他の閲覧方法【
専用ブラウザ
ガラケー版リーダー
スマホ版リーダー
BBS2ch
DAT
】
↓
VIP Service
SS速報VIP
更新
検索
全部
最新50
【シャニマス】アルストロメリアと幸せな日常
Check
Tweet
1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/12/04(水) 17:22:19.73 ID:86FQdztyO
これはシャニマスssです
多少人を選ぶ内容かと思います
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1575447739
2 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2019/12/04(水) 17:23:21.11 ID:86FQdztyO
ぴぴぴぴっ、ぴぴぴぴっ
「っ!!」
目覚ましのアラームと同時、俺は跳ね起きた。
なんだか、長い夢を見ていたような気がする。
硬く握り締めた手を開けば、インフルエンザに罹った時のような汗をかいていた。
相当な力がこもっていたのだろう、指の跡が赤くクッキリと残っている。
「…………はぁ」
朝からこんなんでは気が滅入る。
カーテンを開けて部屋に朝日を取り込み、気持ちをリフレッシュ。
窓の外では木々が揺れ、四月の朝を表していた。
少し窓を開けて思いの外低い気温に驚き、一瞬でカーテンごと閉める。
コンコン
それと同時、部屋の扉がノックされた。
今日も、起こしに来てくれたようだ。
「はーい」
「あ、起きてますか? 兄さん」
ガチャ
開かれた扉の先には、既にメイクをバッチリ終えた愛しい妹。
長い栗色の髪を片方に結んだ、おっとりとした長女。
「……おはよう、千雪」
「おはようございます、兄さん。今日はお寝坊さんじゃないんですね」
「何時迄も千雪に頼ってばっかりって訳にはいかないからな」
ふふ、と微笑む千雪。
もう少し俺が寝ぼけていれば、天使と見間違えていたかもしれない。
「朝ご飯、もう準備出来てますから」
「そうか、いつもありがとな」
開けられた扉から、良い香りが漂っていた。
焼き魚と味噌汁だろうか。
朝ご飯は一日の元気の源。
しっかり食べて、英気を養おう。
「そうですよ、兄さん。前は食べてなかったって聞いて驚きましたから」
「今では食べないとお昼まで身体が保たなくなっちゃったからな」
健康になった、とも言い換えられるだろう。
千雪のお陰で、とてもではないが健康的とは言えなかった俺の生活は一変した。
一日三食を徹底し、早寝早起きを心掛ける。
当初はきついと感じていたが、今ではそれが当たり前になっていた。
「甘奈ちゃんと甜花ちゃんも待ってますよ?」
「じゃあ、急がないとな」
千雪が一階に降りて行った後、ぱっぱと着替えて顔を洗い歯を磨く。
妹達の前で見苦しい姿を見せる訳にはいかない。
鏡の前で身嗜みを整え、ポーズを決めてみたりする。
一人でやっていても恥ずかしかった。
階段を降りて、リビングへ向かい。
扉を開けて、三人の妹に挨拶する。
「おはよう千雪、甜花、甘奈」
「あ……おはようござい……ましゅ!」
「おっはよーお兄ちゃんっ!」
「ふふ、改めて……おはようございます、兄さん」
それが、俺たちの日常だった。
3 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2019/12/04(水) 17:24:21.97 ID:86FQdztyO
「今日の朝ご飯はね、甜花ちゃんが作ったんだよ!」
「にへへ……甜花、頑張った……」
食卓に並べられた料理は、盛り付けはそこまで上手とは言い難かったが。
けれど味噌汁はきちんと出汁が取られ、白米も柔らかくしっかりと作られたものだった。
味の方は勿論、とても美味しい。
前までは料理なんてするイメージはなかったが、いつの間にこんな上達したのだろう。
「凄いじゃないか甜花、勉強したのか?」
「……それは、その……千雪お姉ちゃんに……」
「ふふ、それでも頑張ったのは甜花ちゃんよ? 私、今日は全然お手伝いさせて貰えませんでしたから」
「……甜花が、一人で……お兄ちゃんに、褒めて欲しかったから……」
「そっか。ありがとな、甜花」
軽く撫でると、心地良さそうに甜花は目を細めた。
次女である甜花は普段はグータラしているが、やる時はやる子だ。
実際目の前の料理は、ほんの数日程度で作れるレベルの味ではない。
盛り付けがもう少し整っていたら、作り慣れている千雪の料理と勘違いしていたかもしれないレベルだ。
「いーなー。甘奈も撫でて貰いたいっ!」
「それじゃ……お夕飯は、なーちゃんが作って?」
「うんっ! お兄ちゃん、めーっちゃ期待しててね!」
「甘奈が作ってくれるのか。それは楽しみだな」
元気いっぱい笑顔いっぱいな甘奈は、三女であるにも関わらずとてもしっかりとしていた。
次女である甜花と双子である為、あまり三女というイメージはないが。
活発そうな見た目と相違無く、彼女はうちの妹達の中でも一番の元気の塊だ。
見ているだけで、此方もパワーが貰えそうだ。
「モテモテですね、兄さん」
「モテモテって……」
それを言うなら、お前たち三人の方だろう。
三人それぞれが違った方向に超美人、街を歩いていれば声を掛けられる事だって少なくない筈だ。
クラスメイトどころか他クラス、なんなら先輩や後輩に告白された経験もあるだろう。
それこそモデルやアイドルのスカウトだって…………
4 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2019/12/04(水) 17:25:10.10 ID:86FQdztyO
「……あれ、そう言えば……」
「お兄ちゃん……お代わり、いる……?」
「えっ? あぁいや、大丈夫だ。もうお腹いっぱいだよ」
朝から美味しすぎてつい随分と食べ過ぎてしまった。
お昼ご飯が食べられるか心配なくらいだ。
「それじゃあお兄ちゃん、甘奈達と遊ぼっ?」
そう言って、甘奈は背後から腕を回して来た。
肩に掛かる長い髪から、ふんわりと甘い香りが漂う。
耳元に掛かる息が擽ったい。
それだけで、酔ったかの様に意識が遠のきそうだった。
「そういう訳にもいかないだろう。俺はこれから……」
「……これから、どうかしたんですか? 兄さん」
「これから…………」
……これから、何だったのだろう。
何をするつもりだったのだろう。
本来だったら、何をしていただろう。
何をしようとして、俺は甘奈の誘いを断ったのだろう。
「妹の誘いを断るなんて、お兄ちゃんダメだよ〜?」
そうだ、そんな事はあってはならない。
俺が妹達の言葉に逆らってはならない。
俺は妹達を最優先に動かなければならない。
今までも、そしてこれからも……
なのに、何故俺は……
「……俺、昨日何してたっけ?」
「昨日ですか? 私達四人でショッピングに行ったじゃないですか」
「ひっどーい、忘れちゃったの? お兄ちゃん」
そうだったか?
いや、そうだ。
千雪と甘奈が言うのだから間違いない。
そうだ、俺達は四人でショッピングに行ったんだ。
「お兄ちゃん……荷物持ち、頑張ってた……」
「それで疲れちゃったから、今日は一日お家でゆっくりするって話だったでしょ?」
「…………昨日って、何曜日だっけ?」
「昨日ですか? 昨日は3月31日の日曜日でしたけど……」
日曜日か。
なら、家族サービスって事で荷物持ちなりなんなり付き合っただろう。
休日に家族で出かける、当たり前の事だ。
荷物を持つのも長い買い物に付き合うのも、男として当たり前の事だ。
「……じゃあ……今日は、月曜日だよな?」
昨日が日曜日なら、今日は月曜日の筈だ。
記憶が正しければ、今日は平日な筈だ。
4月の1日、年度明け。
甘奈と甜花が学校がお休みなのは、分かる。
「…………そうですけど……兄さん、どうかしたんですか?」
けれど。
「いや……月曜日なら、俺は仕事に……」
仕事に行かなければならない筈だ。
月曜日なのだから、平日なのだから。
なのに、俺は忘れていた。
仕事に行かなければならないと言う事も、俺がどんな仕事をしていたかと言う事も。
5 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2019/12/04(水) 17:25:52.21 ID:86FQdztyO
「……お兄ちゃん大丈夫? さっきから少しおかしいよ?」
「お兄ちゃん……もう一回、寝る?」
「いや……俺は……」
「兄さんはきっと疲れてるんです。そうだ、私達四人で一緒に寝るなんてどうですか?」
「あ、それ賛成! 久しぶりに皆んなで寝よっ?」
「にへへ……甜花、お昼寝の準備してくる……!」
待ってくれ。
俺がおかしいのか?
俺が間違っているのか?
おれが、おかしくなってしまったのか……?
「昨日毛布を柔軟剤で洗っといて正解だったね!」
「枕……お兄ちゃんの、腕が良い……」
「あっ、じゃあ甘奈は反対側の腕ね!」
「ふふ、甘奈ちゃんも甜花ちゃんも兄さんの事が大好きなのね」
幸せそうに笑う三人と正反対に、俺の頭と心はぐちゃぐちゃになっていた。
おかしいだろ、そんな訳ないだろ。
俺は普段、仕事に行っていただろ。
なんで三人は、そんな事なかったかの様に振る舞っているんだ。
そもそも、『此処は何処だ?』
朝起こしてくれた女性が千雪だと言う事は直ぐに分かった。
朝食を作ってくれた少女が甜花だと言う事も直ぐに分かった。
笑顔で迎えてくれた少女が甘奈だと言う事も直ぐに分かった。
三人の事を、俺は良く知っている筈だから。
だが、こんな家には見覚えが無い。
長年過ごして来たかの様に自然に過ごせたが、記憶のどこにもこんな場所の光景は無い。
寝室も、洗面所も、廊下も、階段も、リビングも。
俺の部屋の窓の外に広がる光景も、人生で一度として見た事がなかった。
「お、お兄ちゃん……どうしたの? 食べ過ぎて、お腹痛い……?」
「……俺は、こんな場所を知らない……」
「甜花ちゃんの手料理、めっちゃ美味しかったもん! 食べ過ぎちゃっても仕方ないよ」
「違う……俺は、そもそも……」
そんな筈はない。
ずっと過ごして来ていたのなら、風景を覚えていない筈がない。
あり得ない。
ずっと過ごして来ていたのなら、一緒に過ごした彼女達との思い出が無い筈がない。
なのに、無かった。
甘奈達と暮らしてきたなんて記憶は、どこにも無かった。
「お兄ちゃん、今日なんかおかしいよ」
俺が、おかしいのか?
「お兄ちゃん……大丈夫……?」
おかしいのは、この家の方じゃないのか?
「兄さん……今日はもう、休みませんか?」
おかしいのは……
「……お前たちの方が、おかしいんじゃないのか……?」
そう、呟いた。
6 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2019/12/04(水) 17:26:28.11 ID:86FQdztyO
気持ち悪い程の沈黙が、部屋を包んだ。
心配そうに俺を見つめる6つの目が、俺の心を揺らし続けた。
理由の分からない不安、焦り、緊張、動悸が襲い掛かってくる。
視界が揺れて、足が震える。
「……お兄ちゃん。今日はもう、お休み、しよ?」
「うんうん、それが良いよお兄ちゃん」
「兄さん。さ、お休みしましょう?」
俺の発言なんて無かったかの様に、彼女達は幸せを続ける。
俺の発言に意味なんて無いかの様に、彼女達は自分達の幸せに戻る。
けれど、俺一人は置き去りにして。
取り残された俺は、もう息すらも苦しかった。
俺一人だけが、別の世界に放り込まれてしまったかの様な錯覚。
当たり前が当たり前でない感覚。
真偽のはっきりしない記憶が大量に流れ込んで、脳の処理が追い付かない。
そんな居心地の悪さと言葉にしようのない不安の塊が、自分の存在さえあやふやに感じさせて。
「違うっ! 俺はっ!!」
気付けば、俺は叫んで走り出していた。
「お兄ちゃんっ?!」
堪らず、俺はリビングを飛び出した。
何十メートルにも感じる廊下を駆け抜けて、玄関へ向かう。
今思えば、こんな廊下も玄関も見た事が無かった。
だから、逃げ出したかった、確かめたかった。
この家の外には、どんな景色が広がっているのか。
妹達は、誰も追い掛けてこなかった。
「はぁっ……はぁっっ……っ!」
ほんの数秒の事だっただろう。
けれど玄関に辿り着くまでに、既に俺の足は悲鳴を上げて息は上がりきり、掌は汗で埋め尽くされていた。
一瞬、振り返る。
けれど廊下には、誰も居なかった。
「外に……兎に角、外に……っ!」
こんなおかしな世界に俺一人、ずっと居ては気が狂ってしまう。
1秒でも早く!
1メートルでも遠く!
こんな世界から、逃げ出さないと……!
ガチャ
意外にも玄関の扉は、あっけなく、あっさりと、軽い力で開ける事が出来た。
暗い廊下と扉の先の明るい光のせいで、一瞬目が眩む。
けれど、俺は外に出る事が出来た。
ゆっくりと、視界を取り戻す。
これで、俺は……
7 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2019/12/04(水) 17:26:57.57 ID:86FQdztyO
「ふふ、兄さん。そんなに慌ててどうしたんですか?」
「…………え……」
目を疑った。
俺は、リビングに居た。
目の前には先程まで俺が着いていた食卓。
笑顔で俺を迎える三人の妹。
「なんだ、これ……」
なんだ? 何が起きた?
目の前で起こっている現実が余りにも非現実的過ぎる。
そんな筈は無い。
だって俺は、玄関の扉を開けたのだから。
「もー、お兄ちゃんってばおてんばなんだから」
「にへへ……お兄ちゃんも、お昼寝に全力……」
当然の様に笑顔な妹達が、とても気味が悪い。
何故三人は、そんなに幸せそうなんだ?
俺はこんなにも焦って、不安なのに。
三人が大切に思ってくれているであろう俺が、家から出ようとしたのに。
そう思って手元を見れば、物凄い力で俺はリビングのドアノブを握っていた。
「うわぁぁぁあっ!!」
弾かれる様に俺はドアノブから手を離し、再び玄関へと向かった。
今のは俺の気が動転していただけだ。
こんなおかしい事が起きる筈が無い。
焦りで煩いくらいに響く鼓動を抑え付け、もう一度俺は玄関へと向かう。
手元を確認すれば、俺はきちんと玄関のドアノブを握っている。
「頼む……っ!!」
扉を開ける。
きっと、大丈夫だ。
今度はもう、気も動転していない。
あって良い筈が無い。
扉の向こう側からの光で、視界が真っ白になる。
これで俺は、外に出られ……
「お帰り、お兄ちゃんっ!」
「お、お帰りなさい……お、お兄ちゃん……っ!」
「ふふ。お帰りなさい、兄さん」
俺は、リビングのドアノブを握っていた。
三人の妹が、同時に俺へと微笑み掛ける。
心底幸せそうに、この幸せに微塵の邪魔も挟み込ませないというかの様に。
「……はは、ただいま」
俺は、もう考える事をやめた。
俺も三人と一緒に、幸せになろう。
8 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2019/12/04(水) 17:27:33.96 ID:86FQdztyO
ぴぴぴぴっ、ぴぴぴぴっ
目覚ましのアラームと同時、俺は目を開けた。
なんだか、長い夢を見ていたような気がする。
硬く握り締めた手を開けば、インフルエンザに罹った時のような汗をかいていた。
相当な力がこもっていたのだろう、指の跡が赤くクッキリと残っている。
「…………はぁ」
朝からこんなんでは気が滅入る。
カーテンを開けて部屋に朝日を取り込み、気持ちをリフレッシュ。
窓の外では木々が揺れ、四月の朝を表していた。
少し窓を開けて思いの外低い気温に驚き、一瞬でカーテンごと閉める。
コンコン
それと同時、部屋の扉がノックされた。
今日も、起こしに来てくれたようだ。
「はーい」
「あ、起きてますか? 兄さん」
ガチャ
「……おはよう、千雪」
「おはようございます、兄さん。今日はお寝坊さんじゃないんですね」
「何時迄も千雪に頼ってばっかりって訳にはいかないからな」
ふふ、と微笑む千雪。
もう少し俺が寝ぼけていれば、天使と見間違えていたかもしれない。
「朝ご飯、もう準備出来てますから」
「そうか、いつもありがとな」
開けられた扉から、良い香りが漂っていた。
焼き魚と味噌汁だろうか。
朝ご飯は一日の元気の源。
しっかり食べて、英気を養おう。
「そうですよ、兄さん。前は食べてなかったって聞いて驚きましたから」
「今では食べないとお昼まで身体が保たなくなっちゃったからな」
「甘奈ちゃんと甜花ちゃんも待ってますよ?」
「じゃあ、急がないとな」
千雪が一階に降りて行った後、ぱっぱと着替えて顔を洗い歯を磨く。
妹達の前で見苦しい姿を見せる訳にはいかない。
「ん……?」
階段を降りる前にふと自分の部屋を覗けば、机の上に書類が出ていた。
昨夜書類と格闘して、そのまま片付けずに眠ってしまったのだろう。
全く、きちんと片付けないと千雪にお説教されてしまう。
怒った千雪も可愛いし、それも悪くないかもしれない、なんて考えながら一応机の端に整える。
「……あれ、メモ……?」
トントンと書類の端を整えていると、書類の合間から一枚のメモ用紙が落ちてきた。
そこには俺の文字で、一文だけ。
9 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2019/12/04(水) 17:29:17.69 ID:86FQdztyO
『永遠に出られなくなってしまったらしい……』
……なんだ、これ。
一体どんな意図があって、俺はこんなメモを残したのだろう。
永遠に出られなくなってしまった?
……電話か? 営業先の人を怒らせてしまったのだっただろうか?
「お兄ちゃーん! 早く来ないと冷めちゃうよーっ!」
一階の方から、甘奈が俺を急かす声が聞こえてきた。
「あっ、すまん! すぐに……」
ドサッ!
「うわっ!」
慌てて書類を片付けようとした勢いで、誤って全てぶちまけてしまった。
机一面が書類で埋まる。
しまったなぁ、案件ごとに並べていただろうにこれじゃ分からなくなってしまった。
ところで今更だが、これは何の書類だったのだろう。
俺の仕事のものである事は分かるが、それが何の仕事だったかが思い出せない。
ずっと働いてきたのにそんな事あるか? とは思うが思い出せないものは思い出せないのだ。
夢の出来事を起きてから思い出そうとしてもハッキリとしない様な、そんな感覚。
見たところ芸能系の仕事の様だが……
「…………ん?」
床に落ちた勢いで広がってしまったクリアファイルの中から、これまたメモ用紙が飛び出ている。
それを俺は、何故かこっそりポッケへと仕舞い込んだ。
コンコン
「兄さん? おっきな音が聞こえましたけど……大丈夫ですか?」
「ん、あぁすまん千雪。片そうと思ったら落としちゃってな」
「もう……小まめに片付けて下さいっていつも言ってるじゃないですか」
そう言いながら、千雪は散らばった書類を集め始めた。
結構色んな所まで広がっていたのか、机の下からも出てくる。
「はいどうぞ、兄さん。お部屋のお片付けなら後で私もお手伝いしますから」
「ありがとな、千雪」
そうだな、今日は久しぶりに部屋の模様替えなんかも良いかもしれない。
いつも忙しくて掃除すらきちんと出来ていなかったし、千雪達に家の事を任せっぱなしと言うのも申し訳ない。
「そう言えば……」
メモに書いてあった事を、俺は千雪に相談しようとした。
永遠に出られなくなってしまったってどう言う事だと思う?
自分で書いた覚えが無いんだが、もしかして甜花がゲームの攻略で書いたメモがこっちに紛れ込んじゃったのか?
そんな感じで、気軽に、何てことなく……
「……朝ご飯、今日は誰が作ってくれたんだ?」
「ふふ。それは後でのお楽しみです」
「そっか、楽しみだ」
……何となく、聞いては不味い気がした。
10 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2019/12/04(水) 17:30:36.97 ID:86FQdztyO
「今日の朝ご飯はね、甜花ちゃんが作ったんだよ!」
「にへへ……甜花、頑張った……」
食卓に並べられた料理は、盛り付けはそこまで上手とは言い難かったが。
けれど味噌汁はきちんと出汁が取られ、白米も柔らかくしっかりと作られたものだった。
味の方は勿論、とても美味しい。
前までは料理なんてするイメージはなかったが、いつの間にこんな上達したのだろう。
「凄いじゃないか甜花、勉強したのか?」
「……それは、その……千雪お姉ちゃんに……」
「ふふ、それでも頑張ったのは甜花ちゃんよ? 私、今日は全然お手伝いさせて貰えませんでしたから」
「……甜花が、一人で……お兄ちゃんに、褒めて欲しかったから……」
「そっか。ありがとな、甜花」
軽く撫でると、心地良さそうに甜花は目を細めた。
次女である甜花は普段はグータラしているが、やる時はやる子だ。
実際目の前の料理は、ほんの数日程度で作れるレベルの味ではない。
盛り付けがもう少し整っていたら、作り慣れている千雪の料理と勘違いしていたかもしれないレベルだ。
「いーなー。甘奈も撫でて貰いたいっ!」
「それじゃ……お夕飯は、なーちゃんが作って?」
「うんっ! お兄ちゃん、めーっちゃ期待しててね!」
「それは楽しみ……ん?」
……あれ?
昨夜の夕飯も、甘奈が作ってくれたんじゃなかったか?
昨日、夕飯は甘奈が作るって言ってた様な気がするんだが。
確か、朝食は甜花が一人で作ったから夕飯は甘奈が作……
……甜花が?
甜花が朝食を作った?
何を考えているんだ俺は、甜花が朝食を一人で作ってくれたのは今日が初めてだろう。
さっきの会話からして、それは間違い無いだろう。
……いや、間違い無い。
俺はこの食卓を、昨日も見て……
「ん? どうしたの、お兄ちゃん?」
「……あぁいや、何でもないんだ。夜が楽しみだ、ってな」
「うんっ! お兄ちゃんに喜んで貰える様に、甘奈頑張るから!」
「ふふ。それじゃあ、私は夜もキッチンに入れて貰えなさそうね」
自然に、いつも通りに、日常会話が続く。
俺が先ほどまで浮かべていた疑問なんて、もう思い出せなくなっていた。
甜花が作ってくれた朝食は、あっという間に食べ終わってしまった。
とても美味しかった、とても幸せだった。
それこそ、この幸せがいつまでも続いてくれたら、と。
そう、願ってしまうくらいには。
110.14 KB
Speed:0
[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
VIPService!]
↑
VIP Service
SS速報VIP
更新
専用ブラウザ
検索
全部
前100
次100
最新50
続きを読む
名前:
E-mail
(省略可)
:
書き込み後にスレをトップに移動しません
特殊変換を無効
本文を赤くします
本文を蒼くします
本文をピンクにします
本文を緑にします
本文を紫にします
256ビットSSL暗号化送信っぽいです
最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!
(http://fsmから始まる
ひらめアップローダ
からの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)
スポンサードリンク
Check
Tweet
荒巻@中の人 ★
VIP(Powered By VIP Service)
read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By
http://www.toshinari.net/
@Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)