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真・恋姫無双【凡将伝Re】4
- 287 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/05/21(木) 21:11:47.29 ID:raidaerR0
- 「いやしかし、よおもまあ集まったもんやなあ。黄巾やあるまいし、あの数。
ありえへんやろ……」
寒風吹きすさぶ水関の城壁。その上。やがて訪れるであろう阿鼻叫喚の舞台。その上にて張遼は、たはは、とばかりに笑う。笑うしかない。
主将たる彼女の、いっそ軽率とすら言ってもいいこの動きに諫言する者はいない。彼女の身になにかあれば一気に守兵の士気は地に墜ちてしまうのだが。
だが。いや、だからこそ張遼は最前線となるそこに陣取り、酒を呷ってさえみせるのだ。
不安げな兵卒を目の端に納めながらにんまりと笑う。
「まあ、十万が二十万でもどうってこたあらへんわ。
恋が、せやな。五回も出撃したら壊滅する計算やからな」
空元気も元気のうち、とばかりにからからと笑う。
その張遼の声に勇気づけられたのか兵卒たちからも笑いが漏れる。
……無論張遼とて自分の言を信じてはいない。いかに呂布が万夫不当といえど、あの時――単騎で三万の黄巾を撃退した――とは事情が異なる。
敵兵は黄巾とは比べ物にならない精兵であるし、英傑と言っていい武将が幾人もいる。
それに、今の呂布は万全とは言えない。
いや、やる気は十分ではあるのだ。だが。
「おなか、へった……」
今日も今日とて無意識であろうに呟く呂布の姿が思い出される。ぐったりとその身を横たえて動こうとしない。
心配そうに周囲で陳宮があれこれと世話を焼くのであるがそれに対する反応も極めて薄い。
「詠はよくやってんねんやろうけどなあ……」
張遼は内心嘆息する。
必要なだけの食糧は届いているのだ。帳簿上は。
しかし、それは例えば砂混じりの粗悪品だったり、半ば腐りかけのものが混入されていたりするのだ。
厳密な数字は張遼も把握できていないが、体感で二割くらいは目減りしているのではないか。
飢える兵を見て人一倍――どころではない――健啖家である呂布であるが、その心根は優しいのだ。常の食事量を考えれば信じがたいほどに小食になっていた。
中々に明るい見通しのない現状に流石の張遼も気が滅入る毎日である。
だが、現状悪くはない。それでも悪くはないのだ。
――反董卓連合はその大軍で囲みながらも不気味に沈黙を保っている。この状況はけして悪いものではない。
そう思って張遼は苦笑する。
なんのことはない。今自分は時間稼ぎの為だけに兵を、将を死なせようとしているのだと。
この期に及んでもはや董卓の栄達、董家軍の勝利などという甘い見通しを描いてはいない。
自分に、自分たちにできるのは精々時間稼ぎ。
あの、心優しい少女が救い出される時間を稼ぐのだ。
きっと、きっと賈駆ならば董卓を救い出すはずだ。
……生きていさえいればそれでいい、と張遼は思う。
そうだ、死んでしまったらばそれでおしまいなのだ。
ずき、と胸が痛む。
目の前で散った、益荒男の最期が脳裏によぎる。
そんなつもりはなかった。なかったのだ。
できれば董卓を救出するために力を、知恵を貸してほしかったのだ。
だが、それは叶わず。それでも踏み出した道を進むしかないのだ。
「後戻りはできんし……。
やるだけのことはやるしかないわな」
皆が笑って暮らせる世の中。そんなのはやはり夢物語なのかなあという思考を軽く頭を振って追い払う。
そのような絵空事――語る彼らは本気だったみたいだが――に心躍らしていたのが馬鹿みたいだ。
いや、今でも呂布は「ご主人様」に執心のようだが。彼らも反董卓連合にいるというのに。
全く頭が痛い限りだと張遼は内心頭を抱える。こんなのは本来賈駆の役割のはずなのだが。
「まあ、ええわ。なるようになるやろ」
いっそ清々しいくらいに投げやりに張遼は呟き、実際的な防衛について思いを巡らせる。
張遼直卒五千、呂布、五千。そして水関と虎牢関に詰める守備兵が五万。
けして勝ち目がない数字ではない。
――だから、不可解なほどに動かぬ反董卓連合の動きはこの上なくありがたいのである。
◆◆◆
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