渋谷凛「高峯のあの事件簿・星とアネモネ」

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1 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:08:36.73 ID:+FOtccNe0

あらすじ

少女は星と出会う。そして、夜が明ける。

前話
井村雪菜「高峯のあの事件簿・高峯のあの失踪」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1570101339


あくまでサスペンスドラマです。
設定はドラマ内のものです。
グロ注意。

それでは、投下していきます。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1588154916
2 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:09:57.58 ID:+FOtccNe0
メインキャスト

渋谷凛

島村卯月

高峯探偵事務所
探偵・高峯のあ
助手1・木場真奈美
助手2・佐久間まゆ

刑事一課和久井班
警部補・和久井留美
巡査部長・大和亜季
巡査・新田美波

科捜研
松山久美子
梅木音葉
一ノ瀬志希

少年課
巡査部長・相馬夏美
巡査・仙崎恵磨

交通安全課
巡査部長・片桐早苗
巡査・原田美世
3 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:10:25.65 ID:+FOtccNe0


All I met you has changed

If I don’t understanding

But you call me,

I trust you

I want to go to find with you.

序 了
4 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:11:20.65 ID:+FOtccNe0


12月18日(金)



高峯探偵事務所
高峯のあが営む探偵事務所。高峯ビル3階。数年前の大晦日は依頼で大忙しだったとか。

ピンポーン……

高峯のあ「来客……誰かしら」

高峯のあ
探偵。ここ最近は依頼がないので、探偵は事実的に休業中とのこと。

木場真奈美「そのようだ。久々に、依頼主かな」

木場真奈美
のあの助手。ここ最近は助手としての仕事よりも、ボイストレーナーの仕事が忙しいらしい。

佐久間まゆ「はーい、私が出ますよぉ」

佐久間まゆ
のあの助手。期末テストも終わったので、忙しい真奈美の代わりにほとんどの家事をしている。

のあ「まゆ、誰かしら?」

まゆ「あら、雪乃さんですよぉ」

のあ「雪乃?あがってもらって」

まゆ「はぁい。雪乃さん、あがってください」

相原雪乃「こんばんは。ご団欒のところ、お邪魔して申し訳ありませんわ」

相原雪乃
高峯ビル2階にある喫茶店St.Vのマスター。既に厚いコートを着込んでいる。

のあ「構わないわ。座ってちょうだい」

雪乃「ご遠慮しますわ。そろそろ出ますので」
5 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:12:00.31 ID:+FOtccNe0
真奈美「珍しく厚いコートを着ているな」

まゆ「お出かけですかぁ?」

雪乃「これから秋田の実家に帰省しますの。今年はゆっくりとクリスマスとお正月を過ごしますわ」

まゆ「まぁ、素敵ですねぇ」

真奈美「いいじゃないか。喫茶店も長期休みかい?」

雪乃「いいえ。臨時のアルバイトさんが見つかりましたので、菜々さんと志保さんにお任せしますわ」

まゆ「お2人なら問題ないと思いますよぉ」

雪乃「ええ。菜帆さんも冬休みは多めに出てくださるそうですし、クリスマスイベントもお任せしてしまいました」

真奈美「任せるのはいいことだ」

のあ「そうね、上に立つ者には必要なことよ」

雪乃「明日から新しいアルバイトさんも来ますわ。よろしければ様子を見に行ってくださいな」

のあ「そうさせてもらうわ」

雪乃「ありがとうございます。不在の間、よろしくお願いしますわ」

のあ「ええ、何も心配せずにいってらっしゃい」

真奈美「今から出るなら、送って行こうか?新幹線だろう?」

雪乃「心配には及びませんわ。迎えの車が来ていますの。皆さま、よいお年をお迎えくださいな」

まゆ「はぁい、良いお年を」

のあ「雪乃、また来年」

まゆ「雪乃さんのご実家はどちらでしたか?」

のあ「秋田よ。まゆの実家からは近いかしら」

まゆ「近くもないですよぉ、仙台は東北では南の方ですから」

のあ「そうなのね」

真奈美「……迎えの車?秋田から?」
6 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:12:52.67 ID:+FOtccNe0
のあ「帰省の時は、車の迎えが来てるわ」

まゆ「雪乃さんはお嬢様なんですかぁ……いいえ、どう見ても身も心もお嬢様ですねぇ」

のあ「私の家とは比べ物にならないくらいのね。ばあやがいるらしいわ、世話役の」

真奈美「私にはわからない世界だな……」

のあ「昔は随分と世間知らずだったそうだけれど、今は自立してるわ。喫茶店も黒字みたいだし経営者としても立派よ」

まゆ「そうなんですねぇ」

のあ「学ぶことは大切よ。いつでも」

真奈美「そうだな」

のあ「そういえば、真奈美?」

真奈美「どうした?」

のあ「今年の正月は実家に帰るのかしら」

真奈美「仕事の関係もある、長崎には帰らないよ」

のあ「そう。まゆは予定があるかしら」

まゆ「まゆは……特にありませんよぉ。ここでテレビでも見てようかなぁ」

真奈美「のあは予定があるのか?」

のあ「年明けに奈良に行こうと考えてるわ」

まゆ「奈良?」

のあ「叔母に招待されているの。先生にも挨拶に行きたいわ、今年は世話になったから」

真奈美「そうか。しばらく行ってないんだろう、いいじゃないか」

のあ「ええ。それで、提案なのだけれど」

真奈美「提案?」
7 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:14:02.78 ID:+FOtccNe0
のあ「一緒に帰りましょう、どうかしら」

真奈美「なんだ、そういうことか。仕事でない電話をするのが多いと思ったら」

まゆ「のあさん、いいんですかぁ……?」

のあ「なぜ、そんなことを聞くのかしら?」

まゆ「ううん、何でもないですよぉ。一緒に行きますっ」

真奈美「私も行くよ。スケジュールは調整する」

のあ「叔母に伝えておくわ。歓迎してくれるはずよ」

まゆ「楽しみです、のあさんにそっくりなんですよねぇ」

真奈美「この世の中にのあに似てる人物がいるとは思ってもみなかった」

のあ「そんなに気になるかしら……叔母が居たから、自分が特別な美人であることの理解が遅れたのは認めるわ」

まゆ「性格も似てるのでしょうか……?」

真奈美「似てない、はずだ。のあが2人は私でも面倒が見切れない」

のあ「酷い言われようね……性格は似ていないから、そこは心配しなくていいわ」
8 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:17:34.14 ID:+FOtccNe0


22時前

良楠公園
らなんこうえん。風花というお花屋さんが北口の前にある。シンボルの大きな桜が花開く時期では、今はない。

渋谷凛「……そろそろ時間かな」

渋谷凛
最近は良楠公園近くの寝床を利用している。かつては駅近くの花屋の一人娘だった。

島村卯月「あ、あの!」

島村卯月
CGプロダクション所属のアイドル。満開の笑顔で人気を集めている、CGプロダクション期待の星。

凛「……この前の」

卯月「やっと会えましたっ、この前のお礼をしたくて」

凛「別に……お礼なんて」

卯月「ありがとうございましたっ。私、島村卯月です」

凛「……」

卯月「あの!お名前、聞いてもいいですか?」

凛「名前なんて……」

卯月「ダメ、ですか」

凛「別にそういうわけじゃ……凛。し……」

卯月「し?」

凛「凛でいいよ」

卯月「凛ちゃん」

凛「……」

卯月「ちょっとお話しませんか」

凛「え……まぁ、いいけど」

卯月「隣、座っていいですか?」

凛「そろそろ夜の10時だけど。危ないから帰れば?」

卯月「10時……わぁ、本当ですね!」

凛「私も帰るから」

卯月「そうですね。あの……」

凛「前も夜に会ったけど、何してるの?部活?」

卯月「えーっと……聞いていいですか?」

凛「聞いていい?何を?」

卯月「私のこと、知りませんか?どこかで見たこととかありませんか?」

凛「うーん……知らない」

卯月「うぅ、そうですか……もっとがんばらないとっ」

凛「変なの。それじゃ」

卯月「また来ますね。今度はもう少し早い時間に」

凛「……また来る気なの?」

卯月「帰り道ですから、レッスンの後なら何時でも」

凛「……」

卯月「凛ちゃん?」

凛「会えたらね。ばいばい」
9 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:19:33.05 ID:+FOtccNe0


12月19日(土)



のあ「まゆ」

まゆ「まゆはここですよぉ。おはようございますぅ」

のあ「おはようには遅いわね」

まゆ「そうですねぇ、12時も過ぎてますし」

のあ「真奈美は?」

まゆ「朝早くからお仕事に行きましたよぉ」

のあ「そう、最近多いわね」

まゆ「熱心にレッスンをしてるアイドルさんがいるそうですよぉ」

のあ「へぇ……」

まゆ「あらぁ……?興味、ありませんかぁ?」

のあ「聞き過ぎるとファンの領域を逸脱するもの」

まゆ「みくちゃんと同じ事務所ですものねぇ」

のあ「ええ。赤西瑛梨華もでしょう?」

まゆ「はい。瑛梨華ちゃんから聞いた話は、のあさんには秘密です」

のあ「そうしてちょうだい」

まゆ「でも……あまり聞いてないです」

のあ「あなた達の仲なのだから聞けばいいのよ、気軽に。お腹が空いたわ。まゆ、何か準備してるかしら」

まゆ「いいえ。のあさんが中途半端な時間に起きてきそうなので、St.Vに行こうかと」

のあ「ご明察。行きましょう」
10 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:22:16.07 ID:+FOtccNe0


喫茶St.V

喫茶St.V
高峯ビル2階。相原雪乃が営む落ち着いた雰囲気の喫茶店。定期的に新メニューが追加されることも評価が高い理由。

安部菜々「いらっしゃいませっ!」

安部菜々
喫茶St.Vの店員。優秀なウサミンメイド。槙原志保も安部菜々も、この程度のフロア面積なら1人でまわすことは可能とのこと。

のあ「お邪魔するわ」

菜々「のあさんにまゆちゃん、お好きな席へどうぞっ」

まゆ「ありがとうございます」

のあ「ここにしましょうか」

まゆ「はぁい」

のあ「菜々、ランチのメニューをちょうだい」

菜々「かしこまりました〜」

まゆ「今日のランチはなんでしょうか……楽しみです」

のあ「ええ。雪乃が言っていた新しいアルバイトは……いたわ。可愛らしい衣装なのね、菜々のお手製かしら」

水嶋咲「お待たせしましたっ、ランチのメニューをどうぞ♪」

水嶋咲
喫茶St.Vの臨時アルバイト。制服はリクエストに応えたウサミンメイドが製作。
11 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:23:09.99 ID:+FOtccNe0
のあ「え……」

まゆ「ありがとうございますぅ。のあさん、どうしましたかぁ?」

のあ「あなたが臨時のアルバイト?」

咲「あたし、水嶋咲!年明けまでアルバイトに入ってるから、よろしくね♪」

まゆ「よろしくお願いします……佐久間まゆです、上の階の」

咲「聞いてるよ。だから、ちょっとサービス☆」

まゆ「サービス?この紙は……?」

咲「シホナホが和パフェ特訓中なんだ☆良かったら頼んでね♪」

まゆ「そうなんですかぁ。考えてみますねぇ」

のあ「……聞いていいかしら」

咲「あたしに?」

のあ「雪乃、知ってるのよね?」

まゆ「何をですかぁ?」

咲「……」

のあ「……」

咲「うん。知ってるよ。逆にね、声をかけてくれたんだ。ここにお客さんとして来た時に」

のあ「……雪乃が許したのなら私は反対しないわ。雪乃が不在の間、よろしく頼むわ」

咲「パピッとお任せ!決まったら呼んでね♪」

のあ「ええ。さて、何にしようかしら」

まゆ「あの……お知り合い、ですか?」
12 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:23:40.86 ID:+FOtccNe0
のあ「会ったのは初めて。声を知ってるわ」

まゆ「声?」

のあ「聞きたいのなら、戻った後に言ってちょうだい」

まゆ「わかりましたぁ。まゆは決めましたよぉ、クロワッサンサンドにします」

のあ「私はカレーにするわ」

まゆ「パフェは……」

のあ「志保に聞いてからにしましょう」

まゆ「凄い量が出てきそうですよねぇ……一番下のとか」

のあ「同感よ。注文いいかしら?」

咲「はーい、ただいまっ!」
13 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:24:32.72 ID:+FOtccNe0


喫茶St.V

槙原志保「お待たせしました!カレーとクロワッサンサンドのランチですっ」

槙原志保
喫茶St.Vの店員。学生時代からウェイトレスのバイトをしていたとのこと。

のあ「カレーは私。クロワッサンサンドはまゆよ」

志保「はーい」

まゆ「ありがとうございますぅ」

のあ「見慣れないサラダとスープね。何かしら?」

志保「菜々さんの気まぐれです、食べてのお楽しみ。それと、のあさんはこれ使ってくださいね」

まゆ「瓶に入った……」

のあ「スパイスね」

志保「水嶋さんから頂きました、カレーに拘りのある友人がいらっしゃるそうですよ」

のあ「そう。ありがたく使わせてもらうわ」

志保「辛いので少しずつ使ってくださいね」

のあ「志保、ちょっといいかしら?」

志保「追加オーダーですか?」

のあ「志保も菜々もわかってるのかしら?」

志保「はい、マスターからお話いただいてますから」

のあ「もう一つ、聞いていいかしら。この和パフェなんだけれど」

志保「特訓中なのでお試し価格なんです」

まゆ「2人で食べるなら、オススメはどれですかぁ?」

志保「そうですねぇ、これとこれは2人でシェアするのがいいと思います」

のあ「1人用は」

志保「さっきのは、私と菜帆ちゃんなら1人分です。オヤツの時に」

のあ「ありがとう。よくわかったわ」

まゆ「じゃあ、これにします」

志保「オーダーありがとうございます。食後にお飲み物と一緒にお持ちしますね」

のあ「ちなみにだけれど、一番高いこれは?」

まゆ「限定1食って……書いてありますね」

志保「それは……こうで、こうで、これくらいです!」

まゆ「志保さんが両腕で抱えるくらい?」

のあ「何人用よ……そんな器があるのかしら」

志保「マスターにクリスマスプレゼントでいただきました!すっごく素敵なんですよ!」

のあ「クリスマスプレゼントのチョイスを間違ってるわ、雪乃……」
14 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:25:48.76 ID:+FOtccNe0


高峯探偵事務所

のあ「……」

まゆ「のあさん、休憩しませんか?」

のあ「そうね。パフェの糖分を使い切るわ、このままだと」

まゆ「美味しかったですねぇ。菜帆ちゃんはもっと良くなると言ってましたけれど」

のあ「私には分からない領域ね」

まゆ「今は何を考えているんですか?」

のあ「次について」

まゆ「次……ですか」

のあ「古澤頼子が行う、次のこと」

まゆ「のあさんが誘拐されてからは何もしてませんけれど……」

のあ「次がないと思うかしら」

まゆ「……思いません」

のあ「このまま消えるのなら、井村雪菜を殺したりしないでしょう」

まゆ「それも……命令ですかぁ」

のあ「古澤頼子の命令だと考えているわ」

まゆ「……」

のあ「古澤頼子の目的は何かしら?」

まゆ「わかりません……」

のあ「そう、わからない。怨恨、金銭、あるいは政治的な主張」

まゆ「そういうのじゃありません」

のあ「ええ。それでも、わかっていることは?」

まゆ「誰かを標的にしている?」

のあ「正解。私の誘拐は、私でも真奈美でもなく」

まゆ「誘拐犯だった……人」

のあ「罪を犯す、あるいは犯している人物。つまり……」

まゆ「つまり?」

のあ「古澤頼子の協力者」

まゆ「仲間を……標的にするんですか」

のあ「ええ。松永涼だって、そうだったでしょう」

まゆ「はい……心当たりはありますか?」

のあ「人物の特定はできていないけれど、協力者はまだいるわ。例えば、殺し屋」

まゆ「殺し屋……」

のあ「大石泉が見ているわ。私を誘拐したのも単独犯ではないでしょう」

まゆ「のあさんが悩んでいるのは……誰かわからないからですか」
15 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:26:49.85 ID:+FOtccNe0
のあ「誰も、何を、どこも、いつもわからない」

まゆ「……」

のあ「起きてから追いかけるのでは遅いわ。止めるわ」

まゆ「でも……難しいんですよね。のあさんが、ずっと悩んでるのに」

のあ「手掛かりは少ない。でも、やるしかないわ」

まゆ「わかってます、のあさん」

のあ「休憩すると言ったのに、ダメね。休みましょう」

まゆ「はい、コーヒーを淹れますねぇ」

のあ「ありがとう、まゆ」
16 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:29:07.48 ID:+FOtccNe0




良楠公園

卯月「いち、に、さん……」

凛「……今日は先にいるんだ」

卯月「あっ、凛ちゃん!こんばんは!」

凛「……もしかして、待ってたの?」

卯月「はいっ、半分はそうです」

凛「半分……残り半分は何かの練習?」

卯月「ステップの確認をしてるんです、よくここで練習してて」

凛「ダンス?」

卯月「はいっ。来月大切なステージなんです」

凛「ふぅん……ダンス部なんて意外」

卯月「部活じゃないですよ。私、実は」

凛「実は……?」

卯月「アイドルなんですっ」

凛「……」

卯月「あ、あれ?本当ですよ?信じてませんか?」

凛「嘘をつくタイプには見えない。本当なんでしょ」

卯月「驚かないんですね」

凛「別に、興味ないから」

卯月「凛ちゃんはクールですねっ」

凛「続けてていいよ……邪魔しないように帰るから」

卯月「待ってください、凛ちゃんとお話に来たんです。今日は、時間ありますよね?」

凛「時間はあるけど……私が話すことなんてない」

卯月「お花の話を、聞きたくて」

凛「花の話……なんで?」

卯月「お花の話をするときの凛ちゃん、素敵でした」

凛「はぁ?」

卯月「今日はいいですよね、ね?」

凛「いいけど……」

卯月「それじゃあ、ベンチに行きましょう!こっちです、凛ちゃん!」

凛「結構強引だよね……アンタ」
17 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:29:36.37 ID:+FOtccNe0


良楠公園

凛「高校は行ってない。今は仕事をしてる」

卯月「どんなお仕事なんですか?」

凛「……便利屋みたいなこと」

卯月「わぁ、カッコイイです!」

凛「そうかな……」

卯月「あれ、もうこんな時間!帰らないと、明日もレッスンなんですっ」

凛「朝から?」

卯月「はいっ」

凛「今日もレッスンなのに自主トレもして……元気だね」

卯月「好きだから、がんばれますっ」

凛「……そうなんだ」

卯月「今日はありがとうございました!もっと色々なこと聞かせてくださいねっ」

凛「会えたらね、島村……さん?」

卯月「卯月でいいですよ、凛ちゃん!」

凛「じゃあね……卯月」

卯月「はいっ、またここで」

凛「……わかった」

卯月「ばいばーい」

凛「……ばいばい」
18 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:31:25.25 ID:+FOtccNe0


深夜

高峯探偵事務所

のあ「島村卯月?」

真奈美「ああ。知ってるよな?」

のあ「知ってるわ」

真奈美「CGプロの合同ライブの映像も、そこでよく見ているものな」

のあ「前回のライブも買ったわ。みくにゃんのファンクラブ向け特典のインタビューが最高だったわ」

真奈美「お買い上げありがとう」

のあ「次の合同ライブは行けないけれど。映像が出るのを待つわ」

真奈美「おや、そうなのか?」

のあ「冬の広い屋外ステージでセンター不在となれば余裕だと思ったのだけれどね……みくにゃんファンクラブ内にも嵐が吹き荒れてるわ」

真奈美「適切な会場が抑えられなかった、とか言っていたな」

のあ「活動が長ければ、そういうこともあるわ。次の機会を楽しみに待っていましょう」

真奈美「珍しく冷静だな」

のあ「私はいつも冷静だけれど」

真奈美「我を無くして、金の力で潜り込む算段をするか、悲嘆にくれるものだと」

のあ「そんなことしないわ。私は品行方正なみくにゃんファンよ」

真奈美「わかってるよ」

のあ「……確かに手段は色々あるわね」

真奈美「そこまで言っておいて、悩まないでくれ」

のあ「私の話はいいわ。それで、島村卯月のレッスンをしてるのね」

真奈美「島村君だけじゃないが、彼女が多めに入ってるな」

のあ「真奈美にとっては臨時収入かしら」

真奈美「どういうわけか依頼が集中していてな。偶には、のあにご馳走しようか?」

のあ「結構。真奈美が欲しい物でも買いなさい」

真奈美「欲しい物か……」
19 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:32:30.63 ID:+FOtccNe0
のあ「保管場所はあるから好きな物を買えばいいわ。物が少ないわよね、真奈美は」

真奈美「のあと比べれば誰でも少ないさ」

のあ「まゆと比べても少ないでしょうに。何かないの?高くて手の届かなかったもの、とか」

真奈美「思い浮かばないな。ま、無駄遣いせずに貯めておくよ」

のあ「真奈美は、貯めて何をするのかしら」

真奈美「のあのおかげで生活は困っていないな」

のあ「生活のためでないのなら、何?」

真奈美「スキルアップか、趣味かな」

のあ「趣味ねぇ」

真奈美「のあの探偵業と一緒だな」

のあ「そうかしら」

真奈美「そうだよ。理由はもう一つ」

のあ「もう一つ?」

真奈美「使命感だよ」

のあ「使命感……」

真奈美「のあと同じ。依頼人を放ってはおけないのさ」

のあ「……」

真奈美「心当たり、あるだろう?」

のあ「ええ。働きづめで、無理はしないでちょうだい」

真奈美「こっちのセリフだ。1人で動くなよ?」

のあ「わかってるわ」

真奈美「というわけで、島村君のレッスンをしている。なにせ、センターだからな」

のあ「待って。センターなの?」
20 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:33:42.08 ID:+FOtccNe0
真奈美「そうだ。今日の昼に、対外向けにも発表されてる」

のあ「みくにゃんではないのね。CGプロのアイドル部門全員で構成されるシンデレラガールズのセンターでありAランクアイドルの諸星きらりが参加しない最初の合同ライブでシンデレラガールズのセンターを務めるのは、みくにゃんではないのね?」

真奈美「そうだが、よくそんなまどろっこしい言い方を一息で話せるな」

のあ「そうなのね……」

真奈美「前川君にセンターを務めて欲しかったのか?」

のあ「先に言っておくと、島村卯月を選んだことは素晴らしい選択よ。理由は私でもわかるほどに。真奈美、手伝ってあげなさい」

真奈美「私は歌のレッスンをすることしかできない。彼女は世間の人が知っているよりも立派だよ」

のあ「だけれど、みくにゃんがセンターを務めて欲しかったわ。それは仕方ないの、大好きだからしかたないの。だって、推しが一番だもの。推しがセンターに立ったら、人は泣くのよ。ソロとは違うの、素晴らしいことなの。みくにゃんがセンター……」

真奈美「まさか想像だけで泣けるのか?」

のあ「泣くのは叶ってからにするわ。みくにゃんなら叶えられるはず」

真奈美「そっちには同意する」

のあ「そろそろ休むわ」

真奈美「ああ。そういえば、言い忘れていた」

のあ「何か?」

真奈美「赤西瑛梨華がここに来たいと言っていた、連れて来ていいかい?」

のあ「もちろん、私は構わないわ。まゆは聞いてるの?」

真奈美「赤西君から連絡しているはずだ」

のあ「まゆが良いなら歓迎するわ。お休み、真奈美」

真奈美「本当に休めよ、のあ」

のあ「わかってるわ」

真奈美「……少し気晴らしが必要かな」
21 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:34:38.56 ID:+FOtccNe0
10

12月20日(日)



某雑居ビル3階・空きテナント

凛「……」

古澤頼子「こんにちは、渋谷凛さん」

古澤頼子
静かにドアをあけて、彼女は現れた。意外にもピンクのセーターを着ている。

凛「来るなら言ってよ」

頼子「いいえ」

凛「いいえ?」

頼子「そのためにお願いしたのですから」

凛「意味がわからない」

頼子「いかがでしょうか」

凛「アパートはさっぱり。来客すらほとんどいない」

頼子「わかりません。ですが、来るとしたら」

凛「クリスマスか年末年始。去年は訪ねて来てる」

頼子「お願いします」

凛「ねぇ、頼子」

頼子「なんでしょう、渋谷凛さん?」

凛「名前、なんで呼ぶようになったの?」

頼子「いけませんか」

凛「前は死んだ人間として会話もしなかった。今はしてる。なんで?」

頼子「理由は深くありませんが強いて言うのなら、気が変わりました」

凛「気が変わった?」

頼子「面倒でしたから。私も人間ですから、気が変わるのです」

凛「……」

頼子「寝床はいかがでしょう」

凛「悪くないよ。人がいなくなるまで待たないといけない以外は」

頼子「そうですか」

凛「別にここで寝てもいいんだけど」

頼子「夜にいると怪しまれますよ」

凛「ふうん。そもそも、夜は見張ってなくて問題ないの?」

頼子「問題ありません」

凛「どうして」

頼子「彼が夜に訪れることはありません」

凛「なんで言い切れるの?」

頼子「絶対だからですよ。引き続きお願いしますね、渋谷凛さん」
22 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:36:41.44 ID:+FOtccNe0
11

夕方

高峯探偵事務所

真奈美「帰ったぞ」

まゆ「真奈美さん、おかえりなさい……あっ!」

赤西瑛梨華「まゆちゃん、逢いたかったYO☆」

赤西瑛梨華
ラブリーバラドル。まゆとは一時期一緒に暮らしていた。現在はCGプロ所属で事務所の寮住まい。

まゆ「瑛梨華ちゃん、まゆも逢いたかったです……ギュッ……」

瑛梨華「HA・GU☆」

まゆ「……」

瑛梨華「……」

真奈美「急に静かになって、どうした?」

瑛梨華「うーん☆ちがう!」

まゆ「うふふ……そんな間柄じゃないですよね」

瑛梨華「うんうん。ただいまーって言ったら、台所から返事が来るくらいで!」

まゆ「私もそう思います」

瑛梨華「ちょっと前も会ってるし☆」

まゆ「改めて……瑛梨華ちゃん、おかえりなさい」

瑛梨華「まゆちゃん、ただいま☆」

のあ「あら、赤西瑛梨華。来たのね」

瑛梨華「のあちゃん、O・HI・SA☆」

のあ「お久しぶり。真奈美、お茶でもいれてちょうだい」

真奈美「わかった」

まゆ「それじゃあ、まゆが……」

真奈美「いいや、ここは私がやろう。先に座っていてくれ」

のあ「赤西瑛梨華、好きな所に座ってちょうだい。まゆも、よ」
23 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:37:46.95 ID:+FOtccNe0
12

高峯探偵事務所

のあ「合同ライブは初めてなのね」

瑛梨華「瑛梨華ちゃんは小さい会場で数をこなすタイプ!」

真奈美「それが出ない理由にはならないぞ」

瑛梨華「真奈美ちゃんのO・NI!」

のあ「前も言ってたわね、そんなこと」

まゆ「真奈美さん、厳しいんですかぁ?」

瑛梨華「いえーす。べりべりはーど」

真奈美「青木トレーナーの方がよほど厳しいと思うが。特に麗君は」

瑛梨華「ツッコミがTU・YO・I・ZO☆」

のあ「確かに」

真奈美「のあの言動は時々突飛だからな……」

瑛梨華「そんな真奈美ちゃんのおかげで、瑛梨華ちんもビックライブデビュー!」

まゆ「おめでとう、瑛梨華ちゃん」

瑛梨華「そうそう、というわけでHO・N・DA・I☆」

のあ「本題?」

瑛梨華「ライブにご招待☆瑛梨華ちんを一緒にO・U・E・N☆」

まゆ「まぁ……チケットいただいていいんですかぁ?」

瑛梨華「まゆちゃん、のあちゃんと一緒に来てYO☆」

まゆ「はい……行きます」

瑛梨華「のあちゃんもみくにゃんのファンなんでしょー?」

のあ「そうだけれど……真奈美、話した?」

真奈美「チケットがないことも話したが、関係ないぞ。赤西君が佐久間君を招待すると決めたのはそれより前だ」

瑛梨華「そうそう☆」

のあ「……」

瑛梨華「あれ?ノー乗り気?」

のあ「遠慮するわ」

まゆ「みくにゃんさんが大好きなのあさんが……まさか」

瑛梨華「みく質を食べて生きてるのあちゃんが!」

のあ「まゆ、東郷邸にいた誰かと行ってきなさい。それがいいわ」

瑛梨華「へー」

まゆ「はぁい……そうします、のあさん」

瑛梨華「のあちゃん、やさしー!」

のあ「真奈美、予想外だったかしら」

真奈美「いいや。そう言うかな、と思ってた」

瑛梨華「おー、以心伝心?」

真奈美「みく質に頭をやられて、前川君狂いなのは事実だが、のあはそれだけじゃないよ」

のあ「当たり前でしょう」

まゆ「それじゃあ……由愛ちゃんと一緒に行こうかなぁ」
24 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:38:49.84 ID:+FOtccNe0
のあ「成宮由愛?」

真奈美「そう言えば、清路市内にいるのか」

瑛梨華「保奈美ちゃんの舞台もよく見に来てたから、一緒にO・I・DE☆」

まゆ「連絡してみますねぇ、うふっ……楽しみです」

のあ「成宮由愛……」

真奈美「のあ、成宮由愛に何かあるのか?」

のあ「いいえ。まゆ、機会があったら成宮由愛に会いたいわ。いいかしら」

瑛梨華「由愛ちゃんと?」

まゆ「わかりました、それも話してみます」

のあ「必ず、とは言わないわ。成宮由愛も忙しいようだし」

真奈美「そうなのか?」

瑛梨華「また個展やるとか言ってたYO☆」

真奈美「売れっ子なんだな」

のあ「楽しんで来てちょうだい」

まゆ「はぁい。瑛梨華ちゃんの舞台を見るのは久しぶり……」

真奈美「ほう、前もライブだったのか?」

まゆ「前は音楽じゃなくて、漫才のライブでした」

瑛梨華「あの時は、ウケもスベリも盛りだくさんだった☆」

まゆ「ふふっ……」

のあ「お笑いのライブもいいわね、時には」

瑛梨華「おや、のあちゃんはわかるくち?」

のあ「私だって、関西人の両親から産まれたもの」

まゆ「あまり想像はつきませんねぇ」

真奈美「そうだな。大笑いするタイプじゃないものな」

のあ「笑うわよ。私はマネキンでもアンドロイドでもないのだから」

真奈美「それ、誰かに言われたのか?」

のあ「昔に留美にね……あの頃は口が悪かったわね、今と比べて」

瑛梨華「おっと!」

まゆ「瑛梨華ちゃん、どうしました?」

25 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:39:27.90 ID:+FOtccNe0
瑛梨華「寮の夕ご飯、行かなきゃ☆」

真奈美「ここで夕食を食べていかないのか」

まゆ「そうですよぉ」

のあ「私は構わないけれど」

瑛梨華「夕飯の後に打合せ、お誘いありがと☆」

のあ「あら、忙しいのね」

瑛梨華「プロデューサーちゃんがねー」

まゆ「そうですかぁ……また、来てくださいね」

瑛梨華「まゆちゃんが寮に遊びに来てもいいよ☆」

のあ「いいのかしら。事務所の女子寮でしょう?」

真奈美「佐久間君ならいいだろう。家族みたいなものだからな」

瑛梨華「真奈美ちゃんの許可もでたし、瑛梨華ちんはO・SA・RA・BA☆」

のあ「真奈美、送ってあげて」

真奈美「ああ。瑛梨華君、行こうか」
26 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:40:36.03 ID:+FOtccNe0
13

12月21日(月)



高峯探偵事務所

のあ「……」

真奈美「地図を眺めているのは楽しいか?」

のあ「楽しく見えるかしら」

真奈美「いいや。キレイな顔に皺が寄ってしまいそうで心配だ」

のあ「皺の心配は無用。私の遺伝子は並じゃないわ」

真奈美「皺以外なら心配してもいいか?」

のあ「ご自由に……潜伏先はリセットして考えなおしかしら」

真奈美「のあ」

のあ「なに?」

真奈美「出かけよう」

のあ「出かける用事はないけれど。どこにかしら」

真奈美「カラオケかボウリングあたりかな」

のあ「学生みたいな選択肢ね」

真奈美「確かに」

のあ「もっとも、私の学生時代には無縁だったけれど」

真奈美「それなら、今のうちにしておくか」

のあ「カラオケもボウリングもしたことあるわ」

真奈美「つまりだ、私は気晴らしに行こうと誘ってるだけさ」

のあ「……」
27 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:41:44.06 ID:+FOtccNe0
真奈美「おそらく、このまま同じ状態で悩んでいても答えは出ないぞ」

のあ「それは、私もわかってるわ」

真奈美「それなら、問題ないな」

のあ「わかったわよ。出かける準備をするから待ってなさい」

真奈美「了解だ」

のあ「そうだ、ひとつだけ」

真奈美「なんだ?」

のあ「ゲームセンターにも行きましょう。いいかしら」
28 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:43:10.22 ID:+FOtccNe0
14



良楠公園

卯月「今日は凛ちゃん、来ないのかな?」

相馬夏美「こんばんは。ちょっといい?」

相馬夏美
清路警察署少年課所属。階級は巡査部長。夜回りを兼ねたランニングの途中。

卯月「こんばんは!ランニングですか?」

夏美「そうよ、最近ストレスで食べ過ぎなのかお腹にお肉がねぇ……ちょっと長めに走ってるの」

卯月「そんなっ、痩せてますよ?」

夏美「ありがと、痩せるんじゃなくて太らないためなの。次に会った時も痩せてると行って貰うようにがんばるわ」

卯月「はい、がんばってくださいっ!」

夏美「あなたはこんな時間に公園のベンチに座って何をしてるの?学校の制服みたいだけど」

卯月「えっと、レッスンの帰りなんです。学校から直接事務所に行って、この公園は帰り道の途中にあるんです」

夏美「レッスン……あー」

卯月「はいっ。ダンスのレッスンです」

夏美「わかった。早く帰るのよ、治安は悪くないけれど用心に越したことはないのだから」

卯月「はいっ」

夏美「ライブがんばってね、島村卯月さん」

卯月「はいっ、島村卯月がんばりますっ!」

夏美「じゃあね♪」

卯月「あれ?私のこと知って……走るの速いです、行っちゃった」

凛「……行ったかな」
29 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:45:43.40 ID:+FOtccNe0
卯月「凛ちゃん!」

凛「卯月、待ってたの」

卯月「少しだけです」

凛「待たせたお詫び。ホットレモン、キライじゃないよね」

卯月「ありがとう、凛ちゃん。レモンは疲れた時にいいんですよね」

凛「卯月、疲れてるの?」

卯月「年末休暇の前に、少しだけがんばってレッスンしてるんです」

凛「ふうん、そうなんだ」

卯月「凛ちゃんもあのお姉さんとお話が終わるまで待っててくれたんですか?」

凛「待っていたというか……見つかりたくなくて」

卯月「え?」

凛「警察官だよ、さっきの」

卯月「警察の人だったんですか、だから走るのが速いしカッコイイんですね!」

凛「補導とか担当してるんだけど……厄介だから」

卯月「そうなんですか?ステキな人に見えましたよ?」

凛「だからというか……家から近くないしランニングコースでもないよ」

卯月「そうなんですか?」

凛「日課なのに見たことないでしょ、あいつ。夜回りで色々な所を走ってるから」

卯月「そう言えば……」

凛「警察には会いたくない」

卯月「私も警察の人を見ると背筋が伸びちゃいます」

凛「卯月」

卯月「なんですか、凛ちゃん?」

凛「私はいないことにして。さっきみたいに」

卯月「……」

凛「誰にも。名前もダメ。特に警察には」

卯月「えーっと……」

凛「本当は卯月だって……わかってるでしょ」

卯月「……」

凛「……」
30 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:46:44.85 ID:+FOtccNe0
卯月「わかりません!けど、わかりましたっ!」

凛「大丈夫かな……まぁ、そういうことだから」

卯月「はいっ。約束ですっ」

凛「約束……」

卯月「指切りしますか?」

凛「いいよ、そんなの」

卯月「はいっ!」

凛「いや……要らないって意味で……」

卯月「?」

凛「……わかった」

卯月「ゆーびきりげんまんー」

凛「うそついたらー」

卯月「はりせんぼんのーます」

凛「おーわかれよ」

卯月「え?」

凛「ゆびきった」

卯月「針千本飲ます、じゃないんですね」

凛「……最後は別に何でもいいから」

卯月「約束を守れば、お別れしなくて済みますか?」

凛「……」

卯月「さっきのは気にしないでください!そう言えば、今日教室でこんなことがあったんですよっ」

凛「……」

31 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:49:54.11 ID:+FOtccNe0
15

高峯探偵事務所

のあ「ボウリングは負けたわ。3ゲームの合計で、私が444」

真奈美「私が459。逃げ切れたよ」

まゆ「スコアが高いですねぇ」

真奈美「そうか?」

のあ「素人の女性としては高いでしょう」

まゆ「昔、練習してたとか?」

のあ「遊びで何回か。真奈美は」

真奈美「私も一緒だ」

のあ「真奈美の嗜むは怪しいけれど、ボウリングはそうみたいね」

まゆ「まゆだったら50くらいかなぁ」

のあ「真奈美、これが女子力よ」

真奈美「違うぞ?」

まゆ「このぬいぐるみ達はどっちが?」

のあ「それは私。才能があるみたいね」

真奈美「才能と財力の合わせ技だな」

まゆ「カワイイですねぇ。のあさんが選んだんですかぁ?」

のあ「ええ」

まゆ「こういうのが好きだったんですねぇ」

のあ「違うけれど。取れそうだから、選んだだけよ」

真奈美「照れ隠しだな」

のあ「ご自由にどうぞ。シューティングゲームは、挑戦してみたけれど」

まゆ「負けちゃいました?」

のあ「ええ。無謀だったわね」

真奈美「面目を保つのに必死だった。上手かったぞ」

まゆ「ゲームをやっていたとか?」

のあ「違うわ。私が練習していたのは実弾よ」

まゆ「え?実弾?」

真奈美「……ふっ」

のあ「……」

まゆ「あのぉ……笑顔で誤魔化さないでくれませんかぁ?」

32 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 19:50:28.43 ID:+FOtccNe0
のあ「私が言いたいことは、木場真奈美は凄いということ。カラオケも負けたわ」

真奈美「採点で勝負してみたんだが、これは負けるわけにはいかないからな」

のあ「負けてはいけない勝負ほど大変ね」

真奈美「まったくだ。あんなにHotel Monnsideが上手いとは思わなかった」

まゆ「CGプロの速水奏ちゃんの?」

真奈美「そうだ」

のあ「門前の小僧習わぬ経を読む、ね」

まゆ「ライブ映像で覚えたんですねぇ」

真奈美「まぁ、楽しかったよ。のあも意外な趣味も分かったしな」

まゆ「意外な趣味?」

真奈美「ロックが好きだったんだな。一昔前の」
33 : ◆ty.IaxZULXr/ [sage saga]:2020/04/29(水) 19:51:23.12 ID:+FOtccNe0
>>32
スペルミス Moonside
34 : ◆ty.IaxZULXr/ [sage saga]:2020/04/29(水) 19:52:11.47 ID:+FOtccNe0
まゆ「そうなんですかぁ、シャウトするとか?」

真奈美「結構していたな」

まゆ「意外でしたぁ、だって」

のあ「だって?」

まゆ「みくにゃんの曲しか知らないと思ってましたよぉ」

真奈美「何も躊躇わずに言ったな」

のあ「まぁ、そう見えるでしょうね」

真奈美「ロックはいつ聞いていたんだ?」

まゆ「最近は聞いてないですよねぇ」

のあ「父が好きだったの。父が車内で流しているのを聞いていたわ」

真奈美「今は聞かないのか?」

まゆ「真奈美さん、それは……」

のあ「まゆ、大丈夫。聞いたところで、枕元にも立ってくれないもの」

まゆ「……」

真奈美「大丈夫の意味が違うよ、佐久間君」

のあ「ええ。聞きたくなったら聞けば良かったのね、理由なんて付けずに」

真奈美「今日は楽しかったか?」

のあ「楽しかったわ、ありがとう。父が聞いていたロックも、改めて聞いてみるわ」

まゆ「うふふっ……今度はまゆも連れていってください」

のあ「そうね、真奈美のアイドルソングも聞くと良いわ」

まゆ「真奈美さんがアイドルのお歌を……?」

のあ「上手かったわ、五十嵐響子みたいだったの」

まゆ「響子ちゃんみたい……?」

真奈美「私は教えないといけないからな。のあの前川君も上手かったぞ」

のあ「当然よ」

まゆ「普通できないですよぉ」

のあ「真奈美にコツも教わったわ。これで私も前川みくにもう一歩近づいたわ」
35 : ◆ty.IaxZULXr/ [sage saga]:2020/04/29(水) 19:53:22.99 ID:+FOtccNe0
真奈美「近づく必要は全くないが」

まゆ「それにしても、のあさんと真奈美さんは勝負が好きなんですねぇ。意外です」

のあ「そうかしら」

まゆ「喧嘩とか言い争いも見たことなかったので」

真奈美「私はのあと張り合うのキライじゃないんだ、前も言った通り」

のあ「私もキライじゃないわ。真奈美は何事も真剣にやるから」

真奈美「何事も本気にやるのがいいのさ、斜に構えずに」

のあ「そうね、早めに気づいていたら良かったわ」

まゆ「今日は本気でした?」

のあ「ええ、だから気晴らしになったわ。ありがとう、真奈美」

真奈美「それは良かった」

のあ「今日は何も考えずに眠るわ。その方が、閃く可能性は高そうだもの」
36 : ◆ty.IaxZULXr/ [sage saga]:2020/04/29(水) 19:54:23.53 ID:+FOtccNe0
16

12月22日(火)



のあ「おはよう」

真奈美「おはよう。今日は早いな」

のあ「早めに寝たら、自然と目覚めたわ」

真奈美「それは良かった。朝食は何がいい?」

のあ「トーストとコーヒー。コーヒーは半分くらい牛乳で、砂糖はいらないわ」

真奈美「わかった。待っていてくれ」

のあ「今日は真奈美の担当なのね、まゆは?」

まゆ「まゆはここですよぉ。おはようございます、のあさん」

のあ「おはよう」

まゆ「真奈美さん、今日のお夕飯はお願いしますねぇ」

真奈美「わかった。遅くなるようなら迎えに行くよ」

まゆ「そこまでは遅くならないと思います。のあさん、行ってきます」

のあ「いってらっしゃい」

真奈美「気をつけるんだぞ」

のあ「いつもより早いわね」

真奈美「朝活中だそうだ。テレビでもつけたらどうだ?」

のあ「朝活?」

真奈美「授業が始まる前を、クラスメイトとの趣味の時間にしているそうだ」

のあ「それは有意義ね……あら、テレビに日野茜が出てるわ。朝から元気ね」

真奈美「今週は裁縫をしていると言っていたな。テスト前は対策をしていたと言っていたぞ」

のあ「まゆ、前から余裕を持って登校してるわよね?」

真奈美「今日はすることがあるんだろう」

のあ「遅くなるとも言っていたけれど、聞いていたかしら」

真奈美「ああ。先にコーヒーだ」

のあ「ありがとう。その理由は?」

真奈美「……」

のあ「わかったわ。私にはヒミツなのね」
37 : ◆ty.IaxZULXr/ [sage saga]:2020/04/29(水) 19:54:58.11 ID:+FOtccNe0
真奈美「決めつけが早いぞ」

のあ「真奈美が答えないで黙ることなんてほとんどないわ。隠し事なら嘘をすんなりと出るように準備しているでしょうし、本当なら躊躇う理由はない。隠すほどではない、いつかはわかることをヒミツにしている」

真奈美「まぁ、その通りなんだが。少しだけハズレだ」

のあ「ハズレ?」

真奈美「ヒミツにするかしないか悩んだから、言い淀んだ」

のあ「なるほど。それで、どちらにするのかしら」

真奈美「決めた。佐久間君は学校から帰りが少し遅れる理由はヒミツだ」

のあ「わかったわ」

真奈美「夕食当番は交替したから、私にリクエストがあったら言ってくれ」

のあ「流石に朝食前には答えられない」

真奈美「ははっ、その通りだ。トーストはバターとジャムでいいか?」

のあ「ええ。リクエストは思いついたら言うわ」
38 : ◆ty.IaxZULXr/ [sage saga]:2020/04/29(水) 19:55:53.91 ID:+FOtccNe0
17

夕方

星輪学園・校庭

星輪学園
清路市内に所在する歴史ある私立学校。まゆは高等部の2年生。弓道部は強豪とのこと。

高森藍子「まゆちゃん♪」

高森藍子
まゆのクラスメイト。時間を使うことは得意らしい。

まゆ「藍子ちゃん……待っていてくれたんですかぁ?」

藍子「ううん、図書室にいたんです。一緒に帰りませんか?」

まゆ「うん」

藍子「どうでした、進路相談?」

まゆ「そうですねぇ……川島先生と話して良かったです」

藍子「うんうん」

まゆ「でも……もう少し悩もうかな」

藍子「まだ時間はあるから大丈夫。のあさんには話したんですか?」

まゆ「ううん……のあさんにはまだ」

藍子「そうなんだ」

まゆ「ちゃんと悩んでからじゃないと……」

藍子「なにかあるんですか?」

まゆ「凄い援助と甘い提案が来ちゃいそうで……」

藍子「ふふっ、のあさんはまゆちゃんに甘いですから」

まゆ「だから、私で考えから相談することに決めたんです」

藍子「良いと思いますよ。でも、アドバイスです」

まゆ「アドバイス……?」

藍子「甘えすぎないと、のあさんがへそを曲げちゃいます」

まゆ「うん……わかってます」

藍子「もう2学期も終わり、早いですね」

まゆ「ついこの前、転校してきたみたいなのに」

藍子「……」

まゆ「藍子ちゃん?」

藍子「あそこ、シスタークラリスが走ってきます」
39 : ◆ty.IaxZULXr/ [sage saga]:2020/04/29(水) 19:56:33.71 ID:+FOtccNe0
まゆ「なにか……あったのでしょうか」

クラリス「お二人とも、お力を貸していただけますか」

クラリス
星輪学園の教会に住み込みのシスター。慌てた様子なのは珍しい。

藍子「はいっ、どうしました?」

まゆ「何か……」

クラリス「急病人です。こちらへ」
40 : ◆ty.IaxZULXr/ [sage saga]:2020/04/29(水) 19:58:30.46 ID:+FOtccNe0
18

星輪学園・弓道場

まゆ「水野先輩……?」

藍子「だ、大丈夫ですかっ!」

水野翠「はぁはぁ……」

水野翠
星輪学園の3年生。大学で弓道を続けることが決まっており、部活で使用していない時間で練習を続けているとのこと。

クラリス「練習中に倒れたようです」

まゆ「凄い熱……藍子ちゃん、タオルを濡らしてきてもらえますか」

藍子「はい、待っててくださいっ」

クラリス「私は養護教諭を呼んで参ります。見ていてあげてください」

まゆ「わかりました……救急車は……」

翠「不要です……」

まゆ「大丈夫ですか……?」

翠「はい……この通り」

まゆ「大丈夫じゃないですよぉ。凄い熱に呼吸も荒くて……」

翠「疲れただけ……です」

まゆ「弓道の練習だけでそんなに疲れたりしません」

翠「いえ……あります、よ」

藍子「まゆちゃん、これ」

まゆ「ありがとう。とりあえず、横にしましょう」

藍子「枕はこれでいいかな、私のカバンで」

まゆ「いいと思います……防具、はずれるかな」

藍子「よいしょ、これでいいかな。水野先輩、すみません」

まゆ「とれました……横向きの方が苦しくないかな」

藍子「水野先輩、大丈夫ですか」

翠「ふぅ……はぁ……」

藍子「息がすっごく荒いです」

まゆ「過呼吸……?」

藍子「大きく息を吸うようにすると良いって聞きました。水野先輩、できますか?」

翠「はい……タオルも、ありがとう、ございます……」

まゆ「話さないでいいですよぉ。藍子ちゃん、飲み物を持ってませんか」

藍子「ありますよ、ミネラルウォーターですっ。どうぞ」

翠「すみま……せ、ん……」
41 : ◆ty.IaxZULXr/ [sage saga]:2020/04/29(水) 19:59:30.06 ID:+FOtccNe0
19

星輪学園・弓道場

翠「お騒がせいたしました」

藍子「すっかりいつも通りの水野先輩に戻りました」

まゆ「本当に平気なんですか……?」

翠「ご安心ください。熱も下がりましたから」

まゆ「あんなに出てたのに……?」

藍子「今は平熱ですね。汗もかいてません」

翠「何度からありましたから。そうでしたよね、シスタークラリス?」

クラリス「はい。お一人で練習しているから見回りに来たのですが」

翠「申し訳ありません。今後気をつけます」

まゆ「理由はわかってますか……?」

藍子「悪い病気とか、じゃないですよね?」

翠「違いますよ。お医者様が言うには、極度のストレスだそうです」

まゆ「ストレス……」

藍子「弓道、大変なんですか?」

まゆ「本当は、辞めたいとか……」

翠「すみません、誤解してしまいますね。ちょっと追い込んで集中しすぎていると言われました」

クラリス「自身で追い込み過ぎている、と」

翠「だから、インターハイに出場出来ましたが簡単に負けてしまいました。弓道は極限に追い込んだ一射だけの競技ではありませんから」

まゆ「あの……失礼かもしれないですけれど……」

翠「なんでしょうか」

まゆ「本当に大丈夫ですか……?」

翠「はい、問題ありません。極限まで集中し、己を出し切ることは気持ちの良いことです。極限まで集中すると風の流れがわかるんですよ、的以外は何も見えなくなるのに」

まゆ「えっと……大丈夫かなぁ……?」

翠「気分は良いですが、体には毒だとわかっています」

藍子「水野先輩が倒れちゃったら、みんな悲しみます。だって、大人気ですから」

翠「大人気、ですか」

藍子「はいっ。文武両道でカッコよくて、ね、まゆちゃん?」

まゆ「はい、人気ですよぉ」

翠「……」

クラリス「翠さん」

翠「人気には応えないといけませんね。もう少し休んでから私は帰ります。今日はありがとうございました」
42 : ◆ty.IaxZULXr/ [sage saga]:2020/04/29(水) 20:00:47.68 ID:+FOtccNe0
20



良楠公園

凛「へー、高校はそんなことが流行ってるんだ」

卯月「……」

凛「卯月、どうしたの?」

卯月「あの、凛ちゃん!」

凛「びっくりした、なに?」

卯月「もう一度聞きますけど、私のこと知りませんか?」

凛「島村卯月。自己紹介されたから知ってるよ」

卯月「えっと、そうじゃなくて……そう!」

凛「そう?」

卯月「私をテレビで見たことありませんか?アイドルですからっ」

凛「ごめん。テレビとかあまり見ないから。言われなかったら知らなかった」

卯月「わかりましたっ!」

凛「何が?」

卯月「あの、見て欲しいんです」

凛「だから、何を?」

卯月「私のステージ、です」

凛「ステージ……」

卯月「1月24日にライブがあるんです。でも、家族が来れなくなっちゃて」

凛「……」

卯月「凛ちゃん、来てくれませんか?」

凛「ごめん、行けない」

卯月「予定があるんですか?」

凛「ないけど……」

卯月「じゃあ、とりあえず受け取ってくださいっ!都合があったら、来てくださいっ」

凛「ごめん、卯月。いけない」

43 : ◆ty.IaxZULXr/ [sage saga]:2020/04/29(水) 20:01:15.34 ID:+FOtccNe0
卯月「凛ちゃん?」

凛「行けない。私は、卯月とは違うの」

卯月「みんな違います。私、凛ちゃんみたいな綺麗な黒髪憧れますっ」

凛「違う」

卯月「違う……?」

凛「行けない理由は……そうじゃなくて」

卯月「凛ちゃん、話してくれませんか」

凛「話せない」

卯月「指切りしましたっ、ヒミツですっ」

凛「……だから」

卯月「だから?」

凛「話せないんだってば!私は普通じゃないから……」

卯月「……」

凛「……帰って」

卯月「凛ちゃん」

凛「帰ってよ」

卯月「わかりました、今日は帰りますっ。凛ちゃん、また会えますか」

凛「……わからない」

卯月「そうだっ!ネットで調べてください、CGプロの島村卯月ですっ。ぶい♪」

凛「なんで、ピース……」

卯月「凛ちゃん、少し笑いました?」

凛「してない」

卯月「今度は笑ってもらいます。またね、凛ちゃん!」

凛「……」

卯月「……ばいばい、凛ちゃん!」
44 : ◆ty.IaxZULXr/ [sage saga]:2020/04/29(水) 20:01:58.78 ID:+FOtccNe0
21

深夜

高峯ビル前

咲「……」

のあ「あら」

咲「のあさん、お疲れ様!戸締りしたし帰る所だったんだー。男手少ないから、あたしは最後!」

のあ「空を見上げてどうしたの?」

咲「月が目に入って。もうすぐ満月だな、って」

のあ「雨が降りそうな雲ね。満月の空は晴れるかしら」

咲「それでね、月にはウサギがいるでしょ?」

のあ「ウサギの餅つきに見えるわね」

咲「グリーンランドだと、どう見えるのかな?」

のあ「天体観測が趣味だから答えは知っているわ。でも、そういうことではないわね」

咲「うん」

のあ「……」

咲「クリスマスイブだけは早上がりして、プレゼントを配るんだ♪欲しい?」

のあ「私も配る側よ。援助しましょうか」

咲「いらなーい。マスターから前払いも貰ったよ☆」

のあ「そう、それがいいわね。気持ちが伝わるわ」

咲「ねー。のあさんは何してるの?」

のあ「私はランニングへ。体力が落ちてきそうだから」

咲「夜にランニング?危ないから、一緒に走ろうか?」

のあ「大丈夫よ。危ない所は良く知っているから、避けるわ」

咲「へー、探偵っぽい」

のあ「探偵だもの。あなたも気をつけて帰りなさい」
45 : ◆ty.IaxZULXr/ [sage saga]:2020/04/29(水) 20:02:53.90 ID:+FOtccNe0
22

12月23日(水)



清路警察署・刑事一課和久井班室

大和亜季「警部補殿」

和久井留美「大和巡査部長、何かしら」

和久井留美
刑事一課和久井班班長。階級は警部補。彼女もCGプロの合同ライブのチケットが手に入らなかった。

大和亜季
刑事一課和久井班所属。階級は巡査部長。雪山サバイバルはハードルが高いであります、らしい。

亜季「お昼にするでありますよ」

留美「あら、もうそんな時間?」

亜季「その前に、ひとつ気になることが」

留美「何かしら」

亜季「愛知の事件がたまたま目に入ったでありますが」

留美「見せてちょうだい」

亜季「こちらであります」

留美「概要は」

亜季「先日の日曜日、不審な死体が発見されました」

留美「不審死ね、見立ては」

亜季「死因が特徴的であります。こちらを見てください」

留美「胸に丸い穴。鉄パイプでも突き刺さったのかしら」

亜季「これが発見された状態であります」

留美「抜かれた」

亜季「そのようであります。胸を何かで突き刺され、凶器は抜かれたようであります。凶器は行方不明」

留美「どんな凶器だと推測するかしら」

亜季「そうでありますな、槍はなさそうですな、銛でしょうか」

留美「犯人は漁師なのかしらね」

亜季「犯人は見つかっていませんが。気になるのは被害者であります」

留美「被害者、聞いたことあるわね」

亜季「そうでありますか?聞いたことはなかったであります」

留美「思い出したわ、海外に高飛びした横領犯。うちのヤマじゃないわね」

亜季「横領に関しては清路警察署担当でありました。国内にいたのでありますな」

留美「それで、ここにも情報が回ってきたわけね」

亜季「情報提供は済ませたようであります」

留美「聴取も必要かしら、昔の職場とか」

亜季「愛人とその娘が清路市内にいるとのウワサもありますが」

留美「そうなの?」

46 : ◆ty.IaxZULXr/ [sage saga]:2020/04/29(水) 20:04:17.23 ID:+FOtccNe0
亜季「残念ながら、ネットのウワサ程度で警察は未確認であります。わかっていれば、犯人にも良かったでありますが」

留美「それは、どういう意味?」

亜季「横領で捕まっていれば、殺されることもなかったであります」

留美「悪いジョークね」

亜季「ちょっと冗談が過ぎたでありますな」

留美「ええ」
47 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 20:04:50.69 ID:+FOtccNe0
亜季「話は終わりであります。昼食としましょう!」

留美「大和巡査部長、書類整理はどうかしら」

亜季「最近は大きな事件もありませんし、午後はのんびりでありますな」

留美「午後は休暇を取りなさい。どうせ、いつか忙しくなるのだから」

亜季「ふーむ、そうでありますな。上司の勧めに従うであります」

留美「そうして頂戴。休むのも私達には重要なこと。雨だから家で体を休めるにはちょうど良いわ」

亜季「警部補殿はどうするでありますか?」

留美「私も休もうかしらね。その前に、お昼を付き合ってくれるかしら」

亜季「もちろんであります。食堂でよいでありますか?」

留美「ご馳走するわ。どこか外へ行きましょう」

亜季「おおっ、それではお肉が良いであります!」

留美「昼から焼肉も悪くないわね。車、出してくれる?」

亜季「了解であります!」
48 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 20:06:19.40 ID:+FOtccNe0
23

高峯探偵事務所

のあ「雨、やむかしら」

梅木音葉「真夜中まで……このままの予報です」

梅木音葉
清路警察署科捜研所属。本日は休暇。行きつけの森は、雨だと足元がぬかるんで危ないらしい。

のあ「そうらしいわね」

音葉「お出かけの予定があるの……ですか?」

のあ「いいえ。音葉は?」

音葉「志希さんのトリミングに行く予定だったのですが……優さんのところに」

のあ「トリミング……」

音葉「失礼しました、言い方を間違えました……放っておくと、自分で切ろうとするので」

のあ「志希、下にいるの?」

音葉「朝起きたら……いなくなっていました」

のあ「でしょうね」

音葉「お天気も惠ませんでしたので……とりあえず、こちらに」

のあ「音葉と志希2人揃って休暇だったのね、珍しい」

音葉「科捜研の所長が高橋署長に怒られまして……」

のあ「残業が多い、とか」

音葉「業務外で居座っているのは……働き方が今時ではないと」

のあ「当然の指摘。礼子の言うことを聞きなさい」

音葉「せっかく……音響を整えたのに」

のあ「それが原因じゃないのかしら。目につくでしょう、あれ」

菜々「お待たせしました〜、本日のブレンドですっ」

のあ「菜々、頼んでないけれど」

音葉「こちらです……私が頼みました」

のあ「St.Vで飲めばいいじゃない」

音葉「ご一緒にいかがですか……ごちそうします」

のあ「別に……それは構わないけれど」

菜々「決まりですっ。クリスマス限定スノーボールもお持ちしましたっ」

音葉「ありがとうございます……」

菜々「それでは、ごゆっくり〜」

音葉「のあさん……どうぞ」

のあ「ありがとう。音葉、聞いていいかしら」

音葉「なんでしょう……?」

のあ「暇なのね」
49 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 20:06:50.04 ID:+FOtccNe0
音葉「その通りですが……のあさんにお願いがありまして」

のあ「私に?」

音葉「気になるアイドルが……いまして」

のあ「みくにゃんかしら」

音葉「違います……志希さんがいるので充分です」

のあ「それなら、誰なのかしら?私はみくにゃん以外は全く詳しくないけれど」

音葉「日野茜さんです……知っていますか」

のあ「CGプロに所属してるわね。生で見たこともあるわ」

音葉「小さくて……カワイイと」

のあ「確かに生で見ると小さいわね。音葉が好きなのは意外だったわ」

音葉「子犬のようで……元気を貰えます」

のあ「それは同感だわ」

音葉「この部屋が……防音であることを知っています」

のあ「ああ、そういうこと?」

音葉「合同ライブの映像を見たいのですが……」

のあ「音葉が頼みごとをするのも珍しいし、暇だから付き合うわ」

音葉「ありがとうございます……出来れば、昨年5月のものを」

のあ「リクエストもあるのね……」
50 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 20:07:41.51 ID:+FOtccNe0
24

夕方

高峯探偵事務所

まゆ「ただいま、まゆが帰りましたよぉ」

のあ「お帰りなさい」

音葉「お邪魔しています……」

まゆ「音葉さん、こんばんは。お仕事終わりですかぁ?」

音葉「いいえ……のあさんと一緒にライブの映像を見ていました」

のあ「ええ」

音葉「勉強になりました……お礼にオペラ観劇の作法をお教えします」

まゆ「のあさん、ライブのお作法を教えたんですかぁ?」

のあ「少しだけよ」

音葉「素晴らしいですね……のあさんと留美さんが没頭するのもわかります」

のあ「でしょう」

音葉「大切なのは気持ち……にゃーにゃーと心をあわせていうこと」

まゆ「音葉さんに悪影響が……久美子さんに怒られちゃいます」

のあ「大丈夫よ、おそらく。少なくとも久美子に怒られることはないわ」

まゆ「そうかなぁ……あっ、音葉さん」

音葉「なに……でしょうか」

まゆ「お夕飯をご一緒しませんか?今から準備するので、待っていてくれれば」

音葉「お誘いありがとうございます……ですが、志希さんから連絡が来たので帰ります」

のあ「あら、連絡がきたの?」

音葉「迎えに来て欲しいと……バスを使ったのでしょうか、随分と遠くに……」

のあ「志希も自由ね」

音葉「わかってはいます……帰ってくるだけよいかと」

のあ「そうね。居てくれるだけで助かるわ」

音葉「そうですね……私はこれで」

まゆ「はぁい。音葉さん、また来てくださいねぇ」

音葉「はい……またお邪魔します」

のあ「運転に気をつけて帰りなさい」

まゆ「音葉さんと一緒で楽しかったですかぁ?」

のあ「新鮮だったわ。音葉はなかなか気づけないことも気づくから」

まゆ「良かったです。お夕飯の準備しますねぇ」

のあ「ええ。みくにゃんに対する知見も深まったわ……」
51 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 20:08:29.38 ID:+FOtccNe0
まゆ「のあさん、そう言えば」

のあ「音葉の言う通りオペラの知識を習得すれば深い見方が……まゆ、何かしら?」

まゆ「高峯家のクリスマスは、何をするんですかぁ?」

のあ「クリスマス……あまり考えてないわ。去年は雪乃から貰ったケーキを真奈美と食べたわ」

まゆ「昔は、どうだったんですかぁ?」

のあ「父と母が居た頃もチキンとケーキを買ってきたぐらい……プレゼントは実用的なものを父が贈ってくれたわ」

まゆ「実用的なもの……筆記用具とか?」

のあ「そうね、高峯家の習わしだそうよ。一度だけ望遠鏡だったわ、狙い通りに」

まゆ「昔から知恵が回るんですねぇ」

のあ「そうかもしれないわ。それと、思い出したわ」

まゆ「なんですかぁ、あっ、ツリーを飾り付けたとか?」

のあ「ええ。毎年倉庫から出したわね、プラスチックで出来た1mくらいの」

まゆ「この前、掃除した時に見かけましたよぉ。奥の方にしまってありました」

のあ「最近は出した記憶がないもの」

まゆ「今年は飾りましょうか」

のあ「そうね……思い出してみましょうか」
52 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 20:09:47.26 ID:+FOtccNe0
25



良楠公園

凛「……」

卯月「凛ちゃん」

凛「……卯月」

卯月「待っててくれたんですか?」

凛「……違う」

卯月「雨、寒くないですか?」

凛「大丈夫」

卯月「そうですかっ、安心しました!」

凛「……」

卯月「凛ちゃん、今は大丈夫でも、ずっと濡れていると風邪を引いちゃいますよ」

凛「卯月も、帰れば」

卯月「今日は帰ります。ねぇ、凛ちゃん」

凛「……何」

卯月「話したいことがあるんです、約束しませんか?」

凛「話したいことって……」

卯月「嘘つきだった島村卯月の話です」

凛「……嘘つきには、見えないけど」

卯月「次の土曜日、夜8時にここで会えませんか」

凛「重要な話なの、それ」

卯月「凛ちゃんには大切です、きっと」

凛「……」

卯月「約束して、くれますか?」

凛「わからない」

卯月「それじゃあ、待ってますね。約束の時間に」

凛「……」

卯月「今日は温かくして寝てくださいね」

凛「……温かさだけは平気」

卯月「そうだ!凛ちゃん、これをどうぞ」

凛「……クッキー?」

卯月「チョコクッキーです、メリークリスマス!」

凛「そっか、クリスマス……」

卯月「お家に帰って食べてくださいね」

凛「……うん」

卯月「ばいばい、凛ちゃん。またね!」
53 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 20:11:00.51 ID:+FOtccNe0
26

12月24日(木) クリスマス・イヴ



のあ「包むとは本質を見えなくすること……いいえ、まとめて手に持てるようにすることかしら」

ピンポーン……

のあ「誰かしら。事務所は営業していないはずだけれど」

志保「のあさん、失礼しますっ!クリスマスツリー、素敵ですね!」

のあ「飾った甲斐があったわ。志保、慌ててどうしたのかしら」

志保「あらっ、トルティーヤですか!」

のあ「ええ。真奈美が昼食用に作ってくれたの。好きなだけ包んで食べなさい、と」

志保「美味しそうですね、具材も種類がたっぷり」

のあ「志保、包んだら何をするかしら」

志保「もちろん、手に持って食べますっ。トルティーヤにクレープ、ガレット、生八つ橋!」

のあ「生八つ橋を自分で包んで食べたことはないわね。話は、食べながらでいいかしら」

志保「大丈夫です。あの、ご相談なんですけれど」

のあ「何でも言ってちょうだい」

志保「マスターが帰省してそろそろ一週間です」

のあ「そうね、何も問題なく営業出来てるのは流石ね」

志保「寂しさを紛らわせて、マスターのことを思うと仕事も進む……のはいいんですけど」

のあ「けど?」

志保「やり過ぎちゃいました」

のあ「何を?」

志保「菜々さんと早朝からクリスマスケーキとスウィーツを作り過ぎました」

のあ「お裾分けなら受け取るわ」

志保「いいえ、売るほどあるんです!」

のあ「もともと売り物でしょう。どのくらいかしら」

志保「車のトランク1台分くらいです、探偵事務所の業務用で」

のあ「それは、作り過ぎね」

志保「予約と喫茶店で販売する予定数とは、別で」

のあ「菜々も志保も行動を冷静に振り返るクセをつけなさい、熱中しすぎよ」

志保「水嶋さんが今日は早退するから人手も足りなくて」

のあ「何となく話が読めて来たわ」

志保「マスターへの愛情が詰まっていますから無駄にしたくありません!」

のあ「協力するわ。要するに、売りたいのね」

志保「ありがとうございますっ!」
54 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 20:12:02.53 ID:+FOtccNe0
のあ「それで、何が必要かしら」

志保「業務用車と人が欲しいんですけど、真奈美さんはいないんですよね?」

のあ「ええ。イベント運営の手伝いよ、あっちも人手が足らないそうだから。帰りもいつになるかわからない」

志保「まゆちゃんは」

のあ「終業式は明日。昼間はいないわ」

志保「そうですか……真奈美さんなら全て解決だったんですけれど」

のあ「同感ね」

志保「のあさんには、場所を確保して欲しくて」

のあ「駅近く使えそうな場所を見つけておくわ」

志保「うーん、菜々さんに車を運転してもらって……違うかな……」

のあ「志保」

志保「のあさん、どうすればいいと思います?」

のあ「私も実業家だから、手筈はそれなりにわかるわ。任せてちょうだい」

志保「忘れてました、そうでした!みくにゃん大好きな金持ちでしたっ」

のあ「言い方が悪いわ」

志保「のあさん、お願いしていいですか?」

のあ「もちろん。場所と人は集めておくわ。出発前に準備をお願い」

志保「わかってますっ!」

のあ「雪乃が野外販売の手筈は整えているはずよ」

志保「クリスマスですから、サンタとトナカイの衣装が必要ですよね!安心してください、余分に準備してあります!」

のあ「違うわ」
55 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 20:13:06.86 ID:+FOtccNe0
27

清路駅前・大通り広場

大通り広場
清路駅北口にある広場。北口の再開発時に整備された。おかげで白骨死体が見つかったのよね、状態が悪くて鑑定が大変だった、とのこと。

松山久美子「はーい、どうぞ♪」

松山久美子
清路警察署科捜研所属。いつもは白衣だが、志保が用意した赤いサンタ風制服を身に着けている。休暇を取らされて暇を持て余しているとか。

のあ「まるで本職みたいね……」

原田美世「売れ行きがいいですっ」

原田美世
清路警察署交通課所属。階級は巡査。今日は夕方から巡回とのこと。バイト代はのあが所有する車の貸し出し。

のあ「美人は得ね」

美世「赤い服なんて普段絶対着ないのに、似合ってます」

のあ「血と薬品がついたら見えないのに着るわけないでしょ、とか普段言ってるとは思えないわね」

美世「さも自分が作ったように売ってるけど、ウワサだとアレなんですよね」

のあ「ウワサ通り、久美子の料理は壊滅的よ」

美世「本当だったんだ」

のあ「私も人のことは言えないけど」

久美子「そこ、聞こえてるから」

のあ「久美子、手伝ってくれてありがとう」

久美子「暇を持て余してるからいいのよ。暇そうにしてるなら働いたら?」

のあ「私は経営者だもの」

美世「あたしは運転手」

久美子「はいはい、言い訳はそこまで。トナカイはサンタの言うことを聞いて」

美世「はーい」

のあ「わかったわ」

久美子「美世ちゃんはレジとかお願い」

美世「高校出てすぐに警察に入ったから、こういうことして見たかったんだ」

久美子「のあさんは……はい、これ」

のあ「菜々が作ってくれた、宣伝ボードね。菜々は絵も描けたのね」

久美子「これを持って微動だにせず突っ立ってるか、広場周辺をウロウロしてて」

のあ「それだけでいいのかしら」

久美子「自分の容姿わかってるでしょ?」

のあ「わかってるわ、十二分に人目を引くでしょう」

美世「自分のことそう思ってたんだ、知らなかった……」

久美子「わりと有名」

のあ「では、優と真奈美が合流するまでがんばりましょうか」
56 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 20:14:39.84 ID:+FOtccNe0
28



清路駅前・大通り広場

真奈美「遅くなったな、どうだい?」

のあ「上々よ」

太田優「真奈美さん、お仕事お疲れさまぁ」

太田優
美容師。高峯ビル1階の美容室Z−artに勤務している。今日のお手伝いで、愛犬アッキー用の特性クリスマスケーキを手に入れた。

真奈美「優君こそ、お疲れさま。仕事終わりだろう?」

優「ぜんぜん〜、アッキー用のケーキも貰ったし☆」

久美子「真奈美さん、来てそうそうだけど、商品出すの手伝ってもらえる?」

真奈美「もちろんだ」

優「あ、お客さん来たから対応するねぇ」

久美子「優ちゃん、お願い」

優「いらっしゃいませー☆」

久美子「びっくりするくらい簡単に売れるわ。それなりのお値段なのに」

のあ「志保は、この材料でこの値段はお手頃だと言っていたわ。この様子だと20時には完売するわね」

真奈美「SNSで話題になっていたからな」

のあ「SNS?」

真奈美「ああ。銀髪の美女がトナカイのような恰好をして客引きしてると」

久美子「そっちでも話題になってるのね、なるほど」

のあ「そこじゃないと思うわ」

真奈美「そこじゃない?」

のあ「大切な情報は私ではなくて、雪乃のお店が限定的に路上販売をしていること」

久美子「お店の常連とか、雪乃さんの知り合いがよく来るの」

のあ「身なりのよさそうなご婦人が多かったわ」

久美子「夜の女王様みたいな雰囲気の知り合いも来たの。雪乃さんが帰省していると聞いたら、嬉しそうに帰って行ったわ」

真奈美「雪乃君も顔が広いな」

久美子「私とは全く違う交友関係ね、本当に」

真奈美「味もブランド力も高い商品なら、営業に困りはしまい。さ、売り切って帰るとしよう」

久美子「やっぱり頼もしいわ」

のあ「でしょう」

真奈美「それで、衣装はあるのか?」

のあ「サンタとトナカイ、どちらがいいかしら。久美子と優はサンタ風の赤よ」

真奈美「私もサンタクロースにするとしよう」

久美子「真奈美さん、こういうことに抵抗ないのよね。意外」

のあ「あなたもよ、久美子」
57 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 20:15:54.63 ID:+FOtccNe0
29

高峯探偵事務所

のあ「ただいま」

まゆ「おかえりなさい、のあさん」

のあ「遅くなって悪かったわ」

まゆ「大丈夫ですよぉ。真奈美さんは?」

のあ「St.Vで今日の処理を終わらせてから来るわ。まゆ、夕飯は?」

まゆ「まだですよぉ」

のあ「食べていれば良かったのに」

まゆ「今日は豪華だから待っちゃいましたぁ」

のあ「豪華?あら、菜帆がいたのね。アルバイト、お疲れ様」

海老原菜帆「お邪魔してます〜。キッチン借りてます〜」

海老原菜帆
喫茶St.Vのアルバイト。こう見えて手際よく動けるんですよ〜、と本人談。

のあ「もうアルバイトは良いのかしら?」

菜帆「もうお客は少なくなったので〜、志保さんと菜々ちゃんにのあさんをおもてなしするように、って」

まゆ「志保さんと菜々さんから色々いただきましたぁ」

のあ「豪勢なケーキに料理もたくさんね」

菜帆「スープも温めてますよ〜。まゆちゃん、後は任せてください〜」

まゆ「お言葉に甘えます」

のあ「おもてなしを受けるとしましょう」

真奈美「ただいま」

まゆ「真奈美さん、おかえりなさい」

菜帆「おかえりなさい〜」

真奈美「ご褒美にシャンパンを貰った。これで乾杯しようか」

のあ「色々貰い過ぎね」

真奈美「助け合いの結果なら、いいじゃないか。クリスマスらしいだろう?」

のあ「そうね、クリスマスだもの。サンタクロースも許してくれるわ」
58 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2020/04/29(水) 20:16:59.36 ID:+FOtccNe0
31

早朝

12月25日(金) クリスマス

某雑居ビル3階・空きテナント

凛「……」

桐生つかさ「よっ。寝床に帰らなかったのか?」

桐生つかさ
GP社の高校生社長。頼子の依頼はそれに見合う報酬があるから受けている。

凛「昨日はクリスマスイヴだったから。帰る必要も……昨日はないし」

つかさ「もしかして、寝てないか?」

凛「仮眠は取ってる。標的は見逃してない」

つかさ「ムリとムダは最高の結果の敵だ」

凛「昨日今日はムリする時」

つかさ「へぇ、根拠でもあんの?」

凛「見ててわかった。質素な暮らし、してそうでしょ」

つかさ「同意見。母と娘の2人暮らしなら、そんなもんだな」

凛「装っても、わかるんだ」

つかさ「装う、か」

凛「服装とか日用品が高級品だったりする。昨日は来客がないのに、2人分には多い料理を買ってきてた。袋はデパートのやつ」

つかさ「つまり、結論は」

凛「ターゲットは帰ってきて、目的は達成できる可能性がある」

つかさ「で、どうすんの?」

凛「頼子が諦めるまでは続ける。頼子が諦めたら、終わり」

つかさ「賢明だな」

凛「そっちは」

つかさ「今日は稼ぎ時だからな、早朝出勤だ」

凛「どっちの仕事?」

つかさ「表だよ」

凛「答えるんだ、平気なの?」

つかさ「平気さ、死んだ人間のタレコミに誰が耳を貸す?生き返らないと、言葉は受け止めらんないの」

凛「別にただの忠告だから。気をつけなよ」

つかさ「言わないとわからないだろ」

凛「頼子に切られないように。仲間、減ってるから」

つかさ「仲間だったのか、はっ、お気楽だな」

凛「仲間じゃないか」

つかさ「せいぜい、協力者。残ってる奴を考えれば当たり前、わかる?」

凛「何が」

つかさ「一番危険なのは、古澤頼子」

凛「殺し屋は」

つかさ「アレは問題ない。頼子が動かない限りは」

凛「ふーん……」
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