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真・恋姫無双【凡将伝Re】4
- 347 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/06/29(月) 21:48:53.99 ID:Of1GcSB80
- ◆◆◆
「で、うちらは何をしたらええねん」
怒気すら露わにして李典は郭嘉に問う。心底から彼女は怒っているのだ。
だって、李典は知ってしまったのだ。これからあの青年。自分を取り立ててくれた、かけがえのない青年。紀霊がその命を晒すのだ。
そのような無茶をしなくても、と李典は歯噛みする。例えば連弩だ。紀霊から示唆を受けたのは結構な前のこと。或いは、或いは。
思いつきでしかなかったであろう数多い兵器。その中にはきっと珠玉もあったはずなのだ。それを総動員すれば彼をそのような修羅場に立たせることもなかったのではないか。
そんな悔いが李典にはある。
実用化と量産化さえしていれば、と肺腑が焼ききれそうなくらいに燃え上がる悔恨。
だが、その思いは郭嘉には届かない。
たかが攻城兵器で戦局が移るものかと。いや、移るならば袁家の底知れない、無尽蔵な財源あればこそだ。
それにしたって、と内心苦笑する。
「あんたなあ、勘弁してや。うちらは、ほんまに頑張ってるし、お望みなら不眠不休待ったなしや。二郎はんが珍しくうちらに頼ってきたからな。
ああ、知っとるわ。戦場で死ぬより過酷やよ。死に至るのは一瞬ちゃうし。
つまり。ええか、二郎はんのためやったら袁家工兵は一日十二刻休まず職責を果たすで!
なんなら一日四十八刻の任務も果たしたるわ!」
だから、と李典は訴える。
「二郎はんが何や身の程知らずなことをしようってのは分かってるねん。
あんたが、だからつれないのも分かってるねん。
何でもええ。うちに、うちらにできることは言ってほしいねん。
後生や……」
嗚咽を交え、みっともなく哀願する李典に郭嘉は問う。
「どうしてそこまで紀霊殿に肩入れするのですか。
貴女の才能については把握しています。どこでも、誰でもそれは評価するでしょう」
冷然とした郭嘉の言葉に李典は激昂する。
「あほ!あんたはあほや!アホ!うちはな!うちは!そんな大したもんやあらへんわ!
阿呆!うちはな!本来そこらへんで野垂れ死んでるくらいにどうでもええ存在や!そんなもんや!
うちがな、お役にたってるとしたら二郎はんのおかげや!
やから!やから!
うちかて分かるわ!あの呂布に二郎はんが挑むて!
やから、うちはあんたの相手なんてしたないねん。そんな暇ないねん。
水関と同じく土攻めで虎牢関を落としたいねん。
でもな、二郎はんはそうやないねん。
水関みたいに土攻めしたら楽やのに。そのためにうちは、うちらは頑張ってるのに」
幼子のように滂沱の李典。彼女の献身は報われないであろう。
だが、その想いは無駄ではない。
「分かりました。貴女の想い、把握しました。無駄にしません」
郭嘉は思う。
自分はどうにも、おかしいなと。
袁紹の想い。それは高貴であった。そして覚悟があった。信じる男に委ねて揺るがぬ思いがあった。
そして李典の嗚咽。そこには慕情があった。自分を引き立てた男に対する思いは慕情か、感謝か、それとも。
「まあ、それがどうした。と言うべきなのでしょうか」
既にあの青年に毒されているのかもしれない。
そして、既にこの戦に於いて勝利は約束されている。
後は。
「勝ち易きに勝つ。お見事です。後は貴殿の武勇、或いはそれ以外の何か。
それを楽しみにしていますよ。
なに、貴方が討死したって……」
袁家に勝利はもたらしますとも。
笑みなぞなく、真面目くさって郭嘉は思う。
願わくば、あの青年が呂布を打ち砕きますように、と。
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