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【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」不知火「その3です」

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253 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 12:58:02.15 ID:IvmCtElco

 * 提督の私室へ向かう廊下 *

??「提督の部屋はこちらでいいのだな?」コツコツコツ

島妖精C「そうだけど……なんで本人に会うより先に部屋を見に行こうとするのかな」

??「その人間の本質を見るには、本人のプライベートルームを見るのが一番早い」

??「お前たちは、この鎮守府の乱れた規律を正すために、私を建造したんだろう?」

島妖精G「あー、それは……うん。まあ、そうね……」

島妖精H「だからってねえ……」

??「見てわかるなら、そちらの方が話が早い」

??「話すだけならいくらでも隠し通せるし、私はそのような小細工は苦手だ」

??「さっさと証拠を掴んで突き付けるのが簡単だろう」

島妖精A(……これが脳筋というやつか)

島妖精G(それ、本人に直接言っちゃダメだよ?)

島妖精A(お前は電探妖精じゃないだろう! 直接脳内に話しかけてくるな!)
254 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 12:58:47.32 ID:IvmCtElco

島妖精C「でも、提督の部屋って、ベッドと着替え以外なにもなかったんじゃない?」

島妖精D「最近は艦娘があれこれ持ち寄ってるらしいけど?」

??「やれやれ……どうやら本当に規律が乱れているようだな」

 キャーキャー

??「おや? 誰かいるようだな」

島妖精B「何人かいるみたいだね?」

??「まあいい……失礼する!!」ガチャ!

ベッドの上に突っ伏している由良「え……!?」

ベッドの上に突っ伏している大淀「ええっ!?」

島妖精C「いや、その『えー』はこっちの台詞なんだけどなあ」

??「お前たち……一体何をしているんだ!?」

由良「ま、待って!? どうして……この島にあなたがいるの!?」

大淀「そうですよ! どういうことなんですか!?」


大淀「武蔵さん!!」

255 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 12:59:31.76 ID:IvmCtElco

??→武蔵「知れたこと。この鎮守府を預かる提督准尉の人となりを、私なりに確かめに来たんだ」

由良「それでお部屋に来るってどういうことなの……」

武蔵「一番わかりやすいではないか。本人のプライベートがどのようなものか、部屋を見れば一目瞭然だろう」

大淀「ほ、本人にはお会いしたんですか!?」

武蔵「いや、まだだ」

大淀「だとしたら、勝手にお部屋に入ってはいけないでしょう!?」

武蔵「ほう。お前たちは許可を取ったのか」

大淀「」ギクッ

由良(大淀……)アチャー

大淀「と、とりましたとも。提督のベッドのシーツが汚れていないか、見に来たんです」

武蔵「ほう……それは本当か」ギラリ

島妖精E(苦しい言い訳だなあ)

武蔵「ということは、提督は自分の部屋の片づけを、数少ない艦娘にやらせているということか」

由良「」

大淀「」

島妖精B(あっ、逆効果だコレ)
256 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 13:00:16.85 ID:IvmCtElco

武蔵「これはなかなか、叩き直し甲斐のある男と見て良さそうだ……くくくっ」

由良「ちょっ、ちょっとどうするのよ大淀!」オロオロ

大淀「し、仕方ないでしょう! どこかで提督には埋め合わせを……!」オロオロ

島妖精H(……まったく、しょうがないなあ)ヒョイッ タタタタ…

島妖精A「!」

武蔵「よし、大淀そこをどけ。徹底的に家探ししてやろう」

大淀「おやめください! 何の権限があってそんなことを!!」

武蔵「隠し立てするか……怪しいな」シャガミ

武蔵「ふむ……ベッドの下には何もないか。マットレスの下は」ガバッ

由良「む、武蔵さん!?」

武蔵「なにもなし……ここは洋服ダンスか」ガチャ

大淀「武蔵さんっ!?」

武蔵「なんだ? 異様に服が少ないな……」ゴソゴソポイッ

由良「ちょっ、勝手に漁っちゃ駄目だったら!」
257 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 13:01:02.45 ID:IvmCtElco

武蔵「何を言う、後ろめたいものがなければ何を見られようと問題ないだろう?」ゴソゴソ

由良「だからって出してそのままじゃ……」

武蔵「やけに私物が少ないな。断捨離でもしてるのか?」ゴソゴソポイポイ

 ガシッ

武蔵「うん?」カタヲツカマレ

大淀「いい加減にしとけよ……?」ビキビキビキッ

武蔵「!?」ビクッ

由良「!?」ビクッ

島妖精たち(うわあ)

大淀「だいたいなあ、当人にも顔を見せずに部屋に押し入って、タンスの中を物色するたあどういう了見だ……?」ミシミシッ

武蔵「」

由良「」

大淀「おまけに漁るだけ漁って散らかしっ放し……お片付けもできねえのかよ? あぁ?」ゴゴゴゴ…

由良「」シロメ

武蔵「あ、いや、その……」タジッ
258 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 13:01:47.00 ID:IvmCtElco

大淀「元に戻せ」

武蔵「は、はい……?」

大淀「元に戻せっつってんだろうが」

武蔵「いや、私は……」

大淀「戻せねえんなら部屋に入ってくんじゃねえぞくそがあああ!!!」ドカーン

武蔵「ひいい!?」ダッ!

 ドタドタドタ…

大淀「……」

大淀「はぁ……もう、こんなに散らかして。仕方ありませんね……」イフクヲオリタタミ

由良「」

大淀「あ」

由良「はっ!? なんだかものすごく衝撃的なものを見た気がしたんだけど!?」

大淀「き、気のせいでしょう……」メソラシ


 * 一方その頃 執務室 *

提督「戻ったか……ん? 大淀はどうした?」

朝雲「補給してくるから、先に行っててって言われたんだけど」

提督「補給?」

259 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 13:02:32.03 ID:IvmCtElco

 * 鎮守府内 廊下 *

島妖精E「あれは武蔵が悪いよ……」

武蔵「な、なんだったんだあの大淀は……」

島妖精B「そっちに関しては私たちもびっくりだよ」

島妖精F「提督そっくりだったもんねー」

武蔵「あれが……提督の雰囲気、か」

島妖精C「うん、まあ、だいたいあんな感じかなー」

武蔵「あの大淀があの態度……! もしや、日頃から提督にきつく当たられているのではないか?」

島妖精D「いや、そういうわけじゃ」

武蔵「そうか、部屋を荒らせば自分が叱られるから……くっ、この武蔵としたことが迂闊だった!」

武蔵「提督め、艦娘に対するこの仕打ち……正さねばならんな!」

島妖精A「なあ、この武蔵、違う意味で迂闊じゃないか?」ヒソッ

島妖精G「あー、それは……うん。まあ、そうね……」ウーン

島妖精E「提督ってさあ、人の話を聞かない人、嫌いだよね」ボソッ

島妖精たち「「……」」タラリ

島妖精F「ねえ武蔵、そうじゃなくって」

武蔵「すまない、ちょっと話しかけないでくれ。どうやったら提督を説得できるか……うーむ」ブツブツ

島妖精B「ちょっ、武蔵ー!?」
260 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 13:03:17.90 ID:IvmCtElco

 * その30分後 *

 * 墓場島 埠頭 *

島妖精H「……というわけでさー」

大和「武蔵が来たんですか!?」

朝雲「また妖精さんが建造したの!?」

島妖精H「そうだよー、って、大和の建造には私は関わってないんだけどさ」

朝雲「っていうか、なんでピンポイントに大和型が建造出来ちゃってるのよ……」

島妖精H「本当はビスマルクを建造したかったんだけどね」

島妖精H「でも、海外艦は海外に縁のある艦娘の力を借りないと、建造できないの忘れてたんだ」

朝雲「でもそれで武蔵さんが建造できちゃうとか、普通にすごい確率なんだけど!?」

提督「また戦艦が増えるのか……」

大和「も、申し訳ありません……」

提督「いや、お前が謝る必要はねえだろ。資材は問題だけどな」

朝雲「確かに切実よね。今の体制でも、戦艦の人たちは満足に出撃できてないし」
261 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 13:04:19.13 ID:IvmCtElco

提督「駆逐艦の練度向上が急務になっちまってるな」

提督「若葉や朧みたいなやる気ある奴に頼りっぱなしってのもよろしくねえ」

提督「そのためにも今日は今日で、神通に率いてもらって能力を見るために出撃してるわけだが……」

 ザザァ…

提督「おう、戻ってきたか」

神通「はい、水雷戦隊、ただいま帰還致しました」ケイレイ

吹雪「司令官! 今日は誰も中破しませんでしたよ!!」ブンブン

提督「そいつは重畳だ。黒潮と山雲の調子はどうだった」

黒潮「ま、まあまあやないかな?」ゼェゼェ

神通「砲撃時の構えも安定していますし、心配だったメンタル面の不安も解消したようですから」ニコ

不知火「残る課題は体力面だけですね」

黒潮「さすがに、出撃、久々やったから……」ゼェゼェ

提督「黒潮がこうなら、山雲は……」チラッ

如月「出撃自体がまだ数回目だもの、今日は少しハードだったと思うわ」ヤマグモニカタヲカシ

山雲「はー、はー……ちょおっと、疲れちゃった、かも……」ゼェゼェ
262 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 13:05:16.78 ID:IvmCtElco

朝雲「山雲、大丈夫? 如月、山雲のフォローありがとね」ヨイショ

大和「提督、今回の出撃メンバーに朝雲さんを加えなかったのはどうしてですか?」

提督「朝雲が山雲のケアをしながら戦ったんじゃあ、山雲の実力が見えないからな」

神通「全体的に粗さが目立ちますが練度を考えれば当然でしょう、これからだと思いますよ」

朝雲「え? 山雲、無傷なの!? すごいじゃない!」ナデナデ

山雲「えへへぇ〜」ニヘラ

吹雪「不知火ちゃんがデコイになって動き回ってたからね!」

黒潮「せやなあ……不知火の動きがすごかったもんなあ」

神通「中将のところで鍛えられてるだけあります」ニコ

不知火「お、恐れ入ります」

黒潮「ああいうの見せられると、うちも頑張らなな、って思うわ」

提督「大破艦が出るかと思って大和を呼んだんだが、いらない心配だったな」

大和「何よりですね!」ニコッ

提督「よし、それじゃあ……」

武蔵「ここにいたか!」ザッ

全員「「!!」」
263 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 13:06:01.88 ID:IvmCtElco

大和「武蔵……!」

吹雪「えっ、えええええ!?」

提督「お前が武蔵か……」

武蔵「いかにも! 大和型戦艦2番艦、武蔵! 推参だ!」ビシィッ!

黒潮「うっひゃああ! 大和型二隻が揃い踏みなんて、すごいやん!!」

不知火「ええ、ですが……」

如月「司令官……?」

提督「……」

山雲「なんだか〜、あんまり嬉しそうじゃないみたい〜?」

神通「朝雲さん、なにかあったんですか?」

朝雲「それがですね……」ゴニョゴニョ

神通「……なるほど……」

山雲「それじゃあ、あまり歓迎できないかしら〜」

武蔵「さて提督よ。この鎮守府の妖精たちによって建造されたこの武蔵、ある使命を帯びてここへ来た」
264 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 13:07:01.72 ID:IvmCtElco

武蔵「それがなにかわかるか? わかるだろう提督! 貴様の行い、正してくれる!」

提督「知るか」

武蔵「」

島妖精H「ちょっ」

大和「て、提督!?」

朝雲「……」アタマカカエ

神通「まあ、予想通りといえばその通りですが……」ハァ

吹雪「な、何の話なんですか!?」

武蔵「提督、貴様、この期に及んでしらばっくれるとはどういうことだ!?」

提督「マジで知らねえよ。お前が何の用で来たかなんて知るわけねえだろが」

武蔵「……こ、この不躾な物言い……大淀のあの言動は貴様の影響か!」プルプル

提督「大淀?」

武蔵「ああ! 貴様そっくりだったぞ!」
265 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 13:07:47.22 ID:IvmCtElco

提督「俺そっくり? ……本当かよ。誰か見たことあるか?」

如月「うーん、私はないわ」

大和「私もありません」

不知火「初耳です」

黒潮「うちもそんなん聞いたことないなあ」

朝雲「私たちもないわよね?」

山雲「聞いたことないわ〜?」

武蔵「馬鹿な!? 貴様と同じ調子で叱られたんだぞ!?」

提督「なんだそりゃ。確かに俺が自暴自棄になったときに大淀に叱られたことはあるが、言動が俺みたいになったって話はなあ」

大和「提督、大淀さんにも叱られてたんですか……」

吹雪「何回言ってもきかないんですね、司令官は!」プンスカ

提督「最近は言ってねえよ」

如月「考えても駄目ですからね?」ウフフー
266 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 13:08:32.15 ID:IvmCtElco

提督「へいへい。とりあえずお前らは明石んとこ行って修理受けてこい」

武蔵「待て! 私の話は終わっていないぞ!」

提督「なんだよ……じゃあとっとと要件を言え」

武蔵「うむ……こほん。提督、貴様、艦娘に手あたり次第、手を出しているそうだな!」

全員「「……」」

武蔵「……何だその沈黙は」

提督「いや……俺、手ぇ出してるか?」クビカシゲ

武蔵「!?」

如月「いいえ、出してもらってないわ?」

大和「ですよね」

武蔵「!?」

山雲「司令さんから手を出すって、ないんじゃな〜い〜?」

黒潮「むしろ司令はんがいろんな人から手ぇ出されてる感じやんな?」

朝雲「司令が怒ってアイアンクローするって意味でなら手が出てはいるけど……」

吹雪「あはは……でも、最近は司令官が誰かにアイアンクローしてるとこ、見てないよね」

不知火「司令がそこまで怒ることも、最近はなくなりましたから」
267 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 13:09:17.61 ID:IvmCtElco

武蔵「……おい、話が違うぞ妖精たち」

島妖精E「いや、武蔵ってば話を聞いてくれなかったじゃない」

島妖精A「私たちとしては、最近、艦娘たちが提督にくっつきすぎなのをどうにかしてほしいと考えていたんだ」

島妖精G「うん、提督が問題あるわけじゃないんだよね」

武蔵「それを早く言ってくれ……!」ガックリ

 *

提督「それじゃあ何か。武蔵は、この鎮守府の風紀を正そうとしてたわけか」

武蔵「そういうことだ。気の緩み、規律の乱れは軍属である我々の規範とは真逆に位置するもの」

武蔵「平たく言えば、えっちなのはいけないというだけの話だ」

提督「それを言ったらお前の格好が一番の問題だろ」

武蔵「」

神通「提督、声に出てますよ?」

提督「わかってる」

不知火「……」アタマカカエ
268 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 13:10:02.14 ID:IvmCtElco

武蔵「わ、私の姿はどうでもいい! 貴様こそ生活態度はどうなんだ!」

提督「生活態度? どうと言われてもな……俺、変なことしてるか?」

神通「さあ……特には。強いて言うなら、たまに不精しておひげが伸びているときがあるくらいですが」

如月「普段生活してる分には、司令官って几帳面よね?」

不知火「人の嫌なところばかり見ていますので、それが反面教師になったものかと推測しますが……」

神通「……なるほど……」

朝雲「なんかすごく納得できるわ……」

吹雪「さすが! 最古参だもんね、如月ちゃんと同じで!」

武蔵「えっ、最古参って……吹雪じゃないのか?」

黒潮「それがちゃうねんて、なあ?」

武蔵「……訳が分からなくなってきたぞ。提督に問題がないのなら、艦娘が提督にちょっかいを出しすぎだというのか?」

提督「まあ、確かに最近ガードを緩めすぎてる気がするな。新造艦娘にそこまで心配されるとなると、事態は深刻と見るべきか……」

不知火「え?」
269 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 13:10:46.76 ID:IvmCtElco

提督「やっぱ寝るときに部屋に鍵かけるか」

如月「は?」ピシッ

大和「え?」ガーン

吹雪「そんなぁ! 駄目ですううう!!」ナミダメ

武蔵「!?」

 ゴボボボッ

伊8「はっちゃん、なんだか嫌な話が聞こえてきたんですけど……?」ザブッ

黒潮「!?」

山雲「ど、どうやったら、海中から聞こえるの〜……?」

 ザッ

金剛「Hey, 私も聞いてしまいマシタヨー……?」ユラリ

榛名「提督……本当にお部屋の鍵をかけてしまうんですか……?」ドロリ

武蔵「!?」ビクッ
270 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 13:11:31.92 ID:IvmCtElco

朝雲「……司令、あなたいったい何人と寝てるんですか」

提督「何人? 何人は覚えてねえな……ここに来てないやつだと、電と朝潮と初雪と……」

武蔵「駆逐艦ばかりじゃないか! この犯罪者め!!」

提督「全員、俺が寝付いてからベッドの中に入り込んできてるんだがな。電なんか一人寝が寂しいって理由だし、無碍にはできねーだろ」

提督「丁度いいから訊くけどよ、お前らなんで鍵かけた俺の部屋に入れるんだ?」

如月「秘密よ?」

大和「内緒です」

金剛「Yes, it's Top secret デース!」

吹雪「言えません!」

伊8「いざとなったら扉を壊しますからいいですけど」

榛名「榛名もそれで大丈夫です!」

提督「……」アタマカカエ

島妖精C(そりゃー私たちが資材を貰った引き換えにやってたなんて言えないよねえ)

島妖精B(そのおかげで大和と武蔵が建造で来たわけなんだけどねえ)
271 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 13:12:16.76 ID:IvmCtElco

朝雲「えーと……司令? 鍵、かけてたんですよね?」

提督「ああ」

朝雲「……」

提督「……」

朝雲「ということは、司令も本当に知らないんだ……」ガックリ

提督「だからさっきからそう言ってんじゃねーか」

武蔵「おい、信じるのか!?」

朝雲「ええ、信じるわ。司令はこの手の嘘をつかない人だし」

朝雲「なにより艦娘のことを優先する人だから、嫌がる艦娘を部屋に連れ込むなんて真似、絶対にしないもの。疑うだけ時間の無駄だわ」ハァ

山雲「朝雲姉がそこまで言うなら、間違いないわね〜」

武蔵「だとしたら、さっき提督の部屋にいた由良と大淀は何をしていたんだ?」

如月「は?」ハイライトオフ

大和「え?」ハイライトオフ

伊8「Was ?」ハイライトオフ

金剛「What ?」ハイライトオフ

榛名「はい?」ハイライトオフ

武蔵「!?」ゾクゾクゾクッ

朝雲「みんなして何やってんのよもう……」
272 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 13:13:01.86 ID:IvmCtElco

吹雪「武蔵さん、何をしてたって何をしてたんですか!?」

武蔵「な、なにって、部屋を掃除していたと聞いたぞ……ベッドの上に乗っていたし、ベッドメークでもしていたのかと……」

神通(大淀さんは前からそうだと思っていましたが、由良さんもですか)

伊8(ということは、あの二人もナニかしてたんでしょうねえ)

提督「本当かそれ。ベッドくらいなら自分で直してんだが」

武蔵「そ、そうなのか……?」

大淀「ええ、その通りです」ザッ

由良「武蔵さん、ここにいたんですね」

提督「! 大淀と由良も来たのか」

大淀「はい、誤解のないように言っておきますが、私は時間が空いたので提督のお部屋の洗濯物がないかどうかを見に来ただけです」

大淀「そうしたら、由良さんがお部屋のベッドの上に寝ておりまして」

由良「ちょっ、大淀!?」

大淀「提督のお部屋のベッドがすごくいいものなので、どんなものか確かめに行ったんでは?」

由良「ま、まあ……そう、だけど」

由良(そういうことにしておいた方がいいか……)ポ
273 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 13:14:01.93 ID:IvmCtElco

大淀「それで私も気になって、ベッドを拝借したところに武蔵さんがいらっしゃったんです」

黒潮「司令のベッドってそんなにええの?」

如月「ええ、私と大和さんで一番いいのを選んであげたの」

黒潮「ほえー……」

提督「……まあ、あれはあれでありがたかったけどな……」アタマガリガリ

武蔵「と、とにかくだ! 艦隊の規律を考えても、艦娘が提督と同衾するのはいかがなも」

大和「あぁ?」ギロリ

如月「なんですって?」ドロリ

伊8「ふーん……」ジロリ

榛名「本気で仰っていますか?」ヌラリ

武蔵「ひぃぃぃ!?」ビクゥッ

不知火「食い気味に反応しましたね……」

吹雪(抗議しようと思ったけど、その必要もなかった……)タラリ

金剛「皆さん、落ち着くデス。そこに関しては私も思うところがありマス」

榛名「金剛お姉様……?」
274 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 13:14:46.86 ID:IvmCtElco

金剛「ひとつ教えてくだサイ。提督のベッドに、一番最初に潜り込んだのは誰デース……?」

提督「そりゃ如月だ。忘れもしねえ、俺の上に掛け布団みたいに覆い被さってたからな」

如月「やぁん」ポ

提督「次の日には電が入り込んでたな」

武蔵「おい!?」

提督「あの頃は人数も少なかったし、電は轟沈して流れ着いて間もなかったからな」

武蔵「ご、轟沈だと!?」

提督「さっきも言ったが、人の気配がない鎮守府で一人で寝るのが不安だったって話だ。如月もそうだったろ」

如月「そうね……あのときは、ただただ怖かったから。人肌が恋しかったっていうのはあるわ」

提督「電は今でもたまに入り込んでくるが、それでも暁や長門みたいな俺以外の頼る相手ができたから回数は減ったぞ?」

金剛「Hmm... やむにやまれぬ事情があったと……それでは仕方ありまセンネ」

金剛「正直に言えば、私は、提督のベッドに入る理由が単純な好意であればみんな控えるべきだと思っていマシタ」

金剛「提督と愛を誓いあっていないのに、ベッドに入り込むのは順番が違うと思ってマシタから」

武蔵「むう……」

金剛「But、不安を取り除くためというのであれば、それも言いづらいデスネ……一度轟沈している艦娘なら猶更な気がしマス」

黒潮「そう言われると難しいとこやなあ……」
275 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 13:16:01.93 ID:IvmCtElco

金剛「こうなると、提督のベッドに入り込む理由が好意や愛情によるものなのか、不安の解消なのかが判別できまセンネ」

山雲「それはそうねえ〜」

黒潮「むしろどっちもあるんやないかな?」

金剛「武蔵もそう思いマスネ?」

武蔵「う、うむ……」

金剛「Okey ! それじゃ私も提督のベッドに遠慮なく入りマース!」Yes!

武蔵「なんでそうなる!?」

金剛「如月は提督が好きデース」

金剛「その如月は提督のベッドに入ってマス」

金剛「だから提督が好きな私も提督のベッドに入っていいデーース!」

武蔵「無茶苦茶だ!!」

金剛「Nooo ! これ以上ない見事な三段論法デース!!」

山雲「ちょおっと、強引じゃなーい〜?」

不知火「いくら何でも端折りすぎではないかと」

金剛「私だって提督は大好きデス! これ以上如月や大和に後れを取るわけにはいきまセーーン!」
276 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 13:16:46.88 ID:IvmCtElco

金剛「燻ぶらせていた Burning Love !! テートクのためにッ! 完全燃焼デーーース!!」ドカーン!

黒潮「おおう、こりゃ司令はんもスミに置けへんなあ」

不知火「その前に完全燃焼ではスミになりそうですが」

黒潮「誰が上手いこと言え言うたん!?」ビシーッ

不知火「え!? し、不知火に何か落ち度でも……!?」オロオロ

黒潮「自覚しとらんかったんかい!」ビシーッ

吹雪「黒潮ちゃんが変なツッコミ入れるから戸惑ってるんでしょ!?」ビシーッ

金剛「ブッキーがいいツッコミ入れてマス……!」

黒潮「またまたあ金剛はん、真面目な吹雪がそんなこと言うわけ……ほんまや! 真面目か!」

吹雪「言い出しっぺは黒潮ちゃんでしょ!?」ビシーッ

山雲「朝雲姉〜、面白いわね〜」パチパチ

朝雲「お笑いやってる場合じゃないでしょ……」

伊8「脱線しましたけど、引き続き提督と一緒に寝るのは問題なしということで。いいですよね?」

榛名「賛成です!」キョシュ!

如月「異論なしよ!」キョシュ!

武蔵「いいのか……いいのかそれで」アタマカカエ
277 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/05(土) 13:17:31.92 ID:IvmCtElco

大和「武蔵……」カタヲポン

武蔵「大和……こんなことが、許されていいのか!?」

大和「余計なことはしないで?」ニコァ

武蔵「」

朝雲「武蔵さん、やめといた方がいいわ。大和さんてば、司令のことがすっごく好きだから」

山雲「あらぁ〜? 朝雲姉〜、武蔵さん、聞いてないみたいよ〜?」テノヒラフリフリ

武蔵「」

由良「失神してるみたいなんだけど……」ホッペツンツン

黒潮「んなアホな……」

大淀「滅茶苦茶迫力のある笑顔見せてましたからね。いくら武蔵さんでも建造されたばかりでは、さすがに……」

不知火「大和さん……」アタマカカエ

神通「さすがに少し大人げないかと……」アタマオサエ

提督「……大和。いい加減、変なプレッシャーかけんじゃねえって言ったよなあ?」ツカツカ

大和「あっ、提督、ちょっと待っ、あの、アイアンクローは、待っ、あ、ひぎぃぃぃぃいい!?」メキメキメキ

金剛「Oh, 久々に見ましたネ、提督のBrain Claw」

如月「司令官のことをまだまだ分かってない証拠よね」フフッ

伊8「まるで正妻のようなこの余裕」

吹雪「とりあえず、武蔵さんどうしましょう?」

榛名「明石のところに連れて行きますか?」

武蔵「」チーン
278 : ◆EyREdFoqVQ [saga]:2020/12/05(土) 13:19:10.19 ID:IvmCtElco
今回はここまで。


由良さんのお目覚め(意味深)は>>22を参照です。
279 :Liphistius_ki84 [sage]:2020/12/06(日) 00:55:40.31 ID:QXV1Y5vV0
なんかもうこっちはこっちでIFとして罠だらけとは別の未来に進んでほしい気もする。幸せになってくれぇ…
280 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/20(日) 20:52:07.77 ID:KchNE/3fo
少しだけ続きです。
281 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/20(日) 20:53:35.03 ID:KchNE/3fo

 * 工廠 *

明石「いやあ、話は聞かせてもらいましたけど……」

利根「まさか武蔵が来ようとはの……」

武蔵「あ、ああ……その、よろしく頼む」

利根「う、うむ、こちらこそよろしく頼むぞ」

提督「……」

明石「提督、まーた何かしたんですか? あの武蔵さんが借りてきた猫みたいなんですけど」ジロリ

提督「何もしてねえっつうの」

明石「本当ですか? 提督って、こういう騒動の中心にいるってことに無自覚ですからねえ……」

武蔵「お、おい、明石! あまり提督にそういう態度を取っては、後々大変にならないのか!?」

提督「そうはならねえよ。大和にも言って聞かせるから、堂々としてていい」

明石「あ、もしかして大和さん絡みですか。じゃあ仕方ないですかね〜」アタマオサエ

武蔵「明石もそれで納得するのか……」

明石「私も大和さんには、出会ってすぐに主砲向けられちゃいましたからね」

武蔵「……」

提督「つっても大和だけじゃねえがな。とりあえず今後のためにも、武蔵には早速出撃してもらうつもりだ」

明石「大和型が二隻ですか……そうなると資材が不安ですねえ」
282 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/20(日) 20:54:20.53 ID:KchNE/3fo

朝雲「司令なら確かこっちに……あ、いたいた!」

山雲「お邪魔しまぁ〜す」

初雪「おお……本当に、武蔵さんだ……」

提督「なんだ、俺に用か? それとも武蔵の野次馬か?」

朝雲「野次馬じゃないわよ。山雲たちからお願いがあるの」

山雲「そうよ〜、武蔵さんに〜、お願いがあって来たの〜」

武蔵「……この武蔵にか?」

初雪「うん……良かったら、一緒に畑を見て欲しくて」

武蔵「ああ、それは構わないが……山雲と初雪が畑を見てるのか?」

山雲「そうよ〜」

武蔵「むう……非力な駆逐艦に力仕事を任せているというのは感心しないな」

明石「まあまあ、それぞれ役割分担してますから。厨房は比叡さんや大和さんにお願いしてますし」

提督「離島だから雑務は多いぞ。音響設備は霧島、裁縫や工作は長門や金剛、明石がやってるし」

提督「ほかにも掃除洗濯は陸奥や榛名や扶桑、資材搬入は山城によく手伝ってもらってるな」

提督「なんせ人間が俺一人だ、大体のことは自分たちでやらなきゃならねえ」

武蔵「……なるほど。いいだろう、この武蔵がこの地に喚ばれたのも何かの縁だ。よろしく頼むぞ」ニッ

提督「ああ。とりあえず希望があるなら言ってくれ、できるだけ沿うようにするからよ」
283 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/20(日) 20:55:04.95 ID:KchNE/3fo

 * ところ変わって、M提督鎮守府あらため城塞鎮守府 * 

 通信機< RRRR... RRRR...

三日月「はい、こちら城塞鎮守府にございます」

三日月「O中尉! お久しぶりです! 三日月です!」

三日月「はい、知中尉ですね! しばらくお待ちください!」ピッ

三日月「司令官! O中尉からです!」

知中尉「お、ありがとう。もしもし?」

通信(O中尉)『よ、久しぶり。昇進おめでとう』

知中尉「んー、ありがとな。お前もおめでとう、お前も昇進だろ?」

通信『ああ。とりあえず三日月は元気そうで安心したよ』

知中尉「他の子も元気だぞ。最初は泣いたり喚かれたりで散々だったけどな……」

知中尉「でもまあ、うちの古参とも仲良くなれたし、今はまあ心配しなくても大丈夫だな……」

通信『? どうしたんだ、その奥歯に何か挟まったみたいな言い方……あ、もしかして、利根か?』

知中尉「……まあ、な」ハァ
284 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/20(日) 20:55:50.41 ID:KchNE/3fo

 * 数時間前 *

利根改二「ちくま〜」ゴロゴロ

筑摩「はい、利根姉さん」ニコニコ

利根改二「ちくまはどこにも行かんよなあ〜」ギュウ

筑摩「はい、ここにいますよ、利根姉さん」キラキラ

利根改二「うむ、ちくまはわがはいとずーっといっしょじゃからなあ……」スリスリ

筑摩「勿論です、利根姉さん」キラキラキラキラ

 * 回想ここまで *

知中尉「今じゃあ筑摩依存症とでも言うのかな? 俺も事態を軽く見てたってことだ……」

通信『うーん……筑摩、連れていかなきゃ良かったか? うちにいた筑摩も、利根と接触できなくてうずうずしてたから、良かれと思ったんだが』

知中尉「いや、良かったには良かったんだ。利根はこの鎮守府の功労者だ、筑摩が来る前まで、いつぶっ倒れるかわからないくらい憔悴してたんだし」

知中尉「そんな利根を何とかしたくて、俺がお前に筑摩を連れてきて欲しいって無理言ってお願いした結果でこうなったわけだからなあ」

知中尉「それに、あの地下室で大怪我してた利根の移動先まで面倒見てくれたんだ、俺たち全員、お前には感謝してるんだぜ?」

通信『……なんだか、弱みに付け込んだみたいで悪いな』

知中尉「三日月たちのことか? それはそれで話が別だ、気にするな」
285 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/20(日) 20:56:35.10 ID:KchNE/3fo

知中尉「つうかその話、一番悪いのは指揮を執ってたC提督とかいう奴だろ。ったく、本営にはひどい奴がいたもんだな」

通信『……まあ、な……』

知中尉「なんだその微妙な反応」

通信『あー、いや、そいつなんだけどな……自分の元上官に取り入ってるみたいなんだよ』

知中尉「は? マジか。なんでそんな奴らに好かれてんだよお前の元上官」

通信『そりゃ地位とお金が好きな類友だからだよ。自分が追い出されたのも金にならないからだって、この前話しただろう?』

知中尉「勘弁してくれよ、なんでそんな腹黒い奴らがテレビ出てニヤニヤしてんだよ。大丈夫なのかこの国」

通信『そんなの今に始まったことじゃないだろう。自浄作用が怪しいところまできてると思うぞ?』

知中尉「確かにそうだけどぶっちゃけすぎだろ……あ、そうだ思い出した。お前のところには電話あったか?」

通信『電話? いきなり何の話だ?』

知中尉「ああ悪い、テレビで思い出したんだよ。この前、テレビ局からこの鎮守府を取材したいって話が来たんだ」

通信『なんだって!? まさか引き受けたのか?』

知中尉「馬鹿、断ったに決まってるだろ。本営を通せ、で押し切ったさ」
286 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/20(日) 20:57:20.04 ID:KchNE/3fo

知中尉「本営は本営で、今更に広報部門の組織再編の話が上がってて、艦娘の話ができる広報担当も決まってない状態だろう?」

知中尉「待ちぼうけ食らって焦れたテレビ局が、無断で撮影したり取材しに来たりするケースも想定しておかないとまずいかもな」

通信『それもあり得るか。けど、さすがにリンガ泊地まで行くやつがいるかな?』

知中尉「十分あり得ると思うぜ。この鎮守府が、余所の鎮守府に演習場として使われていることをテレビ局も知ってるみたいだし」

知中尉「いろんな鎮守府の艦隊が集まるだろうから、取材にかこつけてでかい鎮守府に突撃取材したいんじゃねーか、って」

知中尉「うちの青葉も自分で考えて自画自賛してたから、テレビ局がそれをやらないとは思えないんだよなあ」

通信『警戒したほうがいいのか……』

知中尉「で、ここの責任者が俺だってことも周知の事実らしくてな。『知少尉ですか』って名指しで訊かれたんだよな」

知中尉「あいつら、そんなに偉くない俺みたいな僻地の鎮守府なら、上を通さなくてもワンチャンあると思ったんじゃねーかな……」

知中尉「M准将がいなくなって繰り上げで少尉になった俺が、この短期間で中尉に格上げだ。戦果を挙げてるお前とは話が違う」

知中尉「もしかしたら、本営からこっちに動かせるお偉いさんがいなくて、その場しのぎに俺を昇進させたのかもな」

知中尉「そうでなきゃあ、M准将のことを探られてもいいように、俺に全部責任をおっかぶせてしまう魂胆か」

通信『そんなことは……』

知中尉「ま、どっちにしたってテレビの話は全部拒否するさ。俺もM准将の話をほじくり返されたくないからな」

通信『……』
287 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/20(日) 20:58:05.25 ID:KchNE/3fo

知中尉「……M准将の話は、決して大昔の話じゃない」

知中尉「あの話がテレビ局なんかに知れ渡って面白可笑しくドラマに仕立てられたりでもしたら、戦時中とはいえこんな鎮守府、簡単に吹き飛んじまう」

知中尉「それに……なんでかんで、俺はM准将を尊敬してたんだ。俺が今この鎮守府をなんとか維持できてんのも、M准将を見てきたからだと思ってる」

知中尉「身内贔屓ではあるけどさ、形はどうあれあの人は自決したんだ。これ以上、あの人を辱めなくてもいいだろ?」

通信『そうだな……』

知中尉「ま、もしかしたらその話も、連中はもう知ってんのかもしんねーけどな……」

知中尉「ともかく。うちは通常営業しつつ、テレビ取材は全部お断り。撮影も厳禁、見たいなら余所に行け、で押し通す。これで行く」

通信『そこまでガード固めてるんなら、大丈夫そうだな』

知中尉「ん? もしかして心配して電話してきたのか」

通信『いや、むしろそのテレビ局絡みの件を話すつもりだったんだ』

通信『艦娘の情報を公表したせいで、本営の判断も仰がずにテレビ局の取材を受けて、変なことになってる鎮守府が出てきててね……』

知中尉「嘘だろ……?」

通信『しょうがないとは言いたくないが、民間からスカウトした『提督』たちはどうもその辺の意識が低くてなあ……』

通信『お前のところはいろんな『提督』が出入りするだろう? 今更だけど、心配になって電話したんだよ』

知中尉「……ちょっと特警と相談してくる。テレビ局が無断で入ってきてる可能性も考えとかねえと」
288 : ◆EyREdFoqVQ [saga]:2020/12/20(日) 20:58:51.15 ID:KchNE/3fo
今回はここまで。
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/12/22(火) 22:56:19.25 ID:fJ0f66N20
乙。いつの時代もssの阿保提督共とマスコミはムカつくなぁ
まぁそういう設定にしてるスレ主さんの所為だけども...
どっかにそういう奴らが死にまくるssねーかな
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/12/24(木) 11:10:55.12 ID:LOD4Zw1o0
あぁぁぁ現実から逃げてたのにマスゴミが入るとぅぅぅ。
面白いことになりそうだ。()
291 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/24(木) 22:45:48.59 ID:qDazUU2Wo
メディアがまともなら騒がれることもありませんが、
なにかとフェイクニュースも紛れ込んでおりますし……
メッキが剥がれてきている気がしますね。

では続きです。
292 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/24(木) 22:46:38.34 ID:qDazUU2Wo

 * 数週間後 *

 * 墓場島鎮守府 執務室 *

黒潮「司令はん、また新聞読み返してるん?」

提督「こっちは一昨日のだ。今読んでんのは昨日の分」バサ

黒潮「新聞が、週に二回しか来ないんも不便やなあ」

大淀「仕方ありません、離島に毎日物資を届けていたら、それだけで輸送費が馬鹿になりませんから」

提督「そういうこった。そもそもパラオやらトラックやらの泊地への輸送がメインで、うちに来るのはそのついでだしな」

大淀「ですが、それもこの鎮守府の近海が安全になったことで得られた結果ですよ」

提督「前から言ってんだが、そりゃル級のおかげの方がでけえんじゃねえの?」

大淀「ま、まあ……ル級さんも、はぐれたり損害を受けて海域に入ってきた駆逐艦や潜水艦を、保護して余所の海域に送り届けてるみたいですし」

大淀「深海棲艦にとっても、非交戦地帯になりつつあります。私たちとしても望ましいと思いますよ」

黒潮「イ級とか、あの見た目でも話が通じるんやな……」

提督「ま、安全になったからって輸送艦が毎日来るようになったら、ル級も気軽にこっちに来れねえからそこは善し悪しだな」バサッ
293 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/24(木) 22:47:21.14 ID:qDazUU2Wo

大淀「提督、ニュースが見たいのでしたら、衛星通信のネットワーク機器を置いてもらうよう申請しましょうか」

提督「できりゃいいがな。ともかく中佐が邪魔だ……あの野郎、なんでかんでうちに通信機器を置かせるのだけは邪魔してくるからな」

提督「同じ理由で小型の船舶の申請も握り潰されてる。俺をとことんこの島に封殺しておきたいんだろうけどよ」ケッ

大淀「ゴムボートすらありませんからね。提督、泳げませんよね?」

提督「ああ。何やっても沈むから諦めた」

黒潮「沈むて……」

大淀「……救命胴衣も申請しておきます」

提督「まあ、そうそう必要にはならねえだろうがな。当分は島を離れるつもりもねえし」

提督「離れるとしたら……いや、それもねえか。死んだら骨を埋めるのもこの島だな」

大淀「提督?」ジトメ

提督「別にいいだろ、何十年後の話をしても。老後の話も駄目なのかよ」

黒潮「それはそれで気が早すぎると思うで〜?」ニガワライ

大淀「むしろ、何かといえば自殺したがる提督の口から老後なんて言葉が出るとは思いませんでしたよ?」ジトメ

提督「おう、自分でも寝言言ってんなーって感じだ。寝ながら仕事してんじゃねえの? 俺」

大淀「またいい加減なことを……」アタマカカエ
294 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/24(木) 22:48:08.38 ID:qDazUU2Wo

提督「なんにしてもだ、この島に引きこもってる分には気楽でいい。余所みたいに外野が口を出したり勝手に入ってきたりしねーし」

提督「妖精と話してても変な目で見られねえから、そういう意味でもこの島から出たくねーな」

黒潮「司令はん、とことん人間嫌いやな……」

提督「おうよ、好かれたくもねえし、注目されたくもねえ」

提督「そういや中佐の鎮守府で、テレビの取材班が来た直後に盗聴器が見つかって騒ぎになったって、赤城が報告がてらぼやいてたぞ」

黒潮「うえええ……」

提督「いらねえ首を突っ込みすぎなんだよ、奴らはよ。スクープと視聴率しか頭にねえからな」

大淀「艦娘の報道が過熱したせいで、メディアクルーの乗った船が沈められた事件も起きましたし……」

提督「ざまあ」

大淀「提督……?」ジロリ

提督「報道してたのは連中だ、海が危険なのはわかってたはずだぞ。痛い目見てちったあ学習しやがれってんだよ」

提督「そもそも他人の不幸で飯食ってる連中だ、飯の種ができて良かったなって言ってやりてえくらいだ」

提督「どうせその件も、反省しないで被害者ぶって海軍に責任転嫁するんだろうからな。救えねえ」ケッ
295 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/24(木) 22:48:51.41 ID:qDazUU2Wo

黒潮「なんか……責任感じるわ」シュン

提督「黒潮、お前が落ち込む必要はねーぞ。早かれ遅かれ、艦娘の存在はメディアにも知れ渡っただろうさ」

大淀「あの中佐が一枚噛んでいたとなれば、報道規制の解除も時間の問題だったんでしょうね」

黒潮「……うん」

提督「とはいえ、空母棲姫の一件のときはあんなに行動が早いと思わなかった。正直、侮ってたぜ……くそ」

提督「いくら赤城がいるっつっても、頼りっきりは良くねえな。少し考えねえと……」

 扉<コンコン

敷波「司令官、いるー?」

提督「おう、入っていいぞ」

敷波「はーい、司令官、ちょっと来てもらってもいい?」チャッ

提督「何かあったのか?」

敷波「うん。また砂浜に艦娘が漂着したんだけど……」
296 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/24(木) 22:49:35.89 ID:qDazUU2Wo

 * 入渠ドック *

電「あ、司令官さん! 黒潮ちゃん!」

提督「よう、敷波から聞いたぜ、お前が見つけたんだってな」

黒潮「五十鈴さんと筑摩さんやて?」

電「なのです」

提督「敷波もあまり慌ててなかったみたいだが、怪我の程度はそこまで深刻じゃないんだな?」

電「はい、小破した五十鈴さんとはドックへ来る途中に少しお話ししました。司令官さんともすぐお話しできると思うのです」

提督「筑摩の具合はどうだ?」

電「筑摩さんは中破でした。ただ、かなり疲れてるみたいで、いまはぐっすり寝てるそうです」

提督「そうか」

黒潮「五十鈴さんたちがここに漂着してきたんはなんでか聞いてる?」

電「詳しくは聞いていないのですが、鎮守府が差し押さえられたらしいのです」

提督「は?」

黒潮「差し押さえ? ……赤札でもべたべた貼られとったんかな」

電「そういうことみたいなのです」

黒潮「えええ……」
297 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/24(木) 22:50:21.36 ID:qDazUU2Wo

 * それから1時間後 *

五十鈴「五十鈴です」ペコリ

五十鈴「まずはお礼を言わせて。私たちを助けてくれて本当にありがとう」

提督「おう。とりあえずどこの所属で、なんで漂流してきたか、話してくれるか」

五十鈴「ええ。まず、私と筑摩さんは利提督の鎮守府に所属していたわ」

提督「所属していた、ってことは、過去形か?」

五十鈴「そこはちょっと希望的観測も入っているんだけど……」

黒潮「確定しとらんの?」

五十鈴「そうよ? だって私たち、鎮守府から逃げてきたんだもの」

黒潮「逃げた!?」

電「……のですか!?」

五十鈴「それでなんだけど、ここの提督さん……提督准尉さんだったかしら。私たちのことはもう本営には伝えてる?」

提督「いいや、まだだが?」

五十鈴「そう、それなら良かった」ニコ

五十鈴「これは私の個人的なお願いなんだけど、私をこの鎮守府の艦隊に加えてもらえないかしら?」
298 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/24(木) 22:51:06.14 ID:qDazUU2Wo

提督「それがお前の望みか」

五十鈴「ええ、そうよ」

黒潮「ふーん……」

電「ということは、あの質問はしなくていいですね?」

提督「まあ、そうだな」

五十鈴「? どんな質問をしようとしてたの?」

提督「お前は生きたいのか死にたいのかどっちだ、ってな」

五十鈴「何その質問……」ヒキッ

提督「自殺志願者は相手にしないことにしてんだよ」

提督「どうしてあの時に殺してくれなかった、なんて逆恨みされても困るからな。死にたい奴は相手にしたくない」

五十鈴「だったら私は死ぬ気はないわよ?」

電「それなら歓迎するのです! ですよね司令官さん!」パァ

提督「ああ」
299 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/24(木) 22:51:51.68 ID:qDazUU2Wo

黒潮「……なあ司令はん。二人がなんで鎮守府から逃げてきたか、訊いてもええ?」

提督「そうだな。話せるか?」

五十鈴「ええ、勿論よ」コク

五十鈴「とりあえず何から話せばいいかしら。私たちの鎮守府はかなりの大所帯だったの」

五十鈴「200人近い艦娘が朝も夜もなく出たり入ったり、せわしないながら戦果をあげてる鎮守府だったわ」

五十鈴「内容としては、大きな戦果をあげるんじゃなくて、地味で小さな戦果をこつこつ積み上げていくタイプね」

電「それはそれで重要な役割に思えるのです」

五十鈴「そうね。でも、あの日……本営が艦娘の存在をテレビで発表してから、いろいろとおかしくなっちゃったのよ」

黒潮「テレビやて……?」

五十鈴「そう。話を戻すけど、利提督鎮守府の主なお仕事は、近海のパトロールや遠征航路の調査と護衛……」

五十鈴「漁船とそれに随伴する護衛船への帯同とか、地味なお仕事が多かったの」

五十鈴「海軍が活動するうえで重要な活動のはずなんだけど、それだけに軽視されて注目されてなかったのよね」

電「聞く限り裏方さんのお仕事ですからね……」
300 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/24(木) 22:52:36.11 ID:qDazUU2Wo

五十鈴「でも、その甲斐あって民間には良い感じに見られてたみたいでね」

五十鈴「艦娘の存在を隠さずに済むようになってからは、地元の人たちに感謝されてたらしいのよ。挨拶とかもしてもらったし!」ニコニコ

五十鈴「ただ、その後が問題で……」ウーン

電「……そこからがテレビの話ですか?」

五十鈴「そう。テレビ局から取材が来たもんだから、利提督が舞い上がっちゃって。俺の時代が来たとか言って、まあ大騒ぎ」

五十鈴「主力の艦隊引き連れてテレビの取材に応じたり、出演料? とかを貰ってどっかで飲んできたり……」

五十鈴「利提督の私生活も派手になっちゃって、出撃も厭世も疎かになってきて」ハァ

五十鈴「結果的に利提督鎮守府の資金繰りが厳しくなって、利提督もどこで作ったのかわかんない借金が増えてて」

五十鈴「主力の艦娘がどんどん引き抜かれて、鎮守府の施設や備品もどんどん差し押さえられて、利提督も雲隠れしちゃって」

五十鈴「このままこの鎮守府にいたら艦娘も売り飛ばされるなんて話が出て、利提督鎮守府はもう滅茶苦茶」

五十鈴「それで私も、お世話になった筑摩さんと一緒に逃げてきたってわけ」

電「それで差し押さえなのですか……」

黒潮「……なんでや……」

五十鈴「なんでって……」

黒潮「なんでこんな大事になっとん……」ウナダレ
301 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/24(木) 22:53:23.53 ID:qDazUU2Wo

黒潮「やっぱりうちがあんなことせんかったら良かったんかあああ!?」

五十鈴「ちょっ、どうしたの!?」

電「く、黒潮ちゃん落ち着くのです!?」

提督「おい黒潮。艦娘がテレビに出ることになったことを自分のせいだと思ってんなら、そりゃ違うぞ」

黒潮「違うもんかい! うちのせいで大事に……」

 ガシッ

黒潮「い」アタマツカマレ

提督「……いいか黒潮? もう一回言っとくぞ?」

提督「お・ま・え・の・せ・い・じゃ・ね・え」ジロリ

黒潮「ヒィ」ミシッ

提督「返事は」

黒潮「ワ、ワカリマシタ」

提督「またくだらねえこと言い出したら、てめえの頭を握り潰すぞ」パッ

黒潮「ハヒ……」ガクブル

電「司令官さん……」アタマオサエ
302 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/24(木) 22:54:06.24 ID:qDazUU2Wo

提督「ったく、説得すんのも面倒臭えな」

五十鈴「それ、説得って言うの?」ヒキッ

提督「気にすんな。込み入った事情のある艦娘ばっかりなんでな、ちいと自虐が過ぎる奴も多いんだ」

提督「今の黒潮みたいに自分が原因じゃねえのにぐだぐだ言う奴は、無理矢理にでも前を向かせねえと駄目だな」ハァ

五十鈴「ネガティブな発言はしないほうがいいってこと?」

提督「いいや? 弱音吐きたいなら吐いてもいいさ、ただ、それに対する俺からのフォローに期待はすんな」

五十鈴「まあ、いいけど。せっかく生き残ったんだし、どうせなら前向きに……あ」

提督「? どうした」

五十鈴「確認したいんだけど……この鎮守府に、私以外の五十鈴はいるの?」

提督「いいや? お前と同じ顔は見たこと……なくは、ねえか。生きてるお前は初めてだな」

五十鈴「ちょっ……それ、どういう意味!?」

提督「あの浜に流れ着いてくる艦娘は珍しくねえが、お前らみたいに生きて流れ着いてくる奴らは珍しいんだよ」

五十鈴「うえぇ……!?」
303 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/24(木) 22:54:51.40 ID:qDazUU2Wo

黒潮「五十鈴はん、墓場島て聞いたことある?」

五十鈴「墓場島? き、聞いたことはないわ。物騒な名前ね……もしかしてここがそうなの?」

提督「ああ、この島がそう呼ばれてんだよ。この辺の潮流が特殊なせいで、轟沈した艦娘がよく打ち上げられてくるんだ」

電「司令官さんは、轟沈した艦娘をこの島の丘に埋葬しているのです。それでこの島は墓場島と呼ばれるようになりました」

提督「お前に似た奴も、埋葬したような記憶がある。同型かどうかはしっかり覚えてねえが……多分埋めてるな」

五十鈴「……」

黒潮「いや、埋めてるて、その言い方……五十鈴はんめっちゃ引いてるで」

提督「しょうがねえだろ。他に言い方あるか?」

電「司令官さんの発言にオブラートなんて気の利いたものはないのです」ハァァ

五十鈴「……ほんと、予想してたよりもひどい回答が返ってきて、正直ドン引きしてるんだけど……」

五十鈴「とにかく、私はここで普通に生活してもいいわけね?」

電「それは勿論なのです。ですよね、司令官さん」

提督「ああ」
304 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/24(木) 22:55:36.26 ID:qDazUU2Wo

黒潮「……」

電「? 黒潮ちゃんはどうしたのです?」

黒潮「うん? ああ……ちょっと失礼なこと、言ってしまうけど……」

黒潮「五十鈴はん、自分のいた鎮守府がえらいことになってんのに、あんまり悲しんでる感じやないよね?」

五十鈴「そうね。悲しいかって訊かれたら、私はそれほどでもないかしら」

五十鈴「仮に鎮守府が存続していたとしても、私はいずれ解体されてたわけだし」

提督「おい……どういう意味だそりゃ」

五十鈴「どういう意味もなにも、私、もう少し練度が上がったら、解体される予定だったのよ」

黒潮「!?」

提督「なんだそりゃ!?」ガタッ

五十鈴「そんなに珍しい話かしら。特定の艦娘は、改装すると珍しい装備が出来上がるの」

五十鈴「私の場合は電探なんだけど、それを作る方法がないから、数を手に入れるには五十鈴をたくさん改装するしかないのよ」

五十鈴「で、改装が終わって装備が手に入ったら、解体して資材にするか、近代化改装で他の艦娘の強化に使われるか」

提督「……」
305 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/24(木) 22:56:21.49 ID:qDazUU2Wo

電「司令官さん、五十鈴さんも言ってますけど、これはそんなに珍しい話じゃないのです」

電「大淀さんが悩んでいた解体任務も、これを見越しての話という説もありますし……」

五十鈴「私も他の五十鈴が解体されたりしてるのを見てきたから、ああ次は私の番かあ、って感じで割り切ってたつもりだったんだけどね」

五十鈴「でも、この鎮守府に私以外の五十鈴がいないなら、私が頑張らせてもらってもいいんじゃない?」ニコ

電「それは……そうなのです」

提督「……」

黒潮「解体される自分を見てきてたから、ここまで達観できてたってことやろな……」

提督「ま、いいけどよ……」ムスッ

黒潮「司令はん、そうは言うけどそのしかめっ顔……」

提督「気に入らねえってだけだ、くそが」ハァ

五十鈴「そこまで悲観することかしら。准尉さんも艦隊に同じ艦娘が二人以上になったこと、あるでしょ?」

提督「いや、うちの鎮守府の中ではねえな」

五十鈴「あら、そうなの?」
306 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/24(木) 22:57:07.58 ID:qDazUU2Wo

提督「とはいえ、確かに同じ艦娘が複数いるのは確かなんだよな。余所の鎮守府の長門や金剛や明石も見たし、利根や吹雪も見た」

提督「艦娘が最初から記憶を持っていて、かつ複数存在するのは、神霊の分祀によってできる説に似通ってる」

提督「同じ神様でも祀られ方によって性格が変わってくるのと似たようなもんで、艦娘に個性が出るのもその一環だとな」

提督「だからたくさん同じ艦娘が存在するし、仁提督が言っていた『艦娘を備品と思え』ってのも、そういう意味では一理ある」

提督「個人的には、受け入れたくはねえがな……」

電「司令官さん……」

黒潮「五十鈴はん、筑摩さんも同じ何人目かの筑摩さんなん?」

五十鈴「それは違うわ。利根型は筑摩さんは一人しかいなくって、利根さんは一人もいなかったの」

五十鈴「五十鈴は何人いたかしら。私の前に10人はいたと思うけど」

提督「偏ってんなあ……」

黒潮「この鎮守府も負けず劣らず偏っとると思うけどなあ?」

電「なのです」

提督「最後にもうひとつ訊いていいか? お前が鎮守府を抜け出してからその道中、羅針盤は見たか?」

五十鈴「羅針盤? 逃げてすぐは余裕がなくって見てなかったけど……その後で見ても全然あてにならなかったわ」

五十鈴「針がぐるぐる回ってて、どこへ行ったらいいかわからなくって」
307 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/24(木) 22:58:06.11 ID:qDazUU2Wo

五十鈴「二回だけかしら? 針がピタッと一方向を指すときがあったけど、その時以外は全然駄目」

提督「……ということは、もう元の鎮守府とは縁が切れてんだな」

五十鈴「え。なにそれ。そんな仕組みなの!?」

提督「所属する鎮守府から離反した奴はそうなるんだとよ」

黒潮「多分、その針が一方を向いたときも、危険が近づいたから近づくなって警告したんやろなあ」

五十鈴「初めて聞いたわよそんなの……」

提督「そりゃ、鎮守府から追放されなきゃ知る由もねえさ。うちの鎮守府には経験者が数人いるからわかる話だ」

五十鈴「数人……って、そんなに追放されてるの!? そんなこと何度も起こったら駄目でしょ……?」

提督「うちはうちでそういうのしか集まってこねえんだよ。こっちもこっちで偏ってんだ」

五十鈴「鎮守府と聞いて安心してたけど、想像以上にとんでもないところなのね、ここ」ガックリ

提督「まーな。まあ、ここに来たんなら、これ以上は悪くならねえようにするから、そこまで悲観すんな」

電「俗にいうブラックな鎮守府じゃないので、そこは安心してほしいのです」

提督「とりあえず誰かに鎮守府を案内させるか。電、誰か適任はいるか?」

電「同じ長良型の由良さんがいいと思うのです」

提督「由良? ……あいつと同型なのか? 制服が似てねえな」
308 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/24(木) 23:00:05.42 ID:qDazUU2Wo

電「長良型は一番艦から三番艦と、四番艦から六番艦までで建造時期に間があるのです」

電「五十鈴さんは長良型の二番艦、由良さんは四番艦なので、建造時期の差が制服の違いになってるのです」

提督「ふぅん……」

黒潮「ほな、由良はんと利根はん呼んでくるとええんかな?」

五十鈴「えっ、利根さんいるの? 良かった、筑摩さん喜ぶわ!」パァッ

提督「随分嬉しそうだな」

五十鈴「ええ! 筑摩さんには利根さんの身代わりにされてたし、私もやっと解放されるのね!」ルンルン

提督「……どういう意味だそりゃ」

五十鈴「どうって、そのままの意味よ? 私は利根さんの代わりにされてたの」

黒潮「まあ、確かに髪型はおんなじ感じやしねぇ」

五十鈴「一緒にご飯食べたりお風呂入ったり、寝るのも一緒で大変だったの。利根さんがいるなら安心ね!」

提督「……」

黒潮「……なんか、話しぶりから普通やない感じがするんやけど」

電「大丈夫なのですか……?」



提督「ところで、なんで五十鈴にははん付けで、筑摩はさんづけなんだ?」

黒潮「んー、筑摩さんとはまだ面と向かって話してないし、親しくもなってないしなあ」

電「じゃあ、電も電はんって呼んでもらえるですか!?」キラキラッ

黒潮「うんにゃ、同じ駆逐艦にはつけへんよ? 目上の人限定や」

電「」ガーン
309 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2020/12/24(木) 23:02:22.11 ID:qDazUU2Wo
今回はここまで。
利根とは違う意味で死の宣告を受けていた五十鈴の登場です。

既に二次創作ではだいぶ使い古された話ですが、
五十鈴の話の元ネタは皆さん御存知の電探増殖です。私もやりました。
那珂ちゃんの解体と同じくらいメジャーなネタではないでしょうか。
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/12/25(金) 20:30:32.21 ID:BygBReQp0

メジャーだけに悲しいね(那珂ちゃん嫁提督並感
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/12/26(土) 03:50:01.95 ID:3faEQDsg0

なんだろう。利提督はそこまで悪ではない感じがするんよね...悪意があったわけでもないし、やってる事は...悲しいけど俺たちがやってることと変わらない。だからブラックってわけでもない。借金=課金ってことに思えるし、自分たちを見てる気分になった。
単に世間知らずだったってのと、調子に乗りすぎたってだけで...俺たちも、ただ仕事をしてただけなのに取材とかテレビ出演とかの話来たらテンション上がっちゃうしね
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/12/28(月) 06:11:20.21 ID:1BvciNMy0
そうやって浮かれて取材受けて実際の内容と違うー改悪されてるーってTwitterで騒いでたコスプレイヤーとかそういう類の奴らを思い出す
取材させてくれって言われて浮かれるやつとか底辺オブ底辺じゃん小学生かよ
313 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/09(土) 13:11:17.59 ID:ENqWqgdKo
雑談するときはメール欄に sage と入力していただけるとありがたいです。

では続きです。
314 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/09(土) 13:12:32.73 ID:ENqWqgdKo

 * 午後 入渠ドック *

利根「明石! 筑摩が入渠しているそうじゃな!?」

明石「はい、来てますよ! 筑摩さんのいた鎮守府の話とかは聞いてます?」

利根「うむ、同行してきたという五十鈴から聞いておる。筑摩も、大変なところから逃げてきたのじゃな……」

明石「体の傷は治りましたから、ドックのプールからは出ましたけど、だいぶ疲れてるみたいでして、今はベッドに寝てもらっています」

明石「目を覚ますのは夕方くらいになるかもしれませんね」

利根「うむ、それも聞いてはおる」

利根「とはいえ、吾輩の可愛い妹じゃ。居ても立ってもいられなくなってな、寝顔だけでもと見に来たんじゃ」

明石「それもそうですよねえ」ニコー

利根「案ずるな、寝た子を起こすような真似はせん。少しだけ入らせてもらうぞ?」

明石「ええ、どうぞどうぞ!」
315 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/09(土) 13:13:17.40 ID:ENqWqgdKo

 * 入渠ドック内 医務室 *

利根(……こちらか)

筑摩「」スヤァ

利根(うむ。筑摩だ……間違いない)カオヲノゾキコミ

利根(……筑摩との再会を願ってはいたが、この島へ逃げ込まざるを得ない事態に追い込まれたのはいただけん)

利根(もっと違う形で……海上で見つけられれば、多少は良かったのかもな……)

筑摩「……ね……さん……」ムニャ

利根(目覚めたら、うんとねぎらってやらねばな)

利根「……ちくま。今はゆっくり休むのじゃ……」ヒソッ

筑摩「ん……」スヤ…

利根(笑っておる……可愛い寝顔じゃな)ニコ

利根(筑摩の顔も見られたし、長居は無用。戻るとするか)クルリ

 グッ

利根「うん?」

 (利根の服の裾を掴む筑摩)

筑摩「姉さん……」
316 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/09(土) 13:14:02.81 ID:ENqWqgdKo

利根「お、おお、起こしてしまったか。すまんな、ちく」

 グルンッ

 ドサッ

利根「……ま?」

利根(なんじゃ!? 何が起こった!)

利根(筑摩の手に引っ張られたと思ったら、抱きかかえられてそのままベッドに転がされて……)

筑摩「うふふ……利根姉さん……!」

利根(筑摩に、覆い被さられておる……!)

利根「の、のう、筑摩? これはいったい」

筑摩「逢いたかった……」

利根「……」

筑摩「逢いたかったです、利根姉さん……!」ニコ…

利根「う、うむ、そうじゃな! しかし筑摩、どうしてお前は吾輩の両腕を押さえつけて」

筑摩「利根姉さん……!」ス…ッ
317 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/09(土) 13:14:47.13 ID:ENqWqgdKo

利根「お、おい!? ちく」

 ヴチューーー

利根「……ちくま?」

筑摩「んもう、ひどいです姉さん、寸前に横を向くなんて」

利根「頬に吸い付きながら喋るでない」

筑摩「そうですか。では改めて」スッ ンチューー

利根「ふおお!?」バッ

筑摩「利根姉さん、じっとしててください。キスできないじゃないですか」チュッチュッチュッチュッ

利根「するでない! というか顔中にキスするなと言うておるのだぞ!?」キスマークマミレ

筑摩「え……?」

利根「なんじゃその信じられないとでも言いたげな顔は」

筑摩「普通ですよね?」チュッ

利根「普通でないわ!」バッ

筑摩「もう、利根姉さんったら、そんなに照れなくてもいいんですよ?」ググググッ

利根「照れておるとかそういう問題ではないっ!」ギリギリギリ

筑摩「そう、問題はなにもないんです。利根姉さん、さあ……!」ンチューー

利根「さあではないわーーーーー!」

明石「んもー、何をうるさくして……うわあ、お取込み中でしたか。ごゆっくりどうぞー」パタム

利根「待つんじゃ明石いいいいいいいい!!」ギリギリギリ

318 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/09(土) 13:15:32.01 ID:ENqWqgdKo

 * それからしばらくして *

筑摩「初めまして、利根型重巡洋艦二番艦、筑摩です」ニコニコ

提督「……」

明石「……」チラッ

提督の背に隠れる利根「……」コソッ

五十鈴「……提督?」

提督「ん、ああ。こうやって見てる限りはまともだな?」

五十鈴「まあ、こうやって見る限りはね……」

利根「……」チラッ

筑摩「!」キラキラキラッ

利根「」ビクッ

五十鈴「……」

提督「前言撤回。ものの見事に利根を見るときだけ目が光り輝いてんな……」

明石「こんなマンガみたいな展開、本当にあるんですねー……」
319 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/09(土) 13:16:17.53 ID:ENqWqgdKo

利根「提督よ……吾輩は、姉の唇を奪いに来る妹が世の中に実在するなんて聞いておらんぞ?」

提督「俺だって想定してねえよ。この鎮守府で姉妹でくっついて歩いてる連中だって、姉妹同士でキスするような間柄じゃねえ」

五十鈴「くっついて歩いてる……って、例えば誰が?」

提督「ぱっと思い付くのは金剛と比叡、暁と電、あと朝雲と山雲くらいか?」

提督「まあ、くっついてとは言ったが、普段から手をつないでるわけでもねえし、ずっとべたべたしてるわけでもねえ」

提督「扶桑の後をくっついて歩く山城も、物理的に触ってるわけじゃねえし……」

提督「ん? 待てよ? くっつかれてるのって、俺だけか?」タラリ

明石「今頃気付いたんですか。まあ提督はまだいいですよ、提督は男で艦娘は女だし、生物学的には普通ですよ。普通」

提督「我ながら示しがつかねえな……」アタマカカエ

明石(雲龍さんと龍驤さんはいつもべったりですけどね)

利根「ま、まあ、提督は仕方なかろう。艦娘同士ではさすがに……」

明石「……なくはないんですよねえ、今回みたいなケースも」

提督「あんのかよ」

明石「当然個人差はありますよ。こちらの筑摩さんも、利根さんに執着する理由があると思うんですけど」

五十鈴「それはあるわよ、当然だけど」

提督「あんのかよ……」
320 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/09(土) 13:17:03.29 ID:ENqWqgdKo

明石「例えばどんなですか?」

五十鈴「例えばも何も、利提督鎮守府には利根さんが来なくって、筑摩さんがずっと寂しがってたの」

五十鈴「それで、五十鈴が利根さんと髪型が似てるから、居ない間の身代わりみたいにされてたわけなんだけど……」

五十鈴「その五十鈴が育てられるたびに電探剥ぎ取られて、近代化改修に回されたり、そうでなければ解体でしょ?」

五十鈴「育てた端から解体されて、新しい同じ顔の艦娘を育成して……」

提督「賽の河原かよ……」

明石「どこから出てきたんですか、それ」

提督「ああ? 小さい子供が死ぬと賽の河原で石を積まされるんだよ、親不孝だからってな。一つ積んでは親のため、って、知らねーか?」

提督「で、積んでも積んでも獄卒が途中で倒すから、また最初からやり直し。そういう地獄があるってのを思い出しただけだ」

明石「地獄って……」

提督「地獄だろ。五十鈴は五十鈴で自分が解体されることを諦観して当然のように振る舞ってるし」

提督「筑摩は筑摩でさっきから一言も発さず、にこにこしながら利根をガン視してるだけなんだぞ」

筑摩「……」ニコニコ

利根「ヒィ」
321 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/09(土) 13:18:02.18 ID:ENqWqgdKo

提督「まともな鎮守府だったのか? 利提督とやらの治める鎮守府は」

明石「どうでしょうね〜。私もまともじゃない鎮守府にいましたから、まともの基準がわかりませんね。利根さんもそうでしょう?」

利根「う、うむ、吾輩が艦娘として活動できているのはこの鎮守府に来てからじゃからな」

提督「おい」ヒソッ

明石「どうしました?」

提督「昔話はその辺にしとけ。今の話で筑摩の目の色が変わったぞ」ヒソヒソ

筑摩「……」ギラリ

明石「……」

利根「……」

提督「あの様子じゃ利根の昔の鎮守府に殴り込みしに行っちまうかもしれねえな」

明石「も、もう少し落ち着いてから話したほうが良さそうですね」アセッ

提督「……仕方ねえ、長門と武蔵を呼ぶか」

明石「せ、戦艦のお二人ですか!?」

提督「出撃させてねえからいいだろ。長門は利根の事情を知ってるし、武蔵にはこの鎮守府のことを知ってもらういい機会だ」

提督「何かあったときに止められるかって意味でも、戦艦二人はオーバーじゃねえと思うが?」

提督「そもそも利根が俺の後ろに隠れるような状態だからな。でかいやつに守ってもらった方がいいだろ」

利根「う、うむ……」ビクビク

提督「俺はどうしようかねえ……筑摩を説得する方法でも考えるか?」

提督「何やっても藪蛇にしかならねえような気もするが……」

明石(そこまでわかってて、どうして愛情がわからないとか言い張るんですかねえこのひとは)ハァ…
322 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/09(土) 13:18:48.08 ID:ENqWqgdKo

 * *

霧島「姉妹でキスは一般的か……ですか?」

金剛「Hmm... Europe では、姉妹なら頬にするのが一般的デスネー」

金剛「夫婦や恋人でしたら mouth to mouth も普通デスけれど、姉妹の間でそこまでしたいと言われたら、私も少し心配になりマス」

提督「なるほど。霧島も意識に大差はないか?」

霧島「そうですね。お姉様たちをお慕いしてはいますが、だからと言ってキスをする文化は私たちにはありませんし」

霧島「それこそ金剛お姉様が常日頃から仰っている、時間と場所を弁えた行いだと思えません」

提督「……弁えなくてもいい時だったらどうだ?」

霧島「!? い、いえ、そうであってもそれはさすがに……!」マッカ

提督「だよなあ」

霧島「……し、司令、からかわないでいただけますか……!」

提督「からかっちゃいねえよ、むしろそういう場面だったらどうだったかって意味でも訊いておきたかったんだ」

霧島「そこまでの話なんですか!? それは深刻ですね……」
323 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/09(土) 13:19:32.08 ID:ENqWqgdKo

金剛「Hmm, おそらく筑摩が利根に向けた思いは、なかなかheavyなようデスネ」

 <コンゴウオネエサマー!

金剛「!」

比叡「お料理教室、終わりましたー!」コンゴウニダキツキー

金剛「Oh, 比叡は甘えん坊さんデスネー」ナデナデ

榛名「提督もいらしてたのですね!」

提督「ちょっと調べたいことがあってな」

金剛「さあ、比叡も榛名も tea time にしまショウ!」

比叡「はいっ!」スリスリ

提督「比叡は犬みてえだな……」

霧島「比叡お姉様は金剛お姉様を大変慕っておいでですが、やはり……」

提督「筑摩の態度は度が過ぎてる、ってことだよな?」

霧島「その認識で間違いないかと」

榛名「?」
324 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/09(土) 13:20:18.64 ID:ENqWqgdKo

 * *

那珂「姉妹艦で……そ、そんなことしないよ!? 絶対しませーん!」ブンブン

提督「だよなあ」

神通「あの、どうして私たちにそんな質問を……?」

提督「筑摩が利根にキスを迫ったんだよ。それが普通かどうかってのを聞き込みしたくてな」

提督「お前らには最初っからそういう答えを期待してて訊いたんだ。川内はよくわかんねえが、那珂も神通も常識的だし、貞淑でもあるしな」

那珂「貞淑……うわー、なんか品のある響き……!」ポ

提督「ま、那珂の場合はアイドルっつう肩書がある分、なおのことその手の話は御法度ってのもあるだろうが……」

那珂「提督さん、那珂ちゃんにそういう要素を求めてるんだ……!」モジモジ

提督「うん? 俺はそうだろうなと思っただけで、別にお前に貞淑さを求めてるわけじゃねえぞ?」

那珂「え? そうなの?」

提督「俺は那珂が何をセールスポイントにしてもかまわねえと思ってる。歌でも色気でも愛想でもな」

提督「どうせなら、那珂が好きなことややりたいことをやれりゃいいな、って思ってるだけだ」

那珂「提督さん……!」パァッ
325 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/09(土) 13:21:02.46 ID:ENqWqgdKo

提督「あー……ただ、俺個人の好みで言やあ、無知そのものを売りにするのはちょっとな……」

提督「わかってて馬鹿な真似ができるのは構わねえが、馬鹿を曝け出して受けを狙うのは恥でしかねえ」

提督「あ、それから飯の食い方が汚いのも勘弁だ。見苦しくない程度の教養とマナーくらいは身に着けててくれると、俺としては嬉しいかねえ」

那珂「はいっ!」ビシッ

提督「変なこと訊いて悪かった。邪魔したな」

神通「いえ……」

那珂「お疲れ様でーす!」フリフリ

神通「……」

那珂「えへへ……そっかぁ、提督さん、ちゃんと那珂ちゃんを見ててくれてるんだ……」テレテレ

神通「……」

那珂「……神通ちゃん?」

神通「……貞淑……」マッカ

那珂(あー、これ、神通ちゃんも脈ありってことなのかなあ)
326 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/09(土) 13:21:51.47 ID:ENqWqgdKo

 * *

山城「姉妹で……んななな、んなぁああああ!?」

山城「そんなことしたら死ぬに決まってるでしょう!?」

提督「死ぬ……?」

山城「そうよ! 私が! 嬉しさで!! 心臓が破裂するわ!!」

提督「……」

山城「何よ、大袈裟だって言いたいの!? 私は大真面目よ!?」

山城「そうでなかったとしても、鼻血程度で済めばいいわ! あの麗しい扶桑お姉様の唇の柔らかさと色気漂うつや……!」

山城「私の唇と触れ合おうものなら、きっと幸せのあまり昇天して帰ってこられなくなるわ……!!」アワワワ…

提督「……」

山城「はっ! ちょっと提督、あなた扶桑お姉様に同じことを訊くつもりじゃないでしょうね!?」

山城「あああ、怖い! 怖いわ! 扶桑お姉様が私にキスするところを想像させるなんて……」

山城「頬を赤らめて恥じらう扶桑お姉様なんて、想像しただけで……なんて、なんて絵になるの……芸術よ!?」カァァ

提督「……」
327 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/09(土) 13:22:34.01 ID:ENqWqgdKo

山城「……いえ、でも、もし! もしもよ!? 姉妹同士でキスだなんてと嫌悪感をあらわにでもされたら……いやあああああ!」ウズクマリ

山城「この私が扶桑お姉様にキスだなんてよこしまな妄想をしてしまったら……幻滅して、嫌われてしまわれても無理はないわ……!」

山城「あああ扶桑お姉様ごめんなさい……! この山城が不埒な妹であるばかりに……はっ! 妹でなければいいの!?」

提督「……」

山城「いいえ何を血迷ったことを言うの山城! 私は紛れもない扶桑型超弩級戦艦よ!?」スクッ

山城「この私が扶桑お姉様との縁を断つだなんて天地がひっくり返っても起こしてはならないことだわ!」

山城「そう、この山城……戦艦扶桑の妹の使命として、扶桑お姉様の唇を何人からもお守りしなければ……!」

提督「……」

山城「提督! 今の話、扶桑お姉様には絶対にしては駄目よ!? いいわねッ!?」ビシッ!

提督「まあ、いいけどよ……お前すげえな」タラリ

山城「は?」
328 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/09(土) 13:23:18.37 ID:ENqWqgdKo

 * *

三隈「普通ではありませんね。変だと思います」

提督「言い切ったな」

三隈「はい」

最上「僕もそう思うよ。そこまで行くと普通の姉妹の関係じゃないと思うなあ」

提督「……普通じゃない、ねえ」

三隈「例えばですけれど……」

 (最上と手をつないで見せる三隈)

三隈「提督、いかがです? 今の私たちはおかしく見えますか?」

提督「……見た目の年相応かと言われると微妙だな。まあ、仲が良い程度には見えるか」

最上(手が恋人握りになってるんだけど……)

三隈「それでいいと思いますわ。今の私たちを見て不愉快に思われる人もいるでしょうし、そうでない方もいらっしゃるでしょう?」

三隈「当人がまともだと主張するより、皆さんから見てどうかのほうが重要だと思います」

提督「……だとすると、筑摩の利根に対する態度も許容する奴はいるってことか? 難しいな」

三隈「はい。ですが重ねて申し上げますけれど、私の主観としては姉妹でキスするのは変だと思いますよ?」
329 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/09(土) 13:24:02.35 ID:ENqWqgdKo

三隈「例えばですけれど、こうやって腕を絡めたり……」ギュ

最上「!」

三隈「肩を寄せ合ってぴったりくっついたりしてるだけで、提督もくっつきすぎだって思うでしょう?」ピト

提督「……最上はどう思うよ」

最上「えっ? い、いや、ちょっと照れるかな……三隈にこうやってくっつかれたこと、今までなかったし」

提督「なるほど……」

三隈「……これ、いいですわね」

最上「三隈?」

三隈「……私、気付いてしまったんです」

三隈「部提督が最上さんにセクハラするのを忌々しく思っていたのは、嫉妬していたからだって」

最上「へ?」

三隈「最上さんが他の人に好き勝手されるのを嫌だと思う感情が、嫉妬ではなかったらなんだと思います?」ズイ

最上「そ、それは……」

三隈「……」ジーッ

最上「……」

 チュッ

最上「ひょわあっ!?」ホッペオサエ
330 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/09(土) 13:24:47.45 ID:ENqWqgdKo

三隈「……やっぱり変ですわ」フゥ

提督「三隈?」

三隈「私、やっぱり最上さんのことが普通じゃないくらい好きみたいです」

最上「え、えええ!?」

三隈「だって最上さんは私にキスされてこんなに驚いてらっしゃいますもの。私の好きの表現は、最上さんにはきっと普通ではないんでしょう」

三隈「そして、普通ではないことが変だというのなら、私は変だと言えますわよね?」

提督「そうかもしれねえが……お前は自分を自己否定すんのか?」

三隈「いいえ、自己否定しているつもりはありません。私は私が変であることを受け入れているだけですわ」

三隈「提督も、妖精さんとお話しできるのが自分だけだと気付いたときに、自分が他人とは違うと認識なさいませんでした?」

提督「……確かに、変だとは思ったな」

最上「なんていうか、提督が妖精さんと話せるのを『変だ』って思うのは嫌だなあ。いや、単に言い方の問題だけどさ?」プー

三隈「最上さんはお優しいんですね」ウフフ

提督「……」

三隈「なんにしても、行動であれ思想であれ、他人を不愉快にさせない思い遣りを持てば、何事も問題ないと思いますわ」

三隈「私の最上さんに対する気持ちも、最上さんが受け入れられないのなら自重すべきでしょう?」
331 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/09(土) 13:25:47.06 ID:ENqWqgdKo

三隈「そうでないと、私の行為も、部提督やあの鎮守府にいた人たちと同じになってしまいます」

提督「拒まれたらどうすんだ」

三隈「その時は胸に秘めたままに致します。忍ぶ恋こそ至極なり、という言葉もありますし」

最上「僕がいる席でここまで言っちゃったら、忍ぶも何もないんじゃないの? ……まあ、いいけどさ?」

三隈「いいんですか!?」キラッ

最上「あー、うん……いいけど、いきなりチューはやめてよ?」

三隈「はい!」ニコニコ

提督「最上……いいのかよ」

最上「三隈のことは嫌いじゃないよ。ここまで好意を寄せられてるのは予想してなかったけど」

最上「でも、まあ……うん。やっぱり……僕は三隈のことを嫌いになりたくないしね」

三隈「それではお互い嫌いにならないように、少しずつ距離を縮めていきましょう?」ウデツカミ

最上「も、もうずいぶん近いと思うんだけどなあ……」テレッ
332 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/09(土) 13:26:52.63 ID:ENqWqgdKo

三隈「嫌なら振り払ってくださってもいいんですよ?」

提督「三隈……お前、最上が振り払えないってわかってて言ってるだろ?」

三隈「そんなことはありませんわ?」

最上「……うー……」

提督「お人好しってのは、こうやって篭絡されていくんだな。勉強になるぜ」ハァァ

三隈(そう仰る提督も大概だと思いますけれど)

三隈「あの、提督? だいぶ本筋から逸れましたけれど、筑摩さんは危険な状態にあると思いますよ?」

提督「……!」

三隈「筑摩さんは五十鈴さんを身代わりになさっていたんでしょう? そして、五十鈴さんは改装できる練度になるたび解体されたと」

三隈「筑摩さんは愛情を注ぐ相手を何度も殺されてきたわけです。私が筑摩さんの立場だったら、狂ってしまうかもしれません」

提督「一応だが、だからこそ戦艦二人を間に付けたんだが……」

三隈「心配ですわね……」

最上(僕はいつまで三隈に抱き着かれていればいいんだろう)セキメン
333 : ◆EyREdFoqVQ [saga]:2021/01/09(土) 13:28:12.55 ID:ENqWqgdKo
というわけで今回はここまで。
334 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/26(火) 23:04:45.71 ID:Zv5Aj/0to
それでは続きです。
335 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/26(火) 23:05:50.16 ID:Zv5Aj/0to

 * 夜 *

利根「……」

武蔵「利根、大丈夫か?」

利根「う、うむ……」チラッ

筑摩「どうしました? 利根姉さん」ニコッ

利根「い、いや、なんでもない」

武蔵「……」

利根「のう、武蔵よ……筑摩はいつ吾輩から視線を外しておるんじゃ?」

武蔵「……うむぅ……」タラリ

利根「こうも見つめ続けられると、そのうち吾輩の体に穴が開いてしまわないか心配になってくるぞ……」

長門「筑摩」

筑摩「はい?」

長門「……せめて話しかけられた時くらい、こちらを見ないか?」

筑摩「ええ、それはやぶさかではないのですが……」

筑摩「ついに出逢えた利根姉さんが愛おしすぎて、どうしても目を奪われてしまうんです」ポ

長門(これは聞く耳を持たないパターンか……)

筑摩「あ、武蔵さん、利根姉さんが見えないのでちょっと左に」

長門「筑摩……」ゲンナリ
336 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/26(火) 23:06:34.80 ID:Zv5Aj/0to

 * 翌日の午後 執務室 *

提督「……」ゲンナリ

五月雨「提督、しっかりしてください!」

提督「いやもうやってられっかよ、もうマジで面倒くせー匙ぶん投げんぞくそがー」

五月雨「もう匙どころじゃなく投げ遣りじゃないですか!」

大淀「そんなにひどいんですか? 筑摩さん」

五月雨「は、はい、何かお願いしようとしても『忙しいから後でお願いします』って言われてもうそれっきりで」

五月雨「何が忙しいのかと思えば、利根さんをじーっと見てるんです」

提督「あいつ、昨晩も利根と一緒の部屋に寝るとか言って聞かなかったうえに、利根の布団に潜り込んできたらしいからな」

提督「利根が俺の部屋に飛び込んできて助けを求められたんで部屋を分けたら、今度は夜通し壁に耳を付けて利根が寝てるか聞き耳立ててたそうだ」

五月雨「……」

大淀「……誰から聞いたんですか」

提督「利根の装備妖精。あれじゃ利根も休んだうちにはいらないって嘆いてたぜ」
337 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/26(火) 23:07:34.87 ID:Zv5Aj/0to

 扉< コンコン

黒潮「黒潮やー」

提督「おう、入れ」

黒潮「司令はーん、あれはあかんよー?」ガチャ

大淀「黒潮さん、今日は一日お休みのはずでは?」

黒潮「うん、だから筑摩はんたちが気になって見に行ったんやけど、あれはないわー」

黒潮「長門はんも言うてたけど、利根はんから絶対に20メートル以上距離取ろうとしてないんよ」

提督「一日経ってもそんな調子かよ……」

黒潮「なんか利根はんがトイレ行く時も、壁に耳付けて聞き耳立ててたって言うし?」

五月雨「」ドンビキ

大淀「」ドンビキ

提督「大淀はともかく、五月雨がこんな顔してるのは初めてだな」

五月雨「そ、そんなのんきなこと言ってる場合じゃないですよ!?」

提督「わかってるよ、んなことは……ん?」

 ドドドドドド バンッ!

白露「提督、大変だよ!!」

提督「……今度はなんだよ」

白露「筑摩さんが利根さんを連れ去ったって!!」

提督「あぁ!? 武蔵と長門はどうした!?」ガタッ

白露「長門さんがトイレに入ってる間に、武蔵さんが抜かれちゃったんだって!」
338 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/26(火) 23:08:35.32 ID:Zv5Aj/0to

提督「っだああ、くそ! 武蔵に経験積ませるつもりが甘かったってか!?」

黒潮「ちゅうか、筑摩はん大和型を躱すとか何者なん……」タラリ

提督「大淀! 龍驤と雲龍に緊急連絡! 偵察機飛ばして筑摩を捜させろ!! 終わったら館内放送で全体連絡頼む!」

大淀「は、はいっ!」

提督「五月雨は五十鈴と一緒に筑摩を探せ! 五十鈴は由良と埠頭にいるはずだ!」

五月雨「わ、わかりました!!」

提督「白露! 武蔵たちが出し抜かれたのはどこのトイレだ! どっちに逃げた!」

白露「えっと、食堂の隣だよ! みんなの個室の方に逃げたって!」

提督「だとすると利根の部屋か!? 白露、利根の部屋はわかるな、急行しろ! 俺も行く!」

白露「了解! あたしに任せて!」ガシッ

提督「ん?」シラツユニツカマレ

白露「提督、しっかりつかまっててね!」ググッ

提督「お、おい、連れてけって意味じゃ」

白露「白露、出撃します!!」ダッ!

提督「ちょ待うおおおおおお!?」グイーー

 ドドドドドド…

五月雨「だ、大丈夫なんでしょうか……」

黒潮「あかんやろあれは……」アオザメ
339 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/26(火) 23:09:19.89 ID:Zv5Aj/0to

 * 利根の部屋の前 *

 ドドドドドド…

白露「いっちばーーん!」キキーッ

提督「うおおおお!?」ガクーッ

白露「はー、はー……提督、着いたよ!」

提督「……じ、ジェットコースターかよ……乗ったことねえけど……」ゼーゼー

提督「け、けど、思ってたよりくっそ早く着いちまったぜ……」ヨロッ

提督「よし、入るぞ……」ドアノブテヲカケ

白露「うん!」

 扉<バンッ!

提督「利根!!」

 シーン…

提督「……」

白露「……誰もいないね?」

提督「ここじゃねえのか?」
340 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/26(火) 23:10:04.78 ID:Zv5Aj/0to

白露「提督、隣が筑摩さんの部屋だっけ?」ガチャ

白露「こっちにもいないね……気配なーし」

提督「……どういうこった」

 ブルーン!

提督「!」

白露「あ、あれ見て、流星改! 多分龍驤さんのだよ!」

流星に乗った島妖精A「提督! あの二人は入渠ドックの方に向かったぞ!」

提督「ドックだと!?」

白露「なんでそっちに行っちゃったの!? 逆方向じゃない!?」

提督「筑摩は昨日来たばかりだ。道を間違えたってのも十分あり得る」

白露「そ、そっか……」

提督「それに筑摩は一緒に寝たがってたからな。ベッドがあるって意味ならそっちに行くのもわかるが……」

白露「でも、個室はないよね?」

提督「個室?」

白露「うん。二人きりになりたかったんじゃないの?」

提督「……なるほど、だとすると他人に邪魔されずに済む場所か」

白露「うーん……どこだろう?」

提督「個室……個室……そうか! あったぞ白露……!」

白露「え!?」
341 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/26(火) 23:10:50.33 ID:Zv5Aj/0to

 * 個人用浴場の一室 *

 扉<バタン! ガチャッ

利根「んー! んむー!? ぷはっ、ち、筑摩! おぬし……!」

筑摩「……んふふふふ。利根姉さん……」ニィッ

利根「……」ゾクッ

筑摩「昨日はどうして、一緒にお風呂に入ってくれなかったんですか?」

筑摩「せっかく利根姉さんの背中を流してあげようと思っていたのに……頑なに拒否するんですもの。がっかりしてしまいました」

利根「……ならん」

筑摩「どうしてです?」

利根(吾輩は筑摩の姉じゃ……だからこそ、この体の傷は、見せられたものではない)

利根(姉が、妹に情けない姿を見せるわけにはいかん……!)

利根「吾輩の裸は、誰にも見せられん。見せたくないんじゃ……!」

筑摩「妹だとしてもですか」

利根「ああ」

筑摩「……」
342 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/26(火) 23:11:34.97 ID:Zv5Aj/0to

利根「……」

筑摩「……」ハァ…

利根「……のう、ちく」

筑摩「姉さん」ガシッ

利根「ま……?」

筑摩「いけませんよ姉さん、姉妹の間で隠し事なんて」

利根「お、おい、ちく」

筑摩「私の利根姉さんは私に何でも打ち明けてくれるんです」

筑摩「私の利根姉さんは私を頼りにして甘えてくれるんです」

筑摩「私の利根姉さんは私にやさしく微笑んでくれるんです」

筑摩「私の利根姉さんは私のことを可愛がってくれるんです」

筑摩「私の利根姉さんは私をいつも気にかけてくれるんです」

筑摩「そうですよね、利根姉さん?」ニコッ

利根「……っ」ゾクッ

筑摩「そう、ですよね?」

利根「……」ジリッ
343 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/26(火) 23:12:19.96 ID:Zv5Aj/0to

筑摩「大好きな大好きな利根姉さん」

筑摩「いつも前向きで朗らかで」

筑摩「ちょっぴりせっかちで子供っぽくて」

筑摩「私とずっと一緒にいてくれる」

筑摩「利根姉さんは、そういう艦娘ですよね?」

利根「……ちく、ま……」

筑摩「ですよね、利根姉さん?」

利根「ち……」

筑摩「私の利根姉さんは、きっと『さすが筑摩じゃ、よくわかっておるな!』と、褒めてくれるんです」

筑摩「そうですよね?」ズイ

利根「……」ビクッ

利根(筑摩の目が……どこかで……)

 ドクン

利根「……あ」

 ――利根

利根「……ア……!」ガクガク

利根(貴様は……M提督……!?)ヘナヘナ ペタン
344 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/26(火) 23:13:05.17 ID:Zv5Aj/0to

利根「……い、や……」ズザッ

筑摩「利根姉さん……!?」

利根「……く……るな……」ガタガタ

利根「……こ、な……いで……く、れぇ……!」ブルブルガタガタ

筑摩「え……!? ねえ、さん……!?」

 ――なんだ、つれないな。どうして逃げるんだ?

利根「っひ、ひぃいいいい!!」ズザザッ

 ――いいぞ、もっと怯えた顔を見せてくれ

利根「い……や……!」ボロボロボロ

利根「……もう……い……イ……」パクパク

利根(息が……声が、出ない……!)

利根「……ア……ガ……!」ピクピク

 ――どうしたんだ? 元気がないな

利根(来るな……来る、な……!!)

筑摩「姉さん、どうしたんですか!? 姉さん!?」ユサユサ

 ――利根は可愛いな、ふふふ……

利根(来ないでくれぇ……!!)

利根「……ッ…………ッ!」フルフル

筑摩「利根姉さんっ! しっかり……!」

利根「…………グ……ゲ……!」ガクンガクン

筑摩「なんで……どうして!? 姉さん! 姉さんっ!!」

 扉<ガチャガチャッ

提督の声「くそ、鍵かかってやがる! おい筑摩開けろ! いるんだろ!!」ドンドン

筑摩「!」
345 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/26(火) 23:14:34.65 ID:Zv5Aj/0to

 * 入渠ドック内 医務室 *

利根「」スー…

明石「利根さんには鎮静剤を打ちました。今は薬も効いて落ち着いたようです」

提督「そうか」

 扉<コンコン

武蔵「提督……!」ガチャ

提督「!」

武蔵「提督、申し訳ない……! この武蔵、不覚を……」ドゲザ

提督「やめろ武蔵、土下座なんかしてんじゃねえぞ。ほれ、立て」グイ

武蔵「し、しかし、私のせいで利根が……」

提督「筑摩の利根に対する執念が強すぎたんだ。俺の筑摩に対する見込みが甘かったんだよ、お前のせいじゃねえ」

提督「それとも、お前の練度が高けりゃ確実に防げてたってか? そうやって自惚れてたらもっと結果は酷くなってただろうな」

武蔵「くっ……」

 ゾロゾロ…

龍驤「……利根、少しは落ち着いたんかな?」

提督「ああ、なんとかな。急だったのにありがとな」
346 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/26(火) 23:15:19.87 ID:Zv5Aj/0to

雲龍「もっと早く捜せれば良かったんだけど……」

長門「提督、すまない……」

提督「しょうがねえよ、気にすんな。白露、筑摩はどうしてる」

白露「工廠へ連れてってからもずーっと動けないでいるよ。五十鈴さんが来てからも俯いたまんまだし……」

白露「ねえ、利根さんが前の鎮守府で殺されそうになったって本当なの?」

提督「まあな。ただ、寝てるとはいえ、利根の前で話すわけにもいかねえ。みんな工廠へ移動してくれ」

長門「……わかった」

 ゾロゾロ…

提督「明石、利根を任せていいか?」

明石「はい、お任せくだ……」

利根「……かし……」ボソッ

明石「! 利根さん!?」

利根「……」ボソボソ…

明石「……提督。利根さんが提督と二人だけでお話ししたいそうです」

提督「俺とか? ……わかった」
347 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/26(火) 23:16:04.77 ID:Zv5Aj/0to

提督「明石、工廠にいる奴らに利根の鎮守府の事件のこと、軽く話せるか?」ヒソッ

明石「……わかりました。本営が出した資料で説明します」スクッ

提督「頼む」

 スタスタ パタム

提督「……」

利根「」スー…

 (利根のベッドのわきの椅子に提督が座る)

提督「……」

利根「」スー…

提督「……利根? 寝てんのか?」

利根「……すまぬが……眠ったままで失礼するぞ、准尉」

提督「あ、ああ、そりゃ構わねえが……?」

提督(利根が俺を呼ぶときは『提督』って呼んでたよな?)

利根「吾輩は……いや、違うな。吾輩『たち』は利根である」

提督「たち……?」
348 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/26(火) 23:16:50.42 ID:Zv5Aj/0to

利根「うむ。吾輩たちは利根ではあるが、貴様の知る利根ではない。吾輩たちは、M提督に殺された利根たちの魂だ」

提督「!!」

利根「吾輩たちはもとは5人であったが、今では自他の区別がつかん。もはや一人のようなものではあるが……吾輩たちと呼ぶ方がしっくりくる」

提督「雲龍が言ってた、利根に複数の霊が取り憑いているっていう話は、お前たちのことか……」

利根「ほう、吾輩たちの気配に感付いていたか。なれば今後は雲龍に助けを呼ぶべきか」

利根「過去にも何度か貴様に声を送ったが、まともに聞こえたのは一度か二度かであったからの」

提督「川内の様子がおかしいって警告してた時か?」

利根「いいや? さすがに覚えてはおらんか。朧が弱って取り憑かれたときに声をかけたのだが」

提督「あのとき、俺の部屋に出たやつか……!」

利根「……うむ、どうやらかろうじて声は届いておったようじゃの」

利根「神通に川内の異常を伝えたときは、こうやって眠っている利根の体を借りて神通に伝えたのだ」

利根「宿主であるこの利根から離れてしまうと、吾輩たちの力も弱まってしまうのでな。あの晩は運が良かった」

提督「……」アタマオサエ

利根「む、准尉よ、大丈夫か?」

提督「ちょっといろいろ頭が追い付かねえだけだ。まさか幽霊と話すことになるとは思いもしなかったぜ」

利根「なに、少し変わった妖精だと思えばよかろう。深く考えても埒は開かんぞ」

提督「……」
349 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/26(火) 23:17:34.90 ID:Zv5Aj/0to

利根「さて、准尉よ。話というのは他でもない筑摩のことだ」

利根「利根がこのような事態になったのは、今回の件に限っては残念ながら筑摩がきっかけである」

利根「筑摩の利根を見る目が、M准将の目と同じであった。それゆえに利根はあやつを思い出し、錯乱したのだ」

提督「……フラッシュバックってやつか? 不知火が言ってたな」

利根「かくいう吾輩たちもM准将には酷い目に遭わされたが、この利根程ではない」

利根「この利根は、理不尽な責め苦の末に一度感情を手放しておる。壊れたところに体を焼かれ、挙句その身を食われそうになったのだ」

提督「食……!? それで、あの火傷の痕かよ……!」

利根「そんな相手が、吾輩たちに大真面目に愛を囁いておったのだから、まともでおられぬのは当然よな……」

利根「そして筑摩も同様に不憫である。この利根に対する愛を注ごうにも、その相手が愛に怯えてしまうのではな」

利根「ゆえに准尉、貴様に頼みたい。この利根と、筑摩を、どうか助けてやってくれ」

提督「……」

利根「……」

提督「助けてやれ、ってか」

利根「ああ」

提督「……」
350 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/26(火) 23:18:20.16 ID:Zv5Aj/0to

利根「准尉……!」

提督「くあぁ、ああわかったよ面倒臭えな、くそっ。やるよ、やってやるよ、くっそ苦手分野な話だけどな……!」

利根「……!」

提督「で、一応訊くが、お前らはなにもしないんだな?」

利根「死んでいる吾輩たちの存在は混乱の種にしかならんよ。特に筑摩には気付かれるわけには行かぬな」

利根「吾輩たちも直接筑摩を助けたい気持ちはあるが、死者は生者の愛に応えてはならんのだ。生きている者を『こちら』に招いてしまう」

提督「幽霊がこの世に長いこと留まってると、人に害をなすとか雲龍が言ってたが……」

利根「おそらくは、死者が生者を羨むがゆえ、であるな。生きている者に対する嫉妬によって恨みが増すのだろうよ」

利根「そこへいくと吾輩たちは逆じゃな。日々利根とともに艦娘としての役割を疑似体験させてもらっておる」

利根「5人分あった怨念が日々の生活体験によって満足しておるのでな、六割か七割くらいは成仏したようなものじゃ」

提督「残りの三割はなんだ? まだ恨みがあるのか?」

利根「未練……じゃな。こうやっておぬしたちと吾輩たちがコミュニケーションを取れないのは、それなりにストレスになっておる」

利根「M准将とは真っ当な話もできなかったのだ。貴様とこうして会話できること自体、望外の喜びでもある」

提督「……」

利根「まあ、それはさておいてだ……あの筑摩を普通に説得するのは難しそうじゃの」
351 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/26(火) 23:19:50.02 ID:Zv5Aj/0to

利根「吾輩たちの見立てでは、憧れが強すぎたが故に、筑摩は自分の中に理想の利根を作ってしまっておる。此度の暴走もおそらくそのためか」

利根「利根は利根で自らの弱みを筑摩に見せたり、心配させるのが恥ずかしいと思っておる。この体の傷も隠し通したいと思っているようじゃ」

提督「体の傷は筑摩だけに限ったわけじゃねえと思ってるがな。あれを他人に見せるのは相当に勇気がいるんじゃねえか?」

提督「利根もだいぶ落ち着いたと思うが、あの出来事を利根の口から誰かに話せちゃいないだろ」

利根「うむ……いずれにしても、説明や説得もなしに筑摩がこの利根へのスキンシップを止めるとは思えんな」

利根「同衾どころか風呂にも迫ってくる程だ、あの筑摩は少々クサレの気が見える。吾輩たちとしても心配である」

提督「腐れ……?」

利根「クレイジーサイコレズの略じゃぞ。男性の同性愛を好むことを『腐る』と言うこともあるようじゃが」

提督「……どっから仕入れてきてんだその知識」ヒキッ

利根「余所の艦娘が差し入れとして持ってきた、段ボール箱いっぱいの春画本からじゃな」

提督「卯月かよ……!」アタマカカエ

利根「貴様は好かぬかもしれんが、年頃の娘が集まれば姦しくもなる。見逃してやるが良い、貴様が同衾を許すのと同じ、いわばガス抜きじゃ」

提督「別に取り上げたりしねえよ……俺が巻き込まれなきゃあいいんだがな」
352 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2021/01/26(火) 23:24:47.40 ID:Zv5Aj/0to

利根「冗談はさておき、筑摩の利根に対する執着は相当なものだ。なんとかうまい落としどころを考えて欲しい」

提督「……落としどころねえ……」

利根「貴様は不器用ながらも人を案じてくれるし、それよりなにより運が良い……」

提督「運……?」

 (利根の顔が提督の方を向き)

利根「でなくば吾輩たちと話すこともなかったであろうからな……!」

提督「……!」

 (ゆっくりと開かれた利根の両目が青白い光を放っている)

利根「ふふふ……頼むぞ准尉。吾輩たちは草葉の陰から応援しておるぞ」

提督「……っ!」

利根「ではな……さらばだ、准尉……」

 (目を開いたときと同じように、利根がゆっくりと目を閉じて、そのまま眠りにつく)

提督「……ったく。草葉の陰、か……幽霊が言うなよ、洒落が効きすぎだ」ハァ

利根「」スー…

提督「……良く寝てやがる。いっそ暁みたいに忘れられりゃ楽なんだろうけどな……体の傷もあることだし、そうはいかねえか」ハァ…

提督「とにかく、筑摩をなんとかしねえとな……」
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