少女「お兄、すき」男「そうか」その2

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102 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/04/13(月) 08:16:58.52 ID:uGTOhtcfO



ゴロツキ「居たぞ、あれだ」



「あの女、ターゲットの一人っすね」

ゴロツキ「おう。あの忌々しい傭兵の仲間だそうだ。よくここまで逃げ回れたもんだが…多勢に無勢だ」

「ぐひっ…」ニヤニヤ

「そばで死んでる汚ねぇじじいはなんだ?」

ゴロツキ「ねーちゃんよぉ、選ばせてやる」

ゴロツキ「そこのじいさんみてぇにくたばるか、大人しく投降して俺らの玩具になるか」

女盗賊「……」

女盗賊「…お前ら…」

ザッ

女盗賊「生きて帰れると思うな」ギン

ゴロツキ「あ?まさかやる気かよおい。周りが見えねぇんか?」

ゴロツキ「俺ぁな、奴に散々コケにされて苛々が溜まってんだ。その綺麗な顔、原型を留めてるといいなぁ…?」

女盗賊「……」ギリッ...





「今だ、かかれ!」





「「「おおおぉ!」」」ダッダッダッ!

「なんだこいつら…!?」

「ぐひぃ?」

キンッ キン、キンッ

ザシュッ!

「ぐぁああ!」

女盗賊「…?」

青年「女盗賊さん!無事ですか!」タッタッ

女盗賊「あんた…え、なに?」
103 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/04/13(月) 08:17:45.05 ID:uGTOhtcfO

青年「彼らは、元々国の騎士団員だった人たちです。先導しているのは近衛騎士団長」

団長「私に続け!この穢れを国から一掃しようぞ!」

オー!

青年「師匠に言われて呼びに行ったんですよ。不当に解雇された兵達の愛国心を呼び覚ましてこい、って」

青年「最初に保護したのは町娘さん家のお二人でしたけどね」

青年「……でも、遅かったみたいだ」



老師「」



女盗賊「…ウチも行く」

青年「ダメですって!師匠がやられる程の相手がいるんです、戦闘は本職の人に任せましょう!」

女盗賊「どこの世界に親殺されて黙ってる人間がいんのさ!止めるってんならあんたでも容赦しないよ!」

青年「もしあなたが死んだら師匠の意志は誰が継ぐんです!?」

女盗賊「っ」

青年「師匠の一番弟子のあなたが居なくなってしまったら…師匠の残したものが、本当に消えてしまうんですよ」

女盗賊「……」

青年「僕だって悔しいです…こんな形で師匠を失うだなんて信じたくありません…」

青年「…だけど、今僕らがするべきは憎しみに駆られて命を投げ打つことでは、ないんです」



団長「はぁっ!」ズバッ

ゴロツキ「どうしていつもいつもこう邪魔が入りやがる…!」ガキン!



女盗賊「……ちくしょう……」

女盗賊(………)

女盗賊「……」ポロ..ポロ..

青年(……)




104 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/04/13(月) 08:19:18.68 ID:uGTOhtcfO
ーーーーーーー

総裁「あぁ…やっと相見えることが出来ましたね、男」カツ..カツ..

男「……」

薬屋「…あれは?」

男「…血吸いの頭領だ」

総裁「貴方に手を出すなと言っておいたのですが」

鉤鼻男「」

総裁「興味をそそられない死に様です。思索の価値もありませんね」

男「お前は、確実に屠ったはずだが」

総裁「あれですか?影武者ですよ」

総裁「あんな場所に閉じこもっていては、人の死に様に立ち会うことが出来ないじゃないですか」

総裁「ずっとずっとずーっと…会いたかったのです」

総裁「貴方の妻子を手にかけ、その美しい死に様を見てから、男、貴方が息絶える瞬間を見たくて見たくて…今日までこの疼きを抑えてきたのです」

総裁「ですが…もう我慢しなくていい…」ホゥ...

薬屋「男の家族を殺したのは、そこの鉤鼻男じゃないのか?」

総裁「確かにこの木偶による見せしめでしたね。私は退屈しのぎに同行してみただけでしたが」

総裁「最高の選択をしました」ニコ

男「…それで、俺を追い続けてきたのか」

総裁「はい。私は、少し先の出来事を見ることがあるのですが、結末の分かりきったゲーム程つまらないものはありません……しかし、人の死は別でした」

総裁「それだけは全く予測の出来ない、この世の神秘とも言える現象」

総裁「男、貴方の死を見届けることで私は、己が生涯最上の快感を得られるのです…!」

総裁「全快の貴方に抵抗して頂けないのは少々残念ですが、いっそ一思いに終わらせるのも悪くありませんね」
105 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/04/13(月) 08:20:51.77 ID:uGTOhtcfO

薬屋「…男、私も」

男「いや、そこで見ていろ」

男「……」

フッ(目を閉じる)

総裁「感動しますね。貴方も同じ気持ちでしたか」

総裁「それでは……」ジャキ



シュタタタッ



男(ここで全てを終わらせる)



総裁「」シャッ



男(もう、繰り返さない為に──)





──ザシュッ




106 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/04/13(月) 08:21:40.63 ID:uGTOhtcfO
ーーー城内 パーティールームーーー

国王「では、本国の秩序と平和が守られた事、そしてそれを成し遂げてくれた英雄達に」

国王「乾杯」

「「「乾杯!」」」



〜〜♪

ワイワイ



少女「」オロオロ

女盗賊「ほら、少しは落ち着いたら?少女ちゃんも主役の一人なんだから」

少女「でも…」

女盗賊「この肉食べる?美味いよ」スッ

少女「う、うん」



貴族1「いやはや、聞きましたよ。彼らを匿い、国を取り戻す手助けをなさっていたこと!」

町娘父「いえ、私はそんな大層なことは」

貴族1「それに貴方の娘さんの勇敢さ!是非うちの息子の嫁に来て頂きたい!」

貴族2「抜け駆けはいけませんぞ!あなたのために来て下さったのではありませんからな」

町娘父「ははは…」

町娘「」ニコニコ



少女「……あの」

少女「お姉は…?」

女盗賊「ん?男のとこだよ。ここ数日ずっとね」

女盗賊「あいつが目覚ますまで、付きっきりなんだろうさ」

少女「……」

少女「私、向こうの料理も取ってきます」

女盗賊「ん。落とさんようにね」

テッテッテッ

女盗賊(少女ちゃん、戻ってきたと言っても、男と出会う前の記憶しか残ってないなんて)

女盗賊(ウチにもなんとなく余所余所しいし、肝心の男は生き残ってた血吸いの頭と相討ちで昏睡中…)

女盗賊「……ウチも、外の空気でも吸おうか」




107 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/04/13(月) 08:22:34.27 ID:uGTOhtcfO
ーーーバルコニーーーー

女盗賊「……」

女盗賊「」クイッ

女盗賊「…美味しくはない」

女盗賊「………」

青年「隣、いいですか」

女盗賊「……」

青年「……」

青年「師匠、血吸い四幹部の一人だったみたいですよ」

青年「一人も殺さないことで有名だったとか…」

女盗賊「……」クイッ

女盗賊「ウチにとっちゃ、今でもお調子者のセクハラじいさんよ」

青年「…師匠は、僕が弟子入りしてからあなたの話ばかりしていたんです」

青年「やれ生意気な口を聞くようになった、昔の素直さが見る影もない、他にも色々」

青年「ですがあなたのことを話している間はずっと、楽しそうにしていましたよ」



ーーーーー

老師「──お前さんを育てるのは……面倒じゃったが、それなりには楽しかったわい……」

ーーーーー



女盗賊(……)

青年「…ですから、その…」

青年「女盗賊さんも、また前みたいに…」

ガシッ

青年「え?」

ワシワシ

青年「うわわ」

女盗賊「誰が落ち込んでるって?」

女盗賊「一丁前にウチを慰めてるつもりなら、まだまだだね」

女盗賊「ウチには爺の意志を受け継ぐ義務があんでしょ?…青年、あんたの修行はウチが続けるから」

青年「はい!?」

女盗賊「ウチは爺みたく甘くないよ。覚悟しとき?にししっ」

女盗賊(あんたのこと、任されちまったからね)

「女盗賊様、青年様、ここにいらっしゃいましたか」

女盗賊「何か用?」

「王がお呼びです」




108 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/04/13(月) 08:23:32.23 ID:uGTOhtcfO
ーーーーーーー

国王「我が国を窮地から救ってくれた英雄諸君には、相応の礼をしなければなるまい」

国王「出来うる限りの望みは叶えよう。皆の者、言うてみよ」

町娘父「えぇ、王様。私共はですね、宿の改装のために少しばかりの援助を──」

町娘「爵位と領地を頂きたく思います」

町娘父「!?」

ザワザワ...

町娘父「な、何を…!?」

国王「ふむ…その心は?」

町娘「はい。私、夢が出来まして」

町娘「いつか自分の店を拡げ、国中に名を轟かせるような宿を経営してみたいのです」

町娘(そして誰よりも良い女になって…見返してあげます、男さん)

町娘(あなたの逃した魚は大きいですよ)

国王「…強い目をしておる。良いだろう、後日、正式な爵位とそれに付随する領地を分け与えよう」

町娘「ありがとうございます」

町娘父「」ボーゼン
109 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/04/13(月) 08:24:09.72 ID:uGTOhtcfO

国王「そちらのお嬢さんは何が欲しいかな?」

少女「え…私は…」

女盗賊「何でも好きなものくれるって」

少女「そんなこと言われても…」

少女「…じ、じゃあ」

少女「お姉と、私を…もう、頼らないで下さい」

少女「それだけです…」

国王「…承知した」

国王「そなた達に干渉しないこと、ここに誓おう」

女盗賊「次はウチだね」

女盗賊「ねぇ王様、新大陸の開拓権利って貰えるの?」

「新大陸だって!?」

「初耳だ…」

国王「近いうちに発表するつもりであったが…それは難しい」

国王「既に他国との共同出資が決まっておってな。すまぬが全権移譲は出来ないのだよ」

女盗賊「えー、何でもいいって言ったのに?」

女盗賊「ま、いいよ。分かってたし」

女盗賊「んじゃあさ、葡萄酒ちょうだいよ」

国王「む?葡萄酒ならそなたのテーブルにも出ておるぞ」

女盗賊「違う違う」



女盗賊「寝かせてないやつね」




110 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/04/13(月) 08:25:08.19 ID:uGTOhtcfO
ーーー町娘の宿屋ーーー

少女「……」テクテク

少女「……」テクテク



ーーーーー

女盗賊「──これ、持っていきな。男が好きだった酒」

女盗賊「──手ぶらよりはお姉さんとも話しやすくなるかもしんないしね」

ーーーーー



少女「……」

少女(……)



コン、コン



少女「………」

「誰だ?」

少女「私、だよ」

「………」

少女「………」



キィ...



薬屋「……」

少女「……」

少女「…あのね、お見舞い持ってきたの…男さんに…」

薬屋「………」

薬屋「…女盗賊の差し金だな。あいつは、本当に…」

少女(……)

少女「ごめん。私、余計なことしてるよね…」

薬屋「そんなわけあるか。入っていけ」

少女「!…うん」



パタン


111 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/04/13(月) 08:27:32.70 ID:uGTOhtcfO

少女「お姉、これ」

薬屋「葡萄酒か」

薬屋「おい男、あんまり寝ているとこいつの味も変わってしまうぞ」

男「」

少女(男さん…昔少し見たことがあった。お姉の長年の想い人…)

薬屋「…妹、すまなかった」

少女「お姉は謝らなくていいんだよ」

薬屋「……」

少女「女盗賊さんに全部聞いたよ。私がどうなってたか、お姉が何をしてたか…」

薬屋「すまない…」

少女「謝らないでいいって。お姉が不器用なことは知ってるもん。それにね、私お姉になら何されてもいいと思ってる」

少女「だってお姉は、一人ぼっちだった私の手を引いてこの国に連れてきてくれた。たくさん、楽しいことを教えてくれたから」

少女「私の、大切なお姉ちゃん」

薬屋「……」ギュ...

薬屋「似た者同士かもしれないな、私達は」

少女「本当?だったら嬉しい」



ーーーーー

男「──少女」

ーーーーー



少女「─!」

男「」

少女「……少女」
112 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2020/04/13(月) 08:28:42.16 ID:uGTOhtcfO

薬屋「気になるか?男がお前に付けた名だ」

薬屋「これでお前には二つの名が存在することになるのか」

薬屋「…きっとどちらでもあるんだろうな」

少女「……」

男「」

少女(………)

少女(………)

少女(……………!)



ーーーーー

男「──そういうことだ。少しの間だが、共にいてもらうぞ」

男「──ふっ。俺も少女が好きだぞ」

男「──良い案がある。幽霊が多く出現するという北の国はどうだ?」

男「──だから……死ぬな、少女…!」

ーーーーー



少女「………ぁ」

薬屋「…どうした?」

ピクッ

薬屋「!」

男「……ん……」

薬屋「男!目が覚めたか…?私が分かるか!?」

男「…薬屋…」

薬屋「」ギュー

少女「お兄」

男「──っ」

男「少、女…?」

少女「……」





少女「す、き」ニコッ





ー終わりー
113 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2020/04/13(月) 08:29:41.21 ID:uGTOhtcfO
以上で完結となります。
ここまで読んで下さった方、ありがとうございました。
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/13(月) 15:49:17.01 ID:TgVnp6q1O
少女「や、き」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/13(月) 15:49:47.57 ID:TgVnp6q1O
おつおつ
後日談はないのかなぁ
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/13(月) 17:05:38.48 ID:8TicGRxOO
>>114
いつから土佐弁になった
117 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2020/04/13(月) 20:04:49.07 ID:uGTOhtcfO
>>115

後日談は考えていませんが、男が新大陸開拓に駆り出されたり、少女が男に好意を寄せるのに強く出れない薬屋がいたり、女盗賊と青年が修行という名の怪盗を繰り返したり、そんな妄想でもしてくれれば幸いです
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