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真・恋姫無双【凡将伝Re】4

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242 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/04/11(土) 21:33:00.04 ID:EaF+7PMk0
◆◆◆

「さて、前線に張り付くことになってしまったのだけれども、穏はどう思う?」

ここは孫家に割り当てられた部屋。そこには孫家の中枢たる孫権と陸遜がおり、退屈そうに孫尚香が雑誌――阿蘇阿蘇――に目を通している。

「控えめに言って、ですが。
これこそ、もっけの幸い、というものですねえ」

くすくす、と陸遜は心底楽しげに笑う。ああ、あの紀霊の絵図に久方ぶりに現在進行形で触れたのだ。なんという悦楽かと。

「さてさて、現在反董卓連合の兵站は袁家が担っております。無論、これに返済の必要はありません。
 いやあ、十数万の軍勢を養って余りあるというのは分かっていても笑っちゃいますねえ」

そう言う陸遜の肌は桃色に染まろうとしている。
これは相当本気だなと孫権は気を引き締める。このさま――いっそ痴態とも言える――を主と言えども見せようとはせず、後日その結論のみで語るのが常の陸遜である。
それが、この場でその言を続けるというのはそれほどに一刻を争うこと、もしくは自分に生の感情をぶつけようという信頼の証であろう。

「実際、袁家の勝利は更に確かなものとなりました。
 それは戦場の勝利のみならず、戦後においてもそうです。
 蓮華様にはお分かりでしょう?」

こくり、と孫権は首肯する。

「ええ、そうね。あの北郷一刀はいい線を突いてたわ。彼がもし董卓と個人的な友誼を結んでいなければもっと面倒なことになっていたでしょうよ。
 そうね、そうよ。
 結局、袁家は一度たりとも屠られた家臣たちについて一言も発していないわ。あくまで兵を挙げたは民の為。暴政見過ごせず、君側の奸を除く。 
 まったくもって文句のつけようもない。
いえ、たとえ討たれた家臣の無念を、というのでも諸侯は付き従ったはずよ。
 なにせ、馬家なんて先代の復讐に燃えているのは見ても分かるしね。
 でも、これまた分かり易いその復讐をついに理由にはしなかったわ。
 そこは微妙だものね、兵を挙げる正当としては」

陸遜はにこにこと、満足げに頷く。

「そうです。袁紹殿の太尉、という地位はつまり軍権にあります。それを今回は諸侯の軍にも及ばせようという思惑でした。曹操さんがこれを幇助しましたね。
 ですが、宮中にて行われた非道、非合法なことに対する治安出動という面においては執金吾にその権はあります。これは現在董家にその地位がありますね。
 ですから、そこの、治安という面においては微妙なままに兵を進めるわけですね。
 これを機に既得権益として抱え込もうとしているのでしょうね。ああ、二郎さま、素敵です……。死線を潜り、腹心を喪い、それでも冷然と理路整然。
 ああ、私はこんなにも乱れちゃうのにぃ……。こんなにも貴方の憤りを理解し、それを鎮めるその心根に、めろめろですぅ」

言い募る陸遜に孫権は苦笑しつつもその言、確かなりと認める。
この腹心は、陶然となればなるほどその言は論理を飛躍しても尚、真実にたどり着くのだ。桃源郷にて未来を紡ぐ巫女のようなものである。
だから、確認する。

「では、前線で、行くわよ。孫家の武威を示すわよ?」

「ええ、それでいいですぅ。
 ――兵站も遠慮なくお世話になりましょう。
 二郎様は、怖いお方ですよ?
面子に拘る方には母流龍九商会を通じて貸し付けてらっしゃいますね。
 ええ、武具も含めて、ですね。孫家は虞翻さんのお蔭でそこまでじゃないですが、槍一つとってもその品質の違いは笑っちゃいますよ。
 そして、兵糧ですねえ」

くすくすと笑いながらも陸遜ははあ、と大きく息を。

「穏?」

「ええ、蓮華様。正直申し上げましょう。
 二郎様には逆らってはいけません。あの方は基本的に優しい方です。でも、ある一線を越えたら容赦しない方です。
 そこの取捨選択を、もう二度と誤りません。いえ、むしろ、もうあの方は一度でも期待を、思いを裏切られたら許すことはないでしょう。 
 それはとても哀しいことですが。あの方の闊達さ、鷹揚さはもうかつてのそれとはならないでしょう」

……それらの会話を孫尚香は全て耳に入れている。
そしてこの場に自分がいるということの意味を完全に理解している。
孫権と陸遜はこの場で何があっても退くつもりはないのだ。そして自分は退かねばならない。
そして、歴代孫家においても卓越した彼女らの定めた方向性、戦略。それを孫尚香は学んでいるのだ。
きっと例えばこの場に呂布が降臨したならば、孫権も陸遜もここで尽きるであろう。そして自分は彼女らの死を捧げて自分の命を購うのだ。

「そんなのは、やだなあ……」

常に闊達な彼女は思う。そして、その脳裏に浮かぶのは、いざという刻には頼りになる、最愛の青年である。

「二郎……、大丈夫、だよ、ね……」

聞く者とていなく、孫尚香の呟き、或いは祈りは虚空に飲み込まれていくのであった。
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