女「私、あなたのことが好きになってしまいました」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/11(水) 20:43:00.20 ID:IEuf6uP80
男「うー、寒い寒い」

ガララッ

男「……ふう」

男(最近、めっきり寒くなっちゃったな)

男「あ、女さん」

女「男さん」

男「おはよう。今朝も早いね」

女「おはようございます」

男「あ、ストーブつけてないのか。つけるね」

女「お願いします」

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2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/11(水) 20:44:46.06 ID:IEuf6uP80
男「よいしょっと……」

女「……」

男「もうちょっとしたら暖かくなるからね」

女「はい。隣、いいですか」

男「? 良いよ」

女「……」

男「……」

女「男さん」

男「ん、何?」

女「私、あなたのことが好きになってしまいました」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/11(水) 20:47:41.95 ID:IEuf6uP80
男「……」

女「……」

ストーブから伝わる暖かさと、すぐそばにいる彼女の冷たく感じさせる視線は妙な相性を持っていた。

男「えーっと」

僕は静かに周りを窺った。というか、疑った。

彼女が、誰かに言わされているのかもしれないのではと考えたからだ。

女「何か」

男「いや、なにも」

この時間に僕らのクラスで登校してくる生徒は僕と彼女しかいなかった。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/11(水) 20:51:10.29 ID:IEuf6uP80
女「……」

彼女の視線は、ずっと僕に向かっていた。

男「あのさ、どうして好きになったの?」

純粋な質問をぶつけてみる。

女「難しい質問ですね」

ストーブで温めていた手を顎の方に持っていく。顔は無表情のままだ。

女「……」

沈黙。

訪れた静寂は、冬の寒さを助長した。

女「わかりません。この感情が、"好き"なのかすら」

ほんのちょっと残念そうに、首を振った。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/11(水) 20:52:27.28 ID:IEuf6uP80
男「……でもまあ」

僕は彼女からストーブに視線を変えて、

男「好きでいてくれるだけで、嬉しいよ」

と、曖昧な答え方をした。

女「……そうですか」

男「うん。嫌われてるよりも絶対に嬉しいし」

女「なるほど」

彼女は淡々と頷いて、僕のすぐそばでまた暖を取り始めたのだった。
6 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/11(水) 20:54:59.52 ID:IEuf6uP80
男「それを言うなら、僕だって女さんのこと好きだよ」

女「……」

彼女はまた、黙り込んだ。表情は微動だにしない。

女「ありがとうございます」

そっと、頭を下げた。

男「え? ……ど、どういたしまして?」

その後、特に会話もないまま、ぎこちない時間が続いた。
7 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/11(水) 21:00:11.56 ID:IEuf6uP80
クラスメイトが少しずつ集まってくる時刻になって、僕はストーブから離れた。

彼女も、僕に続いてストーブを離れ、そのまま自分の席に戻った。

行動も、特にいつもと変わらない様子だ。

男(さっきの発言は、なんだったんだろう)

まあ、なんにせよ。

こうやって毎朝、顔を会わせているんだ。

嫌われていなくて良かったと、喜ぶべきだろう。
8 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/11(水) 21:01:33.09 ID:IEuf6uP80
いつも通り、学校が始まった。

12月。もうすぐ冬休み、という時期に入る。

僕は高校二年生の、普通の男子学生だ。

特に取り柄もない。ただ、一つ得意なことといえば、早起きくらいだ。

いつも学校には始業時間の一時間半前に着いている。これは、小中の頃から変わっていない。

毎日していることだから、もう僕にとっては当たり前のことなのだ。

小学校の頃は、みんなも同じ時間に登校していて、よく遊んだ。

中学になってからは、この時間に学校にいるのは、部活の朝練ぐらいだ。

そんな時、今年のクラス替えで一緒になった彼女は、僕と同じく、いつも早朝の同じ時間に登校していたのだった。

僕らの関係はそれくらいで、時々話をしたりはしていたけれど、特にお互い気にするような感じでは、なかったと思う。
9 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/11(水) 21:04:32.88 ID:IEuf6uP80
彼女は真面目で勤勉、そのため成績も優秀、運動もとびきりできるわけではないけれど、平均よりも上。

背中まで伸びる漆のような黒髪は、彼女の性格を表すようにクセなく真っ直ぐだ。

容姿も実に優れていて、男女ともに人気がある。

少々つり上がった目尻に大きな目は無表情さに磨きをかける要素になっていた。

とにもかくにも、表情というものが大きく変わらない。

更に、僕が知っている範囲で彼女は学校では常に席に座っており、お手洗い以外はほとんど座ったきり不動。
10 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/11(水) 21:05:22.36 ID:IEuf6uP80
おまけに終業後は真っ直ぐ帰宅してしまうようで、どのような人なのかはほとんど謎である。

クラスメイトは彼女と仲良くしたくても、雰囲気に呑まれて声をかけられない、というシーンをよく目の当たりにする。

女「……」

男「……!」

授業中に、目が合った。

というよりかは、僕が彼女を見入ってしまったためだ。

視線を逸らし、気を取り直して真面目に授業に取り組むことにした。
11 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/11(水) 21:08:10.46 ID:IEuf6uP80
午前の授業をこなして、もうすぐ昼の時間になろうとしていた。

チャイムが鳴ると同時に弁当を取り出す男子を尻目に、僕は売店に出向こうと席を立とうとしていた。

女「男さん」

男「ん」

不意に、女さんから声をかけられた。

女さんが、席を立っている。

女「あの、良かったら一緒にご飯を食べませんか」

これも、不意だ。

男「食べる人、いないの?」

女「いえ、いつも一人で食べています」

デリカシーのない発言をしてしまった。

聞かないほうが良かったかもしれない。
12 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/11(水) 21:11:48.44 ID:IEuf6uP80
男「今から売店でパンでも買おうと思ってたんだけど、女さんはお弁当だよね?」

女「はい。一緒に行ってもいいですか」

男「大丈夫だよ。でも結構混むから大変かも?」

女「そうなんですか」

男「うん。うちの学校のパン、人気で売り切れちゃうくらいだから」

女「初めて知りました」

有名だと思ったけれど。案外そうでもないのだろうか。

自分の常識は常に疑うべきなのかもしれない。
13 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/11(水) 21:16:34.91 ID:IEuf6uP80
売店に近づくにつれて、喧騒は更に大きくなる。

男「今日も激混みだなぁ」

女「……」

男「ここで待っててくれる? パパッと買ってくるから」

女「はい、わかりました」

意を決して、混んでいる売店へと足を踏み入れた。

戦場へと赴く戦士のような気持ち……女の子を一人残して。
14 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/11(水) 21:28:21.35 ID:IEuf6uP80
男「はー、なんとか買えた……」

ボリューム満点のタマゴサンドを死守して、彼女の待つ場所に戻ってきた。

女「どこで食べますか」

男「そうだね、屋上……いや、寒いから教室に戻ろう」

女「屋上」

ポツリと小さく呟いた。

男「?」

女「いいえ。教室に戻りましょう」

彼女は勢いよく踵を返して、教室へと向かった。
15 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/11(水) 21:29:11.84 ID:IEuf6uP80
男「急に誘われてビックリしたよ」

女「そうですか」

男「うん」

教室に戻り、一つの席に向かい合って、昼食タイムが始まった。

タマゴサンドを包んでいる透明な包装を颯爽と外していく。

彼女も持ってきたお弁当を開けて、手を合わせた。

男・女「いただきます」

男・女「あっ」

男「タイミング、一緒だったね」

女「そうですね」

僕は笑ってみたけれど、彼女の表情は鉄のように硬かった。
16 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/11(水) 21:30:23.39 ID:IEuf6uP80
女「男さんと、今日はご飯を食べようと思っていましたから」

男「どうして?」

女「一緒に食べたいから、では理由にならないでしょうか」

男「ええっと、なるかな」

僕は照れを隠すために大きなサンドイッチを豪快に頬張った。

女「売店、とても盛況でしたね」

男「うん。どれも全部とっても美味しいんだよ」

女「いつも売店で昼食を購入しているんですか」

男「そうだよ。だからほとんど食べたことあるかな」
17 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/11(水) 21:32:58.57 ID:IEuf6uP80
女「すごいです」

彼女は珍しく、手をパチパチと叩いてみせた。

女「いつも、あの状況で買っているんですね」

男「あはは、アレ凄いよね。最初は僕もビックリしたよ」

女「あれほどの人気なら、さぞ美味しいのでしょうね」

男「うん。良かったら食べる?」

まだ手を付けてないサンドイッチを見る。

女「良いんですか、いただいても」

男「うん」
18 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/11(水) 21:34:04.95 ID:IEuf6uP80
女「では、一口だけ。でも、今男さんが食べているもので大丈夫です」

僕が持っているサンドイッチを指さす。

男「えっ。そ、そう?」

女「はい」

男「じゃあ、どうぞ」

手を伸ばして、彼女の方に手渡そうとする。

女「……」

しかし、彼女は軽く席から立ちあがり、僕の手にあるサンドイッチに顔を近づけて、

そのまま、食べた。

男「!」

手で口を丁寧に押さえて何度か咀嚼して、

女「……美味しいですね」

と、言った。
19 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/11(水) 21:35:09.69 ID:IEuf6uP80
女「どうかしましたか」

男「あ、いや……」

てっきり、一度手に持って食べると思っていたので、少々驚いていた。

女「ありがとうございます。とっても美味しかったです」

頭を軽く下げて、礼を言う。動作に一切無駄がない。

男「美味しかったなら、良かった」

僕はもう、それ以上言えなかった。

今朝のストーブの時くらい、顔が近かった。
20 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/11(水) 21:35:49.76 ID:IEuf6uP80
女「弁当は作らないのですか」

男「え、僕?」

女「はい」

男「あはは……僕の出発時間が早すぎて母さんに作らせるのもなあって感じでさ」

女「なるほど」

男「女さんは朝早いのに、弁当なんだね。色合いもよくて、美味しそう」

女「ありがとうございます。いつも、考えながら作っているので」

ってことは、彼女は。

男「これ、自分で作ってるの!?」
21 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/11(水) 21:38:14.37 ID:IEuf6uP80
女「はい」

男「ま、毎日?」

女「そうですね」

男「す、すごい……」

思わずさっき女さんがしたように、僕も拍手をする。

女「習慣づいてしまったので、あまり時間はかかっていないです」

男「それでもすごいよ。真似できない」
22 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/11(水) 21:39:52.63 ID:IEuf6uP80
その後も、他愛のない会話は続いた。

彼女はとにかく表情は変わらないけれど、別に不機嫌というわけではないようだ。

男「ふう」

女「……」

彼女は昼食を取り終えて、お箸を置いた。

僕は両手を合わせた。

男・女「ごちそうさまでした」

男・女「あっ」

また、同じタイミングで言うのだった。
23 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/11(水) 21:41:14.88 ID:IEuf6uP80
続きます。

冬のお話です。少々お付き合いください。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/13(金) 07:59:06.15 ID:33cJyEtRo
好き
25 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/13(金) 21:54:00.14 ID:8bowcbh90
昼食の時間後、教室がいつもと違うザワつきに包まれていた。

男(な、なんだ?)

視線は、僕と女さんへと向けられていた。

男(なるほど)

どうやら、この視線は不動の彼女が動き出したことに起因するようだ。

よく考えてみたら、それはそうだろう。

お手洗いや移動教室以外ではめったに席を立たない彼女が。

教室の外に出て、他人と食事を共にしていたのだから。

驚かないわけがない。

男(これは、困ったな)

ストーブによって少し暑くなった教室で、僕はジトリと汗をかき始めたのだった。
26 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/13(金) 21:55:00.23 ID:8bowcbh90
この日最後の授業が終わり、ホームルームを終えて、僕は帰る準備をしていた。

女「男さん」

またまた不意に、僕の席に女さんは来ていた。

男「ん、何?」

女「今日はもう帰りますか」

男「うん。特に寄るところもないし」

女「では、一緒に帰ってもいいですか」

男「え……」

教室の時間が止まったかのように静まり返った。

彼女の言葉に、クラスメイトが全集中を傾けていることが、容易に想像できた。

男「えっと……い、いいよ」

途端にザワめきは、壮大になった。
27 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/13(金) 21:56:20.37 ID:8bowcbh90
男「……」

女「……」

男「家、同じ方向だったんだね」

女「はい」

男「ははは……」

僕と彼女は、一緒に下校している。

不思議なことが、今現在起きている。

女「一緒に帰ってくださって、ありがとうございます」

男「そんな、こちらこそお誘いありがとう」

女「はい」

彼女は短く返事をした。

女「断られなくて、良かったです」
28 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/13(金) 21:56:47.40 ID:8bowcbh90
男「断る理由なんてないよ」

女「そうなのですか」

男「うん。別に一緒に帰る人もいないし」

女「なるほど」

男「……もしかして、女さんの口癖って『なるほど』?」

女「どうしてですか」

男「よく言ってる気がするから」

女「そうなんでしょうか」

男「うん。別に悪いことじゃないんだけどね」

女「なるほど」
29 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/13(金) 21:57:47.81 ID:8bowcbh90
男「あ、ほら」

女「……驚きです」

彼女は口を手で押さえて、しばらくの間硬直した。

彼女なりの、リアクションなのだろう。

男「はは、癖って誰にでもあるよね」

女「そうなんですね。自分ではまったく気づきませんでした」

男「だから癖なのかもしれないね」

女「はい」
30 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/13(金) 21:58:28.12 ID:8bowcbh90
男「うー寒いなぁ」

女「はい」

男「夜になると余計冷え込んで、困るなぁ」

女「はい」

男「女さんは、寒いの得意? 苦手?」

女「あまり、得意ではないです」

男「そうだよね。……というか、それなら僕が来る前にストーブつけちゃえば良かったのに」

今朝のことを思い出す。

朝、僕が教室に着いた時には、彼女は窓から外を眺めていた。
31 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/13(金) 21:59:32.74 ID:8bowcbh90
女「それは」

口を噤んで、息を吐いた。

男「うん」

その吐息は、今日の寒さを表すには持って来いの白さだった。

女「男さんが、いつもつけてくれるから」

小さな声だった。

男「ぼ、僕が?」

確かに、いつも学校に来て、ストーブをつけるのは僕だった。

男「確かに、僕がいつもつけてたね。そうだったそうだった」

頭を軽く掻く。この言葉の意味が、僕には理解できない。
32 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/13(金) 22:00:04.87 ID:8bowcbh90
女「……それに」

彼女はまた言葉を紡ぐ。

女「夏はエアコンをつけてくれました」

男「えっ、そうだったかな……」

女「……」

黙って頷いたっきり、静かになるのだった。
33 : ◆qhZgDsXIyvBi [saga]:2019/12/13(金) 22:00:47.88 ID:8bowcbh90

つづきます。それでは。
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