【幽白】戸愚呂弟「ここは冥獄界なのかねェ」さとり「いいえ、幻想郷です」【東方】

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/06(金) 03:10:15.43 ID:9LNUMMUB0
戸愚呂弟「やれやれ」

戸愚呂弟「幻海に別れを告げてからずいぶん歩いたものだが、道のりは遠いねェ」

戸愚呂弟「しかし、この暗くじめついて光の見えない地下空間の風情。いかにも救いのない地獄を思わせる」

戸愚呂弟「あらゆる苦痛を一万年かけて受け続け、それを一万回繰り返す。その先にあるのは完全な――『無』」

戸愚呂弟「……急ぐこともない。オレの時間はこれからいくらでもある」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1575569415
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/06(金) 03:12:28.52 ID:9LNUMMUB0
戸愚呂弟「おや。こんなところに古井戸があるねェ」

戸愚呂弟「喉が渇いたな。中に水が溜まっているなら、少し頂戴するかね。もっとも桶なりバケツなりがなければ仕方がないが」

戸愚呂弟「ふ、死んでものどが渇くものだとは知らなかったねェ」

戸愚呂弟「…………」

戸愚呂弟(まるで生きていたときと同じように体に力が漲っている。再び『転生』でもしたかのようで不思議な感覚だ)

戸愚呂弟(もし、すでに冥獄界入りを果たしていたとするのなら。この古井戸もオレに何らかの苦痛を与える『装置』なのかもしれないなァ)

戸愚呂弟「中から何か飛び出してくるかね?」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/06(金) 03:14:10.89 ID:9LNUMMUB0
ギュゥゥゥゥン‼

戸愚呂弟「何かが落ちてくる――上か」

キスメ「きししししっ」くわっ

戸愚呂弟「鎌ッ!」

ガキーン‼

戸愚呂弟「いきなり上から首を刈りに来るとは恐れ入ったねェ」ミシ…

キスメ「……ッ!?」

戸愚呂弟「筋肉操作で咄嗟に首の筋肉を固めていなかったら。頭がとっくに胴体から切り離されて、古井戸の中に落ちていただろう」ムキッムキッ

パリーン

キスメ「ひゃっ!?」

戸愚呂弟「強化した首の筋肉の圧で、鎌がへし折れたみたいだねェ」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/06(金) 03:15:22.74 ID:9LNUMMUB0
戸愚呂弟「井戸、鎌、そして桶に入った白装束のその体。お前さん、差し詰め妖怪『釣瓶落とし』といったたぐいかね」

キスメ「う」ゾク

戸愚呂弟「どうだ。今度は卑怯な手など使わずに、オレと正々堂々勝負してみないか?」

戸愚呂弟「とりあえずは様子見で、40%の力で相手をしてやろう」メキメキメキメキッ

キスメ「ひ、ひぃ……っ」

戸愚呂弟「怖気づいたかね。尻尾を巻いて逃げるか?」ゴキッゴキッ

キスメ「…………」


キスメ「……ひ」ニヤリ
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/06(金) 03:17:22.51 ID:9LNUMMUB0
ドシュッ!!

戸愚呂弟「ぬぅ!?」

戸愚呂弟(何だ? 背後からの突然の攻撃……新手か)ジュゥ

戸愚呂弟(背中に軽いやけどの跡……炎による攻撃。こいつの他に妖気は感じていなかったが、一体)

ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!

戸愚呂弟「なに!」

戸愚呂弟(複数の青い炎弾がオレの周囲に次々と、これは)

キスメ「ひひ……ふひひひ」

戸愚呂弟「お前が作り出しているのか。『鬼火』のようだね」


キスメ「 死 ね 」くわっ
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/06(金) 03:18:36.64 ID:9LNUMMUB0
ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!

戸愚呂弟「うぉぉおおッ!!」

戸愚呂弟(複数の炎弾による連続攻撃……一つひとつのタマの威力は小さいが、徐々にダメージが蓄積されていく)

ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!

キスメ「ひひひ」

戸愚呂弟(そして、次々に新たな炎弾が生成されてゆく。浦飯の霊丸のように1度に1つ、1日に数弾という制限がないのか)

ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!

戸愚呂弟「ふん!」バシィン!
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/06(金) 03:20:05.53 ID:9LNUMMUB0
戸愚呂弟(ひとつひとつの炎弾に構っていてはキリがない。奴を倒すには間合いを詰めて本体を叩くのが手っ取り早いが)

戸愚呂弟(生成と放出・着弾を繰り返す炎弾の集まりが、揺れる幕のように壁になって進めない。こいつは思いのほか手こずるねェ)

戸愚呂弟(このままではこちらが体力を消耗してジリ貧。まるで鴉と戦ったときのようなやりづらさがある。だが)

キスメ「ひひひひっ」


戸愚呂弟「お前さん、あまり筋肉の力をなめない方がいい」ニヤリ


キスメ「……?」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/06(金) 03:21:37.93 ID:9LNUMMUB0
戸愚呂弟「 喝 ! ! 」

ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!

キスメ「!!?」

戸愚呂弟「いくら炎弾の壁が作られているとはいえ、ひとつひとつは所詮威力の弱い棒玉に過ぎん!」

戸愚呂弟「俺が全身に気合を込めれば、この程度の数は一度にはじき返せるぞ!」

キスメ「わ、わ……」ボシュッ

キスメ「! あち、あちちっ」パフパフ

キスメ「ふう……」シュー
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/06(金) 03:22:16.37 ID:9LNUMMUB0
戸愚呂弟「お前を守る壁がなくなってしまったねェ」ユラリ

キスメ「ひ、ひぃ……っ」

戸愚呂弟「あとは俺がこの右手を渾身の力で振り下ろすだけで、お前は肉塊と化すだろう」

キスメ「っ……!」ブンブン


戸愚呂弟「 死 ね 」グォォン


キスメ「きゃっ!」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/06(金) 03:23:21.31 ID:9LNUMMUB0
ピタァ……

キスメ「…………。……へ?」パチ

戸愚呂弟「――と言いたいところだがね。正直、お前さんとの戦い、まずまず面白かった。それに免じて今回は命までは取らないことにしよう」

キスメ「う……ひっく……」

戸愚呂弟「『また』頼むぞ」

キスメ「……?」

戸愚呂弟「行け!」

キスメ「ひゃァ!!」ズザザザ
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/06(金) 03:24:30.34 ID:9LNUMMUB0
戸愚呂弟「……古井戸の中に逃げたか。ここがこいつの巣なのかもしれないな」

戸愚呂弟「見た目は幼い娘だが、怯まず向かってくる姿勢は嫌いじゃない。人も妖怪も見た目に寄らずということか」

戸愚呂弟(冥獄界の連中はこういう形でオレを殺しに来るということかね。とっくに死んでいるのに殺されるとは変な話だが、これは退屈しない)

戸愚呂弟(その戦いを1万年×1万回繰り返す。同じ相手とも無限に対戦することになるだろう。もちろん今の小娘とも)

戸愚呂弟(地獄には鬼がいるものと思っていたが、妖怪の獄卒もいるということかね。いずれにせよ、次にどんな敵が現れるのか楽しみじゃないか)

戸愚呂弟(楽しみ……? そんなつもりでここに来たわけじゃないのだがね。オレは……)


戸愚呂弟「幻海にあれだけ言われたというのに……結局のところ、オレは死んでも戦闘狂のようだ。愚かだねェ」
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/06(金) 03:26:00.75 ID:9LNUMMUB0
ヤマメ「サングラスのお兄さーん。こんなところで何してるんだい」スルスル


戸愚呂弟「新手か。また上から来るとは、ここの連中は空中遊戯がお好きかね?」

ヤマメ「これこれ、質問にはちゃんと答えてから話さないといけないよ。お兄さん、この辺りでは見ない顔だね」

戸愚呂弟「ふん、獄卒にしてはずいぶんと丁寧なご対応だねェ。さっきの桶の娘より断然話ができる」

ヤマメ「桶の……ああ、キスメか。あの子はああ見えて凶暴だからねぇ。ところで、獄卒ってどういうことだい。私はしがない土蜘蛛ですが、何か?」

戸愚呂弟「別にしらばっくれなくてもいいのだがね。土蜘蛛か。あんたが宙に浮けるのは、その強靭な糸のおかげかい」
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/06(金) 03:27:13.22 ID:9LNUMMUB0
ヤマメ「まあそういうこと。お兄さん、話が通じないから胡散臭いね。これは一勝負するしかないか」

戸愚呂弟「無論、こちらもそのつもりだ。40%ォオオ!!」メキメキメキメキ

ヤマメ「!」

戸愚呂弟「あんたの力量もすぐには判断しかねる。まずは40%の体で勝負といこうか」

ヤマメ「なるほど。お前さんの能力、言うなれば『筋肉を操作する程度の能力』といったところだね」

戸愚呂弟「何だね、その『程度の能力』という言いようは」

ヤマメ「みんなそういう『程度』の能力を持っているんだよ。お前さん、幻想郷(ここ)は初めてかい?」

戸愚呂弟「勿論、冥獄界(ここ)に来るのは初めてだ」
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/06(金) 03:28:18.94 ID:9LNUMMUB0
ヤマメ「なら少し力抜きなよ。あいにく私は、腕ずくの勝負は好みじゃないのよねぇ」

戸愚呂弟「そうはいかない。筋肉こそがオレの全てだ。筋肉こそが、オレの力(パワー)だッ!!」ダッ

ヤマメ「来るかい。なら仕方ないねぇ」

ギュルォォォオオオオオオオォ‼

戸愚呂弟「ぬぅっ」ギチギチ

ヤマメ「どうだい、私の出す糸に締め詰められる気持ちは。お前さんは力自慢らしいが、土蜘蛛も案外力持ちなんだよ」

ヤマメ「この閉ざされた地下空間全体が私の巣のようなものさ。闇に紛れてどこからでも糸を放てるよ」

戸愚呂弟「ぐっ」ギチィ!!
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/06(金) 03:29:18.14 ID:9LNUMMUB0
ヤマメ「ほらほら、絞め殺される前にもっとパワーアップしたらどうだい。お前さん、今の力で40%ってことは、まだまだ上があるんだろう」

ヤマメ「その秘められた力、私はもっと見てみたいね」

戸愚呂弟「はァ……どうやら少々あんたのことを見くびっていたらしい。いいだろう! 60%ォォオ!!!」メリメリメリメリ!!

ブチィィ!!

ヤマメ「おおっ」

戸愚呂弟「ふん。60%の筋肉量の前では、あんたの自慢の糸も脆いもんだね。さあ、次はどうくるかい」
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/06(金) 03:30:09.55 ID:9LNUMMUB0
ヤマメ「どうくるかい、だって? もう次の一手は打っているよ。お前さんの指先をよおく見てみな」

戸愚呂弟「むっ……右腕の先から……腕が黒ずんでいく。これはッ」

ヤマメ「お前さんが筋肉操作なら、私は『病気を操る程度の能力』の持ち主さ。さっき右腕を縛った糸の中に病原菌を潜ませておいた」

戸愚呂弟「ぐっ」ジワァ

ヤマメ「普通の病原菌じゃないよ。爆発的に増殖して組織を犯す。ほっとけばすぐに全身に回って即死さ。ただし、お前さんが負けを認めるなら私が特効薬を」

戸愚呂弟「あいにく負けるつもりは……ないんでねェ!!」ブチィ!!

ヤマメ「!? 自ら腕を引き千切ったってのかい!」
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/06(金) 03:31:21.53 ID:9LNUMMUB0
戸愚呂弟「右腕一本程度なら筋肉を修復して再生できる」グニュニュニュ

ヤマメ「っ! なら次は!」

戸愚呂弟「させん!!」

ピタァ

ヤマメ「う……」

戸愚呂弟「こちらの間合いに入った。あんたがちょっとでも変な動きをしようものなら、オレの手刀があんたの脳天を貫く」

ヤマメ「あらら、お兄さん怖いこと言うねぇ……」

戸愚呂弟「さて、どうする。降参するかい? それとも」

ヤマメ「……降参だよ。白旗さ。いくら蜘蛛は多産といえども、自分の命は粗末にしたくないからね」
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/06(金) 03:32:29.17 ID:9LNUMMUB0
戸愚呂弟「ふん、そうかい。だったらオレも、あんたの命まで取るつもりはないさ」クルッ

ヤマメ「この先に行くのかい」

戸愚呂弟「無論だ。止めるか?」

ヤマメ「止めやしないさ。お前さんの勝ちなんだから好きにしたらいい。しかし、お兄さんただの筋肉バカかと思ったけど、頭もいいし動きも早いねぇ」

戸愚呂弟「アンタはよく喋るが奥の手は決してひけらかさないしたたかさがある。『なら次は』という一言も出まかせではないと思った」

戸愚呂弟「だから速攻で詰めて次の一手を封じた。これは頭の良さではない。過去の戦闘経験から来るカンみたいなものだね」

ヤマメ「なるほどねぇ。じゃあ、先に進むお兄さんへのはなむけに、私の次の一手を教えてあげる」
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/06(金) 03:34:34.47 ID:9LNUMMUB0
ヤマメ「蜘蛛がはく糸は実は1種類じゃないんだよ。例えばぶら下がるのに使うのは牽引糸といってとても強靭だ」

ヤマメ「巣の骨格を形成する縦糸には粘り気がないが、粘着質の球体を備えた横糸は獲物を捕らえるのに使われる」

ヤマメ「土蜘蛛が作る巣は普通のクモの巣とは違うんだけどね。私は都合7種類の糸を用途に応じて使い分けられるのさ」

戸愚呂弟「それは知らなかった。つまり、オレを最初に捉えた糸は粘り気のない強靭な糸だったが、今度は」

ヤマメ「ネバネバした糸で捕まえるつもりだった。いくら筋肉の力で弾き飛ばそうとも、強力な粘糸をすべて取り除くことはできないよ」

戸愚呂弟「後は蜘蛛の巣にかかった羽虫の如く……時間をかけてなぶり殺しか。やるねェ」

ヤマメ「そうさせないのがお兄さんの強さだよ」
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/06(金) 03:36:39.76 ID:9LNUMMUB0
戸愚呂弟「冥獄界(ここ)にはあんた達のようなクセ者が大勢いるのかね?」

ヤマメ「まあ、そうさね。面白そうだろう?」

戸愚呂弟「……否定はしない。オレは先に進むとしよう」ジャリ

ヤマメ「何なら後で差し入れでもしてやろうかい? お兄さんお酒は?」

戸愚呂弟「酒は苦手なんでね。差し入れならオレンジジュースで」

ヤマメ「あらら、お兄さん見かけによらず可愛いね」

戸愚呂弟「悪いかね。あんたとの手合わせもなかなか面白かった。また機会があれば頼む」

ヤマメ「そう言われると光栄だよ、サングラスの筋肉お兄さん♪」
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