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真・恋姫無双【凡将伝Re】4

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758 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2021/05/15(土) 22:16:46.98 ID:JSqAUlv+0
「ふむ。
本日はここまでとする」

うず高く積みあがった書類の山。その中央で韓浩は、ぱん、と手を叩いて解散を告げる。

「しかし、今日持ち込まれた案件すら処理できておりません!」

文官たちの悲痛な声が上がるが、ぴくりとも表情筋に仕事をさせずに韓浩は応える。

「ここで夜通し作業しても貴方たちが疲弊するだけ。
どうせ明日もまた案件の山ができあがる。故に休むのも仕事の内」

さっさと帰れとばかりに手を振る韓浩に文官たちは不承不承に席を立つ。納得したとは思えない顔ばかりだ。それでいい。
明日以降はより一層の精勤が期待できると韓浩は軽く頷く。

「ふう」

すっかり冷めてしまった茶をぐびりとすする。来客用の高級な茶葉ではない。
かつて紀家軍にいたころに散々味わっていた安物である。その安っぽい味と香りにどこか安らぎを覚えつつ韓浩は脱力(リラックス)していく。
このように幽州の諸業務が滞っているのは別に韓浩が無能だからではない。無論配下の文官たちがサボタージュをしているわけでもないし未熟なわけでもない。なんとなれば袁家が州牧だったころからその面子はほぼ変わっていないのだからして。
ならば何故にこのように未決済の案件が増えたか。それは単に業務が増加したのだ。

「飽和攻撃。悪くない手」

ずび、と音を立てて再び茶を啜る。
そう、これはまぎれもない攻撃であると韓浩は理解している。あらゆる部門から上げられる報告書、稟議書、告発、意見書。かつてないほどに活発に幽州の行政組織は仕事を果たしていると言っていいだろう。

「しかし、厄介極まる」

ふう、と息を吐き、大きく伸びをする。文官の誰よりも書類の決裁をしていたのは間違いなく彼女である。韓浩の処理能力は沮授や張紘をすら凌いでいるかもしれないほどのものだ。
それでも積み重なった書類がなかなか減らないのには理由がある。いや、理由と言ってもたいしたものではない。印だけ捺(お)して済まない案件が多いこと、そして微妙に書類に不備があることが理由だ。
故に韓浩をはじめとする文官団の処理能力は飽和してしまっている。恐らく処理済みの書類にも不備がいくらもあるに違いない。
そしてそれにつけこんで地歩を増しているのが劉備一派である。少なからず予算、人事に侵食している形跡がある。

「流石は伏竜に鳳雛といったところか」

水鏡女学院きっての俊英。一人でも得れば天下に届くというのは伊達ではない。
その俊才二人が仕掛けてきた簡にして単なる攻撃。恐るべしと言っていいだろう。軍権こそ厳密に精査して侵食を許していないが、近頃は露骨に食指を動かしているようである。
まあ、この守勢もあとひと月もすれば収まるであろう。この窮状――と言っていいかはわからないが――について韓浩は隠し立てなく主たる公孫賛に報告している。併せて伝手を使って人材を某所より借り受けることについてまで認可を得ている。
そして某所の長たる青年からは魯粛、虞翻、于禁、秦松という人材の派遣があることが通達されている。
無論、旧主家たる袁家。その筋から人材を借りるというのはいかにも体面がよろしくない。まるで公孫賛は幽州を支えることができないということの証左のようで。
だが、公孫賛は極めて実務家であり、韓浩に対しての信頼も厚い。

「韓浩がそう言うならそうなんだろう。任せた」

絶大な信頼。その価値を韓浩は理解している。だからこそ最善手を選ぶ。自分の立場などはこの際どうでもいいのだ。
そして内心感謝する。紀霊の選んだ人材はいずれも珠玉。魯粛、虞翻がいれば公務は問題ない。于禁がいれば軍制も捗り、秦松は民政に長じている。韓浩の懸念がそれだけで晴れるというものだ。
実際、破格の援助と言っていいだろう。それだけ幽州の価値が大きいということ。そして公孫賛を大事に思っているということなのだろう。
だから、それまで潰れるわけにはいかない。そうして韓浩は決意も新たにする。紀家軍にて、今は亡き梁剛、雷薄に叩きこまれたその精神。諦めないこと、足掻くこと、泥臭くあること。

「無事是名馬とはよく言ったもの」

それを体現しているのが紀霊である。彼にかかる負荷は実際尋常ではない。それを上手く散らしているのは見事、と言ってもいい。
まあ、とは言え、である。通常業務を四方八方に丸投げする彼のやり方に対して思う所がないわけではないのだけれども、それを言うのは野暮というものであろう。

「ええやん、二郎に書類整理とか向いてへんしな。つうか、うちもアンタにまかせっきりやったし」

くつくつ、と笑いを含んだ声が聞こえた、気がする。懐かしい声。
脳内再生余裕という奴である。むしろ疲れからくる幻聴だろうか。それはそれで口元が緩みそうになる。まあ、実際かつての紀家軍の軍務は韓浩が一手に引き受けていたのだからして。
綻びそうになる頬を誤魔化すように茶を飲み干す。そう言えば雷薄は上品な喫茶では足りないとばかりに白湯(さゆ)をどんぶりに注いで飲み干していたものだ。まあ、その中身が度々酒精になっていたのはご愛敬というものである。
いけないな、とばかりに頭を軽く振り、韓浩は緩んでいた表情を引き締める。今の彼女は幽州の州牧代理。その信頼に応えねばならないのだ。

決意を新たにする韓浩に来客が告げられる。微かに眉をひそめながらも韓浩はそれに相対する。即ち、劉備一派に。
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