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【BLEACH】藍染「虚圏年代記」
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102 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 18:41:26.72 ID:JpW3JH9Z0
スターク「……だから、『無限装弾虚閃』の合間に狼たちを何体か地中に潜らせた
まだ『死の息吹』が及んでいない足元から、『死の息吹』が放たれる前に脚へ噛み付かせた――って、マジかよ!?」ハッ!
驚愕を露わにするスタークの視線の先で、爆風の余波が消えた
バラガン「…………やってくれたのォ、野良犬が」
いつの間にやら出現させた漆黒の巨斧を支えにして、バラガンがスタークに向き直る
見れば両脚に痛々しい罅や部分的な損壊こそあれど、なおもその霊圧は弱まることなく、臨戦態勢を崩していない
スターク「オイオイ嘘だろ……攻防一体のあんなやべー能力持ってる分、本体の鋼皮(イエロ)はそんなでもねーって踏んだのによ……!」
素の霊体もメチャクチャ頑丈じゃねーか――そう内心で毒吐きつつ、必死に次の手を考えるスターク
だが、彼の焦燥はすぐに杞憂となった
藍染「そこまで、としておこうか」
バラガン「……」ギロッ
スターク「藍染様……!?」
103 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 18:43:37.86 ID:JpW3JH9Z0
バラガン「……何の冗談じゃ?」
全身から凄まじい怒気を放ちながら、髑髏の大帝が言葉を発する
藍染「今のスタークの攻撃は、完全に君の予測を超えていた。無敵に近い能力を持つ君でさえ、不覚を取るほどに」
藍染「“かつて”虚圏の神として長らく君臨してきた君にこれほどの痛手を負わせられるという時点で、彼の実力は十分に証明されたと言っていい」
バラガン「ふざけるな……たかが野良犬に噛み付かれた程度で痛手等と……片腹痛いわっ……!」
藍染「あってはならないのだよ、君程の破面が野良犬風情に噛み付かれる等ね」
バラガン「……!」
一層怒気を強める大帝に対し、藍染は薄く微笑みながらも決然と言い放った
藍染「スタークが全霊で君を討とうとしていれば、油断しきっていた君の全身を一瞬で覆うほどの素早さと物量で以て、狼たちをけしかけることはできた」
藍染「彼がそれをしなかったのは、君の命までもは奪う意図が無かったからだ。無論、易々と君に討たれるつもりもなかっただろう」
藍染「傲りを宿したままスタークを滅ぼそうとし、好機があったにも関わらずし損じた君と、己が命は死守せんと覚悟した上でバラガンを“撃退するに留めようとした”彼――勝敗を断じるには申し分ないと思うのだが?」
バラガン「…………」ゴォォ…
緊迫した空気が支配する中、固唾を飲んで状況を見守るスターク
スターク(オイオイ変な持ち上げ方しないでくれよ……! こちとらそんな余裕なんて全然無かったんだっての……!)
104 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 18:45:08.71 ID:JpW3JH9Z0
バラガン「…………フンッ」
大帝の手元から巨斧が消失する
バラガン「よかろう……どのみち、さして意味もない数字じゃ
一時、貴様に預けたところで、何も変わりはせんわい」
霊圧を抑え、帰刃を解くと、重々しい足取りで自宮へと戻っていくバラガン
大きく息を吐いて、スタークがその場に座り込む
藍染「見事な戦いだった、スターク。他の同志たちにも見せるべきだったかな」
スターク「勘弁してくださいってホント……いっぱいいっぱいですよ、こっちは」ハァ…
リリネット『やったじゃんスターク! へへっ、やっぱ最高のコンビだね……って痛たたた! ちょっ、そこお尻! や、やめっ!』
スターク「うるせえ! 元はと言えばお前が余計なこと言ったせいだろうが!」ギチギチ
拳銃を何やら弄りながら、相方に文句を垂れるスタークだった
105 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 18:48:49.67 ID:JpW3JH9Z0
ハリベル「……」
戦いの一部始終を観ていたハリベルは、静かに思案する
ハリベル(……命がけの決闘でありながら、相手の命は奪わない。確かにそれは美徳と言えるだろう)
ハリベル(だが、藍染様がそんなものを評価するとは思えん)
ハリベル(十刃に求められるのは、霊圧の強さとそれに裏打ちされた純粋な殺傷能力のみ)
ハリベル(その点で言えば、確かにスタークは他に引けをとりはしない……かといって、バラガンがそれに劣る等、考えられない判断だ)
ハリベル(……結局のところ、どちらでもいいのだろう、藍染様にとっては)
バラガンが♯1であろうと、スタークが♯1であろうと
ハリベル(だとすればこの戦いに意味は……いや、いい)
ハリベル(あの方に謀られ、仲間共々命を救われ、力を与えられて生き長らえているこの私が、あの方の在り様に異を唱える等……それこそ、片腹痛い無様なのだろうな)
106 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 18:50:49.39 ID:JpW3JH9Z0
〜〜〜〜
戦いを終えて――
自宮へ戻り、ベッドに寝転んだスタークは、胸中で呟いた
スターク(『意味もない数字』か……だろうな、あの大帝サマにとっちゃ、藍染様から授けられた数に価値なんて無えんだろうよ)
スターク(最古参の十刃だってのに、あいつは未だに藍染様へ微塵も忠誠なんざ誓っちゃいねえ
ただ、いつか藍染様の首を取って、自分が支配者の座に返り咲くまでの雌伏の時ってだけだ)
スターク(バラガンだけじゃねぇ。ノイトラもグリムジョーもザエルアポロも、心底から藍染様に付き従ってる訳じゃなし
パッと見従順そうなハリベルだって、本心は違うだろうよ……ヤミーやアーロニーロはわかんねぇが)
マジで心酔してるのはゾマリくらいか、と苦笑するスターク
と、そこへ破面体に戻ったリリネットが、スタークの隣へ寝そべってきた
スターク「うぉっと、何だよリリネット。今日はもう疲れたんだ、遊ぶんなら他を――」
リリネット「……ねぇ、スターク。私たち、仲間だよね」ボソッ
スターク「あ?」チラッ
107 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 18:52:28.65 ID:JpW3JH9Z0
眼を伏せたまま、スタークの服の裾を掴むリリネット
リリネット「私たち十刃は、この虚夜宮の破面たちは、みんな、仲間なんだよね? 『スターク』が、ずっと一緒に居られるような」ギュッ
スターク「――当たり前だろ」
スタークは仰向けになると、自分に寄り添うリリネットの頭にポンと手を置く
スターク「俺たちはその為にここへ来たんだ。たとえ目的はバラバラでも――」
スターク「あいつらは、俺たちの仲間だ。『スターク』はもう、孤独じゃねえ」
108 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 18:55:20.36 ID:JpW3JH9Z0
【W】
虚圏・石英の森
葬討部隊(エクセキアス)とよばれる無数の戦士たちが、辺り一面に横たわっている
その累々と積み上がった髑髏の山を顧みることもなく、一人の破面が通り過ぎていった
何かの弾みで砕けたかのように、歪な割れ目をした仮面の名残
そこから覗く瞳は、どこまでも暗い
ウルキオラ「……」
109 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 18:58:13.49 ID:JpW3JH9Z0
〜〜〜〜
虚夜宮・玉座の間
東仙「――それは確かなのか、ルドボーン?」
ルドボーン「ハッ。唯一生き残り、帰還した髑髏兵団(カラベラス)からの報告です
尋常でない強さを持った野生の破面を発見し――三個中隊が瞬く間に壊滅したと」
東仙「葬討部隊は元々暗殺や偵察を主とした部隊……ひとりひとりの戦闘力はさほど高くはない、とはいえ」
市丸「いくらなんでもそないな数を秒殺ゆうんは異常やなぁ。正面から斬りかかっていった訳でもないんやろ?」
ルドボーン「無論です。当初は偵察の予定でしたが気付かれた為、戦闘力調査の目的で接敵いたしました」
ルドボーン「しかしあまりの強さに隊は半壊、収集できた情報が少なかったことから追加の部隊を緊急投入いたしましたが、結果は……」
藍染「――実に面白い」
目を瞑って報告を聞いていた藍染が、おもむろに口を開いた
藍染「自力で破面化してその強さということは、元がヴァストローデ級と見ていいだろう」
藍染「スタークのように崩玉で強化すれば、更なる強さへ達する可能性もある。是非とも迎え入れたいものだね」
東仙「それでは私が――」
藍染「いや」
迷いなく名乗り出た東仙を制し、薄く微笑む藍染
藍染「完成しつつある十刃の力を、試す相手にはちょうどいい」
110 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 18:59:52.11 ID:JpW3JH9Z0
〜〜〜〜
虚圏・岩場
ノイトラ「――よォ」ニヤリ
あてもなく歩き続けるウルキオラの前に、巨大な武器を担いだ長身痩躯の破面が立ちはだかる
ウルキオラ「……」
ノイトラ「シカトすんなよ。どこ行く気だァ?」
ウルキオラ「……失せろ」
ノイトラ「おいおいそうカリカリすんなよ、ビビってんのか?」ニヤニヤ
ウルキオラ「……」
ノイトラ「ハッ! 面白くねェ野郎だな。まァ良い――!」ダッ
言うと同時に、得物を振り上げてウルキオラへ突っ込むノイトラ
その細腕からは想像もつかない程の膂力で以て、武器を脳天めがけて叩き込む
だがその一撃は虚しく空を切った
111 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 19:01:48.88 ID:JpW3JH9Z0
ノイトラ「――あァ!?」
ウルキオラ「失せろと言った筈だ」
背後からの声を聴き、ノイトラは反射的に跳び退った
攻撃を避けきれなかった右腕に裂傷がはしるのを感じると、剣を構えるウルキオラとの距離を直ちに測る
ノイトラ「やるじゃねェか!」ブンッ
ウルキオラ「……硬いな」ヒュンッ
再び“響転”で姿を消すウルキオラ
ロングレンジから攻めるノイトラの間合いを見切り、あえてその内側に飛び込むことで、逆に攻撃を牽制していく
ノイトラ(並の破面の動きじゃねェなッ……葬討部隊如きじゃ相手になんねェハズだぜッ!)
至近距離での斬り合いは不利と判断したノイトラは、一度大きく後方に下がると、ウルキオラに向けて武器を投擲した
難なくそれを躱し距離を詰めるウルキオラだったが、投げつけた武器の柄から伸びるチェーンを強く握るノイトラを見て、咄嗟に側面へ回避行動を取る
112 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 19:04:22.59 ID:JpW3JH9Z0
引き戻された武器が、先刻までウルキオラの居た地点を斬り払う
奇襲に失敗したノイトラは、掴んだ鎖を振り回して武器を大回転させ、接近を阻みつつ遠距離から攻撃を仕掛けていく
ウルキオラ「……」ジッ
ノイトラ「どうしたァ? この程度でお手上げかよッ!」
薄ら笑いを浮かべながら武器を振り回すノイトラに対し、ウルキオラは一瞬、体勢を低く構えると――
一閃、斬魄刀を鋭く振るっただけで、的確にノイトラの武器から鎖を断ち切った
ノイトラ「!!」
武器が離れ、急に重量が失われた手元の鎖を引っ張る形で、バランスを崩すノイトラ
“響転”で一気に接近したウルキオラの斬撃をモロに受け、ノイトラの肩から袈裟掛けに血飛沫が飛び散った
ノイトラ「テメェ――!!」ギロッ
ウルキオラ「……!」クルッ
しかし追い打ちを仕掛けようとした刹那、ウルキオラは背後から迫る気配に気付き、新手の一撃を剣で受け止める
113 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 19:07:27.93 ID:JpW3JH9Z0
グリムジョー「チッ、流石に反応がいいな。この状況で俺の攻撃をいなしやがるとはよ――!」ブンッ
ウルキオラ「……何だ、お前は」ブンッ
グリムジョー「破面6(セスタ)、グリムジョーだ! てめぇをブッ潰しに――グォッ!!」
ウルキオラ「!」
ウルキオラと鍔迫り合いをしていたグリムジョーの脇腹に、ノイトラの強烈な蹴りが叩き込まれた
一方ウルキオラは“響転”で退避し、注意深く“探査神経(ペスキス)”を周囲に巡らせる
ノイトラ「ッざけんなグリムジョー! 横から手ェ出しやがって、ぶっ殺されてェのかッ!?」
グリムジョー「てめぇそりゃこっちのセリフだノイトラ! 勝手に抜け駆けしやがって、挙句追い詰められてちゃ世話ねぇなぁ!」
ノイトラ「俺が追い詰められただ? 笑わせんなッ!」
グリムジョー「じゃあそのザマは何だよ。向こうはてめぇとの殺り合いの最中でも俺の攻撃に反応する余裕があったみたいだぜ?」ニヤリ
ノイトラ「ハッ! 殺り合いの最中に不意討ちかました挙句、まんまと防がれた野郎につべこべ言われる筋合いはねェなッ!」ニヤリ
罵り合いを続ける二体の破面
それを無表情のまま見ていたウルキオラは、不意に後方から微かな霊圧の揺らぎを感じ取り、咄嗟に頭部を腕で庇った
直後、庇った腕に目のような印が浮かび上がる
114 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 19:09:29.20 ID:JpW3JH9Z0
ゾマリ「ほう、私の攻撃に気付き、即座に反応するとはお見事。ですが――」
帰刃『呪眼僧伽(ブルヘリア)』を解放したゾマリが、勝ち誇った表情で宣言する
ゾマリ「――既に我が“愛(アモール)”は、貴方の身体に刻まれました」ニマァ
次の瞬間、刻印の施された左腕が勝手に動き、ウルキオラ自身の両目を貫こうとした
だがウルキオラは即座に左腕を切り落とすと、足元に“虚弾”を放って土煙を巻き起こし身を隠す
ゾマリ「おやおや、『視ること』が私の能力の発動条件だとも察知されましたか。実に知恵が回る破面だ」ニヤニヤ
ノイトラ「――雑魚は引っ込んでろッ! そいつは俺の獲物だッ!」クワッ
グリムジョー「てめぇの出る幕はねーよゾマリ! 他の連中にもそう言っとけ!」ギロッ
ゾマリ「やれやれ実に嘆かわしい。藍染様より破面化という叡智を授けられたとは思えない野蛮な――」
怒りの形相でこちらを睨むノイトラ達に対し、ゾマリが呆れたように肩を竦めた時
「――鎖 せ、『 黒 翼 大 魔(ムルシエラゴ)』」
115 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 19:12:04.80 ID:JpW3JH9Z0
土煙の中の霊圧が激変した
と同時に高濃度の霊子で作られた刃・フルゴールがゾマリへ投擲される
ゾマリ「ヌァッ!? ぐ、こんなもの……なっ!?」
初撃を何とか耐え凌いだゾマリが全身の目で捉えたのは、こちらへ向かって飛んでくる無数のフルゴールであった
ゾマリ「ぐぉあぁぁああああぁぁぁぁーーー!!!」
波状攻撃は周辺の大地や岩場にも次々と炸裂し、遂には崩れた地面へゾマリを転落させ生き埋め状態にしてしまう
ウルキオラ「……次から次へと、鬱陶しい」バサッ…
羽ばたき一つで、巻き起こっていた土煙が掻き消された
黒い翼を生やし、新たなフルゴールを手に握ったウルキオラが姿を現す
ウルキオラ「お前達は何だ? 誰の差し金で俺を狙う?」
姿は変われど相変わらず無表情のまま、ウルキオラが振り返る
「 軋れっ、『 豹 王(パンテラ)』!!」
「 祈れッ!『聖 哭 蟷 螂(サンタテレサ)』ッ!!」
116 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 19:14:54.67 ID:JpW3JH9Z0
二人の十刃がほぼ同時に跳びかかった
先に距離を詰めたのはグリムジョーで、鋭い爪を研ぎ上がらせウルキオラを襲う
フルゴールでそれを受け止めたウルキオラは、自ら切断した左腕を瞬く間に生え変わらせると、そちらにもフルゴールを出現させて二刀による反撃に出る
そこへ、四本の腕に鎌状の得物を握ったノイトラが乱入した
ノイトラ「ハッ! あっさり腕を切ったと思ったら超速再生持ちかよッ!」ブンッ
ウルキオラ「……」サッ
グリムジョー「巻き込まれてぇのかノイトラ! 黙ってすっこんでろ!」ザシュッ
ウルキオラ「……」ブンッ
ノイトラ「テメェがくたばれグリムジョー! まとめて八つ裂きにすんぞッ!」ギロッ
混戦の様相が強くなるにつれ、三人の身体には次々に傷が刻まれていった
その最中、ノイトラの腕が一本肘から斬り落とされるも、切断部から再生するのをウルキオラは見逃さなかった
ウルキオラ(……こいつも超速再生持ちか? だが帰刃以降、腕以外の体表の傷は再生の気配がない……完璧に再生できるのは腕だけらしいな)
117 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 19:17:41.16 ID:JpW3JH9Z0
ノイトラ(ふざけやがってッ……野良破面の分際で、俺の鋼皮に軽々しく傷をつけんじゃねェ!!)
グリムジョー(クソがっ! 切り裂いても切り裂いても再生しやがる! コイツはノイトラと違って全身の傷を治せんのかよ!?)
思惑が交錯する中、不意にウルキオラが戦線を離れ、近くの丘へ退避した
グリムジョー「逃がすかよっ!」ダッ
持前の敏捷性でノイトラよりも早く動いたグリムジョーは、接近中も肘から鉤を飛ばして攻撃を緩めない
それと相対するウルキオラの指先に、強大な霊圧が収束し始め――
ウルキオラ「……“虚 閃”」ズゥォォンッ
グリムジョー「ハッ、その程度――っ!?」
言いかけた矢先、グリムジョーは我が目を疑った
ウルキオラの指先から放たれたのは、闇のように黒い“虚閃”だったのだ
飛ばし鉤をかき消す程の攻撃が直撃し、撃墜されるグリムジョー
その衝撃による爆風を突き破って投げつけられたノイトラの鎌を、ウルキオラは紙一重で躱す
118 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 19:20:22.65 ID:JpW3JH9Z0
ノイトラ「よく躱しやがるじゃねェかッ、あァ!?」ギロッ
ノイトラ(今のは間違いなく“黒虚閃(セロ・オスキュロス)”……だがありえねェ、アレは帰刃状態の十刃クラスでようやく出せる技のハズだッ!)
ノイトラ(コイツの霊圧はッ……俺らに匹敵する強さだってのかッ!?)
ノイトラ「――ふざけんのも大概にしろ! 崩玉も使わねェ、ただ破面になった『だけ』のテメェが! 軽々しく“黒虚閃”を使いやがってッ!!」ズゥォォンッ
激昂したノイトラは舌を突き出し、その舌先から同じく“黒虚閃”を放った
ウルキオラも同時に黒い“虚閃”を撃ち、ノイトラの攻撃を相殺する
ウルキオラ「……“黒虚閃”というのか、これは」
自ら放った技でありながら、まるで他人事のように呟く
その直後、地中から振動を感じ取った彼は、翼をはためかせて上空へ舞い上がった
地面を突き破り、巨大な蛸足――『喰虚(グロトネリア)』の触腕が襲い掛かる
足元から迫る触腕をフルゴールの投擲で退けつつ、即座に新たなフルゴールを握って、背後から忍び寄る『邪淫妃(フォルニカラス)』の触手状翼を斬り捨てるウルキオラ
ザエルアポロ「惜しいな、あと少しで『人形芝居(テアトロ・デ・ティテレ)』が完成したのに……追い込みが甘いぞ?」
アーロニーロ「ふざけんじゃねぇ」「君ノ為ニアイツヲ攻撃シタ訳ジャナイヨ」
119 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 19:22:35.98 ID:JpW3JH9Z0
ウルキオラ「……あと何体出てくる気だ?」
アーロニーロ「君ガ早ク捕マッテクレレバコレ以上増エナイヨ」「さっさと潰れちまえ!」ブンッ
言うや否や、アーロニーロは無数の触腕を地面に突き刺し、巨岩の塊を連続でアーロニーロに投げつけた
それを軽々と躱すウルキオラだったが、岩の後ろからノイトラが4本の刃を振りかぶって突っ込んでくるのを“探査神経”で察知、“黒虚閃”で岩ごとノイトラを撃ち抜く
ノイトラ「グッ――効くかァんなモンがァっ!!」
ウルキオラ「チッ……やはり硬いな」
直撃を受けてなお怯むことなく武器を振り下ろすノイトラと、それを両手のフルゴールで捌くウルキオラ
ノイトラを巻き込むのも構わず、アーロニーロは投石の手を緩めない
ノイトラ「失せろアーロニーロッ!! ちまちま横槍入れやがって鬱陶しいんだよッ!!」ギロッ
ザエルアポロ「霊圧をまとわない、岩石による物理攻撃ならば奴の“探査神経”にかからないとでも?
浅はかな考えだな。投石なんて大味な攻撃、奴の“響転”なら視認した瞬間に容易く躱せるだろう」
アーロニーロ「そういうてめえは見てるだけか?」「僕ノ『認識同期』デ戦況ハ藍染様ニモ伝ワッテルヨ」
ザエルアポロ「……フン。グズグズしていると『第3以上のお歴々』が戦線投入されて、研究材料を得る機会が失われると?」
不愉快そうに言って、ザエルアポロはウルキオラとノイトラの接戦を観察する
付け入る隙を見出そうとするかのように――
120 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 19:25:40.21 ID:JpW3JH9Z0
ウルキオラ「……もう一度訊く。お前らは誰の差し金だ?」
ノイトラ「戦闘中にずいぶんと余裕じゃねェかッ、あァ!?」ブンッ
怒鳴りながら斬りつけるノイトラの刃を躱すと、ウルキオラは瞬く間にノイトラの腕2本を斬り落とし、残る2本の攻撃をフルゴールで受け止めた
ノイトラ「舐めんなッ!!」
ウルキオラ「――!」
その直後、更に追加で2本の腕がノイトラの身体から生えたかと思うと、鋭い手刀でウルキオラの脇腹を抉った
ウルキオラ「くっ……」ダッ
吐血しつつも即座に後退するウルキオラ
するとその足元から再度『邪淫妃』の触手状翼が出現した
ウルキオラ「鬱陶しい……」ザシュッ
探査神経でそれを察知していたのか、視線を遣ることすらなく触手を斬り落とす
だが触手は切断されるより早く自発的に破裂し、血のような分泌液をウルキオラの全身に撒き散らしたのだ
そして液体の降りかかった箇所から、ウルキオラを模したクローン体が出現する
121 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 19:29:06.70 ID:JpW3JH9Z0
ウルキオラ「……!」
未知なる攻撃の連続に対する動揺を見せることなく、出現したばかりのクローンの首を斬り落とすウルキオラ
更に自身の脇腹の傷を再生させつつ飛び上がった所で、今度は勢いよく巻き上げられた波濤と岩石が同時に襲い掛かる
“探査神経”と“響転”を駆使してそれらを躱すも、波濤で削られた岩の破片はウルキオラの左眼に突き刺さった
アーロニーロ「いい加減諦めたらどうだ?」
槍状の斬魄刀『捩花』による水流と、触腕で持ち上げた巨岩を同時に放ちながら、アーロニーロが呼びかける
仮面の奥から聞こえるその声は、先ほどまで彼が発していた2種類の声とは異なるものであった
ウルキオラは即座に眼球を再生し、アーロニーロへ向けて“黒虚閃”を撃つ
アーロニーロは前方に極太の触腕を束ねて盾とし、更にそれを水流の壁で覆って二重に守りを固めたが、“黒虚閃”はあっさりそれを突き破り巨大化した『喰虚』下半身に直撃した
アーロニーロ「ぐぅぁあああぁぁっッ!!?」
衝撃で押し返されるアーロニーロ
そこへノイトラが再びウルキオラへ斬り込む
ノイトラ「余所見してんじゃ無ェっつってんだろーがッ!!」ゴッ
ウルキオラ「……鬱陶しいと、言っている筈だ」ブンッ
122 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 19:32:44.21 ID:JpW3JH9Z0
――ここまで一連の戦闘を見届けていたザエルアポロは、含み笑いを浮かべていた
ザエルアポロ(予想通りだ。奴の超速再生は万能ではない)
ザエルアポロ(傷口こそ塞いだものの、ノイトラの手刀による内臓へのダメージは隠しきれていない)
ザエルアポロ(そして奴のクローンは頭部を斬り落とされただけで活動を停止した)
ザエルアポロ(一方でアーロニーロに傷つけられた奴自身の眼球は再生できている以上、奴の再生限界はそれ以外の部位――おそらく脳と、臓器)
ザエルアポロ(ならば臓器を直接潰す僕の『人形芝居』さえ決まればこの勝負、幕引きだ――!)ニヤリ
123 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 19:35:52.89 ID:JpW3JH9Z0
アーロニーロ「ウ、ウゥ……痛イッ……!」「チィッ、あの野郎……!」ユラリ
衝撃の為か、元々の声に戻った状態でアーロニーロが毒吐いた
蛸足状の下半身が、大きく抉られている
アーロニーロ「ノイトラの野郎、手を出すなだ何だとほざいときながら」「オ得意ノ近接戦闘デモ奴ト同レベルジャナイカ」
再び斬り合いを始めたウルキオラとノイトラを見上げ、更に悪態を吐くアーロニーロ
残った触腕を大地に突き刺し、瓦礫の塊を拾い上げようとしたその時
アーロニーロ「「ん?」」
触腕のひとつが球形の何かを掴み、地面から引きずり出した
ゾマリ「……おのれ」
それは崩落の衝撃に耐えたものの、土砂と瓦礫によって生き埋めにされていたゾマリの『守胚姿勢(エル・エンブリオン)』だった
ゾマリ「おのれ……おのれっ……おのれぇッ!」
憎悪に燃えた両の眼を見開き、絞り出すように吐き捨てるゾマリ
ゾマリ「許さぁぁああぁぁん……!!」ギリッ
124 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 19:38:58.43 ID:JpW3JH9Z0
ノイトラ「ぐおぉッ!! クッ――クソがァッ!!」ギロッ
地面に叩きつけられたノイトラが怒りの形相で宙を睨む
接近戦における攻撃の苛烈さと手数を誇る彼すらも、高度な“探査神経”と“響転”、そして超速再生を備えたウルキオラには致命傷を与えるに至らない
まして敵は防御だけでなく攻撃性能も十分に高く、反撃を受けることによるノイトラのダメージは徐々に蓄積されていた
ウルキオラ「もういい。何一つ答える気がないと言うのなら――黙って此処で死ね」
フルゴールを握りつつ無表情のまま見下ろす
ノイトラ「ハッ! ほざいてろッ! テメェ如きに殺されてたまるかよッ!」ゴゴゴゴ…!
ウルキオラ「また“黒虚閃”か――何?」
突如、ノイトラの構える6本の武器の先端に、尋常でない霊圧が凝縮され始めた
霊圧はどんどん膨れ上がり、“虚閃”はおろか“黒虚閃”すら凌ぐ程の濃度に達しつつある
ノイトラ「いくらテメェでもコイツは使えねェだろ……!」ニィ
ウルキオラ「……」バッ
対抗すべく指先に霊圧を集め“黒虚閃”を放とうとするも、即座に迎撃を諦めその場からの浮上を選択するウルキオラ
ウルキオラ(たとえ俺の“黒虚閃”の方が先に放たれたとしても――あれほどの霊圧の一撃は掻き消せん)
ノイトラ「跡形もなく消し飛びやがれッ!!」ゴォォー
ノイトラ「“ 王 虚 の 閃 光 ”!!!」
125 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 19:43:43.02 ID:JpW3JH9Z0
十刃のみに許され、その威力故に虚夜宮内での使用を禁じられた最強の“虚閃”
想像を絶する程の霊圧の奔流が、ウルキオラめがけて解き放たれる
ウルキオラ(攻撃範囲が広い――だが躱せる)
あらかじめ回避行動に入っていた彼は、冷静に“王虚の閃光”の範囲外へ脱しようと“響転”を――
アーロニーロ「「“ 王 虚 の 閃 光 ”!!」」
ザエルアポロ「……“ 王 虚 の 閃 光 ”」
ウルキオラ「……っ!」
――使おうとした瞬間、ノイトラの攻撃とは違う方角から、ほんの少しだけタイミングをずらして、二体の十刃が“王虚の閃光”を発動したのだ
間近に迫る三つの攻撃
もはや“探査神経”を巡らせる暇すらなかったウルキオラには、直感的に唯一退避可能と思われる位置へ移動するしか道はなかった
たとえそこに『邪淫妃』の触手状翼が待ち構えていたとしても
ザエルアポロ「――終幕だ」ニマァ
126 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 19:48:59.50 ID:JpW3JH9Z0
ウルキオラ「……」ジッ
だが、勝利を確信したザエルアポロの笑みは、次の瞬間に凍り付く
ウルキオラ「……“黒虚閃”」ゴォッ
ザエルアポロ「!!」
翼状触手は敵を包み込むことなく、ウルキオラの指先から放たれた攻撃に消し飛ばされた
ザエルアポロ「バカなっ……僕の罠を見越して、撃つのをやめていた“黒虚閃”をいつでも発射できるよう、霊圧を指先にとどめていたのか……!?」
必殺級の威力を持つ大技を放った直後で、三体の十刃は即座に追撃を仕掛けられない
一方、すべての攻撃を躱し、無表情のまま反撃体勢を取るウルキオラ
その“探査神経”が、とうに消えたかに思えた霊圧の急速な上昇を察知する
ウルキオラ「……!!」
見るとウルキオラよりさらに上空、霊子を踏み固めて作り出した見えない足場に、満身創痍の“豹王”が立ちはだかっていた
その両爪は宙を引き裂き、空間に歪みを生じさせている
グリムジョー「――『 豹 王 の 爪 (デスガロン)』」
127 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 19:54:56.07 ID:JpW3JH9Z0
鉤裂き状に凝縮された霊圧の一撃がウルキオラへと振り下ろされる
“王虚の閃光”に優るとも劣らないその霊圧は、受ければ無事では済まない威力なのが明白であった
ウルキオラ「……無駄だ」
しかし既に窮地を脱している彼は、その卓越した身体能力によって、グリムジョーが放つ必殺の一撃すら容易く回避――
――するのを自ら拒むかのごとく、その体勢を大きく崩すのだった
ウルキオラ「……っ!?」ハッ
間近に迫る『豹王の爪』の霊圧濃度が高すぎて、“探査神経”でも察知しきれなかった攻撃
ウルキオラの両脚と翼に浮かび上がり、出鱈目な方向へとその動作を支配していた“眼”
地面から掘り出され帰還したゾマリが、憤怒の形相でウルキオラを「視ていた」――
ゾマリ「私の“愛”をッ! 受けろッ! 受けろッ!! 受けろォォォォォッ!!!」
完全にバランスを崩し退避の機会を失ったウルキオラは、翼が死角となってゾマリの視線から逃れていた左腕を動かし、グリムジョーに向けて“黒虚閃”を放った
しかしそれは『豹王の爪』を打ち消すには至らず、逆に爪痕はそのまま“黒虚閃”を切り裂いてウルキオラへと到達する――
ウルキオラ「…………くそっ」
128 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 19:59:31.33 ID:JpW3JH9Z0
〜〜〜〜
虚夜宮・玉座の間
バラガン「不甲斐ない連中じゃのォ……たかが野良破面一匹相手に、十刃が半数がかりでこの体たらくか」
『認識同期』による情報伝達により、戦闘の一部始終を知ったバラガンが吐き捨てるように言う
ハリベル「……『たかが野良破面一匹』という言葉で済ませるには強すぎるだろう、あの破面の力は」
バラガン「フン、お前程度の目にはそう映ったかもしれんなァ」
ハリベル「……」
スターク「まぁいいじゃねーか、何はともあれ決着がついたみたいでよ」
バラガン「全く、出撃準備などと言うから何事かと思うたら、結局儂が出るまでもなかったか」
ヤミー「あーあ! 久々に全力で大暴れできるかと思ったのによぉ!! 最初っから俺に行かせてりゃよかったんだぜ藍染さんもよぉ!!」
スターク(おまえらが出張ったら捕獲どころじゃなくなるだろーが)
リリネット「けどほんと強かったねあの破面……もしあいつが崩玉でもっと強くなったら」
藍染「正に望むべくことだ」
玉座に座ったまま、藍染が静かに呟いた
藍染「現時点ですら、No.5以下の十刃たちと互角に渡り合うあの破面」
藍染「崩玉によって更なる力を得ることで、どれほどの境地に達するのか――実に興味深い」
129 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 20:02:39.27 ID:JpW3JH9Z0
【Epilogo】
虚夜宮・実験広間
東仙「――霊波に異常あり。空間の歪曲を感知しました
対象、間もなく『反膜の匪(カハ・ネガシオン)』を脱却する見込みです」
藍染「ああ」
市丸「あらら、もう解けてまうんですか。流石はヴァストローデやなぁ」
東仙「あれは本来、十刃相当の霊圧を持つ破面への使用は想定されていない代物だ
今回の捕獲対象は破面化こそしていないとはいえ、ヴァストローデ級大虚……むしろよく保った方だろう」
市丸「なんせ、捕まえるんにヤミーが本気出さなアカンかった位やからなぁ
ま、そない強い大虚やからこそ、ボクらがこうして勢揃いしとるワケやけど」
東仙「無駄口はそのくらいにしておけ、市丸――来るぞ」
言うと同時に、刀へ手をかける東仙
藍染は不敵な笑みを浮かべながら、亀裂が走る空間に視線を投げかける
次の瞬間、空間の断裂と同時に、一体のヴァストローデ級大虚が飛び掛かってきた
130 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 20:05:24.68 ID:JpW3JH9Z0
市丸「――射殺せ『 神 鎗 』」
ヴァストローデ「……っ!」
出現を察知していた市丸の斬魄刀が高速で伸びていき、大虚の喉を刺し貫く
だが、壁に磔にされた大虚の身体から、今度は無数の腕が溢れ出し、藍染たちに向かっていった
すかさず東仙が前へ出る
東仙「『清虫弐式・紅飛蝗』!!」
抜刀と同時に無数の剣閃が刀身から放たれ、迫りくる腕を次々斬り払っていく
ヴァストローデ「……っ、……ッ!」ギロッ
喉を刺され言葉にならない叫びをあげながら、三人の死神を睨みつける大虚
損傷した腕は見る間に再生していくが、続けて東仙が唱えた縛道の六十二『百歩欄干』によって今度は床に縫い付けられてしまう
藍染「超速再生持ちか。霊圧・戦闘力も申し分ない。ヴァストローデの水準に十分達していると言える」
131 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 20:07:05.55 ID:JpW3JH9Z0
ヴァストローデ「…………ッ!!」カッ!
すると今度は、縫い付けられた掌から床に向けて無数の“虚弾”が放たれた
広間の床にひびが走り、市丸たちの足場が崩れ始める
東仙「何っ!?」グラッ…
市丸「おおっと……!」グラッ…
ヴァストローデ「……!!」ゴォッ
床の崩落によって弱まった縛道を振りほどき、前方へ踏み込む大虚
突き刺さったままの『神鎗』によって喉から脇にかけてが大きく斬り裂かれるのも意に介さず、あえて身を断つことでその拘束から抜け出す道を選んだのだ
寸断されかけた身体を超速再生させつつ、大虚は未だ一歩も動かない藍染へ襲い掛かる
藍染「だが、それだけだ」
次の瞬間、並々ならぬ霊圧が大虚の全身を覆い、その場に押さえ付けた
132 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 20:09:28.51 ID:JpW3JH9Z0
ヴァストローデ「――!?」
藍染「縛道の九十九・第二番――『卍禁』」
空間から巨大な布が出現し、大虚を雁字搦めにする
藍染「初曲『止繃』――」
布を振りほどこうと暴れる大虚の身体は、さらに降り注ぐ無数の鉄串によって、完全にその場へ縛り付けられた
藍染「――弐曲『百連閂』――」
なおも拘束を脱しようともがく大虚の頭上に、轟音と共に巨影が迫る――
藍染「――終曲『卍禁太封』」
そう呟くと同時に、巨大な石柱が地面へ落下
大虚の姿は、石柱によって完全に圧し潰されてしまった
市丸「ひゃあ〜、こらまたえらい大袈裟な捕まえ方ですわぁ」
藍染「永くは保たないだろうが、ひとまず今はこれで事足りるだろう」
133 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 20:12:31.64 ID:JpW3JH9Z0
東仙「藍染様に縛道の奥義を使わせる程とは……けれど、これでまた十刃が完成に近づきましたね」
藍染「いや、この大虚を十刃に加えるつもりはないよ要」
東仙「なっ……」
驚く東仙に対し、藍染は淡々と語る
藍染「確かにこのヴァストローデは強いが、逆に言えば突出した強みを持ち合わせていない」
藍染「全体的な能力の水準は高いが、それだけならばウルキオラやスタークで既に事足りている」
藍染「故に、彼には十刃とは違う形で、我々の戦いに役立ってもらうとしよう」
市丸「違う形、言わはりますと?」
藍染「改造破面だ」
語る藍染の口元に、微かな笑みが浮かんだ
東仙「改造……メタスタシアや『ホワイト』のようにですか?」
藍染「ああ。“死神の肉体に寄生する虚”と“死神の魂魄をベースとした虚”、いずれも自然には発生し得ない特異性を、意図的に作り上げて完成した虚たちだ」
藍染「それを応用し、今度はこの大虚が破面化した後、我々の意図によってその帰刃を理想的なものへと作り変えてしまおうと思う」
市丸「理想的、ですか」
藍染「具体的に言えば、山本元柳斎の『流刃若火』――我らが最も警戒すべき斬魄刀を、ピンポイントに対策した能力を付与する」
134 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 20:15:27.49 ID:JpW3JH9Z0
東仙「『流刃若火』を……!?」
藍染「そう驚くことでもないだろう。斬魄刀への対策となる能力の付与は、既にメタスタシアで成功している」
藍染「ヴァストローデとして最低限の戦闘力だけを残し、残る霊圧全てを対『流刃若火』用の帰刃として一点特化させれば、理論上は十分可能だ」
東仙「僭越ながら、藍染様。ヴァストローデ級の大虚や破面に対しては、純粋な能力強化こそ何度も施してきましたが、帰刃そのものに手を加えて成功したケースは未だありません」
東仙「何より、浦原喜助の崩玉を我々の崩玉に取り込ませてまだひと月程度……完全覚醒には凡そ半年近くかかる見込みです」
東仙「流石に、そのレベルの改造を施すとなると、崩玉の完全覚醒を待つ必要があるかと……」
恐る恐るといった体で進言する東仙
そこへ、市丸が薄笑いを浮かべながら口を挟んだ
市丸「あっ……ひょっとして藍染隊長、何やまた企んどることでもあるんちゃいますかぁ?」ニヤニヤ
東仙「?」
藍染「ああ、睡眠状態の崩玉を瞬間的にだけ覚醒させる方法ならば、既に目算は立っている」フッ…
意味深な笑みを浮かべつつ、詳しいことははぐらかす藍染
そこへ、葬討部隊隊長ルドボーンが姿を現す
135 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 20:17:19.20 ID:JpW3JH9Z0
ルドボーン「お話し中の所、大変失礼いたします。現世へ偵察に送り込んだ破面もどき達が討伐されたとの報告がありました」
東仙「グランドフィッシャーが? 黒崎一護に倒されたか」
ルドボーン「いいえ。報告によれば、黒崎一護と近い霊圧を持つ別の死神に敗れたと」
藍染「成程、志波一心か」
東仙「奴が……ですが、あの男は既に死神としての力を喪失しているはずでは?」
藍染「さて、そもそも彼がどういった原理で力を失ったのかまでは、我々も関知していない事象だ」
藍染「何かしら、状況が変わったということだろう。志波一心か――あるいは、彼の息子を取り巻く状況が」
市丸「それやったら、ますますあの子の様子をきちんと探る必要があるんとちゃいますか?」
東仙「今度は葬討部隊か、霊圧遮断を備えた巨大虚を送り――」
藍染「いや、また返り討ちに遭って情報を得られないという事態は避けたい」
東仙の提案を押しとどめて、藍染はルドボーンに命じる
藍染「ウルキオラを呼んでくれるかい?」
136 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 20:18:49.24 ID:JpW3JH9Z0
〜〜〜〜
虚夜宮・第4の宮
黒腔(ガルガンタ)を開くウルキオラの背中に、声をかける者が居た
ヤミー「おーい、ウルキオラァ! どこ行くんだ?」
ウルキオラ「……お前には関係のないことだ、ヤミー」
ヤミー「そうケチケチすんなよぉ。さっき藍染さんから呼び出されてたろ? 俺も連れてけよ」
ウルキオラ「お前には関係ないと言ってるだろう。これは俺が受けた任務だ」
ウルキオラ「大体お前は、先日ヴァストローデの捕獲任務を終えたばかりだろう」
ウルキオラ「霊圧も、まだ完全には回復していないはずだ。余計な事をせずに大人しく休んでおけ」
ヤミー「固いこと言うなって、なぁウルキオラァ。
少し霊圧が戻ってきたところでよぉ、ちぃ〜っとばかし動きてぇんだよ」
ウルキオラ「……少し回復した程度でこれか
当分はお前の我儘に付き合わずに済むと思っていたんだがな」カツ…
ヤミー「ヘっ!」ニィッ
微かにうんざりした様子を示しながら、黒腔に足を踏み入れるウルキオラ
ヤミーがその後に続く
137 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 20:20:30.40 ID:JpW3JH9Z0
ヤミー「あーあ! にしてもよぉ、今になってまだヴァストローデ集めなんざするってことは、いよいよアーロニーロかザエルアポロの野郎辺りが落とされるのかぁ?」
ウルキオラ「さぁな。奴らの特性は破面の中でも特殊だ
第一期“刃”の生き残りに、一度“3ケタ”に落ちてからの復帰者――それが今更落とされるかは知らん」
ヤミー「ならよぉ、こないだオレが捕まえた奴はいったいどうするんだぁ?」
ウルキオラ「知らんと言ってるだろう。それを俺たちが考える必要などない。藍染様の命令ならば、ただ従うだけだ」
ヤミー「……へいへい」ムスッ
ウルキオラ「言っておくが、今回の任務はある人間の調査だ
お前が期待しているような大暴れをする命令は下ってないぞ」カツ カツ…
ヤミー「あぁ!? 何だそりゃ、つまんねぇな……お、だがよウルキオラ、もしその調査に邪魔な奴が居たら、ぶっ殺してもいいんだよなぁ?」ノッシ ノッシ
ウルキオラ「その点については特に命令を受けていない……好きにしろ」カツ カツ…
ヤミー「おっしゃ! で、調査する奴ってのは、いったい何なんだぁ?」ノッシ ノッシ
ウルキオラ「…………」カツ カツ…
ウルキオラの脳裏に、藍染から見せられたデータがよぎる
オレンジの髪にブラウンの瞳
大振りの斬魄刀を所持した、死神“代行”の人間――
138 :
◆lf37..NeaLUd
[saga]:2020/03/21(土) 20:23:04.74 ID:JpW3JH9Z0
ウルキオラ「……さあな」カツ カツ…
黒腔を抜け、現世の空に開いた出口へと到達する二体の十刃
全てを映すウルキオラの瞳は、多くの人間が生きる空座町を見下ろす
そして、相も変らぬ無感情さで言い放つのだった
ウルキオラ「俺の目には、取るに足らんゴミに見えたが」
BLEACH SS 【Cronica del Hueco Mundo】
〜Fin〜
139 :
◆lf37..NeaLUd
[sage saga]:2020/03/21(土) 20:27:36.95 ID:JpW3JH9Z0
以上で終了です
長らくお付き合いいただきありがとうございました
なお、本SSでは原作漫画、ファンブック、ノベライズ小説で触れられている設定を優先しています
それらで触れられていない設定や要素については、アニメやゲーム作品等も参考にしました
改めまして、最後までお読みいただきありがとうございました
それでは、HTML化依頼を出してきます
140 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/03/21(土) 21:15:32.44 ID:OQGhsPIE0
乙
か
141 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/03/21(土) 23:10:03.73 ID:CbTMhfZv0
師匠こんな所で何してんすか
142 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/03/22(日) 01:21:35.35 ID:VyLomI+bo
おつ
143 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/03/22(日) 16:38:42.52 ID:wgCvHuzro
面白かった!乙
やっぱブリーチ好きだわ
144 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/03/22(日) 21:40:25.97 ID:NxL+ZP7s0
乙ですわ
初期エスパーダを刃って表記するあたりガチ勢感ある
145 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/03/23(月) 01:10:56.00 ID:oWk+p+vC0
なかなか面白かった
乙でした
146 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/03/23(月) 12:30:25.25 ID:m9wypAN3o
これ見ると、教育体制がしっかりしてる死神側に勝つには
時間が足りなかった感がすごい伝わる。あと強化はするけど、基本放任だったのもダメよなぁ
147 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/03/23(月) 15:52:07.71 ID:yP6gBevDO
てっきり王虚の閃光の上位版が黒虚閃かと思ってた
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