。


あすみ「マミの言う通り無法地帯なんだよ、魔法少女の世界は。強いベテランほど染まってるだろうし、弱い奴は淘汰される」

あすみ「アンタも気をつけなよ? 今は怖い怖いって思ってるかもしれないけど、いずれは力の使い方に慣れて、気づいたらすっかり染まってないように」

あすみ「不正、略奪、闘争……と来たらじきに殺しだってなんとも思わなくなるよ。人によっては最後じゃないけど」

あすみ「……まあ、私はそうなんだよね。『最初』に殺したから」

マミ「それも……殺されそうになったから仕方なく、なの?」

あすみ「ええ。私だって初っ端からそれ以外で殺したいと思うほどクズじゃなかったからね」


 しんと静まり返る。今回のことでみんなも何かを察したんだろう。誰も責めようとする人はいなかった。


なぎさ「……なぎさももう悪い人がいないとは言いません。それでも、誰も信じられる人がいないわけじゃないですよ」

なぎさ「いい人ばかりじゃなくても、きっとあすみの言うような人ばかりでもない。だって、この街にはちゃんと仲間がいるじゃないですか」


 ちょっとだけ世間の苦さを知ったとはいえ、相変わらずの甘く眩しいくらいのなぎさの言葉。

 でも、その一言で不思議と怒りは鎮まった。

 碌でもない世界だと思ってたし、今でもそう思ってる。でも――。


あすみ「……まあ、そう言われたら、それについては綺麗事だとは返せないか」


 ……経験の伴わない綺麗事は嫌いだけど、私も少しは変わったのかもしれない。

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