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真・恋姫無双【凡将伝Re】4

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161 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/02/27(木) 21:34:19.82 ID:mIa3hCl/0
「あらあら」

使者がもたらした報せに黄忠は軽く戸惑う。
張紘が、袁家の台所を担う男が自ら足を運ぶという。その意味に気づかぬほど黄忠は愚かではない。
しかも、物資を提供したとは言え、精々五百ほどの軍勢を率いる自分に、である。

「どうやら、劉姓に対しては表面上であっても重視する。ということかもしれないわね」

この、反董卓連合という戦は、いわば新たな権力者を決める戦いである。
そう、本来であれば洛陽の、雲の上での暗闘で決するべきものが大地にその災禍を降り注いだようなもの。
その是非、善悪なぞ黄忠は知ったことではないし、論ずるつもりもない。それは一介の武人には過ぎたことだ。
だが、自らが仕える劉表は皇族に連なる存在だ。なればその、劉家に対する立ち位置というものに対しては無関心ではいられない。
自分一人ならばなんとでもなる。が、娘がいる。ぜひあの子には安寧な世において生きてほしい。それが母としての黄忠の願いである。
なればこそ、漢朝の権威たる劉家に対する扱いに対しては黄忠とて無関心ではいられない。
それを、張紘という重要人物が自ら足を運んでくれるということに黄忠は安堵を覚える。
そう、たかが五百。たかが五百のみなのだ、率いる軍勢は。
いや、無論黄忠が鍛えた精兵であるという自負はあるが、果たして北方においてかの匈奴と渡り合った袁家の、或いは馬家の軍勢と比べたらばその実力はいかがなものか。
――せめて自分は兵を率いるのみに専念できれば、とも思う。
だが、文治を志す劉表のもとには有望な軍師は集まらずいた。皮肉なことに。
いや、候補はいたのだ、いたのだ。だって、荊州には水鏡女学院という教育機関があるのだから。
だから、いつかは軍略を預けられる英才が仕官してくれると思っていたものだが。
同期や、近しい先輩後輩は水害を契機に荊州を後にした。
そして英邁を世に謳われた天才たちは世を憂いて旅立った。その真意は分からない。
いなくなったという事実だけが残るのみ。

「……考えても、馬鹿馬鹿しいわね」

くす、と黄忠は艶然と笑う。生き方が違う。目指すところが違う。きっとそれで済まされるのであろう。
そんな、天から授かった才能(モノ)のない身は、地べたに張り付いてその日を過ごすしかないのだ。
そんなことを言ったらかつての同期から怒られそうだな、なぞと思いながら黄忠は娘の笑顔を思い出し、奮起する。
そう、腰の重い主君が自分を派遣したのも、貴重な物資――袁家にとっては取るに足らないかもしれない――を供出したのも世の安寧が第一ということなのだ。そのはずなのだ・

だから、黄忠は柔らかい、慈母のような笑みを浮かべつつも苛烈な覚悟を課している。
いや、母だからこそかもしれない。
身を捧げてでも、と思うのは守るものがあるからであろうか。
そんな、ある意味悲壮な覚悟で訪れた賓客を出迎える。艶然と、柔らかい笑みで可能な限りに好意を得られるように。

だからこそ訪れた人物に渾身の笑顔を、と思っていたのだが。
その人物はいい、だが、その後ろに控えるのは。

「じょ……た、単福!あ、貴女(あなた)、無事だったの?!」

赤毛の麗人に黄忠は取り乱す。喪った知己がいるから?いたから?
喪ったあの時が甦るから?

「はて、誰かなそれは。人違いだろうよ。それはともかく、張紘よ。
何を呆けている。失礼じゃないか。
 なに、そんなにこの麗人に興味津々ならば後で私が口を利いてやってもいいのだぞ」

何やら張紘が返し、女が笑う。
その、ちょっと皮肉気で、でも相手を気遣うやり取りはやはり知己のもので。

だから、一瞬。
酷薄と言えるほどに鋭く突き刺さる視線に黄忠は身を震わせたのである。
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