ターニャ・フォン・デグレチャフ「私は副官の無防備さを甘くみていたらしい」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/26(木) 22:38:05.29 ID:rJNbqli6O
「これでめぼしい隊員は調べ尽くしたな」
「しかし、結局見つかりませんでしたな。やはり今回の事件は外部の人間の犯行では?」
「いや、そう決めつけるのはまだ早い。まだ1名ほど、取り調べを受けていない隊員がいる」

尊厳を奪われ泣き崩れる隊員達を睥睨しつつ、ヴァイスと言葉を交わしていた少佐は不意に。

「セレブリャコーフ少尉」
「はっ。副隊長、失礼します!」
「お、おい、何をするんだ、少尉!?」
「動くな、ヴァイス。これは命令だ」

まだ取り調べを受けていない隊員。
それは他でもない、ヴァイス大尉である。
無論、デグレチャフ少佐は大隊副長である彼のことをそれなりに評価していて信頼を置いているが、それでも男は狼であることに違いなく。

「出ました、少佐殿! 私の下着です!」

ついに見つけた。
共に戦場を駆け抜けた、少尉の下着。
シンプルな白いパンツを高らかに掲げた。
現行犯のヴァイスは目を白黒させている。

「えっ? はっ? な、なんで……?」
「貴様ァ……見損なったぞ、ヴァイス!!」
「そ、そんな、まさか……これは誤解です!!」
「下着泥棒の罪で貴官を逮捕する!!」

大隊長権限で副長を拘束。捜査は終了した。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/26(木) 22:41:00.97 ID:rJNbqli6O
「それで、ヴァイス。何故こんな真似を?」
「しょ、小官には身に覚えがなく、何が何やらわからないとしか申し上げられません……」
「ふん。そんな言い分がこの先軍法会議の場でも通用すると思うなよ? 心証を少しでもよくしたいと思うなら調書の作成に協力したまえ」

拘束したヴァイスを別室に連行して犯行に至った動機を引き出そうとするも、彼は知らぬ存ぜぬを繰り返すばかりで埒があかなかったので。

「少佐殿! 証人を連れてきました!」
「ご苦労、副官。入れ」
「失礼します!」

副官であり被害者でもあるセレブリャコーフ少尉に先導されて、取り調べ室に証人が来た。

「俺は初めから副長だと思ってました!」
「ああ。いかにも怪しい人だからな」

冤罪被害者であるノイマンとケーニッヒの証言は私怨が含まれており、信憑性に欠けていた。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/26(木) 22:43:44.37 ID:rJNbqli6O
「あの、少佐殿。ひとつだけよろしいですか」
「なんだ、グランツ。言ってみろ」
「実は昨夜、我々はヴァイス大尉と一緒に酒を飲んでいまして。その際、大尉はかなり泥酔していました。記憶の混濁はそれが原因かと」

なるほどと、デグレチャフ少佐は得心がいく。
ヴァイス大尉は酒好きであり、悪酔いしがち。
泥酔した際に犯行に及び、記憶を失ったのだ。
ノイマンとケーニッヒもそれぞれ頷き合って。

「そう言えば昨夜は酷い酔いっぷりだったな」
「泥酔した挙句、隊舎のベランダに干してあった白い布切れを見つけて、白旗だ! けしからん! とか言ってよじ登って回収してたっけ」
「なんだと?」

気になる単語があり、少佐は追求した。

「白い布切れと、そう言ったか?」
「ええ、かなり目立ってましたよ」
「確かにありゃ白旗に見えました」

白い布切れを白旗と誤認した。それはつまり。

「少尉。まさかとは思うが、貴官は下着を外に干していたのではあるまいな?」
「はい、お外に干してました! 帝国軍人たるもの常在戦場の精神に則り、常日頃から速乾を心がけてお洗濯をすることにしております故!」

元気な返事に頭痛を堪えながら副長に告げる。

「ヴァイス中尉、釈放だ」
「は?」
「私は副官の無防備さを甘くみていたらしい」
「小官には、何が何だか……」
「今後、酒の飲み過ぎは控えるように」

副官のあまりの無頓着さに呆れた少佐は、何が何だかわからない様子のヴァイスを釈放した。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/26(木) 22:46:58.05 ID:rJNbqli6O
「まったく! ひと騒がせな!」
「あぅ……も、申し訳ありません」

ヴァイスたちを帰し、白パンツを白旗と間違われて回収された副官を少佐は厳しく叱責した。

「貴官も乙女ならば相応の振る舞いをしろ!」
「ひゃあっ!? ご、ごめんなさぁい!?」

こっぴどく叱られて泣きじゃくる副官を見ていると、なんだかあのライン戦線での地獄のような日々がまるで昨日のことのように思えて。

「ふっ……あの地獄のような日々を思い出すな」
「ふぇっ? 少佐殿……?」
「漏らして泣いていた頃が今となっては懐かしい。あの頃と比べれば幾分かマシと言えよう」

そんなちょっと良い話で説教を締め括ろうとした少佐の親心になど、少尉はまるで気づかず。

「あの……実は、誠に申し上げ難いのですが」
「なんだ、言ってみろ」
「少佐殿のお説教が思いの外長く、しかもあまりに苛烈を極めた為、小官は情けないことにお小水を漏らしてしまいました! ごめんなさい!」

なるほど、よく見れば、水溜りが生じている。

「フハッ!」
「しょ、少佐殿、どうかご容赦ください!!」
「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

何を馬鹿なことを。容赦などするものか。
戦とは衝撃力であるとルーデルドルフ少将閣下が仰っていた通り、圧倒的な哄笑によって戦場を制圧することこそが、帝国軍人としての誉高き務めであり、そこに一切の躊躇いがあってはならない。

「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

たとえ万雷の拍手と共に尊厳を失うことになろうとも、愉悦と喝采を躊躇うなかれ。
母なる祖国に幸あれ! ライヒに黄金の時代を!
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/26(木) 22:51:20.07 ID:rJNbqli6O
「ふぅ……おや?」
「ひっく……えっく」
「やれやれ、少尉は相変わらず泣き虫だな」

狂ったように愉悦と哄笑をぶち撒けて部下を怯えさせた挙句に泣かせたのは紛れもなく少佐のせいなのだが、こんな時だけは優しかった。

「よしよし。貴官はそれでいい」
「ぐすっ……デグレチャフ少佐ぁ」
「あまり澄ましてばかりいると可愛げがないからな。たまには可愛いところも見せてくれ」
「……好き」

事情を知らない者からすればなんて頭の悪い会話なのだろうと思うかも知れないが、当人たちは至って真剣であり、これはもうキスくらいするのが上官としての務めなのではないかと少佐は一瞬考えたが、それは明白な軍規違反であることを思い返して、なんとか己を律した。

「こほん……今の発言は不問としよう」
「……少佐殿のいじわる」
「とはいえ、聞こえてしまったものは仕方ないからな。しっかりと記憶に留めておくので安心したまえ。貴官の気持ちは……とても嬉しい」
「少佐殿! 小官は感激しております!」
「ふっ……感激しすぎて嬉ションはするなよ」
「やだもう、デグレチャフ少佐ったら」
「貴官の幸せの黄ばんだハンケチーフに免じて、此度の一件は不問とする! 以上!!」

厳粛なる軍法会議の結果、第二〇三航空魔導大隊内で発生した盗難事件は不問に処された。


【少尉の幸せの黄ばんだハンケチーフ騒動】


FIN
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/26(木) 22:54:13.04 ID:rJNbqli6O
>>6
いつも汚いお話でごめんなさい!
それでも読んでくれた読者の皆様に心からの感謝を!
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
13.41 KB Speed:0   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 新着レスを表示
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)