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渋谷凛「高峯のあの事件簿・星とアネモネ」
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159 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:07:27.52 ID:HFCwBUJw0
94
CGプロ合同ライブ・開場後
濡碧寺公園・オープンステージ・舞台裏
神谷奈緒「よし、自信持てた!真奈美さん、ありがと!」
神谷奈緒
CGプロ所属のアイドル。担当プロデューサーの趣味でゴシックロリータを着る仕事が増えているとかいないとか。
真奈美「どういたしまして。本番は期待してるよ」
奈緒「流れに乗って、やってみる!」
真奈美「心配なさそうだな。おや、島村君」
卯月「あ、真奈美さん。お疲れ様です」
真奈美「開場したみたいだな。様子を見て来たのかい?」
卯月「はいっ。続々とお客さんが入ってきてました」
真奈美「完全ソールドアウトだからな。島村君の晴れ舞台なら、もっと大きい会場が良かったとすら思えるよ」
卯月「いえ!私だけの力じゃないですから」
真奈美「そう言えるのが島村君の良い所だな」
卯月「真奈美さんも、力を貸してくださいっ!はい、タッチ!」
真奈美「タッチ。もしかして、全員とやってるのか?」
卯月「全員のつもりで!だって、皆のステージですからっ」
真奈美「そうだな、良いステージにしよう!」
卯月「はいっ!」
160 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:09:15.92 ID:HFCwBUJw0
95
濡碧寺公園・オープンステージ・入場口付近
成宮由愛「人がたくさん……」
成宮由愛
画家として注目を集める中学生。市立美術館で行われた個展の評価は高かった。まゆとは東郷邸で一時期共に暮らしていた。
まゆ「こんなに広い会場なんですねぇ」
由愛「はじめて来たから……」
まゆ「ライブは初めてですか?」
由愛「うん……ママと行ったクラシックのコンサートとか保奈美ちゃんの舞台くらいしか……」
まゆ「ふふっ、実は私もです。一緒ですねぇ」
由愛「うん……」
まゆ「あの……お母さんから反対されませんでしたか」
由愛「まゆちゃんとだから……許してもらいました」
まゆ「ありがとう……由愛ちゃん」
由愛「あ……まゆちゃん、見てください」
まゆ「大きなポスターですね、瑛梨華ちゃんもいます」
由愛「まゆちゃん……写真を」
まゆ「はい、一緒に写真を撮りましょう。瑛梨華ちゃんのポスターの前で」
由愛「うん……」
まゆ「すみません……写真をお願いしてもいいですか?」
161 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:09:50.11 ID:HFCwBUJw0
96
濡碧寺公園・オープンステージ・入場口付近
由愛「無駄遣いしちゃった……かな」
まゆ「してないと思いますよぉ。のあさんと比べたら……比べたらいけませんね」
由愛「パンフレットのデザインも素敵で……衣装も綺麗で、つい……」
まゆ「うふふっ、アイドルさんは凄いですねぇ」
由愛「あと……写真」
まゆ「由愛ちゃん、写真にも興味があるんですかぁ?」
由愛「うん……こんなに変わるんだって」
まゆ「真奈美さんに聞いてみましょうか、プロのカメラマンさんを紹介してくれるかも」
由愛「えっと……その」
まゆ「その……?」
由愛「一緒に写真を撮れたらって……みんなで」
まゆ「はい……きっと、いつか」
由愛「まゆちゃん……時間は……?」
まゆ「大丈夫ですよぉ。慌てないように、早めに席に行きましょうか」
162 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:10:45.09 ID:HFCwBUJw0
97
高峯探偵事務所
のあ「そろそろ開演ね」
志保「真奈美さんもまゆちゃんもライブに行ってるんですよね」
のあ「何故、私と志保がお茶をしているのか。そう、チケットがないからよ」
志保「知ってます。まぁまぁ、休憩中の美人店員が宅配してくれて一緒にお茶をしてくれるんですよ、喜んでください!」
のあ「美人店員を自称するのはどうかしら?」
志保「のあさんはいつも自分のことを美人探偵って言ってませんか?」
のあ「事実だもの。それで、試作品のパフェだけれど」
志保「どうでした?」
のあ「青いパフェは季節感がないわ。大豆味はトレーニングしている気分に」
志保「もうひとつは?」
のあ「山椒と胡椒の効いたクリームは厳しいわ、流石の私でも」
志保「やっぱり。マスターにはお出しできませんね」
のあ「やっぱり、と言うものを出さないで欲しいのだけれど」
志保「お客様のご意見が大切ですから」
のあ「お客様という言葉は免罪符ではないわ」
志保「それなら、反応が面白いから?」
のあ「家主をもう少し敬いなさい」
志保「のあさんなら、まさかマスターを追い出したりしないはずです!マスターの素晴らしさを知ってるのに!」
のあ「St.Vの2号店を出そうかしら。店長に任命してあげましょう、雪乃に意見を飲ませる自信はあるわ」
志保「申し訳ございませんでした。マスターと一緒に働けないと死んでしまいます。ご無礼をお許しください」
のあ「よろしい。お口直しは」
志保「はい、こっちの甘さ控えめジャムとマフィンを。ジャムはマスターのお知り合いが試供品をくださいました。秋田で農家も営んでいるそうです」
のあ「最初からそっちが良かったわ」
志保「紅茶にいれてもいいみたいですよ。新しいものを淹れますね」
163 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:12:02.92 ID:HFCwBUJw0
98
濡碧寺公園・オープンステージ・関係者席
凛「ぎりぎりだったかな……座席は、ここか」
まゆ「あ……こんにちは。由愛ちゃんも」
由愛「こんにちは……」
凛「……どうも。帽子もメガネも、もういっか」
まゆ「誰かのお友達ですか……?」
凛「友達……そう、卯月の友達」
まゆ「卯月ちゃんですか?私、はにかみdaysが凄く好きなんですよぉ。それに、センターなんですよねぇ」
凛「……言ってた。家族が都合で来れなくなったから、代わりに」
由愛「卯月ちゃん……?」
まゆ「この子ですよ、カワイイ……です」
由愛「卯月ちゃんは……うん、淡いピンクの雰囲気……」
凛「そっちは、誰かの友達?」
まゆ「赤西瑛梨華ちゃんと下宿先が同じ屋敷だったんです、前は」
由愛「はい……ウチワも用意しました」
凛「屋敷?もしかして……」
まゆ「広いお屋敷だったんです、個室がいっぱいあって」
凛「ねぇ、アンタ」
まゆ「私、ですか……?」
凛「私のこと、見たことある?」
まゆ「ないと思いますよ……?」
凛「そっか、ぎりぎり会ってないのか。それじゃ、今日はよろしく」
まゆ「あの……」
凛「何?」
まゆ「よろしければ、これをどうぞ」
凛「……ネコミミ?」
まゆ「似合うと……思います」
由愛「とっても似合いそう……」
まゆ「ネコミミをつけてたら、みくちゃんもきっと喜びますよっ。あっ、サイリウムもあるので、なかったらお貸ししますよぉ」
凛「本当に赤西瑛梨華の知り合いなんだよね、アイドルオタクじゃなくて?」
164 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:14:17.26 ID:HFCwBUJw0
99
19:10頃
高峯探偵事務所
ニャンドゥトロワ!
のあ「……まゆから電話?まだライブ中のはずだけれど。休憩挟んで5時間とはよくやるわね」
のあ「まゆ、どうしたのかしら。ライブは終わったの?」
まゆ『の、のあさん、聞いてください……それと、早く来て欲しくて』
のあ「まゆ、慌てているようだけれど落ち着いて」
まゆ『卯月ちゃんが……』
のあ「島村卯月に何かあったのかしら?」
まゆ『弓矢で撃たれて……亡くなりました……』
のあ「……は?」
165 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:15:21.20 ID:HFCwBUJw0
100
幕間・古澤頼子から渋谷凛へのボイスメール
渋谷凛さん、こんばんは。
星は見えましたか?
星とは道標。冒険の海を越え、新たな島へと向かう航路を示します。
しかし、星は遠くありませんか。
あなたに手を差し伸べ、寄り添い、安寧を与え、囁いたのは星でしょうか。
いいえ。
あなたの居場所は、名前のない闇の中。
星の光を遮る、厚い屋根の下。
せっかく、導いてあげましたのに。
誰でもない、自由の闇。
星明かりが窓から漏れていましたか。
想像しました、か?
もしも、星の明かりに導かれていたら。
もしも、桜の花を一緒に見たのなら。
もしも、渋谷凛のままでいたのなら。
想像は自由です。あり得ないことを想像することで人は癒されるのですから。
そう、あり得ないこと。
渋谷凛さん、あなたはこちら側です。
ずっと、最初から。
出会いによって、変わるとでも?
幾多の可能性があるとでも?
名前のない幽霊、素晴らしいですよ。素晴らしいと思っていなかったのですか。
せっかく手に入れたのに。
どうして、渋谷凛さんに戻ってしまったのですか?
私は幽霊のあなたが好きだったのに。
表舞台に出てこない、あなたが。
それなのに。
これでは、まるでヒロインではありませんか。
ズルい人。
羨ましいし、妬ましい。
なので、渋谷凛さん?
ここで物語は終わりです。
人の情動が揺れ動くクライマックスを見るのはキライではありませんから。
そう、趣向。趣向が変わってきたのです。私とて、人間ですから。
渋谷凛として、罪悪感という下らないモノに苛まれていればいいのですよ。
そうして、この舞台から降りるのです。
スポットライトの要らない昼空では星は見えないのですから。
さようなら、渋谷凛さん。
幕間 了
166 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:17:00.62 ID:HFCwBUJw0
101
濡碧寺公園・オープンステージ・入場口付近
のあ「大騒ぎね。警察、いえ、警備員?やたらに多いわね……事件に関係なく増やしていたのかしら」
亜季「高峯殿!」
のあ「大和巡査部長、知り合いを見つけられてよかったわ」
亜季「警部補殿からお呼びでありますか?」
のあ「いいえ。まゆからよ、客席にいたの」
亜季「なんと」
のあ「真奈美はスタッフとして。2人の無事を確認したい。どこにいるかしら」
亜季「おそらく、舞台裏であります。入り口は開けております」
のあ「ありがとう」
亜季「ひとつ、ご質問を」
のあ「何かしら。ここまではタクシーで来たわ」
亜季「警部補殿と連絡が取れないであります」
のあ「あら、珍しいわね。映画でも見てるのでしょう、問題ないわ」
亜季「そうでありますか?」
のあ「刑事は1人じゃないわ。留美が来るまでに、やることをやれるだけ」
亜季「了解であります」
のあ「案内してちょうだい」
167 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:17:48.86 ID:HFCwBUJw0
102
濡碧公園・オープンステージ・舞台裏
のあ「真奈美!」
真奈美「のあ、待っていたぞ。ここまで、どうやってきた?」
のあ「タクシーで来たわ。真奈美と比べて遅いわね」
真奈美「手伝うぞ、何をする」
のあ「そうね、私からの最初のお願いは」
真奈美「なんだ?」
のあ「タクシーを待つ間に、志保にコーヒーの入った水筒と軽食を幾つか貰ったわ。まずは、これを受け取ること」
真奈美「受け取った」
のあ「コーヒーでも飲んで、休んでなさい」
真奈美「いや、私は大丈夫だ」
のあ「そんな表情初めて見たわ。教え子が亡くなって、ショックを受けている。いつもなら、ここまでに状況を簡潔に説明してくれる。違うかしら」
真奈美「いや……」
のあ「落ち着いていたら、まゆより連絡が遅れることはないでしょう」
真奈美「……そうだな」
のあ「他のスタッフもいるのだから、皆を落ち着かせつつ、話でも聞いていなさい」
真奈美「わかった。ありがとう、のあ」
のあ「元気を取り戻した頃に迎えに行くわ」
真奈美「ああ」
のあ「まゆは、どこかしら」
真奈美「控室Cだ」
168 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:18:51.68 ID:HFCwBUJw0
103
濡碧公園・オープンステージ・控室C
のあ「まゆ」
まゆ「のあさん」
のあ「大丈夫かしら」
まゆ「まゆは、大丈夫です」
のあ「真奈美より落ち着いてるわね、辛かったでしょう」
まゆ「いえ……もっと、大変な思いをしてる人がいるから……」
のあ「成宮由愛は」
まゆ「あそこで瑛梨華ちゃんと」
のあ「赤西瑛梨華に抱き付かれてるわね……成宮由愛、話を聞いていいかしら」
由愛「探偵さん……調査ですか」
のあ「ショック状態ではなさそうね。赤西瑛梨華は……」
瑛梨華「ごめんね、由愛ちゃん。また、こんなことになって、由愛ちゃんのママにまた叱られちゃうよ……」
のあ「こっちにケアが必要そうね。見ていたの、あれを」
由愛「……はい。音が終わって、皆が静止しました。卯月ちゃんはステージの真ん中でした。左右対称の美しいライティング、お客さんの歓声は波みたいで……ずっとずっと輝いていて。でも、左側に影が出来て……真っ赤な……歓声が悲鳴に代わって、真黒になりました。赤の補色……緑が通り過ぎて、消えました」
のあ「まゆ……成宮由愛は大丈夫かしら」
まゆ「たぶん……観察力は芸術家だから、だと思います」
のあ「信じるわ。赤西瑛梨華は」
瑛梨華「瑛梨華ちゃんは……全体曲だから」
まゆ「ステージの上です、卯月ちゃんから右に4人目でした」
瑛梨華「悲鳴が聞こえたのに、ぜんぜん……気づけなくて」
由愛「瑛梨華ちゃん……アイドルだった……お客さんの方、ずっと見てたから……」
瑛梨華「由愛ちゃん……ありがとう……ぎゅー」
由愛「私も……ぎゅー……」
のあ「2人はここで待っていて。警察には協力してあげてちょうだい」
由愛「わかりました……」
のあ「まゆ、手伝いをお願い」
まゆ「はい、のあさん」
のあ「同年代の子がいるのは承知のうえよ、事件の状況を聞くこと、それとまだ精神的に落ち着いていない子もいるでしょうから、面倒を見てあげて。先走った勉強をしているのは知っているから」
まゆ「あ……気づいてましたか」
のあ「まゆなら出来るわ。あなたには経験と優しさがあるもの」
まゆ「はい、わかりました」
169 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:19:57.73 ID:HFCwBUJw0
のあ「頼んだわ。私は現場を見てくるわ」
まゆ「現場を見たら、一度戻ってきてもらえますか」
のあ「いいけれど、なにか」
まゆ「会ってもらいたい人がいます……今は泣いているので、もう少し後で」
のあ「……わかったわ」
まゆ「あ、のあさん、後ろに人が」
のあ「失礼……あっ」
みく「お姉さん、警察の人?」
のあ「ごめんなさい、2秒待って」
みく「え?2秒?」
のあ「1、2、よし。探偵の高峯よ。こちらは助手の佐久間まゆ。真奈美がお世話になってるわ」
みく「真奈美さんが一緒に住んでる、探偵?」
のあ「そうよ」
みく「卯月チャンの……その……犯人見つけてくれる?」
のあ「もちろん。まゆに協力してくれるかしら、聞き込みを頼んでいるの」
みく「わかったにゃ!」
のあ「前川さんも無理をしないでちょうだい。仲間を失ったのだから」
みく「ううん、こういう時に元気づけるのがみくの仕事にゃ!」
のあ「はふぅ……素晴らしいわ」
まゆ「のあさん、漏らしちゃいけない声が漏れてます」
のあ「体は冷やさないように。現場に向かうわ」
まゆ「のあさん、がんばってください」
みく「……」
まゆ「前川さん、ご協力ありがとうございます。のあさんの元気が補充されました」
みく「みくでいいにゃ。迅速な捜査のためには、お安い御用にゃ」
まゆ「それじゃあ……みくちゃんが、のあさんを知ってるのは驚きました」
みく「あれだけ目立つ容姿で熱心なファンなら覚えるにゃ……真奈美チャンの知り合いだし」
まゆ「確かに……一目見たら忘れにくいですからねぇ」
みく「ファンサービスじゃなくて、卯月チャンのためは本当にゃ。みくは、まだ泣かない」
まゆ「……はい。行きましょう」
170 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:20:58.40 ID:HFCwBUJw0
104
濡碧公園・オープンステージ・舞台上
のあ「これは……阿鼻叫喚にもなるわね」
久美子「のあさん、お疲れ様」
のあ「久美子」
久美子「ほとんど見た通りだけれど、説明はいる?」
のあ「お願い」
久美子「被害者は島村卯月さん。弓矢は心臓を貫いていた、即死よ」
のあ「遺体は、何故このままなのかしら」
久美子「心臓を貫いた後、舞台の鉄鋼に突き刺さったから。鑑識が終わってないからじゃない」
のあ「弓矢はどこから」
久美子「ステージから見て右斜め、上から」
のあ「上から、舞台に突き刺さるほどの速度を持って?」
久美子「その通り。つまり、この会場内から弧を描くように放たれたわけじゃない」
のあ「それなら、どこから」
久美子「それは、そこの2人でがんばってる」
音葉「志希さん……屋根に当たった……やり直しましょう」
のあ「志希はどこに?」
久美子「科捜研で計算機と格闘中。撃ち出された場所を探してるわ」
のあ「ある程度絞り込めればいいわ」
久美子「今のところ、ビル100個くらいまで絞り込めたわ。公園内の建物と木は除いてね」
のあ「もう少し絞り込みが必要ね。矢そのものについては」
久美子「弓道とも最近の軍用とも違う。オーダーメイド、矢はもちろん、打ち出す方もそのはず」
のあ「これから追えるかしら」
久美子「難しいと思うけど、志希ちゃんに協力してもらうわ」
のあ「犯人は、水野翠なのかしら」
久美子「矢に指紋や証拠はついてなかった。私には、わからない」
のあ「……」
久美子「他にある?」
171 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:21:32.98 ID:HFCwBUJw0
のあ「射手は、視認できる場所にいなかったのよね」
久美子「十中八九、そうよ」
のあ「射手からも見えていない可能性は」
久美子「弧を描くように打ち出したなら、弓を放つ瞬間は見えてないんじゃないかしら」
のあ「矢が到達したタイミングは」
久美子「曲の終わりだったみたいよ、全体曲。島村卯月ちゃんはセンターで、最後の決めポーズは約10秒」
のあ「タイミングを知っていないといけない。会場に共犯者がいる」
久美子「観客席の誰かが、タイミングを指示した?」
のあ「いいえ。姿勢も知っていないといけないわ」
久美子「のあさんの言いたいことがわかった。スタッフ側に、内通者がいる。姿勢も場所もわかる」
のあ「そう、ここはアイドルのステージだから。私は、内通者を追うわ」
久美子「了解。こっちは科捜研らしくやらせてもらうわ」
のあ「それがいいわ。頼んだわ」
音葉「ふむ……思ったような下降軌道になりませんね……」
久美子「音葉ちゃんが悩んでるわね……のあさん、閃きをちょうだい」
のあ「ひらめきね……音葉」
音葉「のあさん……どうされましたか」
のあ「見えないものも重要よ。風は?」
音葉「気象データは手に入れています……」
のあ「他に見逃しているものはないかしら、見えないものとか」
音葉「なるほど、先端の形状……調べます……志希さん、少し待っていてください」
久美子「のあさん、良い閃きだった」
のあ「口から出まかせも役に立つわね。まゆが会わせたい人がいるらしいから、そこに行くわ」
172 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:22:14.16 ID:HFCwBUJw0
105
濡碧公園・オープンステージ・舞台裏
留美「……」
のあ「留美、来てたのね」
留美「珍しく電話に出損ねたわ」
のあ「状況は把握してるかしら」
留美「大まかには。忙しくなりそうよ、人手不足で」
のあ「人手不足?」
留美「別の殺人事件が起こったわ。殺害されたのは水野翠のご両親」
のあ「……本当に?」
留美「これは嘘じゃないわ。殺害されたのは数時間前、午前中かもしれないとのこと」
のあ「犯人は、水野翠なのかしら」
留美「わからない」
のあ「ヘレンが付いていたのでしょう。見逃した?」
留美「既に別人に入れ替わってたのでは、とのことよ」
のあ「入れ替わり……」
留美「リビングを自由に出入り出来ていたもの、疑わないでしょう」
のあ「……そのために、殺害を」
留美「わからない。入れ替われる人物に心当たりは」
のあ「それこそ、古澤頼子なら可能性はあるわ」
留美「変装も得意らしいものね。でも、どちらも行方不明」
のあ「警察は大忙しね」
留美「現場よりも犯人確保が優先ね。ここの警備員が多くて助かったわ」
のあ「私も思ったけれど、理由は」
留美「元々パパラッチだか面倒事のあるファンがいるから、警備を増やしていたそうよ。加えて、公園内の別の場所からも警備員が応援に来てる」
のあ「事件後の混乱で問題は」
留美「体調不良者がいるけれど、大きな混乱はないわ。体調不良者は公園の救護室へ」
のあ「偶然……かしら」
留美「混乱は目的としているなら、警備員にも何か起こるはず」
のあ「目的が混乱でないのなら、なにが目的かしら」
留美「古澤頼子の関係者がいるのでしょう、探偵さんの言う通り」
のあ「該当者は……ごめんなさい、電話にでるわ」
留美「どうぞ」
173 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:22:47.11 ID:HFCwBUJw0
のあ「美世?どうしたの、車……事情は勝手に調べるわ。好きに使ってちょうだい。早苗には連絡するのよ、それだけは約束して。気をつけて」
留美「原田巡査かしら」
のあ「ええ。留美に聞きたいことは、瀬名詩織のこと」
留美「瀬名さんね。ご察しの通り、音信不通。古澤頼子か水野翠のどちらかと一緒にいる可能性もある」
のあ「検問にかかるといいけれど」
留美「望み薄ね。情報は遮断されていても、検問場所くらいは把握してるはず」
のあ「美世に頼んだ以上は任せるわ」
留美「足を止めてしまったけれど、探偵さんは何をするつもりだったのかしら」
のあ「まゆに聞き込みをお願いしているわ。会わせたい人がいるとか」
留美「まゆちゃんが?私も同行するわ」
174 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:23:42.39 ID:HFCwBUJw0
106
濡碧公園・オープンステージ・控室B
まゆ「こちらです……」
のあ「……」
まゆ「のあさんは……知っていますか?」
留美「私は知ってるわ。探偵さんは」
のあ「私も知ってるわ。見つからないはずね、彼女は対象にしていなかった」
留美「死んでいるはずだもの」
まゆ「……」
のあ「お話を聞いていいかしら、渋谷凛」
凛「……探偵と刑事か」
まゆ「事件の後は錯乱していたんですけど……今は話せるくらいになりました」
留美「先に一つだけ。渋谷生花店の遺体は別人なのかしら」
凛「……そう。死んでることにして、色々と動いてた」
留美「まゆちゃん、科捜研の2人に偽装の調査をお願いして」
のあ「そうしたら、聞き込みを続けて」
まゆ「わかりました……久美子さんにお願いしたら、みくちゃんと聞き込みを続けます。行ってきます」
凛「……」
のあ「古澤頼子のターゲットは、あなた」
凛「そうだよ、私。私のせいで、卯月が……」
留美「聞きたいことは色々あるけれど、犯人の確保が優先」
のあ「協力しなさい。逃げないということは、そういうことなのでしょう」
凛「……そう」
留美「犯人に心当たりは」
175 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:24:19.20 ID:HFCwBUJw0
凛「水野翠……翠以外にあんなこと出来るわけない」
のあ「水野翠が、どこにいるかは」
凛「わからない……何が何だか……でも、早くしないと」
のあ「どういうことかしら」
凛「翠も無事じゃすまない……回復したら、何をするかわからない」
のあ「留美、聞いてるかしら」
留美「弓道の試合で一射目だけ異常な成績なのは聞いたわ。身柄確保を最優先に多くの署員が動いてる」
凛「私が……全部悪いの……」
のあ「反省は後で幾らでも聞くわ。古澤頼子は」
凛「わかるわけない。いつも番号が違うし……昨日はケータイから」
のあ「ケータイ?番号は」
凛「……これ。え、かけるの」
のあ「一番早いでしょう。ん?」
凛「鳴った……?」
のあ「切ったわ。直接が早い。行ってくるわ。あなたは、ここにいなさい」
凛「……協力する。卯月の、ために」
留美「行動が早いわね、いつにも増して」
凛「そっちは……」
留美「必要以上に慌てても仕方ないわ。確認したいことがあるのだけれど」
凛「……何」
留美「桐生つかさ、あなた達の協力者かしら」
凛「そうだよ……人や物資を調達してる。慎重な奴だから、尻尾を掴むのは難しいと思うけど」
留美「それが聞ければ問題ないわ。渋谷凛、あなたの命を狙われる可能性は」
凛「頼子が……必要と思うなら」
留美「書類上は死んでいるのだから、消すのは難しくないわ。私にも」
凛「……そうかもね」
留美「私はあなたの身柄を守るわ。だから、私に協力なさい」
176 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:25:09.44 ID:HFCwBUJw0
107
濡碧公園・オープンステージ・舞台裏
のあ「どこで、鳴ったのかしら」
音葉「のあさん……お話が」
のあ「音葉、発射場所は特定できたかしら」
音葉「もう少しかと……現場周辺に警察は向かっています」
のあ「話は、渋谷生花店の方?」
音葉「はい……科捜研の鑑定ミスというわけではない、と」
のあ「そう信じてるわ。何があったの?」
音葉「歯型は……歯医者から偽物を提出されたようです。DNA鑑定は試験所への配送中にすり替えられましたかと……」
のあ「本当の渋谷凛の物に?」
音葉「はい……遺体と親子関係が確認されるはずです」
のあ「わかってみれば、単純ね。疑えば、わかる。疑う理由がなさ過ぎたわ」
音葉「そうですね……申し訳ありません」
のあ「音葉のせいではないわ。ちょうどいいわ、音葉、協力してちょうだい」
音葉「はい……もちろんです」
のあ「今からケータイを鳴らすわ。どこで鳴ったか、教えてちょうだい」
音葉「先ほど聞こえましたよ……あちらです」
177 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:25:43.09 ID:HFCwBUJw0
108
濡碧公園・オープンステージ・大楽屋
真奈美「おや、のあと音葉君か」
音葉「……」
のあ「スタッフは、ここに集めているのかしら」
真奈美「全員じゃないが」
のあ「落ち着いてみたいね」
真奈美「おかげさまで。進捗は」
のあ「犯人に協力者がいるようね。音葉、もう1度かけましょうか」
音葉「不要です……真奈美さん、先ほど電話がなりませんでしたか」
真奈美「鳴っていたな。直ぐに切れたが」
のあ「私が切ったもの」
音葉「どちらから……」
真奈美「あのあたり、だったかな」
音葉「それでは、あなたです……ご提出ください」
マストレ「何を、だ」
プルルルル……
のあ「ケータイ電話を。怪しまれないように動かなかったのが敗因ね」
真奈美「さて、事情をお聞きしようかな。青木麗君?」
ベテトレ「ち、違う!こんなことになるのは聞いていない!」
のあ「それでは、何をしたのかしら」
ベテトレ「ステージ正面の映像と音声を渡していただけだ!」
のあ「そう。そのケータイは」
ベテトレ「連絡用に送られてきた。何も連絡は来てない!」
真奈美「何のために、渡したのか」
のあ「こうするためでしょうね。渋谷凛からあなたを結びつけるため」
ベテトレ「それに、事情がある。聞いてくれ」
のあ「それを聞いている暇はない。水野翠か古澤頼子の居場所は」
ベテトレ「前者は知らない、後者は、ここ5年は会ってもいない!」
真奈美「CGプロが君達のビルに来るより、前か」
のあ「事情は分かったわ。自分で警察に話しなさい」
音葉「わかりました……のあさん、ご報告が」
のあ「場所がわかったの?」
音葉「はい……住所を送りました」
のあ「ありがとう。真奈美、行けるかしら」
真奈美「もちろんだ」
のあ「音葉、ここは任せたわ。まゆに外に行くことを伝えておいてちょうだい」
音葉「はい……任されました……」
178 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:26:55.08 ID:HFCwBUJw0
109
寺務乃市内・某雑居ビル・屋上
真奈美「本当にここなのか、矢は公園を横断していったことになるぞ?」
のあ「確認すればいいこと。あれが、弓のようね」
真奈美「弓……想像していたのと違うな。どちらかと言えば、砲台だ」
久美子「のあさん、こっちに来たの?残念だけど、もぬけの殻よ」
のあ「久美子、早いわね」
久美子「音葉ちゃんが現場にいるから任せて、こっちに来ちゃったわ」
真奈美「本当に、これで撃ったのか」
久美子「志希ちゃんの計算結果通り。この建物に固定された弓なら、速度も精度もシミュレーションの条件が出るって。シミュレーションの結果をみる?」
のあ「参考までに。早回しでいいわ」
久美子「斜め上に撃ち出されて、回転が軌道を安定させてる、先端形状で落下の軌道を変えてるみたい、公園の上空で落下しはじめて、ステージに」
真奈美「もし、視界に入っても一瞬だな」
のあ「上を警戒してなければ気づくのも不可能。このディスプレイは?」
久美子「何かの通信機みたい。標的を映していたとか?」
真奈美「肉眼では会場の屋根が少し見えるだけだな」
久美子「ディスプレイが幾つかあるのよね、何を映していたのか調べてる」
のあ「久美子、志希から何か見解は」
久美子「クレイジー、本当にクレイジーだって」
真奈美「どういうことだ?」
久美子「ちょっとしたパラメータで結果が変わるらしいの。だって、最後は自重で下向きに落とすのよ?異常なデータを瞬時に処理して、微調整しないとムリだそうよ」
のあ「志希が言うなら相当ね」
真奈美「私には今日が悪天候だったなら、成功したようには思えないが」
久美子「そうだと思うわ。恐ろしいくらい成功率の低いことを、それも含めて成功させてしまった」
のあ「嘘のようなことでも、結果は変えられない。水野翠の犯行を裏付けるものは」
久美子「少ないけど指紋が出たわ。照合用の指紋はヘレンからデータ提供済み」
のあ「犯人は水野翠」
真奈美「だが、ここにはいない。渋谷凛の証言とは違う」
のあ「どのような状態になるかは、まゆから聞いてるわ」
久美子「監視カメラの映像があるの。屋上入口の防犯用ね」
のあ「見せてちょうだい」
179 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:28:12.31 ID:HFCwBUJw0
久美子「ええ。これが、水野翠が入ってきた時」
真奈美「フード……というか頭巾を被ってるのか」
のあ「ロビンフッドかしら」
久美子「私には忍者に見えるわね。次に入ってきた人」
真奈美「フルフェイスのヘルメット」
のあ「背格好はわかるわね。165cmくらいかしら」
真奈美「時刻は」
久美子「犯行直後。それで、こっちが出ていく人物を捉えた時」
のあ「ヘルメット外してるわね」
久美子「瀬名さんね、交通課の」
真奈美「担がれているのは水野翠だな」
のあ「生きてるのかしら」
真奈美「むしろ、呼吸が荒い」
のあ「何故、顔を明かしたのか」
久美子「逃走に使った車両が特定できてるわ。近くのコンビニの監視カメラに映ってた」
真奈美「これはまた、大型のバイクだな」
のあ「白バイ乗りなら問題ないでしょう。追跡は」
久美子「志希ちゃん、聞こえてる?該当車両の追跡は出来た?」
志希『にゃはは〜、ついさっきの場所が分かった!ここ!』
久美子「これ、検問の近くじゃない?」
志希『背中に誰かいるよ〜。ていうか、検問の手前で止まったみたい?引き返して逃げる?』
久美子「志希ちゃん、情報展開を」
志希『りょうかーい』
のあ「美世、志希が場所を特定したわ。追って」
180 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:29:27.03 ID:HFCwBUJw0
志希『警察官が該当車両を発見!やっぱ、逃走したぞ〜!』
久美子「犯人と共犯者の場所は特定」
のあ「古澤頼子のターゲットも分かった」
真奈美「のあ、原田君を援護するか?」
のあ「こちらが依頼した以上は、そうするべきでしょうけれど」
真奈美「別の何か、あるのか」
のあ「渋谷凛の身代わり、水野翠のニセモノがいたのよ。運んでいる人物もニセモノかもしれない」
久美子「可能性はないとは言い切れないわね」
真奈美「別の潜伏場所を探すか?」
のあ「警察が人を動員した方が今は早い。つまり、情報がない」
真奈美「なら、どうする?」
のあ「水野翠の家に行きましょう。情報を集めるのよ」
181 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:30:02.83 ID:HFCwBUJw0
110
水野家・リビング
のあ「ヘレン」
ヘレン「ディテクティブ、ソーリー。出し抜かれたわ」
のあ「私に謝罪は不要」
真奈美「何があった?」
ヘレン「水野翠のご両親が殺害された」
のあ「死因は」
ヘレン「扼殺よ。首の骨は折られていたわ」
真奈美「聞き覚えがあるな、西島櫂と同じ手口だ」
のあ「犯人の目星は」
ヘレン「遺体には、ここにいないはずの誰かの痕跡あり」
のあ「水野翠では、ないと?」
ヘレン「イエス」
真奈美「水野翠のニセモノか?」
のあ「そうでしょうね。争った形跡は?」
ヘレン「ないわ。遺体はキッチンと書斎で発見。外からは異常も発見できなかった」
真奈美「もはや、暗殺者だな」
のあ「殺害の動機は」
ヘレン「ニセモノが家を自由に動き、こちらを疑わせないため」
のあ「犯人は、ここで昼食を取っていないかしら」
ヘレン「ご名答。キッチンに死体がある中で、リビングで昼食を取っている」
のあ「ニセモノと入れ替わったは何時かしら」
ヘレン「今日の午前中でしょう」
のあ「連絡をくれた陽動は」
ヘレン「水野邸から目を逸らすためのもの」
真奈美「その隙に、入れ替わった」
ヘレン「水野翠が家を出たのも、その時の可能性があるわ」
のあ「入れ替わりなんて、そんなことが出来る人物はいるのかしら」
ヘレン「いるわ、『化粧師』よ」
真奈美「『化粧師』はもういない」
のあ「井村雪菜と名乗っていた人物に可能であるのなら」
ヘレン「他に可能な人物もいるということ」
のあ「陽動に協力した人物については」
ヘレン「最初の人物は特定。お金で雇われた高校生よ、雇い主の名前すら知らない」
のあ「もう1人は」
ヘレン「そちらは行方不明。長身で黒髪だったわ」
真奈美「該当者が1人いる」
のあ「渋谷凛ね」
182 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:30:34.47 ID:HFCwBUJw0
真奈美「……つまり、協力者にされたのか」
のあ「趣味が悪いわ。この行動をさせて、渋谷凛に自分のせいだと強く思わせた」
ヘレン「クエスチョン。リン・シブヤとは?」
のあ「後で、留美に聞いてちょうだい。今も取り調べをしているでしょう」
ヘレン「了解」
真奈美「渋谷凛が何か知っているかもしれないな」
のあ「ええ。ヘレン、水野翠が外に出た方法は」
ヘレン「調査中よ。大胆な仮説も検討してるわ」
のあ「真奈美、弓の位置まで徒歩でも行けるかしら」
真奈美「時間的には問題ない。犯行時刻は夜7時だぞ?」
のあ「久美子に確認し損ねたわ。水野翠がビルの屋上に着いたのは?」
真奈美「午後2時頃だった」
ヘレン「一射に5時間もかけるのね、日本のアーチャーはクレイジーだわ」
のあ「足取りは追えるかしら」
真奈美「ちょっと待ってくれ、片桐君から連絡だ」
のあ「出てちょうだい」
真奈美「木場だ……わかった」
のあ「要件は」
真奈美「瀬名詩織の身柄を抑えたそうだ」
ヘレン「言い方が気になるわ。つまり?」
真奈美「抑えたのは瀬名詩織だけだ」
のあ「調査は継続。ヘレン、ここは任せたわ」
ヘレン「オーケー、ディテクティブ。グッドラック」
183 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:31:20.02 ID:HFCwBUJw0
111
清路市内・某所
真奈美「これは派手にやったな」
のあ「車体のフレームごと曲がってるわね。真奈美、修理できそうかしら」
真奈美「難しいな。そこそこのスポーツカーなら買えるくらいの費用を出せば」
早苗「ごめん、美世ちゃんも覚悟を決めてるから許して?」
のあ「ええ、何があったの?」
早苗「見ればわかるけど、先回りしてバイクを車のサイドフレームで止めた」
のあ「怪我人は?」
早苗「重傷者はなし。美世ちゃんも怪我はないけど、ね」
のあ「瀬名詩織と話せるかしら」
早苗「わかった。検問のテントに一時的にいるわ」
のあ「案内してちょうだい」
早苗「いいけど、拍子抜けよ?」
184 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:32:30.55 ID:HFCwBUJw0
112
清路市内・某所・検問臨時テント
のあ「……」
早苗「さっきから、ずっとこんな感じ」
詩織「私のしたことは……お話しました」
のあ「つまり、トナカイを逃がす手助けをした」
真奈美「のあの誘拐にも協力した」
のあ「今日は、水野翠を屋上から逃がすのと」
真奈美「渋谷凛を無事にライブ会場に行くようにすること」
詩織「厳密には全てではありませんが……その通りです」
のあ「質問するわ、答えなさい」
詩織「どうぞ……何でも」
のあ「『化粧師』を殺害したのは、あなたかしら」
詩織「違います……」
早苗「自分の領域以外は一切知らないそうよ」
真奈美「君の領域は」
詩織「運転と移動です……」
のあ「検問にわざと現れたわね?」
詩織「はい……美世さんに位置を知らせる必要がありましたから」
のあ「水野翠の居場所は」
詩織「わかりません……」
のあ「検問までは一緒だったのかしら」
詩織「……」
のあ「違いそうね。瀬名詩織、答えなさい」
詩織「二輪であの状態の彼女を運ぶのは……厳しいかと」
のあ「そうなると」
真奈美「弓があったビルの近辺か?」
詩織「いいえ……自動車で清路市内まで移動しました」
のあ「場所は」
詩織「正確な場所はわかりませんが……」
真奈美「車両がわかれば、科捜研の方が早いな」
のあ「誰かと合流したのかしら」
詩織「いいえ……水野翠さんは1人で歩いていました」
のあ「どんな状態だったのかしら」
詩織「歩けては……いましたよ」
真奈美「それなら、バイクで運んでいたのは誰だ?」
詩織「マネキンです……追われている時に、投げました。事故が起こる前に回収いただければ」
のあ「早苗、お願い」
早苗「それはやっておくわ。車両の追跡もね」
のあ「あなたは、何が行われるか知っていたの」
詩織「私の知る所では……ありません」
真奈美「それは、どうなんだ」
185 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:32:58.91 ID:HFCwBUJw0
詩織「私の目的はスリルを得ること……美世さんが叶えてくれました。高峯さん……あれは良い車ですよ……お目が高い」
真奈美「……」
詩織「私は然るべき裁きを受けて……世界のどこかで、やり直します」
のあ「そう。美世については」
詩織「私の枠が空きますから……希望が通るかと」
のあ「……これじゃ、美世も浮かばれないわ。真奈美、行きましょう」
真奈美「ああ」
詩織「お疲れ様でした……お元気で」
186 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:34:25.67 ID:HFCwBUJw0
113
清路市内・某所・検問臨時テント前
美世「あの……のあさん」
のあ「美世、お疲れ様」
美世「ごめんなさい!」
のあ「私に謝る人が多いわね、その必要はないのだけれど」
美世「30年ローンくらいで許してくださいっ!」
のあ「何だったら、美世にあげるわ。部品だけでも、かなりのお金になるでしょう」
美世「壊しておいて、それは恐れ多いですっ」
のあ「そう、わかったわ。費用は私で何とかするわ。気にしないでちょうだい」
美世「……」
のあ「私の方こそ、謝るわ。あなたを利用した」
美世「いえ!やらないといけないことだったから」
のあ「瀬名詩織の望む通りに」
美世「……」
のあ「相変わらず、犯人は行方知れず。後は、私達で何とかするわ」
美世「あの……のあさん」
のあ「何かしら」
美世「あたしも……同じなのかな」
のあ「違うわ。自信を持ちなさい。何かあるなら、早苗を頼りなさい」
美世「ははっ、早苗さんにも同じこと言われたっ」
のあ「あれで、ちゃんとした大人だから」
美世「うんっ、減給とかにならないように頑張ってもらうね!」
のあ「……そっちは私の責任ね。埋め合わせはするわ」
真奈美「のあ!」
のあ「真奈美が車を回してくれたから、次へ行くわ」
美世「のあさん、ありがとう。あたしに任せてくれて」
のあ「感謝するのはこちらの方よ。ありがとう、美世」
187 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:35:01.74 ID:HFCwBUJw0
114
濡碧公園・オープンステージ・舞台上
真奈美「島村君は、ようやく寝ることができたか」
のあ「……そのようね」
音葉「のあさん……志希さんから結果が出たと」
のあ「水野翠の追跡結果ね。教えてちょうだい」
音葉「『消えちゃった〜』……とのことです」
のあ「相変わらず、声音を似せるのが上手ね」
真奈美「消えた?どういうことだ?」
音葉「とある監視カメラまでは足取りが分かりましたが……そこからは」
のあ「移動してない」
真奈美「それなら、見つけられる」
のあ「隠れた、ということね」
真奈美「もう一声じゃないか」
のあ「真奈美、言ってみなさい」
真奈美「隠れながら移動している」
音葉「位置情報をお知らせします……警察が捜索は続けていますが」
のあ「真奈美、つまり何が言いたいのかしら」
真奈美「サインを探そう。都心迷宮と同じだ」
のあ「賛同するわ。音葉、以前のデータベースは」
音葉「使えます……水野翠さんが消えた周辺には……」
真奈美「あるのか?」
音葉「残念ながら……ありません」
のあ「サインらしきものを探してもらえるかしら」
音葉「可能です……依頼します」
のあ「水野翠は回復したかしら」
真奈美「いや……逃亡してるなら、落ち着いていないだろう」
のあ「……」
真奈美「のあ、どうする?」
のあ「私達も少し落ち着きましょう。糖分が必要よ」
真奈美「わかった」
のあ「まゆと合流しましょう。音葉も休憩するかしら」
音葉「私はここの仕事と……久美子さん、志希さんとの連絡がありますから」
のあ「わかったわ、続けてちょうだい」
188 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:35:31.71 ID:HFCwBUJw0
115
濡碧公園・オープンステージ・舞台裏
のあ「新田巡査、お疲れ様」
美波「お疲れ様ですっ」
のあ「渋谷凛はいるかしら」
美波「はい。警部補と控室Bにいらっしゃいます」
のあ「そう。取り調べの方は」
美波「私が担当しました。資料を、読みますか?データ化もしてありますよっ」
のあ「紙の方を貸してちょうだい」
美波「どうぞ」
のあ「ふむ……」
真奈美「新田巡査、随分と人が減ったようだが」
美波「捜査と取り調べはほぼ終わりました。順次、帰宅してもらっています」
真奈美「そうか。前川君達は?」
美波「アイドルさん達は、一緒に事務所に戻ったそうです」
のあ「成宮由愛はどうしたのかしら」
美波「お母様が迎えにいらっしゃいました」
のあ「新田巡査、ありがとう。渋谷凛に会うわ」
美波「わかりましたっ。案内はいりますか?」
のあ「不要よ。それと、まゆがいる所を教えてちょうだい」
189 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:36:18.77 ID:HFCwBUJw0
116
濡碧公園・オープンステージ・控室B
留美「他言無用よ、いいかしら」
凛「……わかった」
コンコン!
留美「どうぞ、入って良いわ」
のあ「お邪魔するわ」
真奈美「失礼する」
のあ「留美、お疲れ様」
留美「彼女に御用かしら。それとも私?」
のあ「渋谷凛に」
凛「……」
留美「どうぞ、ご自由に」
のあ「渋谷凛、話を聞かせてちょうだい」
凛「……いいけど、もう色々と話した」
のあ「おそらく、聞いていないこと」
留美「ここは任せるわ。話が終わったら、署に送るわ」
凛「……元より、そのつもりだから」
留美「探偵さん、終わったら呼んでちょうだい」
のあ「わかったわ」
留美「失礼するわ」
凛「それで、話は」
のあ「急がないこと。コーヒーが来るまで待ちなさい」
190 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:39:37.52 ID:HFCwBUJw0
117
濡碧公園・オープンステージ・控室B
まゆ「スタッフさんから備品のコーヒーをいただきました……どうぞ」
のあ「ありがとう、まゆ」
真奈美「すまないな」
まゆ「渋谷さんも……どうぞ」
凛「……貰っていいの」
のあ「話をしてもらうから、受け取りなさい」
まゆ「お砂糖とミルクも置いておきますね」
凛「……ありがとう」
のあ「留美と何を話していたのかしら」
凛「身の守り方」
まゆ「身の……」
凛「警察の内通者も1人はわかってる……だけど、言えない」
のあ「賢明ね。留美に任せなさい」
真奈美「情報を明かすことで危険になるのなら、そうしないべきだ」
凛「信頼していいのかな」
のあ「もちろん。保証するわ」
凛「わかった……そうする。それで、私に聞きたいことは」
真奈美「水野翠の身元がわからない」
のあ「この辺りで消息が絶えたわ。心当たりは」
真奈美「地図でいうと、ここだ」
凛「この辺り……私や頼子の隠れ家はないかな」
のあ「都心迷宮のようなサインは」
凛「都心迷宮のサインは駅から遠いところにはないから」
真奈美「何か、ないか」
まゆ「隠れられる場所とか……」
凛「うーん……そうだ。ここ」
のあ「ここ?」
191 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:40:49.76 ID:HFCwBUJw0
凛「半グレの溜まり場だった、使われてない地下の駐車場があるはず」
のあ「半グレ?」
凛「半グレ集団は仲間割れで死亡事件起こして解散。その後はホームレスがいたけれど、今度はホームレス狩りにあって寄り付かなくなった」
真奈美「それなら、今は」
凛「住み着いている人間はいないと思う。スケートボードの練習台は置いてあった」
真奈美「小松伊吹か?」
凛「知ってる。あそこで練習してたかは知らない」
のあ「住み着いていないけれど、使っている人物は」
凛「特定の人間じゃない。宿がない学生が夜を明かしたり、話したりはしてるみたい」
真奈美「ということは」
まゆ「未成年……?」
凛「この近くは再開発区域外だから、他にも場所はあると思う」
のあ「水野翠が回復を待てるのには」
凛「十分だと思う。これ、渡しておく」
まゆ「カギ……ですか」
凛「どこかの扉のカギ。頼子が集めて使ってた。役立つかもしれないから」
のあ「受け取っておくわ。ありがとう」
凛「……そんなこと、言われる権利はないから」
まゆ「……」
のあ「コーヒーを飲んだら行きましょう。渋谷凛、後で話を聞きに行くわ。話したいことが、あるみたいだから」
凛「……待ってる。翠、止めてあげて」
のあ「ええ」
真奈美「未成年者がいる場所なら」
まゆ「聞く人に心当たりが……」
のあ「ええ。夏美に聞くとしましょう」
192 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:42:06.88 ID:HFCwBUJw0
117
濡碧公園・駐車場
まゆ「夏美さんは……つながりません」
真奈美「清路署内にもいないようだ。仙崎君は?」
まゆ「のあさん……いかがでしょうか」
のあ「恵磨と通話してるわ。恵磨、スピーカーにしていいかしら」
真奈美「それなら、車内だ。乗ってくれ」
のあ「わかったわ。恵磨、少し待ってちょうだい」
まゆ「よいしょ……」
真奈美「車内のスピーカーにつなげるか?」
のあ「もちろん。恵磨、聞こえるかしら」
恵磨『そっちも、聞こえてる!?』
のあ「ボリュームを下げて」
真奈美「了解」
のあ「恵磨もよ」
恵磨『りょーかい』
のあ「恵磨も夏美と連絡が取れないのよね」
恵磨『そう。事件の情報がまわってきたから、イヤな予感がして』
まゆ「夜回り……ですか?」
真奈美「その時間には早いんじゃないか」
恵磨『基本的には22時以降だからね。夏美の趣味知ってる?』
のあ「ランニング」
恵磨『流石の夏美でも3時間は走らない。よく、夜の空を眺めてる』
のあ「夜空?」
まゆ「天体観測が趣味……?」
真奈美「のあと同じだが」
のあ「それだったら、話を聞いているうちにわかるわ」
恵磨『どこかに出かけては飛行機を探してるんだ』
真奈美「飛行機?」
恵磨『前はCAになりたかった、って。今は旅行にすらほとんど行かないけど』
真奈美「確か、英語も達者だったな」
のあ「それなのに、どうして少年課の警察官をやっているのかしら」
恵磨『あー、聞かなかった。アタシも少年課の警察官だから』
のあ「つまり」
恵磨『同じ顔するんだよね。言いにくいことのある未成年と、さ』
まゆ「……」
恵磨『話が逸れた。夏美はストイックだからこそ、時々贅沢してるんだ』
193 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:43:07.13 ID:HFCwBUJw0
真奈美「今日は出かけていたのか?」
恵磨『たぶん。日曜日だし』
のあ「夏美は水野翠が逃走していることを知った、そうしたら?」
恵磨『まず、バディに連絡しよう!』
真奈美「どうやら、彼女は違うみたいだ」
恵磨『その文句は後で言っとかないと。何か心当たりが、あった』
真奈美「水野翠が行きそうな場所?」
のあ「夏美に心当たりがある?」
恵磨『いや、ないはず。精々、若者の溜まり場とか』
まゆ「手当たり次第に探してる……とか?」
のあ「恵磨、夏美が電話に出ないことはあるの?」
恵磨『たまーに。でも、直ぐに折り返してくる』
まゆ「でも……通話できていません」
のあ「折り返してこない理由は?」
恵磨『幾度となく聞いてるっ。ケータイ電話に掛けたことがあるなら、聞いてること』
真奈美「それはつまり、電源が入っていないか」
まゆ「電波の届かないところ……」
のあ「地下ね。アンテナのないような」
真奈美「既に地下に潜っているのか」
恵磨『使われてない、管理されてない場所なら夏美は署内で一番詳しい、はず』
真奈美「恵磨君も知ってるか?」
恵磨『そこなんだよね、知ってる場所はたくさんあるわけ』
のあ「夏美が知っていたことに組み合わせればいい」
恵磨『どういう意味?』
のあ「今日知ったことは?」
194 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:43:45.59 ID:HFCwBUJw0
まゆ「事件が……ありました」
のあ「真奈美、あの弓は初見で使えるかしら」
真奈美「普通の人間にはムリだ」
のあ「そう、ムリ」
恵磨『試し打ちしてる?』
のあ「あれだけの物、痕跡が残るはずよ」
真奈美「事件が起こって、意味がわかった」
恵磨『アタシには、わかんないんだけど』
まゆ「夏美さんだけが見ていた……夜回りの途中とか」
のあ「水野翠の状態は良くないわ。その状態で行けるなら」
恵磨『既に行ったことがある場所!』
真奈美「極秘練習場か」
のあ「ええ。真奈美、弓を打つ場所と言えば」
真奈美「距離が取れるところだ。細長い場所」
のあ「例えば、通路。建物と建物をつなぐような」
まゆ「駐車場とか……」
のあ「平行でなくてもいい。縦長でも問題ない」
真奈美「見えて来たな」
のあ「ある程度の場所は絞り込めてる」
恵磨『あー、もう!だから、なんで一人で行くかな!』
のあ「怒るのは後。恵磨もこっちに来てちょうだい」
恵磨『わかった!すぐ出るから!』
のあ「まゆ、志希と連絡を取って。場所の絞り込みに手伝いを」
まゆ「わかりました……」
のあ「人員も借りましょう。私から、志乃に連絡するわ」
真奈美「のあ、私は何をしようか」
のあ「現場まで。急いで」
195 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:44:42.85 ID:HFCwBUJw0
118
射手の地下通路
射手の地下通路
家電量販店と市営の地下駐車場、そして閉店した百貨店を繋いでいた地下通路。百貨店が閉店したため、常時封鎖されている。
翠「ふー……いらっしゃいましたか」
夏美「こんばんは、水野翠」
翠「少年課の方でしたか……最初は……」
夏美「あなたは未成年だもの。私が来ないといけない」
翠「ここは……封鎖されているはずですが……」
夏美「百貨店の警備員が合鍵をろくでもない連中に売ったわ、リストラの腹いせね。ま、最終的に百貨店は閉店しちゃったけど。合鍵は何個かあって、1部は不良グループに流れた。それが、この1つ」
翠「なるほど……同じ物を持っていますよ……ふぅ……はー……」
夏美「体調が悪そうね」
翠「ええ……全てを出し切りました、見たでしょう」
夏美「見ていないわ。私は知ってるだけ」
翠「そうですか……残念」
夏美「そこの壁は、弓があたった後なの?」
翠「その通りですよ……しかし、空を裂く弧の軌道は一度だけ」
夏美「……」
翠「今日だけ……ですよ。よ……っと」
夏美「立ち上がれるの?」
翠「ええ……死んでいないなら、立ち上がれますから。酷い眩暈がします」
夏美「大人しく、降参なさい。いずれ、捕まるわ」
翠「そうですか……それはわかっています」
夏美「自分がしたことを理解できないほど、あなたが愚かだと、私は思わない。だから」
翠「お願いしますか……私に?」
夏美「ええ。全ての罪を話してもらうわ」
翠「そうしたら……救われますか」
夏美「あなたに意思があるのなら、必ず」
翠「知っています……私の誕生日、ご存知でしょうか……?」
夏美「……12月5日。18歳よ」
翠「極刑は……あり得ることでしょう」
夏美「……」
翠「それが、救いでしょうか……」
夏美「違うわ。その時を待つだけならば、あなたも誰も救われない」
翠「……」
夏美「終わりにしましょう。刑事じゃないから、私は丸腰。差し出せるのは、この手だけよ」
翠「すぅ……」
夏美「水野さん、お願い」
翠「それが……イヤなんですよ!」
196 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:45:25.95 ID:HFCwBUJw0
夏美「……え」
翠「何時だって、誰もわかってくれない!私の求めるものを、誰も差し出さない!そうやって、優等生としての私しか見ない!」
夏美「……」
翠「この外見と表層しか、分からない……おっと……」
夏美「水野さん、大丈夫……それをしまいなさい」
翠「弓だけではありません、短刀も……ありますよ。お見せします」
夏美「辞めなさい!」
翠「止めたいのなら……どうぞ。止めてください、さぁ」
夏美「ちっ……警察官、舐めるんじゃないわよ」
翠「ええ……殺す気で来てください」
夏美「……ふぅ」
頼子「そこまで、です」
夏美「きゃあ!」
197 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:45:56.33 ID:HFCwBUJw0
119
清路市内・某所
のあ「恵磨!」
恵磨「お疲れ様ですっ!場所はわかった?」
のあ「志希のおかげで絞り込めたわ。私達はカギの必要そうな場所へ」
真奈美「のあ、これを」
のあ「ええ。真奈美は」
真奈美「問題ない」
恵磨「えーっと、ちょっと黙っておく」
のあ「お気遣いありがとう。恵磨、まゆと一緒に待機してちょうだい」
恵磨「わかった。連絡役をすればいい?」
のあ「いいわ。あまりにも連絡がこないなら、探してちょうだい」
恵磨「怖いこと言わないでよ」
のあ「真奈美がいるから平気よ、行ってくるわ」
198 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:47:09.33 ID:HFCwBUJw0
120
射手の地下通路
夏美「痛……ぎぃ、古澤頼子……!」
頼子「そんなに歯を食いしばっても、睨みつけても足の痛みは変わりませんよ」
翠「お見事です。弓の使い方が上達しましたね」
頼子「稽古の成果です。この程度の弓が使いやすいかと」
翠「洋弓は趣味ではありませんから」
頼子「そうですか。アキレスの泣き所とはよく言ったものです」
翠「アキレス腱には当たっていません。矢が刺さっているため、歩ける状態ではないですが」
頼子「水野翠。その短刀を渡しなさい。あなたには不要です」
翠「どうぞ」
夏美「何を、する気……」
頼子「あなたには、別に興味がありません。こう、するのですよ」
翠「あ……え……」
夏美「さ、刺した……」
頼子「望んでいたことですよ、あなたが」
翠「がはっ……どうし……て」
頼子「水野翠には、こちらが良いかと」
夏美「くっ、一瞬だけ動け!」
頼子「うるさいです。」
夏美「う……蹴りぐらいで、止まるわけには……」
頼子「さようなら、水野翠さん。矢で打ち抜かれること、それが定めでしょう」
夏美「やめて!」
199 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:47:56.72 ID:HFCwBUJw0
頼子「矢は既に放たれました。遺体が増え、足を負傷した警察官が1人」
夏美「なぜ?殺す必要はないはず!」
頼子「なぜ?そんなことも分からないのですか?」
夏美「人殺しの考えなどわからない!」
頼子「水野翠は罰を求めていました。それに応えただけのことです」
夏美「違う、そんなはずは、ないっ」
頼子「誰も彼女の本心に気づかない。誰も彼女の正体に気が付かない。誰も彼女を怪しまない。分かったとしても、誰も彼女を強引には止めない。彼女はずっと、そのまま」
夏美「……」
頼子「思い当たるものがあるからこその間、悪くありませんよ。彼女は容姿を褒められることにも慣れていました、本当はそんなことは求めていないのに」
夏美「それなら……」
頼子「あなたがいつも通りやれば良かったのです。夜回りで見つける不良少年少女を扱うように。18歳の誕生日を迎えるまでに、強引に止めたのなら」
夏美「起こらなかったって……言いたいの……痛っ……」
頼子「感情が揺らぐと痛みに支配されますよ。ええ、その通り。彼女が求めていたのは、自信の欠点や負の感情を突きつけ、叱ってくれる誰かですよ。あなたの得意なことではありませんか」
夏美「それなら、殺し屋なんてする必要ないでしょう!」
頼子「命を奪わなければ、誰も命を賭けてくれませんから。そうでしょう?」
夏美「お前は……」
頼子「少年課の相馬夏美巡査部長、充分です。あなたに捕まるのも殺されるのも面白くありません。あなたは、病院のベッドで指をくわえて見ていてください。ああ、爪を噛むのは厳格な両親に矯正されましたか。比喩というものです」
夏美「私のこと、知ってるわけね」
頼子「知りたくもありませんでしたが、偶然ですよ。私のお楽しみはこれからです。乞うご期待、なんてはしたない言い方でしょうか」
夏美「何を……するつもりなの」
頼子「ご安心ください。未成年者はいませんよ」
夏美「そういう話じゃない!」
頼子「あら、怖いこと。命に別状はありませんし、あの探偵さんが時期に迎えに来てくれることでしょう。私は逃げないといけません。それでは、ごきげんよう」
夏美「待っ……追うのはムリか……」
夏美「動くのも痛いけど……水野さん、答えて!水野さん!」
夏美「……ダメか……こうなるのを防ぎたかったのに」
200 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:48:26.59 ID:HFCwBUJw0
121
射手の地下通路・入口前
のあ「この扉の先は」
真奈美「連絡通路だ。倒産した百貨店跡地につながってる」
のあ「電波は通ってないわね」
真奈美「アンテナがないからな。誰も来ないところに設置する義理はない」
のあ「内側、明かりが点いてるわ」
真奈美「扉は開くか?」
のあ「開かない。施錠されている」
真奈美「カギは」
のあ「渋谷凛は使ったことはないと言っていたわ。どれかは分からない」
真奈美「順番にやるか。いや、カギの形状がわかればいいのか」
のあ「百貨店に繋がるから防犯用……いえ、一度替えたのね、ピッキングしにくいものに。こうやって、渋谷凛や他の人物が持っていたら意味はないけれど。ディンプルキーはあるかしら」
真奈美「この丸い打痕があるやつか?」
のあ「その通り。4つだけね……いや、4つもあると言うべきかしら」
真奈美「4つなら順番にやればいい」
のあ「簡単ね。4つもある問題は後で考えましょう」
真奈美「カギは開いた」
のあ「行くわよ……3秒後に」
真奈美「了解だ」
のあ「3、2、1……」
真奈美「行くぞっ!」
201 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:49:56.48 ID:HFCwBUJw0
122
射手の地下通路
のあ「真奈美、いたわ。夏美と……水野翠」
夏美「あっ、本当にのあさんが来た」
真奈美「大丈夫か!?」
夏美「この通り。これ以外は」
真奈美「よく平然としてるな。歩けるか?」
夏美「ちょっと無理。油断しちゃった」
真奈美「油断ですませるものには見えないぞ」
のあ「水野翠は亡くなってるわ。死因は胸に刺さった矢、腹部には短刀」
夏美「……ごめん。止められなかった」
真奈美「誰にやられた?」
夏美「古澤頼子。私の足に刺さってるのも短刀も全部」
のあ「古澤頼子が、ここに来ていた」
夏美「もういない。のあさんとは逆方向に行ったけど」
真奈美「百貨店方向か。追うか?」
のあ「追いつかないわ。こちらを優先しましょう」
真奈美「わかった。怪我人優先だな」
のあ「真奈美、地上まで走ってきなさい。警察と救急車、あと担架もあったら持ってきて」
真奈美「夏美君、もうしばらくの辛抱だ。行ってくる」
夏美「ありがと、真奈美さん」
202 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:51:03.72 ID:HFCwBUJw0
のあ「夏美、足の様子を見せて」
夏美「うん、どうぞ」
のあ「応急処置は自分でしたのね」
夏美「そう。上手くできてる?」
のあ「ええ。痛みはどうかしら」
夏美「かなり、やばいわ。強がってるの、わかるでしょ?」
のあ「やっぱりね」
夏美「せっかく間に合ったのに。やっぱり、ダメね」
のあ「まだ強がっているべき。まずは、恵磨を連れて行かなかったのは失敗よ。怒られなさい」
夏美「そっか、覚悟しておかないと」
のあ「話していた方がいいかしら」
夏美「そうして。気絶も出来そうもなくて」
のあ「わかったわ」
夏美「ごめん。間に合ったのに止められなかった」
のあ「古澤頼子は、最初から水野翠を殺すつもりだった。あなたが無事で良かったわ」
夏美「……そうかな」
のあ「水野翠を呼び出したのは古澤頼子よ。そうでなければ、タイミングが良すぎる」
夏美「それも止められたかも、しれない」
のあ「どういうことかしら、話してちょうだい」
夏美「身元もわかってるから、口封じもいらない。殺すに値する相手じゃなくしてあげないと、いけなかった」
のあ「古澤頼子の思考を考えるのは辞めた方がいいわ。理解すべきじゃない」
夏美「水野さん、罰を欲しがっていたそうよ」
のあ「本人が言ったのかしら。それとも、古澤頼子の言い訳かしら」
夏美「本人よ……たぶん、本心だった」
のあ「罰なんて、この世には幾らでもあるわ。少し手を抜けば、彼女は罰や叱責を得られた。古澤頼子の詭弁でしょう」
夏美「違うと思う、わかるの」
のあ「……何が」
夏美「演技だったら、本気では取り合ってくれない。適当な悪事は本気を産み出さない。悩みは解決しない」
のあ「……」
夏美「そういうものでしょ、わかる?」
のあ「水野翠については、同意しかねるわ」
夏美「気づいた時に、殴れば良かった。そうしたら、事件もなかった」
のあ「それも同意しかねるわ。警察にもいられなくなるのだから」
夏美「経験則だもの。存分に経験してきた」
203 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:51:42.06 ID:HFCwBUJw0
のあ「多くいるタイプなのかしら、問題を起こす少女に」
夏美「多くはないと思うわ」
のあ「会ったことがあるの?」
夏美「私」
のあ「問題児だったの?」
夏美「違う違う。優等生で、学校内では注目されてなかった」
のあ「水野翠とは違うわね。彼女は注目の的だった」
夏美「気づかれないのは一緒。優等生って、つまらないもの」
のあ「程度が違うわ」
夏美「……そうかしら」
のあ「そうよ」
夏美「次は、がんばるわ。被害者の罪滅ぼしにはならないけれど、警察官として」
のあ「それなら、任せたい人物がいるわ」
夏美「……今回の共犯者?」
のあ「今回は、共犯じゃない。渋谷凛、覚えてるかしら」
夏美「西園寺邸の犯人?」
のあ「生きてたわ。警察が身柄を保護してる」
夏美「……」
のあ「島村卯月と関係があるみたい。ショックを受けてるわ」
夏美「そう、わかった。夜の公園で会ったの、そういうことね」
のあ「渋谷凛に?」
夏美「生きてるのは、今知ったわ。私が会ったのは島村卯月ちゃんの方、秘密の友達がいたのね」
のあ「お願いできるかしら」
夏美「ええ、渋谷さんは反省してるの?」
のあ「私には、そう見えたわ」
夏美「それじゃあ、怪我が良くなったら会いに行く。約束ね」
のあ「夏美、公園の名前を教えてくれるかしら」
夏美「良楠公園。花屋が目の前にあるわ」
のあ「ありがとう。先に調べておくわ……何か聞こえるわね」
夏美「恵磨ちゃんの声が聞こえたわ。声は抑えて、って言ってるのに。特に感情が高ぶる時は」
のあ「バディへの要求はお互い様ね」
夏美「そうみたい。ありがと、のあさん」
のあ「何も出来てないわ。殺されたのに……穏やかな眠り顔ね、水野翠は」
夏美「せめてもの幸運に、なるわけないわ……」
のあ「……ええ」
夏美「あたたた……痛みの方に意識が行った。ダメね、ほんと」
のあ「そんなことはないわ。あなたは必要な人物よ」
夏美「そうなれていると、いいけれど」
のあ「なれてるわ。ゆっくり休みなさい、おそらく入院だから」
夏美「そうね、ベッドでのんびりさせてもらおうかしら」
204 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:53:01.20 ID:HFCwBUJw0
123
清路警察署・留置場
のあ「こんばんは」
凛「探偵か……来たんだ」
のあ「少しだけ話に来たわ」
凛「そう……1人なの?」
のあ「今は。助手の集めた情報を警察に渡している所よ。今日は長居せずに帰るわ。水野翠については聞いてるかしら」
凛「……聞いた」
のあ「あなたはこうして生きているわ、渋谷凛と名乗って」
凛「……でも、だから、卯月を巻き込んだ」
のあ「今日は島村卯月の話を。少し調べたから、聞いてちょうだい」
凛「早いね」
のあ「いいえ、遅いわ。良楠公園で会っていたのは間違いないかしら」
凛「……合ってる」
のあ「初めて会ったのは、公園前の花屋、風花ね」
凛「そう。卯月は花を選んでた、嬉しそうに」
のあ「センターであることが、公表された日ね。買った花は」
凛「……アネモネ」
のあ「渋谷生花店の跡地に、島村卯月が備えた花と一緒」
凛「あれ……卯月だったんだ」
のあ「花言葉は、期待や希望」
凛「詳しくなったね」
のあ「さっき、電話で聞いたわ。相葉夕美に」
凛「……」
のあ「謝らないといけない人がいるわね、たくさん」
凛「……うん」
のあ「洋食フレッチャに島村卯月のサインが飾られていたわ。一緒にいたのは、あなたかしら」
凛「そう、私」
のあ「ご主人がお喋りだから、それはわかってるわ。問題は、あの店に盗聴器があること」
凛「……」
のあ「知らなかったようね。電気工事の際に取り付けられたと推測」
凛「つまり、古澤頼子は知ってた。当たり前か、教えてくれたんだから」
のあ「あなたを標的にしたのなら、公園にも何かあったのでしょう」
凛「……そうかもね、私が標的なら」
205 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:53:52.04 ID:HFCwBUJw0
のあ「おそらく、あなたが知らないことを2つ。あなた、誰かを見張ってたの?」
凛「そう。これは、刑事さんに言ったかな」
のあ「横領犯かしら」
凛「そう、横領犯の愛人と隠し子」
のあ「横領犯は殺されてるわ。凶器は弓矢、古澤頼子が相馬夏美巡査部長と水野翠を打ったものと似ていた」
凛「え……何時?」
のあ「12月20日よ。あなたは、それ以降も張り込みを続けている」
凛「……そういうことか」
のあ「夜、島村卯月に会えるように、障害は取り除いた」
206 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:54:20.56 ID:HFCwBUJw0
凛「私の知ってる古澤頼子は、もう少し賢かった」
のあ「ええ。直接手を下すことはなかった」
凛「何か……おかしくなってる。最初からおかしいけど、もっと」
のあ「私の話はこれで最後。島村卯月の日記帳は知っているかしら」
凛「日記は、知らない」
のあ「ある時、日記をつけるようになった。自分自身に嘘をつかないように」
凛「……卯月に聞いた」
のあ「あなたのことも書かれていたわ。現物は渡せないけれど、写真を何枚か。どうぞ」
凛「……くれるの」
のあ「私は、その方が良いと思ったわ」
凛「……ありがと」
のあ「渋谷凛、あなたが犯したことに対して、贖罪の機会が与えられるか、どうかもわからないわ」
凛「……」
のあ「それでも、渋谷凛でいなさい。島村卯月の友人で、彼女が……取り戻したかった渋谷凛で」
凛「……これ、本当に読んでいいの?」
のあ「その答えは自分で出しなさい」
凛「……わかった。読む、全部」
のあ「今日は休みなさい。疲れが取れたら、協力してもらうわ」
凛「ねぇ、聞いていいかな」
のあ「私の話は終わり。構わないわ」
凛「もしも、だよ」
のあ「仮定の話、得意分野ね」
207 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:55:51.32 ID:HFCwBUJw0
凛「卯月に会ってなければ……声をかけなければ、卯月は死なずに済んだのかな」
のあ「もしもの話は未来にだけするべきよ。過去は変えられないのだから」
凛「正論だけど、さ。他に言い方はないの?」
のあ「私の両親が死ななかったイフをずっと考えていたわ。考えていても、変わらない。だけれど、変えようと思う行動は未来を変えられる」
凛「……」
のあ「未来は変わったわ。そうして出来た、変わった過去を背負って、人は進むしかないの」
凛「最悪の結末……でも?」
のあ「そうよ。この事件について言うのなら、あなたは完全に被害者だもの。島村卯月の情報を古澤頼子には流していないのでしょう?」
凛「うん。話す必要なんか、なかったから」
のあ「渋谷凛は戻って来れたわ。誰かのおかげで」
凛「そう……卯月のおかげ。私、やっと、自分になれた」
のあ「あなたがなれたあなたに期待しているわ。贖罪をし、この連鎖を止めることを」
凛「……そうする」
のあ「今のあなたに聞いておくことを思い出したわ。答えられるでしょう」
凛「何?」
のあ「西園寺琴歌を蜂毒で殺害したのは、渋谷凛、あなたね」
凛「……そうだよ。蜂を温室に放ったのは、私」
のあ「被疑者死亡で逃げられなくて、良かったわ。さようなら、また来るわ」
208 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:56:27.15 ID:HFCwBUJw0
124
清路警察署・ロビー
のあ「留美、お疲れ様」
留美「お疲れ様。渋谷凛の様子はどうだったかしら」
のあ「協力はしてくれそうよ。西園寺邸の事件についても自白したわ」
留美「そこまでやったのね。私はもう疲れたわ、明日は休もうと思って」
のあ「あら、留美にも珍しいこともあるのね」
留美「私だって、有休くらいとるのよ」
のあ「それなら、高垣楓が家に来るわ。どうかしら」
留美「遠慮しておくわ」
まゆ「のあさん……お疲れ様です」
真奈美「こっちは終わりだ」
留美「助手さんが迎えに来たわ。さよなら、探偵さん」
のあ「留美、また会いましょう」
まゆ「お疲れ様でした……おやすみなさい」
真奈美「さて、帰るとしようか」
まゆ「そうですねぇ……お腹が空きました」
真奈美「朝から働きづめだったのを思い出した。エネルギー補給が必要だ」
まゆ「朝から……あぁ」
のあ「どうしたの、変な声を出して」
まゆ「素敵なステージだったのに……色々あって記憶が」
のあ「記憶は良く飛ぶわ、仕方ないの。ええ、逃れられないのよ」
真奈美「のあが言うのと意味は違うと思うぞ」
209 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:57:52.93 ID:HFCwBUJw0
まゆ「事件は残念ですけれど……卯月ちゃんも、みんな、素敵でした」
真奈美「ああ、私も誇れるよ。彼女の魔法の時間は、こんなことでは奪われるべきではなかった」
のあ「……そうね」
まゆ「ふふふ、みくちゃんと仲良くなりましたぁ。次は一緒にライブに行きたいです」
のあ「あら、そうしましょう。真奈美、会場はアリーナで頼むわ」
真奈美「私が決めることじゃない」
のあ「それもそうね」
真奈美「さて、今日はラーメンでも食べに行こうか」
のあ「こんな時間に?」
真奈美「こんな時間だから、さ」
のあ「私は構わないわ」
真奈美「佐久間君はどうかな?」
まゆ「私も……食べたいです」
真奈美「決まりだ」
まゆ「ライブのことを少し話したいな……」
真奈美「付き合おう」
のあ「私、見ていないのだけれど」
真奈美「見ていないといけないのか?同居人の世間話だよ」
のあ「確かに、ファン目線が抜けきらなかったわ」
真奈美「食事が優先だ。さぁ、行くとしようか」
のあ「英気を養いましょう。事件の解決と、次を止めるために」
まゆ「……はい」
真奈美「ああ」
のあ「次はないわよ、古澤頼子」
エンディングテーマ
探し人
歌 前川みく
210 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 22:59:42.01 ID:HFCwBUJw0
125
エピローグ
1月25日(月)
夕方
高峯探偵事務所
楓「こんにちは〜」
真奈美「高垣君か、いらっしゃい」
のあ「待っていたわ。休暇は楽しんでいるかしら」
楓「はい、久しぶりの都会もいいものです。これ、つまらないものですが」
のあ「あら、ありがとう。真奈美、受け取って」
真奈美「高垣君、いただくよ」
のあ「紙袋の中には何が入っているのかしら」
楓「希砂島の新しいギフトセットです。宣伝も兼ねて、配っているんですよ」
のあ「相変わらず、馴染んでいるようで何より。真奈美、お茶でもいれて」
真奈美「貰った中に茶葉があった。これを出してもいいかい?」
楓「希砂島のハーブをたくさん使った、ハーブティーです。二日酔いには最適なんです」
真奈美「淹れてみよう」
のあ「楓、飲み過ぎてないかしら」
楓「大丈夫。待機日が2日に一度来ますから」
のあ「休み中は」
楓「この通り、お昼からちょびっと。そうだ、お酒も持ってきましたよ」
のあ「私はいらないわ。真奈美は?」
真奈美「後でいただくよ。それなら、雪乃君も呼ぼうか」
楓「下のカフェの店長さんでしたね、この機会にお知り合いに」
のあ「来たら、紹介するわ。暇だったら、寄ってあげて」
楓「ぜひ。昨日は大変だったみたいですね」
のあ「ええ。犯人は殺されて、昨日の事件は終わり」
211 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 23:01:17.39 ID:HFCwBUJw0
楓「ニュースで見たので、留美さんに協力を申し出たのですが」
のあ「断られた?」
楓「はい。休暇中に働かせるわけないでしょう、と」
のあ「留美らしい言い方だけど、同感ね」
楓「しかし……希砂二島の事件と同じ手口だった、とお聞きしました」
のあ「水野翠の両親については、そうよ」
楓「犯人は、あの場所にいた人物でしょうか」
のあ「そうでしょうね」
楓「つまり……」
のあ「犯人は古澤頼子でしょう。逃げるのも隠れるのも得意ね。ヘレンが調べた結果、2回の陽動で視線を逸らすことだけで水野翠を逃がしたそうよ。自身は水野翠になりすまして」
楓「彼女は……私達の島にも事件をもたらしました。協力させてくれますか?」
のあ「気持ちはわかるわ。だけれど、今は休暇に専念なさい」
楓「不思議な言い方ですね」
のあ「その気持ちだけ受け取っておくわ、ありがとう」
真奈美「淹れてみた。香りは……そうだな、効きそうだ」
のあ「ありがとう……効きそうね、確かに」
真奈美「高垣君もどうぞ」
楓「いただきます。ちょっとスパイシーで独特な風味なんですよ」
212 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 23:02:32.26 ID:HFCwBUJw0
のあ「ふむ……言った通りね。悪くないわ」
真奈美「最初は刺激的だが、後味は悪くない。仕事中に飲むといいかもな」
楓「ふむふむ、お土産屋さんに伝えておきます」
のあ「確かに後味は良いわね。後味が悪いほど、効きそうな感じもするけれど」
真奈美「ははっ。その気持ちはわかるが、実際は良いことじゃないな」
楓「終わり良ければ総て良し、と言いますから」
のあ「そうね。でも、全てが気分よく終わるとは限らない」
楓「……はい。知っています」
のあ「そうなるように努めるだけね。今日の寝つきが良くなりますように」
真奈美「ああ。夕食は豪勢に行こうじゃないか」
楓「ふふ、楽しみです」
のあ「菜々にも手伝ってもらうわ」
楓「菜々?」
ピンポーン……
真奈美「来客か。ウワサをすれば、菜々君だ」
のあ「あげてちょうだい。何か用かしら?」
真奈美「菜々君、あがってくれ」
213 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 23:04:29.52 ID:HFCwBUJw0
菜々「のあさん、大変ですっ!」
楓「こんにちは」
菜々「こちらの美人さんは……あっ、今日来る元刑事さんですねっ。はじめまして!」
楓「はじめまして。希砂本島に駐在しています、高垣楓巡査部長です」
菜々「そう、刑事!のあさん、テレビつけてください!」
のあ「テレビ?真奈美、お願い」
真奈美「わかった。チャンネルは」
菜々「緊急ニュースなら、どこでも!」
真奈美「これで、いいな」
楓「ヘリからの映像、ですね」
のあ「見覚えのある場所だわ、鷹富士神社の近くかしら」
テレビ『先ほど鷹富士神社近辺の建物内で射殺体が発見されました。遺体は建物内に入っていたGP社、社長の桐生つかささんとみられています。桐生つかささんは女子高生社長として近所では有名で……』
真奈美「桐生つかさ?殺されるような動機はあるか?」
のあ「事業的に殺人に巻き込まれるようなこともやってないと思うのだけれど」
楓「存じ上げませんが、銃殺は気になりますね」
菜々「疑われてる人が、その、知ってる人で!」
のあ「知り合い?」
テレビ『現場の遺留品から、清路警察署刑事一課、新田美波巡査が関わっているとみられています。現在連絡が取れず、警察が足取りを追っています』
楓「留美さんの……部下」
のあ「真奈美、感想は」
真奈美「何が何だかわからないが、マズイことが起こっているのはわかる」
のあ「同感。のんびりはしていられなさそうね」
エピローグ 了
終
製作 tv〇sahi
214 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 23:06:07.64 ID:HFCwBUJw0
次回
最終話
銀の銃から、弾丸は放たれた。
古澤頼子「高峯のあの事件簿・マスターピース」(完)
215 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 23:07:10.01 ID:HFCwBUJw0
オマケ
撮影中の一幕・その1・妥協をしていては世界レベルには到達しないわ!
ステージ上
未央「うわぁ、しまむーが串刺しだよ……」
凛「凄いね……これ」
卯月「あっ!未央ちゃん、凛ちゃん」
凛「卯月、お疲れ様」
卯月「あの、写真を撮ってくれませんか?」
未央「いいよー」
卯月「ぶいっ!」
凛「そのメイクで笑顔だと……」
未央「しまむースマイルを消し去るとは……何たるメイク術!」
凛「海外から美術スタッフが来たって、本当なの、プロデューサー?」
CoP「本当です」
未央「コレ、かかってますなぁ」
CoP「そのポーズは土屋さんにお任せしましょう」
凛「費用とか大丈夫なの?」
CoP「いや、ダメ。本当は、寝かされた後しか撮らないつもりだったんだけど」
卯月「そうなんですか?」
未央「しまむー、お水飲む?1時間くらい、その恰好だよね?」
卯月「ありがとうございますっ」
未央「ストロー、ストローっと。はい、しまむー」
卯月「ちゅー……」
凛「死体が水飲んでる……」
CoP「何だったらライブシーンも取るつもりないし、ステージを借りるつもりもないし、きらりちゃんのシーンを撮る予定もなかったんですが……」
凛「何か、あったの?」
CoP「いつの間にか海外から特殊メイクチームが来るのも、会場も決まってて」
ヘレン「ヘイ!ニュージェネレーション!撮影は順調かしら?」
凛「あー……大体わかった」
216 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 23:07:36.10 ID:HFCwBUJw0
撮影中の一幕・その2・安らぎの香り
射手の地下通路
カットカット!
夏美「はい、お疲れ様!」
のあ「お疲れ様……水野翠、起きれるかしら」
翠「ありがとうございます。この通り、立てました」
のあ「穏やかな死に顔……文脈が示す感性通り」
夏美「演技が上手よね。何か、秘訣でもあるの?」
翠「いいえ、この血糊は安らぐ香りがするので」
夏美「そうなの……あ、ホントだ。花の香りがする……」
のあ「人間は不思議……示された感情を見間違える」
翠「この香りが好きなので、血糊が使うシーンが増えると嬉しいかもしれません」
夏美「それ、誤解されないようにね?」
217 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 23:10:20.00 ID:HFCwBUJw0
オマケ・CGプロ所属のアイドル一覧
赤西瑛梨華
ラブリーバラドル。東郷邸でまゆと暮らしていた。上京時は別の事務所だったとのこと。
五十嵐響子
卯月、響子とユニットを結成している。真奈美が彼女のモノマネを得意とする。
小日向美穂
カワイイ。みくにゃんがソロ曲をカバーしてライブで歌っていた。
神谷奈緒
真奈美を師匠と慕っているらしい。みくにゃんがソロ曲をカバーしてライブで歌っていた。
服部瞳子
のあのかつての依頼人。CGプロで芸能活動を再開した。頼れるお姉さんとのこと。
速水奏
人気急上昇中のアイドル。卯月に立ち直るきっかけを与えてくれた。
大槻唯
相川先生が好きなアイドル。彼女の存在が相川先生の価値観を変えたらしい。
日野茜
梅木音葉が気になっているアイドル。志希によると声を真似る練習を音葉がしているとか。
本田未央
卯月と仲の良いアイドル。とはいえ、ユニット活動はないとのこと。
諸星きらり
CGプロのAランクアイドル。彼女の活躍により、今の事務所と女子寮が備えられた。
前川みく
カワイイネコちゃんアイドル。悲劇の後に気丈に耐えていたが、帰りの車で泣いてしまったらしい。
218 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 23:12:23.42 ID:HFCwBUJw0
P達の視聴後
PaP「費用だが、何とかなった」
CoP「良かった、助かりました」
PaP「企画の方に入ると、気苦労が増えるな」
CoP「はい。ですが、これが仕事ですから」
CuP「疑問があります。何故、まゆがセンターでないのでしょう?」
PaP「こういう奴もいるからな。大変だ」
CoP「劇中の設定ですから、ご勘弁ください」
PaP「ちゃんと回答するんだな。準主役だし、良い役だものな」
CuP「それはそれ、これはこれです」
CoP「そうなると、私の出る幕が……」
PaP「事務所的にはセンターとなると、きらりちゃんか卯月ちゃんしかいないと思うけどね」
CuP「まさか、まゆの魅力を全然わかってないのですか?センターに相応しくないと?」
PaP「実力は認めるさ、そうだ!」
CoP「何か思いつきましたか?」
PaP「まゆちゃん、センターにしよう。だから、ライブツアーの地方公演1つはお前に任せた」
CuP「……はい?」
CoP「唐突ですけど、賛成です。がんばりましょう」
おしまい
219 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 23:14:17.19 ID:HFCwBUJw0
あとがき
渋谷凛の未来は、出会い次第。
次回、最終話。決着の時。
次回は、
古澤頼子「高峯のあの事件簿・マスターピース」(完)
です。
それでは。
220 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2020/04/29(水) 23:16:47.75 ID:HFCwBUJw0
シリーズリスト・公開前のものは全て仮題
高峯のあの事件簿
第1話・ユメの芸術
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1472563544/
第2話・毒花
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475582733/
第3話・爆弾魔の本心
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1480507649/
第4話・コイン、ロッカー
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1484475237/
第5話・夏と孤島と洋館と殺人事件と探偵と探偵
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1503557618/
第6話・プレゼント/フォー/ユー
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1513078349/
第7話・都心迷宮
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1521022496/
第8話・『佐久間まゆの殺人』
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1550664151/
第9話・高峯のあの失踪
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1570101339/
第10話・星とアネモネ
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1588154916/
最終話・マスターピース
更新情報は、ツイッター@AtarukaPで。
221 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/04/29(水) 23:20:37.32 ID:tOg5V9uXo
おつー
>>57
>>58
の間は飛んでる?
それとも番号ミスかな
222 :
◆ty.IaxZULXr/
[sage saga]:2020/04/30(木) 10:25:22.57 ID:QoT4gyfw0
>>221
番号ミスです
223 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/01(金) 04:17:06.46 ID:B2NMqZiXO
おつおつ
ずっと音沙汰無かったから忘れ去られてる訳じゃなくて良かったよ
更新情報ツイートではいいんだけど出来れば固定ツイか何かに現在の最新話的なのほしいかな
画像ツイートやRTとかで流石にTL遡って更新情報確認しきれないや
224 :
◆ty.IaxZULXr/
[sage]:2020/05/19(火) 18:03:44.85 ID:qGVq5RR20
>>223
遅くなりましたが、更新情報を既作リストをプロフィール欄に追加しました
293.75 KB
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