女「私は鼻が効きますから」

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27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:31:23.08 ID:YHIwkFnj0
男「端っこの座席が空いてるよ!女さん!」

女「……」

男「どうぞ」

女「どうも」ストン

男「じゃあ俺は……隣に失礼します」ストン

ガタン ゴトン ガタン ゴトン

男「事前に申し上げますが、見返りとか求めてないので安心して下さい」

女「はい」

男「まさか隣の駅だったのは驚いたけどね〜」

女「…………」

女「そう、ですね」

男「この時間は比較的に空いてるけど、やっぱりキツイの?」

女「朝ほどではないですが、アレがないので少し……」

男(アレ?……ああ、対策用のハンカチか)

男「そっか」
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:33:46.30 ID:YHIwkFnj0
女「……」

男「朝の電車は大丈夫なの?」

女「女性専用車両を利用してます」

男「おお、なるほど」

女「……」

男「女性専用車両っていい匂いしそうだもんなぁ」

女「化粧品。香水。柔軟剤。混ぜるな危険……です」

男「あ、なるほど……」

女「……」

男「……」

女「貴方はいつもどこに……いえ、なんでもありません」

男「俺?朝は6号車に乗ってるよ」

男「降りたらすぐ階段だから遅刻しそうな時とかスタートダッシュが切れるんだ!」

女「……」

男「……」
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:35:54.26 ID:YHIwkFnj0
ガタンゴトン ガタンゴトン

男「そろそろ女さんの降りる駅だね」

女「……」

男「俺はこの次」

女「……」

男(せめて一言だけでも返事がほしい……)

男(いやいや、強引に誘ったのは俺だし……興味ないってハッキリ言われてるもんなぁ)

『まもなく〜〇〇、〇〇でございます』

男「……」

女「……」

『ドアが開きます。ご注意ください』

男「着いたね、じゃあまた明日」

女「私はいつも7時10分の電車に乗ってます」スク

男「え?」

女「ありがとうございました。失礼します」

スタスタスタ

乗務員『ドアが閉まります。ご注意下さい』

男「??」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/06/21(日) 23:39:09.94 ID:YHIwkFnj0
――翌日 朝 ホーム

男(思わずいつもより早く来てしまった)

男(〇〇駅に7時10分ってことは、この駅だと7時6分発の電車ってことだよな)

男(でも女さんは女性専用車両に乗ってるはずだし……早くにきて何してんだ俺は……)

『まもなく列車が参ります。白線の内側までお下がりください』

男(まぁいいや、俺はいつも通り6号車で)

『ドアが閉まります。ご注意ください』

男「……」

男(この時間帯でも混み具合は変わらないんだな)

男(それに今まで意識したことなかったけど、たしかに臭いが……)

男(女さんは女性専用車両もキツイと言ってたけど、こっちよりか幾らかはマシだよなぁ)

男(だからきっと、今日も女性専用車両に乗るはず)
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:41:24.06 ID:YHIwkFnj0
『次は〇〇、〇〇でございます』

男「……」キョロキョロ

男(うん、わかってたけどね)

『ドアが閉まります。ご注意ください』

男(何やってんだろう俺は……。明日からいつも通りの時間に行こう)

――学校 最寄り駅 ホーム

男「ふぅ……」

男(おおっ!のんびり歩いても学校に着くまで全然余裕があるぞ!)

男(たまには早く電車乗るのもアリかもしれない……)

男(なんて嘘!眠い!二度とこんな時間に乗ってやるもんか!!)

男「ふわぁぁぁ!」

女「」チラッ

男「!」
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/21(日) 23:42:48.05 ID:YHIwkFnj0
男(女さん!うわぁぁ女さんに大アクビしてるとこ見られた!恥ずかしい!!)

男(ていうか、この時間に俺がいること……女さんに何て思われただろう)

男(俺が何か期待してるって誤解されちゃったら嫌だな……)

男(いや、まぁしてないと言えば嘘になるけど……でも、それだけじゃなくて!うーん)

男(っていつの間にか居なくなってるし……)

男「本当なにしてんだ俺」

男「はぁ」
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:11:39.83 ID:e+El0FAq0
――教室

男(おー、やっぱり朝早いだけあって人も少ないなー)

男(女さんは……)チラッ

男(いつも通り本を読んでる)

男(ていうか気まずいな……ちょっと遅れて教室に入ればよかった)ズーン

女「おはようございます」

男「え!?」

女「……」

男「あ、おはよう」

男「……」ストン

男(初めて女さんに挨拶された……)

男(たったそれだけの事なのに嬉しいと思ってしまうのはきっと俺が単純だからだろう)

男(やべっニヤける、とりあえず寝たフリして過ごそう)
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:14:42.03 ID:e+El0FAq0
――放課後

男(今日は特に女さんに呼び出されることもなく)

男(いや、当たり前といえば当たり前なんだけどね!)

男「友!今日一緒に帰らないか?」

友「わりぃ、今日はバイト!急いでるからじゃあな!」

男「あー頑張ってね」

女「」スクッ

男(女さんは今から帰るのか)

男(付き纏ってると思われるのも嫌だし、図書室によって帰るかな……)

女「」パサッ

スタスタスタ

男「あっ、あれは……」
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:16:19.69 ID:e+El0FAq0
男「女さん!ちょっと待って!」

女「?」クル

男「はい、これ落とし物!」サッ

女「え!?あ!」

男「これって例のハンカチだよね?」

女「はい……ありがとうございます」スッ

男「よかった、大事な物だもんね」

女「…………」

男「えと……じゃあ俺は図書室に用があるからこれで――」

女「あの!」

男「??」

女「か、嗅ぎましたか?」

男「ふぇ??」

女「ハンカチの匂いを嗅ぎましたか!?」

男「えと、嗅いでないけど……」

女「本当ですか!?」

男「うん」

男(なんかそこまで言われると気になるな……どんな匂いするんだろう)

女「ならいいです。ありがとうございました」
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:17:54.29 ID:e+El0FAq0
男「女さん、そのハンカチの匂い嗅がせてって言ったら嫌かな?」

女「!?」

男「臭い対策のハンカチってどんな香りがするのか気になっちゃって」

女「だ、だ、ダメです!!」

男(おー、慌ててる女さん……新鮮だ!)

男(ていうかそこまで拒否られると余計気になるのが人の性ってもんだろ)

男「お願い女さん!代わりに俺の匂い嗅いでいいから!」

女「……で、でも……うぅぅ」

男(あと一押しでいけるっ!!)

男「どこでも好きなところ嗅いでいいって言ったらどう?」

女「」ピク

男「……」

女「どこでも……」

女「わ、わかりました」

男(勢いでとんでもないこと言ってないか?俺)

男(まぁいいか、そんなに変なところは嗅がれないだろ)

女「どこでもか……ふふ……」

男(嗅がれない……よな?)

女「では人の少ないところへ」

男「う、うん」
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:20:17.37 ID:e+El0FAq0
――屋上前 踊り場

男「じゃあ先にハンカチを貸してもらってもいい?」

女「はい……いえ、でも……ううぅ」

男「やっぱりやめておく?」

女「うう……背に腹は変えられません」

女「ど、どうぞ!」サッ

男「う、うん」スッ

男「じゃあ、失礼します」

女「……」

男「……」スンスン

女「うぅぅ……」

男「?」

男(あれ?もっと柔軟剤とかの匂いを想像してたけど……ちょっと違うな)

男「……」クンクン スンスン

男(優しい感じというか、たしかに落ち着く匂いかも)

男「……」クンクン スンスン
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:22:01.31 ID:e+El0FAq0
女「……あ、あの……」

男「あ、ごめん!」

男「はい、ありがとうね」サッ

女「い、いえ……」スッ

男「……」

女「えと……臭かった、ですか……?」

男「いや?想像と少し違ったけど、なんか優しくて落ち着く匂いだったよ」

女「え!?」

男「人工的な匂いじゃないっていうか……言葉では言い表せないけど、俺はこの匂い好きだな」

女「はぅ……」カァァァ

男「!?」

男(赤面!?あの女さんが!?)

男(てかなんですかそれ!普段とのギャップもあって可愛すぎなんですけど!!)
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:23:25.19 ID:e+El0FAq0
男「あー、えと、じゃあ次は女さんの番だけど……嗅ぎますか?」

女「はい……勿論です」

男「俺はこのまま立ったままでいい?」

女「そうですね……座ってもらえますか?」

男「わ、わかった」ストン

女「では」スッ

男(女さんが俺の前にしゃがみ込んで……って)

男「あ、ちょっと待って!」

女「?」

男(俺の鞄に制服の上着をかけてっと)ガサガサ

男「はい、この上に膝置いていいから」

女「……」

男「……?」

女「慣れてる?」

男「こんな事初めてです!!」
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:25:03.13 ID:e+El0FAq0
女「そう。それでは改めて失礼します」スッ

男(胡座をかく俺の前に、膝立ちの女さん……これってなんか、なんか!ドキドキするよぉぉぉ!)

女「ではまず頭皮から」

男「と、頭皮!!?」

女「はい。肩、お借りしてもいいですか?」

男「う、うん」

女「では」スッ

男(俺の両肩に女さんの手が……)

男(そして俺の頭皮に女さんの顔が……なんだこの状況……)

女「……」スンスン

男「うう……」

女「……」スンスン

男(恥ずかしいよぉぉ!)

女「うーん……」スンスン

男「??」

女「わかりました」バッ

男(なにがわかったの!?聞きたいけど聞きたくないっ!!)

女「頭皮は微妙ですね。シャンプーなどの匂いが邪魔で純粋な匂いが嗅げません」

男「そ、そうですか」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:27:05.88 ID:e+El0FAq0
女「では次」

男「次!?」

女「どこでも嗅いでいいと言ったのは貴方ですよね?」ジト

男「はい、その通りでございます」

女「ではそのまま横を向いてもらえますか?」

男「うん……こう?」

女「はい。では失礼します」スッ

男「!?」

男(耳っ!?いや、違う!これはっ!!)

男(耳裏!!)

女「……」スンスン

女「っ!!」バッ

男「えっ!?」

女「し、失礼しました……もう一度嗅ぎます」

男「あ、はい」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:29:19.72 ID:e+El0FAq0
女「……」スッ

女「」スンスン

女「ふぁ……」

男「!?」

クンクン スンスン

女「んっ……はぁ……」

男「っ!」

男(女さんの吐息が耳にかかって……ゾクゾクするっ!!)

スンスン クンクン

女「んんっ……しゅごい……はぁ……」

男「!!」ゾクゾク

女「あっ……」クンクン

男(ヤバい!ヤバいすぎる!!耳元でエロい吐息は危険すぎるっ!!)

スンスン クンクン

女「はぁ……んっ……」

男「お、女さんっ、くすぐったいんだけど」

女「!!」バッ

女「し、失礼しました」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:31:14.59 ID:e+El0FAq0
男「いえ……その、大丈夫だった?」

女「はい……意識がもっていかれそうなほど、濃厚な匂いでした」トロン

男「濃厚……?」

女「濃厚すぎて普段使いには向いてません」

男(普段使いってなにっ!!??)

女「では次は首筋です」スッ

男「あ、うん」

女「……」スンスン

男(ここは何度か嗅がれた事があるから、いくらか耐性がついたな)

女「あれ?」

スンスン クンクン

男「??」

女「……」バッ

男「女さん?」

女「物足りない」

男「ええ?」

女「いい匂い……なんですけど、耳の濃厚な匂いのあとだと……物足りなく感じます」

男「あーなるほど」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:33:15.56 ID:e+El0FAq0
女「では次」

男「はいはい、次はどこです?」

女「脇でお願いします」

男「脇ね、はいはい……って脇っ!?」

女「はい」

男「それはちょっと!てか、絶対臭いからやめた方がいいよ!!」

女「それは私が判断しますから脱いで下さい」

男「脱ぐ!?」

女「ハンカチ……嗅ぎましたよね?」

男「えぇぇぇ」

男(俺が言い出した事だし仕方ない、ワイシャツのボタン開けて……と)

男「はい、どうぞ!」

女「少し腕を上げててください」

男「ううう……恥ずかちぃ……あんまり見ないで……」クイッ
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:35:22.81 ID:e+El0FAq0
女「では」スッ

スンスン クンクン

女「!!」

スンスン クンクン

女「んんっ!」

男「えっ!?」

スンスン クンクン

女「ふむふむ」

男(な、なにを納得してるんですかっ!!?)

スンスン クンクン

女「……んん……」

男「ぐ……ぬぬ……」

スンスン クンクン

女「はぁ……うんうん」

男「女さん!ストップ!ストーーップ!!」

女「……」スッ

男「これ以上は、勘弁して下さい……」

女「はい」

男「むぅ」
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:36:57.41 ID:e+El0FAq0
女「脇は首や耳とは違い、少し酸味が加わった独特な香りがしました」

女「少し癖があり、落ち着く香りとは言い難いですが……これはこれで中々乙なものでした」

男「解説ありがとうございます」

女「ですが、残念ながら私の求める匂いとは少し違います」

男「そうですか」

女「耳と首の中間の匂い……どこかありませんか?」

男「知りませんっ!!」

女「……耳と首の中間……」

男「もうこれくらいでいいよね?そろそろ終わりに――」

女「最後に一つだけ嗅ぎたいのですが、よろしいですか?」

男「む……下半身や足は却下します!」

女「上半身です」

男「それなら……いい、かな?」
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:39:28.67 ID:e+El0FAq0
女「ではそのまま、絶対に動かないで下さい」

男「??……うん、いいけど」

女「失礼します」スッ

男「!!」

男(女さんの両手が俺の両頬に添えられてる!?)

男(一体なにをするつもりなんだ!?)

女「いいですか?動かないでくださいね」ジー

男「う、うん」コクコク

女「……」スー

男(えっ!?な、なんで顔を近付けてくるの!?)

女「……」スー

男(え?え!?まてまてまて待て!!まさかアレか!?口と口が触れ合う伝説のアレか!?)

男(うわ!さらに近付いてきてる!!どうしたらいいの!?こんなの授業で習ってねぇぇよ!先生ぃぃぃぃ!!)

女「っ……」スー

男(だ、だめた!目を開けてられない!もうなるようになれだ!!)グッ
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:41:41.78 ID:e+El0FAq0
女「……」ピタ

男(あれ?止まった気配が……)

女「……」スンスン

男(スンスン!?え?どこを嗅いでるの!?)

女「ふわぁ……」

スンスン クンクン

男(吐息がっ!!ええっ!?)

スンスン クンクン

女「んんっ……んん……」

スンスン クンクン

女「はぁ……んっ……」

男(でたエロ吐息っ!!一体どこを嗅いでるんだ?目を開けていいよな?)

男(開けるぞ!目を開けるぞ!!)

パチッ

男「!!!!」

男(うっわ!!近っっ!!!)
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:43:34.54 ID:e+El0FAq0
女「んん……はぁ……ふぁ……」クンクン
男(ヤバいヤバいヤバい!!過去最大にヤバい!!)

男(女さんの顔が朝至近距離に……鼻か!?鼻の匂いを嗅いでるのか!?)

クンクン スンスン

女「ぁっ……んん……」

男(鼻の横の窪みか!?なんでそんなところを!!)

男(それにしても近い、近過ぎる!!口と口の距離が数センチしか――)

男(なるほど、だから絶対動くなって言ってたのか……納得)

スンスン クンクン

女「んっ……ん……」

男(ヤバい……これ間違って少しでも動いたら、口と口が……)

男(ん?待てよ……少しでも動いたら……女さんと……)

男(って!おいこら俺!!今なにを考えた!?ダメだ!それは人としてやってはいけない!!)

男(それにこんな事考えてる時点でそれは事故ではない!!故意だ!!いや、恋だ!!!)

男(って、何を言ってるんだ俺はぁぁぁぁ!!)
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:45:52.62 ID:e+El0FAq0
男「ぐ……」

スンスン クンクン

女「ふわぁ……んん……」

男「だ、ダメだーー!!」グイッ

女「きゃっ!!」

男「お、女さん!これはちょっと――」

女「見つけた」

男「へっ!?」

女「ひと嗅ぎした瞬間わかりました、私の理想とする匂いだと」

男「で、でも少しでも動いたら危なかったよ!?」

女「?」

男「口と口が触れ合ってもよかったの!?」

女「それは絶対嫌です」

男「あはは、ですよねー」

女「あの、もう一度よろしいですか?」

男「はあ!?ダメだって!」

女「お願いします……」ウル

男「うっ……」
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:47:17.07 ID:e+El0FAq0
――電車内

ガタンゴトン ガタンゴトン

男(結局あの後も鼻を嗅がれてしまった)

男(隣にいるこの人はよく冷静でいられるな)

男(俺は意識しちゃって顔を見るのも恥ずかしいってのに……)

男(あ……そうか……)

男(俺のこと……人ではなく匂いとして認識してるからか……)ズーン

女「そういえば」

男「……?」

女「今朝は同じ電車に乗っていたのですね」

男「うん……だけど、明日から普通に戻すよ」

女「……」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:48:13.98 ID:e+El0FAq0
『まもなく〇〇〜、〇〇でございます』

女「戻してしまうのですか?」

男「え?」

女「一緒に乗ってくれるならそれだけで助かります」

男「でも俺の乗る車両は満員だし……」

女「自然と密着できて嗅ぎ放題です」

男「……!」

女「それでは、失礼します」スクッ

男「う、うん」
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:50:11.76 ID:e+El0FAq0
――翌朝 電車内

男(自然と密着できて嗅ぎ放題)

女「……」クンクン

男(近くにいるだけで中和されると言ってたのに……)

男(俺の首筋に鼻をくっつけてくるのは何故ですか?)

女「……」クンクン

男「……」

ガタンゴトン ガタンゴトン

女「……うっ」フラッ

男「え?」

女「……」サー

男(女さんの顔色が!?)

男「もしかして中和できてない!?」

女「……」コクン

男「マジか……」
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:51:47.24 ID:e+El0FAq0
男(今、俺の体で一番匂いが濃そうな場所はどこだ!?)

男(脇ならどうだ?……でも電車内で……いや、そんな事言ってられない!)

男(ボタンを開けて)ガサガサ

男「女さん、ここに」

女「ん」スッ

男(自分から提案しておいてアレだけど)

男(俺のワイシャツに顔を突っ込む女さん……いいのか、それ)

女「……」スンスン

男「大丈夫そう?」

女「」コクン

スンスン クンクン

男「よかった……」
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:53:41.35 ID:e+El0FAq0
――朝 通学路

男「……」

女「……」

スタスタ

男「……」

女「……」

スタスタ

男(目的地が同じだから一緒に歩いてるけど、まさか俺が女子と登校する日がくるとは……)

男(しかも相手はあの女さんときたもんだ)

男(世の中わからないもんだなぁ)

女「……」

スタスタ

男(ま、会話はないけどね!)

女「……」

男「……」

女「学校に着いたら屋上前の踊り場に行きましょう」

男「へ??なんで?」

女「確認したい事があります」

男「わかった」
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:55:15.78 ID:e+El0FAq0
――屋上前 踊り場

女「ジッとしててください」スッ

男「ええ!?」

男(これは!まさか鼻!?朝からなんて大胆なっ!!)

女「……」スンスン

男(めっちゃ鼻をくっつけてきてるけど、いいのか女さん)

男(貴女の綺麗なお顔に、俺の鼻油ついちゃいますぜ?)

女「……」スンスン

男「……」

女「やはり……」スッ

男「ん?」

女「放課後、またここに集合で」

男「あ、はい」
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:57:59.23 ID:e+El0FAq0
――放課後

男「言われた通りに来てみたけど、どうしたの?」

女「……」スッ

男「またいきなり鼻!?」

女「黙っててください」

男「はい。すみません」

女「……」スンスン

女「!!」

男「?」

女「んっ……」クンクン

男「……」

女「ふぁ……ん……」スンスン

男「!?」

女「ふう……」スッ

男「ど、どうだった?」

女「素晴らしい匂いです」トロン

男「それならよかった……のか?」

女「朝は貴方の匂いが薄かったです」

男「やっぱりそうだったのか」

女「はい。時間が経った今、貴方の匂いは濃さを増しています」

男「時間経過で匂いが増すのか」
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/22(月) 23:59:56.00 ID:e+El0FAq0
女「今朝シャワーを浴びてきましたか?」

男「いや、いつも通り寝る前に入ったけど……」

女「……」

女「もういっそのこと入らなくてもいいのでは?」

男「ええぇぇ、本気で言ってる!?」

女「はい」

男「いやいや!逆に聞くけど女さんは毎日お風呂に入らなくても平気?」

女「絶対に無理です」

男「あはは〜、俺も俺も〜!」

女「むぅ……」

男「でもこれじゃあ、朝は別々の方がいいかもね」

女「!!」

男「毎回、脇の匂いを嗅がせるわけにはいかないし」

女「……」

男「今までだってなんとかなってきたから、大丈夫だよね?」

女「…………」

男「女さん?」

女「はい、わかりました」ジワッ

男「え??」

女「今までご迷惑をおかけしました」

男「え!?」

女「これからは今まで通り自分でなんとかします」

男「ちょ、違う、そんな意味で言ったんじゃ――」

女「失礼します」ウル

タタタタタ

男「……」

男「瞳が潤んでた……なんで?」
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:02:13.76 ID:/LehkniF0
――自宅

男(理由はわからないけど)

男(やっぱりあの時の女さん、泣いてたよなぁ)

男(それに最後のあのセリフ……今後俺の匂いは利用しないってことか?)

男「はぁ」ゴロン

男(別に女さんと、どうこうなりたいなんて期待は今は持ってないけど)

男(このままで終わりっていうのはなんか嫌だ)

男(それならせめて良い思い出として、俺のことを記憶してもらいたい)

男「時間経過……汗……」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:08:21.79 ID:/LehkniF0
――朝 電車

ガタンゴトン ガタンゴトン

男(やれる事はやった)

男(匂いに関しては多分大丈夫だと思う)

男(問題は……)

『次は〇〇、〇〇でございます』

男(女さんの最寄駅)

男(多少強引になるけど、仕方ない)

男(さあこい!)

『ドアが開きます。ご注意下さい』

男「よし!!」

ダダダダ

男(女さんは……いた!やっぱり女性専用車両の前に!!)

男「女さんっ!!」

女「えっ!?」

男「こっちに!」グイッ

女「きゃっ!!」

『ドアが閉まります。ご注意下さい』

男「はぁはぁ……間に合った」

女「え!?なんで、どうして……」
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:10:38.89 ID:/LehkniF0
男「急にごめん、でももう一度確認してほしかったんだ」

女「なにを?」

男「もちろん、俺の匂いを」

女「……」

男「ほら、嗅いでみて?」

女「はい……」

男「あ、鞄は持つよ。揺れるから俺の制服掴まってて」スッ

女「う、うん」

男「はい、どうぞ」

女「……」クンクン

男「……」

女「!!」

男「どうかな?匂いする?」

女「ん」コクン

スンスン クンクン

男「よかったぁ」
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:12:58.90 ID:/LehkniF0
――通学路

女「どうやって朝から匂いを?」

男「実は……昨日、あれから考えてたんだ」

男「朝から匂いを出す方法を」

女「……」

男「風呂に入る時間を早くして、寝る前に筋トレしてみた」

女「えっ」

男「はは、おかげで筋肉痛だよ!でも匂いしたでしょ??」

女「はい……」

男「よかったぁー!これでダメだったらどうしようかと思ってた!」

女「……」
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:14:40.87 ID:/LehkniF0
女「どうしてそこまで……」ボソ

男「え?」

女「どうしてそこまでしてくれるのですか?」

男「それは……」

女「……」

男「女さんと仲良くなれて嬉しかったんだ」

女「仲良く……」

男「あ!別に下心とかはないよ!」

女「はい」

男「期待だってしてないし、そういうのじゃなくて!えと、なんて言えばいいのかなぁ……」ポリポリ

女「……」

男「高校生活も残り半分くらいでしょ?」

女「そうですね」

男「少しでも思い出に残るような事があれば……」

女「……」

男「大人になって、あの時はこんな事があったなぁって思えたら……」

男「それってとても素晴らしい事だと思わない?」

女「…………」

男(あれ?俺なんかとんでもなくクサイこと言ってない?)
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:15:55.67 ID:/LehkniF0
女「ふふ」

男「?」

女「随分と素敵なこと考えるのね」

男「!?」

男(なんだ?急に女さんの雰囲気が変わった?)

女「残念ながら私には縁もない話ね」

男「そんな事ないでしょ」

女「そんな事あるのよ」

男「どうしてそう言い切れるの?」

女「私が思い出す過去なんて苦痛な記憶しかないわ」

男「……」

女「友達もいない、行きたいところもいけない、やりたいことも出来ない」

女「それもこれも全てこの体質のせい」

男「……」

女「クラスメイトと友達になりたくてもなれない気持ち、貴方にはわかるのかしら?」

男「そ、それは……わからないかもしれない」

女「ま、一人の方が気楽だし、私はそれで満足してるからいいけど」
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:17:37.76 ID:/LehkniF0
男「それじゃあ、ずっと孤独なままじゃないか」

女「ええ。今の私はそれを望んでいるもの」

男「今の?じゃあ昔は違ったの??」

女「昔は……そんな私と友達になってくれようとした子もいたわ」

男「!」

女「嬉しかった……でも駄目だった」

男「え……」

女「この体質のせいで他でもない私自身がその子を拒絶しちゃうのよ」

男「…………」

女「私には縁のない話だという事、お分かり頂けたかしら?」

男「うん、そうだね」
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:18:55.71 ID:/LehkniF0
女「じゃあもうこの話は――」

男「でもこれからはきっと、変わっていくんじゃないかな」

女「はあ!?私の話聞いてた?」

男「うん」

女「私は一人でもいいって言ってるの!!」

男「本当にそう思ってるの?」

女「なに!?これ以上私に我慢しろっていうの!?」

男「違う!そうじゃない!」

女「なら余計なこと言わないで!」

男「女さん、話を聞いてくれ!」

女「貴方になにがわかるのよ!私の事なにも知らないくせに!!」

男「ああ、たしかに知らない事だらけだよ!」

女「だったら黙って匂いだけ提供してればいいのよ!!」

男(なんだそれ……)カチン
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:20:27.70 ID:/LehkniF0
男「結局、女さん自身が変わることを恐れているだけじゃないか!!」

女「違う!私は一人を望んで――」

男「じゃあ女さんが今一緒にいるのは相手は誰だよ!!」

女「!!」

男「今の女さんは一人なんかじゃない!俺がいるだろ!!」

女「……」

男「俺は快然たる香りの持ち主なんでしょ?」

女「それは……」

男「俺がいれば出来ることも増えるはず」

女「……」

男「見返りなんて求めてない。ただ将来振り返った時にこんな奴がいたなぁって思い出してくれればそれで満足だから」

女「……」

男「もっと俺を頼ってよ」

女「……」

男「……あ……」

女「……」

男「その、なんかごめ――」

女「お先に失礼します」

タタタタタ
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:21:43.73 ID:/LehkniF0
男「…………」

男(うわぁぁぁぁ!!俺はなんてことを!!)

男(偉そうに説教っぽいことしちゃってさぁ!!)

男(クサイセリフのオンパレードだし!女さんはなんか怖かったし!!)

男(うわぁぁぁぁ!!穴があったらはいりてぇぇぇぇ!!!)

バタバタバタ

友「何してんだお前」

ピタッ

男「別に」

友「なんで一人で悶えてたんだ?」

男「いや、気のせいだろ」

友「そうか」

男「ああ」
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:22:39.80 ID:/LehkniF0
――昼休み

友「おい男!!お前どういうことだ!?」

男「いきなりなに??」

友「お前今日の朝、女さんと言い争ってたらしいじゃねーか!!噂になってんぞ!」

男(通学路だし、そりゃ誰かに見られるよなぁ……)

男「色々あるんだよ」

友「その色々を俺はまだ聞いていないっ!!」

女「男くん……ちょっといいですか?」

男「!?」

友「ええっ!?女さんっ!?」

女「ついてきてください」

男「う、うん」

友「へ??なんで??」

男「すまん友、そんなわけだから」

友「どんなわけだ!?」
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:26:34.84 ID:/LehkniF0
男(朝の一件があったから気まずい……非常に気まずい)

女「……」

男「あの、女さん……一体どちらへ」

女「生活指導室です」

男「生活指導室??」

女「はい」

男「どうしてそこに?」

女「私の体質を知ってる先生がお昼休みの間だけ貸してくれているんです」

男「あ……なるほど」

ガチガチ ガチャン

女「どうぞ」

男「……失礼します」

バタン

??「あれは……」
??「噂の……」
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:28:12.28 ID:/LehkniF0
――生活指導室

女「男くん」

男「は、はい」

女「あの……その……朝は本当にごめんなさい!」ペコ

男「いや……」

男「俺の方こそ熱くなっちゃってごめん」ペコ

女「私こんな事初めてで……なんというか……その……本当に失礼なことを……」

男「でも女さんの言う通りだった」

女「え……」

男「俺、女さんがそこまで悩んでたなんて知らなかった」

男「ちょっと考えればわかる事なのに、自分の事ばっかで……だから謝るのは俺の方なんだ」

女「男くん……」

男(昨日の涙も……朝の通学電車がそれだけ負担だったって事だもんな)
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:29:36.06 ID:/LehkniF0
男「あ!てか名前呼ばれたの初めてな気がする!」

女「!!」

女「…………」コクン

男「やっぱり!すげー嬉しいよ!」

女「え……そうなの?」

男「うんうん」

女「そっかぁ……」

男「あと朝も途中から敬語じゃなくなった!」

女「え……あ……ごめんなさい!」

男「え?なんで謝るの?」

女「だって、その……わからなくて」

男「え?」

女「私、こんなんだから……人との接し方がよくわからなくて、その……」

男「あ、女さん」

女「は、はい?」

男「昼休みなくなると困るから、とりあえず飯食わない?」

女「え……はい……」
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:30:45.55 ID:/LehkniF0
――――
――

女「敬語じゃなくていいのね?」

男「うん、全然。むしろそっちの方が接しやすいよ」

女「ならそうさせてもらうわ」

男「うん」

女「私、口調がキツいでしょ?」

男「えと……それは」

女「気を使わなくても結構よ。自覚してるから」

女「それに無愛想だし」

男「それは……うん、たしかに」

女「物心ついた時からこんな体質だったから、無意識に人を遠ざけちゃう癖がついちゃってるの」

男「あー、なるほど。すごく納得」

女「無愛想で口が悪いと余計感じ悪いじゃない?だからなるべく敬語で接するようにしてるってわけ」

男「おー、そういう事だったんだ」

女「ええ」

男「ってことは俺は認めてくれたってこと?」

女「いえ……貴方には朝の件で吹っ切れたって感じ」

男(つまり認められてはないってことか……)
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:32:33.66 ID:/LehkniF0
女「私、親以外であんな感情的になったの初めてで……正直自分でも驚いたわ」

男「そっか……人を遠ざけてたって事は、喧嘩する相手もいなかったって事だもんね」

女「ええ」

男「女さんの過去のこと、少し考えればわかったはずなのに深く考えてなかった」

女「それは別に……変に気を使われても嫌だし」

男「そうだね。じゃあ女さんも俺のことは気を使わずに接してよ」

女「……」

男「?」

女「あれ?私、貴方にはそんなに気を使ってないかも」

男「うん。そうじゃなきゃ、匂いだけ提供しろ!だなんてセリフでてこないもんねー」

女「……貴方って結構根に持つのね」

男「いや、ショックだったんだよ純粋に」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:33:48.64 ID:/LehkniF0
女「ふふ。でも裏を返せば、言い争いをしてる最中でも貴方の匂いを手放す気にはなれなかったって事よ」

男「うん?」

女「それって凄いと思わない?あんな言葉が出るなんて自分でも思わなかったわ」

男「え、それって……」

女「きっと私にとって、私が思ってる以上に価値があるのよ。貴方の匂いは」

男「俺の匂い……」

女「例えば酸素濃度の低い世界で、目の前に上質な酸素マスクがあったら利用しない手はないでしょ?」

男「え?」

女「つまり、そういうことよ」

男「なるほど、つまり俺は人として認識されてないってことね!」

女「正解です」

男「あはは、やったー」ズーン

女「ふふふ」
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:36:04.04 ID:/LehkniF0
男「そろそろ昼休み終わるけど……酸素マスクはご利用なさいますか?」

女「ふふ、そうね……お願いしようかしら」

男「ではご自由にお使いください。私はここで座ったまま動きません。石になります」

女「ぷっ、なにそのキャラ」

男「どうぞ」

女「じゃあお言葉に甘えて」スッ

男「……」

女「……」スンスン

男(スンスンキターー!首ね、もうこれくらいは余裕余裕)

女「……んっ……」

スンスン クンクン

男(女さんの認識で俺は“人”ではなく“匂い”だし、ドギマギするのも馬鹿らしく思えてきた)

女「……はぁ……んっ……」

スンスン クンクン

男(だから余裕……全然余裕……超余裕)

女「んん……ふぁ……はぁ……」

スンスン クンクン

男(余裕……なんてねぇぇぇ!!わざとやってんのか!?)

男(なんだよ、これ!このエロ吐息っ!!)
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:37:56.73 ID:/LehkniF0
女「っ!?」グラ

男「あぶなっ!」ギュッ

男(しまった!体勢崩した女さんを思わず抱き止めてしまった!)

男(怒られるぅぅ!ひぇぇ!)

女「……」スンスン

男(えぇ!?そのまま続行ですか!?)

女「ふぁ……んっ……」

スンスン クンクン
男(女さんが体重を俺に預けてるから……密着度が増して……)

男(や、や、柔らかいところががが!!)

女「……はぁ……ふ……」

スンスン クンクン

男(いや、落ち着け……これは布だ、布と布同士が触れ合っているだけでこの柔らかさは幻想だ)

女「……んんっ……」

スンスン クンクン

男(てか……こうして触れ合ってると見た目以上に華奢で……簡単に壊れちゃいそうだ……)

男(こんな小さな身体で色々抱え込んでるんだな……)

男(匂いだけでもいいや、この人の役に立てるなら……それでいいや)
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:39:57.12 ID:/LehkniF0
女「…………」クンクンクン

ススス

男「!?」

男(ち、ちょちょ、ちょっと、な、なんで匂い嗅ぎながら顔面の方向へ移動してるんですか!?)

女「……」トロン

スンスン
ススス

男(目が虚に!?いや、トロンとしてて……)

女「」ピタ

スッ

男「!?」

男(えぇぇぇぇ!!俺の首に腕を回してきた……だと!?)

男(しかも……こ、このポジションはっ!!鼻横っ!!)

女「んっ……」スンスン

男「!!」

女「ふわぁ……はぁ……んっ……」

スンスン クンクン
男(うわぁぁぁ女さん、目を閉じて堪能してるぅぅぅぅ!!)

男(俺の匂いを堪能してるぅぅぅ!!なんて無防備なんだっっ!!けしからんっ!!)

男(余裕?そんなものは最初っからないっ!!バカヤロウ!!)
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:42:47.15 ID:/LehkniF0
女「んんっ……んっ……ぁぁ……」

スンスン クンクン
スンスン クンクン

女「はぁ……ふわぁ……」

男「」ゾクゾク

男(ヤバっ!!なんだこれ?なんだこれ!?)

男(俺は女さんの身体を抱きしめて支えてて、女さんは俺の首に腕を回してて!うわぁぁ!うわぁぁぁぁぁ!!)

女「……はぁ……んっ……はぁ……」

スンスン クンクン

男(………………ん)

男(んんん?)

男(脳内オーバーフローしすぎて逆に冷静になってきた)

女「んっ……ん……」スンスン

男(つーか、女さん睫毛長いなぁ……)

男(綺麗だな……すごく、綺麗だ)

男「……」ジー

女「……」ピタッ

男「??」

男(あれ?スンスンが止まった……なんで?)

女「……!」パチッ

男「あ……」

男(うへっ!目があった!)
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:44:40.36 ID:/LehkniF0
女「!!!」ガバッ

男「ん?」

女「な、な、な……!!!」カァァァ

男「どうしたの?」

女「な、なにしてんのよっ!!」

男「え?……えぇぇぇぇ!!?」

女「どうしたの?じゃないでしょ!!なんで目を開けてたの!?なんでくっついてるの!?」

男「目を開けてたのはごめん、謝る!」

男「抱きしめてたのは女さんが途中で体勢を崩して受け止めたからで、決してやましい気持ちはございませんっ!!」

女「な、なんで、私はあんな事を……!!」カァァァ

女「貴方、一体なにしたの!?」

男「え?……強いて言うなら石になってた?」
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:47:11.92 ID:/LehkniF0
女「そんな、なんで……どうして……。やっぱり貴方が何かしたとしか思えないっ!!」

男「いやいや!むしろ俺が聞きたい!女さんの方からどんどんエスカレートしてったんじゃないか!」

女「そんなこと!!そんな、こと……はぅぅ」

男「そんなことないの?」

女「あぅ……うぅぅ……」シュン

女「ご、ごめんなさい……」シュン

男「あ、いや、なんか俺の方こそ、ごめん」

女「でもあれは!あれはね?私の意思とは別に、身体が勝手に求めちゃって……」

男(いや、その言い訳は余計にエロいっす……とは口が裂けても言えない……)

女「ともかく!事故よ、事故!ノーカウント!」

男「う、うん、よくわからないけど、そうしよう!」

女「それにしても危険だわ……なにか危ない成分でも分泌されてるんじゃない?」ジト

男「人を麻薬みたいに言うのやめて下さい!」

女「……麻薬ね、凄くしっくりくる表現だわ」

男「む……。俺の体臭が麻薬なら、女さんは中毒者ってことになるけどいいの?」

女「む……ぐぬぬ……」
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:49:16.52 ID:/LehkniF0
男「しっかし驚いたなぁ。まさか俺の匂いで女さんがあんな事になるなんて……」

女「っっ!」カァァァ

男「……」ジー

女「な、なに?」

男「……」ジー

女「な、なによ!?」

男「ぷっ」

女「へ?」

男「あっはははは!」

女「え!?な、なに?なんなの!?」

男「あはは!ごめんごめん!ぷっくく」

女「人の顔見て笑うなんて……失礼な人!サイテーね!!」プイッ

男「ぷはっ……はぁ、違うんだ女さん」

女「なに?」ツーン

男「表情をコロコロ変える女さんが面白くて、つい……くくくっ」

女「えっ?」

男「照れたり、怒ったり、落ち込んだり……。普段の女さんなら絶対ありえないからさ」

女「そ、それは!だって……貴方がっ!……むぅ……」
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:50:32.82 ID:/LehkniF0
男「でもこうやって普通に話せて楽しくない?俺は今すごい楽しいよ!」

女「それは男くんが私をからかってるからでしょ?」

男「もちろんそれもあるんだけど、やっと対等に話せた気がして嬉しいんだ」

女「…………」

男「あれ?怒ってる?」

女「怒ってません!」

男「ならいいけど……あ、ヤベ!もう時間もないから教室戻ろう!」

女「え、ええ……」


??「」ササッ
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:52:08.06 ID:/LehkniF0
――教室

友「男!!説明しろ!今すぐにだ!!」

男「あ、そういえば友の存在すっかり忘れてた」

友「忘れてたじゃねぇぇ!!説明しろ!」

男「嫌だよ面倒臭い」

友「あくまでもシラを切り通すつもりか……ならば俺にも考えがある!」

男「面白い、聞かせてみろ……その考えとやらを……」

友「はぁっ!この裏切り者め!!お前なんかこうしてやる!こうしてやるっ!」ペチペチ

男「ふはは!そんな攻撃は効かん!」

友「な、なぜだ!?」

男「我、石なり」

友「なん、だと……!?」

女「はぁ……バカバカしい……」

友「ふぇ!?」
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:53:33.67 ID:/LehkniF0
女「私と男くんの間に何かあると?残念ながら貴方が想像しているような事はありえないわ」

友「え、あ、はい」

男(なるほど、間違っちゃいない……想像よりも遥か斜め上だもん)

女「それにもう授業始まります。席についた方がよろしいかと」

友「す、すんませんでした!」

男「……」

女「はぁ」

男「あざっす」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:54:53.80 ID:/LehkniF0
――放課後

友「男!帰るぞ!事情聴取だ、逃がさないぞ!」

男「黙秘権って知ってるか?」

友「だったら力づくでも……」

ガラガラ

友「ん?あの子は……」

男「誰だ?」

友「知らないのか?後輩ちゃんだよ。誰か探してるのかな?」

男「後輩ちゃん?」

友「はぁ……お前そんな事も知らないのかよ。一年生ながらこの学校の美少女四天王の一人に数えられてる超有名人だろうが」

男「四天王?なんだよそれ……初耳なんだけど」

友「前に教えたこの学校の裏SNS、そのコンテンツの一つに美少女ランキングってのがあるだろ?」

男「あー、そのサイトまだ見てないんだよね」

友「はぁ?まぁいいけど。ランキング上位四名は美少女四天王として君臨する、いわば学校のアイドル的存在だ」

男「はあ……」
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:56:52.34 ID:/LehkniF0
友「ちなみに一位は女さんね。その媚びない性格と高貴な佇まいから入学以来、不動の一位だ」

男「え、マジか……」

男(たしかに納得の結果だな……)

友「ちなみに後輩ちゃんは、その愛らしいルックスとそれに見合わぬスタイルでランキング三位。所謂、ロリ巨乳ってやつだ」

男「へぇ……」

友「ちなみに二位と四位は――」

男「ストップ、ストーップ!」

友「なんだよ」

男「とりあえず帰ろうぜ?帰りながら続きは聞くからさ」

友「そうだな!お前からも色々聞かなきゃならないし」

友「てか後輩ちゃん、ずっと入り口に立って何してんだろう?なんかこっち見てないか?」

男「さぁ……誰かに用事でもあるんじゃない?」

友「まさか俺に用事だったりして!」

男「んなバカな」
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 00:58:35.16 ID:/LehkniF0
友「ま、いっか、行こうぜ」

男「うん」

スタスタ

後輩「待って下さいっ!」

友「え!?」

男「?」

後輩「先輩に大事な話があります!」

友「えっ!マジか!ついに俺にも!!みたかっ男!」

男「おー」

友「ふっ、僕になんの用かな?」

後輩「違います!こっちの先輩です!」

友「えぇ!?こいつ」

男「……」

後輩「はい!お付き合い頂けますか?」

友「ぬおぉぉ!!また男かよっ!!どうなってんだよ!ガッデムッ!!」
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 01:00:20.29 ID:/LehkniF0
男(突然の呼び出し……なんだろう嫌な予感しかしない……もうこれ以上はお腹いっぱいだよ……)

後輩「聞いてますか!」

友「おい、こら!返事しろ男!」

男「……今日は疲れてるからまた今度で」フラッ

後輩「バラしますよ、女先輩との事」ボソ

男「!!!」

友「?」

後輩「ね、先輩、お話に付き合ってくれません?もちろん二人きりで」

男「わかった。行こうか」

後輩「はいっ」

男「そんなわけで、ごめん友」

友「こんなの……俺の知ってる男じゃないっ!!うわぁぁぁん!!」

ダダダダダ

男「……はぁ」

後輩「誰にも邪魔されない、イイ場所知ってるのでそこでゆっくりお話しましょ?せーんぱいっ」

男「……」
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/06/23(火) 01:04:49.85 ID:/LehkniF0
一旦終わりで続きは明日にでも
こちらに投稿するのは初めてですが、暇つぶしに読んで頂ければ幸いです
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/23(火) 03:19:45.79 ID:fg9nz94DO
おつです
これは面白い
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 10:35:58.64 ID:/LehkniF0
――放送室

男「放送室……初めて入った……鍵があるはずなのにどうやってここに」

後輩「ふふーん、それなら答えは簡単です!私は放送部員なのです!いぇい!」

男「へー」

後輩「そ・ん・な・こ・と・よ・り」

男「……」

後輩「アナタ……女先輩の何なんですか!?」

男「はい?えと……クラスメイト、かな」

後輩「お付き合いをされてるんですか!?」

男「いや、ないない」

後輩「そうですよね!女先輩とアナタじゃ全っ然釣り合ってないです!!」

男「はあ、俺もそう思ってます」

後輩「じゃあアナタは一体何なんですか!!」

男「ふぇ?」
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 10:37:09.10 ID:/LehkniF0
後輩「今まで浮ついた噂が一切無かった女先輩に、今朝から変な噂が流れはじめて……」

男「朝のやつか……あれはちょっとしたケンカで」

後輩「まずそこがありえないんです!全く人と関わろうとしない女先輩がケンカ?言い寄ってきた相手を一言で切り捨てるあの女先輩がケンカ?」

後輩「絶対ありえないんです!」

男「はぁ……そうですか……」

後輩「それに私、見たんです!お昼休みに女先輩と二人で生活指導室に入っていくのを!」

男「……一緒に昼飯を食ってただけだよ」

後輩「それこそ更にありえないんですっ!!」ズイッ

男「……」

後輩「普段、女先輩は生活指導室で“一人”で食事をしてます。誰かと一緒に食事なんて今まで見たことがありませんっ!!」

男「ていうかどんだけ女さんのこと見てるんだよっ!」

後輩「そりゃ見ますよ!お昼の日課ですから!」

男(サラッとすごい発言したな、おい)
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 10:39:00.28 ID:/LehkniF0
後輩「あの時、生活指導室で何をされてたんですか?」ズイッ

男「なにって……食事を……」

後輩「嘘です!私、見たんです!」ズイッ

男「な、な、なにを……」

後輩「先輩と女先輩が……その……だ、だ、抱き合って、き、き、き、キスしてるところを!!」

男(やっぱりその事かぁぁぁ!!!)

男「ちょっ、バラすってそのことか!?」

後輩「はい」

男「カーテンも閉まってたはずなのにどうやって……」

後輩「中庭側の窓のカーテンにほんの少し隙間が空いてましたよ?」

男「マジで!?ていうかそれって覗きじゃん!」

後輩「それがどうかしましたか?校内でイヤらしいことさせてる先輩には言われたくありません!」ズイッ

男「ちょ、近い!近いから!」

後輩「はっ……」スッ
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 10:40:11.45 ID:/LehkniF0
男「ちょっと待て、まず君は色々誤解してる!」

後輩「してません!証拠だってあります!」

男「証拠??」

後輩「はい、動画におさめました」

男「盗撮じゃねーか!!」

後輩「言い逃れはできませんよ、アナタは女先輩の弱味に付け込んで無理矢理イヤらしいことを強要しているんです!罪を認めたらどうですか?」

男「だーかーらー!それが誤解だっつってんだろ!まずその動画とやらを見せてくれなきゃ話にならない」

後輩「どうぞ、ご覧になって下さい」ポチポチ

男「……」

後輩「ほら」スッ

男「……」

男「…………」

男(あれ?カーテンで俺の姿が見切れてる)

男(女さんの姿と俺の足だけが映ってる状態で……なるほど、女さんの動きでそう捉えられたのか……)

男(中庭の雑音で音声も拾えてないし……うん、イケるな)
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 10:41:38.60 ID:/LehkniF0
男「これが証拠だと?俺の姿が映ってないが?」

後輩「でも女先輩はバッチリ映ってます。あとアナタの足と、女先輩に回された腕とかもバッチリ映ってますよ?」

男「はっ、とんだ言い掛かりだな。話にならない」

後輩「……へぇ……ではどんな言い訳をしてくれるんですかねぇ?話くらいなら聞いてあげますよ」

男「……」

男(よし、食い付いた)

後輩「黙ってるってことは事実なんですよね?」

男「たしかに事故で抱き合った。でもキスはしていない」

後輩「なんですか、その苦しい言い逃れは」

男「言い逃れじゃなく事実だ」

後輩「ふーん……では続きをお聞かせください」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 10:42:41.46 ID:/LehkniF0
男「女さんが体勢を崩して転びそうなところを、座ってる俺が抱き止める形で支えたんだ。抱き合ってたわけじゃない」

後輩「ふーん。じゃあキスの件はどう説明するんです?」

男「その時に顔が近付いてしまって、二人して動揺して暫く動けずにいたんだ」

男(この言い訳はさすがに厳しいか……)

後輩「ぐぬぬ……」

男(え?通用してる?)

後輩「それにしても長時間くっついてる様子でしたけど……あと途中で体勢が変わって更に密着してた感じですが?それについてはどう説明しますか?」

男(めんどくせぇぇぇ!)

男(もういっそ本当のこと打ち明け――いや、それはダメだ。女さんの事を俺からベラベラ喋るわけにはいかない)
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 10:43:42.45 ID:/LehkniF0
男「面倒だが、1から動画を見ながら解説しよう」

後輩「はあ……それならどうぞ」スッ

男(動画には俺の姿はほぼ写ってなくて、女さんの姿だけだ……これを利用すれば……)

男「まず事の発端……動画のここの部分」トントン

男「最初は抱き合ってなかった。俺のワイシャツの首元に糸屑が付いてるのを女さんに取ってもらってたんだ」

後輩「糸……くず?」

男「ああ。その時に女さんが体勢を崩して、俺が受け止めた。それがここの場面」トントン

後輩「……続けてください」

男「ここで暫く動けなかった理由は……この時に女さんは腰を痛めてしまったから」

後輩「え!?」

男(これは厳しいか?ええい!押し通せ!)
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 10:45:17.32 ID:/LehkniF0
男「俺は起こそうとしたんだけど、女さんは動けず……痛みが落ち着くまで待っていた。その場面がこれ」トントン

後輩「……」

男「女さんが自力で起きようとして、少し上に移動してるのがわかるだろ?」

男(実際は俺の首元から鼻にクンクンシフトしてるだけだけどね)

男「この時に腰に痛みが走った女さんは、俺にしがみつくような形になってしまった」

男「ほら、ここの場面」トントン

後輩「……」

男「続けるぞ?さらにこの時、顔と顔が急接近して二人して動揺して硬直してしまった」

男「女さんに限っては腰の痛みまである」

男「これこそが君がキスと勘違いした場面だ!」

男「そして動揺と痛みが落ち着いた頃、はい!ここ!注目っ!」トンッ

男「女さんが勢いよく離れただろ?」

男「君の言うように、抱き合ってチュッチュッしてラブラブ〜って関係ならこの行動はおかしくない?」

後輩「た、たしかに……」

男「これが事の顛末。つまり真相だ!!」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 10:46:19.67 ID:/LehkniF0
後輩「……」ジトー

男「う……」

後輩「たしかに筋が通った言い訳ですけど……でも、やっぱり信用できません」

男(え?筋通ってた?まぁいいや)

男「よく考えてみろ」

後輩「はい?」

男「あの、高潔を体現してる女さんが、なにも取り柄のない俺にそんな事すると思うか?」

後輩「それは弱味を握ったからで……」

男「女さんに詳しい君に尋ねたい。弱味ってなんだ?そもそも女さんに弱味なんてあるのか?」

後輩「そ、それは……うぐぐ……」

後輩「ともかくアナタは二度と女先輩に近付かないで下さい!そうしたらこの動画のこと、黙っててあげます!」
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 10:47:02.40 ID:/LehkniF0
男「俺は別にいいけど……女さんから俺に接触してきた場合はどうするんだ?」

後輩「そんなことはありえません。女先輩は孤高の存在なのです!」

男(少し前の俺もそう思ってたんだけど、実際はそうならざる得ない理由があったんだよな)

男「それは君が勝手に作り上げた女さんのイメージだよ」

後輩「で、でも女先輩が誰かと一緒にいるところなんて今まで一人も……」

男「そもそも!俺や女さんが誰とどう過ごそうが君には関係ないじゃないか!」

後輩「はうあっ!!」

男「……」

後輩「関係なくないもんっ!」

男「は?」

後輩「関係なくなくないもんっ!」

男「なくなくないもん……って何?」
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 10:48:11.94 ID:/LehkniF0
後輩「女先輩は私にとって憧れの人なんです!」

男「あー、うん。なんとなくわかってた」

後輩「気品溢れるあの姿に威風堂々とした振る舞い……」

男「……」

後輩「伏し目がちな儚い表情も……はぁ、全てが素敵です」

男(臭いのを我慢してるときの表情です)

後輩「そんな女先輩が誰かと……しかも異性と仲良くするなんて……そんなの許せない!」

男「ええと……つまり君は俺に嫉妬してるってこと?」

後輩「は??なんで私がアナタに嫉妬しなきゃいけないんですか!?」

男「もう……面倒臭い……帰りたい……」

後輩「アナタが女先輩に近づかないって約束してくれるなら帰してあげますよ?」

男(なんで偉そうに指図されなきゃならないんだ)イライラ

男「だから!それこそ俺らの自由だろ!いちいち干渉するなっての!」

後輩「なら私のこの発言も自由ですよね!?私は嫌なんです!女先輩が誰かと――」

男「じゃあ君は女さんにずっと一人でいろって言うのか!?」

後輩「!!」
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 10:49:04.93 ID:/LehkniF0
男「女さんが孤独であり続けることが君の望みなのか!?」

後輩「っ!そ、そんなことは……」

男「自分の理想や憧れを勝手に女さんに押し付けるな!!」

後輩「っっ!!」

男「それに女さんは、俺を求めてくれてる」

男(人としてじゃなく、匂いとしてだけど)

男「そんな女さんに今後も俺は応えてあげたいと思ってる」

後輩「……」

男「話は終わりだ。じゃ俺はこれで」スタスタ

後輩「待って下さい」ガシ

男「はぁ……まだなにか?」

後輩「まさかとは思ってました。でもそんな事はありえないし、あって欲しくないとも思ってました……」

男「へ?」
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 10:50:00.07 ID:/LehkniF0
後輩「本当に嫌だけど、絶対認めたくないけど……」

男「何が言いたいんだ?ハッキリ言ってくれ」

後輩「女先輩がアナタに惚れてるってことです!!」ビシッ

男「あ、それはないから安心していいよ」

後輩「でもそう考えると全て辻褄が合うんです!」

男「それは以前にハッキリ否定されてるから」

後輩「お昼のこと……女先輩とアナタが抱きあったあとの事、覚えていますか?」

男「あとの事……?」

後輩「声は聞こえなかったけど、女先輩のあの表情……真っ赤になって照れた顔……」

男「あ……それは、不慮の事故であんな事になって恥ずかしかっただけだよ」

後輩「女先輩のあんな顔初めて見ました。それだけじゃない!アナタには色んな表情を見せていました!」

男「だから違うって、女さんは俺の事なんとも思ってないから」

後輩「その根拠は!?本当にそうなら示してください!!」

男(この子本当めんどくせぇぇぇぇ!!!)
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 10:50:45.42 ID:/LehkniF0
男「はぁ……」

後輩「……」

男「もうどう受け取ってくれても構わないよ」

後輩「……わかりました」

男「じゃあ……そろそろ帰っていいかな?」

後輩「女先輩がアナタに惚れてるなら……」

男「はぁ……」

後輩「私がアナタを惚れさせてみせますっ!!」

男「えぇぇぇ!!?なにがどうなって何故そうなるんだっ!!」

後輩「私にとって最悪な事態はアナタと女先輩がくっつくことです……」

男「だからね、それはないから落ち着いて」

後輩「これは私からの宣戦布告です!!」ビシッ

男「どうしてそこまで……異常だ……」

後輩「異常?たしかにそうかもしれませんね、同性を好きになるなんて……」

男「はい……?」
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 10:51:39.88 ID:/LehkniF0
後輩「ええ、そうですとも!私は女先輩の事が好きなんです!!ライクじゃなくてラブの方です!」

男「………………」

後輩「変なのは自覚してます!おかしいですよね!?笑たきゃ笑えって感じです!」

男「やっぱり……」

後輩「なんですか!?」

男「やっぱり俺に嫉妬してたんじゃねぇぇかぁぁ!!!!」

後輩「はぅ」ビクッ

後輩「い、いきなり大声出さないでくださいっ!」
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 10:52:16.14 ID:/LehkniF0
男「別に誰が誰を好きになろうがそんなの関係ない!!それこそ自由だろうが!!」

男「だから君が女さんを好きだろうが俺はなんとも思わない!だけど、だけどなぁ!」

男「なにが宣戦布告だ!?そんな宣言されて俺がお前に惚れるとでも!?」

男「だったら逆に宣言してやる!」

男「俺はお前に絶対に惚れない!」

後輩「……」

男(人のことなんだと思ってんだ……この子も女さんも)イライラ

男「ったく、俺はモノじゃねぇっつーの」

後輩「……」

男「もう帰るからな。じゃあな」

スタスタ スタスタ
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 15:14:16.11 ID:/LehkniF0
――――
――

男「なんでついて来てるんだ?」

後輩「駅に向かってるだけです」

男「放送部は?」

後輩「今日は元々お休みです」

男「……はぁ」

後輩「……」

スタスタ
スタスタ

後輩「先輩は……その……気にしないんですか?」

男「なにが?」

後輩「私が……えと……女先輩を好きだってこと」

男「別に気にしてない。それこそ後輩の自由だろ」

後輩「でもやっぱりおかしいですよね?」

男「自分がおかしいって思うならおかしいんじゃない」

後輩「どういうことです?」

男「自分自身を認めてない人間を、世間が認めるとでも?」

後輩「……」

男「まずは自分自身を認めるところからだろ」
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 15:17:23.97 ID:/LehkniF0
後輩「でも一般的には受け入れがたい事じゃないですか?」

男「さっき、君は“女さんのことが好きだ”とハッキリ俺に告げたでしょ?」

後輩「……はい」

男「俺がそれを難なく受け入れられたのは、君が本気で伝えてくれたからだ」

後輩「……」

男「……」

スタスタ スタスタ

後輩「やっぱり先輩は要注意人物です」

男「はぁ……勝手にそう思っててくれていいよ」

後輩「……」

男「……」

スタスタ スタスタ
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 15:20:35.40 ID:/LehkniF0
後輩「はっ!」ピタ

男「ん?どうした立ち止まって」

後輩「先に行ってて下さい!私の女先輩レーダーが反応してます!」

男「なんだそのレーダーは……。そもそも女さんはとっくに帰ってるぞ?」

後輩「あそこの駅前にあるベンチを見てください」

男「いや?遠すぎて全然見えないんだけど……」

後輩「ほらよく見て下さい!あそこに座ってるの女先輩ですよ」

男「いやいや、どんだけ距離あると思ってんの?……全然見えないから」

後輩「私、目がいいんです!」

男(あれ……なんか既視感が……)

後輩「悔しいけど……多分、先輩に用事があって待ってるんだと思います」

男「用があるなら帰り際に言ってくるだろ。女さんが俺に用事なんて……」

男(まさか……また匂い関係か?でも今日はハンカチ持ってたし……いや、でも……)
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 15:25:29.16 ID:/LehkniF0
後輩「何か思い当たる節が有るんですか?」

男「……」

男「てか後輩こそ、好きなら接触するいいチャンスなんじゃないか?」

後輩「好きだからこそです!女先輩の前でアナタといる所を見て誤解されたくないんです!」

男「まぁ……どっちでもいいけど。じゃあ帰るからな」ヒラヒラ

後輩「はい」

スタスタ スタスタ

男(女さんは嗅覚が良くて、後輩は視力が良いときたか……)

男(まさかっ!残りの四天王もっ!)

男(いやいや、まさかな)

スタスタ スタスタ
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 15:30:33.25 ID:/LehkniF0
男「……本当にいた……」

女「!」

女「遅い!遅すぎる!!」

男「え?何してんの?」

女「見てわからない?貴方を待っていたのよ」

男「ええぇぇぇ!!?」

女「ちょっと緊急事態でね。貴方にお願いがあって」

男「緊急事態?」

女「ええ。それは後で話すわ。ところで帰宅部の貴方がこんな時間まで何してたの?」

男「え?ええと……」

女「……」じー

男「そ、それは……」チラッ

後輩「!」

女「??」クル

女「あ――あの子は」

後輩「も〜〜!!」タタタタタ

男「あ……」

後輩「なんでこっち見てるんですか!?」ボソボソ
男「何してたのかって聞かれてつい……ごめん」ボソボソ
後輩「だからって普通こっち見ます!?」ボソボソ
男「君こそ、わざわざこっちに来たら余計誤解されると思うけど」ボソボソ

女「……」じー

後輩「はぅ!」ビクッ

女「……私、お邪魔だったかしら?」

後輩「いえ!!」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 15:33:46.34 ID:/LehkniF0
後輩「は、は、初めましてっ!わ、私、後輩といいます!」

女「初めまして。よくお昼に廊下で見かけるから初めてって感じはしないけど」

後輩「え!?」

女「二人一緒だったから遅かったのね。ごめんなさい、お邪魔しちゃって」

男「いやそれは――」

後輩「お邪魔だなんてとんでもないです!!女先輩のことでお話があっただけで……あうぅ」

女「私?」

男「…………」

後輩「あの、その……腰はもう大丈夫ですか??」

男「ぶはっ!!」

女「???」
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 15:36:53.35 ID:/LehkniF0
男「ゴホン!ちょっと俺から説明させてもらえるかな?」

後輩「え!?で、でも!」

男「大丈夫、余計な事は言わないから」ボソボソ

後輩「…………」

男「女さん」

女「なに?」

男「帰りが遅くなったのは、後輩と話してたからなんだ」

女「ええ、それはもうその子から聞いたわ」

男「今日の昼、生活指導室でのこと、“たまたま”後輩が見かけたんだって」

後輩「あ……」

女「今日のお昼……え……それって……ええ!?」カァァァ

後輩「」ピクッ

男「中庭側にある窓のカーテンの隙間から偶然見えちゃったらしくてね」

女「中庭……」

男「でもほら、隙間からだから中途半端にしか見えてなくてそれで誤解されちゃったんだ」

女「ご、誤解って?」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 15:39:55.83 ID:/LehkniF0
男「俺と女さんが抱き合ってキスしてたって」

女「違っ!!アレはそういうのじゃ!!」

男「大丈夫、ちゃんと誤解は解いておいたから」

後輩「……」

男「ほら、あの時……俺の首元の糸くずを取ろうとして腰痛めちゃったじゃない?」じーー

男(気付いて!女さん!アナタなら気付ける!)じーー

女「!!」

女「そうね。あの時はごめんなさい。しばらく動けなくて男くんには迷惑かけちゃったわね」

男「うんうん」

女「今はもう大丈夫よ」

後輩「そうでしたか!それなら良かったです!」

女「そんな事を確認するために男くんを呼び出したの?」

後輩「そ、それは……はい」

女「まぁ……あんな現場を見てしまったら勘違いしてしまうのも無理はないわね」

後輩「は、はい。私はてっきりお二人がお付き合いしてるのかと……」

女「ふふっ、それはありえないわ」

後輩「そう、なんですか?」

女「ええ。私と彼は……利害関係が一致して一緒にいるだけ」

後輩「じ、じゃあ女先輩は男先輩のこと好きってわけじゃ……」

女「……ええ」

女「残念ながら、そういった感情は持ち合わせてないわ」
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 15:42:47.97 ID:/LehkniF0
男「ほら、俺は散々言ってただろ?」

後輩「そっか……そうだったんだぁ」ホッ

男(ああ、なるほど……後輩は後輩で、女さんは俺に惚れてると思い込んでたからな)

男「だから安心していいぞ」

後輩「そ、そういう事は女先輩の前で言わないでください!///」ボソボソ

女「……」じー

後輩「はっ!そ、そういうわけで私はお先に失礼しますねっ!」

男「うん、じゃあ気を付けて帰ってね」

後輩「はい」ニコ

女「……」じー

後輩「女先輩も、その、失礼します!」

女「うん、またね」

タタタタッ

男「ふぅ……」

女「……」
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 15:45:02.63 ID:/LehkniF0
男「口裏合わせてくれてありがとう!よくアレでわかったね、凄いよ女さん!」

女「あの部屋のカーテンはほぼ閉まってたから、隙間があるっていってもほんの少しでしょ?ハッキリ見えていたとは思えないわ」

男「うん、実際に見えてたのは女さんの姿と座ってた俺の足だけだったみたいだし」

女「ふーん……」

女「それにしても良かったじゃない、誤解が解けて」

男「ん?ああ、そうだね。抱き合ってキスしてる噂が流れたらお互い大変だし」

女「そんな事じゃなくて」

男「うん?」

女「彼女は今頃、ライバルが一人減って安心してるんじゃないかしら」

男「ライバル?」

男(待てよ……後輩にとってライバルは俺だろ……女さんの発言になんか違和感が……)

女「良かったわね、あんな可愛い子に好かれて」

男「………………」

男(うわぁぁぁ!そういう感じに受け取られたかーーー!!!)
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 15:48:08.57 ID:/LehkniF0
男「いや、それは違う!それこそ誤解だ!」

女「そう?彼女、お昼の出来事を目撃して居ても立ってもいられなくなったから貴方の所に確認しに来たんでしょ?」

男「いや、いやいや!もし仮にそうなら、惚れてる俺じゃなくて女さんの所に聞きに行かない?」

女「でも私が好きじゃないって知ったときのあの顔とか……照れながら貴方に耳打ちしたりとか」

男(そ・れ・は!後輩は女さんが好きなんです!!とは俺の口からは絶対言っちゃいけないやつ!)

男「女さん」

女「なに?」

男「俺は女さんの体質のことを秘密にする為に、後輩に無茶な説明をして強引に納得させた」

女「そうね。感謝してるわ」

男「女さんに秘密があるように、後輩にも秘密があるんだよ」

女「ふーん」

男「それは俺の口からは決して言えないけど……」

男「それを踏まえた上で、俺が後輩に好かれてることは断じてありえない。ハッキリそう言える」

男「それだけは信じてほしい……かな」

女「……」
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 15:50:56.79 ID:/LehkniF0
男(なんで俺は必死に誤解を解こうとしてるんだ?これじゃあまるで……)

男(いや違うな。誤った事実を正したいだけだ。後輩のためにも……)

男(……ほんのちょっぴり俺のためにも)

女「まぁ私は別にどっちでもいいけど」

男「……」

女「今後、貴方の匂いを嗅ぎ辛くなるのは……嫌かな」

男「!」

男「後輩は俺のこと虫ケラくらいにしか思ってないから大丈夫だよ!」

女「む、虫ケラ?」

男「それに俺がそんなモテるように見える?」

女「……ぷっ、それを自分で言う?」

男「自慢じゃないけどモテたことなんて過去に一度もない」

女「ふふふ、そうね。納得したわ」

男(はい、納得されました)
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 15:56:39.15 ID:/LehkniF0
男「ところで、緊急事態ってなんのこと?」

女「あ!」

男(緊急事態……女さんに一体なにが……)

男(わざわざ待ってたってことは余程の事なんだろう)

女「明日って学校お休みでしょ?買い物に付き合って欲しいんだけど」

男(え!?それってデートってこと!?それじゃあ俺の方が緊急事態になっちゃうよぉぉ!)

男「え……そ、そんなこと急に言われても……その……」モジモジ

女「はぁ……貴方に相応しい言い方に訂正するわ」

男「?」

女「人混みの環境に入るために空気清浄機が必要なの、利用してもいいかしら?」

男「あ、そういう事でしたら是非使ってやってください」

女「ふふ、ありがとう」

男「こちらこそ、ご利用ありがとうございます」
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 15:59:53.62 ID:/LehkniF0
女「えーと待ち合わせは……」

男「あ、そうだ!女さんさえよければ携帯の番号交換しない?」

女「番号交換?」

男「そう!だめ?」

女「……だめ……じゃないです」

男「じゃあ……はい、これが俺の番号ね」サッ

女「……」

男「?」

女「……これ、どうしたらいいの?」

男「ん?登録すればいいんだけど……」

女「……」

男「もしかしてスマホ持ってない?」

女「失礼ね!持ってるわよ!ほらっ!」サッ

男「うん、じゃあ登録お願い!」

女「……」
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 16:09:05.18 ID:/LehkniF0
男「……あ、嫌なら嫌ってそう言ってくれれば……」

女「ち、違くて!その……やり方がわからないの……」

男「え!?」

女「仕方ないじゃない!今まで必要なかったんだし……」

男(そうだ……女さんはずっと人を遠ざけて、人と距離をおいて過ごしてきたんだった)

男「じゃあさ、俺の番号に電話かけてもらっていい?」

女「それくらいなら余裕よ」

男「はい、これが俺の番号ね」スッ

女「うん……ええっと……」

男「……お、きたきた!もう切っていいよ」

女「はい」

男「じゃあ今度は俺が」ササ

女「あ……きた!」
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 16:12:44.92 ID:/LehkniF0
男「それが俺の番号ね。じゃあそこのボタン押してみて」

女「こ、こう?」

男「そうそう、そしたら新規登録ってあるでしょ?そこから登録できるから」

女「うん……えーと」

男(その間に俺も登録してっと)

女「ねぇねぇ。名前ってどうしたらいい?」

男「ん〜、人によって様々だからなぁ。空気清浄機とかでいいんじゃない?」

女「空気清浄機って……貴方はそれでいいの?」

男「だって……実際そうでしょ?」

女「そうだけど。ちなみに男くんはどんな名前で登録した?」

男「俺は、女さんのフルネーム」

女「じゃあ私もそうしよっと」ポチポチ

男「……」

女「出来た!どう?ちゃんと出来てるでしょ!?」

男「……おお!バッチリだ!」

女「ふふーん。ま、実際やってみたら大したことなかったわ」

男(チラッと見えてしまった。女さんのケータイの連絡帳……登録されてたのは多分、家族だけだ)

男(今までその体質のせいで連絡先の交換ですら断ってたのか……)

男「よし、女さんと番号交換した記念にクレープでも奢るよ」

女「あら、気が効くじゃない」

男「うむ、なんでも好きなのを頼むがよい」

女「何個でも?」

男「う、お手柔らかにお願いします」

女「ふふ、冗談よ」
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 16:15:24.77 ID:/LehkniF0
――電車内

ガタン ゴトン ガタン ゴトン

女「クレープご馳走様」

男「いえいえ」

女「買い食いなんて初めてしたわ。こういうのも中々良いものね」

男「そうだね」

女「あ、今可哀想なやつって思ったでしょ?」

男「そんなこと、ないよ?」

女「ふふ」

男「でも緊急事態だなんて、ビックリしたよ」

女「いつもはネットで済ませちゃうんだけど、今回私が欲しいモノは店頭でしか販売してないからどうしてもね」

男「へぇ」

女「そういう時は親に頼んで買ってきてもらうんだけど、今回は都合がつかなくて」

男「あーなるほど。それで緊急事態だったわけか」

女「うん」
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 16:16:38.33 ID:/LehkniF0
男「明日はショッピングモールだっけ?」

女「そう。移動はバスになるわ」

男「バスか……じゃあ待ち合わせ場所は……どうする?」

女「噴水公園の前でどう?私たちの最寄駅の中間くらいだし」

男「あー、そこなら歩いて15分くらいの距離だ」

女「私は10分くらい歩けば着く距離よ」

男「……」

女「……」

男「そう考えると俺らって結構家近いんだね」

女「そうね、私も同じこと思ってたわ」
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/23(火) 16:20:08.39 ID:/LehkniF0
――自宅

男「ふわぁぁぁ」ゴロン

男「風呂入って筋トレもオッケー」ゴロゴロ

男「それにしても……今日は一段と疲れたなぁ……」グデー

男「朝から女さんと喧嘩して、昼に仲直りして、放課後は後輩に絡まれて」

男「うへぇ……疲れたぁ……」

男「…………」

男(ちょっと待て!!)

ガバッ

男(よく考えたら明日ってデートみたいなもんじゃん!!)

男(服とかどうしよう)

男(朝から匂うように……それは筋トレしたから大丈夫か)

男(それにしても)ゴロン

男(女さんと休日におでかけ……)ゴロゴロ

男(楽しみだな)ウトウト

男「zzz」
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