北条加蓮「藍子と」高森藍子「灰を被っていた女の子のお話」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/24(火) 17:26:49.35 ID:3vb1VF06O
――12月23日――


――おしゃれなカフェ――

北条加蓮「だからっ、逃げないってば……!」

高森藍子「じ〜」

加蓮「逃げないって……。だから隣じゃなくてあっち座ってよ。落ち着かないんだけど!」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1577176009
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:27:43.24 ID:SmxjqBVS0
レンアイカフェテラスシリーズ第99話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

〜中略〜

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「のんびり気分のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「違うことを試してみるカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「12月中ごろのカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「寒い冬のカフェで」

※このお話は、
第40話『北条加蓮「藍子と」高森藍子「瑞雪の聖夜に」』
ttps://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482571837/
第41話『北条加蓮「藍子と」高森藍子「膝の上で よんかいめ」』
ttps://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1483090417/
を読んで頂いてから進まれることを推奨します。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:28:19.74 ID:SmxjqBVS0
前回のあらすじ:加蓮は久しぶりに、昔お世話になっていた看護師に会うと決めたようです。


藍子「本当ですか?」ジー

加蓮「ちょ、近っ」

藍子「じ〜」

加蓮「ああもう! 離れ、な、さい!」グイー

藍子「きゃ」

加蓮「もうっ……なんで今から疲れさせるのよ……。これからもっと疲れることが待ってるのにさぁ……」

藍子「……」

藍子「……じ〜」

加蓮「離れろぉ!」グイー

藍子「きゃっ」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:28:50.20 ID:SmxjqBVS0
加蓮「なんなの、なんなのアンタ……! 何がしたいの……!」

藍子「何って……。加蓮ちゃんを近くで見るの、楽しいな、って♪」

加蓮「……はぁ。もう。分かったから、それは別の日にして?」

藍子「はぁい」

加蓮「ほら、あっち。向かい側。ほら、行きなさい」

藍子「ふぇ?」

加蓮「……」

藍子「……?」

加蓮「いや、"?"じゃなくてっ。分かったんでしょ? ならほら、あっちの席」

藍子「さっきのお話は、加蓮ちゃんを近くで見たらダメっていうお話です。だから隣に座るのは、また別のお話ですよね?」

加蓮「そーいうのいいから! あっちいけっ」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:29:19.64 ID:SmxjqBVS0
藍子「加蓮ちゃんが逃げ出さないか、見張っていないといけませんから」

加蓮「ここまで来たらもう逃げないわよ!」

藍子「モバP(以下「P」)さんからも言われてますっ」

加蓮「なんでよ。依頼とか会うこととか受けても受けなくてもいいって言ってくれたのPさんでしょ!」

藍子「加蓮ちゃん。受けるか受けないかを選ぶのと、受けた後で逃げるのとでは、お話が違いますよっ」

藍子「会うって約束したのに、その約束を破っちゃうのは、最初から会えないって言うことよりも悪いことですっ」

加蓮「ぐ……。また反論できないことを――」

藍子「と、Pさんが加蓮ちゃんに言うようにって♪」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:29:49.75 ID:SmxjqBVS0
加蓮「だから逃げないって……。PさんもPさんだよ、なんでそういうとこ信じてくれないの!」

藍子「信じていないって訳ではないと思います。でも、加蓮ちゃんが恐がり屋さんだってことは、私もPさんも知っていますから――」

加蓮「誰が恐がりだって??」グワッ

藍子「わあ……だ、だってそうじゃないですか! 加蓮ちゃんの、恐がりさんっ」

加蓮「アンタにだけは言われたくない!」

藍子「Pさんだって言ってましたもん!」

加蓮「Pさんにだって言われたくないわよ。すぐ私の心配ばっかりしてっ。そっちだって恐がりでしょうが!」

藍子「…………」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「……とりあえず、ちょっと離れよっか」

藍子「は、はい。そうですよね」

加蓮「ふう……」

藍子「ほっ……」
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:30:19.46 ID:SmxjqBVS0
加蓮「……えーと、あと5分くらい?」

藍子「加蓮ちゃん。約束の時間は13時ではなくて、13時5分ですよ」

加蓮「そ、そうだったよね。じゃああと10分」

藍子「それにしても、5分って約束をするなんてマメな方なんですね」

加蓮「そーいう人なの。そのくせ人のことにはそんなに口出ししてこなくてさー」

藍子「ふんふん」

加蓮「なんていうか、すごい自分に厳しい人なんだよね。……いやまぁ逃げようとしてた私を捕まえる時だって鬼の顔してたと思うけど」

藍子「あはは……。でも、優しい方なんですよね?」

加蓮「まぁね。患者の、特に子供のことをいっつも気に――」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:30:51.99 ID:SmxjqBVS0
加蓮「ってなんで藍子が知ってんの。ほとんど話したこともないでしょ」

藍子「ほら、前のクリスマスの時の。写真、私に預けてくれましたよね?」

加蓮「うん」

藍子「映っている顔を見て、あっ、この人は優しい人なんだっ、ってすぐに分かりました」

加蓮「写真で?」

藍子「はい。そうですね……加蓮ちゃんは、お話している相手の気持ちを読み取るのが得意ですよね」

藍子「それと同じで、私、写真に映る人の気持ちや人なりを思い浮かべるの、けっこう得意なんですよ」
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:31:19.99 ID:SmxjqBVS0
藍子「あっ、でも……優しそうな方だったけれど、少し、厳しそうな方にも見えたかな……」

藍子「だ、大丈夫ですよね。怒られたり、しませんよね……?」

加蓮「私はともかく、藍子が怒られる理由って何もなくない……?」

藍子「加蓮ちゃんがそういうお話ばっかりするからっ」

加蓮「……あの看護師さんが鬼になるエピソードって、そんなに話したっけ」

藍子「前にも言ったと思いますけれど、加蓮ちゃんが色んなお話をするから、私、病院がまるで牢屋みたいに思えてきて……」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:31:49.95 ID:SmxjqBVS0
藍子「加蓮ちゃんではありませんけれど、私も最近、病院にはぜんぜん行っていないんです」

加蓮「まあ、あんなとこ行く必要がないなら行かなくていいでしょ」

藍子「確かに……? あっ、でも、例えばインフルエンザの予防注射とか、大事ですよね。インフルエンザになったらお散歩できませんし、学校にも、事務所にも行けなくなってしまいます」

加蓮「対策してればインフルなんてかからなくて済むわよ」

藍子「そうなんですか?」

加蓮「っていうか、藍子ってインフルとかかかったことあるの? 風邪引いてるイメージもないけど」

藍子「インフルエンザは、ちいさい頃に1回だけ……。風邪は……そういえば?」

加蓮「じゃあいいでしょ、それで」

藍子「いいんでしょうか……?」

加蓮「……自分が元気であることに疑問を持つ子は初めて見たなぁ」
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:32:20.32 ID:SmxjqBVS0
加蓮「あと3分――」

藍子「そろそろ、外で待っていますか?」

加蓮「……そうしよっか。あの人のことだから、たぶんぴったりに来ると思うけど……外の寒さにも慣れておかなきゃね」

藍子「もし、どうしても寒くなったら――」

加蓮「言っとくけど。どういう流れになっても、中には絶対入れさせないからね!」

藍子「くすっ。分かっていますよ。だから、」ガサゴソ

藍子「はい、加蓮ちゃん。カイロ、いっぱい用意してきましたっ」スッ

藍子「2つは、もう暖めておきましたから。これ、両ポケットに入れてください」

加蓮「さんきゅ」

藍子「それから……あっ、店員さん♪ はい、すっごくいいタイミングです!」

藍子「加蓮ちゃん、あたたかいお茶を紙コップに入れてもらいました。ぜんぶ飲めば、冬でも1時間はぽかぽかでいられるそうですよ♪」

加蓮「店員さんもさんきゅ。ちょっと行ってくるね」

藍子「私も行ってきますっ」
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:33:21.17 ID:SmxjqBVS0
――カフェの外――

加蓮「……長椅子が置いてある」

藍子「店員さんに、腰掛けてお話できる椅子はありますか? って聞いたら、テラス席の物を貸してくれました」

加蓮「超準備万端じゃん。……っていうか、カフェにこんな椅子あったっけ?」

藍子「? 店内との出入り口のすぐ横に、いつも置いてありますよ」

藍子「ほら、ここ、ここ。文字パネルで、"おかえりなさい"って書いてますっ」

加蓮「ホントだー。かわいー♪ “り”の字の後に小さいツリーのパネルがあるね」

藍子「こんなところにも、クリスマスがありましたね♪」

加蓮「これ、もしかして手作りかな?」

藍子「もしかしたらそうかも……?」
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:33:50.64 ID:SmxjqBVS0
藍子「ふんふん、カフェの椅子は手作り……っと」

加蓮「? ここのことコラムにでも書くの?」

藍子「ううん。最近、カフェの細かい工夫とか、装飾を見るのにはまっているんですっ」

加蓮「へー。面白そう」

藍子「加蓮ちゃんも一緒にやりませんか? ほら、加蓮ちゃん、手先が器用ですから。こういうのも、いっぱい見つけられそう♪」

加蓮「器用さと関係あるのかなそれ――」


「加蓮ちゃん」


加蓮「っ……」

藍子「……」


「久しぶり、加蓮ちゃん」

加蓮「……久しぶりだね、看護師さん」
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:34:23.09 ID:SmxjqBVS0
……。

…………。

「ここが行きつけのカフェ……。加蓮ちゃんから、カフェの前で、って言われた時にはびっくりしちゃった」

加蓮「……ふふっ。昔の私からは想像もできない?」

「うーん……」
「そうなのね、ってくらいかな」
「でも、本当によかった。加蓮ちゃんが、そういう子になれて。……改めて言うことじゃないっか」

加蓮「……今さら何言ってんの。私は元気にやってるってこと、知ってるでしょ」

「……」

加蓮「……」

「……」

加蓮「……」
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:34:50.32 ID:SmxjqBVS0
「……そういえば、今日もそっちの子……藍子ちゃん、だったかな? 今日も一緒なのね」
「藍子ちゃんも、お久しぶり」

藍子「あっ、……お久しぶりですっ」

「あぁ、急に言われても困っちゃうわよね。ほとんど話もしてないのに」

藍子「そんなこと――ええと……」

「?」

藍子「お……」
藍子「……お邪魔してます?」

「えっ?」
加蓮「は?」

藍子「あ、あははは……。その……やっぱり加蓮ちゃんと2人でお話したかったのかなぁって……」
藍子「もし私がお邪魔なら言ってくださいっ。カフェの中で待っていますから」

「あ、あー……そこはこだわらないけど……」
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:35:20.83 ID:SmxjqBVS0
加蓮「変な子でしょー」

藍子「むっ」

「加蓮ちゃん。あなたを支えてくれた女の子でしょ。そういう言い方は、良くないんじゃないかな?」

加蓮「……まあね」

藍子「……?」

「どうして分かったのかって? そうね……。なんとなく?」

加蓮「……こーいう人なの。藍子も気をつけなよ? ちょっと隙を見せるだけでね、全部持っていかれるから」

「そんなことしないわよー。するのは、加蓮ちゃんにだけ」

加蓮「私にもすんなっ」

藍子「くすっ♪」
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:35:51.64 ID:SmxjqBVS0
加蓮「で、さ。とりあえず……私に何の用だったの? 会いたい、って……」

「……」

加蓮「正直もう話すことなんてなくて、っていうか会うこともないって思ってたし……会いたいとも思ってなかった」

「でも、会うって言ってくれたのね」

加蓮「……その辺の話はこの子――藍子とした後だから、もういいよ」

加蓮「とにかく、今さら私に何の用事? なんか話したいことがあったんでしょ」

「そうね……。話したいこと、は色々あったけど」
「今、話したいことがあるのは加蓮ちゃんの方じゃない?」

加蓮「っ」

「どうして分かったのかって……なんとなく?」

藍子「加蓮ちゃんの考えていること、分かるんですね……」

「まあね。加蓮ちゃん、分かりにくい子だけれど……私も、一緒に長くいたから」

加蓮「…………」
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:36:21.03 ID:SmxjqBVS0
「さあ、加蓮ちゃん。お先にどうぞ」
「あなた達が……加蓮ちゃんがお話を教えてくれるの、大好きだから。教えてほしいな?」

藍子「加蓮ちゃんのお話を?」

「ええ。患者さん……特に子供の患者さんは、気持ちをなかなか教えてくれないのよ」
「特に加蓮ちゃんはね。昔から、自分の気持ちを全部閉じ込めちゃって」
「教えて? って言っても、全然教えてくれないの。代わりに出てくるのは嘘の言葉ばっかり」
「アイドルのお話の時だけだったな、加蓮ちゃんから色々教えてくれたのは」

藍子「…………」ジトー

加蓮「な、何。昔の話だってば……っていうか昔話ばっかりするのやめてっ」

「はいはい、ごめんね? でもそれ、加蓮ちゃんが言うのかしら」

加蓮「え?」

「加蓮ちゃんのことだもの。昔話をいっぱいして、藍子ちゃんを困らせてたりしているんじゃないの?」

加蓮「〜〜〜〜っ!?」

藍子「そ、その通りです。そんなことまで……?」

「くすっ。なんとなく?」
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:36:50.56 ID:SmxjqBVS0
加蓮「あ、あのさぁ! その……昔の話! すごく聞きたいって訳じゃないんだけど、……教えて!」

「はい。なぁに?」

加蓮「私っ……私、あなた以外の大人のこと、全然知らなくて」

加蓮「ただ、私に嘘しかつかなくて、私のことなんて見てもくれなくて、みんないなくなっちゃえ、みんな敵だ! って思ってて――」

加蓮「それは……私がそう考えてたってことは、知ってるでしょ?」

「えぇ、そうね」

加蓮「でもさ。藍子が、もしかしたら違うかもしれないって」

加蓮「……その……今回の依頼のこととか、前の私のお願いを引き受けてくれたりとか、ひょっとして、みんな……その、悪く、なく――」

加蓮「悪く……。病院の人――」
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:37:21.17 ID:SmxjqBVS0
藍子「……加蓮ちゃんっ。おちついて。がんばって?」

加蓮「……うん」

加蓮「病院の人っ! 病院の人達は……私のこと、どう見てたの? どんな子だって思ってたの?」

「…………」

加蓮「藍子に言われたの。昔の私は今ほど賢くなくて、周りをちゃんと見ることもできなかったんじゃないか、って」

加蓮「だからもしかして、私が思い込んでただけかも、って」

加蓮「私も……そうかも、って思う。今なら……思えるの」

「…………」

加蓮「……病院は、暗くて冷たくて、聞こえてくる音も声もぜんぶ無機質で機械みたいで、私にとっては牢屋と同じような場所だった」

加蓮「アイドルになってから、世界には暖かいものがいっぱいあるんだなって気付いたけど……」

加蓮「ひょっとしたら、あの牢屋の中にも……あなたたちにも、私が見つけれてないだけで、もっと何かあったのかな、なんて……」

「…………」
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:37:50.57 ID:SmxjqBVS0
加蓮「あのっ。けど、これっ、……藍子に! 藍子に言われて、もしかしたらそうかもー? って、ちょっと考えただけだから!」

加蓮「別にっ、ないならないでいいし! っていうかもし仮にあったとしても! 別にアンタも、病院の奴らのことも、病院もぜんぶ! 嫌いだからね。今でも大っ嫌い!」

加蓮「プレゼントを配るのだって、別に引き受けるって決めた訳じゃなくて!」

加蓮「えと、……そのっ!」

加蓮「あんただって! 私のこと、どう見てっ――」

「…………」

藍子「か、加蓮ちゃん。少し、落ち着きましょ? ほら、看護師さんも困っちゃってますっ」

加蓮「だって! っ、困ればいいのよこんな人。私なんてその何百倍もあれだったんだから!」

「くすっ」

加蓮「……は?」
藍子「えっ?」
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:38:20.81 ID:SmxjqBVS0
「ありがとう、藍子ちゃん。でもいいの」
「そういう本音を聞くのが、嬉しいから」

加蓮「……。……言ってることぐちゃぐちゃで、ごめん」

「大丈夫。ちゃんと、分かるから」
「小さい頃のあなたが、なかなか教えてくれなかった気持ち」
「大きくなったあなたから聞けることも、先生、すごく嬉しいな」

加蓮「……」

「そうね……。どこから話しましょう?」
「病院の人達が、加蓮ちゃんのことをどう見ていたか、よね?」
「正直に……うん、言ってもよさそう」

「正直に言うなら、かなり扱いに困っていたわね」

加蓮「っ…………。あ、あははっ……予想通りの解答、ありがと……」

藍子「加蓮ちゃん――」

加蓮「大丈夫。……続けて」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:38:50.90 ID:SmxjqBVS0
「加蓮ちゃんをどうすればいいのか、どう話しかけたらいいのか。私も含めて、みんなずっと困っていたわ」
「病院に来たばかりの頃の加蓮ちゃん、他の子と比べても、本当に気持ちを表に出さない子だったから――」

藍子「病院に来たばかりの……?」

「ええ。アイドルに憧れる前から、加蓮ちゃんは病院にいたの」
「テレビで見たアイドルに憧れる、それよりもさらに前。加蓮ちゃんは、本当に何1つとして感情を見せない子だったの」
「……ううん、敵対心だけはあったかな。私たちのこと嫌いなんだな、っていうのは分かった」

藍子「アイドルに憧れる前の、加蓮ちゃん……」

加蓮「…………」

「これは、さすがに話してないのね」

加蓮「……話すことじゃないし」

「それもそっか」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:39:21.17 ID:SmxjqBVS0
「敵対心を持たれることは、不思議でも何でもなかった。私たち、そう思われ慣れてるものね。子供はみーんな、私たちを敵だと思っちゃう」
「ただ、そういう子だって……絶対に、他の何かを持っているの」
「好きなこととか、興味のあることとか」
「でも、入院したばかりの頃の加蓮ちゃんには、そういう物が全くなかったのよ」

「加蓮ちゃんにはどう接すればいいのか、ほとんどの人が分からなかった」
「……正直に言えば、私も。最初は、本当にどうしようもなかったわね」
「少し経って、加蓮ちゃんがアイドルを知ってからは――」
「加蓮ちゃん、いっぱいアイドルの話をしてくれたわよね。テレビの中の、きらめく姿のこと」

加蓮「え、そんなに話したの……?」

「覚えてない? 話が盛り上がって、検診の時間が少し過ぎてしまったこと、何回もあったのよ?」

藍子「……加蓮ちゃん。忘れているだけで、やっぱり楽しかった思い出だってあるんじゃないですか」

加蓮「うぐ……。ほ、ほら、その……嫌な思い出しか記憶に残ってなくて」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:39:50.91 ID:SmxjqBVS0
「ただ、……そうね。ごめんなさい」
「私は、加蓮ちゃんとお話するくらいのことはできたけど……他のみんなは、何もなかった頃の加蓮ちゃんのイメージが強すぎて」
「どう話しかければいいのか、どう接したらいいのか全く分かっていなかったの」
「加蓮ちゃんも、私以外にはアイドルの話、ほとんどしていなかったみたいだから……」

加蓮「…………」

「だけど、みんな気にはしてた」
「加蓮ちゃんが、どうすれば元気になってくれるか。どうすれば笑顔を見せてくれるか」
「同僚から頼まれたこともいっぱいあるわよ? お前にならまともに会話してくれるだろうから、って」
「例えどんな相手でも――」
「患者の笑顔を求めない人なんて、病院にはいないから」

加蓮「…………」

藍子「……、」

加蓮「アイドルに憧れる前のことは……ホントにほとんど覚えてない。ただ、何もなかったことだけは覚えてる……。何も見たくなくて、誰1人、私の味方なんていないって思い込んでて――」

加蓮「……そうなんだ。そんな私のことも、気にしてくれていたんだね」

「……ふふ、素直に信じるの?」

加蓮「……うん」

「そう。そっか……」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:40:21.07 ID:SmxjqBVS0
「……上手く接してくれなかった人達のこと、恨んでる?」

加蓮「……別に、恨んで……」

加蓮「……嫌いってだけで、恨んでるかって聞かれたら……」

加蓮「それは……どう、答えたらいいのかな。あははっ……ちょっと分かんないかも」

「……」

加蓮「……」

「……」

加蓮「……」
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:40:51.14 ID:SmxjqBVS0
藍子「……加蓮ちゃん」

加蓮「……ん?」

藍子「それに、看護師さん」

「何かしら?」

藍子「今のお話って……今はどうなんでしょうか。あの……今のお話を聞いて、1つ思い出したことがあって」

藍子「加蓮ちゃん。加蓮ちゃんがプレゼントを渡してあげた相手に、加蓮ちゃんに似た子が――」

藍子「あっ。3人目の、加蓮ちゃんがお話した女の子じゃなくて。2人目の、趣味もほとんどないっていう子……」

加蓮「……! そうっ、あの子とかって今どうなの!?」

加蓮「あなたの話通りならあの子、昔の私と同じ扱われ方してるんじゃ……!」

「あら……」
「加蓮ちゃん、とても優しい子に育ってくれたのね」

加蓮「そういうのいいから!」

「ふふ。ごめんなさい」
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:41:21.27 ID:SmxjqBVS0
「あの子はね……今も入院中。身体も浮き沈みで、一時退院もなかなかできない状態ね」

藍子「そんな……!」
加蓮「っ……」

「でも」
「話してくれることは増えたのよ」

加蓮「……え?」

「ここから先が、今日、私が話したかったこと。加蓮ちゃんに伝えておきたかったことなの」

加蓮「……」

藍子「……」
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:41:51.45 ID:SmxjqBVS0
「退院して、アイドルになった加蓮ちゃんを見て、多くの人がびっくりした。医者も、看護師も」
「だって、加蓮ちゃんがアイドルに憧れてることすら、知らない人の方が多かったから」
「何も持っていないような、敵対心以外の感情を見せることのなかった女の子が」
「いつの間にか、こんなに煌めいていて……情熱的に歌っている、って」

加蓮「……」

「それから多くの人が申し訳ないって思ったり、後悔したり……。こんな強い気持ちを持っていた女の子を、ちゃんと見てあげなかったって」
「ちゃんと、夢を持っていたんだ……って。ほっとした人もいたっけ」

藍子「……」

「それでね。しばらくしてから加蓮ちゃん、サンタクロースになって病院の子供達にプレゼントを配りたいって言ってくれたでしょ?」
「知っていると思うけど、あのプレゼントね。子供達、みんな大喜びで……」
「だけど喜んだのは、子供だけじゃなかった。大人達もなの」
「加蓮ちゃんは大きく成長したけど、ここのことも忘れないでいてくれる。嫌な思い出しかないだろう場所だけど、無かったことにしないで――」
「それに、そこにいる子供達のことを想ってくれている。もしかしたら、病院に勤めている自分たち以上に――って」

加蓮「え、あ、……あはは、そ、そなの? そなんだー……」

藍子「加蓮ちゃん」ジトー

加蓮「うぐっ……」

「それで――……?」

加蓮「えーっとさ。そのー……」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:42:21.53 ID:SmxjqBVS0
藍子「加蓮ちゃん。正直に言っちゃいましょ?」

加蓮「分かってるわよっ。あ、あのね? 怒らないで聞いてほしいんだけど……」

加蓮「さっきも言ったけど、今回の話、まだ受けるか決めてない……っていうか、断ろうって思ってた」

「あら」

加蓮「ついでに言えば、あなたと会うのも断るつもりだった」

加蓮「後ろなんて振り返らないようにしようって決めかけてて……。忘れないでいてくれる、なんて言ってくれたけど、ついこの前まで、病院のこととか、昔の私のことなんて全部忘れようって思ってた。前だけ向いて生きていけばいいや、って……」

加蓮「だからもう、病院には行かないし、あなたとも会わないつもりだったの」

加蓮「でもね」

加蓮「藍子が、逃げるな、って。私のことを叱ってくれたんだっ」

加蓮「今の私なら、過去と向かい合えるからって」

加蓮「今の私の目で、昔の私の見ていた世界をもう1回だけ見て来なさい、って」

「……そっか」
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:42:52.30 ID:SmxjqBVS0
加蓮「……私、子供達にプレゼントを配ってあげて……あなた達も、喜んだの?」

「ええ。それからは……みんな、今まで以上に一生懸命になるようになった」
「接し方の難しい患者や、入院している子供達にも、積極的に話すようになった」
「加蓮ちゃんには負けないぞー! なんて、燃えていた人もいたわね」

藍子「わあっ……!」

加蓮「な、何その対抗心……」アハハ

「私が子供の患者を押し付けられるってこともなくなっちゃった。今まで子供達と接していた時間で、事務作業をやらされたり。ふふ、嬉しいやら、寂しいやら」

加蓮「……大変だって前に言ってたんだから、いいことじゃない?」

「ふふ。そうかもね?」
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:43:22.17 ID:SmxjqBVS0
「それで、そう。話は戻るけど……あの子ね。私達が変わっていくにつれて、あの子も。話してくれることが増えてきたの」
「窓から外を見たお話。綺麗なお花を見に行きたいお話」
「それから、あれが欲しい、これが欲しい、って言うことも増えてきて――」
「くす。違う意味で大変になっちゃったかもね。ワガママを言う子供が増えちゃってねぇ」

藍子「みなさんの笑顔が、増えたんですね……」

加蓮「あはは……。甘いとこ見せたらそうなるよ。子供だからって舐めてるでしょ」

「そんなことないけどなぁ……」
「子供達みんなが明るくなって、そうしたら保護者の方達も、少しずつ前向きになって……お礼を言われることも、増えてきたのよ」
「それでまた、私たちも嬉しくなって……良い循環が生まれた、って言うのかしら?」

「変えるきっかけをくれたのは、加蓮ちゃん。あなたなの」

加蓮「私が、きっかけ……」

「だから、ありがとう」
「子供達の笑顔を増やしてくれて、ありがとう。加蓮ちゃん」

加蓮「っ……」
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:44:21.49 ID:SmxjqBVS0
加蓮「あはは……。何言ってんの……。私はただ、私がやりたいことをやっただけだから……」

加蓮「それに、アンタ達のことなんて知らないわよっ。子供達に、希望はあるんだよって教えたくて、笑顔になってほしかっただけで――」

加蓮「……私がしたことで、大人達のやり方が変わって、それで子供も笑顔になったって言うなら」

加蓮「あと、それとっ。私のこと、ちゃんと見てくれてたんだって分かったから!」

加蓮「だから、お礼を言うのは私の方……」

加蓮「お礼……」

加蓮「……や、やっぱヤダ。アンタ達にお礼なんて、死んでも言わない!」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:44:52.64 ID:SmxjqBVS0
藍子「あっ、こら、加蓮ちゃんっ。どうしてそこで意地を張るんですか!」

加蓮「藍子は知らないんだよ、コイツらの性格の悪さを! 知ったらお礼どころか顔を見るのも嫌になるくらいだから! ……うんっ。さっきの質問の返事! やっぱり、嫌いなものは嫌い!」

藍子「少なくともこの看護師さんはそんなことないって私でも分かりますっ。それに、いつまできらいきらいって言い続けてるんですか〜っ」

加蓮「嫌いなんだから嫌いとしか言えないの!」

藍子「もぉ〜〜〜〜っ! もうっ、……もうっ!」

「あはは……」
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:45:21.40 ID:SmxjqBVS0
藍子「ほら、加蓮ちゃんっ。じゃあ……今は他のみなさんには言えなくても、この方にだけはお礼を言いましょ?」

藍子「加蓮ちゃんが心配していた子どもたちを、看てくれている方なんですよ? 子どもたちが笑顔になれるように、頑張っている方なんですからっ」

「そ、そこまで言われる程じゃないけど……」

加蓮「……。…………あの……。ありがとう。子供達みんなのことも、お礼を言ってくれたことも。……すごく嬉しかった」

「どう致しまして」
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:45:51.86 ID:SmxjqBVS0
加蓮「……」

「……」

藍子「……?」

加蓮「……っ」

「……」

加蓮「……あははっ」

藍子「加蓮ちゃん?」

加蓮「ううんっ……。看護師さんって、そんな優しい目をしてたんだ……」

「あら」
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:46:22.26 ID:SmxjqBVS0
加蓮「私、あなたの……アンタ達の顔ばっかり見てた、んだと思う」

加蓮「気持ち悪い作り笑いを浮かべてる顔とか、嘘をついてるって分かるように頬を窪ませてるところとか。顔だけで判断してたから、大人共の目なんて見たことなかった」

加蓮「それだけ見て、コイツら自分のことしか考えてないんだ、私のことなんてちゃんと見てないんだ……って、勝手に判断してたのかも……」

加蓮「みんな……あなたみたいに、あたたかい目をしてたの?」

「そうね……どうかしら。それは、みんなに聞いてみないと」

加蓮「みんなに――」

藍子「加蓮ちゃん」

藍子「大丈夫。今のあなたなら……大丈夫」

藍子「ちゃんと受け止められますよね? 自分で見てみること、もうちょっとだけ、できますよね?」
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:46:52.01 ID:SmxjqBVS0
加蓮「…………っ、明後日!」

加蓮「明後日――クリスマスは、大人じゃなくて子供に会いに行って、子供達の為にプレゼントを配るんだからね? 大人とか、どーでもいいし!」

加蓮「そのついでに、もし時間があったら……ちょっとくらいなら、話してあげてもいいけど。本当にそれだけなんだからね?」

藍子「あはは……」

「……ええ。それでいいの」
「子供達のために、お願いします。アイドルの、加蓮ちゃん」

加蓮「こちらこそよろしく。病院の看護師さん」
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:47:23.65 ID:SmxjqBVS0
藍子「あのっ、看護師さん。どうして加蓮ちゃんに、プレゼントを配ってほしいって依頼をされたんですか?」

藍子「加蓮ちゃん、この依頼を受けるかどうかって悩んでいた時に、ずっと考えていたんですよ」

藍子「アイドルの、って書いていなかったら、また前みたいに夜にこっそりと……と、計画もしてましたっ」

加蓮「こらっ。余計なこと言うなっ」

「理由?」
「そうねー。理由……理由。……うーん。なんとなく?」

加蓮「はぁ?」
藍子「へっ?」

「クリスマスだから何かしたいと思って、プレゼントを配ろうって話になってから、誰かがぼそっと言ったの」
「また加蓮ちゃんが配ってくれないかなぁ、って」
「じゃあ加蓮ちゃんに頼んでみよう! ダメ元でいいから! って誰かが言って」
「せっかくだからイベントにしてみたら面白いかな、ってなって」

「でも、加蓮ちゃんはアイドルだから、事務所を通して依頼しないといけないのかな?」
「そう思ったから、依頼してみたの。それだけよ? アイドルの、って一言は……うーん……アイドルとして頑張っている加蓮ちゃんへの、礼儀みたいなもの?」

加蓮「あっそう……。何そのテキトーなの。悩んで損じゃん」

藍子「考え込みすぎちゃったから、大きな悩みごとになっちゃいましたね」

加蓮「藍子のこと言えないねー。私」

藍子「でも、謎がとけてよかったですっ」
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:47:52.14 ID:SmxjqBVS0
「私としてもちょうどよかった。加蓮ちゃんに会う理由にもなったから」
「と言っても、昔話なんてするつもりはなくて、さっきの近況報告だけして帰るつもりだったけど……」
「何やら加蓮ちゃんが話したそうにしているからね? つい、色々話しちゃった」

加蓮「何それ、私のせい!?」

藍子「加蓮ちゃんがお話したいって顔は、ちいさい頃から変わっていないんですか?」

加蓮「藍子、何聞いて――っていうか話したい時の顔って何!? そんなに表情に出てんの私?」

藍子「はい。お話させてっ、って時の加蓮ちゃん、とっても分かりやすいですよ♪」

加蓮「はああああ!?」

「そうねー。ちょっとは変わったのかな?」

加蓮「アンタもアンタで真面目に答えようとすんな!」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:48:23.20 ID:SmxjqBVS0
「小さい頃の加蓮ちゃんより、ちょっぴり素直で、とっても可愛くなったわねー」

藍子「なるほど〜……。あの、他にも加蓮ちゃんのことを教えてください! まずは――」

加蓮「藍子おおおおおおおおおおおおおおっ!!! おっ、終わり! 話は終わり! アンタが聞けって言ったこと聞いたし!」

藍子「加蓮ちゃんっ。加蓮ちゃんの聞きたいことは聞いたんですから、次は、私が聞きたいことを聞く番です!」

加蓮「なくていいわよそんなの!」

「加蓮ちゃんの仕草といえば、まず――」

加蓮「余計なことを! 喋るな! さっさとカフェに戻るわよ藍子。そしてアンタはここでさよなら! 中には入れてあげないって決めてるし!」グイグイ

藍子「待って加蓮ちゃん、もうちょっとだけっ」

加蓮「ぐんぬぬぬぬぬ……動かないんだけど。なんでそんなに力強いの!?」

「それから、あの時に――」

藍子「ふんふん……なるほど〜」

加蓮「〜〜〜〜っ! そうだ。店員! 店員さーん! 助けてくださーい! 藍子が帰ってきてくれな……協力しろ! たまには私に協力しろーっ!」


<それからそれから
<お〜、そうなんですねっ
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:48:51.91 ID:SmxjqBVS0
――数十分後――

「じゃあ、またね。加蓮ちゃん。また2日後に」
「藍子ちゃんも。今度また、加蓮ちゃんについていっぱい話しましょ!」

藍子「はいっ。今日は、ありがとうございました!」

加蓮「ぜー、ぜー……っ。もう私の前に顔を見せるな……! 2度と会わないから……!」

藍子「加蓮ちゃん、加蓮ちゃん。2日後に、また会うことになると思いますよ?」

加蓮「徹底的に無視してやる……! 何かやり取りしないといけない時には藍子、アンタが全部やりなさいよ!」

藍子「しょうがないですね。あっ、じゃあその時、今日聞けなかった加蓮ちゃんのお話をまた聞いて――」

加蓮「やっぱ私がやる!」

藍子「は〜い」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:49:21.73 ID:SmxjqBVS0
加蓮「あーもー……。もー……」

加蓮「はぁっ。……でも、とりあえず……。何か……。何か、乗り越えられた感じ」

藍子「加蓮ちゃん……。うんっ。お疲れさまです♪」

加蓮「ありがとね。……そっか。みんな私のこと、ちゃんと見てたんだ……」

藍子「加蓮ちゃんも、病院の方たちも……お互い、上手く接することができなかっただけなんですね」

加蓮「バカみたい。私もあいつらも……」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:50:23.97 ID:SmxjqBVS0
藍子「……ねえ、加蓮ちゃん」

加蓮「何?」

藍子「よかったんですか? プレゼントのお話、引き受けても――」

藍子「ほら、病院でアイドルとして……そうしたら、噂になっちゃうかもしれない、って」

加蓮「それは……うん。実はほんのちょっと悩んだの。でもさ」

加蓮「子供達と、それから……まぁ一応大人も。すごい喜んでくれたって話を聞いて」

加蓮「そしたらまた、笑ってほしいなって思っちゃった。もっと笑顔にできるのなら! ってねっ」

加蓮「ふふっ。誰かを笑顔にする為に、世の中と戦うアイドル。なんかかっこいいでしょ?」
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:50:52.10 ID:SmxjqBVS0
加蓮「さーて、急いで準備しなきゃ。プレゼントは向こうで用意するって言うけど、やっぱメッセージカードくらいはつけてあげたいよね」

加蓮「あとはスケジュールに段取りの確認。衣装は今どこに置いてるんだっけ? Pさんに聞いてみなきゃね!」

加蓮「あ、そうそう。藍子も手伝ってよ? ほら、前の握手会の時は手伝ってあげたんだし?」

藍子「はいっ。私の方こそ、いっぱい手伝わせてください!」

加蓮「あははっ。ありがと……。さすがに寒いし1回カフェに戻ろっか。Pさんに連絡しなきゃ!」
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:51:22.12 ID:SmxjqBVS0
<店員さーん。ただいまーっ
<ただいま戻りました♪ はいっ。今日はもう少しだけ、ここにいさせてください
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:51:52.21 ID:SmxjqBVS0

……。

…………。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:52:52.88 ID:SmxjqBVS0
――12月25日の早朝 病院――


――SIDE Aiko


「みんな〜! 今日は、加蓮ちゃんがプレゼントを届けに来たよ〜!」


真っ赤でもこもこのサンタ服に身を包んだ加蓮ちゃんの一言によって、病院のクリスマスイベントは始まりました。

ロビーから右手側に少し進んだところにある、休憩室……なのかな?
私の膝下くらいまでの丸クッションをしきりにしたスペースには、何人かの子どもたちがいます。
前に来た時、入院していた子は3人でしたよね。それよりちょっと多いってことは、外から来た子も混じっているのかな?
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:53:23.09 ID:SmxjqBVS0
私が座っているのは、部屋の隅です。加蓮ちゃんの左斜め後ろで、子どもたちの顔を見ることができる場所。……ちなみに私は普段着ですよ?
ここにいてほしいって、加蓮ちゃんに頼まれちゃいました。
何か困ったことがあった時に、加蓮ちゃんを手伝う役です。この前の握手会の時とは逆ですね。

「いい子にしていたみんなに、クリスマスプレゼント! そして……加蓮ちゃんからの、ひみつのメッセージカードも持ってきたの♪」

何人かの女の子が目をきらきらさせてるっ。あの中に、加蓮ちゃんがお話した子もいるのかも。
男の子は……う〜ん。何人かが、あんまり盛り上がっていないみたいです。加蓮ちゃんのことを知らない子も、やっぱりいるのかな。
でも、"ぼくしらないもん"みたいな顔をして壁を見ている子が、ちら、ちら、って加蓮ちゃんを見ているので、興味はあるみたいっ。
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/24(火) 17:53:52.82 ID:SmxjqBVS0
「なかみはね〜、ナイショ! 開けてからのお楽しみだよ」

看護師さん曰く、加蓮ちゃんはこの病院で人気のアイドルらしいです。ときどき通院する子どもも、テレビで加蓮ちゃんが出ると、よく興味を示しているそうですね。
それから、これも看護師さんに聞いたお話ですが、定期的に病院に来る子のいる家族へは、今日のことをお伝えしているみたいです。
……といっても、このイベントが決定したのは、12月23日。
あまりたくさんの方にはお知らせできなかったみたいで、スペースにいる子どもも、10人いるかいないかくらい。
もっと早く決められていたら、もっといっぱい子どもが集まれたのかもしれないけれど……。こればかりは、仕方ありませんよね。

「開けたら、お母さんや、お父さんにも見せてあげてねっ」

壁にはカラフルな折り紙が並び、てづくり感あふれるリースで「クリスマス会」と書いてあります。病院の方たちが用意してくれたみたい。
壁際にはいくつかの長椅子が並んでいて、保護者のみなさんが座って見守っています。みんな、優しそうな目をしてる……。
あっ。今、向こうから1人の女の子が、お母さんの手をぐいぐいって引っ張りながらこっちに来ました! あの子も、加蓮ちゃんのファンなのかな?
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