右京「万引き家族?」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/16(月) 01:32:38.92 ID:w7wIwWN50
相棒×万引き家族のssです。
クロス元は去年カンヌ国際映画祭で出展された作品になります。
よければ見てやってください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1576427558
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/16(月) 01:34:49.27 ID:w7wIwWN50


2018年6月末日―――


時刻は昼の12時過ぎ、都内某所にある商店街を背広姿で歩く二人の男たちがいた。
警視庁捜査一課に所属する伊丹と芹沢の両刑事。
いつも通り眉間にシワを寄せて顔を強ばらせる伊丹に駆け寄りながら付いていく芹沢。
二人が目指すのはこの商店街の裏通りにある小さなスーパーだ。


「オイ、さっさとついてこい。時間ねえんだぞ。」


「わかってますよ。けど昼飯くらいちゃんとした場所で取りましょうよ。」


「バカ言え。そんな余裕があってたまるか。」


警視庁捜査一課の刑事となれば多忙なのは当然。
だが食事をする余裕もないほど時間に追われていた。
ちなみにこのスーパーだが既に築30年は経過している悪く言えばボロ屋な建物。
店内は簡素な作りで表通りにあるチェーン店のスーパーとは比較にもならないボロさが悪目立ちしていた。
いくら時間がないとはいえもう少し場所を選んでも罰は当たらないだろと芹沢も内心愚痴を吐く始末。
そんなスーパーに伊丹と芹沢は揃って入店した。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/16(月) 01:35:58.67 ID:w7wIwWN50


「俺は惣菜コーナーでコロッケ買うからな。お前はどうすんだ?」


「あ〜メンチカツで…」


「それじゃあコロッケとメンチカツを二つ頼む。 」


とにかく愚痴っても仕方がない。それに今更他の店を探す時間もない。
もう諦めるしかないと思いながら芹沢もこのスーパーで売られている惣菜を購入。
それにしてもこんな寂れたスーパーの食べ物なんて美味しいのだろうか?
店がボロいのは仕方ないにしてもせめて美味しいものを食べたかったと思いながら一口食べた。


「これ…うまいっすね…」


「ああ、この店とんだ当たりだったな。」


芹沢はともかくあの偏屈な伊丹ですら思わず美味いと太鼓判を押した。
ダメ元で訪れたスーパーでまさかの嬉しい誤算に二人は思わず大喜びする。
気づけば手元にあったモノを食べきりせっかくなので追加注文しようとまで思った時だ。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/16(月) 01:37:00.77 ID:w7wIwWN50


「お気に召して頂き光栄です。」


そんな二人に売り場にいた店員らしき人物が声をかけてきた。
思わず声を荒らげてしまい恥ずかしいがこの美味さは堪らない。
一体誰が作ったのかと店員を振り返った時だ。


「伊丹さん、芹沢さん、まさかお二人とこのような場で会うとはなんとも奇遇ですねぇ。」


「えぇぇぇぇぇぇっ!?杉下警部!!??」


「警部殿!アンタ一体何してんですか!?」


「見てわかりませんか。このお店で働いているんですよ。」


そこにいたのはご存知警視庁特命係に所属する杉下右京。
だが二人が驚いているのはそんなことではない。何故右京がスーパーで働いているのか?
これは当然だが公務員は副業を禁止されている。
ましてや警察官が真っ昼間から本来の業務そっちのけで副業していたとなれば、
すぐに監察官の大河内が飛んできて有無も言わさず懲戒免職の処分が下されるだろう。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/16(月) 01:37:41.11 ID:w7wIwWN50


「言っておきますがこれは副業などではありませんよ。特命係の仕事です。」


「仕事って…いくら特命が暇だからってこんな場末のスーパーで働くなんてありえるんですか!?」


「それがありえるから世の中怖いんですよね。」


「冠城もいるのかよ。一体どういうことか説明しやがれ!」


あとから現れた冠城に事情を聞いてみるとかなり特殊なものだった。
実はこのスーパーだが見た目通りのボロさが災いして万引き行為が多発している。
これでは売上にかなり響いてしまう。この現状を近隣の所轄に相談した。
そんな話がどういった経緯なのかわからないが警視庁の内村刑事部長の耳に入った。


「まあ日頃我々を目の敵にしている内村部長のことです。
今にして思えば嫌がらせになることならなんだってよかったのでしょう。
まあそんな内村部長の嫌がらせはともかくこの店で多発している万引き行為を防止すべく
僕たち特命係がこのお店に派遣されたわけです。」


「ちなみに見た通り人手不足なもので俺たちが監視兼業務も担っています。
あ、これは副業じゃありませんからね。俺たちお金は貰っていません。
無給で市民の方々に奉仕していますからね。」


「けどいくらお金貰ってないからって警察官がスーパーの手伝いって大丈夫なんですか?」


「知るか。特命係が場末のスーパーで働こうが俺には関係ねえ!」


特命係がこのスーパーで働いている事情は把握出来た。
気になった伊丹が調理場を覗いてみるとそこには青木が恨めしそうな顔で材料の計量を行いながらブツブツと文句を垂れながら調理を担当していた。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/16(月) 01:40:43.76 ID:w7wIwWN50


「なんで僕がこんな目に…スーパーで働くために警察に入ったわけじゃないんだぞ…」


普段から陰険な青木がこのスーパーでさらにグレードアップした雰囲気を漂わせながら黙々と作業を行っていた。
まさか自分が絶賛した揚げ物が実は特命係のお手製だったとは…
この様子を見て先ほどまであった伊丹の食欲が一気に薄れてしまった。


「クソ…こんなところいられるか!芹沢さっさと仕事に戻るぞ!」


「あ、ちょっと待ってくださいよ先輩!」
  

こうして伊丹はせっかくの昼食を邪魔されたせいで怒り心頭になり店を出て行った。
 その伊丹の後を追いかけるように芹沢も店を出た。
 残ったのはそんな二人を見送る右京と冠城の二人だけだった。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/16(月) 01:42:43.08 ID:w7wIwWN50


「あ〜あ、怒らせちゃいましたね。俺たち客商売は向いてないんですかね?」


「僕は二人を怒らせるような真似はしていませんが…
それにしても捜査一課の伊丹さんたちがわざわざこんなスーパーを訪ねてくる理由。
どうやら彼らはあの事件の捜査を行っているようですね。」


「あの事件ってひょっとして北条じゅりちゃん失踪事件ですか。」


 そう、伊丹たちも好んでこのスーパーを訪ねたわけではない。
 実は伊丹たちはこの近辺で起きたある事件を担当していた。それは誘拐事件。
今朝、警察はTV報道である事件について大々的にある事実を告げた。
二日前、北条じゅりちゃん5歳が行方不明になった。
 じゅりちゃんの両親は必死に周囲を探したがその痕跡ひとつ見つからず警察に捜索依頼したという。


「心配ですね。まだ5歳となると親御さんも気がかりでしょう。」


「けど何で伊丹さんたち捜査一課が駆り出されたんですかね?彼らは殺人専門でしょ。」


「それについてですがどうやらマスコミに十年前の事件について突っつかれたのが原因のようですね。」


右京が指す十年前の事件とは千葉県内で起きた誘拐事件のことだ。
十年前のこの時期に同様の事件が起きた。誘拐されたのは当時生後間もない男の子。
犯人からの連絡は一切なくその痕跡を辿ることすら適わなかった。
その子は今も発見されておらず行方不明のまま。
それで今回の事件においてマスコミは当時の事件と同様にまた迷宮入りになるのではないかと疑問視された。
そのため今回は初動捜査から本腰を入れようと警視庁捜査一課を動かしているという大人の事情が絡んでいた。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/16(月) 01:43:30.47 ID:w7wIwWN50


「なるほど、警察も二度目の失態は避けたいですからね。」


「ええ、誘拐事件は時間との勝負ですからね。ところで……来たようですよ。」


そんな雑談を交わしている中で右京はスーパーの入口から店内に入ってきた客に注目した。
一人は足に怪我を負ったしょぼくれた中年男、もう一人は大きなリュックサックを背負いヨレヨレのシャツを着てボサボサ頭な髪の毛の少年が入店した。
同時に右京たちも二人の動向に注意した。
男が買い物かごを持って店内にある商品をかごに入れる。
一見なんともなさそうな行動だ。それから右京が二人から目をそらした時だ。
少年が商品棚の前でリュックサックの中を開けた。中身は空っぽだ。
同時に男が少年の前に立ち右京の司会を遮った。
そして次の瞬間、少年は空のリュックに棚に置いてあった商品を取ろうとした。


「何をしているんだ。」


そこへ一連の行動を目撃していた冠城が割って入った。
 何をしていたのかなんて一目瞭然だ。この少年は万引きを行おうとしていた。
 それも突発的な犯行ではない。予めこの店で犯行を行うために入店した。
 つまり計画的な犯行だ。とにかくこんな行いを仕出かした以上は容赦しない。
 すぐに少年を店の事務室へと連れて行こうとした。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/16(月) 01:44:43.37 ID:w7wIwWN50


「すいませんねぇ。うちの息子が誤解するような真似をして…」


 そんな冠城に男が声を掛けた。男は少年のことを息子と呼んだ。
 察するにこの二人は親子らしい。思わず顔を見比べてみるがどうにも似ていない。
 本当に親子なのかと疑ってしまうがまあ本人がそういうのならそうなのだろう。


「お父さん、これは明らかに万引き行為ですよ。さすがに警察を呼ばせてもらいます。」


「いやいや、子供の悪戯じゃないですか。それにまだここは店の中ですよ。外に出たのならともかく店の中でならまだ万引きにならないでしょ。」


父親である男からそんな指摘を受けて今頃気づかされたがここはまだ店内だ。
万引き犯を取り締まるには会計をせずに店の外へ出た場合だ。
つまりこの状況なら本人たちが子供の悪戯だと主張されたらそれまで…
隣で動向を伺っていた右京も思わず渋い顔で冠城を睨みつけた。
まずい…しくじった…思わずそう嘆くしかなかった…


「とりあえず迷惑かけてすいません…ほら…お前も謝れ…」


「ごめん…なさい…」


その場で謝罪を済ませると父親は息子を連れてすぐに店を出て行った。
この状況で再び万引きを行うことはないだろう。
だがこれで事態が解決したわけではない。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/16(月) 01:45:14.22 ID:w7wIwWN50


 「まったく…失敗ですね…」


 「すいません…けど右京さんが何もしないから気づかないんじゃないかと心配で…」


「僕は油断などしていません。二人が店を出て行った瞬間を狙っていました。」


あの親子連れだが実はあの二人こそが店の経営を圧迫させている万引きの常習犯だ。
どうやらこの近隣に住んでいるようで防犯設備の疎いこの店をターゲットにして犯行を繰り返していた。
既に店側は二人をブラックリストに入れていたが中々尻尾を抑えることが出来ずにいた。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/16(月) 01:46:06.94 ID:w7wIwWN50


「いやあ〜!今日も一日終わりましたねえ!」


夜9時、店での業務が終了した。
防犯のために送られたはずがまさかガッツリ働かされるとは思わなかった。
普段特命係で暇を持て余しているのが仇だったのか冠城は肩をクタクタにさせながら疲労感むき出しだった。


「右京さん花の里行って一杯やりませんか。早くこの疲れを癒しましょうよ。」


「ええ、それはいいのですが…」


「ひょっとして昼間の万引き親子を気にしているんですか?」


「そうですね。確かに実行犯は少年の方です。
ですがあの父親は僕の視線を遮るような行動に出ていた。
あれは明らかに意図的な行動です。つまりあの万引きは父親が裏で指示を出していたと見て間違いありません。」


右京の推理に冠城は思わず不快さを顕にした。
当然だ。真っ当な親なら子供に万引きなど行わせるはずがない。
実の子に万引きを行わせるとは一体何を考えているのかと怒りすら覚えた。
そんな冠城とは裏腹に周囲を見回しながら右京はあることに気づいた。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/16(月) 01:47:52.45 ID:w7wIwWN50


「そういえば誘拐された北条じゅりちゃんの自宅はこの近隣でしたね。」


「まあ正確に言えばここから5キロほど離れていますけどね。」


「そのくらいなら子供の足でも移動は可能でしょう。」


「もしかして事件の捜査に参加するつもりですか?伊丹さんに怒られますよ。」


「まさか、今回は僕たちの出番はありませんよ。
警察が総力を挙げて捜査に乗り出しているなら発見されるのは時間の問題でしょう。」


右京の言うように警察は今回のじゅりちゃん行方不明事件に本腰を入れている。
そんな状況で自分たち特命係の出番などあるはずもない。
それにこちらも万引き犯の取締りという仕事がある。
さすがに今回は下手に首を突っ込んで現場をかき回すのは不適切であり自重すべきだと判断していた。

13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/16(月) 01:50:24.04 ID:w7wIwWN50


  「おーっ!母ちゃんに髪の毛切ってもらったのか!似合うじゃねえか!」


道中歩いているとふとある一軒家から話し声が聞こえてきた。
この声は聞き覚えがある。確かあの万引き親子の父親の声だ。
すぐに二人は声のする一軒家を覗いた。
ちなみにこの家だがもう五十年以上は築年月が経つほど古びており表札には『柴田』という苗字が記されていた。
その塀の隙間から家の様子を覗くと見えたのは昼間見た父親とそれに少年の姿があった。

  
  「母ちゃんに髪切ってもらえてスッキリしたなゆり。」


  「そうだね、前の髪型は野暮ったかったからこれで可愛く見えるでしょ。」


 父親とそれに母親らしき女性がなにから愉快に話し合っていた。
 会話の内容から察するにこの家にはもう一人娘がいてその子が髪を切ったということ。
 どんな風になっているのか気になるが生憎外からでは娘の姿を確認することが出来なかった。


「どうだい正太。ゆりの髪型似合うだろ。」


「髪型なんて別にいいだろ。それより腹減ったから飯にしようよ。」


そんな二人を呆れるような目で少年がこんな愚痴をこぼした。
 ちなみにだが少年の名前は正太というらしい。


「まったく正太は…女の子が髪を切った時は褒めないとモテないよ…」


「まあいいじゃないの。このくらいの年頃は色気より食欲だからね。」


そんな正太を嗜めるのは若い女性と年老いた老婆だ。
恐らくだがこの二人、正太の姉と祖母なのだろう。
 それから一家は正太の言うように夕食を食べ始めた。
 家族全員が笑顔で食卓を囲うこの光景はまるで幸せを絵に描いたかのようだ。
 まあこれ以上は見ていても何もならない。
 さすがにこの状況で家族の団欒を遮ってまで昼間の万引き未遂を咎めることも出来るはずもなく二人がこの場を立ち去ろうとした時だ。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/16(月) 01:51:24.64 ID:w7wIwWN50


 「ご飯おいしいね!」


 偶然だが娘の姿を確認することができた。
 先ほど母親が髪を切ったショートヘアーが特徴的な5歳くらいの可愛い女の子。
 だがこの少女を目撃した瞬間、冠城はすぐに自らの携帯を取り出してあるニュースサイトを覗いた。
 
 
 「嘘だろ…何でここにいるんだ…」


 「おや冠城くん、どうしたのですか?」


 「これを見てください…あの子が…」

 
 動揺する冠城の隣で右京も携帯を覗いてみるとそこにはある少女の画像が載っていた。
 その少女は現在行方不明になっている北条じゅり。
ロングヘアーが特徴的な5歳の女の子だ。
この画像を見て右京もすぐにあの家に居る娘に注目した。


 「これは…まさか…」


「間違いありませんよ。行方不明になっている北条じゅりちゃんです。」


現在警察が血眼になって捜索している北条じゅり。
もう二日も行方不明になっておりその身が危機的な状況に見舞われると誰もが危惧していた。
それがまさか目の前にある一件家で家族団欒で食卓を囲っているとは誰が予想出来ただろうか。
 右京と冠城は目の前で幸せそうな家族を前にして複雑な思いを募らせていた。
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