王馬「大変だ!オレが行方不明になっちゃった!」

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41 : ◆DGwFOSdNIfdy [sage saga]:2022/05/15(日) 01:37:58.86 ID:BaqouWXz0
>>40の科白は原作から引用しました
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/15(日) 10:00:41.07 ID:6+AHMWFA0
43 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga]:2022/05/18(水) 22:28:21.63 ID:0GrabGtv0
─中庭─


王馬「見付からないね」

最原「そうだね」

気不味い空気の最中、僕は所在無く学ランのボタンを弄った。

王馬「超高校級の探偵に頼ってもダメだったかー」

最原「ごめん。言い訳でしかないけど、僕はまだ未熟だから…」

王馬「そう言って、見付けてほしくないものは見付けた癖にね」

王馬くんは確かに校舎6階の高さから転落した。痛がる素振りを見せないのは、元々痛い振りをしていただけでとっくに肉体的な苦しみからは解放されているから。血のひと筋も流さないのは、それが何色か彼自身も判りかねているから。

最原「どうするの?」

王馬「そんな事訊かないでよ」

最原「なら訊き方を変えようか。僕はどうすればいいの?」

王馬「明日になったらまた手伝って」

最原「それがいいと思う。もう結構な時間だし、そろそろ東条さんが夕ご飯の支度を終わらせて呼びに来るだろうから」

王馬「今日の夕ご飯はなんだろうなー、楽しみだね」

最原「王馬くんは何が食べたい?」

王馬「んー…何も要らない」

最原「じゃあ東条さんは来ないよ」

王馬「そうだよ」


そのまま解散して、僕は寮の自室に戻る─はずだった。そうならなかったのは、急に王馬くんが「いた」と呟いて走り去ったのを僕が追い駆けたせいだ。

少なくとも今日はもう付き合う義理なんて無いんだけど、最初からそんなものは不要だったのだ。

王馬くんの言葉の意味、彼がどこへ向かっているのか、なぜ僕が彼を追うのか、その先に何が待っているのか、全部全部知っている。この短い旅の終点が近い事だって、勿論。

最奥へ向かうに連れ血の臭いが強くなっていく。
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/20(金) 06:31:06.50 ID:41S1A99S0
45 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga]:2024/02/23(金) 12:13:23.01 ID:4yhwoek00
─エグイサル格納庫─


結局戻って来てしまった。

視界はほぼ一色に染まっている。気分が悪い。足許が覚束無い。

プレス機に手を突けば、滑り気と共に『それ』がべったりとへばり付く。鉄と酸化した脂の化学反応に因る金属的な臭気が鼻腔を刺す。

実のところ現場の臭いがどれ程のものだったかなんて知る由も無いんだけど、経験から類推は出来る。どうせ早死にするならあんな経験は一生に一度だってしたくなかった…なんて、今更泣き言吐いても仕様が無いけど。

王馬「ダンガンロンパを抜きにしても、オレはロクな死に方しないだろうなとは思ってたよ」

最原「理由は出自?生き方?」

王馬「それもある。でも1番は性格かな」

最原「性格かぁ。王馬くんはそれを見付けられなくて、さっきまで探してたんじゃないの?そもそもそんなもの本当にあるかも怪しいよね」

王馬「ここに辿り着くまでに会ったみんな─最原ちゃんも、赤松ちゃんも、ゴン太も、入間ちゃんも、百田ちゃんもあんな事言わないよね。そういうのを性格って言うんでしょ?別に、性格だけが人間の全てとも思わないしね」

最原「一旦キミの主張を受け入れるとしてだよ。…本当に、ああするしかなかったのかな」

王馬「そんな訳無いでしょ。オレがあのやり方以外思い付けなかっただけ」

最原「良くも悪くも─あるいはそういった判断を拒むような、とにかくキミにしか実行できない方法だった。それこそ王馬小吉が王馬小吉たる所以と言ってもいいかもね」

王馬「それって、つまり」

最原「あの時の生き様、そして死に様を演じた彼こそが、本物の王馬小吉だ」

僕は血に塗れた手でプレス機を指さした。それが何色かは判らない。黒ずんだ赤にも目に悪いくらい彩度の高いピンクにも見えてしまう。

王馬「これが…真実?」

最原?「さあね」

ずっと追っていた謎を解き明かしてみせた割にはいまいち盛り上がらない。見様見真似でやってみたはいいものの、やっぱりオレには探偵役なんて無理だったんだ。

最原のような何か「オレはオレの信じたいものを提示しただけ。真実なんてクソ食らえ、だろ?」
46 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga]:2024/02/23(金) 12:19:31.66 ID:4yhwoek00
突然、暗闇に包まれた。違う。環境の変化ではなく視覚自体が失われたのだ。より正確に言うならそんなものはずっと前から無かった。視覚だけじゃない、聴覚も、触覚も、嗅覚も、味覚も。だってオレはもう死んだのだから。

ボディを透明にして誰にも気付かれなかったら意味が無いから、オレは半透明の幽霊になった。そして、見透かされて完全に役目を終えた。

全く未練が無いと言えば嘘になってしまう。でも死ぬまでにやれるだけのことはやったし、だからこそ自分の気持ちに折り合いを付けられたと思える。

これで、ようやく眠れる。

……本当に?もうとっくに肉体の縛りから逃れて、今となっては休息する必要なんて無くなっているのに?

オレの意識はプレス機のほんの僅かな隙間に留まり続けていた。困ったな、成仏ってどうすればいいんだろう。したいと思って出来るものでもないのかな。生前にもっとちゃんと宗教について学んでおくんだった。そういう問題なのか知らないけど。


それからどれほどの時間が経ったのだろう。客観的な実状は別として、オレは未だに時間という概念に囚われたままだ。…ああ、思い出した。だからオレはあんなくだらないごっこ遊びを始めたんだっけ。

まず一条の光があった。最初は見失いそうになるくらい細くて頼りなかったけど、ゆっくり広がって、やがて視界の端まで行き渡る。

見上げると、僕がプレス機のボタンを操作していた。

最原「王馬くん、そんな所で潰れてないでちゃんと王馬くんを探してよ。言い出しっぺはキミなんだからさ」

王馬「ごめんごめん、そろそろ別の場所に行こうか」

伸されて肉塊とも言えないような歪なタコせんべい様の物体になった王馬くんが、プレス機からぴょんと軽やかに飛び降りた。何色か形容し難い血が床に散る。

王馬「で、なんの話をしてたんだっけ?」
47 : ◆DGwFOSdNIfdy [sage saga]:2024/02/23(金) 12:30:21.93 ID:4yhwoek00
ありがとうございました
夜におまけを投下する予定です
48 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga]:2024/02/23(金) 22:45:55.16 ID:4yhwoek00
おまけ【赤松楓の証言】



赤松「うぐっ……あ、あれ?」

赤松(気付けば、私は真っ暗闇の中に立ち尽くしていた。たったさっきまで処刑を受けていたはずなのに)

赤松(まだ首の辺りが苦しいような気がして思わずネクタイを緩めた…けど、そこで初めて身体の感覚が失われている事を知った)

赤松(試しに手の甲を思い切り引っ掻いてみると、皮膚がまるで破いた包装紙みたいに剥けてしまった。それでいて痛みはおろか触覚さえ無いのが却って怖い)

赤松「私、死んだのかな」

赤松(ここは地獄なんだろうか。もしかすると暗がりをひとりぼっちで彷徨い続ける事こそが私に課せられた罰なのかも知れない)

赤松(…考えても答えは出なかった。私は途方も無い現状から逃げ惑うように、ゆらりゆらりと漂い始めていた)

赤松(揺蕩っている内に、いつの間にか大きな観音開きのドアの前に辿り着いた)

赤松「なんで、こんな所に?」

赤松(腕を伸ばすと、手応えこそ無かったもののあっさりドアが開いた)

赤松(その先は映画館のような場所だった)

赤松(スクリーンには憶えのある風景が映っている。早々にいなくなった私の場合、閉じ込められていた期間が短いからそう何度も見た訳じゃないけど、インパクトの大きいあの外観は頭に焼き付いていた)

赤松(廃墟と見紛いそうなほどボロボロの建造物、鬱蒼とした木立、最果ての壁、全てを遥か上空から覆う檻─あの映像はなんだろう?私が死んだ後の地上の様子を映しているのか、それとも、)

赤松「あ」

赤松(がらんとした劇場の中にたったひとり、誰かの姿を見付けた。座席の狭間から後頭部が覗いただけではあるけど、多分、きっと『彼』だ)

赤松(私は自ずと『彼』との距離を少しずつ詰めていた。接近するにつれ、置いてきたはずの心臓が激しく鼓動しているかのような錯覚を催してきた)

赤松(知らんぷりをするのは楽だけどそれだけじゃいけない、向き合わなきゃいけない、受け止めなきゃいけない…わたしの罪を)

???「…っ…」

赤松(血塗れの頭を抱えた『彼』がそこにいた。私は『彼』の名前を呼ぶ)

赤松「天海くん」

天海「あ゙ぁっ…!」

赤松(何を言おうかと躊躇した隙に、天海くんが勢いよく私の襟許を掴んだ)

天海「…ぅして…どうして…」

赤松(天海くんに謝らなくちゃならないのに声が出なかった。首が絞 まると、くび られた時の 息ぐるしさが よみ が えって、)



???「赤松さん!」
49 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga]:2024/02/23(金) 22:49:17.74 ID:4yhwoek00
赤松(何が起こっているんだろう)

???「俺に関してはホント気にする必要無いんで…えーっと…今はとにかく楽しい事でも考えるっす!」

赤松(天海くんが天海くんを羽交い締めにしている……ように見える)

血塗れの天海「離せ!」

血塗れじゃない天海「俺は赤松さんをこんなに怨んでなんかいないっす。『これ』はキミの罪悪感が生んだ幻っす」

赤松(正直、天海くんらしき人が何を言っているのかよく判らなかった。…だから自分はどうするべきなのかもいまひとつピンと来なかった)

血塗れじゃない天海「俺の憶測が正しければ、こいつを消せるのは赤松さんだけなんすよ」

赤松(混乱の最中、投げ掛けられた言葉をどうにか飲み込めるように咀嚼してみた)

赤松(取り敢えず瞑目して眼前の情報をシャットアウトする。天海くん?は楽しい事を考えろなんて言ってたっけ)

赤松(真っ先に浮かんだのは、初めて映画館に連れて行ってもらった時の思い出だった。お父さんが買ってくれたポップコーンの容れ物はまだ幼かった私には両腕で抱えなければならないほどの大きさで、食べ切れるのかと不安になったのを憶えている)

赤松(回想がそこまで及んだ時、間近で何かが破裂したような気配を感じて反射的に目を開けた)

赤松(『何か』は最初に現れた方の天海くんだった。彼は千々の肉片…ではなく、なぜか大量のポップコーンになって雨霰と散り掛かった)

天海「赤松さん、お腹空いてたんすか?」

赤松「そういう訳じゃないけど…」

天海「冗談っす。どうやらここでは、飢えや渇きも含めた身体の感覚全般が失われるみたいなんで」

赤松(私たちは苦笑いしながら、髪や服に付いたポップコーンをはたき落とした)

赤松「あ、ずっと気になってた事言っていいかな」

天海「どうぞ」

赤松「私たち、なんでお互いの姿を見たり声を聞いたり出来るんだろう?もう目も耳も無いはずなのに」

天海「確かに不思議っすよね。実際に見聞きしてるんじゃなくて魂で感じてるとか?」

赤松「なるほど。肉体的な感覚が無くなった代わりにいわゆる第六感?みたいなものがはたらいてるのかもね」

天海「そもそも感じてすらいないのかも知れないっすけど」

赤松「え?」

天海「あー、ちょっと大きめのひとり言っす。今のは気にしないでください」

赤松(天海くんの口振りは気になったけど、余り掘り下げてほしくなさそうだったのでもう触れない事にした)
50 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga]:2024/02/23(金) 22:52:42.22 ID:4yhwoek00
赤松(そうだ。色々あってそれどころじゃなくなっていたけど、私は天海くんに謝ろうとしてたんだった。今なら、それが出来る)

赤松「天海くん。本当になんて言ったらいいか分からないんだけど─」

天海「あー…そうっすよね、赤松さんはまだ誤解してるんすよね」

赤松「誤解?」

天海「結論から言うと、俺を殺したのは少なくとも赤松さんではないっす」

赤松「えっ?!」

天海「…立ち話もなんだし取り敢えず座りません?このままでも疲れはしないっすけど、やっぱ落ち着かないんで」

赤松(それから天海くんは、図書室で何が起こったのか彼の知る範囲で教えてくれた)

天海「─とまあ、赤松さんの主張と擦り合わせつつ推論を交えて話すとこんなところっすかね。そういう訳で、キミが自責の念に駆られる必要は無いんすよ。悪いのは黒幕っすから」

赤松「だとしても…結局私が付け入る隙というか、切っ掛けを作ったせいのような…」

赤松「でも、天海くんがそう言ってくれて幾らか救われたよ。ありがとう…って言うのは、違うかも知れないけど」

天海「ならよかったっす」

赤松(そこで私はある可能性に気が付いた)

赤松(天海くんが示してくれた真相は、私にとって妙に都合のいいものだ。…しかしそれは本当に事実なんだろうか?私に優しい言葉をかけてくれた天海くんだけが本物だなんて保証は無いのに)

赤松「天海くん。まさかとは思うけど、キミって私の妄想だったりする?」

天海「うーん…結局そういう話になっちゃうんすね。まあ、疑う気持ちは分かるっすよ。実際俺もその可能性がちょっと頭を掠めましたし」

天海「でも、それって現状どっちにしても証明できないじゃないっすか。いつかはちゃんと考えなきゃいけない問題かも知れないけど、取り敢えず今は捨て置いてもいいかなって俺は思ってるっす」

赤松「…そうだよね。なんか野暮なこと言っちゃったかな」

天海「いえいえ、お気になさらず」
51 : ◆DGwFOSdNIfdy [saga]:2024/02/23(金) 22:54:55.06 ID:4yhwoek00
赤松(スクリーンは、私がいなくなった後の才囚学園を映し続けている。殺人事件が起こったせいで、みんなすっかり憔悴しているようだった。…何を感じて何を思っているのかいまいち読めない人もいたけど)

赤松(私は、なんだかずっと涙が止まらなかった。自分でもどんな気持ちで泣いているのかよく判らなかった。ただただ苦しさだけがあった)

天海「なんでもかんでも思い通りっていうのは、やっぱりそれはそれでつまらないもんすね」

赤松(天海くんは脳内イメージから具現化したのか、どこからともなくポップコーンを出してそれを食べてみせた)

天海「味や食感も記憶とか想像で補完すればまあまあなんとかなるっすよ。赤松さんもどうっすか?」

赤松「ありがとう…」

赤松(気を遣わせて申し訳無いと思いつつ、好意には甘える事にした。勧められるまま手を伸ばしたポップコーンは無味無臭だった。正直なところポップコーンの味を思い出すだけの余裕が無かった。でも、今の私に感覚があったとして、何を食べたって味なんて分かりっこなかっただろう)

赤松(天海くんはこんな状況でも冷静に見えた。あんまりにも私がめそめそしているから、自分が悲しむどころじゃなくなっているのかも知れない)

赤松(それから私たちは色んな話をした。示し合わせた訳じゃないけど、お互いになるべく楽しい話をするよう努めてていたと思う。まるで、現在進行形の惨劇から目を反らすかのように)

赤松(それからもコロシアイは続いた。スクリーンの映像は全く思い通りにならない辺り、全部が全部私の妄想ではないらしい。…贅沢を言うならもっと違う形で知りたかったけど)

赤松(誰か死んで少し経つと、その人が私たちのいる映画館にやって来た。組み合わせに依っては生前の禍根で多少揉めたし、それを抜きにしてもこの世界の特性上トラブルは絶えなかった。しかし、何があろうと学園でハプニングが起こると全員例外無くスクリーンに釘付けになった)

赤松(そういった大まかな流れを4回繰り返して、やがて最後の学級裁判が終わった。私は学園が瓦礫と化していく様を惚けたように見ていた。その頃には涙は枯れ果てていて、不思議と清々しい気持ちだった)

赤松(不意に出入口の扉が開かれる音がした。誰かが映画館にやって来たのか、はたまた出ていくのか)

赤松(私は振り返らなかった。確かめる必要が無くなったから)

ゴン太「ねぇ王馬君、どこ行くの?」

王馬「…ちょっと探し物をしに」

赤松(それきり王馬くんはいなくなってしまった。彼がどこへ行ってしまったのか、知る術は無い)
52 : ◆DGwFOSdNIfdy [sage saga]:2024/02/23(金) 22:58:14.51 ID:4yhwoek00
投下は以上です
読んでくださった方、レスしてくださった方、ありがとうございました
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