【ミリシタ】I have a Dream. 〜Melty Fantasia IF STORY 〜

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 09:40:28.41 ID:FWFOK6Xu0
こちらは

『アイドルマスターミリオンライブ!シアターデイズ』内のイベント及び劇中劇である『Melty Fantasia』をモチーフにしたお話です。ドラマCD未視聴で書いたため、良く知らない人でも読める……はずです。きっと。

なお、そのため幾分か(結果的にですが)オリジナル設定となっております。ご注意下さい。


それでは、お楽しみいただければ幸いです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1574556028
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 12:12:54.37 ID:FWFOK6Xu0
──ここはトーキョー・スプロール。荒れ果てた大地にぽつりと佇む楽園都市である。


 この楽園では、かつて世界を滅ぼしかけた愚かなヒトに代わり『マザーRITSUKO9』と呼ばれるAIとその移し身たるアンドロイド達による統治……いや、管理が行われていた。その機械仕掛けの管理の下で、ヒトは勤労・治安維持・食料管理──ほぼ全ての活動をアンドロイド達に任せ、自由きままに穏やかな生を謳歌する。

 だがその裏で、ヒトは蜘蛛に捕らわれた哀れな蛾のようにゆっくりと衰退していた……出産・育児・教育の権利すら機械に売り渡してしまった代償として。


 そんな歪な楽園で、新たに造られた三体のアンドロイド『シホ・ツムギ・ミズキ』の、とある一つの物語が今、静かに終わろうとしていた……。


3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 13:36:28.43 ID:FWFOK6Xu0


【──どうやら私は夢を見ているようです】〜Chapter1:アンドロイド・ミズキ〜



4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 14:37:23.73 ID:FWFOK6Xu0
 先ほどまでの荒野とは打って変わった緑に包まれて、古めかしい木の椅子に“ワタシ”は座っていました。

木漏れ日の中に、ポツンと置かれた古い木のテーブル。
それにツムギが洗った真っ白なテーブルクロスを敷いて、シホの焼いたスコーンと私の淹れた紅茶を置いて。

 これは私達のいつもの日課──午後三時のお茶会の場面でした。


5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 14:39:15.39 ID:FWFOK6Xu0

「さぁ貴女達、宿題は考えてきたかしら?」

 午後の麗らかに思える日射しの中で、チハヤが言いました。

ゆったりと腰掛けた椅子がギィと音を立てて。
青々と茂った木々がさらさらと風で音を立てて。
その風に撫でられたチハヤの艶やかな髪に日光が反射して、きらきらと輝いていました。

 こうした情景の中でヒトは安らぎを覚えるのだと、私にインプットされた知識が教えてくれていました。



6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 14:40:30.14 ID:FWFOK6Xu0
 
──ですが、それらが全て作り物であっても、ヒトは安らぎを感じる事が出来るのでしょうか。“ワタシ”の中に答えはありません。

結局、チハヤに聞く事もできませんでした。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 14:42:48.36 ID:FWFOK6Xu0

「はい」「えぇ!」「もちろんです」

 映像の中の私達は、三者三様に応えていました……しかし、かねてから不思議だったのですが、同じ型の基盤を使っているというのに、どうして私達姉妹はこうもバラバラだったのでしょう。とても不思議です。

「うん、よろしい。じゃあ始めましょうか」

 チハヤがぱちんと手を合わせれば、それがお茶会開始の合図です。これも、まったくいつもと同じでした。



──“ワタシ”は映像を観ている訳でもなく、かといって各種センサーも機能していない、なんとも言えない不思議な状態です。そんな“ワタシ”をおいて映像は止まる事なく進んでいきます。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 15:06:04.64 ID:FWFOK6Xu0

「今日はそうね、年の若い順にいきましょうか──ということは、シホからね。はい、どうぞ」

「お言葉ですが、私達は同一型番のアンドロイドです。三人ともほぼ同時期に製造されました。確かに覚醒時の時間差によって便宜上姉妹とされていますが、それも誤差と言えるほどの些細なもの……つまり、年の差などほとんどあってないようなものです。なので──」

「シホ?自分が答えたくないからって、屁理屈はいけないわ」

「あの、そうじゃなくて昨日も私からだったんですけど」

 意見をバッサリと切り捨てられて、シホは困ったように眉を寄せました。シホは一見冷静ですが、考えていることがすぐに顔に出るんです、特に不満や苛立ちが。
表情に乏しい私とも意外と豊かなツムギとも違う……『隠し事のできないタイプだ』とチハヤは言っていました。


9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 15:12:52.58 ID:FWFOK6Xu0

「あら、そうだったかしら?」

「そうでした。なので今日は私以外にしてください」

「そんなこと言っても、もう決めちゃったし……」

「だいたい、なんでいつも私が最初なんですか!」

 とぼけるチハヤにあくまで譲らないシホ。そんな二人のせめぎ合いに割って入った子がいました。

「いいえ、シホ。チハヤの言う通りですよ」

私のもう一人の妹、ツムギでした。

「例え僅かな差であれ、そこにはれっきとした姉妹の序列が存在するのです。ミズキが長女で、私が次女、そしてあなたが三女という歴然たる序列が──」

「ツムギはちょっと黙っていてください」

「んもぅ、それが姉に対する口ん聞き方なん!?だいたいシホは、ウチのことだけ呼び捨てにして──!」

「ふふ♪ツムギ、また言葉がおかしくなってるわよ?」

「──ッッ!?」

 そうなのです。ツムギはツムギで、興奮するなど特定の状況下にあると言語機能が少しだけおかしくなるのです。これも、他の姉妹には見られないツムギだけの特徴でした。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 15:15:41.43 ID:FWFOK6Xu0

「ん、ンン゛ッ!……シホ?それが、姉に対する口の聞き方なのですか?」

「今さら言い繕っても遅いですよ、ツムギ“お姉様”」

「うぅ〜〜〜……」

 そして、その度にチハヤやシホにからかわれて、顔を真っ赤にしていましたね。見る度に表情がコロコロと変わるツムギは、本当にかわいらしい妹でした。

11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 15:17:22.80 ID:FWFOK6Xu0

「うふふ、ダメよシホ。そんなにツムギをからかっては」

「すみません、つい」

「つい……って、もぉ〜なんなん!?」

チハヤは、クスクスと笑っていました。
シホは、チハヤと一緒に微笑んでいました。
ツムギは、顔を真っ赤に膨らませていました。



──“ワタシ”は……どんな表情だったのでしょう。メモリの所在が曖昧で、どんな表情をしていたのか全く思い出せません。


12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 15:28:59.47 ID:FWFOK6Xu0

──けれど本当に不思議です。“ワタシ”は、“ワタシ”達はどうしてこんなにも違うのでしょう。同じ素体、同じ基盤、目覚めた時間も殆ど同じなのにどうして……。

何度自問しても、答えはまだ見つかりません。

13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 15:36:30.96 ID:FWFOK6Xu0

「さ、シホ。そろそろ答えて?あなたの思う人間らしさって何?」
「……わかりました」

 結局、いつもシホが一番です。はぁ……と息を一つ吐いて答え始めました。

「それはやはり身体構造の違いです。生物であるヒトと人工物である私達とを比べれば、違いは一目瞭然だと思いますけど」

「なるほどね。シホは、人間らしい身体の造りをしている事、生物らしい構成要素を持っている事が人間らしさの証明だと言うのね」

「はい。それが一番端的かつ分かりやすい判別方法だと思います」

なるほど、確かに……私達アンドロイドの中には、見た目からして『まさに機械』という個体も多く存在しています。一つの役割に特化するとそういう傾向が高くなるのも、また事実です。

 ……けれど。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 15:42:49.91 ID:FWFOK6Xu0

「では聞くけど。義手は?義足は?義眼は?生体部品まで使って限りなく人体に寄せてはいるけど、アレは所詮作り物よ。人間が生まれもった身体構造とは違うわ」

「え?」

「それに、今の御時世じゃあ全身機械に置き換えるっていう『オール義体化』も珍しくないらしいわね。私は世俗には疎いものだから、よく知らないけれど──彼らは人間じゃないってこと?」

「それは……」

 そうです。技術の進歩は、身体の欠損を補うことも可能にしました。腕や脚、内臓に至るまで、ヒトは壊れた部分を取り換えられるようになったのです……まるで機械のように。

「う〜ん、そうなると身体の七割以上が機械である私も人間じゃない、ということにはならない?残りの生身だってマザーの庇護無しでは二日と保てない私は、果たしてヒトと呼んでもいいのかしら」

「うっ……」

 言葉に詰まるシホへ、チハヤはひらひらと左手を振っていました……それは残った生身でなく、義手の方でした。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 15:45:04.91 ID:FWFOK6Xu0

「それに確か、あなた達の型番にも有機質の部品が多く使われているわね……『ヒトの世話をする際に親近感を抱かせるため』という建前で」

「建前ではありません。『ヒトの役に立つべく働くこと』、それが私達の果たすべき最優先事項であり、この身体はそのために不可欠な機能です」

「そう、だったわね……なら尚のこと、あなた達の方が私よりも人間に近い、という事にならない?あとはそうね、他には──」

「はぁ……わかりました、私の負けです」

 これ以上言い負かされる前に、シホが降参しました。はぁ〜……と、もう一つ大きく息を吐いて。これが「ため息」──なのでしょう。データベースもその語彙が適切であると告げてくれています。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 15:51:32.49 ID:FWFOK6Xu0

「ふふ、そう?じゃあ、この辺りで勘弁してあげましょうか」

「やっぱり構成要素の違いだけじゃ駄目なんですね」

「えぇ。それだけじゃ全然ダメね、落第点よ。次はもう少し答えを練ってきた方がいいわ」

「はい。次は言い負かされないように、しっかり考えてきますよ」

「うふふ、期待してるわ」

 やり込められたのが余程堪えたのでしょう、シホの瞳はメラメラと燃えているようでした──いや、実際に何か燃えている訳ではないのですが、今なんとなくそう感じたのです。当時の私は、何故これに気づかなかったのでしょう?



「ふふん、やっぱりシホじゃあこんなもんやね♪」

 そこへ再び、ツムギが割って入りました。胸をすんと張り、表情もかなり得意げに見えました。余程答えに自信があるのでしょう……ツムギは何と答えたんでしたっけ。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 15:54:43.09 ID:FWFOK6Xu0

「──こほん。しかし、構成要素の違いがそのまま人間らしさに繋がるだなんて、シホも案外単純なんですね。いえ、別に悪いという訳ではありません。実に妹らしくて良いと思いますよ」

「えぇ、そうですね。それでいいですよ、もう……」

「もぅ、シホったら。そうふてくされないで──さてと。ではツムギお姉様は、どのようにお考えなのかしら?」

「わかりました、ウチの答えが一番だってこと証明してあげます!」

「前置きはいいから早くしてくださいよ、ツムギ“お姉様”」

「もぉ、シホはちょっと黙っといて!……コホンッ!私の考える人間らしさとは──それはもちろん『心』です、『感情』です!」

「──ッ!?」

 ああ、そうでした。この時は『まさかツムギに先を越されてしまうなんて……』と、得意げに胸を張るツムギをよそに、私が内心とても動揺していたのを思い出しました。


 それに『今日はツムギが褒められるのですね……私ではなく』とも。

18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 16:18:55.51 ID:FWFOK6Xu0

「……そう、心ね」

 ですが、チハヤは一言そう呟いたきり、むっつりと黙りこんでしまいました。



「……あの、チハヤ?どうかしたん?」

「じゃあ心とは何?どこに在るの?説明して」

「えぇッ!?ど、どこに?」

「そうよ。それくらい考えてきたでしょう?説明してちょうだい、ツムギ」

「え、えっと、それは……きっとこの辺の、どっかに……」

 かと思えば、予想外の強い語調で、矢継ぎ早に答えを迫ってきました。そう、シホの時には見せなかった厳しさです。
 ツムギはツムギで、あたふたしながらも、胸に搭載されている動力部を指しました。私も、聞かれたらきっと同じ場所を示したはずです。事実、そう思って成り行きを見守っていました。

19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 16:21:07.49 ID:FWFOK6Xu0

「じゃあ今すぐ取り出してみせる事が出来る?それに、心ってどんな形をしているのかしら?」

「そ、そんなんできんよ! 形……も、知らんし……」

「あら、心がどこに在るかも、どんな形かもわからないのね?アンドロイドのあなたが、そんな曖昧なものを在ると言ってもいいの?」

「そ、それは……」

「はぁ、これしきの質問にも答えられないのに、自分が一番だなんて良く言えたものね」

「あぅうぅ〜……」

 結局、イジワルな追い詰め方にツムギはすっかり縮こまってしまいました。これ以上はさすがにやり過ぎになるでしょう。

20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/24(日) 16:27:56.58 ID:FWFOK6Xu0

「チハヤ、もうそれくらいにしてあげてください」

「……そうね。ミズキの言う通り、このくらいで勘弁してあげましょうか」

「あんやとミズキ、ウチ……」

「気にしないで、ツムギ。姉として当然のことをしただけです」

「ミ、ミズキ〜」

 あぁ、妹よ。どうかそんな目で見ないでください。追いつめられたのが自分じゃなくて良かったと安堵したこの姉を──そこには、ツムギの視線をまっすぐに受け止められない私が、映っていました。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 16:30:45.92 ID:FWFOK6Xu0

「ふふ、ごめんねツムギ。それなりに長く生きてると、ありきたりな答えじゃ満足できなくて」

「あ、ありきたり、なん……?」

「ですが、それだけが理由ではないでしょう?……あんまりツムギをいじめないでください」

「やっぱりミズキにはわかっちゃったかしら。ツムギをからかうと楽しくて、つい♪」

「あっー!チハヤ、やっぱりウチの事からかって!」

「でも『ただからかった』というだけじゃないわよ。あんな子供にも思いつきそうな単純な答えじゃあ、攻められて当然よ。ましてや、あの程度のイジワルな質問にも答えられないようじゃ、本当に落第だわ」

「ら、落第……あぅ」

「でも、次は期待してる。大丈夫、ツムギなら出来るわ」

「チハヤ……!」

 怒ったりしょんぼりしたり、かと思えば顔を輝かせたり。ツムギは本当に表情豊かです。本当に……かわいい妹でした。

22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 17:29:56.71 ID:FWFOK6Xu0

「ふぅ、やっぱりツムギじゃダメでしたね……いえ、ツムギ“お姉様”、でした」

「うふふ♪ がんばらないとね、ツムギお姉様♪」

「んもぉ〜、二人ともなんなん〜ッ!」

 ぷんすかと怒るツムギ、それを笑って見つめるチハヤとシホ。この光景を見ているだけで、何と言えば良いのでしょう……動力部の周りがあたたかくなっていくのです。この時も、そして今も。
 オーバーヒートというにはあまりにも正常で……故障ではないこの現象をいったい何と呼ぶのか、“ワタシ”のデータベースには載っていないのです。マザーリツコなら教えてくれるでしょうか……。



──ですが、それ以外にもおかしな事があるのです。ツムギもシホも、こんなに表情豊かだったでしょうか?アンドロイドである“ワタシ”に記憶違いなどあるはずがないのに。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 17:35:41.81 ID:FWFOK6Xu0

「さぁ、最後はミズキよ。お姉さんらしい所を見せられるかしら」

「はい、がんばります」

 しかし映像は止まってはくれません。“ワタシ”は考えるのを止めて、この不思議な上映会の続きへ戻ります。

「さ、ミズキ。答えて、あなたの思う人間らしさって、何かしら?」

「「…………」」

 最後だからでしょうか、みんなが私を見つめていました。動力部がトクン、トクンと不規則に跳ね上がるエラーが、この時の私を困惑させていたのを、“ワタシ”ははっきりと覚えています。


24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 17:37:17.72 ID:FWFOK6Xu0

「そうですね、私は……えーと」

「大丈夫?……もしかして、考えてたのを先に言われちゃった?」

「いえ、そんな事は」

「いいのよ、少しくらい待っても……どうせ時間なんて、今の私にはあって無いようなものだもの」

「平気です」

 この時の私は、チハヤの提案にどうしても素直に頷けなかったのです。理由ははっきりとはわかりません……チハヤの目が、“ワタシ”をそう突き動かしたのです。

「シホが先に言っちゃったんやない?」

「いいえ、きっとツムギ“お姉様”ですよ。そういうのは、ツムギ“お姉様”の仕業に決まってますから」

「もぉ〜、なんねそれは!」

 だからといって、答えをそう易々と考えつける訳ではありません。例え命令されたとしても、自分自身の答えを見つけ出すという行為は本当に難しいものなのですから。ヒトではない、我々アンドロイドにとっては……現にツムギに先を越された答えだって、一時間近く思考と試行を重ねて出したものだというのに。
 答えの提出を優先するのであれば、時間を空ける選択をすべきでした。今でもそう思います。

25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 17:38:03.78 ID:FWFOK6Xu0

 でも、この時は少し違いました。

「私は──理由のない行動をとるのが人間らしい、と思います」

驚くほどすっと、新しい答えが口から出てきたのです。

26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 17:51:24.59 ID:FWFOK6Xu0
「「おぉ〜〜……」」

 パチパチと手を叩く音。パッと浮かんだだけの答えが思いがけずに好評で、私は驚きました。と同時に、二人の視線が誇らしく心地よかったのを、“ワタシ”は良く覚えています。

「へぇ、どうしてそう思ったの?何かそういう文献でも見付けたとか?」

「えーと、それは……チハヤを見ていて、そう感じましたとしか言えないです」

「そう感じた……そう、“感じた”のね」

 チハヤが少し目を伏せた理由が、今ならほんの少しわかる気がします……“感じる”というファジー/曖昧な認識がもたらす意味を、今なら。

「でも、確かにそうね。ミズキの言うこともあながち間違いじゃないわ……ヒトは時に、理由も確証もない行動に走るものだから」

「はい、ヒトはそれを衝動と呼びます」

 チハヤが認めてくれた──その事実がただ嬉しかった。この時の私は無邪気に喜んでいました。
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 18:12:16.78 ID:FWFOK6Xu0
「じゃあ、ウチに洗濯ばかりさせるのも」

「わざと三時ぎりぎりに用事を頼んで、お茶会に遅刻させるのも」

「時折、優しく頬を撫でてくれるのだって」

また三人バラバラの答え。

「あっ!ズルいですよ、ミズキ!ウチなんて叱られてばっかりなのに!」

「そうです、ズルいです……ツムギが叱られるのは別に良いとして」

「シホ!またあなたは……」

「すみません、ツムギ“お姉様”」

「もぉ〜〜ッ!」

「ふふ、二人とも仲が良いですね。姉として非常に誇らしいです」

でも、これでいいのです……これが良いのです。違うからこそ、良いのです。



──けれど。

「そうね……全部、衝動よ。理由なんてないわ」

何故でしょう?それを見るチハヤの笑顔が、“ワタシ”には曇って見えました。この時にはまったく気付けなかったというのに、今ならわかります……わかって、しまいます。

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 18:16:25.13 ID:FWFOK6Xu0

「あの、チハヤの答えも聞かせてください」

 いつものように、私が問いかけました。私達三人が答えて、最後にチハヤに尋ねる、いつも通りの手順……つまりは、お茶会の終わりが近いということです。

29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 18:19:03.89 ID:FWFOK6Xu0

「私の?そうね、私は……」

 ヒトであるチハヤはいったい何と答えるのだろう──私達は固唾を飲んで待っていました。

「私は──“夢”を見ることだと思っているわ」

ああ、チハヤはいつも予想だにしない答えをくれます。もちろん、この時だって。
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 18:22:18.22 ID:FWFOK6Xu0

「夢というと……ヒトが睡眠中に見るというあの夢ですか?」

「えぇ、その“夢”よ。ヒトは“夢”を見て、機械は“夢”を見ることはできない」

「夢とは、私達がスリープ時に行う記憶データ処理とは違うのですか?」

「えぇ、まるで違う。そんなものは夢とは呼べないわ、絶対に」

 ですが、いつも笑顔で温厚なチハヤが、笑顔以外の表情を見せたのは、これが最初で最後でした。



「──ッッ」

 この時、私/“ワタシ”の回路がずくんと大きく疼いたのです。理由は……今でもわかりません。誰も教えてはくれないのです。

31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 18:25:53.49 ID:FWFOK6Xu0

「……ごめんね、少し大袈裟だったかもしれないわ。正しくは、それだけじゃあ……過去を反芻する夢だけじゃ、それは“夢”とは呼べない。私はそう思っているの」

「それはなぜ?」

「ヒトは過去を振り返るだけじゃない。未来を、より良い未来を夢見て、そこへ歩き出せるからこそ、ヒトはヒトでいられるのよ……ヒトだけが、まだ見ぬ未来を想うことができるの」

「未来を、想う……」

「昔、私は教えてもらった。目を閉じて見る夢も、目を開いて見る夢も、両方を見ることができるのがヒトなんだって。遠い遠い昔に──もう、名前すらも思い出せない何処かの誰かに」

 私達を見つめるチハヤの目は、もうここにはない何処か遠く見ているようでした。その目が見ているものがなんなのか、私/“ワタシ”も知りたいと強く感じました。



 だからこそ、こう聞いたのです。

「──私/“ワタシ”達も、いつか“夢”を見られるでしょうか?」


32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 18:28:34.96 ID:FWFOK6Xu0

「さぁ、私には分からない」

「……そう、ですか」

「でも、もしあなた達が夢を、未来を夢見る事ができたら、それは──」



「あなた達が、本当の意味でヒトになれた時なのかもしれないわね」

 チハヤの笑顔は、いつもとは少し違いました。ツムギやシホが私/“ワタシ”に向けるものに、どこか似ている気がしたのです。

「ふふふ♪貴女達と話していると、とっても楽しいわ。ねぇ、貴女はどう、ミズキ?」

「私ですか?私は──」




…………ザ、ザザ、ザザザッ!

 私/“ワタシ”が答えるその瞬間に、突然映像が乱れました。

33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 18:30:19.07 ID:FWFOK6Xu0

『識別コード検証……合致』

どうしたというのでしょう?映像が乱れます……どんどん、どんどん乱れていきます。

『該当個体発見。マザー、ご指示を』

壊れかけたセンサーが音声を拾っています。これは……外部からの音声です。そしてこの声紋パターンは、“ワタシ”の内部メモリにも登録されている、あの個体のものでした。

 ああ、夢のように幸せな映像はいつの間にか掻き消えて、白黒のノイズだけが“ワタシ”の前に広がっていました。



──そうして“ワタシ”は、目を開けたのです。


34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/24(日) 18:41:42.38 ID:FWFOK6Xu0
【──私達が夢を見る事など、できるはずがないというのに】〜Chapter2:アンドロイド・セリカ〜

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