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女「私、あなたのことが好きになってしまいました」
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102 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/05(日) 22:50:59.81 ID:ybPKtKkA0
ゾロゾロと人が集まってきた。すると彼女は白く細い手首に巻かれた腕時計を見て、
女「もうすぐ予告が始まりますね」
と囁いた。
男「えっ」
彼女が言うと同時に、パッと辺りが暗くなる。
そして、映画の予告編がスタートした。
男(す、すごい。タイミングバッチリだ)
ここまで映画のタイムテーブルを把握できている彼女に、僕は素直に驚いた。
彼女は静かにスクリーンを眺めていた。僕も一緒に、眺めた。
103 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/05(日) 22:51:47.17 ID:ybPKtKkA0
数本の予告編と注意喚起の映像が終わると、照明は完全に消灯され、いよいよ本編が始まった。
内容は至ってシンプルな恋愛映画で、高校生のありふれたラブストーリーだ。
自分に自信が持てない男子、想いをどうしても伝えられない女子。
そのヤキモキさせられる感覚と、どんどん距離が近づいていくイベントの連続。
気づけば二人を応援している自分がいて、なにより楽しい映画だった。
作品内の季節も、ちょうど今頃と同じクリスマス周辺だった。
エンドロールでは今流行りのソロアイドルのバラードが聴こえてきた。
普段テレビでは聴かない、しっとりとしたものだった。
けれど、それがまた良い曲だった。
104 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/05(日) 22:52:15.63 ID:ybPKtKkA0
館内がパッと明るくなって、完全に映画の上映が終了したことを示唆した。
上映中、ほとんど動くことのなかった彼女が動き出した。
男「出ようか」
女「はい」
彼女はあまりポップコーンを食べていなかった。というか、ほとんど口をつけていない。
男「女さん、それ」
女「はい。集中してしまってあまり食べられませんでした」
微動だにしない彼女の横にいたので、僕もなんとなく察することはできた。
105 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/05(日) 22:52:48.31 ID:ybPKtKkA0
女「あまり食べていませんが、捨てます」
男「ああ、ちょっと待って。そのポップコーンもらえるかな?」
女「はい」
男「えっと、あそこのベンチで待ってて」
女「はい」
僕は彼女を置いて、売店に走った。
映画館で売られているポップコーンバケットを購入して、先程もらったポップコーンを入れた。
106 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/05(日) 22:53:22.58 ID:ybPKtKkA0
彼女の元に戻って、そのバケットを彼女に手渡した。
女「これは」
首を横に傾け、バケットを持ち上げて覗き込む
男「これで捨てずに済むでしょ。もったいないからさ」
女「なるほど」
そういうと、彼女は財布を取り出した。
男「ま、待って待って。それはあげるから」
女「男さんにいただく道理がありません」
男「え、えーっと……ほ、ほら! 早めのクリスマスプレゼント! だよ!」
107 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/05(日) 22:55:36.30 ID:ybPKtKkA0
女「クリスマスプレゼント」
彼女は更に首を傾げて、
女「男さんは、サンタさんなんですか」
と、彼女らしくない子どものような質問をしたのだった。
男「……ぷっ」
真面目にそう問うた彼女を見て僕は思わず吹き出した。
108 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/05(日) 22:57:01.16 ID:ybPKtKkA0
ここまで。
あけましておめでとうございます。
今月中には完結します。それでは。
109 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/07(火) 22:03:21.25 ID:kfdrueWW0
映画を見て、ちょっと遅めの昼食を食べることになった。
男「良い映画だったね」
女「はい」
男「最後の女の子の告白とかすっごく良かったなぁ」
女「二人の関係と、あの告白に至るまでの過程を通して初めて言える台詞だと感じました」
男「そうそう。お互いに気になりだして、やっぱり踏み出す勇気がやっと出たからこその一言だったね」
僕と彼女は、映画の感想を楽しく語り合った。
彼女の顔は常にピッタリと「無」が張り付いたままだったが、映画の話はやはり好きなようで、熱が入っていた。
そんな彼女と意思疎通ができるのも、僕は楽しかった。
110 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/07(火) 22:27:10.62 ID:kfdrueWW0
女「彼女の気分と、その時のシーンの色合いで表現されているのも素敵でした」
男「えっ、それには気づかなかったな」
女「はい。音が途中で止まって、また鳴りだすのも恐らく演出の一つです」
男「すごい。全然わからなかった」
彼女の感想は、映画をこよなく愛する人のそれだった。
ちゃんと様々な視点で映画を観ていて、感心せざるを得ない。
111 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/07(火) 22:27:37.95 ID:kfdrueWW0
女「昼食、ごちそうさまです」
男「こちらこそ、映画誘ってくれてありがとう。お昼ぐらい出させてよ」
女「ありがとうございます。それに……」
男「ん?」
女「この、バケットも」
男「ああ、全然。気にしないで」
彼女は丁寧に色んなことにお礼をした。親切な人だ。
112 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/07(火) 22:29:22.03 ID:kfdrueWW0
女「実は、恋愛映画を観るのは初めてでした」
男「え」
女「ずっと、観る勇気が無くて。今回やっと観ることができました」
男「そ、そうだったんだ」
バケットをギュっと抱きしめながら、
女「大事にします」
と、彼女は小さく言った。
113 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/07(火) 22:30:06.90 ID:kfdrueWW0
女「クリスマスパーティー、必ず来て欲しいです」
男「行くよ、もちろん」
女「はい」
男「でも、どうして改めて?」
女「……内緒です」
とても驚きの回答だった。
114 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/07(火) 22:31:37.71 ID:kfdrueWW0
男「そ、そっか。うん。じゃあ次はクリスマスパーティーだね」
女「はい。それでは」
男「うん。バイバイ」
僕は彼女と手を振って別れた。
彼女は静かに頭を下げて、去っていった。
正直に言えば、僕も恋愛映画は初めてだった。
帰り道、僕は彼女のことをずっと考えていた。
去り際の彼女は、少しだけ顔を上気させていたようにも見えた。
寒さというのもあるだろうけれど、いつもとは雰囲気が違っていた。
男(……なんだったんだろう)
外気の寒さに身体を震わせながら、帰途を黙々と歩いて行ったのだった。
115 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/07(火) 22:39:44.22 ID:kfdrueWW0
ここまで。つづきます
116 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/20(月) 21:43:54.72 ID:sdzGPrfY0
そして、クリスマスパーティー当日。
僕は寒さを見込んで、厚めのコートを着て出かけた。
クリスマスパーティーには特にドレスコードというものはない。
というか、うちの高校は私服での登校も自由であり、基本どんな服を着ていようと構わないという方針だからだろう。
と、言いつつ僕は制服を着て登校しているけれど。
去年のパーティーはサンタの恰好をしている人や、スーツやドレスの人もいた。
年内に学校に行くことは、これが最後という人も少なくないため、張り切っている人も多いのだ。
でも、僕は別にさしてオシャレをするわけでもなく、普段着で行くつもりだ。
117 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/20(月) 21:44:37.67 ID:sdzGPrfY0
このクリスマスパーティーは生徒会有志であっても、文化部が気合を入れている行事だ。
春頃に学祭をやってしまうこともあって、手持ち無沙汰になっているのだろう。
クリスマスらしい色彩の入場門が作られ、校内はきらびやかなイルミネーションで輝く。
とにもかくにも、学校行事並の規模で行われるということは間違いない。
だからこそ、生徒のほとんどが参加するのだろう。
今年はプロジェクションマッピングもやるとかやらないとか。
とにかく、クリスマス当日を盛大に盛り上げるイベントというわけだ。
118 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/20(月) 21:45:27.79 ID:sdzGPrfY0
学校に到着すると、すでに校内はざわついていた。
今年は出店もあるらしく、去年以上に盛況している。
男(さて、と)
入場門で手渡されたガイドを読む。ガイドには校内地図と各地で行われるイベントが書かれていた。
男(どれを観に行こうかな)
女「男さん」
男「うわぁ!?」
女「……大丈夫ですか?」
男「あ、ああ、女さん……」
後ろから突然声をかけられて、素っ頓狂な声をあげてしまった。
119 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/20(月) 21:48:33.36 ID:sdzGPrfY0
周りの生徒に注目されてしまって、恥ずかしい。
女「ごめんなさい、急に声をかけてしまって」
男「ううん、こっちこそ驚いてごめん」
女「男さんが見えて、安心してしまって」
男「そ、そうなの?」
女「はい」
彼女の表情からは、「安心」を感じ取れなかったけれど。
どうやら安心したらしい。
120 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/20(月) 21:54:42.69 ID:sdzGPrfY0
彼女の佇まいは、先日の服装よりもカジュアルに近かった。
制服によせつつ色味はクリスマスらしく赤みのあるPコートに纏っていた。
チェック柄のストールをゆったりと首元に巻いて、手は可愛らしいミトンをはめていた。
女「今日は、誰かと回る予定はありますか」
男「ううん。むしろ今どこ行こうか考えてたところだよ」
女「なるほど」
男「女さんは?」
121 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/20(月) 22:03:40.54 ID:sdzGPrfY0
女「私もです。良ければ一緒に回りませんか」
男「うん、いいよ」
僕の返事を聞いて、彼女はストールを首から外した。
女「それでは、参りましょう」
男「うん。どこに行くの?」
女「とりあえず、校庭にあるクリスマスツリーを観に行きませんか」
男「いいね。そうしよう」
122 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/20(月) 22:08:10.97 ID:sdzGPrfY0
校庭は既にたくさんの人だかりができていた。
中央には大きなクリスマスツリーがそびえ立ち、煌びやかな装飾が施されていた。
男「うわー今年も大きいね」
女「はい」
男「えーっと、ここでやるイベントは……」
女「来年の抱負宣言、です」
男「そうなの? ……あ、ほんとだ」
校庭での開催プログラムは『メリクリ! 来年の抱負大宣言!』と書かれていた。
123 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/20(月) 22:08:38.53 ID:sdzGPrfY0
クリスマスでありつつ、終わればすぐに年末ムードになることにちなんだ企画のようだ。
生徒参加型で、来年の抱負をステージに立って言うという至ってシンプルなもの。
去年僕は観ていないので、しっかり把握しているわけではないけれど。
女「あと、校舎を利用したプロジェクションマッピング」
男「本当だ。女さん詳しいね」
女「ありがとうございます」
彼女はこちらを向かずに礼を述べた。
124 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/20(月) 22:09:04.40 ID:sdzGPrfY0
女「男さん」
男「ん、なに?」
女「いえ、なんでもないです」
男「? そう。とりあえず、ツリーの周りグルっと回ってみようか」
女「はい」
彼女が用もなく声をかけたことに驚きつつ、僕は彼女の隣を歩いた。
125 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/20(月) 22:17:31.86 ID:sdzGPrfY0
周辺を歩くと、本当にこの学校の生徒数の多さに驚かされる。
パーティーは生徒と教師以外は参加できないから、ここにいる人たちは皆、学校に直接関係がある人間しかいない。
もちろん、出店している人たちは部外者だけれど、それはごく一部だ。
ゆっくりと歩いていると、同じクラスの人たちを見かける。
しかし、顔を合わせても軽い挨拶をして、すぐに僕らから離れていってしまう
女「これは一体」
彼女は顎に手を置いて、軽く首をかしげる。
男「どうしてだろうね」
僕は離れていく理由がわかっていたけれど、知らないフリをした。
126 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/20(月) 22:19:04.22 ID:sdzGPrfY0
ここまで。終わりまで必ず書きますので、もうしばらく辛抱を。
127 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 21:17:23.91 ID:xdKyTgMJ0
「来年は赤点を取らないように頑張ります!」
溢れるような笑い声と共に、ステージに立つ男子学生は爽やかな笑顔を見せた。
「レベルの低い抱負ですが学生としてはとても大事な抱負でしたね〜! それでは、次の方!」
サンタのコスチュームをした女子学生がMCを担っていた。「書記」と書かれた腕章をつけていて、生徒会であることが見て取れた。
男「去年もこんな感じだったのかな」
女「あのように抱負を言う人もいましたが、一発芸などを行う方もいました」
男「へー、あっ」
そう言ったそばから、次の生徒は頭で瓦を割りだした。
「来年はこの2倍割れるように頑張ります!」
そう締め括って、彼の宣言は終わった。
128 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 21:18:37.38 ID:xdKyTgMJ0
その後も多種多様な宣言は続き、この学校の多彩さを物語っていた。
男「みんな個性豊かで凄いなぁ。ね、女さ……あれ?」
隣にいたはずの彼女が、忽然と姿を消していた。
改めて周りを見渡すと、大勢の人。はぐれてしまうのも仕方ない人だかりだった。
でも、僕らは別に移動していたわけじゃないけれど。
とりあえず、このプログラムが終了したら探そう。
今は人が集中しすぎていて、探すのはとてもじゃないけど無理だ。
129 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 21:21:16.23 ID:xdKyTgMJ0
「それでは、今年最後の宣言者です! どうぞー!」
男「……えっ」
ステージに上がったのは、とても見慣れた女性だった。
さっきまで隣にいた彼女が。
女「……よろしくお願いします」
大人しく頭を下げたのは、女さんだった。
130 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 21:24:17.36 ID:xdKyTgMJ0
ザワザワと、周りが声をあげ始める。
周りの生徒達は彼女の顔を知っているようだった。
ただ一番ざわついた理由は彼女らしくないという点だった。
性格上、積極的にステージに立つような人ではないというのは、全員の共通の認識だった。
彼女は想像以上に有名人だった。
女「今日は、このような場を設けていただき、ありがとうございます」
彼女は、喧騒を無視してマイクに向かう。
131 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 21:26:57.90 ID:xdKyTgMJ0
女「このクリスマスパーティーを迎えるために様々な方の尽力があったとお見受けしております。重ねて御礼申し上げます。」
彼女は固い口調で淡々と話すし、深々とお辞儀をする。
女「それでは、来年の抱負を宣言いたします」
ポツリと放ったその言葉に校庭の学生達は大きくざわめいた。
彼女の口からどんな抱負が宣言されるのか、皆が注目する。
女「来年の抱負……確かにそれに当てはまるのですが」
彼女の言葉に、校庭の全員がうんうんと頷く。
女「まだ、今年やり残したことがあります」
132 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 21:32:24.08 ID:xdKyTgMJ0
「オオオー!!!」
校内は異常な熱気に包まれていた。
寒空の下。
学校のクリスマスイベント。
巷で有名な彼女の気になる宣言。
様々な状況が組み合わさってか、周りは異様な空気だ。
男(女さん……)
女「……」
彼女の表情は、まるっきりいつも通りだった。
133 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 21:38:22.32 ID:xdKyTgMJ0
女「やり残したことはとても簡単なことです。
これをしなければ、私は新年を迎えられそうにありません。
簡単なことでありつつ、凄く勇気が必要なことです。
以前の私なら、間違いなくできなかったと思います。
そして今も、とても緊張しています。
でも、この機会は逃せません。覚悟を決めました。
おそらく、私はこれをすることで失うものもあるかもしれません。
でも、それでも。
自分の正直な気持ちを、ぶつけようと思います。
男さん、あなたのことが好きです」
134 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 21:44:24.63 ID:xdKyTgMJ0
視線は真っ直ぐ僕に向けられていた。
女「どうして好きになってしまったのか。
正直、まだわかりません。
でも、私はあなたが好きなのです。
毎朝、忘れずに挨拶をしてくれること、
夏にエアコンをつけてくれること、
冬にストーブをつけてくれること、
一緒にご飯を食べてくれること、
一緒に下校してくれること、
一緒に映画を観てくれること、
うやむやになった質問にも改めて答えてくれること、
私の口癖に気づいてくれること。
凄く些細なことですが、私はたまらなく、
あなたを好きになりました」
135 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 21:44:51.78 ID:xdKyTgMJ0
彼女は更に続ける。
女「恋愛を一切知らない私に対して、真摯に向き合ってくれました。
あなたのことを考えると、胸の高鳴りが止みません。
ずっと、そして今も。
…………。
ふう。
男さん。
私はあなたと、『お付き合い』をしたいです。
順序は前後してしまいましたが、
またお出かけしたり、
手をつないだり、
キスしたり、
抱き合ったり」
男(ちょ……!)
136 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 21:47:15.94 ID:xdKyTgMJ0
女「わがままで、ごめんなさい。
あなたと、一緒にいたいです。
お返事、待ってます。
私からは以上です。
ありがとうございました」
より一層深いお辞儀を見せて、彼女はそそくさとステージからはけていった。
「……あっ! え、えーっと! こ、これで『メリクリ! 来年の抱負大宣言!』は終了です! みなさんありがとうございました!」
先ほどまで熱気に包まれていた校庭は、嵐が過ぎ去ったように静まり返っていた。
137 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 21:53:45.28 ID:xdKyTgMJ0
ほとんどの生徒が僕をジッと見つめては、「誰?」という顔をする。
それは当然の反応だから、さして気にしないけれど。
それ以上に、こんなに大勢の人から視線を浴びられる経験がない僕は、萎縮することしかできなかった。
男(女さん……)
こうして彼女の、僕への告白は。
ほとんどの生徒達の面前で、行われたのだった。
138 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 21:55:03.50 ID:xdKyTgMJ0
身体が妙に熱い。
コートを着ていることで、余計身体の熱は逃れることができず、僕の体に留まっていた。
きっとさっき起きた事柄のせいだろう。
人の多い校庭は、今の僕には不向きな場所だ。
男(涼みに行こう……)
冬らしからぬ思考になりながら、僕は人気のない場所に向かうことにした。
139 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 21:58:57.29 ID:xdKyTgMJ0
男「ふう」
息が詰まるような空気から解放された僕は、ゆっくりと息を吐いた。
今僕は、校庭から少し離れた場所にやってきていた。
校庭の方角からはガヤガヤとした声が聞こえるけれど、ここは静かだ。
コートを脱いで涼むことにした。
……それにしても。
男「……女さん」
まさか、あんな風に告白されるなんて思ってもみなかった。
大勢の前で、彼女は勇気を振り絞ったのだ。
僕なら、絶対にできない。
140 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 21:59:24.10 ID:xdKyTgMJ0
女「呼びましたか」
男「うわぁ!?」
後ろからいきなり声をかけられる。
女さんだ。
あれ、さっきもこんなことあったような。
女「ごめんなさい、またやってしまいました」
男「い、いや、いいんだよ……そ、それよりどうしてここに?」
女「男さんがこちらに向かっていたので」
彼女は若干息を切らしていた。走って追いかけてきたのだろう。
141 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:02:01.43 ID:xdKyTgMJ0
男「そ、そうなんだ……」
女「はい」
男「……」
女「……」
彼女の顔が、見れない。
男「えっと……」
女「無理はしなくても大丈夫です」
彼女はいつもの平坦な口調で、
女「ごめんなさい、あのような場所で告白をしてしまって」
と、頭を下げた。
142 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:06:54.30 ID:xdKyTgMJ0
女「……ごめんなさい」
彼女はまた、謝った。
遠くから聞こえるパーティーとはうってかわって、こちらはあまりにも静寂過ぎた。
比べるから、余計そう感じるのだろう。
僕らの今の雰囲気も、周りの空気と同じように静まり返っていた。
女「最後まで、聞いてくださってありがとうございました」
彼女は先ほどとは違う意味で、頭を下げた。
女「あなたのおかげで勇気を出すことができました」
143 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:07:21.51 ID:xdKyTgMJ0
男「僕の、おかげ?」
女「はい。男さんのおかげです」
男「僕は何もしてないと思うけれど……」
彼女が勇気を出したのは、自分で一歩踏み出したからだ。
僕は一切、力を貸してはいないと思う。
女「そんなことありません。男さんのおかげです」
彼女はすぐに否定する。
女「あなたでなければ、告白はしてなかったと思います」
144 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:07:49.14 ID:xdKyTgMJ0
男「僕じゃなければってどういうこと?」
女「さきほど、ステージ上で言ったことが全てです」
男「……」
不意にさきほどの告白を思い出す。
彼女は両の手のひらに息を吐いた。
女「今、ここでもう一度……」
男「うわわわ、ダメダメ! ダメ!」
僕は食い気味で彼女を止める。
145 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:11:02.75 ID:xdKyTgMJ0
女「でも」
男「て、照れるから!」
女「私も同じです」
男「女さんは照れてないでしょ!?」
女「いいえ、とても照れます」
男「い、言っとくけど女さん、表情に全然出てないからね!?」
女「そうなのですか」
一切照れてるようには見えない!
146 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:11:28.38 ID:xdKyTgMJ0
男「というか女さん、どうしてそんな薄着なの?」
ふと気づく。さっきまで纏っていたコートがない。
女「あっ」
彼女も今気づいたようだ。
女「緊張で身体が暑くなって、脱ぎました」
男「そ、そうなんだ」
女「薄着だと気づいてしまったせいか、寒いです」
彼女は自らの身体を少し抱きながら、震え始めた。
147 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:12:04.74 ID:xdKyTgMJ0
男「だ、大丈夫?」
女「はい、自業自得なので」
男「コートはどこにあるの?」
女「おそらく、ステージ袖です」
ここからステージ袖までは、結構な距離がある。それに、人もたくさんいる。
……というか、あそこからわざわざここまで来てくれたのか。
僕の、ために。
148 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:12:30.49 ID:xdKyTgMJ0
女「戻ります」
男「え、今から?」
女「はい」
校庭は恐らく、さっきよりももっと人が多い時間になっている。
なぜなら、もうすぐプロジェクションマッピングが始まるからだ。
多分、ステージまで辿り着くのはさっきの倍はかかると思う。
149 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:13:27.00 ID:xdKyTgMJ0
女「それでは」
彼女が去ろうとする。なんのためらいもなく、彼女は校庭に向かおうとしている。
男「ま、待って女さん!」
女「はい」
彼女はピタリと止まる。それでも身体は冷えているに違いない。
男「今からステージに向かうのは、多分時間がかかると思う」
女「ですが、他に方法がありません」
男「だから……そ、その……」
僕は意を決して、言った。
男「僕のコート、貸すから」
150 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:15:04.13 ID:xdKyTgMJ0
女「どういうことでしょう」
男「ほ、ほら! 僕今脱いでても寒くないし! 持ってるだけじゃ勿体ないから」
女「ですが」
男「え、遠慮しないで」
女「いや、その」
彼女に近づくも、ゆっくりと後ずさりして逃げていく。
151 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:15:57.19 ID:xdKyTgMJ0
女「とにかく、取りに行ってきます」
男「ま、待ってよっ」
逃げるように校庭に向かおうとした。
それを見て思わず僕は彼女の手を掴んだ。
男(あっ)
しまった、と思った。
僕が手を掴んだと同時に、彼女は顔を俯かせた。
152 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:16:56.23 ID:xdKyTgMJ0
男「ご、ごめん、つい……」
彼女は、嫌悪しているのだろう。
無理もないと思った。
僕がしようとしているのは、合理的なことばかりを優先して、彼女の気持ちなんて一切考えていない行動だ。
他人のコートを借りるなんて(ましてや男性のだ)、抵抗があるに決まっているのに。
女「……」
下を向いた彼女が、ゆっくりとこちらを向いた。
男「……えっ」
彼女は。
顔を赤らめていた。
153 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:17:25.13 ID:xdKyTgMJ0
女「……困ります」
消え入るような声で言う。
女「触れられるのは、慣れてません」
彼女の言葉に、僕も思わず赤面してしまう。
男「あ、いや、えと……てっきり、嫌なのかと」
女「嫌なわけ、ありません」
もう一度下を向く。グッと拳を固めて、
女「嫌なわけ、ないです」
耳まで真っ赤にしながらそう言った。
154 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:18:23.25 ID:xdKyTgMJ0
無表情でコーティングされていた彼女の顔が。
はっきりと朱色を帯びて。
眉毛を情けなく下ろしながら、唇を歪ませていた。
彼女が初めて、僕に感情を見せた。
刹那の静寂。
そして僕は、何故か。
彼女と同様に、赤面した。
155 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:18:55.23 ID:xdKyTgMJ0
女「男さん、どうされましたか」
男「いや、えっと……あれ……」
自分でもわからないくらいに。
想像以上に照れている。
男「だ、大丈夫だよ」
女「大丈夫そうには見えません」
顔を近づけてくる。彼女の顔はまだまだ赤い。
156 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:19:55.28 ID:xdKyTgMJ0
男「……」
女「……」
僕らはいつもよりも近くで、お互いに目を合わせた。
男(ああ、そうか)
どうやら僕は。
彼女が好きになってしまったようだ。
157 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:20:38.47 ID:xdKyTgMJ0
疑問を抱いていた『好き』の根拠が今目の前にある。
そういう表情で作られた像のように同じ顔をしていた彼女が。
僕に対して、感情を表したこと。
それを理解して、僕も大きく照れてしまったのだと。
今になって気づいた。
男「……女さん」
女「はい」
男「とりあえず、コート着る?」
158 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:22:37.81 ID:xdKyTgMJ0
女「……どうしても着ないといけませんか?」
男「もちろん強制じゃないけれど……体調が心配だから」
女「……」
彼女が背中を向ける。
男「……女さん?」
女「袖は、通せません。羽織るだけにしておきます」
男「そ、そっか。了解」
これは……僕が肩に掛けてもいいのかな?
159 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:23:30.93 ID:xdKyTgMJ0
男「……」
女「……」
過ぎた間を察して、僕は女さんの肩にコートを掛けた。
女「……」
ピクリと身体を動かす。
女「……ありがとうございます」
男「う、うん」
僕の返事を聞いて、彼女は自分の顔を両手で隠した。
男「女さん?」
背を向けた女さんの顔を覗く。
女「見ないでいただけると、嬉しいのですが」
どうしてなのかは、顔を見なくてもわかった。
隠れていない耳がさっきよりも赤いから。
160 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:24:57.41 ID:xdKyTgMJ0
男「あ、あのさ女さん」
女「はい」
男「僕、その……」
照れ臭くて、僕は頬の辺りを軽く掻いた。
男「……今の女さんの顔、見せて欲しい……な」
語尾に連れてどんどん小さくなりながら、そう言った。
161 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:25:27.45 ID:xdKyTgMJ0
女「どうしてですか」
顔を手で覆いながら問う。
女「なぜ、見たいのですか」
言葉は淡々としている。しかし、耳は変わらず赤い。
男「それは……」
思わず言い淀む。今から僕が言うことはとてつもなく変態性を持った言葉だ。
男「照れてる女さん、すっごく可愛かったから」
162 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:27:07.55 ID:xdKyTgMJ0
女「……」
男「……」
誰も邪魔できないほどの森閑。
男「さっき、見た時に凄くキュンとしちゃって」
僕は止まらない。
男「もう一度、見せて欲しいな、なんて……」
自分で言ってて恥ずかしい言葉が出てしまう。
僕はなんて変なやつなんだ。
163 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:27:33.57 ID:xdKyTgMJ0
女「……このような顔は、本当は見せたくありません」
今にも消えてなくなりそうな声を発する。
女「でも、あなたの望みなら」
「どうぞ」と。
抑揚のない声と一緒に、彼女は顔を覆い隠していた手をどかした。
そして、彼女の耳まで真っ赤になった可愛らしい顔が現れたのだった。
男「……わぁ」
つい声を出してしまうほど、彼女は可愛かった。
べったりと張り付いていた強靭な無表情が今は存在しない。
それほどに彼女は今、恥ずかしさのあまり沸騰状態にあるのだ。
164 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:28:17.06 ID:xdKyTgMJ0
女「変、ですか」
男「そ、そんなことないよ。むしろ、可愛くて……」
その言葉に反応して、そっぽを向いてしまう。
男「ど、どうしたの?」
女「あまり、言われ慣れていない言葉です。……恥ずかしい」
思っている以上に恥ずかしがり屋だ。
女「コートを借りているだけでも、大変なのに」
165 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:29:02.14 ID:xdKyTgMJ0
男「あの、女さん」
女「はい」
男「さっきの、答えなんだけれど」
女「待ってください」
男「えっ」
女「今、答えを聞けるほど冷静ではありません。心臓の高鳴りがまだ」
男「で、でも」
女「……これで断られたらと思うと、辛いです」
166 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:29:38.41 ID:xdKyTgMJ0
男「え……」
どうやら、とんでもなくネガティブな想像をしているようだ。
男「ふふっ……ふふふっ」
女「どうしましたか」
男「いやぁ……あははっ」
女「なにがおかしいのでしょう」
全くもって、おかしい。
男「こんな感じで、断るわけないじゃないか」
167 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:30:21.29 ID:xdKyTgMJ0
僕は背中を向けている彼女に近づいた。
男「女さん、僕と付き合ってください。……それが、僕の答えです」
女「え……」
急に女さんは血相を変えて振り向いた。
瞳をいつも以上に見開いて、驚きのリアクションをしている。
女「本当、ですか」
男「うん。僕で良かったら、喜んで」
168 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:32:10.85 ID:xdKyTgMJ0
女「……」
糸が切れたように、彼女は座り込んだ。
男「だ、大丈夫!?」
女「……なにがなんだか、わかりません」
彼女の瞳には、大粒の涙を含んでいた。
女「ど、どうして泣いているんでしょう」
それは、僕が聞きたい。
169 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:32:41.01 ID:xdKyTgMJ0
男「ちょっと、ごめんよ」
僕は彼女の羽織ってるコートに手をかける。
男「はい、ハンカチ」
女「……」
更に溢れる涙。
何故。
女「あの、勘違いしないで欲しいのですが、これは悲しくて流しているものでは、ありません」
男「わかってるよ。それよりほら、涙拭いて」
170 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:33:12.75 ID:xdKyTgMJ0
彼女がどんどん、可愛らしい存在に見えてくる。
頼りになって、真面目で、誠実で。
ちょっぴりポーカーフェイスな彼女だけれど。
こんなに表情が豊かだったなんて。
女「でも、どうして告白を承諾してくださったのですか」
渡したハンカチで涙を拭きながら、問われる。
男「女さんが、僕のこと本当に好きなんだなってわかったから」
171 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:34:41.77 ID:xdKyTgMJ0
女「それは失礼な言い方です。ずっと好きです」
音が出ていたら、間違いなく「ゴゴゴゴ」と後ろからしているような感じだ。
とてもストレートに「好き」と言われて少々照れつつ、僕は答える。
男「ごめんね。自分に自信がなかったから、つい勘ぐっちゃって」
女「なるほど」
男「それに、女さんの表情が読み取れなくて、さ」
この際、正直に言った方が良いだろう。
女「そうでしたか」
彼女はいつもの無表情に戻った。
顔はまだ、少しだけ赤いけれど。
172 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:35:22.15 ID:xdKyTgMJ0
男「……えっと、そろそろプロジェクションマッピング始まっちゃうけど」
腕時計に目をやると、あと数分で始まる時間になっていた。
女「男さんは、どうしたいですか?」
男「えっ、僕?」
女「私は、二人きりでいたいです」
目を伏せて、淡々とした口調でそう言った。
男「……女さんがそうしたいなら、それで」
僕と彼女は、校舎からそのまま学校を後にすることにした。
173 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:35:51.15 ID:xdKyTgMJ0
こうして僕らの一日は終わった。
クリスマス当日、僕に彼女ができたのだった。
サンタさんからのプレゼントなんて言い方はおかしいかもしれないけれど。
それくらい言ってもおかしくないくらいの、運命だった。
僕と彼女はその後、光り輝くイルミネーションの中を歩いて。
少しだけいつもと違う道を通って、特に何をするでもなく、帰宅したのだった。
これでいいのだろうかと思ったけれど、僕も女さんも当たり前のように初めてのことだったから。
ゆっくりとすこしずつ、恋人同士らしいことができればと思った。
174 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:36:33.52 ID:xdKyTgMJ0
女「デート、しましょう」
クリスマスの次の日、朝から電話がかかってきて、カフェに呼び出された僕に、彼女はこう宣言した。
男「えーっと、今から?」
女「はい。昨日は申し訳ありません、緊張してしまって何もできず」
僕は別に良かったけれど。
女「少なくとも、私は後悔していました」
男「どうして?」
女「舞い上がってしまって、周りが見えていなかったからです」
そうは見えなかったけれど……。
女「だから、名誉挽回のためのデートです」
175 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:37:04.71 ID:xdKyTgMJ0
男「そうなんだ」
女「はい。男さんは、何かご予定ありましたか?」
男「あったら来れてないと思うよ」
女「なるほど。確かに」
男「……昨日、帰り道お互いに黙っちゃってあんまり話できなかったのがちょっと心残りだったかな」
頼んでいたコーヒーが来る。砂糖とミルクを入れて、一口飲む。
176 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:37:30.52 ID:xdKyTgMJ0
女「確かに、ほとんど会話無しでしたね」
男「だから、今日はこのままお茶にしない?」
女「お茶」
男「うん。もっと女さんのこと、知りたいから」
女「私のことをですか」
男「うん。ダメかな」
177 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:37:57.77 ID:xdKyTgMJ0
女「もちろん、構いません」
「それに」、
女「私も男さんのこと、もっと知りたいですから」
紅茶を啜り、少しだけ目を逸らした。彼女は、わずかに赤面していた。
彼女の感情の機微がわかるようになって、僕は微笑む。
それを見て、ばつが悪そうにもう一度紅茶を飲むのだった。
178 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:38:36.96 ID:xdKyTgMJ0
男「ところで、女さんのやりたいことってなんなの?」
女「たくさんあります。ノートに書いてきました」
男「え……ま、待って。ノートに?」
女「はい」
男「えーっと……『屋上でご飯を食べる』『男さんの憧れになる』……」
女「音読されるとは思っていなかったので、少々恥ずかしいです」
男「ああ、ごめんごめん」
179 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:39:03.75 ID:xdKyTgMJ0
女「はい」
男「うん……たくさん書いてあるね」
女「そうです。時間には限りがあります。だから……」
男「ま、まあまあ。ちょっと落ち着いて」
女「はい」
男「ゆっくり、計画を立てていこうよ」
180 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:39:49.37 ID:xdKyTgMJ0
確かに時間に限りはあるけれど。
焦っても仕方ない。
男「僕は女さんと、お茶したいから」
女「……なるほど」
そう、ゆっくりでいい。
僕らにはそれが、ちょうどいいと思うから。
やりたいことノートの最後には、こう書かれていた。
『男さんのことを、もっと好きになる』
おしまい
181 :
◆qhZgDsXIyvBi
[saga]:2020/01/23(木) 22:42:55.83 ID:xdKyTgMJ0
おしまいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
※以前書いたもの・現在進行系のサイトも再度貼っておきます。
ボクっ娘SS
http://note.mu/shiranuifuchika
過去SS(途中で落ちたのも多数)
http://nanabatu.sakura.ne.jp/new_genre/bokukko.html
それでは
182 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/01/24(金) 00:53:36.78 ID:8jQle5xZO
乙
いい雰囲気だった
183 :
◆qhZgDsXIyvBi
[sage saga]:2020/01/31(金) 23:39:58.01 ID:iFtM03C20
お久しぶりです。こっそりと告知させてください。
https://kakuyomu.jp/users/shiranui_fuchika
カクヨムに登録しました。いつかこの話は小説家させてリメイク致しますので、よろしければこちらも足を運んでみてください。
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