【デレマスSS】黄昏に君とすれ違う【依田芳乃】

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/15(水) 21:48:08.67 ID:hsoGf+RM0
・アイドルマスターシンデレラガールズ及びスターライトステージの二次創作です
・ト書き形式ではないです
・いわゆるアイドルのクラスメイト(モブ)視点一人称です
・オリジナルのキャラ、独自設定要素を含みます
・依田芳乃さんがメインですが顔出しは全体の三割くらいになります
・約25000字、書き溜め済みです。60レス行かない程度の量になります

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1579092488
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/15(水) 21:49:53.11 ID:hsoGf+RM0

 ――わたあめみたいな声だな、と最初は思った。



   ■1

 高校生になって初めての夏季休暇が呆気なく終わり、長めの残暑もようやく落ち着いてきた頃、自分が通う学校に転校生が来るらしいという話を噂で聞いた。
 まあその時はこんな中途半端な時期になんだか珍しいな程度のことしか考えてなかったけど、件の転校生がうちのクラスに転入してくるとなると、完全に他人事というわけにもいかなくなる。

 できればおとなしい人でありますようにというぼくの祈りは、半分当たって半分外れていた。
 迎えた転入当日、朝のホームルームで現れたのは女の子だった。
 担任教師が呼ぶ声に合わせてゆっくり引き戸を開け、しずしずと歩いてくる姿はどことなく上品さが窺えるもので、なのに外見は中学生と見紛うくらいに幼い。
 身長だけ見れば決して低過ぎるというわけでもないけれど、面立ちがそう感じさせるんだろう。

「わたくし、依田は芳乃と申しましてー」

 黒板にやたら達筆な字で名前を書いて、彼女はそう名乗った。間延びした、独特なテンポの喋り。
 ぼくはそれを、わたあめみたいな声だな、と最初は思った。
 ふわふわして柔らかくて、甘やかで……けれど中心には結構しっかりした芯がありそうな、そういう声。
 その印象が間違ってなかったと知るのは、もうしばらく後の話だ。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/15(水) 21:51:33.14 ID:hsoGf+RM0

   ■2

 担任の言うところによると、彼女――依田さんは『アイドル』らしい。だから学校を仕事で休むこともあるんだと。
 ホームルーム後、授業を挟んだ最初の休み時間に興味津々なクラスメイトがいっぱい彼女の席に集まって、あれやこれやと質問を投げかけていた。

「テレビに出て、ライブとかするあのアイドル?」と誰かが聞いて「まだテレビには出られておりませんがー、まさしくそのアイドルでしてー」と彼女が返す。
 それをぼくは背中で聞きながら、貝のように唇を閉ざしていた。
 何の因果か、依田さんの席はぼくの真後ろになった。
 いや、窓際のこの列だけ一人分スペース空いてたからなんだけど、おかげで静かだった席周りが大変賑わしい。
 きゃいきゃいがやがや、主に女子の高い声が容赦なく後頭部を叩いてくる。
 その中で穏やかな依田さんの声は、姦しさに混ざっていてもするりと耳に入り込んできた。

 あまりアイドルに詳しくない、どころか胸を張って疎いと言えるぼくだけど、彼女たちの仕事が主に歌ったり踊ったりすることだってくらいは知っている。
 たまにテレビで見かけるし、さっきそうだと頷いてたのも聞いてたし。だとすれば依田さんの歌声は、きっと優しいんだろうな、とぼんやり考える。

 授業中の彼女は基本的に大人しくて、でも少しだけひとりごとが多かった。
 つらつら黒板に要点を書きながら、教科書の中身を要約する先生の挙動に合わせて「ふむー」とか「なるほどー」とか、小声で相槌を打つんだけど、たぶん教室のみんなに聞こえてる。当然先生にも。
 どの相槌も見計らったように綺麗なタイミングで来るものだから、先生は気を良くして、授業の語りにも熱が入る。
 結局それは、他の科目でも同様だった。気難しいと評判の数学教師でさえ、ご機嫌な様子で帰っていったくらいだ。

 転校初日でひとつ、わかったことがある。
 依田さんは、天性の聞き上手だ。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/15(水) 21:52:34.32 ID:hsoGf+RM0

   ■3

 彼女はクラスにもあっという間に溶け込んだ。馴染んだといった方がいいのかもしれない。
 男子にも女子にも分け隔てなく接するし、質問責めにも全く嫌がらず笑顔で答えてくれる。
 度量が広いというか、おおらかというか……それでいて見た目の幼さからか、時折見せる小動物的な仕草に庇護欲をそそられるのか、転校二日目には友達という名の女子バリアが築かれ、下心ありありの男子はすげなく弾かれるようになった。

 そのノリは当然のように昼休みも継続するので、ぼくは依田さんと一緒にお昼を食べたがる女子に、自分の席を譲る日が増えた。
 毎日じゃないのは、彼女が学校をちょくちょく休むのと、他のクラスだったり中庭や屋上だったりに連れ出されることがあるからだ。
 そんなわけで自席にいられない時は、人の行き来が少ない場所を探して、そこで昼食を済ませることにしている。

 正直、騒がしいのは苦手だった。だからクラスメイトとの交流も最低限だ。
 ぼくはおそらくクラス内だと『無口でぼっちな目立たない男子』程度にしか思われていないだろう。
 そういう風に立ち回ってきたし、これからもそういう扱いで構わない。

 けれど、例えば授業の途中だとか、帰り際だとか……背後から、視線を感じることがある。何となく。何となくだ。
 見られてるように感じるけど、それがどういう意味なのかまではわからない。
 真後ろの席に座ってるんだから、視界にぼくの背中が入っても不自然じゃないし、自意識過剰と言われればそうかもしれない。
 ただ、もし彼女にとって興味を惹かれるような何がしかがぼくにあるんだとしたら……それはいったい、何なんだろう。
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