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古澤頼子「高峯のあの事件簿・マスターピース」
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1 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:27:38.37 ID:RS4SDFXO0
あらすじ
銃殺事件と刑事失踪事件のさなか、古澤頼子が街頭ビジョンに現れる。
前話
渋谷凛「高峯のあの事件簿・星とアネモネ」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1588154916/
注
あくまでサスペンスドラマです。
設定はドラマ内のものです。
グロ注意。
それでは、投下していきます。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1589801258
2 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:28:20.70 ID:RS4SDFXO0
シリーズリスト
高峯のあの事件簿
第1話・ユメの芸術
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1472563544/
第2話・毒花
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475582733/
第3話・爆弾魔の本心
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1480507649/
第4話・コイン、ロッカー
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1484475237/
第5話・夏と孤島と洋館と殺人事件と探偵と探偵
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1503557618/
第6話・プレゼント/フォー/ユー
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1513078349/
第7話・都心迷宮
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1521022496/
第8話・『佐久間まゆの殺人』
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1550664151/
第9話・高峯のあの失踪
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1570101339/
第10話・星とアネモネ
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1588154916/
最終話・マスターピース
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1589801258/
3 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:28:57.07 ID:RS4SDFXO0
メインキャスト
高峯探偵事務所
探偵・高峯のあ
助手1・木場真奈美
助手2・佐久間まゆ
高垣楓
柊志乃
和久井留美
大和亜季
古澤頼子
4 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:29:37.17 ID:RS4SDFXO0
1
1月25日(月)
星輪学園・教会
佐久間まゆ「のあさん……忙しいのかな……?」
佐久間まゆ
のあの助手。東郷邸の事件以降、のあと同居し星輪学園に通い始めた。
のあ『まゆ、何かあったのかしら』
まゆ「のあさん、今、大丈夫ですか?」
のあ『手短に。出ようとしていたところなの』
まゆ「事件ですか?それなら後でも……」
のあ『言ってちょうだい、聞くわ』
まゆ「わかりました。シスタークラリスが行方不明なんです」
のあ『シスタークラリス?どこかに出かけたのではないかしら』
まゆ「シスタークラリスは学園から離れる時は、必ず連絡があるんです。なのに、授業にもいらっしゃらなくて」
のあ『まゆ、どこにいるのかしら』
まゆ「学園の教会です。争った様子とかはありません」
のあ『偶然ではないのかしら……まゆ、ニュースを見たかしら』
まゆ「ニュースですか……いいえ、見てません」
のあ『星輪学園はテレビもなければ、ケータイは授業時間に使用禁止だものね。銃撃事件が起こってるわ、シスタークラリスが関係している可能性もある』
まゆ「シスタークラリスに関係……」
のあ『確定ではないけれど、古澤頼子がらみよ』
まゆ「……そう、ですか」
のあ『……楓、お願いするわ。まゆ、聞こえてるかしら』
まゆ「はぁい、聞こえてますよぉ」
のあ『高垣楓に協力してもらうわ。星輪学園に向かってもらうから、合流を』
まゆ「わかりました、楓さんを待ってます」
のあ『シスタークラリスの行方は任せたわ。私と真奈美は、銃撃事件の現場へ』
まゆ「はい。気をつけてくださいねぇ」
5 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:32:41.56 ID:RS4SDFXO0
2
清路警察署・刑事一課和久井班室
和久井留美「探偵さん、電話とは珍しいわね。何かご用かしら?」
和久井留美
刑事一課和久井班班長。階級は警部補。のあとは腐れ縁とのこと。
のあ『留美、事件については知ってるわね』
留美「もちろん。警察は大慌て、休暇中に呼び出されたわ」
のあ『お疲れ様』
留美「私は署に来たわ。理由は拳銃携帯命令を守るため」
のあ『新田巡査の拳銃は』
留美「持ち出されているわ。私は許可を出していない」
のあ『彼女が内通者だったのね』
留美「渋谷凛からは聞き出していたわ。桐生つかさも協力者とのことよ、人や物を集めていた」
のあ『何か、問題が起こった?』
留美「私にはさっぱり。仲間割れか、口封じか……それとも」
のあ『それとも、何かしら』
留美「粛清、とか。古澤頼子がやったように」
のあ『それなら、渋谷凛は平気かしら』
留美「ヘレンの依頼で署長が人をつけてくれたわ。安全よ」
のあ『信じることにするわ』
留美「大和巡査部長が現場に先行しているわ。久美子さんもいるようね」
のあ『留美はどうするのかしら』
留美「新田巡査の責任は取るわ。私の部下だもの」
のあ『……そう』
留美「探偵さん、聞いていいかしら。何のために、古澤頼子を追ってるの?」
のあ『理由は色々あるわ』
留美「質問を変えるわ。探偵として、必要なものは何?」
のあ『安斎都に以前言ったわ。自分の信じる正義』
留美「同感よ。探偵さん、必要なら連絡するわ」
のあ『ええ。ご健闘を』
留美「……さて、これでいいわね。始めましょうか」
柊志乃「和久井警部補、いいかしら」
柊志乃
刑事一課長。階級は警部。かつては留美の教育係であり、驚異的な成績をコンビとして残していた。
留美「課長、何かご用ですか」
6 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:33:29.35 ID:RS4SDFXO0
志乃「通報があったの……別の射殺体よ」
留美「わかりました。そちらへ臨場すれば良いでしょうか」
志乃「ええ……でも、条件付き」
留美「条件ですか。担当では、ないと」
志乃「察しがいいわね……臨場は認めるわ。ただし、班長の指示に従うこと」
留美「承知しました。お気遣い感謝します、行って参ります」
志乃「捜査本部の設立とメディア対応に集中するわ……どこへ行くのかしら」
留美「科捜研へ。新田巡査を追えるかもしれませんから」
7 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:34:29.18 ID:RS4SDFXO0
3
清路警察署・留置場
渋谷凛「騒がしいね……大変なことになってるみたいだけど」
姫川友紀「そうみたいだねー」
渋谷凛
生花店の一人娘だった。先日の事件を機に、罪を償うことを決めた。
姫川友紀
渋谷凛を護衛するために派遣されてきた。普段は移送車の警備を担当している。
凛「なのに、私はトランプをしてる。警備の人と一緒に」
友紀「心配しなくていいよ。野球のシーズンオフだから、暇だし」
凛「そういう意味じゃないんだけれど……というか、中にいていいの?」
友紀「ダイジョーブ!許してくれる、って」
凛「ホントかな……」
高橋礼子「こんばんは。仲良くなったみたいじゃない」
高橋礼子
清路警察署署長。階級は警視正。キャリアルートから離れたのには理由がある、というウワサ。
友紀「署長、お疲れ様であります!」
礼子「お疲れ様。格子の中に入るのはあなたのやり方?」
友紀「入っていいかどうかはわかるからね。凛ちゃんは平気」
礼子「そう。あなたのやり方でいいわ」
凛「署長……?」
礼子「挨拶が遅れたわね。署長の高橋礼子よ」
凛「……よろしく」
礼子「あなたの安全は保障するわ」
凛「それは、信じてる」
友紀「あたしがいるからねっ」
凛「署長さん……この人、信じて良いの?」
礼子「古澤頼子の関係者でないはずよ」
凛「私も、違うと思う」
礼子「勤務態度も良好。護送車襲撃事件の大立回りで表彰されているのよ」
友紀「あの時は大変だったよー。スタンガンが安物で助かった」
凛「姫川さん、意外と凄いんだね」
友紀「友紀でいいって。それに、入っている理由言ったでしょ?」
礼子「理由?」
8 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:34:55.79 ID:RS4SDFXO0
凛「警察官だと思われないため、だっけ」
友紀「一瞬は、大切だからね。野球と一緒だよ、牽制牽制」
凛「野球の話で例えられても、あんまりわかんない」
礼子「姫川さん、任せたわ」
友紀「任された」
礼子「渋谷さんに聞きたいのだけれど」
凛「何?」
礼子「この男性に見覚えは」
凛「……ない。頼子の協力者は、背格好が似た女性だけだから」
礼子「ありがとう」
凛「その人、なんなの?」
礼子「遺体が見つかったわ。完全に別件かどうかは捜査中」
友紀「凛ちゃん、わかる?仲間割れ?それとも陰謀?」
凛「正直……頼子の考えることはわからない。私は、命令を聞くだけだったから」
礼子「わかっているわ。忙しくなるから、失礼するわね」
凛「警察官……美波が関わってるから慌ただしいの?」
友紀「たぶん。まっ、それは任せよう。次は何する?」
凛「暇つぶしは幾らでも出来そうだね……」
9 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:35:52.01 ID:RS4SDFXO0
4
GP社・玄関前
GP社
桐生つかさが営んでいた会社。鷹富士神社近くの小さな2階建ての建物に所在。最近は人の出入りが減っていたらしい。
のあ「大和巡査部長」
大和亜季「高峯殿!お疲れ様であります!」
大和亜季
刑事一課和久井班所属。階級は巡査部長。年下を元気づけることは得意らしい。
真奈美「お疲れ様」
のあ「ここで何をしているのかしら」
亜季「見ての通り、警備と応対であります」
のあ「つまり、捜査から外されたのね」
亜季「そういうことであります。重要参考人でありますから、現場から離れるわけにもいかず」
真奈美「新田巡査は見つかったのか?」
亜季「いいえ。自分の知る場所は探してもらったのですが」
のあ「例えば」
亜季「自宅、図書館、最寄りのスーパー、行きつけのカフェ、ラクロスサークルの練習場であります。本日は警部補殿と同じく、新田巡査は休暇を取得しておりました」
真奈美「君は」
亜季「出勤であります。ここには署から来たであります」
のあ「留美は、どこに」
亜季「別の現場であります。射殺体が発見されたそうでありますから」
のあ「凶器が、同じなのかしら」
亜季「そのようであります」
のあ「そちらの被害者と桐生つかさの共通点は」
亜季「ないであります」
真奈美「それは、既にわかっているのか?」
亜季「実は、そちらの被害者は和久井班ならば知っているであります」
のあ「何故かしら」
亜季「10年ほど前に起こった、強盗殺人事件の容疑者でありますから」
真奈美「新田巡査との関係はあるな」
のあ「桐生つかさが殺害されたのと、同じ動機なのかしら」
亜季「それは、分からないであります」
松山久美子「刑事、刑事……あ、ちょうどよかった」
松山久美子
科捜研所属。常時白衣着用の美女。今日は音葉、志希とは別行動。
10 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:36:23.53 ID:RS4SDFXO0
のあ「久美子、お疲れ様」
久美子「亜季ちゃん、現場見てもらえる?」
亜季「私、でありますか」
久美子「参考人だから、いいでしょ」
亜季「その理屈が通るなら、もちろんであります」
久美子「のあさんと真奈美さんも意見を聞かせて」
のあ「わかったわ」
久美子「現場は2階、応接室よ」
11 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:37:25.28 ID:RS4SDFXO0
5
GP社・応接室
久美子「遺体はこの会社を経営する桐生つかさ、死因は近距離からの発砲。心臓を銃弾が貫通していて、即死」
亜季「撃たれたのは、この位置でありますか」
久美子「撃たれたのは部屋の中央よ。理由はわからないけれど、寝かせられる位置に移動されてる」
のあ「銃弾は見つかったの?」
久美子「あそこ。壁に当たって、床に落ちてた」
真奈美「残留物というのは、それか」
久美子「日本で一番情報が集めやすい拳銃、つまり警察官のもの」
のあ「メディアには」
亜季「新田巡査が犯人、とは言っておりません」
久美子「そこにもう1つ。荒らされた物で隠れていたの」
真奈美「警察手帳だな、新田巡査の」
のあ「部屋は荒らされている」
亜季「犯人と被害者が争ったのでありましょうか?」
のあ「違うと思うわ」
真奈美「どういうことだ?」
のあ「争ったように、見せかける。室内にあったものを床にばらまいただけに見えるわ」
亜季「もみ合いになって事件が起こったのではないのでありますな」
のあ「犯行は計画的なのかしらね」
久美子「勝手にそう思っている。亜季ちゃん、これ見てくれる?」
亜季「了解であります……布でありますな、厚手の」
真奈美「キッチンミトンのようだな」
久美子「穴が空いてるの。目的はわかる?」
亜季「わかるであります、銃声を抑え込むためでありますな。暴力団員見せしめに敵対組織の幹部を殺害した際に、同様の手口が利用されたであります」
のあ「犯人は暴力団員、ではなくて」
亜季「犯人は、この手口を知ってるであります。至近距離で撃つことが前提なら、威力に問題はないであります」
真奈美「人体を貫通するには十分だが」
のあ「壁では失速している。利用したのは間違いなさそうね」
久美子「ええ。銃弾、傷口にも繊維が付着していたわ」
亜季「以前の事件では、繊維が散乱していたことで犯行位置と身元が割り出せたであります」
久美子「繊維は、応接用のテーブルとイスに一番多く付着していたわ」
12 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:38:28.23 ID:RS4SDFXO0
のあ「真奈美、そこに立ってちょうだい」
真奈美「ああ。ここに被害者がいたのかな」
のあ「その通り。私の位置に犯人がいて、発砲した」
真奈美「応接室に案内されて、話を聞いていたのか?」
のあ「その際に発砲された。争う暇すらないわね」
久美子「布はGP社に幾つか同じものがあったわ。GP社で売っているオーダーメイドのキルトだったみたい」
亜季「現地調達ということは、そこからは追えませんな」
のあ「ここにあるということを、何らかの形で知っていた」
久美子「そうね。被害者の遺体からは争った形跡もないし、顔見知りか、少なくとも応接室に案内する間柄だった」
亜季「新田巡査と桐生つかさが、古澤頼子を通じて関係していたのなら不思議ではありません」
のあ「新田巡査と決まったわけではないわ」
真奈美「私も同感だ」
亜季「ウーム……そう思いたいのは私もであります。しかし、状況が状況であります」
13 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:39:22.02 ID:RS4SDFXO0
真奈美「のあに質問だが、警察手帳を置いていくか?」
のあ「私なら置いて行かないわ」
亜季「新田巡査の犯行と見せかけるため、だと?」
のあ「ええ」
亜季「そんなことをして、何か得があるのでありましょうか?」
のあ「目的はきっとあるわ。今はわからないけれど」
亜季「そうでないことを祈るであります。監視カメラはなかったでありますか?」
久美子「あれ」
亜季「分かりやすく破壊されているでありますな。何かで叩かれたのでありましょうか」
久美子「そこにある棒で」
のあ「何の棒かしら」
真奈美「エクササイズに使う棒じゃないか」
久美子「真奈美さんが正解。桐生さんが趣味のヨガで使うものよ、通販サイトで買ったみたい」
亜季「しかし、データは残るであります」
久美子「隣のオフィスを見ればわかると思うけど、色々壊されてるの」
のあ「監視カメラのデータも?」
久美子「そういうこと。データ関連は壊滅的」
真奈美「その前に、目撃者はいるのか」
久美子「この会社、基本的に学生しかいないから。平日は夕方から始業」
亜季「犯行時刻にいたのは被害者だけであります。高校を早退したのはわかっているでありますが」
久美子「第一発見者は、アルバイトに来た女子高生。何も知らないそうよ、もちろん古澤頼子のことも」
真奈美「誰もいないことは分かっていた」
のあ「密談ね、犯人と被害者の。連絡を取る手段はあるはずよ」
久美子「桐生さんのケータイは未発見よ」
のあ「それなら、周囲の監視カメラや目撃情報は」
亜季「現在捜査中であります」
久美子「監視カメラの情報については、音葉ちゃんが科捜研に残って調べてるところ」
真奈美「何か、情報は出ていないか」
亜季「見慣れない身長165cmから170cm程度、長髪の女性が目撃されているであります」
のあ「それは」
亜季「私が良く知る所では、新田巡査と柊課長でありますな」
14 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:40:17.49 ID:RS4SDFXO0
真奈美「のあもそうだな」
亜季「銀髪ではなかったであります。黒というよりは茶に近いようであります」
真奈美「のあのアリバイは私が保証するよ」
のあ「古澤頼子も該当する。それに、ウィッグでも長くするのは難しくないわ」
久美子「大胆な犯行に思えるけれど、意外と証拠が少ないの。犯人は、警察のやり方を良く知ってる」
亜季「うむ……」
久美子「私に分かることはそんな所。少なくとも、新田巡査の拳銃が犯行に使われたのは間違いないわ」
亜季「久美子殿、その言い方だと新田巡査が犯人だとしか思えないであります」
久美子「本当にそうなのか、そう思わせたいのか、どっちなのかしら」
のあ「どちらも可能性があるとしか、言えないわね」
亜季「それなら、何事もないことを信じるであります」
久美子「ご意見ありがとう。私は次の現場へ。亜季ちゃんは?」
亜季「私は、ここの手伝いを続けるであります」
真奈美「私達はどうする?」
のあ「古澤頼子の動きを追ってみましょうか。ヘレンに連絡を」
真奈美「わかった」
のあ「シスタークラリスの方も気になるわ。何かわかると、いいのだけれど」
15 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:41:18.13 ID:RS4SDFXO0
6
星輪学園・教会
高垣楓「まゆちゃん、お待たせしました」
高垣楓
希砂本島の駐在さん。元刑事だったとか。現在は休暇中で、清路市を訪れていた。
まゆ「楓さん……休暇中にすみません」
楓「いいんですよ、こういう時はお互い様ですから。警察には連絡をしましたか」
まゆ「はい、川島先生がしてくださいました」
楓「警察は銃撃事件がありましたので、人手は割けません。捜索の優先度は低いかな、と」
まゆ「そうなんです……」
楓「というわけで、私達で調べましょうか。シスタークラリスのお写真はありますか?」
まゆ「あ、はい……これとか」
楓「ふむふむ、聞いていた通りの美人さんですね。有名人ですか?」
まゆ「はい……学園内なら知らない人はいなくて、地域の人も良く知っていると思います」
楓「日本では目立つ容姿ですから、目撃情報も集めやすいでしょう」
まゆ「そうだと思います」
楓「のあさんから聞きました、外出する時間が分かると」
まゆ「この冊子を見てください」
楓「スケジュール帳でしょうか?」
まゆ「はい……教会の入り口に置いてあります。外出する時は、ここに書いてあります」
楓「ほとんど敷地内から出ないのは本当みたいですね。今日は、っと」
まゆ「何も書いてないんです。ここに書いてある授業もいらっしゃらなくて……」
楓「授業を欠席するような人物では……ありませんね」
まゆ「はい。学園と学園の生徒が第一のシスターですから」
楓「シスタークラリスはケータイを持っていますか」
まゆ「持っていません。教会の固定電話は、そこに」
楓「もしも連絡を取る場合は」
まゆ「星輪学園に電話をかければ、誰かが取り次いでくれます。あとは、学園内を探せば」
楓「行き先に心当たりはありますか?あまり遠出をしないタイプのようですけれど」
まゆ「遠くなら、学園が持っている山荘くらいだと思います」
楓「シスタークラリスは自動車を持っていますか?」
まゆ「クラシックカーで移動してます」
楓「先ほど見かけました。車では移動していないようですね」
まゆ「守衛さんも見ていないようで」
楓「そもそも監視カメラがほとんどありませんから。来る途中に確認しました」
まゆ「どこに行ったのでしょう……先生方が学園内を探しても見つからなくて」
楓「どこか、外に行ったのでしょう。人がいる出入り口は使わずに」
まゆ「そんな場所……あるかなぁ」
楓「シスタークラリスは秘密の扉を知っていたりしないでしょうか?」
まゆ「それは、あると思います……学園はシスタークラリスの家、ですから」
楓「まずは外に出る方法を探しましょう」
まゆ「それから……次はどこへ行ったか、を」
楓「はい。まゆちゃんも流石のあさんの助手ですね、はじめましょうか」
16 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:42:44.64 ID:RS4SDFXO0
7
鷹富士神社境内・射殺事件捜査テント
鷹富士神社
この土地に古くからある神社。警察には協力的で、爆発事件の捜査テントも境内に設置されていた。
ヘレン「ディテクティブ、こちらに座りなさい」
ヘレン
国際調査官。追っている事件は複数あるが、古澤頼子の事件に注力している。
のあ「ヘレン、状況は」
ヘレン「古澤頼子は見つかっていないわ。同時に動きもない」
真奈美「今回の事件に関係しているのか」
ヘレン「容疑者と被害者が、かつて関係していたことは明らか。しかし、今ではない」
真奈美「今ではない?」
のあ「古澤頼子が関係していない、と」
ヘレン「ディテクティブ、古澤頼子が使うとしたら銃かしら」
のあ「いいえ、使うなら矢よ」
真奈美「これ見よがしに、使っていたものな」
ヘレン「イエス。古澤頼子は、早期の発見を望むかしら」
真奈美「これまでから言えば、望まない」
のあ「むしろ、発見した時には自らが関わっていることを示す可能性がある」
ヘレン「彼女は『キュレイター』。その名はクレジットに示されていないといけない」
真奈美「そうなると、やはり銃を使ったことが妙だな」
のあ「銃声は隠し事には向かないわ」
真奈美「銃の特定は、弓よりは容易いだろうな」
のあ「弓矢の音は怪しいと思われても、銃の様に危険には思われない」
ヘレン「故に、古澤頼子は別ルートで追うわ」
のあ「ええ、お願いするわ」
ヘレン「しかし、疑問が残るわ、ディテクティブ?」
17 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:43:30.84 ID:RS4SDFXO0
のあ「ええ。新田巡査が犯人であれ、別人が犯人であれ、動機がわからない」
ヘレン「ザッツライト。最新の注意を払い……ディテクティブ、少し待ちなさい」
のあ「通信?」
真奈美「そのようだ」
ヘレン「把握したわ。捜査は、そのまま継続」
のあ「要件は」
ヘレン「事件が発生したわ、別件よ」
真奈美「その口振りだと、古澤頼子と関係はないのか」
ヘレン「私の勘ではそう言っているわ」
のあ「私は行くべきかしら」
ヘレン「行くべきね。大和巡査部長と一緒に」
真奈美「大和巡査部長?」
ヘレン「発見された遺体は、かつて刑事一課に任意同行を受けたことがあるわ」
18 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:44:23.73 ID:RS4SDFXO0
8
星輪学園周辺・とあるマンション・管理室
まゆ「楓さん……そっちはどうですかぁ」
楓「映像は残っていませんね……消されています」
まゆ「駐在している管理人は4棟で1人……シスタークラリスの目撃情報はあるのに」
楓「どこにも映っていません。ウェブカメラなので外部からアクセスされたようです」
まゆ「泉ちゃんが、そういうソフトを作っていたような……」
楓「誰かは入った、ということですね。管理人室は、この番号でいいのかしら」
まゆ「内線ですか?」
楓「はい……映像確認できました。お聞きしたいことが、玄関の暗証番号です……1258ですか。やっぱり。5年以上変えてない、変えることをオススメします。どこか入れるところは……わかりました」
まゆ「玄関の暗証番号……何故わかったんですか?」
楓「問題です、何故でしょう?」
まゆ「えっと、番号が薄くなってました。たぶん、1と2と5と8。順番は、監視カメラで見たからですか?上から順番にしか動いていないとか」
楓「正解です。違いを見つけること、分かることは分かっておくこと、刑事のイロハです」
まゆ「楓さんは立派な刑事さんですね、今でも」
楓「私なりにがんばりましたけど……向いてはいなくて」
まゆ「そうでしょうか……」
楓「今は、まゆちゃんが褒めてくれた刑事でいます。屋上に自由に出入りできるそうですよ」
まゆ「そこに、シスタークラリスが?」
楓「行ってみましょう……何かわかるかもしれません」
19 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:45:08.96 ID:RS4SDFXO0
9
星輪学園周辺・とあるマンション・屋上
まゆ「高いフェンスと天井まで囲まれたネット……」
楓「軽い運動が出来るようになっているようですね。まゆちゃん、離れないでくださいね」
まゆ「はい……わかりました」
楓「シスター、いらっしゃいますか?」
まゆ「シスタークラリス……楓さん、あそこ……」
楓「周囲に不審人物なし。走って!」
まゆ「シスタークラリス!」
楓「シスター、ご無事ですか!?」
まゆ「頭から……血が……」
楓「残念ですが……亡くなっています。佐久間さん、警察に連絡を」
まゆ「わ、わかりました!ひゃくとうばん……わっ、こんな時に久美子さんから電話が……」
楓「科捜研の松山さんですか?ちょうど良いかと、出てください」
まゆ「は、はい!久美子さん、こんにちは!」
楓「後頭部の出血は壁に打ち付けられたものですが、致命傷ではありません。そうなると、死因は……」
まゆ「音葉さん……ですか?いいえ、知らないです……え?科捜研にいない?」
楓「側頭部への複数回の打撃……ありました、血の付いた警棒が」
まゆ「久美子さん、遺体が見つかりました……住所は、えっと……」
楓「これも新田巡査の物でしょうか」
まゆ「わかりました、ここで待ってます」
楓「連絡は取れましたか」
まゆ「はい……久美子さんから本部に連絡してくれるそうです」
楓「犯人は、ここの監視カメラを操作していますが、路上の監視カメラ全ては把握していないと思います。科捜研にお願いできるでしょうか」
まゆ「それが……いないらしくて」
楓「いない?」
まゆ「担当の音葉さんが、科捜研にいないらしいんです。志希さんが急いで科捜研に戻ってるそうで……」
楓「捜査方法を知り尽くしていますね、相手は。科捜研の状況も」
まゆ「はい……やっぱり、新田巡査が犯人なんでしょうか……」
楓「現場を放置するわけにはいけません。まゆちゃん、学園に連絡を」
まゆ「わかりました……楓さん、のあさんに連絡してもらっていいですか」
20 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:46:21.47 ID:RS4SDFXO0
10
清路市内・某安アパート・駐車場
のあ「わかったわ……落ち着いたら、警察署で合流しましょう。そこは任せたわ」
真奈美「遺体は酷い状態だったな……誰からだ?」
のあ「高垣楓から。シスタークラリスが殺害されたわ」
真奈美「また犠牲者が……理由はなんだ」
のあ「古澤頼子に協力していたから、かしら。刑罰に問えるほどではなかった」
真奈美「口封じ、か」
のあ「あるいは報復か」
亜季「参ったであります……」
のあ「大和巡査部長、遺体の身元は」
亜季「判明したであります。時効が成立した婦女暴行事件の容疑者であります。任意同行までは行ったでありますが、逮捕までは至らなかった人物だと聞いているであります」
真奈美「また同じだな、犯罪の容疑者が被害にあっている」
亜季「自白した文章が残っていたであります。恨みを晴らしたのでありましょうか」
のあ「遺体の状況からして、恨みを持つ人物が犯人かしら」
亜季「この手の弱い女性を狙った犯罪には、義憤を強く感じるタイプの人物に心当たりがありまして」
のあ「誰かしら」
亜季「新田巡査であります。弱い立場の人間が巻き込まれる犯罪は許せないようでありました」
真奈美「これも新田巡査が関係しているのか」
亜季「そもそも、時効が成立した事件を知っていたのは新田巡査が見つけて来たからであります」
のあ「そんな憤ることもあるのに、古澤頼子に協力していたのかしら」
亜季「古澤頼子は女性でありますからな……それはそれ、これはこれ、なのでありましょう。そう思うことにしたであります」
のあ「被害者は見つかるばかり。先手を取られてるわね」
21 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:47:01.34 ID:RS4SDFXO0
真奈美「今は、あえて発見を促しているような気がするな」
のあ「ええ。第一発見者は被害者にアプリで呼び出されたそうだもの、指定の時間に」
亜季「お伝えしたいことがあったであります!参っていた理由でありますよ!」
のあ「何かしら」
亜季「遺体が更に見つかったであります。こちらは、20年前の殺人事件の真犯人だと!」
真奈美「また増えてるのか」
のあ「法を守る気はなさそうね、秩序へ敵対するなら正義とは言えないわ」
ドンデンガエシワタシノターン……
真奈美「のあ、電話だ」
亜季「どんでん返しはもう充分でありますよ」
のあ「泉からだわ……高峯よ、どうしたのかしら」
大石泉『のあさん、聞いて。今、さくらと亜子と清路駅前にいるんだ』
大石泉
のあに協力しているプログラミングが得意な中学生。今日は友人と清路駅にお買い物に行っていた。
のあ「駅で何かあったの?」
泉『街頭ビジョンに映ってる、あいつが』
のあ「あいつ……」
泉『古澤頼子が、喋ってる』
22 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:47:42.57 ID:RS4SDFXO0
11
幕間
この渇望を覚えてから、どのくらい経ったのでしょうか。
心震える光景は、追い詰められた人によってもたらされる。
張り裂けるような感情の痛みで、価値観を捨ててしまうような。
ああ、なんて刺激的。
だけれど。
私は満たされない。
自分でもわからない、どこかから現れる渇望。
そう、羨ましい。
華麗な美術品に心をはせていても。
苛烈な感情を眺めていても。
どこか満たされない。
何故?
両手のネイルは光沢を放っている。
深紅のドレスは自分の体をきつく締めあげている。
薄く小さな唇のルージュは目立たない。
芸術を眺めているためのメガネを外す。
画面に映った青い瞳が、冷たくこちらを見つめ返す。
私が笑えば、彼女も笑う。
さぁ、はじめましょう。
私が、私が作ったモノの中で。
示さなければ。
私が、最高傑作であることを。
幕間 了
23 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:48:53.16 ID:RS4SDFXO0
12
清路市内・某安アパート・駐車場
泉『亜子に最初から動画撮ってもらってる』
のあ「泉、私達にも見えるように」
泉『わかった。テレビ電話を繋げ直すから』
のあ「ありがとう」
亜季「……何を言うつもりでありましょうか」
のあ「わからない。泉からつながったわ」
泉『のあさん、聞こえてる?見えてる?』
古澤頼子『この世は地獄とも、この世は天国とも。はたして、どちらなのでしょう?』
古澤頼子
深紅のドレスに身を包み、誰かに語り掛けている。
のあ「見えて聞こえてるわ。ありがとう」
泉『とりあえず、ここまでは意味の分からないことしか言ってない』
のあ「わかったわ」
真奈美「凄い恰好だな……真っ赤なステージ衣装だ」
亜季「アイドルの衣装みたいでありますな。スカート仕立ての」
のあ「メガネもしていないわ」
亜季「青い瞳と泣きボクロが美しいでありますな……失敬、失言でありますな」
のあ「希砂二島で会った時は、赤系統の服や水着も着ていたわ」
真奈美「少し、イメージと違うな」
のあ「どうやって、街頭ビジョンに映像を流している?」
真奈美「駅ビル内に設備がある。そこをどうにかできれば、簡単だ」
亜季「撮影場所はどこでありましょうか」
のあ「リアルタイムじゃなさそうね」
泉『画面に、ディスプレイのフレームが映ってる』
のあ「動画を流したディスプレイを、撮影したものが流れている」
真奈美「大胆なのか、緻密なのか、わかりかねるな」
亜季「息を大きく吸ったであります。おそらく、本題に入るかと」
頼子『悪い人間が裁きを受けることは、悪いことでしょうか』
のあ「……今起こっている事件のことかしら」
頼子『私はそうは思いません。悪人は裁かれるべきです、そう、私でも!』
のあ「古澤頼子は、自身の行為が悪であることを自覚しているわ」
亜季「……」
のあ「それと同時に、悪は裁かれるべきとも。これまでの行いとも矛盾しない」
24 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:50:06.35 ID:RS4SDFXO0
真奈美「それにしても、妙に芝居ががってるな」
頼子『法を逸脱した裁きが、犯罪者に下されています。ええ、街は平和に近づいたのです』
のあ「同意しない。古澤頼子の目的は極めて自分本位、平和ではなく混乱を望んでいる」
亜季「……」
頼子『私に協力していた4名も彼女の手の元に、なんてことを!次は、私でしょう。なんて、なんと恐ろしい!』
のあ「4人……?」
真奈美「桐生つかさ、シスタークラリス……後は誰だ」
のあ「真奈美、片っ端から安全を確認して。渋谷凛、吉岡沙紀、小松伊吹、小室千奈美、そのあたりを」
真奈美「わかった!」
頼子『探偵も、警察も遅れています。事件が起きてから駆けつけることが出来ないのですから、当然ですよ』
亜季「それは……課長が言っていた心得であります」
のあ「それを無碍にされるのは心外ね」
頼子『勘違いなさらないでください。配役をしたのも私ですから。ああ、やっと、来てくれたのです!』
のあ「古澤頼子が、犯行を唆した」
亜季「自身が狙われるようにでありますか?」
のあ「そのようね」
亜季「これは、度が過ぎているであります」
のあ「ずっと、度が過ぎているわ」
頼子『結末はどうしましょう?どうなるのでしょう?』
亜季「……」
頼子『無法者の裁きが下されるのでしょう?それとも法の裁き?もしくは……私が裁きを下す側も良いかもしれませんね』
のあ「なんで笑ってるのかしら……」
頼子『これからの展開に、乞うご期待です。それでは、また会いましょう』
亜季「映像は終わったであります」
25 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:50:51.10 ID:RS4SDFXO0
のあ「泉、ありがとう」
泉『のあさん、協力することは』
のあ「あなたの安全も保障したいわ、清路駅前にいるのよね?」
泉『うん』
のあ「迎えに行くわ。協力してちょうだい」
泉『わかった。交番にでもいるね、待ってるから』
のあ「ええ」
亜季「高峯殿……状況はマズイであります」
のあ「わかってるわ」
亜季「明確な悪人を標的にしたアンチヒーローを、止めようとする人間は少ないであります」
のあ「そういうことね、無差別殺人でないことを示した」
亜季「古澤頼子は自分を標的にしろ、と言ったであります」
のあ「探偵と警察は遅れている、とも」
亜季「目的は……」
のあ「自身の存在をアピールするため、かしら」
亜季「思ったよりも目立ちやがりでありますよ」
のあ「そうね、同感よ。『キュレイター』とは思えない」
亜季「それが、勘違いなのであります」
真奈美「のあ!」
のあ「無事は確認できたかしら」
真奈美「渋谷凛と瀬名詩織は署内で無事だ。小室千奈美、吉岡沙紀、小松伊吹は連絡が取れた、一切古澤頼子とのコンタクトはない」
のあ「他は」
真奈美「沢田麻理菜、宮本フレデリカ、アナスタシアも無事だ。不審な動きもない」
亜季「多いでありますな……」
のあ「それなら、残り2人は誰なのかしら」
真奈美「1人は可能性がある……新田巡査だ」
のあ「もう1人は」
真奈美「わからない」
亜季「待ったで、あります!被害者が新田巡査なら、更に登場人物が1人必要でありますよ!」
のあ「古澤頼子が言う、無法者。法を逸脱した裁きを行う人物」
真奈美「どっちかは……わからないな」
亜季「やることが多すぎてパニックであります!」
26 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:51:51.69 ID:RS4SDFXO0
のあ「大和巡査部長、落ち着いて。人間は1つのことしか出来ないと思いなさい」
亜季「新しい遺体が発見された現場に行くべきか、新田巡査を捜索すべきか、うーむ……」
のあ「真奈美、清路駅まで。大石泉と合流するわ」
真奈美「わかった」
のあ「大和巡査部長、大石泉と合流したら署に行くわ。情報が集まってくる頃でしょうから」
亜季「了解であります。決めました、新しい遺体の現場を見に行くであります」
のあ「お願い。何があっても冷静であること、いいかしら」
亜季「課長と警部補から叩き込まれているであります」
のあ「安心したわ。真奈美、行きましょう」
27 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:52:24.30 ID:RS4SDFXO0
13
星輪学園周辺・とあるマンション・屋上
楓「……」
まゆ「自動販売機でお茶を買ってきました……楓さんも、どうぞ」
楓「ありがとうございます」
まゆ「誰かにお電話……ですか」
楓「留美さんです。お聞きしたいことがあったのですが、つながらなくて」
まゆ「お忙しいのでしょうか……?」
楓「そうだと思います。まゆちゃん、ここにいても仕方がありませんから、お茶を配ったら警察署に行きましょう。手伝います」
まゆ「はい、わかりました」
28 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:53:17.05 ID:RS4SDFXO0
14
清路駅交番
泉「のあさん、こっち」
のあ「泉、お友達は」
泉「家に帰った。事情を話して、私は交番に。真奈美さんは?」
のあ「車にいるわ」
泉「車に行く前に、新情報。街頭ビジョンを乗っ取った方法がわかった」
のあ「本当に?」
泉「街頭ビジョンに映す映像が差し替えられてた。コンピュータがその時間だけロックされてた。あまり詳しい人がいなくて、止める方法に気が付かなかった」
のあ「止める方法?」
泉「電源コンセントを抜けば良い。さくらだったら出来たのに」
のあ「なるほど」
泉「インターネットだったのも原因、ローカル回線は敷居が高いのかな。外部アクセスで設定が変えられてたよ」
のあ「泉が調べたのかしら」
泉「さっき、ヘレンが来て教えてくれた。そこが警察車両の駐車場だから、偶々私を見つけたんだと思う」
のあ「相変わらず早いわね。目的は」
泉「外部アクセスの場所を突き止めること。わかったから、急行してる」
のあ「古澤頼子はいる見込みかしら」
泉「アジトの可能性はあるかな。それで、私もそのコンピュータのアクセスを許してもらって、調べてみたんだ。私のノートパソコンの、これ見て」
のあ「ある程度は知識があるけれど、説明してちょうだい」
29 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:54:24.93 ID:RS4SDFXO0
泉「ヘレンが追ってる外部アクセスはこれ。清路駅から車で5分くらいの場所、会社のドメインだよ。映像を差し替えたのは、このアクセス。それで、こっちは」
のあ「別のアクセス?」
泉「そう。色々経由して海外からアクセスしてる。こっちは凄いスマートだよ、ウィルスというか実行ファイルが1個だけ」
のあ「アクセスはいつ?」
泉「のあさんが動画見始めたくらいかな。こっちの人も街頭ビジョン見てたのかも」
のあ「何をしていたファイルなの?」
泉「私と一緒。外部アクセスのデータを集めて、発信元に送り返す」
のあ「目的は一緒、古澤頼子を追うこと」
泉「古澤頼子が言ってた、法を逸脱してる人殺しもあいつを追ってる……なんか犯人の呼び方ない?」
のあ「後で考えましょう」
泉「それと、最後に1つ。このフォルダとデータを残していった、音声データみたい」
のあ「音声データ?再生して」
泉「再生するね、私には理解不能だった」
のあ「……何かしら、これ」
泉「人の声なのか、ボーカロイドなのか判別できない」
のあ「目的もわからないわね」
泉「のあさん、ヘレンから通話。出て良い?」
のあ「いいわ」
ヘレン『泉、撮影された場所を見つけたわ。ディテクティブと合流したかしら』
泉「うん。変わるね」
のあ「ヘレン、そっちの様子は」
ヘレン『古澤頼子はいないわ。壊れたPCとビデオカメラ、それと』
のあ「それと……」
ヘレン『遺体が見つかったわ、新田巡査のものよ』
30 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:55:09.32 ID:RS4SDFXO0
15
清路警察署・ロビー
楓「忙しそうですね」
まゆ「のあさんはいるのでしょうか……」
片桐早苗「楓ちゃん!?どうしてここに!?」
片桐早苗
交通課所属。階級は巡査部長。慌ただしい署内の手伝いに駆り出されている。
楓「早苗さん、お久しぶりです」
早苗「そう言えば、遅いお正月休みだったわね。忙しいからまた後で!あー、どうして捜査資料がないのよ!」
まゆ「どうしたんですか……?」
早苗「さっき自首してきたの、傷害致死の容疑者が。こんなに忙しい時に来なくていいのに」
楓「目的が違います、罪の告白ではなく」
早苗「わかってる。身柄を保護されたいんでしょ、ダークヒーローから。島に帰る前に会いましょ!それじゃ!」
楓「わかりました。お気をつけて」
まゆ「ダークヒーロー……結果的に自首してきましたけど……」
楓「良い方法とは思えません」
まゆ「はい……のあさんが必死に探すのもわかります」
楓「まゆちゃん、留美さんのデスクに案内をお願いできますか?」
まゆ「留美さんのですか?」
楓「次に狙われる被害者がわかるかもしれません。留美さん、未解決事件の資料も保存していますから」
まゆ「はい、大丈夫ですよぉ」
楓「ありがとうございます」
まゆ「こちら、です」
31 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:56:07.12 ID:RS4SDFXO0
16
清路警察署・刑事一課和久井班室
まゆ「変わった様子は、ありませんね」
楓「そうですね。課長の教えでしょうか、整理整頓が行き届いています」
まゆ「ここが、新田巡査のデスク……キレイですね。机の上のものは全てしまうタイプなんですね」
楓「仕事は真面目なのでしょう。この犯行をするとは思えませんね」
まゆ「私も同感です……品行方正な人だって」
楓「それが目くらましだったのかもしれません……まゆちゃん、ちょっと来てください」
まゆ「何か見つかりましたか……?」
楓「ありません、この引き出しなのですが」
まゆ「確かに、空っぽですね……」
楓「留美さんは、保留した捜査資料をここに置いているんです」
まゆ「ない、ということは……」
楓「持って行った、ということ」
まゆ「楓さん、さっきの声聞こえましたか……?」
楓「新田巡査の遺体が見つかった……と」
まゆ「楓さん……まさか、そんな」
楓「のあさんに連絡を。私は、もう一度電話をかけ直します」
まゆ「のあさんは電話中……?真奈美さんは、出ました!真奈美さん、お伝えしたいことがあって!」
楓「電話に出んわ……どうして」
まゆ「楓さん、のあさん達は警察署に着いたそうです」
楓「ロビーで落ち合いましょう。直接話をする方が早いです」
32 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:56:35.82 ID:RS4SDFXO0
17
清路警察署・ロビー
泉「大忙しだね……ドラマみたい」
真奈美「こんなに慌てていることは、珍しいと思うが」
泉「もう夜だし、状況はわかるよ」
ドンデンガエシ……
のあ「公衆電話?もしもし、高峯よ」
留美『探偵さん、調子はどうかしら』
のあ「留美?何故、公衆電話からかけてくるの?」
留美『そろそろ、気づく時間だから』
のあ「何を……」
留美『驚いたわ。先手を取ろうと思えば、取れるのね。探偵高峯のあも刑事一課長柊志乃も出し抜ける』
真奈美「佐久間君から、電話だ。どうした?話、わかった、清路警察署のロビーにいる」
留美『ねぇ、探偵さん。正義のためにするべきこと、って何かしら』
のあ「待ちなさい、留美。あなたがすべきことは、そんなことではないわ」
留美『追ってこなくていいわ。終わったら、自首するから』
のあ「違うわ!それで、いいわけないでしょう!」
泉「わっ、大きな声を出すの初めて見た……」
真奈美「……」
のあ「今すぐにやめなさい、和久井留美!」
留美『自分のすべきことは自分で決めるわ』
のあ「留美!私は友人として……」
留美『安心して。これから増える死体は、古澤頼子くらいよ。ばいばい、探偵さん』
のあ「留美、留美!ああ、切れたわ!なんてことを!」
泉「……ごめん。何が起こったか、私でもわかった」
真奈美「私も、だ。のあ、落ち着け。お願いだ」
のあ「はぁ……」
まゆ「のあさん、楓さんからお話が」
楓「なにか、ありましたか」
真奈美「高垣君の話は言わなくても良い、わかってる」
のあ「私が、私達が疑えるわけないでしょう……留美」
33 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:57:45.53 ID:RS4SDFXO0
18
清路警察署・刑事一課和久井班室
のあ「……」
真奈美「のあ、コーヒーを淹れた。飲むか?」
のあ「ありがとう。そろそろ捜査会議が始まるかしら」
真奈美「そのようだ。落ち着いたか」
のあ「私はいつでも落ち着いているわ」
久美子「のあさん達、捜査資料を幾つか貰って来た」
楓「ありがとうございます」
まゆ「久美子さん、音葉さん……見つかりましたか」
久美子「まったく音沙汰なしで心配だわ。志希ちゃんが泉ちゃんに手伝ってもらって、探してるけれど」
のあ「久美子、私にも資料を」
久美子「どうぞ。真奈美さんもいるかしら」
真奈美「いただくよ」
まゆ「私は……遠慮します」
久美子「それがいいかもね、留美さん……本当に留美さんならだけど、相手に容赦なさすぎるわ」
のあ「留美が、それを決意したのなら……躊躇するとは思えない」
楓「……私も、同感です」
のあ「私が留美なら、決めたことは手早くやるわ」
まゆ「……」
久美子「のあさんが言うなら、そんな気がしてきた」
のあ「留美も古澤頼子も動きはない。今のうちに事件を振り返りましょう」
真奈美「賛成だ」
久美子「わかったわ」
34 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:58:47.53 ID:RS4SDFXO0
19
清路警察署・刑事一課和久井班室
楓「捜査会議の資料は時系列順、ですね」
久美子「ええ。遺体の死亡推定時刻から割り出してるわ」
真奈美「最初の遺体は……昨晩か」
のあ「殺害されたのは、20年前の殺人事件の容疑者」
久美子「死因は腹部を刺されたこと。眼底骨折は死亡する前ね」
楓「20年前の事件で見つかったご遺体も眼底骨折していました」
のあ「意趣返し……かしら」
まゆ「留美さんは……捜査していましたか」
真奈美「報告書によると、柊課長の更に上の代から引き継いでいるようだな」
楓「私も、この事件は知っています」
久美子「というか、のあさんは知ってる?」
のあ「事件そのものは知っているわ。捜査をしていたことについては知らない」
楓「志乃さんが課長になるので、留美さんが引き継いだのでしょうか」
のあ「そのようね。2年ほど前に新しい目撃証言が出て、詰めていたところ」
真奈美「明確な証拠品はなし、か」
久美子「部屋からも何も出なかったわ」
まゆ「留美さんが……勘違いした可能性は」
楓「冤罪ということでしょうか」
久美子「のあさん、どう思う?」
のあ「留美は、無実の人間は殺さないわ。せめて、それは信じたい」
楓「何らかの確証はあった、そう思います」
真奈美「骨折しているが、外傷は他にもあったのか?」
久美子「小さい傷が何個か。ゆすぶられた、首を軽く絞められた痕も」
まゆ「……」
のあ「脅迫で証言を引き出した」
久美子「そういうことみたい」
楓「知っていると思いますが……法的な効力がありません」
のあ「だから、自らの手で裁きを下した」
真奈美「自らの責任で……か」
35 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 20:59:32.76 ID:RS4SDFXO0
まゆ「それで……いいんでしょうか」
のあ「私はそうは思わない。留美が責任を背負う必要などないわ」
真奈美「発見したのは」
久美子「被害者が借りていたアパートの大家。玄関に置かれた牛乳を取っていないことを不審に思ったから訪ねたそうよ」
のあ「大家がほぼ唯一の会話をする相手、とのことね」
真奈美「身を隠すように生きて来たのか」
楓「これの文章は、なんでしょうか」
真奈美「電話の書き起こしか」
のあ「20年前の事件の遺族からの電話……感謝されてるわ」
まゆ「感謝……ですか」
久美子「事件が解決したのには変わらないわ、きっと」
のあ「次に行きましょう」
久美子「わかった。次は、連続婦女暴行事件の容疑者」
36 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 21:00:21.11 ID:RS4SDFXO0
まゆ「……婦女暴行」
のあ「大和巡査部長曰く、新田巡査が気にかけていた事件」
真奈美「捜査のかく乱が目的か?」
楓「そうだと思います。見つかった時点では、新田巡査の犯行だと思いましたから」
のあ「任意同行までは行ったけれど、証拠は出ずに釈放された。こちらも再調査が進んでいた」
久美子「遺体の状況は最悪。遺体は殴る蹴るによって酷く損傷。手足は壁に縄で固定されていた。特に、泌尿器気は生きていても使い物にならなかったでしょうね」
真奈美「これは……酷いな」
まゆ「まるで……怨みを晴らしているような」
のあ「遺体の傷がついたのは生前?」
久美子「半分は違う。死因は首を絞められたことによる窒息死、その時間がここ。それ以外の傷はつけられた時間が色々よ」
のあ「偽造の可能性もあるわね。既に暴行を受けていた可能性も」
久美子「真意のほどはわからないわ」
のあ「発見者はアプリで呼ばれた女性」
まゆ「アプリ……?」
真奈美「ゴホン。内容はともかく、呼び出したのは被害者か?」
久美子「被害者のケータイからよ。以前と同じ端末だった」
楓「端末は被害者のものでも、実際に操作したのは」
のあ「留美でしょうね。発見時刻も狙い通りだったのだから」
久美子「こっちもSNSで賛否両論なのね、殺人なのに」
まゆ「……」
のあ「次は……シスタークラリス」
久美子「死亡推定時刻は夕方。本当なら授業をしている時間ね」
まゆ「私が電話をした頃には……もう」
楓「そうだと思います。シスタークラリスは呼び出され、犯行現場へ」
のあ「留美の目撃情報が少ないわね……何故かしら」
久美子「それは理由があるの。説明する?」
のあ「後にしましょう」
久美子「わかった。シスターの死因は頭部損傷。側頭部を警棒で複数回殴打されたこと」
まゆ「後頭部の出血は……」
久美子「倒れた時に壁に打ち付けた怪我よ」
真奈美「つまり、事故ではなく」
久美子「明確に殺意があった」
37 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 21:01:00.63 ID:RS4SDFXO0
楓「凶器の警棒は新田巡査のものでしょうか」
久美子「その通り、確認したわ」
真奈美「報告書によると、新田巡査が拳銃と共に署を出たのは午前中だ」
のあ「休暇だったはずなのに、ね」
楓「留美さんと連絡を取っているのですね」
久美子「ええ、休暇中だから食事をどうかしら、という感じ」
真奈美「それなら、拳銃を持ち出すか?」
のあ「留美に気づかれていると悟ったから」
まゆ「そっか……留美さんだけ知ってたんですよね……」
真奈美「そういうことか、和久井警部補は渋谷凛の身の安全ではなく」
のあ「今日の計画を実行するために、情報を秘匿した。私にも」
楓「計画的だったのでしょうか」
のあ「それにしては、突然すぎる気がするわ」
まゆ「まゆも……そう思います」
のあ「一旦置いておきましょう。シスタークラリスの行為は知っているわ」
真奈美「ああ。罪に問えるようなものではない」
久美子「それなんだけど、山荘の事件以外にも秘密があるみたいよ」
まゆ「秘密……?」
真奈美「この報告書、本当か?」
のあ「水野翠の犯行についても知っていた?」
真奈美「井村雪菜、古澤頼子とおぼしき人物が教会に出入りしていたのか」
まゆ「シスタークラリス……そんな」
のあ「古澤頼子らを逆に利用していたのも確か」
楓「詳しくは存じませんが、留美さんが自らの判断で手を下した、ということでしょうか」
のあ「そういうこと……何か許せなかったのかしら、ね」
まゆ「……」
のあ「次は銃撃事件かしら」
真奈美「強盗殺人事件の容疑者か」
久美子「死因は銃殺。新田巡査の拳銃が使われてたわ」
楓「こちらは自室から犯行をほのめかす手紙が発見されていますね」
のあ「留美の犯行の形跡は」
久美子「なし。留美さんにかかれば、これぐらいは簡単ね」
楓「そのようにスキルを使う人では、なかったのですが」
のあ「私は信じられないわ、今も」
真奈美「同感だ。遺体が見つかった理由は」
38 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 21:01:59.48 ID:RS4SDFXO0
のあ「桐生つかさの事件がニュースに流れ、発砲音があったという通報が入った」
楓「警邏中の警察官が、路地裏で遺体を発見」
のあ「このタイミングまで折り込み済み」
真奈美「それで、やっと桐生つかさの事件か」
久美子「その順番」
楓「留美さん、事件の後に署に戻ってますか?」
久美子「戻ってるわ」
真奈美「休暇中だから、拳銃を携帯するために署に戻った」
のあ「志乃とも会話している。銃殺された遺体がもう1つ発見されたことで、大和巡査部長と合流せずに行方をくらませた」
真奈美「和久井警部補が仕事をしないとは思わないからな」
楓「趣味は仕事、ですから」
久美子「その際に科捜研に行ってるの。音葉ちゃんに接触しているなら、この時」
まゆ「音葉さんが……留美さんに協力している、のでしょうか」
久美子「違うわ!ちょっと不思議な変わった子だけど、殺人に協力するような子じゃないもの!」
のあ「久美子、深呼吸」
久美子「……ごめんなさい。何か事情があるはずよ」
まゆ「私も……ごめんなさい。音葉さんを、信じます」
久美子「ありがとう、まゆちゃん」
楓「最後は……新田巡査」
のあ「久美子、現場に行ってるのかしら」
久美子「行ってるわ。幾ら忙しかろうが、現場を見た方がいいもの」
のあ「話を聞かせてちょうだい」
39 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 21:02:52.88 ID:RS4SDFXO0
20
清路警察署・刑事一課和久井班室
楓「遺体が発見された場所は、どちらでしょうか」
久美子「輸入商社の倉庫。その一室」
真奈美「主な取引品は……画材か、古澤頼子らしいな」
のあ「管理システムとネットワーク環境がある」
久美子「そう。インターネット販売も順調みたい」
のあ「簡単にアクセス元がわかるわね」
楓「まるで、見つけられたいような」
真奈美「見つかることも想定済み、か」
のあ「遺体と現場の状況は」
久美子「死亡推定時刻は、古澤頼子が街頭ビジョンに映っていた頃よ」
楓「死因は、頭部を貫通した銃弾」
真奈美「新田巡査が署から持ち出したものだ」
のあ「自殺……ではないわね」
久美子「最初はそう思ったけれど、違うわ。別人に撃たれた後に、拳銃を持たされた」
のあ「PCとビデオカメラは破壊。データは復元できそうかしら」
久美子「やってるけど、難しいかも。相手が相手だし」
真奈美「室内は、何か液体が撒かれたのか?」
のあ「目に悪いわ。ペンキかしら」
久美子「その通り。倉庫にあった画材で痕跡が塗りつぶされてる」
まゆ「痕跡を消したのは……」
真奈美「古澤頼子か?」
のあ「写真を見る限りは違うわね。新田巡査の遺体にもペンキが付着している」
楓「留美さんが……消したのですか」
のあ「新田巡査が殺害された場所は」
久美子「発見場所と同じ。でも、最終的な死因が拳銃なだけなの。どういう状態だったかは、保障しかねるわ。例えば、既に昏睡状態であったとか」
まゆ「新田巡査は……留美さんに協力していた、のですか……?」
のあ「可能性はあるけれど」
真奈美「拳銃を無断で持ち出した人間が協力するだろうか。和久井警部補を警戒していたからこそだろう」
のあ「久美子、現場で見つかっていないものは」
40 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 21:03:23.51 ID:RS4SDFXO0
久美子「新田巡査の通信機器は見つかっていない。あと、なかったのは……そうそう、手錠が見つかっていない」
真奈美「手錠か。拳銃は倉庫に、警棒は屋上に」
のあ「身体を拘束するもの、もう1人いそうね」
まゆ「もう1人……ですか」
のあ「何らかの事件の容疑者。例えば……拉致監禁事件とか」
楓「調査する必要がありそうですね」
のあ「留美は、古澤頼子が現れたから、新田巡査の遺体発見場所と時間を変えた」
久美子「自分の犯行と分からせるため?いや、それにしてはおかしいような」
真奈美「目的は、なんだ?」
まゆ「留美さんの……目的」
楓「のあさん、留美さんは電話で何か仰っていましたか」
のあ「古澤頼子を、追っている。場所の意味を入れ替えた」
真奈美「新田巡査の遺体が見つかった場所、じゃない」
のあ「ええ。本当は、古澤頼子が街頭ビジョンを操作した場所」
まゆ「消したかったのは……」
のあ「古澤頼子を追跡させるための証拠」
楓「自分以外の情報秘匿と」
のあ「警察と私達の足止め」
久美子「ヘレンが憤っていた理由がわかったわ」
のあ「1人でケリをつけるつもりなのね、留美は」
真奈美「単独でどうやって探す?」
久美子「ヘレンが部下を何人か連れても見つからなくて」
まゆ「のあさんが悩んでも……見つからないのに」
のあ「留美が勝算もなく動きはしないわ」
楓「事件の核心に迫るには、犯人の立場で考えること」
のあ「留美についての資料もあるのよね」
久美子「ええ、たくさん」
のあ「確認しましょう」
41 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 21:04:50.90 ID:RS4SDFXO0
21
清路警察署・刑事一課和久井班室
のあ「和久井留美。清路警察署刑事一課所属。階級は警部補。和久井班班長で、部下に大和亜季巡査部長と新田美波巡査」
真奈美「出身は広島県。大学進学を機に上京、学部は経済学部」
楓「簿記と秘書検定を持っているんですね、知りませんでした」
久美子「卒業と関係ない法学の講義を4年生時に受講。警察官になるから受けたのかしら、学生時代から真面目ね」
のあ「大学卒業後、警察官に。警察学校、交番勤務を経て、清路警察署刑事一課に配属」
久美子「のあさん、留美さんと知り合いになったのは何時頃?」
のあ「留美とは、刑事になった頃に志乃に会わされた。志乃は以前から知り合いだったわ」
楓「刑事一課に来るのが早いですね」
のあ「志乃が警察学校時代から目をつけていた、と言っていたわ」
真奈美「今日までは、柊課長の目論見通りだった」
のあ「そうね。趣味は仕事。トレーニングと勉強も欠かさない」
真奈美「柔道、空手、剣道、少林寺拳法、薙刀は段位持ち」
まゆ「凄いですね……」
のあ「左利きであることを活かすから、経験者でも苦戦するわ」
真奈美「他に護身術、逮捕術に精通。刺又、警棒、拳銃も扱える」
楓「最近は銃撃のトレーニングを続けていた、とあります」
真奈美「署内のコンテストで2位。現場での発砲経験もある」
まゆ「鷹富士神社の時……ですね」
のあ「その以前にもあるわ。適切な利用が認められて、処分等はなし」
楓「警官の発砲はよほどのことがなければ、このような処分にはなりません」
のあ「身長168cm、体重は49kg。警察官になった時の記録だから、もう少し筋肉で体重を増やしているかしら」
真奈美「ここまで武道に精通していたら、一般男性だったら歯が立たないな。体格も成人男性の平均に近い」
久美子「そうでしょうね。刑事一課の男性刑事でも一目置くくらいだし」
楓「拳銃携帯の新田巡査で、敵う相手ですか」
のあ「無理よ。亜季でも難しいわ。女性警察官で相手になるとしたら、志乃くらいよ」
真奈美「和久井警部補の師匠だものな」
のあ「そう、柊志乃の部下だった」
42 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 21:06:02.33 ID:RS4SDFXO0
楓「柊志乃の部下、という肩書はそれだけで名声ですから」
のあ「名声というより、畏怖の対象」
まゆ「そんなに……?」
久美子「実際のところ、本当ね」
のあ「柊志乃とコンビを組んで、順調に出世。昨年、階級は警部補に。試験の成績は受験者でも上位だった」
まゆ「文武両道ですね」
のあ「文が優れた人間が武を身に付けたら、こうなるのよ」
真奈美「表彰関連も凄い数だな」
楓「昨年、署長賞を獲得していますね」
のあ「未解決だった殺人事件を解決。一審は懲役10年の判決、控訴中」
久美子「こう見ると、傾向が分かるわね。2つある」
のあ「ええ。事件発生から迅速な対応と」
真奈美「初動捜査で解決しなかった事件でも成果をあげてる」
のあ「清路市に1年間犯罪が起こらなくても、留美の評価は上がりそうね」
楓「書類作成も上手です。私は、後回しにしてしまうので」
のあ「留美はこびへつらうことだけは苦手よ。でも、上層部の扱いが上手い上司がいれば良いだけ」
真奈美「いるな」
久美子「志乃さんの手法は真似できないわ、上手過ぎる」
まゆ「えっと……やっぱり」
のあ「やっぱり、なにかしら」
まゆ「未解決事件の容疑者を、留美さんは知ってた」
のあ「ええ、留美には難しいことではないわね」
真奈美「被害者、あるいは次のターゲットも絞り込めるな」
久美子「それが、最後のリスト」
楓「これは、なんでしょうか」
43 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 21:06:41.13 ID:RS4SDFXO0
久美子「志乃さんが作ってくれたリストよ」
のあ「志乃、容疑者の名前と住所記憶してるの?」
久美子「覚えてる分だけ……って、言ってたけど。普通は1人も覚えてないわよね」
のあ「志乃が課長になって1年ほど。留美が追っている事件は把握しているのは想像できたけれど、覚えているとは思わなかったわ」
真奈美「これだけあれば、充分だな」
のあ「ええ、被害者がいないか探せるわ」
久美子「もう指示は出ているはずよ。被害者は、今のところ、増えていない」
楓「……どうしましょうか」
真奈美「相手は、優秀な刑事だ」
のあ「それを最もわかっている人間は、私よ」
楓「更に、拳銃を持ち出しています」
真奈美「追っているのは古澤頼子だ」
楓「古澤頼子を手にかければ、自首するとも言っていました」
のあ「……」
まゆ「のあさん……どうしますか」
のあ「迷うことはないわ」
真奈美「聞かせてくれ」
のあ「友人と呼べる人物は、私にはほとんどいないわ。この事件を起こした理由が、見当もつかない。だけれど、道を踏み外したとしても、友人であることには変わりはないの」
楓「……」
のあ「だから、留美に次の事件は起こさせない。止めるわ、絶対に」
44 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 21:07:14.61 ID:RS4SDFXO0
真奈美「気持ちは一緒だ。のあの望む通りに」
まゆ「はい……のあさん」
真奈美「追うべき対象は」
のあ「和久井留美、古澤頼子、それと志乃のリスト。何を選ぶか」
久美子「のあさん、もう1人いるから」
のあ「もう1人?」
久美子「音葉ちゃん。多分、優先的に調べてくれないから、のあさんにお願いしたいの」
のあ「無事だと信じているけれど、久美子の意見に賛成よ。人命よりも優先することはないわ」
久美子「ありがとう!」
のあ「それと、留美を追えない理由があるとか言っていたけれど」
久美子「それもあわせて、科捜研で説明するわ」
のあ「わかったわ。楓とまゆにお願いを」
まゆ「なんでしょうか?」
のあ「夕食の準備を。私達だけでなく、署内全員分よ。費用は私が出すわ、飲み物や軽食の差し入れも十分に。いいかしら」
楓「わかりました」
真奈美「久しぶりに金持ちらしい強引さだな」
のあ「多くの人数を動かすのが解決には早いもの。真奈美にもお願いを」
真奈美「なんだ?」
のあ「留美と古澤頼子の情報も集めるなら、今よ。有益な情報に報奨金を、警備会社に人を出すように指示を」
真奈美「それでこそ、高峯のあだな。わかった」
のあ「久美子、科捜研に案内してちょうだい」
久美子「わかったわ」
のあ「はじめましょう。今日の夜はまだ、始まったばかりよ」
45 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 21:08:08.27 ID:RS4SDFXO0
22
清路警察署・科捜研
久美子「志希ちゃん、調子はどうかしら」
一ノ瀬志希「久美子ちゃん、音葉ちゃんがいなくて大変すぎる!」
一ノ瀬志希
科捜研所属。鼻が利くタイプ。、音葉がいなくなって、こう見えても慌ててるようだ。
久美子「仕方がないわ、一番肝心な人材がいないもの」
のあ「泉、協力してくれてありがとう」
泉「平気。志希さんと会うのも初めてじゃないしさ」
志希「そもそも、犯人の追跡が第一だから追跡システムに詳しい音葉ちゃんを科捜研に置いたのが失敗だったんだよ〜。志希ちゃんなら、誘拐されても何とかできるのに」
のあ「志希、もう1度言ってちょうだい」
志希「誘拐されても何とかできるのに?」
のあ「そっちじゃないわ」
志希「追跡システムに詳しい音葉ちゃんに待機してもらった……あ!」
久美子「まさか、音葉ちゃんを独りにするため?」
のあ「新田巡査を追わせた。幾つか事件を起こして、科捜研から人払いをした」
志希「そこまで計画してたか、留美にゃんを侮ってた」
のあ「久美子、留美を追えない理由は」
志希「それは、消えたから!」
のあ「消えた?」
志希「イズミーオ、説明よろ」
泉「あそこにある監視カメラの映像を出すよ、時刻は今日の夕方」
のあ「科捜研の入り口ね」
泉「早回しするよ。5分くらい見て」
のあ「……」
泉「のあさん、何かわかった?」
のあ「何もわからないわ。人の出入りもない」
久美子「留美さんが出入りしたのは、この時間よ」
のあ「映像が、差し替えられている」
志希「そういうこと!追跡システムを悪用してる!」
久美子「この科捜研は、多くの監視カメラにアクセスできるわ」
志希「それで、特定の人物を追跡するシステムもある」
泉「そのシステムを使って、対象が映っていたカメラの映像を前後の動画で差し替える」
久美子「対象は、もちろん留美さんよ」
志希「あと、車両追跡システムも」
のあ「でも、改竄の痕跡はわかるでしょう」
46 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 21:08:49.46 ID:RS4SDFXO0
久美子「映像を見ればできるわ。でも、どこのカメラのどの時間の映像か特定できない」
志希「全部見てらんないから、追跡システムがあるんだよ」
泉「データ改竄の痕跡は警察には送られない。監視カメラ全部の動作チェックをするわけにもいかないし」
志希「したところで意味がない。留美ちゃんのこれまでは推測できるわけだし」
のあ「見つかるまでの時間稼ぎ。消えてるのは留美だけ?」
泉「おそらく。この気持ち悪いコードを見る限りは」
志希「あー、音葉ちゃんのコードはね。音葉ちゃんのコードは人類の論理学では計り知れないからねぇ」
泉「これで流れるように動くのが不思議……いわゆるスパゲッティコードだし」
志希「イズミーオ、逆コンパイルした?」
泉「え?したけど」
志希「音葉ちゃん、コンピュータ言語で書けるから。楽器と同じ要領で、何種類か」
泉「は?ありえない、天才?」
久美子「色々と天才だったわ、昔から。浮世離れしているから、芸術畑でしか生きられないと思ってた。でも、音葉ちゃんは勉強して、組織の一員として働いてる。奇跡的よ」
泉「昔からの知り合いなんだ」
久美子「そうよ、だから助けたいの。留美さんは、そんなことしないと、信じてるけれど」
志希「久美子ちゃん、音葉ちゃん大好きだよね〜。志希ちゃん、ジェラシー」
久美子「志希ちゃん?志希ちゃんを休職扱いにするのにどれだけ頭下げたかわかってる!?慣れない英語で片っ端から研究機関に電話かけて探したのも知ってるでしょ!?」
泉「あ、意外な琴線。一重美人が凄むとカッコイイよね」
のあ「泉は冷静ね」
泉「殺意を向けられてるわけじゃないから」
のあ「まぁ、上司に立てつく時はもっと凄いらしいわよ」
泉「そっちは見たくない。社会人の大変さはまだ知らなくていいや」
志希「久美子ちゃん、ステイステイ!オルゴール!」
久美子「オルゴール……そうね、オルゴール」
のあ「良い音ね。どうしたのかしら」
志希「音葉ちゃんからの誕生日プレゼント。思考リセットに使う。イズミーオも使うといいよ、煮詰まったけど詰まりたくない時に」
泉「なるほど、音葉さんに選んでもらおうかな。綺麗な音」
のあ「事件が解決したら、ね」
47 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 21:09:46.56 ID:RS4SDFXO0
久美子「無駄なことに逆上したわ。ごめんなさい」
のあ「久美子、今していることは」
久美子「音葉ちゃんの追跡妨害ウィルスを消そうとしてる」
泉「志希さんと一緒にやってるけど……」
志希「ヤバイ。消したらすぐに復活する」
泉「のあさんは知ってると思うけど、謎の音声ファイルが幾つか。失敗した代わりに手に入る」
のあ「音声ファイル?泉、再生できるかしら」
泉「再生できるよ。はい」
久美子「……何これ?音葉ちゃんの声のような……違うような」
のあ「志希、聞き覚えは」
志希「ある!音葉ちゃんが趣味で作ってる人工言語だ!」
泉「趣味で言語作れるんだ……」
志希「こだわってるのは人類未踏の発音だから、ルールは簡単だよ。音葉ちゃんの家のパソコンにデータが、あったあった!」
久美子「音葉ちゃんからのメッセージ?」
志希「ルールは簡単!最初の3音が重要なんだ〜。イズミーオ、もう1回。ゆっくりめで」
泉「わかった……どうかな」
志希「1音目は日本語か英語の選択、2音目は単語の数、3音目以降は動詞・名詞・形容詞とかの分類、2足す2音目の数字を足したそれからはアルファベットか音葉ちゃんが作った単語帳から引けばいい」
のあ「この音声ファイルの意味は」
志希「イズミーン、音葉ちゃんのデータ一覧送ったからプログラミングしてみて」
泉「わかった。やってみる。うん、これは人間でもわかる表だ。音声サンプルもあるし、出来そう」
志希「それで、この意味だけど〜。日本語、1、名詞、ビー、ユー、ジェイ、アイ」
のあ「ブジと読む日本語の単語。無事」
久美子「無事……本当ならいいんだけど」
志希「他のも再生してみて」
泉「これとか、街頭ビジョンを乗っ取る時に入ってたやつ」
久美子「ごめん、聞き取れない」
のあ「流石の私もルールが分からないと難しいわ」
志希「無事、空き家、移動、終わり」
のあ「まだ留美と一緒に行動していた」
泉「最近の方がいいかな、これは」
志希「英語、8、数字、数字、数字、記号、数字、数字、数字、数字」
のあ「数字は後で良いわ。郵便番号よ」
泉「出来た!データベース化してあったから、簡単だった。ありがとう、音葉さん」
志希「さすっが〜。出して出して」
48 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 21:10:42.13 ID:RS4SDFXO0
泉「うん。古い順から出すね」
久美子「無事、移動がほとんどね」
のあ「郵便番号らしき数字、住所らしき数字、謎のアルファベット3つは頭文字かしらね」
志希「アドレスが1個ある。どこにつながった?」
泉「共有フォルダみたい、パスワードが掛かってる」
のあ「パスワードらしき文字列もあるわ」
泉「これか、開いた!謎のコードファイルがあるけど、どうする?」
のあ「久美子、どうするの」
久美子「音葉ちゃんが作ったものなら、使って。ウィルスのワクチンだと思うから」
泉「消えた、意味不明なコードが意味不明なコードで……とにかく、これからは追跡も出来るはず」
志希「最後は、おやすみなさい?」
久美子「音葉ちゃんがいる場所を知らせてる!のあさん、行きましょ!」
のあ「待って。付近の監視カメラは」
志希「これが近いかな、路上の監視カメラ」
泉「2ヶ所改竄の形跡がある」
志希「2ヶ所ということは?」
のあ「入る時と出た時。留美はいないわ。久美子、車を出してちょうだい」
49 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 21:11:19.97 ID:RS4SDFXO0
23
清路市内・某廃屋
のあ「この扉、内カギよ」
久美子「内カギの部屋なんて何に使うのよ」
のあ「そうね、折檻とか。窓もないみたいだもの」
久美子「このご時世に、そんな部屋を?」
のあ「だから、廃屋になったのでしょう。誰にでも使いやすいわ。開けるわよ」
久美子「ええ、準備はいいわ」
のあ「音葉!」
久美子「音葉ちゃん!」
梅木音葉「……すぅすぅ」
梅木音葉
科捜研所属。耳が利くタイプだが、眠りは深いらしい。自分の腕を枕にして眠っている。
のあ「おやすみなさい、って……そのままの意味なのね」
久美子「音葉ちゃん、起きて」
音葉「あ、久美子さん……おはようございます」
50 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 21:12:29.72 ID:RS4SDFXO0
久美子「なんでそんなに余裕なのよ……調子は大丈夫?」
音葉「よく眠ったのでスッキリしました……音声データを解析しましたか……?」
のあ「そうよ。志希がいてくれて助かったわ」
音葉「さすが志希さんです……留美さんは見つかりましたか……」
のあ「いいえ」
音葉「そうですか……」
久美子「留美さんに協力したの?」
音葉「私の意思では……拳銃を突きつけられるのは……生きた心地がしませんね」
のあ「脅迫された、ということ。久美子、まずは安心していいわ」
久美子「はー、とりあえず、一安心。無事で本当に良かったわ」
のあ「留美に命令されたことは」
音葉「追跡システムを改竄しました……」
久美子「そっちは音葉ちゃんの音声データで何とかなった」
音葉「車両追跡システムはまだです……自分で修正します」
のあ「街頭ビジョンは」
音葉「急遽……発信元を突き止めて欲しいと」
のあ「留美は一緒にいたのかしら」
音葉「はい……ここで留美さんに情報を渡しました」
のあ「閉じ込められたのは」
音葉「その時です……電子機器も取り上げられてしまいました」
のあ「新田巡査は」
音葉「新田巡査ですか……いませんでした」
久美子「同行していない?」
音葉「新田巡査に……何かありましたか?」
のあ「詳しい話は後にしましょう」
久美子「音葉ちゃん、1つ聞いていい?」
音葉「なんでしょう……?」
久美子「どうして、寝てたの?」
音葉「やることはありませんし……ここで眠れば捜査に復帰しやすいですから」
のあ「……久美子の部下は元気ね」
音葉「今日の夜は長そうだったので……科捜研に戻りましょうか。やることがあるので」
のあ「結果的に戦力が確保できたわ。留美を追いましょう」
久美子「私も同感。色々悩んでたのもこれでお終い。帰りましょ」
51 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 21:13:29.45 ID:RS4SDFXO0
24
清路警察署・科捜研
まゆ「音葉さん!おかえりなさい、ご無事ですか」
音葉「はい……この通り平気です」
久美子「帰りの運転もしてもらったわ。元気いっぱい」
志希「音葉ちゃん、心配したよ〜。失踪はダメ」
音葉「すみません……志希さん」
のあ「志希が言うと説得力がないわね」
まゆ「皆さんに差し入れです、どうぞ」
久美子「これ、あそこの高級中華じゃない」
まゆ「はい、警察とのあさんの名前を出したらサービスしてくださいましたぁ」
志希「凄い美味しい。ね、イズミーオ」
泉「うん、フカヒレの姿煮食べちゃった……家族にはヒミツにしよう」
まゆ「音葉さんもどうぞ。お飲み物もたくさんあります」
音葉「ありがとうございます……私は車両追跡システムの修正を」
久美子「お願い。志希ちゃん、古澤頼子か留美さんは見つかった?」
志希「ぜんぜんだよー。街中の監視カメラの位置把握してるのかも〜」
久美子「清路市内は監視カメラ王国というわけではないものね、穴は幾らでもある」
泉「そうだ、のあさん。これ見て欲しいんだ」
のあ「いいわ。何かのウェブサイトかしら」
泉「今日の正午に立ち上がった掲示板。読むのも書き込むのもフリー」
のあ「内容は……フム」
泉「留美さんに見つけてもらいたいように、目撃情報を書くのが目的」
のあ「私が真奈美に指示したのとは無関係ね」
泉「不正確な情報も多いし、時間と場所を整理しても行動すらわかんない」
志希「イズミーオに勝手にデータを集めるアルゴリズムは作ってもらったから、そっちを見るといいよ」
泉「まとめたのはこっち。清路市の地図を背景にしておいた」
のあ「やたらに多い場所があるけれど、これは市立美術館ね」
志希「前に働いてたんでしょ?」
のあ「その通りよ。泉、複数回アクセスしている端末とか特定できるかしら」
泉「やってみたけど、刑事さんの端末までは辿り付けなかった」
のあ「しかし、留美の目的はわかった。泉、お手柄よ」
泉「目的?」
52 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 21:14:36.60 ID:RS4SDFXO0
のあ「監視カメラに映らないなら、人を使えばいいの」
志希「なるほど、そういうことか〜」
のあ「協力者を殺害して、古澤頼子の行動にも制限をかけてる。異常に荒っぽいけれど」
泉「でも、この情報だと追いきれないと思うよ?」
のあ「いいえ。彼女は知ってるわ、私達の知りえないことを。久美子、聞いてるかしら?」
久美子「聞こえてる。新田巡査の殺害現場から、何か情報を得た」
のあ「そういうことよ」
泉「なるほど」
のあ「まゆ、ちょっと来てちょうだい」
まゆ「はぁい、ただいま。のあさん、どうしましたか」
のあ「泉、助かったわ。でも、時間が時間よ。中学生をこれ以上残すわけにはいかないわ」
泉「私は大丈夫だけど」
のあ「あなたは大丈夫でも、家族と友人が心配するわ。送るから帰りなさい」
泉「わかった。何かあったら、連絡して」
のあ「ええ。念のため、独りにはならないように」
泉「うん。明日の朝は、さくらと亜子に迎えに来てもらおう」
のあ「まゆもお疲れ様。明日も学校でしょうから、戻ってちょうだい」
まゆ「ここにいたいですけど……のあさんが言うなら、そうします」
のあ「高垣楓に送ってもらいましょう。どこにいるかしら」
まゆ「ロビーにいたと思います」
のあ「泉、帰り支度をしたらロビーに来てちょうだい」
53 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 21:15:24.59 ID:RS4SDFXO0
25
清路警察署・ロビー
まゆ「楓さん……お疲れ様です」
のあ「頼みたいことがあるのだけれど」
楓「なんでしょう?」
のあ「まゆと泉を送ってちょうだい」
楓「かしこまりました。中華と和食、ご馳走様です」
のあ「和食もあるのね。あなた、意外と大胆で遠慮がないのね」
楓「のあさんをご存じで、大きな厨房があるところを選んだんですよ。費用は、のあさんのお気持ちで」
のあ「安く仕入れるつもりはないわ。良い判断よ、楓」
楓「ありがとうございます」
のあ「もう1つ、お願いしていいかしら」
楓「どうぞ」
のあ「まゆと一緒に事務所にいてちょうだい。まゆ、客室は使えるわよね?」
まゆ「もちろん、いつもピカピカにしてありますよぉ」
のあ「好きに使っていいわ。留美にも馴染みが深い場所よ、まゆと一緒に守ってくれないかしら」
楓「……わかりました」
のあ「ちょっと間があったわね。何か、懸念していることでもあるのかしら」
楓「残りたい気持ちもありますが、帰ります。ひとつ、気になっていることがあって」
のあ「聞くわ」
楓「やっぱり、留美さんがこんなことをするとは思えません」
のあ「それは、同感だけれど」
楓「何か……大きな理由があるような気がして」
のあ「……」
楓「強くて曲がることのない留美さんが……折れてしまうような理由」
まゆ「……」
のあ「楓、私も思っていたわ。何か、見逃しているような」
泉「のあさん、準備できた」
のあ「楓、頼むわ。あなたの疑問も解決するわ、必ず」
楓「わかりました。まゆちゃん、泉ちゃん、行きましょうか」
のあ「……さて、真奈美でも探そうかしら」
54 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 21:16:37.79 ID:RS4SDFXO0
26
清路警察署・少年課
のあ「真奈美、お疲れ様」
真奈美「のあ、音葉君が無事に見つかったようで何よりだ」
仙崎恵磨「のあさん、お疲れ様!」
仙崎恵磨
清路警察署少年課所属。階級は巡査。バディは相馬夏美。夜でも元気だが、朝は弱いとのこと。
のあ「恵磨、応援かしら」
恵磨「勝手に来てみたから、手伝いを。本当は警邏の手伝いをしたいんだけどさー」
のあ「夏美が入院中だものね」
恵磨「そうなんだよ!夏美が単独行動で怪我したのに、独りで行けるわけないじゃん」
真奈美「夏美君の様子はどうだい?」
恵磨「手術も成功したから、警察病院のベッドで元気に暇してる」
のあ「大丈夫そうね」
恵磨「話し相手が必要そうだから、お見舞い行って。病気じゃないから、気を使わなくてもいいし」
のあ「そうするわ。真奈美はどうしてここに?」
真奈美「気になったことがあってな、仙崎君に情報を聞きに来た」
のあ「気になったこと?」
真奈美「古澤頼子が言っていた協力者は4人と言った。だが、1人足りない」
のあ「新田巡査、桐生つかさ、シスタークラリス……そうね、1人いないわ」
恵磨「桐生つかさ、って女子高生社長でしょ。少年課で関係しそうな人を調べてみたけど、うーん、いない」
のあ「夏美には聞いたかしら」
恵磨「聞いた。思い当たるような子はいない、桐生つかさの会社は見に行ったこともあるけど真っ当で安心した、って」
のあ「会社は真っ当でも、裏があったわけね」
恵磨「そこは夏美でもわからないよね。また自分を責めてそうだから、言っとく」
のあ「そうしてちょうだい」
真奈美「のあ、何か心当たりはあるか」
のあ「心当たり……思い出したわ」
真奈美「あるのか?」
のあ「思い出したというよりは、すっかり忘れていたわ。渋谷凛がいるじゃない、会いに行きましょう」
55 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 21:17:25.79 ID:RS4SDFXO0
27
清路警察署・留置場
のあ「あれ、友紀がいるのね。こんな時に捕まったの?お酒は適量に、と言ったでしょう」
友紀「ちがーう!凛ちゃんの警護、礼子署長からご指名で」
のあ「格子の中にいるから、てっきり」
友紀「それに、捕まるほど飲まないよ。のあさんの差し入れが美味しくて、ビールが欲しいけどさー」
凛「ずっとこんな感じなんだけど……本当に優秀なの?」
のあ「私が思うに優秀よ。真奈美、どう思うかしら」
真奈美「市長から表彰も受けてる。実力は柊課長が目をつけるほどだ」
凛「その話も本当なんだ」
友紀「親しみやすい、ってことだよね」
凛「そういうことにしておく」
のあ「渋谷凛、事件については聞いてるかしら」
凛「あんまり、時々聞こえてくるけど。あの警部補が犯人だった、って」
友紀「あたしも聞いてない。考え事が増えると、任務に集中できないからねー」
真奈美「なるほど、そういう方法もあるのか。参考になるな」
のあ「古澤頼子の協力者について教えて欲しいの。いいかしら」
凛「いいけど……大丈夫なの?」
のあ「友紀、大丈夫かしら」
友紀「オッケー、任せてよ!」
のあ「留美は、あなたの安全を第一に考えて情報を秘匿したわけじゃないわ」
真奈美「今日の事件で、のあや古澤頼子に先手を取るためだ」
凛「それなら、誰これ構わず言うべきだった、ってこと?」
のあ「一番信頼している人物に裏切られたのは、私も同じ」
真奈美「正しい判断は難しいよ」
友紀「よくわかんないけどさ、身を守るのが一番でいいと思うよ」
凛「……そっか」
のあ「協力者を教えて。桐生つかさ、シスタークラリス、新田美波の他に知っている人物を」
凛「全部知ってるわけじゃないよ。古澤頼子しか知らない人物もいるはず」
のあ「それでもいいわ。候補者は」
56 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 21:18:11.42 ID:RS4SDFXO0
凛「小室千奈美はどうかな」
真奈美「確認してる。無事だ」
のあ「もしかして、小室千奈美に接触したのはあなたなの?」
凛「そうだけど」
のあ「これまで聞いた、小室千奈美の証言と一致するわね」
凛「途中まで協力的だったけど、手を引いた。頼子も何も言わなかったから、そのまま」
のあ「それで安心したわ。他には」
凛「吉岡沙紀と小松伊吹は?壁にサインを描いたりしてた」
真奈美「その2人も大丈夫だ。完全に足を洗ってる」
凛「あとは……真鍋いつき、は?」
真奈美「真鍋いつき?」
のあ「パルクールの先生ね」
真奈美「彼女、古澤頼子に協力していたのか?」
凛「1回パルクールを習っただけ。根が正直そうだから、頼子もそれっきりで会ってないはず」
真奈美「一応確認しておこう」
のあ「他には」
凛「そんな所だけど……あ、探偵さんを誘拐した時にいた」
のあ「あなた、私の誘拐にも関わってるの?」
凛「車に載せただけ。運転は詩織、主犯は『化粧師』、それともう1人。保険だって、言ってた」
真奈美「保険?」
凛「失敗しそうな時に使う、って」
のあ「誰かしら」
凛「名前は、ちょっと待って思い出すから。探偵さんの知り合いだよ、多分」
のあ「私の知り合い?」
57 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/05/18(月) 21:18:50.17 ID:RS4SDFXO0
真奈美「心当たりはあるか?」
のあ「ないわ。友人の少なさには自信を持ってるもの」
凛「名前と苗字があわさると、不思議な響きになるんだよね。気の弱そうなOLで……思い出した」
のあ「名前は」
凛「三船美優。『化粧師』が呼んで来て、誘拐の時に初めて会った」
のあ「三船……美優?」
凛「うん。頼子の協力者にしては、なんか冴えない感じだったよ」
のあ「写真を確認してちょうだい。彼女かしら」
凛「そう、この人。知り合い?」
のあ「真奈美、瀬名詩織にも確認してきて」
真奈美「わかった。聞いてくる」
凛「向こうにいるから」
のあ「鷹富士神社の近くで会ったのも、みくにゃんのライブ会場で会ったのも、先日会ったのも……警察官になることを留美に勧めたのも、偶然じゃない」
凛「この人、どういう人なの?」
のあ「留美の友人よ……大切な、とても大切な友人だった」
真奈美「確認が取れた、やはり三船美優だ」
のあ「真奈美、三船美優を探しましょう。今すぐに」
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