【ミリマス】育「おもちゃのチャチャチャ」

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20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:52:22.68 ID:uct5lrwh0
――その日の夜


律子「それじゃあ明日はいよいよ全体での初レッスンよ。朝一番からビシバシ行くからしっかり準備してくること」

亜美「えーっそりゃないっしょ。亜美たち冬休みサンジョーでずーっと頑張ってるんだから、まずはご褒美をくれないと」

律子「それを言うなら返上でしょ。この時期に忙しいのはアイドルにとっては喜ばしいことなんだから、その事実がご褒美よ」

真美「そんなー!」

律子「あと、ステージは午前中に舞台装置の設置と調整をするから立ち入り禁止ね。安全確認が終わり次第、午後から班ごとに順番でステージリハを行うわ」

律子「トップバッターは亜美たちの班なんだから、明日の午後までにリハができるまでに仕上げておくのよ。でなきゃ他のみんなにまで影響出るんだから」

律子「というわけで解散!」

全員「お疲れ様でしたー!」

エミリー「育さん、お疲れ様でした」

ひなた「今日はたくさん動いたからねぇ。ゆっくり休むんだよぉ」

環「また明日ねー!」

育「うん。みんなお疲れ様」

育(あの子……結局あの後一度も会えなかったな。明日また来るって言ってたけど……)
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:53:30.08 ID:uct5lrwh0
……

…… ……

少女のかけた魔法によって、ゴーレムは目覚めた。

ゴーレムは少女を守った。

世界に平穏が訪れた。少女とゴーレムは世界中を旅して回った。


そんな冒険から数十年後、別れは訪れた。

人ならざる者と心を通わせ世界を旅した女性は、その巨大な友人に見守られながら生涯を閉じた。

魔法を与えてくれる存在を喪い、ゴーレムは動かなくなった。

事情を知る者が様々な魔術を施して動かそうと試みたものの、うんともすんとも動かなかった。

やがて人間の女性を心を通わせたゴーレムを知る者は、みなこの世を去ってしまった。

月日は止まることなく流れ、彼女とゴーレムの冒険を記した書物さえすべて朽ちていった。

けれども何十年、何百年もの時が流れても、ゴーレムはそこにいた。

もはや人々にとっては、なんのためにそこにあるのかわからない、土でできた謎の構造物でしかなかった。

その正体が何であるかを理解できる者は、もう誰もいない。

ゴーレムが彼らに自らの存在や大切な友人との思い出を語る術も、もう残されていない。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:54:11.42 ID:uct5lrwh0
――翌朝


育「……ん…」

育(ゴーレムの夢……そっか。ゴーレムは桃子ちゃんとお別れしたら、もう二度と目覚めることはないんだ)

育(魔法の力で動いて、絆の力で女神様の姿にならないと、人とおはなしできないんだ)

育(桃子ちゃんがそばにいない限り、自分を知らない人に自己紹介することも、大切なお友達との思い出を話すことだってできない…)

育(……あの子も、そうだったのかな。それは確かに、さみしいな……)

育「わたしがあの子にしてあげられること、何かあるのかな……」


育(あの子はお友達がほしいわけじゃないって言ってた。だれを呪ったこともないって言ってた)

育(忠告しに来たとは言ってたけど、それにしたってどうしてわざわざわたしに会いに来たんだろう)

育(ゴミ捨て場でわたしのCDを見つけたから? それならCDや本や絵とか、わたし以外の人のものだって見つけててもおかしくないよね)

育「……そっか!」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:55:08.42 ID:uct5lrwh0
――765プロライブ劇場


育「まつりさん!」タタタ

まつり「育ちゃん、おはようございますなのです」

育「ねぇまつりさん……まつりさんもあの子のこと、見えるんだよね?」

まつり「……気づいていたのですね」

育「うん。昨日まつりさんが劇場に帰ってきたとき、みんなとちょっと反応がちがってたから」

育「わたしをキッチンに呼んだあと、きっとあの子とお話してたんだよね。昨日あの後一度もあの子がわたしの前に来なくなったのは、そのせいもあるのかなと思って……」

まつり「育ちゃんは、あの子に会いたいのです?」

育「そう。わたし、あの子に会って伝えたいことがあるの。おねがいまつりさん、力を貸して」

まつり「もちろんなのです。育ちゃんには何か考えがあるのですね」

育「うん。あの子は捨てられてたCDでわたしを知って、わたしに会いに来た。それって、アイドルのわたしに会いに来てくれたってことでしょ」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:55:53.80 ID:uct5lrwh0
育「ってことは、あの子はわたしのファンってことだよね」

まつり「育ちゃん……なるほど、そうなのです。きっとそういうことなのです!」

育「だからあの子のためにわたしができること、わかるよ」

育「わたしはアイドルだもん。ファンの子が悲しい気持ちになっているのなら、元気になってほしい。勇気づけてあげたい。それがアイドルの魔法でしょ」

まつり「そういうことなら、することは一つなのです」

育「だけど……今日は劇場のステージはセットの組み替えが済んだら、すぐリハーサルに使っちゃうんだよね」

まつり「そこはまつりにおまかせなのです。Pさんと大道具さんにお願いしてみるのです」

まつり「だから育ちゃんの魔法……あの子に見せてあげてほしいのです。育ちゃんなら、あの子を救えるのです」

育「うん!」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:56:33.56 ID:uct5lrwh0
――バックヤード、ゴミ捨て場


育「ねぇ! いるんでしょ? いるなら返事してよ」

シーン…

育「だいじょうぶだよ。まつりさんもわたしも、おこってなんてないから」

育「……わたし、あなたをライブに招待したいんだ! 今日のお昼ごはんの後、劇場の客席に来て!」

育「あなたに聴いてほしい曲があるの! ぜったい観に来てね。約束だよ!」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:57:44.14 ID:uct5lrwh0
――レッスンルーム


ひなた「亜美シショー、真美センセー、頑張るべさ」

エミリー「次は左足を前です。さんはい」

亜美「うあうあー! こんな急ピッチで覚えるなんて無茶だよー!」

律子「ほら、口を動かす暇があるなら手足を動かす!」

真美「ひーっ!」


まつり「ふむ……リハーサルの開始まで、まだ少しだけ余裕がありそうなのです」

育「行くなら今のうちだね」

まつり「ええ。お姫様の秘密は魔法の味……なのです♪」

育「えへへ。そうだね」
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:58:44.70 ID:uct5lrwh0
――ステージ裏


まつり「時間的に歌えるのは一曲だけなのです。本当にこの曲でいいのです?」

育「うん。今あの子に歌いたい一曲をえらぶなら、この曲だと思うから」

育「この曲のメッセージと、わたしの気持ち……伝わるようにがんばりたい。わたしのやり方で」

まつり「ええ。育ちゃんなら、必ずあの子に届けられるのです」

まつり「なぜなら育ちゃんはみんなに夢を届けられる、立派なアイドルだからなのです」

育「えへへ。ありがとうまつりさん。それじゃあわたし、行ってくるね!」

……

人形「……」

育「おまたせ。約束を守ってくれてありがとう。本当はわたしの曲もたくさん聴いてほしいけど、今日はどうしてもあなたに聴いてほしい曲を選んできました」

育「一曲だけだけど、最後まで楽しんでいってね。それじゃあ、聴いてください――」


まつり「……」ポチッ
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:59:15.40 ID:uct5lrwh0
♪〜

育「色とりどりにデコった夢の中 今日はどんなわたしになろうかな〜♪」

人形「……」

育「ベッドはね馬車になっちゃって パジャマはねドレスになって お星さまのシャンデリア ほらね舞踏会〜♪」

人形(なんだろう、この歌は……)

人形(初めて聴いたはずなのに、どうしてこんなに懐かしいんだろう)

人形(どうしてわたしは「懐かしい」なんて気持ちがわかるんだろう)

人形(そうか。これは……あの子とわたしが過ごした記憶……)


育「――ありがとうございました」

人形「……」パチパチパチ…

人形「ありがとう。とっても素敵なパフォーマンスだったわ。これがアイドルのライブなのね」
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 21:59:56.42 ID:uct5lrwh0
育「この曲は、夢を見る女の子の歌なんだよ。だけど女の子はただ夢を見てるだけじゃない。聴く人を夢の中に招待するんだ」

人形「そっか……あなたがわたしを、素敵な夢の世界に連れていってくれたのね」

育「ねぇ……おもちゃは子どもを幸せにするために生まれてきたんだよね」

育「わたしにもあるよ。大好きなおもちゃ。シャイニーアイドルの変身アイテムだってそうだもん」

育「わたしが演じたトゥインクルプリンセスの変身コンパクトがおもちゃで発売されるって教えてもらったとき、すっごくうれしかった」

育「だってわたしの変身した魔法少女でみんなが夢を持ってくれて、幸せな気持ちになってくれるんだよ……こんなにすてきなことってないでしょ?」

育「そんなすてきなことができるおもちゃって、魔法みたいにすごいものなんだよ。だからわたしは、おもちゃをただ捨てられちゃう悲しい存在だなんて思わない」

育「たとえいつかお別れするときが来るとしても、夢中で遊んでたときの気持ちはまぼろしなんかじゃないもん」

まつり「そうなのです。人はみんな少しずつ大人になっていき、心も移り変わる。けれどもらった夢はきっと心の片隅でその人を優しく照らしているのです」

まつり「人はそれを、思い出と呼ぶのですよ」

人形「思い出……」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 22:00:56.78 ID:uct5lrwh0
まつり「あなたはきっと、もっと人の役に立ちたかった。それが未練になっているのだと思うのです」

まつり「でも大丈夫なのです。あなたとの思い出は、きっと持ち主の心に力を与えたはずなのです」

まつり「そしてその力がまた別の誰かの心を照らして、そうやってこの世を巡り巡っている――まつりはそう信じているのです」

人形「そう。あなたはそれを信じられるだけの、強い心の持ち主なのね」

まつり「実は今の曲、周防桃子ちゃんがアイドルになって初めて歌った曲なのですよ」

人形「えっ――」

育「桃子ちゃんもアイドルだよ。さみしがり屋さんだけど、ちゃんと人の心をてらせる子だもん。わたし、知ってるよ」

まつり「育ちゃんも桃子ちゃんも、今はまだ一歩ずつでも、これからもっと素敵なアイドルになっていくはずなのですよ」

人形「信じられる強い心……いいえ、そう信じたいからこそ強くなれるのかもしれないわね」

人形「徳川まつりちゃん、だったわよね。どうしてあなたにわたしの姿が見えるのか、少しわかった気がする」

まつり「ほ?」

人形「育ちゃん、ありがとう。とっても素敵なライブだったわ。こんなに温かな気持ちになれたこと、初めてかもしれない」

育「えへへ。楽しんでもらえてうれしい! わたしこそ最後まで聴いてくれてどうもありがとう」
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 22:02:11.40 ID:uct5lrwh0
人形「あなたがわたしに似ているなんて、勘違いも甚だしかったわね。脅かすようなことを言って、本当にごめんなさい」

まつり「いいえ。そうとも言い切れないのですよ」

人形「えっ」

まつり「育ちゃんがあなたに似ていると言うより、あなたが育ちゃんに似ていると言ったほうが適当かもしれませんね」

まつり「誰かの役に立ちたい気持ちが未練だったのなら、あなたも『育ちゃん系アイドル』の資質を備えているといえるのですよ」

人形「いいえ。さすがにそれは少し大げさね……だけどわたしにも、こんなに温かな気持ちになれるだけの思い出があったのね」

パァァ…

人形「……あなたたちのように、夢や思い出を大切にしながら誰かの夢や思い出になれる子がいてくれるなら、もうわたしに未練を抱く必要はないわね」

育「行っちゃうんだね……」

人形「ええ。だけど寂しくはないわ。……本当にありがとう。これからもずっと、みんなに夢を届け続けてね。応援してるわ」

キラキラキラ…


育「……行っちゃったね」

まつり「ええ。けれど、とっても晴れやかな表情だったのです」
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 22:02:43.37 ID:uct5lrwh0
育「ねぇまつりさん、まつりさんがあの子のことを見えた理由、わたしにもわかるよ」

まつり「ほ?」

育「まつりさんはきっと、子どもの頃の思い出をずっと大切にしてるから、あの子のことが見えたんじゃないかな」

まつり「姫の思い出はただの思い出ではないのです。いつでも姫に勇気と元気をくれる、とびっきりの魔法なのですよ」

育「ねぇ、まつりさんは子どもの頃どんなおもちゃで遊んでたの? わたしにも聞かせて!」



それは年の終わりに訪れた不思議な出逢い。

太陽は昇り、おもちゃは眠るように空へ帰っていった。

けれど心に夢見るおもちゃ箱があれば、空に帰ったおもちゃにもいつでも会えるのかもしれない。


おしまい
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/11(土) 22:03:20.29 ID:uct5lrwh0
ありがとうございました。
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/01/11(土) 22:09:45.80 ID:W+n11wMx0
乙でした
育の前向きさが伝搬することは素敵なものですね
35 : ◆NdBxVzEDf6 [sage]:2020/01/12(日) 00:12:48.51 ID:WpZeI0yV0
不穏な感じに身構えたけど、いい終わり方で良かった
乙です


>>1
中谷育(10) Vi/Pr
http://i.imgur.com/0yK5uYk.png
http://i.imgur.com/ZJ7i6fZ.png
http://i.imgur.com/p64webr.png

菊地真(17) Da/Pr
http://i.imgur.com/5fzVEHO.jpg
http://i.imgur.com/nQ4oeVR.jpg

福田のり子(18) Da/Pr
http://i.imgur.com/Oe2My9z.jpg
http://i.imgur.com/Kegx6zY.png

舞浜歩(19) Da/Fa
http://i.imgur.com/yRpBN6M.jpg
http://i.imgur.com/3ZznR9v.png

秋月律子(19) Vi/Fa
http://i.imgur.com/FUliF1H.jpg
http://i.imgur.com/BOZAMpz.png

大神環(12) Da/An
http://i.imgur.com/4y87a0q.png
http://i.imgur.com/ltLpqoE.png

>>8
我那覇響(16) Da/Pr
http://i.imgur.com/ABymxGd.png
http://i.imgur.com/DfeDPT0.png

永吉昴(15) Da/Fa
http://i.imgur.com/ENKR25T.png
http://i.imgur.com/2x897lH.png

徳川まつり(19) Vi/Pr
http://i.imgur.com/fdH0Bov.png
http://i.imgur.com/wl70PMH.png

>>20
双海亜美(13) Vi/An
http://i.imgur.com/xni8HMq.jpg
http://i.imgur.com/H1PzeRU.jpg

双海真美(13) Vi/An
http://i.imgur.com/sAjUfCq.png
http://i.imgur.com/C3mf1Kp.jpg

エミリー(13) Da/Pr
http://i.imgur.com/WuL1BgO.png
http://i.imgur.com/OvgvjD2.jpg

木下ひなた(14) Vo/An
http://i.imgur.com/0VT4KYJ.png
http://i.imgur.com/S5hiqix.png

>>28
「デコレーション・ドリ〜ミンッ♪」
http://www.youtube.com/watch?v=s6a3vzn_Fnc
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/12(日) 01:41:28.57 ID:56J/GNHDO


育まつりとは、一見変わったコンセプトで来ましたね
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/12(日) 11:03:54.01 ID:sHTBXlM+O
おつ
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/07(金) 21:21:41.62 ID:EMLRHoJC0
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