【BLEACH】藍染「虚圏年代記」

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1 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 14:46:07.18 ID:JpW3JH9Z0
夜宮(ラスノーチェス)

無数の虚(ホロウ)たちが資材を手に、宮殿の修復にあたっている

虚1「柱の長さはこれでいいか?」

虚2「天井が傾いてるぞ、持ち上げろ!」


その喧噪を高みから見下ろす、二人の死神

いずれも隊長の証しである羽織を身に着けている

市丸「みんな、よぉ働きますなぁ」

東仙「この廃墟をまともな宮殿に造り直そうというのだ
   ここの虚に総出で作業に当たってもらわねば困る」

市丸「そらそうやけど、こないあっさり従ってくれるとは思いませんでしたわ」

東仙「従わざるを得んだろうさ……他ならぬ『虚圏(ウェコムンド)の神』とやらが、藍染様の傘下に加わる道を選んだのだからな」

事もなげにそう語る東仙

市丸は、どこまで本気か読み取れない飄々とした態度で続ける

市丸「いやぁ怖い王様やったなぁ。ほんま、よぉあないなモンを従わせられたわぁ」

東仙「上級大虚(ヴァストローデ)と言えども所詮は虚……藍染様の手にかかれば造作もない」

市丸「ほんに、怖いんは藍染隊長の方やわ――そう言えば藍染隊長はどないしはったんです?」

東仙「藍染様ならあの“大帝”――バラガンの所だ」

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2 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 14:50:02.84 ID:JpW3JH9Z0
【\】

藍染「――『刃(エスパーダ)』。それが、君の率いる直属戦闘部隊か」

眼下に集まる虚の群れを眺めながら、藍染が呟いた

バラガン「ああ。尤も攻め落とす敵軍が潰えて以来、半ば形骸化しとったようなもんじゃがなァ」

藍染「確かに、もはや虚圏にこの虚夜宮と比肩する程の勢力はないようだ
   小規模なコロニーや野良虚の集団程度の為に、部隊を再編する必要は無かったかもしれない」

藍染「だが、これからは違う」

藍染「いずれ尸魂界(ソウルソサエティ)と敵対する時の為――そして、我々がより高みへと到達する為にも、君の築き上げた部隊には新たな力を授けなければならない」

薄く微笑みながらそう続ける藍染に、バラガンは険しい表情を崩さず答えた

バラガン「……フン、ボスの好きにするがいいわい」

バラガン(「より高みへ」か……要するに、未完成の崩玉と破面(アランカル)化の研究として、儂のしもべ共を利用する腹じゃろうが)

藍染「さて――見た所、『刃』の大部分は中級大虚(アジューカス)や巨大虚(ヒュージホロウ)で構成されているようだな」

藍染「上級大虚も何体かは居るようだが、やはり数が少ない」

バラガン「上級大虚ともなると、素直に従う輩もそうは居らんからなァ
     徒に儂へ刃向かった挙句、下らん死に方をしていった者共の多いことよ」

吐き捨てるように言い放つバラガン

藍染「霊圧で下級大虚(ギリアン)に劣る巨大虚が含まれているのは、個を持たず意思疎通のできない下級大虚ではかえって兵になり得ないからか」

バラガン「そうじゃ。下級大虚なんぞはデカイ獣と変わらん
     領地に放っておけば賑やかし程度にはなるが――ああ、そういえば一体だけ居ったなァ」

藍染「ん?」

バラガン「単なる気まぐれじゃが、『刃』に加えてやった下級大虚が一体だけ居るわ。いや、下級大虚の出来損ないと言ったところか」
3 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 14:55:03.37 ID:JpW3JH9Z0
双頭の大虚を見た時に藍染が示したのは、驚きではなく興味だった

奇形大虚「ギィヤァァアア……!」ズリズリ

藍染「……成程、出来損ないとは的を射た表現だ」

藍染「体格こそ下級大虚だが、胴体部から頭部にかけて二股に分裂している」

藍染「辛うじて仮面の形状は通常の下級大虚から変化しているようだが、自我を保っては居ないようだ
   恐らく中級大虚への進化途中で何らかの異変が発生し、“ひとつの個”を取り戻すことに失敗した、と言った所だろう」

バラガン「じゃろうな。こやつは見ての通り頭が二つある大虚
     故にどちらも主人格となり得ず、幾ら虚を貪ろうとも進化の兆しがない獣よ」

バラガン「じゃが、飽くなき飢えに任せて獲物に喰らい付くその執念は大したものだ
     『刃』の草創期に見つけて以来、雑魚の殲滅役としてそこそこ重宝しとったわ」

藍染「面白い」

バラガン「あァ?」

訝しげなバラガンの視線を意に介さず、下級大虚へと向かう藍染

藍染「君が誇る『刃』の破面化――その先陣を、彼に切ってもらうとしよう」
4 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 14:56:10.12 ID:JpW3JH9Z0
バラガン「……どういう了見じゃ? 中級大虚や上級大虚を差し置いて、こんな出来損ないを破面化なぞ」ギロッ

軽断を咎めるように、バラガンは藍染をねめつけた

対する藍染は微笑をたたえたままそれに応じる

藍染「突然変異だからこそ、そこに更なる刺激を与えることで、未知の進化が発現する可能性もある」

藍染「それに退屈を嫌う君にとっても、この実験は興味を掻き立てられるものになると思うのだが、どうかな?」

バラガン「……」

苦虫を噛み潰したような表情は変わらないが、殊更に反論する気配も見せない

無言を承諾と判断して、藍染は下級大虚へと向き直った

藍染「さて、では始めるとしよう」スッ

奇形大虚「グボォ…グァアアァ…!!」

藍染「君はこれから新たな世界を知ることになるだろう
   だが恐れることはない。私が君を導こう、虚と死神との境界を越え、あらゆる苦痛からも解放された地平へ――」
5 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 14:58:39.48 ID:JpW3JH9Z0
〜〜〜〜

霊圧の揺らぎを察して駆けつけた東仙たちは、逆四角錐の結界に直面した

市丸「こらぁ……『倒山晶』やね」

東仙「一体何があった? バラガン」

結界の傍らに立つバラガンは、視線も動かさずに「さあな」と吐き捨てる

バラガン「見ての通りじゃ。ボスが出来損ないの破面と、この鬼道の中に入っとる」

東仙「出来損ない? 破面化の実験に失敗したのか? それに、何故結界を」

バラガン「知らん。少なくとも儂の目には失敗に映ったわ。放っておけば半刻も保たずに死んどったろうよ」

市丸「つまり藍染隊長は、死にかけとる破面を中でどないかしようとしとる、ゆうことかいな?」

バラガン「じゃから知らんと言うとるじゃろうが、ボスの考えなぞ。助けようとしとるのか、暴走する前にトドメを刺そうとしとるのか」

暴走という言葉を聞き、にわかに東仙の表情が険しくなる

東仙「暴走する気配があったのか? ならば何故お前はそれを止めようとしなかった?」

バラガン「ボスからそんな指令は受けとらんからなァ。それに、儂が動くより先にボスが動いたんだ、余計なことはせん方がよいじゃろう」フン

東仙「貴様……!」

刀に手をかける東仙

そんな彼をバラガンが無言のまま睨み付け――
6 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:01:54.64 ID:JpW3JH9Z0
「剣を納めるんだ、要」


東仙「!」ハッ

『倒山晶』が薄れ、中から藍染が姿を現す

バラガン「……無事なようで何よりじゃわい」

市丸「おかえりなさい、藍染隊長。で、調子はどないですか?」

そう問いかける市丸に応じるべく、結界から一歩踏み出す藍染

藍染「見ての通りだ――成功だよ」


そして、その後ろからもう一人


「……あぁ、生きてるのか」「コンナ清々シイ気分、初メテダヨ……」


胴体こそ二足歩行の人型を保っているが、頭部は透明なカプセルに覆われている

紫紺の液体の中では、球体状の顔が二つ、たゆたっていた

藍染「これが君たちの新たな世界だ――さぁ、名を聞かせてくれないか。我らの同胞よ」


「僕ラハ」「アーロニーロ」


「「アーロニーロ・アルルエリだ」」
7 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:05:35.93 ID:JpW3JH9Z0
【[】

虚夜宮・地下研究室

ザエルアポロ「……ふん」カタカタ、カタカタ

薄暗い部屋でディスプレイを凝視するザエルアポロは、招かれざる客が研究室内に入ってきたのを察知した

藍染「これは大した設備だな。まさか虚圏でこれほどの研究施設を築く者が居るとは、予想もしなかったよ」

ザエルアポロ「これはこれは……藍染様じきじきにお越しいただけるとは、身に余る光栄」

慇懃とも取れる態度で深くお辞儀をする

藍染「君のことはバラガンから聞いているよ。虚圏でも有数の科学者だとね
   本来であればもっと早くに会いに来たかったのだが、遅くなってしまった。すまないね」

ザエルアポロ「ますますもって勿体ないお言葉です、藍染様。
       僕の方こそ、何よりも優先して藍染様に謁見すべきところを……」

藍染「何、気にすることはない。『完璧な生命』とやらへ向けての研究に勤しんでいたのだろう?」

ザエルアポロ「……そこまでご存知とは。お心遣い、痛み入ります」

ザエルアポロ「ですが本当に、研究室にいらっしゃるのであれば事前にお知らせいただければ、あらかじめセキュリティトラップを解除しておきましたのに」

藍染「ああ、何、わざわざそんな手間をかけさせる必要もないと思ってね
   素晴らしい防衛機構だった。あれでは生半可な虚は入口を越えることすらできまい」

薄く微笑みながらそう語る藍染に対し、頭を下げたまま一瞬、苦い表情をするザエルアポロ

ザエルアポロ(無傷……どころか、霊圧を解放した気配すらない。それでこの最深部までたどり着くなんて……さすがにバラガンを制圧しただけのことはある)
8 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:08:05.10 ID:JpW3JH9Z0
藍染「さて、ザエルアポロ。私が死神と虚の魂魄境界を取り払い、更なる高みへ立つための研究をしていることは、既に知っているだろう」

ザエルアポロ「ええ、噂程度ですが。確か、崩玉と言いましたか」

藍染「そうだ。もっとも、私の持つ崩玉は未だ不完全でね。そこで、君の頭脳と技術をぜひ貸してもらいたい」

ザエルアポロ「滅相もない! 藍染様でも成しえない研究に、僕ごときがお役に立てるとはとても……!」

藍染「謙遜はいい。こちらも噂程度だが、君の頭脳と技術については私も聞き及んでいる
   それに、君の研究テーマである『完璧な生命』にとっても、崩玉を用いた破面化や虚の改造、強化は有意義なものだと思うのだが、どうかな?」

ザエルアポロ「破面化……正直に申し上げれば、前々から興味はありました
       ですが、それを行うにはまだ時期尚早と判断し、これまであえて触れてこなかった領域です」

藍染「それは、破面化が不可逆な現象だからかい?」

ザエルアポロ「さすがは藍染様……仰る通りです。破面化による、虚からの強化比率は現状、未知数と言えます
       勇み足で破面化したところで、大した覚醒に至らなかった場合、それはみすみす進化の手段を使い捨てる結果に他なりません」

ザエルアポロ「事実、僕自身も虚やギリアン級の大虚を破面化してみたことはありました……いずれも不出来な破面もどきにしかなりませんでしたが」

これについては、本心から残念そうに語るザエルアポロであった
9 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:09:32.79 ID:JpW3JH9Z0
藍染「成程、そこの画面に映し出されている無数のギリアンの群生地は、やはり君の実験場のひとつか」

藍染「だが確かに、尸魂界で把握している虚に関しての研究調査でも、破面に関しては数十年、数百年単位で大きな進歩が見られないと伝わっているな」

ザエルアポロ「はい、恥ずかしながら……仮面を剥ぎ取り力を得ようとする野良虚の大半は霊力流出が激しすぎて自滅
        運よく生き延びた個体も際立って霊的資質が上昇することはなく、精々が巨大虚に毛の生えた程度の強化に止まる有様です」

ザエルアポロ「ここに居るギリアン共や、僕が独自に創造し手を加えた虚共とてそれは同じこと……バラガンの元で研究を続けて久しいですが、未だ成果は芳しくありませんね」

藍染「……かつて尸魂界には、私よりも後に崩玉という答えにたどり着いたにも関わらず、真にそれを完成させてしまった男が居た」

ザエルアポロ「……それは」

藍染の言葉に、ザエルアポロの目の色が変わる

藍染「男はその崩玉を使い、私の崩玉の不完全さ故に死の淵にあった死神たちを、完璧に虚化させたのだ」

ザエルアポロ「死神の虚化とは……破面化よりも更に希少な例ですが」

藍染「その通りだ。『仮面を剥ぐ』という明確なトリガーがある破面化と異なり、死神の虚化には手を付けるきっかけがない」

藍染「私の創った崩玉も魂魄のバランスを崩す段階までは辛うじて成功したが、その後の霊圧を安定させる術を見出せずにいた」

藍染「だが、その男の崩玉は――崩壊しかけていた魂魄を固定し、『虚の面を装着したまま、死神としての命を繋ぎ止める』という離れ業をやってのけたのだ」
10 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:11:46.81 ID:JpW3JH9Z0
ザエルアポロ「……にわかには信じがたいですね。しかし藍染様が仰るのであれば、事実なのでしょう。それで、虚化した死神たちは?」

藍染「残念ながら、崩玉の開発者と共に姿を消し、現在も発見できていないな
   隊務の合間を縫って捜索はしているが、如何せん大っぴらに動ける立場でもないのでね」フッ…

薄く微笑む藍染に対し、ザエルアポロも愛想笑いを返す

ザエルアポロ「今こうして虚圏を訪れているのも、隊長としての職務の片手間でしょうに」

藍染「精々が半刻程度だよ、自由の利く時間などね」

ザエルアポロ「噂に名高い『鏡花水月』の能力で周囲を欺いたとしても、ですか?」

藍染「確かに私の斬魄刀は暗躍するのに適しているが、今はまだ功を焦る段階ではないのでね
   ひとまずは死神の虚化よりも虚の死神化――破面の完成体という側面から研究を進めようとしているのさ」

と、そこまで語ったところで、藍染は懐から何かを取り出した

ザエルアポロ「それは、まさか……!」ハッ
11 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:12:45.55 ID:JpW3JH9Z0
藍染「私は今、強い同志を必要としている。今後、尸魂界やそれに与する者と対立した時に、我が力となってくれる同志を」

藍染「ギン、要、バラガン……いずれも強力だが、護廷十三隊全てを相手取るにはまだ足りない
   バラガン直属の『刃(エスパーダ)』からも破面化の選抜は続けているが、それでもだ」

藍染「そして、多すぎる刃は振るう者の手に余る。虚夜宮が我が手に落ちた時、その大半が無力化していたように」

取りだした小さな玉――崩玉を見せながら、藍染は続ける

藍染「私は『刃』を再編し、新たな部隊を作るつもりだ。3人の隊長が離反した後、残る10人の隊長を相手取るに足る戦力――」


藍染「――『十刃(エスパーダ)』を」


ザエルアポロ「……そのようなお話をなさるということは、僕も十刃へ名を連ねる栄誉に授かれる、と?」

藍染の本心を探る素振り等微塵も見せず、あくまで謙虚な様子で伺いを立てるザエルアポロ

藍染「無論、そのつもりだ。君程の大虚を無為に飼い殺しておくのはあまりに惜しい――ただし、それには条件がある」

ザエルアポロ「成体として破面化すること……ですね」

藍染「察しが良い。だが私は、君が現段階での破面化を望んでいないことも理解している。そこで、だ――」


藍染「ザエルアポロ・グランツ。君にこの崩玉をひと月、預けよう。その間に君の力で崩玉を完成させ、君が望む形での破面化を果たしてくれ」
12 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:14:43.21 ID:JpW3JH9Z0

〜〜〜〜

東仙「よろしかったのですか、藍染様。いかに優れているとはいえ、大虚風情に崩玉を託すなど……」

藍染「何、彼が本当に崩玉を完成させるならば何も言う事はあるまい
   たとえ完成には至らずとも、虚圏に住まう研究者の知見と技術ならば今以上の性能向上は約束されるだろう」

市丸「あらら、ほんまは期待なんてしてへんのですか。人が悪いなぁ」ニヤニヤ

藍染「さて、これはザエルアポロにとっても好機だと思うのだが。現状、彼が自身の研究に行き詰まっているのも事実だ」

藍染「とはいえ崩玉は、死神である私が創り出したもの。加えて、中央四十六室が回収し大霊書回廊に封じられた研究資料――浦原喜助の崩玉の資料を基に改良も施されている」

藍染「虚に関する研究に精通しているとはいえ、ザエルアポロの手には余る可能性の方が、さすがに高いだろう」

東仙「そこに異論はありませんが……仮に奴が崩玉を完成させられず、それにより不完全な破面化を拒んだ場合、強硬手段を採る必要が――」

藍染「ああ、その心配は無用だよ、要」


藍染「ザエルアポロは崩玉を使うだろう。それが完成しているか否かに関わらず、だ」
13 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:16:01.02 ID:JpW3JH9Z0

〜〜〜〜

ザエルアポロ(……信じられない。認められない。許される筈がない)

ザエルアポロ(長きに渡り虚と進化の研究を続けてきたこの僕が、死神如きの創り出した崩玉とやらを、解析できない筈がない……!)

ザエルアポロ(……崩玉を手にしてから、直ちに研究に取り組んだ。物それ自体は確かに素晴らしい性能だった)

ザエルアポロ(虚の破面化実験も、失敗作だった破面もどきの強化実験も、今まで以上の結果を出した)

ザエルアポロ(なのに何故だ? 原理が分からない。構造が読み解けない。どう手を加えればより完璧に近づくのか、考えつかない……!)

ザエルアポロ(既に崩玉は、不出来なギリアン崩れを人型の破面――自我を得てからはアーロニーロと名乗っていたか――にする程の力を宿している)

ザエルアポロ(十分すぎる性能、疑いようのない性質。なのに、完成には程遠いことも実感している……その完成の為の方法が、未だに見つからないことも)

ザエルアポロ(あと時間はどれほどある? 至上の検体を手に何一つ成果を出せなかった僕を、あの男はどう処断する――?)


ザエルアポロ(――ひとつだけ、試していないことがある)


ザエルアポロ「ならば、それを成す以外の術はない、か――」
14 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:18:47.85 ID:JpW3JH9Z0

〜〜〜〜

爆発的な霊圧の変動が虚夜宮に響きわたったの感じ、藍染たちが地下研究室へ赴くと、そこには一体の破面が立ち尽くしていた

桜色の髪、眼鏡のような形状で残った仮面の名残

傍らには、何も映し出されていないディスプレイが鎮座している

藍染「――気分はどうかな」

入口に背を向けていた破面は、呼びかけを受けて振り返った

ザエルアポロ「実に清々しい気分です、藍染様――同時に、心底苛立たしい」

かすかに狂気を感じさせる笑顔で、言葉を続ける

ザエルアポロ「僕は崩玉を完成させることができませんでした。ですが、未完成の崩玉よって、僕の破面化は成功しました」

東仙「確かに、人型を保った状態の破面化です。霊圧も濃密……十刃へ加えるに相応しい逸材かと、藍染様」

藍染「それは無論だが、念のため確認をさせてもらおうか、ザエルアポロ」

薄く微笑みながら、藍染は尋ねた

藍染「ギリアンの群生地を滅ぼしたのは、“帰刃(レスレクシオン)”した君だね?」
15 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:21:18.64 ID:JpW3JH9Z0
東仙・市丸「!」

驚きの表情を浮かべる2人に対し、何も映し出されていないディスプレイを指し示して語る藍染

藍染「あの画面には以前、ギリアンが密集している地域の監視映像が映っていたが、今はそこに何も存在していない」

藍染「そして先ほどの急激な霊圧変化。あれは破面化した際のものではなく、破面が帰刃したが故の現象だ。もっとも今は既に解いているようだがね」

ザエルアポロ「恥ずかしながら、よく覚えていないのです、藍染様。破面となった僕は次に、己の力を計測しようと斬魄刀を解放しました」

ザエルアポロ「そこからの記憶は曖昧で……研究室を一度出て、無意識に群生地へと視線を向け……
        “虚閃(セロ)”を放ったのかもしれません、あるいは直接現地へ赴いたのかも」

藍染「何、気にすることはない。君は十刃に名を連ねるに相応しいだけの変化を――進化を遂げたのだ、ザエルアポロ」
16 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:22:48.59 ID:JpW3JH9Z0
ザエルアポロ「ええ、ええ、そうでしょう……僕は手を尽くしましたが、崩玉を完成できませんでした」

ザエルアポロ「ですので試しました、まだ手を付けていなかった実験、即ち僕自身の破面化を! 結果はご覧の通りです!」

ザエルアポロ「自分でも抑えられぬ程の霊力! 大虚の群れを容易く消し尽くすだけの強さ!
        霊圧レベルに限って言えば、あのバラガンにも劣りはしないと自負しております!」

市丸「何や、えらい気ぃ昂ぶってはるけど、言うてることは間違いやなさそうですなぁ、藍染隊長」

藍染「ああ、見事だザエルアポロ・グランツ。君自身が被験体となったことで得られたデータは、破面化の研究を更に推し進めるだろう」

藍染「同時に君という、強力な十刃を迎えることができた。これからも、君の力を使わせてもらうよ」

ザエルアポロ「身に余るお言葉です藍染様。この力があれば、これまで手を出しあぐねていたヴァストローデ級の大虚や特異な虚とて容易に捕獲できるでしょう」

恭しくお辞儀するザエルアポロの口調には、未だに抑え切れない興奮と狂気が入り混じっていた
17 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:24:31.19 ID:JpW3JH9Z0

〜〜〜〜

東仙「……さすがですね、藍染様。貴方の想定通りの結果となりました」

市丸「バラガンとはまた違った雰囲気の、剣呑な破面になってもうた気がしますわ。あら手綱握っとかんと危険ですよ」

藍染「さて、彼は実に優秀な破面だ。私が示唆せずとも、いずれ己を律する術を見出すだろう」

市丸「そら確かに、さっき研究室で会うた時には帰刃も解いて、霊圧そのものは落ち着いとったけど」

藍染「そこは重要な問題ではないさ、ギン。より本質的な問題への糸口にも、いずれ彼は至るだろう――と言っているんだ」

市丸「はい?」

東仙「藍染様?」

彼らの疑問に、しかしそれ以上答えることなく、藍染は玉座に着いて思案する


藍染(我を失う程の狂騒と共に、目に付く敵を虐殺する……強さという面で見れば、帰刃したザエルアポロは規格外だ)

藍染(だがそれは、彼が追い求めてきた『完璧な生命』の定義に、必ずしも合致するとは限らない)

藍染(その事実に直面した時、彼が選ぶ次なるアプローチこそが、私が真に彼へ期待しているものだ)
18 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:25:47.52 ID:JpW3JH9Z0
東仙「――ともあれ、ひとまずは既存の兵力から十刃を選抜し、その上でより強力な大虚の捜索に当たるとしましょう」

藍染「ああ。それにザエルアポロから提出された過去の研究資料と、今回の破面化に伴う実験データを使って、崩玉の性能を高める必要もある」

市丸「それやったら、検体になる虚や大虚がぎょうさん要りますなぁ」

東仙「ギリアンの群生地は地下にも存在しており、そちらはまだ残っているとのことだ
   それに崩玉による破面化という餌を使えば、力に飢えた虚共を釣り上げて検体とするのは容易かろう」

市丸「あらら、えげつない言い方しはるわ東仙隊長。ザエルアポロのこともそないに思とったんです?」

東仙「他意はないさ、市丸。それに奴に関しては、科学者としての興味から自身への崩玉の使用を敢行するだろうことは、藍染様も予想されて――」

藍染「ああ、惜しいな、要」

東仙「……?」

不意に発せられた藍染の言葉に、当惑した様子を見せる東仙
19 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:27:20.35 ID:JpW3JH9Z0
藍染「科学者が己が身を被験体とするのは、研究成果が確実に安全であると判断した最終段階だ」

藍染「それは、彼らにとって己が頭脳・精神・肉体こそが、あらゆる研究を進める上で最も重要な基点であるからに他ならない」

藍染「そこに万が一にもリスクが起こり得るとなれば、たとえ迂遠な方法になろうとも他の検体を使ってより精度を高めるのが常だ」

市丸「はぁ……? せやけど十二番隊長さんなんか、何やえらい身体弄ってはるような気ぃしますけど」

藍染「彼はあくまで自身が掌握できる範囲での改造しか施していないよ。肉体にも、斬魄刀にもね」フッ

そういう意味では――、と

何かを含んだような笑みを浮かべながら、藍染は呟いた


藍染「確証のない実験に自らを投じたザエルアポロの在り方を“科学者”と呼ぶものか否かは――私には判断しかねるな」
20 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:30:13.17 ID:JpW3JH9Z0
【Z】

虚圏・洞窟


開けたスペースに無数の虚が集まり、侵入者を取り囲んでいる

東仙「随分と統制のとれた動きですね……まるで精密な軍隊のようだ」

藍染「ああ。バラガンの軍隊レベルならまだしも、この程度の小規模なコロニーにこれだけ迅速な迎撃態勢を取られるとは、正直予想もしていなかったよ」

そう語りつつも、抜いていた刀を鞘へ納める藍染

言葉とは裏腹に、余裕の表情を変えないまま奥を見遣る

虚の集団に守られていた中心に居るのは、南瓜のような形をした大虚だった

大虚「私はこのコロニーの指導者、ゾマリ・ルルー。さぁ、名乗りなさい侵入者」

藍染「おっと、自己紹介がまだだったね。私の名は藍染惣右介、隣は東仙要だ」

ゾマリ「その姿、死神ですね? それも恐らくは隊長格
     このような虚圏の外れまで虚の討伐――等という理由ではないでしょう?」

藍染「理解が早くて助かるよ。我々は君を討伐するために来たのではない、迎えに来たんだ」

ゾマリ「迎え? 何を言っているのです?」

警戒を解かず問いかけるゾマリに、藍染は静かな口調で語りかける
21 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:31:50.95 ID:JpW3JH9Z0
藍染「君は、今居る世界に満足しているか?」

藍染「これほど巧妙に虚を統制する力を持ちながら、砂漠の辺境で小さな王国を築くに留まっている」

藍染「本来己が立つに相応しい場所と、この世界はあまりにもかけ離れている――そうは感じないか?」

ゾマリ「……ならば何だと?」

藍染「私は、この世界の在り方を変えようとしている」

藍染「死神、虚、破面――矮小な区分を超え、真にあるべき世界を創るために」

藍染「そのためには、強い力を持った同胞が必要だ」

藍染「私と共に歩み、共に新たな地平を目指せるような同胞がね」

平坦な、それでいて耳に残る力強さを持った声音で、ゾマリにそう語る藍染

ゾマリ「成程、理解できましたよ……」

藍染「そうか」


ゾマリ「……身の程も分からぬ愚者の戯言だとね!」
22 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:33:10.27 ID:JpW3JH9Z0
言い放つと同時に、周囲の虚たちが動き出した

ある者は捩じれた牙を剥き出し、ある者は歪に膨れた腕を振り回して、藍染たちに飛び掛かる

東仙「私がっ」サッ

即座に東仙が刀を抜き、襲い来る虚を斬り捨てる

しかし虚たちはそれに怯むことなく、無言で藍染たちに迫って行く

ゾマリ「たかが死神の隊長風情が、世界を知り尽くした風な口を利くなど傲りが過ぎる!」

ゾマリ「貴様ら死神には何一つ視えてなどいない! 世界の理も、あるべき形も!」

ゾマリ「私のこの50の瞳こそが、世を見据え、愚者と弱者を導く絶対の支配を成すのです!」ギュイィン…

ゾマリの体表に“眼”が見開かれた瞬間、霊圧の微かな揺らぎを察した東仙は、手近な虚を盾に身を隠した

一瞬遅れて、盾にされた虚の背に目玉を象った紋様が浮かび上がる
23 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:34:26.18 ID:JpW3JH9Z0
藍染「ほう、『視る』ことをトリガーに発動する能力か」

東仙「意思すら感じられないこの虚の軍勢も……奴の言葉を使えば完全に『支配』されているということでしょう」

ゾマリ「その通り! 私はこの瞳で視た対象を意のままに操り、支配できるのです!
     それこそ、死神も虚も人間も関係なく、すべての存在は等しく我が支配下となる!」

ゾマリ「ここの虚たちは元々、暴虐にとらわれた獣同然でしたが、頭を支配してやることでそれを制御し、正しく導いているのですよ」

ゾマリ「フフフ、今の動きは中々見事でしたよ、流石は隊長格
     ですが、そのような小細工が何度も通じるとは思いなさるな」ニヤニヤ

ゾマリ「さぁ剣を棄て、我が支配に身を委ねなさい。死神とはいえ命までは奪いません」

勝ち誇った様子で宣告するゾマリ

『支配』に落ちた虚やギリアン級の大虚までもが、続々と藍染たちに群がっていく


だが、藍染はそんな状況にまるで動揺することなく、笑みを浮かべて立っていた
24 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:36:21.40 ID:JpW3JH9Z0
藍染「さて、どうしたものかな。私が手を下すのは簡単だが――」

東仙「それには及びません、藍染様。ここは私が」スッ…

鍔にあしらわれたリングに指をかけ、シュルシュルと刀を回転させながら虚たちへ向かう東仙

ゾマリ「おやおや、主を守るために自ら進んで我が支配へ下るお覚悟かな?」ニヤリ

東仙「どうやらその目玉のすべてが節穴らしいな――」

不意に回転を止め、柄を両手で挟むように刀を構える


東仙「――卍解」


『  清 虫 終 式 ・ 閻 魔 蟋 蟀 』
25 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:37:54.65 ID:JpW3JH9Z0

〜〜〜〜

ゾマリ「……ハァ…ハァ…うっ、うぁあ……」ゼェゼェ

暗闇が立ち消えると同時に、傷ついたゾマリが姿を現した

全身に配された“眼”はすべて潰され、文字通り血涙が溢れ出している

そして南瓜型の中心部には、東仙の構えた斬魄刀が突き付けられていた

東仙「これで私を支配することはできなくなった
   虚たちに私を襲わせようにも、それより早くこの剣がお前の芯を貫くだろう」

ゾマリ「……じ、慈悲をっ……!」

東仙「ほう、これまで散々他者の意思を支配してきたお前が、いざ生殺与奪の権を握られれば命乞いか」

ゾマリ「ど、どうか……お慈悲をっ……どうかっ……!」ガタガタ

藍染「もういい、要」

刀を下ろさない東仙に対し、藍染が呼びかけた
26 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:39:20.02 ID:JpW3JH9Z0
東仙「藍染様――」

藍染「剣を納めるんだ。私は彼を赦すよ」

ゾマリ「お、おぉ……なんと慈悲深い……!」

歓喜の声を漏らすゾマリに、藍染は笑みをたたえたまま語りかける

藍染「手荒な真似をして済まなかった。その傷も後で癒すとしよう」

藍染「ただ、今一度私の言葉に耳を傾けてほしい」

藍染「私の目的のためには、多くの同胞が必要だ。尸魂界と対立するその時、共に戦えるだけの強さをもった同胞が」

藍染「ゾマリ・ルルー、君の『支配』は実に強力だ。その力、私の下で存分に奮ってはくれないか?」

問いかけつつ手を差し伸べる藍染に対し、ゾマリは――


ゾマリ「……思いあがるなァ!!」ギロッ!


胴体部に隠していた最後の“眼”を解放し、藍染をまっすぐに見据えた
27 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:40:57.41 ID:JpW3JH9Z0
東仙「!」

ゾマリ「言ったはずだッ! お前たち死神は傲りに塗れているとッ!!」

藍染の頭部に支配の紋様が浮かび上がる

ゾマリ「傲りは正さねばならないッ! ありもしない正義や理想に溺れ、虚を斬り捨てていく貴様らの傲りをなァ!!」

満身創痍でありながら高らかに咆えて、ゾマリは刀を納めていた東仙へと向き直る

ゾマリ「貴様の主は我が支配に堕ちたッ! そのまま操って貴様を倒し、その後で二人まとめて喰い殺してくれるッ!」

東仙「……私も言ったはずだ。『どうやらその目玉のすべてが節穴らしい』とな」

ゾマリ「なにをッ――」


藍染「こういうことさ」


支配されたはずの藍染が、ゾマリの指示もなく呟いた


藍染「砕けろ、『 鏡花水月 』」
28 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:43:30.75 ID:JpW3JH9Z0
ゾマリが最後に支配したのは、先刻東仙に斬り倒された虚の骸に過ぎなかった

本物の藍染は岩場に腰かけ、東仙とゾマリの対決を高みから見下ろしている


コロニーへ潜入した時点で抜刀していた藍染は、周囲を虚の軍勢に取り囲まれると同時に『鏡花水月』を発動していた

ゾマリは勿論、侵入者を逃さぬよう命じられていた虚たちも藍染から視線を外すはずがなく、完全催眠の発動条件を容易に満たしていたのである

その虚たちもまた、ゾマリが『閻魔蟋蟀』に封じられている間に、お互いを侵入者と誤認し同士討ちした末、既に全滅している


ゾマリ「なっ、バカなッ……これは一体……!?」

東仙「助かる最後の機会もふいにしたな」キンッ―

再び斬魄刀を握る東仙

もはやゾマリには使える“眼”も、“虚閃”を放つ霊力も残されていない

ゾマリ「うっ……あ、ああぁ……!」
29 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:44:59.10 ID:JpW3JH9Z0
藍染「――最後の機会だ、等と言った覚えはないが? 要」

ゾマリ・東仙「!!」

藍染はなおも悠然と笑みを浮かべたまま、ゾマリを見下ろして続けた

藍染「命乞いや不意打ちをしてでも敵を討ち、己の信念を貫こうとする
   むしろ好印象だ。安易に自分を売る輩よりも、よほど信用が置ける」

藍染「それは即ち、信念の下に私の支配へ下れば、最期まで私に忠誠を尽くすということに他ならないのだから」

ゾマリ「……ゆ、許して、下さるのですか……? ここまであなた方を殺そうとした私を、なおも拾っていただけると……?」

藍染「最初に言ったはずだよ。『我々は君を討伐するために来たのではない、迎えに来たんだ』と」フッ


ゾマリは恭しく平伏する

ゾマリ「は、はいっ……! あなたのように強く、聡明で、慈悲深い御方ならば、喜んで支配を受け容れましょうっ……!」
30 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:47:39.85 ID:JpW3JH9Z0
【]?】

「ああん? なんだお前ら」

気怠そうに目を開けて、巨大な怪物が藍染たちを見下ろす

虚夜宮から遥かに離れた場所にある、周囲を岩に囲まれた荒地に、藍染と市丸は来ていた

市丸「ひゃあ〜、こら大きいなぁ。何メートルあるんやろ」

藍染「ギリアンに匹敵する巨体だな。しかし、霊圧の大きさも並の大虚とは桁外れだ」

感心した様子で言いながら、藍染が怪物に声をかける

藍染「やあ、眠りを妨げてしまってすまない。君がヤミーだね?」

ヤミー「なんだぁ、俺のことを知ってるのかぁ?」

藍染「ああ。バラガンから話を聞いてやって来たんだ
   『虚圏の辺境に常識外れの図体をしたヴァストローデが居る』とね」

ヤミーの巨体にまるで動じることなく会話を続ける藍染
31 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:49:13.35 ID:JpW3JH9Z0
そこへ市丸が首を傾げながら呟く

市丸「しっかしホンマに居ったんやなぁ、大型サイズのヴァストローデ。普通、ヴァストローデて人くらいの大きさやないでしたっけ」

藍染「ああ。内に秘められた霊圧に半比例するかの如く、進化の度に体格が縮小していく――それが大虚の特徴のはずだが」

ヤミー「なにごちゃごちゃ言ってんだお前ら」ゴォ…

不意に、寝転がっていたヤミーが起き上がり、そして


ヤミー「邪魔臭え、死ねよ」ブンッ

なんの前触れもなく、その剛腕を振り下ろした


激震と共に、辺り一帯を土埃が舞う

ヤミー「あぁ?」

だが、手応えはない
32 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:51:32.48 ID:JpW3JH9Z0
市丸「いや〜おっかないわぁ。危うく叩き潰されるとこやった」

藍染「我々が何者か、目的は何なのか、それすらも興味はないということか」

ヤミー「チッ、ちょこまかしやがってめんどくせぇ。お前らの事なんざどうでもいいに決まってんだろ」グワンッ―

連続で腕を振りぬくヤミー

一撃ごとに岩場が砕け、地形が崩れる

市丸「いやいや、いくら何でも無茶苦茶すぎますわ。こんなん躱すんで精一杯や」ニヤニヤ

藍染「速さ自体はさほどでもないが、如何せん身体が巨大すぎるな
   半端なスピードでは、躱したつもりでも間合いの内から逃げ切れない」

ヤミー「うるせぇっつってんだろうが。おとなしく潰れて俺に喰われてろ!」

紙一重で回避を続ける二人に業を煮やしたヤミーは、その巨体をかがめると、勢いよく前方へと突進した

藍染「――破道の七十三『双蓮蒼火墜』」ゴォッ!

藍染の手掌から爆炎が放たれ、ヤミーの頭部に直撃する

だがその動きは止まらず、速度の乗ったタックルはそのまま大地にめり込んだ
33 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:53:30.32 ID:JpW3JH9Z0
市丸「――!!」ゴォ―

あまりの風圧に市丸が吹き飛ばされる

ヤミー「ぐぅ…う…うおおお〜〜〜〜…痛え〜〜痛すぎだぜ〜〜〜」

薄ら笑いを浮かべてヤミーが起き上がる

言葉とは裏腹に、大した傷は負っていない

ヤミー「へへ……捕まえて喰うつもりが、思わず全体重かけて粉々にしちまったかぁ?
     もう一匹は吹っ飛ばしちまったみてぇだし、探しにいくのもめんどくせ――」


その直後、地面についたままだったヤミーの右手が斬り裂かれた


ヤミー「……んなあぁっ!?」

藍染「素晴らしい」

その剛腕の下から、無傷の藍染が姿を現す

藍染「文字通り、圧倒的なまでの力だ。純粋な膂力だけでこれほどの境地に達する大虚が居るとはな」
34 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:55:35.57 ID:JpW3JH9Z0
ヤミー「て、てめえっ!!!」ブンッ

藍染「その絶大な霊圧も、特殊な能力や技に拠るものではなく地力から滲み出ているのだろう」ヒュンッ

踏みつぶそうと持ち上げた巨大な脚も、瞬歩で回避されると同時に斬りつけられる

ヤミー「ぐおぉっ……! な、なんだぁ…!? こんなゴミみてぇな奴が――」

藍染「だが、それは同時に君の限界でもある」

血振りするように刀を払いながら、藍染は淡々と語る

藍染「死神にせよ虚にせよ、霊圧での戦いに秀でた者は、徒に霊圧をひけらかしはしない」

藍染「平時は力を抑え、ここぞという時にそれを解放するのが戦い基本だ
   闇雲に力を解放することは霊力の浪費であり、揺れ幅の大きい不安定な霊圧は付け入る隙を生み出す」

藍染「君がまさにそれだ、ヤミー。その巨体が力を抑えた状態であるならば確かに脅威と言える
   だが惜しいことに、君は自らに備わった膨大な霊圧を制御しきれておらず、ただ放出し続けているに過ぎない」フッ

ヤミー「クソがぁっ!!」ギュイィン…

余裕の笑みを浮かべる藍染にヤミーは激昂し、その口を大きく開いた

高濃度の霊子が口元に集約され、赤い閃光が弾ける
35 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:57:18.79 ID:JpW3JH9Z0
ヤミー「消し飛びやがれっ!! “虚閃”っ!!」カッ

極限まで高められた必殺の光線が解き放たれる――


その瞬間、何かがヤミーの口内を直撃した


ヤミー「グエボォッ――!?」

同時に“虚閃”が暴発し、ヤミーの頭部を巻き込んで爆発を巻き起こす

ヤミー「グっ…アッ…ウェ……な、なにがっ……!?」

今度は演技でなく、本気で悶えながら辺りを見遣るヤミー

直後、ヤミーの肩に鋭い一撃が突き刺さった

ヤミー「うおっ!! ぐ、ど、どこだァ!?」ギロッ!

藍染「さて、君の目の届く範囲に見つかるかな」

笑みをたたえたまま、藍染は混乱するヤミーを見上げている
36 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 15:59:21.52 ID:JpW3JH9Z0

〜〜〜〜

市丸「――いやぁ、それにしてもほんま大きいなぁ。これだけ離れてもよう見えますわ」ニヤニヤ

藍染とヤミーが戦っている荒地から、離れた場所に位置する丘で、市丸ギンはそう呟いた

吹っ飛ばされた影響で多少の傷は負っているものの、いずれも軽傷で済んでいるようだ

その手には、標準的な斬魄刀よりも短い、脇差サイズの刀が握られている

市丸「はてさて、ボクなんかが手助けせんでも藍染隊長やったら問題ないやろうけど……隊長のピンチに何もせぇへんかったら後で東仙隊長に怒られてまうしなぁ」スッ…

その脇差を胸の前で構え、この距離からでも視認できるヤミーの巨影へと向ける

市丸「なんや一方的でいじめてるみたいやけど、堪忍してなぁ――」


市丸「 ――『 神 殺 鎗“ 舞 踏 連 刃 ”』」
37 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 16:01:38.16 ID:JpW3JH9Z0

〜〜〜〜

ヤミー「ぐっ、クソォっ! 邪魔くせぇっ!! そっちかっ!? ゲフゥッ!!」

目にも止まらぬ速さで繰り出される突きの嵐に曝されるヤミー

突きの放たれる方角から使い手の位置は見当がついたものの、“虚閃”のエネルギーを溜める余裕すら与えられず反撃のしようがない

藍染「持て余した霊圧とその巨体が仇となったな、ヤミー
   霊覚でも目視でも、遠距離から君を捕捉することは容易い」

藍染「近距離戦ならばその巨体を暴れさせるだけで大抵の相手を葬れるだろう
   だがこの距離からこの速さで放たれる連続攻撃に対して、君に成す術はあるまい」

ヤミー「グゥ…ち、ちくしょう……てめぇらみてぇなゴミに、この俺がッ……!」ズシン

身体を丸め、連続攻撃に耐えるヤミー


本来、ヤミーを怯ませられる手段を持つ敵は多くない

苦手とする遠距離からの攻撃であっても、一撃でヤミーに致命傷を与える程の技であれば発動に何らかの制約かタイムラグが発生する場合がほとんどだからである

かといって牽制程度の威力しかない飛び道具であれば、持前の強靭な肉体で怯むことなく攻撃を受けきれる

そしてどちらの場合であっても、極大の破壊力と攻撃範囲を持つヤミーの全力による“虚閃”で返り討ちにしてきたのだ

「高威力」と「射程の長さ」に加え、間隙なく攻撃し続けられる「速度」までを備えた卍解と対峙するなど、初めての経験であった
38 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 16:04:13.75 ID:JpW3JH9Z0
藍染「縛道の七十七『天挺空羅』」ゴォ…

藍染『攻撃を止めてくれ、ギン』

途端に、ヤミーを襲っていた猛攻が収まる

全身から血を流し荒く息を吐くヤミーに、藍染が語り掛けた

藍染「さて、そろそろ話を聞いてもらえるかな?」

ヤミー「……ハァ…ハァ……ぐっ……!」

藍染「我々は君を征伐しに来たわけではない。君の力に魅かれてここを訪れたんだ」

ヤミー「クソ…クソッ……!!」

藍染「破面、というものについては知っているね?
   彼らは自らの能力を斬魄刀に変換することで力を抑え、制御することに成功した虚だ」

ヤミー「……! ……ッ!」

藍染「尤も我々が知る限り、独力で完璧な破面化を成し遂げる虚は少ない
   死神と虚の境界という理を、そう容易くは覆せないということだろう」

ヤミー「……せぇ…」

藍染「だが、我々ならば君を」


ヤミー「うるせぇっつってんだよクソゴミがぁっ!!!」バッ
39 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 16:06:06.62 ID:JpW3JH9Z0
叫ぶと同時にヤミーの拳が煌き、霊子の紅弾“虚弾(バラ)”が藍染へと降り注いだ

すぐさま“舞踏連刃”が攻撃再開するが、ヤミーは怯みながらも市丸の居る方へ向けて続けざまに拳を振るい、“虚弾”を数発放つ

遠くで爆音が響き、攻撃が止んだ

ヤミー「どいつもこいつもっ! ごちゃごちゃごちゃごちゃうざってぇんだよ!!」

激昂しながら足元を睨むヤミーの耳に、土煙の向こうから詠唱が聞こえてきた


藍染「――滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器」


ヤミー「好きに寝て、喰ってっ! うぜぇ奴をブチ殺して好きに生きてんだよ俺はっ!!」ギュイィン…


藍染「湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き・眠りを妨げる」


ヤミー「俺の霊圧なんざっ! てめぇらブチ殺すためならいくらでも垂れ流してやるよっ!!」カッ


藍染「爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形」


再びヤミーの口内に霊子が収束したかと思うと、瞬く間に高濃度のエネルギーが形成されていく

ヤミー「これで終わりだゴミ野郎っ!! 跡形もなく吹き飛びやがれっ!!」ゴォォ!

それは彼の持つ膨大な霊圧を躊躇いなく注ぎ込んだ、超高密度の力の奔流であった


藍染「結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ――」


ヤミー「 “ 虚 閃 ”ッ!!!」
40 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 16:08:02.34 ID:JpW3JH9Z0
「ワンッ!」


ヤミー「ッ――!?」


発射の刹那

ヤミーの視界の隅に映ったのは、捕獲してきた鳥状の小型虚を放って嬌声を挙げる、小さな犬型虚の姿だった――


轟音が収まった後、大地には天災を思わせるような破壊の爪痕が残された

特大の“虚閃”の射線は、藍染をわずかに逸れている

藍染は、霊子の奔流をすべて吐ききったヤミーを無表情で見上げ、そして


藍染「――破道の九十“ 黒 棺 ”」
41 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 16:10:51.02 ID:JpW3JH9Z0

〜〜〜〜

市丸「――あらら、こらまたえらい派手にやらはったなぁ」

藍染「戻ったか、ギン。途中で援護が止まったから心配したよ」

市丸「いや〜すんませんでした
   何や、えらい速い弾が急にポンポン飛んでくるもんやから、驚いて足踏み外していまいましたわぁ」ニヤニヤ

市丸「それより、藍染隊長の方こそ大丈夫ですかぁ?
   遠目にも洒落にならへん威力の“虚閃”やったけど」

藍染「ああ、心配はいらない。偶然、ヤミーの攻撃が外れてくれたのでね」チラッ

見遣る先には、満身創痍のヤミーと傍に寄り添う犬のような虚の姿が

藍染「どうやらあの虚に気を取られて、照準がブレたらしい
   流石にあの“虚閃”を受けていたら私とて無事では済まなかったろう。幸運が味方したようだ」

市丸「そない言わはって、どこまでホンマなのかわかりませんわ、藍染隊長のことやし
   案外、あの“虚閃”を喰ろうても平気な顔して片手で捌きよるんちゃいますかぁ?」ニヤニヤ

市丸「そもそも藍染隊長は意地が悪いですよぉ、今回かて『鏡花水月』を使うたらもっと簡単やったろうに」

市丸「わざわざ普通に戦って、その上で負かすなんて反則みたいな強さや」

藍染「なに、単に完全催眠で手玉に取るだけでは意味がないからね」

斬魄刀を納め、薄く微笑みながら、ヤミーのもとへ近づく藍染

藍染「技術を有する者には技術で、能力に長じる者には能力で
   力や霊圧を誇る者にはそれを凌ぐ力と霊圧で応じ、捻じ伏せる」


藍染「そうして初めて、彼我の力の差を理解してもらえるんだ」
42 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 16:13:58.10 ID:JpW3JH9Z0
[V]

虚圏・洞窟

ウナギのような姿をした巨大霊蟲が、とぐろを巻いて眠っている

とぐろの内側には、霊蟲にもたれて眠るヴァストローデの姿があった

ネリエル「ぐぅ…すぅ……ん…バワバワ、蒲焼にしたら……何人分…むにゃ……」

ペッシェ「やれやれ、また物騒な夢を見ておられるな」

ドンドチャッカ「ネリエル様はほんとに食いしん坊でヤンスなぁ、ペッシェ」

その様子を、洞窟の入り口で二体の虚が守っていた

ペッシェ「ああしてお眠りになられている姿は麗しいのに、ひとたび腹を空かせればドンドチャッカも裸足で逃げ出す大食いとは」

ドンドチャッカ「オラもともと裸足でヤンスよ」

ペッシェ「文字通りにとらえるな……ん?」ピクッ

軽口を叩きあう二体だったが、不意に細身の方の虚――ペッシェが外を見遣った
43 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 16:15:08.96 ID:JpW3JH9Z0
ドンドチャッカ「どうしたでヤンス? お腹が痛いなら行ってきて大丈夫でヤンスよ」

ペッシェ「いやそういう雰囲気じゃなかっただろ今! ……見ろ、ドンドチャッカ」クイッ

ドンドチャッカ「へっ?」

ペッシェ「……何者かが近づいてくる」

身を屈め、岩場に隠れながら言うペッシェ

ドンドチャッカも大柄な肉体を縮こませる

ドンドチャッカ「ほ、虚でヤンスか!?」キョロキョロ

ペッシェ「いや、ひとりは格好からして恐らく死神だ。しかし他は……妙な霊圧だな」ジッ

視線の先には、洞窟へ向かってくる三人の人影があった

ドンドチャッカ「どどど、どうするでヤンスかペッシェ!? もし悪いヤツだったら……」

ペッシェ「とりあえず、ネリエル様を起こすのが先決だ。逃げるにせよ戦うにせよ、あの方が眠られていては話になr」

ドンドチャッカ「危ないでヤンスペッシェェェェ!!」ドーン!

ペッシェ「グェホォッ!?」

突如放たれたドンドチャッカのタックルをもろに喰らい、勢いよく吹っ飛ぶペッシェ
44 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 16:17:24.46 ID:JpW3JH9Z0
ペッシェ「ゲホッゲホッ……ちょっ、いきなり何を――!?」

見ると、先ほどまでペッシェの立っていた場所に、鋭い棘のついた虚の剛腕がめり込んでいるではないか!

ペッシェ「あれは……巨大虚(ヒュージホロウ)!? バカな、いつの間にこんな近くまで」

ドンドチャッカ「大丈夫でヤンスか? 間一髪だったでヤンス!」

ペッシェ「あ、ああ、あやうくお前のタックルで意識が飛ぶところだったぞ……ってそんなことより!」

巨大虚「…………」ブゥン

地面から腕を抜いた巨大虚は、再びペッシェたちへ向かって突っ込んでいった

ギリアン程ではないにしても巨大虚の体躯はアジューカス級の大虚に匹敵する

体格ではほぼ互角のドンドチャッカの身体に、巨大虚の拳がめり込んだ

ドンドチャッカ「あいたたたっ! 何するでヤンスか!」グイッ

巨大虚「!!」

だがドンドチャッカは怯むことなくその腕を掴み、難なく巨大虚を担ぎ上げ壁面へと叩きつける

即座に反撃しようと動く巨大虚だったが、続けてペッシェの口吻から噴出された潤滑性の液体によって身動きを奪われ、起き上がれずに地面を這い回る結果となった

巨大虚「グ、ウゥ……!!」ヌルヌル
45 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 16:19:04.70 ID:JpW3JH9Z0
ペッシェ「よし、今だドンドチャッカ!」

ドンドチャッカ「喰らうでヤンス! 必殺・ドンドチャッカプレ〜〜〜ス!!」ドーン!

巨大虚「グゲェッ!!」

ドンドチャッカの全体重を乗せたボディプレスが決まり、あえなく潰れる巨大虚

ペッシェ「ふぅ……我ながら見事な対処だった。そうは思わんかねドンドチャッカ?」

ドンドチャッカ「そんなことよりヌルヌルする汁がちょっとかかっちゃったでヤンスよ! どうしてくれるでヤンスか!」

ペッシェ「お前そんな汚いものみたいに嫌がるなよ……!」


藍染「成程、霊圧を消せたところで所詮は急ごしらえ。大虚に率いられる虚相手では歯が立たないか」


ペッシェ・ドンドチャッカ「「!!」」
46 : ◆lf37..NeaLUd [saga]:2020/03/21(土) 16:21:05.69 ID:JpW3JH9Z0
いつの間にやら洞窟の入り口に現れた死覇装姿の男――藍染惣右介は、巨大虚の骸を見遣って呟いた

ペッシェ「なっ、き、貴様いつの間にっ!?」


「やれやれ、甘い質問だな。いや、甘いのは認識の方か――まるでチョコラテのようだ」

「あんなでっかい音立てて巨大虚と戦り合ったら、居場所教えてるようなモンでしょ」


ドンドチャッカ「ペ、ペペ、ペッシェ……!!」アワアワ

ペッシェ「囲まれてるっ……!?」

藍染の他に2体、人型を保った破面が洞窟内に侵入している事態に、ペッシェたちは動揺する

藍染「安心してくれ、我々は君たちに危害を加えに来たのではないよ。ドルドーニ、チルッチ、臨戦態勢を解くんだ」

ドルドーニ・チルッチ「「はっ!」」

ペッシェ「い、いったい我らに何の用だ!? さっきの巨大虚も貴様らの仕業か!? てか死神かっ!?」

藍染「フッ、少し落ち着いてくれ。私はただ、この洞穴の主に話があって来ただけだよ」

ドンドチャッカ「あ、あるじ……」
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