博士「どんな本が読みたいんだい?」ホムンクルス「恋愛……小説が読みたいです」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/01(日) 23:21:51.56 ID:H1GMKT+vO
魔法とはすなわち奇跡である。

しかし、奇跡はそう易々と起こらない。
だから人は、科学や工学に頼った。
とはいえ、科学や工学にも限界はある。

火が欲しければライターを用いて。
水が欲しければ蛇口をひねり。
畑を耕したければトラクターを使い。
空を飛びたくば飛行機に乗って。
寒ければ暖炉を。暑ければクーラーを。
そして病気になれば薬を飲む。

そのくらいは造作もないことだ。
もちろん膨大な労力と時間を費やした。
けれど、実現可能な事柄であった。

「さあ、目覚めるのだ!」

沢山の機材が並んだ地下室にて。
ひとりの男が偉業を成し遂げようとしていた。
同時にそれは、禁忌に触れる所業であった。

「おお……おおっ……!」

苦節、千余年。
あまりにも長かった研究が実を結び。
その男は、人工的に生命を生み出した。

「おはようございます、博士」

あらゆる色素が抜け落ちた。
一糸纏わぬ、美しい少女が。
恭しく、朝の挨拶を告げた。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1575210111
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/01(日) 23:23:12.59 ID:H1GMKT+vO
「調子はどうだね?」
「はい、良好です」

人造人間、ホムンクルス。
人工的に作り出された生命体。
真っ白な少女はまさに奇跡の存在だった。

「あまり様子を見れず、申し訳ない」
「いえ、本を読むのが好きですので」

博士は研究で忙しい。
なので付きっきりではいられない。
その間、少女は読書をしていた。

「寂しくはないかね?」
「寂しい?」

キョトンと小首を傾げる仕草は人間のようだ。

「すぐに君の姉妹を作ってあげよう」

博士は少女と同じホムンクルスを量産した。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/01(日) 23:25:04.56 ID:H1GMKT+vO
「102番、調子はどうだね?」
「はい、良好です」
「103番、変わりはないかね?」
「はい、変わりありません」

ホムンクルスの数は100体を超えた。
彼女達姉妹は皆同じ顔と身体であった。
清楚な白のワンピースに身を包み。
その胸元につけられた番号で呼ばれた。

「博士」
「なんだね、46番」
「書庫の本が足りません」

ホムンクルスは本を好んだ。
ひとりの例外もなく、読書を嗜む。
100人も居れば、当然本が尽きてしまった。

「では、新たに用意しよう」
「ありがとうございます」
「どんな本が読みたいんだい?」

気まぐれに尋ねてみると、46番は頬を染め。

「恋愛……小説が読みたいです」

恥じらいながらそう口にする姿に感動した。

「素晴らしい! まさに知恵の実だ!」
「知恵の実……?」
「人の祖はそれを食べて恥じらいを得たのだ」

人は知恵の実を食べた直後、素肌を隠した。
それと同じように、彼女達にも変化があった。
自らの欲望を口にすることを躊躇ったのだ。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/01(日) 23:26:19.83 ID:H1GMKT+vO
「435番、具合はどうかね?」
「少し、胸が苦しいです」
「どれ、診てやろう」

体調不良を訴えたホムンクルスを診察するも。

「どこにも異常はないようだが……」
「でも博士、この本を読むと胸が痛いのです」

そう訴えて、一冊の本を差し出してきた。
博士はその本を手に取り、中身を流し読む。
それは悲恋をテーマにした恋愛小説であった。

「なるほど……たしかにそれは辛いものだ」
「どうしたら良いのでしょう?」
「君はこの結末に不満があるんだね?」

互いに愛し合っているのに結ばれない。
その切なさが、胸の痛みを生むのだろう。
そう察して尋ねると、435番は頷いた。

「はい……とても可哀想で」
「ならば、自分で書いてみてはどうかね?」
「えっ?」
「君が望む結末を、書いてみなさい」

博士はそう言って紙とペンを渡した。
何も遊びで提案したわけではない。
より高度な存在となる為の儀式であった。
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