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長富蓮実「その名は、ハスラー♪」
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1 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2019/12/28(土) 13:17:42.50 ID:G9OiTGlK0
P「中古ソフト屋でもなく、アニメショップでもなく、家電リサイクルショップか……いや、これは確かに盲点だ」
島根へ出張に行く。事務所でみんなにそう言った時、神谷奈緒と荒木比奈の2人が、俄然興奮して詰め寄ってきた。
奈緒「あ、あのさ。島根には未だにLDとか売ってるとこ、普通にあるんだよな」
比奈「時間があったら、のぞいて来て欲しいっス」
P「LD? LDってつまり、レーザーディスクか?」
俺はおもいっきり面食らう。今のこのご時世に、レーザーディスクだと?
奈緒「ああ。アニメでさ、DVDでは発売されてないけど、LDなら出てるのって結構あるんだよ」
比奈「有名どこだと、YAT!安心宇宙旅行とか、ミラクルガールズとか」
奈緒「そうそう! そういうの、見たいんだよ。時間があったらでいいからさ!」
比奈「お願いするっス! ハスラーさん」
P「……そのあだ名で俺を呼ぶな」
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1577506662
2 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2019/12/28(土) 13:19:07.41 ID:G9OiTGlK0
念のために言っておくと、この2人は俺の担当アイドルではない。
いや。今はもう俺は、1人のアイドルも担当していない。
P「しかしまあ保証はできないが、時間があればな」
とはいえ、口ではそう言ったものの、可愛い所属アイドルの頼みではあるわけだし、彼女たちとは気心も知れている。
彼女たちの頼みだ、少しぐらい骨を折ってもよかろう――
そう思ってはいたが、なかなかそういう店は見つからず、現地であちこち話を聞いて教えられたのはなんと、家電リサイクルショップだった。それも、地域密着の小さな店舗だ。
その一角に、中古LDプレイヤーと共に雑多にLDが並べられている。
P「こりゃあネットにも噂だけで、のってないはずだ。さて……アニメのLD……ん?」
見ればムーミンのLDの横に、懐かしいアイドルのLDが並んでいる。
P「ああ、懐かしいな。みんな今はもう大物だとか、大御所なんて呼ばれてるんだよな。あの頃は、みんな……若かったよな」
古い記憶が脳裏をよぎる。思わずLDに手が伸びる。
と――誰かの手が、俺の手と重なった。
蓮実「あ……ごめんなさい。どうぞ」
3 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2019/12/28(土) 13:20:51.25 ID:G9OiTGlK0
P「あ、いや。買うつもりはないんだ。ただ、懐かしくてつい……あなたこそどうぞ」
言いながら可笑しくなった。
相手は若い女の子だ。おそらく高校生ぐらいだろうが、そんな娘が、俺が担当していたような時代のアイドルに興味があるはずがない。
蓮実「いいんですか? では、お先に失礼しますね」
なんとそう言うと彼女は、にこにこしながらLDを手に取ると、熱心にジャケットの表も裏も眺めている。
蓮実「あ、これ武道館ライブのLDだ。うわあ、フフフフフンフーン♪」
店内は少しほこりっぽく、天窓から太陽の光が射し込んできて、それはチンダル現象を引き起こしながら控えめにキラキラと光っていた。
その光の柱の中で、その娘は目を閉じてハミングをしながら、懐かしい振り付けを踊っていた。
俺は一瞬、自分がどこにいるのか忘れた。
舞台袖から見る、あの光景が目の前に広がったようだった。。
アイドルが神聖視されていた、あの時代に自分が還ったような気がした。
蓮実「……あ」
4 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2019/12/28(土) 13:21:38.09 ID:G9OiTGlK0
気がつけば、彼女は頬を赤く染めて俺を見ていた。
そう、いつの間にか俺は彼女を凝視していた。
蓮実「し、失礼します」
LDを胸に抱え、レジへと向かおうとする彼女を俺は必死で呼び止めた。
P「待ってくれ! 君、名前は?」
蓮実「え? あ、あのう……」
P「いや、俺は怪しい者じゃない」
言いながら俺は、名刺を取り出す。
久しく使っていない、プロデューサーやスカウトマンとしての名刺だ。
蓮実「芸能事務所? それも確か……あ、あの、もしかして有名なアイドル事務所の!?」
P「そうだ。君、アイドルに興味は……」
蓮実「はい! 私、アイドルが大好きなんです」
P「君も……アイドルをやってみる気は?」
5 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2019/12/28(土) 13:22:33.45 ID:G9OiTGlK0
俺は、きっと彼女は大きく頷くだろうと思っていた。
見るからに可愛い。そしてそれだげなく、清純な雰囲気。
アイドルが好きだと聞き、きっと喜んでOKをしてくれると思いこんでいた。
蓮実「……私は……」
P「ん?」
蓮実「私が憧れているのは、今のアイドルじゃないんです。こういう……お母さんが大好きだった、昔のアイドルなんです」
まるで隠れるように彼女は、LDを俺の前にかざしながら言った。
なるほど。母親の影響か。
それにしても、アイドルも様変わりした。
以前のアイドルは、確かに日常からはかけ離れたイメージで捉えられていた。
どこかおとぎ話のような……だがそれだけに夢に彩られた存在だった。
蓮実「もちろん。今のアイドルも好きです。みんな可愛いし、ダンスとか曲もすごく楽しいです。でも、私がなりたいのは……」
そうか。
この娘は、わかってる。現実を理解している。
夢の世界から来たようなアイドル。
一定の距離をおいて、応援してくれるファン。
今はもう、そういったものはないのだ。
時代の流れの移り変わりに、過ぎ去ってしまったのだ。
俺だってそれは、わかっている。
6 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2019/12/28(土) 13:23:08.24 ID:G9OiTGlK0
P「とりあえず……名刺だけは、受け取ってくれないか。そして、もしその気になることがあったなら……」
蓮実「……あったなら?」
P「俺と、夢を育てよう……」
蓮実「……」
彼女は少し考えるように目を伏せた。
後から思えば、なんとも無謀な事を言ったものだ。後先など考えていなかった。
だが、言わずにはいられなかった。
いられなかったのだ……
P「君の名前は?」
蓮実「長富……蓮実です」
P「長富蓮実さんだね。覚えておくよ。そして……待っている」
目を離さず黙っている俺に、彼女はしばらく困ったようにしていたが、やがてぺこりと頭を下げると小走りに去っていった。LDを抱えて。
7 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2019/12/28(土) 13:23:53.34 ID:G9OiTGlK0
奈緒「ど、どうだった!?」
比奈「めぼしそうなLDは、あったっスか!?」
帰京して2人に詰め寄られ、あの時の記憶が蘇る。
まるであの頃の雰囲気を。そのままに持った少女。
長富蓮実のことを。
あれから連絡はない。もしかと思って、久しぶりにケータイの電源を一日中切らずにいたのだが、俺のケータイが鳴ることはなかった。
奈緒「な、なあ!」
比奈「どうしたんスか? ハスラーさん」
P「……その名で俺を呼ぶな。いや、実は家電リサイクルショップにアニメのLDがあることはあったんだがな、2人が言ってたようなアニメはなかったぞ」
奈緒「そうなのか……ちょっと残念だな」
比奈「家電リサイクルショップっスか。なるほど、それは通販とかやってないはずっスね」
8 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2019/12/28(土) 13:24:52.58 ID:G9OiTGlK0
P「アニメって言っても置いてあるのは、ムーミンとかそういうのだけだったな」
奈緒「……え?」
比奈「……ムーミン?」
P「ああ。別に珍しくもないだろ、ムーミンとか」
奈緒「どんな……ムーミンだった?」
P「どんな、って……そういや、グッズとかで見かけるムーミンとはちょっと違ってた気がするな。ムーミンってジャケットに書いてあったからわかったけど、言われてみるとムーミンってあんなだっけかな」
比奈「ちょっと待つっス。もしかしてそのムーミンっていうのは……」
スケッチブックを取り出すと、荒木比奈はシャシャシャという軽快な音をたてながらシャーペンで何かを描き始める。
比奈「こんな顔じゃなかったっスか!?」
9 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2019/12/28(土) 13:25:49.96 ID:G9OiTGlK0
P「ん? おお、そうそう。こんな顔のムーミンだったな。あれはなんだ? 海賊版か何かか?」
奈緒「比奈さん、これってやっぱり!」
比奈「間違いないっス! 幻の1969年の東京ムービー版ムーミンLDっスよ!!」
P「? なんだそりゃ?」
奈緒「日本で最初のムーミンのアニメなんだよ。色々あって、DVD化されてない上に、される見込みもない幻のアニメなんだ!」
P「色々?」
比奈「原作者と揉めたんス……そ、それよりもこのムーミン見たいっス! 今から買ってきて欲しいっス!!」
P「無茶言うな。もう帰ってきたんだから」
奈緒「あああ〜! ハスラーさんに説明しておくんだった〜!! まさかそんなお宝LDが、普通に売られてるとは……!!!」
P「1枚100円だったな」
10 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2019/12/28(土) 13:27:09.11 ID:G9OiTGlK0
比奈「うわああああああーーー!!!」
奈緒「島根、おそるべし……」
比奈「島根でお仕事がある機会を待つしかないっスか……」
P「もしくは、誰かが島根からやって来る時に……」
言いかけて俺は自嘲した。
まだ期待しているのか?
あの娘からの連絡はない。
俺だって、今からプロデュース業なんてできるのか?
俺が!?
今から!?
時代は流れ、去っていくものだ。
時計だって壊れれば針は止まる。だが、戻らない。
今から俺が、プロデュースなどできるものか。
あの娘にしてもそうだ。
あの娘――長富蓮実の、夢見る世界はもうない。
プロデューサーは、アイドルが夢見る世界へエスコートするのが仕事だ。
だが、彼女の夢見る世界は……もう、ないのだ。
その証拠に、みろ。俺のこのケータイだって――鳴らな……
♪♪♪〜♪〜♪♪〜♪
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