【デレマス×ワートリ】P「広域仮想空間での集団戦闘訓練だ」【ランク戦編 ROUND.1】

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1 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 22:18:37.18 ID:tsGVl3h90
当ssはアイドルマスターシンデレラガールズ×ワールドトリガーのクロスssです
もしもデレマスのアイドル達がワールドトリガーの世界観にいてランク戦をしたら…というパラレルのお話です
ワールドトリガーのキャラクターは登場しませんが、トリガー等の設定は原作に出来る限り準拠しています

【デレマス バトルSS】A級特別エキシビジョンマッチ編【ワールドトリガー】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1507432889/

相当昔のものですが、↑の続編となっています。読まなくても大丈夫ですが、読むと1.2倍くらいこのssが面白くなるかも。なお多少設定を変更しています

基本台本形式、戦闘中は地の文が入ります

デレマスアイドル達が繰り広げる激熱バトル少年漫画!みたいなのを目指して書いてます

上記の内容でも良い方はお読み下さい

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1586611116
2 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 22:20:29.09 ID:tsGVl3h90
【ROUND.1 対戦カード】

A級2位 片桐隊
A級3位 速水隊
A級4位 鷹富士隊
A級8位 新田隊
3 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 22:23:03.13 ID:tsGVl3h90
P「おい悪ガキ共。一体どうして呼び出されたか分かるか?」

千川ちひろ「……」ニコニコ

塩見周子(罪状:美城司令のとっておき抹茶プリンを勝手に食べた −30pt)「さー? よいこの速水隊が問題なんて起こすハズないし、なんだろねー」

宮本フレデリカ「もーっ、シューコちゃん! この前ミッシーのプリン食べちゃったでしょー? ミッシー怒ってたよー」プンプン

堀裕子「……」ソワソワ

P(ボーダー本部長)「お前もだよフレデリカぁ!」

フレデリカ(罪状:日曜日に美城司令のお宅へアポ無し突撃訪問 −50pt)「きゃん!? もー、ほんぶちょー怒っちゃヤ☆ いいじゃーん、ミッシーは友達だよ?」

P「友達って……あのなー、美城司令に怒られるのは俺なんだぞ!? こんにゃろめ」ギュムー

フレデリカ「ひぁ! むぉ、あにふぅの〜(何するの〜)」ホッペムニー

一ノ瀬志希(罪状:暇潰しに美城司令の面白コラ画像を作ってたらいつの間にかボーダー内で広まってた −100pt)「あ、本部長が女の子さわったー! やーんえっちー! へんたーい!」

フレデリカ「えっひー!」ムニー

P「く……奏! このフリーダム娘達をどうにかしてくれよ! お前隊長だろ!」

速水奏(罪状:監督不行届による隊長責任で一緒にお説教)「ムリよ」ウデクミ

P「諦めんなよ!? 頑張れ!」

城ヶ崎美嘉(罪状:なし。特に悪い事してないけど奏に道連れにされた)「ねぇ、アタシもう帰っていい?」タラー

裕子「……」オロオロ
4 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 22:23:54.16 ID:tsGVl3h90
P「おいユッコォ!!」

裕子「はひゃいっ!」ビクッ!

美嘉「ねぇP聞いてr」

P「さいきっくもいい加減にしろこのアホユッコがァ!!!」クワッ

裕子(罪状:美城司令の車に旋空孤月がさいきっく大暴発×2 −4000pt)「ご、ゴメンなさぁい!」(>Д<;)

ちひろ「ユッコちゃん? 後で私からもお話があります。二人きりで」ニコニコ…

裕子「ひっ」

(※修理代はボーダーの資金からちひろさんが捻出しました)
5 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 22:25:39.90 ID:tsGVl3h90
undefined
6 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 22:27:04.46 ID:tsGVl3h90
──ランク戦観戦室──

市原仁奈「時子さまー! ランク戦、もうすぐ始まりやがるですよ! はやくはやくー!」

財前時子「慌てなくても開始時間まだ先よ。みっともなくはしゃぐのは止めなさい」トスッ

仁奈「はーい! えへへっ♪」トスッ

時子「……仁奈。自分が誰の膝の上に座っているか理解しているわよね?」ギロ

椎名法子「時子さんだよね〜♪」

仁奈「ねー、でごぜーます♪」

時子「誰が許可したのかしら」

法子「そうだよ仁奈ちゃん! 座る時は座らせてってちゃんと言わなくちゃ!」

仁奈「はっ、そうでやがりました! 時子さま、座らせてくだせー!」

法子「うん、仁奈ちゃんいい子いい子♪」

時子「…………ハァ」

法子「あ、ため息つくと幸せが逃げちゃう! そんな時は……じゃんっ! 幸せ補給のドーナツでお口を塞いじゃおっ! 時子さん、はいあーん♪」ニコッ

時子「もう要らないわ。一日に何個食べさせるつもりよ」

法子「えー」

時子「要らない。しつこいわよ。私を醜い豚のようにするつもり?」ギロッ

法子「……そっかぁ。ごめんなさい」シュン

時子「……」

法子「……」シューン…

時子「チッ! ………………はむっ」

法子「!」パアァ

仁奈「あっ、仁奈にもくだせー!」

時子「……」プニッ ←自分の横腹をつまむ

時子「(……明日からランニングでもしようかしら)」ハァ…

キャイキャイ
7 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 22:28:50.76 ID:tsGVl3h90
二宮飛鳥「フフ、無邪気な彼女達に掛かれば時子さんも形無しだね」

荒木比奈「ッスねー。若い子は恐れ知らずで羨ましいッスよ」

高森藍子「比奈さんもお若いじゃないですか」

比奈「やー、アタシは精神の方が老け込んじゃってるんで……アハハ」

安部菜々「ノウッ! そんな考えではいけません! 10代の頃と違って20代なんてあっという間、気づけばアラサーなんですから! もっと気持ちから若くいないとダメですよ!」

前川みく「えっ? でも菜々チャン……」

菜々(17)「……ハッ!? いっいえ、勿論ナナハ17歳デスヨ!? この間ウサミンママにそう教えて貰ったのを思い出しまして! あは、あははは……」オロオロ
8 : ◆AXT/uuswxI [saga 送れなかった>>5の分です]:2020/04/11(土) 22:31:52.22 ID:tsGVl3h90
美嘉「あのs」

??「ヘーーーイ!!!」バリーン!!!

「「「きゃあぁぁっ!?」」」

P「うわあぁっ!? へ、ヘレンさん!? 突然いなくなって、どこ行ってたんですか! ってかなんでそこから突っ込んで来るんですか!?」

周子「確かあのガラス、そう簡単に割れないようなやつじゃなかったっけ」ヒソヒソ

志希「対トリオン兵用の特殊強化ガラスだよー」ケラケラ

周子「ひぇー。とんでもないなぁ」

ヘレン「自家用ヘリから身一つでダイブしただけよ? それに、貴方の執務机に置き手紙をしておいたじゃない」

P「『神になってくるわ ヘレン』って……これじゃ何の事だか分かりませんよ! これ見た時マジでビックリしましたからね!?」

ヘレン「フフ、書いてある通りよ? 先日のニュースで〇〇国が宗教戦争をしていると報じられていたものだから、ひとっ飛びしたわ! 戦争を止めたついでに新たな信仰対象として彼らの神になって、争っていた国民達を導いて来たわ」

P「えっ」

美嘉「(神になったってそういう事!?)」

奏「いくらトリガー使いはトリオン攻撃以外に対してはほぼ無敵とはいえ……一人で一国の内部戦争を止めたの?」タラー

P「いや、流石にたった1人では物理的に不可能だろうから、多分協力者が居たんだろう。おそらく現地調達の」
9 : ◆AXT/uuswxI [saga >>5続き]:2020/04/11(土) 22:32:52.93 ID:tsGVl3h90
ヘレン「ん……? あらごめんなさい、ガラスを割ってしまったようね。これで修理しておいて貰えるかしら? お釣りは要らないわ」バサバサッ

裕子「(谷間から札束が!?)」

P「はぁ!? いや、こんなに貰わなくても足りますから!」

ちひろ「ありがとうごさいます。お預かりしておきますね」

P「ちょっ、ちひろさん」

ちひろ「言われなくてもお釣りはちゃんと返します」

ヘレン「フフッ。余剰分はPとちひろ、貴方達への迷惑料と、若い子達への投資といったところかしら。貴女達、好きに使って構わないわ! それじゃあ私、友人との約束があるから。またね、アディオス!」バッ!

周子「(あ、突っ込んで来た風穴から飛び降りた)」

<ドスーン! フギャー!? ヘーイ!

志希「嵐みたいだったねー」ホケー

美嘉「(あの悲鳴は……幸子ちゃん?)」

ちひろ「流石はヘレンさんですね」ニコニコ

周子「(あ、ちひろさん機嫌良くなった)」

P「……なぁフレ公」

フレデリカ「んー?」

P「ヘレンさんってなんか……でっかいよなぁ」シミジミ

フレデリカ「おっぱい?」

P「うん…………いや違うわ」
10 : ◆AXT/uuswxI [saga >>7の続きから]:2020/04/11(土) 22:34:21.68 ID:tsGVl3h90
菜々「そ、そうだ! 今回のマッチングはどんな組み合わせなんですか!?」アセアセ

みく「えーっとねー、片桐隊、速水隊、鷹富士隊。そして新A級部隊の新田隊にゃ」

飛鳥「フッ、新風吹き込むA級ランク戦か。心躍るね」

みく「飛鳥チャンのチームは大体B級上位だから、元B級1位の新田隊とはよく戦ってたでしょ? どんなチームだった?」

飛鳥「そうだな……新田隊はオールラウンダー3スナイパー1のバランスの取れた隊だ。チームワークに優れていて、個々の実力も皆高く万能型。知っての通り隊長の美波さんは聡明な人で、どんな状況においても安定して強かった。名実ともに模範的と言えるチームだよ」

藍子「編成に関しては、今回戦う速水隊と似たタイプのチームですね」

飛鳥「あぁ、その通りだ。けど、少し前からエースの夕美さんが更に実力を伸ばし始めてね。それまでB級1位だった財前隊を前シーズンで抜き、その勢いのまま今シーズンでA級という訳さ。だから、ボクにとっても今の新田隊の強さは未知数だよ」

みく「へぇー……。比奈さんは? A級から見て、新田隊は早苗さんのチームにも通用しそうかにゃ?」

比奈「へっ? いや、そういう具体的な戦闘の事はトラッパーのアタシに聞くより……」チラッ

菜々「っ!? ……! ……っ!(ダメ! ナナに振っちゃダメですっ!)」ブンブン

みく「?」

比奈「あー……そうッスね、新田隊は──」

菜々「(いいんです。ナナはもう……)」

藍子「……?」チラ
11 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 22:36:04.72 ID:tsGVl3h90
──片桐隊作戦室──

三好紗南(片桐隊 オペレーター)「新顔の新田隊かぁ。その中ではエースの夕美ちゃんが要注意人物だけど、早苗さんの弟子の1人なんでしょ?」

片桐早苗(片桐隊隊長 アタッカー)「そうね。一対一ではよく戦ってるから、ある程度手の内は知ってるつもりよ。それに皆も、ログ見て予習はしてるでしょ?」

及川雫(片桐隊 スナイパー)「はい、バッチリですー♪」

佐藤心(片桐隊 アタッカー)「もち☆大体頭に入ってんぜ☆」

早苗「それより特に面倒なのはフレちゃんと茄子ちゃんよ! フレちゃんは普通に強い上に何しでかすか分かんないし……茄子ちゃんは放っとくだけで戦場はぐっちゃぐちゃ。あの子を長生きさせちゃった時の試合は、当初の作戦通りになんて行った試しがないわ」

紗南「最強スナの清良さんも、茄子さんとのコンボで放っとくと詰みかねないよ!」

心「ま、いつもゴリ押しで勝ってるけどな☆」

早苗「まぁね♪ 雫ちゃん、今日もブッ壊し担当お願いね! 茄子ちゃんを抑えて!」

雫「はい、任せてくださいー♪」
12 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 22:37:52.71 ID:tsGVl3h90
早苗「あと……おそらく速水隊は『志希ちゃんの方』で来ると思ってるわ」

雫「私もそう思いますー。今回はスナイパーが全部で5人も居ますから、敵の位置把握は大切ですもんねー」

紗南「そう? 確かに今回の試合は『カメレオン』持ちが二人居るから感知系のサイドエフェクトを持ってる志希ちゃんも割と刺さってるけど、A級ランク戦環境トップの一人の早苗さんにそこそこ強く圧力掛けられる奏ちゃんが出て来てもおかしくないと思うよ?」

早苗「そうね。でも志希ちゃん、お昼にあった時そわそわしててなんとなく機嫌良かったもの。多分今日は『そういう気分』よ」

雫「あー」

紗南「それ見れたのはラッキーだったね」

心「あの子は調子に波がある分、上振れの時はヤバいかんなー☆」

紗南「志希ちゃん、今回も何かギミック仕込んだトリガー構成で来てるんだろうね。それか誰かを露骨にメタってるとか、もしくは味方の誰かとシナジーがあるような構成とか。それにあのサイドエフェクト、ホント厄介!」

心「それ言っちゃあ、A級なんて厄介な子しかいないっしょ」

紗南「まぁねー、それに個人でヤバいのだったらB級にもちらほらいるし。下手なA級より強いのがね」

心「きらりちゃんとか有香ちゃんとかな☆」

紗南「ヘレンさんも相当ヤバいでしょ!」

心「……や、あの人はA級とかB級とかそういう枠に収まってないから」

紗南「……確かに。世界レベルだもんね」タラー
13 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 22:38:29.15 ID:tsGVl3h90
雫「奏ちゃんはともかく、志希ちゃんへの準備……ですか? どうすればいいんでしょうー?」

心「フレちゃんもだけど、あの子は別の意味で何してくるか分かんねーっての☆」

早苗「あの子はある意味ボーダー1の天才だもの。完全に予想するのは無理だけど、試合が始まっちゃえば志希ちゃんの動きである程度使用トリガーを予測する事は出来るわ」

紗南「えー? どうやってさ」

早苗「僅かな反射的反応や間合いの取り方を見て判断するのよ。例えばアタッカーに距離を詰められても距離を取ろうとしないならアタッカートリガーは入れてる、とかね。心ちゃんなら当然出来るでしょ?」

心「よゆっす☆」

早苗「ま、あの子は当たり前の様にフェイク使って来るけどね。その辺は読みと直感でカバーよ」

紗南「ねぇ早苗さん、頭のいい美波ちゃんならウチらに対して何かしらの策を講じて来ると思うんだけど、何してくるか見当はついてるの?」

早苗「そりゃアレよ、えー…………と、とりあえずいつも通りやってりゃ大丈夫よ! 困ったらゴリ押し! それでおっけー!」バーン!

紗南「あー、今適当に誤魔化したー」

雫「誤魔化しましたねー♪」

心「なー☆」

早苗「うっ……お、お姉さんをからかう悪い子はタイホよタイホ!」

「「きゃー♪」」
14 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 22:39:11.32 ID:tsGVl3h90
紗南「ごほんっ! で、軸になる基本の戦法だけど、今回の対戦相手には早苗さんが刺さってるから雫ちゃんで戦場荒らして早苗さんを通してくルートで行こっか。早苗さんが囲まれて乱戦になったらアイビスでドカンすればいいし、それが一番太い勝ち筋だと思うよ!」

早苗「そうね! それで行きましょ!」

紗南「えっと、これ結構皆のスペックの高さに頼った力任せの戦術だから調整役の心さんの負担ちょっと大きくなりそうだけど大丈夫?」

心「もち☆ てゆかはぁと戦闘中にあれこれ考えんのキライだし、二人の好きに使ってくれた方が動きやすくて楽だぞ☆」

紗南「おっけ! んじゃ展開によっては容赦なく生贄になってもらうからそのつもりで☆」

心「いや大切にしろよ☆ 女の子なんだぞ☆」

紗南「…………………あ、うん。ごめん」

心「そういう反応が一番傷つくんだぞ……」

早苗「ま、ゴチャゴチャ考えた所でダメな時はダメなのよ! やばくなったらいつも通りゴリ押しで行くわよー!!」

心「おー☆」

雫「シールド張ってハウンド撒いてれば大抵何とかなりますもんね〜♪」

心「いやそれ雫ちゃんだけだから」

紗南「(……この人達、A級隊相手にもゴリ押し脳筋戦法でもホントに勝てちゃうからタチが悪いんだよねー)」
15 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 22:41:27.12 ID:tsGVl3h90
──速水隊作戦室──


奏「さて……今日は『志希ちゃんの方』よ。よろしくね」

志希「いえーす♪ 今回もイイ感じの志希ちゃんに仕上げて来ました〜! じゃあ奏ちゃん、『オペレーター』お願いね♪」

奏「ええ、情報支援は任せて。あなた程のオペレーティングは出来ないけど、こなして見せるわ」

志希「にゃはは、あたしも純粋な戦闘力じゃ奏ちゃんには敵わないよ〜。あたしはアレだよ、何してくるかわかんないってゆー情報アドバンテージと悪知恵を武器にして戦ってる様なものだからー」

フレデリカ「そぉ? シキちゃん普通に強いと思うけどなー」

周子「そう言えばさ、新田隊はA級デビュー戦だっけ? 楽しみだよね」

美嘉「新田隊も強くなりそうだよね! ふふっ、楽しみだなぁ」

奏「ま、そう簡単には勝たせてあげないけどね。皆、作戦は頭に入ってる?」

周子「ん、だいじょぶー。例の如く開幕茄子さん要注意ね」

フレデリカ「なんだっけ? ……あ、思い出したっ! フレちゃんがバリバリ点を取る!」

美嘉「マップは「都心A」かぁ。茄子さんや雫ちゃん対策に遮蔽物が多いトコ来ると思ってたから予想通りだね。どうする? 皆もメテオラ入れる?」

志希「あたしはパスで〜。トリガーセットパンパンだし、そもそもサイドエフェクトあるからねー」

周子「あたしは入れよっかな。この前使って割としっくり来たから実戦でも練習したいし」

奏「分かった。周子のトリガーセットに追加しておくわね」ピピ

奏「志希ちゃんは……大丈夫よね?」

志希「うん、分かってる」




志希「早苗さんはあたしに任せて」
16 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 22:42:37.03 ID:tsGVl3h90
──鷹富士隊 作戦室──

クラリス(鷹富士隊 スナイパー)「皆さん、お紅茶を淹れて来ましたわ♪」

鷹富士茄子(鷹富士隊 ガンナー)「あっ、ありがとうございます♪ふー、ふー……あひゅっ! ふー、ふー……」

持田亜里沙(鷹富士隊 オペレーター)「あ、茄子ちゃんっ。慌てなくても大丈夫ですよ?(コクン)……あ、美味しい」

柳清良(鷹富士隊 スナイパー)「ふふっ、茄子ちゃんったら。トリオン体で飲めばいいじゃない」クスッ

茄子「カコちゃんじゃなくてカコ隊長ですよ〜!もーっ」プンスカ

清良「ふふ、ごめんなさい。隊長さん」ニコッ

茄子「はい、よろしいっ♪ それにしても、分かってませんね〜。その熱さも含めて、淹れたてを生身で頂くのがいいんじゃないですか」

クラリス「(コクン)……ふぅ。うふふ、なんだか嬉しそうですわね」

茄子「ふふっ、バレちゃいましたか♪ ほら、新田隊がA級に上がってきたじゃないですか?」

亜里沙「ええ、今回戦う相手でもある隊よねっ。それがどうかしたの?」

茄子「またライバルが増えるなぁって♪ ふふっ♪」

クラリス「あぁ……ふふ、そうですね」ニコ
17 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 22:43:30.50 ID:tsGVl3h90
清良「(彼女は生まれ持つ多彩な才能と『幸運』のサイドエフェクトのお陰で、覇道と呼ぶべき人生を歩んで来たそうです。しかし……)」

亜里沙「(余りにも目立つ彼女の『幸運』はその才能すら覆い隠し、周りから彼女自身は評価されず疎ましく思われ、或いは陰でラッキーアイテム扱いされていたと聞きました。でも……)」

クラリス「(勝負事においても遺憾なく力を発揮していた、その類稀なる才能と幸運を持ってしても敵わない相手が、このボーダーには居た。ですわね?)」

茄子「(その事実が、私にとっては凄く嬉しかったんです。木場隊、片桐隊、速水隊……私の幸運(ちから)が及ばない世界にいる人達。そんな人達に勝つ事で、運だけじゃない、『私』の力で勝ったんだって胸を張って言えるんですっ!)」

茄子「(幸運な癖に贅沢な事言うな!って思われるかもしれないから、チームの皆にしか言ってないけど……これでも私の大切な目標なんです!)」

茄子「よぉーし! 新田隊の皆さんに、A級の強さを見せてあげましょう!」

清良「うーん……でも、私達の得意なあの戦術は雫ちゃんが居る片桐隊にはあまり効きませんからね」

クラリス「ええ、ウチ(鷹富士隊)にとって最も苦手な隊と言えますわ」

茄子「マップも私達にとってはやなマップですしね」

亜里沙「そうですね。『幸運』が味方してくれたら、話は別でしょうけど♪」

茄子「ふふっ、そうですね♪ 私達の『チーム戦術』と、私の『幸運』のサイドエフェクト! それがあれば大丈夫ですっ♪」
18 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 22:45:50.61 ID:tsGVl3h90
茄子「……あ、そういえばこないだ京都で買ってきたおまんじゅう持って来てたんでした! 皆さんまだトリオン体に換装してませんよね? 食べます?」ガサゴソ

亜里沙「あっ、これテレビで紹介されてたやつですよね」

クラリス「!(前から食べたかった有名なお店の……!)」ピクッ

清良「あら、いいですね。はい、あーん♪」スッ

クラリス「えっ! あ、あの、自分で食べられますから……。その、渡して下さいませんか?」スッ

清良「だぁめ♪あーんしなきゃあげません♪」←ドS

クラリス「うぅ……」チラ

茄子「買ってきた人の権限を行使します!クラリスさんはあーんしないとあげません♪」←ソフトS

クラリス「そ、そんな事……私、これでも大人の女なのですから、どうか慈悲を……」←ソフトM

亜里沙「もう、二人していじわるして」クスクス←両方いける

清良「うーん、いらないなら私が食べちゃいましょうか」

クラリス「ッ!! く、下さい! あーんしますから、食べちゃダメです……あー……///」

清良「はい、いい子ですね」スッ

クラリス「はむ……」

茄子「美味しいですか?」

クラリス「あ、味なんて分かりません……恥ずかしい……///」カアァ…

清良「ふふ。でも、クラリスさんは羞恥心より食欲の食いしん坊さんですものね。こんな事、P本部長には内緒にしないといけませんね」クスクス

クラリス「今あの方の名前を出すのは反則です……うぅ///」マッカ

茄子「清良さん、相変わらずいじわるですね♪」

クラリス「本当です……あまりお戯れはおやめ下さいっ」プク
19 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 22:48:31.60 ID:tsGVl3h90
──新田隊 作戦室──

新田美波(新田隊隊長 オールラウンダー)「…………」ブツブツ

相葉夕美(新田隊 オールラウンダー)「美波ちゃん、緊張してるの?」

美波「あ、うん……少しだけ。えへへ、バレちゃったか」

大槻唯(新田隊 オールラウンダー)「そんなの分かるよ〜、美波ちゃん一点ジーッと見つめながらブツブツ言ってるんだもん! 大丈夫? ゆいのキャンディあげよっか?」

十時愛梨「そういう時は甘い物が良いですよ〜!私、メロンパイ焼いてきたんです! 良かったらどうぞ♪」

美波「えっと、ごめんね? トリオン体の時は甘い物はちょっと……」

夕美「私も遠慮したいかな……あはは」

唯「あ、そっかぁ」

愛梨「え〜? どうしてですか?」

鷺沢文香(新田隊 スナイパー)「トリオン体は栄養の吸収効率が良く排泄が不要な程なので、より体に蓄積されやすいのです……。お二人はおそらく、そのトリオン体の機能のせいで太ってしまう事を懸念されているのでしょう……」

愛梨「えっ、そうだったんですかぁ? 知らなかったです〜」
20 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 22:49:16.73 ID:tsGVl3h90
唯「愛梨ちゃんは全部おっぱいに行くもんね〜?」

愛梨「ええ〜っ? そんな事ありませんよぉ。最近脇腹が気になってきて……触ってみますか?」ペロン

唯「え〜? こんなの誤差だよ誤差〜」プニプニ

夕美「……愛梨ちゃん、それ大学の男の子にもやったりしてないよね?」

愛梨「それってなんですか?」

夕美「今みたいに体を見せたり触らせたりする事!」

愛梨「えーっとぉ……」プイッ

美波「(これはやってるわね……)」

文香「(天然とは恐ろしいものです……)」

愛梨「でも私、そんなつもりじゃ……女の子のお友達と同じように接してるだけで……」

夕美「愛梨ちゃんにそんなつもりはなくても、男の子にとっては違うんだから! そうやってガードが緩そうな子って思われたら、サークルの飲み会とかで──」

美波「こ、こほん! そうだ、復習なら皆でしようよ! その方がより意識のすり合わせが出来るし、気も紛れると思うな! どうかな?」アセアセ

文香「(大学では愛梨さんの友人の方々が常にガードしているそうなので、恐らく夕美さんが心配されているような事態にはならないかと……)」ヒソヒソ

夕美「! わ、分かった。心配してつい熱くなっちゃって。ごめんね愛梨ちゃん」

愛梨「いえいえ、私の為に言ってくれた事ですから♪ 私も気をつけますねっ」ニコ
21 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 22:50:05.72 ID:tsGVl3h90
美波「では、えー……まず、敵戦力について復習します!」キリッ!

新田隊「「「「はーい!(はい……!)」」」」
 


美波「まず、片桐隊。超弩級のトリオン量を持つスナイパーの雫ちゃんで場を荒らしたり整えたりして、個人総合2位の早苗さんが『カメレオン格闘術』で暴れて、そのどちらかを心さんがサポートするといった形ね」

夕美「特に早苗さんは要注意ね! あの人は絶対に近寄らせちゃだめっ! 男性顔負けの武術で一瞬で倒されちゃうからね!」

美波「そして速水隊。絶対的エースのフレちゃんに加えて、シューターにして驚異の13000ptを持つリアルタイム弾道引きバイパー使いの奏ちゃんor毎試合トリガーセットをごっそり入れ替えてくる変幻自在の志希ちゃんのダブルエースチーム!」

愛梨「フレちゃん+奏ちゃんのパターンとフレちゃん+志希ちゃんのパターンで、隊の戦い方がガラッと変わるのが強みですよね!」

美波「そして最後は鷹富士隊! ガンナーだけど、長射程の特性を持つ擲弾銃のメテオラ曲射で場を荒らして来る茄子さんに、スナイパー1位の清良さんが要注意ね!」

唯「てゆーかさ、A級ってほぼみーんな要注意じゃんね☆」

夕美「あはは……だよねぇ」

美波「だ、大丈夫! ウチだってA級なんだから、きっと私達皆要注意だよ! ねっ!」グッ

新田隊「……」

美波「……な、何とか言ってよぉ(士気を高めるつもりが、まさか外しちゃった……? は、恥ずかしい……)」プルプル

夕美「ふふっ♪」

唯「あはははっ♪ そーだよね! 考えてみたら、あのカイブツみたいに強い早苗さんとかがウチらの対策考えてるんだよ? これってなんかスゴくなーい!?」

夕美「こーらっ。怪物だなんて失礼でしょっ」

唯「たはは〜」

愛梨「でもそう言われると、なんだか私達もすごい人みたいですねっ」

文香「あまり実感は湧きませんが……」
 
美波「……」
22 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 22:51:19.86 ID:tsGVl3h90
奏『新田隊の皆も…A級に上がったという事は、私達はもうライバルよ。当然だけど、当たった時は手加減しないから。遠慮なく勝たせて貰うわ』ニコ…

美波『勿論!美波だって負けませんっ!いつか速水隊も抜いて見せます!』



美波「……うぅん。私達は、この間までB級だった。けど、今は違うわ。憧れたあの人達と同じステージにいるの。格下なんて思う必要なんて無いわ! この前啖呵を切った速水隊にだって、きっと勝てる!」

唯「うん……うん!流石隊長、なんかノッて来たよー♪」

文香「夕美さん、エースとして頼りにしています」

夕美「こちらこそっ♪ 援護お願いね、文香ちゃん!」

文香「はい。任せて下さい」ニコ

美波「いい? 自分より強い相手を倒す方法なんていくらでもある。例えば数的有利を取ったり、他の隊を上手く利用したり──」

夕美「トリオン切れを狙ったり、マップを上手く使ったりするのも有効だよね!」

愛梨「運が良い時も案外勝てちゃったりしますよね〜♪」

唯「ね〜! 運も馬鹿に出来ないよねー。それ言ったらカコさんどうすんのって感じだけど。あは♪」

美波「そうね。戦いは色々な要素が複雑に組み合わさって出来てる。私達はそれをフルに利用して行くわ!」

美波「まずは合流! そして早苗さんとフレちゃんを早めに倒す! そうすれば後は何とかなるから!」

夕美「うんっ! 作戦通りに行けばいいね!」

唯「『アレ』のタイミング、上手く合うといいなー!」

美波「行くよー……新田隊ー!」

「「「おぉー!!」」」

文香「ぉ、おーっ……!」
23 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:01:33.22 ID:tsGVl3h90
各隊のトリガーセット紹介

(※at=アタッカー gu=ガンナー sh=シューター ar=オールラウンダー sn=スナイパー op=オペレーター)

【A級2位 片桐隊】

早苗at 佐藤at 雫sn 紗南op

【特色】雫:トリオンモンスター

白抜きハートに集中線のエンブレム

早苗 35890pt (スコーピオン(改))


スコーピオン(改) スコーピオン(改)
カメレオン     FREE
シールド      シールド
バックワーム    グラスホッパー

スコーピオン(改):消費トリオンが増える代わりに強度up


雫 10573pt (アイビス(改))

バッグワーム アイビス(改)
メテオラ   ライトニング(改)
ハウンド   ハウンド       
シールド   シールド

アイビス(改):消費トリオンが増える代わりに威力up
ライトニング(改):消費トリオンが増える代わりに弾速up

佐藤心 11270pt(孤月)

アステロイド     孤月  
スタアメーカー    旋空
シールド       シールド
バックワーム     
24 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:06:12.07 ID:tsGVl3h90
【A級3位 速水隊】

奏op(sh) 周子sn 美嘉ar フレデリカat 志希ar(op)

【特色】奏と志希がお互いにオペレーターと戦闘員をスイッチする事が可能??
セクシーな唇の中に鋭く光る牙のエンブレム
??速水奏 op 13284pt(バイパー)
(※今回はオペレーターの為、戦いません)??       ?
バイパー   バイパー
?シールド   シールド ?
テレポーター エスクード  ?
バックワーム FREE
 
一ノ瀬志希 ar

(※トリガーセットが8枠すべてフリー(自由枠)で登録していて固定の武器トリガーが無い為、特例として志希のみポイントを所持している武器種全てを記述)
7180pt(スコーピオン) 
6579pt(孤月) 
4983pt(レイガスト)
7444pt(アステロイド )
6389pt(ハウンド)
5721pt(バイパー) 
5813pt(メテオラ)
6668pt(イーグレット) 
5703pt(ライトニング) 
5397pt(アイビス)

サイドエフェクト:強化嗅覚

スコーピオン ハウンド
スパイダー バイパー
シールド シールド
バックワーム レッドバレット

※志希に固定のトリガーはないのでシーズン初めのランク戦登録時は毎回8枠FREEで申請していますが、それだと使用トリガーが分からないので便宜上志希のみ試合毎に使うトリガーセットを載せます

??塩見周子 10899pt(イーグレット)

??バッグワーム イーグレット ?
FREE     テレポーター ?
シールド   シールド ?
FREE     エスクード

※今回は左下のFREE枠にメテオラをセット

??城ヶ崎美嘉 8619pt(アステロイド) ???

スコーピオン アステロイド(突撃銃) ?
テレポーター メテオラ(突撃銃)
?バッグワーム エスクード ?
シールド   シールド ??

宮本フレデリカ 24764pt(孤月)

?グラスホッパー 弧月 ?
シールド    シールド ?
テレポーター  旋空 
?バックワーム  FREE
25 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:07:02.42 ID:tsGVl3h90
【A級4位 鷹富士隊】

茄子gu 清良sn クラリスsn 亜里沙op

プリムラの花を撃ち抜く交差する2つの弾丸のエンブレム


鷹富士茄子 10888pt(メテオラ)

サイドエフェクト:幸運体質

メテオラ(擲弾銃) メテオラ(擲弾銃)
カメレオン     アステロイド(突撃銃)
シールド      シールド
バックワーム    FREE

柳清良 22889pt(イーグレット)

バッグワーム イーグレット
シールド   シールド
FREE     FREE
FREE     FREE

クラリス 8424pt(イーグレット)

バックワーム イーグレット
FREE     ライトニング
FREE     アイビス
シールド   シールド


新田隊 美波ar 夕美ar 唯ar 文香sn 愛梨op

波打つ海の上にMの字に並んだ5つの星のエンブレム

美波 8578pt(アステロイド)


アステロイド アステロイド
孤月     ハウンド
シールド   シールド
バックワーム FREE


唯 

スコーピオン     スコーピオン
アステロイド(突撃銃) アステロイド(突撃銃)      
シールド       シールド
バックワーム     FREE


夕美

アステロイド(拳銃)アステロイド(拳銃)
スコーピオン    スコーピオン
シールド      シールド
バックワーム    FREE

文香

バックワーム イーグレット
FREE     ライトニング
シールド   シールド
エスクード  エスクード



以上
26 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:24:39.81 ID:tsGVl3h90
橘ありす(二宮隊 オペレーター)「(今日は初めてのランク戦の実況……! 少し不安はあるけど、木場さん、和久井さんが解説を務めてくれるから私は安心して─)」

P「あ! おーいありすー」

ありす「! 呼びましたか、Pさん」ニコッ

P「ごめん! 実はさ、解説の留美さん……てか和久井隊がスカウト組の対応が長引いて今日は来れないらしいんだ」

ありす「えっ!? そんな……! じゃあ今日は誰が……」

P「うーんそうだなぁ……」

??「うおおぉぉぉぉぉ!!! 全・力・疾・走!!! C級ブースはこっちですよりあむちゃん!!!!!」ズダダダダ

??「ちょ……なんで走……ぜぇ……くっそやむ……げっほおぇ」

P「お、茜」ガシッ

日野茜(本田隊 アタッカー)「ややっ、P本部長!! おはようございます!!! 私、遅刻したりあむちゃんをC級ブースに送り届けている所です!!!」

夢見りあむ(C級 スカウト組)「Pサマたすけて……あつ森でオールしてたせいで寝坊したぼくが悪かったけどこんなのあんまりだよぅ……」

P「よし茜、こいつは俺が持ってくからお前はランク戦の解説を頼む」ポン

茜「解説ですか!! 分かりました、全力で解説しますっ!!!」

ありす「ちょ、Pさん!? 通りすがりの茜さんを捕まえて解説って、大丈夫なんですか!?」

P「……まぁ、困ったら真奈美さんが何とかしてくれるから。行くぞ夢見」スタスタ

りあむ「ひーん、夢見って呼ぶのやめて〜!」ドタドタ

ありす「あ、ちょっとPさん!? ……もうっ!」
27 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:25:39.34 ID:tsGVl3h90
橘ありす「皆さんこんにちは。本日実況を勤めさせて頂きます、二宮隊の橘です。よろしくお願いします」

日野茜「よろしくお願いしますありすちゃん!!「橘です」そして解説はこのわたくし、日野茜ですっ!! 全力で務めさせて頂きます!!!」
 
木場真奈美(木場隊隊長 アタッカー)「同じく解説の木場真奈美だ。本日はよろしく頼む」

ありす「日野隊員、今回はどの隊に注目しますか?」

茜「そうですねぇ、今回はなんと言っても新A級、チャレンジャーの新田隊でしょうか! 現役の並み居るツワモノ達にどう対応するかが見ものですね!! くぅ〜、チャレンジャー! いい響きですね!燃えますねぇー!!」

ありす「……ありがとうございます。木場隊長、今回の組み合わせについてはいかがでしょうか?」

真奈美「片桐隊と鷹富士隊が含まれる試合では、両隊の好む戦法上荒れた展開になる事が多い。マップ選択権が新田隊に在ることも含め、番狂わせの可能性は十分あるだろうな」

茜「人数が多い程運要素は強まりますからね! 今回は四つ巴ですから、大波乱間違いなしです!!! いやー楽しみですねぇ!!」

ありす「なるほど、先の読めない試合になりそうですね。新田隊のマップ選択にも注目しt」

茜「さぁさぁさぁっ!!! 間もなく転送開始ですよー!! A級ランク戦ROUND1!! チャレンジャー新田隊にご注目あれーーー!!!」

ありす「えっ!? ちょっと茜さん、それ私のセリフです!」ガーン!

真奈美「まだ始まらないから落ち着け」
28 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:26:54.55 ID:tsGVl3h90
橘ありす「皆さんこんにちは。本日実況を勤めさせて頂きます、二宮隊の橘です。よろしくお願いします」

日野茜「よろしくお願いしますありすちゃん!!「橘です」そして解説はこのわたくし、日野茜ですっ!! 全力で務めさせて頂きます!!!」
 
木場真奈美(木場隊隊長 アタッカー)「同じく解説の木場真奈美だ。本日はよろしく頼む」

ありす「日野隊員、今回はどの隊に注目しますか?」

茜「そうですねぇ、今回はなんと言っても新A級、チャレンジャーの新田隊でしょうか! 現役の並み居るツワモノ達にどう対応するかが見ものですね!! くぅ〜、チャレンジャー! いい響きですね!燃えますねぇー!!」

ありす「……ありがとうございます。木場隊長、今回の組み合わせについてはいかがでしょうか?」

真奈美「片桐隊と鷹富士隊が含まれる試合では、両隊の好む戦法上荒れた展開になる事が多い。マップ選択権が新田隊に在ることも含め、番狂わせの可能性は十分あるだろうな」

茜「人数が多い程運要素は強まりますからね! 今回は四つ巴ですから、大波乱間違いなしです!!! いやー楽しみですねぇ!!」

ありす「なるほど、先の読めない試合になりそうですね。新田隊のマップ選択にも注目しt」

茜「さぁさぁさぁっ!!! 間もなく転送開始ですよー!! A級ランク戦ROUND1!! チャレンジャー新田隊にご注目あれーーー!!!」

ありす「えっ!? ちょっと茜さん、それ私のセリフです!」ガーン!

真奈美「まだ始まらないから落ち着け」
29 : ◆AXT/uuswxI [saga 連投すみません]:2020/04/11(土) 23:28:12.32 ID:tsGVl3h90
飛鳥「ありす……気の毒に」

比奈「失礼ッスけど、茜ちゃん、解説なんか出来るんスか? その、あー……彼女、どっちかというと理論派っていうよりは本の……感覚派じゃないッスか」コソッ

藍子「ふふ、大丈夫ですよ。茜ちゃんはお勉強は少し苦手ですけど、こと戦闘に関しては凄いんですから。あ、ちなみにラグビーの知識だってすごいんですよ? この前ウチの隊の皆でお茶した時───」ユルフワー
30 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:29:08.23 ID:tsGVl3h90
ありす「新田隊の戦闘マップ選択は『都心A』! 木場隊長、これは一体どういった狙いでしょうか? どちらかと言うとアタッカー有利なマップに見えますが」

真奈美「その通り、アタッカー有利だな。『都心A』はエリア全域に渡って多くの高層建築物が立ち並ぶ。その上車などの細かい遮蔽物もあり全体的にゴチャゴチャしているので、中・長距離の射線が少々通りづらい地形となっている」

真奈美「まぁ全域がそうという訳ではないし、都会なだけあって道幅は広いので主に狙撃を狙うならそこだろうが……おそらく及川隊員の砲撃、鷹富士隊長の曲射爆撃をある程度封じる狙いだろうな」

茜「もっと言うと鷹富士隊不利ですね! 全員射撃トリガーしか入れてませんし!」

ありす「今回の対戦相手の中に宮本隊員、片桐隊長といったボーダー三指に数えられるトップレベルのアタッカーがいる中でのこの選択には疑問を感じる所ですが、どうでしょう、日野隊員?」

茜「いえいえ、ひとえにそうとも言えませんよ! アタッカートリガーを採用しているのは、えーっと……何人でしたっけ」

真奈美「片桐隊が二人、速水隊が二人か三人(※)、鷹富士隊が0人、新田隊が三人だ」(※現時点で志希が戦闘員なのかオペレーターなのか&志希のトリガー構成が不明な為)

茜「ありがとうございます!! そういう事なのでアタッカーの数の有利は取れています! ですから、チーム全体の戦力で勝負するよりはよい判断だと私は思います!!」

飛鳥「(かしこい)」
31 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:30:02.15 ID:tsGVl3h90
真奈美「鷺沢隊員はスナイパーランキングに名を連ねる実力者だが、新田隊以外の隊には鷺沢隊員より格上のスナイパーが揃っているからな。それを考えると悪手とは言い切れないよ」

ありす「……」プク ←文香さんだって強いもんと主張したいが立場上我慢してる

真奈美「だからといって、鷺沢隊員を腐らせる様な作戦は論外だがな。数の有利と彼女程の実力者を活かさない手はない」ニコ

ありす「! と、当然です(フンス)……しかし、速水隊長は自ら弾道を引ける素晴らしいバイパー使いです。彼女なら細々した遮蔽物の隙間を縫って攻撃する事は容易なはずです。多くのガンナーが遮蔽物に遮られる中、それをものともしない速水隊長には大きなアドバンテージを明け渡す事になってしまうのでは?」

真奈美「そこは新田隊長の読みだろうな。今回はスナイパーが多く、更にスナイパー1位の柳隊員もいる事で索敵の優先度はいつにも増して高くなる。四つ巴の試合で人数が多く速水隊長の殲滅力も捨てがたいが、一ノ瀬隊員のサイドエフェクトによる索敵を速水隊は優先させるだろうと読んだのだろう」

茜「私は奏さんが出てくると思います! カメレオン状態だと、軌道が読みづらいバイパーは極めて厄介ですからね!!」

真奈美「何にせよ新田隊はこれがA級での初戦だ、データ取りの意味合いもあるのだろう。どんな作戦がどこまで通用するか、試行錯誤するのも悪くない。負けたら終わりの一発勝負ならまだしも、この先もランク戦はまだまだ続いていくんだからな」
32 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:31:49.69 ID:tsGVl3h90
ありす「木場隊長も、A級に上がりたての頃はそうやって経験を積んでいたのですか?」

真奈美「勿論だ。当時の高橋隊を始めとして、A級は怪物揃いだったからな。イメージトレーニング通りには中々いかなかったよ」

ありす「木場隊にもそんな時期が……こほん。日野隊員も同じようにデータを取ってイメージトレーニングを?」

茜「いえ! 理屈で考えても頭がパンクしてしまいますので! 難しい事は未央ちゃん達に任せて、私は本能の赴くままに突撃あるのみです!」

ありす「そ、そうですか。……ここで各隊員の仮想空間への転送が始まりました。間もなく戦闘が開始されます!」


『転送完了 対戦ステージ『都心A』 A級ランク戦ROUND.1 開始』
33 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:38:19.43 ID:tsGVl3h90
※「都心A」は当ssオリジナルのマップです

【前シーズンの最終順位・及び暫定ランキング】

A級 
1位 木場隊 
2位 片桐隊      
3位 速水隊
4位 鷹富士隊   
5位 向井隊     
6位 和久井隊
7位 川島隊     
8位 新田隊    

B級

1位  財前隊 
2位  桐生隊
3位  相原隊
4位  神谷隊 
5位  二宮隊
6位  輿水隊
7位  本田隊
8位  双葉隊
9位  丹波隊
10位 浅利隊
11位 前川隊
12位 綾瀬隊   
13位 五十嵐隊
14位 ヘレン隊
15位 南条隊
16位 岡崎隊
17位 早坂隊
18位 的場隊   
34 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:39:27.90 ID:tsGVl3h90
【個人ランキング】

個人(ソロ)総合ランキング  

順位/ランカー名(使用武器)/取得ポイント

1位 木場真奈美(孤月)     37241
2位 片桐早苗(スコーピオン改) 35890
3位 宮本フレデリカ(孤月)   24764
4位 柳清良(イーグレット)   22889
5位 向井拓海(アステロイド) 21375
6位 高峰のあ(アイビス改)   16674
7位 諸星きらり(孤月改)    15802
8位 速水奏(バイパー)     13284
9位 中野有香(スコーピオン) 12663
10位 佐藤心(孤月)    11270


アタッカーランキング

1位 木場真奈美(孤月)     37241
2位 片桐早苗(スコーピオン改)  35890
3位 宮本フレデリカ(孤月)    24764
4位 諸星きらり(孤月改)     15802
5位 中野有香(スコーピオン)   12663
6位 佐藤心(孤月)     11270
7位 浜口あやめ(スコーピオン)  11104
8位 財前時子(孤月改)      10688
9位 日野茜(スコーピオン)   10514
10位 ヘレン(スコーピオン) 10286

ガンナー・シューターランキング

1位 向井拓海(アステロイド)   21375
2位 速水奏(バイパー)      13284
3位 川島瑞希(バイパー)     11897
4位 鷹富士茄子(メテオラ)    10888
5位 相葉夕美(アステロイド)   9864
6位 二宮飛鳥(ハウンド)     8921
7位 木村夏樹(アステロイド)   8773
8位 姫川友紀(アステロイド)   8752
9位 大和亜希(アステロイド)   8650
10位 城ヶ崎美嘉(アステロイド) 8619

スナイパーランキング

1位 柳清良(イーグレット)   22889
2位 高峰のあ(イーグレット)  16672
3位 三船美優(アイビス)    12218
4位 塩見周子(イーグレット)  10894
5位 相原雪乃(イーグレット)  9997
6位 及川雫(アイビス) 9537
7位 大和亜希(イーグレット)  9465
8位 綾瀬穂乃香(ライトニング) 8812
9位 鷺沢文香(アイビス)    8535
10位 クラリス(イーグレット) 8424

おまけ
オペレーターランキング(非公式)

1位 八神マキノ
2位 千川ちひろ
3位 双葉杏
4位 三好紗南
5位 一ノ瀬志希
6位 高垣楓
7位 佐久間まゆ
8位 速水奏
9位 服部瞳子
10位 橘ありす

ブラックトリガー使い
遊佐こずえ ??? ???
35 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:41:34.41 ID:tsGVl3h90
【ボーダー隊員の人員構成】

・司令
美城

・本部長(戦闘部隊総隊長)
P

・本部長補佐
ちひろ

・外務・営業部長
ちひろ

・メディア対策室長
ちひろ

・本部開発室長
晶葉

・チーフエンジニア


・A級(1位から順に)
木場隊  真奈美 のあ あい マキノ    
片桐隊  早苗 心 雫 紗南    
速水隊  奏 美嘉 周子 フレデリカ 志希
鷹富士隊 茄子 クラリス 清良 亜里沙  
向井隊  拓海 夏樹 亜希 里奈 涼   
和久井隊 留美 美優 雪美 瞳子 
川島隊  瑞樹 比奈 春菜 紗理奈    
新田隊  美波 夕美 文香 唯 愛梨  

・B級

財前隊 時子 有香 法子 ゆかり  
桐生隊 つかさ 翠 千秋 聖來
相原隊 雪乃 巴 琴果 桃華
神谷隊 奈緒 凛 加蓮 楓  
二宮隊 飛鳥 蘭子 小梅 あの子(?) ありす
輿水隊 幸子 友紀 紗枝 まゆ  
本田隊 未央 茜 裕子 藍子
双葉隊 杏 きらり 悠希
丹波隊 仁美 あやめ 珠美 葵 
浅利隊 七海 ライラ ナターリア 歌鈴
前川隊 みく 李衣菜 アナスタシア 肇
綾瀬隊 穂乃香 柚 あずき 忍  
五十嵐隊 響子 美穂 卯月 かな子 智絵里
ヘレン隊 ヘレン
南条隊 光 麗奈 千佳 柑奈
岡崎隊 泰葉 裕美 ほたる 千鶴
早坂隊 美玲 輝子 乃々 由愛
的場隊 梨沙 晴 みりあ 千枝

※基本的に一番左が隊長(隊名にもなっている)、一番右がオペレーター。
オペレーターが隊長の双葉隊、一人部隊のヘレン隊など一部例外あり。

※ある程度、キャラの個性をサイドエフェクトやチームの戦術などに反映させています。
36 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:46:56.31 ID:tsGVl3h90
転送直後。四隊の全隊員が、マップ内にそれぞれ一定距離を空けた位置にランダムに配置される。



それと同時に、新田隊以外の隊員及びスクリーンの映像を見ていた観客は驚き、あるいは感嘆の声を上げた。




茄子「うふふ、やりますね美波ちゃん♪」

華奢な細腕に見合わぬ大きな銃二丁を両手に携えた茄子が、楽しげにつぶやいた。

茄子「……さて、行きますか!」



早苗「なるほど……そう来るのね。皆、いい? 今から──」

目立つ転送位置から速やかにビルとビルの間の路地に身を滑り込ませた早苗が、片桐隊の隊員達を指示を飛ばす。


志希「くんくん……見つけた。今から言う位置のレーダーの点にタグ付けて。まずあたしのすぐ北のこれが──」

大型家電量販店の屋上で志希は静かに佇んでいた。サイドエフェクト「強化嗅覚」を駆使し索敵を行う彼女の頭に、白いものがふわりと乗った。


雪だ。


美波「合流地点はポイントC周辺にします! 合流まで無茶な交戦は避けること! 皆、A級デビュー戦絶対取るよっ!」

『『『『了解!』』』』

ランク戦のマップは「都心A」。現実世界であれば絶え間なく人が往来し、騒音の耐えない活気ある空間だったであろう。

しかし、ここは無音の仮想空間。それはまるで、雪によって時間が停止したかのような静けさ。

だが間もなく、その静寂は破られるだろう。
37 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:49:13.49 ID:tsGVl3h90
ありす「雪……!」

茜「ややっ、雪ですかっ!」キラキラ

ありす「更に新田隊、雪原迷彩とも言うべき白い隊服に身を包んでいます! おそらくバックワームも白色に設定されていると思われます!」

真奈美「天候設定『雪』か。大粒の雪が降り靴が埋もれる程度には積もっているが、『昼』な事もあり空は明るくそれほど視界が悪い訳じゃない。フフ、中々面白い事をするじゃないか」

ありす「日野隊員、これはどういった狙いでしょうか?」

茜「ん〜、いいですねぇ! 今度本田隊(ウチ)がマップ選択権を貰った時は、天候設定を雪にしてもらいましょうか!」ワクワク

ありす「あの、日野隊員? 日野た……茜さんっ!!」

茜「へぁ? ……あっ、こほん! えー、恐らく『カメレオン』対策ですね!! 早苗さんのカメレオン+格闘術、茄子さんのカメレオン+幸運のサイドエフェクトの強力なコンボを、足跡で位置が丸見えな雪によって弱体化させる狙いでしょう!」

真奈美「カメレオンを起動している間は透明化出来るが、その代わりそれ以外のトリガーを同時に使えなくなる。当然シールドも使えず、攻撃に対して完全に無防備な状態になるから、雪で正確な位置が割れれば当然戦いにくくなるだろうな」

ありす「ですが、なぜ視界が悪くない程度の雪に留めたのでしょう? 大雪で視界を悪くすれば、鷹富士隊を始めとした他隊のスナイパー達を大きく機能低下させられたと思うのですが……」

真奈美「おそらくそれだと屋内戦にもつれ込み、アタッカーが有利になりすぎると踏んだのだろう。敢えてそうしなかったのは他隊の強力なスナイパー達に片桐隊長や宮本隊員といった強力なアタッカーへの抑止力となってもらう為だと思うよ」

ありす「あっ! 鷹富士隊長が仕掛けるようです!」
38 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:50:11.97 ID:tsGVl3h90
一面真っ白な高層ビルの屋上で、バックワームを纏った鷹富士茄子は片膝をついた状態で静止していた。

その視線は、トリオン体の標準機能であるレーダーに注がれている。バックワームを装備していない敵や味方の位置を平面マップ上に光点で示すものだ。もっとも、レーダーではその光点が誰かまでは分からない。

茄子が得意としている攻撃手段の一つに、「適当メテオラ」というものがある。といっても大層なものではなく、レーダーを見て「メテオラ」を勘で撃つだけのものだ。

トリオン弾は基本的に重力や空力の影響を受けず、放たれるとひたすら直進していく。だが、茄子の使う擲弾銃は狙撃トリガーにすら匹敵する長い射程と引き換えに、その性質を持たない。

つまり、数百メートル規模での「曲射」が可能なのだ。

レーダーを見ての適当撃ちなので、普通なら当然命中精度は低く、警戒しているフリー状態のA級隊員が相手ではまず当たらないだろう。



そう、「普通」なら。
39 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:51:46.20 ID:tsGVl3h90
茄子「」ガチャ!

茄子は銃を構えた。

適当撃ち。当たるか外れるかは「運」次第。といっても、当たる確率は限りなく低いだろう。

で、あるならば。「幸運」のサイドエフェクトを持った彼女ならばどうだろうか。




茄子『レーダー上の全光点を狙って5秒後に撃ちます! 炙り出されて浮いた子を狙撃して下さい!』

清良クラリス『『了解』』

戦闘用義体「トリオン体」の標準機能である内部通信機能により、声を発さずチーム内で会話する。

茄子「(……5……4……3……2──)」

パキ

茄子の背後から、小石を踏んだような音が微かに聞こえた。

茄子「!!」バッ

その音に茄子が振り向いた時には、「それ」は輪郭がブレる程に加速していた。

??「」ビュオッ!

高速で接近してくる何者かに対し、茄子は反射的に回避行動を取った。

直後、凄まじい速度で接近してきたブレードが茄子の頬を掠めた。

早苗「ハァイ♪」ギラッ

茄子「わわっ!」

茄子が辛うじて回避した後、気さくな声色に見合わぬ鋭い眼光と不敵な笑み、稲妻のような動きで彼女に迫りながら声をかけたのは片桐早苗。バックワームでレーダーから消えていた早苗が、茄子に奇襲を掛けたのだ。

茄子は回避した流れでバックワームを靡かせながらそのまま綺麗に側転すると、間髪入れず鉄柵を飛び越え、ビルの屋上から飛び降りた。アタッカーと見紛う程の身のこなしだ。

早苗「(んー、踏み込みの瞬間に『運悪く』雪の下に隠れてた小石かなんかを踏み砕いちゃったか。ま、茄子ちゃんだし仕方ないわね)」

早苗は鉄柵を飛び越える時間すら惜しいと言わんばかりにスコーピオンで鉄柵を一瞬で切り刻み、一瞬も減速する事なく、電光石火の如く猛追する。
40 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:52:42.18 ID:tsGVl3h90
茄子のいたビルは前述の通りかなりの高層。地上までは三十メートル程もある。

早苗「グラホ持ちのあたしの前で飛ぶなんて、ちょーっと迂闊じゃないかしら?」

茄子「そんな事ないですよー!」ガチャ

茄子は落下による空気抵抗で強くはためくバックワームを解除しつつ、空中で体を捻り早苗に銃口を向ける。

ドドドドドドォン!

早苗は茄子の放つメテオラ群をシールドで難なく防御した。だが、その感触に早苗は違和感を抱いた。

早苗「(弾の収束が甘い? ……そういう事ね)」

茄子は早苗を倒す事を狙って撃ったのではない。今しがた飛び降りた高層ビルを狙ったのだ。数発早苗に撃ったのはシールドを張らせて動きを止める狙いだろう。

茄子「(大体の位置がバレてて身動きの取れない空中じゃ透明化した所で格好の的……まだカメレオンは使えない! 地上に降りるまで時間を稼がないと……!)」

メテオラの当たりどころが良かったのか、ビルが砕けてできたガレキが爆散し、早苗と茄子を遮るように飛んできた。

早苗「時間稼ぎのつもりかしら?」

早苗「(『居る』ならここで撃たれるかしらね)」
41 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:53:44.95 ID:tsGVl3h90
ビギュン

ご名答。

早苗「ん、やっぱりね」サッ

転送運が良く、クラリスが茄子を援護できる位置にいたのだ。鷹富士隊は茄子のサイドエフェクトのお陰で、毎試合必ず「良い位置」に飛ばされる。早苗も当然それを警戒していた為、難なく躱す事に成功した。

早苗は、攻撃する瞬間が一番隙だらけになる事を理解していた。

ありす『鷹富士隊、今回も非常にいい位置に転送されていました! これも鷹富士隊長のサイドエフェクトの力なのでしょうか?』

真奈美『そう、鷹富士隊長を狙う時には常に自分が狙撃手の射程圏内にいる事を覚悟しておかなければならない』

──300m南西──

クラリス「外しましたか」バッ

ライトニングで早苗を牽制した直後、クラリスは潜伏していたビルのオフィスの窓を割って飛び降りた。

───────

紗南『あのビルだよ』

雫「はいー」ズド


ドゴオォォォォン!!


直後、クラリスが数秒前までいたビルの上半分が吹っ飛んだ。
42 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:56:38.94 ID:tsGVl3h90
undefined
43 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:57:52.55 ID:tsGVl3h90
早苗『雫ちゃん、片っ端から清良ちゃんが居そうな狙撃ポイント潰してって。紗南ちゃん支援頼むわね』

紗南雫『『了解!』』

数秒後、周囲のビルやショッピングモール、家電量販店、立体駐車場などの大型建造物がが次々と爆音を立てて崩落していく。

茄子『清良さん!』

その呼び掛けは、決して清良の身を案じてではない。スナイパー1位にそんなものは不要だった。

清良『』ダンッ! ダンッ! ダンッ!

清良は、イーグレットで三発の銃弾を放った。



そのたった三発は、試合を大きく動かした。
44 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:58:29.70 ID:tsGVl3h90
一方、観戦ルーム。

清良が一発目の弾を撃つと室内は大きな歓声が上がり、二発目を撃つと更に大きな歓声が、三発目が撃ち終わる頃には室内の半数ほどの人が立ち上がり、ある者は絶句し、またある者は驚きのあまり悲鳴すら上げていた。

みく「うえぇぇぇ!? 一発目とか外してたらどうするつもりだったにゃ!?」

比奈「絶対に当てる自信があったからでしょうねぇ」

藍子「す、凄いです……! 凄すぎて、私……」

菜々「ふふっ、清良ちゃんも相変わらずですねぇ」ニコニコ

飛鳥「…………」ポカーン

比奈「(飛鳥ちゃん、口開いてるっスよ)」ヒソヒソ

飛鳥「!」パクッ

比奈「あはは、気持ちは分かるッスよ」

飛鳥「……ッ。忘れてくれ」カァッ…
45 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:01:14.89 ID:K6z61BeE0
undefined
46 : ◆AXT/uuswxI [saga >>42の分です]:2020/04/12(日) 00:04:22.04 ID:K6z61BeE0
早苗『雫ちゃんナイスぅ♪』

雫『いえいえー♪』

早苗「これでしばらく援護は望めないわよ」

茄子「着地出来れば充分ですよー!」ブゥン…

早苗は空中で茄子に向き直るが、一瞬早く着地した茄子はそれと同時にカメレオンを起動し、透明化した。

早苗「(む、消えたかー。でも美波ちゃん達が雪にしてくれて助かっ……やるじゃない)」

早苗は透明化した茄子を雪の足跡を利用して見つけようと考えたが、茄子は透明化する前、早苗が空中で瓦礫や狙撃に対処していた一瞬の隙に地面に向かってメテオラを撒いていた。そのお陰で雪の積もった地面はまるでいくつも丸く型抜きされたクッキー生地のように、円状にアスファルトが露出していた。

茜『茄子さん流石です! 無駄な動きがありませんね!!!』

真奈美『瓦礫の崩れる音で足音も上手く消しているな』

早苗「(ここまでされちゃ、後は神頼みね。って──)」ヒュオッ!

早苗はスコーピオンを二つ繋げて伸ばす高等技術、「マンティス」を駆使し、レーダーをチラ見しつつ薙ぎ払うように広範囲を攻撃した。

カメレオンを使用している相手は、姿は見えないがレーダーにはハッキリと映る。つまり、レーダーを見ながら大まかな位置を「勘」で攻撃するしかない。

早苗「(茄子ちゃん相手にそれは無いわね)」

茄子「(おっとっと。よっと。ひょいっと)」

まさに「神業」、早苗の猛攻を紙一重で全て回避していた。
47 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:05:16.10 ID:K6z61BeE0
ありす『片桐隊長、超高速のマンティス! しかし鷹富士隊長には当たりません!!』

真奈美『直接斬りに行かないのは柳隊員が射程内にいる事を考え、射線の切れる所から攻撃をせざるを得ないからだろうな。他のスナイパーならそれでも斬りに行っているだろうが、柳隊員は格が違う。試合も序盤でまだ勝負に出る訳にはいかないんだろう』

茜『早苗さんも刺し違える覚悟なら倒せるでしょうが、茄子さんと自分(早苗さん)のトレードじゃ割に合わないと判断したのだと思います!!』

ありす『片桐隊長は及川隊員には撃たせないんでしょうか?』

真奈美『カメレオン状態の鷹富士隊長にはおそらく当たらない。ハウンドでは片桐隊長も巻き込むおそれがある。それに爆風やら何やらで運要素が強まってしまうのを懸念したんだろうな』

茜『茄子さんを倒す時には、なるべくそういった運要素を排除するのが定石ですからね!』
48 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:06:37.11 ID:K6z61BeE0
まず一発目。その弾は、なんと清良のいる建造物を粉砕せんと飛んでくる雫のアイビスの弾そのものを空中で撃ち抜いた。

その爆音はエリア全域に鳴り響き、その爆風は周囲の雪を一瞬で吹き飛ばした。それは幸運にも茄子の逃げた先の地面の雪であり、茄子の逃走を手助けする形となった。清良の元へと逃げた茄子の判断が功を奏したようだ。

次に二発目。これは雫へのカウンタースナイプ。

雫は大規模破壊が目的のアイビスによる狙撃(砲撃)を行う時はバックワームを使用しない。それだけ目立つ行動をすれば一瞬で位置が割れて反撃に遭うので、ブラックトリガー級のトリオン能力を活かして半球状のシールドで自身を覆い、僅かに開けた穴をシールド変形で動かしながら狙撃を行う。


清良はその穴を撃ち抜いた。


雫はこういった万が一に備えて穴の射線上に体を置く事はしないのでトリオン体は無事だが、それでも武器となる狙撃銃(アイビス)は完全に破壊され、その衝撃で体勢を崩してしまった。すぐさま次弾を放つのは不可能だろう。

清良がたまたまその穴を狙撃出来る位置にいたのも、ひとえに「運が良かった」。これに尽きる。
49 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:07:18.90 ID:K6z61BeE0
最後に三発目。早苗のマンティスを撃ち砕いた。

イーグレットを構えてから撃つまでの刹那、流石の清良も高速で動く刃を捉えるのは難しいと考えた。そこで、清良は刃が空振った後、反転する際の一瞬の停止時間を狙ったのだ。

これは最上位クラスの隊員しか知り得ない、あるいは知った所でどうしようもないとも言うべき小さな早苗の弱点だが、早苗は自身の体に当たるであろう攻撃には極めて敏感に反応するが、それ以外、つまり早苗の体を通過しない攻撃には反応が鈍い(基本的には誰もが当てはまるだろうが)。

並のスナイパーなら、早苗本体を狙った方が早い、もしくは現実的だと考えただろう。しかし、清良は臨戦態勢かつフリー状態の早苗にこの距離(200m)での狙撃は当たらないと判断し、武器狙いに切り替えた。


普通ならその判断で早苗そのものを諦めるだろうが、清良は「狙える」のだ。

結果、次弾を警戒した早苗は武器を破壊された上に清良に意識を大きく奪われ、茄子を取り逃がす事になった。


茄子「(なんとか早苗さん撒けたみたい。でもやっぱり狙撃ポイント潰されると困るし、うーん?……)」





茄子「(──雫ちゃんがやっかいですねぇ)」キィン
50 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:08:28.22 ID:K6z61BeE0
ありす『な、なんと! 柳隊長の神業の如き三連弾により、鷹富士隊長が片桐隊長を撒く事に成功しました!』

真奈美『これが鷹富士隊の強さだよ。戦場における運は彼女達に味方する。戦場で敵に運を味方に付けられる事、そしてこちらが運に見放される事、それがどれ程恐ろしい事か……。言うまでも無いだろう』

ありす『実力が拮抗している場合、勝敗を決するのは読み合い。言ってみればジャンケンに近いと聞きます。運は極めて重要な要素ですね』

茜『それに、スナイパーのアシストがあるとはいえあの距離まで近付かれた早苗さんから逃げ切るのはほんっっとーに凄い事ですよ!! 身のこなしに優れた上位アタッカーですら難しいと思います!』

ありす『そうなんですか? いくら早苗さ……片桐隊長とはいえ、スナイパーのアシストがあるなら絶望的に難しいとは思えないのですが……』

茜『一体一なら機動力のある双葉隊の悠貴ちゃんや私、機転が利くフレデリカさんや志希さんなどはいけるかも知れませんが、大抵は雫ちゃんがどこからでも射線お構い無しにどでかいのを撃ち込んで来るので崩された隙にやられてしまいます! 武術に長けた早苗さん相手じゃ組み付かれた時点でほぼやられますので!』

ありす『ひえぇ、日野隊員や乙倉隊員でも逃げられないんですか……となると、木場隊長も逃げられないんですか?』

真奈美『私は逃げないよ。近づかれる前に斬る』

ありす『か、かっこいい……!流石は総合1位です!!』キラキラ

真奈美『買い被りはよしてくれ、斬れずに寄られて倒される事も当然ある。私の場合立ち向かうのが分が悪い勝負ではないだけだよ』

ありす『……っ!』←充分かっこいいですという眼差し

真奈美『……それに、やはりと言ったところか。最初に鷹富士隊長が片桐隊長と接触した時は運が悪いと思ったが、結果的には鷹富士隊有利な状況になりつつある。見てみろ』

ありす『あっ! あれは……!』
51 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:11:16.74 ID:K6z61BeE0

夕美『雫ちゃん発見! 交戦していい?』

美波『OK! でも無理はしないでね!』

夕美『分かってる、合流優先っ!』

唯『夕美ちゃんファイトっ!』



志希『雫ちゃんと夕美ちゃんみっけ〜。うまいことやりまーす』

周子『あーい』

フレデリカ『らーぶ?』

志希『ゆー!』

ふれしき『『いぇーい♪』』

周子『なんのこっちゃ』

美嘉『気が抜けるなぁ……』

奏『志希、具体的にはどうするつもり? 簡単にでいいから教えてちょうだい』

志希『ん? えっとねー───』



雫『あっ、夕美ちゃんに見つかっちゃいましたー。交戦は避けらなさそうですねー』

心『まじ? 思ったよか早いじゃん。一人でやれそ?』

雫『夕美ちゃんだけなら大丈夫ですー。けど恐らくあれだけ撃ったので足止めされてる内に次々来ると思いますー。そうなったなら多分やられちゃいますねー』

早苗『ごめん、あたしはちょっと遠いわ! 心ちゃんお願い!』

心『つっても夕美ちゃんから走って逃げるのは無理ぽいな! おっけすぐ行くぞ、あと1〜2分待っとけ☆』

紗南『50秒ね。このルートなら目立つけど心さんなら多分行けるから表示しまーす』

雫『お願いしますー』

心『任しとけちくしょうめ☆』

余談だが、心にはこういう役回りが多い。
52 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:12:21.32 ID:K6z61BeE0
真奈美『まぁ、流石にあれだけ派手にやれば見つかるだろうな』

茜『志希さんはまだ夕美さんと雫さんのどちらにも気付かれていないようですね!』


夕美のハンドガンは、片方は「射程」と「弾速」、もう片方は「威力」と「弾速」に重きを置いた設定になっている。左右持ち替える事も可能。グリップ部分に夕美にしか分からないような微妙な感触の違いがあるのだが、見かけ上はどちらも全く同じな為、相手からすればどちらがどちらか分からない。

夕美「行くよっ!」

夕美は二丁のハンドガンを構え、雫のシールドの一点を狙い連発するが、雫のシールドはビクともしない。

夕美「(だったら……)」

続いて「射程」の方のハンドガンで牽制しつつ
「威力」の方で崩しを狙ったり、攻めのリズムをわざと単調にしておいて急に変調させるなど、様々なテクニックを織り交ぜてはみたものの、そのどれもが通じなかった。

シールドが硬すぎて並のトリオン量の隊員が相手なら通じる戦法も、雫には通じない。また雫のハウンドが作る弾幕が分厚過ぎて、そもそもハンドガンが活きる近めの射程距離に入れて貰えないのだ。

だが、夕美もあの早苗に師事する達人である。雫と対面してこれだけハウンドを撒かれながら数十秒も無傷でいられる隊員はそう多くない。

夕美「(美波ちゃんと対雫ちゃんの特訓してなかったら危なかった……!)」

夕美はマスタークラスのシューターでもある美波が雫並のトリオンになるよう訓練室の設定をし、この「都心A」でひたすらトリオンモンスター美波とのタイマンで実戦経験を体に叩き込んで来たのだ。
53 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:12:55.83 ID:K6z61BeE0
夕美「っふぅ! やっぱり正面からは無理かな」

雫「効きませんよー!」ギィン

雫はシールドを張ったままアイビスをオフにし、3メートル四方はあろうかという巨大なトリオンキューブを頭上に発生させ、それを縦×横×高さで4?、64分割にした。64分割とはいえ、その一つ一つが並のシューターの丸々一つ分かそれ以上の大きさだ。

夕美「(来た!)」

夕美は俊敏な動きでその場を離れ、ビルから飛び降りた。


真奈美『夕美のあの動き……』ボソ

茜『ややっ!? なんだか早苗さんに似ているような……!?』


雫「ハウンド!」

凄まじい威力と弾速のトリオン弾群が夕美に降り注ぐ。それらと同程度のトリオンが割り振られた射程距離もかなりのものだろう。

トリオン量が規格外な為、射撃トリガーを放つ際にチマチマとトリオン量の配分を考えずに大雑把に割り振っても問題ない所が雫の強みの1つでもある。
54 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:13:35.19 ID:K6z61BeE0
夕美は本能的に向かってくるハウンドと反対側に逃げようとする気持ちを抑え、最短かつ華麗な身のこなしで雫の居たビルの屋上の3階下のフロアのガラスを割り中へと侵入した。

雫のハウンドはシールド二枚のフルガードでも防げない。そう考えた夕美はビルでガードすると同時に、その凄まじい威力を利用して下のフロアにハウンドを誘導し破壊する事で屋上にいる雫の足場を崩した。

真奈美『相葉隊員は及川隊員のハウンドを利用して自分のいる階から上を崩落させ、落ちてくる及川隊員を狩る狙いのようだ』

茜『いくら雫ちゃんのシールドが硬いとはいえ、ゼロ距離でシールドを削られ続けるのはジリ貧です!! 雫ちゃんピンチですね!!』

雫「きゃあ! ……そう来ましたかー。でしたら私もっ」

雫は抱えていたアイビスをONにし、真下のビルごと夕美を狙う。

夕美「!!」

夕美は一瞬で反応し、すんでのところでビルから脱出する。



直後、何度響いたか分からない爆音が鳴り、ビルが崩壊しはじめた。
55 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:14:55.05 ID:K6z61BeE0
夕美「(雫ちゃんが落下中で体勢を崩してる今しか距離を詰められないっ! すぐ戻らなきゃ!)」

夕美は崩落したビルの対面のビルの壁を蹴り、地上へと加速した。

雫「うっ」ドサッ

それを確認した雫は数十メートル落下した後着地してすぐ起き上がり、瓦礫を払い除けるとバックワームを起動させてレーダーから姿を消し、夕美が脱出した方向の反対側に走り出した。

雫「(夕美ちゃん、前より対面した時の圧力が強くなってますねー。一旦心さんと合流して──)」


───雫の視界が傾いていく。気付けば、右に空が、左に地面があった。


志希「夕美ちゃんを撒いてもうすぐ心さんと合流出来る、最も油断しちゃうこのタイミング。逃す訳ないよね〜」

否。奇襲を仕掛けた志希に首を落とされたのだ。


『戦闘体活動限界 緊急脱出(ベイルアウト)』


ありす『一ノ瀬隊員の奇襲により及川隊員ベイルアウト! 速水隊先制点です!』

茜『おおおおおっ!!! やりますねぇ志希さん! 一瞬の隙を突く素晴らしいタイミングでした!』

真奈美『……? 志希の動き、何やら違和感が……』ボソッ

茜『むむ? どうかしましたか?』
56 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:15:28.44 ID:K6z61BeE0
──片桐隊 作戦室──

雫「わっ。え?……私、倒されちゃったんですかー?」ドサッ

紗南「おかえりー。うん、志希ちゃんが潜伏してたみたい。アレは仕方ないよ、志希ちゃんの潜み方と忍び寄り方上手すぎ」

心『めんご雫ちゃん間に合わなかった☆』テヘ

雫「いえ、一瞬油断しちゃいましたー……」シュン

早苗『はいはい切り替え! 心ちゃんはあたしに合流して!』

心『うぃっす☆』
57 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:16:26.57 ID:K6z61BeE0
その数秒後、雫が倒された地点に夕美が到着した。

夕美「(ベイルアウトの光! それにあれは志希ちゃんっ!雫ちゃんが倒されたんだっ! 一足遅かった……!)」グッ

志希「あ、夕美ちゃんだ〜」フリフリ

夕美「(志希ちゃん……武器トリガーも持たずに棒立ち? いや、一応周囲の狙撃ポイントからの射線は切れる位置にいる……。って事は今回はシューター? いや、それにしては距離をとる素振りもないし何か変……うぅん、考えても仕方ないっ! 分からないなら先手必勝で……あれ?)」

不気味な振る舞いを見せる志希を警戒し思案を巡らせる夕美をよそに、志希は夕美に興味を無くしたかのように視線を外した。

志希「ごめんね夕美ちゃん、作戦上夕美ちゃんの相手してるヒマないんだ〜。ってゆーかあんまり今の夕美ちゃんにキョーミないしね〜。んじゃねー」

夕美「なっ……! 雫ちゃん取り逃して速水隊にリードされたんだから、こっちには戦う理由があるんだからねっ!」

志希「ふーん、じゃ好きにすれば〜? あたしは早苗さんとか清良さんとか、そういう『強いヒト達』の相手しなきゃなんないし。それにエースって言っても、見たところA級上がりたてで緊張しちゃってる夕美ちゃんくらいなら────」

振り向いた志希は、つまらなそうな顔をして言い放った。



志希「────いつでも倒せるしね」



そう言って、志希はスコーピオンのブレードを両手に発生させ、走り去って行った。
58 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:17:26.82 ID:K6z61BeE0
夕美「なっ……!!?」

志希の言葉は、夕美の心を強く揺さぶった。

A級に上がり初めての試合。それは新田隊の誰しもが緊張と不安を抱いただろう。最も得点を取らなければならない「エース」であり、責任感の強い真面目な夕美なら尚更だ。

血が滲む程の鍛錬はした。だが、そんな事は誰もが当たり前のようにやっている事。何も特別な事ではない。

しかし、夕美には自信があった。早苗に師事し訓練を積む事で、自分が成長しているという確かな実感を持っていた。自分はそこそこ強い、A級でも通用すると。それはシューター・ガンナーランキング3位という数字にも表れている。

それに自分だけではない。新田隊のメンバーも成長している。A級上位の猛者達にも新田隊の皆が実力を発揮出来れば、少なくとも手も足も出ず一方的に負けるとは思っていなかった。

それは、仲間達も同じ想いだった。

美波『だ、大丈夫! ウチだってA級なんだから、きっと皆要注意だよ! ねっ!』

唯『あはははっ♪ そーだよね! 考えてみたら、あのカイブツみたいに強い早苗さんとかがウチらの対策考えてるんだよ? これってなんかスゴくなーい!?』

〜〜


美波『……うぅん。私達は、この間までB級だった。けど、今は違うわ。憧れたあの人達と同じステージにいるの。格下なんて思う必要なんて無いわ! この前啖呵を切った速水隊にだって、きっと勝てる!』

夕美には自信があった。

そのはずだった。



それなのに。



────志希は、自分を警戒すべきライバルとは認めていなかった。
59 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:18:16.14 ID:K6z61BeE0
夕美「(それに、志希ちゃんはここを離れる前にブレードを出してた。という事は志希ちゃんはシューターじゃない。それってつまり──)」

──舐められてた。

それが、負けず嫌いな夕美の心に火を付けた。

夕美「そんなの……やってみなくちゃ分かんないでしょっ!?」

悔しさ、不安、怒り、焦り、自尊心。それから自分をエースとして認めてくれた新田隊の強さを証明してやるという想いを胸に、夕美は志希を倒すべく全速力で走り出した。
60 : ◆AXT/uuswxI [sage saga]:2020/04/12(日) 00:27:30.28 ID:K6z61BeE0
書き溜め分ここまで。続きは明日以降に投稿します

ワールドトリガーのキャラクターは基本的に若くても精神的に老成していて、そこが魅力ではあるのですが、やはりデレマスのキャラクターを出す以上はそのキャラ等身大の性格でいて欲しいという思いがあり、あまり上方修正は掛けていません

あと、個人的にワートリの当馬や清良さんみたいな「バックワーム、イーグレット、シールド×2」みたいな「自分は小細工なしのイーグレット1本で飯食ってくから」みたいな渋いトリガー構成にカッコよさを感じます



今日のウワサ@おっぱいが大きい程トリオン量が多くなるらしい。




それでは、おやすみなさい
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/04/12(日) 00:32:44.79 ID:gOsjy+1oO
乙です!
続編待ってたしたー!
62 : ◆AXT/uuswxI [saga 書きながらゆっくり投下していきます]:2020/04/12(日) 19:59:34.45 ID:K6z61BeE0
志希「くんくん。おー、夕美ちゃん怒ってるね〜」ニヤ

それこそが志希の狙いだった。


志希はそんな気配を臭いで感じ肩越しに夕美を一瞥すると、すぐに前方に視線を戻した。



興味なさげに夕美に背中を向けた志希だがその実、いつでも反撃出来るように全神経を背後の夕美に集中させている。前方の景色は目で見えてはいるものの、集中する志希の脳は不要と判断しほぼ認識していなかった。
63 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 20:01:30.97 ID:K6z61BeE0
真奈美『……そういう事か。志希も中々にえげつない事をする』フフッ

ありす『木場隊長? あの……』アセアセ

真奈美『……ん! あぁ、済まない。いや、恥ずかしながら志希の……一ノ瀬隊員の考えている事についての考察に夢中になってしまっていたよ。解説の職務を放棄してしまって申し訳ない』

ありす『で、では、その考察の解説をお願い致します』

真奈美『承った。まず、向こうの音声はこちらには届かないので何を言ったかまでは分からないが、恐らく何らかの言動による挑発をしたと見て良いだろう』

ありす『ちょ、挑発ですか!?』

真奈美『そうだ。何も言ってないにしろ、戦闘態勢を取らず背を向けたあの挙動そのものが挑発行為に相当する。その狙いは────』
64 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 21:00:56.92 ID:K6z61BeE0
先程、志希は夕美に対して当然のように「いつでも倒せる」と言い放ったが、実際の戦闘力は夕美の方が上であり、正面きっての戦いになった時に自分が不利な事は志希も正しく理解している。

そこで、志希はトラップを仕掛けた。

一つは物理的なトラップ。夕美が雫と対峙している時、周囲に白く着色され雪の背景に溶け込んで見えにくくされたスパイダーが張り巡らされた空間をいくつも作り出した。格上の夕美にも勝ちうる空間だ。

次に、そこへ誘い込む為の心理トラップ。A級に上がりたてで不安もあろう「新田隊」。そしてそのエースであり、負けず嫌いで責任感の強い「夕美」。

雫を倒す事に成功した場合に何かしらの策でワイヤー地帯に夕美を誘い込む事は奏に伝えていたが、「挑発」という手段を選んだのは志希のアドリブだ。

夕美は、「雫を仕留め切れず横取りされた。これはエースとしての自分の落ち度だ」と認識している。つまり夕美と志希は直接戦闘行為を行っていないにも関わらず、夕美はこの時点で志希に先を行かれたという感覚を持ってしまった。

そんな相手。自分の獲物を目の前でかっさらって行った相手からの、挑発。

更に敢えて言葉を少なくする事で、あたかも「志希は思った事を言っただけ」のように見せかけた。志希の普段の自由な振る舞いもその印象を強めるのに拍車を掛けている。

一番効くタイミングで一番効く相手に、巧みな演技と言葉選びを駆使し的確に挑発という手段を通した。挑発で視野が狭まっている今の夕美ならば、ワイヤートラップに掛かる確率は普段より高くなるだろう。
65 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 21:01:59.16 ID:K6z61BeE0
当然、ワイヤーが失敗した際の二の矢も用意してある。志希が向かう先にはフレデリカがおり、そこに誘い込んで数の有利を取り反撃する算段だ。志希にとってはこれが本命の策である。

勿論、サイドエフェクトの「強化嗅覚」で夕美の向こうから雫を助け損ねた心が迫っている事も把握している。

もし心に追いつかれたとしても、位置関係から先に心と会敵するのは夕美であり、その場合は先程と同じようにフリーになった志希が両者が戦っている隙に周囲に罠を張るなり、潜伏して不意打ちを狙うなり、先にフレデリカと合流してから勝負に勝って消耗した方を挟撃するなりと、今以上に志希にとっての有利状況となる。

そしておまけにもう一つの心理トラップ。これは志希が常に展開しているもの。いわゆるパッシブスキル。

それは「不気味さ」。
66 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 21:04:00.54 ID:K6z61BeE0
まず、自分のトリガーセットは志希に知られているのに志希のトリガーセットは不明という情報ディスアドバンテージ。更に志希はその高い知能と柔軟な思考により、誰もが思いもよらない奇想天外な作戦で不意をついてくる。

これにより、志希はある意味で最強の戦術である「初見殺し」を見知った相手に何度でも仕掛ける事ができ、「自分の手の内は志希にバレているのに、志希は何をしてくるのか、どんな手で倒しに来るのか分からない」という心理的不安を相手に与える。

それが実は相手の過大評価だったとしても。

そしてその過大評価が、夕美より格下である筈の志希の「いつでも勝てる」という言葉に現実味を帯びさせるのだ。

当然、以上の事を志希は完全に把握している。

志希の恐ろしさは戦闘力ではない。その卓越した頭脳だ。

「考証」し、「実験」する。そして期待通りの「結果」が得られた時、志希はえも言われぬ快楽を感じる。

全ては志希の掌の上だ。
67 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 21:23:40.16 ID:K6z61BeE0
夕美「ふぅ……一旦落ち着かなきゃ」

しかし、夕美も曲がりなりにもA級のエース。いつまでも煽りに思考を支配される程愚かな女ではなかった。

夕美は悔しい、実力を証明したいと強く思いながらもこの状況を客観視し、現状を省みていた。

これで本当に大丈夫なのか? と。

────だがそれが、夕美を更なる思考の迷宮へと叩き落とす事になる。

夕美「ふぅーっ。早く落ち着かなきゃ……冷静にならなきゃ……!」

そう、夕美は「冷静にならなければ」と思っているだけ。それは決して、冷静な者の思考ではないのだ。
68 : ◆AXT/uuswxI [sage]:2020/04/12(日) 21:25:32.48 ID:K6z61BeE0
>>61
3年前のssの続きを待ってたなんて…
ありがとうございます、励みになります
69 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 22:34:55.54 ID:K6z61BeE0
(夕美視点)

──私よりずっと頭の良い志希ちゃんが、私にいつでも勝てるって言ってた。でも志希ちゃんは自分と相手の実力差が分からないような素人じゃない。

って事は、私は……ほんとに志希ちゃんに勝てない?

いや、過去に個人戦をした時は8:2くらいの割合で勝ててたもん。

でも、その時の志希ちゃんはミスばかりで、やりたい事が出来てない感じ……いや、違う。

〜〜

志希『んー、これは流石に当たんないか。ロマン砲って事で遊ぶ時のネタ枠として封印かなー。んじゃ次はアレ試してみよー♪』

〜〜

とか言ってたし、考えてる事が実戦で上手くいくかどうか試行錯誤してる感じだった。



でも過去のログを見た限りチームで行うランク戦で志希ちゃんがそんなミスをする事は一度もなかったから、志希ちゃんにとって個人戦は志希ちゃんが思いついた変わった戦法が実戦で相手に通じるかどうかを試す場……なんだと思う。

志希ちゃんのポイントが強さの割に低いのは使ってるトリガーが多くて点がバラけてるのもあるけど、個人ランク戦をそうやって使ってるからなのかも。

それに志希ちゃんはどんなトリガーでも上手に扱えるから、相手に合わせて毎試合トリガーセットをガラッと変えてくる。それにすっごく頭がいいから、色々作戦も考えてる。

何をしてくるのか分からない。さっきはスコーピオンを出してたけど、考えてみればシュータートリガーを入れてないとも限らない。そうやって私を騙す作戦なのかも。

志希ちゃんは私よりずっと頭がいいから、どんな切り口で攻撃してくるのか、どんな作戦を何通り考えてるのか分からない。

……分からない。

…………分からない。



────怖い。
70 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 22:35:40.68 ID:K6z61BeE0
もし今回のトリガーセットが、作戦が、私を倒せるものだったとしたら。私が思いもよらないような凄い作戦で、私を倒せると確信してるとしたら。

もしここで私がムキになって志希ちゃんに返り討ちにされたら。 新田隊で一番得点力のある私が点を取れずに倒されちゃったら、ただでさえ対戦相手が格上ばかりのこの試合は……。

でも、そんな事言ってたら何も出来ない。それにこの試合には志希ちゃん以外にもフレちゃんや早苗さん、心さん、清良さん……他にもとんでもない強敵はいっぱいいる。私達はそんな人達に勝ちに来たんだから、怖がってても仕方ない!

でも、そんな前掛りになっちゃってさっきの雫ちゃんみたいに志希ちゃんに不意を突かれたら……。

うぅ、考えがループしてきちゃったよぉ……。

けど、のんびり考えてる時間なんてないし……。



早く、答えを出さなきゃ……。
71 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 23:15:04.31 ID:K6z61BeE0
志希「(夕美ちゃんの匂いが少し遠ざかった……てことはスピードが少し緩まった。悩んでるね〜。これは夕美ちゃんが心さんに捕まっちゃうルートかな?)」

当然、これも志希の予想の範囲内である。相手もバカではない。そこも計算に入れた上で作戦にハメる。

志希「(なら敢えてこっちはスピードを上げちゃおー。考える余裕なんて与えな〜い♪)」

A級ランク戦の初試合、ただでさえ緊張と不安の中責任重大なエースの役割である真面目な夕美に突き刺さる煽り。冷静に戻ったように見えて、思考のキャパシティは間違いなく少なくなっている。それに、対戦相手が自分より遥かに頭が切れるという事実は想像以上に精神的不安を催す。

それに耐え切れず思考停止し、無策で突っ込んで来るならそれまで。ループする思考を止められずに動けなくなるならそれまで。

それらを気力で押し返して何らかの策を講じてもワイヤートラップが待ち受け、その先には総合3位のフレデリカ。


戦場で役立つのは戦闘力だけでは無い。それはあくまで手段の一つ。志希は使えるもの全てを利用し、容赦なく勝ちに来る。それこそが志希の強さだ。
72 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:05:31.17 ID:v+83LJnc0
真奈美『──という事だ』

比奈「うひぃ……志希ちゃん、相変わらず恐ろしい子ッスね……」プルプル

飛鳥「全くだ。彼女が敵だったらと思うと枕を高くして眠れないよ」

藍子「……」シュン

みく「藍子ちゃん? 下向いてどうしちゃったにゃ?」

藍子「……私、その、志希ちゃんの事は大切なお友達と思ってますけど、挑発とか煽りとか、そういった戦法は……その……よくないと思います……」ボソ

「「「……!」」」

藍子「だって、夕美ちゃん達新田隊の皆は一生懸命頑張ってA級になったんです。だから、私達も応援してて……なのに、その不安や緊張を逆手にとって、というのは味方に対してあまりにも、その……」

藍子「志希ちゃんはいつも違った戦法を使ってて凄いと思いますけど、でも今回のは……正々堂々と戦っても強いんですから、わざわざそんな事しなくてもって思ったんです」

菜々「……藍子ちゃん、言いたい事はとっても分かります。でも」

みく「みくもそう思うにゃ! みく達はライバルだけど敵じゃないもん! 同じボーダーの仲間だもん! だから──」

「何を甘えた事を言っているのかしら」

「「「「「!!」」」」」

みく「時子チャ……さん」
73 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:06:48.07 ID:v+83LJnc0
時子「チッ……藍子。貴女は対ネイバーを想定した訓練であるランク戦を、スポーツか何かと思っているのかしら。スポーツマンシップに則って、とでも言いたいの? 競技のような形式だから勘違いしてる子も多いようだけど……少しお仕置きが必要みたいね」

藍子「そ、そんな事! 私はPさんや、ネイバーから家族や友達を守りたいっていう未央ちゃん達のお手伝いがしたくて……でも私達は仲間なんですよ? わざわざ仲違いするような事しなくたって……! それこそネイバーとの戦闘になれば数隊合同で当たる事もあるんですから、別の隊同士の連携だって大切ですし……!」

時子「アァン? この私に口答えとはいい度胸ね。躾られたいのかしら? ……いい? 必要以上に馴れ合うのを仲間とは言わないわ。ランク戦は遊びじゃないのよ。同じ事を二度言わせないで」

藍子「……勿論そんなつもりはありません。私はただ、これが原因で仲が悪くなっちゃうのが悲しくて……。志希ちゃん、とってもいい子なのに……。C級の中には、志希ちゃんを誤解してる子もいて、だから……」シュン

時子「(……この私に対して思ったより食い下がるわね。普段から頭の足りないチームメイトに振り回されているし、その穏やかな物腰からして意志薄弱そうに見えたけど、意外と芯が通ってるようね)」

時子「ハァ……そもそも夕美の表情を見るにそれほど残酷な煽りでもないでしょう。本当の戦場に出た時、ネイバーから掛けられる言葉はもっと恐ろしいわよ。例えば、そうね」

藍子「……?」

時子「人型ネイバーとの交戦の最中、敵からこんな事を言われたら?『さっきから貴女達が探してるPと呼ばれてる男は貴女達の仲間よね? 姿が見えない? あぁ、そいつなら向こうで死んでるわよ』……とかね」

「「「「「ッ!!!」」」」」ゾクッ!
74 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:07:41.08 ID:v+83LJnc0
みく「Pチャン、が……」カタカタ…

菜々「……っ」サァーッ…

比奈「……菜々さん、顔青いっスよ、大丈夫でスか」サスサス

菜々「……! え、ええ! ナナは大丈夫ですよっ……!」ニコ…

比奈「(菜々さん……やっぱり『あの事』がまだ……)」

飛鳥「時子さん!! 言っていい事といけない事があるだろう!! あまり人の考えに口を挟むのは好きじゃないが、今のはボクも看過出来ない! 冗談では済まないぞ!」バンッ!

藍子「うぅっ……」プルプル…

比奈「……言いたい事は分かるっスけど、 心が成熟しきってない若い子の前で刺激の強い話は良くないっス。ここは『死』が冗談にならない場所なんスから」

時子「ほんの例えよ。それに、ネイバーが『言っていい事といけない事』を考えてくれると思っているの? 心優しい侵略者が居たものね」ウデクミ

時子「その言葉が事実であれハッタリであれ、心を乱さずに戦いを続けられるかしら。乱してしまうのなら、そんな事で仲間や人々を守れるのかしら。若くて未熟なら、『ボーダー隊員』が死から目を逸らしていいのかしら。私が言いたいのはそういう事よ」

比奈「……」

飛鳥「……それは」
75 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:09:11.53 ID:v+83LJnc0
時子「いいこと? 起こりうる全ての可能性に備えなさい。奴らは手段を選ばない。そしてそれはこちらも同じ事。なら、ランク戦でも同じでしょう。私達は『仲間に』勝つ為じゃない。『敵を』斃す為にやっているのよ」

藍子「……はい」シュン

時子「……ハァ。まぁ手段を選ぼうが選ぶまいが勝手だけど、そういう手段を取って来るネイバーに対して怯んでしまうような訓練をしていては救えるものも救えないわ。覚えておきなさい」クルッ

みく「……はいにゃ」

飛鳥「時子さん」

時子「何よ」

飛鳥「……ネイバーに襲われた友達のように……Pが死んだ所を想像して、取り乱してしまった。済ま……ごめんなさい」ペコリ

時子「……フン。あの豚はちょっとやそっとじゃやられない程度には躾けてあるわ。それにそもそもベイルアウトがあるでしょう。ほんの例えよ。それに藍子」

藍子「! はい」

時子「安心しなさい、志希はある程度気心の知れた相手にしかああいう戦法は取らないわ。それに試合の後は速水隊のメンバーがさりげなくフォローもしてる。だから今までも、変に関係が拗れた事は無いわ。もっとも志希本人は無意識で、人を選んでるつもりは無いようだけど」

藍子「そう、なんですか」ホッ

菜々「ふふっ、志希ちゃんはああ見えて寂しがり屋ですからね。友達は大切なんですよ」

時子「フン、そういう意味では志希も甘いわね。私は誰だろうと追い詰めるわよ。勝つ為にね。精神が未熟な小娘の為にわざわざフォローもしないわ」カツカツ…

比奈「……時子さん、人には人のペースってもんがあるんスよ。一足飛びに心が強くなる訳じゃない。この子達は元から強い子だからよかっただけっス。正論が全て正しいとは、アタシは思わないっス」

時子「……子供の成長を敵は待ってはくれないわ。この子達も一応戦力でしょう」カツカツ…

比奈「だからこそ、アタシら大人が強くあるんスよ」

時子「……フン、平行線ね」カツカツ…

比奈「そんな事ないっス、アタシ達は……」



比奈「………………」

76 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:09:55.01 ID:v+83LJnc0
みく「比奈チャン、あの……」

比奈「……志希ちゃんは、皆に備えて欲しいんスよ。『ネイバーはこういう事もやってくるよ』って。めちゃくちゃやってるから誤解されやすいけど、志希ちゃんはいい子っスからね。藍子ちゃんも知ってる通り」ニコ

藍子「はいっ♪」ニコッ

飛鳥「にしても恐ろしいな、A級ランク戦とは。志希程の才能の持ち主が、どんな手を使ってでも、という覚悟で全霊を賭して勝ちに来る。その貪欲さがなければ生き残れない……A級ランク戦とはまさしく暗黒郷(ディストピア)だな」

比奈「ま、相手の嫌がる手を打ち続けるのが勝負の鉄則っスからね。そういう意味では川島隊(ウチら)も中々やらしーっスよ?」ニヤ

菜々「ふふ、そうですね」ニコ

みく「あ、夕美チャンが動いたにゃ!」

飛鳥「……!? この動きは……」
77 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:10:37.92 ID:v+83LJnc0
少し遡り。夕美が思考の迷宮で右往左往していた時。

『……ちゃん。夕美ちゃん!』

夕美『…………あっ、えっ!? な、何? 美波ちゃん』

愛梨『夕美ちゃんっ。大丈夫ですか? ずっと静かだったので、少し気になっちゃって。勝手に繋いじゃいました』

夕美『あっ……』

美波の呼び掛けに意識が引き戻された夕美は、慌てて応答した。定期的に内部通信で情報のやり取りをしていた新田隊のメンバーの中で急に相槌すら打たなくなった夕美を心配した愛梨が、美波に夕美に話し掛けるように働きかけつつ、内部通信をメンバー全員に聞こえるようにしたのだ。

夕美『美波ちゃん、あのねっ──』

夕美は、志希に侮るような挑発を受けた事、それを見返そうと思っていた事、しかし志希が不穏な動きをしていて不安になった事、そのせいで自分がどうすればいいのか分からない事をできるだけ端的に伝えた。

答えはすぐに帰ってきた。

唯『だめだよ夕美ちゃん! 志希ちゃんの事ちゃんと信じて、ちゃんと疑わなきゃ!』

夕美『へぇっ? しんじて、うたがう?』

唯『えっとね〜つまりぃ……ん〜っ難しい! フィーリングで感じて☆』

夕美『えぇ〜?』
78 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:11:20.30 ID:v+83LJnc0
直感的な唯の言葉に首を傾げる夕美に、美波が付け加えた。

美波『夕美ちゃん、志希ちゃんは意味なくそういう言い方をするような子? 違うよね。なら、どういう目的で言ったと思う?』

文香『志希さんの向かう先に美波さんと唯さんがいます……。それと、客観的に見ても志希さんの戦闘力が夕美さんのそれを凌駕しているとは考え難いかと……』

美波と文香の言葉を必死に噛み砕き、意図を読み取る。

唯『てゆーかさ! 別に志希ちゃんの考えなんて分かんなくてもよくない? どーせ考えても誰も分かんないんだし』

美波『そうよ。作戦をどうにかしようとするのは「受けの思考」。つまり、戦術の引き出しが極めて多い志希ちゃん相手に後手に回る事になるわ。それはダメ』

文香『相手の出方が分からないのであれば、何もさせなければ良いのです……。夕美さんの得意を押し付ける「攻めの思考」……。こちらの土俵に引きずり込むのが最善かと……』

美波『でも勘違いしないでね、志希ちゃんに戦って勝てって意味じゃないわ。そんなに絶望的な状態でもないって事! 最後に一つだけ、視野は広くね!』

夕美「……うんっ」

当然美波も文香も暇ではない。端的にまとめられた夕美の報告で夕美の置かれた状況を完全に把握などできはしない。だからこそ手短に必要な事だけを伝え、後は夕美が自分で答えを出すのを信じた。

唯『頼りにしてるよ、エースさん♪』

夕美『任せてっ!』

夕美の力強い返事を聞くと、新田隊の三人は内部通信を切った。

夕美「(皆……ありがとう)」

愛梨『(……よかった〜)』

夕美「(……ありがとう、愛梨ちゃん)」
79 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:13:50.68 ID:v+83LJnc0
数年前。

愛梨は元々、高いトリオン能力を買われて戦闘員としてスカウトされていた。


「私が困っている人を助けられるなら」。そんな思いで、愛梨はスカウトを受けた。

適性検査では、シューターの適性が出た。愛梨のトリオン能力を十分に活かせるポジションだ。

しかし、愛梨が戦闘員として活躍するには重い枷となる問題があった。


人が撃てなかったのだ。


しかし、当時愛梨はそんな事は気にしていなかった。人は撃てずともトリオン兵は撃つ事が出来たし、なればこそ訓練にも真面目に取り組んだ。

成績こそ振るわなかったが、それでも愛梨は世のため人のためにと一生懸命に頑張った。


だが一部の心ないC級の隊員達は、押しに弱い愛梨に無理やり個人戦を申し込んでは「いいカモだ」と訓練や任務でコツコツ貯めたポイントを掻っ攫っていった。

愛梨のトリオン能力に対する嫉妬もあったのだろう。

優しい友人も当然いたが、訓練や任務がある為常に愛梨を守る事は出来ない。その者達は決まってその友人達がいない時を狙った。

ボーダーには、愛梨をガードしてくれる学校の友人はいなかった。


ある日、愛梨の心が挫けた。
80 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:15:38.23 ID:v+83LJnc0
美城司令に呼び出されていたPはその道すがら、廊下の隅っこで泣いている愛梨を見つけた。思わず駆け寄り、何があったのかと訊ねた。


愛梨は一部始終を話したが、心ないC級隊員達を悪し様に言ったりはしなかった。ただ、「自分が不甲斐ない、弱くてごめんなさい、撃てなくてごめんなさい」と繰り返した。

気付けなかったPは自責の念に駆られながら、堪らなくなって愛梨に訊ねた。

「ボーダーを辞めるか?」と。

記憶封印処理を上手く使えば、嫌な思い出も忘れられる。

優しい友人達の庇護の下に愛梨を逃がしてあげられる。

そう思っての発言だったが、愛梨は首を横に振った。

まだ私はここで何もしていない、こんなでも人の為に戦いたい、ボーダーの友人達を忘れたくない……と涙ながらにPに訴えた。

深くため息をついたPは、もう一呼吸おき、愛梨にオペレーターへの転向を勧めた。

「戦闘だけが戦う事じゃない」と。

愛梨は首を縦に振った。
81 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:20:08.22 ID:v+83LJnc0
まだ隊に所属していないオペレーターは、それまで本部所属という扱いになる。

そこでも、愛梨をよく思わない者はほんの一部だがいた。「自分は誇りを持ってやっている。オペレーターは落伍者の受け皿ではない」と。

しかし、もう愛梨は挫けなかった。

勉強し、努力し、少しずつだがオペレーターとして成長していった。

どれだけ頑張っても何も変わらないあの頃とは違う。愛梨は楽しさすら感じていた。

その頃には、愛梨を白い目で見るオペレーターはいなくなった。

数ヶ月後、愛梨がB級に上がった日の事。その日の内に、愛梨にC級時代の優しい友人達から隊結成の誘いが来た。


そうして出来たのが、新田隊だ。


曰く、「おめでとう、愛梨ちゃん」「愛梨ちゃんをイジメた子達のポイントはゆい達がぜ〜んぶ貰ってきたよ!」「これからは私達が愛梨ちゃんを守るからねっ!」「この日を、待ち望んでいました……」らしい。

当時の心ないC級隊員からは、「どうせ同情で誘っただけ」だの「優秀な新田美波も目は節穴だったか」だの陰口を叩かれた。

因みに、愛梨がB級に上がった時も彼らはまだC級隊員だった。


事実愛梨は、オペレーターとして特別優れている訳ではなかった。また5人隊のオペレーターは優秀な者でも難しいもの。しかし、愛梨は食らいついた。

新田隊の誰もが、そんなものを気に留めたりはしなかった。

ただ、前を向いていた。



結果、新田隊はA級に昇格した。


愛梨がいなければ、辿り着く事はなかっただろう。
82 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:24:54.00 ID:v+83LJnc0
そんな強い結束で結ばれた新田隊。夕美は、それに報いたいと願った。

夕美「(ふぅっ。いったん頭をからっぽにして考えてみよう……志希ちゃんは意味なくあんな言い方をする子じゃない。ならどうして? 私はああ言われて悔しかった。てことは志希ちゃんはそれが目的で……)」

夕美「(なら、挑発して私を誘き寄せることが目的? でもそれにしては安易に背を向けたりして無防備過ぎるんじゃ……いや、志希ちゃんのサイドエフェクトの『強化嗅覚』で感知出来るからあれだけ余裕だったのかも)」

夕美「(で、その余裕を見せる事で更に私の負けず嫌いを煽ったんだ! 最初に手ぶらで立ってたのもそういう事! もー、志希ちゃんほんといい性格してるよねっ)」プクー

夕美「(だったらこれは……罠! 志希ちゃんの向かう先には、多分私が不利になるような何かがあるんだ!)」

夕美「(じゃあ私がしちゃいけない事はこのまま志希ちゃんを追う事。するべき事は……離脱と合流! 何してくるか分からない志希ちゃんには付き合わない! 私達の強みは連携! 私一人じゃ不安なら、数の力で対応するんだ! この戦いは私1人じゃない!)」

夕美「(つまり、志希ちゃんの仲間としての心を信じる事! そして賢い志希ちゃんはその知識や技術を使って何か企んでると疑う事、だよねっ、唯ちゃん!)」

夕美「(そして、当初の作戦は……)」

夕美『いったん身を隠してから迂回ルートを取って美波ちゃん達に合流します! 愛梨ちゃん支援お願いっ!』

志希程ではないが、夕美もそこそこ頭が切れるようだ。

『『『了解!』』』

愛梨『了解ですっ。そこから北西に向かえば文香ちゃんの射程内に入るので安全だと思いますっ! ルート表示しますね! 文香ちゃん、南東から夕美ちゃんが来ますので援護狙撃の準備お願いしますっ!』

夕美の出した答えはシンプルだが、概ね最善に近い。抜けがあるとすれば、未だに心を認識出来ていない点だろう。

何重にも施されたトラップも、夕美が志希を追わなければどれも成立しない。だが志希が夕美を追えば、返り討ちに遭う可能性は高い。

「仲間」を信じる心が、夕美を正解へと導いた。
83 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:29:00.45 ID:v+83LJnc0
心「(あっ、夕美ちゃんが横に逸れた。志希ちゃんは方向そのまま。どっちを追いかけよっかな〜………)」

心「(ん? 待てよ? 志希ちゃんより強いはずの夕美ちゃんが志希ちゃんを追うのを諦めたって事は志希ちゃんがまたなんか『やってる』んじゃね?)」

心「(そして、志希ちゃんが向かう先にはちょっと方向ズレてるけど早苗さんがいる)」

心「(……よし)」

心は、狙いを志希の方に決めた。

もし心が夕美を追っていれば、夕美はその存在に気付かないまま奇襲を受けていただろう。

天は夕美に味方したようだ。



心「ってこんな所にスパイダーがばふっ!?」ズベシャ



志希「(ふーん、やるじゃん。流石、あたし達の『ライバル』だね。そう来なくっちゃ)」クスッ

夕美の臭いが遠ざかっていくのを感知した志希が、心の中で嬉しそうに呟いた。

志希は、とっくに夕美及び新田隊を認めている。



志希「あれ? 心さんの動きが止まった。何してんだろ」スンスン
84 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:32:46.47 ID:v+83LJnc0
今日はここまで。
このなんちゃって頭脳戦、ワールドトリガーよりどっちかと言うとハンターハンター寄りじゃね?と書きながら思ったり



二宮飛鳥のウワサ@教室に乱入して来た暴漢をトリガーオンして倒す妄想を授業中にしているらしい。



それでは、おやすみなさい
85 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 18:40:33.91 ID:v+83LJnc0
ありす『あっ、片桐隊長の所でも動きがありました!』


時は遡り。それは、早苗が茄子を取り逃してから数十秒後の事。

早苗「茄子ちゃんは逃がしちゃったわね……まぁいいわ、近場の倒しやすい子から倒していきましょ」

早苗「さて、誰から──ッ!」

ドンドンドンッ!

早苗がレーダーに目をやった直後、背後から直進するトリオン弾が早苗に放たれた。その音に反応した早苗は最小限の動きで躱しその弾の出処に向き直ったが、見えたのは風に流れる長い金髪が曲がり角に消えた所だった。

早苗「唯ちゃんね……っと!」

ヒュヒュンッ!

更に時間差で唯の方に振り返った早苗の後頭部に弾速の速い弾が数発撃ち込まれたが、早苗はそれを間一髪で回避した。

美波「(くっ、外した!)」ダッ

早苗「この早苗さんが二度も犯人を取り逃したりするもんですかっ! お姉さんに発砲しちゃう悪い子はタイホよタイホ! 神妙にお縄につけー!」ブゥン

早苗「(ある程度開けててスナイパーからの射線も切れてる。いい襲撃地点を選んだわね)」

美波「うぅ〜……!」

全力で退避しながら「美波は逮捕されるような悪い子じゃありません!」と心の中で返す美波をよそに、早苗は新田隊を内心褒めながらカメレオンを起動して透明化し、そのまま美波を追跡する。

早苗「(なら、射線の関係上文香ちゃんもそう遠くない距離に居るかもね。あたしに仕掛けてきたくらいだし、慎重な美波ちゃんの事だもの)」

戦況分析を進める早苗に対して、美波は早苗の襲撃に備え孤月の柄を握り締めた。
86 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 18:42:48.55 ID:v+83LJnc0
美波「(カメレオンを起動している間は無防備……! 落ち着いてレーダーや足跡を見れば、寄られる前に倒せ……足跡が消えてる!?)」

唯「美波ちゃんちょい上!空中!」

美波「えっ!?」バッ

反射的に顔を上げる美波。しかし────

早苗「『えっ』じゃないでしょ」ガッ

次の瞬間、美波は独りでに宙を舞っていた。

早苗「すぐに」グイッ!

早苗「動く!!」ズダァン!

早苗が姿を消してから一瞬の出来事だった。

気付いた時には美波は受け身すら取れず雪の上に仰向けに倒れ、早苗が美波の右手首を右足で踏み、左手首を左手で押さえ、鳩尾には左膝をめり込ませて完全に美波を押さえ込み、美波の首にスコーピオンの刃を振り下ろす所だった。

早苗「!!」バッ

美波は己の敗北を覚悟したが、すんでのところで早苗は飛び退き────

早苗「」ギュン

美波「っ!!」ギィン!

──ながら、スコーピオンを伸ばして美波が居る場に残し、そのまま薙いで美波の首を刎ねようとするが、美波の集中シールドにギリギリで阻まれた。

数瞬後に美波の体の上を唯の放ったトリオン弾が通過した。ギリギリで助けられた美波はバネのように跳ね起き、構えて早苗から距離を取った。

早苗「(判断早いしタイミング完璧。シールド間に合わなかったわ。唯ちゃん上手いわね)」

唯「あっぶな〜! 間に合わないかと思ったよ〜」

愛梨『唯ちゃんナイスですっ!』

唯「えへへ〜」

美波「……っ!」

安心する愛梨や唯とは裏腹に、美波は激しく戦慄していた。

美波「(……何も出来ずに、何も分からずに一瞬で倒される所だった。雪なんかで対策してつもりになってた。何もかもが甘かった……! これが早苗さん……!)」
87 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 18:44:34.68 ID:v+83LJnc0
早苗は姿を消す前、美波の視界の外になる高さの空中にグラスホッパーを複数設置していた。そしてカメレオンを起動・透明化し、跳躍。設置していたグラスホッパーを踏み美波の前に着地。

孤月を持っていた美波の右手を左手の甲で弾いて右手で美波の隊服の胸元を掴み、「片手で」背負い投げた。

美波が倒れたのを確認してカメレオンを解除し、スコーピオンで美波を刺そうとしたが唯により阻まれた……といった運びだ。

ありす『で、出ました! 片桐隊長の背負い投げ!』

茜『早苗さんが得意としている技ですね!! 身長が低い人にピッタリな技だと前に早苗さんから教えて貰いました!! 試しに私が未央ちゃんにやると何故か前方に数メートル投げ飛ばしちゃいましたけど!!』

真奈美『透明化した状態で接近戦を仕掛け、達人級の武術を用いて相手を無力化した後、カメレオンを解除して武器を出し倒す。これが片桐隊長の基本的な戦い方だ』
88 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 18:46:55.17 ID:v+83LJnc0
真奈美『カメレオンは透明になるという強力な効果があるが、反面他のトリガーと併用出来ないという難点がある。しかし片桐隊長は武術に精通しており、体そのものが武器のようなものだ。その上トリオン量も多い彼女にとって、カメレオンのデメリットなど無いに等しい』

茜『どんなに強くとも、敵の前で無防備に地面に転がされてしまってはどうしようもありませんからね!!』

ありす『なるほど……。いくら透明状態といえど武器もシールドもない状態で接近戦ができるのも、片桐隊長の格闘技経験から来る戦闘技術の賜物なんですね』

茜『ええ! しかし、格闘技の試合とトリガー使い同士の戦闘は違いますからね!!早苗さんは、武術で磨いた近接テクニックとボーダーに入隊してから磨いたトリオン体での戦闘のテクニックの両方を組み合わせて、独自の格闘術を編み出したらしいですよ!!』

ありす『……と、言いますと?』

茜『詳しい事はよく分かりません!! 真奈美さんお願いします!!』

真奈美『私も詳しい訳では無いが、そうだな……生身では出来ないアクション映画のような動きや技の掛け方でも、トリオン体の膂力なら出来るという事は多いだろう? また、格闘技の試合では気にしなくていい事もこちらでは警戒しなくてはならない。各種トリガー、多対多・一対多などの状況や地形、射撃・狙撃など色々な。それらに対応するノウハウを体系化し、『トリオン格闘術』としてまとめたのが片桐隊長という訳だ』

茜『早苗さんの一番弟子であり、空手の経験者である有香ちゃんはそのノウハウを受け継いでいると聞きます! もしかしたら夕美ちゃんも教わっているのかもしれません!!』

ありす『生身での戦闘技術をトリオン体の戦闘に応用した、という事ですか。確かに、それが可能ならカメレオンで透明化した武術の達人が襲いかかってくるというのは極めて厄介ですね』

真奈美『それもあるが……あの人はなんというか、喧嘩慣れしているんだ』

ありす『け、喧嘩慣れですか?』

真奈美『ふふっ、言い方が悪かったかな。言い換えるなら戦闘センスが抜けていると言うべきか。まぁ見ていれば分かるさ』
89 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 19:49:22.46 ID:v+83LJnc0
早苗と一定の距離を保つべく、美波はシュータートリガーのアステロイドを、唯はアサルトライフルからアステロイドを撃ち早苗を牽制していた。

早苗「(さて……どう攻めようかしらね)」ヒュヒュン

早苗が攻め方を考え始めた2秒後、心から内部通信が届いた。

心『そっちに志希ちゃん向かってる! バクワしてるから見えないけどはぁとからだいたい80〜100メートルくらいのとこ! 奇襲警戒してて!』

早苗『了解ありがと!』

早苗「すぅー……ふっ!」ピシィ!

報告を聴きつつも思考を続けていた早苗は短く返すと、美波達に対して構えをとった。美波達と距離のある今この状況ではさほど意味は無いが、美波達への威圧も兼ねてのいわゆるルーティーンの一種だ。

美波「すーっ……ふーっ……(このままじゃ埒が明かない……何かしないと……!)」ドドドッ

唯「美波ちゃんリラックス!」タタタンッ

早苗「決めた! 美波ちゃんから倒そうかしら。次に唯ちゃんね」ブゥン…

早苗は、2人のうちより揺さぶりが効きそうな美波をターゲットにした。

美波唯「「!!」」

早苗が再び姿を消す。

唯『あれはあれだよ! じゃんけんで今からチョキ出すから〜みたいなのとおんなじやつ!』

美波『分かってる!』

内部通信で唯が喚起したように、二人ともただの揺さぶりだと分かっている。マイペースな唯は気にせず聞き流す事が出来たが、美波は夕美と同じだった。軽い揺さぶりに緊張と不安が上乗せされ、どうしても動きが少し固くなる。

あんなにもあっさりと、さも当然の事のように勝利宣言をされてしまっては。
90 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 19:50:51.99 ID:v+83LJnc0
ありす『しかし、片桐隊長はあれだけカメレオンを連発して大丈夫なのでしょうか? バックワームも頻繁に付け外ししてますし……。カメレオンの弱点の1つに、トリオンの消費が比較的大きい点がありますが』

真奈美『彼女はトリオン量が向井隊長並に多い。片桐隊長は高速で飛び回りながらカメレオンとバックワームを高速で切り替えて相手の目を欺き、グラスホッパーで高い機動力を更に補強し攻める戦法を好む。これは「トリオンの多いアタッカー」でなければ成立しない』

茜『トリオン量の恩恵を受けにくいアタッカーですが、早苗さんのような戦い方ならそれも十二分に活かせます!!』

ありす『なるほど……。しかし、それならもっと直接的にトリオン量の恩恵を受けられるシュータートリガーのアステロイドかハウンドでも入れたらいいのに、と思ってしまうのですが……。片桐隊長はトリオンが多いんですから、限界の8枠パンパンにトリガーを入れてもデメリットはさほどないのでは……?』オズオズ…

真奈美『ふふ、そんな自信なさげな顔をするな。その考え方は基本的には正しいよ』ポフ

ありす『……! は、はいっ』

茜『シューターである拓海さんも同じ事を早苗さんに聞いているのを見ましたが、早苗さん曰く「余計なトリガーを入れるととっさの判断が鈍るのよ」だそうです。その意見には私もその場で同意しました!!』

ありす『それは、どういう……?』

真奈美『これはもしかするとアタッカーの我々にしか分からない感覚かも知れないが、アタッカーは至近距離で相手とやり合う分行動選択に費やせる時間がシューター・ガンナー・スナイパーに比べて非常に短い。だからこそ採れる選択肢は可能な限り絞りたい』

ありす『……? 思考時間が短かろうと、選択肢は多い方がいいと思うのですが』

茜『ありすちゃんは出された問題に1秒で答えろと言われた時、2択と3択どっちが「迷わずに」「素早く」答えられますか?』

ありす『……!』ハッ
91 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 19:51:48.09 ID:v+83LJnc0
真奈美『日野隊員、いい例えだ。アタッカー……近接戦闘は0コンマ1秒の世界。一瞬の迷いが命取りになる』

ありす『……』

真奈美『もちろん君の言う通り、片桐隊長が機械のように常に最善の選択をし、アステロイドを入れても迷いなく、今までと同じような無駄のない動きが出来るならそれに越した事はない。入れない理由がないだろう。しかし実際は違う。片桐隊長がいくら怪物染みた強さだろうが紛れもない人間であり、得意不得意がある。当然ミスもする』

茜『ですね! ぶっちゃけ早苗さんは射撃戦が得意ではありません! それに早苗さんがアステロイドで出来る事は、大体雫ちゃんがやっている事ですからね!!』

ありす『なるほど……』

真奈美『まぁ、トリオンの多い片桐隊長がシュータートリガーを使うのは間違いなく「強い手」だ。だが強いからこそ、それを選ばずにスコーピオンを選択した時に「今はアステロイドの方がよかったんじゃないか?」という思考が頭をよぎる。それにより──』

真奈美はここで少し溜めたかと思うと、少し眉根を寄せて声のトーンを一段低くした。

真奈美『──刃を振るう瞬間、相手に全て注がれるはずの集中に僅かな雑念が混じる。それが刃を鈍らせる。そして……』

茜『その僅かな差が勝負を分けるんです』

茜にしては珍しく、真面目で普通の声量だった。それは紛れもなく、戦う女の顔だった。
92 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 19:52:19.95 ID:v+83LJnc0
飛鳥「……ボクの認識が間違っていたよ。キミの所の茜はこと戦闘に関しては中々に造詣が深いようだ。キミのチームメイトへの無礼な認識を詫びよう」フフッ

藍子「ふふ、そうでしょう♪」ニコニコ

飛鳥「キミの隊と試合をした時は、いつも彼女は猪のように無策で突っ込んでくるだけだから……つい先入観がね」クス

藍子「……一応無策ではないんです。茜ちゃんも、ちゃんと頭では理解してくれているんですけど、その……本能には逆らえないみたいで……あはは」タラー

飛鳥「それは……なんというか、難儀なタチだな」タラー

藍子「本当に……」

飛鳥「では、同じ本田隊の裕子も地頭は悪くないが、根源的欲求たる戦闘本能という茜と同じ業(カルマ)を背負っていたのか。フフッ、どうやらボクの見えているセカイは思ったより、虚構が占める割合が多いようだ」

藍子「あ、いえ、あの、ユッコちゃんは……」

飛鳥「……?」

藍子「見たままの認識で、合ってます……」カァ…

飛鳥「……」

藍子「……」

飛鳥「……ごめん」

藍子「……いえ」
93 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 19:53:14.93 ID:v+83LJnc0
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94 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 19:54:15.55 ID:v+83LJnc0
──司令室──

美城「──大体君は部下の管理がなっていなさすぎる。あの宮本と塩見など気まぐれに私の家に入り浸って冷蔵庫の中身を食い漁り、一ノ瀬に至っては私のベッドで昼寝する始末。ここが自宅だと言わんばかりに我が物顔でくつろいでいる有様だ」

P「ええっ!? あいつら……すみません、すみません……! 私も普段から言って聞かせているのですが、なにぶん聞く耳を持たず……」ペコペコ

裕子「(ああ、私のせいでPさんが美城司令にお説教を……! しかもこれは年配の方特有の段々と話が脱線していって長時間コースにやるパターンのやつ……! ここは私のサイキックでなんとかしなければ! ムムムーン!)」

美城「それは君が彼女達に甘いからだろう。表面上厳しく取り繕うことになんの意味がある。……いいか、何も辛く当たれと言っているのではない。上に立つ者なら最低限威厳を持てという事だ。こんな事では有事の際に君の指示に素直に従うとも限らない。人々を守る立場の我々がそれでいいと思うのか?」

P「全くもっておっしゃる通りで返す言葉もありません……本っ当に申し訳ありません……今後改善に努めますので……」フカブカ

裕子「!」ピキーン!

裕子「ふぇっくしゅん!(ビチャ) ムムッ、エスパーユッコのサイキックパワーがどこかで私の噂を感知しましたよ!! ムムムーン!」

美城「………………」ビチャア

裕子「あ」

P「あっ……」サアーッ…
95 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 19:54:42.27 ID:v+83LJnc0
美城「……ほう? ではそのサイキックパワーとやらで君が真っ二つに切り裂いた私の愛車を直して貰おうか。去年買い替えたばかりの私の愛車を。まだローンが残っている私の愛車を。ついでに私の顔面にくしゃみを掛けた理由もぜひお聞かせ願いたい」ゴゴゴゴゴ…

裕子「す、すみません! 今すぐ拭きますから! 私、常にハンカチを持ってるんです!」ゴシゴシ

美城「」メイク グチャグチャ

裕子「あ゙っ」

P「(ユッコの意外な女子力の高さが仇に……。い、胃が……すみませんもう無理です)」キリキリ

P「じゃ、じゃあ私は実働部隊のトップとして保有戦力の把握の為に新田隊のデビュー戦の観戦をしないといけませんのでこの辺で……」ソローリ…

美城「待ちたまえ」ガシッ

P「ひっ」ビクッ

美城「堀隊員は当然として……上司である君の管理責任だ。そして君の上司である私も上司として責任を取り……」

美城「部下の教育に努めるとしようか」ゴゴゴゴゴ

ヒイィィィィィィィ…!!! キャアァァァッ!!!
96 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:03:56.30 ID:v+83LJnc0
美波「ハウンド!」

美波は姿を消した早苗を炙り出す為に、トリオン誘導のハウンドをやや低速で広範囲に射出した。カメレオン対策の基本を押さえた戦法だ。

早苗「(甘いわね! こちとらそのくらいの対策、飽きる程見たってのよ)」ヴォン

それを見た早苗は姿を表すとハウンドをシールドで防いだ。そして右手を背後に隠し、左手にクナイのような形状のスコーピオンを五指の間に挟むように四つ生成した。

美波「!?」

美波は戸惑った。あの右手は何なのか? あのクナイ型のスコーピオンはこちらに投擲してくるのか? あれは早苗の体から切り離された変形しないスコーピオンなのか?

そして同時に焦っていた。早苗と対面して初めて分かる。彼女は作戦の決定、トリガー選択、そして動きそのもの──一つ一つの動作が淀みなく切れ目なく、かつ速すぎる。

対処が追いつかない。


早苗は自分と美波達の間にある雪面にクナイ型スコーピオンを等間隔で投擲した。

美波「な、何が起こったの……!?」

早苗は雪の中にグラスホッパーを埋める形で設置、その後スコーピオンをそれぞれに当ててグラスホッパーを起動しスコーピオンを反射させ、垂直に打ち上げた。

美波「(……!? 何を……?)」ズザッ

上を見上げ構える美波と唯。

しかし何も起こらない。
97 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:04:27.88 ID:v+83LJnc0
美波「──しまっ」

美波は一瞬後にブラフと気付いたが、もう既に早苗は次の行動に移っていた。

早苗「芸術は」キィン



早苗「爆発よっ!」ボォン!

雪の爆発。

唯「ひゃあぁ!?」

美波「きゃっ!?」

早苗は右足の爪先からスコーピオンを薄く広い板状に展開し積もる雪の下に滑り込ませ、その足元にグラスホッパーを発生させ起動、広範囲の雪を跳ね上げたのだ。

余った勢いは左足から錨のように地面に縫い付けたスコーピオンで相殺した。

向こうが見えないほど濃い雪のカーテンが早苗を覆い隠している間に、早苗は一瞬にして美波達の視界から消えた。




美波達は早苗を見失った。
98 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:05:35.01 ID:v+83LJnc0
美波「(あれ自体に威力はない。目くらまし? だとしたらどこかの遮蔽物の後ろに……)」

唯「アステロイド!」

思案を巡らせながら顔を腕で庇う美波の横で、唯が舞う雪を貫くアステロイドを四方八方に放った。

バゴッ キキン!


前方斜め左にある黒のワンボックスカーを唯のアステロイドが貫いた直後、金属音の様な乾いた音が響いた。

美波「(そんな、あの一瞬でもうあんな位置に!?)」

唯「(今シールドの音した! じゃあカメレオンは使ってない! それにバックワーム使っててレーダーには映らないから……)」

愛梨『ひだ』

唯「美波ちゃん!」

美波「ハウンド!」

愛梨『りから』

ほぼ同時に発された3人の声。

唯と同じ結論に至った美波は、トリオンを感知して追尾する誘導弾を放った。

愛梨『来てます!』

美波唯「「!!」」

美波の意図しない、左斜め後ろにいた唯の方に向かって。

愛梨がレーダーに映る光点を認識し、美波達が愛梨のアラートを聞き、それを2人の脳が認識した時にはもう遅い。

早苗の速さの前では、オペレーターの警戒喚起も意味を成さない。
99 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:09:27.62 ID:v+83LJnc0
早苗「(だから飽きる程見たっての。トリオン誘導でしょ)」

敵を追尾するトリガー、ハウンド。その追尾の仕方には2種類あり、使用者の視線の先に向かっていく視線誘導と近くのトリオン反応を感知し追尾するトリオン誘導がある。

透明化している相手に撃つのがどちらかは言うまでもない。

唯「わっ!?」

美波の前方に放たれたハウンドは、大きく弧を描きながら唯に吸い込まれていく。

美波「唯ちゃん!? 防いで!」

早苗は美波がハウンドを放つ前からそれを予測し、美波と自分で唯を挟む位置に移動。美波がハウンドを放ちそれが唯へと向かったのを確認するとバックワームを解除しカメレオンを起動、唯との距離を一気に詰める。

不意を突かれた唯は美波のハウンドを躱す事が出来ず、シールドで防いだ。当然その背後を取っている早苗にとっては隙だらけだ。

唯「きゃ!?」ブォン

早苗「(いっちょ上がり!)」

美波と同じように透明化されたまま綺麗に腰で投げられ、唯は地に伏した。透明化を解除しスコーピオンを構える早苗だったが、その背後を覚悟の決まった顔の美波が取っていた。その周囲には2?、8個のアステロイドがふわふわと周回している。

唯「ゆいごとやって!」ガッ!

早苗「!」グラッ

唯はそれを見て叫びつつ、倒れたままの状態で早苗の足を蹴った。

唯はこんな所で、こんな形で脱落するのは不本意だった。しかし、「早苗さんとゆいのトレードならおつりであと2,3人ゆいが買えるくらいだよね!」とも考えていた。
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