【たぬき】小日向美穂「令和狸合戦ぽんぽこひなた 〜さらわれたPさんを追え〜」

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133 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/04/24(金) 23:22:04.21 ID:LfJZE5H/0

P「おっ、うまい……!」

薫「ほんと!?」

P「うん、うまいよこれは。具にたどり着くまで、結構遠いけど……」モグモグ

P「からあげに卵焼き、昆布におかか……バクダンおにぎりってやつだな。これは、具も君が?」

薫「うんっ! おかあさんに教えてもらったのっ!」ブンブン

P(尻尾出てるのかわいいな)

P「あ、お茶もらえる?」

薫「はい、どーぞっ」パタパタ

P「ありがとう」



P「……ふうっ、ごちそうさまでした。腹いっぱいだ」

薫「おそまつさまでしたっ」

P「うまかったよ。何かお返ししたいところだけど……なんも無いな」

薫「おかえし……」


薫「じゃあ、お話が聞きたいな」


P「話?」

薫「だんなさまのこと。ねえ、東京から来たんだよね? おしごと? 何のおしごとしてるの?」

P「俺の仕事は、アイドルのプロデューサーだよ」

薫「ぷろでゅーさー? アイドルって……テレビで見るやつ?」

P「そう、そのアイドル。歌ったり踊ったり、ドラマや色んな番組に出たりするんだ。そうだな……高垣楓って知ってる?」

薫「! 知ってるー! 歌がじょうずなおねえさん!」

P「彼女もうちのアイドルなんだ。他にも、たとえば……」

134 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/04/24(金) 23:38:28.44 ID:LfJZE5H/0

  ………………
  …………
  ……


薫「わぁ〜〜……! それ、ほんとなの!?」

P「本当だとも。最近の大きな仕事だと、ドームでライブやったり……ここにもステージの仕事で来たんだ」


P(美穂、卯月、響子……今ごろどうしているだろう。余計な心配をかけていなければいいが……)


薫「すごいすごいっ。アイドルって楽しそう! だんなさまが、みんなに色んなこと教えてあげてるんだね!」

P「いやいや、ほんの少し手伝いをしてるだけだよ。むしろ、俺が教えられることだって多いくらいで」

薫「んーん。かおる、わかるよ。みんな、だんなさまのこと大好きだって! そんなにおいがするの!」

P「におい?」

薫「ぽかぽかした、おひさまみたいなにおい。なかよしなんだなって、わかるの!」

P「そうか……みんなもそう思ってくれてたら嬉しいな」

薫「なんか、だんなさまって先生みたい。あのね、学校では人間のことばとか、化けかたとか、いろんな先生が教えてくれるんだよっ」

P「ははは。本職の人に比べればまだまだだけど、ある意味近いのかもな」


薫「うんっ。ねえ、『せんせぇ』って呼んでもいい?」

135 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/04/24(金) 23:39:07.90 ID:LfJZE5H/0

P「せ、先生?」

薫「だめ……?」

P「いや、そりゃ構わないけど……」

P(旦那様っていうのも、なんかくすぐったいしな)

薫「やったぁ! これからもよろしくねっ、せんせぇ!」

薫「あ、でも、かおるとケッコンするんだから、プロデューサーはもうしないのかなぁ……?」


P「…………」

P「薫ちゃん。そのことなんだけど……」


薫「ごめんね」


P「え……」

薫「かおる、ほんとはわかってたんだ。せんせぇがかおるのしっぽ掴んだの、わざとじゃないって」

薫「でも、きまりだから。おとうさんもそうしなさいって。せんせぇは、ここのたぬきじゃないのに……」

薫「だから……」

136 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/04/24(金) 23:45:55.54 ID:LfJZE5H/0

P「…………」ワシャワシャ

薫「わわっ。せ、せんせぇ?」

P「薫ちゃんは何も悪くないよ」

薫「そ、そうかな……」

P「悪いとしたら俺の方だ。ここのしきたりを知らないのに、無作法なことしちまった」

P「だから、俺からきっちり話をつけて解決するよ。何の心配もしなくていい」

薫「…………」

P「結婚がどうとかなんて早すぎるだろ? 君には、これから色んなことがあるんだから」

P「今のうちから将来を決めてしまわないで、自由に育って。嬉しいこととか、悲しいこともたくさん経験して」

P「そうして、ちゃんと自分の心で好きになった人と、幸せに一緒になる。結婚ってそういうものだと思う」


P(…………なんて)

P(多感な時期の女の子にアイドルやらせてる男が言うのも、説得力ゼロかよって話だが)

P(この子はアイドルじゃないし、まして自分で望んだわけでもない。こんなことで人生狂わすわけにもいかない)


P「それに、薫ちゃんは俺にはもったいないよ」

P「かわいいし明るいし、おまけに料理がこんなにうまい。もっと素敵な、ふさわしい相手がいるさ。間違いない」

137 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/04/24(金) 23:51:13.78 ID:LfJZE5H/0

薫「………………」ポケー

P「ん? 薫ちゃん?」

薫「んーん。かおる、やっぱりせんせぇとケッコンする」

P「んん!?」

薫「おかあさんが言ってた。ケッコンするなら、どきどきできるトノガタにしなさいって……!」キラキラ

薫「かおる、いますっごくどきどきしてる! こんなの初めて! ね、せんせぇ、ケッコンしよ! しよしよ!」

P「ちょっと待……!」


  ――――ヒュンッ


P「わぷっ!? ……な、なんだ!? 葉っぱが顔に!?」

薫「…………!!」

138 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/04/24(金) 23:52:06.54 ID:LfJZE5H/0


  ヒョイ マジマジ…


P「……薫ちゃん?」

薫「まちの方から……この色のはっぱ……こんなにはやく……」

薫「数は――うん。……うん。そっか……うん。タクシーのおじちゃんが……」


薫「……わるいヤツが来たんだ」


P「悪い奴……!? ちょっと待ってくれ、どういうことだ!?」

薫「だいじょうぶ! せんせぇのことは、かおるが守るから! ――ここで、待っててっ!!」


  ピューーーーーーッ!!


P「薫ちゃっ……速ッ!? 時速何キロあんの!?」

P「くそっ、追わなきゃ……!」


P(もしかしたら、美穂たちかもしれない……!)

139 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/04/24(金) 23:53:14.05 ID:LfJZE5H/0

  ◆◆◆◆


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 辿り着いた先は、村はずれの原っぱだった。
 山の中にぽっかり開いた、木が一本も無い草原。ちょっとした池があるくらいで、抜けるような青空が広がるばかりの場所――

 その真ん中に、薫ちゃんがぽつんと立っていた。

「薫ちゃ……!」


 息を呑んだ。
 彼女の背にみなぎる気迫は、これまでのかわいらしい少女のそれではなかった。


 今まで見たこともない――
 熊本のたぬきの群れとも違う――
 京都の狐の結界とも趣を異にする――

140 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/04/24(金) 23:54:38.53 ID:LfJZE5H/0


 信じられないほど深い、9歳の少女が出すものとはまるで思えない、生半可な妖怪変化が束になっても敵わない圧倒的な「怪異」の気配。
 凡人にもわかる、常識や日常などまったく及びもつかない、想像さえもできないもの。

 俺がこれまで見た――楓さん、芳乃、茄子さん、こずえ、紗枝、智絵里、アーニャ、まゆ――

 みんなとも、こと「力強さ」という点において、隔絶とすら言えるほどの違いがあって。


 ぶわっ!!


 風が巻き上がる。薫ちゃんを中心に渦を巻き、葉っぱを乗せて、目に見える螺旋を描いて天へと投じられていく。
 奇妙なのは、中心に立つ彼女は、一切風にあおられていないことだ。
 髪の毛一本、服のシワひとつ、何の影響も受けていない。成人男性の俺すら立っていられない風が集まる中――
 彼女に何の影響も無いということは、すなわち薫ちゃんが「台風の目」になっていることに相違ない。

141 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/04/24(金) 23:56:07.95 ID:LfJZE5H/0


「ん〜〜〜〜〜〜〜……っ!」


 寒気を巻き上げる巨大な渦の中で、薫ちゃんは念じる。頭に耳が、お尻に尻尾がぴょこんと生えている。
 その毛が、まるで敵を威嚇するように膨れ上がり――


「むぅぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ……!!」


  ポ ン ッ ! !


 ――――そして、「山」が生まれた。


142 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/04/24(金) 23:58:01.24 ID:LfJZE5H/0

  ◆◆◆◆


  ―― 偽山


「い……一体、どうなってるんだ……?」


 起きたことをそのまま言うならば。

 真昼の草原だと思っていたのが、突如真夜中の緑深い山中になった。

 何を言っているかわからねーと思うが、俺にもさっぱりわからない。
 催眠術とか超スピードとか、そんなチャチなもんじゃ断じてなくて……これは、たぬきの化け術だ。

 理由はわかってるが、それでもやっぱり信じられない。

 だって、山ひとつだぞ? 空さえも夜にしてる。こんなものが、たった一匹のたぬきにできるのか?
 化け術についてはある程度知っているつもりだが、俺がこれまで見てきたものとはあまりにもレベルが違いすぎる。

 四国どころか、日本でも最高クラスの天才……父親はそう言っていた。確かにこれが薫ちゃん一人の仕業なら、桁が違うとしか言いようがない。

143 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/04/24(金) 23:59:20.49 ID:LfJZE5H/0

 でも本人は、人懐っこくて優しい女の子だ。
 そんな薫ちゃんが敵意を露わにするほどの相手とすれば……。

 外部からやってきて、龍崎家の祝言を阻止しようとする相手。
 この状況で、それが誰なのかというと……考えるまでもない。

 美穂、卯月、響子。


 優しい子たちだ。俺を心配して、探しに来てくれたのかもしれない。
 あの三人が巻き込まれていたとなれば、なんとしてでも保護しなくては……!!

「ん……!?」

 途端に、目の前の地形が大きく揺らいだ。
 地面は地面ではない。薫ちゃんが生み出した、幻術の山なのだ。

 それが化け主の意思に呼応し、まるで誰かを迎撃するように激しく蠕動し――


 ぐわんっ!!!

144 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/04/25(土) 00:00:13.98 ID:9Di3eWDa0

   ○


「――はぁ〜……くっそ……」

 次に目が覚めれば、景色が激変していた。
 さっきまでは上り坂を歩いていたはずが、今は崖っぷち。どこがどこだか。空の月がくっきり地上を照らしている。
 けど、俺もこの偽山に巻き込まれたことはかえって好都合だ。
 美穂たちもここにいるのなら、会わなければ何も始まらない。


 俺は、歩いて……
 歩いて……………………
 歩いて…………………………
 歩いて……………………………………


「…………一ッッッ向に、どこにも着かねぇ!!?」

145 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/04/25(土) 00:02:56.86 ID:9Di3eWDa0

 たぶん当たり前である。
 凡人が、たぬきの化けた偽山を攻略できるわけがないのだ。

 ただただ、ひたすら何も無い山道を歩いて歩いて、迷って、迷って迷って……。

 砂漠を進んでいるにも等しい。
 なんか昔、似たような状況に陥らなかったっけ? ひたすら無限の桜吹雪が吹き荒れる世界。あれもヤバかったな。って懐かしんでる場合じゃないが。

 とにかく進むしかない。俺も化かされているのなら、化かされ上等。
 同じ状況に陥っている誰かを、見つけることさえできれば……。



「――た、助けてください〜〜〜〜〜〜〜っ!!」



 !!!


146 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/04/25(土) 00:04:24.76 ID:9Di3eWDa0

   ○


 声のする方へ、ひたすら走って走って走りまくった。
 他の一切には目もくれなかった。
 波打つ木々とか、渦を巻く草原とか、象とかチキンジョージとか、なんかよくわからんあらゆるものを全部駆け抜けて、全身全霊で急いだ。

 助けを求めるその声に、聞き覚えがあった。

 間違えるものか。声の主は、間違いなく――


「卯月!!」


 果たして、卯月は本当にいた。
 背が高い木の上にしがみついて、ひんひん泣きながら、叫ぶ。

「わ、私っ、食べてもおいしくないですよぉ〜〜〜〜っ!!」 

147 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/04/25(土) 00:05:32.98 ID:9Di3eWDa0

 見れば木の根元に、やっぱりなんかよくわからんものがうごうごしている。
 妖怪、というか。クレヨンで描いたみたいなアバウトでカラフルなバケモノたちが、うおーがおーこわいぞーたべるぞーと卯月を全力で威嚇している。
 それに卯月は本気で怯えて、べしょべしょ泣きながら命乞いしている。

 ……いやまあ、怖いのはわかる。
 こんなよくわからん状況で、妙ちくりんな作画の妖怪に襲いかかられたら誰だってビビる。俺だってビビる。
 幸いなのは、俺にはこの源が誰なのかわかっていることだ。

 あれらの妖怪は、薫ちゃんの化け力によって生み出されたもの。ならば……。


 ――ザッ!


「卯月、大丈夫だ! もう少しそこで耐えててくれ!」
「えっ……えっ!? ぷ、プロデューサーさんっ!?」

 一歩踏み出し、ネクタイをゆるめる。
 根本が薫ちゃんなら、この『技』も通用するはず……ッッ。

148 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/04/25(土) 00:06:56.67 ID:9Di3eWDa0

「これを見ろ!」

 妖怪たちが、こっちに意識を取られる。

「指が……!!」

 構える……!!

「取れた!!!」


『!!!!!?????』


 ポポポポポポポンッ!!!!


 驚愕の表情を最後に、妖怪たちが消えてなくなる。
 やはり……!!
 化け合戦は、タネはどうあれ「ビビらせたもの勝ち」……。
 こうしたトリックであっても、薫ちゃん自身がタネを知らないのであれば、ガチビビリから少しでも変化を打ち消せる……はず!

 ……いや、こんなんでいいのかとは自分でもちょっと思うが……!!!!

149 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/04/25(土) 00:08:13.83 ID:9Di3eWDa0

「卯月! 俺だ!」
「ぷ、ぷろっ、ぷろでゅ、プロデューサーさぁん……!!」
「俺は問題ない! ほら、地上はもう大丈夫だ! 降りてきていいぞ!」
「で、でも、ゆびっ、指が取れちゃって……!!」
「卯月このトリック知らないの!!!??」


 ……そこから、ちょっと「指が取れちゃったテク」の説明を挟み。
 なんとか無事らしいと理解してもらって、もぞもぞ木から降りようとすること数分、


 ドシーーーーンッ!!!


「グワーーッ豊満な尻!!!」
「ああぁっ!? ご、ごめんなさいぃ!!」

 ……ご褒美、もといトラブルがあったのは置いといてだ。

150 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/04/25(土) 00:09:46.28 ID:9Di3eWDa0

 話を聞くに、卯月は目覚めたら一人だったらしい。
 美穂と響子がどこにいるかは、見当もつかないと……。

「よし。じゃあ、探すか……!」
「は……はい! 島村卯月、がんばりますっ!!」

 きっと今にも、美穂と響子も戦っているはずだ。
 すぐに合流して、みんな敵ではないと薫ちゃんに説明しなくては……!!

151 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/04/25(土) 00:13:09.08 ID:9Di3eWDa0
一旦切ります。
美穂の誕生日に始めた話が、卯月の誕生日まで終わってないとかなんなの……
体調は一切問題ないのですが、おしごと村がヤバすぎて諸々滞っておりました。
お待たせしてしまい、誠に申し訳ありません。

島村卯月さん、誕生日おめでとうございます……(過ぎてるけど……)
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/25(土) 00:37:17.83 ID:+5Dse3YDO
同人誌のショップ委託マダー?


でなく、乙型海防艦
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/25(土) 00:40:38.18 ID:mKDIXByy0
更新乙です
身体に気をつけて頑張ってください

次は8月10日かな?(悲観的
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/13(水) 12:22:50.55 ID:0XqiZpEKO
待ってますよ〜
155 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 01:13:17.00 ID:s6d7o79R0

   ◆◆◆◆


 それからまた、しばらく歩いた。
 相変わらず先行きの見えない道のりだが、さっきまでより気は楽だった。

「卯月、大丈夫か? きつくなったら言うんだぞ」
「は、はいっ」

 慣れない山歩き、それも胡散臭い化け山となれば何が起こるかわからない。
 何かあった時に身を挺してでも守れるよう、常に卯月の前を歩いていなくては。


 〜しばらくして〜


「ヴッ、卯月……ま、待って……ヴォエッ……も、き、キツい……」
「えぇっ!? も、もうですか!?」

 そりゃそうである。相手はピチピチのJK、しかも日々のレッスンと長時間のライブもこなす現役バリバリアイドル。
 対するこっちは運動不足気味のおっさんだ。体力の差は歴然というもの。
 にしてもペースめっちゃ早いこの子……。

156 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 01:16:54.16 ID:s6d7o79R0

 なんやかんやで卯月に待ってもらいながら、ほうほうのていで進む成人男性。情けないことこの上ない。
 卯月は月明かりの下をさくさく歩きながら、ふと、お腹を気にしていた。

「どうした? 腹が痛むのか?」
「あっ、いえ、そういうわけじゃないんですけど……」
「無理はするなよ。……って俺が言うのもなんだけど。何かあったらすぐに言ってくれ」
「ほんとに大丈夫ですっ。島村卯月、がんばりま」


 ぐぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜っ。


「…………」
「…………」
「…………腹減ってんの?」
「…………あ、あの、えと……えへへ……はい」

157 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 01:18:15.21 ID:s6d7o79R0

 聞けば朝からほとんど何も食っていないらしい。
 俺を探しに外へ出て、美穂や響子ともどもたぬきに拉致られ、それっきりだと。

 うーむ……なんとかしてやりたいが、こっちは手ぶらだ。
 ついさっき大きなおにぎりを腹いっぱい食べたのが申し訳なくなってくる。
 とにもかくにも、一刻も早くこの謎の偽山を脱するのが先決だとは思うが……。

「歩けそうか? 無理なら俺が背負っていくぞ」
「大丈夫ですっ。美穂ちゃんと響子ちゃんを見つけるまで、休んでなんて……


 ――?


 今、何か。
 これは……匂い……か?

「……おいしそうな匂いがしますね……?」
「あ、ああ……料理だな。どこかに食事できるところがあるのか?」
「で、でもっ、ここってたぬきさんのお山なんですよね?」
「そうだな。もしかしたら何かの罠ってこともあるかもしれない」
「そ、そふ、でふよね。なにがあるかわからな、ずびじゅる」
「ヨダレ出てるヨダレ」
「あぇっ!? ご、ごめんなひゃい私ったら!」

158 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 01:20:23.48 ID:s6d7o79R0

 ……う〜〜む。

「……一応、見るだけ見に行ってみるか?」
「! は、はいっ! そうですよねっ何かの手掛かりかもしれませんしっ!」

 ぱぁぁ、と輝く卯月の瞳。素直な子だなぁ。
 どのみち、このまま何も無いところを闇雲に歩くよりは、目標があった方がいいというもの。
 何より腹を空かせた卯月に我慢を強いるわけにもいかない。

 そして俺たちは、匂いを辿って木々の間を抜け……


「あ、あれ! あの建物じゃありませんか!?」
「そうっぽいな。あれは……妖怪たちが行列を作ってる……?」
「人気のお店なんでしょうか……?」
「こんなところで人気ってのもおかしい話だが……おっ看板が見えたぞ。なになに……」

159 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 01:21:28.03 ID:s6d7o79R0



 ――『お食事処いがらし』。



 ……………………。


「…………『お食事処いがらし』って何?」
「な、なんでしょう……???」

160 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 01:22:19.12 ID:s6d7o79R0


「――いらっしゃいませー!」


 !!


「こ、この声……響子ちゃん!?」
「店の中からだな! いがらしってことは、やっぱり響子の店なのか……!?」

 なんでこんなとこで店なんか開いてるんだ!?

 ともあれ行くしかない。俺と卯月は頷きあい、『お食事処いがらし』へと飛び込んでいくのだった。

161 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 01:23:49.59 ID:s6d7o79R0

   ○


 ガララッ!!


P「響子!」

卯月「響子ちゃん!?」


響子「いらっしゃ……あっ!!」


P「響子! 良かった、無事で……!」

卯月「怪我はありませんか!?」

響子「わぁ……卯月ちゃん……!!」パァァ

卯月「えっ」


響子「卯月ちゃん久しぶりっ! 来てくれて嬉しいです!!」ガシッ

162 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 01:24:27.46 ID:s6d7o79R0


卯月「え、ひさ? え?」

P「???」

響子「今日はどうしてここに? お仕事で近くに寄ったんですか? それとも、私たちに会いに?」

響子「あっ、ちょっと待っててねっ。子供を呼んできますから! おーいっ! 卯月ちゃんが遊びに来てくれたよーっ!!」

卯月「え、え、え? ちょっ、なんですか? こ、子供? 誰の?」

P「ちょ、ちょっと待ってくれ響子、どういうことか全然わからん。一体何を言って――」

響子「あっ、やっと帰ってきた! もう――」


響子「遅いですよっ。どこで寄り道してたんですか、あなたっ?」プンプン


P「」

卯月「」

P「」

卯月「」

163 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 01:25:11.35 ID:s6d7o79R0

P「…………ごめん、なんて?」

響子「なんて、も何もありますかっ。早くお仕事に戻ってください!」

響子「あ、まさか昔みたいに女の子をスカウトしようとしてたんですか? だめですよ、もうプロデューサーじゃないんですから!」

P「あのう、響子さん」

響子「はい? なんです、改まって?」

P「俺とあなたは、つまりどのような関係にあるとお考えで……?」

響子「どういうも、こういうも……。もう結婚して10年になるでしょ?」


卯月「そうだったんですか!!!!???」

P「違うからね!!!!???」

164 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 01:25:56.06 ID:s6d7o79R0

響子「あれ? え? でも私、ずっと前にPさんと結婚して……」グルグル

響子「それで、2人でこのお店を開いて……」グルグルグル

響子「5人の子供に恵まれて、みんなで助け合って幸せに暮らしていたりいなかったり……」グルグルグルグル


P「か、完全に化かされとる!!!」

卯月(子供産まれるペースが凄い……)

P「響子! 目を覚ましてくれ! お前はまだ15歳でアイドルで健全でみんなの寮母さんなんだ!!」(※寮母さんではありません)

響子「あぁあぁあぁ?? あれぇ……? およめさん? ごりょーしんにあいさつ? けっこんしき? しんこんりょこう……???」

P「響子ーっ!?」

響子「あははうふふ、えへへそんなぁ……ママドルだなんてぇ……♡」


卯月「――プロデューサーさん、下がっていてください。かくなる上は……」

P「えっ何?」

165 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 01:26:28.10 ID:s6d7o79R0


卯月「ピンクチェックちょっぷ!!」シュバッ

響子「あうっ」ペチコーンッ

P「何その技!!?」



響子「あたた……あれ? 卯月ちゃん? プロデューサーさん……?」

卯月「良かった! 目が覚めたんですねっ」

P「ねえさっきの技何……?」


響子「あっ……ぷ、プロデューサーさん! 無事だったんですね! あれ? 美穂ちゃんは?」

卯月「かくかくしかじかで、こういうことなんです。あとは美穂ちゃんを探さなきゃ!」

響子「なるほど……! じゃあ、急がなきゃ!」

P「さっきの……まあいいかこの際なんでも! 行こう!!」

166 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 01:27:46.02 ID:s6d7o79R0

   ○


 響子が正気に戻るやいなや、『お食事処いがらし』は客の妖怪ごとポンッと消えてなくなった。
 俺達は美穂を探して走る走る――

 途中、立ちはだかる妖怪たち。だが止まっていられるわけもなく、

「ああっと指が取れちゃったー!!」
『!?!?!?!?!?!?』

 ポポポポポポポポーンッ!!

 なんか出来の悪いなろう小説みたいになってきたな。
 指取れトリックで片っ端から蹴散らして、進んでいくうちに――


 ぐにゃんっ!!!

167 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 01:28:35.45 ID:s6d7o79R0


「おわ!?」
「きゃあっ!?」
「ひゃ……っ!?」
 
 いきなり、地面が大きく波打った。
 地震とかそういうのともまた違う。山全体がスライムにでもなったかのような、普通ありえない変化だ。

「2人とも、俺から離れるなよ!!」


 お互いに庇い合いながら、大きな地面のうねりに呑まれる。
 そのまま気が遠くなり、天地が逆さまになったような感覚があって――

168 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 01:29:45.29 ID:s6d7o79R0

   ○


 気が付けば、雲ひとつ無い真昼の原っぱ。もう月も森も無い、開けた空間に倒れていた。

「いてて……卯月、美穂、大丈夫か?」
「は、はい、なんとか……」
「ここは……?」

 お互い怪我が無いことを確かめて、辺りを見渡す。
 山は消えた。日常風景だ。
 これ以上、変わったことは何も無いようだが――


「ぽこっ!」
「ぽこーーーっ!!」


 !?

169 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 01:31:09.19 ID:s6d7o79R0

 青空の下、二つの小さな毛玉が、もふもふころころ揉み合っている。
 あの見覚えのある毛並みと、更にそれより一回り小さい毛玉は……!

「美穂! 薫ちゃん!!」

 2人が戦っているのだ。黙ってはいられない。
 止めなくては――その一心で駆け出して、ほとんど何も考えず間に入っていた。

「あっ!」
「プロデューサーさっ……!」

 卯月と響子の声ももはや遠い。
 当然、若きたぬきは急には止まれず――

「ぽこっ……!?」
「ぽこ!!?」


 ぷ に っ っ …………

170 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 01:31:47.78 ID:s6d7o79R0


 あっ……右の頬に肉球、左の頬にも肉球……っっ。


「あふぅん」

 ぱたり。


「せんせぇ!?」
「プロデューサーさんっ!!」

 ポンッ!!

 瞬時に肉球ぷにぷに天国へといざなわれ、崩れ落ちる俺。
 そこへ人間の姿になった美穂と薫ちゃんが駆け寄ってくるのが見える。

 ともあれ、良かった。二人が戦いを中断してくれて……。

 言い知れぬ安堵とぷにぷに余韻に包まれながら、俺の意識は闇に飲まれた。

171 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/06/02(火) 01:33:33.30 ID:s6d7o79R0
一旦切ります。
ようやく美穂がお話に戻ってきたわけですが……(白目)

次回は明日更新できると思います。すみませんが今しばらくお付き合いください。
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/02(火) 02:20:00.44 ID:dhXRvyzDO
168で響子が美穂になってるような
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/02(火) 03:32:53.07 ID:zrD0LFQT0
乙でした
ピンキーキュートで習った技だから響子は知らなかったのかw
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/02(火) 12:57:43.28 ID:AuDHTPc4O
ほぼ休みなしで10年間産み続けるとかやばくない?
175 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/06/02(火) 23:16:43.62 ID:s6d7o79R0
>>172
すみません誤字でした。こちら

「いてて……卯月、響子、大丈夫か?」

が正しいですね
176 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 23:24:02.70 ID:s6d7o79R0

  ◆◆◆◆

 〜久万山たぬき村 講堂〜


龍崎父「――なるほど。話は聞かせていただいた」

P「はい」

卯月(両方のほっぺに肉球の跡が……)

響子(かわいい……)

龍崎父「そちらは――熊本の、小日向一族のたぬきですな」

龍崎父「未熟であったとはいえ、薫の偽山を破るとは。並のたぬきではない。いやはや大したものです」

美穂「………………」ムーッ

P「……美穂、美穂。ちょっと苦しい」

P「大丈夫だ。相手は、すぐにこっちをどうこうしようって手合いじゃないから」

美穂「で、でも……」チラッ


薫「う〜……」ガルル

美穂「むむ〜……」


卯月(二人ともプロデューサーさんの両腕にくっついてる……)

響子(かわいい……)

177 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 23:28:22.32 ID:s6d7o79R0

龍崎父「しかしながら、こちらも既にご説明申し上げたように、婿殿を当村にお迎えする用意があります」

美穂「か、勝手に決めるなんて酷すぎますっ! こういうのって2人の気持ちが大事なんでしょう!?」

龍崎父「薫の気持ちでしたら、ご覧の通りです」

薫「せんせぇとケッコンするもん……」ムーッ

龍崎父「更に言えば、これはもう決定事項。村で決めたことゆえ、婿殿がどうお考えなのかも、極論すれば無関係なのですな」

美穂「そんなっ横暴ですっ! 人のやることとは思えません!!」

龍崎父「たぬきなので」

美穂「そうでした!!」ポコーッ


龍崎父「そういうわけで、お三方にはお引き取り願いたい」

龍崎父「今後我が娘の婚姻に手を出さないとお約束いただければ、危害は加えません。麓までも送りましょう」

龍崎父「なにも取って食おうというわけではないのです。……いかがですかな?」

美穂「そんなこと……!」


卯月「――いいえ。プロデューサーさんは、薫ちゃんとは結婚できません」ズイッ

178 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 23:30:07.99 ID:s6d7o79R0

美穂「う、卯月ちゃん?」

卯月「確かにお話はわかりました。けどプロデューサーさんには、そうできない理由があるんです……!」

龍崎父「ほう。その理由……とは?」

卯月「それは……」

響子「ごくっ……」

美穂「どきどき……」

薫「……?」

P「……??」



卯月「プロデューサーさんは……もう結婚してるからです!!!!!」ババァァーーーンッッ


179 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 23:30:50.41 ID:s6d7o79R0

美穂「え、えぇーーーーーーっ!!?」ガビーーン

薫「そうなのーーーーーーーっ!!?」ガガビーーーン

P「なんだってぇぇーーーーーーっ!!?」ガビガビガビーーーーン

龍崎父「ほう」

美穂「ちょっちょっちょ、ちょっと待ってください話し合いますからっ!!」


美穂「ちょ、うづ、卯月ちゃん……っ!?」ヒソヒソ

卯月「嘘ですっ!」ブイッ

美穂「あ、そうなんだ良かっ……じゃなくて! どうしてそんな嘘……!?」ヒソヒソ

卯月「聞いて美穂ちゃん。たぶんこのままだと、たぬきさん達はプロデューサーさんを返してくれないと思うんです」ヒソヒソ

響子「な……なるほど! それなら、もう既婚者ですってことにして、諦めさせるんですねっ」ヒソヒソ

卯月「うん! 響子ちゃんが教えてくれたんですよっ♪」

響子「私が? え、私何かしましたっけ……?」

卯月「えっと……とにかく教えてくれたからっ♪」ブイッ

響子「???」

180 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 23:31:50.03 ID:s6d7o79R0

美穂「じゃあとにかく、その設定で進めればいいんだね……!」

卯月「うん! そうすれば、きっと諦めてくれるはず……!」

響子「それしかありませんね……!」


卯月「P.C.S……!」ピシ

美穂「だ、団結……!」ガシ

響子「いぇーい……っ!」グッグッ



美穂「プロデューサーさんっ! 実は話が……!」ヒソヒソ

P「ああ、みんなで口裏を合わせて俺が既婚者だってことにすれば向こうさんも諦めてくれるってことだな?」ヒソヒソ

美穂「そうなんですけど察しがよすぎますね!?」ヒソヒソ

P「これでも何度となくスチャラカ事態に巻き込まれた身だぞ。それに、なんとなく俺もそれしかないような気はしてた」

P「すまない、合わせてくれ。行くぞ……!」

美穂「はい……!」

181 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 23:34:40.90 ID:s6d7o79R0

P「そう、実は俺はもう結婚していたのでしたーわははー!」

薫「せ、せんせぇがケッコン……おくさんいるんだ……」ガーン

龍崎父「ふむ」

美穂「も、もう奥さんいるんだから、不倫ってことになっちゃいますよねーそうなりますよねー!」

龍崎父「ほう」

龍崎父「して、奥方はいずこに?」

P・美穂「うっっ」


P「ま、まあそれはその、ここ出張先なので、すぐには、な?」

美穂「ね、ねぇ? だってほら、し、仕方ないっていうかっ」

龍崎父「……」ジー

P(どうする? 思いっきり証拠を見せろって顔してるぞ……!)

美穂(ででで、電話するとか、それでなんとか話を合わせてもらって……!)

182 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 23:36:50.92 ID:s6d7o79R0

P(けど打ち合わせする時間も無いし、だいいち誰に……!)


   テレレーレレーテッテッテレー テレレーレレーテッテッテレー


         楓さん

   ちひろさん     茄子さん


P(……誰を選んでもろくなことになる気がしねぇ!!)ババ-ンッ


(※建前上、「そういうことで通じそうな成人女性」のみが選択肢に上がります)


龍崎父「よもやとは思いますが、その場しのぎの嘘を――」

P「ま、まさか!!」

美穂「う、卯月ちゃん、響子ちゃん、どうし――」

183 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 23:40:25.87 ID:s6d7o79R0


卯月「ぱぱー♡ ばぶばぶーっ♡♡」ダァダァー


P「卯月が俺の娘に!!?」

美穂「しかもだいぶ幼い設定!!」

P「これは流石に……なあ、響子――」


響子「はいっ、なんですかお兄ちゃんっ♪♪」ジャジャーン


P「そっちは妹かい!!!」

美穂「しかもノリノリです!!!」

美穂「ま、待って!? それじゃその、えと、奥さんって……!!」


卯月(ジー)

響子(ジー)


美穂「わ、私ぃっ!?」

184 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 23:43:37.71 ID:s6d7o79R0

美穂「ちょちょちょちょっと待って、もう一回考えよう!? ちゃんと設定から――」

響子「お義姉ちゃーんっ♪」ダキッ

卯月「ままーっ♡」ムギュ

美穂「あうあーっ!?」


美穂「……い、イイかも……」ポワポワ


P「ああっ美穂がやられた!!」


龍崎父「」

薫「」

たぬき達「」

185 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 23:45:57.08 ID:s6d7o79R0

P「いや、これはですね、つまり……」


卯月「ぱぱーっ♡♡」スリスリー

響子「お兄ちゃーんっ♪♪」ダキー

美穂「あ、あ、あ、」

美穂「あ…………あなたーっ!」ムギュー

P「グワーーーーッッ♡♡♡♡」


P「そういうことなんですよ(即堕ち)」

卯月「ぱぱはわたさないばぶー」

響子「お兄ちゃんは私達と一緒に東京に帰るんですっ」

美穂「だ、だだ、だだゃだン旦那さまは、わたわたたわたひの、わたしとけっこんしてるのでーっ!?!?!?(ヤケクソ)」

P「おおよしよしマイドーターマイシスターそしてマイワイフ(ヤケクソ)」

186 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 23:50:21.00 ID:s6d7o79R0


龍崎父「ふ〜〜〜〜む…………」


龍崎父「そういうことなら仕方ありませんなぁ」


P(話早っ)


龍崎父「しかし……事をこのように運んだ以上、我々にも面子というものがありましてな」

龍崎父「そして、うちの薫が聞き分けよく諦めてくれるかどうか、という話でもあります」

薫「うぅ゛〜〜〜〜〜〜……!」ナミダメ

P(……!)

P(そ、そうか……この場を逃れるためとはいえ、薫ちゃんを傷付けることになってしまっていた……)

龍崎父「どうだ、薫? 婿殿を東京へ返すか?」

薫「やだっ! やーだーっ!!」ブンブン

龍崎父「しかしながら、幸せな家庭を壊すのはわしらとしても本意ではございませんでな」

187 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 23:56:02.50 ID:s6d7o79R0

龍崎父「そこで提案なのですが……いっそのこと、ご家族全員でここに住むのはいかがでしょう?」


P「ぜ?」

美穂「ん?」

卯月「い?」

響子「ん?」


龍崎父「なに簡単な話です。薫の婿となるに当たり、そちらの奥方を捨てよとは申しません。一緒に来ればよろしい」

龍崎父「婿殿はいずれ四国のたぬきを背負って立っていただく存在。英雄色を好むとも申します。愛妾の1人や2人、10人や20人を囲うのはむしろ当然の器量」

龍崎父「我らたぬき一同、皆様を歓迎いたしますぞ。いかがですかな?」


卯月(……あいしょうって、何?)

美穂(わかんない。ニックネームのことかなぁ……?)

響子(え、えぇえ……/// そんなことって……/////)

美穂(響子ちゃん、何か知ってるの?)

響子(はぇ゛!? いやいやいや、そんなのいけませんよ! いけませんからね!?)

188 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/02(火) 23:59:26.88 ID:s6d7o79R0

P「…………」

P「やはり、お断りします」

龍崎父「なにゆえ」

P「誰と結婚するとか、何を捨てるか連れてくかとか以前に、俺には東京でやらなきゃならないことがあります」

P「だから……何があっても。この四国に留まるわけには、いきません」

龍崎父「どうあっても、妻子とともにここを出てゆくと……」

P「ンッ妻子。はぁまあ。そういうことですハイ」

薫「……せんせぇ」

薫「せんせぇは……かおるのこと、キライなの……?」

P「嫌いなんかじゃない。むしろ、こんなに可愛くて良い子は他にいないよ」

P「でも、俺達は『結婚するかしないか』だけしかないわけじゃ無いはずだ。友達として、いつだって会うこともできると思うんだ」


薫「…………ぐずっ」

龍崎父「いかに、薫」

薫「…………おとうさん」

189 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/03(水) 00:01:06.14 ID:F+kFn3+40


薫「かおる、やる。おとうさんが最初に言ってた、あれ……」


美穂「え……」


薫「もし、だんなさまに好きなひとがいて。かおるとケッコンするの、やだって言ったら。……あれが、はじまるんだよね?」

龍崎父「しかり。よくぞ覚悟した薫。それでこそ我が娘じゃ」


P「……!!」

P「3人とも! 今すぐここから逃げ、」


龍崎父「囲めいっ!!」


  ポポポポポポポポポポポポポンッ!!!

190 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/03(水) 00:03:38.35 ID:F+kFn3+40

美穂「ぽこっ!?」

卯月「ひゃ!?」

響子「これって……!?」

P「たぬき達が、周囲を囲む壁に化けて……!?」


薫「…………」

龍崎父「ご安心めされ。先ほども申し上げた通り、何も取って食おうというわけではございません」

龍崎父「ただ、どうしても出ると仰るなら――ひとつ。我ら久万山のたぬきに伝わる『儀式』を乗り越えていただきたい」

P「儀式……?」

191 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/03(水) 00:04:27.28 ID:F+kFn3+40


龍崎父「いかにも。我が村における婚姻にて、ひと悶着ありと申さば!」バサッ!


美穂「あ、扇子」


龍崎父「誇り高きたぬきの名において、後世に決して遺恨を残さぬよう!」ヨイヨイ

薫「むんっ!」ポンポンッ!


卯月「腹鼓!」


龍崎父「ぁ正々堂々たる勝負にてェ、白黒はっきり着けんが為のォ!!」イヨォーッ

薫「むむーんっ!!」ポコポーンッ!!


響子「スポットライトと紙吹雪が!?」


龍崎父「『お嫁五番勝負』ゥゥーーーーーッ!!!」カカァーッ!!!

薫「しょうぶーーーーーーーーーっ!!!!」スッパァァーンッ!!!

192 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/03(水) 00:06:44.83 ID:F+kFn3+40

P「お嫁五番勝負」


P「………………って何?」


龍崎父「読んで字のごとく。どちらが婿殿の妻となるに相応しいか、いざ尋常に勝負――という儀式ですな」

龍崎父「審査は公正に行いまする。うちの薫と、そちらの奥方。どちらが貴殿の隣に立つべきか、五つの項目にて見極めるわけです」

薫「かおる負けないもんっ!」

美穂「……!!」


美穂「わかり……ました。やります! 私、お嫁五番勝負で、薫ちゃんと戦いますっ!」


卯月「美穂ちゃ……ままっ!」

響子「み……お義姉ちゃんっ!」

P「美穂……!」

193 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/03(水) 00:07:32.96 ID:F+kFn3+40

龍崎父「その意気や良し!!」

龍崎父「ちなみに勝負においては、お身内の助力も認められまする。なんとなれば、妻となることは家庭人となること。姑に義理の兄弟姉妹、息子や娘の助けも借りるものですからな」

龍崎父「つまりそちらからは、娘御と妹君の参加も許されるというわけです」

卯月「ばぶっ!」

響子「お兄ちゃんとお義姉ちゃんは渡しませんっ!」

P「二人ともノリノリなんだよな」

龍崎父「一方、薫はまだ幼い。勝負にあたり、こちらからも一人、味方を用意させていただきたい」


龍崎父「お願いいたします――柳先生!」

194 : ◆DAC.3Z2hLk [saga]:2020/06/03(水) 00:11:13.17 ID:F+kFn3+40

??「こちらの村で、大きな催しがあるといいますから来てみれば……」

??「大変なことが起こっていたんですね。――こんにちは、薫ちゃん。お元気でしたか? どこも悪いところは無いかしら?」


美穂「この人は……?」

P「び、美人だ……!」

薫「きよらおねーさんだーっ!!」


清良「はじめまして。柳清良と申します。お呼ばれしたのは、成り行きですが……」

清良「薫ちゃんは、私の大切なお友達。全力でサポートさせていただきます。――よろしくお願いしますね、皆さん♪」



P「ヌッッ」

美穂「名刺を取り出さないでくださいっ!」モファーッ

P「グワーッ尻尾ビンタ!」

195 : ◆DAC.3Z2hLk [sage saga]:2020/06/03(水) 00:13:02.98 ID:F+kFn3+40
一旦切ります。
もうあと最終決戦(?)です。
すみませんが今しばらくお付き合いくださいませ。
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/03(水) 00:34:24.49 ID:ozHc8MBy0
お仕事五番勝負?(難聴)
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/03(水) 03:22:06.41 ID:q5+fSkbDO
床の間の儀式ですね←18禁

わかります
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/03(水) 04:26:36.50 ID:yZ5qv1W80
乙でした
ナース拳がPに炸裂?
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/07/03(金) 19:04:02.56 ID:Mbi1t1Mf0
楽しみです
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/08/15(土) 16:53:40.87 ID:WFCbsFfi0
待ってます
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/10/15(木) 21:22:37.09 ID:nzoam2nP0
さすがにもう終了か・・・
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/05(木) 13:48:35.06 ID:8JaRV8oo0
展開が思いつかないのか、自身に何かあったのか。
どちらにせよメッセージだけは欲しいです
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/05(木) 14:23:09.29 ID:lkNq+1bDO
たしか、Twitterやっていたから、フォロワーの人が聞いてみたら?



おいらは、ぷちかれんの人しかフォロワーがいないのよ…シクシク
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