右京「万引き家族?」

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102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/01(水) 18:10:36.97 ID:12PeC/pS0


「治さん、子供たちが立ち寄っている駄菓子屋はご存知ですか。」


信代が訴える中で冠城があることを言い出した。
そのことを聞いて治と信代も朧げだがそういえば近所に小さな駄菓子屋があることを思い出した。


「実はあそこの店主ですが亡くなりました。」


そのことを知らされても二人はだからどうしたという反応しかなかった。
当然だが駄菓子屋の主が亡くなったところで自分たちには一切関係ない。
しかもこの状況でそんな訃報を知らせる必要があるのかと疑問にさえ思えた。


「だから何なのよ!今はそんなことどうだっていいでしょ!」


「いいや、ちっともよくない。治さんアンタ祥太たちに万引きを教えていたよな。
あの子たちは駄菓子屋で何度か万引きを繰り返していた。
子供たちが万引きを行っていたことに店主のお爺さんは気にかけていましたよ。」


「一体何なの!何が言いたいのよ!?」


「お爺さんは持病により亡くなったとされています。
一応は病死だったそうですがそこまで症状が悪化した原因はあの子たちが度々万引きを繰り返していたのを気に病んでいたからかもしれない。
つまり子供たちの行いが人を殺めた。治さん、アンタが教えた万引きのせいでな!」


 その指摘を受けて治と信代はまさかといった表情になった。
 ありえない。たかが万引きくらいで人が死ぬわけがないとすぐい考え直した。
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/01(水) 18:11:32.67 ID:12PeC/pS0


 「あのお爺さんは子供たちを気に掛けていた。だから万引きを見逃していた。
けど実際にお爺さんは亡くなってしまった。あの子たちの理解者になってくれるかもしれなかった人なんだ!」


 「そんなの濡れ衣よ…万引きくらいで人が死ぬわけないじゃない…」


 「そうでしょうか。駄菓子屋さんは小さなお店でした。
そんなお店で商品を度々盗まれれば売上に大きく影響します。それは生活が困窮することだってありえます。
あなた方にもその覚えがあるはずですよ。」

 
 右京の言葉に治と信代は大いに心当たりがあった。その通りだ。
 じゅりがやって来てから柴田家は治が怪我を負い信代がリストラにあい仕事を失い生活は困窮していた。
 お金が入らなければ生活は成り立たない。それは死にさえ繋がるということは二人がよくわかっていた。


 「だって…それしか教えることが何もなかったんだ…」


 治はそうボソリと呟いた。窃盗の常習犯である自分には他に教えることが何もなかった。
 それがまさか人を死なせるなど誰が予想できただろうか。
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/01(水) 18:12:45.18 ID:12PeC/pS0


 「わかりますか治さん。あなたが教えた行為が結果的に人を死なせた。
そんなあなたがこのまま責任も取らずに事件を終わらせるなど許されるはずがない。
あなたは子供たちを育てた責任を取らなければならないんですよ。」


「…それじゃあ…じゅりを救うやり方って…」


「そうです。あなたは子供たちに盗みを覚えさせてしまった。
そして子供たちは人を死なせた。親としてその責任を取るために過去の犯罪を認めてください。」

 
 それが右京の提示したじゅりを救う唯一の方法だった。
こんな方法を知らされた二人はやりきれない思いで嘆くしかなかった。
彼らの生い立ちを知った今となってはその関係にもある程度の理解ができる。
この家族は誰もが心に傷を負っていた。だがそれと罪を重ねてきたことは別問題だ。
いくら自分たちが過去に傷ついたからといって他の誰かを傷つけていいわけがない。


「何でよ…どうしてこんなことになったのよ…」


 信代はそう嘆いた。自分たちは家族が欲しかった。唯それだけなのにどうして…

105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/01(水) 18:13:18.44 ID:12PeC/pS0


 「それはあなたたちが今しか見ていなかったからですよ。」


 「子供を育てるのであれば今よりも明日を見るべきでした。」


 「子供をしっかりと育て上げること。それが大事でした。」


 「それなのにあなた方は今を楽しむことしか考えていなかった。」

 
 「子供たちの未来を考えようともしなかった。」


 「だからこんな終わり方を迎えてしまったんですよ。」


 治と信代に右京の言葉が重く伸し掛った。
 否定など出来やしない。何故なら右京の言うように彼らは今がよければそれでよかった。
 だからなのかもしれない。初枝の死も少しでも考えてやればこんな事態だけは避けられたはず。
 だがもう遅い。幸せだった時間は二度と取り戻すことはできない。
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/01(水) 18:14:42.82 ID:12PeC/pS0


 「…わかりました。罪を認めます。」


 治は静かに十年前の祥太誘拐の件を自白した。同時に伊丹はこのことを内村部長に報告。
 部長からは凄まじい剣幕でどうにかならないのかと怒鳴られたが最早警察の面子がどうのという問題ではない。
 今回の事件で警察もまたその責任を取らなければならない。
 捜査方針の誤りにより子供たちの運命を大きく狂わせてしまった。
 そのことに責任を感じているからこそ伊丹と芹沢もまた彼らの罪を認めるしかなかった。


 「…これで私たちは…あの子たちの本当の親子になれたんですね…」


 自供を終えると信代が不気味なまでに笑みを浮かべた。
 実の親たちは子供を育てる責任を放棄していた。だが自分たちはちがう。
 こうして罪を認めることで子供たちを育てた責任を取る。
 それが自分たちは偽りなどではない本当の親である証だと言ってみせた。
 そんなことでしか自分たちが親を名乗れない信代を右京と冠城は哀れに思えてならなかった。
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/01(水) 18:15:21.93 ID:12PeC/pS0


 「…じゃあ二人は…」

 
 「ええ、彼らは罪を認めました。これより刑務所で長い間服役することになりでしょう。」


 後日、右京と冠城は祥太とじゅりを連れてある場所へと向かっていた。
 ちなみにだが事件の真相が暴かれた後でまた事態は騒然となった。
 北条夫妻は二ヶ月間も子供を放置した件が明らかとなりじゅりは保護された。
 祥太もまた実の親が明かされたが十年にパチンコ屋で子供を放置した件を問われたことで親権を放棄。
 そのため現在二人は同じ施設で過ごしていた。


 「ねえ…何で二人が親じゃないって…わかったの…」


 「それは祥太くんキミのおかげですよ。
キミはあの二人のことをお父さんお母さんと一度も呼んでいなかった。だからもしやと思いましてね…」
 

 そのことを知らされて祥太は思わず苦笑いを浮かべていた。
 実は祥太だが以前から二人が本当の親でないことに気づいていた。
 だから普段は『おじさん』『おばさん』と呼んで過ごしていたらしい。
 二人には父ちゃん母ちゃんと読んでもらいたかったそうだがそれには何故か抵抗を感じていた。
 そのことが事件を暴かれるきっかけになったのだからなんとも皮肉な話だ。

108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/01(水) 18:16:15.68 ID:12PeC/pS0

 
 「それで施設の方はどうだ?生活は順調か。」


 「うん、学校にも通うようになって友達も出来た。この前はテストで百点採ったよ。」


 「そうかよかったな。」


 冠城は得意気に話す祥太の頭を撫でながら褒めてあげた。
 これがこの歳の少年の普通な反応だ。祥太の隣にいるじゅりも明るい笑みを浮かべていた。
 子供たちが充実した毎日を送っていて安心した。
 だからこそ最後にやらなければならないことがあった。
 
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/01(水) 18:18:52.29 ID:12PeC/pS0


 「着きましたよ。ここです。」


 訪れた場所。そこは駄菓子屋だった。
 店には商店街の人たちが入れ替わるように訪れてみんな涙を浮かべていた。
 見るとお店の奥には遺影が飾られていた。写っているのは駄菓子屋のお爺さんだ。

 
 「これって…どういうこと…?」


 一体どういうことなのか?幼い二人にはこの場で何が起きているのかまったく理解できなかった。


 「あのお爺さんはお前たちの万引きで被害にあった人だ。お爺さんは最期までお前たちのことを気にしていた。」


 祥太は思い出していた。度々ここで万引きを行ってたこと…
 そしてじゅりにすら万引きをやらせてしまっていた。


 「キミたちを育てた治さんと信代さんは自らの罪を認めました。
子供たちを正しく育てられなかった責任を取るためです。
次はキミたちの番です。あの二人と同じ過ちを繰り返さないためにもやるべきことがあります。
それはお爺さんの前でしっかりと謝ることですよ。」


 特命係の二人が子供たちを施設から連れ出した理由はそれだった。
 確かに今回の誘拐事件において祥太とじゅりは被害者だ。
 しかし同時に加害者の一面もあった。ここで二人が過ちを認めずにいたらどうなるだろうか。
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/01(水) 18:20:37.78 ID:12PeC/pS0


 「キミたちは過ちを犯した。それは決して許されないものです。」


 「ですがその罪を裁くことは出来ません。まだキミたちは幼い。」


 「それでもお爺さんの前で謝るべきです。それが償いの一歩なのですから。」


 右京の厳しくも正しい発言を告げると祥太とじゅりは恐る恐る店の中へと入った。
 店に入ると同時に誰もが二人を敵視した。
 二人は知らないのだろうが子供たちはこの辺りで万引きを繰り返していた。
 この場にいる誰もが二人の行いを知っている。子供たちは罪悪感もなく盗みを働き続けた。
 今更何をしに来たのか。もう遅いんだぞと睨みつける有様だ。
 そして子供たちも今頃になってようやく理解した。人のものを盗むのは悪いことだと…
 だからこうして憎まれ恨まれていることを理解した。
 祥太は目から涙を溢しじゅりもまた泣き出した。
 自分たちがこうまで憎まれていたとは思わなかった。けどやらなければならない。
 ようやく遺影の前にたどり着き二人は泣きながらもこう告げた。


 「―――――お爺さん。ごめんなさい。」


 二人は静かに謝罪を込めた言葉を述べた。
 傍で見守っていた右京と冠城もこれでようやく事件に一幕下ろせたと感じていた。
 もしも柴田一家を称するのなら万引き家族とでもいうべきだ。
 この万引き家族は人の絆を盗んだ。モノだけでなく子供たちすら…
 そんな盗み続けた家族は最悪の結末を迎えた。
 この先彼ら万引き家族が再び揃うことはないだろう。
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/01(水) 18:21:16.51 ID:12PeC/pS0


 「これでよかったんですよね。」


 「ええ、決して報われない結末ですがそれでも彼らがようやく一歩を踏み出したと信じましょう。」




 end
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/01(水) 18:23:58.71 ID:12PeC/pS0
終わりです。なんとか相棒元旦SP前に完成できました。
映画では祥太誘拐の件とじゅりのその後にちょっと納得が行かなかったのでこんな感じになった次第です。
まあちょっぴりきつい感じですがそれは愛嬌ってことで
最後にまだやり残したことがあるのでそれはpixivでやっておきたいと思います。それではまた
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/02(木) 15:16:33.58 ID:gPq3HlRYo
乙乙
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/01/04(土) 03:16:30.38 ID:kQtnDoQl0
伊丹刑事の登場シーンから始めたとこ見ると
スレ主はイタミン大好き人間だな

同志!

ハグっ!
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